真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「純情巨乳 谷間で歌ふ」(2015/製作:加藤映像工房/提供:オーピー映画/監督:加藤義一/脚本:小松公典/撮影監督:創優和/編集:有馬潜/録音:小林徹哉/音楽:與語一平/助監督:小関裕次郎/撮影助手:佐藤雅人・三輪亮達/スチール:本田あきら/録音所:シネキャビン/仕上げ:東映ラボ・テック/協力:光音座・和田光沙・鎌田一利/出演:めぐり・春日野結衣・酒井あずさ・工藤翔子・山本宗介・岡田智宏・広瀬寛巳・紅森伐人、他一名・青森次郎・近藤力・なかみつせいじ)。出演者中、紅森伐人から近藤力までは本篇クレジットのみ。
 タイトル開巻、ニット帽がキュートな安浦泉(めぐり)が、横浜の街に流れて来る。一方、花屋「Flower Shop カゲヌマ」の店長・影沼正一(なかみつ)は、アルバイトの女子大生・中村文(春日野)に手をつける。文にコーヒーを買ひに行かされた影沼と、泉が軽く交錯、二人は泉がカウンターレディー募集のチラシに目を留めた、藤田真子(工藤)の店―劇中屋号不明―にて再会する。音楽好きの泉がストリート・ミュージシャンの永井幹雄(山本)と、イケメン大権でサクサク恋に落ちつつ、数年後、手の怪我でギターを弾けなくなつた幹雄は、おとなしく堅気の職に就けばいいものをヤクザ志望のチンピラ―兼ヒモ―に身を落としてゐた。そんな最中、男と行く旅行で店を離れる真子のヘルプで、跛行の美人ホステス・秋山紗英(酒井)が店に入る。すると寡黙も通り越し不気味な、その癖見るから紗英とは訳アリな高村勲(岡田)が、店に通ひ詰めるやうになる。
 枝葉は豊かな配役残り、広瀬寛巳は光音座で映画を観ながら、ではなく。表のポスターで自慰ニキ、突拍子もないシークエンスながら空前のリアリティを爆裂させる。紅森伐人(=鎌田一利)とビリング推定で多分他一名が、真子の店のボックス席客。近藤力(=小松公典)は肩の当たつた影沼とその場に割つて入つた―プロの筈の―幹雄を、二人纏めてシメる妙に戦闘力の高いオッサン。変名界のレア案件・青森次郎は泉の元カレか、紗英の元夫。ロストしたのは口惜しい反面、役所は殆ど変らない、脚本レベルで芸を欠いてゐるともいへる。消去法の残る片方は、演出部動員で小関裕次郎?あと、泉が手を貸す車椅子に、撮り方で特定を回避した節も窺へる加藤義一。案外この人チョイチョイ自作に端役で見切れるのは、師匠である新田栄から継承したスピリットといへるのか。感動的に背景に同化あるいは埋没してみせる、新田栄超絶のウォーリーぶりにはまだまだ到底及びはしないものの。
 前作の城定秀夫に続き脚本に小松公典を迎へた、とは満足のいく形では行き損ねた加藤義一2015年第一作。実質三番手絡み要員の二番手が開巻に飛び込んで来る、奇襲が思ひのほか長尺を喰ふ一大疑問手で序盤を空費したのち、唐突な“数年後”ジャンプ。紗英と高村も噛ませ漸く起動する本題は、ステレオタイプな傷を抱へた恋人達の、ザラついたラブ・ストーリー、そもそもこれが加藤義一には清々しく柄にもない。中途半端に影沼のドラマに重きを置いた結果、泉は終始プランプランするに止(とど)まり、即ちめぐりがエモーションらしいエモーションを撃つ機会すら与へられなかつた無駄遣ひぷりは、「はさんで三発!」での輝きぶりを想起するに重ね重ね残念無念。取つてつけたキナ臭さの末に、なかみつせいじだけでなく、松岡邦彦2002年第二作「和服妻凌辱 -奥の淫-」(脚本:黒川幸則・松岡邦彦/主演:AZUSA)以来の超復帰を遂げた工藤翔子まで連れ出しておいて、山本宗介一人止められず、結局行かせるのには緊迫感の欠如以前にグルッと一周して呆気にとられた。めぐりのオッパイ以外盛り上がりに乏しい漫然とした展開の中で、最終的に締めとなる濡れ場さへ存在しない点はピンク映画として大いに難じざるを得ず、人を弾いたことの重さを微塵も感じさせない、怠惰極まりないラスト・シーンは素面の劇映画的にも底が抜けてゐる。流れない川は海だとか、ドラマに根付かない小台詞なんぞどうでもいい。加藤義一と二人並べる格好で、竹洞哲也の限界が反照された感もなくはない一作である。

