真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「薄毛の色情女」(1998/制作:セメントマッチ/配給:大蔵映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/撮影:下元哲/照明:代田橋男/編集:酒井正次/助監督:佐藤吏/スチール:津田一郎/演出協力:木澤雅博/監督助手:小林一三/撮影助手:小山田勝治/タイトル:道川昭/録音:シネ・キャビン/現像:東映化学/協力:高円寺・稲生座、高円寺・古美術太文/挿入歌:『コルクの栓がふつとんだ』詞・曲・歌:木澤雅博/出演:田口あい・田口あゆみ・塚越レイナ・工藤有希子・池島ゆたか・木澤雅博・樹かず・神戸顕一/SUPECIAL THANKS:槇原めぐみ・西山亜希・堀禎一・須川善行・重田恵介)。監督助手の小林一三は、樹かずの本名。
 高円寺と屋号でググッてみても今や何も出て来ない、骨董屋「太文」の正面カットにタイトル・イン、品のない勘亭流で。そこに現れた後ろ姿でエロい体の女は、「太文」オーナーの妹・恵子(塚越)。客なんて来やしない―劇中ホントに一人も来ない―太文を、日がな本を読んで店番する江崎尚也(池島)は、恵子からの飲みの誘ひを勿体なくも断る。ところが断るに足る、理由が実際あつたんだな、今回は。ラブホで馴染みのホテトル嬢・マリア(工藤)を抱いた尚也は、次は部屋に呼んで呉れといふマリアのマイルド据膳も、家に人が来るのが苦手とグジグジ断る。一つめのアキレス腱に触れておくと、とかく煮えきらないこの御仁、常時万事こんな調子。ついでで急所といふほどでもない二つめが、二人ともスタイルは綺麗な反面、背格好のみならず馬面も似通つてしまひ軽く混同の否めない、形式三番手と四番手。
 そんな、ある日。太文を覗き込む少女を、店の中から抜く。何か買ひに尚也が店を空けた太文を、弟の娘で初対面の伶奈(田口あい)が訪ねる。訪ねて来れる程度のリンクが活きてゐるにしては、その事件を尚也が知らないといふのも、如何にも五代暁子らしい無造作か無頓着な無理が何気にバーストするのはさて措き、尚也の弟・シュンイチが交通事故死。間男を作つた母親とは、三年前の離婚以来音信不通。とりあへず夏休みの間、伶奈は役所のレコメンドに従ひ伯父である尚也を頼つて来たとかいふ寸法、福祉とは。一人の暮らしを騒がされたくない尚也ではあつたが、さりとて子供を無下に追ひ返しも出来ず、母親のかおりが見つかるまでといふ条件で渋々伶奈を家に入れる。マリアだけでなく、恵子も入れなかつた。
 配役残り、木澤雅博が親の遺産でも継いだのか太文のオーナーと同時に、バー「稲生座」のマスターでもある和彦、稲生座は現存する。最初の稲生座パート、カウンター席に座る尚也のほか西山亜希が画面手前に座つてゐる客で、重田恵介がその奥。既視感を覚えるシュンイチ遺影の主が、堀禎一といふのに遅れ馳せながら辿り着いた、この期に及ぶにもほどがある。あとこの兄弟、尚也は養子でシュンイチは実子。和彦と恵子は、腹違ひ。そして田口あゆみが件のかおりで、樹かずは酒浸りで仕事の続かない間男の達郎。パンツが細い気もしつつ、樹かずの幾度と目にしたオーバーサイズの一張羅は、これズートでいゝのかなあ。神戸顕一は牛乳の飲めない伶奈の加はつた江崎家を、訪れる牛乳の拡販員、クレジットでは牛乳屋。最初は、中々気の利いたフィックス俳優部の起用法かとも思つた、最初は。棚から牡丹餅を降り注がせる、もとい外堀を埋める、江崎家実家(総武本線佐倉駅最寄り)の御近所・ケンちやん(苗字はキクチ)は凡そどの人と知れるやうには映らない、定石で攻めると佐藤吏か。堀禎一の、此岸と彼岸を往き来する二役でなければ。終に恵子が尚也に告白した稲生座に、同伴で和彦が連れて来るカップル客は槇原めぐみと須川善行。
 サブスクに入つてゐないのを単品買ひした、池島ゆたか1998年ピンク映画第一作、薔薇族が一本先行する。互ひに一切交錯しない小屋の観客要員同士ではあれ、同じく池島ゆたかの1997年第四作「目隠しプレイ 人妻性態調査」(脚本:岡輝男/主演:真純まこ/田口みき名義)で母親の田口あゆみと一応共演した田口あいが、実の母娘(おやこ)で母娘(はゝむすめ)役。且つ当然―設定を真に受けると撮影当時十三歳、どう転んだとて十八歳以上には見えない―脱ぎも絡みもしないにも関らず、堂々とビリングの頭に座る話題作、ではあつた。あと、現状確認し得る田口あいのフィルモグラフィとしては、矢張り池島ゆたかで「ザ・痴漢教師3 制服の匂ひ」(1999/企画・脚本:福俵満/主演:里見瑶子)の生徒要員、それには田口あゆみは出てゐない。
 人との積極的な交はりを頑なに拒み、自閉した状態に平穏を見出す中年男の半ばモラトリアムな生活に、快活な小娘が転がり込んで来る。矢鱈絶賛してをられるm@stervision大哥のレビュウに目を通してみて、今作が超惑星戦闘母艦―あるいは戦闘巨人―もとい、あの「レオン」(1994/日本公開は1995/監督・脚本:リュック・ベッソン/主演:ジャン・レノ、ナタリー・ポートマン)の翻案といふのには軽く驚いた、レオンしか合つてねえ。尤も、オッサン・ミーツ・ガール以外の共通点が、見当たる訳でも特にない。尤も二連撃、「レオン」の細部なんて、前世紀のうちに忘れてゐるけれど。
 さあて、天に唾でも吐くか。全体、何を御覧になつたm@ster大哥が首を縦に振られておいでなのか皆目理解に苦しむ。根本的な大穴は先に挙げた第一のアキレス腱に連動する、自発的には「太文」表の掃き掃除くらゐしかしないネガティブな主人公が、その癖なほかつ拒み倒しながらも、周囲の皆から暖かい南風を吹かせ続けて貰へる土台破綻したファンタジー。何某か超常的なギミックでも設けて呉れぬでは、底が抜ける抜けない以前に話が通らない。ヘッドハンターズな三四番手は兎も角、感情移入に甚だ難い尚也の惰弱な造形に劣るとも勝らない、三つめの致命傷が田口あいの画期的に覚束ない口跡。寧ろよくこれで商業映画を狙つたなと、呆れるのも通り越すレベル。どうせ現場では、アリフレックスが爆音を轟かせてゐる、潔くアテレコの選択肢は採り得なかつたのか。まだ、終らないよ。改めて大筋ないし構図を整理すると、尚也が伶奈を、かおりが見つかるまでの条件で不承不承家に入れる。それでゐて、かおり捜しにすら尚也が一切動かないのには流石に吃驚した。起動こそすれ、物語が満足に展開しやしない。そらさうだろ、主人公が微動だにしないんだもん。牛乳屋でなくて、神顕行かうと思へば雨宮でもイケたよね。田口あゆみの対樹かず戦と、尚也をイマジンした塚越レイナのワンマンショーを拝ませた上で伶奈同様、勝手にかおりの方から江崎家にやつて来るエクス・マキナな作劇には幾ら池島ゆたか×五代暁子コンビの仕業とはいへ畏れ入つた。一件を経て、それとも何時の間にか。伶奈が牛乳を飲めるやうになる、プチ通過儀礼的な娯楽映画に於ける正道の、首の皮一枚分程度なら辛うじて酌めなくもないものの、濡れ場以外には限りなく全く見るべきところのない惨憺たる一作。藪から棒に火を噴く、木澤雅博の一節でホッコリするのも当サイトにはハードルが高い。と、いふか。メタ的にそもそも、“薄毛の色情女”なる公開題はこれ誰のこと?

 たゞ、健気な片想ひを貫き通す、キャラクター的には正直不釣り合ひな、塚越レイナが右太腿に入れた結構大ぶりな墨を、かなり回避してのける神業カメラワークと巧みな艶技指導の合はせ技には感心した。任意に振り返れる動画―もしくはフィジカル―でなければ、気づかなかつたかも知れない。


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 「不倫女医の舌技カルテ」(1999/制作:セメントマッチ/配給:大蔵映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/撮影:清水正二/編集:酒井正次/音楽:大場一魅/助監督:森山茂雄/監督助手:横井有紀・長谷川光隆/撮影助手:石野朝子/照明助手:森角威之/録音:シネキャビン/スチール:佐藤初太郎/現像:東映化学/出演:佐倉萌・水原かなえ・河村栞⦅新人⦆・千葉誠樹・幸野賀一・池島ゆたか・おくの剛・平川ナオヒ・かわさきひろゆき・山ノ手ぐり子・間中朱音・As・小池蓮・錠三枝子・HITOMI・神戸顕一・のろけん・石動三六・白木努・山本幹雄・佐川一政)。出演者中、のろけんがポスターには本名の木村健二で、河村栞の新人特記と間中朱音から神戸顕一までに、石動三六以降は本篇クレジットのみ。
 公園の木陰で草臥れてゐたかわさきひろゆきが起動、水飲み場で飲むのでなく水を顔に浴びてゐると、背後からフェイスタオルを差し出される。礼がてら、かわさきひろゆきは竹宮探偵事務所と印刷された封筒で調査報告書をタオルの主に手渡す。振込の念を押した上で、竹宮がタオルを返してタイトル・イン。このアバン、こゝで御役御免のかわさきひろゆきには、いふほどの意味もない、かわさきひろゆきには。
 タオル氏と甚だ紛らはしい、主観視点が「湊メンタルクリニック」に来院。この辺りの無造作さが、実に池島ゆたか。もしも仮に万が一、ミスリーディングだとしたらそれは流石にリーディング自体がミスだろ。終盤、男子トイレの千葉誠樹に、再びタオルが差し出される件は折角綺麗にキマッてゐたのに。閑話、休題。結構美人の受付(多分間中朱音)を通過、既に八人待つてゐる待合室が序盤最大の見せ場。手前から抜かれる順に、箍の外れたマザコンの横須賀正一は、小池蓮名義かなあ。本クレと本篇の、頭数は一応合ふ、イコール大場一魅のHITOMIはハードコアな不眠症。診察を撮影した―体の―ビデオ映像に於いて、神戸顕一がたゞ一言叩き込む「なんだばかやろ」が何気に超絶。池島ゆたか監督作に神戸顕一が兎にも角にも何が何でも、百本連続出演する。要は悪し様に片づけるならばノルマごなしのキャスティングにあつて、ドリフ狂で知られる神顕らしい一撃離脱を披露する披露させる、案外完璧なタクティクスには感心した。間中朱音との消去法で錠三枝子は、特徴らしい特徴にも欠く純然たるワン・ノブ・ゼン。そして何処から連れて来たのかギャランティは幾ら発生したのかしなかつたのか、限りなくヒムセルフ造形の佐川一政に度肝を抜かれる。いはずと知れた、サンテ刑務所から唐十郎に手紙を寄越したあの佐川君。寧ろある意味、石動三六なり木村健二を載せるくらゐなら、馬鹿デカくポスターに佐川一政の名を大書して巷間の耳目を惹かうとする色気をみせても、別に構はなかつたところではある折角の飛び道具。白木努は吃音、後述するさやか先生に岡惚れを拗らせる通り越して爆ぜさせる八神(千葉)挿んで、山本幹雄は終始ぐるんぐるんバンギングとふよりヘッドローリングしてゐる人。
 配役残り、来院視点の主は不眠を訴へる、「薬はヤるもんぢやなくて売るもん」とか利いた風な口を叩く幸野賀一。幸野賀一がクリニックの敷居を跨いだ時点で、診察を受けてゐた石動三六を手短か適当に切り上げる、内科医の亡父から居抜きで医院を継いだ、湊さやか先生(佐倉)が漸く大登場。水原かなえと山ノ手ぐり子(=五代暁子)は別室でカウンセリング中の、臨床心理士・榊久美と患者のサイトウ。河村栞が、軽く眠れない女子高生・阿久津リカコ。池島ゆたかはさやかの目下不倫相手、大学病院時代の恐らく上司・一ノ瀬。未配信かつ、nfajもプリントを所蔵してゐない前作「魅惑の令嬢 Gの快感」に出てゐない場合、初めてののろけん名義での出演作となるのろけんは、間男を作つた嫁に逃げられて以来、壊れてしまつた瓶投げオジサン。午後八時きつかりに、ガード下で悪態つきながら大量の空瓶を投げ割り始める、物騒で哀しい御仁。たゞ、その午後八時といふ時刻には、職業は映写技師といふこの人もヒムセルフ造形からすると、些かならず無理も否めない、終映何時なのよ。そ、れとも、オールナイトの小屋で交代制?今度は小池蓮との消去法でAsと平川ナオヒ(a.k.a.平川直大)はさやかが使ふ飲み屋のバーテンと、大学の同期・ナカハラ。そしておくの剛が、さやかに入れ揚げ勝手に離婚し妻と娘を捨てた挙句、逆鱗に触れさやかから捨てられたかつての不倫相手・阿久津。元来、相手は妻子持ちの方が却つて楽とするのがさやかの恋愛観ないし性愛観につき、この点に関しては阿久津が要は自壊したに過ぎないと捉へる、さやかの徹底して自己中心的な言ひ分にも決して分がなくはない。
 池島ゆたか1999年最終第六作、薔薇族入れると第七作は、森山茂雄の通算第三作となる2003年第一作「美人保健婦 覗かれた医務室」(脚本:黒沢久子/主演:麻木涼子)の三番手で事実上引退した、河村栞のデビュー作。“事実上”とか回りくどい物言ひを選択したのが河村栞にはその後、矢張り池島ゆたかの2006年第五作「ホスト狂ひ 渇かない蜜汁」(脚本:五代暁子/主演:日高ゆりあ)に於ける、カメオもあるにはある。
 初陣にして河村栞が思ひきり完成してゐる早熟ぶりと、形式的な濡れ場の回数も踏まへるとなほさら、河村栞と水原かなえのビリングがおかしい疑問にさへ目を瞑るか気づかなかつたフリをするならば、裸映画としてとりあへず以上に安定する。周囲からガン見えの結構スリリングなオープンから、豪快な跨ぎで突入する連れ込み。河村栞と千葉誠樹の一戦は、気合の入つた艶出の力も借り裸仕事ごとの初土俵らしからぬ堂々としたエクストリーム。尤もその前段、大概ノーガードな外階段踊り場にて、リカコが八神に吹く尺八。ジョイトイを咥へる以上ノー修正で攻めろやといふのも兎も角、大人しくディルドにしておけばいゝものをバイブを使つた結果、陰核を責める突起がボカシ越しに見切れてゐるのは、地味なのか派手なのか議論の分かれる粗忽。何れにせよ、劇映画的には佐川一政をも擁し枝葉を茂らせるのに躍起になつてゐるうちに、本丸が掘立になつた印象は如何せん否み難い一作。そもそも本筋の復讐自体が逆恨みと紙一重な上、さやかが絶体絶命まで追ひ詰められた修羅場に、上手いことしかも飛び道具持ちのGAICHIが闖入するクライマックス。所在なさげにブリ一でもじもじするチバマサが逆の意味で可笑しくて可笑しくて堪らない、四人をほぼ棒立ちで捉へる画角もクソもない引きのフィックスにも、匙かタオルを投げるワインドアップの勢ひ余つて引つ繰り返つたが、其処が底ではないんだな、これが。一貫して利己的なさやかが一件を経て全てを失ひもせず、ナカハラに何となく救済して貰ふ、霞より希薄なラストには畏れ入つた。観る者見る者のエモーションないしカタルシスを何処に持つて行きたいのか皆目釈然としない、へべれけなドラマツルギーこそ演者としても演出家としても大根と当サイトは目する、池島ゆたかの池島ゆたかたる所以。


