真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「お柳情炎 縛り肌」(昭和50/製作:日活株式会社/監督:藤井克彦/脚本:久保田圭司/原作:団鬼六/プロデューサー:樋口弘美/撮影:安藤庄平/照明:新川真/録音:福島信雅/美術:土屋伊豆夫/編集:西村豊治/音楽:月見里太一/助監督:加島春海/色彩計測:松川健次郎/現像:東洋現像所/製作担当者:青木勝彦/出演:谷ナオミ・東てる美・高橋明・風間杜夫・三亜節朗・織田俊彦・小島麻理・八代康二・雪丘恵介・中平哲仟・南ユキ・小林亘・溝口拳・北上忠行・伊豆見英輔・吉川真理・庄司三郎・山岡正義・賀川修嗣/刺青:河野光揚/技斗:田畑喜彦)。出演者中、小島麻理がポスターには小島マリで、小林亘以降は本篇クレジットのみ。クレジットはスッ飛ばす配給に関しては、事実上“提供:Xces Film”。
 花火が夜空を飾る、昭和初期の上州。一帯を束ねる石黒一家の江本銀次郎(三亜)は、火種を抱へる大組織・連合会の構成員を刺殺、親分の娘―拾はれて来たとする記述もあるが、劇中描写なし―で恋仲にあるお柳(谷)と別れの情を交す。一方、繋ぎが雑で判り辛いが後日、連合会の圧力を一笑に付す石黒一家の初代・石黒重吉(雪丘)は代貸の矢島辰也(高橋)が同伴してゐるにも関らず、フリーの無法者で、“赤ベコの三郎”の異名を誇る三郎(中平)の凶刃に倒れる。当人は学業を望むやうな優男でもあれ、二代目を託された弟・松夫(風間)の一人立ちも望みつつ、お柳は“燕返しのお柳”として各地の賭場で壷を振りながら、三郎を追ふ旅に出る。壷皿を伏せる谷ナオミの決め画に、筆致が微妙に心許ないタイトル・イン。ところが元々腑抜けな松夫が大地主・山村英三郎(八代)の娘・お美津(東)と恋に落ちたのもいいことに、連合会と通じた矢島は重吉は頑なに忌避した、女衒に手を染める。石黒一家の悪い評判を耳にしたお柳は、三郎捜しは一旦さて措き上州に戻る。
 辿り着ける限りの配役残り、吉川真理が多分、お柳が一度は見つけた三郎を仕留め損なふ件の女郎。小島麻理は女郎屋を仕切る矢島の情婦・桃子で、南ユキが足抜けしたものの再びトッ捕まる女郎・お花。織田俊彦は、矢島の右腕・健次、軽くニヒルな拳銃使ひ。他は、名つきでそこそこ活躍もする役なのだからポスターに名前を載せてやれよと思へなくもない、庄吉役の庄司三郎くらゐしか視認出来ない、闇堕ちしたカツオみたいな風貌。
 要は「緋牡丹博徒」(昭和43~昭和47)に、いはずと知れた「花と蛇」(昭和49/監督:小沼勝/脚本:田中陽造)で火の点いた、鬼六ブランドのサドマゾものを足して二で割つた次第。といつてしまへば、一言で片付いてもしまふ藤井克彦昭和50年第三作。物語的な目新しさなり見所は特にも何も全く見当たらないものの、両フォーマットとも過不足なく消化する、プログラムピクチャー・オブ・プログラムピクチャー、量産型娯楽映画の鑑ともいふべき一作。石黒改め事実上矢島一家の手に落ちたお柳に対する、コッテリとした責めで寧ろ不安を覚えるほどタップリと尺を費やした末の、僅かな残り尺をクライマックスの修羅場が駆け抜け、矢島に止めが刺されるや、殆ど息つく間もなくズバッと暗転叩き込まれる“終”の鮮やかさが清々しい。


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 「緊縛・白衣の天使」(昭和58/製作:獅子プロダクション/配給:新東宝映画/監督:中山潔/脚本:夢野史郎/企画:沢本大介/撮影:志賀葉一/照明:守田芳彦/音楽:こかつあつし/編集:酒井正次/助監督:滝田洋二郎/監督助手:房洲雅一/撮影助手:栢野直樹/照明助手:田端功/現像:東映化工/録音:銀座サウンド/出演:風かおる・麻生うさぎ・村井亜妃・早川祥一・長瀬恒幸・柳生敦子・牧村耕次)。出演者中、村井亜妃がビデオ安売王のVHSジャケには村井あきで、早川祥一が早川昇。そして柳生敦子に至つては谷山恵子、最早全然別人である、全体何処から湧いて来た名前なのか。
 サボテンに刺さつた剃刀を抜いて、また戯れに切る。東都病院看護婦・乾沙知子(風)の部屋にて、交際相手の同病院医師(出番の多さのビリング推定で早川祥一?)が、美容目的のサボテン食を沙知子に軽く勧めた上で開戦。絡みは中途で終了、サボテンを口にしてみる沙知子挿んで、疲れ果てた沙知子が寝てゐる東都病院ナースステーション。自堕落に少女マンガを読み耽る久保広恵(麻生)は、早川先生(仮名)の父親に捨てられた過去を持つ、多分ハイミスの婦長(柳生)にお小言を頂戴する、院内を巡回する沙知子の画にタイトル・イン。一号室の小川はるみ似の入院患者・アサカワ澄代(村井)から沙知子が採血する澄代の顔見せ噛ませ、縞模様のワンピースで帰宅途中の沙知子は、馬鹿デカいティアドロップと剃刀で武装した強姦魔・金田アキオ(牧村)に襲はれる。第三者の介入でその場は難を逃れた沙知子ではあつたが、以来縞模様を目にすると軽く錯乱する症状に苦しむ。にしては、金田と再会する件に際し、再びボーダーを着てゐたりする豪快な無頓着は理解に苦しむ。配役残り、消去法に力強く自身がない長瀬恒幸は、三号室のセンシティブな入院患者・ヨシミチ。早川先生(仮名)の全然パッとしない容姿に対し、ヨシミチはアイドル風の甘いイケメンなのが、覚束ないビリング推定を曇らせる。因みにあるいはついでに、再会した幸子の眼前、神経レプラ―劇中用語ママ―の発作で卒倒した金田が、二号室に入る。
 五十音順に石川二郎・友松直之・新里猛作・藤原健一が出会つたのが中山潔が代表の制作会社「ペンジュラム」といふ縁で、一昨年―八月二十七日逝去―には第十二回東京電撃映画祭で追悼上映された、昭和58年全五作中第四作。通算では全十一作作中第十作にあたり、以降中山潔は阿久津圭と名前を変へ、アダルトビデオに主戦場を移したらしい。
 脚本は、今なほ続く佐藤寿保とのコンビの印象が強い夢野史郎、ではるが。実は夢野史郎のデビューは中山潔第二作「指と舌ぜめ」(昭和55/主演:朝霧友香)で、以来中山潔映画の脚本の大半を担当したとのこと。となると、決してか別に相性が悪い訳でもなからう、にも関らず。如何にも夢野史郎らしい観念的な空気が、特に踏み込まれるでなく醸成されもしないまゝに、終ぞ物語らしい物語も殆ど起動せず。ヒロインが何となく狂気に呑み込まれる64分は、終始マッタリとした捉へ処のなさが兎にも角にも強い。小屋で触れてゐたならば、寝落ちず観通す自信はまづない、前の映画の寝起きでなければ。濡れ場も夕暮れ時みたいに薄暗い照明は兎も角、思ひ切つて引くほど遠くもなく力強く寄りもしない、中途半端な距離のカメラが概ねの定位置。純和風の美貌に、割と予想外のデローンとしたオッパイが魅を通り越した威力絶大の風かおるをビリング頭に擁してゐながら、この際映画の良し悪し如きさて措き、何故、何はともあれオッパイを抜かん!とフラストレーションばかりが募る始末。劇映画的にも裸映画的にも、全く同様に漫然と仕上げてみせるのも、ある意味均衡がとれてゐなくはない案外稀有な手腕といへるのかも知れないが、手で釦を引き千切つた方が余程早いやうにしか見えない、金田の切れ味鈍い剃刀が実に象徴的な一作である。

