真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「バイブ屋の女主人 うねり抜く」(2007/製作:旦々舎/提供:オーピー映画/監督:浜野佐知/脚本:山邦紀/撮影・照明:小山田勝治/撮影助手:大江泰介/照明助手:塚本宣威/助監督:加藤義一・新居あゆみ/協力:横江宏樹/音楽:中空龍/ロケ協力:ラブピースクラブ/キャスティング協力:株式会社スタジオビコロール/出演:北川明花・風間今日子・荒木太郎・吉岡睦雄・平川直大・久須美欽一《声の出演》・安奈とも)。
 “オンナによるオンナのためのセックスグッズストア”を謳ふ、実在する大人のおもちや屋「ラブピースクラブ」。北原みのり代表と浜野佐知との、シネマアートン下北沢公式サイト内に見られる2004年に行はれた対談の中では、自作の劇中に登場するバイブを、浜野佐知が以前から実際にラブピースクラブの通販で求めてゐることも語られる。劇中オーナーのジェーン(北川“新体操の方”明花)は、バイブを自ら試してみながら「いい使ひ心地ね・・・」、「女が作つて、女が使ふ、女の為だけのバイブよ・・・」と悦に入る。開巻即ち、女帝節絶好調である。翻つてみるならば、この好調は今作を通して維持される。一方「人体華道」を提唱し、自らの女陰に花を活けた(自称)アート写真を撮る蘭子(安奈)。蘭子の芸術観の中では、女性器は花を活ける壷であると同時に、花そのものでもあつた。いはんとするところは判らぬでもないが、少なくとも今作中の出来上がりとしては件の人体華道が即物的なヌード写真に過ぎない点に関しては、ひとまづさて措く。恋人で植木職人の匹夫(吉岡)は尻フェチで、観音様ばかりで菊座を等閑視する蘭子に不満を覚えるが、蘭子は肛門にも花を挿すことには、どうにも抵抗を禁じ得なかつた。
 沼の中から姿を現すウィラード大尉よろしく(どうせ無関係か>だからなら書くな)、荒木太郎がベランダの手摺外からアップでせり上がりながら登場すると、デスク・ワーク中のジェーンを急襲する。役者としての荒木太郎の、登場忽ちシークエンスを支配する決定力は未だ衰へてはゐない。日本古来の張形―と春画―を愛好する晴喜(荒木)は、ジェーンの売る西洋風のバイブに対し冒涜であると、お門違ひに思へなくもない激しい敵意を燃やす。こちらは夫婦の寝室で、麻奈(風間)がラブピースクラブのバイブ・カタログに目を落とす。そんな妻の姿に、感興を覚えた目を判り易く輝かせた夫の波男(平川)から「欲しいの?」と振られると、麻奈は一笑に付す。「生・イズ・ベスト」が信条の麻奈は、バイブなど寂しいオナニストの玩具に過ぎないと斬つて捨てる。肉食獣のやうに夫の生の男根を貪る風間今日子は、実にハマリ役。女同士の対決の従順な傍観者たる、平川直大も控へめながら安定してゐる。
 週刊誌に人体華道を酷評された蘭子は、匹夫の勧めでマンネリを打破する為にとラブピースクラブを訪れてみることにする。蘭子はジェーンのバイブの園に、人体華道の新たなフロンティアを見出す。
 と、いふ訳で。肛門性行を推す匹夫×頑強な抵抗を禁じ得ない蘭子。日本古来の張形を愛好し、西洋風のバイブを敵視する晴喜×オンナによるオンナのためのバイブを作り販売するジェーン。生の男性器一辺倒で、バイブを軽視する麻奈×ジェーン。三本の対立軸が、構成も鮮やかに並び立つた。それでは、そこから物語が如何に展開して行くのかといふと。ネタバレにもなつてしまふのは恐縮だが、全て<「挿れてみたら気持ち良かつた☆」>の一点突破で押し切つてしまふのには畏れ入つた。最早清々しさすら感じさせる。小馬鹿にされてゐるやうな気もしないでもないが、同時に、ある意味それはそれとしての潔い真実だとも思へなくもない。山邦紀の確信的な豪腕と、自身の固い信念にジャスト・フィットしたプロットを手に、生き生きと戦闘力の高い濡れ場濡れ場を連ねる浜野佐知の歯車とが上手く噛み合つた快作である。
 片手で二穴責めが可能となるやうに、リスト・バンドから生えた形のアナル・バイブ(手首から先で女陰に挿入する主バイブを操る)や、単独での二穴責めを可能とするやうにと、太股に装着する形のアナル・バイブ。そんなことをするくらゐなら普通に交合すればいいやうな気もするが、いはゆる男が使用するオナホールの先端で、上から跨れば女性器も刺激出来るやうになつてゐるジョイ・トイが登場。世の中こんなものもあるのかと、勉強になる。
 大胆不敵な物語の畳み方に関してはひとまづさて措くと、バイブに関して、決して男性自身の模造品としてだけではなく、女による性の自由を勝ち得る為のアイテムである。といふ視座は、常日頃ピンク映画のフィールドにあつて、男からの女の性の商品化に甘んじることなく、女の側からの、女が気持ちよくなる為のセックスを描きたい、といふ浜野佐知の正しく面目躍如ともいへよう。

 実際に“(声の出演)”とクレジットされる久須美欽一は、剪定の最中も蘭子にうつつを抜かす匹夫に苦言を呈する、クライアントの声役。劇中どうしても必要なピースにも思へない為、正直どうしてわざわざかういふ形で登場してゐるのかよく判らない。徒に想像力を駆使するならば、当初晴喜役にキャスティングされてゐたものの撮影には参加出来なかつた久須美欽一が、アフレコにはどうにか加はつたものであるのやも知れない。


