真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「痴漢バス 良い妻・悪い妻・普通の妻」(昭和57/製作・配給:新東宝映画/監督:大井武士/脚本:町田牧/企画・製作:舟橋竜/撮影:伊藤英男/照明:渡辺敬三/音楽:サウンドウェーブ/編集:酒井正次/助監督:山岡博美/監督助手:渡辺明彦・藤原淳/撮影助手:余郷勇治/照明助手:佐久間優/現像:東映化学/録音:銀座サウンド/効果:東京スクリーンサービス/出演:倉田美也子・麻生うさぎ・河井憂樹・栄雅美・源明・小池しゅう・池島ゆたか・藤原淳・伊東淳次・森岡一彦・芦田裕二・石井勉・小林千晃・高田俊考)。
 プップカプーとほんわかした劇伴が鳴り、並木道を走るバスの画にタイトル開巻。昭和のバスが、妙に長く見えるのは気の所為か。クレジット明けは団地、これで普通に出勤するのが信じられない、まんま積木くずしな造形の石森マドカ(倉田)が、完ッ全に尻に敷く夫・ヨシオ(源)に朝食を作らせる。結局、一欠片の意味もない支那残留孤児の新聞記事を挿んで、こちらも共稼ぎの小池しゅう(以下小池)・ヨシコ(麻生)夫妻宅。小池が勝手に催して、低血圧なのかノリが悪いヨシコと朝つぱらから夜の営み。それはそれで、アンニュイな麻生うさぎがエロい。時間差で出勤した二組の夫婦は、団地のバス停から総勢三十人くらゐとバスに乗り込む。バスが走り始めるなりマドカとヨシオが「上手くやるのよ」、「はい」と謎の会話を交すのは何事かと訝しんでゐると、双方痴漢行為を仕掛ける。一方、パンティ博士の異名を誇る清水(池島)が、空のギターケースに鏡と手元で開閉出来る窓を仕込む。雑踏に出た清水は、適当にギターケースを抱へてゐる素振りで女々のスカートの中を愉しむ。バス車内込みで若干名投入されるクレジットレス女優部が、見事にブス揃ひな点に時代のクオリティが感じられ、グルッと一周した感興を覚える。
 配役残り栄雅美は、VHSジャケによると“千人斬りを目指す女”。バスの車内で痴女行為に及ぶ―小池とは本番を敢行する、見せ方がストイックで何をヤッてゐるのか殆ど判らないが―以外には一言の台詞すらなく、この女が何者で何のために劇中バスに常駐してゐるのかは一切てんで清々しいまでに語られない。大学時代の後輩であるヨシオと再会した清水は、石森家に招かれる。河井憂樹は、風呂に入るマドカのパンティを盗みホクホク顔で帰宅した清水に、オナニーしてゐるところを覗かれる隣人。どころか、事後部屋に押し入つて来た清水に犯される。藤原淳以降の男優部―ビリング推定で藤原淳が、清水を憤慨させるオカマ?―は乗客要員には数が全然足らず、その他更に後述する子役部隊と、木に竹を接ぐためだけに二人組の刑事が出て来る。
 正直暫く忘れてゐた「Viva Pinks!」殲滅戦、第八戦は大井武士昭和57年第三作。殲滅戦とは関係なく勝手に見てゐた、「暴行軍団スケ狩り」(脚本:小松越雄)次作に当たる。ところでDMMのタグづけがへべれけで、タグのついてゐない「Viva Pinks!」作が存在する事実も判明した底なし沼。
 話を戻すほどの映画の中身は、実はない、実も蓋もないにもほどがある。当時流行つてゐたテレビ番組「欽ドン!良い子悪い子普通の子」(昭和56~昭和58)にあやかつた新東宝の御題にさうゐなく、多分マドカが悪い妻でヨシコが普通の妻としても、清水はチョンガーで、栄雅美は誰かしらと婚姻関係にあるのか否かすら不明。痴漢バスは兎も角、そもそも妻が三人登場しない。痴漢バスにしても、車輌を一台借り切つて撮影したにしては然程も何も羽目を外すでなく、挙句に誰が誰に痴漢してゐるのか判然としない体たらく。話の流れで一旦スワッピングの成立した石森・小池夫婦が、ラストのバス痴漢―栄雅美は同乗してゐるものの、清水パイセン蚊帳の外―では知らず知らず銘々配偶者に痴漢してゐて何となく元鞘に収まる。最低限ギリギリの目出度い着地点は一応設けられ、“終”の代りに“終点”が転がつて来るオーラスは気が利いてゐなくもないものの、ことそこに至るまでに物語らしい物語もこれといつてなく、直截に古びた空気に触れられる点を除けばはウンともスンとも面白くない。そんな中でも謎なのが、中盤仕事はどうしたのか平日にブラブラしてゐるヨシオと、塾通ひを渋りほかの子達と遊びたがる子供が児童公園で触れ合ふ。前後と全く関らず何の脈略もない割に、二分半の尺を費やす一幕。それでゐて、出し抜けであらうと藪から棒であらうと、映画が最も活き活きと輝くのがその公園パート。思ひ起こしてみると、「暴行軍団スケ狩り」も突発的に弾けるのは―若者の解放区たる―ホコ天からも、三馬鹿が締め出されるかのやうに逃走する件であつたりもする。二本しか見てゐない早計は承知の上で、大井武士といふ人は映画はまだしも裸映画を撮りたくて撮つてゐた訳では必ずしもなかつた、あるいは女の裸よりも、もつと別のものにベクトルが向いてゐたのかも知れない。


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ピンク映画の感想のインデックスです。
当該タイトルを踏んで頂ければ、別ウインドウで表示されます。