 一昨日はおろか一昨年どころでなく話は逸れつつ、jmdbを触つてゐて辿り着いた、東元薫の「緊縛!白衣の天使」(昭和53/脚本:宗豊/主演:北乃魔子)なる東映ナウポルノの存在には軽く驚いた。量産型娯楽映画が実際に滅多矢鱈と数撃たれてゐた、賑々しく麗しき時代がゆゑのミラクルの感がある。ここは是が非ともエクセスに第七弾で提供して欲しいのと、ビックリマーク緊縛が、東元薫(a.k.a.梅沢薫)にとつて当年全十九作中第十七作といふのが改めて凄まじい。


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 「好色透明人間 女湯覗き」(昭和54/製作:太平洋映画社/監督:山本晋也/脚本:山田勉/企画:大井武士/撮影:鈴木史郎/照明:斉藤正明/音楽:翔べない・アヒル/編集:田中治/記録:長江真弓/助監督:中山潔/監督助手:鈴木隆/撮影助手:仲本憲政・宮本良博/照明助手:佐藤正/効果:SMGROUP/録音:東映東京撮影所録音部/現像:東映化学/製作主任:井上諭斗志/出演:朝霧友香・梨沙ユリ・長谷圭子・中川夕子・木下留美・千葉久美子・高木あや・加藤美佐・大竹たか子・川野恵子・水瀬勇・加倉井和也・演劇舎蟷螂・たこ八郎・坂本昭・堺勝朗/透明技術協力:野上正義)。出演者中、梨沙ユリがポスターには梨沙ゆり―カタカナ表記は初めて見た―で、木下留美から川野恵子までと、演劇舎蟷螂は本篇クレジットのみ。逆にポスターには名前の載る鈴木勝が、本篇クレジットには見当たらない、誰なのか全然知らんけど。クレジットは割愛する配給に関しては、事実上“提供:Xces Film”。
 かうして見ると案外椙山拳一郎に似てゐなくもない、若きガミさんがショボ暮れて歩くファースト・カット。のつけから変に憔悴してゐる、カンバラ三郎(野上)の目下の悩みは猥褻なことを妄想すると、ワイセツ人間が脱け出して自身が消失するとかいふ、大分イッちやつてる強迫観念。三助みたいな造形の番台(たこ)が浴場の中にも入る女湯(木下留美から川野恵子までが女湯要員)に、クレジット起動。カンバラは昨晩の銭湯を回想、ザックリした光学合成で画面上は半透明の好色透明人間になつたカンバラが、女湯に闖入してタイトル・イン。時制が無造作に移動する粗い繋ぎはこの際等閑視するとして、昨今見舞はれる怪現象に塞ぐカンバラは、通りすがりのカップル・イクコ(長谷)とトシ坊(不完全消去法で加倉井和也?)が入るラブホに闖入。好色透明化してゐる間は一転矢鱈元気に、一回戦で轟沈したトシ坊を押し退けイクコを抱く。決められた夫婦生活の日も忘れ遅く帰宅したカンバラと、後妻の磨矢子(梨沙)のどさくさした濡れ場を経て、改めてくたびれるカンバラの前に、交通事故死した前妻・レイコ(朝霧)の幽霊が現れる。
 配役残り、トラッドの強度さへ錯覚させかねない喜劇顔が、今となつてはなほさら捨て難い堺勝朗は、精神と肉体が分離だの超能力だと、レイコとの死別後見るから聞くから不安定なカンバラに、気を揉む上司で課長のイソガヤ。中川夕子と多分水瀬勇は、一切信用しない―無理からぬ話でしかない―イソガヤに好色透明能力を実証すべく、カンバラが現場に誘ふ青姦カップル。そして坂本昭が、いよいよ心配したイソガヤが磨矢子も同伴させた上でカンバラを連れて行く、祈祷師のサイトウ。月蝕歌劇団の前身らしい演劇舎蟷螂は、女湯要員以外のその他エキストラか。
 山本晋也昭和54年第八作は、ロマポ的には前年の「透明人間 犯せ!」(脚本:桂千穂/原案:中野顕彰/主演:志麻いづみ)に続く透明人間もの。昨今Vシネでは俄かに隆盛らしい透明人間ものも、量産型娯楽映画畑には案外見当たらず、昭和43年には「透明人間エロ博士」を発表した関孝二―同年四作後に「覗く 透明のテクニック」とかいふのもある―の痴漢透明人間シリーズ全四作、「痴漢透明人間」(昭和52)・「痴漢透明人間 女・女・女 PART2」(同)・「痴漢透明人間 PART3 わいせつ?」(昭和54)・「痴漢透明人間 PARTⅣ 奥の奥まで」(昭和56/製作補:北村淳=新田栄)。ナベの「透明人間 極秘ワイセツ」(1989/渡辺元嗣名義/脚本:双美零/主演:浅野しおり)と来て、関根和美の「痴漢の手さばき スケベ美女の喘ぎ顔」(2008/主演:青山えりな)が目下の最終あるいは最新作。いとうまさおの「透明人間 処女精密検査」(昭和62/主演:中沢慶子)は、尺とかDMMのサムネ見るにVシネか、その内見てみるけど。
 外堀を清々しくスッ飛ばした透明人間譚は、スッ飛ばす加速感を増した上で幽霊譚に突入。兎にも角にも纏めるといふ概念そのものを忘れるレベルで物語は纏まりを欠き、ロマポだ山本晋也と有り難がるほどには特にも何も全く面白くはなく、腰から下を揺さぶる訴求力にも別に富まないものの、堺勝朗とガミさんが愉快に騒ぎ倒す一時間は、寝落ちるならば素直に寝落ちてしまへといふ程度には楽しめなくもない。あんまり面白過ぎて、シネフィルら外野も巻き込みワーキャー持て囃されるやうでは寧ろトゥー・マッチとさへいへるのかも知れない、気楽に観させて後には何にも残さない残させない匙加減があるいは絶妙な、プログラムピクチャーらしいプログラムピクチャーではある。