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 「愛染恭子のGスポット 飛び散るスケベ汁」(2003『愛染恭子VS菊池えり ダブルGスポット』の2007年旧作改題版/製作:ジャパン・ホーム・ビデオ株式会社、新東宝映画/配給:新東宝映画/製作協力:フィルムワークスムービーキング/監督:愛染恭子/脚本:寿希谷健一/企画:福俵満/プロデューサー:寺西正己/ラインプロデューサー:寿原健二/撮影:田宮健彦/照明:小川満/編集:酒井正次/音楽:飯島健/助監督:大西裕/撮影助手:鶴崎直樹/照明助手:渡辺昌/監督助手:伊藤一平・石丸英太/音響効果:中村半次郎/メイク:久保田かすみ/協力:田山雅也、他三名/出演:愛染恭子・菊池えり・藤宮レイナ・渡部一心・りょうじ・野上正義・上森裕美・山本英子・木庭博光)。出演者中、今回新版ポスターに名前のあるのは野上正義まで。旧判ポスターには、木庭博光まで記載が見られる。脚本の寿希谷健一とラインプロデューサーの寿原健二といふのは、恐らく何れも藤原健一のことか。四者クレジットされる協力は、力尽き拾ひ損ねた。
 レンタル総合商社のオアシス社宅寮、牧村郁夫(渡部)と妻・真紀(愛染塾長)の夫婦生活。事後家の中ではタバコは吸はないことにしてゐる二人は、郁夫はボヤきつつもわざわざ外に停めた車の中にて一服する。ここは矢張り、素直に「家族ゲーム」へのオマージュと捉へてよいのか。社宅を出てのマイホーム住まひ、といふ世間一般的な夢に憧れる真紀に対し、郁夫はといへば、浮世も離れた小説家を夢見てゐた。後にも繰り返される互ひの夢を揶揄しながら仲良く喧嘩する郁夫と真紀の姿は、渡部一心と塾長の芝居の息もバッチリ合ひ、さりげない遣り取りとはいへそれでゐて芳醇で、実に素晴らしい。開巻早くも結実した、夫婦のそこはかとなくも強い絆と、小説家だなどとと一笑に付す妻に対し、「俺のは夢で終らせないよ」といふ郁夫の何気に強い確信は、以降の展開の背骨として物語を力強く支へる。
 休日、真紀が洗濯物を干す。郁夫は一足先に、チャーハンの旨い中華料理屋へと向かふ。牧村家左隣の箱崎家では、郁夫とは同期の真一(りょうじ)と、妻・千寿(菊池)が昼下がりの情事。千寿も千寿で、夢は戸建てのマイホームであつた。展示場へ家でも見に行くかとした千寿と真一は、通路で真紀と鉢合はせる。千寿がここで百貨店に行くところ、と他愛もない見栄を張る描写は十全として問題は、この三人のカットでは外に雨が降つてゐる点。重箱の隅、といつてしまへばそれまででもあるが。
 妻と死別した専務の野口隆平(野上)が、持ち家は息子夫婦に譲り渡したといふので箱崎家の更に左隣に越して来る。一方オアシス社内では、課長の米倉(全く登場せず)が脱サラしてうどん屋を開業すると退社。真一に後釜を狙はせたい千寿は、男寡である野口のポイントを稼がうと、野口の部屋に出入りし家事を世話する。千寿に対抗心を燃やした真紀も、ある夜作り過ぎたと称して夕食のおかずを野口の部屋へと持つて行く。
 寡専務を挟んで、互ひの亭主の出世レースの代理戦争に火花を散らす二人の社宅妻。そんな妻達を尻目に、夫達は手の早い重役との間に何か間違ひが起こりはせぬかとハラハラさせられる。古典的ともいへるプロット相手に、堂々とした正面戦を展開した上見事な完成を遂げてみせた、紛ふことなき娯楽映画の逸品。真紀も千寿も共に手をつけておきながら、大した説明もなく野口が真一を米倉の後任課長に選ぶ点と、郁夫が会社を辞める唐突さには疑問が残らぬでもないにせよ、夫婦それぞれのヴィジュアルも、夫の会社での評価も隣家夫婦に劣る主人公夫婦が、社会的には半ばドロップアウトしつつも最終的には固く結ばれた夫婦の絆で、慎ましくも温かな幸福に包まれるラストは比類なくエモーショナル。その夫婦愛も幸福も、所詮は虚構の世界の中に於いてのみ成立し得る菓子細工でしかない、などといふこと勿れ。美しくないものなんぞ、今既にあるありのまゝのこの世界だけで十分だ。私は美しい物語を、美しい映画を愛する。物語は映画は、美しくあるべきだと信ずる。たとへそれが、作り物の嘘に過ぎなくとも。判り易い二夫婦の対比に加へ、隣家亭主の不倫で若い女の裸も見せプログラムされた要請を果たすと同時に、丹念に積み重ねた主人公夫婦の結びつきと対照させ人生の逆転劇を演出する、斯くも麗しい論理性。全般的には漫然とした感が拭ひ切れないPINK‐Xプロジェクトではあつたが、最終の第七弾にして、正しく到達点の名に相応しい名品を見事モノにしてみせた。

 藤宮レイナは、オアシスの女子社員で、真一の不倫相手・高山はるか 。誰か一人欲しかつたのかも知れないが、郁夫の小説に理解を示すのは、何もはるかではなくとも良かつたやうな気がする。女子社員に自分の書いた小説を褒められた郁夫が有頂天になるのは肯けぬでもないが、残念ながら藤宮レイナが、あまり普段読書習慣のあるやうな女には見えないのが難点。因みに郁夫の小説のタイトルが『野生に生きる一匹の侍』といふのは、そこは笑へばいいところなのか?上森裕美と山本英子は、噂話に花を咲かせ展開の説明役をそこかしこで担ふ、同じ社宅に住むヘッドハンターズ、もとい主婦AとB。木庭博光は、同窓会に出席した千寿を執拗に口説き落とさうとする同窓生、出演者クレジットがあるのはここまで。他に同窓生が五、六名と、オアシス社内に若い社員が三名と訪れた来客が二名。その中で、郁夫が商談中の来客は国沢実に一瞬見えたが、よくよく再見してみると別人か(>なら書くな)。更に他に、カットの繋ぎで無闇に目立つ割には完全に蛇足にしか見えないモヒカンボクサー。その後ろに見切れるおばあさんは、純然たるロケ中の通行人か。

 好色な野口を嬉々と快演する野上正義、画面の片隅で小ネタながらに今作最強の飛び道具が火を噴くのは、夫の仕出かした大ポカを詫びに夜部屋を訪れた真紀が、野口にあれよあれよと手マンで潮を噴かされる件。野口がセックス指南書として取り出したのは、
 キタ━━━━━(゜∀゜)━━━━━!!!!!
 野口がセックス指南書として取り出したのが愛染塾長の『愛染恭子のGの快感・手取り足取り粘膜講座』(双葉社刊)!三年の歳月を経て、この本―の表紙―に再び映画の中でお目にかゝれるとはよもや思はなかつた。よくよく目を凝らし画面を観てみると、真紀が夕食のおかずを野口の部屋へと持つて行く、野口家初登場カットに於いて既に室内に見切れてもゐる。アドリブ風の野口の台詞の中に、“ダブルGスポット”なる用語も出て来るが、そこが“ゴールデンGスポット”でないのが、惜しくも画竜点晴を欠く点。
 旧版ポスターに謳はれた、“新東宝映画創立四十周年記念作品”といふ文言は今回新版ポスターには流石に見られないが、代つて踊るコメントが非常に奮つてゐる。「何かと話題の愛染恭子主演・監督で送る」(ここで改行)「ペーソスあふれるスーパーエロス!!」(ここで改行)「これを見ないで愛染恭子は語れない!?」とある、“何かと話題の愛染恭子”(笑)。どういふことなのかこの期に改めて蒸し返すと、まづ今改題新版が公開されたのが2007年の七月。痴話喧嘩の末に、愛染塾長がポリスのお世話になつたニュースが世間を騒がせたのが三ヶ月弱遡る四月末(火暴)。俺は世の中といふ奴は、このくらゐ大らかで別に構はないと思ふ。
 さうかう考へてみると、トラディショナルな人情噺を磐石に結実してみせた美しい物語本体に加へ、濡れ場の隙間で煌く飛び道具、更にはお茶目なポスターワークまでと全方位的に見所は満載。至る所に旨味の鏤められた、極めて豊潤で力強い娯楽映画といへよう。


