真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「樹海熟女狩り」(1998/製作・配給:大蔵映画/監督:小林悟/脚本:堀禎一/撮影:柳田友貴/照明:ICE T/編集:㈲フィルムクラフト/録音:シネキャビン/助監督:掘禎一/スチール:佐藤初太郎/タイトル:長谷川プロ/監督助手:竹洞哲也・細貝昌也/音楽:アンサンブルA/現像:東映化学㈱/出演:小川はるみ・里見瑤子・神崎紀夏・牧村耕二・河合純/客演:薩摩剣八郎・港雄一)。
 慶子(小川)と山形(牧村)の不倫の逢瀬。長い長い濡れ場の合間合間に、山形と慶子の夫(後に電話越しに聞かせる声は杉本まこと)は同じ会社に勤めてゐること、山形が会社の金を横領したこと。慶子には子供が居ること等が語られ、にも関らず、富士山の樹海側(そば)の生家に山形と一緒に逃げることを持ちかけた慶子が、次の日迎へに来て呉れる旨を約したところで漸くタイトル・イン、ここまで何と十分強。オープニング・クレジットの間も慶子はシャワーを浴び続け、何と何と開巻十二分主演女優が脱ぎつぱなし。但し、街景に被せられる会話を通し必要な情報を適宜投げる、周到な構成まで含め丁寧に編み込まれた慶子と山形の情事は些かもダレることはなく、結果論からいふと、いきなり総尺の四分の一弱を女の裸で埋め尽くす荒業は、寧ろ完璧であつたのだ、尻は壮絶に窄む。アリバイ作りの叔母か伯母相手と、息子・タカヒロにも嘘をつく。慶子の自己完結で処理する二本の電話の妙なアンニュイさで順調に躓き始めつつ、山形の運転する車が富士に入り、慶子は幼馴染・泉を想起する。泉(里見)は同じく幼馴染のトシユキ(河合)に樹海の中で犯され、その後自殺。泉の死体が発見されるとトシユキは自首、鑑別所に入る。ここで港雄一は、民宿「みはらし」を営むトシユキ父。もう一人の客演勢ゴジラの中の人で御馴染み、あるいはピンク映画界二人目のスーツアクター(久須美欽一が一人目)薩摩剣八郎は、自殺者が出たとやらで一々検問で車を止める刑事。港雄一は兎も角薩摩剣八郎が木に接いだ竹は、脛に傷持つ山形のチキンぶりへの遠い遠い伏線、とでも捉へればよいのか。
 小林悟1998全六作中第四作、といふのは兎も角、より重要であると思はれるのは小川はるみのピンク映画デビュー作である点。第二作「刺青淫婦 つるむ」(2005/監督・共同脚本:松岡邦彦)まで相当間が空くとはいふものの、その後も松岡組―と吉行組も―を主戦場に、最近作が未だ来てない以上当然未見の吉行由実2012年第二作と、何気に息が長いところは素晴らしい。元々老け気味であつたともいへるのか、結構驚くほど今と変りない。尤も、今作に関しては、声は佐々木基子のアテレコである。映画本体に話を戻すと、慶子が風呂に浸かつてゐるとポップなSE起動。泉の幽霊?が、二階に眠る山形に彼岸から夜這ひを敢行する。うわ、怪談映画かよと驚くのは些か早い。驚くには当たらないといふよりは、直截には驚いてゐるどころではない。ある意味山形を寝取られたといふのに、慶子は腹を立てもせずにアテられたのか自慰。ハレルヤもとい果てるや、「待つてたの」といふ泉との直面の直撃を受けた慶子は、慶子と泉と更に飛び込んで来た神崎紀夏も、深い森の中木に縛られる幻想を見る。だからその三人目の女は一体誰なんだよといふのが逆の意味での頂点、といふことは要は底に、相変らず雰囲気だけは変に思はせぶりながら、良くなくも悪くも崩壊は加速する。jmdbを鵜呑みにするならば、今回が少なくとも商業映画初脚本となる堀禎一が若気の至りを仕出かしたのか、それとも安定の御大仕事なのか。その辺りは映画を見てゐるだけでは判らないし、詳細な検討を試みる能力の如何以前に、意欲といふか余力も雲散霧消するほかはない。一体泉は何の為に呼び出されたのか、明けて富士二日目は怪談なんぞ本当に何処吹く風。退場した死者に代り生者が支離滅裂で、展開は完全に木端微塵に粉砕される。本当に恐ろしいのは、超常的なあれやこれやではなく、単に生きた人間である、などとする乾いたリアリズムでは恐らくあるまい。唐突な無常観が一応映画的でなくもない無体なラストまで、右往左往しかしてゐない筈なのに最終的な感触としてはそれでも何故か一直線。呆然と立ち尽くす慶子の足下、土の上で絶望的に踠(もが)くニジマスの今際の間際に、いつそ今作を前にした者の不運な姿でも重ね合はせてしまへ。

 バイザウェイ、五里霧中のファースト・カットから忘れた頃に改めて再登場する神崎紀夏は、トシユキの妻・アヤカ。

 後注< 知らなんだが、栗原良もスーツアクター出身であつた。申し訳ないけど、薩摩先生はピンク映画界三人目で。


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 「人妻女校医 保健室の不倫」(2004/製作:シネマアーク/提供:Xces Film/監督:下元哲/脚本:石川欣/企画:稲山悌二・奥田幸一/撮影:下元哲/照明:代田橋男/編集:酒井正次/助監督:高田宝重/撮影助手:海津真也/撮影応援:小山田勝治/撮影協力:梶野考/出演:出雲ちひろ・酒井あずさ・佐々木基子・しのざきさとみ・龍眞一・日比野達郎)。
 ヒロインの自己紹介で開巻、人妻の友莉子(出雲)は仕事も持つ自称“職業主婦”、それは主婦とはいはんぢやろ。夫を煩はせることなく、職場の悩みは自力で解決する主義の友莉子の稼業は何かと問ふならば、保健室の先生で御座いといふ次第のタイトル・イン、ここは正方向に洒落てゐる。鼻血癖のある金髪メッシュの男子高校生・ひろし(龍)の手当てを友莉子が済ませた保健室に、後述する由紀共々担当科目だなどと瑣末な情報は語られない鈴木先生(日比野)が現れ、因縁の仔細は軽やかにスッ飛ばし友莉子と関係を持つ。一段落、学校オーナーの娘でもある三年B組―因みにひろしはC組の劣等生―の大原ひとみ(酒井)が体調不良を訴へ休む保健室に、今度は由紀先生(佐々木)が佐々木基子一流のほくそ笑みを浮かべながら現れ、しかも同性の生徒と淫行する。掃除婦の順子(しのざき)に外様同士の風情を匂はせ接近した友莉子は、例によつて保健室で正体不明の瓶に移した酒盛り。中身は一体何なのか一口飲むや忽ち体の火照つた順子を、華麗に篭絡する。保健室保健室そして保健室、要はヤリ部屋だ。
 似た体験でいふと二作前の「高校教師 ‐引き裂かれた下着‐」(2003)の時と同様、小川隆史が若気を至らせ尽くした「社宅妻 ねつとり不倫漬け」(2009/主演:里見瑤子アテレコの小池絵美子)の、呑気な一点買ひのつもりで―プロジェク太上映の―地元駅前ロマンの敷居を跨いだところ、コンマビジョンより2012年にリリースされたDVD題「保健室の美魔女 放課後調教クラブ」の形で飛び込んで来られて、それ緊急出撃と相成つた下元哲2004年第一作。ど頭に、新東宝のカンパニー・ロゴが入る怪現象も繰り返されつつ、何はともあれ、小屋で戦へるのはいいことだ。映画本体に話を戻すと、グルッと一周されたのかm@stervision大哥は褒めておいでだが、僅かな友莉子のシャワーと、確かに下元哲にとつて定番のシークエンスではあれ相変らず唐突極まりなく放り込まれる、由紀の排泄シーン以外には、尺は微動だにしない保健室にてのひたすらな濡れ場濡れ場また濡れ場で埋め尽くされる。さういふ逆の意味で鮮やかな始終を、開巻を除けば更に束の間の、諸々の会話なりモノローグを通し最低限の内側を抉り投げた外堀―の種程度―を心許ない命綱に、無理矢理権謀術数に捻じ込んでみせた豪快な力技が炸裂するラストには、よくもまあ斯様な代物を35mmフィルムで撮つてみせたものだと、別の意味でならば感心した。尤も、一手目で既に大概なハード・ランディングに過ぎないゆゑ、無茶が文字通りの二連発で火を噴くオーラスの一寸先は闇は流石に蛇足かと思へ、かけたものの。出雲ちひろの悩ましく絞り込まれたオッパイと縄の映える腰の細さとには、他愛もない野暮は呑み込み我ながら不思議なほど素直に満足した。超強力な女優部と比べるまでもなく貧弱な男優部にさへ目を瞑れば、確かに女の裸しかない以上当然のことともいへ、誠清々しき裸映画である。いつそのこと、日比野達郎と馬の骨ぶりを爆裂させる龍眞一も削つてしまつて、百合の花のみを執拗に咲かせ続けるのも更に振り切れた一興だつたのかも。何処から見ても出雲ちひろよりも―大分―年上の酒井あずさが、堂々と女学生面して登場する箆棒なチャーミングに関しては寧ろいはゆるツッコんだら負けで、開き直つた下元哲のお茶目な悪戯心を感じ取るべきだと、俺の中では納得することにした。