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 「性悪女 茂みのぬくもり」(1998/制作:セメントマッチ/配給:大蔵映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/撮影:清水正二/音楽:大場一魅/編集:酒井正次/助監督:森山茂雄/監督助手:佐藤吏/撮影助手:岡宮裕・小沢匡史/スチール:津田一郎/録音:シネ・キャビン/ネガ編集:フィルムクラフト/現像:東映化学/出演:篠原さゆり・工藤翔子・水原かなえ・かわさきひろゆき・樹かず・神戸顕一・山ノ手ぐり子・藤森きゃら)。
 曇天の遠景、遠目から歩いて来るロングに寄りがてら、工藤翔子のモノローグが起動する「人生に偶然なんてない」。一欠片の新味も欠いた、他愛ない運命論を投げた上でフランス書院ぽさのあるエンボスなタイトル・イン。何が恐ろしいといつて、わざわざアバンで思はせぶりに投げさせておきながら、最終的に二番手は広げた風呂敷に触れさせてすら貰へぬまゝ、ラストまで辿り着けず一幕前で呆気なく退場。運命論に新味どころか一切意味のない虚無と紙一重の無造作さは、五代暁子あるいは池島ゆたかの特性といふよりも寧ろ、消費され忘れられてナンボのポップ感。量産型娯楽映画としての本質に、源を求めた方がなほ適切であるやうにも思へる。野暮は兎も角、引きの画―しかも着衣―で既に十分な破壊力を放つ、クドショのオッパイが凄え。
 フリーライターの多分一ノ瀬か一之瀬かおり(工藤)が朝のゴミ出しに行くと、近所の主婦(山ノ手ぐり子と藤森きゃら)が越して来た齢の差夫婦の噂話に花を咲かせてゐる、聞こえよがしに。当の柚月家、帰宅した柚月圭一(かわさき)は精神の平定を怪しまれるレベルの、闇雲な高圧さで十八離れた妻・真奈美(篠原)に対する。ぐりきゃらいはく“ジャニーズにゐてもおかしくない男”、と来るとこの人しかゐない、彼氏の尚也(樹)も来てゐるかおり宅に、柚月が声を荒げる夫婦生活の様子が騒々しく漏れ聞こえる。かおりと尚也の粛々とした婚前交渉を経て、柚月から殴られたのか、顔に痣を作つた真奈美とゴミ置き場にて出会つたかおりは、煩い二人が来たのでいつそ家に招く。
 配役残り、かおりが尚也とよく使ふ、クレジットに等閑視されるゆゑ謎の店に、マスター以下計四五人ノンクレで投入される。中盤の絶妙なタイミングで飛び込んで来る水原かなえは、柚月の素性不明な浮気相手・洋子、一応スーツは着てる。変なおじさんばりの、劇映画にしては明らかに汚し過ぎたビジュアル―と正気を疑ふ所作―に、誰なのか暫し識別に苦しんだ神戸顕一は、親戚をたらひ回しされた真奈美を手籠めにする傍系三親等。
 流石にex.DMMの中にも残り弾がなくなつて来た、池島ゆたか1998年薔薇族込み第六作。ひとつ前々から気にはなつてゐるのが、何故かエク動が池島ゆたかを配信しようとしない謎。
 特段姦計といふほどの姦計を練る訳でも全くない割に、あれよあれよと事が上手く運んで性悪女がテイクス・オールするに至る始終は、これで裸映画的に安定してゐなければそれこそ目も当てられぬほど、ドラスティックに面白くも何ともない。ドミノ倒しの如くぞんざいに散つて行く柚月とかおりに劣るとも勝らない、真奈美に唯々とチョロ負かされる尚也の操り人形ぶり。ついでで、羽目を外しすぎた山竜よりなほトッ散らかつた神顕。狂言回しの二人は所詮進行役につきこゝはさて措き、絡み要員の洋子を、絡み要員のポジションで辛くも災禍を免れる洋子を除くと、誰一人満足な造形の登場人物が見当たらない死屍累々。要は濡れ場以外全篇隈なく酷い壮絶な有様なのだが、強ひて致命傷を挙げるならば、過去パートを見る分には徹頭徹尾可哀想な少女にしか思へない真奈美が、魔性の女に変貌する過程はおろか契機さへ、丸々端折つて済ます豪快作劇。柚月が事切れるのを大人しく待つて、首を絞められてゐた真奈美が身を起こすシークエンスの煌びやかなまでの凡庸さダサさが、グルッと一周してもう完璧。

 反面、柚月が洋子のお胸に精を放つ辺りから、画面の手前ボカシ越しにチンコ―の模型―があるのはまた間抜けか邪魔臭い意匠だなあ、と呆れかけてゐたところ。洋子がして呉れる所謂お掃除を、亀頭、より正確には棹の根本視点でカットを割らずに描く、案外明確な企図が存在した、AVの感覚なりメソッドに近いのかな。


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 「ONANIE一家 ‐バイブ蕾責め‐」(1998/制作:セメントマッチ/配給:大蔵映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/撮影:清水正二・岡宮裕/編集:酒井正次/助監督:佐藤吏・広瀬寛巳/音楽:大場一魅/スチール:津田一郎/録音:シネ・キャビン/現像:東映化学/出演:吉行由実・小松ひろみ・東麗奈・神戸顕一・佐々木共輔・平賀勘一)。
 “これは、その名の通り、「人の三倍はスキモノ」の三好家一家の物語である。”漢数字かアラビア数字、読点の打ち方が若干異なる以外、後述する第三作とほぼ全く同じ文言の手書きスーパーによる開巻。三好の表札を抜いた上で、昼下がりの津田スタにタイトル・イン。純然たる私的な雑感でしかないのだけれど、配信動画に於いて大蔵映画時代(~2001)の、王冠カンパニー・ロゴを目にすると心なしか郷愁にも似た穏やかな気持ちになる。ヒャヒャヒャーヒャヒャン、何時から使つてゐたものなのかは知らん。
 台所に立つ息子嫁の礼子(吉行)が、義父の徳三(平賀)が爆音で鑑賞するAVにキレる間隙を縫ふかの如く、双子の弟で受験生の椿(佐々木)はテレクラで捕まへた女子大生・奈津美(東)を伴ひシレッと帰宅。玄関でのディープキスから、カット跨ぎで絡み初戦に勢ひを殺さずサクッと突入する。椿あるいは三番手が切る火蓋の完遂を待つて、双子の姉・さくら(小松)も帰宅。何の物の弾みか小松ひろみが全面にフィーチャーされたポスターに、最後まで翻弄されてゐたのは神を宿すのか否か微妙な些末。礼子いはく色の好み具合が徳三似の椿と、優等生のさくらは父親である杉男に似てゐるとする一方、連夜家に仕事を持ち込む当の杉男(神戸)は妻と満足に向き合はうとすらせず、二人の営みは既に三年間なかつた。
 配役残り、さくらは部屋に家人を一切入れない方向なのか、壁の受験勉強時間割―ひろぽん画伯作―に堂々と記載された午前二時のオナニータイム。多分三本所有するバイブにさくらが各々名前をつけてゐる、黒バイブはブラピで白はディカプリオ。もう一人ゐる筈のオナペットは、模造紙が画角に削られ判読不能。そのうち、安ブロンド鬘の一点突破で、さくらが迸らせるイマジンの中に現れるレオ様当人は佐々木共輔の二役、流石に面相は回避してある。完全に再起不能を思はせるほど、一旦昏倒した徳三を往診する医師の、帰りがけの声は池島ゆたか。
 池島ゆたか1998年薔薇族込み第四作は、2001年第五作の「好き者家族 バイブで慰め」(脚本:五代暁子/主演:佐々木麻由子)を三部作の三本目とする「三好家の人々」第一作。第二作の2000年薔薇族込み第五作「奥様 ひそかな悦び」(脚本:五代暁子/原案:たけだまさお/主演:佐々木麻由子)が、現状配信でも見られない何気にアンタッチャブル、あとたけだまさおて誰?足かけ四年、計三本に亘る中キャスティングに変動が見られ、綺麗に皆勤するのは椿役の佐々共のみ。杉男も全作通して神顕ではあるものの、「好き者家族 バイブで慰め」は写真と声だけのカメオ出演。礼子と徳三が、後ろ二本では佐々木麻由子とかわさきひろゆきに後退、もとい交代してゐる。さくらに至つては「奥様 ひそかな悦び」に出て来ないばかりか、河村栞が「奥ひそ」で別の役(礼子の姪・めぐみ)を演じてゐたにも関らず、「好きバイ」で復活したさくらに扮してゐたりするのが実にフリーダム。ex.川崎季如に関して、m@stervision大哥は徳三は久保チンの役と難じておいでだが、平勘もなかなか悪くない。滑つてゐる、より直截には滑り散らかしてゐる風に映るのは、他愛ない脚本が悪い。
 序盤徒に尺を食ふ、クスリとも面白くない下ネタ・ホームコメディには匙を投げかけさせられつつ、三年前に没した形になつてゐる、遺影も用意されない亡母を徳三が押し倒す様をさんざ見せられて来た、杉男が実は御無沙汰云々以前に性自体忌避する人物造形には、逆にこの二人のコンビで、さういふ周到な手数を踏まれると却つて面喰ふ。事が順当に運んだ場合、当然同じタイミングで大学に進学する子供を二人抱へる家計の苦しさと、夫婦のレスをテレクラに直結する力業も、量産型裸映画の下駄を履き案外スムーズに決まる。声で気づかないのかといふプリミティブな疑問を到底否み難い、礼子が椿と、さくらは杉男とテレクラに燃える三好家にて、徳三が長い昼寝感覚で文字通り再起動。何故か番号を知つてゐた、奈津美に直電をかけ参戦する電話性交トリプルクロスは、そもそもの無理筋さへさて措くと、へべれけの極みながらクライマックスに足る賑々しさ、堂々と底を抜いた。二番手のM字絶頂を、寸前で百歩譲つて女優部ならばまだしも、選りにも選つて神戸顕一で遮る一大通り越した極大疑問手は、如何せんさて措けないがな。何はともあれ、殊に横乳が狂ほしいほどエモい爆乳に正しく勝るとも劣らない、劇中礼子に入浴―と睡眠―シークエンスがないゆゑ、吉行由実が正真正銘一秒たりとて外さないウェリントンすれすれの巨大なスクエアが、限りなく唯一にして最大の勝因といへるやうな一作。それがどうした、オッパイの大きな美人の御メガネ、それこそ全て。究極あるいは本質、この地上に於いて最も美しく輝く宝玉である。あゝ人生を厭悪するも厭悪せざるも、誰か美女の眼鏡に遭ふて欣楽せざるものあらむ、透谷か。

