真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「弱腰OL 控へめな腰使ひ」(2016/制作:Blue Forest Film/提供:オーピー映画/監督:竹洞哲也/脚本:当方ボーカル/撮影監督:創優和/録音:山口勉/編集:有馬潜/音楽:與語一平/整音:高島良太/助監督:小関裕次郎/監督助手:左夏子/撮影助手:高橋草太/スチール:阿部真也/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:辰巳ゆい・しじみ・加藤ツバキ・和田光沙・山本宗介・吉田俊大・橘秀樹・森羅万象・那波隆史)。
 日没の地方都市のロングに、「昼とはガラリと変る、夜の街の景色が好きだ」と辰巳ゆいのクレジット起動。変りたいだ変れないだの独り言ちつつ、ヘッドフォンを装着した辰巳ゆいはもどかしい現実を忘れさせてくれるとの夜の街を歩き、山本宗介の車の助手席には、後述する日出美とは逆コースで一旦帰郷と再上京を経ての、加藤義一の監督デビュー十周年記念作「どスケベ検査 ナース爆乳責め」(2012/脚本:小松公典/主演:あずみ恋・Hitomi)以来、脱ぎありの三本柱としてだとその前作、渡邊元嗣2011年第五作「エッチ指南 はだける赤襦袢」(脚本:山崎浩治/主演:眞木あずさ)以来のピンク帰還となるしじみ(ex.持田茜)。山本宗介がカーステをつけるとポップで力強いエレクトロが鳴り始め、加藤ツバキはラブホにて吉田俊大と逢瀬を交す。ホッつき歩く辰巳ゆいが、ネチャッと踏んだ汚物に上下からタイトル・イン。シュッとした開巻に、この時はまさかこんなことにならうとは。
 仕事に没頭する部数を漸減させるタウン誌『大里CLiPS』の編集員・布野桐子(辰巳)に、編集長の野田佳代(和田)は原日出美が又ぞろ取材先の男と関係を持つたとのクレームに頭を抱へる。当の日出美(しじみ)は桐子を前に欠片も悪びれるでなく、取材で知り合つた板前・熊野真人(山本)と二度目に寝る。人妻の大須木乃美(加藤)は同窓会で再会した雲井亘(吉田)と不倫を重ね、日出美とは対照的に、浮いた話のまるで聞こえて来ない桐子は日出美に薦められた昼間しか飲めない美味しいコーヒーを飲みに行つた喫茶店で、ナポリタンを常食する早期退職した元教師・鮫川陽介(那波)と出会ふ。
 配役残り森羅万象は、最後まで首から上は抜かないつもりかと気を持たせた茶店のマスター。肝心要の土壇場でのフェイス・オープンは、確かにか僅かに有効。この人の場合茶店のマスターよりも、定食屋の大将の方が数兆倍しつくり来るやうな気がする些末は、我ながらどうでもいい。橘秀樹は桐子にトラウマを残す、望まぬ性行為を強要した高校生時代の彼氏。辰巳ゆいが現在の桐子の弱腰OLぶりを綺麗に形にしてゐる以上、幾ら絡みの種とはいへ蛇足気味のエピソードといふ以前に、ウルトラ大人の女であるにも関らずおさげ×セーラー服で武装した辰巳ゆいの何気な破壊力。多分昼間はゐない茶店のウエイトレスは、演出部動員で左夏子か、おいとしか配偶者を呼ばない木乃美夫の声の主は不明。
 東京ではOPP+の上映が終了した翌日といふタイミングで我等が前田有楽に着弾した、竹洞哲也2016年最多第五作。予告を見た限りでは、三者三様の恋愛模様が2015年第六作「恋人百景 フラれてフつて、また濡れて」(脚本:当方ボーカル/主演:友田彩也香・樹花凜・加藤ツバキ)で到達した深く大きな視座に辿り着くものかと、思ひきや。木乃美はビリング頭二人と劇中掠りもしないのに加へ、桐子と日出美の傍らを、それぞれ男が通り過ぎて行くだけの何も起こらなければ変りもしない、それどころかそもそも変りたい気配さへ殆ど窺はせない展開には、トムとジェリーの如くあんぐり開いた口の顎が接地した。鼻につく那波隆史のウェットな惰弱さと筆卸男優部の軽薄さを除けば一幕一幕の完成度は決して低くなく、まさかよもや主演女優の濡れ場を見せない一大横紙破りをやつてのけるのではあるまいなと、逆の意味でのスリリングは尺が押し迫るにつれ猛然と加速しはするものの、思はせぶりなばかりで、結局何ッにもない何ッでもないスッカラカーン具合には唖然とした。一本の劇映画として成立してゐるのか否かから甚だ疑問なレベルで、起承転結を木端微塵に粉砕する箍の外れたルーチンが、前衛性の領域にさへ突入しかねない御大映画でも観てゐた方が全然マシ。どうやら、OPP+版では如何程かは知らぬがその辺りも補完されてあるやうだが、だから何度でも繰り返す

 知るか

 ピンク映画の新時代を切り拓かうとする―あるいはより直截には延命―問題意識とそれなりの戦果も上げてゐさうな営み自体は兎も角、それで旧来の小屋に木戸銭を落とした客を蔑ろにして済ますのだとしたら、本末転倒の名にすら値しない。となると改めて脳裏を過るのは、ピンクと、女の裸をオミットして代りに素のドラマを上乗せした一般映画とを一発で二本撮りする方法論に於いて先行した上に、出来上がつたデジエクでは何時も通りに何時も通りの筋を通してゐるのに対し、山﨑邦紀が好き勝手し倒した一般映画版を逆に自分の映画ではないとまで時に口滑らせる、浜野佐知のジャスティス感も迸る稀有な離れ業。