 稼ぎの芳しくない不甲斐なさも詫びる、食卓越しの後姿しか見せない友莉子の夫をm@ster大哥は下元哲とされてゐるが、jmdbとDVDポスターには代田橋男とある。

 以下は再見に際しての付記< 友莉子夫の後姿は、声は知らないけど矢張り下元哲に見える


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 「どスケベ痴漢電車」(1997/製作:植木プロダクション/提供:Xces Film/監督:植木俊幸/脚本:伊藤清美/企画・原案:中田新太郎/撮影:小西泰正/照明:渡波洋行/録音:シネ・キャビン/編集:酒井正次/助監督:堀禎一/監督助手:井戸田秀行/撮影助手:高橋秀明/照明助手:小倉正彦/スチール:平賀栄樹/ヘアメイク:大塚春江/効果:東京スクリーンサービス/現像:東映化学/出演:宮内マリヤ・南条美樹・林田ちなみ・河合純・樹かず・佐藤一郎・田中一郎・石橋電子レンジ・出口入口・そのまま西・内藤陳毛・HIDEKAZU・林田義行・寺島京一・木澤雅博)。
 フレーム内をあつちこつちの方向に走る四本の普通鉄道、劇伴起動とともに、複線の路面電車を正面から捉へたショットに走る女の荒い息遣ひと、公開題の投げやりさに反して闇雲にカッコいいフォントのタイトル・インとが被さる。懸命に走つて追ひ駆けるも電車を一本逃した、女子高生の高橋美奈(宮内)は仕方なく缶ジュースで喉を潤す。角度によつては真咲紀子に見えなくもないが鮮やかなタラコ唇の、主演女優のエクセスライクが事ここに至ると最早清々しい。美奈が乗り込んだ次の電車は、ホームからの画では空いてゐたのに、いざ乗つてみると車内は結構な混雑。瑣末なツッコミはさて措き、美奈は集団痴漢を被弾。一頻り蹂躙された後(あと)拒んだ美奈の背後では、矢張り集団から痴漢される林田ちなみが、こちらは男の手を積極的に受け容れ奔放に喘いでゐた。劇中美奈が認識する以前より、後方に林田ちなみがチョイチョイ見切れる画作りは、前作に於いて既に見られた手法。美奈が朝を急いでゐたのは、校内の植物に水を遣る親友の川島麻衣子(南条)を手伝ふ為。ここで、我ながら直截にもほどがあるが、綺麗に不細工とでもしかほかに言葉の見付からない、南条美樹のファースト・カットが事実上のチェック・メイト、まだ序盤なのだが。森下英子(林田)先生の現国の時間、後ろの席の麻衣子と―授業とは全く関係ない―ノートを交換する美奈は痴漢電車の一件を報告し、二人は状況を自らが望む形に支配した英子に憧れる。放課後、彼氏・和也(樹)と落ち合ふ美奈に対し、一人ホッつき歩くブス、もとい麻衣子の前に、露出魔の癖にトランクスは履いた、画竜点睛を欠きつつその点を除けば残りはポップな造形の変態(木澤)が現れる。後(のち)に麻衣子は変態男と再会、その頃美奈はといふとホテルで和也とギシアン。陽性の青春ピンクに見せて、案外残酷な映画なのかも。美奈の情報を下に、七時三十三分の電車に乗り込んだ麻衣子が電車痴漢に開眼する一方、英子には、体育教師の佐々木(河合)が煌かない低い洗練度で言ひ寄る。
 その他配役は一部再結集した獄門党と、乗客及び生徒要員。獄門党残党の中で一際目立つ三島由紀夫似は、出口入口・そのまま西・内藤陳毛の重複する名義の中に含まれてゐるのか。
 新東宝からエクセスに鞍替へしての、植木俊幸最終第二作。jmdbの記載を真に受けるならば、今でいふと福俵満と同じく新東宝の社員プロデューサーである―で、あつた?―筈の、中田新太郎のキャリアの最後が何故(なにゆゑ)にエクセスなのか。生臭さも漂ひかねない勘繰りは兎も角、名作痴漢電車たり得た―かも知れない―第一作に匹敵するのはタイトル・インのカッコよさくらゐで、始終は大きく二つの疑問手に足を引かれる。アクティブな痴女ぶりが少女達のリスペクトを呼ぶ、といふ展開の如何にもな底の抜け具合はジャンル映画の要請に従ひ等閑視するにしても、佐々木のやうな野暮天に撃墜される英子が明らかに機能不全。深夜の校内を舞台とした、第二戦はさういふプレイに違ひないと思ひながら見てゐたし、実際さうなるのが定石といつて差し支へないのではなからうか。加へて本筋に清々しく絡まない和也の相手に言葉は悪いが煩はされてゐる間、順調に推移する麻衣子は勿論迷走する英子と比しても、主人公であるにも関らず美奈のドラマが完全に停止してしまつてゐるのは苦しい。無理矢理にでも青春映画風に物語を痴漢電車に収束してみせた―捻じ込んだともいふ―ラストは、痴漢電車が痴漢電車であることを誠実に志向した、映画自体の中身ではなく寧ろ植木俊幸自身のエモーションに曲解気味の琴線を激弾きされる。ものの、相変らず“最も美人な三番手”街道を驀進する林田ちなみをも擁してゐながら、なほ総合的なポテンシャルは落とした三本柱が美奈のドラマの停止に劣るとも勝らず如何せん厳しい。二作限りとはいへその二本で斯くも見事に続けられては、植木俊幸には悲運のピンク監督の称号を冠するべきなのか、あるいはそんなに負け戦を戦ふのが好きなのか。


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 「集団痴漢電車 私服の獲物、制服の餌食」(1996/製作・配給:新東宝映画/監督:植木俊幸/脚本:緑萬太郎/監督補:国沢実/製作:中田新太郎/撮影:村川聡/照明:渡波洋行/録音:大友洋二/編集:酒井正次/助監督:西海謙一郎/撮影助手:飯岡聖英・小宮由紀夫/照明助手:那雲哉治/録音助手:岩橋哲夫/ポスター撮影:佐藤初太郎/現場スチール:平賀栄樹/メイク:大塚春江/監督助手:飯塚忠章/録音所:シネ・キャビン/効果:中村幸男/音楽:東京BGM/現像:東映化学/タイトル:道川昭/フィルム:富士フィルム/タイミング:安斉公一/応援:西田正敏《シネマサプライ》/出演:鈴木まりか・秋山さおり・森川絵美・竹本泰史・斉藤攻・観念絵夢・太田始・林田義行・生方哲・小林京子・道本優里香、中点置いて伊藤清美/獄門党:マンゴス吉田・七四野権兵得・藤山缶ビール・汗体臭・出口入口・玉ネギサラリーマン・そのまま西・内藤陳毛・ガラモンしげ)。実際のビリングは、竹本泰史と斉藤攻の間に獄門党を挿む。
 赤信号に焦れる女子高生・めぐみ(鈴木)がゲーセンに飛び込むと、お目当てのプリクラには先客(太田始と三本柱よりも美人の道本優里香)が。一ヶ月ぶりに連絡のついたみつる君(竹本)とこれから会ふめぐみの、タイトル後明らかとなるプリクラを撮る目的はプレゼントに貼る用。どんなアングルと表情にしたものかあれこれ逡巡するめぐみが、右耳を出してみたところでみつるとのセクロス回想。みつるに探し当てられためぐみの性感帯は、耳たぶにあつた。これは秋山さおりと森川絵美にも共通する特徴として、容姿は中の上から下―鈴木まりかが中の中、後述するこずえ役が上でりりこは下―ながら、ムチムチした首から下は何れも訴求力の高い肢体を、ここではいはゆる主観カメラも駆使しタップリと堪能させつつ、そんなこんなでプリクラ撮影。今度は踏切に捕まつためぐみを画面奥に、下りて来た遮断棹にタイトルが提げてある、痴漢電車史上空前に洒落たタイトル・イン。路面電車に乗り込み、みつるに渡す誕生日の贈り物にプリクラを貼つたまではよかつたが、周囲を四人の男(獄門党の皆さん)に囲まれためぐみは、集団痴漢の餌食となる。基本ロー・アングルで攻めるめぐみ戦は、その分主演女優のルックスの心許なさが減殺されるサブ・エフェクト込みで、今作随一の破壊力を誇る。体に火を点けられためぐみは、ついつい四人組の後を追ひ駆ける。一方、待ち惚けを喰はされた格好のみつるはカルシウムが不足した様子で御立腹。どうやらめぐみに別れ話を切り出す予定であつたらしく、新しい女ポジションに調達されたりりこは、そんなみつるに呆れ姿を消す。腹の虫が納まらないみつるは、こずえに連絡を取る。ところで、りりことこずえのどちらが秋山さおりで消去法から森川絵美なのかといふのは結局解けない問題なのだが、役の重さを勘案するにビリング推定で、りりこが二番手ではないかと思はれる。こずえもこずえで、集団痴漢の獲物にされる。その現場に潜り込んだめぐみは、国沢実の鞄に二枚目のプリクラを貼りつける。獄門党総勢九人の中に、国沢実に相当する名義があるのかないのかはベトコンなりサイコが見当たらない故、いふまでもなく不明。
 jmdbをブラブラしてゐて辿り着いた謎の監督・植木俊幸の第一作、翌年の第二作はエクセスなのに、企画と原案が矢張り中田新太郎である越境が最大のミステリー。さて措き今作単体に話を戻すと、何はともあれ、抑へ気味のトーンで派手なプレイを押さへる電車痴漢シークエンスが素直に見所。制服の餌食も私服の獲物も首から上―とお芝居―は物足りない反面、補つて若干余りある体の綺麗な女を揃へた布陣は即物的な裸映画としてはひとまづ十全。物語的には、みつるを当初は何もしないかに思はせた基点に、三人の女が集団痴漢電車の縦糸に繋がる構成は、素面といふ意味での裸の劇映画的にも徐々に充実する。二度目の制服の餌食、初めから耳たぶが性感帯であることを知つてゐたキスは、もう少し深く掘り下げろよと勿体ない気持ちを残さぬでもないが、決して寄らないロングが映えるラスト・シーンは淡々とした上でなほかつ鮮烈。確かな手応へで撃ち抜かれた映画力に、ハッと胸を打たれる。加へて忘れてならないのは、その“心が体に追ひ着く”ラストに辿り着く為には、痴漢電車を必須とする作劇が狂ほしいほどに超絶。これでもう少し女優部に恵まれてさへゐれば、画期的にカッコいいタイトル・イン含めて、名作痴漢電車の一作と語り継がれてゐてもおかしくなかつたのではあるまいか。量産型娯楽映画のある意味宿命とはいへ、数打たれた下手な鉄砲の山に埋まらせておくには、些かかあまりにも―どつちなんだよ―惜しい一作である。
 もう一点特筆すべきは、めぐみにもこずえにもスッぽかされ荒れるみつると、めぐみが結果的に偶然遭遇する件。手洗ひの個室で無理矢理吹かせられた尺八から、気が付くとラブホに移動してゐる驚愕のジャンプ・カットには眩惑必至。その手が、といふかそんな荒業があつたのかと、グルッと一周して感心した。常識的な是非でいふと、多分ナシ、絶対かも。

 獄門党は兎も角として、その他残りの配役は、こずえのファースト・カットでしつこく食下がるナンパ師以外には、概ね乗客要員か。それにしても、伊藤清美が一体何処に見切れてた?


