真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「感じるつちんこ ヤリ放題!」(2017/制作:いまおかプロ/提供:オーピー映画/監督:いまおかしんじ/脚本:守屋文雄/撮影:鈴木一博/録音:光地拓郎/編集:蛭田智子/音楽:下社敦郎/助監督:坂本礼・河西輝幸/特殊造形:土肥良成/スチール:千葉朋昭/MA:シンクワイヤ/仕上げ:東映ラボ・テック/協力:鎌田義孝・堀禎一・川崎龍太/出演:涼川絢音・安野由美・月本愛・櫻井拓也・二ノ宮隆太郎・守屋文雄・佐藤宏《つちんこ》・岡田智宏・川瀬陽太・松永祐樹・内藤忠司・松原正隆・パスカル《犬》・伊藤清美)。出演者中、佐藤宏のつちんこ特記と、松永祐樹から御犬様までは本篇クレジットのみ。
 森の中で立ちションする土田一郎(櫻井)が、草の中から飛びついて来たツチノコ(大きさも形もいはゆるツチノコ状の模型)に首筋を噛みつかれる。自力でツチノコを放り捨てるも、一郎は駆けつけた妻・園子(涼川)の腕の中で最期の言葉を遺す。救急車を呼ばうにも圏外、夫を担いで山を下りようとするものの、力尽きた園子が一旦一郎から離れると、フーとかハーとか奇声を発する等身大のUMA・つちんこ(昭和テイストな着ぐるみの佐藤宏、顔だけ露出する)大登場、とてもピンク映画のアバンとは思へない。一郎をつちんこの巣穴に攫はれた園子が、助けようと突つ込んだ腕が抜けなくなりホットパンツの尻をプリップリさせてゐるところに、ツチノコハンター・栗駒とおる(守屋)が通りがかる。助ける見返りに栗駒家で一絡み、普通に水道の蛇口から水を飲むつちんこが、カブキ乃至はムタでいふ毒霧を吐いた上で、両手を広げハーッと見得を切つてタイトル・イン。流石に着ぐるみ一体を、今作のために完全新規造形したとは考へ難いのか。
 配役残り松永祐樹は、無断欠勤を続ける一郎を案じ園子を訪ねる、タクシー運転手の同僚・瀬川たかし。貪り食ふパンの耳の大袋を手に瀬川を追ひ駆けてみたりしつつ、園子はホステスを募集する売春バーの敷居を跨ぐ。伊藤清美と安野由美が、売春バー「GARIGARI」のママ・五味ケイコとホステス・須山里美。ケイコ改め伊藤清美が、店は客を取る女に事実上任せ、己はマイクを手に終始素頓狂なオンステージ状態の大暴れ。岡田智宏と川瀬陽太は、作業着の制服のまゝ「GARIGARI」に通ふ、保健所員の大山昇と小山勉。本職は演出部らしいがいいキャラクターの二ノ宮隆太郎が、「GARIGARI」で園子と出会ふ小袋良男。月本愛は、小袋が転がり込んだ土田家を一郎と約した百万円を求め急襲する、女子高生・加藤うさぎ。一郎とのミーツは、援交云々では必ずしもなく車内に忘れたスマホ。パスカルは、罪を犯し地獄に堕ちたのちに、虫とか犬等への転生を経て漸く再び人間に生まれ戻つたとする、小袋が語りかける犬セルフ、犬に哲学者の名前をつけるセンス。内藤忠司は、川辺で鯉―といふかショボい鯉幟―にパンの耳をやる園子の前に現れる、鯉の生れ変りと称するオッサン、脇腹に鰓の痕跡?が残る。伊藤清美と同じく、いまおかしんじの前々作「獣の交はり 天使とやる」(2009/脚本:港岳彦/主演:吉沢美優)以来のピンクとなる松原正隆は、実は夫殺しで指名手配中の里美を追ひ、客を装ひ「GARIGARI」に潜入する刑事・近藤剛。その他小袋初登場時の引きの画に、客要員がもう二人見切れる。
 前作「帰れない三人 快感は終はらない」(2015/脚本:佐藤稔/主演:涼川絢音・夏希みなみ・工藤翔子)で大蔵初上陸、2016年は素通りしたかと思ふと、今年はエクセス経由のENKでも経験のない、自身初となる薔薇族「オレとアイツの集金旅行」(脚本:羽坂学・佐藤稔/主演:うっちぃ・櫻井拓也)で盆の大役を務めたばかりのいまおかしんじ2017年第一作。
 変なエロ動画サイトに飛ばされどうしても辿り着けないはてなブログによると、差異は“絡みのカットのアングルが違ふだけ”らしいOPP+版のタイトルが、「夫がツチノコに殺されました。」。ツチノコに夫の命を奪はれたヒロインの周囲を彩るのは、作り物つぽい作り物の等身大UMAを始め、両親の敵討ちに執念を燃やすツチノコハンター。浮世離れた売春バーのママと、償へぬ罪を背負ひ逃亡するホステス。畜生から生れ変つた者供に、ぶつ飛びキノコ獲得に奔走するアッパーなJK、ラパが抜けてるかも。曖昧な因果律にぼんやりと支配され、“ワールド”的な言葉で評するほかない独特の世界観は直截にあまりでなく得意とするところではないのだが、裸映画としての不誠実は最低限感じさせない点と、うさぎが飛び込んで来る絶妙なタイミングが象徴的な、安野由美と月本愛の間にも番手の別を感じさせず、裸は十二分に見させた上で、なほかつ濡れ場要員に止(とど)まる女優部が存在しない用兵もしくは作劇は、案外秀逸。意図的に底を抜いたSEを多用する、つちんことぶつ飛びキノコでトンだ園子の決戦は、愚か者加減でいまおかしんじが遂に荒木太郎をも上回るだか下回つたかと匙を投げかけたが、何某かに導かれた二人が最終的に巡り会ふラストは、神秘的なロケーションの力も借りそれなりにロマンティック、松永祐樹二度目の出番も地味に効く。現に尺は同じ一般映画版と、中身が殆ど全く変らないといふのも好印象。全て意味なんてなさげに思はせて、無駄なものが存在しない劇中世界の何気な強度もしくは完成度。諸手を挙げるつもりも特にはないけれど、好き勝手し倒したかに見せつつ、なかなか馬鹿にならないピンクと映画を何気に両立させた一作。自ら誓つた禁を破つてみたが、「絶倫絶女」(2006/主演:藍山みなみ)よりは画期的にマシで安心した。寧ろ誰が何をどうすれば、「絶倫絶女」よりもクソになるのかは知らん。


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 「ドキュメント 性熟現地妻」(1995/制作:シネキャビン/配給:大蔵映画/脚本・監督:勝山茂雄/撮影:西川卓/照明:桜井雅章/編集:酒井正次/録音:中村幸雄《シネキャビン》/音楽:黒木和男/助監督:遠藤聖一/監督助手:女池充・坂本礼/撮影助手:鏡早智/照明助手:南園知男/スチール:大崎正浩/現像:東映化学/タイミング:鈴木功/録音スタジオ:シネキャビン/効果:㈲東京スクリーンサービス/リーレコ:港リーレコ/タイトル:ハセガワプロ/協力:上野俊哉・松岡邦彦・西山秀明・中野貴雄・柴原光・成瀬正行・小川真実・杉本まこと・国沢実・榎本敏郎・吉村泰治・スノビッシュプロダクツ・オフィスバロウズ/出演:摩子・葉月螢・姫ノ木杏奈・太賀麻郎・神戸顕一・樹かず・山本清彦・サトウトシキ・上野俊哉・桜井雅章・坂本礼・原田徹・柴田あゆみ・秋吉宏樹・久須美欽一)。タイトル・イン直後とエンド・クレジット時とでビリングが異なり、タイトル・イン直後は、秋吉宏樹と久須美欽一が久須美欽一・秋吉宏樹の順で姫ノ木杏奈と太賀麻郎の間に入る。
