真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「香港から来た女 -凄すぎる快感-」(1989『貝如花<BEI JU HWA> 獲物』の2010年旧作改題版/制作:シネマ アーク/提供:Xces Film/監督:カサイ雅弘/脚本:周知安/企画:奥村幸士/撮影:斉藤幸一/照明:白石宏明/編集:酒井正次/助監督:瀬々敬久・広瀬寛巳・松本憲人/撮影助手:片山浩/照明助手:林信一/スチール:堀善郎/メイク:榎本美千代/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東映化工/出演:貝如花《BEI JU HWA》・イヴ・林由美香・伊藤さやか・南野千夏・伊藤猛・不動一騎・小林節彦・金若雀・内藤泰夫・元井祐治・中根徹・池島ゆたか・伊藤清美・佐野和宏)。脚本の周知安は、片岡修二の変名。出演者中元井祐治が、ポスターには元井ゆうじ。制作のシネマとアークの間のスペースは、本篇クレジットに従ふ。
 香港の暗黒街、のつもり。日本人旅行者の増田美奈子(伊藤さやか)と高井望(南野)が、手の甲の毒蛇の刺青から“コブラ”の異名を持つ、麻薬ヤクザの鬼頭猛(佐野)からコカインを買ふ。ところがそれは、香港警察との司法取引に従ひ美奈子が仕掛けた罠で、現場にプライベートでは恋人同士でもある、刑事の陳素英(貝如花)と朱詠峰(中根)が踏み込む。鬼頭は慌てず美奈子に銃を突きつけると、銀幕をビリビリ震はせる名台詞を炸裂「ドロップ・ユア・ガン・アスホール。アンダスタァーン?」。なほも銃を捨てない陳と朱に対し、「判らねえのか、オタンコナス」。オタンコナスなる単語を発せさせると、佐野は世界一カッコいゝに違ひない。鬼頭は朱を射殺し、その場を逃走する。一方日本、ドラッグ売人の中井(不動)が、情婦のまゆみ(林)とセックロスの真最中。ところで今作は林由美香のピンク映画初陣―但し声はアテレコ―であり、だとするならば御当人の故福岡オークラに於いてのトーク・ショー時の言によれば、この濡れ場、実は何気に本番撮影してみせてゐたことになる。閑話休題、手下二人(多分金若雀と内藤泰夫)はカードにうつゝを抜かす中井のアジトに、警視庁警部補の天馬一平(伊藤猛)が、こちらも男女の仲にある巡査長の伊達マリ(イヴ)以下部下三名を引き連れ踏み込む。ところが、肝心のブツがどうしても発見されない。と、したところ。天馬の機転を酌み、マリはまゆみの膣の中からビニール袋に入れられた薬物を探し当てる。そんな最中、香港から鬼頭を逮捕するため素英が来日。上司の戸倉(池島)から素英の宿の手配を振られた天馬は、マリと使ふ目的で取つてゐた部屋を仕方なく提供する。
 香港映画界から貝如花―金若雀も?―を招聘しての、クライム・サスペンス―ピンクにしては―大作。を狙つたと思しき気配ならば、潤沢な俳優部の頭数とロケーションとに窺へる、妙に大きなプロダクションからひとまづ窺へぬでもない。さうはいへ、序盤二つの捕り物を通過したところまではある程度順調ともいへつつ、素英がマリとひとまづホテルに入つて以降の中盤が完全に木端微塵。美奈子と望が、手前の脛の傷など何処吹く風、香港での恐怖体験を語るインタビュー番組(司会者が元井祐治か?)に得々と出演してのける辺りからがあまりにもへべれけ。返す刀といふか火に油を注いでとでもいふべきか、ホテトル嬢であつたりもする美奈子は、殺されにノコノコ呼ばれた鬼頭の部屋へと向かふ。更に更に、鬼頭が美奈子を片づけるや次のカットでは、いきなり何時の間にか鬼頭に捕獲されたマリが、陵辱されてゐたりする。木に竹を接ぎ倒した展開がアグレッシブに場当たり的で、まるでついて行けない、インタビュー番組の件などは完全に不要ではなからうか。しかもしかも、そこに素英とともに踏み込んだ天馬は、先に銃を向けておきながら鬼頭がゼロから銃を取り出しマリに突きつけるまでを悠然と許し、挙句無様に撃ち殺される始末。何だこのシークエンス?間抜け過ぎて逆にシュールだ。二つの復讐が合流する終盤は若干持ち直すものの、中盤の大失速も通り越した逆走を、挽回するまでには至らず。今際の間際にしては矢鱈と元気な、鬼頭の一千万香港ドルの死にざまは微笑ましい。

 配役残り、連呼されるヒャッハ笑ひが無闇に下卑た小林節彦は、素英とマリがコブラに辿り着く中継点の、鬼頭と中井を繋ぐ仲買人・金田。何故かポスターでは伊藤静宮とかいふ正体不明の名義にされてしまふ伊藤清美は、金も持たずにコカインを求め金田の周囲をウロチョロする、80年代風ギャル。

 以下は再見に際しての付記< 鬼頭が美奈子を始末してから、何時の間にかマリが鬼頭に捕獲されてゐたりするまでに、性懲りもなくヤクをキメる望の部屋―同席するジャンキー男誰だ―に踏み込んだマリが、そこで鬼頭を待つ件が存在した。綺麗に初見だつたのだがウルトラ派手にプリントが飛んでゐたのか、それとも寝落ちてたかな?


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 「OL空手乳悶 奥まで突き入れて」(2009/製作:フリーク・アウト/提供:オーピー映画/脚本・監督:国沢☆実/撮影:石山稔/照明:小林敦/編集:有馬潜/録音:シネキャビン/助監督:小川隆史/監督助手:桑島岳大/撮影助手:戸田聡申/照明助手:長根崇博/スチール:本田あきら/音響効果:山田案山子/フィルム:報映産業/現像:東映ラボ・テック/協力:広瀬寛巳・マイト和彦・ばんぶはうす・アシスト・石谷ライティングサービス/出演:成田愛・久住みはる・佐倉萌・岡部尚・太田始・村田頼俊・なかみつせいじ)。ポスターでは、照明の小林敦に引き摺られたのか、助監督の小川隆史の苗字が小林に。デビューまでさせておいて、大蔵あんまりだ。
 胴着を着た成田愛が、正拳突きを放つオープニング・ショット。その際の雄叫びが、「シャァッ、セーイ!」

 “射精”かよ!

 開巻から今回の国沢実は、一味違ひさうな期待を窺はせる。セールスウーマンの芳川美紀(成田)は、自分で食べてみても確かに不味い健康食品がなかなか売れないのと、通勤電車での痴漢被害とに悩んでゐた。恋人、兼職場の先輩でもある田村直人(岡部)との交際にも、美紀は満たされぬものを感じてゐた。今更感が爆裂する話ではあれ、岡部尚が誰かに似てゐるとずつと引つかゝつてゐたものだが、この人ピンク界の水上竜士でどうだらう。相変らず売り上げの上がらない美紀を、トップ・セールスを誇る同僚の三原由理(久住)が慰める。同時に黒帯の実力を誇る―やうには欠片も見えないけれど―由理は美紀にも空手を薦めるが、基本ネガティブな美紀の腰は見た目通りに重い。ところで由理役の久住みはるとかいふ見慣れない名前は、詰まるところex.小島三奈。因みに神野太十年ぶりのエクセス帰還作「老人と和服の愛人 秘密の夜這ひ部屋」(2005/脚本:これやす弥生)から、小島三奈的には四年ぶりのピンク復帰作となる。話を戻してそんなある夜、帰りの遅くなつた美紀は、暴漢のアイコンといへばアロハ、とでもいはんばかりのポップな二人組(太田始と村田頼俊)に襲はれる。為す術なく半裸にまで剥かれたところで、練習生募集のチラシを貼り歩いてゐた空手道場師範・不動力也(なかみつ)が悲鳴を耳にし駆けつける。実際になかみつせいじは空手初段の有段者といふことで、不動はナイフも抜いた太田始を綺麗に秒殺。礼を言ふ美紀に、無骨な不動は名乗りもせずに立ち去る。そこは、送つて行けよといふ気も否み難い。翌日、美紀は不動が落として行つた、フライヤーを頼りに道場を訪ねてみる。再び因みに、不動道場の物件は、七年前国沢卍実の暗黒道場映画「人妻陰悶責め」(主演:橘瑠璃)と同じ物件。一旦は女の練習生は取らないと突つ撥ねた不動ではあつたが、美紀の熱意に負け、二週間の試用稽古に入ることになる。こちらは、加藤義一の「痴漢電車 びんかん指先案内人」(2007/脚本:城定秀夫/主演:荒川美姫・なかみつせいじ)に於ける、痴漢要員以来のピンク出演となる佐倉萌は、不動と旧知で―流行らない―居酒屋の未亡人女将・遠野敦子。大学時代、不動と敦子は交際してゐたが、その後共通の知人である亡夫(遺影すら登場せず)から求婚され、敦子は不動と別れてゐた。
 まんたのりおの歪んだ突破力が、内藤忠司の凝つた脚本の中で走る前作、「コンビニ無法地帯 人妻を狩れ」から更に前進しての、散発的に飛び込んで来る国沢実の復調作。兎にも角にも、正式に乳悶もとい入門―爆発的にハイ・センスなタイトルである―を認められるまでの、美紀特訓の件が素晴らしい。もみあげと口髭を繋げ、終始戯画的なまでに寄せた眉根。さういふ風貌のスパルタンな不動が、御丁寧にもノーブラで加速したブルマ体操着姿の美紀が折に触れ発散する色香に、一々大袈裟に悶絶するシークエンスが絶品。中年チョンガー空手家が、若いOLの肉感的な乳に悶え尻に狂ひ股間に震へ、事後のイマジンまで含め陽性の煽情性とともに、なかみつせいじ超一流のオーバー・アクトが矢継ぎ早に繰り出される一連は映画を完璧に弾ませる。敦子と不動、それぞれの“忘れられない”大人の男女のドラマへと移行する展開も、若干の詰めの甘さは残しつつ悪くはない。一方尺が尽きたか、雑なラストには未完成感も残さなくはない。

 と、ころで。布石も敷設済みで由理と二股かけてゐた田村と出喰はした美紀は、由理の眼前、田村を中段突きで圧倒する。空手を通したヒロインの成長物語としては問題ない反面、そこで雰囲気だけでも美紀と由理の女の戦ひが繰り広げられないでは、実質、要は由理の黒帯設定に殆ど全く意味がなからう。


