真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「獣欲魔 ちぎれた報酬」(1993/製作:旦々舎?/配給:大蔵映画/監督:水元はじめ/脚本:秋津瑛/撮影:田中譲二・稲吉雅志・松本治樹/照明:秋山和夫・永井日出雄/音楽:薮中博章/編集:㈲フィルム・クラフト/助監督:広瀬寛巳/制作:鈴木静夫/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東映化学/出演:森山美麗・早乙女じゅん・新島えりか・杉本まこと・須藤信伸・水元はじめ・甲斐太郎)。
 タイトル開巻、事そこに至る子細は軽やかにスッ飛ばし、実業家の白馬仁(杉本)が陽子(森山)を自宅で犯す。肉棒だ牝犬だと下卑たといふよりは安い台詞を無闇に振り回した事後、白馬は陽子にポンと札束を寄こし、親爺の借金の棒引きと、月々のお手当での愛人契約を迫る。所変つて旦々舎がよく使ふ公園、そんなところに魚がゐるのか、噴水に釣糸を垂らす栗村東(甲斐)に、川田ケン(須藤)が接触する。川田はかつて“列車集団レイプ事件”で名を馳せた栗村に、実業家の愛人から持ちかけられた本妻をレイプし証拠のビデオを撮影すると五百万といふ仕事を持ちかけるも、アル中であつた頃の昔話だと、栗村は取り合はない。一方白馬家、愛人である陽子をお手伝ひのやうな形で家に入れることを承諾した本妻(早乙女)は、夫婦生活がてら今日も恣に高額のお強請り。持つ者と、持たざる者。実はサラ金で首が完全に回らない栗村は、結局別れ際渡された川田の電話番号に、自宅の電話なんて当然繋がる訳がないゆゑ公衆電話から連絡を取る。
 配役残り新島えりかは、白馬と本妻と愛人である陽子が暮らす白馬邸こと要は旧旦々舎に、更に同居する白馬の妹で学生のマミ。捌けたといふか何といふか、奇々怪々な家庭環境ではある。ここで、寧ろこの期に及ぶまで知らなかつた己の不明を恥づべきなのだが、新島えりかとは林田ちなみ(a.k.a.本城未織)と同一人物。林田ちなみと本城未織を併用しやがて林田ちなみに一本化する以前に、使用してゐた名義が新島えりかといふ次第になるらしい。御大将自ら出陣水元はじめは、後ろ髪を縛つた白馬邸ボディガード。強敵には手も足も出ない代りに、雑魚には強い。そして一年後―川田以外の―それぞれを描くラスト・シーン、正直殆ど無駄に飛び込んで来る広瀬寛巳は、マミが家に招き兄に紹介する川上君。これこの人御馴染みの一張羅を、一体何時から着てゐるのか。
 水元はじめ1993年第二作、といふよりも、山﨑邦紀ピンク映画―山崎邦紀名義で薔薇族が一本先行する―大蔵第二作。水元はじめといふのは山﨑邦紀の編集者時代からのペンネームで、脚本の秋津瑛も変名。といつた辺りは、奈良の九武虎男氏との遣り取りの中で明らかとなつた、あるいは思ひ出された事柄である。映画本体に話を戻すと、手篭めにされた女の復讐心が、リタイアした伝説の強姦魔を呼び覚ます。といふと如何にも出鱈目に聞こえつつ、たとへば強姦魔を殺し屋なり傭兵なり特殊部隊隊員に置き換へてみると、案外ありがちな物語に思へなくもない。それはそれとして、潤沢な濡れ場の尺に反比例して陽子の造形は綺麗に宙に浮き、締めも粗く、ドラマの全体的な完成度は決して高くはない。但し兎にも角にも見所は、獣性を発露し暴れた雄、もとい暴れ倒す甲斐太郎。川田を潰され、止めた筈の酒をカッ喰らつた栗村が再び白馬邸に突撃する件が今作の白眉。聞くからに確かに只事ではない“列車集団レイプ事件”に関して、女の子から老婆まで犯したと驚愕の内実を白馬から投げられた栗村は、怯みも悪びれもせずに「子供でも動物でも、動くものなら何でも犯した」!わはははは、ムチャクチャだ。挙句にその場に―旅先から予定を早めて―帰宅したマミを、兄の眼前犯す。火に油を注いでダイナマイトを焼べる正しく極悪非道ぷりながら、やりかねないとさへ思はせる馬力と迫力、重低音が歪んだビート感は役者甲斐太郎一流。トゥー・ワイルドさがあまりにもカッコいい、後年こちらは一転好々爺的な真逆のベクトルからの「変態体位 いやらしい性生活」(2005)共々、甲斐太郎を語る上で欠くべからざる一作といへるのではなからうか。膨大なキャリアを、何処まで追へてゐるのかに自信はないが。

 ひとつ可笑しなツッコミ処は、栗村の第一次白馬邸襲撃。川田が宅配便を装ひ誘き寄せた山﨑邦紀に、隙を突いて栗村が背後からスリーパー・ホールド。そこから締め落とすといふよりは、そのまま首の骨をヘシ折つたやうにしか見えないカット。うわ、殺したのか!?と明後日に驚いた(笑



