真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「痴漢バス2 三十路の火照り」(2002/製作:多呂プロ/提供:オーピー映画/監督:荒木太郎/脚本:内藤忠司/撮影:前井一作・横田彰司/編集:金子尚樹⦅フィルムクラフト⦆/制作:小林徹哉/助監督:下垣外純・井上久美子・斉藤ます美/スチール:縄文人/音楽:YAMA/パンフレット:堀内満里子/録音:シネキャビン/現像:東映化学/協力:佐藤選人/出演:佐々木麻由子・佐倉萌⦅二役⦆・鈴木ぬりえ・縄文人・山咲小春・螢雪次朗/エキストラ:西川方啓・内藤忠司・ヒロ・大町孝三・森山茂雄・染屋冬香とその仲間たち・松岡誠・瀬戸嶋勝)。出演者中佐倉萌の二役特記と、エキストラのうち内藤忠司から瀬戸嶋勝までは本篇クレジットのみ。エキストラの正確な位置は、縄文人と山咲小春の間に入る。そして影も形も出て来ない太田始が、何故かポスターに載せられてゐるありがちなフリーダム。
 女の喘ぐ口元、音声による睦言の代りに、原文は珍かなで“こゝが感じるのを君に教へたのは誰かな?”、“アア・・・・さあ、誰だつたかしらアア・・・・”。露悪的に下品な筆致の手書スーパーで画面を汚す、全く以て余計な意匠の極みでしかない、木に竹も接ぎ損なふクソ以下の無声映画演出で開巻即、逆の意味で見事に映画を詰んでみせる。それはそれ、これはこれの精神で断ずるが矢張り荒木太郎は、底抜けの粗忽者にさうゐない。勿体ぶつて小出しする関係性を、最初に整理しておくに如くはない気も否み難いのはさて措き。互ひに結婚を一度失敗した者同士、各々の仕事優先、束縛し合はない付き合ひを旨とする、家具デザイナーの由紀みどり(佐々木)と弁護士・佐藤繁(螢)の逢瀬。事後、仕事を方便にみどりをバス停で降ろした佐藤は、何故か「肉体の門」に出て来るパン女みたいなカッ飛んだ造形の、天野早紀子(佐倉萌の一役目)を拾ふ。交差点に存する、結構あり得ないロケーションの停留所からみどりが乗車したバスに、助手席が早紀子に代つた佐藤の車を揶揄つて来たばかりの、拓人(山咲)も乗り込みみどりに痴漢する。ところで拓人とあるやうに、今回山咲小春(ex.山崎瞳)は男装の類でなく純然たる男子設定。女を責めこそすれ、自らの擬装を解除して乳尻を拝ませはしない。暫し観た覚えがないのは単に忘れてゐるだけかも知れないが、女優部に男を演じさせる派手な力技がかつては松岡邦彦2009年第二作「男で愛して 女でも愛して -盗まれた情火-」(脚本:今西守=黒川幸則/主演:MIZUKI)や、下元哲名義での最終作「養老ホームの生態 肉欲ヘルパー」(2008/脚本:関根和美/主演:Asami=亜紗美)。片山圭太最終作「私が愛した下唇」(2000/脚本:関根和美/主演:里見瑤子)等々、探せばちらほら見当たる。と、いふか。一本思ひだした、荒木太郎の現状最終作「日本夜伽話 パコつてめでたし」(2017/主演:麻里梨夏)にて、端役ながら淡島小鞠(a.k.a.三上紗恵子)が荒木太郎を配下に従へ、Ave Maria少年総統に扮してゐた。
 配役残り、エキストラは潤沢な痴漢バスの乗客要員。何時ものマイクロバスでなく、車体に小田急とか書いてある本格的な車輛も用立てる、妙に気合の入つたプロダクションが何気に謎、何処からそんな金が出て来たのか。縄文人は、みどりが図面を引いたインテリアの、製作を担当する家具職人・小山内多呂。小山内の作業場とみどりの自宅は、a.k.a.比賀健二の縄文人が本当に自力でオッ建てた、道志村のpejiteで撮影される。のは兎も角、多呂が行く末に気を揉む、高校を中退した倅が拓人であつたりするのが、まゝある劇中世間の器用な狭さ。一言で結論を先走ると、要は藪の蛇を突いてばかりの一作にあつて、佐倉萌の二役目は職場に於けるセクハラ被害を―人権派を自認する―佐藤に相談してみたところ、モラハラ紛ひの半ば叱責を喰らふ依頼人。