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 「牝熟女 馬乗り愛撫」(1998『いやらしい熟女 すけべ汁びしよ濡れ』の2007年旧作改題版/製作:サカエ企画/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:岡輝男/企画:稲山悌二/撮影:千葉幸男/照明:高原賢一/編集:酒井正次/音楽:レインボー・サウンド/助監督:加藤義一/監督助手:北村隆/撮影助手:池宮直弘/照明助手:大橋陽一郎/効果:中村半次郎/出演:島森千里、しのざき・さとみ、林由美香、久須美欽一、藤澤英樹、大橋寛征、望月薫、梅たか子、丘尚輝)。出演者中、望月薫以降はポスター記載なし。しのざきさとみが本篇クレジットに於いて、苗字と下の名前との間に何故か中点が入つてゐた、初めて観たやうな気がする。
 結婚六年、吉田弥生(島森)は夫・詠一(久須美)の味気ないセックスに失望し、欲求不満を持て余してゐた。愚痴を零しに茶道教室を開く姉・妹尾五月(しのざき)を訪ねるが、生徒・朝香俊平(藤澤)が現れたところでその日は退席する。帰宅途中財布を姉の家に置き忘れたことに気付き、取りに戻つた弥生は目を丸くする。五月と朝香が、茶の稽古は何処吹く風に睦み合つてゐたからだ。観客に息をつかせる間も与へずほどなく、後日弥生に姉から電話がかゝつて来る。どうしても外せない所用があるので、同じく茶道の嗜みのある弥生に、朝香の稽古を代つては貰へぬかといふのである。二つ返事で快諾した弥生は、勿論のこと朝香の若い肉体を頂戴する。登場人物のイントロダクションがてら、流れるやうに濡れ場濡れ場が連ねられる、単に物語が右から一昨日へと流れてゐるだけともいへるのだが。
 仕事中の詠一に、元部下の高野恵里(林)から電話が入る。結婚退職したものの離婚してしまつた恵里は、今は生活の為にカルチャーセンターで書道講座を開講してゐた。とはいへ人が集まらず困つてゐるといふので、顔の広い詠一に誰か受講生の紹介を乞ふ。それならばと詠一は、自らが立候補する。弥生は弥生で街で、高校時代交際してゐた桑原隆之(大橋)とバッタリ再会する。弥生に声をかける桑原の、まるで不審者のやうな挙動が笑かせる、素人かよ。同窓会の打ち合はせと称して、詠一との夜の営みに不満を覚える弥生は昼下がりの自宅に堂々と桑原を連れ込むや、憚らぬ情事に興じる。
 のんべんだらりとし放しの映画が、偶さか最高潮の暴発を見せるのは詠一が、恵里の書道講座を受講する件。教壇に立つかつての部下の姿に俄かに掻き立てられた詠一のイマジンの中では、恵里の全裸授業、更にはM字開脚で教壇に腰を下ろした上、自ら観音様に墨を塗りたくつてのいはゆる“マン拓”取りが繰り広げられる。清々しいまでの下らなさが心地良い、あまりにもポップな妄想展開に、寧ろ腹を立てたり呆れてみせる方が無粋なのではないかとすら思へる。何でもいいから心に浮かんだ言葉を書いてみよと促された詠一が、邪念にうつつを抜かしたまま書いてしまつたのは“恵里”の二文字。それを見た恵里が、微笑を浮かべながら添削用の朱墨で“アトデ”と書き添へるのは、林由美香の字がまるで汚いことに目を瞑れば心に染み入る名シーン。
 といふ訳で、ラブホを舞台にしての詠一と恵里の一戦。全てが女の裸に奉仕するだけに見えた漫然とした物語が、ここで思はぬ挽回を果たす。執拗な口唇性行に、何時もこんなことして貰ふ奥さんは幸せね、と恵里から水を向けられた詠一はハッと我に帰り、何処かに置き忘れて来た夫婦生活上の大切な配慮に思ひ至る。何気ない恵里の一言から改心した詠一が壊れかけた夫婦仲を修復する、といふここからラストに向けての流れは為にする力技といつてしまへばそれまでなのかも知れないが、娯楽映画の展開としてはこの上なく順当で、敢ていふが秀逸。わざわざ絡みの最中に、我に帰つた久須美欽一の表情を殊更にシッカリ押さへておく辺りにも、演出意図は明らかであらう。肝心要のシークエンスに林由美香と久須美欽一とを配した的確も光る秀作、などといつてしまつては勢ひに任せ筆を滑らせ過ぎとの謗りも免れ得ないであらうか。開巻の淡白な夫婦生活と、詠一が心を入れ替へた上での締めの入念な夫婦生活との対比も矢張り麗しく手堅い。

 出演者中、本篇クレジットにのみ名前の見られる望月薫・梅たか子・丘尚輝は、詠一を含めても四人しか居ない恵里の書道講座の受講生。丘尚輝は、恵里から詠一にかゝつて来た電話を取る、資料整理課―大絶賛閑職ではないか―の部下も兼務。望月薫と梅たか子に関しては、望月薫が女性受講生の内若くない方で、梅たか子が若い方。詠一以外の受講生は、基本的に後姿しか抜かれない。


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 「義理の母 息子と不貞に…」(2000『和服義母 息子よやめて!』の2007年旧作改題版/製作:ENKプロモーション/提供:Xces Film/監督:剣崎譲/脚本:宇喜多洋平/企画:稲山悌二/プロデューサー:駒田愼司/撮影:大沢佳子/照明:田川聖二/編集:酒井正次/助監督:清水充/製作担当:大谷優司/メイク:勝田みちこ/録音:立石幸雄《東洋スタジオ》/出演:イヴ《神代弓子》・さとう樹菜子・河田美咲・梁井紀夫・佐賀照彦)。
 妻・圭子(イヴ)の語りかけにも夫・静男(梁井)はまるで興味を示さない、擦れ違ふのを通り越し初めから成立してゐない夫婦の会話。圭子はグラスに注いだエビス・ビールにカプセル錠を開け、薬品を溶かす。新聞に頭を埋める静男が、その様子に元より気付かう筈もない。ビールを飲み干す静男とそれを注視する圭子の姿とが、ピンクらしからぬカット割で小刻みに連ねられる。タイトル・イン明けての、シャワーを浴びながらの夫婦生活。圭子の体中を這ふ静男の指を、接写したカメラが舐める。開巻とは違(たが)へた夫婦の様子に、奇異の念を覚える。この夫婦は、すつかり冷え切つてゐたのではなかつたのか?
 阪神・淡路大震災で妻と死別した会社社長の静男は、老親の世話で婚期を逃した圭子と見合ひ結婚する。静男には前妻との間に息子・明(佐賀)が居たが、水商売の女・聡子(さとう)と結婚し家を出た明は父親の財産を当てに働きもせず、父子の関係は崩壊してゐた。明は圭子の存在によつて自分が相続する遺産が目減りしてしまふと、お門違ひの敵意を燃やす。
 和服義母―洋装も見られるが―が、実父の遺産目当ての放蕩義息に性奴に堕されるクライム・サスペンス。と綺麗に纏めてみるならばさういへるのかも知れないが、殆ど満足に機能してもゐないイヴちやんのイメージ“風”ショットが頻繁に挿み込まれ寸断される作劇―珠瑠美か―以前に、壊滅的なのが明役の佐賀照彦。ヤング・ショー開催中の故福岡オークラの近所をフラついてゐたところを、来福してゐたENKの関係者にスカウトされたとかいふデビュー経歴を持つ佐賀照彦は、約十年のキャリア―デビュー作は剣崎譲第二作の『美しき獲物 名探偵章六の事件簿Ⅰ』《1991》―がありもするのだが、まるでなつちやゐない発声、本人はイケメン気取りなのが腹立たしいが華もまるで無く、全般的にどうしやうもなく貧しい。映画の屋台骨を支へさせて、そもそも話が通らうタマではない。主演女優が銀幕を華やかに彩る美貌は兎も角、お芝居の方はといふと何時まで経つてもアレなイヴちやんとあつては、せめて相手役には芸達者を擁してどうにかカバーしなくてはならないところへ、劣るとも勝らない大根以前を連れて来てしまつた日には全く以て万事休す。明が初めて佳子を手篭めにする件を、恐ろしくも丸々スローモーションで処理してしまつた豪快な蛮行には頭を抱へつつ微笑ましく観てゐられなくもなかつたが、明が保険金目当ての静男殺害をいひ出すに際して、一切何の断りも無くタイトル・イン以降延々映画は現在時制から過去時制へと勝手に移行してゐたことが判明した暁には、いい意味ではなく驚愕させられ腰骨が粉々に砕かれてしまつたかと思へた。

 配役残り河田美咲は、サンダンス生命―その社名もどうにかならんのか―で保険外交員を勤める佳子の同僚・和美。さしたる必然性も無いままに、済し崩すやうに明の返す刀に篭絡される。イヴちやん・サトキナ・河田美咲と、実は何気に桃色の手札は揃ひ過ぎる程に強力に揃つてゐた筈なのだが。
 あちらこちらに結構多数見切れる。被る面子もあるのかも知れないが、圭子が飛び込み営業に入るオフィスに計四名、聡子の店のテーブル席に四名と、カウンターに更に一名。明の麻雀相手三名と、オーラスに佳子宅を訪れる磨りガラス越しの刑事で二名登場。


