真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「女ざかり 白く濡れた太股」(2020/制作:OKプロモーション/提供:オーピー映画/監督:小川欽也/脚本:水谷一二三/撮影監督:創優和/録音:小林徹哉/編集:有馬潜/助監督:加藤義一/撮影助手:赤羽一真/協力:小関裕次郎・鎌田一利/スチール:本田あきら/音楽:OK企画/整音:Bias Technologist/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:可児正光・しじみ・平川直大・小野さち子・西森エリカ・初美りん)。いつそ倒立させた方がピンと来さうなビリングに関しては、出演順と明示される。脚本の水谷一二三は、小川欽也の変名。
 伊豆急行伊豆高原駅に降り立つた大学院生の武石和生(可児)が、母親の四十九日―父は先に没―も済ませた一段落ゆゑ冬休みを別荘で過ごす旨、大きく伸びでもしがてら説明台詞で全部語る。当然ロンモチ自動的に花宴の武石家別荘に到着した和生改め、劇中呼称で若旦那を別荘番の山田武(平川)と、お手伝ひの小川佳代(しじみ)が歓待。しじみのロイドが狂ほしくキュートで琴線を激しく掻き鳴らす一方、もしくはもしかすると、もーしーかーすると―しねえよ―さういふ造形なのか、平川直大はセットのおかしなツーブロックが、変に老けて映る。その夜、書名が見えさうで識別出来ない文庫本に厭いた和生は、戯れに庭を散策。離れなのか和生が佳代の居室を覗いてみると、山田相手の奔放が豪快の領域に跨いだ情事を目撃。翌日、東京に忘れて来たPCを取りに行かせる方便で、二三日分の小遣ひも渡し山田を人払ひした和生は、敷居の乾く間もなく佳代に朝風呂の背中を流させる。山田が出発した玄関の扉が閉まるや否や和生が佳代を呼ぶ、脊髄で折り返す速さはギャグの空気に片足突つ込みかけつつ、夢なり理想を形にする営みの、ひとつのメルクマールといへるのかも知れない。
 人外の強精を誇る和生が超速でリロードする、連戦が永久(とこしへ)に終らないかに思はせた佳代との濡れ場明け。配役残り、本篇キャプションまゝで“隣の後家”とかぞんざいなイントロで飛び込んで来る小野さち子が、花宴の隣に暮らすだから後家・鈴木枝里。予告に於いては“圧倒的ヒロイン”だなどと称される通り越して賞される、西森エリカが枝里の娘のリカで、初美りんは鈴木家のお手伝ひ・久保芳子。ちなみにポスターでの序列は、西森エリカが頭で以下初美りん・小野さち子・しじみと続く。それと定位置の座をナオヒーローに譲つた大旦那の姿良三(=小川欽也)は、官憲の出る幕があるでなく、今回はお休み。
 コロニャン禍の皺が寄つたか単なる公開待機なら別に構はないが、気づくと今年この期に沈黙してゐるのが地味に気懸りでもある小川欽也の、伊豆で始まり伊豆で終る2020伊豆映画は、五本柱の扱ひが大体均等な前作「5人の女 愛と金とセックスと…」(2019/実質主演:平川直大)からの、西森エリカ主演出世作、一応。今作とは全く関係ない純然たる世間話的な余談ではあれ、従来月の半分しか新作が来ないKMZこと小倉名画座が、新居に通信回線が繋がらないオフ島太郎から現し世に帰還したところ、先月がよもやまさかの五連撃、藪から棒にどうしたんだ。御蔭で前の週に来てゐた、石川欣の三十二年ぶり帰還作を知らなくて逃がす始末、落ち着いたら外王で拾つて来る。地元駅前ロマンでも新東宝が放り込んで来るど旧作とロマポが渋滞してゐる状況につき、降つて湧いた火事場が何時収束するのかは正直知らんけど。
 和生に対し明確に性的な食指を伸ばす枝里は、ジュエルリングみたいな素頓狂な指輪で佳代を籠絡。“将を討つには”―将はリカを指す―云々と和生をハチャメチャに言ひ包めた佳代が、枝里に対する夜這ひをけしかける一方、リカはリカで和生に向ける、仄かな想ひを芳子も酌む。アクティブに暗躍する両家の家政婦に背中を押され、可児正光が棹の萎える暇もなく只々ひらすらに、母娘丼に止(とど)まらず女優部を総嘗めし倒す最早抜けるほどの底すら存在しない、淀みなく絡みの連ねられる一作。開巻第一声の方法論が結局以降全篇を貫く、展開の逐一を随時俳優部にしかもなダイアローグで開陳させる懇切作劇が割りかけた徳俵を、的確な選曲で神憑り的に回避。首から上は全然さうでもないのに、体の肌が妙に汚いしじみのコンディションと、木に竹を接ぐ山田の帰伊―もしくは帰豆―を除けばツッコミ処らしいツッコミ処にさへ欠く、限りなく透明に近い物語がこれで眠りに誘はれるでもないのが我ながら不思議ではあれ、勝手気儘な外様を中心に、銘々が時代に即したピンク映画の在り様を摸索する中、プリミティブな原点に堂々と回帰してのける姿はある意味頼もしく、同等のポジションで映画を撮り続けられる人間が今や事実上小川欽也しかゐない以上、寧ろさうであつて貰はないと困る。ともいへるの、かな、あんま自信ない。とまれ、新奇な手法ないしアプローチばかりが、新しいとは必ずしも限らない。既に通り過ぎたつもりの道で、何某かを完成させたあるいは、これから凌駕してみせるといふのは大抵大概不遜な思ひ込みに過ぎず、万物はしばしば円環を成す。女の裸を、銀幕に載せる。観客の、観たいものを見せる。本義を見失つた―か最初から一瞥だに呉れない―量産型裸映画が、総数自体大した数でもない割に目か鼻につくきのふけふ。小川欽也が辿り着いた現代ピンクの案外到達点・伊豆映画のそれはそれとしてそれなりの清々しさが、穏やかに際立つ。さうは、いつてもだな。流石にこれだけお話が薄いと、七十分の尺は如何せん長からう。一本四千二百秒で撮らせないと家族が死ぬ呪ひをかけられてゐる訳でも別にあるまい、大蔵は今上御大―と希望する者―には従来通りの一時間を特例で認めては如何か。
 西森エリカは相変らず心許なく、ex.持田茜は体調不良。小野さち子は今時よくこの人連れて来たなとさへ思へなくもない、熟女枠の範疇でも更に灰汁の強いマニア専用機。実は作中最強の輝きと安定感を煌めかせるのは、二番手にして三戦目の初美りん。ハイライトは朝食を持つて来た佳代を捕まへ和生が致してゐたところ、佳代お手製の人参酒を持参し、芳子が勝手に上がり込んで来てゐる件。水を差され要は生殺しにされた格好の和生が、芳子の有責を方便に覆ひ被さるのを合図に一旦止まつてゐた、ズンドコ劇伴が再起動する何気に完璧なカットには声が出た。