視点が正面に回り込む際には、距離と照明とで上手いこと誤魔化して、ゐるけれど。当該件が物語の本筋に1mmたりとて掠るでなく、何でまた何がしたくて、デュアルロールをわざわざ仕出かしたのかは知らん。拓人に心―と体―を移したみどりから電話で別れを告げられ、愕然とする佐藤に背後から歩み寄り声をかける荒木太郎は、佐藤が訴訟の応援に入る法学部の同級生。見るから走らなさうなジオメトリのビーチクルーザーが調度された、拓人がみどりに羞恥プレイを仕掛けるレストランのテラス席。離れたテーブルから二人を訝しむ男女のうち、男の方は佐藤選人。大胆にもエピローグまで三番手を温存する、鈴木ぬりえはみどりに捨てられた拓人が、バス痴漢に及ぶ女子高生、エモいオッパイ。
 サブスクの中に未消化の荒木太郎旧作を残してゐた、虱潰しも遂に完了する荒木太郎2002年第一作。実は荒木太郎の梯子を手酷く外して以降も、大蔵は旧作の新規配信を行つてをり、先に軽く触れた「日本夜伽話」に至つては、「ハレ君」事件から実に三年後の2021年に配信されてゐる。目下、未配信の旧作が指折り数へて計八本。せめてもの罪滅ぼしに、随時投入して呉れて別に罰はあたらないんだぜ、つか滅ぼせてねえ。
 結果的に引退なんてしなかつた、佐々木麻由子の引退作といふ側面に関しては、この期に採り上げる要も特に陽極酸化処理、もといあるまい。大人の男との、双方向に便利な間柄に草臥れかけた大人の女が、偶さか邂逅した魔少年との色恋に溺れる。所謂よくある話を、無駄にトッ散らかしてのけるのが荒木太郎。既にあれこれ論(あげつら)つておいた、ツッコミ処で全てだなどと早とちりする勿れ。闇雲なテンションで見開いた大きな瞳でみどりを見詰め続ける、拓人は魔性を頓珍漢に強調か誇張したのが諸刃の剣、限りなくたゞの壊れものと紙一重。聾唖をも思はせる反面、女の扱ひには異常に長け、徒走で路線バスに追ひ着く、大概な剛脚も誇る。みどりと、後を尾けて行く拓人が画面奥に通り過ぎた歩道から、カメラが街路樹を跨ぐと遠目にバスがやつて来る。気の利いた映画的な構図にも一見映りかけつつ、もう少しぎこちなくなく視点を動かせないのか。といふか無理か横着して手持ちで撮るからだ、大人しくフィックスにすればいゝのに。みどりが気づくと、男がペジテの庭に入つて来てゐた。のを拓人の一発目はまだしも、佐藤で二番茶を煎じてのけるのも如何なものか。重要度の高いみどりの台詞を、旧い功夫映画ばりに三度反復する三連撃と双璧を成す手数の欠如以前に、女の一人暮らしであるにも関らず、由紀家の防犯意識に不安さへ覚えかねない。佐藤がみどりに愛を叫ぶ、締めの濡れ場に雪崩れ込む大事な導入に及んで、腐れ字幕こそ持ち出さないものの、螢雪次朗の発声を切除。観客ないし視聴者のリップリーディングに頼らせる、最終的な疑問手で完全にチェックメイト。技法の革新でも起こり得ない限り、肝心要のシークエンスで読唇カットを繰り出すのは、悦に入つた横好きか悪癖にすぎぬ気がする。といふのは何も当サイトの低リテラシーを棚に上げてゐる訳では必ずしもなく、そもそも未だ、人類全体ですら高い精度の読話には到達してゐない。作る側は、自分等で書くなり口にしてゐるゆゑ内容を読み取るのでなく、端から所与といふだけである。
 「ホントに信じてるのかなあ」、「信じてなんかゐないはよ」の切れ味鋭くキマる繋ぎと、出し抜けとはいへ、一方的に年齢差の限界に到達したみどりが、畳みかけた激情を拓人に叩きつける件。佐々木麻由子らしい案外ソリッドな突進力が活きる、見せ場も一つ二つ煌めくにせよ。詰まるところ親爺が危惧した通り、要は成熟した女の色香に迷つた未成年の小僧が、ヒャッハーに片足突つ込んだ暴力的な破滅を迎へる割と実も蓋もない物語。あと、今更辿り着く話でもないが螢雪次朗は大して、絡みが上手くはない印象も受けた。そこはピンク映画の引退作である以上、ピンク女優の花道を本気で飾るつもりならば、地味でなく重要な点かと立ち止まらなくもない。