 支那の風景を切り取るスチールと如何にも支那的な劇伴連ねて、成田空港に降り立つた、美麗(摩子)が偶々ぶつかつたブローカー(何とサトウトシキ)に捕まりかける。美麗が就労目的で来日した訳ではないのを知つたブローカーは、名刺だけ渡して潔く捌ける。美麗の目的地は新宿、都内に向かふ車載カメラに、ズンチャカ適当極まりない劇伴が起動してタイトル・イン。明けて新宿到着、相変らず支那スチと新宿の画に乗せて、俳優部と勝山茂雄のみのクレジットに、即ちスタッフは後ろに回してゐるにも関らずモッサリモッサリ費やす二分超の長尺に募る不安は、結論を先走ると逆の意味でものの見事に的中する。
 二人の子供が生まれたばかりの千葉(太賀)を、来客が訪ねる。北京出張中に軽く知り合つた―多分寝てる―美麗が日本どころか会社にまで現れたのに仰天した千葉は、その夜ホテルに美麗を誘ひ、事後美麗がシャワーを浴びてゐる隙に三万円の小銭と、小屋ならば判読出来たものか否か微妙な置手紙を残して姿を消す。どうやら帰国する旅費は持ち合はせないらしき美麗は、ブローカーに渡された名刺を頼りにパブ「蜂の巣城」で働き始める。そこは支那人のホステスに、店外で売春させる店だつた。
 配役残り消去法で原田徹が、満足に面相も見せない千葉の同僚・長坂。姫ノ木杏奈は「蜂の巣城」のホステス・リンファで、山本清彦がノリッノリで羽目を外す常連客。坂本礼と秋吉宏樹は「蜂の巣城」のウェイターとフロアマネージャーの村上、ファースト・カットでは茶を挽き気味の葉月螢が、この人もホステス・シュンファイ。正直リンファとシュンファイに関しては、呼称が―音声的に―安定してゐなくて些かならず覚束ない。盤石の悪代官ぶりでトメに据わる久須美欽一が、「蜂の巣城」の経営者・田代。照明部から華麗に出撃する桜井雅章は、ジミー土田みたいな造形の客。樹かずは、確かネイティブの筈にしては関西弁が御愛嬌なヤクザ客。軽く悶着を起こし村上と睨み合ふカットでは、秋吉宏樹と並ぶと殊更に際立つ樹かずの小顔ぶりに軽く度肝を抜かれる。上野俊哉は葉月螢とポッキーを挟み食ひする客で、神戸顕一が頑なに体を売ることを拒む美麗を、最終的には縛つて手篭めにする客。柴田あゆみは、別の店に売られたリンファの穴を埋める、新しい女。
 意外にも大蔵であつた、勝山茂雄デビュー作。とはいへ大蔵ながらゴロゴロする四天王や七福神の名前に国映の刻印は濃厚で、ここはもしやすると、シネキャが、あるいはシネキャで映画を作ると大蔵配給となるといふだけの話なのかも知れない。勝山茂雄は「人妻 濃密な交はり」(2005/脚本:奥津正人/主演:真田ゆかり)以降Vシネ含め監督作は見当たらず、CFなりPV、講師業に軸足を移してゐる御様子。
 はてさて映画の中身はといふと、初陣で若気を至らせるですらなく、何処までも何処までも、何ッ処までも漫然とした出来、グルッと一周して清々しさをも覚えかねないほどに面白くも何ともない。そもそも繰り返す要から疑問でなくもない、支那の風情を―安普請のその先で―伝へるスチールの乱打で二度三度とただでさへ決して長くはない尺を空費。当然、始終にリズムの生まれやう筈もなく。超絶美人の摩子とコケティッシュ巨乳の姫ノ木杏奈を擁するものの、ことごとく中途で終る濡れ場は却つてフラストレーションを募らせる始末。かといつて、絡みも疎かに、素といふ意味での裸のドラマに総力を傾注する、風にも特に見えないんだな、これが。今や日本で売るものは日本で作つた方が安くなりつつある昨今、文字通り隔世の念も禁じ得ない、経済格差を背景とした女性搾取からわざわざ物語を組み立てておいて、描写は何れも平板で、それなり以上の俳優部が揃つてゐる割に兎にも角にも何にも響かない。腐つても人の作りしものが、どうすれば斯くも無味乾燥たり得るのかが理解に遠い、不可思議の領域に突入して掴み処のない一作である。もうひとつ全般的な単調さを際立たせるといふか火に油を注ぐのが、別に西川卓の所為ではないと思ふけれど、頑なにカメラが恐怖症かの如く演者に寄らない。

 ところで、少なくとも地方在住ピンクスにとつてとんと沙汰の聞こえて来ない勝山茂雄ではあるが、先般急逝した堀禎一最新作―その日の―終映後、打ち上げの模様を伝へる主演女優のツイートで、元気な姿が確認出来る、女池充とともに。

 訂正< 勝山茂雄のデビュー作は、岡沢勝洋名義の「契約妻の奴隷寝室」(新東宝/1989/脚本:田辺満/主演:小川真実)とのこと


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 「こくまろオッパイ かきまぜられた私」(2016/制作:セメントマッチ/提供:オーピー映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/撮影監督:清水正二/撮影:海津真也/録音:大塚学/編集:山内大輔/音楽:大場一魅/効果・整音:AKASAKA音効/助監督:江尻大/監督助手:泉正太郎/撮影助手:宮原かおり・井野雅貴/照明助手:広瀬寛巳/スチール:津田一郎・だいさく/仕上げ:東映ラボ・テック/協力:高円寺 馬力/出演:佐山愛・児玉るみ・真島かおる・津田篤・えみりい・なかみつせいじ・竹本泰志・山ノ手ぐり子・太三・泉正太郎・松井理子・西入美咲)。出演者中、山ノ手ぐり子以降は本篇クレジットのみ。
 仏頂面でカレーを作る佐山愛が、カレーの匂ひではない臭ひに軽く眉をひそめる。一旦出来上がつたカレーを何を思ふたか押入れに運び、臭ひでも消したいかのやうに団扇でパタパタ扇ぐと暗転して、コッテコテの公開題にも関らず、何の酔狂かピンク映画らしからぬキッチュなフォントでタイトル・イン。ミステリアスで不穏な開巻は、決してどころでなく悪くなかつたのだが、ちぐはぐなタイトル画面で早々に躓いた感もなくはない。
 明けて池島ゆたかが多用する、何時もの何処ぞのシティホテル。弟妹から押しつけられた痴呆症の母・サイ子(えみりい/凄く正体不明)を、さりとて施設に入れる金もなく何と捨てることにした村岡恵子(児玉)は、母との最後の夜だといふのに夫・浩二(竹本)と藪から棒に催した夫婦生活。佐山愛の陰に隠れてなかなかどうして、児玉るみも結構な破壊力を誇る爆乳の持ち主で、姥捨てだなどと今時大概な飛躍を、些末と捻じ伏せ得る見事な濡れ場を披露する。所再び変つて、一時期旦々舎がよく使つてゐた印象のある新宿中央公園。ホケーッと黄昏れてゐたベンチで、笑つてはゐるけれどもキレた形相で迫る、勤務してゐたクリーニング店の社長・五十嵐孝(なかみつ)の幻覚に慄く清水修介(津田)は、恵子と浩二がサイ子を保護責任者遺棄する現場を目撃する。何事か脛に傷のあるらしく、事態を認識しつつ等閑視を決め込む修介を、サイ子は長男・カズヒコ―恵子の弟―だと捕獲。長い回想と疑心が暗鬼を生じさせるパートを経て、結局修介がサイ子を振り切れないまゝ帰宅すると、妻のマキ(佐山)は当然脊髄で折り返して臍を曲げる。