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 「女子大生セックス占ひ」(昭和59/製作:小川企画プロダクション/提供:オーピー映画/監督:小川和久/撮影:柳田友春/照明:内田清/編集:金子編集室/脚本:水谷一二三/助監督:細山智明/音楽:OK企画/監督助手:石崎雅幸/撮影助手:古谷巧/照明助手:田中照/録音:ニューメグロスタジオ/効果:協立音響/現像:東映化学/出演:三条まゆみ・立花裕子・しのざきさとみ・杉佳代子・風間美香・大山潤次・椙山拳一郎・山本竜二・速水健二)。クレジットには大蔵映画株式会社配給とあるものの、オーピー映画提供としたのは白黒オーピー開巻に従つた。脚本の水谷一二三は、小川和久の変名。
 スッケスケのネグリジェの三条まゆみが、人目も憚らず窓辺にて溜息ひとつ、曇天の街景ロングを抜く。ところで三条まゆみが公称を真に受けると、日曜日封切りは考へ難いゆゑ今作公開時点で二十五歳。正直女子大生役には疑問符も浮かばざるを得ない山口圭子(三条)宅のベッドには、既に会社には間に合はない、恋人で雑誌編集者の真木(大山)が勝手に焦れてゐる。ヤリたくてヤリたくて辛抱堪らん真木に対し、性行自体に未だ乗り気でない圭子の立ち位置を案外手堅く見せた上で、ベッドを引きで捉へた画から、手前に置いたお花にピントを送つてタイトル・イン。a.k.a.柳田“大先生”友貴のカメラがカット頭では画角に凝つてみたり、特に何もないところにスーッとパンして、何事もなかつたかのやうにシレーッと元の位置にまた戻る。前人未踏ないし理解不能の―黒―魔術的カメラワークを仕出かすこともなく、寧ろ拍子抜けするほど順当な仕事ぶりを披露してみせる。初戦をザクッと中途でブッた切つての、最早開き直つたか真木が慌てるでもない出勤風景。圭子も圭子で大学には行かず、週刊誌に与太記事を書いて貰ふ縁で真木から紹介された、「平田セックスクリニック」の助手的アルバイトに。原稿を受け取る用件がありつつ、同伴出勤は流石に気が引け、お茶でも飲んでと一旦雑居ビルの表で別れ文字通り茶を濁して来ようとする真木に、朝食でも摂つてゐたのか店の中から往来の二人を見てゐた平田(椙山)が接触。けだし慧眼とでもいふべきか、平田は圭子の性感未開発を見抜いてゐた。もひとつ、ところで。椙拳のこめかみ付近、生え際に違和感を覚えるのは気の所為かなあ。
 配役残り、圭子らが常用するバーの、バーテンダーは多分細山智明でカウンターの一人客は小川和久。立花裕子としのざきさとみが、圭子の友達・砂原昭子と苗字不詳のエミ、昭子がタチでエミがネコの関係。椙山拳一郎と夫婦共演の杉佳代子は、夫婦生活のマンネリ解消を相談しに平田のクリニックを訪れる、人妻の会田美沙。といふか美沙の主たる出番はサシで平田の診察を受けるカウンセリング濡れ場につき、ある意味リアル夫婦生活ともいへるのか。昭子とエミから乞はれる形で、圭子は二人のマン拓と簡単な陰毛の生え具合を平田に渡し、平田が名を馳せるセックス占ひを依頼。予想外の登場を果たす山本竜二と速水健二は、山本竜二が平田がエミにマッチングする―となるとクリニックの患者である―堅物青年実業家の橋爪で、昭子にマッチングする速水健二は性的に何の問題を抱へてゐるのか全く不明な高倉、普通のプレイボーイにしか見えない。そして、茂みの中でキスこそすれそれ以上には至らないものの、綺麗ないはゆる瓜実顔で実は作中最強の美人である風間美香が、高倉の婚約者・朱実。
 ザッと探して見た感じ恐らくソクミル最終戦となる、今上御大和久時代(昭和51らしい~1998)の昭和59年第九作。が、我ながらな引きの強さに呆れるべきなのかはたまた単純な確率論の問題か、性器に跨つて、もとい世紀を跨いで二十年の時を経た、2004年第三作「痴漢義父 新妻をいたづら」(主演:水来亜矢)のパイロット作。セルフリメイクの元作ではあくまでなく、“パイロット作”とするところのこゝろはセックス・カウンセラーの平田啓介(なかみつせいじ)が、圭子(水来亜矢)のビーナス丘線―要は観音様のアウトライン―が白百合型であるのに狂喜する。といつた主モチーフを共有する程度に二作の近似は止(とど)まり、「痴漢義父~」に於いては会田でなく宮田美沙(小川真実)が看護婦で、エミならぬ藤木恵美(真崎ゆかり)は患者。そもそも圭子が息子(兵頭未来洋)嫁であつたりと、物語的には概ね別物である。
 一応十万人に一人とかいふ抜群の素質を圭子が持つにも関らずな、腰の重さといつたテーマをアバンであつらへたにしては、以降の軸は些かならず定まらない。各々高倉と橋爪を宛がはれた昭子とエミが時間差で男の味に目覚め、百合の結束が緩む展開は面白くもあれ、所詮は本丸を囲む外堀。エミが橋爪と、昭子は朱実から強奪する形で高倉と普通に結ばれる一方、性の悦びにいよいよ目覚めた圭子が、求婚を争ふ平田と真木をまとめて袖に振り、最適解を求めての男性遍歴を期す。といふ結末はそれらしくなくもない、とはいへ。致命的な悪手が、不可解極まりない全ての絡みを中途で端折る完全未遂。そのため圭子の終なる覚醒が十全には描かれず、着地点の微妙な心許なさは如何ともし難い。jmdbにもnfajにも名前の見当たらない、謎の逸材たる風間美香の不脱といふ画竜点睛の欠如も当然厳しく、開巻とオーラスを飾らない曇り空の如く、どうにもスカッとしない漠然とした一作である。


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 「カマキリ女秘書」(昭和59/製作:小川企画プロダクション/提供:オーピー映画/監督:小川和久/脚本:水谷一二三/撮影:柳田友春/照明:内田清/編集:金子編集室/助監督:細山智明/音楽:OK企画/効果:協立音響/録音:ニューメグロスタジオ/演出助手:石崎雅幸/撮影助手:古谷巧・柏原正夫/照明助手:出雲静二/現像:東映化学/出演:三条まゆみ・杉佳代子・南條碧・久須美欽一・末次真三郎・椙山拳一郎・姿良三)。クレジットには大蔵映画株式会社配給とあるものの、オーピー映画提供としたのは白黒オーピー開巻に従つた。脚本の水谷一二三と出演者中姿良三は、小川和久の変名。
 煙草を持つた左手を、口元に運んだ三条まゆみが煙を吹いてタイトル・イン。暫しマッタリ紫煙を燻らすタイトルバックは、まあまあ違ふ、何と。風呂の途中で白川玲子(杉)が電話に出ると、婿養子の貴司(久須美)は遅くなる旨一方的に言明、満足に返事も聞かずに切る。そんな貴司の傍らには、秘書兼愛人の水上光子(三条)が。三人の関係を整理すると元々は社長秘書であつた貴司が、令嬢である玲子に婿入り、東西商事社長の座に納まる。玲子の父親は既に故人、その死去と、貴司の社長就任の前後は不明。ところが貴司は病弱な玲子に不満を覚え、会話の隙間を窺ふに結婚前から続いてゐると思しき、肉感的な光子に溺れるとかいふ寸法。横着?してないしてない、してるけど。
 配役残り末次真三郎は、社長との仲を知りながら、積極的に光子を口説く今村圭志、矢張り所属は不明。南條碧は今村の彼女で東西銀行、ではなく大東銀行員の沢井マリ。杉佳代子の配偶者である椙山拳一郎は、貴司が妊娠四ヶ月の玲子を往診させる、光子に二度堕胎手術を施した産婦人科医・三田、固有名詞用意されてたんだ。こゝは明確に異なる姿良三は、玲子の自殺をまんまと真に受ける新宿警察署の刑事。もう一人刑事が背中だけ見切れるのは判る訳ないが、今村が光子と使ふ店「パピヨン」のバーテンダーは、石崎雅幸ではないゆゑもしかすると細山智明なのかも。
 あはよくばお気づき頂けたであらうか、ソクミルに見つけた和久名義の今上御大昭和59年第五作は、七年後の1991年第六作「牝獣」(脚本:池袋高介/主演:小川真実)に於いて限りなく完コピする焼き直しの親作である。牝獣に際して、池袋高介をクレジットするところのこゝろは皆目見当がつかないのと、もしも仮に万が一、更に遡る祖父作があつたとしてもそんなのもう知らん。
 初戦の光子と貴司の濡れ場を今作は完遂しない、最初に末次真三郎がパピヨンないし摩天楼でなく、東西商事社内に飛び込んで来る。といつた、先に触れた姿良三のポジション含めそこかしこ差異もなくはない―白川家物件も津田スタではない―にせよ、台詞の一言一句からカマキリ女秘書なり牝獣が概ねテイクス・オールする無体なラストまで、結構全くそのまんま。加へて、あるいは兎にも角にも。最も特筆すべきは欽也名義の1992年第六作かつ謎の最初で最後のエクセス作「ザ・変態ONANIE」(製作:新映企画株式会社/脚本:池袋高介/主演:藤崎あやか)と、1997年第一作「本気ONANIE ‐ひわいな中指‐」(脚本:後藤丈夫/主演:泉由紀子)の栗原一良。1996年第七作「人妻・愛人 連続暴行現場」(脚本:水谷一二三/主演:中島かづき)と、伊豆映画プロトゼロ「人妻・愛人 けいれん恥辱」(脚本:水谷一二三/主演:梅澤かほり)の杉本まこと=なかみつせいじに先行して、久須美欽一が二作で同じキャストに座る偉業を成し遂げてゐる。偉いのか如何なものなのかはこの際さて措き、まだ終らないんだな、話が。更に久須美欽一は平川直大を伴ひ、2000年第三作「いんらん民宿 激しすぎる夜」(脚本:清水いさお/主演:野村しおり)と、「湯けむりおつぱい注意報」(2017/脚本:水谷一二三/主演:篠田ゆう)で再び二作同じキャストに座つてゐる。掘れば掘るだけ出て来る、これで全部では、決してないにさうゐない。
 恐らく髪型がおかしい杉佳代子が妙に精彩を欠いて映る点まで込みで、俳優部の面子的には概ね五分。さうなると所詮トレースしてゐる以上、二作の優劣を論じる議論に霞ほどの重みもない。ただ一点牝獣では市村譲ばりに暗かつた玲子を殺害する件が、今回は通常の見せたいものはキチンと見える薄暗さで、現場に貴司と光子が各々ハンドルを握り二台の車で向かふ不可解も、貴司が運転してゐたのは、玲子の車である旨今回は十全に語られる。その癖、光子の車が夜の闇に消えるラスト・カットが、不用意に暗い辺りは逆の意味で隙がない。

 津田スタに話を戻すと、津田一郎は自著『ザ・ロケーション』(晩声社)で儲けた金で建てたさうで、原作とした森崎東の映画版が公開されたのが同年につき、あるいは撮影当時、未だ存在しなかつたのではなからうか。