 冒頭の手書スーパーを改めて難ずると、佐藤に対し逆襲に転じたみどりが、“あなたもこゝを誰かに引つ掛かれては歓んでゐた・・・・・”といふのは、そこは“掛く”より“掻く”ではないかなあ。eが脱けてゐるやうにしか思へない、本篇ラストを飾り損ねる“good by again”―八島順一の“I'ts so Friday”か―といひ、如何せんこの御仁はそんなところから逐一不自由。勢ひに任せ我が田に水を引くと、ものの弾みか何かの間違ひで荒木調だの下手に称揚され、他愛ない我流に固執したあまり、荒木太郎は却つて自由を失つてしまつたのではなからうか。


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 「喪服妻 湿恥の香り」(2000/製作:多呂プロ/配給:大蔵映画/監督:荒木太郎/作・出演:快樂亭ブラック/撮影:飯岡聖英・堂前徹之・清水慎司/編集:酒井正次/助監督:田中康文/制作:小林徹哉/音樂:篠原さゆり/ポスター:木下篤弘/応援:松岡誠/めくり:春風亭昇輔/   タイトル:堀内満里子/名ビラ:春風亭昇輔/応援:松岡誠/協力:染屋冬香・吉行由実・大町孝三・快樂亭ブラ汁/録音:シネキャビン/現像:東映化学/タイミング:安斎公一/出演:時任歩・伊藤清美・前野さちこ・⦅特別出演⦆ターザン山本・岡田智宏/   出演:伊藤清美・前野さちこ⦅新人⦆・時任歩・⦅特別出演⦆ターザン山本・岡田智宏/エキストラの人々:今泉浩一・太田始・内藤忠司・小林徹哉・下ガイトジュン・田中康文・松岡誠)。複雑怪奇な表記は、アバンとエンドで情報量ないし肩書はおろか、ビリングからクレジットが異なつてゐる由。便宜上もしくは視覚的効果を狙ひ、三拍空けたスペース以降がエンド版。エンドでしかクレジットされないエキストラは、時任歩と落武者の間に入る。
 六年後、真打昇進にあたり瀧川鯉朝に改名する春風亭昇輔が、名ビラの形でクレジットを一枚一枚捲つて行くだけのアバンを経てタイトル・イン、ヒムセルフの快樂亭ブラックが高座に上る。葬式を終へたのち、「吉原に 回らぬ者は 施主ばかり」。喪服女の色気なる、無粋な当サイトがいまひとつもふたつも理解してゐない―兎に角固定されるのが苦手なのね―大定番嗜好を投げた上で、「実は私行つて来たんですよ、イメクラの未亡人喪服プレイに」。正しくモップみたいな頭の嬢・夢美(前野)と快樂亭が一戦交へるのは、風俗ライターの与田明(岡田)が記事を書く取材の一環。快樂亭と、後述するターザン山本。この二人が顔も体も汚い反面、前野さちこの柔らかみも感じさせる所謂ロケット乳はエモーショナル、つくづくぞんざいな髪型が惜しい。咥へて、もとい加へて。清々しく棒のターザン共々、口跡も商業映画に出演させるには、凡そ相応しからぬレベルで心許ない。
 配役残り、エキストラ隊は寄席の客と、中盤途轍もなく木に竹を接ぐ、往来ミュージカル要員。未亡人喪服プレイの火蓋を切る、遺影の男は手も足も出せず不明。そして時任歩が、この人も出版業界といふ設定に意味は別にない、与田の婚約者・麻里。先に浴衣で飛び込んで来る、伊藤清美が稲田の妻・泰子で、改めて振り返つておくと1996年の六月にベースボール・マガジン社を退社しただか事実上放逐された、ターザン山本は与田が仲人を乞ふ作家の稲田和弘。ちなみかついでに、劇中稲田と泰子の結婚も四年前。与田と麻里が二人ともバツイチ、麻里にはゐる息子・ショータ君役の男児も知らん。あと、カットの隙間を突くとシドニー帰りの与田を愕然とさせる、見出しと写真だけ差し替へた、稲田の死亡記事が実際には峰隆一郎の訃報。泰子の述懐によると稲田の享年は―ターザンの当時実年齢と同じ―五十五ゆゑ、峰隆一郎が六十八で亡くなつた文面と実は食ひ違つてゐる。