 箍のトッ外れた賛美は兎も角、姉弟がそれぞれの自室にて、何者かからの合否通知―椿は棚牡丹の裏口なのに―を銘々携帯で待つ。要は撮影を南酒々井で完結させる横着か安普請が生んだ、イズイズム的な不自然さについてはこの際等閑視してしまへ。とも思つたが、よくよく考へてみるに、礼子が徳三の車椅子を押し、二人で海辺に赴く一幕が設けられてゐたりもする、それは何処で撮つたのよ。


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 「欲情牝 乱れしぶき」(2002/制作:セメントマッチ/配給:オーピー映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/撮影:清水正二/編集:酒井正次/音楽:大場一魅/助監督:佐藤吏/監督助手:田中康文・笹木賢光/撮影助手:岡部雄二・星山裕紀/録音:シネキャビン/スチール:津田一郎/現像:東映化学/協力:小川隆史/出演:若宮弥咲・倉沢七海⦅新人⦆・渋谷千夏⦅新人⦆・佐藤広義・なかみつせいじ・浅井康博・樹かず・色華昇子・蓮花・神戸顕一・河村栞・水原香菜恵⦅声の出演⦆・池島ゆたか)。出演者中、二三番手の新人特記と、蓮花に水原香菜恵は本篇クレジットのみ。公開当時に書かれたm@stervision大哥のテクストを繙いてゐて、蓮花ちやんが、橋本杏子の娘さんであるとの記述にはこの期に及んで改めて驚いた。生まれたての、この御子こそ真の新人である。
 ブーケのついたお帽子を頭に載せた、赤いコートの女が電車に揺られる。まるで石井隆にでも気触れてみせたかのやうな、傾けた書体のタイトル・イン。“赤いコートの女”だけだと、すはソリッドな美人かと誤解を招くのかも知れないけれど、実際あるいは直截には、地雷ないし火薬の匂ひのする装飾過多な女である。重ねて恐ろしいのは、どうせその素頓狂な扮装が、主演女優の私物にさうゐない点。
 実家の弘前で家業の造り酒屋を両親と守りつつ、高校で国語教師をしてゐる筈の朝倉栄子(若宮)が突然上京。娘のナナコ(蓮花)も生まれたばかりの妹・鈴木真弓(倉沢)宅に、手紙の一通で寄越した“ちよつと疲れた”だなどと、情報不足か情緒不安定な方便で藪から棒に転がり込む。実は不仲の姉妹が会ふのは六年ぶりといふのはまあ兎も角、真弓がナナコの誕生も朝倉家に報せてゐなかつたとかいふ、音信不通も通り越しプチ絶縁に近い無造作な不自然さが実に五代暁子。真弓の夫で男性成人誌編集者の秀敏(佐藤)は、見てくれに違はずエクストリームに傍若無人な姻族二親等に憤慨し、要はも何も居候の分際で、昔と変らず剥き出しの優越感を振り下ろす姉に、妹も妹で密かに厭忌を再起動させる。仕事を尋ねられた秀敏が、初対面の栄子に脊髄で折り返す気軽さでエロ本を手渡す、ぞんざいかへべれけなシークエンスも実に池島ゆたか。
 配役残り、鈴木家での鍋パーティーに三人まとめて投入される樹かずと渋谷千夏になかみつせいじは、秀敏と仕事上の付き合ひもあるAV監督・高階と、色んなところにピアスを開けたAV女優のアリスに、元々秀敏とは出版社で同期であつた、現在区役所戸籍係の光永洋、愛称ミッチ。色華昇子は真弓が酒乱の秀敏と喧嘩する毎に、ナナコを連れ度々避難する夫婦共通の友人・ヒロミ。真弓とは女同士の仲、一応。高階がアリスとのハメ撮りを、スズキスタジオ(仮称)で撮影する現場。笹木賢光の面相は知らないが、佐藤吏ではなく田中康文でもないため、助監督は小川隆史かも、今何処。栄子の無防備なマウンティングに齟齬を感じた真弓が郷里の近況を訊く、電話越しの同級生・津島サツキの声は水原香菜恵。こゝは順番を前後して浅井康博は、栄子が関係を持つてゐた男々の一人にして、当時高校三年生の教へ子・佐久間克之、限りなく自殺に近い事故死を遂げる。栄子が佐久間君との逢瀬―ないし淫行―を想起する、ゴジラのフィギュアはおろか、そもそもゴジラや(店主:木澤雅博)自体一欠片たりとて導入の用を成してゐない、店主か店番が神戸顕一。例によつて店内には、鷹魚剛が流れてゐたりする。凄え、全部意味がない。一切の合理性も蓋然性もかなぐり捨て、偶さかな固執なり趣味性を邪気もなく放り込んで来る。池島ゆたかは裸映画のプロフェッショナルに徹してゐる―恐らく当人もさういふ自負―風に見せ、商業映画の他愛ない愛玩が不条理か前衛の領域に、グルッと一周しかねない。そして、もしくはそんな池島ゆたかと、河村栞は真弓が呼んだ、栄子を治療施設に連れて行く人。
 故福岡オークラ(2006年閉館)で観てゐて全然おかしくはない筈なのだが、全く記憶に残つてはゐなかつた池島ゆたか2002年第四作。よしんば粗筋ごとあらかた忘れてゐたとしても、純然たる初見でない限り、何処かしらワン・カットくらゐ覚えてゐるものなのに。
 田舎を捨てた真弓が真弓もAV女優であつた、藪の蛇を突く過去は木に竹を接ぎつつ、一方光永は白状する如く秀敏からミッチミッチ連呼される。触れずに済ますのが寧ろ無理も否み難い、「欲望といふ名の電車」(1951/米/監督:エリア・カザン)の、結構アグレッシブな翻案に関して当サイトは論ずる資質を持ち合はせないゆゑ、潔くか臆面もなく通り過ぎる。かんらかんら、開き直つてみせろ。
 裸映画的には二番手が夫婦生活で良質の煽情性を撃ち抜き、アダルトビデオ撮影中を愚直に具現化した結果、濡れ場自体は薄汚れたキネコであれ、三番手の始終への吸収も卒なくこなしてゐる。何故か一旦チョロ負かされる光永―と未だ物心のついてゐないナナちやん―以外、劇中全ての人間と観客・視聴者の癪に障るしか能のない造形ではあるものの、ビリング頭も背中は凄く綺麗。光永から求婚を受けた旨勝ち誇る栄子が、ついでに一番風呂を強奪した浴室でブチかます箍のトッ外れた自慰に、真弓が猜疑を半ば確信に変へる件も、女の裸と劇映画の進行を円滑に両立させた何気に秀逸な一幕。
 尤も総じては、既にそこかしこで触れてゐる通り池島ゆたかと五代暁子の各々が、各々であるところの所以で舗装された一言で片付けると甚だ粗雑な映画ながら、守つてゐた実家か囚はれてゐた郷里を事実上放逐された姉は、何時の間にか完全にブッ壊れてゐた。さういふいはば姉の悲劇を、幼少期から劣等感を拗らせてゐた妹が何気に言祝ぐ残酷は、揚々と帰途に踵を返す、愛娘を抱いた妻の背中を秀敏が半ば呆然と見送る、ラスト・カットの苦味にも加速され形になつてゐる。若宮弥咲の、明らかに板の上寄りと思しき資質が漸く且つ轟然と火を噴く、クライマックスをホラーに垂直落下させる「守つて下さいね」の一大連撃が、相撲でいふところの決まり手的なハイライト。恐らく、ビビアン・リーと若宮弥咲を下手に重ね合はせさへしなければ、案外満更でもないのではなからうか。


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 「目隠しプレイ 人妻性態調査」(1997/制作:セメントマッチ/配給:大蔵映画/監督:池島ゆたか/脚本:岡輝男/撮影:千葉幸男/照明:多摩三郎/編集:酒井正次/助監督:佐藤史/スチール:津田一郎/演出協力:木澤雅博/監督助手:広瀬寛巳/撮影助手:嶋垣弘之/照明助手:多摩次郎/タイトル:道川昭/録音:シネ・キャビン/現像:東映化学/協力:早稲田松竹/出演:真純まこ・桜沢愛香・杉原みさお・久保新二・樹かず・H ひろぽん・神戸顕一・木澤雅博・丘尚輝・H2 ひろぽん/SPECIAL THANKS:田口あゆみ・田口みき・槇原めぐみ・中田新太郎・佐々木共輔・浅岡博幸・伊藤要・土橋聞多・林田義行・生方哲・中山則政・松島政一・石動三六・西山亜希・大浦貧北斎・ラーメン光男・田中里佳・米谷信胡)。助監督が、吏でなく佐藤史なのは本篇クレジットまゝ。惜しい、一本足らない。あと照明の多摩三郎は、散発的にカミングアウトされてゐる白石宏明の変名かも、次郎は知らん。
 住宅地のロングから、風鈴、西瓜、豚の蚊取線香を連ねる夏の風物詩。目隠しされた浴衣の女が、後手に縛られ転がされてゐる。そこに入つて来たマスクの男が女の尻を捲り、観音様に荒々しく指を捻じ込む。牝豚、口汚くか底浅く女を罵る声で、男が久保新二であるのが聞いて取れる。男が果てたのち、目隠しを外された真純まこがマスク男に「いやー!」と上げた悲鳴が暗の逆で白転して、三宅夕子(真純)はその日も午前様の配偶者を待つ居間で目覚める。果敢―もしくは無策―に突つ込んだ陳腐の壁を、突き破る勢ひのどストレートな夢オチが清々しい。夫の茂樹(樹)が漸く帰宅、ハウススタジオ外観にタイトル・イン。開巻の風物詩に話を戻すと、この手の苔生したクリシェは、ぼちぼち憲法で禁止したとて別に罰は当たらない気がする。
 二人でデパートに行く約束を、茂樹が接待ゴルフとやらで反故。さうした場合の埋め合はせないし謝罪として、それは果たして如何なものかとさりげなくない疑問も否み難い、茂樹は人から貰つた早稲田松竹の招待券で茶を濁す。LKGN(1996)のポスターが見切れる早稲松に大人しく出向いた夕子は、表の往来で五年前の元カレ・オカダ健二(久保)と再会する。と、ころで。アロハばりに派手な品のないシャツのみならず、まさかの短パン。浅学菲才に品性下劣とのコンボもキメた当サイトは当然の如く与太者につき、紳士のスポーツとされるゴルフにも縁がないのだけれど、茂樹は然様にラフな格好でコースの敷居を跨げるのか。
 配役残り、フレームの中では久保チンの肩に上手く隠れてゐた、桜沢愛香は健二の今カノ・ナガノともえ。盛大なSPECIAL THANKS勢―とイコール岡輝男の丘尚輝―が、その他観客要員。田口みきが丘尚輝と、石動三六は多分西山亜希、そして田口あゆみが中田新太郎とカップルで観に来てゐるのは見切れたものの、槇原めぐみの連れは不明、あと佐々共何処にゐる。こゝで、恐らく今回きりしか使用してゐない名義の田口みきは、池島ゆたか二作後の1998年ピンク映画第一作「薄毛の薄情女」(脚本:五代暁子/主演:誰になるの?)に於いて、田口あい名義で母親である田口あゆみと改めて共演する一親等。「薄毛の薄情女」が何故かサブスクには収録されないまゝ、バラ売り限定でex.DMMに入つてゐるのを配信してある以上そのうち見る。その他田口あいの確認可能なフィルモグラフィとしては、全四作通してお母さんは出てゐない、「ザ・痴漢教師」シリーズ第三作「制服の匂ひ」(1999/監督:池島ゆたか/企画・脚本:福俵満/主演:里見瑶子)の生徒要員。閑話休題、映画が詰まらなく寝落ちてしまつたのか、夕子は五年前の回想か淫夢に突入。当時の上司であつた健二と付き合ひ始めた夕子は、処女を捧げる。ところがある夏の日、趣向を違へる旨提示した健二は、目隠しと手錠を施した上、夕子をベッドに拘束して暫し放置。複数人の男の気配に夕子が慄くと、一斉にバイブで嬲り始める四人のマスク集団が神戸顕一以下四名、神顕は途中でマスクを外す。微妙にハンサムなのが何か可笑しい、顔出しのH ひろぽん(a.k.a.広瀬寛巳)は三宅家に出入りする、朝日ならぬ曙新聞の集金人。正直何時まで経つても三番手が出て来もしない、荒木太郎なら平然と映画を詰んでのける温存ぶりにやきもきさせられた、杉原みさおは茂樹の浮気相手、を豪快にオーバーシュートするサンドラ女王様。初登場時に於ける、肌を隠してゐる面積の方が寧ろ狭い、「HOT LIMIT」時のT.M.Revolutionみたいなボディコンが何気に凄まじい。しかも、どうせそれ私物だからな。
 小屋の表―とタダ券―だけ無断で撮影して、場内は上野スタームービー(現:オークラシアター/inc.上野オークラ劇場)辺りで誤魔化してみせるのかと勝手に思ひきや。正式に取りつけてゐた早稲田松竹の協力に、軽く驚かされる池島ゆたか1997年第四作。といふか、よくよく調べてみるとこの時点では未だ、上野スタームービー(1999~2009)は前身の上野スター座(昭和27~1999)であつた。
 何れかの実家が太いのか結構な戸建に暮らしてゐる割に、贅沢気味な寂寥も抱へる専業主婦が、かつての交際相手に刻み込まれた、調教の苛烈あるいは甘美な記憶に囚はれる。直截にいふと所謂イヤボーンの一辺倒で、濡れ場といふ虚構と現実の往き来に終始する、裸映画的には頑丈で、も決しておかしくはなかつたのに。輪郭的にサンダルの裏を彷彿とさせる、主演女優の文字通り間延びした面相に関しては綺麗な首から下で免責、百歩譲り等閑視して済ますにせよ。最初に激しくズッこけたのが、例によつての「いやー!」で夕子が早稲田松竹の客席に帰つて来ると、周囲の客が全員マスクを着けてゐる相当に衝撃的、な筈であつた二段構への幻影。結構なスペクタクルにしては池島ゆたかのカット割りが一言で片づけるとトロすぎて、この鮮烈なイメージがどうすればこゝまでモッサリ出来るのか、不思議で仕方ないのが以降全篇を支配する、長き木端微塵か五里霧中の火蓋、どんな映画なんだ。近所の往来でも仮面男のヴィジョンに苛まされる夕子が、三人目で広瀬集金人と鉢合はせる件も矢張りカット割りが壮絶で、単なる下手糞が超現実主義の領域に突入しかねない。シュルレアリスムといへば、夕子が最初に健二のサディズムに翻弄される過程で、モチーフに「記憶の固執」を持ち出すセンスにも頭を抱へた。ダリに祟られミスター・ピンク自身が、グニョ~て湾曲すればいゝのに。グルグル何周かして度肝を抜かれたのが、熱を出した健二を見舞つた夕子が、珍しく早い茂樹よりも遅く帰宅した夜。様子からおかしく、ガウンの下は内出血と縄跡で傷だらけの茂樹が、藪から棒に別れて呉れと土下座するや否や、照明落としてピンスポ点火。会社の馘と浮気の告白を畳みかけた茂樹の、「もう駄目なんだ、俺は変態なんだ!」なる藪から棒な絶叫を、高笑ひで飛び込んで来るサンドラこと杉原みさおが「さうだよ!お前はダメ人間なんだ」と受ける。壮絶とでもしかいひやうのないシークエンスには、派手に爆散し始めた映画が、全体何処まで壊れてしまふのか。果たして、俺の容量不足の脳はそのある意味画期的な瓦解に耐へ得るのかと、正体不明の不安を覚えた、メタ的サスペンスでもあるまいし。三度目に健二宅を訪ねた夕子に、健二曰く「お前の本当の姿を見せてやる」といふので夕子の眼前に広がつた光景が、アバンを回収してゐるといへばいへなくもない、浴衣で拘束ジョイトイ責めされてゐる己の姿。が、結局劇中現在とかいふ、時空をも無造作に歪めて意に介さない、映画自体が条理を超えるプリミティブな難解さには言葉を失ふしかなかつた。結局、あくまで偶然ぽかつたリユニオンからそこかしこに発生する、些末な齟齬になんぞ気に留める訳がない、健二の「全部俺が仕組んだ」的な大胆か大概な姦計は、けれども同時に在り来りではあり、ありがちに悪夢がループするラストは丁度いゝ塩梅に失速。映画を見てゐての発狂は、辛くも免れる、『ドグラ・マグラ』か。そこは「マウス・オブ・マッドネス」(1994/米/監督:ジョン・カーペンター)を思ひだしてやれよ、“覗くな、狂ふぞ”―狂気の入口を―なるエッジの効いた惹句で売つておいて、気が狂ひさうになるくらゐ詰まらなかつたけどな。
 唯一正方向に優れてゐるのは、ともえが自らと同じやうに犯されてゐる、夕子の妄想で二番手の絡みを消化する案外満更でもないスマートさと、同様にキナ臭くスリリングなタイミングから、首の皮一枚木に三番手を接ぐ惨状を回避するサンドラに関しても。池島ゆたかと岡輝男の間で悪い相乗効果が発生したのか、要は池島ゆたかの大根演出に、岡輝男のへべれけ脚本が火に油を注いだ問題通り越した炎上作。自分とこで撮つた映画を観に行つてみた、としたら、早稲松の関係者には今作がどんな風に映つたらう。いつそ途中で寝てて呉れとさへ、お節介な老婆心ながら思ふ次第。