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 「肉欲婚淫 むいてほじる」(1998/製作:小川企画プロダクション/配給:大蔵映画株式会社/監督:小川欽也/撮影:図書紀芳/照明:内田清/助監督:井戸田秀行/音楽:OK企画/編集:㈲フィルムクラフト/脚本:八神徳馬/監督助手:片山圭太/撮影助手:袴田竜太郎・鈴木一人/照明助手:佐野良介/録音:シネキャビン/効果:東京スクリーンサービス/現像:東映化学/出演:麻生みゆう・工藤翔子・杉本まこと・久須美欽一・林由美香・河合純・樹かず・松島政一・姿良三・片岡圭)。出演者中、捨て仮名を用ゐない麻生みゆうは本篇クレジットまゝで、姿良三は小川和久の変名。
 公園のベンチ、久美(麻生)が恋人(樹)から、発覚した本番ビデオ出演を理由とした婚約破棄を通告される。久美に手も足も出せず二人は別れ、渋谷の夜景にタイトル・イン。タイトルバックで適当に彷徨したのち帰宅、寝転んだ久美が「騙された私が悪いのか・・・・」と一人言つのはビデオ撮影時を振り返る流れかと思ひきや、「でもあんなに愛し合つてゐたのに」と結局入る回想は、樹かずとの婚前交渉。何れにせよ、濡れ場の火蓋を切る点に関しては変りない。正常位の途中でフェードすると、今は一人の久美がオッ始めるワンマンショーに移行、タフな女ではある。婚前交渉も決して打ち止めた訳ではなく、来し方と現在時制とを頻繁に往き来する貪欲なカットバックの末、全裸自慰大完遂。翌日か日を改めて雑誌をめくる久美は、広告が目に留まつた結婚相談所「あゆみの会」に入会してみることにする。ところで久美に、劇中仕事をしてゐる風情が全く見当たらない件。
 配役ある程度残り、三人まとめて飛び込んで来る久須美欽一と河合純に工藤翔子は、「あゆみの会」会長の山口と会員でGSを三軒経営する吉田に、山口が吉田に紹介する坂本加代。実は加代は山口の情婦で、蜂蜜の香るサクラといふ寸法。最初はスナップ写真で登場する杉本まことは、山口が久美にレコメンドする不動産屋といふ体の古川祐二。まんまと気に入つた久美が「この人を紹介して下さい」とか二つ返事で釣られる次のカットで、杉本まことが乳を吸つてゐたりする林由美香は、古川が既に担当してゐる舞子。ここの鮮やかな繋ぎは、絡み以外極めて数少ない正方向の見所。多分二度目のデートで古川を待つ久美を急襲する松島政一は、偶々再会した件の本番ビデオ監督。割つて入つた古川に投げる台詞が、「この久美はなあ、俺の裏ビデオにも出てたことがある女なんだ」。プリミティブの箍がトッ外れた、ど直球に震へる。
 遂に未見の残り弾がex.DMMになくなつた小川和久1998年第一作は、次作以降名義が欽也に落ち着く、和久最終戦。藪蛇な過去で結婚が破断になつた女が、悪徳結婚相談所の敷居を跨ぐ。女の裸の匂ひしかしない物語は、久須美欽一が粘度の高いメソッドを爆裂させる対工藤翔子戦を筆頭に、裸映画的には何はともあれ磐石。その点に於いては、あくまでその点に限つては、命綱を辛うじて死守する。反面、加代とは対照的に、古川もハニーならぬ棹トラップである旨を最初に明示しないゆゑ絶妙な据わりの悪さは拭ひ難く、予想外の正体を明かした吉田も吉田で、依頼人とその後の顛末をスッ飛ばすとあつては、起承転結を転がすだけ転がしておきながら、宙ぶらりんに消え失せた印象は否めない。何より凄まじいのが、古川宅にて久美と一発―中途で端折るけど―キメた事後に、舞子が乗り込んで来る修羅場。に、官憲部に扮した演出部が踏み込んで来るラスト・シーン。片岡圭といふのも、片山圭太の変名にさうゐない。五人を一堂に捉へた画が、驚く勿れ、誰にもピントが合つてない。何処に合はせてんだと節穴を凝らしてみたが、呆れる勿れ、何処にも合つてゐない。結局焦点は終ぞ回復しないまゝ、久美を残して全員退場。改めて麻生みゆうの中途半端な笑顔―流石にここは合ふ―を抜いた上で、暗転“終”。作劇がぞんざいだ何だいふ以前に、ピントすら合はないラストには、グルグル何周かして間違つた感銘さへ寧ろ受けた。目下はすつかり伊豆の聖地「花宴」の番頭づいてもゐるものの、今上御大がデウス・エクス・マキナな刑事を自ら演ずる映画は全体全部で何本あるのか。両手でも、全然足らない気がする。


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 「風俗ルポ ポケベル《裏》売春」(1994/製作:小川企画プロダクション/配給:大蔵映画株式会社/監督:小川和久/撮影:伊東英男/照明:内田清/助監督:井戸田秀行/編集:金子尚樹 ㈲フィルム・クラフト/脚本:林田義行/撮影助手:郷田有/照明助手:佐野良介/ネガ編集:三上えつ子/音楽:OK企画/録音:ニューメグロスタジオ/効果:協立音響/現像:東映化学《株》/出演:小川真実・水鳥川彩・西野奈々美・久須美欽一・太田始・鳥羽美子・杉本まこと)。
 七色に煌めく麗しの大蔵王冠ロゴ、杉本まことの開巻開口一番が「早く脱げよ」。長谷川文男(杉本)が同僚兼不倫相手のアイダ望(西野)に悪い顔で促す、帰社時間に迫られる昼下がりの逢瀬。望がブラウスをカメラ目掛け文字通り脱ぎ捨てて、暗転タイトル・イン。絡み初戦がタイトルバック、雑な体位移動はさて措き、締めの監督クレジットで乳に寄る。案外馬鹿に出来ない、強靭なジャスティス。寧ろ今時の外様辺りが積極的に、この手のコッテコテな古典的メソッドを模倣してみるのも面白い、やうに思へなくはない。
 大胆だか大雑把なのかよく判らないダイナミックな繋ぎで、ベンチに座つた長谷川が深刻な顔で黄昏る。箸が転べば公園、風が吹けば桶屋が往来。少々の不自然さなんぞてんで意に介さず、事ある毎に無料ロケーションを臆面もなく多用してのけるのは、確信犯的量産型娯楽映画の常。閑話休題、事後結婚を理由に望から不意の別れを通告された挙句、その結婚相手とやらが得意先である小林物産の社長子息だとかいふので、長谷川は声しか聞かせない部長(姿良三か小川和久)に馘をも宣告されてゐた。それで社員の首を切れるのか、なかなか機動性に富んだ会社ではある。実は、それだけでもなかつたのだが。再度閑話休題、キリがない。呆然自失と歩道橋から行き交ふ車列を見やる長谷川に、偶ッ々その場を通りがかつた女・冬美(小川)が「吸ひ込まれさう」と声をかける。適当な会話を流して、冬美の―スーサイドを―「少し先に延ばしてみない?」から、カット跨ぐとシャワーを浴びてゐる小川真実。少々無理か飛躍の大きなシークエンスであつたとて、女の裸で捻じ伏せてしまへば万事オッケー。ピンク映画固有の文法が、荒野にも似た地平を飄々と吹き遊(すさ)ぶ。正しく一発で冬美に執心した長谷川が、早速翌日貰つた番号にかけてみると、電話の先はホテトル店「キャンディ」だつた。矢張り声しか聞かせない電話越しの男には辿り着けないから、井戸田秀行なのかなあ。
 配役残り水鳥川彩は、長谷川の妻・唯。キャンディの店長(推定)に、長谷川が冬美の特徴を適当に伝へたところ、今上御大映画に於ける大御大映画影の女神・板垣有美こと、鳥羽美子が飛び込んで来るのが序盤のハイライト。長谷川は一旦落胆しかけたものの、チェンジせず先払ひまでしこそすれ、以降を端折り遂にかとときめかせられかけた、鳥羽美子の濡れ場が拝めはしなかつた点が最大の欠いた竜の睛。長谷川の―元―勤務先「黒川建設」から長谷川家に電話をかけ、当人はいひだせずにゐた失業を唯に発覚させる、だから声しか聞かせない中村はほぼほぼの自信を以て樹かず。その旨唯が長谷川に詰め寄る件に際しては、中村の名前が中本に変つてゐたりする不安定さが、変なところで妥協を知らないイズイズム。長谷川を放逐した唯は、最早声すら聞かせない電話の向かうの友人・キョーコに勧められか唆され、選りにも選つてキャンディでホテトル嬢に。それは余程世間が狭いのか、キャンディが独占的な大手なのか。太田始は冬美の源氏名・リカをチェンジする形での、唯の劇中最初の客、チュッパチャプスが偏執性を表するトレードマーク。久須美欽一は唯だけでなくリカも呼んでの、豪遊に興じる御仁。久須美欽一の、御仁感。最終的に、あるいは主体的に何某か展開の推移に関るでなく、概ね単なる純然たる巴戦要員。
 林田義行脚本にとりあへず驚いた、小川和久1994年第七作。慌てて当たつたjmdbによると、少なくとも1992年から1996年の間に四本ある模様、今作は二本目。後ろ三本が何れも小川和久であるのも兎も角、記録にある初陣がしかも新東宝の佐藤寿保―1992年第四作「制服ONANIE 処女の下着」(主演:浅野桃里)―といふのは何気に衝撃的、何が“しかも”なのか。望んだところで詮ないのは百億も承知の上で、存在を知つたが最後激越に観るか見たくなる、未練しか残らない無間地獄。
 長谷川が冬美に逃げ込んだとか何とか、二人が交す徒にアンニュイな会話周りには小賢しい才気が小走りしつつ、基本線としては久須りんを介して唯とも出会つた冬美が、長谷川の手荷物から二人の間柄を察知、元鞘に戻す御膳立ての手筈を整へるアーバン浪花節。冬美が長谷川とは普通に待ち合はせればいいハチ公前に、唯に対しては再び三人プレイのタッグを組むと称して呼び出すのは、久須りんの存在を紙一重で一幕限りから救出してみせる地味な妙手。結局結婚の破談になつた望も、別に気落ちするでなく出張風俗に転職してゐたりする、世間が狭いなり工夫を欠いたといつた以前の、女優部全員ホテトル嬢だなどと殆ど歪んだ世界観はこの際―どの際なんだ―等閑視すると、何処からでもビリング頭を狙へる加へて小川組に手慣れた三本柱の濡れ場を、何れも質量とも十全に披露する安心して見てゐられる裸映画。長谷川の望との不倫と冬美には求婚、一方唯も唯で歴然とした売春。絶大な火種は双方心に架けた棚に蔵入れ、締めの夫婦生活を堂々と完遂した上で、冬美のポケベルに新たなる招聘が着弾。颯爽と出撃する歩道橋から並木道に引くラストは、一応か力技で爽やかにピリオドを打つ。そんな、ツッコミ処の起爆装置が地表のそこかしこに露出してゐる中でも、一箇所素面で特筆しておきたいのは、長谷川が最初に冬美と寝たのが望と使つてゐたのと同じホテルだといふので、事の最中に望を想起してしまつた長谷川が一旦中折れする件。ハモニカを吹く口が、怪訝な面持ちで止まるシークエンスはそれはそれでそれなりに斬新、裸映画的にはなほさら正方向に煌めく。
 備忘録< “それだけでない”こゝろは、望は黒川とも関係を持つてゐた