 工藤翔子の超復帰に話を戻すと、今回復帰作にて酒井あずさと共演、即ち園辺亜門シリーズに於ける新旧宮前晶子役が揃つてゐるのは、地味に通り過ぎること能はぬトピック。もう、亜門はゐないけれど。


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 「変態観測 恥穴むき出し!」(2015/製作:旦々舎/提供:オーピー映画/脚本・監督:山邦紀/撮影:小山田勝治・岡崎孝行/照明:ガッツ・蟻正恭子/録音:沼田和夫・小林理子/助監督:小笠原直樹/応援:広瀬寛巳/車輌:尾藤雅敬/音楽:中空龍/編集:有馬潜/MA:シンクワイヤ/整音:若林大記/音響効果:吉方淳二/タイトル:道川昭/ポスター:MAYA/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:卯水咲流・加藤ツバキ・酒井あずさ・ダーリン石川・津田篤・荒木太郎)。照明のガッツは、守利賢一の変名。クレジットの中に広瀬寛巳の名前があると、何故だかホッとする。
 廃工場に踏み入れる卯水咲流、コートの似合ふスタイルの良さが、ロングに映える。放置された三輪車には関心を払はず、女は持参した―旦々舎作頻出の―ディルドで自慰に燃える。一旦達した後、飽くことなく二回戦に突入。とここまで、デジタル化の恩恵を素直に享受。従来の白黒とも違ふ、グレー基調の画面、黒地に滲むやうな赤で鮮烈に刻み込むタイトル・イン。プールがある方の私称第一ミサト、電動車椅子に―右目だけの―片玉眼鏡の目赤家当主・目赤蔵人(荒木)が、巨大な目玉料理を満喫するディナー。明らかに無理からな量を頬張りながらも、無事咀嚼し嚥下してみせる荒木太郎の俳優部魂が煌めく。蔵人の娘・霧絵(卯水)と、瞼に瞳を描いた―レディー・ガガを模してマザー・ガガとかいふらしい―後妻の南(酒井)も、別室にて普通の夕食。蔵人が二十四時間家人を監視するか見守るカメラ越しに、三人は一見普通に満ち足りた家族の会話を交す。蔵人は全ては見るところから始まると、“目玉主義こそわが人生”を謳ふ。珍しく、山邦紀の奇矯なイメージが、何某かなりそれなりの言ひ分と結びつけられてゐる。一方、繁盛せず古い市営住宅の一室―実は廃工場スタジオの一部―に事務所を構へる、“探偵は肛門であり 肛門は探偵である”なる奇怪な文言をモットーとする、自らを称してそのまゝ肛門探偵こと伊賀黄児(ダーリン)と、伊賀の肛門主義に心酔し弟子入りした、助手の不動藍(加藤)。百の目を持つ神話の巨人、アルゴスを名乗るネット経由謎の依頼者から、伊賀は霧絵の行動調査を依頼される。対象者の廃工場での痴態まで押さへつつ、素性の知れぬ人物においそれと渡せる内容ではないゆゑ、伊賀はアルゴスと直に会つてみる腹を固める。
 配役残り津田篤は、シャンデリアの電球の交換に目赤邸の敷居を跨ぐ、出入りの電気屋の新入り若い衆・青山玄。作業する青山が腰に提げた―真つ新の―工具袋に霧絵が点火、豹変した霧絵に跨られるものの勃たなかつた青山の一物は、持参する角電池を一舐めするや忽ち逸物と化す。電池を勇気とエネルギーの源と奉ずる電波ならぬ電池人間といふのは素晴らしいとして、一点青山の造形に苦言を呈しておくと、ブルーカラーにしては如何せん身形が小奇麗過ぎる。
 山邦紀2015年第一作は、前作「SEX実験室 あへぐ熟巨乳」(2013/原題:『絶頂研究所』/主演:有奈めぐみ)以来待望と感動の復活作であるのと同時に、旦々舎とオーピーの復縁作。更には酒井あずさが目出度く旦々舎初参戦、驚く勿れ平成初となる小笠原直樹のピンク映画参加とひとまづトピックは盛り沢山。
 映画の中身はといへば、深窓の令嬢と、忘我の状態で正しく誰彼構はず男を貪る痴女の二つの顔を持つヒロインを軸に、これで案外腕は確かな肛門探偵が、目玉主義を唱へ歪んだ家族を形成する資産家と対決する。ところで如何にも山邦紀らしい飛び道具といへよう、肛門探偵の肛門探偵たる所以とは。クライアントの悩みの種を肛門から観察し、排泄を促すとのこゝろ。牽強付会といふべきか、はたまた理に落ちてゐるのか。如何にも苦しい勿体ぶつた方便といはざるを得ないのは兎も角、奮つてゐるのが伊賀の後を追ひ追ひ越すどころかブッ千切つて行く不動藍の女傑ぶり。