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 「痴漢電車 いけない夢旅行」(2014/製作:Blue Forest Film/提供:オーピー映画/監督:竹洞哲也/脚本:小松公典/撮影監督:創優和/編集:有馬潜/録音:シネキャビン/助監督:小山悟/監督助手:小鷹裕/撮影助手:酒村多緒/照明助手:小松麻美/音楽:與語一平/スチール:阿部真也/現像:東映ラボ・テック/出演:辰巳ゆい・大城かえで・倖田李梨・小林愚太郎・岡田智宏・津田篤・久保田泰也・丸橋まき・北野智美・根本隆彦)。出演者中、北野智美と根本隆彦は本篇クレジットのみ。
 殺風景なタイトル開巻、電車内で原友美(辰巳)がクシャミをする毎に、股間から胡瓜二本・玉葱・大蒜・茄子と大量の野菜がボロボロ落ちる。周囲の乗客が好奇に目を丸くする一方、赤面至極の友美は野菜挿入マニア・風間健吾(岡田)に対し、最終的には菊穴に大ぶりの玉蜀黍を捻じ込み反撃した一戦を回想する。一息ついた流れで、友美は痴漢に被弾。エクスタシーに達した友美は、陰のある二枚目痴漢師・上田真樹雄(小林)と何故か、といふか何と十年前の鎌倉の海岸に放り込まれる。ここで小林愚太郎とかいふ人を喰つた名義の正体は、二年ぶりに帰還した藤本栄孝。閑話休題、事態を呑み込めぬ友美に、上田は新聞の日付を示し二人がタイムスリップ(面倒臭いので以下TS、ミュージックか)した旨納得させる。TSする先は、女の思ひでの場所、鎌倉は友美が幼少期を過ごした土地だつた。上田はかつて恋人・藤田美紀(大城)と痴漢プレイの最中、初デートした池袋にTSする。その後美紀と離別した上田は、美紀に辿り着くTSのために、電車での痴漢に明け暮れてゐた。さうかうしつつ、上田に協力する格好の友美、のみならず、如何なる次第か恐らく上田も標的に、風間が二人の行く先々に出没する。尻にはもろこしが植わつたまゝ、内股のヨチヨチ歩きで。
 配役残り丸橋まきは、幾ら敵がイケメンとはいへ電車で痴漢されたところで当然絶頂には至らず、上田が空振りに終る女。二度目のTSを経て、友美は上田のとある異変に気づく。倖田李梨は、その時雷鳴のやうなSEとともに全裸で文字通り飛び込んで来る、劇中もう一人のタイムスリッパー・高田美奈江。津田篤は、美奈江の情夫で命を粗末にするヤクザ者・杉野清孝。高田美奈江が高田みづえで、杉野清孝は杉山清貴からといふのは容易に看て取れるとして、残りの面子にも名前の元ネタあるのかな?根本隆彦はオープニング・シークエンスから参戦、北野智美は締めの痴漢電車パートに見切れる乗客。その他、上田が美紀と彷徨ふTS後の池袋に貼られた―イイ出来の―政見ポスターには、日本酒党の井尻鯛(=江尻大)先生が。思ひつきで友美が上田に仕掛けた逆痴漢に際しては、小松公典が顔射を秀逸に浴びる。
 竹洞哲也2014年第一作は、自身二度目となる伝統の栄えある正月大蔵痴漢電車。後半回収されるまで展開上そもそも件そのものが画期的に判り辛い、上田と美紀が別々の時間に飛ばされた理由。別に薄くもならずに、普通に背後の塀に落ちる影。これは思ふに、辰巳ゆいと藤本栄孝の立ち位置を逆にすれば回避可能な気がする。そして完全に消滅した筈―それもそれで、また別のパラドックスは発生しないのか―なのに、友美も上田も忘れてゐないあの女(ひと)の記憶。真田幹也の爪の垢でも飲ませたい、藤本栄孝の老けメイクの綺麗な甘さ。さて措き、離れ離れとなつた恋人を捜し求め、男は電車痴漢と時空移動とを繰り返す。痴漢電鉄に昨今隆盛のタイム・ループものを大胆に直結した物語は、散見されるツッコミ処にも関らず、丁寧に練られた脚本と効果的な配役とに支へられ瑣末は薙ぎ倒さんばかりに面白い。昔はハンサムな好青年と戯画的なツッパリ程度しか満足な自前の抽斗は持ち合はせなかつた、あの不器用な岡田智宏が何時の間にか中性的な変態役を十八番に。ビリングの頭を十分に張れる大城かえで―残念ながら今作がラスト・アクト―が持ち前の決定力で、初陣の主演女優をサポートする布陣は勿論磐石。凝つた設定の外堀をやさぐれた風情で埋める倖田李梨と、ハッピーエンド要員で穏やかに満を持す久保田泰也。工夫を欠いた津田篤―但し雨中のカーセックス、助手席の美奈江が脱ぎ始めるとワイパーを回すタイミングは完璧―を除けば、隙のない三番手・四番手の起用法も地味に素晴らしい。充実した展開に撮影部も呼応、都合二度火を噴く、友美と上田の背後に大きく鎌倉の海を背負つたロングの映画的な美しさには溜息が洩れた。カットの構図と緊迫感が抜群な、友美が消滅効果をも増幅させるクライマックスは「ルーパー」の二、三百倍エモーショナル。足りないものは如何にも正月映画らしいベタベタな王道さ程度の、諸々丹念に積み重ねた上でのラスト・シーンが清々しい2014年先制作。これは今年は幸先がいゝ、といふことでよろしからうか。

 哀しい実相を隠す仮面か、序盤へべれけに過ぎると思はれた友美の所作と口跡に、その内既視感が。「悩殺若女将 色つぽい腰つき」(2006)に於ける、初期竹洞組のミューズ・吉沢明歩演ずる北村花子とほぼ全く同じ造形である。


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 「女スパイ 太股エロ仕掛け」(2002/製作:ナベシネマ/提供:オーピー映画/監督:渡邊元嗣/脚本:山崎浩治/撮影:飯岡聖英/照明:小川満/編集:酒井正次/助監督:佐藤吏/監督助手:宇野寛之/撮影助手:小宮由紀夫/照明助手:石井拓也/録音:シネキャビン/現像:東映化学/協力:広瀬寛巳・森角威之/衣裳・下着 協賛:《株》ウィズ/出演:デヴィ・ゆき・林由美香・ささきまこと・菅野裕士・秀)。>シネキャの前に元永斉がスチール担当
 ジャーンと銅鑼開巻、障子の向かうでテレテレ踊る影の主は林由美香。風俗目当てで来日したオーピーランド共和国大統領・金玉男(キン・ギョクナン/ささきまこと)と、ホテトル嬢・弥生(林)の一戦。聞くからに偉大なる将軍様を連想させる役名ながら、ターバン姿でアル言葉を操る金の造形は、西方向に大分足を伸ばす。喜び勇んで本番、ところがあまりの短かさと小ささとに挿れられてゐるのに気付かない弥生に動揺した金は、驚異のジョイトイ・ゴールドペニス(以下面倒臭いのでGP)を、要は一物に張形をマルッと被せる形で装着。吹き荒れる目覚まし時計と嵐のSE、カメラはワシワシ動き金色の照明が飛び交ふチープ・スペクタクルな演出の中、弥生を失神とアクメが連続する強烈な快感に叩き込む。事後、コンパクト型の秘密道具で背後のGPを撮影した、実は国際秘密警察の潜入捜査官である弥生は隙を突き由美香キック一閃、GPを奪ふ。逃走する弥生は回転しながら飛んで来る鋼鉄製のブラジャーに被弾、GPを残し脱出する。チャイナドレスの女が、GPを回収する足下を抜いてタイトル・イン。
 世界の平和を守るシャドーズ・エンジェル―他メンバーの存在は不明―の私立探偵・間宮凛(デヴィ)は謎の大富豪・シャドー(声は菅野裕士、本体役は“?”とされる)の一命を帯び、某大国大統領の密命を受け極秘来日した日系人スパイ、ボンドならぬジェームス板東(秀)に接触する、ナベ絶好調だ。何故か浅黒く日焼けしてグラサンを常備する板東のヴィジュアルは、マーチンこと鈴木雅之に掠つてゐる。“接触して目的を探れ”といふ指令を、“セックスしてモッコリを弄れ”と華麗に聞き違へた―断固としてナベ絶好調だ―凛は、結婚式場から逃げ出して来た花嫁に扮して坂東に再接触、迸るウィズ魂が清々しい。何はともあれ、凄腕ボディガード・豹の牙(ゆき)の警護を掻い潜り金からGPを強奪する、「ゴールドピ~作戦」への協力を坂東は凛に要請、シャドーも作戦協力を指示する。
 大体この時期のオーピー作は駅前で順々に詰めて来てゐる筈なのに、抜けてゐたことに気付きDMMで落穂拾ひした渡邊元嗣2002年最終第四作。因みに前作がデヴィ初陣、シリーズ化も決して夢ではなかつたフーテンもとい「昇天の昇子」第一で唯一作「小悪魔デヴィ とろけ湯穴覗き」(脚本:五代暁子)。量的にも質的にも充実した濡れ場の僅かな僅かな隙間で、最終的には類型的ともいへそれなりに凝つたスパイ大作戦を器用に展開する。如何にもナベらしいポップでキュートな娯楽活劇、を狙へてゐて全くおかしくなかつたところが、案外実際の仕上がりはさうでもない。二戦目にして打ち止めのデヴィはキラキラと華のある表情作りも所作も問題ない反面、素頓狂な口跡はどうにも映画の足を地から浮かせる。秀(ex.十日市秀悦)が―セーラー戦士(青)コスの―林由美香とゆき、二戦続けてコッテリと濃厚な絡みを披露した上で、クライマックスの凛V.S.金戦、流れ上デヴィの裸をコメディで消費せざるを得ないのは裸映画的に地味に苦しい。ちぐはぐなオチの切れ味も悪く、よくてそこそこの一作である。