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 「新妻痴漢 たまらず求めて」(1999/製作:関根プロダクション/配給:大蔵映画/監督:片山圭太/脚本:金泥駒/プロデューサー:関根和美/撮影監督:中本憲政/助監督:城定秀夫/編集:《有》フィルムクラフト/撮影助手:西村友宏・宇賀谷友織/スチール:佐藤初太郎/監督助手:寺嶋亮/音楽:ザ・リハビリテーションズ/録音:シネキャビン/効果:東京スクリーンサービス/現像:東映化学/出演:麻丘珠里・村上ゆう・麻生みゅう・山内健嗣・銀治・熊本輝生・飯島大介/友情出演:新沼正興・東海林毅・堀禎一・佐藤敦・藤本貴志・亀谷英司)。脚本の金泥駒は、小松公典の変名。
 朝の仁科家、正体不明の鼻歌とともに「よしバッチリだ」と味噌汁の味に満足する新妻の恵里(麻丘)に、夫・誠一(山内)が背後から手を出しての夫婦生活。イクのと同時にオーブンがトーストを吐き出す、のは単なる牧歌的なクリシェではなく、「ブレッド・アンド・味噌汁」と絶句する誠一に対し、恵里は「お米切らしちやつたのゴメン」と今風にいへばテヘペロ。小松商事―そこは関根物産ぢやないのかよ―新米課長の誠一を恵里が送り出してタイトル・イン。同じ料理教室に通ふ年長で独身の友人・啓子(村上)の顔見せ挿んで、帰宅した恵里が買物を確認してゐると、買つた覚えのないCDが、恵里には万引き癖があつた。するとチャイムが鳴り、出てみたものの誰も居ず、但し玄関先に置かれた封筒の中には恵里の万引き現場を押さへた写真が入つてゐた。更にかゝつて来た電話に恵里が出ると、謎の男が「よく撮れてるだらう」と嘯く。その夜の求めは恵里が拒み、誠一は機嫌が悪い翌朝。郵便受けから着信音がするので何事かと思へば、謎の男が仕込んだ携帯電話。午後一時新宿南口に呼び出された恵里は、ガード下にて通りがかる三人目の男にキスすることを皮切りに、携帯からの非情な指令のままに数々の羞恥行為を強ひられる。
 通常出演者残り、登場順に熊本輝生は謎氏が送りつけたセクシー下着を、その場で着替へさせられる恵里に目を丸くするイケメン配達員。佐賀照彦が佐賀出身であるやうに、この人はもしかして熊本生まれなのか?何処の言葉か判らない怪体な方言を駆使する銀治は、恵里が尺八を吹かせられるニッカポッカ・洋平。麻生みゅうは洋平との一件を経た恵里が泣きつく、大学の同級生・唯。相談がてら百合の花を咲かせるのは大概強引な三番手処理法かとも呆れかけたが、神出鬼没な謎氏の神の視点頼りの力技で、最終的に上手く捻じ込んでみせた点には最初に感心した。友情勢は計四名のガード下の三人目組、熊本輝生の前で履かされたパンティを、今度は歩道橋で脱がされる際の男に、怒涛の即物的な煽情性が火を噴く電話ボックスパイ押しつけと、公衆便所オナニー二連発にそれぞれ仰天する禍福者。となると全部で七人となり、名前がひとつ足らない。どちらが三人目なのか恵里がパニックになるスーツ二人連れの内、背の低い方が城定秀夫にも見えつつ、画面が暗い上にそこでその男の顔を明確に抜くことは本義でもなく、詰め切れなかつた。
 デビュー作から五ヶ月後の片山圭太第二作は、四年後に師匠の関根和美が、大体同じやうな話ではあれど下手に色気を出し派手に仕出かしたことを想起するなり比べずとも、綺麗によく出来たダーク系エロ映画。m@stervision大哥は荷が重いと難じておいでで、確かに口跡は清々しいほどに真直ぐな棒だが、上手く切り取つた表情は展開の推移に素直に即す。とりわけ、恵里が自身の愛液の味に違ひを覚える件は手数自体が出色。終盤に至るまで消化されないゆゑ、下手に放り込まれると映画を壊すぞと本気で心配した村上ゆうの濡れ場も、クライマックスのエクストリームの渦に無理なく回収。山内健嗣がやさぐれたナイーブで受ける無体なエピローグも含めて、恵里が次第に“成長”―因みに、「マイケルジャクソンの真実」は2003年―して行く物語は見事に花開く。残念ながら僅か三作限りの片山圭太の中で、最高傑作はと問はれるならば当サイトは今作を推すものである。


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 「女のイク瞬間《とき》 覗かれた痴態」(1999/製作:関根プロダクション/配給:大蔵映画/脚本・監督:片山圭太/プロデューサー:関根和美/撮影:柳田友貴/照明:秋山和夫/録音:シネキャビン/編集:金子尚樹/助監督:竹洞哲也/監督助手:城定秀夫・本間英治/撮影助手:早川由紀子/スチール:佐藤初太郎/現像:東映化学/効果:東京スクリーンサービス/協力:浜口高寿/出演:岡田謙一郎・奈賀毬子[新人]・七月もみじ・風間今日子・浅倉麗・やまきよ[友情出演]・竹本泰史・吉田祐健・石川雄也・飯島大介[特別出演])。
 製作の関根プロダクションに続き、“片山圭太第一回監督作品”。喫茶店のオープンテラスで、吉田祐健と岡田謙一郎が待ち合はせる。祐健は遅れて来た岡謙に対し、「随分待たせて呉れるぢやないの、木村ちやんよ」。舌を巻き巻きの祐健と、寡黙な岡謙のツー・ショットがそれだけで堪らん。かういふ物言ひは決して好むものではないのだが、この豊潤な空気は、喪はれて久しいレガシーではある。木村功二(岡田)が無言のまま祐健にVHSテープを差し出すと夜景、店の形態を示す文言が見えない風俗店?「USA」の手洗ひ個室に、バニーガール(浅倉)が入る盗撮映像。機材を触る木村の、目のアップに被せてタイトル・イン。ウサギさんの衣装といふのは全部脱がないと用も足せないのか、浅倉麗は一言も発することなく一幕を通り過ぎる純然たる四番手裸要員。結論を先走ると、この点に関しては台詞とドラマの有無に多少の違ひがあるだけで、要は二番手も三番手も変らない。祐健いはくかつては一流企業の芝蔵電機に勤めてゐたといふ過去が投げられつつ、木村は今は盗撮ビデオをヤクザに流し生計を立ててゐた。繁華街にて、元部下・松本友香(奈賀)の正直清々しく似合はないOL姿に木村は目を留める。芝蔵電機時代、インターネットの倍以上のスピードで大量の映像データの遣り取りを可能とする、エスネットとやらの開発に木村は携はつてゐた。日曜出勤の木村にお弁当を持つて来て呉れた友香は、そこはかとなくいい雰囲気を匂はせる。俄に起動した木村は、友香の自宅に侵入、商売ではなく純粋に不純な下心で大量の盗聴器を仕掛ける。ここで躓くとその先に話が進みはしないものの、この時点で木村と友香の純愛物語は壊れてゐるやうな気が冷静にはせぬでもない。何事かトラブルを抱へてゐるらしき友香が、部屋に押しかけた竹本泰史に強姦される現場を、自宅でモニタリングしながら歯噛みするばかりで何も出来なかつた木村は、偶々盗撮網に引つかゝつたアミ(風間)との火遊びの証拠を出汁に、恐妻家を窺はせる祐健に竹本泰史の素性調査を依頼といふか脅迫する。友香を犯した男の正体は、一介のエンジニアから情報通信システムの新機軸を生み出し一躍時代の寵児に躍り出た、芝蔵電機のライバル企業「辻エレクトロニクス」の開発部長・林達夫であつた。
 配役残り登場順に、友情に基き出演はすれど声はアテレコのやまきよは、下戸の癖に木村が入る―俺も人のことはいへないが―飲み屋のマスター。この人は特別出演の飯島大介は、芝蔵電機の木村上司。友情出演と特別出演を別枠にする意味が判らない、アフレコに参加しない・するではあるまいな。七月もみじは、やまきよの店で適当に捕まへた客が、たとへ前後不覚に泥酔してゐようとも仕事は一通り済ます律儀な商売女。石川雄也は、木村の自宅を荒らし本人も襲撃する、二人組の林の手の者。辻エレクトロニクス開発部員四名と、石川雄也の連れは不明。それと開発部、手前二名は千歩譲るにせよ、どうして部長の机にPCがないのか。
 ずつと観たい観たいと望んでゐたので、DMM視聴でも見ることが叶ひ本当に嬉しかった、改めて片山圭太処女作。夢の新技術を巡る情報漏洩事件を軸に、盗撮のプロとして世を忍ぶ男の失地回復と、元部下との恋愛模様を描く。木村が友香に得意気に語る、エスネット―そのエスは関根ネットのSなのか?(´・ω・`)―の“スピードはインターネットの倍以上”といふのは、単なる回線の問題でしかないやうな素朴な疑問は兎も角、“大量の映像データを入手することが可能になる”特質ないしは目的は時代のニーズを先取りしたものともいへ、ひとまづは初陣らしい意欲的な筋立てである。とはいへ、女の裸にも否応なく尺を削られる―念のためお断りしておくと、断じてそのことを難じてゐる訳ではない―ピンク映画の一時間の中では、直截に拡げた風呂敷が大き過ぎた。岡謙×祐健、岡謙×飯島大介の濡れ場に非ざる絡みは何はともあれそれ単体でも味はひ深く魅させる反面、友香の木村に対する弁明はまるで弁明になつてをらず、和解した二人が終に結ばれるクライマックスも、段取り以外の何物でもない。岡田謙一郎が渋く絞りだす、「エスネットだよ、完成してたんだ」なる折角の決め台詞が、性急を通り越し粗雑な展開の中では木に竹すら継ぎ損ね、竹本泰史に至つてはガッチャガチャに扱はれる殆ど被害者だ。申し訳ないけれども、本筋の進行に概ね関らない七月もみじのパートは、もつと他に描くべきシークエンスが幾らでもあつたらうにと思はざるを得ない。余程高密度に完成した脚本を、全篇を全速力で駆け抜けた場合の新田栄か、高速の情報戦を十八番とする友松直之にでも渡さない限り、六十分には些かならず余る空回りであつた。但し、劇中四度目のオープンテラスで締めるラスト・シーンは、映画的な画作り含めて非常に悪くなく、空中分解寸前の始終を、すんでのところで爽やかに締め括る。