渡邊元嗣
マリは天使の匂ひ」(昭和60/渡辺元嗣名義/原題:『ロリータ喪失』)
痴漢電車 発射一分前」(昭和60/渡辺元嗣名義/原題:『痴漢電車 発車一分前』)
痴漢電車 いけないこの指」(昭和60/渡辺元嗣名義)
痴漢電車 気分は絶頂」(昭和61/渡辺元嗣名義)
少女バンパイア あなただけ今晩は」(昭和61/渡辺元嗣名義/原題:『ロリータ本番ONANIE』)
ねらはれた学園 制服に欲情」(昭和61/渡辺元嗣名義/旧題:『ねらはれた学園 制服を襲ふ』)
乙女の挑発パンティー」(昭和61/渡辺元嗣名義)
痴漢テレクラ」(昭和62/渡辺元嗣名義/買取系ロマンポルノ)
痴漢電車 さはつて出勤」(昭和62/渡辺元嗣名義)
夜の手ほどき 未亡人は19才」(昭和62/渡辺元嗣名義/旧題:『新・未亡人下宿 夜の手ほどき』)
エイズをぶつ飛ばせ 桃色プッツン娘」(昭和62/渡辺元嗣名義/買取系ロマンポルノ)
Eカップ本番」(昭和62/渡辺元嗣名義)
トリプルエクスタシー けいれん」(昭和63/渡辺元嗣名義)
痴漢電車 あの娘にタッチ」(昭和63/渡辺元嗣名義)
お元気クリニック 立つて貰ひます」(昭和63/渡辺元嗣名義/買取系ロマンポルノ)
未亡人わいせつ戦争」(昭和63/渡辺元嗣名義/旧題:『未亡人SEX戦争』)
制服絶叫 いんらんパニック」(1989/渡辺元嗣名義)
透明人間 極秘ワイセツ」(1989/渡辺元嗣名義)
若妻後ろから開く」(1989/渡辺元嗣名義)
色情狂日記 超いんらん」(1990/渡辺元嗣名義)
ノーパン女子会 異常擦り合ひ」(1990/わたなべもとつぐ名義/旧題:『ザ・放課後ONANIE』)
過剰性欲 ‐エッチな遊び‐」(1991/渡辺元嗣名義)
痴漢電車 朝からいかせて」(1992/渡辺元嗣名義)
淫乱貴婦人 止められない不倫」(1992/わたなべもとつぐ名義/旧題:『いんらん不倫妻』)
未亡人の太もも 夜ごと悶えて」(1992/渡辺元嗣名義/旧題:『未亡人セックス 熟れ盛り』)
実写快感ONANIE 未亡人編」(1993/渡辺元嗣名義/旧題:『人妻・密会 不倫がいつぱい』)
欲情妻 むかしの愛人」(1993/渡辺元嗣名義/旧題:『実写本番ONANIE 未亡人篇』)
熟女ペッテイング とろける」(1994)
悩殺!!セールスレディ 肉体勧誘」(1995)
女同士の痴戯 むせび泣き」(1995/旧題:『濃密愛撫 とろける舌ざはり』)
入れ喰ひOL ~大人のオモチャ開発課~」(1997)
エッチな18才 はちきれちやふ!」(1998)
女痴漢捜査官 お尻で勝負!」(1998)
痴漢電車 濡れるまで待てない」(1998)
壺いぢり名器天国」(1998)
女痴漢捜査官2 バストで御用!」(1999)
痴漢電車 いぢわるな視線」(1999)
痴漢海水浴 ビキニ泥棒」(1999)
巨乳発情ナース」(2000)
美人捜査官 中までさはる」(2000/旧題:『女痴漢捜査官3 恥情のテクニック』)
派遣OL 深夜の不倫」(2000)
痴漢電車 巨乳もみもみ」(2000)
ピンサロ病院3 ノーパン診察室」(2000)
未亡人銭湯3 覗いちやつた」(2001)
濡れた人妻秘書 肉体妄想」(2001/旧題:『人妻社長秘書 バイブで濡れる』)
エロスの住人 ハメ快楽」(2001)
巨乳オナニー おもちやで悶絶」(2001/旧題:『美咲レイラ 巨乳FUCK』)
痴漢とストーカー いじられた秘部」(2001/旧題:『女痴漢捜査官4 とろける下半身』)と、全面改稿版
痴漢鉄道 ムンムン巨乳号」(2002/旧題:『痴漢電車 魅せます巨乳』)
美人姉妹の愛液」(2002)
ワクワク温泉 極楽へ連れてつて」(2002/旧題:『小悪魔デヴィ とろけ湯穴覗き』)
女スパイ 太股エロ仕掛け」(2002)
中村あみ お願ひ汚して」(2003)
痴漢電車 おさはり痴女」(2003)
娘とママ あぶない交遊録」(2003/旧題:『ねつちり母娘 赤貝の味』)
コスプレ新妻 後ろから求めて」(2004)
痴女OL 秘液の香り」(2004)
星川みなみ いたいけな巨乳」(2004)
べつぴん教師 吐息の愛撫」(2004)
痴漢電車 いゝ指・濡れ気分」(2004)
裏令嬢 恥辱の花びら」(2005)
ダブル巨乳 乳首ねぢり」(2005/旧題:『外人妻×スケベな妹 丸見えエロ騒ぎ』)
紅い淫臭 花蜜のしたたり」(2005)
夫婦交換 刺激に飢ゑた巨乳妻」(2005)
痴漢電車 エッチな痴女に御用心!」(2005)
盗撮サイト 情事に濡れた人妻」(2006)
萌えメイド 未成熟なご奉仕」(2006)
妻失格 濡れたW不倫」(2006)
ラブホ・メイド 発射しちやダメ」(2006)
令嬢とメイド 監禁吸ひ尽くす」(2007)
ロリ作家 おねだり萌え妄想」(2007)
後妻と息子 淫ら尻なぐさめて」(2007)
特命シスター ねつとりエロ仕置き」(2007)
バツイチ熟女の性欲 ~三十路は後ろ好き~」(2008)
ふたりの妹 むしやぶり発情白書」(2008)
桃尻パラダイス いんらん夢昇天」(2008)
喪服の女 熟れ肌のめまひ」(2008)
浮気相姦図 のけぞり逆愛撫」(2008)
痴漢電車 しのび指は夢気分」(2009)
夫婦夜話 さかり妻たちの欲求」(2009)
愛液ドールズ 悩殺いかせ上手」(2009)
異常交尾 よろめく色情臭」(2009)
聖乱シスター もれちやふ淫水」(2010)
牝猫フェロモン 淫猥な唇」(2010)
寝乱れ人妻の妹」(2010)
いひなり未亡人 後ろ狂ひ」(2010)
悦楽の性界 淫らしましよ!」(2011)
人妻旅行 しつとり乱れ貝」(2011)
母娘《秘》痴情 快感メロメロ」(2011)
ノーパンの蕾 濡れたいの」(2011)
エッチ指南 はだける赤襦袢」(2011)
いんび巫女 快感エロ修行」(2012)
セクシー変化 たまらない生尻」(2012)
おねだり狂艶 色情いうれい」(2012)
悩殺セールス 癒しのエロ下着」(2012)
姉妹相姦 いたづらな魔乳」(2013)
むつちり家政婦 吸ひつきご奉仕」(2013)
愛液まみれの花嫁」(2013)
淫Dream まどろむ白衣」(2013)
天女の交はり ぬくもり昇天」(2014)
純愛不倫 恍惚のくちづけ」(2014)
婚活占ひ 浴衣でチラリ」(2014)
初恋のつぼみ ここから先はダメよ♡」(2014)
いたづら天使 乱れ姿七変化」(2015)
女忍者 潮吹き忍法帖」(2015)
愛Robot したたる淫行知能」(2015)
熟☆ギャル☆白書 極楽仁王勃ち」(2016)
めぐる快感 あの日の私とエッチして」(2016)
特務課の星 蜜乳コスプレ大作戦!」(2016)
揉んで揉乳《もにゆ》~む 萌えつ娘魔界へ行く」(2017)
神つてる快感 絶頂うねりびらき」(2017)
美乳夜曲 乱れる白肌」(2018)
快感ヒロイン ぷるるん捜査線」(2019)
好き好きエロモード 我慢しないで!」(2019)
悩殺業務命令 いやらしシェアハウス」(2019)
銀河の裏筋 性なる侵乳!」(2021)
大性獣 恥丘最大の絶頂」(2022)