 ところで、意外なやうで未整理も甚だしいシャドーの正体は兎も角、坂東が真に受ける、ゴールドピ~作戦の建前。GPを奪取する目的が、オーピーランド共和国に対する外交カドーと短小でも性生活を謳歌し得るセックス革命といふのは、よく出来た話に聞こえてよくよく考へると疑問も残る。国家元首の醜聞を盾に外交上の切札とするにはGPを表舞台に出す訳には行かず、さうなると大量生産を前提としたセックス革命とは両立しないやうに思へる。


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 「《秘》大奥外伝 尼寺淫の門」(昭和48/製作:日活株式会社/監督:藤井克彦/脚本:中島丈博/企画:結城良煕/撮影:萩原憲治/美術:大村武/録音:木村瑛二/照明:熊谷秀夫/編集:井上親弥/音楽:月見里太一/助監督:原武司/色彩計測:前田米造/現像:東洋現像所/製作進行:斉藤英宣/出演:小川節子・宮下順子・花柳幻舟・林美樹・小森道子・あべ聖・益富信孝・小泉郁之助・大泉隆二・大谷木洋子・加納愛子・浜口竜哉)。配給に関しては、事実上“提供:Xces Film”。
 宝暦年間、後ろ髪を激しく引かれつつ将軍付き御中臈に選ばれたおさよ(小川)と事の最中、明らかに健常とは描かれない徳川九代将軍・家重(浜口)が急死。おさよと同じく将軍付き御中臈のおせん(林)・おもん(小森)はそれぞれ院号と家重の位牌を授かり、櫻田御用屋敷こと比丘尼屋敷に移る。そこで仏門に入り家重の冥福を祈るといふと、要は事実上幽閉のやうなものである。比丘尼屋敷の敷居を跨ぐ際、見送りの列の中に元々の許婚・貝原敬之介(大泉隆二/昭和の千葉尚之)の姿を見つけたおさよが心を騒がせられるも、門は非情に閉ぢられタイトル・イン。おせんとおもんは深く考へるでなく百合を開花、一方敬之介を忘れられぬまゝ仏道に励むおさよに、先代吉宗の将軍付き御中臈・照観(宮下)が言ひ寄る。ところが後者のみ比丘尼屋敷の主・順徳尼(花柳)に発覚、罰せられた照観は気が触れ、ショッキングに自殺する。対しておさよが飲ませられる女の色香を失くするだとか聞くからオッカナイ薬は、効果が全く描かれないゆゑよく判らない。そんなある日、怪我を負つた状態で追手から比丘尼屋敷に逃げ込んだ孫三郎(益富)と、おさよが出会ふ。おせんとおもんは相変らず深く考へるでもなく驚喜、若く逞しい孫三郎の肉体に溺れる。
 何故か再びど頭はOVERレーベルのロゴで飛び込んで来た、藤井克彦昭和48年第一作。上様がオッ死んだばかりに、男を知つたばかりだといふのに俗世から隔離される女達。抑へ難き肉の飢ゑが、濡れ場の万華を咲き誇るなり狂ひ咲かせる。同じ量産型娯楽映画とはいへ格の違ひは確かに否めない、美術・衣装・撮影、現状昨今の一般映画ですら太刀打ち出来ない本格時代劇ぶりには素直に感嘆。但し、完璧に整つた体裁にお行儀よく納まり、物語自体も大人しく畏まつてゐる印象も禁じ難い。家重の一周忌を前に御偉方の視察を控へ、おさよらは孫三郎を古井戸に隠す。終盤漸くエモーションが動き始めたのは、おさよと孫三郎の井戸の中の逢瀬。己が身ひとつで葵の御紋を向かうに回す覚悟を見せる、ジョー山中風に外国人の血が混じつて見える益富信孝のギラつきは粗野にせよ強靭な輝きを放つ。それだけに、結局強大な体制に屈した個人が、発狂して終るラストには他愛ない予定調和を激しく覚えた。伝統的な無常観ともいへるのかも知れないが、こゝから先は極私的な嗜好に恣に振れてみせると、現し世を追認するフィクションに、果たして何の意味があるといふのか。


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 「変態夫婦 とろける寝室」(2013/制作:セメントマッチ/提供:オーピー映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/原題:『深いアナ』/撮影監督:清水正二/撮影:海津真也/音楽:大場一魅/編集:酒井正次/助監督:中川大資/監督助手:菊嶌稔章・松井理子/撮影助手:猪本太久磨/照明応援:広瀬寛巳/編集助手:鷹野朋子/タイミング:安斎公一/協力:Import Lingerie Shop KURONEKO/出演:当真ゆき・星野ゆず・沢村麻耶・竹本泰志・津田篤・野村貴浩・なかみつせいじ)。クレジット終盤、急上昇する情報密度に屈する。撮影助手の猪本太久磨は、もしかして猪本雅三の御子息?
 昼休み、河川敷で腕立て伏せに汗を流す平山由紀彦(竹本)に、上司の神林(なかみつ)が声をかける。神林に飲みに行くことを誘はれるも、十四と結構な歳の差再婚したばかりの由紀彦は固辞。その日のプレイに思ひを馳せ、ウキウキ帰宅する由紀彦の姿に続けて殺風景なタイトル・イン。由紀彦を迎へた妻・さおり(当真)は似合はないセーラー服、由紀彦も―竹本泰志的に―初めて見た気がする詰襟に着替へ、先輩・後輩といふ設定でフォークダンスと由紀彦のストリップから寝室を蕩けさせる。一切登場しない前妻とは三年のレスの果てに間男を作られ離婚してゐた由紀彦は、さおりとのセックスを過剰に重視してゐた。そんな最中、見合が決まつてゐるといふ由紀彦の部下・柏木あおい(星野)が、実は処女につき由紀彦に初めての男となつて呉れることを乞ふ。空前の据膳にも関らず、浮気はしないと由紀彦は拒否。ところが、頻発する由紀彦のいはゆる中折れに自身の体に飽きたのかと悩んださおりは、カンフル剤にと由紀彦にあおいを自宅に連れ込むことを公認する。
 配役残り、津田篤は由紀彦が処女を抱いたのだからと、さおりも出会ひ系で調達する童貞。沢村麻耶と野村貴浩は平山夫妻がお世話になる、スワッピングのベテラン夫婦・今井ではなく向井玲子と尚也。沢村麻耶も間違つても貧乳ではないゆゑ、尚也がさおりのデカパイに殊更に垂涎して見せるのは奇異に映る。
 池島ゆたか旦々と、では勿論なく淡々と2013年最終第四作、坦々とといつてもよい。日々夫婦生活の探求に勤しむ、中年男とうら若き二度目の妻。平山夫妻が夜の営みを自画撮りしたDVDをコレクションしてゐる辺りで気付き、以降星野ゆずと津田篤のポジションと行く末に確信に変りつつ、遠征より帰還後グーグル先生に尋ねてみたところ、今作は「本番 《秘》夫婦生活」(1994/脚本:五代響子/主演:泉京子)のセルフリメイクであるとのこと。となると、とならずともあちこち苦しい。正直若々しくはない水風船は泉京子に明確に劣り、年の離れた後妻に夢中のオッサンにしては、竹本泰志は些かでなく色男に過ぎる。逆に二番手は大幅にパワー・アップしてゐるとして、津田篤と黒沢俊彦は造形の微妙でもない差異込みで五分。展開上最大の相違にして致命傷は、ダブル林田が激突する飛び道具も火を噴く、大所帯を動員する「倒錯の館」パートが単なる二対二の夫婦交換に替つてしまふ点、どうしやうもないスケール・ダウンが否めない。ハイライトとなる、倒錯の館に於ける到達感溢れるエモーションも当然不発。濡れ場の連結が自動的に要請される物語は裸映画的に麗しく鉄板であるとはいへ、前作を知る身には、如何せん物足りない一作ではある。かうなると逆に、以前は無用な拘泥に思へなくもなかつた、池島ゆたか監督作百本連続出演を既に達成した、神戸顕一探しの小ネタが絶たれたことも地味に響く。