 中村拓(現:中村拓武)のことは話もややこしくなりかねないゆゑ一旦措いておくとして、片山圭太といひ寺嶋亮といひ、関根和美の下から巣立つた二人がともに目下とんと沙汰が無いのは、重ね重ね寂しい限りである。因みに上田良津に関しては、デビューは関根プロダクションではない。


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 「SEXカウンセラー 変態ゑぐり療法」(2012/製作:フリーク・アウト/提供:オーピー映画/監督:国沢☆実/脚本:内藤忠司/撮影:佐久間栄一/編集:有馬潜/音楽:與語一平/助監督:江尻大/監督助手:菊嶌稔章/撮影助手:下垣外純・佐藤光/監督助手:菊島稔章/録音シネキャビン/スチール:本田あきら/効果:梅沢身知子/現像:東映ラボ・テック/協力:佐々木麻由子・小鷹裕/出演:杉山えりな・伊沢涼子・水井真希・岡田智宏・八納隆弘・村田頼俊・夏山あつし)。
 街を見下ろす女医の背中と、然程どころでもなく鋭さも煌きも感じさせない目元を抜いてタイトル・イン。推定専業主婦の田川香織(伊沢)が胡瓜を千切りする手を止め、SEX専門のカウンセラー・秋津凌(杉山)が村田頼俊アナウンサーのインタビューを受けるテレビ番組に目を留める。しばしばミイラ取りがミイラになりかねない、カウンセラーのためのカウンセラーの存在に関して凌は一般論的には認めながら、自身の問題としては大学時代の恩師・藤原俊之の名前を挙げかけて言ひ淀む。夫婦生活の御無沙汰の相談に訪れた香織に、凌が与へたアドバイスはセクシー衣装による刺激。大概適当だなオイといふ疑問は、話が先に進まないゆゑ一旦呑み込む。最終的には、呑む呑まぬに関らず、何れにせよ満足に進みはしなかつたのだが。閑話休題、とはいへ、「三丁目の夕日」に於ける吉岡秀隆みたいなビジュアルが面白い、家に仕事を持ち帰る建築会社現場主任の夫・耕平(岡田)は、扇情的かつポップに迫る香織を気味悪がりこそすれ凡そ満足に取り合はない。再びそのことを面白可笑しく訴へる―悩みを抱へてゐるやうには全く見えない―香織二回目のカウンセリングを終へ、アテられたのか催した凌は、常連らしき出張ホスト店からヒロキ(八納)を呼ぶ。八納隆弘は八納隆弘で、まづ目元から抜くファースト・カットに、だから一体何の意味があるのだ。階段踊り場での二人の情事は、カメラに捉へられてゐた。ことを、仕掛けられたカメラを押さへる前に、キネコによる事後ショットで悟らせる手法は、ビデオ撮影の場合であつてもエフェクトのかけ具合によつては果たして可能なのか、Vシネは専門外につき知らん。カウンセリングの合間合間に、凌は藤原(夏山)の下を訪ねる。ここで水井真希は、心理学を志望する女子高生でPCが苦手な藤原を手助けする文字通りの助手・沖本亜美。凌は恩師宅を辞退する際に、USBメモリーを置いて行く。大学時代、凌は藤原と不倫関係に陥り、その結果藤原の妻が自殺する。以来、凌は人を愛することを捨て、藤原は男性機能を失つた。
 国沢実の2012年第二作は、変則ロードムービーの前作で久方振りに持ち直したのも儚い束の間、多分にネガティブな問題作。序盤から順調に、これは演者ではなく演出家の問題かとも思はれる―寧ろ伊沢涼子には何の罪もない―が、扇子一本でで巧みに蕎麦を喰ふ、噺家の仕種の如き至芸を披露しコメディエンヌとして軽やかに羽ばたく伊沢涼子と、徒に思はせぶりな―だけの―主演女優とが清々しく噛み合はない。トーンの安定しない一作は、ほぼ厳密な三幕芝居。適宜田川家の模様を差し挿みつつ、雑居ビル三階の「アキツ・カウンセリングルーム」と藤原邸とを行つたり来たり。行つたり来たりを繰り返すばかりで特にも何も物語らしい物語が進行しないまゝ、凌は田川夫妻相手に巴戦に突入し、男としては役に立たない以上、女として亜美から責められる藤原が黒い涙を流して終り。終りといふか、終つたのか始まつてもゐないのかは兎も角、兎にも角にもデフォルトの六十分は満了する、否してしまつた。相も変らずの節穴を臆面もなくひけらかしてのけるが、正直にいふと今回国沢実が何をしたかつたのかサッパリ判らなかつた。凌が人を愛することを捨てただのと言ひ出した際には肝を冷やしたものの、幸にも国沢実特異もといお得意の、映画が暗黒面に堕ちることは最低限回避する。但しそれはあくまで、ゼロからマイナスにはならなかつたといふ幸は幸でも、不幸中の幸に過ぎない。近作池島組では危惧させたオーバー・ウェイトを絶妙に適正な領域に絞り込んで来た、伊沢涼子が先頭に立ち牽引する濡れ場は質・量とも概ね申し分ない反面、裸映画と割り切るには、ラックか物の弾みで時に渡邊元嗣をも凌駕せん勢ひのアイドル映画に滑り込まない場合、要は基本的に国沢実の映画は抜けが悪い。かてて加へてまるで進まないお話の中身がてんで見えて来ないとあつては、正しく万事休す。理解出来ない以上、是も非もあつたものではない、おとなしく匙を投げる。