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 「神つてる快感 絶頂うねりびらき」(2017/制作:ナベシネマ/提供:オーピー映画/監督:渡邊元嗣/脚本:波路遥/撮影・照明:飯岡聖英/編集:酒井正次/助監督:永井卓爾/監督助手:小関裕次郎/撮影助手:宮原かおり・西村翔/照明助手:広瀬寛巳/選曲:徳永由紀子/効果:梅沢身知子/スチール:津田一郎/録音:シネキャビン/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:あかね葵・横山みれい・桜ちなみ・小滝正大・ケイチャン・津田篤)。
 作家志望の東光(津田)が、のちに当人曰くオリンピック(東京/2020年)までの完成を目指す長篇小説『破壊』を書き始めて、“それは”と最初の三文字を打つたところで暫し長考。その内夕方五時の目覚ましが鳴り、東はバーテンダーを務める「ステージ・ドアー」に出勤。客が来る前に店の酒を飲み干す勢ひの、どエロいママ・日暮燿子(トメ予想を覆した横山みれい)の顔見せ噛ませ、大学の同期・白鳥かなえ(桜)がゐる縁で潜り込んだ何処ぞの編集部。尤も世間はさうさう甘くなく、没を被弾した東は、祭囃子流れる中帰途の草叢に原稿の束を放り捨てる。ところが放り捨てると祭囃子が止み、風に吹かれ足元に舞つた幟で、東が劇中用語では社―寧ろ祠に近い―の、人に忘れられ汚れた小さな女神(をんながみ)像を拭き清めると、再び祭囃子回復。家に帰ればデータがあんだろといふツッコミはさて措き、気を取り直した東が一旦捨てた原稿を回収、女神像にタイトル・イン。女の裸も見せない割に、アバンが随分と潤沢に時間を使ふ。
 内縁の夫が服役中の燿子に捕食された東の、ステドからの帰路。林中の神社に通りがかつたタイミングで、胸元に花もあしらつたワンピース・ドレスのあかね葵が、一目散に東めがけて走つて来るや抱きつきチュー、しかも一回リフレインして都合二度。但しそこはフィニッシュもう一回の、画竜点睛を欠いてもゐまいか。兎も角、あるいは兎に角。追はれてゐるだ匿つてだと称する星茜(あかね)は、そのまゝ東が暮らすカマスタに転がり込む。ドロップアウト・ミーツ・ガール、その一点突破でときめけたなら、どんなに幸福であつたらう。
 配役残り、編集部内に見切れる広瀬寛巳に続いて小滝正大が、かなえに対する下心を隠さうともしない編集長・加賀美克巳。そしてハット×着流し×グラサンがサマになるケイチャンが、近所八股の結婚詐欺で臭い飯を食つてゐた燿子内縁の夫・夜見野将人。ところで広瀬寛巳はかれこれ三十年、助手なり内トラのポジションで第一線に止(とど)まつてゐる。何だかんだで、この人が死ぬまでピンクは生き続ける。逆からいふと、広瀬寛巳とピンク映画の命運は連動してゐるのではないかとすら思へて来た。
 小滝正大に施された何時も通りのアイコニックな悪魔メイクに、例によつての神と悪魔のかと思ひきや、神々のナベシネマであつた渡邊元嗣2017年第二作。で、当サイトにとつては小屋だけで達成した無冠の帝王・新田栄、DMMの下駄も大分履き新作を狙ひ撃つた浜野佐知に次ぐ、三人目となる感想百本のハンドレッド戦。今回は必ずしも狙ひ撃つた訳ではなく、DMMに眠る未見作の数にハンドレッドに届くと気づき、狙ふといふよりは合はせた格好。同じ条件が池島ゆたかでも成立し、深町章も今からDMMを掘り進んで辿り着くのは十二分に可能だが、目下意識的に目指してゐるのは、今後の新作だけで残り十一本詰めなければならない関根和美。バラ売りを買ふから、DMMに旧作をメキメキ新着させて呉れると非常に有り難いが、さういふ酔狂ないし素頓狂な需要の有無に関しては知らん。
 他愛のない閑話休題、映画の中身に話を戻すと。どうやら凡そ二十年続いた―あるいは育て育てられた―座付脚本家・山崎浩治との、旦々舎やセメントマッチをも超える安定を感じさせたコンビは残念ながら解消したのか、脚本は前二作の増田貴彦挿んで、2015年第二作「女忍者 潮吹き忍法帖」(主演:つぼみ)以来の波路遥。尤も、この期に及んで平柳益実の世紀を跨いだ帰還とも考へ難い以前に、出来からして甚だ怪しいゆゑ21st Century 波路遥は渡邊元嗣自身の変名なのではあるまいか?と直截に勘繰りつつ、端的に片付けると、これ、ナベシネマ厳しかねえか?
 満足に機能したのは、眼力が些か怖い横山みれいのアシストも借り、ex.けーすけのケイチャンが正体不明の突破に近い説得力で通す八百万の超風呂敷程度。それを通してのけただけで、流石ではあるのだけれど。アイコだロンリー・ガイだ結界オーライだと枝葉の小ネタをこどごとくスッ外した上、人の心に届く言葉を軸に据ゑた主眼は、ピンク初陣の主演女優のみならず、いい加減齢のとり方も覚えて貰はないと苦しい津田篤も如何せん硬く、終始一貫して心許ないといふかぎこちない。それともしかして、ツダアツは満足に走れない?挙句の果てに、裸映画としても弱いのが詰み処。序盤で横山みれいが飛び込んでは来るものの、脱ぎ込みであかね葵の濡れ場初戦が尺の折返し前後、KAGAMIの覚醒を待たざるを得ない構成もあれ、桜ちなみは大概残りも押し迫つた五十分付近とかいふペース配分は大いに考へもの。さして展開を繋ぐでなく、三番手を放り込んでゐる場合なのか。あかね葵は終盤時間差の二連戦で猛スパートを仕掛けるとはいへ、そこでもパチンコの大当たり画面感覚の、木に竹を接いだ大技が“うねりびらく”疑問手。バカをやりさへすれば、ナベシネマを観てゐる人間は脊髄で折り返して喜ぶとでもいつたつもりならば、山内大輔に於けるスラッシュ同様、それは観客を馬鹿にするにもほどがある。要は、前半の女の裸に頼らない―ほぼ―純正アイドル映画パートでノレるか否かが雌雄を別つにせよ、だとすると、茜がスローモーションで駆けて来るファースト・ショット。まさか実際に裸足で木々の間を走らせたのか足元が気になつて気になつて仕方ないらしく、あかね葵が始終下を向いてしまつてゐるのが地味でない致命傷。折角の、カメラを通して客席を撃ち抜く一撃必殺絶好の好機であつたのに。半公式ながら引退した新田栄、第158回芥川賞候補作『雪子さんの足音』(木村紅美)の映画化を発表したばかりの浜野佐知とは異なり、渡邊元嗣は今後も大蔵本隊のエース格としてキャリアを積み重ねて行く、筈。年末封切りの正月薔薇族を現時点での最後に、第一作の話が未だ聞こえて来ない2018年。我々は遂に、長く続いたナベ・ゴールデン・エイジ第二章(2006~)の終焉を目撃する羽目となるのか、俄かに藪から棒な風雲急を告げて来た。


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 「和服ONANIE 濡れた腰巻」(1998/製作:サカエ企画/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:夏季忍/企画:稲山悌二[エクセスフィルム]/撮影:千葉幸男/照明:高原賢一/編集:酒井正次/助監督:加藤義一/音楽:レインボー・サウンド/監督助手:竹洞哲也/撮影助手:池宮直弘/照明助手:大石政弘/効果:中村半次郎/録音:シネ・キャビン/現像:東映化学/出演:石堂亜依・七月もみじ・川島ゆき・竹本泰史・杉本まこと・久須美欽一)。脚本の夏季忍は、久須美欽一の変名。
 庭から縁側を抜いて、脱ぎ散らかした着物の先では、馬面の主演女優が腰巻を一人で濡らす。カメラが引いてのタイトル・インまで三十秒強、開巻直後に新田栄が誇るスピード感が心地よい、何気に強度さへ感じさせる繋ぎが完璧。俯せで尻をヘコヘコさせるのが思ひのほかエロい、愛川泉(石堂)が和服ONANIEを都合三分半費やし大完遂するのに続いて、正直身を入れてロケーションを希求したとは映り難い、何の変哲もないそこら辺の児童公園。今より痩せてはゐるものの、険しく不健康さうに見える竹本泰史(現:泰志)が呆然と黄昏てゐるのは、泉の夫・春樹(竹本)のリストラ後求職活動爆死。三日月の画を噛ませて、泉が縁側から綺麗な月に見惚れる愛川家に、くたびれ通り越しやさぐれ果てた春樹帰宅。泉が素直に愛でる蛾眉を、春樹はといふと「あんなにまん丸だつた月が」、「まるで今の俺みたいだ」。複雑な自虐をしやがる野郎だ、時に岡輝男がシュールの領域に突入しかねない、陳腐が珍奇への紙一重を突破するドラマを書いてのけると思ひかけて、ふと振り返つてみたら久須りんだつた
 配役残り、304号室「橘会」の扉を抜いて乳繰り合ながら飛び込んで来る杉本まことと七月もみじは、有料ボランティア―泉に対する説明ママ―橘会主宰・田所勇と、右腕兼情婦・工藤和江。田所の増員要求に従ひ、和江は和江目線では春樹をカッ攫はれた格好といふか因縁にもある泉を、和服を着て癒されない富裕層の心のケアをするとかいふ活動内容が正体不明の橘会に勧誘。久須美欽一と川島ゆきが、泉の橘会初陣先にして、ミサトニックな豪邸に住む江原勝則とその妻・智子。要は何だかんだな―とでもしかいひやうがない―出張売春である橘会事務所に、踏み込む刑事は流石に情報量不足で特定不能。
 気の所為かあるいは迷ひか、この人の映画を見ると何故だかホッとする新田栄1998年第八作。泉を何となく口説き落とした和江は、川原で相ッ変らず燻る春樹を急襲。ザクザク膳を据ゑて来るのに春樹が一旦戸惑つた、カット跨いで即ラブホ。泉の江原邸来訪二日目、初日で英気を取り戻した勝則が、庭にて諸肌脱いで木刀なんか振つてゐたりするのに、体が弱いアピールの智子は暫し勿体ぶる素振りを見せた上で、「主人の性欲を貴女に鎮めて貰へないかと」。「はあ!?」と泉が口をあんぐりしたカット跨いで即寝室、かつオン・ザ・ベッド。随所で火を噴き倒す、新田栄の神の速さ。それとこの期に及んで改めて気づいたのが、新田栄の濡れ場は体位移行が実は実に円滑、一欠片のストレスも感じさせない。反面、小屋の暗さの中では、快眠に誘はれかねないのかも知れないけれど。江原邸日参で生計の目処が立つたかと思ひきや、手入れを喰らつた橘会は壊滅。するや否や今度は春樹の再就職が決まる雪崩式のハッピー・エンドは御都合の塊でしかないにせよ、春樹の帰宅を待ち侘びての、夕茜に染まる愛川家和室。再度四分撃ち抜く和服ONANIEは、大股開きを遮るボカシも案外最小限に大団円完遂。霞よりも稀薄な物語を塗り潰す入念なラストが見事な、久須美欽一の裸映画にとつてある意味過不足ない脚本を、新田栄の妙手がサラッと捌いたさりげない佳品。これでビリング頭がもう少し美人であつたなら印象も全く違つて来たものを、だから、寧ろだからこそのエクセスだもの。