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 「若妻不倫 乱れてくねる」(1997/製作:小川企画プロダクション/配給:大蔵映画株式会社/監督:小川和久/撮影:図書紀芳/照明:秋山和夫/助監督:井戸田秀行/音楽:OK企画/編集:㈲フィルムクラフト/脚本:水谷一二三/監督助手:片山圭太/撮影助手:高場秀行・田宮健彦/録音:シネキャビン/効果:東京スクリーンサービス/現像:東映化学/出演:神無月蘭・工藤翔子・泉由紀子・久須美欽一・杉本まこと・神戸顕一)。謎の位置に配された脚本の水谷一二三は、小川和久(現:欽也)の変名。
 王冠開巻、赤バックにフレーム左から神無月蘭の横顔の影が倒れ、顔の天地が反対を向いた、久須美欽一の影が上から下りて来てタイトル・イン。照明が当たるとともに、カメラが引いてクレジット起動。タイトルバックは69、スタッフ先行の俳優部も全て通り過ぎた上で、正常位を一分強の暫し見せて監督クレジット。それだけ、感覚的には明らかに時機を失するほど引つ張るのであれば、いつそ完遂させてしまへばいいのに。
 摩天楼がカウンター右手でなく背中にあるゆゑ、何時もの仮称「摩天楼」ではなく、関根和美がよく使つてゐた印象が強い「美風」、バーテンダーは恐らく演出部。カメラマンの小山(久須美)が、夫が家を空けがちにつきテレクラで遊ぶ男を探す、人妻の麻紀(神無月)をヌードモデルとして口説く。頭の中身が髪の色よりも軽さうな麻紀が二つ返事で小山の誘ひに乗る一方、場面変つて沈痛な面持ちで書類を手にした泉由紀子が、「矢張りあいつ私達を騙してゐたのね」と飛び込んで来る。麻紀同様、小山の甘言に乗つたばかりに、顛末がてんで見えないが泡風呂に沈んだ真弓(泉)が、恋人で探偵の山内(杉本)に小山の身辺調査を依頼。報復の機運を高めつつ、四分半の大熱戦を最後まで完走する。劇伴がハーモニカが咽いでみたりなんかして、気持ち探偵物語調。
 配役残り神戸顕一が麻紀の配偶者で、家には限りなく土産と洗濯物を落としに来るに近い出張アディクト。風邪でも引いてゐたのか、大人しくアテレコしろよといふくらゐ声がガッサガサの工藤翔子は、小山の妻でモデルの山岸ユリ。二人で女を食ひ物にしてゐる格好の毒夫婦であるのだが、さういふ設定ならば、小川真実の方が一層適役に思へなくもない。
 気づくとex.DMMに残り弾も殆ど残つてゐない、小川和久1997年第二作。新作の配信が途轍もなく遅いのは、百歩譲らずとも津々浦々の小屋小屋との兼合ひもあれ、世辞にも積極的とはいひ難い風情を見るに、あまり売れないのかも知れないがもつと旧作も放り込んで欲しい。量産型娯楽映画は、手当り次第、遮二無二数こなしてからが本番。
 麻紀も入る小山のセカンドハウス兼ハウススタジオを、目出し帽マシーンと化した山内がガチ襲撃。ユリを菊まで散らせた挙句、パンティに捻じ込んだダイナマイト―ホントは発煙筒―で脅す形で、銀行口座から七八百万を強奪する。如何にもな焼き直しスメルは、単なる未見に過ぎないやうにも思へるものの今回は不発。小山とユリが吠え面をかく一方、真弓と山内は奪つた要は汚い金でバラ色の新生活、締めの濡れ場もこの二人で担ふ。ところで肝心要のヒロインはといふと、結局神顕との関係も生活に関する不満も一欠片たりとて変化のないまゝに、相変らずテレクラにうつゝを抜かす―テレクラ氏の声の主不明―のが、最早清々しいまでに底の抜けたラスト。今上御大の映画の底が抜けるのはこの期に驚くにも呆れるにも嘆くにも匙を遠投するにも値しないにせよ、裸映画的にはとりあへず安定、も微妙にしないんだな、これが。泉由紀子・工藤翔子と後ろにオッパイ部が控へてゐながら、顔面はデカい割にお胸は然程でもない主演女優が、如何せんノリきれない急所。誰かに似てゐる気が終始してゐたのは、最後の最後に漸く辿り着けた。この人、布袋寅泰と同じ顔をしてゐるんだ。


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 「5人の女 愛と金とセックスと…」(2019/制作:OKプロモーション/提供:オーピー映画/監督:小川欽也/脚本:水谷一二三/撮影監督:創優和/編集:有馬潜/録音:小林徹哉/音楽:OK企画/助監督:加藤義一/監督助手:小関裕次郎/撮影助手:高橋草太/スチール:本田あきら/整音:Bias Technologist/仕上げ:東映ラボ・テック/協力:東中野リズ子/お手伝ひ:鎌田一利/出演:涼南佳奈・水城奈緒・成沢きさき・初美りん・西森エリカ・平川直大・なかみつせいじ・姿良三・久須美欽一)。脚本の水谷一二三と出演者中姿良三は、小川欽也の変名。
 光岡早苗から小林悟が継いだのちに、大御大の逝去後は未亡人である東中野リズ子(a.k.a.雅仙よし/ex.隆見夏子)が更に引き継いだ、東中野のカラオケスナック的居酒屋「RiZ リズ」。初子からの呼称はマスターのオーナー・小島祐二(なかみつ)が、一応人妻ではある雇はれママの山田初子(涼南)と恐らく開店前に一戦オッ始める。とこ、ろで。二人から能無しだ―モノも小島とは―段違ひだと糞味噌に痛罵される、初子の夫はといふと。当の五平(平川)が引き戸の隙間から、妻と余所の男の情事を目撃してゐるにも関らず、怒鳴り込みも出来ず情けない面で涙ぐんでゐたりする。激しく突かれる初子がアヒンアヒンする弾みで、スッポ抜けた靴がものの見事に五平を直撃。気づかれた五平が何故か謝つたのを笑はれつつ敗走した上で、広く眺望した伊豆の空にタイトル・イン。五平の卑小さと、伊豆スカイの雄大さとを対照させる地味に秀逸な繋ぎもさることながら、世界的スーパースター我等のナオヒーローが、カッコ悪い芝居も実にサマになる。結論を先走ると、以降平川直大が素面でカッコいい場面が何処かあつたつけ?といふのは、当サイトは知らん。
 タイトル明けて我に返つた五平と、野ションしてゐた二番手が雑に交錯するのは、水城奈緒の口跡がへべれけで何をいつてゐるのか全く判らず、多分単なるか純然たる蛇足。“数日後”、後々の遣り取りを聞くに、五平とは結局離婚した初子とアバン時点で既に元嫁とは別れてゐた小島の、小島家に於ける新型夫婦生活。どうやら小川欽也の民法典では、待婚期間の規定が早々と削除されてゐるらしい。まだ籍は、入れてないのかも知れないが。とも、かく。涼南佳奈となかみつせいじの通算二回戦を今度は大完遂して、舞台は

 伊豆。

 そして伊豆、だから伊豆。兎にも伊豆、角にも伊豆。伊豆といつたら伊豆、犬が西向きや尾は伊豆。伊豆・イズ・伊豆、伊豆・オブ・伊豆。全ての道は、当然勿論絶対伊豆に通ず。死去した伯父―遺影も見切れず―が営んでゐた、劇中民宿とされる御馴染白壁の宿「花宴」に招いた五平に、“村長”の胸章をプラ提げた判り易い村長(久須美)は遺言によつて五平が花宴と、良質の檜が採れるゆゑ時価三十五億の山林を相続した旨、棚から牡丹餅の流星群を降り注がせる。
 俳優部残り、五平が早速購入したプジョーのオープンカーで再登場する水城奈緒は、元々五平がファンであつたとかいふ設定が藪蛇なストリッパー、と来ればこの際判で捺したやうにリリー。姿良三は、定番の花宴番頭。そろそろそのポジションは、加藤義一に禅譲して罰は当たらないのではなからうか。姿良三の顔見せ挿んで、成沢きさきは花宴に五平を訪ねて来る、元「RiZ リズ」のホステス・良江。最初字面で星美りかと混同してゐた、加藤義一2018年第一作「さかり荘 メイドちやんご用心」(しなりお:筆鬼一/主演:佐倉絆/三番手)以来の二戦目となる初美りんは、逆に五平を座敷に招く格好の、伊豆随一を謳はれる芸者・とみ、着物の着つけグッダグダなんだけど。所属は吉野屋、芳野屋かも。ポスターには軽く佐々木基子似に映る西森エリカは、学会疲れの湯治に訪れた伊豆にて、荒淫の果て激しく衰弱した五平に頼られる女医・春日千代。
 大金持ちといふには流石にゼロが一つ足らないやうにも思へる、藪から棒に小金持ちになつた男に、群がる女達が次々膳を据ゑる。良江に明確に斥けられた初子はまだしも、ビリング頭を倒した良江はリリーの再々登場に伴ひ消失でもしたかの如く退場し、リリーとの対決からやがて共闘に至るとみも、千代に道を譲る形で矢張り二人とも消え失せる。要は女優部が全員絡み要員に等しい状況ないし扱ひにつき、伊豆映画2019は、全人類大好きナオヒーローの堂々たる主演映画。では、確かにあるものの。
 抱かれたい男百年連続ナンバーワン、平川直大の銀河系待望の最新主演作―その前は薔薇族が何かあるぢやろ―とはいへ、五平の野郎はといふと女々に所詮は有難味を知らない泡銭を橘高文彦のピック感覚でバラ撒き、ポップに鼻の下を伸ばすか生唾を呑むばかり。挙句主にリリーの箍の外れた性欲に屈しては、息も絶え絶えに消耗する始末。徹頭徹尾ダメで見るべき点の見当たらない好色漢に過ぎない五平が、人間性なり人生の意義を取り戻す展開に恵まれるでも特になく、今をときめかない荒木太郎作で豪快にカッ飛ばした、骨太のエモーションを撃ち抜く見せ場も存在しない。反面、髙原秀和大蔵三作と加藤義一2019年第二作「人妻の吐息 淫らに愛して」(脚本:伊藤つばさ・星野スミレ/主演:古川いおり)を経ての、五戦目となる涼南佳奈はとりあへず安定し、ガンギマリにメリハリの効いた爆裂ボディを誇る水城奈緒を筆頭に、二三四番手も裸映画の高水準をキープする。断じて看過してはならないのが、とみが五平にいはゆるワカメ酒を実地でレクチャーする件に際しては、かなり際どいショットにまで、ノー修正で踏み込んでみせる。小川欽也が、今なほ攻めてゐる。そして、クルンックルンの巻き髪が、安手のキャバ嬢程度にしか見えない西森エリカ。五平に縋られた千代は、新田栄よりも起伏を欠いた平坦さで自身の肉体を捧げる。その流れでの、締めの濡れ場の導入が凄まじい。EDの肉弾治療が功を奏した、ナオヒーローの勃起が知らず知らず浴室の扉を叩いて、千代がワンマンショーに戯れる風呂を覗いてゐたのが気づかれるだとか、小川欽也ガチのマジで天才だろ、もしくは紙一重の惜しい御仁。しかも、あるいはとはいへ。そんな底抜けに素敵なシークエンスに、ルックスのみならず、鼻を鳴らすメソッドも微妙に古臭い西森エリカを配するのは、何気に超絶のジャストフィット配役。最終的に伊豆の景勝地「さくらの里」にて、病院の建設を約し求婚した五平と、千代が目出度く結ばれる都合のいいハッピーエンドが、伊豆以外、何も足してはゐないが何も引いてゐない訳では、必ずしもないやうな気もする量産型娯楽映画を、力技で麗しく締め括る。