伊賀が実際の性向に於いてはしばしば平常に女性器に挿入しようとするのを日和見主義、あるいはより直截に―もしくは単に口汚く―ウンコ野郎とすら罵つてみせる、いはく“ヴァギナ絶対主義に反対しアナルの黒い旗”を掲げる藍の急進的肛門主義とは、妊娠の可能性がある以上相手を選ぶヴァギナに対し、肛門はフリーダムと尊ぶ立場。避妊しろよといふプリミティブなツッコミ処はさて措き、防御を最大の攻撃に転じたかのやうな、退いてゐるのだか進んでゐるのだかよく判らない屈折した先鋭さが実に傑作。話を戻すと、目玉家長と肛門探偵が対決する周囲で電池人間がおずおずと起動し、ラディカル・アナリストは華麗に飛び回る。そしてマザー・ガガは醜女メイク越しになほ、常にたほやかな微笑みを浮かべる。山邦紀一流の奇人博覧会が屈指の完成度を誇るともいへ、そこで終つてゐては、散らかしぱなしで振り逃げ気味なきらひが目立つ近作と何ら変らない。今作何が素晴らしいといつて、複雑怪奇に拡げられた風呂敷が、奇麗に畳まれるカタルシスが格別。「この家族は失敗した」、荒木太郎が見事に締め括る蔵人の誂へた卓袱台が引つ繰り返る一幕に、主演女優のメイン・イベントを直結、したばかりか二番手も電池人間と追走する濡れ場の力学がキラキラと輝いてさへ映る、これぞピンクで映画なピンク映画ならではのクライマックス。斯くも奇想を積み重ねておいて、十全な起承転結も完結、オーソドックスな娯楽映画として成立せしめてのけるのは、ファンタとロジック、二門の主砲を誇る山邦紀ならではの強靭な離れ業。因みにその前段、肛門探偵が霧絵の真実に辿り着く件。的確かつ印象的な小道具のマトリョーシカが、脚本を読んだダーリン石川が持参したものといふのは、壁の竜に睛を入れる隠れたファイン・プレー。ビリング頭二人がシネマジェニックに幕を引く、ラストも印象深い。

 と、席を立つのも筆を擱くのも早計早計、だから映画は最後まで観ろつてば。山邦紀がかつて目玉姫に際して用意した疑似尻子玉が改めて火を噴く、荒木太郎が超絶の節回しで名文句を撃ち抜くオーラスが映画史に残りかねない勢ひで絶品。御当人は次作の方がお気に入りのやうだが、文句なく滅ッ茶苦茶に面白い。大蔵とエクセスを自在に往来する、旦々舎の快進撃を2016年も見たい。


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 「不倫美姉妹 白衣のあへぎ」(2015/製作:関根プロダクション/提供:オーピー映画/脚本・監督:関根和美/撮影:下元哲/照明:代田橋男/助監督:金沢勇大/スチール:小櫃亘弘/録音:シネキャビン/編集:有馬潜/監督助手:原口大輝/撮影助手:浅倉茉里子/照明助手:榎本靖/選曲:山田案山子/効果:東京スクリーンサービス/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:倉沢いちは・青山未来・山口真里・星野ゆず・竹本泰志・なかみつせいじ・関根靖子・Shin Battlebabes・柳東史)。出演者中、関根靖子とShin Battlebabesは本篇クレジットのみ。
 内科・小児科の滝沢クリニック、イントロダクションの診察風景に、患者役として関根和美愛妻の亜希いずみが飛び込んで来る。のは想定の範囲内ともいへ、エンド・クレジットまで観通した上で名義が関根靖子といふのは地味に重要なトピック。関根和美が本名であつた場合関根靖子とは恐らく亜希いずみの本名で、旧姓か高橋靖子としての出演歴は過去にある一方、関根靖子での映画出演は初めてなのではなからうか。ともあれ、関根さんで午前の診察は終り。院長の滝沢匡史(竹本)に促された看護師の白石冴子(倉沢)が休憩中の札を表に出すと、デジタル化の有難味を微塵も感じさせぬ味気ないフォントによるタイトル・イン。タイトル明けるや、自宅開業医の滝沢が鬼もとい妻の耳を恐れながらも、大胆不敵に冴子と不倫の情事。事後固辞する冴子を遮り、滝沢は何時も通りに諭吉を二枚切る。片や劇中呼称されない某医大、冴子の妹で医大生のリエ(青山)が、毎日弁当を作る所属ゼミ専任講師の三輪淳(柳)に、婦人科の沢田か澤田教授(佐和田かも/一切登場せず)にコネクションを繋げて呉れるやうを求める。リエは三輪をサポートする、研究医を志望してゐた。