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 「すけべ教師 引き抜く快感!」(1997/製作:旦々舎/提供:Xces Film/監督:浜野佐知/脚本:山邦紀/企画:稲山悌二《エクセス・フィルム》/撮影:田中譲二・西村博光・鏡早智/照明:上妻敏厚・新井豊・渡辺安子/編集:《有》フィルム・クラフト/音楽:中空龍/助監督:松岡誠・横井有紀・紀伊正志/スチール:岡崎一隆/制作:鈴木静夫/録音:シネキャビン/現像:東映化学/出演:藤森加奈子・篠原さゆり・林由美香・濱本康輔・山口健三・ジョージ川崎《友情出演》・杉本まこと)。
 嬌声イン、硝子テーブルの上に大きな黄鉄鉱の鉱石を飾つた藤森加奈子が、小さな塊で自慰に耽る。繰り返されるこのシークエンスは黄鉄鉱を妖しく輝かせることにより重きが置かれ、照明が女優に美しく当たつてはゐない。丸ゴシックのクレジット先行、達するのを待ち校舎外景にタイトル・イン。
 漢字が判らないセイラ高校、ポジションがよく判らない鶴見忠夫(杉本)が産休の小池(何もかも登場せず)に代る現代国語の臨時教師・阿部美代子(藤森)を生徒に紹介する。校舎裏、ですらなく出入り口の脇と恐ろしく無防備なロケーションで煙草を吹かす近藤満(濱本)を美代子は咎めもせずに、出し抜けに黄鉄鉱を取り出すと綺麗でせうこの石だの、一切の脈略をスッ飛ばし近藤に対し高校時代の自分を思ひだすだのと薮から棒な発言に終始、徐々に、後々的中してしまふ不安が湧き上がる。既婚者であるにも関らず結婚をちらつかせ、鶴見は近藤の同級生でもある北原夏美(篠原)と片付いてゐない体育倉庫にて関係を持つ。偶々事後の遣り取りを耳にした近藤は、夏美と鶴見のディープ・キスを目撃。夏美のことが好きなのか、近藤は動揺する。
 配役残り山口健三は、既に黄鉄鉱に目覚めてゐたセーラー服女子高生の美代子を犯す体育教師。膨大なキャリアの割に旦々舎は然程多くはない林由美香は、忠夫の妻・妙子。第一次山口先生パート明け、抜群に一段落ついたタイミングで三番手を投入する構成には惚れ惚れさせられる。そしてカメオ枠といふのに見覚えがないジョージ川崎は、校長先生。
 実のところ元々ファンの浜野佐知や関根和美となると、DMMの中にも未見作が案外少ないのは地味でなく深刻な悩みの種。兎も角、浜野佐知1997年、薔薇族が一本先行してピンク映画全十二作中第八作。黄鉄鉱を愛でるミステリアスな女教師が、一人の男を―身から出た錆の―破滅に導き、不器用な若い恋路を成就させる。ツルンと丸いものだけでなく、山邦紀の偏愛が角々しい鉱物に向けられることもあるのかといふ点は新鮮な喰ひつき処にしても、肝心要の美代子の造形に関する外堀が綺麗に埋まらないゆゑ、遅々とした歩みの始終にどうにもかうにも背骨が通らない。女房を寝取られ「クラッシャーだ・・・・」と立ち尽くす忠夫の絶句で、そこだけ掻い摘むと形になつてゐなくもないやうにも見え、矢張り強引か豪快な力技に過ぎよう。現在の美代子と女高生の美代子が鮮烈に交錯するラスト・ショット―その直前の、美代子が近藤と夏美に別れを告げたところで鳴り始めるズンチャカした劇伴は酷いが―も、ショット自体の出来栄えが素晴らしい割に、さういふ発想に至る段取りは清々しく忘れるなり抜け落ちてゐる以上、煙に巻かれた感ばかりが吹き荒れる。家を出る妻と、漂泊のヒロイン。定番展開をガッチリ押さへる反面、山口先生戦二度目の回想では、犯されてゐた筈が何故か大絶賛和姦と化してゐる謎の過去も、疑問が解消されない梯子外し以前に、浜野佐知にしては激しくらしくない。百歩譲つて美代子が山口先生を受け容れるならば、そのことで山口が何かを失ふ描写が必要なのではあるまいか。となると、硬質の撮影に美人揃ひの三本柱が映える裸映画としての仕上がりに反比例して、劇映画的には直截にいはずとも覚束ない中、最大の見所はジョージ川崎(=栗原良=リョウ=相原涼二)がまさかの一言で正しく飛び込んで来るカットのインパクト。十八番の寝取られ亭主の座を杉本まことに譲りながら、流石の千両役者ぶりで自身の眉根とともに深い存在感を刻み込む。