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 「新・監禁逃亡2 幻夜」(2009/製作・著作:株式会社竹書房/配給:新東宝映画/監督・脚本:藤原健一/原作:ジャパンホームビデオ株式会社/企画:牧村康正/プロデューサー:加藤威史/音楽:碇英記/撮影・照明:田宮健彦/録音:小林徹哉/助監督:躰中洋蔵/演出助手:小島朋也・松尾大輔/ガンエフェクト:近藤佳徳/ヘアメイク:鈴木理恵/スチール:中居挙子/アクション指導:江藤大我/音響効果:立川裕子/編集:石井塁/現場応援:貝原クリス亮・小南敏也・森本修一/ガンエフェクト助手:横山仁/協力:アーバンアクターズ、他/制作協力:新東宝映画株式会社・藤原プロダクション/出演:長澤つぐみ・千葉尚之・松浦祐也・倖田李梨・江藤大我・加治木均・東海林遼・高橋幸生・竹井直樹・稲葉凌一)。配給の新東宝映画は本篇クレジットにはないが、開巻は新東宝マークから始まる。
 半裸の長澤つぐみがデータの所在を問ふ主から、銃を突きつけられる。画面が暗転すると、銃声三発。物寂しい海岸の風景にタイトルが入り、立小便でもしてゐたのか、高橋幸生がズボンを直しながら立ち去る。高橋幸生が元居た方向にカットが変りカメラが逆パンすると、岩と岩の陰から、血塗れの女の下半身が覗く。連続強姦殺人事件に揺れる、小さな海町。吉永孝治(千葉)が妻・美月(長澤)と切り盛りする喫茶店「コーヒータロー」に、常連客の東海林遼や竹井直樹(多分竹井直樹の役名が井上)、遅れてその日は非番の警察官・遠藤(松浦)も現れ、降つて湧いた物騒な噂話に花を咲かせる。翌日、孝治は町内会の会合で不在のコーヒータローに、高橋幸生が来店する。日も沈まぬ内から梅干入りの焼酎お湯割りを頼んだ高橋幸生は、変質的に梅干を掻き混ぜながら焼酎を楽しむと、零したふりをして誘き寄せた美月に突如襲ひかかる。高橋幸生こそが、あれもこれも上手く行かない挙句に、世を逆恨み凶行に走つた連続強姦殺人魔であつた。美月は一旦マウントを取られたものの、下からの一撃で高橋幸生の鼻をヘシ折り、もう一撃で完全に行動を封じる。そこに呑気に巡回中の、遠藤が間抜け面を出す。若妻が凶悪犯を撃退したことはニュースとなり、氏名は伏せつつ美月の写真入で事件を報じる週刊誌に民政党(民生党?)の大物議員・井沢(稲葉)、劇中では“エージェント”といふ肩書の井沢の懐刀・梅原(江藤)、そして民政党の指示下非合法活動を行ふ暴力“組織”の工作員・仙道(加治木)と木崎(倖田)が注目する。実は美月も過去甲本サキといふ名の“組織”の工作員で、無闇にややこしい因縁を通して一旦は命を狙つた井沢と恋仲に堕ちた後、民政党に大打撃を加へ得る、井沢が集めた汚職の証拠となるデータを盗んで姿を消してゐた。孝治は妻とは、見るからに訳アリなボロボロの状態の美月がコーヒータローを訪れたことで出会つたものだつた。井沢に命ぜられ、仙道と木崎、二人からは敵視される梅原が、美月改めサキのあくまで生け捕りと、奪はれたデータを回収すべく暗躍を始める。
 海沿ひの喫茶店を営む平凡な男の新妻は、かつて淫蕩な蜜儀と非情な殺人術とに長けた、凄腕ヒットウーマンといふ壮絶な過去を持つてゐた。とかいふ次第で、ヒロインが別に記憶を失つてゐる訳ではない―点は厳密には少々微妙―といふ大きな相違は一旦さて措くと、レニー・ハーリンの最高傑作「ロング・キス・グッドナイト」(1996/米/主演:ジーナ・デイビス)feat.「監禁逃亡」ともいへる物語なのかと、事前には猛烈に期待させられてゐたものである。尤も、実際にはモタモタ工夫のないアクション・シークエンスに最も象徴的な、完全に壊れてゐる訳でもないが、正攻法を貫く松浦祐也と千葉尚之の激突のほかには特にこれといつた見所にも欠いた、直截に片付けてしまへば凡庸な一作である。それなりに充実した素のドラマ部分はまだしも、話が監禁だの逃亡だのといつた激しい動きを見せる件に突入すると、どうしても失速してしまふ感は禁じ得ない。そんな中、破壊力にすら乏しいツッコミ処には事欠かないといへなくもない。美月を監禁逃亡といふ器に放り込む為の段取りとしての、“組織”と井沢と民政党、ついでにデータも絡めた不必要に入り組んだ位置関係は、一通り―台詞のみで―語られはするが、矢張り整理されてはゐない。同じく作劇上の段取りでいへば、孝治が拳銃を隠し持ち単身突入する為の方便ならば酌めぬでもないとはいへ、それにしてもくたびれた遠藤が寝落ちる件は酷い。大体これでは、一件が強制終了的に落着した後とはいへ、とても孝治も無事には済むまい。美月がコーヒータローに乗り込んで来た梅原は制した反面仙道に拉致されたところから、冒頭に繋がるのだがプロローグの三つの銃声が、実は全く意味を成してゐないことには逆に吃驚した。そもそも、そのやうな間抜けなシークエンスをわざわざ頭に持つて来る、意味が清々しく判らない。遠藤ですら顔を知つてゐるほどの大物国会議員が、沼津まで在来線を乗り継いでやつて来るといふのも、まあのんびりとした話だ。中途半端なサッド・エンディングまで含めて、全般的な粒の小ささが、二重の意味で残念ながら長澤つぐみ最後の裸仕事を飾らない。


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 「デコトラ☆ギャル奈美 爆走!夜露死苦編」(2010/製作:ミュージアムピクチャーズ/監督:城定秀夫/脚本:貝原クリス亮・城定秀夫/製作:山田浩貴/プロデューサー:西健二郎・久保和明/ラインプロデューサー:征矢吉裕/撮影・照明:田宮健彦/音楽:タルイタカヨシ/編集:城定秀夫/録音:小林徹哉/助監督:伊藤一平/監督助手:山口通平・加藤学/撮影助手:河戸浩一郎・花村也寸志/車輌コーディネイト:濱田旬《エイティ企画》/ロケーションコーディネイト:柳川庄司、他/出演:吉沢明歩・亜紗美・吉岡睦雄・平田敬士・石井亮・松浦祐也・中村英児・河野智典・蘭汰郎・神楽坂政太郎・しじみ・速水今日子・野上正義)。
 開巻はセピア基調の回想パート、白いセーラ服にチェーンで武装した吉沢明歩と、黒セーラにアフロヘアー、鉄パイプを構へた亜紗美とのタイマン勝負。引いたカメラが逆パンするにつれ色が戻り現在時制に。運転席で仮眠を取つてゐたところ、悪戯小僧に亡き父譲りのデコトラ「勇生丸」に落書きされた女トラッカーの奈美(吉沢)は激怒する。婦警(亜紗美)の運転するミニパトを嘲笑ふかのやうに振り切りつつ、奈美は馴染みの野上正義が大将の食堂で食事、ではなくあくまでメシ。前作「デコトラ☆ギャル奈美」(2008/監督・脚本:城定秀夫)とは厳密には食堂自体の物件は別物ながら、不思議なことにといふか何といふか、清々しく料理が不味さうにしか見えない点は相変らず。こちらも引き続き、画期的なコンビとしての相性を誇る馬鹿トラック野郎二人組(松浦祐也と中村英児)が、妙な羽振りの良さを皆に自慢する中、食堂に激震が走る。食堂の表、何時ものやうに停めてゐたトラッカー達の愛車に、先刻の婦警が次々に駐禁を切つてゐた。血相を変へ婦警に突つかかつて行つた奈美は驚く。婦警はかつて西校のスケバンであつた奈美と激しく覇を争ひ渡り合つた、北校のスケバン・綾乃であつたのだ。結局、現行犯進行形の公務執行妨害まで含め奈美は免停を喰らひ、翼を捥がれた日々を送る。漸く現場復帰したはいいものの、ブランクが祟り思ふやうに荷にありつけない奈美は、因果応報的に免許を停止された松浦祐也と中村英児の代りに、聞くからに怪しげな仕事を引き受ける。深夜の漁港で受け取つた荷物を、さして離れてもゐない指定場所へと、午前二時キッカリに届けるだけで報酬は即金で五十万。手下二人(蘭汰郎と神楽坂政太郎)を引き連れた見るからに怪しげな依頼主(河野)を訝しみながらも一仕事終へた奈美が出さうかとした勇生丸に、何時の間にか綾乃が忍び込んでゐた。聞くとクライアントは竜宮会若頭補佐の木下で、奈美は薬物のいはゆる“ショットガン密輸”の片棒を担がされたといふ。しかも、冒頭の対決に割つて入り、後に綾乃と結婚した刑事のトオル(石井)は、警察がその存在を認めない潜入捜査で神宮会に潜り込んだ結果、木下に殺害される。綾乃は夫の復讐を誓ひ、単独で捜査を続けてゐた。とりあへず綾乃宅に招かれた奈美は改めて驚く、綾乃の息子・祐太が、勇生丸に落書きした悪ガキであつたのだ。綾乃は頑強に首を横に振る奈美を薬で眠らせまでして祐太を押しつけると、いよいよ単身木下の懐に飛び込むべく行動を開始する。
 配役残り速水今日子は、竜宮会が仕切るクラブに偽装した売春宿の、女主人・美佐子。しじみ(ex.持田茜)は、そこで働くシャブ漬けでガラクタ寸前の女・ユウカ。二人とも、脱ぎはしない。
 諸々の要素を雑多に詰め込み、パイロット・フィルム然とした第一作と比較すると、第二作は綾乃の結構ハードでシリアスな復讐譚と、祐太を無理矢理任せられた奈美のいはばヤンママ奮闘記といふ二本立てのメイン・プロットに、ひとまづガッチリ纏められてはゐる。ところで個人的には、一般映画に際して「子供と動物が主人公の映画は観ない」といふ俺ルールを採用してゐるやうな歪んだ人間なので、もうそろそろ、「グロリア」(1980/米/監督・脚本:ジョン・カサヴェテス)の翻案はいい加減打ち止めにして頂きたい。それは兎も角、逆に今作に大きく欠けてゐる部分は、前作に於ける桃香(今野梨乃)、他には「18倫 アイドルを探せ!」(2009/監督:城定秀夫/脚本:貝原クリス亮・城定秀夫)の町子(琴乃)と真也(中村英児)のやうな、形振り構はずエモーションの無茶振りを炸裂させる飛び道具が存在しない。その為、技術論的かつ平板な総合評価であれば今作の方が勝つてゐるのかも知れないが、逆に一転突破の激越な訴求力には幾分以上に劣り、その分結果的には全般的な仕方のない安普請さが際立つた印象が強い。オーラスのデコトラの使ひ方にしても、二番煎じといふことはシリーズの定番展開と理解しさて措くにしても、感動的に美しいファンタジーであつた第一作に対して、完全に現実と地続きの単なるサプライズでしかないといへばない点は、矢張り些か弱い。そんな中、最も映画―だからVシネだろ、とかいふ無粋なツッコミは黙れ―が弾むのは、純然たる枝葉ながら腕白坊主に手を焼く奈美の傍らで、手放しに楽しさうに祐太と遊ぶ松浦祐也と中村英児。純粋に大きな子供が、子供と同じテンションで遊んでゐるやうにしか見えない。子供嫌ひの身ではあるが、シンプルに無邪気な二人の姿には柄にもなく胸が温かくなつた。