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 「不倫ベッド パンティあそび」(1994/製作:小川企画プロダクション/配給:大蔵映画株式会社/監督:小川和久/脚本:池袋高介/撮影:伊東英男/照明:秋山和夫/音楽:OK企画/編集:金子尚樹 ㈲フィルム・クラフト/助監督:井戸田秀行/監督助手:佐々木乃武良/撮影助手:郷田有/照明助手:佐野良介/編集助手:網野一則/録音:ニューメグロスタジオ/効果:協立音響/現像:東映化学/出演:小川真美・水鳥川彩・西野奈々美・久須美欽一・神戸顕一・姿良三・杉本まこと)。出演者中、真実でない小川真美は本篇クレジットまゝ。
 漫然と撒かれた、個別的具体性を排した下着姿のスナップにタイトル開巻。最初の画をそのまゝ動かしもせず完走する、タイトルバックの横着さがある意味清々しい。お乳首に当てられる、電動歯ブラシ。ラブホテルでの仮称「摩天楼」ママの恵子(小川真美/但し主不明のアテレコ)と、情夫・健一(杉本)の初戦対面座位を中途で端折つて団地ショット。土手を浮かない顔で歩くタチバナ夫人(西野)に、御近所の恵子が声をかける。パートを馘になつたタチバナは摩天楼で働かせて貰へまいかと求めるが、摩天楼の景気も決して芳しくはなかつた。とか何とかな外堀をユルッと埋めて、健一発案で摩天楼はブルセラスナックに様変り。店内のそこかしこに如何にも如何はしいスナップが貼り散らかされ、恵子は常連客の桜井(久須美)に、タチバナのパンティをデート料込みの二万五千円で売る。無防備といふか、何て危なかしい店なんだ。
 配役残り水鳥川彩は、自身の情婦である恵子と、恵子が連れて来たタチバナに続き、健一が調達するブルセラ要員・スズコ。会話を窺ふに、ex.JKのプロ。一旦切札を担ふかに思はせた神戸顕一は、エイシュク学園の制服を売つたタチバナを、尾行する男。そして小川和久の変名である姿良三は、画面奥から神顕・久須りん・杉まこが並んだカウンター背後のボックス席から、スズコのデート料込みパンティを三万五千まで釣り上げるものの、桜井の四万円に潰される男。晴れて桜井が競り落としたパンティを覗き込むフォローも麗しく、何気に芳醇なシークエンスではある。
 対面座位で西野奈々美が久須美欽一に、「ねえオッパイ、オッパーイ」。ピンク映画史上最高の神々しい名台詞が唸りをあげる、小川和久1994年第四作。要はパンティが食玩に於けるガム感覚の、ブルセラどころか売春スナックの様相を水が低きに流れるが如く呈した摩天楼が、かといつて摘発される程度のオチがつくでなく。見た感じ西野奈々美が頭でおかしくない感じがするビリングに対する疑問さへさて措けば、安穏と女の裸で尺を埋める良くも悪くも安定した裸映画。とは、いへ。突発的に輝き、かける瞬間が確かになくもなかつた。行動自体は全力不審者ながら、ピュアな面持ちで神戸顕一が飛び込んで来た際には、高校時代岡惚れを拗らせてゐたタチバナに、神顕が不純な純情を撃ち抜くエモーショナルな一発逆転展開も予想させた、のだけれど。結局神戸顕一が―別に見ず知らずの―タチバナの自宅を急襲し制服撮影会を強行したかと思へば、それだけに止(とど)まらず普通に手篭め。にした挙句、事後はタチバナがその時穿いてゐた下着は記念と称して強奪しつつ、また誰かに売れとエイシュクの制服は置いて行く始末。神戸顕一が全うな制服クラスタですらない無頓着さと、痛い目に遭つたにも関らず、パンティ越しに電歯を当てるタチバナが、商品の仕込みに相変らず余念のないラストの無造作さこそがイズイズムのイズイズムたる所以。そもそもパンティで遊ぶのは兎も角、タチバナ家の夫婦関係は全く以て稀薄で、不倫感は霞よりも薄い。


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 「制服の誘惑 テレクラに行かう」(1992/製作:小川企画プロダクション/配給:大蔵映画株式会社/監督:小川和久/脚本:池袋高介/撮影:伊東英男/照明:内田清/編集:フィルム・クラフト/音楽:OK企画/助監督:石崎雅幸/撮影助手:佐久間栄一/照明助手:佐野良介/録音:ニューメグロスタジオ/効果:協立音響/現像:東映化学/出演:如月しいな・斉藤桃香・水鳥川彩・野澤明弘・青木和彦・栗原一良・姿良三)。
 縫ひ包みから室内を舐めると勉強中の真未(如月)が、平然と聞こえて来る嬌声にスポイルされる。スナップも掠めない両親は、母親も父親の赴任に同行する形で二年海外。真未はその間、姉の文重(水鳥川)と夫の斉藤昭夫(野澤)が暮らす津田スタに厄介となつてゐる格好。ヘッドフォンでCD3を聴く抵抗を試みはしたものの、手つ取り早く断念。ベッドに飛び込んだ真未がワンマンショーをオッ始めて、下の句が何故か怪談フォントのタイトル・イン。真未はフィニッシュまでには至らず、クレジット明けで再開した夫婦生活は完遂。翌日、登校時に合流した親友の前田理佐(斉藤)は、未だ処女の真未にテレクラを勧める。正直ビリングの頭二人が、清々しいほど女子高生に見えない点はこの際気にするな。
 配役残り青木和彦は、今回珍しく二つ机の並んだオフィスのロケも工面する、昭夫の職場の後輩・片岡。テレフォンクラブを介して出会つた理佐と交際する、テレクラに関してはパイセン。栗原一良は合コン的なイベント―の割に理佐と片岡は脊髄で折り返す速さで捌ける―に連れて来られる、片岡の後輩・沢口。小川和久(現:欽也)の変名である姿良三は、昭夫がよく使ふ仮称「摩天楼」のマスター。のちにワン・カット背中だけ見切れる、マスターに一杯奢る男は流石に判らん。
 何気ない裸映画でしかないやうに見せて、案外さうでもない気もする今上御大1992年最終第十三作。それぞれ理佐と片岡に、斉藤家with真未の外堀を埋めさせる会話が、へべれけなイントロダクションに堕すでなく、脚本・演出とも思ひのほかスマート。よしんば、あるいは単に、それが至つてど普通の水準であつたとて。オフィスは用意した反面、教室ないし校内ロケは相変らず等閑視。それでも―外から勝手に撮れる―校舎のロングから、真未と理佐下校時の往来へのティルト。理佐にテレカを借りた、真未の初陣。電話ボックスから出て来る真未を、理佐が待つ俯瞰。撮影にも、らしからぬ意欲を垣間見させる。片岡の名を騙つた昭夫と話が纏まりかけた真未が、ランデブーする文重と沢口を目撃。一旦偽片岡を理佐に押しつけたため、後日ツイン片岡とのダブルデートが成立する展開は素面で結構気が利いてゐる。ついでで沢口と遊んでゐる文重の、帰りが遅くなる夜。晩酌にでも付き合はせようと、ヘッドフォンでズージャーなんて聴いてゐる義妹に近づいた昭夫が、何だかんだか何が何だかな勢ひでザクザク手篭めにしてしまふのは、突破力を活かした野澤明弘(a.k.a.野沢明弘/ex.野沢純一)の真骨頂。で、あるにも関らず。最大の衝撃は、理佐とリアル片岡に、真未と偽片岡こと昭夫。各々の第二戦が頻繁なクロスカッティングの火花を散らす、締めの濡れ場。理佐らが先に駆け抜けて、真未が追走するものかと思ひきや、よもやまさかの主演女優―の筈―の絡みをある意味見事に放棄してのけるのには驚いた。そもそも、自宅にて義兄から手篭めにされる、割とでなく大概な真未のロストバージンから、中途で端折る始末。テレクラでの男捜しに二の足を踏む真未に対し理佐が投げる、平素とは一味違ふ何気な名台詞が、「誰でもいいぢやん、恋する訳ぢやないんだから」。適度な距離感を保ち、飄々と日々を楽しむ。ドラマ上実は最も安定する理佐の立ち位置を見るに、今上御大が二番手に移してゐた軸足は、繁華街を真未と沢口が他愛なくブラブラするインターバル挿んで、斉藤桃香で十分の大熱戦を序盤にして撃ち抜く地味でなく凄まじい尺の配分に、既に顕著であつたのかも知れない。