 荒木太郎2000年第四作は、種々雑多な名義で十数本のピンクに出演してゐる二代目快楽亭ブラックが脚本も担当した、快樂亭ブラック名義による最終作。かと、思ひきや。よくよく調べてみるに、狭義のピンクは確かに打ち止めながら、2005年に矢張り多呂プロの薔薇族「優しい愛につゝまれて」(脚本:三上紗恵子/主演:武田勝義)がもう一本あつた。量産型娯楽映画の藪は、マリアナ海溝より深い。
 快樂亭ブラックが快樂亭ブラックのまゝ高座から狂言回しを務め、何処から連れて来たのかあのターザン山本が、しかも伊藤清美相手に結構普通の絡みを敢行する、一大変化球もしくは問題もとい話題作。流石に荒木太郎も色物を自覚したか、序盤にして驚愕の十分撃ち抜く、分量のみならずテンションも完全に締めの与田と麻里の婚前交渉始め、腰を据ゑた長尺の濡れ場を三本柱各々放り込む、女の裸的には案外安定する。噺家相手に黙れといふのも何だが、快樂亭が至らぬ水を差しさへしなければ。さうは、いふてもだな。最終的に、与田の隣に誰がゐるのか最後まで判らない、見終つても釈然としない物語本体は大概へべれけ。中途半端な抒情をかなぐり捨て、泰子が仏前で与田によろめく急旋回の急展開には度肝を抜かれ、目撃した与田と、与田が部屋に呼んだ夢美との情事を体験取材で無理から不問に付す、麻里のバーホーベンならぬばか方便には呆れ返つた。そもそも、大して膨らみも深まりもしない物語をひとまづ起動させる、麻里のマリッジブルーから徹頭徹尾手前勝手か自堕落な他愛ない戯言で腹も立たない。散発的に闇雲な情感を―独力で―叩き込む伊藤清美と、前野さちこのオッパイが、映画と裸それぞれか精々のハイライト。事後そゝくさベッドを離れ服を着る麻里を追ふ、カメラは無駄か下手に動いた結果ピントを失し、終盤出し抜けに火を噴く、藪蛇な烏フィーチャは烏で何をしたいのか烏の何がそんなに好きなのか、1mmたりとて理解出来ない盛大な謎。要はそこそこ健闘してゐる筈の裸映画の足を、木端微塵の劇映画が引くやうな始末か不始末ともいへ、端からオチの顕(あらは)な小噺でなほ、一篇をひとまづ綺麗に括つてみせるのは快樂亭にとつて本業の、そこは流石に伊達ではない底力。

 春風亭昇輔が師匠の死に伴ひ移籍した結果、空白期間を挿みつつも長く荒木太郎映画で準レギュラーを務めた、ex.瀧川鯉之助(ピンクでは滝川鯉之助名義)の春風亭傳枝と同門とかいふ、意外か偶さかな世間の狭さに興を覚える。


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 「痴漢バス いぢめて濡らす」(2000/製作:多呂プロ/配給:大蔵映画/監督・出演:荒木太郎/脚本:内藤忠司/撮影:清水正二・岡宮裕/編集:酒井正次/助監督:田中康文・下垣外純/制作:小林徹哉/スチール:木下篤弘/振り付け:しのざきさとみ/協力:ゆき なり/現像:東映化学/録音:シネキャビン/出演:時任歩・西藤尚・岸加奈子・杉本まこと・太田始・関口香西・星野花太郎・小林徹哉・大町孝三・内藤忠司・野上正義・港雄一)。
 富士急行線の下吉田駅前(山梨県富士吉田市)、温泉旅館の送迎バス運転手・アベ四郎(荒木)とヒデコ(西藤)の兄妹が、改札から出て来た五人連れ(恐らくスタッフ)を捕まへ損ねる。今日も今日とて送り迎へする人間の乗らぬ車を、情婦のミヤコ(岸)を連れた、地主・ダイスケ(港)が路線バス感覚で止める。四郎が大人しく二人を拾ふのは、旅館がダイスケから金を借りてゐる由。乗車するやダイスケは最後尾でオッ始め、痴漢バスが蛇行してタイトル・イン。前作に引き続きタイミングが結構唐突なのは、もしかして荒木太郎はタイトル入れるの苦手?