 公開当時のポスターに爆裂する名惹句が、“裸とともに現れ、湯気とともに消える”。画期的に洒落てはゐつつ、本篇中にさういふシークエンスは特段ない。


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 「未来H日記 いつぱいしようよ」(2001/製作・配給:国映株式会社、カレス・コミュニケーションズ、新東宝映画株式会社、O・H・C/監督:田尻裕司/脚本:増田貴彦・田尻裕司/企画:朝倉大介/プロデューサー:森田一人・松家雄二・福俵満/撮影:飯岡聖英/助監督:吉田修・松本唯史・伊藤一平/撮影助手:田宮健彦・山本宙/編集:酒井正次/録音:シネ・キャビン/現像:東映化学/タイミング:安斎公一/スチール:佐藤初太郎/応援:榎本敏郎/協力:《有》ライトブレーン、《株》日本映樹、《有》バック・アップ、志賀葉一、橋口卓明、細谷隆広、熊谷睦子、小峰千佳、小泉剛、小林康宏/音楽:面影ラッキーホテル 主題歌:『夏のダイアリー』 作詞:ACKY・作曲:ACKY・編曲:SONeY/出演:川瀬陽太・織原稜・川屋せっちん・小野弘美・佐藤幹雄・中浦安紅子・美輪めぐみ・羅門中・高梨ゆきえ)。企画の朝倉大介を先頭にまづはスタッフ、協力・O.L.H.を経て田尻裕司まで来たその後に、改めて俳優部が来るクレジット順に意表を突かれる。
 “1995年8月30日(水)”、洋菓子を手に商店街を歩く女の後姿。顔馴染のカレー屋の大将(羅門中=今岡真治)に声をかけられた鈴木悦子(小野)は、妹・智子の誕生日である旨答へる。いはゆるバックシャンで、口跡も素頓狂寄り。ところでその頃、十六になつた画期的にセーラー服が似合はない智子(高梨)の部屋には、ワンピースの誕生日プレゼントを携へた悦子の彼氏・佐藤健二(川瀬)が。悦子が前を通り過ぎる「恋する惑星」のポスターをわざわざ抜いた上で、智子と健二は対面座位に突入。その場に現れた悦子は洋菓子を投げつけ踵を返し、後を追ふ妹と彼氏の眼前、ベタなSE交通事故。ベチャッと健二に血糊を飛ばしてタイトル・イン、一濡れ場も一応こなし、ここまでアバンはそれなりに順調ではあつた。
 “5年後 2000年8月12日(土)”、五年前はリーマンだつた筈なのに、現在はドロップアウトしてプーの健二と、同居人でゲイの美容師の裕太(川屋)が、ベチャベチャ商店街を歩く。ゲイといふと美容師の紋切型を、昨今久しく見ない気がする。一方、本家未来日記の映画版上映館―八月十二日時点では、未だ封切られてゐなかつたみたいだが―前にて、待ち惚けを喰らはされる健二の彼女・美加(織原)の脇を劇場に向かふ、エッチな未来が書いてあり、その通りにしないと恐ろしいことが起こる。不幸の手紙的な「未来の日記」の都市伝説を投げる中浦安紅子と美輪めぐみ(最終的に、健二に二発目の血糊を飛ばすショートカットが中浦安紅子)と、映画を観て来た智子に、号泣してゐる智子幼馴染の彼氏・さとる(佐藤)が擦れ違ふ。続く美加と裕太が健二を取り合ふ悶着は蛇の足臭いが、総計一分半回すカットも積極的に悪くない。ともあれ水不足の夏の、“8月14日(月)”。健二が仕事に出る裕太を送り出すと、食事中の机上には何時の間にか、悦子の墓参りに行つた健二が、思ひがけない人と出会ふとする「未来の日記」が。その他辿り着けた配役、相ッ変らず健二と美加と裕太で無駄にガチャガチャする美容室に、「未来の日記」を健二宛の宅配便といふ形で届けに来る配達員は小泉剛。
 山崎浩治とのコンビは解消したのか、渡邊元嗣が2016年第三作・2017年第一作と二作続けて脚本家を増田貴彦と組んでゐるのに何気にでなくハラハラしつつ、DMMピンク映画chの片隅に潜り込んでゐるのを探しだした田尻裕司2001年第一作にして、前述したナベシネマ2016年第三作が十五年ぶりの電撃復帰作となる増田貴彦―アニメ・特撮畑を主戦場にしてゐる人らしい―のピンク映画初陣。個人的には大昔に故福岡オークラで観て以来、前後して駅前ロマンでも観てゐたかも知れないが、今なほ長く再見の機会には恵まれずにゐた。軽く話を戻して、「未来H日記」がDMMピンク映画chの“片隅に潜り込んでゐるのを探しだした”といふのは、直截なところタグづけがへべれけで、何処に何が紛れ込んでゐるのか大概手探りであつたりもする。辿り着く過程もそれはそれで楽しいので、ちやんとしろよとは別にいはん。
 閑話休題、増田貴彦は遅くとも90年代中盤には既にプロとして活動してゐるゆゑ、あとはといふか要はといふか、どれだけ田尻裕司が余計な手を入れて呉れたのかが鍵の責任回避なり弁解の余地は留保するにせよ、ナベシネマの今後が甚だ不安になつても来る出来。人の未来と文字通りの命運とを握るパラノーマルな飛び道具に導かれ、依然近所に暮らしてゐると思しき割には五年ぶりに再会した恋人を喪つた男と、姉を喪つた女。頑なに心を閉ざす智子に対し、美加や裕太との絡みも踏まへるに、全方位的に自堕落極まりない健二の造形が如何せん呑み込み辛い。田尻裕司の一般映画志向からすればそもそも論外である根本的な疑問点は強ひてさて措き、ピンク映画的には無邪気の範疇に押し込めて押し込めなくもない、ブラの中に蝉が入る小川欽也も真つ青なへべれけシークエンスよりも寧ろ、作劇上も素面の男女交際としても都合のいいことこの上ない、健二と美加の別れの一幕の方が一層度し難い。勿体つけて智子を絶句させながら、“8月23日”の「未来の日記」の内容を挙句その日に限つて見せない意味が判らないし、一旦出勤した智子が捌けたところで電話が鳴るや、傍らに置かれてゐたハードカバーが雑な繋ぎで「未来の日記」に変るカットも十二分に酷い、カメラワークでもつと幾らでもスマートに見せられたぢやろ。死の代償を懼れ、「未来の日記」が司る未来に従はうとする智子の姿は、相手役が自堕落に手足を生やしたが如き人物につき葛藤らしい葛藤が生じずドラマをゼロから拒み、にも関らず、出し抜けに手の平を返して土砂降る雨の中青姦カマしたかと思へば、元々クソな米米CLUBの劣化レプリカの主題歌―O.L.H.て、こんなバンドなの?―が流れ始めるラストは、ある意味綺麗にものの見事に万事休す。こんなに詰まらなかつたかな、とグルッと一周した清々しい感興を覚えかねないほどに詰まらない。ドリフ桶よろしく頭上から降つて来た、抜けた映画の底で脳天を痛打するかのやうな、小林悟でも観てか見てゐた方がまだマシ。“でも”とは何だ、“まだ”とは何事か。とまれここはひとつ、今後に際しては俺達のナベを信用するほかない、それか今作が何かの間違ひか。