 配役残り西入美咲は、修介と五十嵐が飲む居酒屋「馬力」の店員。松井理子の一役目は、実は借金に塗れてゐた五十嵐が逃げた旨を青天の霹靂極まりなく修介に伝へる、電話越しの五十嵐妻の声。山ノ手ぐり子(=五代暁子)は、諸々の傷口に塩を塗つてマキに前倒しての立ち退きを一方的に強ひる大家。借金は踏み倒し周囲には迷惑をかけ倒しておきながら、五十嵐はギャンブルでそれなりにゴキゲンな日々を送る。純ッ然たる濡れ場三番手の真島かおるは、五十嵐がお馬さんで儲けたあぶく銭で呼ぶデリ嬢・ユメ。杉並から新宿に転勤になつた太三と関根組から初の外征となるのと同時に演出部にも進出した泉正太郎は、清水家を訪れる刑事・佐々木と岡部、太三が岡部から佐々木にスライドしてゐる点に関してはあまり気にするな。そして松井理子の二役目が、幸運なのか悲運なのかよく判らないラストに花を添へる公園の女。
 第二作の話がてんで聞こえて来ない一般映画は一旦一段落したのか、完全にローテーションに復帰した趣の池島ゆたか2016年第三作。2017年も今のところ、同じペースで走つてゐる。捨てられた老婆を拾ふ格好となつた男が抱へる、押入れの物騒な秘密。二つの厄災が巧みに、あるいは豪快に交錯するブラックかスクリューボールなコメディかと思ひきや、清水家が事ここに至る顛末に尺の大半を消費する展開には逆の意味で驚いた。佐山愛のこくまろオッパイはお腹一杯に堪能させ、なかみつせいじは観客の琴線を逆向きに激弾きするウェーイ混じりのガッハッハ調を綺麗に形作り、思ひも寄らぬ方向に転ぶラストは確かに予想外とはいへ、流石に十分延びた時間を丁寧に丁寧に使つて何をやつてゐるのかと激しく唖然とした。ダラついた二時間半の映画の、前半だけ観たかの如き一作。真島かおるは持ち場を欲張らない員数合はせでいいにせよ、素の芝居含め児玉るみが何時でもビリング頭を狙ひ得よう逸材だけに、序盤でサイ子をデタッチするや、村岡夫妻が完全に退場したきりの構成が重ね重ね惜しいか厳しい。


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 「悶絶!!どんでん返し」(昭和52/製作:日活株式会社/監督:神代辰巳/脚本:熊谷禄朗/企画:成田尚哉/プロデューサー:三浦朗/撮影:姫田真左久/照明:直井勝正/録音:神保小四郎/美術:渡辺平八郎/編集:鈴木晄/助監督:鴨田好史/色彩計測:森島章雄/現像:東洋現像所/製作担当者:栗原啓祐/協力:スナック 東郷/出演:谷ナオミ・鶴岡修・遠藤征慈・結城マミ・あきじゅん・粟津號・八代康二・長弘・木島一郎・織田俊彦・庄司三郎・水木京一・溝口拳・中平哲仟・賀川修嗣・東郷健・宮井えりな・牧れいか)。出演者中、この人の名前が何故ポスターに載つてゐないのかが大いなる謎な粟津號と、庄司三郎から東郷健までは本篇クレジットのみ・・・・東郷健!?
 開巻は画面一杯に乱舞する谷ナオミのオッパイ、ボーイの水木京一がチョイチョイ見切れるキャバレー「メキシコ」に、底抜けに御陽気な戸田(木島)と、普通に御機嫌な山田(織田)とに連れられ、見るから場慣れない北山俊男(鶴岡)が来店する。ホステスのあけみ(谷)がついて席に座るや、折好く店内の照明が落ちアタック・サービスに突入、スタッフは後ろに回した俳優部限定クレジットが通過してタイトル・イン。アタック・サービスの最中は、照明が落ち過ぎてゐて何をして呉れてゐるのかはてんで判然としない。いはゆるビギナーズラックといふ奴か、北山が上手いことアフターであけみのアパートまで転がり込んだはいいものの、そこにはダボシャツ×角刈りといふルックがアイコン感覚な、あけみ曰く“あんた”の川崎竜二(遠藤)が。あけみを賭けての丁半勝負に負けた北山は、自分が勝つた時は正直考へてゐなかつた川崎の脊髄辺りで折り返した思ひつきで、川崎に掘られる。川崎も、後述する子分の丸山も要は終始さういふテンションなのだが、この男同士のレイプが、犯すどころか半殺しにでもしかねない勢ひのブルータルさ。先にビギナーズラックといふ奴かと戯れに筆を滑らせてはみたけれど、ハードラックだな、これは。
 配役残り、初めて気づいたが昭和の工藤翔子の趣を湛へなくもない結城マミは、北山の父である専務(長)の秘書で、北山の彼女でもある長谷川久美子。組には属さない川崎の―あけみに食はして貰ふ以外の―稼業は、三人のズベ公を使つての美人局。カプセル型のエレベーターで降臨するファースト・カットを、外から抜かれるあきじゅんがズベ公のリーダー格・ミドリで、ワイルドなキレンジャー(初代)風の粟津號が川崎の子分・丸山、宮井えりなと牧れいかはズベ公もう二人・よし子と房江。八代康二はミドリに捕獲され、頃合を見計らひ川崎と丸山が飛び込んだところで、腹情死してしまふ初老の男。ワン・カット限りの出番を駆け抜ける向かつて右の溝口拳と左の中平哲仟は、ズべ公に自分は山下組に顔が利くと思ひ込ませる目的で、川崎にダシにされる山下組幹部AとB。房江に捕まり再会した川崎に再度掘られた北山は、完全にオカマに開眼。まさかの大物飛び道具たる東郷健は、特にどころでなく一切一欠片たりとて何の脈略もなく、和装婦人然とした北山が遊びに行くゲイバーに姿を見せる、大絶賛ヒムセルフだかハーセルフ。庄司三郎は、この人も房江経由で、川崎一人に因縁つけられる骨ギスな男。問題の賀川修嗣は、別に賀川修嗣自身に問題がある訳ではないが、その場に踏み込み、どさくさ揉み合ふ弾みで川崎に刺される刑事。その他話を戻して中平哲仟の背後に、昨今安倍晋三に似てゐると世間の片隅で話題の小見山玉樹が映り込む。
 九月にシネロマン池袋でかゝるといふので、年明け並のその内関門海峡を越えて来る可能性も留保しつつ、時にはDMMでロマポも見てみるかと、滅法面白いらしいといふのでチョイスした神代辰巳昭和52年第一作。と、したところが。慣れない真似はするもんぢやないのか、当方シネフィル~ゥ♪ではないにつき今作に関する世評は与り知らぬが、何が面白いのかパリサツで判らん。クールな選曲は確かにカッコよく、小屋で観てゐればコロッと心酔してみたりするのかも知れないけれど、それは所詮、奪取した音楽の富に過ぎまい。食事から考へた方がいいレベルで粗暴なばかりの川崎や丸山の造形が、痛快に見えたのは最初のうち。やがて延ッ々性懲りもない一本調子に食傷するのも通り過ぎると、精々幾分洗練された清水大敬程度にしか見えなくなる。宮井えりなの濡れ場を逆百合―逆なのか、それは―で消化する趣向は洒落てゐるにせよ、川崎にヤラれた北山がオカマとして麗しく開花する飛躍は、量産型娯楽映画の数撃つ鉄砲が叩き出すめくるめく、あるいは眩暈がさせられることもまゝある破天荒の中では然程高くも思へず、何より、川崎に刺されるためにのみ唐突に登場する、賀川刑事の木に竹を接ぐ段取りぶりが強く目か鼻についた。曽根中生の「わたしのSEX白書 絶頂度」(昭和51/脚本:白鳥あかね/主演:三井マリア)や、「白昼の女狩り」(昭和59/脚本:森下馨/主演:加来見由佳)等を観た際の感触も踏まへると、どうも脳細胞が桃色に煮染められた愚生は、下手に作り込まれたナンセンスなりアナーキーでなく、プリミティブな破壊力により心惹かれる性行ないし偏向があるらしい。とまれ神代辰巳がどれだけ偉いのか知らないが、このくらゐでワーキャー騒いでるやうでは、小林悟を観ると発狂して、関良平だと即死するぞ。珠瑠美なら・・・・勃てるでなければ寝れば?