 今作単体でチャーミングなのが、和江が泉に目星をつけた流れでの愛川家応接間。ポストから回収して来たと思しき、封筒の束を手に泉がお金が全てぢやないは云々と能書を垂れてゐると、和江からの電話がかゝつて来る。結局電話かよ、郵便物どうしたいんだよ!ちぐはぐすぎて逆に面白い。


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 「襲ふ!!」(昭和53/製作:日活株式会社/監督:長谷部安春/脚本:永原秀一/プロデューサー:栗林茂/撮影:安藤庄平/照明:高島利隆/録音:古山恒夫/美術:林隆/編集:井上治/音楽:ルートヴィッヒ・ヴァン・ベートーベン/助監督:上垣保朗/色彩計測:田村輝行/現像:東洋現像所/製作担当者:栗原啓祐/出演:小川亜佐美・梓ようこ・中島葵・阿藤海・市来秀・花上晃・粟津號・十時じゅん・清水国雄・高橋淳・田畑善彦・影山英俊・北上忠行・中平哲仟・梨沙ゆり・章文栄・桜井とも子・麿のぼる・松風敏勝)。出演者中、粟津號と田畑善彦に北上忠行・中平哲仟、章文栄以降は本篇クレジットのみ。クレジットはスッ飛ばす配給に関しては、事実上“提供:Xces Film”。
 車のクラクションとパトカーのサイレン被さる日活カンパニー・ロゴが暗転、“この映画はすべてフィクションです”との但書。一転「歓喜の歌」をコケ威し全開で鳴らすと同時に、どうしてポスターと同じワイルドでダイナミックなレタリングにしなかつたのか甚だしく理解に遠い、気の抜けた丸ゴシック風の筆致で左上隅にタイトル・イン。男の背中が動いて影が開け、ミニパトが軽快に通過する。無表情でハンドルを握る城西署交通課の川井久美子(小川)に対し、助手席では矢野映子(梓)がウッハウハうつゝを抜かす洋物のエロ本に、クレジットが起動する。洋物のエロ本に載せたクレジット、そこだけ掻い摘むと、実はタマキューとやつてゐることが変らなかつたりもする、そこだけにもほどがある。北上忠行に駐車違反の切符を切る一仕事終へたところで、買ひたいものがあるとか称してミニパトを一旦降りた映子は、コインロッカーで着替へて茶店に。一方物寂しいロケーションで車を停めた久美子が、助手席に映子が残したエロ本に手を伸ばしかけ躊躇してゐると、後ろから追ひ抜いてもゐないのに日産の馬鹿デカいディーゼル・トラックが正しく「激突!」(1971)といはんばかりに追突。そのまゝ袋小路に追ひ詰められたミニパトは大破、久美子が失神すると今度は「運命」がジャジャジャジャーンと爆音で鳴るのは、最早闇雲なギャグにしか聞こえない。トラックから降りて来た正体不明の黒革手袋は、白の粘着テープで口と目を塞ぎ手錠で拘束した久美子を、小川亜佐美の乳は全く、尻も殆ど見せずに凌辱する。ついでに、ポスターでは派手派手しく謳はれる、この時久美子が処女を奪はれた旨を示す描写も、一切ない。話を戻して、少なくとも警察車輌が一台オシャカにされた一件を、単なる交通事故として処理した久美子は、過去の資料を基に自身に恨みを持つてゐさうな犯人捜しに独力着手。ところが目星はことごとく外れ、くたびれて一旦帰つた比較的近所の実家では、姉・恵美子(中島)の入婿・英二(花上)の夜這ひを被弾してみたりもする内に、久美子はあらうことか城西署内で再び黒革手袋に強姦され、挙句映子の知るところとなる。
 配役残り、そもそも大してどころでなく二枚目でもなければ、jmdbに他の出演作も記載されてゐない謎の男優部・市来秀は、職場恋愛の久美子恋人・田村、この人は刑事。清水国雄は、久美子を犯さうとして検挙、大学の退学処分を喰らつた暴走族のメンバー・金井伸吾。突破力のある発声が堪らない粟津號が、トラックの飲酒運転で捕まつた安木武志で、中平哲仟は、何かよく判らん状況で検問所で暴れ御用となつた八木下大作。金井に話を聞かうと、久美子の駆るミニパトは白黒二台のセダンの停められた海浜ロケーションに急行。章文栄以下四名は、黒のセダンの後部座席に桜井とも子×松風敏勝、前が章文栄×麿のぼるの組み合はせでセックスする族要員。キッスさながらな化粧の梨沙ゆりが、白のセダンで金井に抱かれるまゆみ。コミタマもサブも不在のある意味手薄な中、らしい働きを披露するロマポ脇役部随一の甘いマスクを誇る影山英俊は、映子を遊び捨てた格好のエリート商社マン・佐伯。梓ようこの大概プリミティブな小悪魔ぶりが火を噴く、後半の略奪展開の引鉄を一応引く何気に重要なポジション。十時じゅんは、久美子が長屋感覚の安アパートを訪ねてみると、この男もこの男で夫婦生活中の安木嫁。田畑善彦は、田村とコンビを組んで―黒革手袋を嵌めてはゐない―連続強姦魔を張り込み中の刑事・大久保。高橋淳は、久美子の部屋を双眼鏡で覗く、ノイローゼ気味の浪人生・江島。黒革手袋正体のセンが、童貞で消える件は軽く涙を誘ふ。そして満を持す阿藤海が、黒革手袋ではない銀ジャンパー。
 日活の路線変更に従ひ、一般映画で普通に名を馳せてから成人映画に流れて来た、長谷部安春の昭和53年第一作。カッコよく結構飛ばすミニパトの疾走感なり、観音様に捻じ込む特殊警棒を、引き出す阿藤海のギラついた異常性。随所でキレのあるショットを叩き込み続ける反面、肝心要の小川亜佐美が襲はれるシークエンスに際して乳尻を満足に拝ませず、手短に中途で終る濡れ場も多い上に仰々しい選曲が火に油を注ぎ、裸映画としては必ずしも誠実とはいひ難い。繰り返し同じ男に犯され続けた女が、遂に味を占め一線跨ぐに至る。二刀流のククリを振り回しながら小屋に飛び込んで来る浜野佐知のイメージも目に浮かぶ、土台が如何にも通俗ポルノグラフィー的な底の浅い物語に、この期に及んで見るべき点は凡そ見当たらない。エターナルな見所はクール・ビューティーも通り越してほぼ終始沈痛な小川亜佐美の凍りついた美貌と、要は開巻を引つ繰り返した、男の背中で暗転させるラスト・ショットは激しく気が利いてゐる。

 単なる四十年後視点に過ぎないのかも知れないが、潮目の変るサード・インパクトの舞台となる雑居ビルの廃室。見るからあざとく壁に配された仮面のクリシェには、幾ら何でもと頭を抱へた。長谷部安春と永原秀一ともう一人林隆は、三人まとめて的場ちせに叩ッ斬られればいい。


