「褌熟女 私の秘密、見て下さい。」(2005『未亡人と褌 -悦子の秘密-』の2017年旧作改題版/製作:フィルム・ハウス/提供:Xces Film/監督:坂本太/脚本:有田琉人/企画:稲山悌二/プロデューサー:伍代俊介/撮影:鏡早智/照明:野田友行/編集:フィルム・クラフト/録音:シネキャビン/助監督:竹洞♀哲也/撮影助手:矢頭知美/照明助手:吉田雄三/監督助手:白石真弓・伊藤祐太・小山悟/スチール:阿部真也/撮影協力:カプリ/タイトル:高橋タイトル/現像:東映ラボテック/出演:美月ゆう子・林田ちなみ・瀬戸恵子・柳之内たくま・岡田智宏・小林三四郎)。
寺の正門ショット、喪装ではないが手に線香の束を携へた和服の女が、墓参に訪れる。墓に手を合はせた瀬川悦子(美月)が、遺影も終ぞスルーされる夫の死後、羞恥と屈辱の日々をもう一年、まだ一年と振り返つてタイトル・イン。明けて一年前、亡夫・ユータローかリュータロー弟の惣一(小林)・愛美(瀬戸)夫婦も交へ、顧問弁護士の佳山薫(フォクシーな眼鏡が不思議と全然そゝらない林田ちなみ)が、遺言状の中身を公開する。財産は全て悦子が相続、但しその条件として悦子はユーかリュータロー遺品の褌を常時着用し、なほかつ生涯貞操を守り通すことを義務づけられる。そして月に一度、履行を確認する検査を実施するとする仰天遺言。悦子が開く活花教室にも通ひ、義姉と距離の近い愛美は抗弁を唱へつつ、有無もいはさぬその場の勢ひで、悦子は下着も着けない裸の下半身を露に白フン着用。月一の貞操検査といふのも、惣一同席の下、薫が悦子を要は手マンする。それで何が確かめられるのか煌びやかに不明な、徹頭徹尾ポルノな方便シークエンス。とか何とかいふのがアバンで悦子が嘆いた、羞恥と屈辱の日々といふ次第。下らないと無下に難じるのは容易いが、これはこれで、ある意味想像力の限界に挑んでゐるやうな気がしなくもない。未亡人と褌、果敢に新たな機軸を拓かうとした、気概は買へるのではなからうか、俺は何をいつてゐるのだ。
配役残り隈がドス黒い柳之内たくまは親爺の墓には参る、ユーかリュータローが外で産ませた息子・水上孝史。妾の子と直截な蔑視を露にする悦子を、当然激しく敵視する。朴訥とした突進力で一幕限りの男優部濡れ場要員を駆け抜ける岡田智宏は、なかなか馬脚を現さない悦子の陥落を目し薫が放つ秘密兵器、手戯に長けた助手・寺本祐司。
以前に書いた感想が、正直手を入れるよりも一から書き直した方が早い我ながら酷い代物であつたゆゑ、2017年新版に際し潔く破棄した上での再戦を挑んだ坂本太2005年第二作。坂本太が五十の若さで急逝して再来月で早六年、大杉漣も兎も角、ジミー土田を追悼する番組も組んでやれよ。外堀の最後に訂正して謝罪したいのは、節穴が何をトチ狂ふたか、今作はキネコではない。
閑話休題、褌未亡人が、月々の恥辱と肉の飢ゑとに苛まされる。エクセスから与へられた御題か坂本太の脳が自発的に湧いた―どうせ前者―のか、法廷では到底勝ち目も望めない豪快な故人の遺志を軸に、銘々が滾らせる欲なり憎悪がヒロインを翻弄する。展開の逐一をひたすらに絡みで語る姿勢は天晴ともいへ、そもそも出発点から底の抜けた物語が、面白い訳では特にも何も別にない。当時は客を呼べる名前であつたのか、束の間の実働帰還と僅か五本の戦績にしてはオーピー・新東宝含めた三社三冠も達成する美月ゆう子は、今回がエクセスのみならずピンク初陣。佇まひのエロさは買へるものの、素の表情は乏しく、口跡も白々しく覚束ない。劇映画は諦めて裸映画に特化するにせよ、平均年齢が明確に高めな女優部が、訴求力の有無に関しては正直人を選ぶといつたところか。さういふ微妙な中でも一点明確に頂けないのが、惣一が今月の検査に寺本を寄こす旨を車内からの携帯で悦子に寄こした上で、改めて何時ものホテル―のつもりのカプリ一室―にて薫との二回戦に突入する件。ちぐはぐな繋ぎ、あるいは好意的に解釈するならば頑強に絡みの回数を増やさうとした貪欲が、二人の位置情報と観客を徒に困惑させる。どうせなら愛美が惣一を追ひ抜く姦計が何の捻りもなく功を奏し、悦子が全てを失ふ無体な結末の方が寧ろプリミティブな破壊力に富んでゐたやうにも思へ、電話一本で再逆転するラストは、木に接いだ竹も厭はない鉄の信念が清々しい。最終的に柳之内たくまが美月ゆう子に籠絡される変心に血肉を通はせられなかつたのが、強ひて致命傷といへば致命傷。一旦発効した遺言状を孝史が改変する法律行為の、根本的なのか初歩的なのかよく判らない是非に立ち止まるのは、野暮は問はぬが花といふ奴だ。
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