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 「昇天の代償 あなたのゐない夜」(2016/制作:OKプロモーション/提供:オーピー映画/監督:小川欽也/脚本:水谷一二三/撮影監督:創優和/録音:小林徹哉/編集:有馬潜/助監督:加藤義一/音楽:OK企画/監督助手:植田浩行/撮影助手:髙橋章太・坂田牧也/スチール:本田あきら/録音所:シネキャビン/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:広瀬奈々美・朝倉ことみ・真野ゆりあ・世志男・平川直大・柳東史・山科薫・久須美欽一)。脚本の水谷一二三は、小川欽也の変名。
 外光が白々しく飛ぶのはこの期にいふてもせんない繰言として、章子(広瀬)が別に全然ラブラブな風情で送り出した、最早昼過ぎと文字通りの重役出勤を爆裂させる会社専務の吉田功(世志男)に、ベレーな柳東史が接触する。『週刊フレッシュ』誌記者の小山克巳(柳)が取材してゐるのは、一ヶ月前に起こつたとの強姦事件。「強姦・・・・!?」と、世志男がアグレッシブに訝しんでタイトル・イン。タイトル跨ぐと、章子も交へ、吉田は小山を家に上げる。この御仁、会社には行かんのか。何の容疑かは兎も角逮捕後の自白通り、宝石セールスマンの森田(山科)に、章子は犯されてゐた。山科薫の小川組出演は何時以来なのか正確なことはいへないが、恐らく二十年前後ぶりの、力強く久ッ々ともなるのではあるまいか。小山を追ひ返した吉田は、返す刀で章子にも激昂、改めて家を飛び出して行く。吉田はそのまゝ一週間の香港出張を電話で言明、投げやりに勧められた―東京で撮影してゐるのか否か微妙な―実家に章子が帰つてみると帰つてみたで、工場を経営する父親の小川和久(久須美)には吉田に融資の保証人になつて呉れるやう求められ、当然章子が窮してゐると、妹の美沙(朝倉)からはぞんざいに匙を投げられる。ところで小川欽也前作「エロ番頭 覗いてイヤン!」(2015/主演:広瀬奈々美)から復帰第二戦となる、俳優部に於けるリビング・レジェンド筆頭格の久須美欽一。口跡にはいふほどの衰へを感じさせないものの、殆ど開かない左目が正直地味に痛々しい。今度は美沙に振られたピンボール感覚で、章子は吉田の別荘に赴く。