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 「人妻不倫 わなゝく」(1993『好色不倫妻 吸ひ尽くす!』の2000年旧作改題版/製作:旦々舎/提供:Xces Film/監督:浜野佐知/脚本:山崎邦紀/撮影:稲吉雅志・郷田有/照明:秋山和夫・上妻敏厚/音楽:藪中博章/編集:㈲フィルム・クラフト/助監督:女池充/制作:鈴木静夫/ヘアメイク:斎藤秀子/スチール:佐藤初太郎/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東映化学/出演:沢口梨々子・新島えりか・早乙女じゅん・樹かず・石神一・杉本まこと)。
 張形に尺八略して張尺開巻、俳優部が先行するクレジット起動、射精を口で受けタイトル・イン。団地外景に、スタッフのクレジットが改めて追走する。颯爽とチャリンコを転がすヒロイン挿んで、炭火やきとり「駅」の経堂店。雨宮悟郎(杉本)が大学の同期で今は同じ団地住まひのイザキ(石神)に、部下との不倫の武勇伝。帰宅した雨宮は、妻の涼子(沢口)と何はともあれな勢ひで夫婦生活。構図もあり最初に目を引いたのは箆棒な尻の美しさであつたが、オッパイも蕩けさうに大きく、かといつてウエストはキュッと締り、若干垢抜けないか否かルックスに関しては意見の相違が存在するやも知れないが、沢口梨々子のプロポーションがあまりにも超絶。ただでさへコッテリ濃厚な旦々舎の濡れ場が、なほ一層極上なものにまでグレードを上げる至福の眼福。沢口梨々子のピンク出演が今作限りなのは重ね重ねか逆に惜しいともいへ、ここはひとまづ、エクセスライクの数撃つ鉄砲が当たつた類稀な僥倖をおとなしく言祝ぎたい。翌日、バスで出勤する雨宮は、雨宮が乗るバスから降りて来た牧田真次(樹)と交錯する。樹かずのダッブダブに体のサイズに合はない大きさのスーツに、「やめてーッ><」と頭を抱へたい気持ちになる、別に俺が着させられてゐる訳でもないのに。
 配役残り整理すると林田ちなみa.k.a.本城未織がex.新島えりかとなる新島えりかは、この人が件の雨宮部下兼不倫相手・喜多川潤子、オフィスにもう一人背中だけ見切れる男は女池充?一回明確にカメラの方を向く粗相を仕出かす早乙女じゅんは、イザキの細君。

 残弾数、ゼロ

 浜野佐知は今も頑強に現役でほぼ間違ひなく元号を跨いでも新作を撮り続け、悲願の二人目となるハンドレッドは既に通過済みながら、バラ売り含めてもDMMの中に未見の旧作はなくなつた―と思ふ、へべれけなタグづけに守られて何処かに潜り込んでゐなければ―1993年第九作。
 絶対的な主演女優を擁した裸映画は、二三番手も手堅く、圧倒的な安定感を誇る。それにも増して注目すべきは、昼間の雨宮家が、雨宮が何度電話をかけてみても涼子は不在。その頃日々チャリンコで出撃する涼子はといふと、深夜ビデオ屋の店長で朝方帰宅する牧田の家で、妻・良子として過ごしてゐた。昭和の風情を残し、隋分古めかして見える割には僅か三年前でもある、「団地妻 恵子のいんらん性生活」(主演:白木麻弥)に続く二重生活もの―「恵子のいんらん性生活」から更に先行する映画の存否に関しては知らん―となる歴史的、あるいは二番煎じぶりが量産型娯楽映画的なトピックには、このタイミングで出会ふかといふ個人的偶さかな感興込みで驚いた。涼子の相談に訪れた雨宮を牧田は素直に家に上げ、牧田家にて三者が鉢合はせる大修羅場が尺の中盤終り。全ての成員が平等といふ美名の下で、しばしば画一化されるに至りがちな近代の逆説に直面した、恵子のある意味アクティブ過ぎる諦観を撃ち抜きつつ、あへていふならばその限りに止(とど)まつた「恵子のいんらん性生活」に対し、果たして今作は派手に広がり散らした風呂敷を、如何に畳んでみせるものかと固唾を呑んで、ゐたところ。脊髄反射的に激昂する雨宮と、惰弱に涼子もとい良子に依存する牧田を前に、涼子―雨宮とは法律婚を成立させてゐるゆゑ、涼子が戸籍名の筈―はといふと何れとの生活を選ぶか「アタシには決められない」とまさかの主体性放棄。劇中唯一アクティブな雨宮も打つ手に窮し、結局そのまゝ巴戦的な濡れ場で堂々と逃げてみせる結末は、転部で起承転結を放り投げた豪快さといふよりは、寧ろ如何にもエクセスらしい、女の裸に徹した清々しさが際立つ。全く同じ話にも関らず、新東宝とエクセスとで見事に好対照な展開を見せるのがなほ一層興味深い一作。何時か何処かで、並べた番組組んだ小屋とかないのかな。