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 「美人スチュワーデス 下着を脱がさないで」(1999『黒い下着のスチュワーデス 感じすぎる乳房』の2007年旧作改題版/製作:サカエ企画/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:岡輝男/企画:稲山悌二/撮影:千葉幸男/照明:高原賢一/編集:酒井正次/音楽:レインボー・サウンド/助監督:竹洞哲也/監督助手:北村隆/撮影助手:池宮直弘/照明助手:原康二/効果:中村半次郎/出演:麻生玲緒・林由美香・篠原さゆり・吉田祐健・杉本まこと・岡田謙一郎・山内健嗣・丘尚輝)。
 ニューヨークからの深夜帰国便の機中、ペガサス航空スチュワーデスの恩田智子(麻生)は、ビジネス客・及川恭太(丘)の股間に顔を埋める。どうでもいいがペガサス航空といふのは、少なくとも加藤義一第三作「スチュワーデス 腰振り逆噴射」(2002/脚本:岡輝男/主演:沢木まゆみ)にも登場するが、1989年設立の、実在する航空会社なのだが。後ろの客席に見切れる眠つてゐる乗客要員の内、年配の方は新田栄、若い方はスタッフの何れかではあらうが不明。智子は兎も角、及川以下三名はオーラスにも再登場。仕方のない安普請とはいへ、工夫に欠けるともいへる。
 帰国した智子は誇る豊富なコネクションの中から、同僚スチュワーデスの加藤聖(林)に、人気ドラマ「ショートバケーション」―短いのかよ―に主演する、聖が大ファンのトレンディ俳優・石原翔(山内)の連絡先を紹介する。早速石原のマンションを舞台とした、今作唯一の林由美香の濡れ場に際しては、戯画的に色男ぶる山内健嗣が微笑ましい。この人は二枚目二枚目といふ程には二枚目ではないのだが、二枚目ぶる男を演じさせると、それはそれで実に画になる。あれやこれの小道具を駆使し聖を蕩けさせた石原のメソッドは、実は智子が仕込んだものだつた。翌日そのことを智子から聞いた聖は目を丸くし、改めて智子に対する憧憬の念を強くする。林由美香が麻生玲緒の引き立て役に回るところを前にすると、今更ながら大人気なくも腹が少し立つ。
 夏のキャンペーンに関する打ち合はせの最中に、忘れ物を女子更衣室に取りに戻つた智子を、パイロットの速水亮一(岡田)が急襲する。ここでの、麻生玲緒V.S.岡田謙一郎戦が、傑作ならぬケッ作。挿入に合はせて離陸音を轟かせてみたり、速水は中出しした智子に自らの顔を跨いで立たせると、膣内から垂れ落ちる精液を“逆噴射”と称して歓喜、ともうやりたい放題。ピリオドの向かう側にすら突き抜けた、馬鹿馬鹿しさが解き放たれる。ただひとつ気になつた、といふか智子と速水の会話の中から腑に落ちぬのは。最も単純に考へると、日本からパリへのフライトの最中に、コックピットから朝日が見えるものなのか。基本西に向かつて飛んでゐるのでは?
 ところがここからの、起承転結でいふと転以降の展開は、実は意外とそこそこの出来。智子は在ニューヨークの恋人・犬飼信吾(杉本)から、日本に居る知人に渡して呉れと小さな箱包みを預かつてゐた。速水との会話も発端に、智子は自分が何か良からぬ運び屋に利用されてゐるのではないか、との疑惑を俄に膨らませる。指定された民家を訪れると、その家の女は姿も見せずインタフォン越しに、箱包みを玄関の郵便受けに入れ、代りに郵便受けの中に入つてゐる小封筒を持つて行けといふ。小封筒の中には、コインロッカーの鍵が入つてゐた。見るからに怪しい遣り取りに、智子はますます危疑を募らせる。翌日どうしても気になり再び届け先を訪ねてみた智子は、室内で倒錯的なプレイに興じる男女(篠原さゆりと吉田祐健)の姿を目撃する。拘束された男に女が香のやうなものを嗅がせると、男は出し抜けに喜悦した。自分が届けさせられたブツは、矢張り麻薬の類であつたのかと先走つた智子が愕然とする一方、男女は更に変態プレイの過激度を増して行つた。仕方なく智子がひとまづ小封筒から出て来た鍵でロッカーを開けてみると、そこには又別の箱包みが入れられてあつた。いよいよ頭を抱へる智子の携帯に、不意に犬飼からの連絡が入る。急に帰国して今日本に居るので、これから会はないかといふのである。果たして、智子の運命や如何に?
 最終的に仔細は要は智子の勘違ひで、物語は調子のいいハッピー・エンドに着地することは、新田栄常日頃の作風からも既に概ね明らかではあらう。その上で、その勘違ひとハッピー・エンドとの道具立てが、突出したものは無いながらに案外よく出来てゐる。少々無理も小さくはないところで、怪夫婦を演ずる篠原さゆりと吉田祐健の存在感、乃至は説得力が大きく有効に機能する。その他にも杉本まことに岡田謙一郎と、ミス・リーディングの外堀を芸達者が埋めてゐることに加へ、いよいよ真相が明らかになる段。サスペンスフル演出の後始末として、シャワーを止めにフレーム外に出る犬飼を一々押さへておくといつた、平素の仕事ぶりからすればらしからぬ、普段は隠されがちな新田栄の実直が発揮されてゐることも、勝因に数へられようか。所々で羽目を外してみたりいい加減に呆けてみたりしつつも、通して観てみると起承転結の手堅く纏まつた、水準作の中でも幾分高目の佳品である。

 m@stervision大哥がリアルタイムで既にお嘆きのやうに、主演の麻生玲緒は、実に和製ディバインの香りを濃厚に漂はせる。旧版ポスターのことは勿論今や与り知らぬが、新版公開に際して、選りにも選つてあからさまにディバインに見える写真をポスターに持つて来たエクセスの姿勢に対しては、寧ろ確信的なものすら感じられる。といふのは、オタクの考へ過ぎであらうか。


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 「後妻と息子 淫ら尻なぐさめて」(2007/製作:ナベシネマ/提供:オーピー映画/監督:渡邊元嗣/脚本:山崎浩治/撮影:鏡早智/照明:小川満/編集:酒井正次/助監督:永井卓爾/監督助手:若林将平/撮影助手:宇野寛之・丸山秀人/照明助手:八木徹/スチール:津田一郎/効果:梅沢身知子/録音:シネキャビン/現像:東映ラボ・テック/出演:真田ゆかり・千川彩菜・真田幹也・西岡秀記・風間今日子)。
 結婚も間近に見据ゑた松浦美咲(千川彩菜/ex.谷川彩)との開巻の濡れ場を経て、田宮拓也(真田幹也)は自宅に招いた美咲を母親の淳子(真田ゆかり)に紹介する。母親とはいへども、実の母親は記憶すら残らぬほど幼くに亡くした拓也にとつて、淳子は拓也が高校生の時に父親が再婚した義母であつた。拓也に対し、排他域に突入した対人距離を取る淳子に美咲は内心眉をひそめつつ、見せられた拓也の父親、即ち淳子の亡夫・和彦(真田幹也の二役)の遺影があまりにも拓也に瓜二つであることから、神経質な猜疑を半ば女の確信へと変へる。拓也は結婚後も淳子との同居を希望するが、美咲はそれならば結婚しない旨言明する。
 保険外交員の淳子は、上司の新田雄一(西岡)と不倫関係を持つ。情事の際に外した、和彦から鉄婚式に贈られた鉄製のペンダントは、外したまゝポケットに入れておいたのを帰宅時に玄関で取り出してみると壊れてゐた。淳子は、和彦の遺志に怒られたものかと感じる。淳子がネックレスを直してゐたところに、拓也も帰宅。ちやうど和彦の思ひ出に浸つてゐた淳子は、拓也を和彦と取違へる。淳子は成人した義息の姿に亡き夫の姿を重ね合はせる、のも通り越してしばしば混同し、拓也を困惑させる。配役残り、風間今日子は泥棒猫から亭主を奪還する、新田の妻・博美。
 結婚も控へた義息に義母は亡夫の面影を見る、のもアクティブに超えて殆ど同一視する。一方母親といふ存在をそもそも知らない義息は、家に現れた義母を初めから女として見てゐた。さういふスリリングな筈の淳子と拓也の関係性の描写に、そこはナベ映画なので仕方もなく、緊張感はまるで欠如してしまひもする。さうして終始展開は力を得ずじまひで、最終的に拓也は美咲との結婚を選び家を出て行くものの、淳子は相変らず和彦の幻想に呑気に恍惚とする。尺もあらかた消化しておいて、結局この物語は最初の出発点から一歩も動きはしないのかよ、と唖然とさせられかけたところで、新婚旅行から戻つて来た拓也相手に、ドラマはオーソドックスな近親相姦ものの枠内をも飛び出し、藪から棒にサイコ・サスペンス然とした驚愕のハード・ランディングを見せる。観客をすつかり油断させておいて、豪快な、豪快過ぎる渡邊元嗣の無茶振りが映画を場外にカッ飛ばす一本。それがホームランなのか、特大の場外弾とはいへあくまでファールなのかは、最早さて措く。とりあへず、鑑賞後の衝撃は無闇に大きいことは大きい。