 てな訳で、伊豆。

 勿論物件的には御馴染白壁の宿「花宴」の敷居を跨いだ章子を、平素の別荘番のをばさんは入院中とやらで、離婚して元嫁に家を追ひ出されたゆゑ、専務にお願ひしたとかいふ若杉英二(平川)が迎へる。その夜深く、寝つけずにもう一風呂浴びるかとしたところ、その時先に入つてゐた若杉の、といふか要はナオヒーローの逞しい肉体に、章子はケロッと発情する。
 配役残り、厳密にいふと登場順は小川父娘に先行する真野ゆりあは、専務秘書ぽくは凡そ見えない、兼愛人の川上留美、吉田の香港行にも同行する。序盤で三番手が、主人公と配偶者との間に広がる溝の外堀を埋める段取り込みで、一発もとい一戦こなすとヒット・アンド・アウェイで潔く捌けるのは、麗しく順当極まりなかつたのだが。
 女は兎も角映画を撮るのに車だの拳銃なんて要らねえ、伊豆に行けば十分だ。年一本ペースで小川欽也が天衣無縫に切り拓く独自の境地、愚地克巳風にいふならばピンク映画界の最終フォーマット・伊豆映画の最新作。今作何が素晴らしいといつて、花宴に入つて早速翌日。壊れてもゐないエアコンの調子が悪いと、ネグリジェ姿のまゝ若杉を自室に呼んだ章子は、「暑いの」と脱ぎ始め惜し気もなく片乳ポロリ。「アタシのこと好きにして」、「メチャメチャにして」と最短距離のキラーフレーズを連打しながら突入。女優部男優部双方の息が合ひ、演出部と撮影部も完璧に噛み合つた、2016年最もエモーショナルなのではないかとさへ見紛ふ、情熱的にして官能的、かつ気取つて小洒落てみせるでなく即物性も失はない、広瀬奈々美と平川直大による濡れ場が兎にも角にもエクストリームなまでに素晴らしい。ついでにかそもそも、デビューから小川組―「若妻覗き 穴場の匂ひ」(1998/脚本:八神徳馬/主演:川島ゆき/平川ナオヒ名義)―のナオヒーローに至つては、女が暑いだ何だとザクザク脱ぎ始めるのに目を丸くする、グルッと一周したポップかルーチンが前衛性の領域にをも突入しかねない、濡れ場の導入を幾度被弾してゐるといふのか、あと竹本泰志やなかみつせいじも。何はともあれ伊豆映画である以上当然、二人でラブラブ仲睦まじく伊豆の景勝地を巡る、観光パートの出来栄えも絶品。起承転結如きどうでもええからこの二人が幸せになればいいのにと、心から思へる爽やかにして確かな手応への幸福感は、伊達や酔狂もしくは方便なり与太の類ではなく、今上御大が城定秀夫や山内大輔ら若造を片手でクイッと捻らん勢ひの、近年屈指至高の到達点。腰から下も首から上も大満足、ハートも射貫かれ、かけたけれど。誰の意思がどの時点から働いてゐるのかがよく判らない、大雑把な姦計が出し抜けにアバランチ。卓袱台を無造作に引つ繰り返すどころか粉砕してのけるドライな破壊力は、大御大・小林悟とも紙一重。ところが今回の小川欽也は、まだ止まらない。ヒロインの去就が良くも悪くも綺麗に決したのちに、幾ら後述するオーラスを取つてつけるとはいへ、完全に時機を失した朝倉ことみの絡みに、残り尺十分を丸々費やす。流石に女の裸を銀幕に載せるのが何はさて措いてもなジャスティスのピンク映画にせよ、あまりにも破綻した構成には流石に度肝を抜かれた。大御大や同じく古くて悪しき量産型娯楽映画の権化と世間一般的には目されてもゐる、無冠の帝王・新田栄でも、ここまでの無茶は仕出かさなかつた、多分。三上紗恵子に脚本を書かせた三番手投入のタイミングがへべれけな荒木太郎ですら、斯くも派手にはやらかさなかつた。とこ、ろが。よくよく冷静に吟味してみると、朝倉ことみの絡み―絡み自体は、熱のこもつた非常に見応へあるもの―に、費やしたのが残り尺十分といふのが実はポイント。残り尺十分といふのは、即ちピンクのデジタル撮影移行によつて何故か生じた、いふならばきのふけふの余剰。色んな意味で無体なラストには目を瞑るとすると、あくまで広瀬奈々美ただ一人に注目し朝倉ことみはいつそ等閑視した場合、逆OPP+的に六十分で切つてしまへば寧ろ完璧な、時代に反旗を翻す逆進的な革新性が、馬よりも速く駆ける、立派過ぎる蛇足を通して透けて見えて来もするのではなからうか。オガキンがそんなこた考へちやゐねえよ?うるさいな、いはずもがなは黙つてて呉れないかな。一見何ともなくのんべんのんべんしかしてゐないやうに見せて、最新伊豆映画は今上御大がピンク映画の現状に根本的な一石を投じる、案外スリリングな論争の的たるべき一作である。牽強付会を、極めた気がする。

 何はともあれ、新しい女に生まれ変らうと、章子が溌剌とフッきれるオーラス。カット頭章子の左手画面右に、本当に全く何の意味もなく―純然たるその他通行人に過ぎない―加藤義一がシレッと見切れてゐるのは、全体誰が喜ぶサービス・ショットなのか。