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 「ルナの告白 私に群がつた男たち」(昭和51/製作:日活株式会社/監督:小原宏裕/脚本:佐治乾/プロデューサー:岡田裕/撮影:前田米造/照明:信田宏安/録音:神保小四郎/美術:坂口武玄/編集:井上親弥/音楽:樋口康雄/助監督:斉藤信幸/色彩計測:鈴木耕一/現像:東洋現像所/製作担当者:山本勉/出演:高村ルナ・珠瑠美・中丸信・湯沢勉・高橋明・丘奈保美・井上博一・結城マミ・鶴岡修・やかた和彦・清水国雄・佐藤了一・賀川修嗣・池田誉・影山英俊・朝霞マリ・日夏レイ・ダーナワルシー・広世克則/証言:須藤甚一郎《ルポライター》)。出演者中、鶴岡修と清水国雄から影山英俊に、広世克則は本篇クレジットのみ、須藤甚一郎も。クレジットはスッ飛ばす配給に関しては、事実上“提供:Xces Film”。
 意表を突く―当時―雑誌記者の須藤甚一郎ヒムセルフ登場、昭和四十年代後半のハーフタレント流行の背景を適当に概説した上で、“この映画はフィクションであり実在の人物・事件等とは一切関係ありません”なる、心にもないどころかんな訳あるかなお断りクレジット。大わらわなハーフタレント専門の芸能プロダクションの様子噛ませて、ゴールデン・ハーフの皆さん(朝霞マリと日夏レイとダーナワルシーがその他三人)が本番終了。声をかけられ(相手の男が誰なのか不明)サクサクついて行つた高村ルナ(大絶賛ハーセルフ)が、ホテルの駐車場で今でいふパパラッチされるストップモーションが鮮烈なタイトル・イン。クレジット明けの大役を果たすのは、こちらも予想外のバイプレイヤー部・佐藤了一。スナック店主(佐藤)のこれまた在り来たりな、簡単に片付けると「港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ」風のルナに関する証言が火蓋を切る、デビュー前の横田時代。母・昭子(珠)と情夫・笹本(高橋)の、肉の饐ゑた匂ひが本当にスクリーン越しにも届いて来さうな関係に辟易するルナは、ゴーゴー喫茶にて全員ハーフのアイドルグループ結成を目論む、芸能マネージャーの上条英男(湯沢)に声をかけられる。この一幕、何処の馬の骨とも知れないイモ臭いバンドが「君だけに愛を」を爆音で鳴らし、照明がバッシバシ点滅するてんかん―発作を誘発しかねない―描写が火を噴くゴーゴー喫茶。クールビューティーを気怠く燻らせるルナと、金ピカのスカジャン姿で原石を探す上条がミーツするシークエンスが、圧倒的にサイケで信じられないくらゐカッコいい。
 配役残り丘奈保美は、上条が転がり込ませたルナに、難色を示す上条の女房・加根子。これ見よがしに出て来た割に、別に高村ルナと絡みもしない中丸信は、歌手の森田健一。この辺り、モデルがゐるのかゐないのか、そんな昔の芸能事情は潔く知らん、後述する松坂あきらは松方弘樹ぽいけど。鶴岡修と結城マミは、森田のマネージャー・丸谷昌一と、丸谷が上条に紹介する新人歌手・石野あゆ子。結城マミの濡れ場は、森田に喰はれる。井上博一は、ルナに接触する芸能記者・山口重信、森田には気をつけろとか忠告しながらルナと寝る、ゲスさが堪らない役。清水国雄は、ルナがうつゝを抜かし仕事にも穴を開けるバンドマン・栗田ジロー。やかた和彦は、オープンカーでルナの秘裂に怪しげなクスリを塗り込む荒業を爆裂させる、映画俳優・松坂あきら。どうでもよかないのが、大半の男優部が馬鹿デカいグラサンをかけてゐて、誰が誰やら清々しく判らん。賀川修嗣は泥酔し路上でゲボゲボ吐き始めた昭子を、保護する制服警察官。影山英俊は、結婚を望んだ松坂が社長令嬢との婚約を発表し、失意のルナを抱くヘヤーデザイナーのダン・影山。その他視認出来たのは、笹本に五百万を騙し取られた珠瑠美が、雀荘に乗り込むどうしやうもない修羅場。マージャンの面子に、庄司三郎が見切れる。クレジット組では池田誉と広世克則が遂に特定不能のまゝ残されるが、これ広世克則といふのは、近年レジェンド組の広世克則とは同姓同名?同一人物であるならば子役でもないと齢が全然合はない。
 実家がマネージャーに二億円詐取される、三億ならぬ二億円事件とやらで当時巷間を騒がせた大原みどり(現:大原未登里)が中盤、一切何にも本当に一欠片の脈略もなく大実名で出し抜けに飛び込んで来もする、小原宏裕昭和51年第二作。スキャンダラスの賞味も遥かとうの昔に切れたこの期にともなつては、公開当時の二年前に解散したex.ゴールデン・ハーフの高村ルナに、確かに男供が群がるばかりの実も蓋もない物語といふほどでもない物語を、珠瑠美が辛気臭く味つけ。挙句に影山英俊がダン・影山だとか作為を欠いた役名で出て来るに及んで、開き直るかの如く力の抜けるギャグに堕した、端から時代を超える気もない生臭い一作かと思ひきや。括らせた高を粉微塵に粉砕する、よもやまさかのメタなラストには驚かされた。馬鹿にならないロマポの懐の深さに、完敗を認めるほかはない。

 以下は再見に際しての付記< 須藤甚一郎に続いての本篇ど頭に、コミタマが飛び込んで来る。あと、森田健一をルナに紹介するのが近江大介。
 まさかのメタラスト< 松坂父口利きの京都の仕事で、小原宏裕も出撃しての実録映画撮影開始