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 「痴漢電車 マン淫夢ごこち」(2016/制作:Production Lenny/提供:オーピー映画/監督・脚本:城定秀夫/プロデューサー:久保獅子/撮影・照明:中尾正人/録音:小林徹哉/助監督:伊藤一平/編集:城定秀夫/ヘアメイク:野中美希・宮下理沙/監督助手:寺田瑛/撮影助手:坂元啓二・原伸也・戸羽正憲/スチール:本田あきら/制作応援:酒井識人・名田仙夫・浅木大/脚本協力:城定由有子/音楽協力:林魏堂/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:希島あいり・竹内真琴・松井理子・麻木貴仁・守屋文雄・清水大敬・山科薫・徳元裕矢・獅子奮迅・和女・しじみ・佐倉萌・田中アンドレイ・碓井英司・佐野川田尚輝・ISSEI・郡司博史・水神城・野瀬刹那・松本洋一・冨田大策・みやちひろし・郡司博史・鎌田一利・加藤義一・中村勝則・生方哲・坂権之助・一本杉渡・ウンノヨウジ・三浦誠・むらかみひろあき・吉田行孝・本木政孝・金塚崇・篠原涼・岡田朋子・くりりん♂・森田涼介・鴨。・岡田朋子・二本松歩・城定由有子《声》・麻木貴勝《声》)。出演者中、徳元裕矢以降は本篇クレジットのみ、散見される二重クレジットは本篇まゝ。
 都内を東西一直線に貫く中丸線、午前八時二十分、混雑率率170%の車内で三件の電車痴漢が同時に発生した旨を告げた上で、三件各々を局所的に連ねてタイトル・イン。
 “一両目南側前方降車口付近 痴漢被害者① 水野君子(25)図書館員”。流されるまゝに生きる女を自認する水野君子(国沢実2015年第二作『スケベ研究室 絶倫強化計画』《脚本:高橋祐太》の時とは全然印象が異なる竹内真琴)は、職場館長の中島(山科)から言ひ寄られるまゝに関係を持ち、電車でも痴漢に遭ふことが多かつた。その多さゆゑ、尻の感触で痴漢を識別するに至る君子のお気に入りは、右手甲に蠍の刺青を入れた通称・サソリ(守屋)と呼ばれる有名痴漢師であつたが、その日の痴漢は、初心者を思はせるもどかしい手つきであつた。口を開くと軽くドッチラケルのは否めないものの、今作の守屋文雄が、まるで森士林(ex.根本義久)みたいにカッコよく映る。
 “二両目南側中央座席 痴漢被害者② 日高麻美(28)銀行員”。“高嶺の花”だ“意識高い系”だと臆面もなく自称―ただのバカなのか?と直截に思へなくもない―するほど、自身に極めて高いプライドを持つ日高麻美(希島)は―相手に要求する―理想も高く、当然痴漢なんぞ論外、容赦なく葬り去つて来た。とはいへ三十のいはゆる大台もぼちぼち目前に、理想が高すぎて周囲に追ひ越されがちな現状に焦りを覚えた麻美は、男の参加費が如何にもクッソ高さうな婚活パーティーに参加、これ見よがしなロス在住の会社社長・野崎(徳元)と出会ふ。何かと重装備で野崎との待ち合はせ場所に急ぐ麻美は、隣に座つた妙な迫力のある浮浪者・山田(清水)の痴漢を被弾。麻美は騒ぎたてられない訳もあり、懸命に耐へる。
 “三両目北川後方降車口付近 痴漢被害者③ 間宮涼子(35)警察官”。ガッチガチの男社会である警察組織内で肩肘張る間宮涼子(松井)は、上司(獅子奮迅/a.k.a.久保獅子=久保和明)による超高速で連打され続ける罵倒もものともせず、被害届が提出されてもゐないサソリ検挙に執念を燃やす。相変らず単独行動で通勤電車に乗り込んだ涼子に、指と同時に―痴漢を求めるか容認する女を見分ける―嗅覚をも神と讃へられるサソリが接触する。
 配役残り、しじみは押しの弱い君子を戯画的に邪険にする、「もしものコーナー」ばりにカッ飛んだ造形のギャル図書館員。佐倉萌は、どのやうに仕込んだのか録音した音声データを盾に君子を自宅に呼びつける、中島の妻・敏江。旦那が山科薫で嫁が佐倉萌、まあブルータルな夫婦ではある。絶妙に肉感的な和女は、オフィスでは麻美隣席の同僚・加奈。勤務医とはいへ医者の彼氏をゲットし、麻美の焦燥に止めを刺す。本当に数十人クレジットされる田中アンドレイ以降は、車内・館内・行内、婚活パーティー会場挿んで署内の各要員と、清水大敬が歴戦で鍛へ抜いた突進力でカッコいゝ見せ場を披露する公園隊に、大胆にオトすサソリ軍団。ヌルッとフレーム・インするサソリが、エクストリームな集団痴漢に文字通り割つて入るカットが絶品。
 大蔵三作目で早くも栄えある正月痴漢電車を射止めた、年末ギリギリ公開の城定秀夫2016年第二作。その割に、他の仕事が忙しかつたのか、今作のOPP+版以外には、城定秀夫が2017年未だ沈黙を保つてゐる。例によつてといふか何といふか、兎も角世評とは違へ、画期的な大転換ながら、逆に起承転結の転部で停止する大蔵上陸作「悦楽交差点 オンナの裏に出会ふとき」(2015/主演:古川いおり)と、ワーキャー騒ぐほどでもないよくある話の前作「汗ばむ美乳妻 夫に背いた昼下がり」(2016/主演:七海なな)に対しては、普通に考へれば十二分以上の出来にしても、敵があの人妻セカンドバージンの城定秀夫だと思ふと、手放しではノリきれぬ贅沢極まりない物足りなさも覚えたものである。
 性懲りもない憎まれ口は兎も角、そこで、「マン淫夢ごこち」。これが、メッチャクチャに面白い、箆ッ棒に面白い。ベラボーとでも叫びたくなるくらゐ面白い、黙れ。君子パートと麻美パートは比較的マッタリ攻めてゐたかと思ひきや、涼子が乗車するや否や麻美と連結。矢継ぎ早にサソリを案外アッサリ現行犯逮捕したかと再び思ひきやきや、欠片も動じるでなくサソリは自信に満ちた冷静な全力で涼子を陥落させにかゝる。当該ジャンルならではこその、スリリングなアクション感。徐行してゐた痴漢電車が、俄然超特急の勢ひで猛然と走り始める。三人同時に達した直後に、君子・麻美パートでは―と涼子パートの冒頭でも―巧妙に隠匿した、同時多発痴漢を繋ぐ匠の限りの構成の鍵を担ふ、決戦俳優部たる道川タカユキ役の麻木貴仁投入。全く別々の人生を送つてゐた君子と麻美と涼子が一本の電車で偶さか連なる、空前絶後の技術と論理とが火を噴く見事な電車痴漢トリプルクロスを構築してみせた。濡れ場のある女優部三人体制に、窮屈の異を唱へぬでもなかつた城定秀夫が事こゝに及んで提出した、フォーマットに対する鮮やかなまでの大解答に、恐ろしいことに止(とど)まらず。やりたがつたが何時も仕損じてゐた国沢実に代り、城定秀夫が完成させたシークエンス。