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 「高級ソープテクニック3 快感天国」(1993/製作・配給:新東宝映画/脚本・監督:鈴木敬晴/撮影:稲吉雅志・片山浩・難波俊三/照明:隅田浩行・荻久保則男/助監督:森山茂雄/音楽:平岡きみたけ/編集:雄龍舎/録音:ニューメグロスタジオ/効果:協立音響/ネガ編集:金子尚樹/現像:東映化学/出演:岡本亜衣・林かづき・伊藤清美・西野奈々美・牧村耕次・木下雅之・久須美欽一・平岡きみたけ・芳田正浩・森山茂雄・清水大敬)。これクレジットが現像の東映化学をスッ飛ばすのは、VHS版だからなのか?ジャケには記載されてゐるのに(´・ω・`)
 ソープランド「ハッピーエンド」の店長(牧村)が嬢募集の求人に応募して来た電話を取るのと、嬢・なつみ(西野)と常連客(久須美)のプレイが並走。股間から手を差し込まれ、尻を洗はれる久須りんの背中にタイトル・イン。面接のアポを翌日に指定した香澄(岡本)は、時折襲はれる頭痛の伏線を蒔きつつ、幼少期のものと思しき男児とのスナップに、「頑張るからねゼッタイ」と語りかける。因みにその男児が香澄の何なのかは、最後まで一欠片も語られない。香澄が電話をかけてゐた所在地といふのが、まさかの宮城。三年のお務めを終へ親分ルックで出所する兄貴?(清水)を、香澄が出迎へる。徒に固有名詞をバラ撒きながら、二人が勝手に進める会話を仕方がないのでこちらで整理すると、香澄と清大は恐らく実の兄妹ではなく、同じ施設育ち。何かよく判らんけど施設は存亡の危機に陥つてゐるらしく、存続させるために必要な三千万を作るべく、香澄は東京の射精産業に飛び込む腹を固めた次第、なのだと思ふ、大体。香澄に同伴して「ハッピーエンド」の敷居を跨いだ清大は、如何にも清水大敬らしいガハハハハ!なメソッドで藪から棒な社長風を爆裂、牧村店長に加へボーイの羽山(木下)を閉口させる。
 配役残り林かづきは、劇中もう一人の「ハッピーエンド」嬢・えりか。平岡きみたけと芳田正浩は、待合室で居合はせる「ハッピーエンド」客要員。一応マサ芳田が対香澄で、平きみが林かづき一幕限りの濡れ場を介錯する。伊藤清美は、香澄が働いてゐる間清大が時間を潰す、スナックか喫茶店のミストレス。実はイトキヨも元泡姫で店はソープの紹介所も兼ねてをり、背中しか見せない森山茂雄が、情報を求め来店する男。繰り返すと林かづきが脱ぐのは一度きりで、実は伊藤清美は脱ぎもしない。と、なると。開巻と牧村店長が役得を満喫する香澄実地講習の二度濡れ場を務めた上に、オーラスまで含めそこそこの重きをドラマ・パートに於いても担ふ、にも関らずな、西野奈々美のビリングの低さがどうにもかうにも呑み込めない最大の謎。
 1993年第二作で、先行する鈴木ハル名義の三作含め、全十三作の単独監督作を網羅する鈴木敬晴映画祭最終章。に、入る前に。「高級ソープテクニック」のナンバリング第三作といふことで、ソープテクニック映画の系譜を纏めてみるかとしたところ、これが案外といふか無駄にといふか、ともあれあれこれやゝこしい。まづは1990年上野俊哉の、「最新ソープテクニック」(撮影:西川卓/主演:杉本笑)。一月に封切られた上野テクニックが好評を博したのか、八月にはサトウトシキによる「最新ソープテクニック2 泡姫御殿」(主演:小川さおり)。年を跨いで片岡修二の「高級ソープテクニック 究極の快楽」(1991/主演:栗原早記)が、「高級ソープテクニック」無印第一作。翌年には北沢幸雄の「特殊ソープテクニック 濃密プレイ」(1992/脚本:笠原克三/主演:英悠奈)と、再び片岡修二の高級第二作「高級ソープテクニック2 個室欲情」(1992/脚本:瀬々敬久/主演:栗原早記)。1993年の今作「快感天国」を経て更に翌年の「高級ソープテクニック4 悶絶秘戯」(1994/監督:瀬々敬久/脚本:羅漢三郎=瀬々敬久・井土紀州・青山真治/主演:栗原早記)が、ソープテクニックの打ち止め、とはならず。1995年には今上御大が和久時代に新東宝から最新ソープテクニックを大蔵に強奪してゐたりするのが、現状各種ソープテクニック最終作となる―新版畑のことは知らん―「最新ソープテクニック ねつとりご奉仕」(1995/監督:小川和久/脚本:水谷一二三=小川和久/主演:早川優美)。この中で、サトウトシキの「泡姫御殿」と、強奪ソープテクニック「ねつとりご奉仕」の、1998年新版「泡姫極楽昇天」がDMMピンク映画chに入つてゐるゆゑその内見てみよう。
 「快感天国」に話を戻すと、ただでさへ五十七分弱しかない上に、スレンダーな体躯と同様芝居の細い主演女優を押し退け清大が豪快に尺を喰ふにしては、高級―かどうかは兎も角―ソープではこんなことをして貰へます的な、特殊浴場にて提供される性的サービスの数々は、三本柱各々が随時披露して呉れる。香澄の重病フラグはそれなりに手数を丁寧に重ね、イトキヨのアシストも借り清大が募らせる、兄貴といふかより直截にはヒモの悲哀も綺麗に形になる。香澄と羽山が結ばれるドラマチックな絡みは、力技にせよクライマックスたる強度を有してゐた、かと思ひきや。棚から三千万と西野奈々美が転がり込んで来る、まさかの清大・テイクス・オールなハッピーエンドには度肝を抜かれた。最終的に一体主役は誰なのか覚束なくなつても来る底の抜けた作劇はチャームポイントの枠内に押し込んでしまへば、従順にソープテクニック紹介といふコンセプトに則した麗しさと、何だかんだで全体的には南風薫る仕上りは、量産型娯楽映画としてそれなりに手堅くなくもない。改めて鈴木敬晴全十三作の総覧を試みると、処遇に困つた登場人物はアメリカに放り込む単独デビュー作「昼濡らす人妻」(1989/鈴木ハル名義/主演:川奈忍)。最後はあつけらかんと抜けてみせる観念的ピンク「人妻 口いつぱいの欲情」(1989/鈴木ハル名義/主演:川奈忍)と、誰が誰に痴漢してゐるのか判らなく、かつ画期的に名前負けした脱線痴漢電車「欲望といふ名の痴漢電車」(1990/鈴木ハル名義/井元史郎と共同脚本/主演:小川真実)の鈴木ハル期で既に、顕著な特徴は大方窺へなくもない。再度処遇に窮した登場人物はアメリカに放り込む、鈴木敬晴名義初陣「痴漢電車 柔らかい肌」(1990/主演:滝沢薔)。濃密ではあるけれど、最終的には呆気なく無体な悲劇「熟女 濃密な前戯」(1990/主演:但しアテレコの小川真実)。オーラスの蛇の足が邪魔な一旦は綺麗に纏まる観念論ピンク「悶絶!快感ONANIE」(1991/主演:南野千夏)と来て、相ッ変らず誰が誰に痴漢してゐるのか判らない痴漢電車「痴漢電車OL篇 愛と性欲の日々」(1991/谷中康子と共同脚本/主演:岸加奈子)に、煮ても焼いても食へない―しかも清水大敬に叫ばせる―青臭い映画愛「実写本番ONANIE」(1991/主演:五島めぐ)。かうして並べてみると、「愛と性欲の日々」と「実写本番ONANIE」が二作連なるワンツーの威力が結構比類ない。1992年は惜しいところまで攻め込むなり損ねた傑作サスペンス「官能団地 悶絶異常妻」(1992/主演:栗原早記)、単品では鈴木敬晴史上最大の破壊力を別に誇れない木端微塵の観念論ピンク「現代猟奇事件 痴情」(1992/主演:浅野桃里)。そして最終年の1993年が、ありがちな都会の片隅系の悲恋物語「本番裏快楽」(1993/主演:但しアテレコの林由美香)と今作を経て、コッテコテでオーソドックスな、量産型娯楽映画らしい量産型娯楽映画「本番夫婦 新婚VS熟年」(1993/主演:桃川麻里子・藤沢美奈子・小川真実)。要はある意味順調に右往左往してゐた映画青年が、今回何某かフッ切れた末に、次作でとりあへずの有終の美を飾つた。有体かも知れないが、ひとまづさういふ作家個人史が成立し得るのではなからうか。