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 「愛人名器 ‐奥までイボイボ‐」(1998/製作:サカエ企画/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:岡輝男/企画:稲山悌二《エクセス》/撮影:千葉幸男/照明:高原賢一/編集:酒井正次/助監督:加藤義一/音楽:レインボー・サウンド/監督助手:北村隆/撮影助手:弁田一郎/照明助手:大橋陽一郎/効果:中村半次郎/録音:シネ・キャビン/現像:東映化学/出演:葉賀みのり・葉月螢・林由美香・杉本まこと・田中あつし・丘尚輝・清水大敬)。出演者中、丘尚輝は本篇クレジットのみ。なのだけれど、後述する。
 愛人の山口留美(葉賀)宅にて、松岡隆博(杉本)が下になる顔面騎乗クンニ開巻。名器が売りのヒロイン像ながら、いはゆるロケット型の葉賀みのりのオッパイの破壊力も素晴らしい。カメラが一旦引いてタイトル・イン、改めて騎乗位。イボイボだらけの留美の名器に白旗を揚げ、隆博が再びクンニに逃げるとクレジット起動。エクセスライクが叩き出した類稀な逸材が、流麗な繋ぎを通して美しく輝く奇跡。
 対面騎乗位であつさり陥落させられた隆博は安穏と二回戦を望みつつ、関係の潮時感も滲ませる留美が食傷してゐると、隆博の携帯が鳴る。何事かポリス沙汰とやらで隆博はそゝくさ帰還した松岡家、妻・幸子(葉月)の兄に放逐された義父・城島竜造(清水)が、話を聞くにピンサロの勘定で揉めて菊の御紋の世話になつたとのこと。完全に臍を曲げる幸子に対し、隆博と城島は男同士のなあなあさでまあまあと茶を濁す。
 配役残り林由美香は友人である留美を夜分に訪ねる、昼間は普通のOLでもある「MEN'S CLUB 竜宮城」の嬢・長瀬えみり。えみりの第一の用件はヒリヒリする観音様を冷やすアイスノンを借りるといふもので、田中あつしがその原因たる客。由美香と田中あつしの濡れ場も流れるやうな体位移行を披露しつつ、結局田中あつしがえみり観音を損耗させたところの所以はてんで判らないでゐると、「何それ、それぢやえみりの方が激しかつたんぢやないの」と留美の的確なツッコミが入る地味なカタルシスは出色。その他、この人も昼間はまさかの実名登場あさひ銀行に勤める―怒られても知らんからな―留美が、金融商品を来宅セールスする初老の男はアフレコまで新田栄。問題は、今更でもあるがイコール岡輝男の丘尚輝が、何ッ処にも出て来ないぞ。父親に手を焼き追ひ出した幸子の兄なり、えみりが正妻から略奪した不倫相手なり、候補となるポジションは、幾つか見当たらなくもないものの。結局切つて、公開プリントには残つてゐないのでは?あるいは、どうせ出てんだろ程度のいい加減さで、脊髄反射的にクレジットしてみたのか。何れにせよ、如何にも量産型娯楽映画的な大らかさではある、肯定的に捉へるのかよ。
 絡みのみならず、否、寧ろ絡みを通して円滑に繋がる物語が思ひのほか秀逸な、新田栄1998年第二作。留美を訪ねたえみりの本題たる二つ目の要件は、不倫相手の出張に同行してゐる間の、会社の有給はサクッと取れたが竜宮城のシフト埋め。そんなこんなで留美が気晴らしがてら快諾した「MEN'S CLUB 竜宮城」に、娘のへそくりをくすねた城島が遊びに行く。留美の名器に惚れ込み、何気にでもなく幸子とは別れる腹を―留美の意向は問はずに―隆博が固める松岡家か娘の一大事が燻る中、城島が割つて入る形の展開は裸と映画を両立させて普通に面白い。加へてかといつて、そのまゝ素人にも読める落とし処にはすんなり行かず、折角纏まりかけた始終を徒に畳み損ねたかに見せかけて、実は“三ヶ月”は敷設済みの、清大の突破力も借りた力技の大団円が改めて振り抜かれる。コンドーム推奨を織り込んでみせるのも心憎い、えみりは寿引退した竜宮城に暫し留まる留美の下に、田中あつしが再登場する締めの濡れ場まで案外完璧。一見他愛ない御都合極まる作劇にも思はせて、女の裸があつて初めて起承転結が完成する。一欠片たりとて勿体ぶらないシレッとした仕上がりが“無冠の帝王”新田栄らしくスマートな、ピンクで映画なピンク映画のひとつの完成形である。


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 「性鬼人間第一号 ~発情回路~」(2016/制作:フリーク・アウト/提供:オーピー映画/監督:国沢実/脚本:高橋祐太/撮影・照明:飯岡聖英/撮影助手:宮原かおり・榮穰/照明応援:広瀬寛巳/録音:小林徹哉/助監督:菊嶌稔章・左夏子・佐藤陽一郎/編集:酒井編集室/ポスター:本田あきら/スチール:だいさく/音楽:與語一平/整音・効果:シネキャビン/タイトル:小関裕次郎/特殊造形:はきだめ造形/仕上げ:東映ラボ・テック/カラリスト:石井良太/撮影機材:《有》アシスト/出演:桜木優希音・真木今日子・原美織・折笠慎也・永川聖二・浦町夏鳴・太三・寺西徹)。
 鮮血散るフリーク・アウトロゴに続いて、“イエスが墓の前に立つと ラザロは死から蘇つた”とクレジット。大体この手の勿体ぶつた開巻は、ピンクでは鬼門であるやうな気がする。
 ガード下を何者かの気配に怯えつつ歩く矢島葵(原)が、目が発光し、首から上は多分毛むくぢやら、そして逸物が箆棒にバカ太い怪人に襲はれる。原美織の裸を一通り見せておいて、葵が逃げ込んだ、こゝで犯して下さいといはんばかりの人気のないロケーションに悲鳴が木霊してタイトル・イン。原美織はピンク二戦目、初陣の関根和美2015年第四作「特務課の罠 いたぶり牝囚人」(主演:きみと歩実)二番手の印象は正直残つてゐない。タイトル明けは立入禁止の黄テープ張られた葵強姦殺人現場、遺体写真に、俳優部のクレジットが走る。
 国沢警備員が安置された葵のオッパイを揉んだり何だりしてゐると、藪から棒に所々ケロイドも発症した葵がまさかよもやの再起動。俄かに阿鼻叫喚の修羅場と化した霊安室に、「奇怪事件捜査研究所」こと略して奇捜研の森崎真紀(桜木)が、同僚で実は周囲には内緒で同棲してゐたりもする本郷達哉(折笠)と飛び込んで来る。飛び込んで来るなり、真紀は上部に箱状の装置が付属する銀色の銃を葵に発砲、脳天を撃ち抜かれた葵は、ドロッドロに腐敗する。こちらもピンク二戦目の桜木優希音は、国沢実前作「萌え盛るアイドル エクスタシーで犯れ!」(主演:浅田結梨)三番手からの大出世。葵は全く同種の事件の四人目の被害者で、葵が感染したウイルスを解析する真紀は、秘かな確信に辿り着く。
 配役残り、折笠慎也同様ピンク筆卸の永川聖二と、国沢実前々作「陶酔妻 白濁に濡れる柔肌」(主演:美泉咲)からこの人も二戦目の浦町夏鳴は、奇捜研でお調子者担当の尾澤一平に、森永ミルクココアの粉を常食する奇捜研所長・村松茂、成員からはキャップと呼ばれる。真木今日子は繁みに覆はれた一軒家に暮らす桐野マヤで、寺西徹が一軒家の主・御手洗明彦。かつての真紀恩師でもある、現在は当人いはくフリーの科学者。スーサイドしたマヤを御手洗が文字通り蘇生させたのが、二人のミーツ。ここでアイドル的な当代女優部よりも、新田栄最終作「未亡人家政婦 -中出しの四十路-」(2009/脚本:岡輝男/主演:大空音々)に何故か名前を連ねてゐたりもする、寺西徹の国沢実2011年第二作「美女妻クラブ ~秘密の癒し~」(脚本:新耕堅辰=樫原辰郎・国沢☆実/主演:灘ジュン)以来となる電撃復帰が当サイト最注目のトピック。
 高橋祐太とのタッグでそれ以前からの好調を維持する、国沢実の2016年第三作。明確らしい「怪奇大作戦」云々に関しては、「怪奇大作戦」を見たことがないゆゑ潔くか怠惰に通り過ぎる。と、したところ。その人と知れる形で満足に抜かれもしない以上、極端な話別に内トラで十二分に事済み、さうなるとポスター・本篇クレジットとも名前を載せるまでもない、太三をわざわざ擁した上での周到かつ―その限りに於いては―秀逸なミスリーディングを除けば、既視感しか見当たらない物語と、如何にも国沢実風なオーラスまで含め変り映えもしない展開は、非力な俳優部に火に油を注がれ最後まで弾まなければ輝きもしない。ジャスティス感の爆裂する真木今日子のオッパイは大スクリーンに殊更映え、締めの濡れ場の合間合間に暗転クレジットを挿み込む、裸映画的に貪欲な姿勢は地味に評価に値しつつも、殊に男優部に顕著な全体何時の頃からかと振り返つてみると、殆ど構造的な脆弱性が改めて際立つ一作ではある。桜木優希音がカッコよく銃を構へるショットを撮りたかつた気持ちも酌めぬではないが、死者を蘇らせる御手洗よりも、現場に到着するや否や満足に状況を確認しもせずに、細胞を溶解させる―即ち、正しく完膚なきまでに絶命させる―パルス銃を脊髄反射の気軽さでブッ放す奇捜研の面々の方が、何処で斯様に強大な権限を与へられたのだか、寧ろ裁きの神である。