 四郎とヒデコが湖畔のヤサに戻ると、時任歩が桟橋でてれんてれん躍動的にでなく踊つてゐて、ガミさんが焚火に当つてゐた。二人はストリップダンサーのカルメンルーナ(時任)と、マネージャーの木戸(野上)。アベ家を民宿と勘違ひ、普通の旅館には泊まる金のない二人を、ヒデコ主導でどうぞどうぞと招き入れる。かつて営業してゐた小屋が現存するものの、興行の許可がどうしても下りず木戸は窮してゐた。と、ころで。紹介する木戸が最初から、自身もルーナと称してゐるにも関らず、ルナさんルナさん兄妹が頑なにルナで通すのは、そんなに人を困惑させるのが楽しいか。
 バスの屋根の上にて、ルーナが四郎に語るストリップに身を投じた掴み処のない顛末。元々劇団員であつたルーナは、役者稼業に漠然とした不満を覚え、偶さか草鞋を脱いだストリップに何となく生の実感を見出す、見出したらしい。てんで要領を得ないのは、兎にも角にもルーナの自分語りが漫然としかしてゐない以上、最早どうしやうもないのはさて措き配役残り。杉本まことはルーナが金の無心で東京に戻る、劇団の演出家。設定的には高級マンション辺りと思しき、四郎がバスを飛ばしルーナを迎へに行くエントランス外観を、何時もの東映化学玄関口で事済ますのは微笑ましくない御愛嬌。結構影に沈みつつ、多分ゐる太田始以下、内藤忠司までは後述する興行バスのオーディエンス要員。
 今や遠く遥か彼方に霞むリアルタイム、m@stervision大哥が矢鱈滅多に絶賛しておいでの荒木太郎2000年第二作。
 日々空のバスを転がす兄妹が矢張り八方塞がり気味の、流れ者のストリッパーと出会ふ。くどいやうだが当サイトは未だかつて一度たりとて認めてはゐないが、往時の荒木太郎を旬と看做してゐた世評ないし風潮にでもお感触れになつたのか、一刀両断に片づけると、果たしてm@ster大哥は今作を改めて再見した上で依然同様に激賞なさるのかと、畏れ多い疑問も禁じ得ないくらゐドラスティックに面白くない。ある意味荒木太郎にとつては平常運行ともいへる、煌びやかなほど酷い。ダイスケとの腐れ縁から一応助け出されはしたミヤコが、木田に何時の間にか本格的になびいてゐるのはまだしも。ルーナも兎も角四郎が微動だに何もしてをらず、当然特にイベントの発生してゐない二人が、木に竹を接いでいゝ仲になつてゐたりするへべれけさが割と画期的。一時帰京前、出し抜けにルーナが「待つてて呉れる?」とかいひだした日には、君等待つもクソもないだろ!と引つ繰り返つた。挙句の、果てに。棚からボタボタ降り注ぐミヤコの金で、あれこれ拗れた始終が目出度し目出度しに収束する、自堕落な御都合展開が作劇上のアキレス腱。尤もさうもいへ、全然それ以前の話なんだな、これが。
 三年後、第十五回ピンク大賞でベストテン一位を始め、何故か七冠に輝いた「美女濡れ酒場」(2002/脚本・監督:樫原辰郎)に於ける山咲小春(ex.山崎瞳)の歌と同じく、時任歩に踊りのセンスがカッラッカラのからきしないのが、作品世界の醸成を根本的に阻む最大の致命傷。そらさうだろ、踊れない踊り娘が、主人公の類の物語でもないんだもの。手足を鈍重にどたんばたんするばかり、基本バンザイしてゐるだけの駄メソッドが、単なる時任歩個人の資質的限界かと思ひきや、よもやまさか振付師までゐようとは。クレジットを見てゐて卒倒するかと慌てふためく体験、プライスレス。