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 「女医と患者 秘め事診察」(2000『女医《秘》診察室 人に言へない性癖』の2008年旧作改題版/製作:ワイワン企画/提供:Xces Film/脚本・編集・監督:遠軽太朗/企画:稲山悌二/プロデューサー:戸川八郎/撮影・照明:鷹野聖一郎・相模昌弘、他一名/助監督:児玉成彦・筒井茂太/音楽:駿下真実/ヘア・メイク:三岡恵美子/タイトル:道川昭/ネガ編集:フィルムクラフト/出演:高橋裕香・里見瑤子・今井恭子・辻親八・小林節彦・真央はじめ・CHIKA、他二名・遠軽太朗・山口文明)。容赦ない高速クレジットに屈する。出演者中、CHIKAから遠軽太朗までは本篇クレジットのみで、逆に山口文明がポスターのみ。
 高橋裕香にムードの欠如を詰られた真央はじめが、ムードの欠片もないテクノを鳴らし性急過ぎるタイトルとクレジット・イン、二拍でスタッフを片付けるのはあんまりだ。事後、翌日から新しい勤務先に入る準備に余念のない吉沢里美(高橋)を、一応恋人の藤井克彦(真央)は揶揄する。病院院長の御曹司である藤井の立場が安泰な一方、最終的には大学病院での心療内科医を目指す里美は、上昇志向に囚はれてゐた。そんなこんなで城北医大の浜野センセイに紹介された「猪熊こころよろず相談」に辿り着いてみたところ、算盤教室でもあるまいに思ひきり普通の民家に手書きの適当な看板を掲げた安普請に、里美は意表を突かれる。才能はあるのと同時に変り者らしい猪熊末吉(辻)のファースト・カット、如何にも赤ひげ然と白衣を引つかけた辻親八の傍ら、診察を終へ送り出される無言の女装子は遠軽太朗。出演者中他二名も、待合室の患者要員。適当に挨拶を済ませると、エリザベスが暴れてゐる―エリザベスはしかも犬―といふので、猪熊は次第を看護婦の沢村(CHIKA)に任せ慌ただしく出て行く。ここで何故そのやうな名義にしたのかは見当つかないが、CHIKAとは相沢知美。沢村からカルテを渡された里美は、仕方なく公認会計士の磐田堅一(小林)をいきなり一人で診察することに。
 改めて後述するが、今回小林節彦が絶好調。当たつてゐるのか出鱈目なのか、里美の下着の色が黒であると詳細に指摘するまでは平静であつた磐田が、出し抜けに里美をお仕置きする母親に設定した妄想に突入するや、実は履いてゐたオムツを露に一人で悶え狂ふ。そのまま自己完結しオムツの中に出し尽くしたかと思ふと、シレッと我に帰つた磐田が平然と投げる抱腹絶倒の名ならぬ迷台詞「先生わたくし、放尿してしまひました」。わはははは!低目のコントロールに長けた小林節彦が、浮き足立つたシークエンスでも頑丈に固定する様が絶品、激しく笑かされた。
 配役残り、今井恭子はバリッバリの職業婦人である反面、仕事上のストレスからヒステリー性解離症状を患ふ桜田百合絵。強い女を自任する主人格から、対照的に男に隷属的なサクラと、露出狂のナオミのキャラクターとをたて続けに発現する。今井恭子に無理をいふやうだが、百合絵とサクラのドラスティックな落差までは兎も角、サクラとナオミの間には殆ど違ひがない。サクラだかナオミから求められるまま、要は患者とセックスする診療行為を問題視する里美に対し、猪熊は病気を診るのではなく、病人を見ることを説く。それで方便になつてゐるのかゐないのか、細かいことは気にするな。大きな役なのに本篇クレジットから豪快さんに抜け落ちる山口文明は、水着グラビアを見せられただけで嘔吐してしまふほどの女性恐怖と、さうなると当然インポテンツにショボ暮れるプログラマー・早瀬正太郎。基本的に対人能力に欠き、何時も昼食が便所には行かないまでも公園飯の早瀬は、ある日女子高生の杉本りりか(里見)に捕獲される。援助交際で得た金を持て余すりりかは気紛れで早瀬を逆に買ひ、りりかに手酷く扱はれた結果、憐れ早瀬は心を折られてしまつたものだつた。
 遠軽太朗第五作は、ガッチガチに野心を燃やす功利的な女医が、型破りな町医者と曲者揃ひの患者達との出会ひを通し次第に人肌の医療に目覚めて行く、定番過ぎて平板なほどの下町人情譚。尤も、当サイトのピンク映画観としては、目下青春Hで露命を繋ぐ、アートだか作家主義だか知らないが、平然と濡れ場をノルマごなしで済ませた上に、気取つた雰囲気ばかりで箸にも棒にもかゝらぬ噴飯作を量産して来た。十把一絡げにするところの国映系よりは、百歩譲つて段取り作劇の組み合はせに過ぎないにせよ、遠軽太朗の方が職業作家として百倍誠実であるのではないかと、蛮勇も顧みず称揚を試みるものである。尤も尤も、小賢しい国映映画も小癪な映画が好きな小憎らしい連中に向けて作られてあるとするならば、それを寄こされた小屋の迷惑さへさて措けば、その限りに於いては傍から憎まれ口を挿むのも如何なものかといふ話で、そもそもレジェンドに最終避難場所を持つ国映系以前に、当の遠軽太朗が翌年の「喪服妻の不貞 ‐乱れた黒髪‐」(主演:篠宮麗子)を最後に、同年Vシネがもう一本あるとはいへ沈黙を守るだか強ひられてゐる現況は、重ね重ね残念無念とでもしか言葉がない。さういふ、これ以上無駄に敵を増やす繰言はこのくらゐにして―もう遅い―今作に話を戻すと、何はともあれ、パキッとした利発な容姿の高橋裕香が、女医に無理なく見えるエクセスライクが珍しく生んだ奇跡が勝因の第一。展開的には、他の二者と比べた場合絡みだけ見せると後は御役御免の、百合絵の去就には不均衡を覚えなくもない。りりかに粉砕された早瀬に漸く温かい南風が吹く最終盤も、趣向は全く酌めるものの手数自体は必ずしも十全ではない。対して、直前の磐田第二戦が事実上のクライマックス。例によつて手前勝手に喜悦する仕方のない磐田を、絶妙に突き放した風情で頬杖をつき見守つてゐた里美が最後に発した何気ない一言に、磐田からスッと憑きものが落ちる瞬間が素晴らしい。小林節彦の円熟が何気なく叩き込む完璧に、薄汚れた小屋の暗がりの中些かの誇張でなくハッと胸を打たれた。ワン・カットで十分だ、よしんば全体的には他愛ない裸映画であつたとしても確かにそこにある映画的興奮こそが、他の何物にも替へ難い宝石であると思へる。


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 「ミニスカ警備員 濡れる太股」(1998/製作:ワイ・ワン企画/提供:Xces Film/脚本・監督:遠軽太朗/企画:稲山悌二/プロデューサー:戸川八郎/撮影:鷹野聖一郎・相模昌宏/照明:宮崎輝夫・源田哲也/助監督:増尾鯉太郎・山田卓/スチール:菊地康陽/編集:フィルムクラフト/録音:シネキャビン/音楽:駿下真実/現像:東映化学/出演:神崎紀夏・相沢知美・村上ゆう・樹かず・小林節彦・平賀勘一・真央はじめ)。
 後述する、壊滅的な劣勢の一時的回避を図つた苦し紛れの奇策か、魚眼な開巻。左右に部下の相沢知美と樹かずを従へた神崎紀夏が、小林節彦に激しく噛みつく。零細警備会社「巌警備社」の警備員にして、舞台となる当該雑居ビル警備隊隊長の荒崎つかさ(神崎)は、社長の多分大杉(小林)発案の、ミニスカに網タイツといふ破廉恥な新制服に異を唱へる。大杉は定期巡回を方便につかさと星野ユーイチ(樹)を人払ひ、前職はキャバ嬢であるカワイメグミ(相沢)と警備室に二人きりになると、男勝りのつかさをヒイヒイいはせる妄想をのんべんだらりと膨らませる。騎乗位の体位で身を起こした、神崎紀夏の裸身右にタイトル・イン。大杉とメグミの援助交際をタップリと消化、一仕事終へたつかさから、荒崎・星野両名が休憩に入る旨の無線連絡が入る。ヘトヘトに果てた大杉の、自他双方向に向けられたお疲れ様が地味に秀逸。つかさと星野は公園で一休み、つかさの父親が殉職したガードマンであること、今でも忘れてゐないつかさ考案のオリジナル・モールスも持ち出し、子供の頃から警備員ごつこをして遊んでゐた星野は年下の幼馴染であることとが語られる。仕事に戻るつかさを、木陰から真央はじめがロック・オン。しばしば色男役も宛がはれるが、矢張り真央はじめ(a.k.a.真央元)には偏執的なキャラクターが最も似合ふ。警備室のシャワーを浴びるつかさが何者かに覗かれる一幕経て、再び公園にて空手の練習中、つかさは出合頭に誤つて突く形で宅野ヒロマサ(真央)と交錯する。スーツ姿の宅野が落とした手荷物の中に、AV雑誌とナイフが含まれてゐたことをつかさは見逃さなかつた。
 平賀勘一と村上ゆうは、巡回中にメグミが深夜のオフィス・ラブを目撃し、遅れてその場に現れたつかさも引き込む「鮒田書籍販売」―船田か舟田かも―社長の鮒田(推定第一候補)と、女子社員の豊村ヨーコ。二人揃つて、エス・エム両面オッケーな、鮒田いはくSとMバイリンガルでセックス帰国子女、何だそれ。いい湯加減の下らなさは兎も角、ヨーコが社内で強姦される事件が発生。何故か小林節彦は相沢知美戦後退場したきり現場の警備隊は激震に見舞はれ、つかさは単独で宅野の尾行を開始する。
 どうせ、エクセスから適当に押しつけられた御題に過ぎないのであらうが、最終的にはミニスカ警備服が展開の中で特に重要どころか有効に機能を果たす訳でもない、遠軽太朗1998年第二作にしてピンク映画第四作。何はともあれ逆の意味で画期的なのが、久し振りにお目にかゝつた水準のエクセスライクが迸る主演女優。とりあへず若くはあることと、首から下はそこそこ綺麗な体をしてゐる分それでもまだマシな方かもとこの際観念するのが消極的な得策なのか、まあ見るもむz・・もといものの見事に珍妙な面相のヒロインである。斜めから捉へるのが普通に見える奇跡のベスト・アングル、正面からだと苦笑するほかはない冗談で、絡みの最中下手に煽ればピンク映画なのにホラーばりの戦慄が走る。但し遠軽太朗は負け戦を投げることなく、それなりに誠実に戦つてみせた点は非常に好印象。「鮒田書籍販売」は堅気面した陰では裏本・裏ビデオを扱つてをり、元々はそのモデル出身といふヨーコの、これ見よがしに涙ながらのレイプ被害証言パート。一応目出し帽で顔を隠してゐるとはいへ、レイプ魔ンが思ひきり平賀勘一にしか見えない―目元を抜くショットなどは、寧ろ顕示的ですらある―自堕落さには一旦頭を抱へながらも、さうなるとそもそもミス・リーディングの用に供する目的の薄れて来ざるを得ない、宅野に関するオチは真央はじめの素直に変態的な好演にも加速され、失速しかけた映画を再起動。星野がつかさに向ける、姉属性にも似た恋心といふ主モチーフが中盤一頻り忘れ去られるのは何気に惜しい反面、序盤で発射した魚雷が的確に命中するクライマックスは、伏線予測の範疇を半歩も出るものではないにせよ、矢張り鉄板。予想通りの定石を丁寧に形にした美しい安定感、量産型娯楽映画のひとつのあるべき姿とは、さういふものではなからうかと常々思ふ。新奇な―だけの―ものを殊更に有難がる心性は、能動的ではない小生の貧しい理解の外にある。主演女優は首から上がギャグマンガで、村上ゆうは初めから平賀勘一とセットでへべれけな造形。ところが諦めるのはまだ早い、始終の霧散を防ぐ要に相沢知美を据ゑる戦略が今作最大の勝因。ヨーコ強姦事件の推移を事実上舵取りする要職に加へ、超絶に素晴らしいのが大分遡つてヨーコV.S.鮒田戦。当初女王様プレイで幕を開きつつ、責め受けが逆転する変化の大きな境目に、呆れて立ち去らうとするつかさをメグミが引き留めるワン・カットを挿む猛烈にスマートな繋ぎには全力で感動した。不細工のウインクで締める破れかぶれなラスト・ショットに関しては、いつそ見なかつたことにしてしまへ。