 ところで第二号―あるいは第五号までは奇捜研が始末した第六号―が誕生した性鬼人間は兎も角、“発情回路”なる人造人間的なガジェットは劇中欠片も登場しない。


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 「痴漢電車 覗いて嗅ぐ!」(1995/製作:旦々舎/配給:大蔵映画/脚本・監督:山崎邦紀/撮影:稲吉雅志・片山浩/照明:秋山和夫・蛭川和貴/音楽:藪中博章/編集:㈲フィルム・クラフト/助監督:高田宝重/制作:鈴木静夫/スチール:岡崎一隆/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東映化学/出演:石原ゆり・小川真実・福乃くるみ・荒木太郎・樹かず・杉本まこと)。秀逸な1998年新題が、「痴漢電車 若気の湿り」。
 ヒャヒャヒャーヒャラと始まる虹色王冠ファンファーレ開巻!これよこれ、これが―“これも”だろ―見たかつたのよ。
 膝元にサボテンの小鉢を抱へ電車に揺られる石原ゆり、こめかみにビデオカメラを装着した荒木太郎が、ノッシノッシと石ゆりの前を通り過ぎる。電車を外から捉へた画挿んでタイトル・イン、ところでヒロインが常備するサボテンに関して、何の意味、あるいはどういつた所以があるのかに関しては最後まで見事に放置したまゝ済まされる。
 慌てて走つて来る馬鹿みたいにデカいメガネの樹かずと、優雅に茶を愉しむ杉本まこと。出社するハイヤーの手配ミスを詫びるサカエダ(樹)に対し、会社専務の陸奥(杉本)はたまには電車で行くかと寛大に意に介さない。ところが陸奥専務がさて出ようとすると、夫人の小川真実は部屋の模様替への手伝ひにと称してサカエダを捕まへる。陸奥夫婦間でも兎も角、社内的にそれが通るのか。電車の車中、陸奥は手元にもカメラを装着した荒木太郎に痴漢される花田菜々恵(石原)が、自らスカートを捲り電車痴漢を受け容れてゐるのに驚愕する。陸奥宅こと古の旦々舎ではオガマミが当然サカエダをガッツガッツ喰ふ一方、荒木太郎が離脱した奈々恵を、陸奥も痴漢してみる。その日は一旦拒絶した奈々恵が、スカートの上からパンティを直す仕草が、案外見ないアクションにも思へるが結構そゝる。翌日か、電車で奈々恵と再会した陸奥は、とり憑かれたかのやうに電車痴漢再戦。又しても逃げた奈々恵を追はうとした陸奥を、実はすぐ傍らにゐた荒木太郎が引き止める、「あの女はやめた方がいい」。
 配役残り福乃くるみは、荒木太郎が自室で致す女、相変らずカメラは回し続ける。荒木太郎のガジェット嗜好に寄与する点を除けば物語には感動的に一欠片たりとて全く掠りもしない反面、バイブを用ゐた鬼のやうにどエロい自慰を大披露。よしんば展開の進行には一切与らずとも強い印象を刻み込む、真鮮やかな三番手濡れ場要員。問題が、オーラス奈々恵の次なる獲物として登場する、森羅万象のレプリカを更にデチューンした劣化コピーもどきのオッサンが誰なのか、何者なのかに手も足も出せず。とりあへず、本職の俳優部には見えない。
 阿漕な商売をしてけつかるDMMが、バラ売りには新着させてゐる月額動画スルー旧作を渋々―でもなく―買つた、山﨑邦紀1995年第一作。山﨑邦紀のピンクを兎に角一本でも多く見たいのに加へ、盟友の山本さむ(ex.小多魔若史)が出演してはゐぬかといの一番に痴漢電車をチョイスしたものだが、残念ながら小多魔先生は姿をお見せにならず。今のところ確認出来てゐる最終作は、同じく山﨑邦紀の1996年第五作―ピンク限定だと第四作―「痴漢電車 潮吹きびんかん娘」(主演:小泉志穂)。
 奈々恵と役名不詳の荒木太郎、痴漢電車に棲む二人の怪人物に専務さんが翻弄される、確かに“やめておいた方がよかつた”一篇。といつて主モチーフのサボテンから華麗に通り過ぎる始末で奈々恵と荒木太郎の外堀は清々しく埋められず、陸奥は陸奥で嵐に放り込まれた小舟の如く心許なきこと甚だしく右往左往するばかり。終盤―女性上位の旦々舎映画の常ではあれ―頼りもなければ情けない旦那に対し、自身で奈々恵を迎撃する腹を固める陸奥夫人は、小川真実の決定力で加速した上で俄かに絵に描いたやうな出来た女房面する、ものの。そもそも己は己で朝つぱらから若い色男と派手にヨロシクやらかしてゐやがつた癖に、といふ臆面もなさは、今作単体のみならず、寧ろピンク映画固有のいはば制度的な諸刃の剣。小川真実の濡れ場が別に夜の―朝でも昼でもいいけど―夫婦生活で普通に消化出来たかも知れないにせよ、陸奥の電車痴漢筆卸とクロスさせる構成が、より諸々面白味を増すのは論を俟つまい、樹かずもあぶれてしまふし。最終的には痒いところに冬の上着の上から手が届かないやうな一作ながら、撃墜寸前の陸奥を追ひ、夫人も痴漢電車に乗るクライマックス。奈々恵に吸ひ寄せられる陸奥の姿を目撃、血相を変へ突撃しかけたオガマミを、陸奥を制止した際と同様、事態に電撃介入した荒木太郎が阻止するドラマティックなカットが一点突破で素晴らしい。