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 「わいせつFAX 本番OL通信」(1994/製作:小川企画プロダクション/配給:大蔵映画株式会社/監督:小川和久/脚本:池袋高介/撮影:伊東英男/照明:内田清/音楽:OK企画/編集:㈲フィルム・クラフト/助監督:井戸田秀行/撮影助手:郷田有/照明助手:佐野良介/録音:ニューメグロスタジオ/効果:協立音響/現像:東映化学/タイトル:ハセガワ・プロ/出演:水鳥川彩・英悠奈・岸加奈子・久須美欽一・真央元・神戸顕一・姿良三・杉本まこと)。出演者中、姿良三は本篇クレジットのみ。
 二つ並んだマグカップからピントを送つた先には、部屋の主であるタエコ(水鳥川)と、家に帰れば嫁のゐる金井(杉本)。背面騎乗の最中に鳴つた着信音は電話ではなく、タエコが「FAXよ」。金井家にもFAXがあるのはさて措き、ここで水鳥川彩が撃ち抜く歴史的な名台詞が「FAXより今はFUCKの方が大事よ」。下らないだ工夫に欠けるだ屁以下の難癖を垂れる手合は、カッチンコチンに凍らせた豆腐の角に、出来得る限りの速度で頭をぶつけて生れ変つて来ればいい。嬌声に乗せほんわかした劇伴が起動、何故か無人のベッドにタイトル・イン。かと一旦思はせておいて、フレーム右側から正常位が倒れ込んで来てクレジット追走。一絡み完遂したところで、最後に小川和久の名前が入るタイトルバックは何気に完璧。あれやこれやといつて、これだけの開巻をキッチリ撮れる人間が、果たしてどれだけゐるといふのか。
 場面変り、何と今回は恐らく極めて珍しく、「有明」なる屋号のつく御馴染バー「摩天楼」(仮称)。何故伊豆ではないのかといふのはさて措き、名前があるのは初めて見た。小川和久(現:欽也)が今でも使ふ変名である姿良三がカウンターに入り、雨宮基雄(久須美)が後輩でセイガクの中村(真央)と酒を飲む。有明にもFAXがあり、わざわざ社用を偽装した逢瀬の連絡を雨宮が被弾、中村も最近始めたパソコン通信に勤しむために各々店を辞す。
 配役残り岸加奈子が、別に結婚しても罰は当たらない、雨宮の交際相手・菊子。金井がタエコ宅から帰宅すると風呂に入つてゐた嫁の声は、水鳥川彩でも岸加奈子でもないゆゑ英悠奈?改めて英悠奈は、転職して菊子の部下になつた吉野由美。前年の第六回ピンク大賞に於いて、自らの名を冠した神戸軍団(神戸顕一・樹かず・真央はじめ・山本清彦・森純)で特別賞受賞に輝いた神戸顕一は、由美に岡惚れを拗らせる、前職同僚の梨元。
 多分今上御大作の中では、比較的高水準な部類に―もしかすると―入るやうな気の迷ひのしなくもない、小川和久1994年第三作。これで?とか脊髄で折り返すのは、それはいはない相談だ。略奪する気全開の不倫相手もFAX持ちと知り、文面自体は他愛ないがアグレッシブに危なかしいラブFAX―劇中呼称ママ―を送りつけて来るタエコの処遇に窮した金井は、矢張り先輩である雨宮に相談する。片や菊子は菊子で、由美が無言電話に続いて悩まされる、パソ通のネットワーク上で出回る由美の名を騙つた、願望告白風のエロ文書について雨宮に話を持ちかける。といつて、特定の機器を殊更にフィーチャーしてみせるでなく、山﨑邦紀的なガジェット・ピンクの方向に振れてみせる訳では別にない。寧ろ「FAXより今はFUCKの方が大事よ」、濡れ場初戦を華々しく彩る、水鳥川彩の名台詞を導き出した時点で、少なくともFAXに関しては堂々たる御役御免とするべきである。一方、最初は中村も―真に受けて―垂涎してゐた破廉恥テキストが、何時の間にか金井の仕業と決まつてゐたりと、最新風俗を採り入れたにしては、何時も通りへべれけな脇の甘さが特段の意欲も感じさせない。尤も、筋者―とその舎弟―に扮した雨宮と中村が、川原に呼び出した金井に凄んでみせるや、忽ちガクブルした神戸顕一が文字通りの平身低頭で、久須美欽一はまだしも本来子分である筈の真央元にも土下座して平謝りするシークエンスは、あれよあれよ感込みで面白可笑しく見させる。兄貴肌の雨宮に収斂する、金井と由美それぞれの揉め事。先に由美方面を片付けた辺りで、すつかり安心してもう一件は平然と放置して済ましておかしくないのが、イズイズムあるいは御大枠のある意味常。ところが摩天楼に屋号がつくのに引き続き、再び今回珍しく金井とタエコの縁切りも、雨宮パイセンが相変らず中村を引き連れ筋者に扮する全く同一のメソッドで、何だかんだ何となく解決。万事が然るべき落とし処に納まる据わりの良さに加へ、菊子ことビリングは一歩引いた岸加奈子は、好色なのは認める雨宮と、適度な距離で恋愛を楽しむ大人の女を好演。終始余裕を保つたキシカナを安心して愛でてゐられるのは、逆に佐野和宏にはまづ撮れぬにさうゐない穏やかな至福。何はともあれ、摩天楼のカウンターに画面奥から久須りん・杉まこ・マオックスが並ぶ、案外奇跡的なスリーショットでついうつかり満足してもしまへるのは、多分にバイアスのかゝつた、埒の明かない偏好であるとは自覚してゐる。


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 「盗撮レポート 人妻浮気現場」(1992/製作:小川企画プロダクション/配給:大蔵映画株式会社/監督:小川和久/脚本:池袋高介/撮影:伊東英男/照明:内田清/音楽:OK企画/編集:フィルム・クラフト/助監督:石崎雅幸/撮影助手:佐久間栄一/照明助手:佐野良介/録音:ニューメグロスタジオ/効果:協立音響/現像:東映化学/出演:小川真実・水鳥川彩・伊藤舞・吉岡市郎・鳥羽美子・栗原一良・杉本まこと・青木和彦・久須美欽一)。
 望遠レンズにタイトル開巻、何処から持つて来たのかまんま「探偵物語」ライクな、フュージョンの劇伴が鳴る。タイトルバックは有りもののエロ写真を適当に並べて、本篇の火蓋を切る久須美欽一のモノローグが「私は私立探偵」。清々しい直球ぶりが、豪快に火を噴いてのける。曰く覗きが昂じて興信所所員となつた―また派手に昂じたな!―野上博行(久須美)は、苦手を自認する尾行を始め失敗続きで、茶を挽く日々に燻る。その割に何某か営業職に就く概ね内縁の妻・サチコ(伊藤)と暮らし、サチコのために何時か大金をだなどと、浜省の歌詞みたいな安い野望を胸に秘めもする。そんな最中、行きつけの鳥羽美子がママの実店舗にて、野上は三谷産業社長の三谷(市岡)と出会ふ。野上が探偵だといふのに喰ひついて来た三谷は、社員の素行調査を持ちかける。
 配役残り、茂みに潜んで青姦を撮影する野上のイントロダクションに登場するカップルは、初めから特定可能なやうには抜かれてゐない。栗原一良(ex.熊谷一佳)はカウンター内のバーテンダー、但しアテレコ。ボックス席には、姿良三(=小川和久)もシレッと見切れる。水鳥川彩は三谷の浮気相手・ノリコ、三谷産業社員。そして小川真実が、三谷が当初は―無駄に―社員とか偽つた素行調査の標的にして、実は妻。杉本まことは三谷が夫人の浮気を疑ふ、確か日野のハウススタジオに教室を構へる社交ダンスの講師。青木和彦はその他生徒、ではなく杉まこのアシスタント。
 淡々と今上御大旧作を見られるだけex.DMMで追つて行く、小川和久1992年第五作。少なくともピンクは全部見てしまつた上で大悲願のハンドレッドにはなほ全然遠い、大御大を新着させて貰へないものか。それなりに抱へてゐなくもない筈の、エク動含めて。
 比較的女の裸にすんなり親和した物語かと思ひきや、意表を突いて青木和彦も参加する三谷夫人の巴戦写真を、何を血迷ふたか野上が三谷夫人―正確には吉岡市郎が三谷妻人―に売つた方が金になると踏む辺りから、みるみる迷走する展開が逆の意味で見事。正方向にいふと、まあ、アレだ。小川真実の両脇を水鳥川彩と伊藤舞のキューティーなツインドライブが固める、三人体制期のBABYMETALにも似た布陣はそれなり以上に強力。では、あるものの。藪からに下手な大風呂敷をオッ広げた挙句に、百万ぽつち入る入らない以前の、当然自身にも懸念され得る正しく致命的なリスクを、浜辺のロングに託(かこつ)けて野上が無造作に等閑視してのける壮大に惜しくも一歩手前の盛大なラストは、幾らイズイスティック映画とはいへ流石に底を抜かすにもほどがある。全篇を通して野上が逐一露呈する、お茶目な粗忽さくらゐしか見所も見当たらない一作。主要キャスト劇中唯一無垢なサチコが、男運がクソなばかりに終に報はれない点に関しては、地味に後味の悪い心を残す。