 事前には大雑把にも思へた真田幹也の親子二役は、綿を含み髪を白髪に染めると芝居も微妙に変へ、思ひのほか健闘してゐたやうに見えた。一見坊や坊やしてゐるやうで、実は老け顔の要素も併せ持つといふ絶妙なツボを真田幹也が突いてゐた、といへるやうな気もする。

 ところで、今作公開は(07年)七月中旬。といふ訳で撮影時期が果たして何時頃なのかといふのは、地方在住で純然たる市井の一ピンクスに過ぎない俺には勿論判らん。その上で今作クレジット中に監督助手として名前の見られる若林将平が、四月初旬に下校途中の小学生をワゴン車で撥ね業務上過失傷害容疑で現行犯逮捕されてゐる件に関しては、触れてもいいものやら如何なものやら最後まで悩んでゐる。


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 「不倫妻 愛されたい想ひ」(2003/製作:オフィス吉行/提供:オーピー映画/監督:吉行由実/脚本:五代暁子/撮影:清水正二/音楽:磯部智子/編集:鵜飼邦彦/助監督:松岡誠/撮影助手:岡部雄二・広瀬寛巳/監督助手:竹内宗一郎・西村智大/録音:シネキャビン/スチール:本田あきら/現像:東映化学/協力:服部光則、金善玉、佐藤吏、横井有紀、松岡邦彦、木村朗子、ブライアン・デービス、セメントマッチ、アプレ/出演:つかもと.友希・片桐カナ・吉行由実・本多菊次朗・岡田智宏/友情出演:佐々木浩久)。佐々木浩久の正確な位置は、吉行由実と本多菊次朗の間に入る。
 小さくてお気づき頂けないやも知れないが、主演は“つかもと友希”ではなく、“つかもと.友希”である。読む時はどう読めばいいのか、苗字と下の名前の間にドットが入つてゐる。ポスター本篇クレジットとも、そのやうに表記される。といふ訳で戯れに調べてみたところ、つかもと.友希は牧本千幸名義で1988年にAVデビュー。1997年にドット無しのつかもと友希に改名。AV畑では、あるいは公式(?)には2005年に今作と同じつかもと.友希に再び改名。更に彼女の歴史は続き、デビュー二十周年を迎へる今年、芸名をデビュー時の牧本千幸に戻し現在も活動中とのこと。音楽担当の磯部智子は、ex.クララサーカス。
 旧家令嬢の美緒(つかもと.)は、親同士の決めた相手と社会に出ることもなく二十三で結婚する。それから六年、古美術商を営む夫の小早川達郎(本多)は年の半分を買ひ付けの洋行で家を空け、その間子供もなく独り家に取り残される美緒は、根つからのアンティーク好きで天職ともいへる仕事に精を出す夫を横目に、傍目からは経済的に何ひとつ不自由ない生活ながら、索漠とした満たされないものを感じてゐた。例によつて小早川は日本を離れたある日、街で美緒は大学時代の同級生・霧島尚也(岡田)と不意に再会する。再会ショットの二人を背中から捉へ、映り込ませたショウ・ウィンドウの中で芝居させるといふアイデアは酌めなくもいが、スペックの如何かバジェットに左右されたのか、出来上がり的には普通に撮つてゐた方が宜しくはなからうかと思へて仕方のない出来栄えではある。卒業後も誰かの下で働くでなく、起業した個人ビジネスを次々に変へ世間をアクティブに渡り歩く霧島の姿に、美緒は憧れも込め瞳を輝かせる。さういふ次第で、籠の中に捕はれたといへなくもないが贅沢な心の隙間を抱へたお嬢様が、再会した昔の同級生の、自らの境遇とは両極端に位置する甚だ不安定とはいへ同時に活き活きとした姿にコロッと感化され、偶さかよろめいてしまふ。そんな古典的なソープ・オペラ、より直截にいふならばハーレクイン・ロマンスに毛でも生やしたかのやうな、といふかそのまんまな物語。に更に加味されるのは、この時点では拭ひ難く、モジモジあるいはヤキモキと居心地の悪い気分にさせられるばかりの吉行由実の少女趣味。美緒を霧島は「アリス」と呼ぶ、美緒の旧姓が有末のゆゑ、学生時代の友人からはアリスと呼ばれてゐたといふのだ。この時点で、苦笑するのは実は未だ早い。
 霧島は、現在は詰まるところはハメ撮りのAVを監督して、知人の店を通して捌いてゐた。上手く呑み込めずに立ち止まりかけるのを仕方がないので先に進むと、片桐カナは過去に霧島のビデオに出演し、その後は霧島の紹介でトルコ嬢となつたナツミ。出張ホストのやうな仕事もこなす霧島は、偶には心置きなく奉仕されたいナツミの下へと呼ばれ出向く際に、美緒も同席させる。吉行由実は、韓国人といふ人物造形にどういふ意味があるのだかよく判らない、日本に出稼ぎに来てゐるメイヒ。霧島はメイヒの下へビデオ撮影に向かふに当たつても、美緒をつれて行く。ピンク映画としてのジャンル的要請に従つたまでといへばそれまでなのかも知れないが、幾ら心に隙間を抱へた世間知らずのお嬢様にしても、さういふ霧島のやうな、何処から見ても堅気には思へないダーティーな稼業の男に、易々とついて行くといふ無理のハードルも些か高い。高過ぎる、棒高跳びか。
 霧島が自分にも作つて呉れるやう希望する、美緒のビーズの小物。美緒の誕生日に、霧島は美緒を動物園につれて行く。動物園といふのは、単に霧島が行きたい場所であつた。一方新婚旅行の行き先も自分では決められなかつた美緒は、実は屋久島にずつと行きたかつた。そんな屋久島を、二人で目指す。と、最終的なエモーションを喚起する目的で美緒と霧島を繋ぐ、伏線としての小物はセオリー通りに揃ふ。無理を承知でその上で吉行由実が論理的にその壁を越えようとした形跡は、窺へなくもない。が、如何せんそもそも、籠の中のお嬢様、もつといへばお姫様が、自由で活動的な王子様と出会ひ、自らも籠の外へと羽ばたく、王子様に羽ばたかせて呉れることを夢見る。さういふ物語は、年端も行かぬ女学生が大学ノートの片隅にでも勝手に綴るならばまだしも、選りにも選つてピンク映画で堂々と展開してみせるには、どうにもかうにも厳しい。つかもと.友希・片桐カナ・吉行由実と、文字通りの三本柱が遜色なく並んだ筈の桃色方面に関しても、土台がプロットと連ねられる濡れ場自体が齟齬を来たしてゐるとあつては、粒が揃つてゐる割には官能も上滑るばかり。全体的な出来上がりとしては平面的には非常に丁寧な仕上がりであるだけに、ここは非常に勿体ないところである。
 美緒との屋久島行きも控へつつ、霧島は一仕事に向かふ。簡単な仕事の筈だつたがチンピラ二人組み(何れも不明)と出くはした、どうやら金銭トラブルを抱へてゐるらしき霧島は追はれる破目に。結局霧島との連絡は途絶えたまゝに、小早川が帰国する。夫も戻つて来た家でテレビにぼんやりと目をやる美緒は、<霧島殺害を伝へる>ニュースに絶句する。オーラスにワン・カットだけ登場する佐々木浩久は、そこでのアナウンサー。呆然とする美緒のモノローグで堂々と、「アリスは、不思議の国に行けなかつた・・・・」などといはれてしまつても、「何だかなあ・・・」と頭を抱へるほかはなく、いよいよ映画は完全に詰まれる。ことこゝに至ると却つて清々しくすらあるともいへば、チャーミングな一作とはいへようか。