 最後にか改めて気づいたけど、劇中、特筆するほど別に覗きも嗅ぎもしてゐない。


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 「最新ソープテクニック2 泡姫御殿」(1990/企画・製作:メディア・トップ/配給:新東宝映画/脚本・監督:サトウトシキ/企画:田中岩夫/プロデューサー:サトウトシキ・春木竜之介/撮影:重田恵介/照明:石井かなめ/音楽:ISAO YAMADA/編集:金子尚樹/助監督:勝山茂雄/監督助手:森田高之・北村登美幸/撮影助手:古谷一・佐久間栄一/照明助手:島田正志/スチール:福島佳紀/現像:東映化学/録音:ニューメグロスタジオ/協力:西山秀明・上野俊哉・成瀬正行/制作協力:アウトキャストプロデュース/出演:小川さおり・田代美希・白戸好美・江藤保徳・山科薫・中根徹・下元史朗)。企画と製作のメディア・トップは、VHSジャケより。
 カーラジオからは天気予報が流れ、助手席には風俗情報誌。車載カメラが暗転すると唐突にクレジット起動、トロい劇伴が鳴り始め、バックミラーに運転する下元史朗が見切れる。これはビデオ版のタイミングなのかも知れないが、一層唐突更に適当にタイトル・イン。風俗情報誌編集者の江藤保徳と、店名不詳源氏名・りえ(田代)の泡遊びと並行して、下元史朗の車は歓楽街に。車を停めた下元史朗は、ポップに苦し気に錠剤を放り込む。以降全篇を通して若干手を替へ品をへながらも、立て続けるフラグが終にフラグのまゝに止(とど)まる同趣向の件、直截にクリシェが清々しくはある。公園で歯を磨く下元史朗にライトバンをベタ付けされ、車を出せなくなつたエトヤスがキーのついた車内を覗き込んでみると、自分が作つた情報誌と、頁の合間には碌に抜かれないスナップが。一旦その場を離れたエトヤスが話しかけてみた下元史朗は、姿を消した妻の和美が、吉原にゐることを情報誌で知りやつて来たものだつた。
 配役残り小川さおりが、下元史朗が捜してゐる和美。りえと同じ店で働いてゐる上に、スナップに初めから気づいてゐたエトヤスと実は同棲してゐたりなんかする、クソよりも狭い劇中世間。中根徹は、和美を買ふ普通の客。山科薫はりえの手を焼かせる、普通でない客。脱ぐとちよつとしたボンデージを装着してゐて俄かに女王様風のキャラクターに変貌、自らローションを塗りたくり、浴槽オナを敢行した挙句に水没。かうして文字にしてみても、何が何だかサッパリ判らない大暴走を披露する。白戸好美は、和美の存在を知りつつエトヤスに執心する三番手。
 サトウトシキ1990年第二作は「最新ソープテクニック」ナンバリング第二作―第一作は上野俊哉のデビュー作―にして、最終的には一頻り新東宝が打ち止めたのちに、今上御大が和久名義で大蔵に拝借する各種ソープテクニック映画の通算でも第二作。上野俊哉とサトウトシキが連なるとなると、少なくともこの時点に於いてはそれなりに鋭角なシリーズを構成してゐたのか、とか思ひきや。直截に片付けて、斯様な代物でもサトウトシキ先生の映画だと有り難がる手合はバカかと、屈託なく悪態ついてのけられる気取るといふかスカしたばかりで漫然とした出来。結局殆ど何も起こらず変らない物語自体は兎も角、下元史朗が公園脇で張り始めるや、早速後方に停車したタクシーから和美が降りて来るインスタントな展開には逆に驚いたが、和美と後を尾ける下元史朗の二人を長く歩かせるためだけに、動線が訳の判らないことになる不自然かつへべれけな直後の長尺に即座に呆れた。一旦グルッと一周しかけた感興を、もう一周させ元に戻してどうする。和美が要は店に在籍してゐる以上、とつとと指名すればサシの状況に持ち込めるものを終盤まで勿体ぶるのはまだしも、スッカスカの会話を交した挙句何だかんだな締めの絡みかと思へば、カット跨いで店から―和美がエトヤスと暮らす―家にザクッと瞬間移動してみせる繋ぎは幾ら何でも雑過ぎる、濡れ場に対する配慮さへ感じられない。唯一の見所はポップな人相と絶妙に艶のある口跡とで、変態客役を万全に撃ち抜く山科薫くらゐ。この人この期に改めて、コッテコテ通り越してゴッテゴテの量産型娯楽映画の本丸から、いはゆる四天王ないしは大雑把に国映系まで。縦横無尽に、しかも何処ででも自分の仕事をしてゐる。