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 「OL VS 人妻 盗聴レイプ」(1994/製作:小川企画プロダクション/配給:大蔵映画株式会社/監督:小川和久/撮影:伊東英男/照明:内田清/助監督:井戸田秀行/音楽:OK企画/編集:金子尚樹 ㈲フィルム・クラフト/脚本:池袋高介/監督助手:佐々木乃武良/撮影助手:倉田昇/照明助手:佐野良介/編集助手:網野一則/録音:ニューメグロスタジオ/効果:協立音響/現像:東映化学/出演:岸加奈子・水鳥川彩・吉行由美・久須美欽一・杉本まこと・樹かず・西原太陽・太田始)。
 風呂場で体を洗ふ岸加奈子にタイトル開巻、そのまゝ何てこともなく淡々とキレイキレイし続ける、実に穏やかなタイトルバック。どちらの家なのかが不鮮明ながら、風呂場の中から「ねえ、どうせ暇なんだからさ。パチンコでも行かない?」と呼びかける、酒井か堺か坂井辺り(岸)に対し答へはなく、同じ団地に住む友達の金村夫人(吉行)はといふと、バイブでワンマンショーに耽つてゐた。吉行由美(現:由実)が猛然と撃ち抜く爆乳のジャスティスはいいとして、キシカナにそんな糞みたいな台詞吐かせんなや。義憤はさて措き攻守がフレキシブルな濡れ場初戦は中途で、矢張り同じ団地に住むOLの里菜(水鳥川)が土手をジョギング。友人・中野(杉本)の車を見つけた里菜が気軽に窓ガラスを叩くと、何処かしらを盗聴してゐた中野は慌てる。その夜?酒井がチーママを務めるスナック「摩天楼」に遊びに来た金村夫人が、何者の仕業なのか配偶者に不倫を密告された件に逆ギレしてゐると、そもそも酒井が店で金村夫人に紹介した、当の浮気相手・原(久須美)が現れる。
 配役残り、荒木太郎アテレコの太田始は、テレクラ狂ひのフリーター。太田始が誇る特濃の顔面で圧す画力(ゑぢから)と、荒木太郎の絶妙に右往左往する偏執的な口跡とで、グイッグイ女を口説くシークエンスが爆発的に面白い、鬼に金棒とはこのことだ。樹かずは中野の後輩、どうもこの男達、盗聴した音声を金に替へてゐるやうなのだが、樹かずも兎も角、中野の生業は全体何なのか。西原太陽は樹かずの悪友、盗聴クラスタといふよりも、単なるヤリチンの模様。如何にも変名臭い名義ではあれ、とりあへず井戸田秀行でなければ佐々木乃武良でもなく、見覚えがなくもないやうな気はしつつ詰めきれず。
 沢田夏子をも捻じ伏せ得よう絶対美人にして、かうして見てみると思ひのほか仕事を選んでゐない岸加奈子。あまりにも可愛くて可愛くて可愛くて可愛くて、もう一杯になつた胸が物理的にすら張り裂けさうな水鳥川彩に、即物的な下心にも止めを刺す、偉大なる吉行由美のオッパイ。奇跡の三本柱が集結した時点で、勝利の確定した小川和久1994年第五作。映画の中身とか、この際屁にも満たぬ些末と放り捨ててしまへ。
 一旦恐い目に遭ひかけた里菜が、劇中台詞ママで“メカキチ”の中野の手を借り、目には目を歯には歯をのハムラビ法理論を採用した大絶賛イリーガルな逆襲に、しかも当寸法で転じてみる。女の裸と展開の直結具合が、案外満更でもない物語が手堅く進行する、比較的高水準の量産型娯楽映画。至るところに鏤められた、無造作なツッコミ処にさへ目を瞑れば。さうはいへ里菜と中野が目出度く結ばれるのが、如何せん早すぎはしないかと首を傾げかけたのは、水鳥川彩が序盤から順調に始終を支配する印象には反し、そもそもビリング通り、主役の設定はあくまで岸加奈子であつた。といふ一種のどんでん返し的なちぐはぐさが、今作最大のチャーミング。初端から大輪の百合が美しく咲き誇り、久須美欽一と吉行由美は二度に亘つて重低音の濡れ場をバクチクさせ、既に前述した水鳥川彩がラッブラブの温かく美しいエモーションを醸成した末に、岸加奈子が結構ハードなレイプ描写を―金村夫人が仕組んだプレイと勘違ひして―披露する。かうして改めて整理するに、寧ろ完璧。主演女優と三番手をセットで撃墜した二番手が、全てを手にする。さういふ形式的な違和感にどうしても我慢がならないのであるならば、水鳥川彩が幸せになるのに何か文句があるのかと難詰したい。


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 「ONANIE交感不倫」(1993/製作:小川企画プロダクション/配給:大蔵映画株式会社/監督:小川和久/脚本:池袋高介/撮影:伊東英男/照明:内田清/音楽:OK企画/編集:フィルム・クラフト/助監督:石崎雅幸/撮影助手:郷弘実/照明助手:佐野良介/録音:ニューメグロスタジオ/効果:協立音響/現像:東映化学/出演:水鳥川彩・藤崎あやか・吉行由美・久須美欽一・杉本まこと・吉岡市郎・栗原一良・姿良三・星川健太)。出演者中、姿良三と星川健太は本篇クレジットのみ。脚本家の名前が、普通の位置にあると何故かドキッとする。
 三田家(津田スタ)の寝室、淳次(杉本)の隣で寝てゐる妻の典子(水鳥川)が、起きて夫婦生活のお強請り。水鳥川彩から求められてゐるといふのに、糞バカヤローの杉本まことが明日も早いだ何だ応じずにゐやがると、典子はいぢらしくもワンマンショーを敢行。メロウなギターが鳴り、軽く俯瞰に引いてタイトル・イン。後述する垣内の社長室を除き、例によつてそれらしきロケーションを工面する手間なり袖を惜しんで新宿の往来。昼飯を済ませた三田と、同僚の栗原一良(ex.熊谷一佳)が歩いて来る。一方、二人の会話を通して軽く投げられた、三田が担当する顧客で危ないと噂されるケーアイ化粧品の社長・垣内(久須美)が、自ら電卓叩いて渋い顔。垣内は融資を無心した、焼け石に水をかけて呉れる仲の宮本(吉岡)と、愛人の真理古(吉行)に持たせたスナック「摩天楼」で会ふ。小川和久(現:欽也)の変名である姿良三と石崎雅幸の変名である星川健太が、四人一遍に飛び込んで来る摩天楼のカウンター客とバーテンダー。梃入れが裏目に出たものの違約金が惜しい、三田を介して結んだ契約と、囲ふのも正直苦しいものの、手切れ金が惜しい真理古。目下垣内が抱へる、二つの問題に関して十全に外堀を埋める。そもそも、真面目に経営を改善せんかハゲ社長、とかいふ至極全うなツッコミは野暮は控へない。
 三田が真理古に見惚れてゐるのを看て取つた垣内は、真理古と三田細君とのスワップを持ちかける。さりとて三田が典子に切り出せず事態が膠着する中、配役残り栗良が偶然再会する藤崎あやかは、かつて栗良マターの企画で一度仕事したキャンギャル・苑実。出会つたその日に栗良と寝た、セックスが大好きで、しかも誰でもいい。挙句「どうせスルんだもん」と、デートだ何だは時間の無駄とすらいはんばかりの地上に降りた天使。
 正直映画の中身なんてこの際どうでもよくとも、水鳥川彩をウットリ眺めてゐるだけでどうにかならなくもない小川和久1993年最終第十作。実も蓋もないのか、あるいは一つの真実に到達したのかは、諸賢の御判断にお任せする。
 真理古の色香にチョロ負かされた三田が妄想する裸身を、吉行由美(現:由実)にそのまんまの状況で服だけ脱がせて表現する物理透視ショットは、もしかするとこれこそが特殊撮影技法の到達点たり得るのかも知れない、清々しいほどの開放的なエモーションを結晶化する。先にも述べたが不精か無頓着の結果、栗良絡みのシークエンスは全てそこら辺の往来で処理。一番腰も砕けたのが地下道の出入り口から地上に出て来た三田を、栗良が追ひ駆けて来て社用の重大な電話があつた旨告げる件、君等の会社は地下にあるのか。とか何とか、あるいは兎も角。苑実を三田夫人に偽装する形で、三番手―二番手を、実質三番手と解する―の投入にも全く以て無理も無駄もないなだらかな裸映画が粛々と展開するうちに、何時しか溶解する本題。かと、思ひきや。そもそも垣内も垣内で、約束を違へてゐる点については当然勿論東から昇つた日が西に沈むが如く等閑視。三田との浮気で真理古を捨て、スワッピングの不履行を理由に邪魔臭い契約も破棄した垣内が、返す刀で典子までオトす。久須りん・テイクス・オールな結末にあれよあれよと辿り着く、案外見事なピカレスク・ピンク。考へてみれば三田の相棒は所詮栗良で、垣内はといふと吉岡市郎。ボックス席で茶色い酒を酌み交す久須美欽一と吉岡市郎の画が強過ぎて、その時点で容易に雌雄は決せられてゐたやうにも映る。とこ、ろで。何が互ひに感じ合ふのか全く判らない公開題は、直截に“交換”の誤字としか思へない。