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 「美人妻覚醒 破られた貞操」(2016/制作:関根プロダクション/提供:オーピー映画/脚本・監督:関根和美/撮影:下元哲/照明:代田橋男/助監督:加藤義一/編集:有馬潜/監督助手:小関裕次郎/撮影助手:榎本靖/録音:シネキャビン/スチール:小櫃亘弘/選曲:山田案山子/仕上げ:東映ラボ・テック/効果:東京スクリーンサービス/出演:水稀みり・玉城マイ・緒川凛・津田篤・山本宗介・SHIN・なかみつせいじ・竹本泰志)。出演者中、SHINは本篇クレジットのみ。それと前作に引き続き、東スクが東ラボよりも後に来る謎位置が、この期に及んで目新しい。
 引越し荷物の未だ片付かないマンションの一室、北島あおい(水稀)が台所で洗ひもの。ベンチャー企業社長の夫・海斗(津田)との、海外ぽい新婚旅行のスナップ噛ませて、劇伴が鳴り始めるや昨夜の夫婦生活回想。海斗が戯れに持ち出したローターを、あおいは拒む。一週間の海外出張に向かふ海斗を送り出し、洗ひものに戻るあおいの後姿に重なるタイトル・イン。強迫的にゴミ出しに難癖をつけるファースト・カットは別に不要なやうにも思へつつ、あおいは隣人のマンション自治会長・寺田芳江(緒川)に、芳江のデイトレーダーの夫・正之(竹本)も交へてのディナーに招かれる。ワインに轟沈、寝落ちたあおいが目覚めると、芳江と正之は色んな意味で重量級の一戦の真最中。誘き寄せられるやうに覗いてみたあおいを、芳江が捕獲、あおいは二人に嬲られる。ところがあおいが再び目覚めたのは、自室のベッドの上。寺田家での一幕は、果たして実際に起こつた出来事なのかはたまた淫夢の類に過ぎないのか。出先から送られて来るLINEでは海斗に芳江との交際を勧められる一方、あおいは桃色方面に虚実が混濁する心身の不調に苦しむ。
 配役一部残り玉城マイは、あおいとは職場に入つて来た派遣といふ形で出会つた、海斗の妹・さやか。当然、さやかが兄貴をあおいに紹介したのが、二人の馴初め。玉城マイ自身に話を戻すと初参戦した加藤義一2015年第三作「絶頂家族 愛人だらけ」(脚本:後藤大輔/主演:めぐり)、実質三番手で何気な輝きを放つた俊英の再ピンクには大いに期待したものの、今回は目立つた戦果を残せず。山本宗介は、さやかの夫・前川樹。遣り取りが微妙に判別し難いが海斗の同級生か後輩で、海斗の会社には起業時より参加、目下は“片腕”と無頓着に連呼される副社長。なかみつせいじは前川に乞はれあおいが御馴染「アラン・ド」で落ち合ふ、さやかを喰ひ物にする街金業者とかいふ原口純一郎。徹頭徹尾単なるそこら辺の好色漢にしか見えない原口の造形は、後述する巧みに大化けする竹本泰志と対比すると尚更、結果論的には粗雑に映る決して小さくはない穴。
 関根和美の愛妻・亜希いずみの連続加勢は三作で途切れた、2016年関根和美、最終なのに僅か第二作。当サイト―恐らく―最後の悲願、ハンドレッド・関根和美は矢張り結構高い壁なのか。ルックスは昭和だがいいオッパイの主演女優を擁し、ヒロインがお隣にセクシュアルに苛まされる物語は、2011年第三作「援交強要 堕ちた人妻」(金沢勇大との共同脚本/主演:水沢真樹)に似た一作か、あるいは開巻のジョイトイ忌避を想起するに、最後にやらかすけれど川井健二名義の1995年第二作「ザ・夫婦交換 隣の若妻の味」(森満康巳との共同脚本/主演:浅野桃里)なり、吉行由実2015年第二作の革命的女子トークピンク「お昼の猥談 若妻の異常な性体験」(主演:奥田咲)といつた、性的に晩熟な新妻が一皮剝かれる定番作かと、一旦は思ひきや。芳江は特に理由もなく正之秘蔵のワインを、海斗は父親の遺言だとか訳の判らん方便で青汁を共々飲むことを拒み、あおいのみがそれらを摂取する。デジタル時代に突入し十分延びた尺を丁寧に使ひ、案外外堀は十全に埋められてゐなくもない、にせよ。黒服に装ひを変へ表情もソリッドに一変させた竹本泰志の突破力頼みで、出し抜けに撃ち抜かれる衝撃だか豪快な大風呂敷には度肝を抜かれた。トムとジェリー風に顎が地面に着くまで口は塞がらず、腰骨は原子レベルに砕かれる。映画全体の粒が極微であるだけに、一見ポカーンとかサラッと通り過ぎがちになつてしまひかねないのやも知れないが、大ッ概な破壊力。関名和美が、久し振りに本格的にやらかして呉れやがつた。深澤浩子とのコンビで何もないところで安定してゐる加藤義一や、全体この御仁は大丈夫なのかと荒木太郎が心配にすらなつて来る問題作を捻じ伏せ、2016年裏ランキングの最有力候補に躍り出る怪作である、愉快の快作でもいい。

 改めて本当に配役残りラストに飛び込んで来るSHINは、街頭ベンチでデイトレードの入門書を読んでゐたところ、俄かに起動したあおいから迫られ恐れをなして逃げる初老のサラリーマン。それ、

 戻してやらんのか

 といふのが、如何にも関根和美らしい無造作さで放置される巨大なツッコミ処。

 もうひとつ、あおいが芳江からダイエットに効果的とお裾分けされた青汁を、海斗に報告する件。一笑に付す海斗が投げた“信憑性w”の一言は、関根和美がさりげなく内角を抉つたキラーワード。
 衝撃の大風呂敷< ビリング順にさやか・芳江・海斗・樹・正之は全員秘密工作機関(笑)のメンバーで、海斗が打つた下手で全員に及んだ命の危機を回避すべく、次期首相候補の原口を失脚させる蜜罠にあおいを仕立てあげる