 配役残りなかみつせいじは、姉が姉なら妹も妹、リエの不倫相手・戸田雅之。次に会ふ日の約束を交し際の、目の泳がせぶりが絶品。待ち合はせた店でリエを完膚なきまでに迎撃する星野ゆずは、戸田からの別れを告げる戸田商事秘書課第一秘書・渡辺沙羅。盆暮れでもないのに豪華四本柱体制で、星野ゆずの絡みはなかみつせいじが二連戦を戦ふ。この人は完全に風間今日子の跡目を継いだんだな、と思はせるに足るオッパイのみならずオッカナイ貫禄を披露する山口真里は、滝沢の妻・友香、正確には匡史が滝沢家の入り婿。平社員と比べると出世したShin Battlebabesは、風邪に臥せる三輪の所望で、リエに最新データのプリントアウトを三輪宅まで届けるミッションを託ける助教授。リエを三輪家に向かはせる段取りに免じて、データ送ればよくね?といふ今時子供の目も欺けまいツッコミ処に関してはこの際さて措くべきだ。
 発表ペースに連動し快調に九州着弾した―といつてもまあ、七ヶ月強落ちてはゐるのだが―関根和美2015年第二作は、第四戦にして倉沢いちは(ex.菅野いちは/改名は事務所移籍の由)引退作。銘々が不倫関係に悩んだり苦しんだりしつつも、互ひに支へ合ふ姉妹の物語。開巻から一貫して、無謀な大回想が火を噴くことがなければ、無造作な魔展開が卓袱台を引つ繰り返すこともなく。一体何処で羽目を外すのか、何時力尽きて派手に仕出かすのかと別の意味で固唾を呑んでゐたところ、最後の最後まで綺麗に正攻法で駆け抜けてみせたのには変な意味で驚いた。とりたてて面白くて素晴らしくて仕方がない訳でもないものの、強ひて論ふならば初陣にして堂々と締めの濡れ場も務めあげる、唯一第二戦を戦ふ二番手と格の違ひを見せつける山口真里の陰に霞み、主演女優の絡みがしかも序盤の一度きりしかないアンバランスくらゐしか粗らしい粗も見当たらない。戸田との逢瀬をゼミのコンパと偽り遅くに出かけるリエが、閉じた居間のドアの陰で―嘘をついて―「ゴメンナサイ><」と冴子に手を合はせる、らしからぬほどに瑞々しいカット。普段は慎ましやかな地力を覗かせた関根和美に加へ、造作だけ見れば必ずしも美人でも美少女でもないにせよ、それ以上にキュートなエモーションを有する青山未来の輝きが強く印象に残つた。主演に出世した関根和美次作が今から凄く楽しみ、早く来ないかな。濡れ場に入ると何気に気前よく大股を開き続けてみせるのも、さりげなく重要なポイント。


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 「Eカップ本番Ⅱ 豊熟」(1989/製作:バーストブレイン・プロダクツ/配給:新東宝映画/監督:佐藤俊喜/脚本:小林宏一/企画:大橋達夫/プロデューサー:佐藤靖/撮影:下元哲/照明:白石宏明/音楽:ISAO YAMADA/編集:金子編集室/助監督:勝山茂雄/制作:城沢源太郎/演出助手:森田高之/撮影助手:片山浩/照明助手:林信一/メイク:岡本佳代子/スチール:福島佳紀/演出協力:上野俊也/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東映化学工業/出演:藤沙月・井上あんり・夢恋次朗・平賀勘一・菊次朗・中根徹)。
 揺れるやうに飛ぶ飛行機模型と、子供の声。やがて風景が団地のものであることが判ると劇伴も起動、“藤沙月IN”のクレジットに続いて藤沙月の名前を冠に戴いたビデオ題がタイトル・イン。屋内プール、の画を何と五十秒弱引つ張つて漸く男が飛び込む、無茶しやがる。泳ぐ男はスイミングクラブのインストラクター・秋山保夫(菊次朗=本多菊次朗)で、クラブに通ふ人妻・室井祐子(藤)が拍手して手を振る。その日はスクールの日でもないのに保夫に会ひに来た、祐子は保夫の部屋に入るや早速セックス。事後、ベッド手前の荷物を抜くカットに何の意味があるのか首を傾げてゐると、その夜。保夫との会話の中ではインポだバカだと散々ないはれやうの祐子の夫・文男(中根)が、電車の中で上着を汚される。ところが裕子はクリーニングに出した替への上着を、保夫の部屋に忘れて来てしまつてゐた。翌日、古い上着を着て文男は出勤。自転車で駅の駐輪場まで、ポケットから定期入れを取り出すと、チャリンと何かが落ちる。結婚前に祐子が住んでゐた、部屋の鍵だつた。文男が鍵を拾ひ上げたところで、バックの高架を爆音鳴らして電車が通過するタイミングが超絶。