 奈美が囚はれの綾乃を救出に向かふ、修羅場といふ意味でのクライマックス。どうも木下の背後に、まるで壁のやうに段ボールが積み上げられてゐる不自然に気付くと、案の定、菊雄(吉岡)の駆る「爆心丸」が段ボール壁を突き破り突つ込んで来るお約束には、一周回つた清々しさも覚えた。


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 「ザ・完熟マダム乱立 義母・未亡人・不倫妻」(2001『人妻不倫痴態 義母・未亡人・不倫妻』の2010年旧作改題版/製作:フィルム・ハウス/提供:Xces Film/監督:しのざきさとみ・小川真実・佐倉萌/脚本:有馬仟世/企画:稲山悌二/プロデューサー:伍代俊介/撮影:佐藤文男/照明:三浦方雄/録音:シネキャビン/編集:フィルムクラフト/助監督:竹洞哲也/監督助手:米村剛太/撮影助手:佐藤琢也/照明助手:腰山航/スチール:本田あきら/タイトル:道川昭/現像:東映化学/出演 第一話 義母:しらとまさひさ・坂入正三・しのざきさとみ/第二話 未亡人:しらとまさひさ・なかみつせいじ・小川真実/第三話 不倫妻:しらとまさひさ・岡田智宏・佐倉萌)。
 三姉妹で神社に参拝、長女・梅川有美(しのざき)、次女・竹川明美(小川)、三女・松川恵美(佐倉)、旧姓は不明。三人は家出してしまつた、有美の義息・康雄(しらと)の発見と帰宅とを祈願する。
 「第一話 義母」(出演:しらとまさひさ・坂入正三・しのざきさとみ/監督:しのざきさとみ)。有美は後妻として梅川辰雄(坂入)と結婚、辰雄には前妻との間に息子の康雄がゐた。予備校生の康雄の気を散らせるのも憚らず、しのざきさとみV.S.坂入正三だなどと面子からして濃厚な夫婦生活を致した翌朝、有美は亭主の朝食に生卵と栄養ドリンクを出し強制的に精をつけ送り出す。すると遅れて起き出した康雄が、康雄のチャレンジャーぶりにも畏れ入るが、さて措き藪から棒に有美に迫る。当然一応拒みはしつつ、このまゝでは受験勉強出来ないなどといふ他愛もない方便に屈し、有美は康雄に身を任せる。
 「第二話 未亡人」(出演:しらとまさひさ・小川真実/監督:小川真実)。亡夫(後述する)一周忌の法要を終へた明美は、折り合ひの悪い夫の親族には体調が悪いと偽り、その後の会食を回避し帰宅する。夫の遺影に手を合はせた明美は、祭壇の下からバイブの大ヒット商品「ターザン」を取り出し自慰に耽る。一方、有美の使ひで御供を届けに来た康雄が、その様子を庭から覗き見る。明美が果てると、康雄は改めて玄関から訪問。瞬時に身支度を直した明美が特段慌てもせず平然と康雄を迎へてみせるのは、殆ど無作為に基づくギャグである。康雄は実は痴態を目撃してゐた旨告白すると、正しくあれよあれよと明美を抱く。ところで出演者中、今篇オープニングは素通りしてエンド・クレジットにのみ名前の見当たるなかみつせいじが、抜かれるのも1カット限定の明美亡夫遺影役。ピンク映画に於けるいはゆる“未亡人もの”にあつては、死んだ夫の遺影に時として思はぬドラマが発生することがあるので要注意。
 「第三話 不倫妻」(出演:しらとまさひさ・岡田智宏・佐倉萌/監督:佐倉萌)。夫・松川信彦(岡田)の暴力とダメさ加減に悩まされる恵美は、気晴らしに出会ひ系で遊んでみる。Bunkamura前の待ち合はせ場所に現れた自称大学生が、康雄だつた。二人は互ひに甥と叔母であるとも知らず、ラブホテルへ直行する。後日、帰宅した康雄は驚愕する。ギリギリ明美までは兎も角、恵美も含めた三姉妹―しかも康雄的には三冠達成済み―が勢揃ひしてゐたのだ。挙句に明美は亡夫の実家を嫌ひ、恵美も恵美で暴力夫とは別れる心積もりで、有美の家に転がり込んで来ようかとすらいふ。辰雄はそのことに首を縦に振つて呉れるのか?といつた至極常識的な疑問に関しては、勿論一切等閑視だ。舌なめずりせんばかりの義母と未亡人と不倫妻の姿に戦慄を覚えた康雄は、置手紙を残し旅に出る。
 各篇冒頭にタイトル・出演者・監督がそれぞれクレジットされる、三主演女優監督によるオムニバス作。尤も、純粋に映画の全てが女の裸を銀幕に載せる方向にしか奉仕しない、しのざきさとみと小川真実の監督パートは、感動的なまでに全く変り映えがしない。対して第三話は、冷静に考へてみれば繰り返される“日常”としては大いに不自然でもなくはないものの、尺も費やした信彦のノリツッコミ式の変則的なDVには、当時としては未だ新しかつたのかも知れない暴力のオフ・ビートさも垣間見え、佐倉萌が裸のみに頼らない映画を、確かに志向したであらう節は窺へる。今作もう一つ特徴的なのは、偶々その時の個人的な気の所為かも知れないが、お話自体はのんべんだらりとしかしてゐないものながら、不思議とテンポだけは画期的に悪くない。そのため各々十分の極小篇を三篇連ねたのかと錯覚しかねないほどに、妙にサクッと見させる。


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 「デコトラ☆ギャル奈美」(2008/製作:GPミュージアムソフト/監督・脚本:城定秀夫/製作:山田浩貴/プロデューサー:西健二郎・久保和明/撮影・照明:田宮健彦/音楽:タルイタカヨシ《マサイスタジオ》/編集:城定秀夫/録音:小林徹哉/制作担当:佐伯寛之/車輌コーディネイト:エイティ企画/ロケーションコーディネイト:稲葉凌一/演出助手:安達守・冨田大策/出演:吉沢明歩・今野梨乃・吉岡睦雄・松浦祐也・中村英児・なかみつせいじ・坂本裕一郎・森羅万象・福天・綱島渉・野上正義・ホリケン。・古崎菜名加《子役》・稲葉凌一、他多数)。あ痛たたた・・・・助監督を落とした。
 伝説のトラック乗りと謳はれた父・斉藤寅一郎(稲葉)からデコトラ「勇生丸」を受け継いだ女トラック・ドライバーの奈美(吉沢)は、ついでに亡父が遺した借金の為に、遮二無二働いてゐた。奈美には総じて余裕がなく、仁義を欠いた仕事の取り方をすることもあつたが、父親譲りの運転技術は確かだつた。けふも野上正義が大将の不味い食堂―これが実際に、料理が旨さうに見えない―で食事中、納期をコロッと忘れてゐた間抜けな同業者(中村)の荷を請け負はうとした奈美は、横暴なデコトラ・チーム「ベアーズ」のキャプテン(森羅)から挑戦を受ける。ベアーズ構成員(福天と綱島渉)の姑息な妨害工作もデコトラ「爆心丸」を駆る仲間の菊雄(吉岡)のアシストで振り切りつつ、奈美はキャプテンに勝利する。ベアーズのユニフォームでもある黄色いTシャツに革ベスト、頭にはテンガロンなどといふカッチョいいファッションに加へ、まるでトラック野郎当時の空気をそのままこの時代に持ち込むかのやうな、森羅万象のいはゆる“イイ顔”が圧倒的に素晴らしい。ここまでで松浦祐也は、事実上中村英児とコンビを組む格好の矢張りお調子者担当。寅一郎(虎一郎かも?)から生前娘のことを託されたとかいふ菊雄は何かと奈美に付き纏ふが、勿論それ以上の思惑もあらうことに、男勝りの奈美は全く気付かずに煙たがるばかりであつた。ある夜、トラッカー専門のパン女・桃香(今野)が、松浦祐也から金を稼ぎ損ねたことに続き、女が運転するトラックとは知らず勇生丸に忍び込んで来る。何やら病気持ちらしい桃香が倒れてしまふ一騒動も経た翌日、勇生丸に助手として同乗し働きたいだとか言ひ出した桃香を、当然奈美は摘み出す。ところが走つて車を追ひ駆けて来た桃香は、決死の状況下で必死に訴へる。実はミチ(古崎)といふ娘が居るが、自分がいい加減な為親権を奪はれてしまつた。真面目に働いて生活を立て直し、娘を取り戻したいのだと。激情にも似た気迫に打たれ、奈美は桃香を勇生丸に乗せることにする。
 ホリケン。は、矢鱈と奈美らを目の敵にする戯画的な警察官。個人的に、この人のことを初めて観たのは杉浦昭嘉の「人妻催眠 濡れつぼみ」(2001/ホリケン名義)に於いてであつたが、昨今ホリケン。は十年の内に二、三十年分は逆ウラシマ効果したかのやうな、加速の効いた味はひ深い年の取り方をしてゐるやうに見受ける。それはそれとして、どうでもよかないのがポップな語弊につき後に句点を付け足したとのことだが、事情の如何を問はず、かういふ徒に文章を乱す悪弊は早く消えて無くなつて欲しい。なかみつせいじと坂本裕一郎は、ガミさんの店で食はされた腐つた〆鯖がアタり二人揃つて悶絶してゐる―糞尿ネタかよ(*´∀`*)―隙に、取引したばかりのヤクを間違つて桃香に奈美のトラックに積め込まれてしまひ、慌てて二人を追ふブルース・ブラザーズのやうなヤクザ二人組。
 全体的な構成は、決して堅牢といへる訳ではない。各々のエピソードは断片的で、それらが重層的に絡み合ふことはほぼない。強大にして凶悪なラスボスとの最終決戦、窮地に立たされた奈美を救ふべく、ベアーズの面々や松浦祐也・中村英児らが、己が身も顧ず駆けつけるといつたやうな、トラック集団大爆走を最大の山場に持つて来る王道構成も、バジェット上いつても詮ないことではあるが、取れよう筈もない。代つて今作城定秀夫がロック・オンするのは、桃香の、儚い生涯。詰まるところは馬鹿な女が自分の体を大切にしない馬鹿な生き方をした挙句、虫ケラのやうに死んで行つた。たつたそれだけの、“よくある話”でしかないといつてしまへば実も蓋もなくそれまででもあらう。とはいへ桃香が奈美のデコトラに追ひ縋り、自身の窮状と、今度こそといふラスト・チャンスに賭ける決意とを叫ぶ場面。実は最終的には何処までも頼りない発声が最大の弱点である吉沢明歩よりも、余程強い芝居を見せる今野梨乃の姿には、奈美が考へを変へさせられるのと全く同時に、観る者も心を打たれよう。そして今野梨乃も素晴らしいが、本職ではなくAV女優(兼ストリッパーらしい)からこれだけのものを引き出し得た、城定秀夫の吸引力にも痺れさせられる。そして即物的には粒の小さなクライマックスにあつては、デコトラといふ器自体をも効果的に活かした、たとへそれが安普請に過ぎないとしてもなほかつ超絶に美しい奇跡が、観客を滂沱の涙で出来上がつた大海原に叩き込む。一直線に「トラック野郎」を求めるならばメロウに過ぎるのかも知れないが、一撃必殺のエモーションが火を噴く、正しく心洗はれる一作である。