 クレジット中にその名前は見られなかつたが、今作に於けるつかもと.友希のアフレコは、吉行由実の盟友・林由美香がアテてゐる。確認するつもりで挑んだものの、今作の時点に於いては、現行使用中のブタさんがトコトコ歩いて来る、オフィス吉行のカンパニー・ロゴは見られず。


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 「人妻女医と尼寺の美女 快感狂ひ」(2007/製作:サカエ企画/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:岡輝男/企画:亀井戸粋人/撮影:千葉幸男/照明:高原賢一/編集:酒井正次/音楽:レインボーサウンド/助監督:小川隆史/監督助手:北村隆/撮影助手:池宮直弘/選曲効果:梅沢身知子/製作進行:阿佐ヶ谷兄弟舎/出演:酒井あずさ・山口玲子・平沢里菜子・なかみつせいじ・丘尚輝・葉月螢)。「刺青淫婦 つるむ」(2005/監督・共同脚本:松岡邦彦)以来丸二年ぶりともなる、酒井あずさのピンク復帰作。といふとそこで今作の要点は殆ど尽きてしまふともいへば、それこそ正しく実も蓋もない。
 橋爪レディスクリニック、診察室で院長の美紗子(酒井“ストライクス・バック”あずさ)と尼寺「大成山愛徳院」庵主・浄魂(葉月)が睦み合つてゐる。女医と尼僧、1+1が2になるのか、それともそれ以上なのかさうでもないのか。今はもう、よく判らないふりをする。
 一年前、美紗子は女子大生の星川まさみ(平沢)に、二度目の中絶手術を施す。歌手志望とはいふものの、パチンコ三昧の日々を送るダメンズ彼氏・村上啓介(丘)との爛れた関係を続けるまさみに対し、美紗子は自分の体を大切にするやう苦言を呈す。一方美紗子は美紗子で、擦れ違ひの続く夫・明彦(なかみつ)との夫婦仲に悩みを抱へてもゐた。数ヵ月後、街で美紗子は村上と連れ立つまさみと出会ふ。就職した村上と卒業後は結婚も考へてゐるといふまさみは、別人のやうに輝いてゐた。別れ際にまさみは美紗子に耳打ちする、水子供養して貰つたところ、人生の運気が好転したみたいなのだといふ。明彦とのこともある美紗子は、まさみに薦められた尼僧を訪ねてみることに。浄魂に見て貰つたところ、美紗子に水子の霊が憑いてはゐないとのこと。例によつて、岡輝男が調子に乗る、あるいは羽目を外し始めるのはここから。スピリチュアル・カウンセラーも兼任する浄魂は、美紗子には水子霊ではなく生霊、しかもそれは明彦の不倫相手のものが憑いてゐるといふ。美紗子は浄魂に、不倫相手を夫と別れさせることは出来ないかと乞ふ。すると浄魂は、出来ないことはないが、その為には何か不倫相手の持ち物が必要だと答へる。それ何て黒魔術?新田栄にも岡輝男にも、仏罰が下ればいい。
 そんなこんなでここでタイミングよく明彦と、不倫相手・吉沢貴子(山口)の情事。ノルマごなし、といふかこの時点で既に濡れ場ありの女優が四人登場してもゐる訳だが、ともあれ明彦と貴子との絡みに於いて特筆すべきは。確かに爆乳を誇りはしつつも、全体的にオーバー・ウェイト気味なきらひが目につきもした山口玲子が、オッパイはそのままに、無駄な肉を落として更に攻撃的なボディに進化を遂げてゐる点。貴子は自らの存在を誇示する為に、明彦がシャワーを浴びてゐる隙に、背広のポケットにハンカチを忍ばせる。ただ勿論それは、美紗子にとつては思ふ壺であつた。
 こんなそんなで、明彦の女性問題が首尾よく解決したところで、物語は美紗子の問題から浄魂の問題へとシフトする。さういふ起承転結の構成自体には、実は案外遜色はないのだが、問題はその中身。礼を述べに再び愛徳院を訪れた美紗子の前で、体調を崩してゐた浄魂が倒れる。浄魂を美紗子が診察したところ、腫瘍が発見される。ただそれは良性のもので特に心配は要らないのだが、何れにせよ、浄魂の体は女性ホルモンのバランスを失してゐた。対処はどうすればいいのかといふ浄魂に対し、美紗子は不謹慎ながらと前置きした上で、セックスを勧める。愛徳院に戻り、煩悩を振り払ふかのやうに読経に打ち込む浄魂の脳裏を過ぎる、わざわざ音声にエコーを施した、美紗子即ち酒井あずさのセックスセックスセックス・・・といふ声。よくよく考へてみるならば、新田栄と岡輝男に仏罰を下す力も謂れも、この国の仏教にはとうに残されてはゐないのかも知れない。
 兎にも角にも。ピンク的な要請には、確かに従順であることは間違ひない。とはいへ酒井あずさの銀幕復帰を祝したのかそんなつもりも特にはないのか、葉月螢と平沢里菜子、既にこの時点で十分磐石な上、攻撃的にプログレスした山口玲子まで加へて擁した布陣は実は豪華過ぎるほどに豪華ながら、四女優の濡れ場を拝めるといふ以外には、その豪華さが作品としての出来上がりには殆ど全く繋がらない、腰もフニャフニャに砕ける一本。仕方がないので今後に目を向けると、今作に続く酒井あずさのピンク次回作は再び少し間が空いて、「刺青淫婦」と同じく松岡邦彦の、2008年三月最新作「中川准教授の淫びな日々」(脚本:今西守/主演:平沢里菜子)。結果的に、今作に於ける酒井あずさは頼もしい健在ぶりを感じさせるとはいふものの、以降にコンスタントな活躍が続く訳でもない以上、その点だけ捕まへてぬか喜びする訳にも行かない始末。

 ところで愛徳院といふのはどうやら、新田栄が尼寺映画を撮る際のデフォルトらしい。


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 「社長秘書 巨乳セクハラ狩り」(2007/製作:旦々舎/提供:オーピー映画/脚本・監督:山﨑邦紀/撮影・照明:小山田勝治/撮影助手:大江泰介・藤田朋則/助監督:横江宏樹・安達守/音楽:中空龍/編集:㈲フィルムクラフト/録音:シネキャビン/現像:東映ラボ・テック/撮影協力:株式会社漫画屋/キャスティング協力:株式会社スタジオビコロール/出演:安奈とも・吉行由実・平川直大・荒木太郎《特別出演》・池島ゆたか・佐々木基子)。
 川本なつめ(安奈)が、日本間に置かれた檻の中に監禁されてゐる。そこに、女女衒の麗香(吉行)が配下の阿Q(平川)を引き連れ現れ、二人はなつめを陵辱する。ビートの効いた、効き過ぎた開巻である以前に決して看過出来ないエポック・メイキングなポイントは、吉行由実が脱いでゐる。もう脱いでは呉れないものかと、勝手に半ば以上に諦めてもゐた。しかもこれが、