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 「快楽学園 教師も教へ子も」(2000『変態ハレンチ学園 危ない教室』の2022年旧作改題版/制作:セメントマッチ/配給:新東宝映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/企画:福俵満/撮影:下元哲/照明:代田橋男/編集:酒井正次/音楽:大場一魅/助監督:佐藤吏/監督助手:下垣外純・長谷川光隆/撮影助手:アライタケシ/照明助手:たかだたかしげ/録音:シネキャビン/スチール:津田一郎/現像:東映化学/出演:今井恭子・河村栞・間宮ユイ・北千住ひろし・佐々木共輔・栗本一幸・幸野賀一・山名和俊・入江浩治・しょういち・月夜野卍・中山のん・生方哲・吉永幸一郎・山本幹夫・のろけん・アンタッチャブル林・笠原シズオ・かわさきひろゆき・神戸顕一・平川直太・石動三六・山ノ手ぐり子・千葉誠樹・池島ゆたか/特別出演:水原かなえ・林田ちなみ・麻生みゅう)。出演者中幸野賀一と、しょういちから笠原シズオに、平川直太と山ノ手ぐり子に千葉誠樹、あとカメオの三人は本篇クレジットのみ、今回。“今回”といふのはこの映画、改題される毎に、ポスターに載る面子が微妙に変動してゐる模様。
 どうも小屋が端折つてゐやがると思しき開巻、青雲学園に新任した国語教師の杉浦ともみ(今井)を、終始クククク半笑ひの教頭(石動)が校内に案内する。物件的には東映化学(現:東映ラボ・テック)の校舎に足を踏み入れるや、最初にともみの意表を突くのは男子生徒・寺山(入江)の、詰襟は兎も角白塗りといふ奇怪な風体。矢継ぎ早に、洗面台でいはゆる角オナする若尾(下の名前は文子か/間宮ユイ)に度肝を抜かれたともみを、まんま暗黒舞踏ののろけんと、キャラクター的には子供を死なせた子守ぽい水原かなえに、ゴスロリ服でアコーディオンを奏でる月夜野卍(=大場一魅)が翻弄する。教職員含め、所狭しと魑魅魍魎の集ふ地獄の如き娯楽室―自販機の置いてある部屋―を経て。この意匠は手放しで秀逸な要は日の丸と同じデザインで青地の中央に円く穴を抜いた、青雲校旗をともみに披露した教頭がスッコーンと突き抜けちやつて下さいとか、適当にキリを整へてタイトル・イン。こゝで、本職は映写技師であつたのろけん(a.k.a.木村健二)の、俳優部としてのフィルモグラフィを追へるだけ追つてみると。全て池島ゆたかの1997年第一作「美人秘書 パンストを剥ぐ」(脚本:五代暁子/主演:佐野和宏)、1998年ピンク映画第二作「超いんらん 姉妹どんぶり」(脚本:五代暁子/主演:水原かなえ・吉行由実/厳密にはSpecial Thanks)、1999年ピンク映画第二作「巨乳秘書 パンストの湿り」(脚本:五代暁子/主演:北千住ひろし)の三本で木村健二名義。今作と、2001年第二作「ザ・痴漢教師4 制服を汚せ」(脚本:五代暁子/主演:佐々木麻由子)はのろけん名義。一年に一本づつのペースで、計五作目下確認出来る。
 詰められる限りの配役残り、この人の性染色体がXXであるとすると、中山のんは生徒の仮称紐女。紐女といふのは、常に紐で何かしてる人、何だそれ。もしも中山のんがXYであつた場合、卑弥呼もとい紐子は山ノ手ぐり子(=五代暁子)か、特出隊の二役でなければ画が成立しない。生方哲・吉永幸一郎・山本幹夫は多分その他生徒、ウィリアム・テル君誰だ。佐々木共輔・栗本一幸と、神戸顕一に山ノ手ぐり子は娯楽室にて会議中と称する教師。佐々木共輔は赤いジャージの保健体育教師、ケンちやんと後述する校長からは呼称される。清大映画に於ける、山科薫の如き闇雲な演技プランの栗本一幸は、矢張り後述するレオナに片想ひを爆ぜさせる中野。意図的にブッ壊した作品世界に違和感なく親和してゐるものの、実は何時も通りの神戸顕一は高田、普段から何処かずれてゐたんだ。その辺りが、アングラに出自を持つ池島ゆたか―驚く勿れ「天井桟敷」出身―と馬が合つたのかな。パッと見普通の山ノ手ぐり子の背中には、「殺すな!」と荒い筆致で大書した物騒な貼紙が。幸野賀一と山名和俊にしょういちは生徒、大衆演劇の花形みたいな幸野賀一はマキノ。山名和俊が溝口で、短パン×サスペンダーのしょういち(a.k.a.横須賀正一)は黒沢。シネフィル息するのやめたらいゝのに、なんて口性無い悪口を垂れるものではない。林田ちなみはオンオフの差が劇的な購買部の職員、要は躁鬱か。そして全世界大好き我等がナオヒーローこと平川直太が、ニューヨーク在住でともみと遠距離恋愛中の、イマジン彼氏・祐一郎。首からボルヴィックを提げた、造形が今となつてはコッ恥づかしい河村栞はスケ番のミサキレオナ、凄惨な男性遍歴の果ての真性ビアン。神顕に勝るとも劣らず、何時も通りの北千住ひろしはともみに岡惚れを拗らせる同僚教師・野村。レオナからともみ攻略法を唆された際の、朗らかに歪んだイッヒッヒ笑ひがこの人の真骨頂。かわさきひろゆきは佐々共と薔薇を咲かせる校長、少なくとも二人の関係に於いては、ケンちやんがウケ。ともみがナイトメアに見た新郎姿の祐一郎の、傍らにゐる謎の新婦は麻生みゅう。夢は裏切らないのかも知れないが、時間といふ奴は残酷である。恐らくビリング的にアンタッチャブル林と笠原シズオが、盆が覆つてから慌てて駆けつける白衣二人組か。千葉誠樹は、野村の死を単独事故の形で隠蔽する精神科医、池島ゆたかはともみの父親。
 油断してゐると地元駅前ロマンに池島ゆたかの未配信作が飛び込んで来た、2000年ピンク映画第三作。生徒部が大体顔に何か塗つてゐるのと、甚大な人数、兎にも角にもプロジェク太のへべれけな画質には往生した。一日に二周する体力はもうとうに残されてゐないゆゑ、日を改め二回観て漸く落ち着いた次第。
 ヒロインが新しく赴いた高校は奇人変人博覧会の様相を呈する、より直截には気狂ひ病院のやうな魔窟だつた。中に出しさへしなければ校内での性交をも解禁した、大らかといふか底の抜けた校風に女教師は曝される。だが然し、最も壊れてゐたのは、的な所謂よくあるお話。正直新味を欠いた物語でなほ観客を驚かせる切れ味を、基本鈍重な池島ゆたかに望むべくもなく。滅多矢鱈な頭数を必死に掻き集めたにせよ、所詮は脆弱な俳優部と、そもそも明確か単独には存在しない美術部。否みやうのない構造的な安普請は、如何ともし難い。ワーキャー褒めそやすには別にあたらない漫然とした一作ながら、徒に狂気を高尚か大仰に飾りたてるのでなく、最も卑俗な妬み嫉みに落とし込む着地点にはグルッと一周した清々しさも覚えた。三本柱が全員同じやうな体つきの、オッパイが一枚欲しくなる裸映画的には、レオナがともみを捕まへ、強制的に咲かせる百合。引きのフィックスは全く以て平板な画角であれ、仰角に狙ふ寄りに際してはペニパン―あるいは張形と同様の疑似男根―であるのををいゝことに、無修正でかなりアグレッシブに攻め込んだ際どいショットを放り込んで来る。覚める兆しの窺へぬ、よるの夢にともみが生き続けるラスト。溝口に朗読させた『サーカス』の、久方ぶりで耳にした「ゆあーんゆよーん」に、中原中也が地味に流行つてゐた往時を生温かく偲ぶ。