 ミチの所在を求め奈美や菊雄が奔走する中、一人真実を知るのが野上正義であるといふ配役上の力学も、渋く唸る。


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 「爆乳フェロモン いやらしい感度」(2001『愛人・夢野まりあ 私、激しいのが好きなの』の2010年旧作改題版/製作:《株》ルーフ/提供:Xces Film/監督・脚本:長崎みなみ/企画:稲山悌二《エクセスフィルム》/撮影:アライタケシ/照明:山本オーロラ/編集:酒井正次/助監督:高田宝重/制作:内ノ倉直美/監督助手:永井卓爾/メイク:小川純子・西澤清子・鈴木健資/撮影助手:田淵和春/選曲:フィスミュージック/エンディング曲:さやか『DESTINY』/録音:シネキャビン/現像:東映化学/協力:フレンドシップカンパニー・フリコトゥール・黒ぢょか・シャルマン・《有》ウリ/出演:夢野まりあ・浅井まどか・秋川典子・中谷茂朗・法福法彦・宮崎博之・伊藤順一、他六名/特別出演:鈴木隆二郎・青木ゆきの/友情出演:けーすけ・橋本賢治)。照明助手その他チョコチョコ拾ひ零す。
 マリア(夢野)は会社社長(伊藤)の愛人として、何不自由ない暮らしを送つてゐる。開巻の一絡みを通過して、取り巻き連中に囲まれた高級レストランでの会食。伊藤社長(仮称)は最盛期には十六人、現在も総勢八人の愛人を抱へしかも本妻(青木)と愛人達が皆仲がいいだなどと、途方もなく底の抜けたガッハッハ自慢を披露する。けーすけと橋本賢治は、幾らか台詞も与へられる取り巻きAとBで、他六名も、ここでの見切れ要員。一方、シゲさん(鈴木)が店長のリサイクル・ショップ「フレンドシップカンパニー」で働くヒロト(中谷)に、同郷のシズカ(浅井)とショウタ(宮崎)が声をかける。仕事終りにヒロトと飲みに行くつもりだつたシゲさんは、結局四人で居酒屋「黒ぢょか」に。実は駆け落ちして来たことを告白したシズカとショウタは、ヒロトと、同じく同級生であつたマリアとの交際についても尋ねる。察しの通りマリアは伊藤社長の下に走り、散発的に短い連絡ならばなくもないものの、二人の関係は事実上終つてゐた。愛人生活に疲れ、足抜けしてスナックを始めたアサコ(秋川)の姿にマリアが動揺を覚えつつ、ある日マリアの腹上で伊藤社長は昏倒する。配役残り、散発的かつ僅かな出番でそれなりの存在感を披露する法福法彦は、伊藤社長の寡黙な運転手・北川。
 女流AV監督として名を馳せる―馳せた?―長崎みなみの、最初で最後のピンク進出作ではあるのだが。今作、これ最終的には、貧しい彼氏を袖に社長愛人の座に納まり裕福な生活を謳歌してゐた女が、パパさんが倒れ愛人業を廃業した途端に捨てた男とヨリを戻さうとするだなどといふ、都合のいいことこの上ないゴミみたいなお話である。要は、陵辱され初めは必死に抵抗してゐた女が、やがてアヒンアヒンよがり始め遂には自ら腰を使ひ気を遣る、やうな自堕落なシークエンスを男が撮る―珠瑠美は女でもやらかすが―のと、同等な罪を長崎みなみが犯したに過ぎまい。そんな憤懣やるかたない物語を、頓珍漢な台詞の数々が飾らずに火に油を注ぐ。オープンした店の狭さに正直目を丸くするマリアに対し、アサコは「ここが、アタシの居場所なんだ・・・・」、「居場所?」、「アタシの、居るべき場所」。何だそれ、外国人か子供相手に日本語を教へてゐるのかよ。北川から数百万の手切れ金を手渡されたマリアは、ゲームオーバーだレベルUPしたかなだなどと勿体つけた物言ひを振り回してもみせるが、愛人生活をゲームに仮託した事前の積み上げは、それまでには特にない。出し抜けにマリアがそんな明後日を言ひ出しては、それは北川も意味もなく微笑してみせるほかなからう。といふか、あの場合正しい演出としては、寧ろ北川が浮かべるのは苦笑ではなからうか。一応の、当然締まらないが締めの濡れ場への導入も酷い。図々しくも元カレにこの期に助けを求める電話をかけたマリアは、ヒロトが駆けつけると「迎へに来て呉れたの?」。お前が来いつて電話して来たんだろ!腹立たしい一作の中、マッシブな白土勝功といつた風情の中谷茂朗(現:南佳也)は兎も角、同じくAV男優であらう宮崎博之はギャースカギャースカ騒がしいばかりの腐れ茶髪でまるで銀幕には堪へられず、殊に最後の伊藤社長の対マリア戦に際しては、幾ら直近の伏線にしても夢野まりあの喘ぎ声より、伊藤順一の呻き声の方がやかましいといふ点は根本的に間違つてゐる。山本オーロラとかいふ如何にも変名臭い名義の正体は全く以て不明ながら、撮影と照明は形になつてゐるだけに観流して観流せない訳でもないのだが、一歩でも真面目に鑑賞を試みてしまつたならば、てんで話にならない木端微塵である。夢野まりあファンの諸兄にしかお薦め致しかねる、と斬つて捨てたいところではあつたのだが、アサコ役の秋川典子も、美人年増として完璧に素晴らしい。

 ある意味、といふか別の意味で律儀ともいへるのか、止めを刺すべくラスト・シーンも画期的に間抜けてゐる。河原にて、青木ゆきのが押す車椅子に乗せられた伊藤社長と、少し離れた場所の同級生四人で戯れるマリアとが交錯する、といふシークエンス。六人をフレームの中に収めたオーラスのロング・ショットでは、直前のカットと車椅子の位置が川に向かつてマリアらを基点にすると右から左に、進行方向からすれば前から後ろへと瞬間移動してしまつてゐる、寝ながら撮つてゐたのか?


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 「18倫 アイドルを探せ!」(2009/製作:ティーエムシー/監督:城定秀夫/脚本:貝原クリス亮・城定秀夫/原作:松本タカ『18倫』秋田書店『ヤングチャンピオン』連載/製作:海津昭彦/企画:汐崎隆史/プロデューサー:三波聖治・久保和明/ラインプロデューサー:征矢吉裕/音楽:タルイタカヨシ/撮影・照明:田宮健彦/編集:城定秀夫/録音:小林徹哉/助監督:小南敏也/撮影助手:河戸浩一郎/演出助手:冨田大策・小島朋也/ヘアメイク:神山静香/ヘアメイク助手:水野真由子/スチール:佐藤淳一/制作デスク:西村絵美/制作進行:市来聖史・半田雅也/ジャケット撮影:室岡浩一/ジャケットメイク:河口ナオ/公式ホームページ制作:SUNRAY Corporation/ロケーション協力:柳川庄冶《NPOパートナーシップきさらづ》・木更津市民会館/撮影協力:ソフト・オン・デマンド株式会社、SODクリエイト株式会社、SODアートワーク株式会社/協力:灘谷馨一/制作協力:レオーネ/出演:田代さやか・河合龍之介・琴乃・持田茜・森谷勇太・こばん・中村英児・福天・吉岡睦雄・神山杏奈・かなと沙奈・辻和朗・蘭汰郎・桂野恵一・古賀忍・大山ダイキ・木村和広・鈴木晴美・ホリケン。・範田紗々/特別出演:原紗央莉)。
 開巻はAV撮影現場にて、ヒロイン自ら前作「18倫」(同/脚本:高田亮・城定秀夫)の内容を掻い摘む。裕福な家庭に育つた池内倫子(田代)は医者を夢見ながらウルトラお嬢様高校(校名ロスト)に通ふが、ある日会社を倒産させた父親(森羅万象)は無体な置手紙一通を残し失踪。母親(藤崎世璃子)も間男(佐伯寛之)と行方を眩ませてしまつた為、倫子は一転、単身ホームレス生活に転落する。零細AV制作会社「バール企画」社長の沢倉(河合)に拾はれた倫子は、撮影や編集も担当するチーフAD・近藤(森谷)や録音担当のセカンド・牧谷(こばん)らに囲まれ奮闘するのであつた。と、そこまで一通りトレースしたところで、撮影中に何してやがんだと近藤が倫子の頭を叩(はた)くのがオチ。神山杏奈と辻和朗は、後ろに臨戦態勢で見切れるAV女優とAV男優。かなと沙奈と鈴木晴美も、後に同様に姿を垣間見させるAV女優。何れも一応裸は見せつつ、刹那的にカットとカットの隙間をすり抜けて行く。特にかなと沙奈などはピンク映画では主演級の人間を捕まへて、豪胆な話ではある。
 そんな折、準備に追はれるゲリラ撮影の現場で、ここは感動的なまでのプロットの使ひ回しぶりに逆に潔さすら感じかねないが、倫子は自身と全く同じやうな境遇を辿り公園に寝泊りする、前作にも登場した級友・桜子(持田)と再会する。矢張り沢倉に拾はれた桜子は倫子と同じく、バール企画に住み込みながらのAD生活をスタートさせる。ところが、世間に全く疎い桜子は、何処から嗅ぎつけたのか事務所にまで乗り込んで来たヤクザの借金取り・ギンジとキンゾウ(福天と吉岡睦雄)の持つ一億の借用書に、深く考へもせずにバール企画の社印を捺させてしまふ。俄に窮地に立たされた沢倉らは起死回生の一発大逆転を狙ひ、AV皇帝・不知火十四郎(まさか順四郎?/ホリケン。)主催で開催される、賞金一億円のAVコンテスト・A-1グランプリに参戦することに。ところで桂野恵一と古賀忍が、AV皇帝側近の画面手前と奥。ひとまづ張り切るバール企画の前に、何やらかつては沢倉と浅からぬ因縁もあつたらしい、敏腕プロデューサー・黒木怜子(範田)率ゐる巨大AVメーカー「ソドムファクトリー」が立ちはだかる。予めお断り申し上げておくと、残念ながらパンツスーツ姿で通す範田紗々には僅かなサービス・ショットすらなし。倫子は主に桜子の独断で、怜子のA-1グランプリ用の企画を探る目的でソドムファクトリーに潜入する。蘭汰郎・大山ダイキ・木村和広、そして特別出演の原紗央莉は、そのパートに登場するAV男優・監督・ADに、大スター然と控へ室に見切れる彼女自身。
 倫子らは新人女優の発掘に乗り出すが、「全裸千人運動会」を企画するソドムファクトリーの焦土作戦により、都内はおろか近郊に至るまであらかた刈り尽くされてしまつてゐた。仕方なく何処そこ県の土井那珂村にまで足を伸ばしてみたはいいものの、案の定若い女など見付けられようもない。諦めた一行が帰京するかとしたところ、彼氏・真也(中村)との痴話喧嘩に傷ついた農婦の石山民子(琴乃)が、自らAV女優を志願し走り去るバール企画のワゴン車を追ひ駆け農道を右から左にフレーム・アウトする。民子の大絶賛田舎女ぶりに脊髄反射で匙を投げかけた一同は、倫子がチャッチャとメイクを施した民子を見て目を丸くする。解剖学の基礎素養のある倫子は骨格から、民子が類稀なる美形であることを見抜いてゐた。
 とか何とかいふ訳で大勝負に挑むバール企画の面々、はてさてその運命や如何に?といふ次第の奮戦記は、徹頭徹尾フォーマット通りでしかないといへばないのだが、肝心要の突破力が効いた、量産型娯楽映画の完成形である。バール企画のA-1グランプリ攻略戦といふよりは寧ろ、今作がエモーションの頂点を激越に迎へるのは、そこから派生した民子と真也の純愛物語。ヤルことはしつかりヤッて、挙句にそれをAVといふ器に入れてパッケージにまでしてしまつてゐることなどは、だからさて措くべきだ。迸る互ひへの想ひを、ノー・ガードで撃ち合ふ琴乃と中村英児の苛烈な愛の応酬には思はずグッと来て、正直にいふがホロッと来た。遣り取りされるのは「変らない今のままの君が好きだ」的なベッタベタな台詞ばかりでしかない反面、逆にそのベッタベタを十全に形にする為には逃げ場のない確かな実力と、逃げることを忘れた覚悟とが必要ともされるのではないか。地味に十年選手の中村英児はある意味当然ともいへるのかも知れないが、意外、だなどと筆を滑らせれば失礼にもあたるのか琴乃の確実な地力には、改めて驚かされた。笑つて泣かせて、勃たせる力は然程強くはないが、最後はスカッと万事を綺麗に畳む。傑作と殊更に褒め称へるほどの決定力は有してゐないやうに思へたならば、それは逆に、娯楽映画といふものはさういふ過多に、もとい肩に力を入れて観るものでもないからではなからうか。一見単なる繋ぎにしか見えなかつたやうな一幕一幕をも忽せにはせず、オーラスには全て回収してみせる妥協知らずの丹念さも何気なく輝く。