 因みに今作、2004年新題が「ノーパン美人教師 恥づかしい性<くせ>癖」。当然といつては何だが、美代子は別にパンティを穿いてゐる。


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 「淫乱体験 体が溶けちやふ」(2001『女痴漢捜査官4 とろける下半身』の2014年旧作改題版/製作・配給:新東宝映画/監督:渡邊元嗣/脚本:波路遥/企画:福俵満/撮影:飯岡聖英/照明:小川満/編集:酒井正次/助監督:加藤義一/監督助手:下垣外純/撮影助手:田宮健彦/照明助手:深川寿幸/録音:シネキャビン/現像:東映化学/大人玩具・提供:《株》ウィズ/出演:美波輝海・風間今日子・林由美香・今野元志・十日市秀悦・田嶋謙一・螢雪次朗)。>シネキャの前に元永斉がスチール担当
 女痴漢捜査官の栗田久里子(美波)が、地下鉄車内にて今野元志の痴漢に被弾。一頻り攻めさせた上で、久里子が現行犯逮捕の手錠を取り出すと今野元志はリモコン状のガジェットで応戦、フル稼働を陰部に押しつけられた久里子は悶絶する。この一件で体の一部が麻痺、いはゆる不感症の後遺症を残しながらも現場復帰した久里子に、痴漢捜査課チーフの吉永純一(田嶋)は新たな任務を与へる。次期首相候補と噂される与党大物政治家・亀橋静太郎(十日市)の交際相手―亀橋は目下独身につき―水野恭子(風間)が、ストーカー被害に遭ふ。何故か恭子は警察への通報を拒み、総裁選を控へ事を大袈裟にしたくない亀橋の意向もあり、事件の捜査に際し隠密組織である痴漢捜査課に白羽の矢が立つたものだつた。イントロダクションに一段落ついたところで、スライド・プロジェクターの放つ光がフラッシュ・バックしてタイトル・イン。恭子の尾行を開始した久里子は、恭子が今野元志に襲はれる現場に遭遇。今野元志を撃退し、リモコン・ガジェットを入手する。装置の精巧さに注目した吉永は、保釈中の天才科学者にして超外科医・根久田判二羽留(螢)に捜査協力を求めるやう提案する。どちらがミイラなのか判らないトゥー・マッチ感は無視するとして、恭子の部屋を盗聴する久里子は、恭子と今野元志が、複数機現存するのか件のガジェットその名もビックリX―この辺りは貫禄のセンス・オブ・ナベ―を使用し強烈な情事に及んでゐることに混乱する。そんな久里子に治療と称した純然たる濡れ場を施しつつ、蛇の道は蛇方便の一点張りで、根久田はビックリXを開発したのは、共生病院に勤務する謎の神経外科医・朝雲あきら(今野)である情報を伝へる。
 全くの余談でしかないが今回の第三百四次「前田有楽旅情篇」は新版のジェット・ストリーム・アタックで、未感想作は一本もないのだが、為にする筆でなく本当にウルトラ・スーパー・ハイグレード・デラックス・ゴージャスな座席に生まれ変つた改装新生有楽を味はひたかつたのと、中身に殆ど触れてゐない前感想をいつそ全面的に書き直すかと、こんちこれまた遥々電車に揺られ木戸銭を落として来た次第である。全四作の女痴漢捜査官シリーズに止めを刺した一作、といふのが恐らく一致する衆目で、一度目の旧作改題当時に、小生もさういふ印象を大雑把に持つてゐた。ところが改めて冷静に観返してみたところ、案外満更でもない。主演女優の全方位的にプリミティブな破壊力に目を覆ふなり塞ぐなりするならば、確かにそこで話は終る。仰々しい名義に透けて見えるよくいへばポジティブな自意識は窺へるものの、美波輝海は然程美しくなければ特に輝きもせず、お芝居の方も辛うじて棒つきれではない程度。とはいへ風間今日子と林由美香、近代ピンクはおろか史上最強をも十二分に狙へる三番・五番コンビにおとなしくクライマックスを委ねる賢明な戦略が功を奏し、物語全体の要所はガッチリ締まる。久里子を弄ぶかのやうに、といふか現に弄びながら、根久田が日常と非日常の境界に揺さぶりをかける件も、女痴漢捜査官といふ設定自体を巧みに回収してみせ見応へがある。意図的に、ではなく何時も通りのナベシネマ水準である点はさて措き、チープでキャンプな見映えに一見失笑ものに見せて、オーラスのバッド・テイストは地味に容赦ない。となると、ナベシネマ・オブ・ナベシネマな娯楽活劇の第一作「女痴漢捜査官 お尻で勝負!」(1998/脚本:波路遥/主演:工藤翔子)。痴漢要素は薄いけれども正攻法サイコ・サスペンスの第二作「女痴漢捜査官2 バストで御用!」(1999/脚本:波路遥/主演:工藤翔子)に、m@stervision大哥大絶賛の第三作「女痴漢捜査官3 恥情のテクニック」(2000/脚本:武田浩介/主演:蒼生侑香里)。実は女痴漢捜査官は四打数四安打の、稀有なシリーズであつたといへるのではなからうか。

 ここでいい機会に、美波輝海の全六戦を振り返る。初陣は北沢幸雄の「股がる義母 息子の快感」(2001)で、第二戦が今作。翌年の最高傑作「美人姉妹の愛液」(2002)で短い実働期間を終へたものかと思はせて、五年後「特命シスター ねつとりエロ仕置き」(2007)に大貫あずさ名義で電撃復帰。以降も小山てるみと再び名義を変へ、「喪服の女 熟れ肌のめまひ」(2008)、「愛液ドールズ 悩殺いかせ上手」(2009)と二作に出演する。m@ster大哥はナベが匙を投げたが如く書かれておいでではあるが、これで意外と、美波輝海は渡邊元嗣に可愛がられてゐたのかも知れない。
 地味に容赦ないバッド・テイスト< あきらから切除したマンコを、亀橋の口唇部に移植


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 「新人女子社員 淫乱《秘》検診」(1993『新人OL 婦人科検診』の2014年旧作改題版/企画:セメントマッチ/製作:BREAK IN/提供:Xces Film/監督:池島ゆたか/脚本:五代響子/撮影:稲吉雅志/照明:井和手健/編集:酒井正次/スチール:津田一郎/助監督:高田宝重/監督助手:征木愛造/撮影助手:村川聡/照明助手:広瀬寛巳/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:川原みずき・杉原みさを・井上あんり・平賀勘一・杉本まこと・山本竜二・神戸顕一・池島ゆたか・山ノ手ぐり子、ほか若干名・伊東健太郎・獄門党)。出演者中、山ノ手ぐり子以降は本篇クレジットのみで、杉原みさをが、ポスターには杉原みさお。仮名遣ひ上は、本来“みさを”が正しい。
 サンライズ製薬の産業医、ではなく恐らく研究開発部門の一員・小山(平賀)が、新商品の被験者となつた女子社員の女陰を診察する。芳しくない成果に首を傾げた小山が、一転カメラ目線で御陽気に次の人間を呼び込んだところでタイトル・イン。開発主任の吉岡(山本)以下、サンライズの新宿研究所。同僚の彼氏・末永(杉本)との情事に際し、男根に塗るタイプの避妊薬「バース・コントロール・オイル」を試してみた新人OLの葉月あゆみ(川原)は発熱通り越してチンコが煙を噴いた―確かにそれなら精子も死なう―のに完全に閉口、要は社員をモルモットにするサンライズに半ば以上匙を投げる。対してあゆみ同期の西村佐知子(杉原)は、テレクラを介し会つても男に逃げられる自身の不美人を悩んでゐた。そんな中、サンライズはスプレー状避妊薬「ヴァギナコート」の開発に着手、その情報を聞きつけたライバル会社「ミヤコ製薬」の日下部(池島)は、男女の仲にもある部下・小林百合絵(井上)をサンライズに潜入させる。
 配役残り、手が出せるところから山ノ手ぐり子(=五代響子/現:五代暁子)は、サンライズの「ヴァギナコート」発売のニュースを伝へる、TVキャスター・小宮ではなく多分小峰か小峯。となると伊東健太郎が、何故かスタジオで盛り上がり小峰が尺八を吹き始める同じく久米?神戸顕一は佐知子のテレクラ劇中二戦目、必至に隠す首から上に何てエッチな顔なんだと惚れるタカシ。獄門党の皆さんには手も足も出せないが、声に裏切られたと待ち合はせた佐知子を振るタカシが、何故か白衣のあゆみと佐知子が試供品を配布する現場にも通りすがるのと、ディレクターが高田宝重で、ADは征木愛造(a.k.a.梶野考)のあゆみを起用したCM撮影現場にも更に若干名が見切れる、こちらは実スタッフの線が濃厚。問題は、妙に詳細な新日本公式には鈴木さおり・青木裕子・富田真澄が先輩OLとされるものの、そもそも頭数が一人多い。更には小山の診察室の看護婦は茂木澄子、赤池なるみと鈴木洋子がその他とされる。その他て何よ、さうなると今度は名前が余る。
 池島ゆたか1993年第一作にして、通算第七作。八ヶ月弱後の浜野佐知による「失神OL 婦人科検診2」(主演:西野美緒)と、今作との間にOLが検診を受ける以外―小山が婦人科医であるのかどうかすら疑はしい―に連関が一切全く一欠片も存在しない気軽か適当なナンバリングに関してはは、改めようと改めまいと触れるまでもなからう。サンライズ社内風土の底の抜け具合にさへ目を瞑れば、夢の新商品を巡るチン騒動は一時間の尺にキッカリ納まり、量産型娯楽映画としての仕上がりは抜群。但し首から下は超絶美麗なプロポーションを誇りつつ、隣に杉原みさをを従へてゐながら主演女優も主演女優で、逆の意味で綺麗にヒン曲がつた面相は間違つても美人ではない。それゆゑ何だかんだで悩みを抜け最終的には再起するあゆみの姿は若干輝きに欠け、寧ろ佐知子が目出度く寿退社に漕ぎつける件の方が鋭角のキャスティング込みで物語的な出来栄えも堅く、十全なハッピーエンドを成就する。