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 「淫行家族 義母と女房の妹」(1997/制作:セメントマッチ/配給:大蔵映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/プロデューサー:大蔵雅彦/撮影:千葉幸男/照明:高原賢一/編集:酒井正次/助監督:佐藤吏/撮影助手:諸星光太郎/照明助手:原康二/録音:シネキャビン/スチール:津田一郎/タイトル:道川昭/現像:東映化学/出演:木下敦仁・佐々木基子・伊藤清美・飯田孝男・館山あかり・神戸顕一⦅特別出演⦆)。
 堂々たる自己紹介モノローグで、野村さとし三十三歳(木下)大登場。電算機メーカーで開発に携はり、仕事後は真直ぐ郊外の自宅に帰る野村が家庭に恵まれ幸福である旨まで述べた上で、暗転して仰々しいかおどろおどろしいタイトル・イン。アバンは大蔵雅彦と、五代暁子のクレジットのみ一旦先行。何気に表札は白テープか何かで隠された、毎度毎度の津田一郎宅に辿り着いたさとしを、妻の久美(佐々木)以下、義母の静子(伊藤)と義父・晃一(飯田)に、義妹・エリカ(館山)の声が順々に迎へる。凡庸と不自然の境界で揺れる不安定なシークエンスに対し、画は何の色気も変哲もない固定された玄関口ロングといふ、二つの無造作のダイヤモンドクロスが、不条理の領域に突入しかねない不穏は不穏なタイトルバック。
 寝室に入つて来た久美が右足を引いてゐるのが偶さかこの時、佐々木基子がプライベートで怪我でもしてゐたのかと思ひきや、予想外の不具設定。とは、いへ。ベットの上では久美が足の不自由を感じさせない、夫婦生活の熱戦を覗いてゐた静子と晃一が、自身らも励みかけるも、晃一が年波に屈し中折れ気味に終る。間違ひなく翌日、駅前で義息を待ち構へてゐた晃一は、折入つた頼みを野村に耳打ち。その際に野村が洩らす、「さう、たとへばこんなこともあるのだ」とかいふ、まるで周知安が書いてゐて芳田正浩が読みさうなリズムの独白に、実は半ば実相が見えてゐもした。久美は眠るベッドを脱け出した野村は、晃一も交へた巴戦的に静子を抱く。一戦を、今度はエリカが覗いてゐて、エリカはエリカでワンマンショー遂行。二つの濡れ場が、目まぐるしく交錯するピンク映画らしいカットバックが清々しい。
 配役残り、神戸顕一は最後にさとしが出勤した、といふか去つた津田スタに、機材車みたいなワゴンで四人を迎へに行く社長。明後日からの次の現場が、山梨の旅館で期間は三日間、水上荘で次の映画の撮影でもするのかよ
 三ヶ月後の次作「巨乳・美乳・淫乳 ~揉みくらべ~」(脚本:五代暁子/主演:槙原めぐみ/二番手)と、二本しか活動の形跡が見当たらない謎の女優部・館山あかりが三番手に控へる、池島ゆたか1997年第二作。ほかの誰でも別に構はない館山あかりは兎も角、より深く揉みくらべとリンクしてゐる―かも知れない―点が、久美が風呂から上がつて来るのを待つ間、さとしが床の中で読んでゐるのが原田宗典の『何者でもない』(1992)。終に自身の輪郭を捕まへきらなかつた、ヒロイン像の核がこの時点で既に池島ゆたかの中にあつた可能性を窺はせつつ、よくよく考へてみるに、今作自体にも決して掠つてゐなくはない。
 結婚した男が妻のみならず、妻の母なり妹―の女体―をも頂戴する、俄かなハーレム生活をマン喫する、何処のオッサン週刊誌なら。下手な鉄砲を流石にそろそろかいよいよ本当に撃ち尽くす?量産型裸映画のそこそこ長い歴史にあつて、累計三億本は撮られてゐたにさうゐない類型的な物語に、劇映画的な旨味はひとまづもふたまづも特にない。反面、表情筋以外の動きが乏しい、といふかほとんど動かない飯田孝男の逆マグロぶりさへ等閑視するならば、卒はないけど中身もない濡れ場がひた走る始終が、裸映画的にはとりあへず安定する。全員喫煙者の賭けポーカーと、当初は藪蛇にも思へた跛行造形を地味な火種に、ホームドラマの卓袱台を豪快に引つ繰り返してのける結末は、池島ゆたかの演出部としてもな鈍さに幾分以上だか以下に足を引かれ、必ずしも鮮烈な印象を残すほどのものではない。尤も、当人同士男の約束とやらに悪し様にいへば縛られた、デフォルト俳優部・神戸顕一の起用法としては案外完璧で、深夜薬を飲む夫に久美が目を留めるカットを、エリカ改めマユコのぞんざいな詮索で回収する一手には軽く驚いた。兎にも角にも、あるいは要は。大した深みもない薄いネタでの一発勝負と来た日には、幕引きの手際に長けた深町章の如く、チャッチャとオチを割ると、観客の感興が醒めないうちにとつとと映画ごと畳んでしまふ。それを大蔵が許す許さないはさて措き、何なら六十分も丸々は使はない、高速戦に持ち込むに如くはないのではなからうか。社長自らハンドルを握るワゴンの出発を、俯瞰で暫し回した末、海岸を長々とパンした先で漸く木下敦仁がフレームに入つて来るまどろこしさに、世評と違へ当サイトは俳優部としても演出部としても大根と難じる、池島ゆたかが池島ゆたかであるところの所以が透けて見えるともいへる。
 備忘録< さとしは一週間の外出許可を貰つてゐた、神顕率ゐる(有)イメクラファミリーの利用者。南酒々井から病院に戻つたさとしを迎へる、担当医の声は池島ゆたか


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 「巨乳・美乳・淫乳 ~揉みくらべ~」(1997/制作:セメントマッチ/配給:大蔵映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/プロデューサー:大蔵雅彦/撮影:千葉幸男/照明:多摩三郎/録音:シネキャビン/編集:酒井正次/スチール:津田一郎/助監督:佐藤吏/撮影助手:池宮直弘/照明助手:多摩次郎/監督助手:広瀬寛巳/タイトル:道川昭/現像:東映化学/協力:木澤雅博・STAR DAST/挿入歌:『ぼくの育つた都市⦅まち⦆』鷹魚剛 詩・曲・歌/出演:槙原めぐみ・館山あかり・風間今日子・杉本まこと・熊谷孝文・荒木太郎・飯田孝男・神戸顕一・北千住ひろし・池島ゆたか・藤森きゃら・木澤雅博・ひろぽん)。
 海岸に赴く、手向けの花を携へた女と三人の男、暗転して“7月上旬―初夏”。ジャズバー店長の飯田孝男と、店の常連客でビリング順にマリコ(館山)と五十嵐(杉本)にカズヒコ(熊谷)の四人が、一月半前泥酔した上での溺死でその砂浜に打ち上げられた、マリコの供養に訪れる。マリコは三月の終りか四月の初めに、現れた時と同様、皆の前から不意に姿を消してゐた。ところで協力の「STAR DAST」は、それホントにUでなくて“DAST”なん?プリミティブな疑念はさて措き、波に花を投げた、そもそも口跡の心許ない館山あかりが海に向かつて「バカヤロー!」した、してのけた瞬間の、曇天に煌めくやつちまつた感。エンディングで使用するのとはまた別の鷹魚剛が流れ、フィルムハウス作のやうな品のないタイトル・イン。ひとつ根本的な疑問が、タイトルでググるとジャケの画像が出て来る、今作のVHS発売。正当に筋を通してゐるとは到底思ひ難い、タカオゴー方面は果たして如何に処理してあるのか、全くのノータッチ含め。フィジカルが手許に残るソフト化でなく、配信なら通るといふ話でもないのだが。あと、池島ゆたかが好きなのか正体不明の鷹魚剛フィーチャーは、確認出来てゐるだけで2002年第三作「猥褻ストーカー 暗闇で抱いて!」(脚本:五代暁子/主演:葉月蛍)に於いて、より物語に埋め込まれた形で見られる。
 配役残り、“その2ヶ月前―春・5月”。こゝで漸く顔を見せる―最初のカットは土座衛門の背中―槙原めぐみは苗字不詳のマリコ改め、仁科かすみの名前でデビューするAV女優。藤森きゃらがスタイリストで、北千住ひろしがカントク。助監督のひろぽん(広瀬寛巳)が青さすら残しかねないくらゐ若いのが、明後日か一昨日なハイライト、木澤雅博は多分録音部。荒木太郎は男優部のマシーン、ではなくパワフル、尤も造形は大して変らない。風間今日子がかすみを北千住カントクに紹介した、企画物女優部のキクチ安奈。神戸顕一は路上飲みするかすみに声をかける好色漢、かすみと神顕の悶着に、安奈が介入したのが二人のミーツ。“その1ヶ月前―春・4月”、実はマリコでもかすみでもなく、本名は遠野飛鳥が公衆電話からかける、電話の向かうの母親ボイスは五代暁子。新しい人間の登場しない“その1ヶ月前―春・3月”と“そのさらに2ヶ月前―冬・1月”は飛ばして、“前の年の10月・初秋”。池島ゆたかは飛鳥が会ひに行く、五代暁子とは離婚してゐる父で探偵の竹宮、入婿であつたのか。竹宮姓の探偵といふキャラクターは、その後2005年第二作「肉体秘書 パンスト濡らして」(脚本:五代暁子/主演:池田こずえ)と、2006年第三作「熟女・人妻狩り」(脚本:五代暁子/主演:三上夕希)で佐々木麻由子が継ぐ、本家込みでほかにもあるか知らんけど。
 確かに量産型娯楽映画的ではある、過去からも未来へも類作と連関する縦方向の繋がりならばあちこち窺へなくもない反面、あくまで今作単体として触れる限り、終に足が地に着かず首は据わらぬまゝ、木に竹を接ぐアングラフォークで止めを刺す池島ゆたか1997年第三作、映画の自害か。
 その時々で名前さへ変へる、掴み処のない風来坊、当人にも。夭逝後大体四十九日を起点に、マリコだかかすみだか飛鳥の来し方を、断片的にか漫然と遡つて行く。とかいふ、趣向ならば酌めこそすれ。死亡時の状況なり真相は必ずしも兎も角、何せ自ら見つけきらなかつた飛鳥自身の外堀が、家族の存在以上一欠片たりとて埋められるでなく。一種の持ち芸ででもあるかの如く、飛鳥がユカリや安奈に要は限りなく全く同じ要領で上手いこと拾はれては、その時々そこかしこで居合はせた者達と寝る、男女問はず。ふんだんに、主演女優の裸を見せる点に関しては大いに天晴、にせよ。如何せん同じやうなといふか、同じ立ち位置から半歩も動かない展開の繰り返し蒸し返しで話は一向膨らむでなければ深まるでなく、となると半ば当然特にも何も面白くもなく。マリコとの出会ひに、ユカリが情を交したばかりのカズヒコに関する愚痴を絡める。五代暁子にしては最大級に心を砕いた跡を看て取るべきなのか、首の皮一枚流れが設けられて、ゐるとはいへ。しかも、もしくは挙句終盤まで温存した、あるいは温存する破目になつた。槙原めぐみはおろか―色んな意味での―大女優・風間今日子をも擁してゐながら、選りに選つて瀬戸恵子の再従姉妹みたいな、何処から連れて来たのか色気があるのかないのかよく判らない、二番手の濡れ場で締めの濡れ場を敢行するといふか断行もしくは強行する、蛮行が兎にも角にも致命傷。その際の、ユカリに対するぞんざいな扱ひを下手に強調しようとした諸刃の剣で、単なる底の浅さに堕した熊谷孝文のメソッドも既に死んだ映画に鞭打つ、息絶えたのか。かと、いつて。全く箸にも棒にもかゝらない純然たる玉石混合の多い方なのかといふと、決してさうでもなく。導入がへべれけ気味なのは正直否めない、安奈とかすみが出し抜けに咲かせる、百本に一本級の百合の名花がエロくてエモい、天下無双のエロ―ションを轟然と撃ち抜く。たとへば新田栄作に際しての、見易さ乃至シンプルな即物性に徹したプレーンな画とはまるで別人の、千葉幸男による艶のあるカメラが捉へた、槙原めぐみと風間今日子が正しく竜虎相搏つ、オッパイの巨山が四峰連なる極上の絡みは至福の眼福。惜しむらくは、そのエクストリームを序盤で通過か消化してしまふ残念な構成ともいへ、一撃必殺の絡みで十二分な印象を刻み込む、頑丈な裸映画である。