 まだまだ全然イケる。

 これは大事件、もつともつと、女優としても積極展開すればいいのに。副将山﨑邦紀を経て、次はいよいよ大将の“女帝”浜野佐知と一戦交へてみせるか、あるいは自監督作での、薫桜子との肉弾レズビアンなどといふのもいいだらう。発掘された∀ガンダムでも、目の当たりにした気分である。
 ネイチャー系出版社社長の種田剛(池島)は、温厚で実直な人柄から社員の信望も厚かつたが、社長秘書に招いた、モラトリアム大学院生の息子・守(平川直大の二役)の恋人・なつめに対し、秘かに邪欲を滾らせてもゐた。壮年も通り過ぎ老年に差しかゝつた種田は、自意識の中では未だ自らを砂漠に屹然と獲物を狙ふコヨーテと看做してゐたが、同時に息子と妻・周子(吉行由実の二役)ら周囲からは、既に男としては終つた豚野郎と思はれてゐるに違ひないといふ、根拠のない被害妄想にも苛まされてゐた。ある日、くたびれて外回りから戻つて来た営業社員の菊原一太(荒木)が、戯れになつめの尻を撫でる。居合はせたオールドミスの編集者・木島紫(佐々木)に激しく咎められた菊原は激昂し、開き直つて前時代的な男尊女卑の女子社員観を吐露した挙句に、なつめに猛然と襲ひかゝる。ここでも荒木太郎の屈折した突進力が、よく活かされてゐる。そこに現れた種田は菊原をなつめから引き離し、警察を呼べと騒ぐ紫を抑へその日は菊原に自宅待機を命じる。紫が捨てようとした菊原の置き土産のコートと帽子を、種田はひとまづ預かる。一人きりの社長室、鏡の前で菊原のコートと帽子を身に着けた種田は、コヨーテだとかいふ自称本性を菊原の低劣で暴力的な性行に移し、あるいは映し、次第に精神と生活の均衡を失して行く。
 自意識と周囲からの目、といふか要は被害妄想との懸隔に苦しむ老年の男が、正直に暴発した男の姿を借り、抑へ込まれてゐた自らの獣性を発露させる。今回は在りものの既成観念の力を借りるでない、十八番の妄想と異常性欲のドラマは、池島ゆたか・吉行由実・荒木太郎と三現役監督も擁し十全に舞台を完成させたところまでで満足したか、以降は扇情的な濡れ場の種には事欠かないものの、最終的にはもう一段二段上への積み重ねが展開として見られる訳ではない。とはいへ満足度に関して決して劣ることはない映画の中で、更に一際光るのは池島ゆたかの意外な―失礼!―演技力。このさい一切の憚りもなく筆を滑らせてしまふが、少なくとも演技者としては、この際行くところまで行くならば映画監督としても、池島ゆたかといへば偉大なる大根、といふのが当サイトの冠する称号ではある。ところが種田が菊原の置き土産のコートと帽子を身に着け、種田でとしてではなく明確に自らを菊原に投影させた上で獣性を発露させるに際し、池島ゆたかは恐るべき正確度で、荒木太郎の声色をトレースしてみせてゐる、これには驚かされた。菊原のコートと帽子とはいへ、体のサイズが違ふ点を考へると元々は池島ゆたかの持ち物でもあらうが、何れにせよ、姿形は池島ゆたかのまゝに、それでも種田扮した菊原が確かに荒木太郎に見えた、これは素晴らしいマジックである。PG誌主催によるピンク映画2007年ベストテンに於ける、池島ゆたかの男優賞受賞も全く肯ける。当初は些か奇異にも思へた、種田に自宅待機を命じられ姿を消し際の菊原が見せる「アッカンベー」も、後に菊原のアイコンとして使用される予定のギミックであつたのだ、といふ山﨑邦紀の論理性にも震へさせられる。桃色方面の決戦兵器と使ひ慣れた芸達者のほかには、残る三人のキャストは何れも現役監督。妖艶な毒婦といふ吉行由実に当てられた役柄もジャスト・フィットに、さういふ変則的ともいへる布陣を持ち前の技術的な豪腕で見事に乗り切つてみせた快作。2007年はこれまで自監督作に於いても、浜野佐知に渡した脚本でも二作不調の続いた山﨑邦紀が、三度目の正直にして復調を大いに轟かせる一本である。

 ポスター、本篇クレジットとも名前は載らないまゝに、古本ライターの内澤旬子と、昨年十一月に閉店した書肆アクセス店長の畠中理恵子が、菊原が大暴れする件その他で社内に見切れる女性編集者。内澤旬子が細い方で、畠中理恵子が丸い方。驚いた顔くらゐは見せるが、台詞等は特にない。


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 「連続不倫II 姉妹相姦図」(2008/製作・配給:新東宝映画/脚本・監督:福原彰/企画:福俵満/プロデューサー:深町章/撮影:清水正二/録音:シネキャビン/編集:酒井正次/音楽:大場一魅/助監督:佐藤吏/監督助手:新居あゆみ/撮影助手:海津真也・種市祐介/協力:報映産業株式会社・セメントマッチ・金沢勇大/出演:速水今日子・淡島小鞠・しのざきさとみ・千葉尚之・西岡秀記)。前作「うづく人妻たち 連続不倫」(2006)の、直線的な続篇といふ訳では必ずしもないがナンバリングされた、福原彰(=福俵満)の第二作である。
 重たく揺れる、暗い海のイメージ・ショットにて開巻。
 縺れ合ふやうな、陰山栄子(速水)と安藤満生(千葉)との情事。出会ひ系でも介したのか、満生が「本当の名前教へてよ」といふと、栄子は「名前なんか無い・・・」。ベッドに押し倒された栄子が「ブーツ脱がなきや」といへば、今度は満生は「いいから」。カッコづけが未だ芸にはならない、臭味が目につく。デビュー第二作ともいへば、無理からぬ話といつていへなくもないのかも知れないが。若さ故の勢ひで栄子に惚れ込む満生に対し、渡米する大学教授の夫と日本を離れる栄子には、関係を継続する気はさらさらなかつた。筋肉質の肉体も逞しい、千葉尚之の充実ぶりは光る。
 二年後。栄子の妹で、旅行雑誌『旅の記録』編集者・結子(旧姓が陰山?/淡島小鞠)は、夫の学会出席の為に一時帰国した栄子と再会する。抑制的ながらフェミニンなジャケット姿に、鼻でメガネを掛けた淡島小鞠はウルトラ・スーパー・デラックス、サンダーファイヤー・エクセレント。以降の物語の展開も内実も最早ひとまづさて措き、今作が女優淡島小鞠必殺のマスターピースとならうことはまづ間違ひあるまい。濡れ場に於いて放たれる桃色の威力も、これまでのキャリア中随一。と、いふ訳で、もう横好きで脚本を書くこともないんではないかい?といふのは確信犯的に滑らせた筆である。西岡秀記は、女に手の早い編集長・長柄健。如何にもらしいキャラクター像を、都会的に好演する。しのざきさとみは結子の右隣に座る、年長の同僚・萩原雅恵。雅恵は結婚を控へた結子に対し、人妻キラーの長柄に狙はれるのではないかとカマをかける。最終的には棒読みの壁を何時までも越え得ないしのざきさとみが、福原彰の洗練を志向したオフ・ビートの中では浮いてしまふ嫌ひは禁じ得ない。雅恵の濡れ場の相方は、長柄が担当。
 ロング・ショットが抜群に美しい並木道を潜り、栄子と結子は両親の墓参りを済ませる。姉妹は両親を早くに亡くし、歳の離れた栄子は苦労して結子を大学まで卒業させたものだつた。遅刻して現れた、結子の婚約者と落ち合つた栄子は絶句する。結子の婚約者といふのは、何と満生であつたのだ。言葉を失つたのは、満生も同様。一年後、体調の不良を覚えた栄子は検査の為再び一時帰国する。事の真相を知らぬ結子は、秘かにスリリングな栄子と満生を余所に、姉を新婚家庭に逗留させる。週末、栄子は取材旅行の為家を空ける。栄子と満生の、薄氷を踏む思ひの二人だけの時間がスタートする。
 男と女、姉と妹、そして生と死。三本の幹が複雑に絡み合ひながら織り成される物語は、それなり以上に見事な出来栄えながら、決定的と賛するにはまだ幾分心許ない。繰り返し挿入される暗い海のイメージ・ショットは、結子が思春期の頃からよく見る夢の情景だといふ。『ツァラトゥストラはかく語りき』の中から、一般的に有名な訳としては「深淵を覗き込む時、その深淵もこちらを見詰めてゐるのだ」ともなるのであらうが、劇中栄子の台詞では「深い淵を見詰める者は、その淵に見詰め返されてもゐる」といふ形で、明示的にニーチェの言葉が引用される。暗い海あるいは、わざわざ引き出されておきながら、果たして一体そのニーチェが、劇中で如何様に機能してゐるのかといふことに関しては、桃色に煮染められた私の脳細胞には、恥づかしながら瞭然とはしなかつた。更に結子と雅恵との会話の中で、栄子の夫の専攻が文化人類学であることを耳にした雅恵が漏らす、「文化人類学か・・・」、「レヴィ・ストロース、野生の思考。何だか懐かしい・・・・」などといふ台詞―無論清々しい棒読みのしのざきメソッド―に至つては、迷ふことなく噴飯の一言で斬つて捨てられる。オーソドックスでストレートな手法は、福俵満(=福原彰)が新東宝の社員プロデューサー、兼脚本家として培はれた歴々としたキャリアを誇るとはいへ、あくまで監督としてはデビュー第二作の新人監督にしては恐ろしい領域で完成に近付いてはゐるものの、まだまだ、そこには余計な意匠が残る。
 姉と夫とが絡み合ふ、自宅に予定よりは早目に帰宅してしまつた結子が、嘔吐を堪へながら満生にか弱い拳を振るふシーンは超絶に素晴らしいが、そこから編集部に再び戻つた結子が、実際に嘔吐するまでも若干間が伸びてゐる。いふまでもなく、結子は満生の子を身篭つてゐたのだ。一旦は妹を想ひ満生を拒んだ栄子が、夫の両刀使ひの性癖を吐露した後に満生との背徳の情交に突入する流れは悪くはないが、その前段階の、言ひ寄られるも浴室に逃げ込んだ栄子が、着衣のままシャワーを浴びるのは、何を仕出かすのだかよく判らない。展開としての狙ひも酌めなくはないが、些か弱い。そもそも、先に挙げた男と女、姉と妹、そして生と死。最終的には誰の何がメインになるのかが、必ずしも明らかではない。物語は破綻無く進み一応深い余韻は残りつつ、手応へとしては決して強くはない。折角泉下から呼び出されておきながらニーチェの所在無さが、主題の不明瞭を象徴しもする一本。既に平面的な技術は確か過ぎる程に確かなので、福原彰には次回作は、半端な野心や虚栄は捨てた、もつと泥臭くも堅実な娯楽映画を、個人的には希望したい。