 それはそれとして、土井那珂村を捨てAV女優になるべく上京した民子と、それを追つて来た真也。そんな二人の営みを収めたAVのタイトルが「木綿のハンカチーフ」だなどといふネタは、いはゆるアラフォー世代辺りまでならば兎も角、今の若い人達には通らないやうな気もしないではない。
 以下は今作自体の内容とは、全く無関係の事柄ではある。ポレポレ東中野から名古屋シネマスコーレを経て、目下(9/4~9/17)天神シネマでも日替り七作品を二セットといふ日程で城定秀夫特集が行はれてゐる。とはいへ今回は天珍ではなく、向かうを張つてか単なる偶然か、全く直撃するタイミング(9/10~9/16)で上映した駅前ロマンに於いて観戦したものである。


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 「ねつちり娘たち まん性白濁まみれ」(2009/製作:多呂プロ/提供:オーピー映画/監督・出演:荒木太郎/脚本:荒木太郎・三上紗恵子/原題:『新・東京物語』/撮影・照明:飯岡聖英/編集:酒井正次/助監督:三上紗恵子・金沢勇大/撮影・照明助手:宇野寛之・宮原かおり/音楽:宮川透 /ポスター:本田あきら/録音:シネキャビン/現像:東映ラボ・テック/タイミング:安斎公一/出演:佐々木基子・早乙女ルイ・里見瑤子・岡田智宏・野村貴浩・吉岡睦雄・青山雅士・淡島小鞠・稲葉良子・野上正義)。出演者中、青山雅士は本篇クレジットのみ、濡れ場にも与る結構大きな役なのに。
 三四郎(野上)とミネ(稲葉)の老夫婦は、三四郎の経営する町工場が倒産し持ち家も銀行に差し押さへられたため、ミネは東京に暮らす息子の良太郎(荒木)に、三四郎は静岡に住む娘・ちえみ(里見)に、夫婦が別れはしないが離れて厄介になる次第に。こゝでどうしても第一歩から躓かざるを得ないのがミネ役の、何処から連れて来たのか元オン・シアター・自由劇場とかいふ経歴を持つ、ガッチガチの舞台女優である稲葉良子。言葉を最大限に選ぶと、妙に逞しい二の腕まで含め劇中最も男性的な容姿で、板の上では遠目にも映えるのかも知れないが、これが銀幕となると流石に些かキツい。良太郎は勤務中に事故を起こしてからといふもの借金を抱へたのに加へリストラ候補となり、目下家計は主に、一件以降保険の外交員を始めた妻の佐和子(佐々木)が支へてゐた。尤も佐和子も佐和子でいはゆる枕営業を謳歌し、離婚する意思はない旨明言する佐和子に、顧客の吉岡睦雄が妙に入れ揚げてゐたりもした。良太郎の女子高生の娘・亜依(早乙女)は同級生・誠(青山)との交際を親には内緒で続け、二人のデートの隠れ蓑に使はれたミネは、孫娘の恋路に目を細める。一方、一旦は公務員に就職したちえみは、汚職と虚飾に塗れた役人生活に押し潰され、演劇の世界に身を投じる。とはいへその実は、公演のチケットを買つて貰ふのと引き換へに下衆な男達に体を任せる、殆ど売春婦紛ひの生活だつた。ちえみの周囲には、家事上手で肉体関係は伴はない男友達・歌内(岡田)や、稽古と称してセックスしてばかりの、芝居仲間・もりお(野村)が出入りする。普通に登場してもよいものを、蝶番で開閉式になつてゐる床板を押し開け、度々歌内が縁側の床下からゴソッと姿を現すギミックは、岡田智宏の朴訥とした持ちキャラにも親和し面白い。三四郎はそんな娘に対し、淫売と思ひきりどストレートに憤慨する。三四郎の気持ちも判らぬではないが、父親が娘を淫売呼ばはりしてしまつては、幾ら何でも親子関係が丸きり崩壊するのではあるまいか。
 離れ離れとなつた老夫婦を軸に、息子・娘・孫娘らの姿を描く、と最も漠然と纏めてみせるのは簡単だが、残念ながら話はさうさうすんなりとは通らない。新婚旅行以来初めてで同時に最後といふ覚悟での、東京見物にそれぞれ身の振り先を摸索する三四郎とミネは繰り出す。大道芸人(淡島)の奏でるアコーディオンに耳を傾ける三四郎とミネの姿に、良太郎と佐和子、ちえみと歌内、そして愛もとい亜依と誠の三つの情交が重ねられるクライマックスは、形式的にはピンク映画として全く順当に思へなくもないが、実質的な展開の上では、凡そ満足に成立し得てゐない。ちえみの荒んだ“自分探し”パートは、里見瑤子自体の質量を力強く受ける野上正義が加速し、頑丈に形になつてゐる。改心したちえみが、純朴な歌内と結ばれるといふ落とし処も、娯楽映画として百点満点であらう。ところが良太郎と佐和子に関しては、距離にせよ何にせよ、二人絡みのエピソードがそもそも然程描かれる訳でもない上に、終に良太郎が被弾した解雇を機に、何故か佐和子はそれまで邪険に疎んじてゐた姑に対する態度を俄に改める。ところがそれで実際にはどうするのかといふと、結局高級であらうと何であらうと、ミネを老人ホームに放り込んで済ませようといふのは底意地の悪い冗談か。亜依と誠の要は小娘と小僧に、無闇に自己責任自己責任と謳はせてみせる意図も全く以て理解不能。濡れ場を三枚並べられたところで、物語全体の求心力に欠く以上それらが束ねられる筋合にはなく、構成が意味を成してゐない。所々に光る点もなくはない反面、最終的には何がしたかつたのかてんで判らない一作。格の違ひを感じさせる声の張りなり凄みは衰へぬものの、ガミさんのリアルに覚束ない足下に対する心配だけが残る。

 ビリングは二番手ながら、ポスターは一人で飾る早乙女ルイは、今でいふと五十人くらゐで合唱してゐても全くおかしくないやうな可愛らしさなのだが、そんな折角の素材を、少なくとも今作に於いて甚だ焦点の不明確な、荒木太郎の覚束ない演出はまるで活かしきれてゐない。早乙女ルイを連れて来るならば素直にアイドル映画として撮るのが恐らくベストの選択で、だとするならばその道の巨匠・渡邊元嗣か、あるいは復調時限定で国沢実に任せるのが、より相当なのではなからうか。