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 「禁断 制服の悶え」(昭和51/製作:日活株式会社/監督:林功/脚本:久保田圭司/プロデューサー:伊藤亮爾/撮影:竹内茂三/照明:川島晴雄/録音:秋山一三/美術:柳生一夫/編集:鍋島惇/音楽:畠山明博/助監督:高橋芳郎/色彩計測:村田米造/現像:東洋現像所/製作担当者:天野勝正/出演:東てる美・珠瑠美・鶴岡修・五條博・影山英俊・南寿美子・雪丘恵介・小林亘・三川裕之・言問季里子・堺美紀子・水木京一・小見山玉樹・中平哲仟・池田誉・田畑善彦)。出演者中、妙にビリングの高い小林亘と、水木京一以降は本篇クレジットのみ。各種資料に見られる企画の奥村幸士が、例によつて本篇クレジットには見当たらず。クレジットはスッ飛ばす配給に関しては、事実上“提供:Xces Film”。
 壮大な雪山のロングと、特撮には見えない雪崩ショット。流石に幾らロマポといへど、本格的な特殊撮影を敢行する袖はなからうが。ラジオを聞きながらぼんやり勉強中の女子高生・雨宮冴子(東)は、谷川岳一ノ倉沢で雪崩が発生、登山中の城南大学山岳部が被害に遭つたといふ臨時ニュースに血相を変へる。冴子の机上には当の城南大学山岳部、略してジョナサンの従兄・藤山保(鶴岡)のスナップが。冴子の母・奈々江(南)の姉・伸子(堺)の息子である保は近所なのか、元々は雨宮家からジョナ大に通つてゐたものだが、双方の親がひとつ屋根の下の若い男女の仲を危ぶみ、保は一人暮らしさせられてゐた。保発見の報に、冴子が喜びを爆発させ関係者控室から雪の中に再度飛び出す五分半、若干遅めのタイトル・イン。ところでクレジット中も、東てる美が雪中を走り回らせられる何気なブルータル。仲間を喪ひ、自身も左手に凍傷を負ひつつも、自力で下山した保は保護、帰京し何とか中央病院に入院する。邪魔臭い伯母が帰つたのを見計らひ一旦見舞ひ、に来たといふのに手篭めにされかけた冴子は、その夜再び保を訪ねる。ところがちやうどその時病院を脱け出す保に冴子がタクシーに飛び乗りついて行くと、一人暮らし以来生活が荒れてゐるとかいふ保が向かつた先は、女が金で男を買ふホストクラブだつた。
 配役残りみんなのコミタマこと小見山玉樹は、遭難したジョナサンの救助に向かふ救助隊第三パーティのリーダー。コミタマと無線で遣り取りする無闇に無頼な本部の面々が、昔日の映画人にしか見えない。雪丘恵介は、保の父・誠一。軽い気持ちで調べてみて撮影当時二十七といふ年齢に、二十七!?と目を疑ふ爛熟したマダムぶりを爆裂させる珠瑠美と、凡そ影山英俊とは思へないほど尺を喰ふ、といふか鶴岡修も押し退け男優部主役の影山英俊は、ホストクラブの常連客・三井美紀と、保に美紀をカッ浚はれた格好のホスト・南知也。五條博と言問季里子は、南がマンションの一室を今でいふシェアするホストの先輩格・城野と、南が冴子を自宅に招いた際に、ジョーノが連れ込んでゐた客・片山夫人、三川裕之は冴子の父・英夫。小林亘と水木京一は、南が美紀を犯させる浮浪者、太三て平成の水木京一だね。池田誉と田畑善彦は、南と行動をともにする冴子を、誘拐事件の被害者として捜索する刑事。問題が見切れて視認出来ない訳でなければ、あの圧力の高い強面に気づかない筈がない中平哲仟が、何処に出てゐたのかどうしても判らない。
 レギュラーを張り五十本弱発表したロマポの終焉後は、早志宏二名義で二本と、林功に戻して三本ピンクも撮つてゐた林功の昭和51年第二作。と、いふよりも。それまでの若手女優部の一角から、東てる美がブレイクした一作といふ評価が歴史的にはより相当らしい。確かに、一旦保の病室を覗いたところ、憎つくき伸子が来てゐるのに冴子が舌打ち気味に唇を軽く歪めてみせる表情は、四十有余年の時を超えて一撃必殺の魅力を琴線に叩き込む。反面、アズテルと影英とコミタマは少なくとも連れて行つた雪山ロケをも行つてゐる割に、無造作と紙一重の呆気なく無体な結末に不時着する大雑把な展開は、これといはうがいふまいが別に面白くも何ともない。林功を観るなり見るのはロマポとキャリア最晩年のピンク僅か各二作づつでしかないものの、どうもピンと来るものがない。見る影もないピンク最終作も過去には有してゐた輝きが失はれたといふよりも、寧ろ元々ロマポ普請の下駄を履いてゐただけのやうにも思へる。


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 「悶絶上映 銀幕の巨乳」(2017/制作:加藤映像工房/提供:オーピー映画/監督:加藤義一/脚本:筆鬼一・加藤義一/撮影監督:創優和/録音:小林徹哉/編集:有馬潜/音楽:友愛学園音楽部/助監督:小関裕次郎/演出部応援:広瀬寛己/現場応援:鎌田一利/スチール:本田あきら/録音所:シネキャビン/仕上げ:東映ラボ・テック/協力:テアトル石和・甲斐銃介/出演:神咲詩織・ほたる・桃宮もも・櫻井拓也・ケイチャン・なかみつせいじ)。
 テアトル石和(山梨県笛吹市)の看板と無人の劇場内抜いて、「ブー」と上映開始を告げるブザーが鳴りタイトル・イン。若手女優・中西アヤメこと佐良ひとみ(神咲)と、PかDか判らんけど兎も角ギョーカイ人の島村泰(ケイチャン)との、いはゆる枕な濡れ場。射精時到底文字にはし難い奇声を発するのは、ケイチャン(ex.けーすけ)の地味に唯一無二メソッド。ケイチャンは加藤組初参戦かと思ひきや、前年お盆の薔薇族があつた。事後自身がシャワーを浴びてゐる隙の、島村の心ない態度にひとみは心を閉ざす。ひとみが小学生時代一年未満を過ごした石和の、最寄駅ではないがロケーションに富んだ春日居町駅(JR東日本中央本線)に、ホケーッと降り立つてクレジット起動。撮影部のセカンド以降がクレジットされないのは、連れて行つてゐないのか?
 ロビーにサインも飾られる杉本まこと、久須美欽也らと中西アヤメが出演した映画「北の梅守」(主演は名義を拾ひ損ねた和田光沙)上映中のテアトル石和に、ひとみは立ち寄る。一日の最終回上映後ひとみを見送つた、映画監督を目指し上京するも、挫折し郷里に戻つたテアトル石和従業員・福山一夫(櫻井)は、今のは中西アヤメではないかと首を傾げる。
 配役残りex.杉本まことのなかみつせいじは、糖尿病のフラグも抱へるテアトル石和支配人・犬塚道夫。支配人といふのは周囲の呼称に従つたものの、親爺から小屋を継いだ、この人正確には館主だね。国沢☆実2015年第一作「女弁護士 揉ませて勝訴」以来の爆弾復帰を遂げた桃宮ももは、大量のぬひぐるみで武装し自宅で福山を待ち受けるカノジョ・生田かおる、エキセントリックに福山を束縛する。ほたるはテアトル石和に日参する、犬塚とは長馴染でもある常連客・三条環。バツイチで、チョンガーの犬塚との仲を福山にやきもきさせる。齢をとるのは構はないが、見事でない三段腹は正直見るに堪へない。その他ひとみが働き始めたテアトル石和に現れる、テンガロンの客は甲斐銃介なのか、現地要員なのかは不明。
 一旦矢尽き刀折れた女優が、映画監督の夢破れた従業員と、風情豊かな小屋にて出会ふ。石を投げれば当たるレベルの類型的な趣向ともいへ、ピンク映画的には加藤義一が何かとな話題が早くもタイム・ゴーズ・バイしつつある荒木太郎の、映画館シリーズを事実上継いだ格好ともなる2017年第三作。ロケ先に加へる手間を潔く放棄したのかショート・レンジのリスペクトか、開巻から再三の看板に加へ電話口でも再四実名登場する舞台のテアトル石和は、残念ながら二月末で閉館してゐる。
 環と犬塚の他愛なくシネフィル臭い映画クイズよりも、福山がマウンティングぽくひとみに貸す映画感想ノートの方が断ッ然大問題にイタい、相互補完しながら並走する二つの恋路に、新味なり煌めきの欠片も見当たらなければ、踏み込みも全く浅い。さうはいへ荒木太郎の如く不要な意匠で始終を散らかすでなく、どストレートな物語をどストレートなまゝ撃ち抜いた愚直な映画館映画は、思ひのほか万更ではない。ところが今度はさうなると、特に今作の場合三番手が派手にハッチャけるピンク映画で、斯様に初心い恋愛模様を綴ることへの根本的な疑問も胸を過りかけつつ、演者の体に映写を当てての、スクリーン手前での濡れ場といふ裸映画ならではの一撃必殺スペクタクルが、質量のデカいエモーションを以てして些末な無粋を洗ひ流す。ダッサ過ぎるラストが、グルッと一周した清々しさに到達し得る一作。クレジットを頭で済ませ、ラスト・カットを四の五のいはさず振り逃げる戦略も、極めて有効なものに思へる。