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 「巨乳だらけ 渚の乳喧嘩」(2016/制作:加藤映像工房/提供:オーピー映画/監督:加藤義一/脚本:後藤大輔/撮影監督:創優和/録音:小林徹哉/編集:有馬潜/音楽:與語一平/助監督:小関裕次郎/監督助手:菊嶌稔章/撮影助手:佐藤文男・酒村多緒/照明助手:広瀬寛巳/スチール:本田あきら/録音所:シネキャビン/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:めぐり・福咲れん・あやなれい・小滝正大・可児正光・なかみつせいじ)。
 早坂陽(めぐり)が全裸エプロンですき焼きの支度をしてゐると、漁師の夫・耕平(可児)が大漁を誇り帰宅。豪勢な夕食に今日は何の記念日だかんだと、まるで意味のない遣り取りを交しつつそのまゝ台所で突入する夫婦生活は、寝坊した陽の真鮮やかな夢オチ。食パンこそ咥へない程度に大慌てた陽が、玄関の鍵もかけずにチャリンコで出撃してタイトル・イン。ところでさりげなく左隅にKATO FILMSのロゴもカッコよく控へる、筆致が爆裂する大書タイトルの主は不明。
 漁師要員のひろぽんやきくりんと挨拶を交した陽は、勤務先であるみやぎ漁業協同組合事務所に到着。ここで背景に完全に同化する超絶の内トラぶりを人知れず撃ち抜いた新田栄が加はれば、何かが完成してゐたのにと、訳の判らない感慨に駆られる。話を戻して、劇中“五年前”としか語られない大災に海上で見舞はれた耕平と死別―但し遺体は未発見―した陽の同僚は、事務所と同じ建物に寝起きする、この人も妹を喪つた石母田景樹(小滝)。パンティを見せるヒッチで石母田の法人車を拾つた福咲れん(ex.大塚れん)は、お礼と称して気軽に体を開く。ところでこの件、事後オシッコに車を離れた福咲れんは、見つけた蟹を石母田に渡すとルナと名乗りその場でサクッと一旦別れてゐるゆゑ、となると実は全然か少なくとも殆ど移動してゐない気がする。五年前と同じく、たまたま体育の日と被つた十月十日が、耕平の命日。この点は、2011年と―2016年にも―合致する。すき焼きを用意した供養に石母田を招いた目下一人暮らしの陽と、石母田が結ばれかけてゐると、高校時代、怪我でレスリングのインターハイを挫折した十年前に家出したきりの、ルナこと陽の妹・月子(福咲)が不意極まりなく帰宅する。
 配役残り、清水大敬監督20周年記念作品「巨乳水着未亡人 悩殺熟女の秘密の痴態」(2016/主演:一条綺美香)以前の、友松直之2014年第二作「緊縛絵師の甘美なる宴」(脚本:百地優子/主演:小司あん)三番手を完全に忘れてゐたあやなれいは、ルナ―がリングネーム―の地下プロレス好敵手・セリーヌ改めコスモス。セリーヌの結構苛烈なラッシュを受け止めるフィジカルを地味に発揮するなかみつせいじは、コスモスと行動をともにする情夫・博巳、蝶ネクタイの扮装からするとリングアナか。
 主演女優・脚本家とも四作ぶりの再会を果たした、加藤義一2016年第四作。暗黒の若御大時代を経て漏れなく配偶者もついて来る空疎に辿り着いた漂泊し倒す加藤義一が、久し振りに満足な脚本を得てマトモに戦へるのかと、思ひきや。そもそもめぐりと福咲れんを相手にいはゆる姉妹丼を達成する三角関係の要が、ウェットな中年チョンガーにしか見えない小滝正大といふのが画期的にか絶望的に感情移入なり呑み込み難い。端的にもう少し魅力的な男優部をつれて来て貰はぬでは、物語が画(ゑ)から成立してをらず、挽回する演出部の援護も特に見当たらない。ここは、戦線復帰第二戦となる小滝正大のナベシネマ2016年第二作「めぐる快感 あの日の私とエッチして」(脚本:山崎浩治/主演:星美りか)の前が、「熟妻と愛人 絶妙すけべ舌」(2012/監督・脚本:後藤大輔/主演:春日野結衣)につき、もしかすると後藤大輔の肝煎りなのかも。重ねて、小松公典によるデビュー十周年記念作「どスケベ検査 ナース爆乳責め」(2012/主演:あずみ恋・Hitomi)の如く、徹頭徹尾邪気がなく俗つぽいならばまだしも、如何にも後藤大輔風のペダンティックな薀蓄も、所詮加藤義一の柄ではない。前だ後ろだと他愛も性懲りもない一山幾らの人情ドラマを捏ね繰り回し、その癖途中までは―フィルム時代からすると―十分延びた尺を随分と持て余した割に、唐突さが爆裂するラストには唖然とするのも通り越して意表を突かれた。加藤義一を覆ふ重たい雲が、依然晴れない。確かに“巨乳だらけ”ではあるオッパイ祭り以外に唯一琴線に触れたのは、陽と石母田のとりあへずな締めの濡れ場と並走する、グダグダとトリプル・ノック・ダウンに至る“渚の乳喧嘩”の、寧ろさう思へばな古の巌流島感。無論、宮本武蔵と佐々木小次郎が対決した方ではない。