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 「姉妹どんぶり ‐味くらべ‐」(1994『強制わいせつ姉妹』の2001年旧作改題版/製作:キク・フィルム/提供:Xces Film/監督・脚本:小林悟/撮影:柳田友貴/照明:永井日出雄/編集:㈲フィルム・クラフト/助監督:国沢実/音楽:東京スクリーンサービス/スチール:佐藤初太郎/タイトル:ハセガワ・プロ/録音:シネキャビン/現像:東映化学《株》/出演:工藤ひとみ・吉行由美・草原すみれ・武藤樹一郎・白都翔一・樹かず・真央元・板垣有美・港雄一)。
 薮の中、逃げる女と追ふ男の下半身。白都翔一がノされ、ノボルさんに助けを求める女の叫びは届かない。よく判らないロケーションに逃げ込んだ倉石麻衣(工藤)が、目出し帽の二人組(樹かずと真央元)に犯される、オッパイのアップにタイトル・イン。何かを轢いた白いワーゲンから降りた太田(武藤)が、片方のヒールを拾ひ首を傾げたところで哀願する麻衣の悲鳴。完全に犯された後に大丈夫ですかとのこのこ飛び込んだ太田は、兎も角麻衣を保護。倉石家のお屋敷まで送り、名刺を渡し別れる。泣きながら麻衣が風呂で体を洗つてゐると、「麻衣、誰かに乱暴されたんですつて?」と豪快な第一声を投げ何故かレイプ事件のことを知つてゐる義姉(吉行)が浴室に入つて来る。だから乱暴されたばかりだといふのに、吉行由美は後妻の連れ子である麻衣に対し背中流せだ洗へだと高圧的な暴虐三昧。遂に堪へかねた麻衣は、乳も放り出したまま大喧嘩。その後家を出た麻衣を倉石家の多分執事・三枝ノボル(白都)は案ずる一方、吉行由美はお手伝ひの民(板垣)には、戻つて来たとしても家には入れるなと厳命する。ところで当の麻衣はといふと、名刺に自宅の住所とは自営業なのか、太田宅に転がり込み、何でもするから置いて下さいとサクサク膳を据ゑる。
 配役残り、石川恵美のアテレコの草原すみれ(a.k.a.西野奈々美)は、太田が金を借りる平林(港)をパトロンにする女。純然たる三番手絡み要員ながら、順に武藤樹一郎戦と港雄一戦、コッテリ濃厚な二戦を披露する。小林悟夫人の店「RiZ」の表にて、太田が―恐らく麻衣のソープの給料を―三ヶ月分前借りする長身のグラサンは勿論国沢実、アフレコも当人。
 死後小屋でお目にかゝる機会はめつきり減つてしまつた大御大・小林悟の映画を、特にどれをといふこともなくダウンロードしてみる。何はともあれ観るなり見ないことには始まらない以上、それもひとつの、DMMでピンク映画を見る上での醍醐味といへるのではなからうか。とはいふものの、田舎の屋敷―DMMのストーリー紹介には麻衣が襲はれたのは千曲川のほとりとあるのだが、ホントか?―に居場所をなくしたヒロインが頼つた東京の男は、紳士でも王子様でもなく、女を金で転がすオッサンのスケコマシであつた。そもそも二枚目でなければ若くすらない太田相手に、「助けて頂いた貴方に、私の人生も差し上げます」とまで闇雲に突つ込む麻衣がジュスティーヌばりに泡風呂に沈む展開は、腰の据わつた小林悟一流のドライな世界観といへる―やうな気がする―反面、豪快にスッ飛ぶ脈略もある意味安定はしてゐるけれでも別に信頼は出来ないしする必要もあるまい何時もの御大仕事。寧ろ―らしからぬほど十全にフラグを投げた―義姉の悪事が報はれるのは、吉行由美の本格的な濡れ場といふジャンル上最も肝心な要請をあへてさて措くならば、悪徳が栄えない不徹底と思へなくもない。尤も、オッパイでジェット・ストリーム・アタックが撃てる超絶強力な三本柱を擁し、裸映画的には完全に充実する。麻衣と三枝が結ばれ、ひとまづ物語が完結してゐる分、度肝を抜かれるほど放置した工藤ひとみの前御大戦「女子大生 奴隷志願」(1991)よりはマシかと思ひかけて、矢張りそこに至る段取りはズッタズタであるのだから、大差はないなと考へ直した。


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 「乱交の門 むさぼり調教」(2014/製作:多呂プロ/提供:オーピー映画/監督・脚本・出演:荒木太郎/撮影・照明:飯岡聖英/編集:酒井正次/音楽:宮川透/撮影助手:海津真也・伊藤尚樹/助監督:三上紗恵子・増田秀郎・光永淳《じゅん》/タイミング:安斎公一/出演:花穂・愛田奈々・海老名まゆ・淡島小鞠・津田篤・久保田泰也・太田始・那波隆史・稲葉良子)。ポスターにある協力の花道プロとロケサポートのMAiZUと更に出演者の西村晋也が、本篇クレジットには載らない。
 結構おつまみも拡げてる割に腹ぺこだといふ夫(西村)に急かされ、管マヤ(花穂)が食事の支度をする。一旦居間のテーブル上の雑誌を片付けるかとしたマヤは、『THE BIG ISSOW』誌の野垂れ死んだアル中の記事に目を留める。煮立つ鍋、クレジットが先行し俎板の両面にタイトル・イン。てことは作中現代時制は近未来なのか、五年前、詳細は軽やかにスッ飛ばし3.11に関連して恋人を喪つたマヤは、全てを失ふ。声だけ聞かせる大家(三上紗恵子)に追ひ出され相模原の地でホームレスとなつたマヤを、興奮すると鋏で自らの頭髪を切るギミックがドラゴン気取りなチンピラ(荒木)率ゐる愚連隊が犯す。辛うじて逃げ出したマヤはボンバーズ(凄え仮称)に追ひ詰められるも、聖子=せい(稲葉)をリーダーとする、安井花江=六(淡島小鞠/脱ぎはしない)・乾美乃(愛田)・菊島真知子(海老名)ら地産地消売春グループに匿はれる。そんなある日、掟を破り生島(津田)と金を取らないセックスをしてゐるらしき美乃に六とマヤが猜疑を募らせてゐると、泥酔した伊吹新太郎(那波)が限りなく入水に近い勢ひで川に落ち、一味のアジトに担ぎ込まれる。
 配役残り、アジトに文字通り飛び込んで来る久保田泰也は、真知子を喰はうとして返り討たれる客。一人だけクレジットが手書きで添へられる形の太田始は、状況が全く未整理なのだが放逐後の美乃と再会―ここのロケーションがMAiZU?―し寝る伊吹を、半殺しにする男。それと六がほぼ常時抱くなり連れてゐる子供は、今や首が据わり、二足自立も可能、その内台詞を喋りだすぞ。忘れてた、アジトに出入りする三河屋は広瀬寛巳。描写は割愛し六に尺八を吹いて貰ふ、金は取られようが。
 2014年作九州初着弾は、正月第二段の荒木太郎第一作。『肉体の門』なのかそれとも『堕落論』なのか、はたまたその何れでもないのかな始終は兎も角、開巻とラストで五年間の回想を挿む構成―くらゐ―はビシャリと決まる。それだけに、口跡も佇まひも何もかも同じく新顔の三番手に劣る、精々杉原みさおの現代風リファイン程度の主演女優が最大の大穴。ここに美泉咲がゐたならばと思ふと、重ね重ね惜しいところではある。何度観ても正直映画向きには思へない稲葉良子の、誰よりも筋骨隆々とした二の腕の衝撃はさて措き、もうひとつ気になつたのは、2011年以降殊更に顕著な、箇条書き風の不用意な時代性。荒木太郎の気持ちは酌める程度の時事意識は、線の細い叙情性にせよ脆弱な物語の構築力の上でも劇中世界の中で決して実を結ぶものではなければ根を張るでもなく、所詮は余計か薮蛇な意匠に過ぎまい。となると一昔前は世間の片隅を風靡した、荒木調ならぬ荒木臭―だから濡れ場を早送るな、アホか―の、両義的に現代的な展開ともいへるのではなからうか。