 配役残り平賀勘一は文男の会社の先輩で、文男以前に祐子が関係を持つてゐた深谷。文男と顔を合はせる毎に喰つた社内の女の自慢話をするポップな漁色家ぶりが、平勘に馬鹿ハマり。文男が訪ねてみた、祐子のアパートは以前と変らず現存してゐた。井上あんりがその部屋の現住人・江崎紀子で、変名かも知れない夢恋次朗が、紀子が部屋に連れ込む彼氏・桑野順一。忍び込んだ文男が、ベッドの下に潜んでゐるとも知らず。
 佐藤俊喜(現:サトウトシキ)1989年第二作にして、通算でも第二作。公開題のEカップ本番“Ⅱ”とは何事かといふと、「Eカップ本番」(昭和62/監督:渡辺元嗣=渡邊元嗣/脚本:平柳益実/主演:田中みか)が第一作。勿論、主演女優がEカップといふ以外には、二作が一切無関係な便宜すら存在しないナンバリングに関しては、改めるまでもなくいふまでもなからう。何はともあれ、主演女優が浅黒いデブでしかなかつた無印パート1に対し、今の目からすると洗練度の低いルックスは時代の波を超え得ないものの、藤沙月のメリハリの見事に利いた素晴らしい肢体が裸映画的に決定的なアドバンテージ。物語的には当初夫婦仲に隙間もある割に、それなりに安定してゐたかに見えた文男が、祐子が昔住んでゐた部屋の鍵を手に入れただけで何でまた斯くも壊れて行くのか。展開は唐突で、呆気ない破滅もありがちなラストの範疇を逸脱するものではあるまい。とはいへ最終的には井上あんりと嫁の区別さへ失する文男の、ヤバさといふかより直截にはキモさはオフ・ビートはオフ・ビートながら空疎感に裏打ちされた逆説的な血肉が通ひ、何はともあれ、メランコリックなメイン・テーマの威力が絶大。藤沙月目当てのヌキ目的で、アダルトビデオとして今作に触れた諸兄にあられては、よくて釈然としない悪くすればげんなりと棹も萎える様が想像に難くない。そもそも、主役から実は藤沙月ではなく中根徹である、但し小屋にてデカい音で観てゐる分には、奪取した音楽の富に、案外コロッと騙される自信もある。何れにせよ、裸的にも映画的にも、Eカップ本番はⅡの完勝と断言出来る。


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 「Eカップ本番」(昭和62/製作?・配給:新東宝映画/監督:渡辺元嗣/脚本:平柳益実/製作:伊能竜/企画:白石俊/撮影:下元哲/照明:佐久間優/編集:酒井正次/助監督:小原忠美/監督助手:横田修一/撮影助手:片山浩/照明助手:高原賢一/スチール:津田一郎/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:田中みか・橋本杏子・川奈忍・ジミー土田・山本竜二・石部金吉・新井賢二・池島ゆたか)。製作の伊能竜は向井寛の変名、監督の渡辺元嗣は、勿論現在渡邊元嗣。
 松の湯の煙突と風見鶏を戴いた洋館を抜いて、国立探偵社。池島ゆたかの若い頃の色男な肖像写真挿んで、給料が安く連れ込みにも行けぬと助手の東佐知子(川奈)と西伊智朗(新井)が事務所で逢瀬。濡れ場初戦に、先にクレジットが並走。勢ひ余つた二人がソファーから落ちると、大仰なサイレンと池島ゆたかの笑ひ声、国立探偵社所長・国立松太郎(池島)は事務所の様子を盗聴盗撮してゐた。一転アフリカンなパーカッション起動、グイングイン自らのオッパイを揉みしだく正しくバスト・ショットに、「田中みか・Eカップ本番」のビデオ題でタイトル・イン。改めて国立登場、仕事の依頼は、高校教師・園田憲一(ジミー)の姿を消した元教へ子の妻・未来(田中)捜し。二人の馴初めの、強制援交気味の一戦。助監督が揺らせてゐるのか、クピクピ妙ちくりんなSEとともに、未来のオッパイが感じると自称“嘘みたいに”震へだすのは、あまりにも下らなくて素晴らしい。因みにといふかついでに、国立の読みは園田が期待した“こくりつ”ではなく、“くにたち”といふこの一幕のオチも脱力必至。“POISON”柄の瓶に入れ持ち歩く、国立家特製の野菜ジュースを飲み飲み、国立は仕事に着手。普通に聞き込みして回る中に見切れる、長身の男は渡邊元嗣御当人?