 ひとつ理解出来ないのが、陽と耕平は兎も角、何で月子の姓も早坂なのかといふ件。どうせ両親もゐないから、陽が入る時に月子も早坂に入れて貰つたのか?耕平が入婿にしては、今は北海道に移つた義理の両親から、陽が籍を抜くよう促されたといふエピソードと齟齬する。


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 「巨乳発情 揉みまくり」(1995/企画:サン企画/製作:Gプロダクション/配給:大蔵映画/監督:市村譲/脚本:夢野春雄/撮影:立花次郎/照明:堀川春峰/制作進行:夏川登/助監督:山中年行/編集:酒井正次/録音:シネキャビンRC/音楽:東京スクリーンサービス/効果:サウンドボックス/フィルム:日本アグファゲバルト《株》/現像:東映化学《株》/出演:風間晶・九文志津・福乃くるみ・石津雅之・平岡きみたけ・羽田勝博・神戸顕一・野上正義)。企画と製作はjmdbからのみで、配信されてゐる限りの本篇には見当たらない。
 タイトル開巻、の更にその前。大蔵時代の王冠と、流星群がOP PICTURESのロゴに集結する現行とを繋ぐ、微動だにしない白黒OP開巻には意表を突かれた。この辺まで辿り着いてゐないだけで、動画配信する以前に小屋でも上映してゐたのかな。とまれ舞台は三浦半島の漁師町、太田仙次(石津)がプラッと落ち合つた漁協の事務員・久美(福乃)は、パチンコでスッてゐた。後々的に実は仙次は金を持つてゐる筈なのに、ホテル代に事欠いた二人は神社の境内にてパツイチ。カメラが少し引くと、思ひのほか無防備なロケーションで笑かせる。冒頭に飛び込んで来た三番手は、一絡みこなすや潔く捌ける。体操着にしか見えない扮装で、綺麗な空に向かつて歩く抜群のスタイルの女の後姿挿んで、ニヤッと目を細めた、羽田勝博の遺影の何気な破壊力。母親の去就は一切語られない、元漁師の父親・仙造(野上)と、仙次二人きりの夕餉。船を継ぐでもなくプラプラする仙次がいひだした久美との結婚を、仙造は適当に放任する。仙次の兄・仙太(羽田)は、恋人のたま(九文志津/前述した頭身の高い女)と結婚を約して出た漁から、帰つては来なかつた。狂ふてゐるのか、たまが今も波打ち際で仙太を待つ件からカット明けると、長閑な劇伴に遊覧船。東京から遊びに来た清水きらら(風間)とのぼる(平岡)の、船内でのテレテレしかしてない様子にダラダラ潰す尺は流石に何とかならないものか、市村譲相手に野暮をいふやうだが。コンビニの場所を尋ねた仙次の、高級腕時計にきららは目を留める。兄貴の、保険金成金とかいふ寸法。
 配役残り神戸顕一は、たまが一人で干して一人で売るひものセンターに、とんでもない不自然さで通りすがる観光客。役名併記のクレジット―激しく助かる―には“観光客”とあるが、少なくとも下の名前は顕一。
 DMMが月額動画には薔薇族か準新作―かロマポ―ばかり新着させておきながら、ピンク映画chスルーの旧作をシレッとバラ売りには放り込んでゐたりする―にしても、オーピーに限つた話ではある―不誠実な商売を難じつつ、さうはいつても見られるとなると突つ込まざるを得ない市村譲1995年第一作。見せてやんよ、足元を。因みにjmdbによると市村譲は1995年の全四作で、百二十本弱のキャリアを打ち止めてゐる。
 市村譲といふと矢竹正知に劣るとも勝らない、漆黒の画の暗さがとりあへず印象的。今回はただでさへ人工光に乏しい田舎町のよくいへば自然な夜をむざむざ被弾、俳優部の声はすれども姿は見えずなカットが、試しに部屋の灯りを落としてみても本当に全く見えない。これ小屋なら見えたのか?と戯れに問ふてみたところで、流石に見えまい。上手く騙くからせば前衛性にグルッと一周しかねないルーチンが、最早感動的ですらある。物語的には都会のあばずれに田舎者がチョロ負かされる、実も蓋も―ついでに工夫も―ない一篇かと思ひきや。思ひきや、である。一千万をきらりに渡して逃げられた仙次が、そのまゝ東京で月収百万に到達しようかといふトップ・セールスマンに何時の間にか成功。かと思ふと親爺は対照的に、仙次は乞食に身を落としてゐた仙造と再会、最終的に二人で三崎町に戻り改めて仙次は漁師を目指すとかいふよもやなハッピーエンドは、一手一手自体は何ら変哲ないものの、トリプルクロス的にどんでん返る展開の無造作さが途轍もなくてクラクラ来る。面白くは別にも何も欠片もないが、同時に果てしなくフリーダムな作劇であるのは違ひない。あるいは、壊れるなら壊れるでここまで派手にブッ壊れて呉れると寧ろ清々しいとでもいふか。裸映画的には、巨乳巨乳いふほどのオッパイといふよりは、パッツンパッツンに弾ける騎乗位の尻の方が訴求力が高く映る主演女優を押し退け、誰彼構はず寝ては、相手が誰であらうと仙太の名を呼ぶたまの濡れ場が偶さか正方向に機能するドラマの加速も借り案外煽情的。白旗を揚げ退散しようとする仙造の足に縋りつき、大股開きで観音様を擦りつけ絶頂にまで達する、何処でイクといつてまさかの脛イキは、凄えと思はず身を乗り出すくらゐにエロく、もしかするとポルノグラフィーに於けるひとつの発明なのかも知れない。


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