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 「懺悔-松岡真知子の秘密-」(2010/製作:ミュージアムピクチャーズ/監督・脚本:城定秀夫/製作:山田浩貴/プロデューサー:西健二郎、他一名/撮影・照明:田宮健彦/編集:城定秀夫/助監督:小南敏也/撮影助手:河戸浩一郎/演出助手:冨田大策/演出部応援:伊藤一平/エンディング曲:『落花流水』詞・曲・歌:松浦ひろみ/制作協力:レオーネ/出演:松浦ひろみ・石井亮・吉岡睦雄・福天・濱田マナト・神楽坂政太郎・津田篤・中村英児・蘭汰郎・しじみ・原紗央莉)。
 机上ではメトロノームが鳴り、生徒は好きなやうに騒いでゐる音楽室。変拍子の理論をか細く説明する音楽教師・松岡真知子(松浦)の授業を、生徒達は聞いてなどゐなかつた。放課後の職員室、ヒゲの学年主任(吉岡)がエロ本を校内に持ち込んでゐた濱田マナトと神楽坂政太郎を絞ると、二人はそれを、見るからに弱々しい北川(石井)の仕業にした。何事か訴へるか頼みたいらしき北川の相手もせず、そそくさと学校を後にした真知子はレンタルDVD屋に寄り帰宅する。家ではテレクラで助平男をからかつてゐた足の不自由な姉・景子(原)が、真知子の到着を察するや表情を極悪な不機嫌に一変させ待ち構へる。後に明かされる過去、かつては姉妹でピアノ演奏会を開いたほどの景子と真知子ではあつたが、ある時真知子に彼氏(中村)を寝取られる現場に直面した景子は、衝撃のあまりそのままその部屋の窓から身を投げ、死に損なふと同時に両足の自由を失ふ。以来景子は病院でのリハビリはおろか外に出ることも拒み、奴隷のやうに虐げる真知子に借りるなり買つて来させたDVDやマンガ雑誌、それにテレクラ遊びとで、絶賛ルーズでバイオレントな引きこもり生活を送つてゐた。ここで津田篤が、例によつてテレクラを通して捕獲し、景子が実際に自宅に連れ込んだ大学生。ところで瑣末のリアリティとしては、誰かの私物のノートを置いておけば済むだけの話なので、今時景子の部屋にPCは欲しいところではある。話を戻して眠剤を飲み景子が寝静まつた深夜、姉の映画と同時に借りて来た、アダルトDVDを見ながら自慰に耽ることが秘かな日課の真知子は、借りてゐるところを濱田マナトや神楽坂政太郎に目撃され騒ぎにもなりつつ、北川が改めて真知子に接触する。実は音楽大学への進学を希望するとの北川は、実技試験対策と称して真知子にピアノを教へて欲しいといふ。当初は拒んでゐた真知子ではあつたが、そこそこは弾ける北川の熱意に絆され、といふよりは心の隙間に滑り込まれ放課後のピアノ・レッスンを始める。やがて二人は教師と生徒といふ間柄から女と男の関係へと内側に跨ぎ、三年生を受け持つ真知子は、景子には進路指導なり三社面談と偽る、帰りの遅い日々が続く。とはいへ真知子の底の浅い嘘は、ほどなく学校に電話を入れ確認した景子に露呈してしまふ。攻撃的に憤慨する景子は、色気づいた妹がつい買つて来た新しい洋服を鋏で切り裂くと、急遽その場でテレクラを介し捕まへた男(福天)を殊更に露出過多な格好をさせた真知子に迎へに行かせ、自分が見てゐる前での、情は交はらない性交を強要する。ところでこの福天といふ人が、簡単にいふとホンジャマカの石塚英彦のやうな大男で、小柄で華奢な松浦ひろみとの絡みではアメイジングに遠近法を狂はせる、プリミティブな映像マジックを見せる。
 そもそもVシネである点に関しては、形式的な事柄と大胆にさて措き筆を進めるが、娯楽映画としては、少々厳しいといつていへなくもない。二段構への罪悪感と、それを笠に着た加虐と抑圧とに支配された姉妹の関係は基本的に暗過ぎて、重過ぎる。尺の満ちた物語が、明確な着地点なり、明快な解放もしくは開放を迎へる訳でも別にない。放課後の音楽室での真知子と北川との情交は情熱的かつ正常に扇情的でもあるものの、少なくとも順番上最後の濡れ場を、女の嘔吐で中途に終らせてしまふ等、カテゴリー上の要請には反し我々の腰から下が司る劣情に対して、間違つてもそれほど優しくはない。問題行動であらうと思ふが、放課後度々音楽室の窓から紫煙を燻らせる真知子は、ある日傍らの北川に意図を語る。この火の点いた煙草は爆弾で、それをそのまま窓の下に落とせば、世界が終ると。真知子の秘められた熱情を示す、繰り返される重要なシークエンスの割には、画面から窺ふに恐らくプライベートでは喫煙を嗜まないであらう松浦ひろみに、吸ひ方を仕込まなかつた厳密にいふならば横着は、矢張りどうしても微妙な不自然と響かない筈もない。ピンクの感覚で考へると、この手のソフトのタイトルを素直に真に受けること自体が考へものであるやうな気もしないではないが、よしんばそれが歪んだものであれ何であれ、劇中世界の均衡を瓦解させるほどの、決定的なそれまでは全く未知の情報である“秘密”が、懺悔されることも特にない。だが、然し。一見閉塞した環境に従順に圧殺されてゐるかに見えながらも、真知子は平素押し沈めた力強い輝きを、終に失ふことは決してない。音大受験などといふのは要は殆ど方便で、下心で以て真知子に接近した北川のピアノは、まるで上達しない。そんな男子生徒を、血相を変へるやうに真知子が凛と声も張つた強い口調で難詰する場面。ピアノ演奏の良し悪しを聞き分ける耳は持ち合はせぬが、ひとまづの落着を経てのオーラス。北川は閉め出した音楽室で、真知子は一人羽ばたくやうに鍵盤に指を走らせる。ある意味それこそが最たる虚構であるともいへるのか、苛烈な日々に置かれてなほ、真知子の翼は、未だ潰えてはゐなかつた。人生といふバトルロワイアルを戦ひ抜く上での、“ピアノ”といふ得物を持つた真知子の屈せぬ強さは、目下の全方位的な袋小路の中で、観る者に確かなサムシングを与へるに相違ない。松浦ひろみか原紗央莉の裸で一発ヌイて、ついでにお話も面白ければ儲けもの、その程度の認識で見始めれば良くて面喰ふか、悪くすれば途中で停止ボタンを押してさへしまひかねないのかも知れないが、過去の実績からしても城定秀夫が幾らでも撮れるであらう娯楽作を封印して挑んだ一作は、さりげなく時代も撃ち冴えて頑丈な、裸で勝負しない裸映画である。どうやら邦画界が壊滅的状況にあるらしい昨今、城定秀夫自身の姿をも劇中の松岡真知子にオーバーラップさせるのは、素人考へにしても下衆に過ぎるであらうか。

 配役中残り、ex.持田茜であるしじみは、音楽室の窓から真知子と北川に見られてゐることにも気付かずに、建物の陰で青姦に勤しむ二組のアイバさん。顔が正面から抜かれないがビリングも踏まへた消去法から蘭汰郎が、本当は三組の坂上さん(登場しない)が好きなのに、ヤラせて呉れるアイバさんを抱く同じく二組のヨシカワ君か。津田篤はまだしも、中村英児の出演シーンは回想演出といふことで残像を引き摺りつつカットの間を飛ばす画像処理が施され、しじみに至つては、ギリギリその人と判別出来るか出来ないかの豪快な―しかも上からの―ロング・ショットである。城定秀夫の顔で連れて来たのであらうが、津田篤・中村英児・しじみの三者の起用法には、豪勢な贅沢さも感じさせる。


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 「未亡人わいせつ戦争」(昭和63『未亡人SEX戦争』の2010年旧作改題版/製作:伊能竜/配給:新東宝映画/監督:渡辺元嗣/脚本:平柳益実/撮影:下元哲/照明:田端一/編集:酒井正次/助監督:橋口卓明/監督助手:小原忠美/撮影助手:中本憲政/照明助手:小田求/スチール:津田一郎/協力:グロウエンタープライズ/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:青木ゆかり・秋本ちえみ・川奈忍・山岸めぐみ・ジミー土田・山本竜二)。製作の伊能竜は向井寛の変名で、いふまでもなく監督の渡辺元嗣は、現:渡邊元嗣。
 小笠原愛子(青木)は年の離れた―後に登場する遺された訳の判らないビデオ映像からは、特にさういふ風にも見えないのだが ―夫に先立たれるや、夫の実家からは無下に籍を抜かれ、遺産代りに与へられた、下宿屋に毛を生やしたやうな古アパートの“未亡人”管理人に納まる寸法に。亡夫とも親交があつたといふ、不動産会社「セントラルコンサルタンツ」を経営する二階堂治朗(山本)に言ひ寄られた愛子が慌てて身を引き離し事務所を後にすると、悔しがる二階堂は脇をパコパコさせながら、「ニックニックニック!」―実際には、殆ど「ニ!ニ!ニ!」に聞こえる、ダムドかよ―と叫ぶ。それは二階堂の興奮した時と、嬉しい時の口癖であつた。行く末を思ひ煩ひ夜道をトボトボ歩く愛子は、歩道橋から下に吐かうとしてゐた傍迷惑極まりない女を、身を投げようとしてゐるものと常識的に勘違ひししがみついて押し止める。さうしたところ女は、何と愛子の高校時代の同級生・皿田みゆき(川奈)で、しかもこれから愛子が管理人を務める、「かしまし荘」の住人でもあつた。更にかしまし荘には、愛子・みゆきと当時三人娘的ポジションを形成してゐた、西宮薫(秋本)も暮らしてゐた。加へて加へて、薫はバイク事故で、みゆきは資材の下敷きとなり、何れも遺影の主は不明の夫と死に別れた、二人とも未亡人であつた。未亡人三連星が勢揃ひしたかしまし荘に、女探偵の相沢郁代(山岸)と、郁代の主夫に相当し、何の競技でだかは知らないがバルセロナ夏季五輪(当年ソウル大会の次、1992年開催)を目指すとかで、体を鍛へる川口徹(ジミー土田)とが騒々しく越して来る。昼間からお盛んな郁代と徹に三人の寡婦が閉口したりあるいは触発されたりする一方で、OLのみゆきはモジャモジャのパーマ頭に、サングラスを外すとグラムロック風の目張りを入れた、「ニックニックニック!」が口癖のエキセントリックなCMディレクターと交際関係にあり、ソープランド「勉強屋」の泡姫である薫は、常連客でお化けのやうな出つ歯が特徴的過ぎる、「ニックニックニック!」が口癖の大学教授と、商売を超えた付き合ひを続けてゐた。
 ちやうど一刻館のやうな古アパートを舞台に、大胆なジェット・ストリーム・アタックをしかも二つ重ねてみせたアクロバティックな物語が、郁代を取つてつけた文字通りの名探偵役として磐石に着地を果たす様が少々強引でもありつつそれでゐて見事な、その限りに於いては素敵にスマートな一作。残念ながら時代を絶望的に超え得ない、登場人物の頭を抱へたくなるやうなファッションや髪型さへなければ全然印象も変り、傑作娯楽映画として名を残してゐてもおかしくなかつたのではなからうか。それだけに、与太を吹くやうだがいつそのこと、たとへば愛子・みゆき・薫に夏井亜美・藍山みなみ・真田ゆかり―歳がバラバラぢやないか?―で二階堂には西岡秀記、郁代と徹には夏川亜咲と真田幹也といつた配役で、渡邊元嗣にセルフ・リメイクして貰ひたいくらゐである。新東宝とオーピーといふ別に関しては、気づかないふりをする。大筋を畳んだところで流石に羽目外しも少々度が過ぎるエピローグを通過し、オーラスは秋本ちえみなんぞは勢ひ余つてノーブラのオッパイが覗いてしまふほどの、豪快なジャンピング・フィニッシュで締めてみせる辺りは今も変らぬナベ節で、小屋を後にする足取りも軽くさせる素晴らしい爽やかさ。ヘアースタイルがアレなのはこの際仕方もないとして、3トップのセンターを綺麗に飾る、青木ゆかりのストレートな美形ぶりも光る。

 時期は不明ながら(少なくとも)既に一度、今作は「三人の未亡人 未亡人は男好き」との新題で旧作改題されてゐるらしい。然し旧題も(今回)新題も、豪快なタイトルである。“戦争”を謳ふやうな物騒さなり威勢のよさは、特に感じられないのだが。