 テアトル石和の銀幕に劇中映し出されるのは、和田光沙経由で加藤義一前作の「愛憎の嵐 引き裂かれた白下着」(主演:佐倉絆)と、feat.中西アヤメで前々作の「大阪お天気娘 半熟美尻コテ返し!」(脚本:後藤大輔/主演:神咲詩織)に、広瀬寛己の漁師が見切れるのは二人とは何の関係もないが、前々々作の「巨乳だらけ 渚の乳喧嘩」(2016/脚本:後藤大輔/主演:めぐり)か。和田光沙が軽快にチャリンコを転がす画が何の映画なのか辿り着けないのと、久須美欽一が登場するのは二人で架空映画「老人」のポスターもカッコよく飾る、今上御大・小川欽也の「昇天の代償 あなたのゐない夜」(2016/脚本:水谷一二三=小川欽也/主演:広瀬奈々美)。


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 「褌熟女 私の秘密、見て下さい。」(2005『未亡人と褌 -悦子の秘密-』の2017年旧作改題版/製作:フィルム・ハウス/提供:Xces Film/監督:坂本太/脚本:有田琉人/企画:稲山悌二/プロデューサー:伍代俊介/撮影:鏡早智/照明:野田友行/編集:フィルム・クラフト/録音:シネキャビン/助監督:竹洞♀哲也/撮影助手:矢頭知美/照明助手:吉田雄三/監督助手:白石真弓・伊藤祐太・小山悟/スチール:阿部真也/撮影協力:カプリ/タイトル:高橋タイトル/現像:東映ラボテック/出演:美月ゆう子・林田ちなみ・瀬戸恵子・柳之内たくま・岡田智宏・小林三四郎)。
 寺の正門ショット、喪装ではないが手に線香の束を携へた和服の女が、墓参に訪れる。墓に手を合はせた瀬川悦子(美月)が、遺影も終ぞスルーされる夫の死後、羞恥と屈辱の日々をもう一年、まだ一年と振り返つてタイトル・イン。明けて一年前、亡夫・ユータローかリュータロー弟の惣一(小林)・愛美(瀬戸)夫婦も交へ、顧問弁護士の佳山薫(フォクシーな眼鏡が不思議と全然そゝらない林田ちなみ)が、遺言状の中身を公開する。財産は全て悦子が相続、但しその条件として悦子はユーかリュータロー遺品の褌を常時着用し、なほかつ生涯貞操を守り通すことを義務づけられる。そして月に一度、履行を確認する検査を実施するとする仰天遺言。悦子が開く活花教室にも通ひ、義姉と距離の近い愛美は抗弁を唱へつつ、有無もいはさぬその場の勢ひで、悦子は下着も着けない裸の下半身を露に白フン着用。月一の貞操検査といふのも、惣一同席の下、薫が悦子を要は手マンする。それで何が確かめられるのか煌びやかに不明な、徹頭徹尾ポルノな方便シークエンス。とか何とかいふのがアバンで悦子が嘆いた、羞恥と屈辱の日々といふ次第。下らないと無下に難じるのは容易いが、これはこれで、ある意味想像力の限界に挑んでゐるやうな気がしなくもない。未亡人と褌、果敢に新たな機軸を拓かうとした、気概は買へるのではなからうか、俺は何をいつてゐるのだ
 配役残り隈がドス黒い柳之内たくまは親爺の墓には参る、ユーかリュータローが外で産ませた息子・水上孝史。妾の子と直截な蔑視を露にする悦子を、当然激しく敵視する。朴訥とした突進力で一幕限りの男優部濡れ場要員を駆け抜ける岡田智宏は、なかなか馬脚を現さない悦子の陥落を目し薫が放つ秘密兵器、手戯に長けた助手・寺本祐司。
 以前に書いた感想が、正直手を入れるよりも一から書き直した方が早い我ながら酷い代物であつたゆゑ、2017年新版に際し潔く破棄した上での再戦を挑んだ坂本太2005年第二作。坂本太が五十の若さで急逝して再来月で早六年、大杉漣も兎も角、ジミー土田を追悼する番組も組んでやれよ。外堀の最後に訂正して謝罪したいのは、節穴が何をトチ狂ふたか、今作はキネコではない。
 閑話休題、褌未亡人が、月々の恥辱と肉の飢ゑとに苛まされる。エクセスから与へられた御題か坂本太の脳が自発的に湧いた―どうせ前者―のか、法廷では到底勝ち目も望めない豪快な故人の遺志を軸に、銘々が滾らせる欲なり憎悪がヒロインを翻弄する。展開の逐一をひたすらに絡みで語る姿勢は天晴ともいへ、そもそも出発点から底の抜けた物語が、面白い訳では特にも何も別にない。当時は客を呼べる名前であつたのか、束の間の実働帰還と僅か五本の戦績にしてはオーピー・新東宝含めた三社三冠も達成する美月ゆう子は、今回がエクセスのみならずピンク初陣。佇まひのエロさは買へるものの、素の表情は乏しく、口跡も白々しく覚束ない。劇映画は諦めて裸映画に特化するにせよ、平均年齢が明確に高めな女優部が、訴求力の有無に関しては正直人を選ぶといつたところか。さういふ微妙な中でも一点明確に頂けないのが、惣一が今月の検査に寺本を寄こす旨を車内からの携帯で悦子に寄こした上で、改めて何時ものホテル―のつもりのカプリ一室―にて薫との二回戦に突入する件。ちぐはぐな繋ぎ、あるいは好意的に解釈するならば頑強に絡みの回数を増やさうとした貪欲が、二人の位置情報と観客を徒に困惑させる。どうせなら愛美が惣一を追ひ抜く姦計が何の捻りもなく功を奏し、悦子が全てを失ふ無体な結末の方が寧ろプリミティブな破壊力に富んでゐたやうにも思へ、電話一本で再逆転するラストは、木に接いだ竹も厭はない鉄の信念が清々しい。最終的に柳之内たくまが美月ゆう子に籠絡される変心に血肉を通はせられなかつたのが、強ひて致命傷といへば致命傷。一旦発効した遺言状を孝史が改変する法律行為の、根本的なのか初歩的なのかよく判らない是非に立ち止まるのは、野暮は問はぬが花といふ奴だ。