死にたがる弱き者を、その者よりは少しだけ弱くない者が、どれほど惰弱であれそれでも精一杯優しく慰留する。竹内真琴が放つナベをも倒さんばかりの一撃を筆頭に、麻木貴仁×清水大敬にウェーイなツンデレぶりで、不器用な名場面を実は巧みに彩る久保和明。一見華はなさげに見せて、地味でなく強力な男優部の援護射撃も借り、三本柱が一撃必殺を三者三様三発、踏切の件を君子二発目に数へるならば都合四発撃ち抜くエモーションは、観客を何処からでも滂沱と流れる涙の海に沈め得る、正しく必殺にして超絶。一言でいふと、素晴らしいといふほか言葉が見つからない。昭和の時代から活動する清水大敬と山科薫、には流石に及ばないにせよ、世紀を跨ぐ佐倉萌を擁し量産型娯楽映画のヒストリカルな部分も継承。ラストのセカンドクロスで涼子が麻美に気づかない粗忽と、竹内真琴が頭でよくね?といふビリングに関する素朴な疑問をさて措けば、どれだけ探さうにも些末な粗も俄かには見当たらない。セイレーンXと、城定夫名義の二作。新東宝三作は作りが微妙と除外した場合、城定秀夫が純正ピンク五作目にして、しかもある意味最たるピンク映画ともいへよう痴漢電車で辿り着いた、最も高い到達点。技の城定秀夫と力の山﨑邦紀、そして小川欽也が叩きつけたアンチ・ヌーベルバーグとしての伊豆映画最新作。の三作が、当サイト選の2016年ベストである。ついでに裏一位は関根和美、闇よりも暗い黒一位は荒木太郎


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 「淫乱民宿 おかみさんがイク!」(1994/製作・配給:大蔵映画/監督・脚本:小林悟/撮影:柳田友貴/照明:荻野真也/編集:㈲フィルム・クラフト/助監督:小林一三/音楽:東京BGM/効果:中村半次郎/メイク:ソレイル/タイトル:ハセガワプロ/スチール:佐藤初太郎/録音:シネ・キャビン/フィルム:AGFA/現像:東映化学《株》/出演:章文栄・冴木直・白都翔一・坂入正三・樹かず・門倉達哉・港雄一・残間ゆう子)。助監督の小林一三は、樹かずの本名。
 波打ち際の画から入つて、夫婦で旅館を営むあき子(章)と茂一(港)が、買物帰りに林の中の祠にて一休み。神が祀られてゐるといふのに、催した茂一は一週間ぶりの夫婦生活をその場でオッ始める。祟つたものか、木に手をつかせたあき子を後ろからガンッガン突く茂一は卒倒、改めて波打ち際の画にタイトル・イン。タイトル明けも砂浜のロング、歩き始めた人影にカメラがグーッと寄ると、和装の喪服のトメ。何となく海に近づく亡夫(欠片たりとて登場せず)の三回忌を終へたばかりの残間ゆう子に、すは入水かとハルオ(白都)が飛びつく。誤解を侘びついでに、茂一の甥であるハルオは残間ゆう子をミネラルイオン泉を謳ふ温泉民宿「長磯荘」に招く。話の途中で寝たきりになつた茂一の世話に中座したあき子の、満足に喋れもしないにしては無闇に盛んな茂一にホジられる裸の尻を目撃したハルオは、そのまゝ二階の残間ゆう子の部屋に。残間ゆう子の寝込みを「男が欲しかつたんだろ」と欠片の脈略もなくポップに襲ふハルオに対し、クンニを要求した残間ゆう子はサクサク後背位に移行。何もかも顛末はスッ飛ばした夜の長磯荘、謎の長期客・サイトウ(坂入)と磯貝(門倉)が、残間ゆう子があげた嬌声に凄いアベック―劇中用語ママ―がゐると咲かせる下卑た噂に、あき子は残間ゆう子は一人客の筈だと首を傾げる。
 デビュー二十余年の章文栄(a.k.a.章文英)を主演に据ゑた、小林悟1994年最終第九作、薔薇族入れると第十二作。因みに章文栄のキャリアがjmdbでは今作まで八年空いてゐるが、章文英名義なりビリング下位のロマポなり、脱けは大いに予想される。重ねて因みに章文英に関しては、jmdbは項目ごと素通りしてゐる。
 ファースト・カットから章文栄が加齢を隠せない中、物語らしい物語も終ぞ起動しないまゝに、漫然と過ぎて行く尺は案外心地よくなくもない。大概終盤に差しかゝつて漸く、長磯荘でセックスするためだけにサラとトオルの正真正銘アベック(冴木直と樹かず)が登場するに及んである意味完成する、中途で放棄される起承転結すら存在しない鮮やかなほどの、あるいは白夜の如き裸映画。正直おかみさんのトウのたちぶりに、予定されてゐた女優がトンだ類の、ありがちな曰くも想像に難くはない一作。明後日だか一昨日から飛び込んで来るチャーミングな見所は、夜の物置にハルオを呼び出したあき子の、出し抜けに「今日から自分のしたいやうに生きようと決めたの」と、豪快かつ最短距離の内側をも抉る据膳で火蓋を切る一戦。左に喜悦する章文栄の表情を定置した、しかも三分弱長々続く謎の二画面演出は、ピンクでは滅多どころでなく見ない手間を費やして、全体何がしたかつたのか。


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 「女医ワイセツ逆療法」(1997/製作:関根プロダクション/配給:大蔵映画/監督:関根和美/脚本:小松公典/撮影:創優和/照明:秋山和夫/編集:《有》フィルムクラフト/助監督:加藤義一/監督助手:小松公典/撮影助手:立川亭/スチール:佐藤初太郎/録音:シネキャビン/現像:東映化学/出演:青木こずえ・下川おさむ・沢口レナ・月野ひとみ・安藤広郎・杉本まこと)。
 黒下着の青木こずえが、絵に描いたやうなドヤ顔で男の方に振り返る。青木こずえの持ち味が爆裂する、ファースト・カットが何気に完璧。共生病院理事長の苗字不詳和也(杉本)と精神科の女医・鳴海唯(青木)の、タイトルを入れるタイミングを少々遅きに失しさせてでも、絡みをコッテリタップリ見せんとする鋼の意思が感じられる一戦。事後の駐車場、まんまと籠絡され唯に心奪はれた和也に対し、周知の恋人・美奈と別れろと主導権を握つた唯は、送りの車を拒否し一人歩いて捌ける。その模様を少し離れた場所から覗いてゐた下川おさむが、上手い具合に闇に消えてタイトル・イン。タイトル明けは、踏切を待つ唯。歩きだした唯を、予備校生・吉川隼人(下川)が殆ど密着しかねない勢ひのベタづけで尾行してゐたりするのが、らしからぬ洗練を窺はせたアバンから一転、量産型娯楽映画の判り易さと表裏一体だか諸刃の剣の、関根和美の無造作さ。