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 「淫暴の夜 繰り返す正夢」(2016/制作:VOID FILMS/提供:オーピー映画/脚本・監督:山内大輔/特殊メイク・造形:土肥良成/撮影監督:田宮健彦/録音:大塚学/編集:山内大輔/音楽・効果:Project T&K・AKASAKA音効/助監督:江尻大/特殊メイク・造形助手:大森淳史・鈴木雪香、他/美術:堀千夏/撮影助手:高嶋正人/演出部応援:西山太郎/制作:沼元善紀・木村政人/スチール:本田あきら/エキストラ:羽野実・羽野軍団/協力:株式会社TRIDOM・はきだめ造形・スナックちばる・日活スタジオセンター/仕上げ:東映ラボ・テック《株》/出演:朝倉ことみ・涼川絢音・川瀬陽太・里見瑤子・黒木歩・竹本泰志・岡田智宏・山本宗介・太三・マサトキムラ)。
 最初に片付けておくと、タイトルが入るのはエンド・クレジット、まづは山内大輔、朝倉ことみ・涼川絢音と来て、川瀬陽太の直後にタイトル・イン。その位置で狙ひ澄ますのであれば、幾らピンク映画に於ける女優部とはいへ、涼川絢音のビリングがひとつ高いやうな違和感を覚えた。タイトル明けの改めて頭の方が、寧ろか余程しつくり来るやうな気がする。
 吉川(川瀬)が毎晩見る夢の体裁で、三ヶ月弱前封切られた前作「性辱の朝 止まらない淫夢」のハイライト。吉川が海岸でプロポーズした妻・ユリ子(朝倉)の右肩甲骨下には、幼少時に大手術を受けたとかいふ大きな傷跡があつた。二人で映画を観に行つた上野特選劇場、眼前で背広姿の斬殺魔(太三)に殺されるユリ子を、吉川は救ふことが出来なかつた。ところで太三の登場は、その件のバンクのみ。
 劇中現在時制に着地、表で茶を挽く連れ出しスナックのママ・フジコ(里見)に、左足を曳き摺る吉川が捕まる。客(マサトキムラ)と一戦終へた、左肩甲骨下に大きな傷跡のある鈴木美月(朝倉ことみの二役、といふか今作では美月が一役目)が店に顔を出すも、既に吉川は酔ひ潰れてゐた、フジコはその日はもう観念して店を閉める。美月が一緒に暮らす両親は・・・・といふか直截にいふと、“何だこれ”。辛うじて男女の顔らしきパーツが認められもするものの、北部九州の旗艦館・有楽映画劇場の、暗い画面に結構致命的な弱さを露呈するプロジェク太による映写に良くも悪くも足を引かれ、何がどうなつてゐるのか殆ど判らない。とりあへず大人二人分は確かにありさうな、苦し気にウーウー唸つてもぞもぞ動く巨大な肉塊が、美月の両親。血にしては薄い、赤い液体が水槽の中でコポコポいつてゐる装置が両親には繋がれてゐた。
 配役残り岡田智宏は、美月が昼間は看護婦として働く「さとう形成クリニック」の院長・佐藤。両親の生命維持装置に金のかゝる美月は佐藤の愛人も務め、佐藤はおがくずの代りに短冊状に裁断した新聞紙を詰めた飼育ケースで、謎の小動物を育ててゐた。涼川絢音は佐藤の妻・ミカヨ、切断された左耳の治療にさとう形成クリニックを訪れたのが、二人のミーツ。竹本泰志は大蔵信販から美月の債務を譲り受けた、「高橋エンタープライズ」社長の高橋。吉川の高校サッカー部後輩でもあり、ドロップアウトした吉川に借金取り立ての仕事を与へる。山本宗介は、仮称高橋組推定若頭の真木。まさかで里見瑤子が脱がず、この人が三番手の黒木歩は、高橋の情婦・ユカリ、ヤク中。エキストラ勢は、サタンの足の爪ばりの扮装で里見瑤子がキレッキレに弾け倒す、SMクラブの客くらゐしか見当たらない。
 前述した「性辱の朝 止まらない淫夢」と前後篇二部作を成す、山内大輔2016年第二作。剥き出されたバイオレンスとバッド・テイストとが狂ひ咲く、山内大輔の伊達でないスーパーダーク路線が裸映画的には甚だ実用性が低いのは、通常運行とここではさて措く。伝統的な大蔵映画らしさとの親和齟齬に関しても、オーピーに一社気を吐いて貰はぬことには始まらない、この期にどうかういふ議論でもなからう。いや別に、今年は精一杯の健闘を見せるエクセスや、完全に死に体の新東宝にも、大復活して呉れるならば勿論全然超歓迎だけれど。
 話を戻して、止まらない悪夢を断ち切る極大の意思とアクションを見事に撃ち抜きつつ、風呂敷は勝手放題に広げたまゝ散らかしぱなしの「性辱の朝」を経ての、「淫暴の夜」。吉川が死別したユリ子と再び巡り会つては、又しても切り裂かれる。悪夢が混沌と連鎖する前作から半ば自動的に誘導され得よう、先入観的なパラレル―佐藤夫妻の馴初めで、揺らぎかけなくもない―が無理も二世代繋げると逆に呑み易くもなるのが不思議な大技中の荒業で崩壊、二作が連続したひとつの世界に統合される件の強度が、何はともあれ圧倒的。凄い映画を俺は観たと、小屋の椅子の上で引つ繰り返つた。一度は文字通り分ち離された姉妹が、再びひとつになる比類ないエモーションも素晴らしい。山本宗介が忠誠心と戦闘力の高さとを静かに漲らせる顛末の着地点は、それはそれで仕方がない。ところがさうなると最終的に、公開題に即してゐるともいへ、エンドレスなラストはそんなにこの物語を完結させたくなくてさせたくなくて仕方がないのかと、蛇の足感も否めない。とまれ総合的には微妙に兎も角、二作共々一撃の威力は圧巻。次作ではシリアスな無言劇に挑む山内大輔が、一転2017年はライト路線を快走してゐる風―後付:さうでも、ないみたい―で、それもまた凄く楽しみ。誰それの新作―もしくは、未見の旧作―なり何それの映画を早く観たいといふときめきが、ある意味愉楽の最たるものであつてもみたり。


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