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 「痴情報道 悦辱肉しびれ」(1998/制作:セメントマッチ/配給:大蔵映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/撮影:清水正二/音楽:大場一魅/編集:酒井正次/助監督:森山茂雄/監督助手:佐藤吏・広瀬寛巳/撮影助手:岡宮裕/録音:シネ・キャビン/スチール:津田一郎/現像:東映化学/協力:青木大介/出演:冴島奈緒・篠原さゆり・水原かなえ・かわさきひろゆき・杉本まこと・神戸顕一・藤森きゃら・北千住ひろし・山ノ手ぐり子・大場一魅・おくの剛・石動三六・池島ゆたか・三国コキジ)。出演者中、三国コキジは本篇クレジットのみ、アナグラムな。
 夜道を進む車の車載視点、ガーン!とか虚仮脅しの音効鳴らしてクレジット起動。運転するのはかわさきひろゆき、助手席に座る篠原さゆりの「ねえ、何処行くの?」といふ問ひに対し、「当てはある」とだけ答へる。監督クレまで完走した上で、暗転タイトル・イン。要は駆け落ちの風情を窺はせる、に過ぎないといへばそれまでの中身に、土台高々一時間のうち、二分弱を費やすアバンが早速間延びも否めない。
 車が辿り着いたのが、当てとはいへ単なる空家。兎も角二人は、そこで情を交す。一転、昼間の校舎外景を一拍挿み、冴島奈緒大先生がキネコで飛び込んで来る。最後まで抜けなかつた、大仰な口跡で。劇中高校と学園とで名称がブレる、間を取つてメイワ高園の三年生・サエキ奈津美(篠原)が担任の内海ナオヤ(かわさき)に誘拐された事件を、FMW局のリポーター・キノサトマドカ(冴島)が伝へる。何でまた、フロンティア・マーシャルアーツ・レスリングと思くそ被るFMWにしたのか、直截な疑問が脊髄で折り返す。取材班は多分ディレクター辺りの遠藤(杉本)と、撮影部に照明部。ホント刹那的にしか映らない、これ照明部はひろぽんかなあ。横柄以前に髭が胡散臭い教頭(神戸)以下、ファミマの表で捕まへた奈津美と同級生のモモコ(水原)ともう一人(大場)。同僚教師(山ノ手)に、内海が暮らすアパートの大家夫婦(藤森きゃらと北千住ひろし)。奈津美が救ひを求める電話を直接取つた、元都議会議員で資産家の父親(池島)以外は皆が皆内海が教へ子を拐かすだなどと、何かの間違ひではなからうかと信じ難い印象で一致してゐた。それはさて措き、水原かなえは兎も角、大場一魅がセーラー服でぬけぬけと飛び込んで来るカットの、弾けるやりやがつた感。
 配役残り、おくの剛は今度はマドカが消息を絶つた事件を伝へる、モップを載せたやうな髪型のアナウンサーか番組司会。石動三六が適当な苦言を呈する、憎々し気なコメンテーター。三国古事記、もとい三国コキジがよく判らないが、FMW局の撮影部でないとすると、写真といふか写メでのみ登場する、奈津美本命のウェーイな彼氏・リョースケくらゐしかそれらしき人影は見当たらない。
 出馬康成のピンク映画最終第四作「猥褻事件簿 舌ざはりの女」(1995/制作:シネ・キャビン/主演:菊地奈央)で水揚げ、同年大御大・小林悟の怪談映画「色欲怪談 発情女いうれい」(如月吹雪と共同脚本)と、四作後の「パイズリ熟女・裏責め」(脚本:五代暁子)に主演。三年ぶりで冴島奈緒が大蔵に帰還した、池島ゆたか1998年薔薇族込み最終第八作。その後は更に十一年空き、吉行由実の「アラフォー離婚妻 くはへて失神」(2009)。2012年に没した冴島奈緒にとつて、大蔵での戦績は全五作となる。不勉強にして、冴島奈緒が“3000年型の淫売サイボーグ”なる、カッ飛んだ異名を誇つてゐたのをこの期に及ぶまで知らなかつた。何処の天才の発案だ、あるいは紙一重で惜しい人か。
 全体誰が介錯するのか見当のつかなかつた、三番手の濡れ場はモモコが教頭と援交してゐる形で思ひのほかスマートに処理。三本柱各々の絡み―マドカは上司的な遠藤と男女の仲―をふんだんに見せつつ、外堀も丁寧に埋めて行く前半は、普通に手放しで充実してゐた。遠藤は詰まらない仕事と軽く呆れる、千葉の漁師を朝一取材するアポを通して内海と偶さか遭遇してしまふ、早朝の外房線にマドカを乗せる段取りも地味に秀逸。と、ころが。尺の折り返しを跨いでの東浪見篇の冒頭、内海を知る者全員が首を傾げた騒動の真相を、生存者の回想でアッサリか呆気なく開陳。さうなると後半は特異な状況に放り込まれた、ヒロインが如何なる酷い目に遭ひ、そこから逆襲に転じるのか的なサスペンス系アクション。さういふ方向にでも、転ばざるを得ないといふか転ぶのだらう。そんな、素人考へなんて何処吹く風。そのまゝ真直ぐ突つ込んでのけるのが、演者としても演出家としても大根と当サイトは評する池島ゆたかの、台詞回しと同様に棒状のドラマツルギー。凶行に至る仔細に驚愕の十分を割いた末、終に完全に壊れた内海に、何故かマドカが奈津美になりきり寄り添ふ意味が全く一切力の限り判らない、木端微塵の着地点がケッ作、断じて傑作とはいふてをらん。要はかわさきひろゆきが無様な右往左往に終始する、満足に振り回せもしないチェーンソーを、漫然と持て余すばかりのちんたらしたショットを無駄に長く回した挙句、カメラすら徒に動いてみせたりする。演出部も俳優部も頼みの綱の撮影部さへ、全滅する壮絶なラストは別の意味で衝撃的。壊れた男を描くのは勿論構はないが、映画ごと壊れる必要は別にないと思ふ。外堀が丁寧に埋まつたかと思ひきや、本丸がまさかの掘建小屋。前半戦は首位ターンした筈なのに、気づくと最下位でシーズンを終へてゐた、まるで2015年のベイスターズのやうな一作。改めて振り返つてみるに、そもそもお芝居に下手な癖のある大先生ではあつたが、なかなか作品自体にも恵まれなかつた冴島奈緒のフィルモグラフィには、悲運の冠が最も馴染むのではあるまいか。


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 「濃密舌技 めくりあげる」(1996/企画・制作:セメントマッチ/配給:大蔵映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/プロデューサー:大蔵雅彦/撮影:千葉幸男/照明:高原賢一/編集:酒井正次/スチール:津田一郎/助監督:高田宝重/監督助手:瀧島弘義/撮影助手:嶋垣弘之/照明助手:藤森玄一郎/録音:シネキャビン/現像:東映化学/挿入曲:『ハートブレイク・マーダー』詞・曲・唄:桜井明弘/出演:林由美香・川村結奈・田口あゆみ・山本清彦・樹かず・平岡きみたけ・池島ゆたか・山ノ手ぐり子・藤森きゃら・神戸顕一)。
 砂嵐にタイトル・イン、ブラウン管からカメラが引くと、度外れた痛飲の跡を窺はせる女の部屋。懲りずにボトルを喇叭で呷り、麻由(林)は終に部屋の酒を飲み尽す。衝動的に手首なんて切つてみたりもしがてら、想起する逢瀬で主演女優の初戦。麻由の部屋での事後、二年付き合つた恋人の立花(樹)は専務の娘と見合したとやらで、寝耳に藪から棒をブッ刺す別れを切り出す。回想明けは夜の南酒々井、御馴染み津田一郎の自宅スタジオ。自身が不倫を拗らせてゐた際には麻由の世話になつた、友人・カオル(川村)の家に麻由は一時転がり込む、右手首には包帯を巻いて。中略、歩道橋の上から車の往き来をぼんやり見やる麻由に、山本清彦(以後やまきよ)が「死にたいの?」と無造作に声をかける。死ぬのを手伝ふ云々称したやまきよは、有り金叩いて買つたとのトカレフを白昼堂々誇示。やまきよが銃を入手した目的は、自分を裏切つた女に対する復讐。「失恋自殺より、失恋殺人を選ぶタイプなの、俺」とかやまきよがドヤるカットの、途方もないダサさに失神しさうになるが、麻由はといふとコロッと感化かケロッと感心、立花を射殺する妄想に耽る。トレンチとサングラス、頭には中折れを載せ、ハードボイルドでも気取つた風情はある意味微笑ましくもあれ、当時顔がパンパンに丸く、殊に仰角で抜くと顎のラインなんて原田なつみと大して変らないリファイン前の林由美香が、へべれけに柄でないのは時代を超え、得ない御愛嬌。基本キレにも硬質とも無縁の、池島ゆたかの大根演出に後ろから撃たれた感も大いに否定出来ないとはいへ。
 山ノ手ぐり子と藤森きゃらが前後する以外、本クレとポスターとでビリングが変らない俳優部残り。最初はカオル宅のテレビに登場する藤森きゃらは、愛人を共犯者に夫が妻を殺したのちバラバラにした事件を、都合三度費やし執拗に伝へ続ける「ニューススクエア」のアナウンサー。田口あゆみが、件の専務令嬢・麗子。平岡きみたけは麻由が逗留してゐるのも構はず臆せず、カオルが家に連れ込む彼氏、ではない男・ケンジ。麻由の近況も踏まへると尚更、不可思議の領域に突入して無神経な行動ではある。それはさて措き、持ち前の男前と、平岡きみたけの凄惨なマッシュルームの陰に隠れ、今回樹かずも実は、マオックスこと盟友である真央はじめよりチンコな髪形。イコール五代暁子の山ノ手ぐり子は神通力ばりの的確さを爆裂させながら、其処は何処かの屋上なのか、よく判らない謎のショバで商売してゐるミステリアスな占師。要は改めて後述する麻由が膨らませる第二次イマジンの舞台共々、それらしきロケーションを工面する手間なり袖を端折つた、その筋の大家(“おほや”でなく“たいか”)といへば今上御大の存在がまづ最初に浮かぶ。絶対値だけは無闇にデカい―ベクトルの正負は問ふてない、といふか問ふな―無頓着、名付けてイズイズムの証左である。捌け際はジェントルな池島ゆたかは、高田宝重がバーテンの狭い店で麻由に声をかける助平親爺。林由美香の絡み数を稼ぐ、男優部裸要員といつても語弊のない役得配役。・・・・あれ、誰か忘れてないか?
 荒木太郎が「異常露出 見せたがり」(主演:工藤翔子)でデビューした五ヶ月弱後、池島ゆたか―は1991年組―の1996年ピンク映画第三作は、その二十二年後、よもや二人して放逐されようとは。所謂お釈迦さまでもといふ、池島ゆたかの大蔵上陸作である。それまで池島ゆたかが主戦場としてゐた、エクセスがその手の徒な意匠を許すとも思ひ難く、桜井明弘の楽曲を使用するのも多分今作が初めてなのではあるまいか。爾来、主に合はせて百本近いピンクと薔薇族を大蔵で撮つた末、池島ゆたかのフィルモグラフィは2018年第三作「冷たい女 闇に響くよがり声」(脚本:高橋祐太/主演:成宮いろは)を現時点でのラストに、有体にいふと干される形で途絶えてゐる。荒木太郎のハレ君事件が起こつた当初から当サイトのみならず唱へてゐた、大蔵が多呂プロの梯子を手酷く外したと看做す認識が、一審判決に於いて裁判所の認定する事実となつた今なほ、潮目が変る気配も五十音順に荒木太郎と池島ゆたかが復権を果たす兆しも依然一向に見当たらず。当然、当サイトはさういふ現状を是認するところでは一切全然断じてない旨、性懲りもなく重ね重ね言明しておくものである。池島ゆたかも荒木太郎も特に好きな監督といふ訳では別にないけれど、物事には道理、渡世には仁義つて奴があるだらう。ドラスティックに話は変るが、フと気づくとまたこれ、清々しいほど意味のない公開題だな。
 男に捨てられ死にたガール・ミーツ・捨てられた女を殺したいボーイ。麻由とやまきよ共々、といふかより直截にいふと共倒れる洗練度の低い造形と、甚だ野暮つたいディレクションには目を瞑れば、ありがちともいへそれなりの物語に思へなくもない、如何せん瞑り辛いレベルなんだけど。尤も、麻由が拳銃を文字通り借りパクする形でやまきよと一旦別れたが最後、二番手の濡れ場と池島ゆたか相手の林由美香二戦目を消化してゐる間、山本清彦が中盤丸々退場したきりの豪快か大概な構成が、既に致命傷に十分な深さの中弛み。と、ころが。出会つた時と同様、麻由とやまきよが偶さか往来で再会してからの終盤。映画がV字復調を果たすどころか、寧ろ全速後退を加速してのけるのが凄い、勿論逆の意味で。先に軽く触れた麻由の第二次イマジン、順に麻由が撃ち殺す麗子―はこの段階では面識ないゆゑ仮面着用―と立花が、折角そこら辺の児童公園で撮つてゐるにも関らず、格好の大きな滑り台、もしくは小さな坂状の遊具を滑り落ちない、地味に画期的な拍子抜けには「使はねえのかよ!それ」と度肝を抜かれた。単なるか純然たるおざなりさにも呆れ果てつつ、恐ろしくもその件が底ですらなく。更なる真の底は底抜けに深いんだな、これが。津田スタ撮影の、やまきよは何もせず二人で一泊するだけのつもりが、麻由がトカレフの借り賃を体で払ふ締めの一戦。前段に二人が三発目の「ニューススクエア」を見てゐた都合で、床とカメラ―または視聴者ないし観客視点―の間にはテレビが置かれてある。吃驚したのがそのまゝオッ始めてしまふものだから、体を倒し横になつた途端、麻由の首から上が家電に隠れ見えなくなる、壮絶に間抜けなフィックスには引つ繰り返つた。流石に幾ら量産型娯楽映画が時間に追はれたにせよ、現場で誰も何もいはなかつたのか、といふかいはんか。素人の邪推ながら、初号を観た林由美香も、まさか自分が映つてゐないなどと思つてゐなかつたにさうゐない。挙句次々作と大体同じやうな、木に竹を接ぐ用兵が別の意味で潔い神戸顕一が、滔々と垂れ流す説明台詞で映画に止めを刺す係で登場する、ニューシネマ的な無常観をぞんざいさと履き違へた無体な結末で完全にチェック・メイト。五代暁子は自ら山ノ手ぐり子として秀逸な伏線を敷いたつもりなのか、麻由が勝手に吹つ切れる適当なロングが凡そ感情移入ないし余韻の類を残さない、スーパードライなオーラスは当時大蔵に君臨してゐた、大御大・小林悟の尻子玉を抜く脱力感と紙一重。側面的なツッコミ処が、後年、然様な一作が“池島ゆたか Archives 厳選30作品集”の括りで円盤発売されてゐる現実の、プリミティブな破壊力。うーん、厳選してこれなのか。
 終始漫然とした映画が瞬間的に爆ぜるのが、フィリピン人の風俗嬢である女の印象を、麻由から問はれたやまきよが脊髄で折り返す速さで「シャロン・ストーン」。やまきよ一流の惚け具合弾ける、こゝの「シャロン・ストーン」は普通に声が出るくらゐ可笑しい。山本清彦の役名をやまきよで通したのは何も愛称に固執したのではなく、劇中意図的に、固有名詞が終に伏せられてゐた由。