 配役残り月野ひとみは、唯の治療の甲斐あつて、目出度く退院する運びとなる鬱病の入院患者・長内法子。東映化学(現:東映ラボ・テック)もとい共生病院の玄関口まで法子を迎へに来る安藤広郎が、彼氏の英樹。英樹の車に乗つた法子を、吉川は原チャリで追跡。カーセックスを窓から覗き込むかのやうに、といふか完全に覗き込む以外の何物でもなく堂々とさへ注視する吉川に、二人が営みを完遂して漸く仰天する煌びやかなまでの不自然さは、三番手とはいへども見せ場を妨げぬピンク映画固有の至誠と解するべきだ、見せ方がもつとほかに幾らでもあるやうな気もするけれど。きつかけは語られないが唯を正真正銘の本域でストーキングする吉川は、受験ノイローゼを装ひ共生病院精神科に通院する。廊下兼の待合室に居並ぶ面々が、画面奥から関根和美の愛妻・亜希いずみ、吉川と背中しか見せない関根和美に、変にニヤニヤしてゐるのが逆にリアルな小松公典。亜希いずみは、束の間唯と触れ合へてイヤッホーな吉川に、病院玄関でぶつかられる形で再登場。帰宅した吉川が、「元気出して」的に唯に握られた両手で勿論自慰をオッ始めると、全裸M字の唯の幻覚が大登場しそのまゝ濡れ場に至る流麗な導入には、関根和美の天才を確信せずにはをれない。そして尺の折り返し少し前、ストーカーの影に地味に消耗する唯の前に満を持して登場する沢口レナが、和也との結婚も噂される婦人科女医・児玉奈美。
 黒髪の正統美人・沢口レナの、jmdb通り恐らく全五作でなからうかと思はれる、ピンク戦歴を踏破すべくバラ売りDMMに手を出した関根和美1997年第二作。沿革を改めて整理すると、公開時期的にも初陣はまづ間違ひなく北沢幸雄1996年第二作「高校教師 私は、我慢できない」。半年強空けて関根和美1996年ピンク映画第五作「快楽セールスレディ ~カラダも買つて~」(脚本:関根和美・小松公典/主演:河名麻衣)三番手、続く第六作「隣の奥さん バイブでトロトロ」(脚本:関根和美・加藤義一・小松公典)、更に続く1997年第一作「痴漢電車 くひこむ生下着」(脚本:関根和美・加藤義一・小松公典)と来て、関根組四作連続登板含め締めが今作。尤も、今作の沢口レナはビリングにおとなしく甘んじる。どころか、より直截にはヒロインの噛ませ犬。
 それをいつては始まらないのかも知れないが、電話口の声に何故気づかないのかは強力に疑問でもある吉川による大概本格的なストーカー被害と、和也を美奈から強奪するしないの三角関係。唯を巡る二つの物語を、如何に収束させるのかそもそもし得るのかとあんまり期待はしないで見てゐたところ、まさかの唯・テイクス・オールなラストには驚いた。正しく主演女優といふに相応しい青木こずえの貫禄すら漂ふ、支配力の名にさへ値しよう決定力も借り、観終つてスカッとする類の映画ではないにせよ、悪女ものとしては少々力技ともいへスマートに出来上がつてゐる。とぼとぼ共生病院を後にする下川おさむの消沈した背中から、カメラが結構箆棒に引くラスト・ショットは、琴線に触れはしないが骨身に染みる。


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 「黒い過去帳 私を責めないで」(2017/制作:旦々舎/提供:Xces Film/監督:浜野佐知/原案:山﨑邦紀/脚本:浜野佐知/企画:亀井戸粋人/撮影:小山田勝治/撮影助手:宮原かおり・岡崎孝行/照明:宮坂斉志/録音:山口勉/助監督:小関裕次郎/応援:江尻大・武子正信/編集:有馬潜/音楽:中空龍/整音・音響効果:若林大記/録音スタジオ:シンクワイヤ/ポスター撮影:MAYA/グレーディング:東映ラボ・テック/出演:卯水咲流・佐々木麻由子・西内るな・ダーリン石川・竹本泰志・津田篤・橘秀樹・可児正光・牧村耕次)。出演者中、竹本泰志と牧村耕次が何故かポスターでは竹本泰史と牧村耕治の旧名義。となるといつそ、ダーリンも石川雄也にしておけば男優部三本柱でフルハウスなのに。改めて出演者、ポスターにのみ武子政信と佐藤陽一郎が追加で名前を連ねる。
 処女作『壊滅の愛』で文芸界新人賞を受賞した黒瀬波美(卯水)のTVインタビューを、当の波美がホニャラほ銀行員の恋人・橋川フミヤ(竹本)と見る。チュッチュチュッチュからじつくり時間をかけて攻める挨拶代りにしてはフィニッシュ・ホールドばりの一戦を経て、翌日か次回作に取りかゝるかとした波美は、ミサトのプールをブーメランで泳ぐ可児正光を、何者か男の眼が凝視する。鮮明に見える割に、そこから先ストーリーには膨らんで行かないイメージに囚はれる。担当編集の市子(佐々木)に、打ち合はせの席その旨打ち明け出版社を辞する波美を、WEBライターの堤耕一(ダーリン)が待ち伏せする。素知らぬフリして堤をやり過ごした波美ではあつたが、波美には違ふ自分になれるやうな気がしただの凡庸な理由で、花野香織の名で十年前に一度だけアダルトビデオに出た過去があつた。堤が市子と橋川にもたて続けに接触し事態が膠着する中、市子は気晴らしとミサトニックイメージの取材がてら、波美を谷シュンゾー(牧村)がマスターのゲイバーに連れて行く。その癖市子はバタバタ中座、取り残された波美は、可児正光を凝視するのが実は谷の眼である訳の判らない事実に気づく。心配するな、最後まで観ても判らん。
 配役残り、いはゆるお人形みたいなルックスが低劣な嗜虐心に触れる西内るなは、肉弾殺法で堤にネット流出した花野香織の映像を削除させた市子の功を頼り、二人の前に現れるこの人もex.AV嬢のゆかり。津田篤と橘秀樹が、アイドルになれるとか騙されてAVに出演させられたゆかりを二穴責めする、男優其の壱と其の弐。実際の製品版といふ寸法なのか、この巴戦限定でモザイクを使用する。津田篤は開巻とラストの二度、デビュー作と第二作『黒い過去帳 私を責めないで』のそれぞれ出版直後に波美の話を聞くインタビュアーの声も兼務。西内るなに話を戻すと、一幕限りで潔く駆け抜けて行く純然たる三番手裸要員ながら、全ての過去を決して消えないものとして引き受けようとする波美と、消せるものならばなかつたことにしたいゆかりの相克は一応描かれる。ゆかりが完全に退場してしまふ以上、その場で風呂敷を拡げるばかりで、後々回収されるなり深化されはしないものの。その他登場するのは花野香織の撮影隊、孤高のラッパーEJDが監督で、ポスターのみ俳優部の武子政信がガンマイクを構へ、ハットで顔を隠した撮影部が消去法で佐藤陽一郎。もう一人見切れる推定助監督は、憚りながら山﨑邦紀監督御本人様から御指摘頂戴したところにより、暴走女子Aこと武子愛。