 それと今作に始まつた話でもないのだが、覚束ない本篇を易々と凌駕する宮川透の劇伴は、荒木太郎にとつては諸刃の剣でしかないやうに聞こえる、負けてどうする。


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 「痴漢電車 柔らかい肌」(1990/企画・製作:《株》メディアトップ/配給:新東宝映画/監督:鈴木敬晴/撮影:稲吉雅志・青木勝広・伊東伸久/照明:佐久間優・大塚俊彦/助監督:近藤亮一・増村広/音楽:山田紋次郎/編集:酒井正次/録音:銀座サウンド/効果:東京効果/現像:東映化学/スチール:木島保夫/制作:山本洋司/出演:滝沢薔・伊藤舞・江藤保徳・中根徹・田代葉子・杉下なおみ・石田琴・伊藤清美・下元史郎)。巨大なモザイクから察するにビデオ版のタイトルには、頭に滝沢薔を冠する。そして鈴木敬晴の筈の、脚本クレジットが抜けてゐる。
 駅のホームでスーツ姿の江藤保徳がおめかし、大学六回生にして漸く就職活動中の岡本保夫(江藤)は、混み合ふ車中密着した女の色香に通勤ラッシュを満喫する。電車が揺れた弾みで、ノースリーブの女の腋に鼻を突つ込んだ保夫がほくそ笑んでタイトル・イン。保夫は就活もスッぽかしついて行つた滝沢薔に痴漢、一方何かマスコミ勤務の大久保課長(下元)も、背中合はせの同社アルバイト受付嬢・陽子(伊藤)に痴漢する。そんなザマでは当然就職戦線は難航する中、保夫の部屋を従兄でエリート銀行員の佐々木銀二(中根)が本当に強襲。取引先の社長の娘との結婚話が持ち上がつただとかで、同居する同僚の恋人・めぐみ(滝沢)を保夫に押しつける。そこに現れた保夫の彼女である陽子は当然難色を示すものの、銀ちやん銀ちやんと頑なに銀二を慕ふ保夫は、一向に聞き入れない。
 配役残り、伊藤清美が件の社長令嬢・美代。箱には蓋がなかつたのか、見合の席から連れ込みに直行する。田代葉子は電車痴漢を仕掛けた保夫を捕獲し痴女行為を愉しんだ上で、面接会場にて再会する女、ラストでは銀二と対戦する。元々初見の名前の石田琴にせよ杉下なおみにせよ、その人と判明する形で抜くカットが存在しない為、二人とも―開巻の腋嬢やラストの大久保のお相手含め―特定不能。
 さて鈴木敬晴(ex.鈴木ハル)1990年第二作にして、鈴木敬晴名義第一作。保夫にめぐみを押しつけた銀二は美代との縁談に野心を燃やし、めぐみの登場に臍を曲げた陽子に、大久保が食指を伸ばす。三対三デフォルトの布陣が上手い具合に交錯する枠組はよく出来たものながら、最終的な結果は然程でもなく芳しくはない。清々しいまでの愛の嵐が微笑ましいプレイ自体は素晴らしい出来ゆゑさて措き、保夫がおとなしくめぐみを引き受けたことに荒れ、泥酔した陽子を大久保が回収する件の脈略は完全にスッ飛び、中盤の頭で―そもそも、その人と知らず大久保が陽子に痴漢する辺りからへべれけなのだが―ひとまづ物語の底が抜ける。軟派な保夫とギャーギャー高圧的な銀二、加へて大久保は妙に不安定とあつては、魅力を欠いた男優部の造形は総崩れ。何より致命傷は、滝沢薔と伊藤舞のポテンシャルの大差が、保夫が―何故か―めぐみに心を移すところから展開を全く支へきれてゐない。それぞれが一応それぞれの道を進む結末、処遇に窮した登場人物はアメリカに放り込んでしまへといふダサさは、時代を鑑みると百万歩譲れば呑み込めなくもないとしても、中途半端に映画を愛したオーラスには失笑なり苦笑を禁じ得ない。鈴木敬晴の多種多様の整理を試みる上では、「昼濡らす人妻」と同様の面白くなささへ平板な一作である。