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 「若奥様 スワップでメロメロ」(1997/製作:小川企画プロダクション/配給:大蔵映画株式会社/監督:小川和久/撮影:伊東英男/照明:内田清/音楽:OK企画/脚本:八神徳馬/編集:㈲フィルムクラフト/助監督:井戸田秀行/監督助手:広瀬寛巳/撮影助手:倉田昇/照明助手:佐野良介/録音:シネキャビン/効果:東京スクリーンサービス/現像:東映化学/出演:真純まこ・工藤翔子・悠木あずみ・麻生みゆう・杉本まこと・久須美欽一・樹かず・下川オサム・山本清彦・姿良三)。自由自在な位置に来る脚本クレジットは本篇ママで、出演者中姿良三(=小川和久)が本篇クレジットのみ。
 麗しの七色王冠開巻、寝室の壁を飾る、駱駝の隊列が描かれたタペストリーにタイトル・イン。ラストでは位置から違ふ、帆船の描かれた別のタペストリーが恐らく何の含意もなく出現する、無駄に紛らはしい真似を仕出かさないで欲しい。
 ベッドで本を読む準教授の夫・高橋幸治(杉本)に、妻の彩(真純)がてつきりお強請りするものかと思ひきや、定石を外してとつとと床に入る。幸治主導でオッ始まりはしたものの、彩のノリが甚だ悪い初戦は中途で打ち切つて何処園大学(ウルトラ仮称)。台詞上は雑誌記者の近藤(樹)が、高橋から小文の原稿を受け取る。編集者にしか見えないんだけど、矢張り台詞上で上司は編集長だし。さて措きその日彩は高校の同窓会で外出してゐるゆゑ、高橋は近藤を飲みに誘ふ。
 配役残り、それらしきロケーションを工面する手間なり袖を惜しみ、二人とも不釣り合ひなドレスで新宿公園に飛び込んで来る工藤翔子は、彩の同窓生・絵美。彩が絵美に高橋との何となくな不仲の悩みを打ち明けかけた、話の途中で何処園大の高橋個室に逆戻り。近藤が「ぢやあ先生、新宿の居酒屋『いざこざ』ですね」とその夜のランデブーを確認するのが、地味に火を噴く超絶の繋ぎ第一弾。いwざwこwざwww、ハイセンス過ぎるだろ。二軒目以降なのか、高橋と近藤が入る摩天楼がカウンター右手でなく、背中にあるので恐らく美風のバーテンは、未だフッサフサの広瀬寛巳。思ひきり普段着どころか殆ど部屋着にさへ映る、ボサッとしたTシャツ姿で登場する下川オサムは絵美が彩を招いた浮気用の別邸に現れる、絵美いはく“マイペット”のタクヤ。所詮ツバメの分際で、絵美と所帯を持つ色気を滲ませる身の程知らず。悠木あずみは、近藤が高橋を連れて行くイメクラの嬢・マリ。そして久須美欽一が、絵美が愛人から本妻の座に横滑りしたフルハタ。麻生みゆうと山本清彦は、フルハタの誕生日パーティーと称した要は乱パの頭数要員。大事でないことを思ひだした、最初はタラタラ踊る程度の、パーティー開宴。「Don't Stop Me Now」のメロディを清々しくパクッた、忘れてなければ多分初めて聞くボーカル入りのトラックが使用される。一見他愛ないヒッチコックかぶれに思はせて、案外満を持す姿良三は、彩の父で娘と高橋の結婚も決めた小川教授。パーティー当日、高橋は小川と学会で京都に。何時から、あるいは如何なる形で、学会と来れば京都といふのが定番になつたのか。兎も角フルハタにペヨーテを飲まされた彩が、タクヤと軽くチークを踊るだけで大概メロメロになるシークエンスから、小川欽也となかみつせいじの2ショットをインターミッションに挿んで、大乱交に突入してみせる無理のない飛躍が何気に超絶の繋ぎ第二弾。
 封切りが十一月終盤となると、女優部四人態勢も正月映画といふ訳では別にない、小川和久1997年最終第四作。夫婦生活にしつくり来ないものを感じてゐた若奥様が、アグレッシブに捌けた友人の手引きで参加したスワップで一皮剝け、配偶者と固く結ばれる大団円に辿り着く。高橋は不感症と認識してゐた彩のノリの悪さが、抑遜してゐたとかいふ唐突な方便は豪快に竹を接いで来つつ、締めの濡れ場を完遂させない画竜点睛の欠き具合を除けば、全く以て磐石な裸映画。今上御大旧作を集中的に見てゐて改めて感じるのが、久須美欽一は絡みが本当に上手い。女優部の裸を、群を抜いた安定感で愉しませる。素面の映画的に面白いのが、高橋がヤリチンの近藤に彩の不感症に関する相談を、意図的に過剰な演技で友人の話を装ひ持ちかける件。実も蓋もない第一打「男のリードの仕方が不味いんぢやないですかねえ」に、適当な第二打「強引にヤッちやへばいいんですよ」。そしてすつかりお見通しの第三打が、「教養が邪魔するんですかねえ」。樹かずが色男の高みから華麗に撃ち下す三連撃が、素晴らしく綺麗に決まる。


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 「若妻侵入 淫乱まみれ」(1994/製作:小川企画プロダクション/配給:大蔵映画株式会社/監督:小川和久/撮影:伊東英男/照明:内田清/助監督:井戸田秀行/編集:金子尚樹 ㈲フィルム・クラフト/脚本:八神徳馬/撮影助手:倉田昇・樹かず/照明助手:佐野良介/編集助手:網野一則/音楽:OK企画/録音:ニューメグロスタジオ/効果:協立音響/現像:東映化学㈱/出演:西野奈々美・青木こずえ《新人》・吉行由美・久須美欽一・太田始・中川朗・杉本まこと)。他人に書かせても独特の位置に来る脚本の八神徳馬は、本篇クレジットまゝ。本名で演出部に入るのは何度か見覚えもあるが、樹かずの撮影助手は初めて見た。
 西野奈々美(大体ex.草原すみれ)のワンマンショーで轟然とタイトル開巻、クレジット追走。爆乳のジャスティス、腹肉もダブついてゐる気がするのは目の錯覚にさうゐない。結婚三年の麻生良子(西野)が台所に立つてゐると、夫の繁からその夜も泊り残業の旨を告げる面倒臭げな電話がかゝつて来る。となると最早当然とでもいはんばかりの流れで、受話器を置いた繁(杉本)はといふと、浮気相手・ナツミ(主不明アテレコの青木こずえ)宅でしかもベッドの上。正常位→対面座位→後背位と移行する、教科書通りの綺麗な濡れ場を繁とナツミが完遂する一方、良子は健気にも良人を思ひながらのワンマンショー。は、何時も良子が自分でするのを見て俺もしてゐるゆゑ、“俺達毎晩バーチャルセックスしてるんだぜ”とか嘯く超絶キモい怪電話に遮られる。買物に出た良子に、御近所の奥田光江(吉行)が接触。繁が、若い女とホテルに入るのを目撃したといふ。そもそも、光江も光江でどうしてホテル街にゐたのか。良子の脊髄で折り返した怪訝な表情に対し、悪びれる素振りも見せない光江の答へが団地妻仲間で運営するデートクラブ。光江から誘はれた良子は、繁の不貞ごと否定して立ち去る。見送る光江が浮かべる魔女の如き微笑が、吉行由実ここにありを煌めかせる十八番のメソッド。
 配役残り、顔面の濃さで独特の存在感を画面に刻み込む、画力(ゑぢから)を誇る太田始は良子が電話帳から辿り着く、繁の調査を依頼する探偵・古賀。久須美欽一が、光江が初陣の良子を斡旋する水揚げ客。中川朗は超絶端役の繁商談相手、ではなかつたんだな、これが。ところで俳優部に誰一人、撮影部セカンドより男前がゐない現場。
 一言でいふと小川和久を甘く見てゐた、1994年第九作。夫の不倫に動揺する若妻が、主婦売春の甘い罠に転びかける。最終的に調子に乗りすぎてナツミにフラれた繁と、良子が痛み分け的にヨリを戻す着地点から随分に大概なのだが、ピリオドの向かう側に易々と加速する、小川欽也の度を越した無頓着として当サイトが謳ふイズイズムは止まらない。最初は夢でオトす、東映化学の屋上入口で良子を犯す謎の覆面氏。久須りんの下を土壇場で逃げ出して来た良子は、光江にヤキを入れられかける。その場を救つて呉れた古賀を自宅に上げた良子が、幾ら古賀が汗をかいてゐるとはいへ、シャワーを振舞ふ件はどう考へても膳を据ゑてゐるやうにしか映らないものの、想定外の明後日だか一昨日に急旋回。古賀の手荷物を漁つてみた良子は、夢の筈である覆面氏と同じ覆面をその中に発見する。凶悪な光江の告発電話を受けた繁が、良子を売女呼ばはりした挙句フルスイング張り手をカマすとなると、何処からどう見ても修復不可能に思へた夫婦仲がリカバリする時点で既に度肝を抜かれつつ、だから今上御大はその先へと行く。前なのか後ろなのか、最早ベクトルはよく判らないけれど。三度目の屋上来訪で目出度く良子が手篭めにされる覆面氏の正体が、実は良子と会話したのは一回きりである電話氏との、関係は不鮮明な中川朗。おまけに古賀の鞄に何故か入つてゐた覆面に関しては、遠く時の輪も接しない時空の彼方に等閑視。その上で、帰宅した繁を、良子が好物の肉じやがで迎へるのが頭のおかしなハッピーエンド。ハッピーといふか、もうこれクレイジーだろ。井戸田秀行の変名説も囁かれる八神徳馬の脚本が余程酷かつたのか、単に小川和久のへべれけが過ぎたのか。秀逸か大胆な構成が観客の経験律的な想像力を超えるでは決してなく、プリミティブな意味で出鱈目にもほどがある展開は到底予測不能、こんなもの読める訳がない。とかいふ次第でマトモな劇映画だと思つて相手しようとすると、発狂はしないまでも著しく消耗する一作ではあれ、西野奈々美に加へ勝るとも劣らないオッパイを悩まし気に誇る吉行由美をも擁し、裸映画的には磐石に安定する。光江が久須りんに良子の非礼を詫びる形での、吉行由美と久須美欽一による六分半を跨ぐ中盤の長丁場だけで、元は十二分に取れる。


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