 以下は本質を宿さぬ細部に関する再見時の付記< タバコの火の点かぬ栄子に、満生がジッポーを差し出すシーンが都合二度ある。一度目に全く音がしないのも不自然だが、二度目の栄子が満生のジッポーを使ふ際には、あれはジッポーの発火音ではない。


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 「熱い肉体、濡れた一夜」(2003/制作:セメントマッチ/提供:オーピー映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/撮影:飯岡聖英/編集:酒井正次/音楽:大場一魅/助監督:小川隆史/協力:阿佐ヶ谷『スターダスト』/出演:柏木舞・北条湖都・まいまちこ・兵藤未来洋・本多菊次朗・石川雄也・松田信行・河村栞・池島ゆたか・神戸顕一、他)。出演者中、ポスターに名前が記載されるのは神戸顕一まで。
 加賀谷恵理子(柏木)は女優を夢見て上京するものの結局芽が出ず、郷里の両親との約束に従ひ帰郷することに。引越し前夜催された送別会も終り親友の坂田かおり(北条)とも別れ、一人歩き始めた恵理子は、同僚の彼女・久美子(河村栞/濡れ場なし)に派手に振られるも無様に食下がる雪村尚也(兵藤)とすれ違ふ。ここで少しだけ長く回される、画面奥に歩き去る久美子から、痴話喧嘩の最中の雪村と久美子、更には独り取り残された雪村へと移るカメラ、乃至は視点はよく動き、ピンクといひながら即ち映画を観てゐることを実感出来る。
 BAR「スターダスト」に、恵理子は戯れに一人で入る。一方雪村も偶々恵理子とカウンター席に居合はせ、先刻恥づかしい場面ですれ違つた女とも知らず、雪村は恵理子に声をかける。警戒した恵理子は席を立つが、送別会で貰つた花束を忘れて来てしまつた。雪村が後を追ひ花束を届けたところから二人は俄かに意気投合し、一夜を共にする。翌朝雪村は、別れ際に恵理子の―固定電話の―電話番号を聞き出す。雪村が聞き出した連絡先を、持ち合はせた本の“約束された場所で”と章題の記された頁に書かせるセンスは、どれだけ妥協しようとも兵藤未来洋には手に余る。恵理子は作業員が荷物を運び出す中体育座りで雪村からの電話を待つが、電話はかゝつて来ない。仕事に一段落つけた雪村が漸く電話をかけたところ、恵理子の部屋は既に引き払はれた後だつた。引越し当日などといふのは、電話は朝から通じないやうな気もするが。前に引越した時はどうだつたかな?電話番号も変らないくらゐ近所で越したので参考にならないか   >知らねえよ
 一年後、雪村は学生時代からの友人・桜沢美央(まい)と結婚を前提に交際してゐた。因みに、雪村の部屋を訪れた美央が料理を振舞ふ件のさはりは、雪村が居間で見る「をんな35才 熟れた腰使ひ」(2001)のテレビ画面。一方恵理子も郷里で、見合した幼馴染の園田武志(石川)との結婚が決まつてゐた。雪村は美央のことがありながらも、恵理子のことを未だに忘れられないでゐた。雪村は美央とも共通の友人であり現在は興信所員の栗原和彦(松田)に、恵理子の身元調査を依頼する。その頃、園田が事故に遭つてしまふ。無免許の車に引つかけられ、谷に落下したのだ。今際の間際に「恵理ちやんは行つた方がいい」、残り僅かな力を振り絞り人差し指を天に指すと、「ほら・・・星の欠片・・・」といふダイイング・メッセージを遺し、園田は死ぬ。園田の真意は計りかねるままに、狭い田舎に居辛くなつた恵理子は再び上京し、かおりの部屋に転がり込む。恵理子の姿を求め、雪村は阿佐ヶ谷の町を彷徨ふ。恵理子はフと手に取つた、かおりが不倫相手(後述)と行つた水墨画家雪村―周継―展のパンフレットから、雪村のことを思ひ出す。
 マリッジ・ブルー、とでもいへば聞こえがいいのか。さういふ、田恆存いふところの“解釈といふ消化剤”に対しては、いふまでもなく首を縦に振るところではないが。詰まるところはいよいよ挙式も秒読み段階に控へた男が、かつて一夜―だけ―を過ごした行きずりの女をどうしても忘れられずに、偶然の必然だか何だか知らないが再び巡り会つた女の下へと走つてしまふ、などといふ都合のいいことこの上ない物語である。恵理子と雪村の姿に、その都合のよさを超えて観客を味方につけるだけの輝きも欠く始末では、土壇場中の土壇場で袖に振られた、といふかいはば放り捨てられた美央を慮る憤りばかりが残りもする。ところがこの点は幸にも、雪村と栗原の遣り取りの中で既に敷設済みの伏線も踏まへ、エンド・クレジット中の挿話といふ形で回収される、ここの手際は鮮やか。本篇が綺麗に纏まつてゐるとは酔狂にもいへないが、補足により、劇中世界は一応の着地を果たす。因みにまいまちこと松田信行とは、池島ゆたかの前作「ノーパン秘書 悶絶社長室」(2003)でもコンビを組む。尤も撮影自体は、今作の方が先であつたらしい。

 本多菊次朗は、恵理子と一夜を過ごした次の朝、寝過ごしてしまひ遅刻した雪村をどやしつけるカミナリ上司、兼かおりの不倫相手・宇田川。宇田川が、雪村の上司とかおりの不倫相手とを兼任する実質的意味は、エンド・クレジットのオーラスに付け足される蛇足以外にはまるでない。池島ゆたかは恵理子の父親。恵理子の父親が、園田が事故に遭つたとの一報を受け取る編集のタイミングが頂けないか。直前のカットで雪村が栗原から恵理子実家の電話番号を受け取つてゐる為、カット明けての電話は、一瞬雪村からのものかと思へてしまふ。神戸顕一は、スターダスト隣りのおでん屋「五郎」、の表を何時でも、あるいは延々掃き掃除する男。自らが掃き清めたばかりのその場で、タバコに火を点ける神経も如何なものか。出演者は他に、山ノ手ぐり子や石動三六ら若干名がクレジットされる。恵理子引越しシーンの作業員に、スターダストと、雪村と栗原が酒を酌み交す居酒屋に見切れるその他客要員か、今回全く確認出来ず。

 園田のダイイング・メッセージの中から、恵理子が行つた方がいい“星の欠片”といふのは恵理子が雪村と出会つたスターダストを指す、といふのだが。普通に考へればスターダストは星屑ぢやね?といふツッコミは野暮に過ぎるであらうか。


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