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 「どスケベ温泉旅館 昇天《イキ》くらべ」(1996/製作:ワイ・ワン企画/提供:Xces Film/脚本・監督:遠軽太朗/プロデューサー:戸川八郎/撮影:鷹野聖一郎・相模昌宏/照明:原信之介・斉田勇志/助監督:児玉成彦/進行:米村和絵/スチール:菊地康陽/録音:㈱ニューメグロスタジオ/効果:協立音響/音楽:駿下真実/編集:㈲フィルムクラフト/現像:東映化学/出演:藤森ゆみ・桃井良子・本城未織・林信宏・泉堅太郎・福井紳壹《協力 時来組》・米村和絵)。
 裏通りを走る小林節彦、詐欺師の望田隆史が逃げる。ところで主役なのに望田役の小林節彦はクレジットから抜けてゐるのだが、だからどうしたらかういふ豪快なお留守が平然と起こるのか。喫茶店「ミロンガ」にて、望田は弟子で色事専門の諸星錠一朗(林)と落ち合ふ。カモにした相手がマムシの坂上と筋者の間で恐れられる、金竜会の坂上の女(二人とも登場はせず)であつたことから東京に居られなくなつた望田は、かつて諸星が一仕事した大滝・七滝温泉―設定上は穴猿温泉―の温泉宿を教へて貰ひ雲隠れすることに。裕福な人間しか狙はない、逆からいへば貧しき者は騙さない人情肌の―何だそれ―望田を、てんで節操のない諸星は嘲笑する。諸星が誑し込んだ、未亡人若女将・園井美鈴(藤森)の湯に浸かる艶やかな背中を抜いてタイトル・イン。諸星の回想の形でそのまま突入する、藤森ゆみと林信宏の両義的な濡れ場でタップリ尺を消化した上で、温泉民宿「大時」。彼氏の佐山恭司(福井)を振り回し居丈高に戻つて来た温泉マニアの女子大生・三池さやか(桃井)を、仲居のソノエ(米村)が出迎へる。前作の衣裳から―制作―進行といふのは出世したことになるのか否かはよく判らないが、今回米村和絵には、オーラス間際まで台詞も出番も潤沢に与へられる。続いて予約も入れずに飛び込んだ望田を、さやかは直本賞を受賞した作家の小杉平八(も、小林節彦)と見間違ふ。見紛ふも何もない、二役であるといふのはいはない相談だ。宿帳の記入を求め訪れた美鈴に、小杉平八ではないかと水を向けられた望田は、話に乗り小杉を騙ることに。プロらしからぬ場当たり的な対応に自己嫌悪に陥る望田は、坂上の女から巻き上げた金にも、縁起の悪いものを感じる。
 現在は神田時来組座長―当時のことは知らん―の泉堅太郎は、借金を形に美鈴に言ひ寄る不動産と金融業を営む相沢。a.k.a.林田ちなみの本城未織は、さやかは怪しいがこの人は本当に小杉平八の読者であるらしい、相沢房枝。風呂に入る望田ならぬ偽小杉を急襲、事後相沢不動産の名詞を残し、相沢の妻である劇中世間の狭さを煌かせる。
 遠軽太朗1996年第二作にして、同時にピンク映画第二作。望田が持て余す金と、諸星が美鈴から借り逃げした金が上手いこと同額の三百万。望田が三百万を使ひあぐねる時点でオチが地表に露出する始終を、二番手・三番手がホイホイ据膳を装ひに来る、望田と小杉先生の瓜二つギミックが如何にも裸映画的に彩る。展開に奉仕する便宜上、望田と諸星以外の殆ど全ての登場人物―地味にソノエは戦渦を免れる―が正気を疑ひたくなる御都合主義的な言動に終始する中、ジェネレーターに自動出力させたのかよと流石に呆れかけるほどのんべんだらりとした湯煙ピンクではある。但し今作が一筋縄では行かないのが、その癖鬼の撮影部は陰影がキメキメの、闇雲にカッコいい画を薮蛇に押さへ続ける力技の映画的満足。元々深い小林節彦の法令線が、まるでランス・ヘンリクセンばりに映える奇跡のショットを随所でモノにする。と同時に、望田が美鈴に美しい嘘をつく一応ドラマ上のクライマックスに際しては、初めはそれでもみるみる、カットの変り際に乗じて一息に日を暮れさせてみせるお茶目も披露。それは兎も角、エクセスライクな主演女優もお芝居の方は御愛嬌ではありつつ、歯を見せなければ容姿には全く問題がないどころか、湯に滲む色気が堪らない予想外の上玉。桃井良子と本城未織、それと忘れてならない小林節彦の安定感に関しては、改めて言を俟つまい。物語本体はへべれけな割に、画面の強さと半分は堅実な布陣とで案外見させる一作である。


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 「痴漢名器占ひ 奥まで覗け!」(1996/製作:ワイ・ワン企画/提供:Xces Film/脚本・監督:遠軽太朗/プロデューサー:戸川八郎/撮影:鷹野聖一郎・安藤敦美・相模昌宏・児玉成彦/照明:宮崎輝夫・坂上義和/助監督:池延和行/スチール:生駒卓己/衣裳:米村和絵/ヘアメイク:荒川広子/録音:㈱ニューメグロスタジオ/効果:協立音響/音楽:駿下真実/編集:㈲フィルムクラフト/現像:東映化学/出演:香坂ゆかり《第一回主演》・本城未織・中村京子・小林節彦・帆足哲郎・中川明・増尾鯉太郎・米村和絵)。
 海原に浮かぶ漁船の画でまさかの開巻、因みに、純粋にそこら辺で撮つてゐるといふだけで、海はおろか海町すら本作の中身とは全く関係ない。波止場に置かれた招き猫が一鳴き、ビヨンとポップなSEと共にカットを繋いで主演女優が本当に飛び込んで来る。「貴方、幸運て信じます?」と出し抜けに切り出した香坂ゆかりは、誰にも幸運が訪れると信じてゐることと、反対に信じない人には幸せはやつて来ないと知つてゐること。かくいふ自身も、全然幸運になんて恵まれない女であると思つてゐた旨を自己紹介してタイトル・イン。半歩でも間違へると能書臭くなりかねないところが、思ひのほかポップに切り抜けてみせる。
 運上ミカ(香坂)は横柄な恋人・清(中川)との事後、いはゆる下げマンであるからなどといふ無体な理由で、一方的極まりない別れを告げられる。それまでにも似たやうな過去を持つミカは気丈にも落ち込みはしないにせよ、評判を頼り著名な占ひ師・朝沼彰虎の霊能力研究所を訪ねてみる。どうでもよかないが、大概挑発的な役名ではある。待合室にて何故か胸元を拭きながら出て来た女(米村和絵、全然普通に美人)と入れ違つたミカと対面した朝沼(小林)は、チベットで積んだ修行といふのは伊達ではないのか、男運のなさを即座に看破する。あれよあれよとミカを四つん這ひにし下半身を露出させた朝沼いはく、御紋ならぬ菊の御門を見れば何でも判るとのこと。ここは素直に釣られるのが礼儀であらう、

 玉門占ひか。

 朝沼は順当に加速、卜占玉を菊座に埋め込むやビラビラのバランスとやらを直せば運気も改善されるだとかいふ末に、当然のこと肉もとい精神棒も解禁。挙句に五十万もの見料を請求されたミカは支払へず、結果朝沼研究所で働くことに。しかも出張占ひと称しては、朝沼はミカに適当に任せ研究所を度々留守にするのであつた。朝沼といふか、殆ど泥沼である。
 中村京子は、開運の荒行と称して傍目には出張ホストと変りない朝沼の常連客・京子さん、オッカナイ筋の女であるらしき節も窺はせる。帆足哲郎は朝沼不在の研究所を訪れ、ミカが見様見真似で自らが施されたのと同じ責め、いや行を施す依田ツネオ。二十八年拗らせた不運と童貞ながら、実は見事な巨根の持ち主。a.k.a.林田ちなみの本城未織も工夫なく、相変らず朝沼が京子の下に出張してゐる隙に、研究所に現れるフミヨ。ミカよりも余程開運のメソッドに詳しい様子で、あれよあれよと大輪の百合を咲かせる。増尾鯉太郎は、親分の情婦である京子に手をつけた朝沼を、ホテルに潜んで待ち伏せする組の若い衆。
 今のところ知る限りでは、ワイ・ワン企画一の名手・遠軽太朗のデビュー作。単なる純然たるセックスを開運の行と強弁する、文字通りの一点突破で堂々と劇場本篇を丸々乗り切る態度は、確かにピンク映画的には誠清々しい。その先女の裸の羅列のみに甘んじることなく、自らの幸せを信じられない者に、幸せなど訪れないとするテーマを盛り込まうとした意欲は窺へるし、現にメッセージ自体はミカに都合二度喋らせる以上、黙つて見てゐれば伝はらない訳がない。さうはいへ、概ね研究所と連れ込みのみを舞台に進行する濡れ場濡れ場のつるべ打ちの中から、主題に血肉を通はせるに足る物語が見えて来るとは些か以下にいひ難い。その癖、依田―とフミヨ―や朝沼の去就を回収しようとした色気の副作用として、フィニッシュの然るべき位置に香坂ゆかりの質・量とも十二分な絡みを持つて来れなかつた、構成の不備も地味に際立つ。処女作にしては一歩間違へればルーチンかと思へるほどの潔い裸映画ぶりで、その意味に於いては青さを感じさせることはないものの、詰め切れない余地はそこかしこに残した初陣である。