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 「さかり猫三姉妹」(1991/企画:サン企画/製作:Gプロダクション/配給:大蔵映画/監督:市村譲/脚本:夢野春雄/撮影:立花次郎/撮影助手:余郷勇治/照明:隅田照明/照明助手:渡辺登/スチール撮影:最上義昌/音楽:東京スクリーンサービス/効果:サウンドBOX/録音:銀座サウンド《株》/編集:井上和夫/助監督:国沢実/現像:東映化工/出演:風間ひとみ・中川みず穂・山岸めぐみ・えりこ・JASON ANTONIO・野澤明弘・吉沢正二・中田太・竜仁)。照明の隅田照明は、隅田浩行の変名か。
 タイトル開巻、飛行機の画とオープニングにクレジット。成田近辺、車を停め自販機でジュースを買ふ一応派手な外国人ボルガリーノことボルガ(JASON ANTONIO)と、バス停でバスを待つ中条か中條ひとみ(風間)がミーツ。銀座への道を尋ねられた―また随分と雲を掴む話だな―ひとみは、すは交通費が浮かせると気軽に車に同乗。とはいへ幹線道路にすら辿り着けずに道に迷つた二人は、暗くて全然見えないカーセックス挿んでラブホテルに。事後、ホテル代を五万ばかり妹に持つて来させるかと、番号を受け取つたボルガからの電話を受けた三姉妹の三女・夢美(山岸)は、片言の遣り取りを何故か誘拐されたひとみの身代金に五百万と豪快に勘違ひ。次女・希か望(中川)は然程深刻に受け止めるでもなく、以前より付き合ひのある私立探偵・山田ダイスケ(野澤)を頼る。
 配役残り、四番手であることと無造作な名義の割には濡れ場が十二分に尺を喰ふえりこは、山田の彼女、兼探偵事務所のアシスタント。吉沢正二・中田太・竜仁は、夕暮れ時ぽい暗いロングで人数を確認するのが精一杯の三人組、内一人だけ発する声は国沢実。
 何か市村譲を見るかと、サムネに見切れる野澤明弘目当てで選んでみた1991年全八作中第六作。したところが、まあ漫然としたとでもしかいひやうのない果てしなく捉へ処のない一作。一体何しに日本に来たのか三姉妹丼は完成したボルガは、ランダムにブラブラした末に予定されてゐた―らしい―取引をスッぽかしコロンビアには戻らずにアメリカに渡る。同じ便に搭乗する、職業がスチュワーデスであることがラストで出し抜けに明らかとなるひとみが、前後の飛行機カットは昼間なのにセット撮影の機内は暗い無頓着なちぐはぐさの中、ボルガに機内食のデコイを出しからかつて―挙句にそれは希発案―終り、しかも尺は二分強余して。酔つ払つてゐるのかラリッてるのか、劇中最強の美人が勿体ない希のへべれけな造形。文字通りの薮蛇感だけ残す、中条三姉妹に三百万を呉れてやつたとかいふ伊集院様とやら。ひとみと希は何となく兎も角、希の金を胡麻の灰したボルガと、夢美がスナック綾で待ち合はせる完全にスッ飛ばした脈略。ボルガ以前に、市村譲が今作を通して何を描きたかつたのかサッパリ判らない。一切のテーマ性は排し、劇映画風な最低限の体裁はギリギリ何とか辛うじて整へる、整つてないかも知れないけど。無作為と作為のスレスレの境界を危ふく駆け抜ける、案外スリリングな映画術に思へなくもないやうな気がしないでもないとはいへ、如何せん現状市村譲の映画を何十本とこなすことは不可能ゆゑ、如何とも漠然と煙に巻かれるほかはない。といふかより直截には、どうやら俳優部出身の人みたいだが、どうしてこんな市村譲が十五年百本強―jmdbに記載のある活動期間は昭和55~1995―もローテーションを守つて来れたのかとの素朴だか大雑把な疑問も禁じ得ない。量産型娯楽映画が現に量産されてゐた麗しき時代の、巨大なる幹の一部―より正確には枝葉―と思へば興を覚えぬでもないものの。


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 「女警備員 まさぐり巡回」(2013/製作:フリーク・アウト/提供:オーピー映画/監督:国沢☆実/脚本:内藤忠司/撮影・照明:佐久間栄一/スチール:本田あきら/編集:有馬潜/助監督:オガワ兄弟/監督助手:名倉健朗/撮影助手:今村互/撮影助手:鈴木聡介/音響効果:梅沢身知子/録音:シネキャビン/協力:広瀬寛巳/現像:東映ラボ・テック/護身術指導:杉山尚弥《東京セーフガード》/出演:織田真子・あいださくら・中島京子・奈良京蔵・村田頼俊・山科薫・内藤忠司・下元史朗)。国沢実の星が、今回赤く着色されてゐる。
 女警備員の先輩・後輩、黒帯の片平由貴(織田)が青帯の牧野香織(あいだ)に護身術の稽古をつける。投げられた香織が、寝たまゝ押忍と応へてタイトル・イン。身体能力が間違はうと間違ふまいと高さうには全ッ然見えない二人を捕まへて、出来ないことはよせばいのに。それをいつては始まらないが、結果的にも始まらなかつた。
 由貴が香織の罪を犯した者への甘さを戒めつつ、香織の勤務地は、多分遊園地「三鷹フリーパーク」から由貴と同じ城南ビルに。実は暴力団との癒着で前職の警察官を辞めた過去を持つ警備主任の浜田勲(下元)が、香織をポップなセクハラで迎へる。城南ビルの三階には、かつて“女子社員に見境なく手をつける色情狂”の社長(山科)に手篭めにされたOL(被せられたパンティで巧みに顔を隠した織田真子の二役)が事の最中顔面に大怪我を負ひ、その後自殺。以来女の幽霊が出るとか出ないだとかいふ、立入禁止の開かずの間があつた。一方四階の大蔵商事(株)、社長の黒崎(内藤)が定時でそゝくさと逃げるやうに退社したオフィスにて、石森美佐(中島)と課長の杉下敬一(村田)が情事に戯れる。ところが、人の気配―城南ビルは残業で社内に留まる場合には、警備員に残業届を提出するだなどと非現実的に面倒臭い仕来り―に巡回中の浜田以下由貴・香織が訪ねた大蔵商事に美佐と杉下の姿はなく、浜田は顔を見知つた、借金の取立てに乗り込んだ桜井会の風間五郎(奈良)がゐた。因みに桜井とは、オーピー映画のPの名前。
 国沢実の2013年第二作は、遠軽太朗の「ミニスカ警備員 濡れる太股」(1998/主演:神崎紀夏)と渡邊元嗣の「派遣OL 深夜の不倫」(2000/主演:黒田詩織)くらゐしか、探してみても案外見当たらない女警備員ピンク。それはそれとして、前作にして木端微塵の壊滅作「家庭教師 いんび誘惑レッスン」(主演:早乙女らぶ)に引き続き―正確には、更にその前の「SEXカウンセラー 変態ゑぐり療法」(2012/主演:杉山えりな/ところで三作全て脚本は内藤忠司)より―国沢実は絶不調らしく、お話が体を成してゐるだけこれでもまだマシな部類なのか清々しく面白くも何ッともない。「をんな浮世絵師」(2012/監督・脚本:藤原健一)のことなど最早全く忘れてしまへといはんばかりに、綺麗に足並揃へる織田真子とあいださくらの心許なさに開巻から順調に失速。編集の所以なのかも知れないが、タイトル明けの百合はまた何でこんなにテンポが悪いのか、一体国沢実は何年監督だ。「したがるかあさん 若い肌の火照り」(2008/監督:堀禎一/脚本:佐藤稔/主演:かなと沙奈)以来のピンク出演、多分大蔵時代含めてオーピー初陣の筈の下元史朗―あれ、史朗に改名したんでないの?―にはこれといつてイイ場面が与へられず、ギアは終始ニュートラルに入りぱなし。何気に結構なキャリアの割に村田頼俊には目立つた変化が全く窺へず、劇団玉の湯から銀幕参戦の奈良京蔵は田中康文を縦方向に引き伸ばした感じのルックスとスタイルは悪くない反面、筋者の凄味からは程遠く、頻繁に強ひられる薄つぺらいせゝら笑ひはなほさら考へもの。国沢組は初ながらこの上ないハマリ役を得て一人気を吐く山科薫と、刹那的にフレームを通り過ぎる内藤忠司は所詮本筋には絡まない中、となると三番手が消去法的に最も安定してゐるといふ脆弱な布陣は甚だ如何なものか。因縁含みの密室風味のビルに、残されたのはアウトロー寄りの警備員と二人の女警備員に不倫カップルとヤクザ、にもう一者ゐるのだかゐないのだか。舞台はそれなりに整へられるものの、俳優部の不備を補ふどころかさして転がりもしなければてんで弾まない。せめて、せめてボガンボガンと威圧的に悩ましい織田真子のオッパイは食傷するほどに見せて欲しいところが、最後なのか最初以前なのかよく判らない切札さへも物足りない。一件を落着させる段には、新人&先輩コンビによるバディもの的に十全な手堅さが光るとはいへ、お盆に少し遅れた怪談映画風のオーラスは、取つてつけられた感が始終の消化不良を加速する、あるいは火に油を注ぐ。
 備忘録< クライマックスは、香織が由貴から教示された厳罰主義を由貴に適用


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