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 「痴漢電車 イケナイ遊び」(1993/製作・配給:大蔵映画/脚本・監督:小林悟/撮影:柳田友貴/照明:ジミー宮本/編集:フィルム・クラフト/助監督:国沢実/録音:シネキャビン/スチール:佐藤初太郎/現像:東映化学/フィルム:AGFA/タイトル:ハセガワ プロ/出演:吉行由美・冴木直・藤沢美奈子・芳田正浩・樹かず・白都翔一・港雄一)。
 雑居ビルの「川上探偵事務所」、川上(港)に今井(白都)が、どうも出勤するや家を空けてゐるらしき妻・知子(吉行)の素行調査を依頼する。川上が仕事を受けるとベンチャーズ風の劇伴起動、魅惑的なボディコンで武装した知子が出撃、駅構内の画にタイトル・イン。電車の車内、知子から川島か川嶋タケシ(芳田)にコンタクト。連れ立つて降車後ベッタベタ地下道に消える二人を、レイコ(冴木)が尾行する。ラブホでの濡れ場初戦を経て、事後は川島をアッサリ袖に振つた知子を、レイコが急襲。てつきりレイコは川上の助手か何かかと思ひきや、他の女と寝た男ではなく、人の男に手を出した知子へのダイレクト・アタックを敢行した川島の職場恋愛相手。知子とレイコがとりあへず入つた、喫茶店と称したハウススタジオの一室。知子の言ひ分は、知子が子供の出来ない体につき、今井夫婦はセックスレス。さりとて肉の飢ゑには抗へず、“燃え上がつた時にはボディコンを着てイケナイ遊びに駆け込む”とかいふ方便。“何が子供が出来ないのよ、そんなのアンタの勝手でせう”とレイコが知子に掴みかゝる無体な修羅場に、この人もレイコを同業者かと勘違ひしてゐた川上が割つて入る。観客を驚かすなり騙す前に、川上がレイコを見紛ふカットを盛り込んでおくのが先だと思ふ。
 配役残り、一言二言台詞も吐く国沢実は、レイコと川島が勤務する「東北物産」東京営業所の、営業所所長辺り。にも関らず、ジャンパー姿の無頓着が堪らない。樹かずは、レイコが知子の向かうを張り、あるいは同じ轍を踏んで痴漢電車のイケナイ遊びを仕掛ける行きずりのイケメン、レイコを連れ込む自室はジリオン部屋。冴木直V.S.樹かず戦の完遂を待つて飛び込んで来る藤沢美奈子は、私の彼氏を返してとレイコに泣きつく樹かずカノジョ。女学生ギミックのおさげ髪が思ひのほか馬面に火に油を注ぎつつ、改めてこの人のプロポーションは超絶。巨乳・ストリーム・アタックを完成させる強力な女優部の中でも、オッパイだけなら最強の攻撃力を誇る。反比例するかの如く、存在感は薄らぼんやりしてゐるものの。
 小林悟1993年ピンク映画最終第九作、薔薇族込みで第十作。案外少ない気がする、感覚の麻痺。腕の一本くらゐ引き換へてでも辿り着きたいが、ハンドレッドが流石に遠い。公開題まで口にさせておきながら、何気にシリアスな主演女優の寂寥を、カラッと等閑視してのけるのがピンク・ゴッドこと小林悟。中盤以降は何故か冴木直が、寝取られた女が臆面もなく人の男を寝取る自堕落な展開を支配する。樹かずの部屋に入るレイコが、遅刻する旨を営業所の川島に連絡。川島主導でテレフォンセックスをオッ始める件なんて、どうでもよすぎて確かビリングは頭の筈の知子もスッ飛ばし、何で斯様な一幕に尺を割いてゐるのか感動的なほど呑み込み難くてクラクラ来る。挙句レイコ曰くの元凶たる知子に対し、藤沢美奈子が何故かレイコと共同戦線を張るに及んで、映画の底は完全に抜ける。川島の協力を取りつけるにあたり、レイコが藤沢美奈子をいはばでなく売るに至つては寧ろ、グルッと一周した清々しささへ覚える。結局知子は川上、今井はレイコと藤沢美奈子で押さへる痴漢電車挟撃から、今井家で川上が知子を喰ふ一方、今井はレイコ・藤沢美奈子とジリオン部屋にて巴戦といふのがクライマックス。川上が適当な説教を垂れて夫婦の問題は強制落着、川上×レイコ、樹かず×藤沢美奈子でダブル電車痴漢に戯れるラストの乾いた白々しさこそが、未だ恐らく誰もその真価には辿り着き得てゐまい大御大仕事の本質。こんな映画ばかり、現場で倒れそのまゝ他界するまで、正真正銘の命懸けで撮つてゐたんだぜ、そんな人間理解出来る訳がない。だからこそ、かうして懲りずに観るなり見られるだけ追ひ続けてゐる次第。戦つて、死ぬ。虚勢を張つてみせるのは容易いが、小林悟は、実際に戦つて死んだ。

 女の裸以外で唯一琴線に正方向で触れたのは、知子のイケナイ遊びといふよりも、川上から攻める電車痴漢。セット撮影である利を活かした、視点でいふと網棚辺りから狙ふ画角が目新しい。


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 「湯けむりおつぱい注意報」(2017/制作:OKプロモーション/提供:オーピー映画/監督:小川欽也/脚本:水谷一二三/原題:『童貞と激欲の熟女たち』/撮影監督:創優和/録音:小林徹哉/編集:有馬潜/音楽:OK企画/助監督:加藤義一/監督助手:小関裕次郎/撮影助手:酒村多緖・丸峯正義/録音所:シネキャビン/スチール:本田あきら/仕上げ:東映ラボ・テック/協力:井戸田秀行/出演:篠田ゆう・加藤あやの・福咲れん・櫻井拓也・平川直大・小川雅也・鯨屋当兵衛・久須美欽一)。原題は、劇中見切れるシナリオの表紙から拾つた、劇中?
 OPPカンパニー・ロゴとOKPクレジットに続き、「本番!」かゝる撮影風景を短く挿んで、「皆さん監督の小川欽也です」と今上御大が飛び込んで来る驚愕開巻。監督生活大体五十五年―正確には五十三年―と監督作四百二十本を記念しての観客に対する御挨拶は、小川欽也の語り口に合はせのんびりマッタリ五分を費やすものの、変名である水谷一二三の由来が水谷良重(現:二代目水谷八重子)のファンである所以と、聖地・花宴の経営者が友人である縁故が明らかとなる以外には、明後日か一昨日な有難味はさて措き正直これといつた意味はない。ある意味革命的とでもいふか何といふか、小川欽也にのみ許された芸当といつてしまへばそれまでながら、兎も角仕出かす芸当のスケールが違ふ。
 闇雲にカッコいい“小川欽也監督作品”のロゴを噛ませた上で、気を取り直し改めて本篇。北村拓哉(櫻井)の部屋にて、恋人の水上京子(福咲)と婚前交渉突入目前。腰の重い北村に軽く業を煮やし、自分から尺八を吹く格好で下半身を脱がせてみた京子が、「可愛いのね」とついうつかり口を滑らせる。実は童貞の北村はその一言で心が折れ行為を中断、憤慨した京子は部屋を出て行く。櫻井拓也デフォルトの膨れ面で北村が憮然としてゐるところに、大学の自動車部の先輩・西川薫(平川)からドライブにお誘ひの電話が。“いざ出発”、“伊豆へ―”。何をこの期に血迷つたのか、市川崑―と荒木太郎―に気触れた明朝体大書スーパーを多用も通り越して濫用しつつ、てな訳で二人は西川が購入した中古の日産ティアナで一路伊豆。ポール・モーリア風のOK劇伴鳴る中、後部座席から前方を抜いた画にタイトル・イン。続けてオープニングで済ませるクレジットは俳優部・スタッフの順で、右側車窓を景色とともに名前が左から右に流れて行く。トメの久須美欽一と、小川欽也は流れず最初から中央に浮かび上がり、ピンクに今世紀初参加した井戸田秀行はただ一人、他よりも明確な速さで駆け抜ける。
 伊豆に行つて帰つて来る以外の内実も特にないゆゑ配役残り、ピンク初陣の加藤あやのは、西川がナンパする山田真里、仕事を辞め実家に居場所をなくした口。車が壊れたと偽り北村に宿を探しに行かせた隙に、西川が真里に手を出しかけた結果、真里は北村と距離を近づける。後部座席真里マターで真里と北村がイチャつくのはおろかオッ始めかねない勢ひに、遂にハンドルを握る西川がキレる件は、御齢八十二ともなる監督の映画とは思へない瑞々しさ。あるいは、ナオヒーローの太陽のやうに熱く輝けるエモーションの成せる業なのか。篠田ゆうは、画面右から欽也御親族?とKSUの変名に追はれティアナの前に飛び出して来る島田藤子。こちらは国沢実2013年第一作「家庭教師 いんび誘惑レッスン」(脚本:内藤忠司/主演:早乙女らぶ)二番手以来の大復帰、まるで面影がないほどの超絶プログレスを遂げてゐる。そして久須美欽一が藤子の祖父で、一行が孫を助けて呉れた御礼に御厄介になるペンション「花宴」のオーナー・島田公平。顔の引き攣りに気づかないフリをするならば、全盛期そのまゝに軽妙な良コンディションを窺はせる。二十年前には既にお爺ちやん役をやつてゐた印象につき、小川欽也と大して変らない齢なのかと思ひきや。久須りんてまだ六十七歳なんだ、まだまだ全然イケる。
 国事行為に憂いた荒木天皇が、伊豆に行幸する。荒木太郎は俳優部に専念させ、今上御大・小川欽也に撮らせてゐれば天皇ピンクも賑々しく成立してゐた官能性、もとい可能性があつたやうに思へなくもない、年一ペースの純粋伊豆映画最新第七作。真里が北村にザクザク膳を据ゑる一方、愛人を作つた元夫に蒸発された藤子と、都会生活に厭いた西川とが俄かにイイ仲になる展開は、島田翁がザックザク孫の恋路に乗つかつて来る久須美欽一の猛ダッシュを除けば、絡みに突入する方便を超えての見所も見当たらず、劇映画的には何時にも増して薄い。尤も加藤あやのの朗々とした棒口跡は底の抜けた据膳シークエンスに絶妙にフィットし、こんなどエロい体してたかな!?と目を見張つた篠田ゆうの極エロ肢体を、戦闘的なカメラワークで狙ふ濡れ場は凡そ枯れを感じさせない。どころか、弟子筋の加藤義一なり竹洞哲也に爪の垢を煎じて飲ませたくもならう、最古参が最前線を爆走する一撃必殺感を轟かせる。自分の組が初めてだからといつて小川欽也は新人と勘違ひしてゐるやうだが、数へるとピンク五戦目となる福咲れんも福咲れんで高い水準を保ち安定。東京で一人待ち惚けを喰らはされる京子が、真里―と西川パイセン―のアシストを受け帰京した北村との締めを担ふ、ビリングは三番手にして地味な重責もサラリと果たす。開巻の弁では“それなりに面白い”と謙遜しておいでだが、なかなかどうして、それなり以上に充実した裸映画であつた、メデタシメデタシ。と行かないのが、今回の伊豆映画。目出度く完遂を果たした北村家のベッドから、カメラがパンしたスタンドの傘に“終”が被さる盤石のラスト・カットと、スチールを連ねた小川雅也と鯨屋当兵衛を除いたキャストと小川欽也のクレジットを経て、「今年はこれで、また来年」と小川欽也が再び飛び込んで来るオーラスには度肝を抜かれた。伊豆を小川欽也で挟む、どんなサンドイッチだ、こんな映画本当に観たことない。土手を散歩する小川欽也に異常に長々とカメラを回す姿勢には、主演女優の物語が事実上完結したのちの残り十分で、温存した朝倉ことみを消化する前作「昇天の代償 あなたのゐない夜」(2016/主演:広瀬奈々美)同様、撮影方法がフィルムからデジタルに移行しただけなのに、何故かロマポ並の七十分に十分延びたレギュレーションに対するプロテスト―前後合はせて、今作に於ける小川欽也パートも概ね十分―と曲解し得たにせよ、幾ら何でも今上御大の近影よりも、女の裸を見せろといつた呆れないし憤慨は否み難い。どうせなら、小川欽也が普通か勝手に喋つてゐる背景で、何の脈略もなく女優部がくねくね踊つてゐたりなんかするワンダーくらゐ撃ち抜いてみせればよかつたのに。それと荒木太郎ばりに脚本のト書きをわざわざ文字にしてのけもする大書スーパーは正直藪蛇に煩はしくしかない反面、北村×西川×真里が花宴に到着して最初の夜。多分花宴夜景の画面一杯に、