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 「悶える熟女 夫も知らないみだれ方」(2002『不倫妻 ねつとり乱れる』の2012年旧作改題版/製作・配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:岡輝男/企画:福俵満/撮影:清水正二/編集:酒井正次/助監督:佐藤吏/録音:シネキャビン/スチール:津田一郎/現像:東映化学/出演:里見遙子・若宮弥咲・岩下由里香・岡田智宏・川瀬陽太・浅井康博・丘尚輝)。出演者中、里見遙子がポスターには里見瑤子。
 五十三歳の墓地セールスマン・藤田広志(岡田)はけふもけふとて数字を上げられず、十年下の部長にどうせ怒られるのに嫌気が差し、「こんな筈ぢやなかつた」と人生丸ごと悔いながら社には戻らず直帰を勝手に決める。園部亜門の愛車でもある、フロントが凹んだ青いヴィヴィオが下り坂を左折し消えるとタイトル・イン。ところが家は家で帰つてみると、妻の美沙子(若宮)は間男・風間恭介(丘)を連れ込み不貞の真最中。怒鳴り込むでなく、何も見てゐない何も見てゐないと現実逃避する広志が闇雲に走らせた車は、山道の小さなトンネルの前に。広志はフと車を降り、徒歩でトンネルに入る。ここで、トンネル越しに抜かれる竹林が抜群に美しい。トンネルを抜けてもそこは別に雪国ではなく、圏外表示の広志の携帯に、三十年前学生運動の同士・五十嵐隆之(川瀬)からの手短な電話がかゝつて来る。父親のパンツと一緒に自分の衣類を洗はれると悲鳴を上げる、女子高生の娘・真由(岩下)の顔見せ挿んだ翌日。真由が学校はどうしたのか、スェット系の彼氏・山川正樹(浅井)とほつゝき歩くのを目撃した広志は捕まへて説教するも、山川にボコられた挙句に、部長からも電話一本でリストラを宣告される。どんな非情な会社だ、手つ取り早いにもほどがある。再び「こんな筈ぢやなかつた」とトンネルを抜けた広志の携帯に、今度は五十嵐と同じく同士の水野毬子(里見)から電話がかゝつて来る。毬子は付き合つてゐた五十嵐が次第に先鋭化する姿に不安を覚え、広志に相談を持ちかける。その内に広志と毬子は手と手を取り二人足を洗ふ方向に傾くが、土壇場で二の足を踏んだ広志が身を引いた結果、五十嵐と毬子は最終的に総括で命を落とす。
 今は如何お過ごしなのか、深町章の2002年全五作中第二作。正直なところ、最強の中でも殊更対深町章戦には滅法強い、m@stervision大哥がリアルタイムで既に完結されてをられると、事前には負け戦を如何に誤魔化したものか激しく頭を抱へつつ、蓋を開けてみると案外さうでもなかつた。大林宣彦のハイビジョン・ドラマとの酷似に関しては、その頃は未だ我が家にもテレビがありはしたものの未見につき、ここは潔く―臆面もなくともいふ―通り過ぎる。その上で今作単体に対するアプローチを試みると、「こんな筈ぢやなかつた」とまゝならぬ万事に絶望した広志が、正しくタイムトンネルを潜るのは都合二回と、もう一回。最初の「こんな筈ぢやなかつた」で三十年前に触れ、二度目に半信半疑を確信に変へると同時に、当時の状況を改めて振り返る。そして三度目には、あの時“ああすればよかつた”方向に過去をやり直す腹を固め、さうしてゐれば“かうなる筈の”イマジン―その中に登場する、広志と毬子の間に出来た秀才息子・サトル役が不明―を膨らませる。となると、ショートショート風に容易に予想し得るのは、“ああすればよかつた”風に動いてみせても、結局辿り着くのは単なる別の形の、矢張り“こんな筈ぢやなかつた”現在。さういふ、端的にいふと“ダメな奴はダメ”な底意地の悪い決定論がひとつの定石かとも思へたものだが、プリミティブな力技でまさかのハッピー・エンドに捻じ込む豪快な作劇には、確か初見ではないにも関らず全く覚えてゐなかつたのか、綺麗に度肝を抜かれた。最後の最後で主人公が“こんな筈ぢやなかつた”を放棄する、よもや“かうなる筈ぢやなかつた”一作。普段の嗜好としては、この手の夜の夢を捨て現し世を選び取る類の物語には苛烈なアレルギー反応を示す偏狭であるのだが、思ひのほか心地良く驚かされた。

 尤も、広志が土壇場で二の足を踏むのは三十年ぶり二度目。そんなこの男には、相変らず“こんな筈ぢやなかつた”未来しか残されてはゐないやうな気もする。野暮なシニックはさて措き、新旧題とも本筋に掠りもせんな。


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 「高校教師 私は、我慢できない」(1996/製作:IIZUMI Production/提供:Xces Film/脚本・監督:北沢幸雄/企画:稲山悌二《エクセスフィルム》・業沖球太/製作:北沢幸雄/撮影:佐藤文男/照明:渡波洋行/音楽:TAOKA/編集:北沢幸雄/助監督:瀧島弘義/監督助手:高野しのぶ/撮影助手:鏡早智/照明助手:那雲サイジ/スチール:本田あきら/車輌:UOGIN/ネガ編集:酒井正次/効果:東京スクリーンサービス/録音:シネキャビン/現像:東映化学/協力:井戸田秀行・田島健・日暮嫌& Dear Friends/出演:沢口レナ・葉月蛍・福乃くるみ・樹かず・真央はじめ・若井則久・頂哲夫・杉本まこと)。
 キーンコーンカーンコーンと普通のチャイム音から、フニャフニャだかブクブクだか不安感を惹起するシンセが鳴り、全体を抜いた校舎外景にドーンと被せられるタイトル・イン。宝徳学園高校、我慢しない高校教師の松沢香奈(沢口)が、下着をチラリチラリどころでもなく覗かせながら額田王の和歌について語る古文の時間。生徒部隊はそれなり以上に粒も頭数も揃へて来るものの、ヒゲの生徒が居るはヒールを履いた―しかも教室の中なのに―女子は居るはセーラ服ではなく紫のカーディガンを羽織つてゐる者も居るはと、所々の粗が逆に目立ちもする。授業そつちのけで松沢先生に目を奪はれる筒井ヨシユキ(樹)に、桐島か霧島アツコ(葉月)が葉月螢一流の表情を殺した視線を送る。各人にテストが返される、筒井の答案用紙には香奈からの、「愛してる 放課後生徒指導室で待つてゐます」(原文は古文教師の癖に珍かな)とのメッセージが書き添へられてゐた。什器的には保健室に見える生徒指導室、香奈が強引に言ひ寄る形の生徒との逢瀬を、生活指導主任の竹田か武田(杉本)が覗く。訪ねて来た竹田に何だかんだと脅迫風味に迫られた香奈は、開き直り気味に体を任せる、と見せかけて結果的には竹田も喰ふ。香奈は学校を休む筒井を呼び出し、アツコに目撃されてゐることも知らず自宅に連れ込む。中盤といふか要は今作最大の見せ場となる見応へのある一戦を交へた事後、香奈は筒井の右手を手錠で拘束、判り易くいふと監禁飼育する。筒井と香奈の関係は元々、筒井から送つた「先生の世界つてすばらしい 僕もそこに行つてみたい」といふ矢張り答案用紙に書き添へたメッセージに端を発してゐた。
 少し遡つてアルタ前で時間を潰す筒井の姿を一拍挿んで、何のトラックなのか不良感を表すギミックぶりが牧歌的なロック・チューン起動。全員宝徳学園生徒のその他配役、出し抜けに飛び込んで来る真央はじめが、仲間二人(若井則久と頂哲夫)と女を輪姦す不良。福乃くるみは、最終的には前からも頂哲夫に責められる大絶賛濡れ場三番手。最初真央はじめが後ろから福乃くるみを犯すのを見せつけるのだが、その際覗き込む頂哲夫の頭が画面手前を二度派手に塞ぐへべれけな構図は如何なものか。北沢幸雄にせよ佐藤文男にせよ、きのふけふピンクを撮り始めた訳でもなからうに。
 北沢幸雄1996年全五作中第二作、といふよりも寧ろ重要なのは面長々の大美人・沢口レナのピンク映画第一作である点。繰り返しになるがjmdbを鵜呑みにすると、全四作中以降三作は関根和美作が続く。二本見ることの出来た関根組が何れも不遇の扱ひにつき、期待といふか最後の一縷の望みを託し手を出してみたものだが、美し過ぎる業なのか、今回も四捨五入すれば捨てる方の納得し得る出来栄えではなかつた。沢口レナ限定では香奈の口跡は、狙ひ通りのクール・ビューティーな造形なのか単なる棒なのか、甚だ判断に苦しむ領域に終始止(とど)まる。それと美しい瞳を隠しては馬面が残るだけなので、この人にはサングラスが清々しく似合はない。映画本体に話を戻すと香奈が自覚した上でフルスイングする“私の世界”の、周囲を翻弄し倒して臆面もなく、あるいは不自然に継続する模様が全篇を通して執拗に描かれ続ける、末端に関しては。但し肝心要の“松沢香奈の世界”の内なり真実とは果たして何ぞやといふ最も大事な筈の本丸を綺麗に通り過ぎてしまふ故、如何せん物語の腰が据わらない。大体が、前任校でも同種の問題を起こし、挙句にその生徒は自殺したとすらいふのに、宝徳学園を去つた香奈が更に次の高校に赴任する世間の甘さが非現実的。「氷の微笑」のシャロン・ストーンばりにセクシーな沢口レナはお腹一杯に堪能させて呉れる、あくまで裸映画的には遜色ない反面、生徒要員に触れた蒸し返しだが、北沢幸雄の映画は少なくとも表面的な仕上がりはカッチリしてゐるだけに、却つて開いた穴が大きく見える。行間があまりにも空き過ぎてゐる以上、裸映画としては兎も角、裸の劇映画としては全く覚束ない一作。首を縦に振るのか横に振るのかは、純然たる個々人のその時々の割り切りの問題に過ぎまい。