 2016年は素通りしたデジエク第八弾は、第四弾「僕のオッパイが発情した理由」(2014/主演:愛田奈々)・第六弾「性の逃避行 夜につがふ人妻」(2015/主演:竹内ゆきの)・第七弾「女詐欺師と美人シンガー お熱いのはどつち?」(2015/主演:真梨邑ケイ)を積み重ね浜野佐知的にはデジエク史上最多登板を誇る四作目。以下には第一弾第二弾の清水大敬と、第五弾「女と女のラブゲーム 男達を犯せ!」(2014/脚本:今西守=黒川幸則/主演:水希杏)に、未だ関門海峡には遥か遠い第九弾「おばちやんの姫事 巨乳妻と変態妻なら?」(脚本:金田敬/主演:桐島美奈子)の松岡邦彦が続く、第三弾は工藤雅典。デジエクが今年は正月、黄金週間までは順調に来た反面、盆は素通りする。
 閑話休題、山﨑邦紀が原案に退き、全体何時以来なのか浜野佐知が脚本にもクレジットされる何気に話題作。尤もその辺りは、旦々舎が最たる量産態勢を採つてゐた90年代前半前後は、多用する変名を挙句に重用してゐたりもする収拾のつかなさで、本当の本当に正確なところは、タイムマシンでも実用化されない分には明らかになりさうもない。新進女流作家をハイエナが襲ふ生臭い醜聞に関しては、肉を抱かせて骨を断つ市子の活躍で案外アッサリ収束する。拍子も抜けかけつつ、堤を籠絡といふよりは轟沈させた市子こと佐々木麻由子が吐く、「悪ぶつてても、こつちの方は大したことないはね」なるハクい決め台詞のソリッドな決定力と、佐々木麻由子の絡みを消化した上でなほかつそれ自体が三番手の呼び水たる、ピンク映画的にはなほさら看過能はざる構成的な妙、乃至は要に免じて通り過ぎる、にしても。今は滅多に客も来ない店で殆ど隠棲生活を送る谷の正体は、花野香織の介錯も務めた、カメラの前で幾多の女を抱いた伝説のAV男優。花野香織としての体験を今も覚えてゐる波美に対し、二桁どころか三桁も然程珍しくはない監督本数で戦ふ量産型娯楽映画作家が、自作に出演した累々たる女優部を恐らく全員は覚えてゐられまいといふのと同様、谷に香織の記憶はない。忘れられないのに、忘れられてる。藪の中の蛇を突く被害者意識を、最終的にはマッチポンプ式に粉砕してのける豪快な能動性は、浜野佐知映画一流のアグレッシブな女性像の常とはいへ、過去を清算するとか称したヒロインが、一線を退き静かに暮らす初老の男を巻き添へ気味に引き摺り出し膳を据ゑる。傍迷惑なのか棚牡丹なのか判断に苦しむ物語は、一見歴戦の馬力で押し込み得てゐなくもないかに見せて、実際案外か結構首を傾げるなり煙に巻かれるそこそこの頓珍漢。これでは折角市子が文字通り一肌脱いだ甲斐がないといふ以前に、火蓋を切つた際は山﨑邦紀の十八番を薔薇族展開したものかと括目させられた、ガイ・イン・ザ・ウォーターの殊に可児正光にまるで意味がない。すは次回作は今でいふBLものかと色めきたつた市子が、波美を谷の店に連れて行く神秘的なまでに都合のいい方便以外には。短い挿入を除けば全てミッチリコッテリ入念に完遂しておいて、選りにも選つて締めの濡れ場が中途で済まされるのも地味にでなく居心地が悪い。どうも、山﨑邦紀がここに来て御当人も出来上がつた映画もノリッノリの一方、浜野佐知はといふと今ひとつ本調子でない様子が窺へる。思ふに、一作一作の間隔が空き過ぎてゐるのではなからうか。酔へば酔ふほど強くなる酔拳ではないが、浜野佐知のやうな筋金入りのパルチザンもといアルチザンは、撮れば撮るほど力と輝きとを恒星の如く増して来る気がする。

 以下は再見に際しての付記< 中途で済まされる締めの濡れ場に関して、谷の射精が描かれないだけで、波美は勝手に達してゐるやうにも見えた。となるとそれはそれで、正直理解なり共感には遠い、一方的な行動原理に親和してゐなくもない


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 「暴行軍団スケ狩り」(昭和57/製作・配給:新東宝映画/監督:大井武士/脚本:小松越雄/企画:江戸川実/製作:伊能竜/撮影:鈴木史郎/照明:出雲静二/音楽:芥川たかし/編集:酒井正次/助監督:中山潔/監督助手:荒木太郎/撮影助手:市川一夫/照明助手:田中將/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:沢木みみ・竹岡由美・中沢ユリ・長岡ひとみ・藍野憲治・荒木太郎・陶清・石川浩一・中野圭子・橘耕次・山田昌太郎・長谷川明・西田治・島田隆宏・伊沢勉・小田島直樹)。
 最初に白旗を揚げておくと、配役が後述する真弓役の竹岡由美しか固定不能、四本柱は登場順のやうな気がしなくもないけれど。あと荒木太郎は当然判るにせよ、男優部の名前が斯くも大勢ある意味がそもそも判らない。
 電車の中をカメラがウロウロすると、和服の女が寝てゐる。下卑た二人連れ・俊男と雄二(多分順不同で島田隆宏と伊沢勉)は女を起こしておいて、「オバハンぢやねえかよ」と実も蓋もない悪態をつく。運転席に灯りのないのが不可解な、闇の中を画面手前に走つて来る電車のロングにタイトル・イン。当然といふか何といふか、兎に角営業運転中の実車輌での撮影にも関らず、にも関らず!俊男と雄二は和服女をザックザク犯し始める。妙に膨大な俳優部は、ここでの不自然なくらゐに無関心か退避を決め込む乗客要員か。雄二が偶々その場に乗り合はせた、二人とは幼馴染か何かの予備校生・良太(トメ推定で小田島直樹?)を発見。車掌の気配に、良太は巻き添へ気味に三人で逃げる。
 配役残り竹岡由美は、良太の家庭教師・真弓。予備校生の家庭教師に妙齢の女といふアメイジングさに関しては、問はぬが花といふ奴だ。ムラつくどころか良太が真弓を押し倒すと、ある意味見事な完拒絶を喰らふ。木端微塵に打ちひしがれ、俊男と雄二に慰めといふか救ひを求めた良太は、双方職を失ひ本格的に無軌道な日々を送る二人と行動をともに。荒木太郎が、俊男と雄二で半殺しにして良太に渡したところ、加減知らずに全殺ししかねない勢ひを慌てて止めた可哀想な人、因みに当年二十一歳。その他主要どころは青姦してゐたら覗かれるどころか襲はれるカップル(男はビリング推定で藍野憲治?)と、自宅まで尾けられ犯された挙句に、尺八で良太を半分初体験させられる女。
 何となく見てみたビンテージ・ピンク、全七作とこの年最たる量産態勢を採つてゐた大井武士の、昭和57年第二作。詳細は不明なれど、浜野佐知がこの人の組に入つてゐたこともあるらしい。