 “夜”

 と打つてみせたのにはグルッと一周して感服した。見れば判るよ!流石に量産型娯楽映画とはいへ、そこまで敷居を低くして呉れなくていい(笑


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 「色情狂日記 超いんらん」(1990/製作:《株》メディア・トップ/配給:新東宝映画/監督:渡辺元嗣/脚本:双美零/撮影:清水正二/照明:守田芳彦/編集:酒井正次/助監督:青柳一夫/監督助手:梶野考/撮影助手:坂江正明/照明助手:田端一/美術協力:西岡正樹/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/協力:修善寺温泉対山荘/出演:山本竜二・ジミー土田・伊藤清美・南野千夏・岸加奈子)。監督の渡辺元嗣は、勿論現在渡邊元嗣。
 雲に隠れる満月に怪しげな劇伴が鳴り、障子越し鏡台に向かふ女の影。床の間の樽がグラグラしだすと女も俄かに苦悶、顔だけを闇に沈めるカメラワークの中、男が欲しいと絶叫するに及んで、漸く女が南野千夏―jmdbは南町千夏に誤記―であるのが判明、再び狂乱するシルエットにタイトル・イン。明けた先は東京の下町、民家屋根上の物干し場。私立探偵の車一平(山本)がカメラの望遠レンズを覗き、助手の松本三太(ジミー)は集音マイクは見当たらないゆゑ、恐らく盗聴器を用ゐて家内の模様を録音中。結婚を間近に控へた奈緒(岸)が、婚約者ではない男・ジュンちやん(特定不能)を連れ込む現場を押さへる。続いてハンフリー・ボガートのポスターが飾られた、「車たんてい事務所」。一平と三太が奈緒の痴態を捉へたスチールを、如何にも山竜×ジミ土らしい狂騒さで取り合つてゐると、当の奈緒が乗り込んで来る。一平の調査で玉の輿が破談となつた奈緒の―嘘―泣き落としで、一仕事タダで請け負ふ羽目に。とかいふ次第で一行は、旅館に嫁いだ奈緒の友達が、旦那の死後万古神社の祟りでおかしくなつたとかいふ修善寺温泉「対山荘」に。三人を迎へた女将の春美(南野)に三太が一目惚れする一方、一平と奈緒は何時の間にか距離を近づけてゐたりなんかする内に、その夜も樽に連動して春美起動、たまたま部屋の外を通りがかつた三太が捕食される。
 配役残り伊藤清美は、矢鱈と敵視する対山荘に、出入りするマッサージ師・恵子。V.S.恵子戦に際して、一平が気取るのはジェームズ・ボンド。尺八のサンダーボール作戦にボンドは二度イき、愛を込めてヤッて呉れと小ネタを繰り出し続け、ハモニカをオクトパシーのやうに吸ひ込んだ果てに、射精時のシャウトがデルデルセブン!下らなさを極めた感が、グルッと一周して清々しい。その他万古神社神主も特定不能、見れば判らなくもない梶野考は確認能はず。
 第三回ピンク大賞では作品部門ベストテン第四位を受賞した、渡辺元嗣1990年第五作。何はともあれ、キャイキャイした造形の岸加奈子が超絶。この人には物憂げな役よりも、明るい役の方が絶対似合つてゐるにさうゐないと確信するに足る、キシカナが可愛くて可愛くて映画の中身なんて最早どうでもいい。逆からいふと、要はその程度の出来。山竜とジミ土がワーキャー牽引する様は確かに楽しいものの、単なる全く以て水準的な何時も通りのナベシネマ。一撃必殺のエモーションを特に撃ち抜くでなく、締めの濡れ場がキシカナと山竜の一段限りで、ジミ土と南野千夏をスルーして済ますのも弱い。肯定的に復興する以前とはいへ、四天王の括りが既に存在してゐた時代にベストテン第四位に飛び込んだ点は天晴と行きたいところだが、正直な話殊更面白い訳でも何でもない。更によくよく検討してみると、観るなり見ただけで同年ベストテンは一位が「ぐしよ濡れ全身愛撫 BODY TOUCH」(監督:佐藤俊喜=サトウトシキ/脚本:小林宏一/主演:杉本笑)で、同率五位が「制服本番 おしへて!」(監督:常本琢招/脚本:石川欣・常本琢招/主演:山下麻衣)に、同票七位が「陵辱!白衣を剥ぐ」(脚本・監督:片岡修二/主演:橋本杏子)。直截に片付けると、てんでピンと来ないランキングではある。全般的な低調期にあつたのか、これなら今の方が全然レベルが高い。夕日を背負つた富士の妙に堂々としたラスト・カットが、結果論的な釈然としなさを別の意味で完成させる。


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