 配役残り橋本杏子は、家を出た未来が転がり込む、ズベ公仲間の渡みゆき、石部金吉(=清水大敬)が二十人ゐるといふみゆきの愛人の一人・田中克雄。サングラスの下はグラムなメイクとまんま渡辺正行みたいな造形の山本竜二は、未来・みゆきの矢張り不良仲間・大塚七郎。大塚が無理矢理破瓜も散らした未来が好きで、片やみゆきが実は大塚が好きといふ三角関係は、一旦橋本杏子の決定力でドラマのもう一本の軸たるかに見せて、残念ながら見事に放棄される。
 昭和62年最終第六作、DMMに潤沢に入つてゐる割に、殆ど見てゐないナベ・クラシックス。第一期ナベ・ゴールデン・エイジ―第二期は2006年以降目下も快進撃中―に近いこともあり、もう少しどころでなくキラキラと輝いてゐるものかと思ひきや、これが全く漫然とした出来。何はともあれ、確かにオッパイだけ抜けばショットとして成立するEカップではあれ、文字通り全体的な印象はとなると直截にいへば浅黒いデブでしかない主演女優がどうにもかうにも致命傷。未来とみゆきが過去にビューティーペアばりのコンビで芸能界を目指してゐた、といふのは今も変らぬアイドル映画の雄・渡邊元嗣の面目躍如と行きたいところが、田中みかと橋本杏子を並べた画が壊滅的に成立しない。物語的にも最初と最後にしか出て来ないジミー土田が暫し退場したまゝの隙に、探偵と調査対象の人妻とがイイ仲になるのはある意味定番の展開とはいへ、未来と国立が仲良くなるきつかけがジョギング。オッパイをブルンブルン揺らして走る、田中みかの爆乳ジョグが当時的にはそれなりにエポック・メイキングであつたりしたのかも知れないが、追走する池島ゆたかが腰まではコントの加トちやんみたいなテキ屋ルックに、パツンパッツンのピンクのパンツといふ扮装は、80年代といふ時代がダサいからなる理由で基本ヘイトな個人的偏向にもよるにせよ、ツッコむ気力も萎える悪い冗談にしか見えない。何ひとつ不足のない夫である園田に尽くされるよりも、誰かに尽くしたかつただなどと贅沢極まりない不平を垂れる未来に対し、国立が季節外れのサンタクロースを気取つて元の鞘に納まるようを促すクライマックスも、シークエンス以前に演者からダサい。渡邊元嗣のベタ足でエモーションを追ひ詰める手法は、案外年代を問はずダサさと親和するやう思へなくないものの、ダサいものはダサい。オーラスの、緑のポロシャツをクッソ中途半端なストレート・ジーンズ―しかも裾捲り、切れよ―にタック・インする新井賢二の腐れファッションには全力で悶絶した。世紀の境目付近を逆の意味での筆頭に、グダグダする際のナベが特段劣化した訳ではなく、昔から外す時は綺麗に外してゐたといふのが概ね唯一の収穫。ビリング頭がビリング頭だけに、初めからの負け戦といつてしまへばそれこそ実も蓋もないけれど。

 締めの濡れ場に際しては、田中みかがパイズリを披露、昭和の時代既に確立してゐたメソッドなのかと軽く驚きつつ勉強になつた。


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