 最後、に。やまきよと樹かずが控へる上で、大将の神戸顕一が飛び込んで来れば即ち、確認出来てゐる中では最も新しい、神戸軍団三枚揃ひの八本目となる。といふのは、決して神など宿さぬ些末。
 備忘録< 麻由が線路に捨てた、オートマチックを拾ひに行つたやまきよは電車に轢かれ即死、神顕はそこに通りがかる饒舌な通行人


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 「美人秘書 パンストを剥ぐ」(1997/制作:セメントマッチ/配給:大蔵映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/プロデューサー:大蔵雅彦/撮影:千葉幸男/照明:渡波洋行/編集:酒井正次/スチール:津田一郎/助監督:加藤義一/監督助手:立澤和博/撮影助手:諸星啓太郎/照明助手:耶雲哉治/録音:シネキャビン/現像:東映化学/出演:佐野和宏・佐々木基子・杉原みさお・神戸顕一・雅野新・木村健二・小山亜樹子・田口あゆみ)。
 古の、麗しの大蔵王冠開巻。新都庁から、麓の公園にたどたどしくティルト。タッパのある男が佇むのを、遠目に捉へてタイトル・イン。「眩しくて目が潰れさうなんだよ」、神戸顕一が小林徹哉似の禿男(木村)をポップに揶揄する、酒を酌み交すルンペン三人組(もう一人は雅野新、この人何者なんだろ)にクレジット起動。鳩の餌を売る杉原みさおを通り過ぎて、無闇にスカート丈の短い同僚(小山)と話をする佐々木基子の手前で、徘徊する視点の主が歩を止める。改めて、全員抜いた引きの画に監督クレ。最初のカットに話を戻すと、逆に曇天を煽るラストもさうなのだが、何でまたそんなカメラの動きがぎこちないのか。
 「貴方、コーヒーが入りましたよ」。子供達も待つ鎌倉の家を出て十年、ホテルで暮らす夫で小説家の桜木文彦(佐野)に、良枝(田口)がコーヒーを淹れる。何某か体に爆弾を抱へる風情を窺はせつつ、桜木は自身最後の長篇と目した『遠き家族』に取りかゝつてゐた。オーソドックスに攻める夫婦生活の事後、外堀を埋める会話がてら桜木が妻の方を向くと、良枝は消失してゐた。
 この人等は別に消えたりしない、配役残り。書きかけの原稿を読ませて貰ふと、「イケますよ先生、この調子でサクサク書き上げて下さいよ」。神戸顕一は如何にも難しさうな大先生に、ぞんざいに接する編集者の鈴掛、流石五代暁子の脚本だ。佐々木基子は単なる秘書といふより、自らも新人賞を目指し筆を執るとなると、書生に寧ろ近いと思しき由美子。そして杉原みさおは桜木がハメ撮りにうつゝを抜かす、一度ならず部屋に呼ぶホテトル嬢・キナ。
 池島ゆたか1997年第一作は、前年上陸を果たした大蔵第二作。豆腐にかすがひの野暮を一吹き、プリミティブにツッコんでおくと美人の秘書は確かに出て来るけれど、パンストを剥ぐシークエンスなんて特にない。
 シティホテルの一室を舞台に繰り広げられる、部屋の主たる作家を中心に据ゑた色事の数々。実はど頭のロングで長身の男、あるいは徘徊視点の主にビリングを踏まへるとなほさら決して辿り着けなくもないゆゑ、要はタイトルバックでオチが読めるといへば読める、m@stervision大哥が二十年前に御指摘の通り、2003年第四作「牝猫 くびれ腰」(脚本:五代暁子/主演:本クレだと本多菊次郎)と同じネタの一作。無論、先行してゐるのが今作である以上、正確には「牝くび」を全面的な焼き直しといふべきか。m@ster大哥は種明かしの冗長さを主に難じられた上で、「秘書パン」の方に軍配を上げておいでだが、冷酷なうつし世と対照的な、甘美で栄光に満ち満ちたよるの夢の、夜の夢ならではの揺らぎを描く点に関しては、「牝くび」の方が幾分長けてもゐる。飛び道具込みで俳優部の面子的にもさして遜色は見当たらず、当サイトは「牝くび」にも分があると看做すところである。といふのも、五代暁子の暴力的な陳腐に池島ゆたかの大根演出が火にガソリンを注ぎ、主人公が文学者にしては、逐一自堕落な遣り取りの羅列が割と耐へ難い。書きかけの新人賞応募作を読んで下さいと乞ふ由美子に対し、「完成してからぢやないと読まないよ」。大学の文学サークルの先輩でもあるまいに、どうして斯くも言葉が軽いのか。たとへば山﨑邦紀辺りであれば、もつと幾らでも形を成してゐたらう雑な印象も禁じ難い。つ、いでに。後述する乱交の一夜に関し、のうのうと配偶者に語る桜木が指摘された甘えを認めると、当の良枝は何なら軽く得意気に「貴方の最期を看取るのはアタシですよね」、「だつて妻ですもの」、だとさ。放埓の限りを尽す亭主を、甲斐甲斐しく甘やかし倒して呉れやがる献身的な良妻。とかいふ男にとつてクッソ都合のいゝ造形が、五代暁子の手によるものといふ一種の利敵行為。浜野佐知の地獄突きを喰らつて、一遍血反吐でも吐けばいゝ。一方裸映画的には、とりあへず正攻法に徹する。岡惚れを拗らせる鈴掛に、桜木が由美子を宛がふ件。押し倒された由美子が、鈴掛の棹の先も乾かぬうちに和姦に応じるへべれけさには、もう立ち止まらない、それこそキリがない。無防備な隣室に潜んだ桜木とキナも交へた、並走する絡みのカットバックから、最終的には怒涛の乱交に突入する展開は大いに盛り上がる。桜木とキナが由美子と鈴掛に見つかつた際の、「キナでーす」は杉原みさおにアテ書きされたとしか思へない軽やかな名台詞。反面、桜木が募らせる猜疑の形を採つた、流れ的にどうしやうもなかつたのかも知れないが、締めの濡れ場でトメの田口あゆみを介錯するのが佐野でなく、神顕といふのは矢張り些かならず厳しくはないか。


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 「好色女類図鑑 美味しい人妻たち」(1996/制作:セメントマッチ/配給:新東宝映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/プロデューサー:中田新太郎/撮影:小西泰正/照明:多摩三郎/編集:酒井正次/スチール:佐藤初太郎/助監督:高田宝重/監督助手:松岡誠/撮影助手:高橋秀明/照明助手:多摩次郎/録音:シネキャビン/現像:東映化学/出演:佐々木基子・原田なつみ・しのざきさとみ・野口四郎・山口精次・山本清彦・神戸顕一・山ノ手ぐり子・池島ゆたか・雅之新・飯田孝男・木澤雅博)。
 タイトル開巻、佐々木基子がテレフォンセックスに耽る。「夫のゐない昼間、私は2ショットダイヤルに電話をかけまくる」、「知らない男とかうして楽しむのが堪らないのだ」。文言からぞんざいな、モノローグ起動。早速思ひやられた先は、結論を先走るとまあそのまんま的中する。
 “PART 1 美奈子(29才)の場合”、気持ち悪くて仕方ないから直したが、原文は全角英数なんだな、これがまた。美奈子(佐々木)は2ショットダイヤルで捕まへた、役名不詳の野口四郎と大塚駅前でランデブー。少なくとも野口五郎とは似ても似つかない野口四郎が、誰になら似てゐるのか当サイトは未だ答へを出せてゐない。モスとマックどちらのハンバーガーが美味いか言ひ争ふ、ルンペン二人組(モス派の飯田孝男とマカーの木澤雅博)の前を通過して、美奈子とゴロもといシロンボは室内に矢鱈プレスリーが調度された、ラブホテル「PAL」に入る。人物そつちのけで壁のElvisを抜く、間抜けな画角が演出部のディレクションであつたのならば、撮影部は蹴ればよかつたのに。二回戦に突入したタイミングで、割と大きめの地震発生。帰りの身支度を整へてゐると、銃声らしき異音が鳴る。改めて振り返つておくと1996年といふのは、阪神淡路大震災の翌年にあたる。
 配役残り、“PART 2 カオリ(25才)の場合”。社長の倅(神戸)と計算尽くで結婚したカオリ(原田)は、夫を送り出すや“女王体質の女”―当人独白ママ、気質でなくて体質なのかよ―に豹変。矢張り大塚駅前で犬のミツル(山口)と合流、そして「PAL」に入る。多分一年程度の短い実働期間を駆け抜けた山口精次が、ダイエットに成功した伊集院光といつた風情の、素面で変態的ななかなかの逸材。“PART 3 弥生(35才)の場合”、弥生(しのざき)は繁華街でスカウト―の声は池島ゆたかの二役、混同も否めない―されAV女優に。かうなると最早勿論「PAL」にて、池島カントク(仮名)の「淫乱人妻天国」十本目の撮影、雅之新が鉢巻の照明部。あともう一人フレーム内に紛れ込む―後々高田宝重も画面最奥に見切れる―パッと見国沢実かと見紛ふ、見るから内向的さうな眼鏡が松岡誠なのかしらん。インタビューの最中、平然と闖入して来る山本清彦が業界随一の巨根を誇る男優部、その名もパワフル須藤。パワフルと、マシーンの激突が見たい。それはさて措き、アダルトビデオに出た理由の中で、レス・ザン・夫婦生活を語る弥生に対し、池島カントクが例によつての棒口跡で「ふうん、典型的寂しい人妻症候群て奴ですね」。幾ら五代暁子が書いて池島ゆたかがクッ喋る台詞とはいへ、流石に中身のなさが酷すぎる。あまりに凄まじい空疎に、CO中毒の如く卒倒するかと思つた。
 かといつて殊更豪勢な布陣が構へてある、といふ訳でも特にないものの。年の瀬スレスレ封切りゆゑ正月映画の扱ひであつたのかも知れない、池島ゆたか1996年薔薇族含め最終第七作。
 地震と銃声、ついでに池島ゆたかが元来大好きな―かつ元ネタ準拠の―エルビスで、同日同時刻同じホテルに居合はせた、三組の男女を繋ぐ。五代暁子にしては凝つた構成に、ググッてみるとジム・ジャームッシュ「ミステリー・トレイン」(1989)の翻案とのこと、いはれてみると確かに。それは、兎も角。よくいへば硬質なのか女の乳尻に対する拘泥を感じさせない、総じてフラットな撮影。所詮巨漢の原田なつみは触れる琴線を選び、しのざきさとみはビデオの撮影中を方便に、キネコ画質の泥水に沈む。有難さをさして感じさせない裸映画と、地味に脆弱な男優部、それは果たして地味なのか。今作固有の非力さに加へ、弥生は普通に愉しむ、独善的なボカーマンをやまきよが繋ぐ件にこそ、キャスティングの妙―他の選択肢としては真央はじめか平川直大―込みで面白さはあれ。結局、偶さか同じ駅のホームから銘々の帰途に就く以外には美奈子とカオリに弥生が掠りもしない、甚だ漠然としたグランド・ホテルには派手に拍子を抜かれた。尤も、土台ジャームッシュ自体そんなもんだろ、といつてしまへばそれまでにもせよ。火に油を注ぐのがオリジナルの新ならぬ珍機軸たる、アウトドアといふかノードア二人の木にオートマチックの接ぎぶりが割と衝撃的。この人等の遣り取りに、全体何の意味があるのだらうと首しか傾げずに見てゐたところ、まさか片方が銃を撃つて、もう片方が撃たれるためだけの、破天荒なギミックであるなどとは思ひもよらなかつた。百貫、もとい百歩譲つてカオリはまだしも、美奈子と弥生が、瀕死のゴジラや店長を見捨てて行く姿も、何気に娯楽映画を濁す。そもそも、銃声オンリーで別に事済むところを、わざわざ前年の大災害を明示までする地震を持ち出す、藪蛇なアクチュアリティは甚だ如何なものか。三本柱を纏めて抜く、印象的なロングで小西泰正が遅れ馳せながら漸く本領を発揮したのも束の間、カット尻も乾かぬうちに、街頭ビジョンのアナウンサー(山ノ手ぐり子=五代暁子)が蛇の足も生やし損なふラストが別の意味で完璧。ただ美奈子と弥生は知らないが少なくともカオリは、飯の準備その他諸々加味するとなほさら、七時の神顕帰宅時刻に足がつく気がする。

 オーラスは、地震で本郷二丁目の飲食店「キッチン 高田の厨房」―表記適当―が軽く焼けたとかいふしやうもない小ネタ。それはもしかして、当時高田宝重が本当に台所から火事を出したのか?