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 「菊池エリ 熟女の時間で・・・イッて!」(1993『巨乳熟女 本番仕込み』の2010年旧作改題版/製作:獅子プロダクション/提供:Xces Film/監督:橋口卓明/脚本:切通理作/撮影:下元哲/照明:伊和手健/編集:酒井正次/助監督:田尻裕司/撮影助手:小山田勝治・釣崎清隆/照明助手:広瀬寛巳/監督助手:北本剛/スチール:佐藤初太郎/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/タイトルハセガワ・プロ/出演:菊池エリ・伊藤清美・井上あんり・伊藤猛・山口健三・中川あきら)。
 朝つぱらにしては随分とフルスロットルな夫婦生活を経て、山本エリ(菊池)は一週間後ルクセンブルグ空港での再会を約し、夫・大介(中川)を海外出張へと送り出す。かと思ふと、それまで長閑であつた劇伴がラウドに転調、スケ番感覚のどぎついメイクに、ゴッテゴテした無闇な装飾品。そして破廉恥なボディコンと、今世紀にあつては最早ギャグとしてしか成立し得ないやうな武装を纏ひ、エリは俄に出撃する。杉村慎吾(山口)が部下達(男三人女一人、全員不明)にハッパをかける営業会議の席上に乱入したエリは、火遊びの対価を正当に支払はないとかいふ根も葉もない難癖を投げつけ、杉村の顔に泥を塗る。実はそれは、エリにとつては親友であり、杉村にセクハラされた池田京子(井上)から依頼された一種の復讐劇であつた。渡欧する前にもう一仕事をと、京子はエリに持ちかける。広告会社「《有》水島コーポレーション」を経営する夫・水島敏夫(伊藤猛)の女癖の悪さに、エリ高校時代のテニス部先輩・かおり(伊藤清美)は悩んでゐた。一晩の過ちを偽装して、水島を懲らしめて欲しいといふのである。ところで、純然たる枝葉ながら今作のさりげなく殺傷力の高い飛び道具として伊藤清美の、髪型としてはキュートな筈のボブカットに戦慄する。話を戻して、広告用のカレンダーモデルを探す水島に、エリは接近することに成功する。夜の街を二人並んで歩きながら、「君のヌード写真が欲しい」、「昔に撮つたのならあるはよ」、「野暮をいはせんなよ・・・」だなどと、観てゐるこつちが小恥づかしいむず痒くなるやうな遣り取りを交しつつ、エリは水島とホテルへ。ところが事前に京子から渡された即効性があるとの睡眠薬が全く効かず、結局エリは水島と丸々一戦交へる羽目に。
 橋口卓明も切通理作もともに、未だ“新進”と称されるのが適当であらう時期の作品にしては、限りなくルーチンに近い、まあ才気の感じられない物語ではある。起承転結の後半部分を支配する、エリもかおりも関知しないところで独走する京子の策略も、説明原理が正体不明であるのに加へ初めから仔細を明かしてしまつてゐるので、たとへばサスペンスとしても全く成立し得ない。グダグダした―とでもしかいひやうのない―展開の末のクライマックス、再び水島と事に及ぶに際してエリは、「アタシ、自分の気持ちに正直にならうと思ふの」、「恋になる前に、浮気がしてみたかつた」。凝つた―つもりの―決め台詞が活きて来るだけの積み重ねがまるで見当たらない中では、決まらない単なる頓珍漢に過ぎまい。開巻早々に退場したきりの、大介の案山子ぶりを改めて想起するに至つては、止め処なく流れよ、我が涙といふ次第である。尤も、公開当時三十路前の菊池エリを2010年視点から振り返る、ルネッサンスは十二分に木戸銭の元を取れるだけの威力を有してゐる。八十年代の残滓を引き摺る時代風俗的には少々苦しいが、エモーションの焦点を意図的に菊池エリに絞れば、意外と乗り切れぬでもない。顎の形に特徴があるものの、井上あんりもなかなか綺麗なボディ・ラインをしてゐる。としたところ、この方既に泉下にをられるやうだ、合掌。

 以下は再見に際しての付記< 杉村部下の内、名指しされる榎本は榎本敏郎で、国分は恐らく国分章弘


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 「人妻家政婦 情事のあへぎ」(2000/製作・配給:新東宝映画/監督:橋口卓明/企画・脚本:福俵満/撮影:中尾正人/編集:酒井正次/音楽:北鳥山ミュージック/助監督:菅沼隆/撮影助手:田宮健彦/監督助手:三好保洋/スチール:津田一郎/タイミング:安斎公一/録音:シネキャビン/現像:東映化学/協力:堀禎一・森元修一/出演:佐々木麻由子・伊藤猛・佐々木基子・工藤翔子・坂田雅彦・小林節彦)。プロジェク太上映の地元駅前ロマンにて、インターフィルムより2007年にリリースされたDVD版「人妻家政婦 ~ふるへる唇~」の形で観戦したものである。
 「信頼と実績の愛情調査」をモットーとする私立探偵・園部亜門(伊藤)と、腐れ縁の水商売の女・宮前晶子(工藤)の濡れ場で開巻。晶子は要は浮気調査ばかりの仕事に対し己のことは棚に上げ冷笑気味だが、亜門は必死な思ひで探偵を縋つて来る顧客も居る、と自身の稼業に込めた真心も滲ませる。そんな亜門の今回のクライアントは、早速ポップに思ひ詰めた古賀英男(小林)。妻・美佐子(佐々木麻由子)と、美佐子が通ひの家政婦として働く桐山玄太(坂田)といふ男の仲を、古賀は疑つてゐた。どうやら無職らしき桐山が、家政婦を雇つてゐるのに首を傾げつつ、亜門は常套手段の読切新聞の勧誘員を偽装し桐山家を訪問。手洗ひを借りるふりをして、目を閉ぢてゐないと見つけられない位置に盗聴器を仕掛け、挙句に玄関にも設置しようとしたもう一つは、急な桐山の帰宅に慌て下駄箱の下に落として来てしまふ。信頼出来なければとても実績を残せさうにもない仕事ぶりに関しては強ひて兎も角、帰つて来るなり桐山は玄関口で美佐子を抱き始め、その時点で亜門の仕事は、ほぼ終了する、棚から葱を背負つた鴨が転がつて来るかのやうな探偵物語ではある。美佐子の不倫の事実を古賀に報告した亜門は、泣いてゐるかに思はせた古賀が、実は高笑ひしてゐることに疑念を抱く。この場面もこの場面で、一旦は泣き真似をしながら亜門の車を出た古賀が、数歩歩いたところでガッハッハ大笑ひしてゐたりする。気が至らないといふか何といふか、実にショート・レンジな探偵物語だ。亜門はその場の判断で、古賀の手鞄にも盗聴器をそのまゝの形で無造作に忍ばせる。一度でもバッグを開けたならば、「あれ?何だこれ」となる話でしかない。ここに至ると最早、天衣無縫とでもいつそ讃へるべきなのか。画調はソフト・フォーカス基調の反面演出のトーンとしては一応硬質でもあるのだが、冷静に始終の詳細を吟味してみるまでもなく、正直そこかしこが綻び放しである。ホクホク顔の古賀は、その足で浮気相手の女社長・小野明美(佐々木基子)の下へと向かふ。古賀は明美に、美佐子との離婚計画が完成間近の旨を伝へる。元々桐山は古賀の雇つたいはゆる“別れさせ屋”で、全ては美佐子と別れ、明美と再婚する目的の策略であつたのだ。出汁に使はれた格好の亜門は、桐山が姿を消した借家で呆然と立ち尽くす美佐子に真実を伝へる返す刀で、金を借りた相手に対し明美のことを口汚く金蔓呼ばはりする古賀の会話を録音したテープを、明美にも聞かせる。古賀が離婚届に判を押させるために美佐子と待ち合はせたホテルの一室で、一足先に明美と古賀の痴話喧嘩が勃発する。ホテルに到着した美佐子が立ち去る明美とニアミスする一方、古賀の部屋からは、凶器は明美のパタークラブによる古賀の撲殺死体が発見される。
 好評を博したのかさうでもないのかは最早よく判らないが、以降一年に一作づつ「人妻浮気調査 主人では満足できない」(2001/脚本:武田浩介/主演:時任歩)、「探偵物語 甘く淫らな罪」(2002/脚本:五代暁子/主演:ゆき)、「真昼の不倫妻 ~美女の快楽~」(2003/脚本:福俵満/主演:岡崎美女)と、物語として完結した訳ではないが都合四作が製作された、私立探偵・園部亜門シリーズの第一作である。亜門が事務所、兼自宅の電話を取る際の決め台詞「はい、信頼と実績の愛情調査、園部興信事務所です」。第四作では酒井あずさに交代するものの、第三作までは通して工藤翔子が演ずる晶子と亜門との付かず離れずの関係。缶コーヒーアディクトといふ亜門のディテール等が、以降に共通する明示的な特徴として挙げられる。その上でひとまづ今作に話を絞ると、玄関先に落としたものと、画期的に丸見えな居間の蛍光灯の傘に仕掛けた盗聴器―音声のみで映像を拾はない点に、時代が感じられぬでもない―で捉へた、美佐子と桐山の情事の様子に軽自動車の中から耳を傾ける亜門の姿に、伊藤猛の滑舌の悪いモノローグが被せられる、「それから二時間、俺は彼等の獣じみた声を聞かされ続け、気が狂ひさうになつた」。後の監督作を鑑みるに、橋口卓明といふよりは新東宝の社員プロデューサー・福俵満(=福原彰)の志向といふか趣味であらう、スタイリッシュなハードボイルドを気取つたつもりが青臭くしかない独白で硬直した物語は、要は探偵物語は探偵物語でも、“救ひ難く間抜けな”探偵の物語に過ぎない。冒頭、追ひ詰められた依頼者に真摯に対応しようとする心構へを晶子に表したところから、カット明けると亜門が憔悴しきつた古賀と会ふ展開は、その場的な流れとしては順当だが結果論としては、プロであるにも関らず、亜門は古賀の魂胆を見抜けなかつたことにほかならない。最終的に亜門が為した能動的なアクションといへば、プリミティブな手法で入手した古賀の情報を、二人の女に伝へる意地の悪い全方位外交程度で、事件の真相が明らかになる件に於ける感動的な無為ぶりは、寧ろ清々しいくらゐである。さういふ、机か何かに突つ伏して眠る時かのやうなカパカパの脇の甘さも、実は残る三作ともが共有するものである点を踏まへると、ある意味なほのこと第一作らしい第一作と、いつていへなくもない。