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 「痴漢電車 くひこむ生下着」(1997/製作:関根プロダクション?/配給:大蔵映画/監督:関根和美/脚本:関根和美・加藤義一・小松公典/撮影:小山田勝治/照明:秋山和夫/編集:《有》フィルム・クラフト/助監督:加藤義一/監督助手:小松公典/撮影助手:山内匡/照明助手:草彅篤/音楽:藤本淳/スチール:津田一郎/録音:ニューメグロスタジオ/効果:協立音響/現像:東映化学《株》/出演:沢口レナ・安藤広郎・森野こりす《新人》・貴奈子・紀伊正志・羽生研司・永井徹・大原猛司・平賀勘一)。
 画面左手前から若干斜め右に川を渡る電車が一旦完全にフレーム・アウト、一拍置いて逆方向の電車が走つて来る開巻に何となく意表を突かれる。素人考への経験論的には最初の電車が画面から消えた瞬間が、タイトル・インのタイミングに思へたのだ。混み合ふ車中では、ボサッとした大学生の早川武夫(安藤)が、半年前からつけ狙ふOL・薫(沢口)にウットリしながら如何にも関根和美らしいへべれけなイマジンを膨らませる。同じ駅で電車を降りた武夫は薫の後を尾けるが、何処までポテンシャルが低いのか普通に歩いてゐるだけの女を見失ふ。トボトボと中央奥手に歩く、武夫をゆつくり追つてここで漸くタイトル・イン。何処そこ大学キャンパス、へたり込んで芝生をブチブチ毟る、脚本の勝利なのか演出の奇跡か、兎も角超絶の造形で武夫が不貞腐れてゐると、“鉄の処女”なる異名を誇る教務課のひろみ(貴奈子)が、大学からの呼び出しに応じない武夫に小言をいひに現れる。相変らず薫に見惚れる武夫は、ひろみが時男(平賀)に痴漢される現場に遭遇。無力な武夫が助けることも出来ず立ち尽くしてゐると、時男の卓越した淫技に篭絡されたひろみは、中睦まじい様子で二人街に消える。そんな武夫にガールフレンドが居るのは今作最大の謎なのだが、同級生の美砂(森野)の部屋で据膳式のいい雰囲気に。ところが拙い事後筆卸を看破した美砂は、「一人でオナニーでもしてればよかつたのよ」と情容赦ないにもほどがある無慈悲な捨て台詞を投げ、武夫を絶望の淵に叩き落す。そんな最中、武夫は今度はほかでもない薫が時男の毒牙にかゝるのを目撃する。
 関根和美1997年第一作は、前年最終作に引き続き正統派の大美人・沢口レナをビリングの頭に擁しつつ、残念ながら相変らず薫が劇中世界の中心で美しく咲き誇ることはなく、一貫して物語の軸は武夫に据ゑられるさくらんぼ臭い青春映画。適宜武夫が安然と突入する妄想パートの関根和美的な蕩け具合―時空を超えて二つ連結させるなどといふ時制を無視した離れ業は。この人にしか出来まい―もファンとしては含めて、これで意外と正攻法に徹した展開自体には不足はないものの、確かにダメ人間によく見えることに関してはミス・キャストでないとはいへ、如何せん安藤広郎に全く魅力を欠く点はどうにも苦しい。ところが自身の淫技に自信満々に飛び込んで来た平賀勘一が頑丈に牽引する、カラテならぬチカン・キッドの幕が明けるや、案外正調の娯楽映画が軽快に走り始める。近作でいふと、殆ど同じポジションで矢張り大活躍する平賀勘一の現時点ピンク映画最終作、「コスプレ挑発 おしやぶりエッチ」(2010/脚本:関根和美・新居あゆみ/主演:鈴木ミント)が雰囲気としては実に近い。といふか、改めて気付いたが断トツの最多登板数の旦々舎ではなく、平賀勘一が最も活き活きと輝くのは、実は関根組であるやうな気がする。心苦しい沢口レナの扱ひの悪さに関しては強ひて忘れてしまふことにすると、一旦持ち直すも徹頭徹尾徹底的に北風に吹かれ続ける主人公に、最後の最後で穏やかな春が訪れるラストは鉄板中の鉄板。関根和美の温さが上手い具合に心地良さに転化する、陽性の娯楽映画の佳作である。シャープな美貌が堪らん貴奈子に、トランジスタ・グラマーが眼福の森野こりす、珍しく三本柱の粒が揃つたラックも勿論大きい。

 妙に錚々たる面々のその他配役は、乗客要員くらゐしか見当たらない。それと、一箇所画期的にチャーミングなのが、当然非現実で下着姿の武夫と薫が「ハニー」、「ダーリン」と乳繰り合ふ痴漢電車。ズンチャカ適当な劇伴の合間合間に、何故かSLの汽笛と走行音が、だから電車だろ。


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 「隣の奥さん バイブでトロトロ」(1996/製作:関根プロダクション?/配給:大蔵映画/監督:関根和美/脚本:関根和美・加藤義一・小松公典/撮影:三原好男/照明:秋山和夫/編集:《有》フィルム・クラフト/助監督:加藤義一/監督助手:小松公典/撮影助手:伊藤伸久/照明助手:草篤/スチール:津田一郎/音楽:リハビリテーションズ/録音:ニューメグロスタジオ/効果:協立音響/現像:東映化学《株》/出演:沢口レナ・青井みずき・扇まや・樹かず・下川おさむ・薄葉正・近藤力・藤繁琢也・山口寛人・牧村耕次)。
 朝の大和田家、先に起きた徹(樹)は、眠る元同僚で新婚二ヶ月の栞(沢口)に手を出し昨日の続きの朝から夫婦生活。ここで驚くといふのもおかしな話で、顔が長いといふ声も聞こえて来るのかも知れないが、沢口レナの時代を越え得る綺麗な大美人ぶりに琴線を鷲掴みにされる。徹は尺八を要求するも、未だ抵抗感の拭へない栞に拒否された為、仕方なく挿入。何だかんだで微妙な空気も漂はせつつ、往来でチューするお熱い様子で栞に送り出され、遠ざかる徹の背中に乗せてタイトル・イン。“トロトロ”の字がおどろおどろしく、別の表現でいふとお化け屋敷のテイストで溶けてゐるのが微笑ましい。自己嫌悪に苛まされる栞が、台所の茄子で口唇性交の練習を試みて断念したところに、親友で元同僚の榊美穂(青井)から電話がかゝつて来る。そんなこんなで栞が美穂に呼び出された、物件的には仮称摩天楼な馴染みの店「トラップ」。美穂は青井みずき(a.k.a.相沢知美)一流の呑気さで、女子社員憧れの的である徹を射止め寿退社した幸せ者をやつかむものの、早くも主婦の日常に厭いた栞としては、それほど単純な話ではなかつた。おまけに男を取つ換へ引つ換へする美穂が、暫定今カレ・公一(下川)とのセックス自慢を憚りなく仕出かすに至つては気分を害し、栞は自分の飲み代も置かずに帰つて来てしまふ。帰宅した栞が美穂に押しつけられたプレゼントとやらを開けてみると、挙句に中から出て来たのはピンクローター。ブチ切れた栞の抗議電話は未だ帰らぬ美穂には通じず、一方徹からは帰りが遅くなる旨の電話が入り、憤懣やるかたない一人の夜。リストラされ目下無職の夫・雄一(牧村)に逆さに拘束された隣の奥さん・文枝(扇)が、股間に突つ込まれたバイブでトロトロになる嬌声が、何故か細部に至るまで鮮明に洩れ聞こえて来る。
 関根和美1996年最終作、ピンク限定だと第六作で薔薇族含むと第七作。因みに、jmdbによるとピンク出演は残念ながら僅か全四作の沢口レナ第二作―デビュー作は北沢幸雄―に当たり、関根和美は今作から三本沢口レナ出演作を続けてゐる。オクテの若奥様が、何だかんだで美しくそしていやらしく開花するコメディ基調のエロ映画。を予想あるいは期待したのはトロけたタイトルと樹かずの爽やかな笑顔とに騙された、といふよりは寧ろ、正直に告白すれば沢口レナに心を移したが故の惰弱な早とちり。昼間自由に動けるサディストが悪鬼の如く飛び込んで来るや、あれよあれよと思ひのほかダークな新妻調教譚にフルモデルチェンジ、大雑把な衝撃の真相だとかにまで一直線。但しさうなると、関根和美的なキレのなさが、エクストリーム系のエロ映画としては幾分以上に不足も残す。あれよあれよといふよりはあれまあれまといふ内に辿り着く徒なバッド・エンドよりは、ここは素直に沢口レナの明るい笑顔で畳まれる映画を観たかつた。無茶苦茶無防備なことをいふが沢口レナ扮するヒロインの幸福を望んだ、へべれけな希望はどうしても捨て難い、俺は一体何をいつてゐるのだ。
 話を戻して、男優部絡み要員に止(とど)まるにせよ、久し振りに見た下川おさむは矢張り実に男前。今でいへば三上博史と市川海老蔵を足して二で割ると下川オサムになるのではといふのは、それは些か買被りに過ぎると御理解頂けないであらうか。

 配役残り薄葉正から山口寛人までは、バーテン一人とカウンター背後のテーブル席に客が二人のトラップ要員に、劇中二日目の朝、栞宛に差出人不明の荷物を届ける宅配便の配達員か。薄葉正・藤繁琢也・山口寛人のどの名義なのかは特定不能だが、テーブル席に見切れる加藤義一は今際もといラスト間際に確認出来た。近藤力は、小松公典と見てまづ間違ひあるまい。となるとビリング的に、薄葉正が加藤義一?

 付記< 加藤義一は藤繁琢也だな


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