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 「SM教師 教へ子に縛られて」(1996/企画:セメントマッチ/制作:オフィス・バロウズ/提供:Xces Film/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/撮影:下元哲/照明:田中二郎/編集:酒井正次/スチール:津田一郎/助監督:高田宝重/監督助手:森山茂雄/監督助手:渡辺崇之/監督助手:小林真紀/撮影助手:便田アース/撮影助手:田中益浩/撮影助手:市川修/緊縛:沼田尚也/録音:シネキャビン/現像:東映化学/協力:本山結花・村山潤一/出演:葉山瑠名・西山かおり・伊藤清美・モト大野・真央はじめ・神戸顕一・藤森きゃら・鹿野景子・おくの剛・木澤雅博・島澤啓子・奥山栄一・佐野和宏)。主演者中、真央はじめがポスターには真央元で、鹿野景子から奥山栄一までは本篇クレジットのみ。無闇に煩瑣なサードとフォース助監督、チーフ以降撮影部のクレジットは本篇ママ。
 村山潤一と本山結花の手による、葉山瑠名をモデルにした訳でも別にないイラストと、緊縛を施された葉山瑠名当人の艶姿をタイトルバックにクレジット起動。協力の辺りで胡坐縛りの股間に寄り、俳優部に入る手前で乳に寄る。そしてトメの佐野和宏に差しかゝつたタイミングで、エロくエモい股縄に迫る。要所要所で的確に踏み込んで来る、堅実なカメラワークが素晴らしい。とこー、ろがー。それー、なのにー。充実したアバンを経て、本篇に入つた途端。映画が逆の意味で見事に蹴躓くのが良くも悪くもエクセスライク、いゝ要素は何処にあるんだ。美人なのかさうでもないのか判断に苦しむ主演女優、若いのか案外イッてゐるのか釈然としない主演女優。原則的に主演はエクセス初出演の女優に限る、とか、正直未だのこの期に意味が判らない自縄自縛の上で、折に触れ何処から連れて来たのか謎めいたかスリリングな女優部を、臆面もせずビリングの頭に据ゑてのける。それが、それこそが当サイトいふところのエクセスライク。おまけに致命的なブリブリの造形まで宛がはれた、大絶賛仮称で新日本高校の多分英語教師・カジカワ美帆(葉山)に、仲のいゝ男子生徒・タケウチ(モト)が服が似合つてゐるだなどとへべれけな声をかける、グルグル何周かして凄惨な学園風景。挙句葉山瑠名に劣るとも勝らず、覚束ないモト大野の口跡が業々と燃え盛る地獄絵図にガソリンを注ぐ。気を取り直して、基本動いてゐるカットしかないのが特定に難い、本クレのみ扱ひの鹿野景子から奥山栄一までが、もう少し頭数がゐるやうな気もする校内要員。この中で鹿野景子といふのは、ソルボンヌK子の本名。また思はぬ名前が飛び込んで来た、量産型娯楽映画の沼は底が抜けて深い。如何にもオールドミス然とした、先輩教員のサイトー(藤森)から三階の放課後見回りを振られた美帆は、無人の教室、机上に放置されたハードカバーを見つける。手に取つてみた美帆は仰天、それは裸の女が縛られた、SM写真集であつた。脊髄で折り返し「何これ?」と声に出して訝しむ美帆の背後から、「美術部の生徒に私が貸したんですよ」。その場に悠然と現れた美術教師の江崎(佐野)曰く、生徒会長でもあるセリザワ(西山)に貸与したものだといふ。一方美帆に対して、折に触れ江崎は絵のモデルを乞ふてゐた。
 配役残り、真央はじめは結婚するのかしないのか何気に危なかしい、美帆の恋人・カズヒコ。伊藤清美は何時の間にかか例によつて、縄をかけられた美帆の眼前、江崎から熱ロウでガッンガン責められる“一年前まで普通の人妻だつた女”カオリ。全くのノーモーションで三番手が鮮烈に飛び込んで来る、奇襲作戦にも似た起用法は側面的なピンク映画の花。は、いゝとして、・・・・あれ?誰か忘れてねえか。
 アナウンスは普通になされてゐたのかも知れないが、何か知らん間に素のDMMの動画配信体制が抜本的に刷新。思ひだしたやうにぼちぼち見進めてゐた国映作の残弾がごつそり消失、国映大戦は第四十四戦で爆散の憂き目に遭ふ。今岡信治の初期作等々、まだ何本か残してゐたのだが。一旦愕然とはしつつ、夢見る少女ぢやゐられない、もとい、項垂れてばかりもゐられない。当サイトももう五十、残り尺がどれだけあるか判らん、判つても困るけど。なので、感想百本のハンドレッド更新は小屋で観ての本更新が望ましいと、意図的に手を出さず寝かせておいた、池島ゆたかの配信作にいよいよ手を着ける。ハレ君事件がなければ、より直截にいふと大蔵が荒木太郎の梯子をコッ酷く外してさへゐなければ、順当にオーピー新作でとうに通過してゐたにさうゐない大正論―自分でいふな―はさて措き、別に、演出部としても俳優部としても池島ゆたかを然程高く評価してはゐない、といふ本音は内緒である、黙れ。兎も角、圧倒的な番組占拠率で、小屋に通つてゐるだけで普通に辿り着いた“無冠の帝王”新田栄以下、配信の下駄も履いた浜野佐知渡邊元嗣深町章。死去に伴ひ、レンタル落ちのVシネをポチッて漕ぎつけた関根和美に続いての、シクス・ハンドレッドである。流石に、七人目はもうないだらう。
 心の隙間を何となく抱へた女が、非現実的に全能なサディストの毒牙にかゝる。背徳的な芸術家像が異様にサマになる、ビートを効かせた佐野ブーストの力を借りながらも、テンプレ的シークエンスのパッチワークの如き、清々しく類型的な展開―と陳腐の粋を尽くした台詞―に物語的な旨味は特にも何も全くない。煌びやかに覚束ない美帆―とタケウチ―の佇まひを地表に露な地雷の起爆装置に、カズヒコの“詰まらない男”ぶりを、観客を納得させる強度で描ききらなかつた得なかつた、痒いところに手の届かない作劇も地味なアキレス腱。尤も葉山瑠名が面相は微妙で、お芝居もよくて御愛嬌ではあれ、脱ぐと乳も尻もプッリプリの肢体は十二分に魅力的、裸映画的にはとりあへず高水準で安定する。矢鱈姦しい、嬌声に耳を塞げば。電撃の伊藤清美投入から幾星霜、驚く勿れ実に五十分の長きに亘つて温存される二番手が、漸く脱ぐ校内調教を経ての、造成地的な山の中に、江崎と美帆が露出スケッチに繰り出す―何故か江崎まで半裸で筆を執る―ラスト。道すがら二人が偶さか交錯する、おにぎりを食べ食べ歩いて来るオーバーオールで、木に神戸顕一を接ぐ素頓狂なキャスティングが個人的には最も面白かつた、枝葉に咲いた徒花か。徒に大仰な選曲が全般的なソリッドさはまるで伴はないまゝに、佐藤寿保作の風味が軽く入つてゐるのも微かに琴線を撫でる。


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 「三十路妻の誘惑 たらし込む!」(1992『団地妻 不倫つまみ喰ひ』の2000年旧作改題版/企画:セメントマッチ/製作:BREAK IN/提供:Xces Film/監督:池島ゆたか・烏丸杏樹/脚本:五代響子/撮影:下元哲/照明:小田求/編集:酒井正次/ヘアメイク:中込由花/スチール:津田一郎/助監督:高田宝重/監督助手:橋本闘志・山下大知/撮影助手:小山田勝治/照明助手:広瀬寛巳/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:草原すみれ・如月しいな・大滝加代・しのざきさとみ・伊藤清美・杉本まこと・大門恭司・神戸顕一・山本竜二・山ノ手ぐり子・切通理作・池島ゆたか)。出演者中、大滝加代がポスターには杉原みさお。仮名遣ひとしては本来こつちが正しい、杉原みさを名義は何回か見覚えもあるが、フルモデルチェンジした大滝加代ver.は初めて観た。
 昨晩もお盛んであつたにも関らず、八木沢祥子(草原すみれ/a.k.a.西野奈々美)が夫・孝一(杉本まこと/a.k.a.なかみつせいじ)に、朝から台所で突かれる後背立位で敢然と開巻。結婚四年、未だ子作りを拒む祥子は、孝一の精を口で受ける。課長に昇進しての転勤も見据ゑた、二週間の大阪出張―杉本まことの台詞では一週間、ちやんとして欲しい―に孝一を送り出した祥子の心なしか悄然とした背中から、街のロングに繋いでタイトル・イン。俳優部のクレジットのみ先行しつつの、スポーツ紙でトッ散らかつた竹宮探偵事務所。別に仕事をする風でなく、虎キチでデーゲーム中継を眺める竹宮(池島)の、尺八を風鈴飯店の出前持ち・サッちやん(大滝加代=杉原みさお)が吹く、ツケすら溜めてゐるのに。その夜、その日も開店休業状態であつた竹探事務所を、人捜しを求めて祥子が訪ねる。対象は現在二十八歳の祥子が十四の時性の知識に欠き妊娠出産した、彼氏(不明、橋井友和かなあ)との間に出来た娘のナカジマユリ(如月)。ユリは子供のゐない姉夫婦の間に生まれた形で育てられてゐたものの、その姉夫婦が海外で交通事故死。帰国したユリは実家に寄こした葉書の、新宿の消印を唯一の手がかりに消息を絶つ。孝一に未だ言ひだせぬ過去含め、祥子はユリが風俗に身を落としでもしてはゐまいかと豊満な胸を、もとい気を揉んでゐた。昭和のオッサンか、昭和生まれのオッサンなんだがな。兎も角、起動した竹宮はジュクを絨毯爆撃的に当たり始める。
 配役残り、伊藤清美は竹宮が初対面の祥子をそのまゝ連れて行く、馴染の店のママ。祥子が用意してゐた前金から、矢張りツケで四万をその場で抜く。スッキリして来たのか、雑居ビルから往来に出たところで、竹宮から話を訊かれる髭デブは高田宝重。神戸顕一は、祥子が淫悪夢を見るハレンチ産婦人科医。イジリー岡田みたいな見た目で、村西とおるみたいな造形。山ノ手ぐり子(=五代響子/現:尭子)の一役目と山本竜二は、嘘情報に振り回された竹宮が誤爆する全く別人のナカジマユリと、そのヒモか風俗店のバイオレントな男衆。しのざきさとみは山竜にノサれた竹宮がノンアポで転がり込む、二年前に別れた元嫁のナオミ。ともに電話越しの声しか聞かせない孝一大阪妻と、先に触れた竹宮にガセネタを吹き込んだ、風俗記者の後輩・遠藤も不明。竹宮が話を訊く、ママチャリの女は山ぐりの二役目。橋井友和アテレコの切通理作は、竹宮が続けて話を訊く新聞配達員。そして大門恭司が、独立採算でユリとマンションに二人暮らしする恋人のテツヤ、職業不詳の単車乗り。
 未配信作が地元駅前ロマンに飛び込んで来た、池島ゆたか1992年第四作、通算第五作。共同監督の烏丸杏樹といふのは橋口卓明の変名で、監督と主演の兼務など罷りならんとエクセス側から難癖をつけられたゆゑ、現場監督を立てた体。池島ゆたかと橋口卓明といふと、実は監督デビューだけだと橋口卓明の方が二年先輩なのだけれど。
 物憂げな女の秘められた来し方に絡んだ依頼を受けた、普段は昼行燈な探偵が繁華街を駈けずり回る。如何にも探偵物語的なストーリーではあれ、なかなか相談がさうはすんなりと通り難い。肥え始め通り越し明確に肥えてゐるルーズな体躯に連動するかの如く、池島ゆたかが演出にもキレを欠き、ある意味リアルでなくもないとはいへ、清々しく垢抜けない二番手はビリングに開いた大穴。大門恭司に関しては男優部にそこまで多くを望まないにせよ、ユリとテツヤの婚前交渉を、全身丸見えの竹宮がガラス戸にへばりついてガン見する、壮絶に無防備なカットには引つ繰り返つた。一見情感豊かに中盤を支配する割に、しのざきさとみは冷静に検討すると本筋に掠りもしない純然たる濡れ場要員。竹宮の相変らずな日常を担保する分サッちやんはまだしもな、杉原みさおに劣るとも勝らない扱ひは案外あんまり。双方向に火種を抱へ、一旦は離婚届を準備した祥子が竹宮と寝てゐながら、孝一と最終的にはケロッとヨリを戻してのける調子のいいハッピー・エンドも、些か理解にも感情移入にも遠い。ゴッリゴリ押して来る絡みの訴求力は、面子的にAV臭さが否めない如月しいなのものを除けば概ね高く、裸映画的な不足は特にない、ものの。ユリ捜しが順調に難航、一旦途方に暮れた竹宮は夜のブランコに志村喬ばりに揺られながら、「この街は、人一人隠すのなんて訳ないもんな」。一件落着したのちには、窓の外に向かつて紫煙なんぞ燻らせての、祥子を指して「一陣の風のやうに、俺の前を過ぎて行つた女だつたな」。何が“一陣の風”なら百貫、いや流石に375kgはねえよ。下手に気取るなり悦に入つた風情が白々しい、総じては漫然とした一作と難じるほかない。

 とこ、ろで。ユリとテツヤは、ユリが結婚最低年齢に達する、二年後には結婚する予定である旨語られる。ググッてみると昭和42年生まれとする記述も見当たる、大門恭司は今作劇中時点で既に未成年には見えない―如月しいなも如月しいなで十四歳に見えない点に関してはさて措く―が、何れにしても未成年の結婚に際しては、民法737条により両親の同意が必要とされてゐる。とこ、ろが。前述した通り、戸籍上ユリの両親は故人。その場合に於ける後見人その他代替者を民法は規定してをらず、テツヤ成人済みの前提で話を進めると、二人の婚姻は受理され得る届さへ出せば、当人同士の合意のみでひとまづ成立する。とことこ、ろでろで。来年度から一昨々年に成立した民法改正で成人年齢が十八歳に引き下げられ、逆に、あるいは併せて、現行二歳差の設けられてゐる結婚最低年齢は、男女とも十八歳で統一される。即ち、未成年の結婚といふ概念自体が消滅する格好となり、畢竟、意義を完全に失ふ737条は削除される。


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