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 「馬と人妻の痴態」(2001『馬を飼ふ人妻』の2010年旧作改題版/製作:シネマアーク/提供:Xces Film/監督:下元哲/脚本:石川欣/企画:稲山悌二・奥田幸一撮影:下元哲・小山田勝治/照明:代田橋男・広瀬寛巳/編集:酒井正次/助監督:高田宝重・永井卓爾/録音:シネキャビン/スチール:本田あきら/現像:東映化学/出演:朝吹ケイト・ゆき・しのざきさとみ・桜沢菜々子・なかみつせいじ・岡田智宏・神戸顕一・日比野達郎)。
 海岸沿ひの高層マンションに構へた別邸、旅行中の会社社長・大谷(日比野)は妻・美也子(朝吹)の美しさに、並々ならぬ以上の、殆ど異常とも思へる執心を注いでゐた。大谷は美也子が美貌を磨くためならば如何なる出費も厭はないその放埓にも似た寛大は、美也子が費やしたものは最終的には自分の金で買つたものである以上、結果としての美也子の美しさも、自分の所有物である筈だといふ歪んだ自負心に基いてゐた。このベクトルに限定すれば、大谷に関して偏執性を感じさせる日比野達郎の配役は適役ともいへるのではないか。自身の精力に衰へを感じぬでもない大谷は、美也子が本当に自分のものであるのかどうか、やゝもするとほかの男との関係の末に、輝いてゐるのではないかなどと仕方のない猜疑を抱く。大谷は社内随一のプレイボーイとかいふ宮坂(岡田)を呼びつけ、弾み如何では妻と寝ても構はないといふ条件で美也子の身辺調査を命ずる。色男の腕試しといふ次第で、宮坂が地元の飲み屋の女・洋子(ゆき)と宏美(しのざき)を仔細は割愛した秒殺で攻略してみせる一方、大谷が所有する乗馬クラブにて、乗馬係(神戸)に居丈高なクレームをつけてゐた美也子は、落馬事故で騎手を引退した厩舎員・黒沢(なかみつ)から無愛想な正論で完膚なきまでに遣り込められる。一旦は条件反射でヒステリックに反目しながらも、美也子はこれまで周囲には居なかつたタイプの、無骨な黒沢に惹かれぬでもないサムシングを感じる。
 五年後に松原一郎と名義を変へオーピーに越境した上で、再び取り組んだお馬さん映画「馬と後妻と令嬢」(主演:佐々木麻由子)と比較すると、脚本に石川欣を迎へてゐるのに気負ふてか、獣姦ものといふ所詮は色物にしては、全篇が妙なアンニュイさに塗り込められもした生煮え感が色濃い。明後日なジャンルを素直に重量級の煽情性一転突破で押し切ればいいものを、大谷のウジウジした焦燥を通らない軸に、主演女優として展開を支へるには演技力が大いに心許ない朝吹ケイトが糸の切れた凧のやうに泳ぎ、要は丸つきり役立たずの宮坂が間抜けに右往左往する。結局宮坂は美也子を陥落させるでもなく、唐変木な報告を大谷に入れるばかりで安酒屋の田舎女をオトした以外には、一体何をしに出て来たのだか清々しく判らない。ただでさへ抜け気味の映画の底を、止めを刺す方向に作用してしまつてゐよう。朝吹ケイトのエッジの効いたスタイルは確かに超絶ではあるのだが、ファッションモデルのやうに人工的な風情すら漂はせ、実戦的なエロチシズムの面では却つて若干劣る。サラッと割つてみせるが最終的な落とし処としては、大谷と黒沢が、馬に美也子を寝取られヒヒーン―とは流石にいはないが―と吠え面をかくなどといふ物語は、いつそ大オチの破壊力頼みのギャグ映画として攻める、さういふ戦略の方が、より適切であつたのではあるまいか。オーラスの美也子対お馬さん戦を、どういふ事情からかビデオ撮影でお茶を濁して済ませ、それゆゑそれを見守る大谷と黒沢を捉へた通常画調が、白つぽいキネコ画面に差し挿まれるといふへべれけなクライマックスが特徴ないしは反照的な、ちぐはぐな一作である。
 桜沢菜々子は、離婚し地元に戻つて来た家政婦・かおり。大谷が情けなくも美也子をイマジンし自家発電を始めようかとしたタイミングで部屋に入り、札片を握らされ事に及ぶ。朝吹ケイトの始終は妙ちくりんなテーマに支配され、ゆきとしのざきさとみはほぼ賑やかしのポジションに止(とど)まる中、かおりの濡れ場が、ある意味最もいやらしいとする評価が妥当となるのかも知れない。

 採り上げるべきや否や最後まで迷つたが、鹿は出て来ないが馬鹿映画としての実際には採用されなかつた今作の本質を華麗に復興してか、四年後にリリースされたDVDタイトルが画期的である。

 以下は再見に際してゐる訳でもない付記< リンクが切れてゐるので件のDVD題を改めて御紹介、「朝吹ケイトのイャーン馬姦 馬を飼ふ人妻」。これは俺が吹いた与太ではない


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 「花と蛇3」(2010/製作・配給:東映ビデオ株式会社/監督:成田裕介/脚本:我妻正義/原作:団鬼六『花と蛇』幻冬舎アウトロー文庫/製作:福原英行/企画:日達長夫・松田仁・小椋正樹/プロデューサー:加藤和夫・嶋津毅彦・太田裕輝/音楽:石川光/撮影:藤澤順一《JSC》/照明:金沢正夫/録音:小林喬/美術:黒川通利/編集:只野信也/緊縛:有末剛/音響効果:中村翼/協力:原田徹/製作協力:ニューウェーヴ株式会社/協力:バイオタイド、他/出演:小向美奈子・本宮泰風・小松崎真理・工藤俊作・斎藤歩・琴乃・沼田爆・松山鷹志・川瀬陽太・錦城志朗・星野晃・白井雅士・和田光沙・睦五朗・水谷ケイ・火野正平、他)。
 美人チェリスト・海東静子(小向)のコンサート会場、遠山グループ総裁の遠山隆義(本宮)が、音はさて措き静子の姿に熱い視線を注ぐ。高校時代に父親の経営する工場が倒産し苦境に見舞はれた静子は、以来パトロンとして支援を受けて来た関西財閥会長・海東義一郎(睦)と結婚するが、海東は既に、齢八十も超えた老人であつた。静子を手中に収めたい遠山は、秘書の津田(沼田)との遣り取りの中で、異母弟との確執を利用し、海東を経済的破滅に追ひ込む企てを思ひ立つ。当然男性機能も失つてゐる以上、静子が自慰を披露し、後に海東が指で愛撫するのみの夫婦生活。老夫の指戯に喜悦する静子に被せられるタイトル・イン明けると、いきなり遠山の姦計は功を奏し、破産した海東義一郎はしかも死んでしまつてゐたりする。速い、贅肉を削ぎ落とした麗しい速さだぜ。本気を出した新田栄ならば、更に一層速からうが。悲嘆に暮れる喪服姿の静子を、上がり込んで来た闇金融の皆さん(星野晃ら)が拉致する。地下室に連れ込まれた静子は吊るされ、鞭打たれる。とそこに、妙に戦闘力も高い小男が単身突入。若い男を一人シメた男は闇金の持つ債権は全て遠山グループが買ひ取つた旨を宣言し、意識も朦朧とした静子を救出する。運転手・カワダ(斎藤)の運転する高級車の中で、遠山は話を呑むしかない静子に対し、逼迫した現況から逃れるには自身の妻となるほかないことを言明する。山中の別邸に到着すると、管理人兼シェフのモリタ(工藤)、遠山家作法係の折原珠江(水谷)、メイドの平原美佐江(琴乃)、そして執事の伊沢(火野)に静子を預け、遠山自身は一箇月の渡米視察と称して退場する。得体の知れぬ家人と、蛇のやうな正体不明の視線とに怯えつつ仕方なく遠山別邸に暮らす静子を、終に決定的な衝撃が襲ふ。ある夜の夕食、使用人である筈のモリタやカワダも食卓に着くことを静子が訝しんでゐると、あらうことかモリタは珠江と、カワダは美佐江と交はり始めた。息を飲み席を立たうとする静子を、食事中だと伊沢が制する。明くる日、静子に伊沢が遠山からの手紙を持つて来る。伊沢は実は、鬼村源一通称鬼源として名の知れた凄腕の調教師で、珠江らも皆、鬼源の手の者であつた。その時から、遠山が求める静子を最高の女とするべく、淫靡で苛烈なSM調教が幕を華麗に開ける。
 残る配役の内、ビリング三番手の小松崎真理に関しては後述することとして、錦城志朗・白井雅士・和田光沙の三名は手も足も出せずに不明。手を替へ品を替へた調教の中、鬼源は露出緊縛状態の静子を家も持たないのか焚火のほとりで酒を飲む二人組の労務者に差し出し、犯させる。縛りと吊りのアクロバットが火を噴くクライマックスを除いては、緊迫感に富むシチュエーションが陰影のコントラストに映える、この場面が最も映画的な煽情性を誇る。松山鷹志と川瀬陽太は、松山鷹志が画面向かつて労務者左、川瀬陽太が労務者右。僅かに光の当てられる松山鷹志はギリギリまだしも、川瀬陽太はほぼ影に沈み、声を発しなければ認識するのに些かの訓練と集中力とを要しよう。ただ、薮蛇をいふやうだが、特に斎藤歩の決して得手には見えない濡れ場芝居を前にするにつけ、その道に長けた川瀬陽太の起用法にはもう少し再考の余地もあつたのではなからうかと、ピンクスの贔屓目としては思はぬでもない。
 石井隆監督と杉本彩主演による二部作から六年ぶり、通算では八作目となる「花と蛇」映画版ではあるが、静子といふ令夫人がサドマゾの淫獄に堕ちる―「白衣縄奴隷」(昭和61/監督:西村昭五郎/主演:真咲乱)などはこの要件すら全く満たさないが―といふ最も大まかな基本設定以外には、ナンバリングされる今世紀版「花と蛇」の前二作と今作との間にさへ、劇中世界の連関は特にも何も存在しない。矢張り兎にも角にも特筆すべきは、今このタイミングでそんな「花と蛇」といふ器の中に、正しく鉄を熱い内に打つべくスキャンダラスな小向美奈子を連れて来た、商売として清々しい嗅覚とそしてそれを目出度く無事完成公開にまで漕ぎつけた、映画企画としての正しさを一にも二にも称へたい。その上で、序盤は卓越したテクニックを駆使し相当勿体つけて引張ておきながら、いざ乳首を解禁する際のあまりの呆気なさ―しかもアップですらない―には少々拍子抜けもしたが、最終的には客が最も観たいものであるところに疑ひはない、小向美奈子の裸はお腹一杯に堪能させて呉れる。そこから先、裸映画から裸を差し引いた素といふ意味での裸の映画としては、大きく軸足を踏み外してしまふこともない反面、さしたる踏み込みを見せるでもない。それゆゑ如何にもありがちな何時か何処かで確実に見たやうな落とし処まで含め、娯楽映画といふには些か小奇麗過ぎる点も踏まへれば、商業映画の鑑とでもいふべき良くも悪くも概ね完璧な出来栄えの“ほどほどの一作”である。ここで“概ね”とわざわざ注釈をつけたのには理由があり、一点明確な疑問が残る。高校・音大を通しての同級生で、静子に秘めた同性愛を注ぎ続けた野島京子(小松崎)が、静子回想の伏線を経つつ調教のギミックの一環として鬼源に招聘され、百合の花香る絡みを展開する。そこで、この小松崎真理に首を傾げざるを得ない。何でも女性ファッション誌の読者モデルとして名前を売り、昨今セミヌードといつた準裸仕事もぼちぼち始めた流れでの初映像作品、兼オールヌードといふ触れ込みではある。ところがこの人が、直截にいふが変哲のない首から上も下にも全く華を欠く。そもそも、小向美奈子主演による「花と蛇3」の間違ひなく主要客層であらう、勿論小生も入れてオッサン連中に女性ファッション誌読者モデルの名前がどれだけ通るのかといふ不条理に加へ、“妖艶”といふ言葉はこの人のためにあるのではなからうかとさへ思はせる、世紀を跨ぎ長く超絶のプロポーションを保ち続ける水谷ケイと、正しく小悪魔的といふに相応しいコケットリーを弾けさせる琴乃とに脇を固めさせた時点で、既に裸布陣は完成されてゐるではないか。読者モデルである以上仕方のないことといへるのかも知れないが、丸つきりそこら辺を歩いてゐる普通の女の子にしか見えない京子が登場する度に一々映画のテンションは下がり、唯一この余計が、洋服を汚してしまつた染みのやうに目につく。逆に、感動的に縄に映える柔らかく艶(なまめ)かしい小向美奈子のオッパイのほかに正方向に賞賛すべきは、バクチクする重低音と凄腕調教師としての分厚い存在感とを文句なく発揮する火野正平。正直そこかしこに安普請さが垣間見えぬでもない映画のグレードを、他を完全に圧倒する正しく役者の違ひで一段力強く引き上げる。


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