真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「濡れた人妻秘書 肉体妄想」(2001『人妻社長秘書 バイブで濡れる』の2012年旧作改題版/製作・配給:新東宝映画/監督:渡邊元嗣/脚本:波路遥/企画:福俵満/撮影:飯岡聖英/照明:小川満/編集:酒井正次/助監督:加藤義一/監督助手:城定秀夫/撮影助手:清水慎司/照明助手:堀直之・石井拓也/スチール:佐藤初太郎/録音:シネキャビン/現像:東映化学/出演:時任歩・水原かなえ・ささきまこと・十日市秀悦・熊谷孝文・林由美香)。
 朝の藤原家、先に起きた夫の秀樹(ささき)が朝食の支度も済ませ、妻・茜(時任)をいよいよ起こさうかと布団を剥いでみると、茜の右手はパンティの中に突つ込まれてゐた。秀樹が苦く想起する、妻の求めに応じ“られ”なかつた昨晩が、挨拶代りの裸見せ。ところで、寝てゐる間に入れ替つたのだといふならばそれまでだが、夜と朝とで、茜と秀樹の寝位置が左右逆ではある。満足に勃たない以前に、秀樹はリストラされ、社長秘書の職に就く茜の収入が家計を支へてゐた。さういふ全方位的に微妙な空気の中、茜が家を出たところでタイトル・イン。
 気を取り直して颯爽と出勤する茜に、同じ会社に勤務する浜崎須美(水原)が合流。続けて飛び込んで来た矢張り同僚の平良欽一(熊谷)は、天下の往来だらうと社内であらうと、あらうことか須美の尻を撫で走り去る。常識的に憤慨する茜に対し、須美は社長以下会社ではセクハラは茶飯事だと意にも介さずたしなめる。そんなこんなで、株式会社源商事に、当のエロ社長・源英磨(十日市)が賑々しく出社。ここでオフィスに見切れるのは、手前の須美と平良対面の青シャツが城定秀夫、奥左隅に加藤義一。加藤義一右隣のもう一人は不明、少なくとも福俵満ではない。社長室、肩に手を乗せられた茜は、指先を褒める源の「セクスィーだねえ」といふ下卑た一言の、エコーもかませた四度のリフレインの末に、源から本格的に手篭めにされる白日夢を軽く見る。ぼんやりする茜の胸を後ろから鷲掴みにした源は、当然驚く茜の右手を自らの股間に導き、男にかうされたら、かう応へるのがわが社の礼儀だと豪語。浜野佐知が、アップを始めた模様。公園でションボリくたびれる茜の前に、ピンクのパラソルをクルクルとはためかせながら濃い色のチャイナドレス姿の林由美香が、ロケーションにそぐはぬ素頓狂な扮装には反し林由美香天性の可愛らしさで意外と爽やかに登場。“福俵満子”とだけ書かれた名刺を差し出し、下の名前を「まんk・・・」と読みかけた茜を、「みつこです」とピシャリと遮る。茜の欲求不満を看破した満子は、この世界を濃密な官能で満たすためにやつて参りましたの、だなどと結構な大風呂敷をスマートに拡げると、弁当箱大の布包みを茜に手渡す。その場で開けようとした茜を制し、中身を決して他人に見られてはならないと釘を刺す。
 女優林由美香を最も愛し、由美香もその現場を最も愛した―かも知れない―渡邊元嗣2001年第二作は、正体不明神出鬼没の謎のセールスレディが、隙間風の吹く夫婦を双方向から攻略、目出度く人肌のハッピー・エンドに落とし込む。我等がナベ―業界的には大ナベ―十八番の、キュートな人情ファンタジー。明確にシリーズ化も匂はせる幕の引き方をしておいて、残念ながら結局続篇が製作されずじまひのところをみると、当時としては会社的にも水準的な出来栄え、といふ評価に止まつたのか、m@stervision大哥の御評価も辛い。けれども、天使が天国に還つてしまつて地上時間で七年の歳月が経過した今、久し振りに触れた今作は、ひとへにとまれ何はなくとも、改めて林由美香が懐かしくて可愛らしくて仕方がない。満月に満子の間延びした笑顔がオーバーラップする、間抜けなラスト・ショットまで含めもう狂ほしいほどに愛ほしくて愛ほしくて仕方がない。ガタガタいはずに由美香に身悶えろ、文句をいふ外道は地獄に堕ちろ、さうとでもしかいひやうのない、最早言葉も失はせる一作。林由美香のエンジェル・ボイスが、薄汚れ疲れた下劣な品性も、少しは洗つて呉れようといふものだ。
 さうはいひつつ野暮を一吹き、エロ本を排しAVを排し性具を排しイマジンすら排し、生身の人間同士の結びつきを称揚する満子の健気なエモーションは、濡れ場に直結する方便としても実に素晴らしい。とはいへ、さうなると最終的にはピンク映画も立つ瀬がなくなつて来る点に関しては、気付かないふりで遣り過ごしてしまへ。

 「人妻美人秘書 主人を忘れて」と改題された、2004年次新版を観てゐた可能性も大いにあるが、「ベッドの上でガオー!」。愛人が二十八人―以上―居ることを誇る源が歌ふ鉄人ならぬ愛人28号の替歌を、歌ひ出す前から覚えてゐたことには我ながら呆れ気味に驚いた。冷静に考へると、こちらが“ガオー!”ならば兎も角、女にガオー!と吠えられても困るやうな気もしないではないのだが。リアルタイムでは、あの頃のナベシネマの温さの象徴と目されかねなかつたのかも知れない十日市秀悦は、個人的には次作の「美咲レイラ 巨乳FUCK」(脚本:山崎浩治/主演:美咲レイラ)や、「美人姉妹の愛液」(2002/脚本:山崎浩治/主演:美波輝海/二作とも林由美香共演)で撃ち抜いた不器用な純情が印象深く、決して嫌ひではないどころか、地味に好きな役者である。完全に話を明後日に飛ばすと、同様のポジションが関根―和美―組では、町田政則に相当する。
 最後に、セールスレディ・福俵満子シリーズの続篇が製作されなかつた最終的な所以は、翌年以降、渡邊元嗣が活動の場をオーピーに固定した点が決定的に影響したのか。


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