 ロマポ終焉までシリーズ四作を外注するほど当たつた、片岡修二の「地下鉄連続レイプ」(昭和60)より三年先行する電車単発レイプは確かにエクストリームともいへ、下手に寄るカメラは折角の臨場感を活かし損なひ、この期にワーキャー騒ぐには至らず、あるいは当サイトも初心ではない。寧ろ地面が田圃の如くなるほどの土砂降りにも恵まれた、俊男と雄二の援護射撃も受けての良太が真弓を相手に強制的に筆を卸す締めの濡れ場の方が、正しくクライマックスの名に値し見応へある。七十年代の香りを残す、足元のショートウェスタンは非常にイカしてゐつつ、俊男と雄二の今でいふヒャッハー系ならぬ、ヒャッヒャッヒャ造形は鼻につく軽薄さが否めず、良太も良太で、まるで草臥れた椙山拳一郎のやうなショボ暮れた面相は、とてもでないが浪人生―の齢の未成年―には見えない、何浪してゐるのか知らんけど。主役は狩られるスケではなく、あくまで暴行軍団、にしては凡そ魅力に乏しい三馬鹿ながら、ホワイトカラーが用を足す公衆便所で目覚めた三人は、当時隆盛の種々雑多な竹の子族が乱舞する歩行者天国に。銘々が各々の流儀で―それでゐて最後は画一に収斂して行くのが、実に近代的ではある―何某かを賑やかに謳歌する一方、文字通り漂泊する三人は座り込む。大人達の社会からは弾き出されるだか零れ落ち、自分らと同世代の若者が集ふ空間にも居場所はない。終に居た堪れなくなつた俊男が「うるせーッ!」と絶叫して走りだし、慌てて雄二と良太が追ふ音響設計も見事なシークエンスは、絶対的な寂寥感を時代を超えて撃ち抜く。


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 「性感治療 いぢり泣く」(1996/製作:旦々舎/配給:大蔵映画/脚本・監督:山崎邦紀/撮影:河中金美・田中譲次/照明:秋山和夫・斉藤哲也/編集:酒井正次/音楽:中空龍/助監督:国沢実/制作:鈴木静夫/効果:時田滋/スチール:岡崎一隆/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東映化学/THANKS:上野スター座、世界傑作劇場、ドゥシャン・マカヴェイエフ『WRオルガニズムの神秘』《ダゲレオ出版販売ビデオ》/出演:永尾和生・栞野ありな・真央はじめ・杉本まこと・甲斐太郎・荒木太郎・吉行由実)。
 けたゝましく防犯ベル?の鳴る上野の繁華街、一見何を見せたいのか判然としないカメラが漫然と左折すると、上野スター座の看板を掠めてタイトル・イン。ex.上野スター座の上野スタームービーを取り壊した跡地に建立されたのが、昨今目出度く上映環境が刷新されたピンク映画の大本丸、一社のみならず一カテゴリーの旗艦館中の旗艦館たる上野オークラいはゆる新館。左折する手前もピンクの小屋ぽいが、これは何処なのか。上野の地理を知らないのだけれど、これが旧館?
 クレジットされるビデオを見ながらバナナを頬張る吉行由実の背景に、宇宙人の声風のモジョモジョした音効が流れる。清々しく怪しげなカットから一転、雨の旧旦々舎こと鴨居家に、永尾和生の悲鳴が木霊する。飛び込んで来るなり甲斐太郎がフルスロットル!鴨居(甲斐)が齢の離れた妻・さやか(永尾)を猛然と手篭めにする一方、白衣を脱ぎ神々しくさへあるオッパイを露にした藤圭子もとい藤冥子(吉行)は、正体不明の箱の中に入る。鴨居家では、当然そんなザマでは濡れもしないさやかを、鴨居は口汚く罵る。鴨居いはく、「どうして気持ちよくないんだ、冷えた麦飯食つてるみたいな索漠とした気分になるぢやないか」。この御仁、知性があるのかないのかよく判らない。不忍池の畔で夫婦生活を気に病み黄昏るさやかに、マオックスが声をかける。話してみませんかなるザックリし倒した切り口に、さやかは「夫と上手く行かなくて・・・・」と見ず知らずの色男に本題をケロッと打ち明ける。拙速のその先に突き抜けた遣り取りを通して、さやかは研究所勤務の倉沢(真央)に連れられ、冥子が待つ上野スター座の三階―但し内部は旧旦々舎―に。年上の頼れる人だと思ひ鴨居と結婚したにも関らず、結婚後はセックス一辺倒で不感症云々と日々罵倒される悩みをサクサク告白するさやかを、冥子は先行した謎箱「オルゴンボックス」に入るやう促す。
 配役残り栞野ありなは、治験者を探すと称して、街頭でぶらぶらナンパ師にしか見えない倉沢に、逆ナン気味に接触する三番手。杉本まことは大学を追放された冥子に今回何でまた二十年ぶりに電話して来たのかは結局語られない、象牙の塔に残つた元といふか昔カレ・橋田。荒木太郎は、オルゴンボックスで一皮剝けたさやかにわしわし捕食される俳人。忘れてた、悪徳商法で呆気なく摘発された倉沢の両脇を抱へてゐるのが、画面左から国沢実とマオックス挟んで山﨑邦紀、鉄壁の演出部動員。
 「これはオルゴンボックス、宇宙のエネルギーを集めるの」。吉行由実がたをやかな名台詞を撃ち抜く、山﨑邦紀1996年第四作、ピンク限定だと第三作。何はともあれ特筆すべきは、北川絵美明花従姉妹主演の「TOKYOオルゴン研究所」二部作(2004~2005)に先んじる、当然―ヴィルヘルム・―ライヒの名前だけでなく肖像もガンッガン劇中登場する、山﨑邦紀しか撮り得まい書き得まいオルゴニック・ピンクである点、もしかすると今作が原典となるのか。
 抑圧された性に苦しむヒロインが、オルゴン理論と出会ひ華麗かつある意味苛烈に開花する。浜野佐知の頑強なフェミニズムが主導する旦々舎王道展開に、山﨑邦紀一流の裏通りのペダンティックが加味される傍ら、ライヒ同様アカデミズムからは排斥され、諦観にも似た叡智を覗かせる冥子の周囲では、男達が俗つぽい野心を募らせる。オルゴンエネルギー満タンのさやかが、極端に口数の少ない荒木太郎に対し「声を出すんだよ」と語調も荒げるのは、かつて自身を虐げた鴨居と、何時しか同じ轍。何れも魅力的に風呂敷が拡げられながら、流石に六十分に詰め込み過ぎたか、最終的には起承転結を通り一遍畳んだに過ぎなくもない印象は否めず。そんな中目についたのは、大概な飛躍で上野オルゴン研究所に自力で辿り着いたものの、さやかにオルゴンボックスに放り込まれた鴨居が見せる、疑心暗鬼と閉所に追ひ遣られた戸惑ひの表情から、喜悦の涙を流すに至る甲斐太郎超絶のリアクション。目間距離―そんな言葉あんのかな―が堪らない主演女優のルックスや吉行由実の絶対爆乳も勿論捨て難いにせよ、剛柔両面で他の俳優部を圧倒する、甲斐太郎の地力が光る。


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