大団円を飾つたつもりの、見つからない小屋の代りに乗る客もどうせゐやしない、四郎の車を用立てる痴漢ならぬストリップバス。マイクロバスの狭い車内で、時任歩がなほ踊れないのはナッシングエルスな悪い冗談。狙つたであらうスペクタクルが、ものの見事に成立してゐない。無謀にもほどがある、インパール作戦か。ついででショバの問題と、興業の可否は大して関係ないやうな気もしなくはない。野暮を捏ねるが、中でストリップを上演してゐるバスを、公道で走らせる方が寧ろハードルが高くはあるまいか。主演女優と二番手が二人がかりでも、三番手に納まる岸加奈子に手も足も出ない。転倒通り越してビリングを爆散する、歴然とした格の違ひは否み難く、形の上では締めの濡れ場を成す、バスで道志村に戻りながらの対面座位。四郎が前を見てゐないどころか、ハンドルすら握つてゐないのはジオン驚異のメカニズムも真ッ青の完全自動運転。観客なり視聴者を馬鹿にするのも、大概にして頂きたい。ツッコみ出したら止まらないぜ、真夜中のピンクスさ。杉本まことの捌け際、「オーレィッ!」は清々しく蛇に描いた足、逆の意味で完璧かよ。
 くたばれ減点法、こゝからが、よかつた探しに全ては流石に賭けない、ポリアニストの本領発揮。覚束ない演出部と、心許ない女優部頭二人に対し、敢然と気を吐くのが撮影部。フォトジェニックな富士山のロングを、全篇通して隙あらば乱打。映画に女と銃なんて別に必要ない、富士の画があれば成立する、とさへ錯覚しかねない一撃必殺を随所で撃ち抜く。雄大にして静謐な霊山の威容が、薄雲一枚映画を救ふ。


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 「黒下着の淫らな誘ひ」(2000/製作:多呂プロ/配給:大蔵映画/出演・監督:荒木太郎/脚本:内藤忠司/企画:島田英男⦅大蔵映画⦆/撮影:郷田有/編集:酒井正次/助監督:田中康文/撮影助手:西村友宏/制作:小林徹哉/ポスター:平塚音四郎⦅スタジオOTO⦆/ピアノ:篠原さゆり/録音:シネキャビン/現像:東映化学/協力:TJPスタジオ・大町孝三・下垣外純/出演:時任歩・風間今日子・篠原さゆり・快楽亭ブラック・太田始・内藤忠司・小林徹哉・広瀬寛巳・村山裕・近藤摩郎・櫻井晃一・関口香西・奈良勉・星野花太郎・大旗憲・杉本まこと)。
 湖の8mm、女が御々足を黒いガータに通す。カット跨ぎで知らん間に履いてゐたヒールを男の手が恭しく脱がし、正常位で突かれる状態にも似た、足をプラップラ振る画から割と唐突にタイトル・イン。掴み処のない叙情性を、当サイトが理解する日は多分来なささう。
 セクシャルハラスメントを報じる新聞記事を繋いで、就職活動中の女子大生・香山美紀(時任)の履歴書。恋人との性交渉は週何回、初潮は何時、好きな下着の色は。太田始以下、小林徹哉を除く大旗憲までが性的全開の質問を臆面もなくか無防備に振り回す、破廉恥面接の数々を美紀は被弾する。オフィスで美紀が無数のセクハラゾンビに群がられるのは、清々しいほどの所謂イヤボーンもとい、イヤーガバッで片づける美紀の悪夢。荒木太郎がその時傍らで寝てゐた、ナイトメアの原因を、美希のセックス拒否に求めるクソ彼氏・徹也。ゼミ教授・森山(名前のみ)の紹介で、美紀は徹也も軽く驚く最大手である慶出版の面接に漕ぎつける。人事部次長・山形勇(杉本)から非正規入社を餌に、美紀がまんまと釣られる当日の夕食の誘ひ。再度慶出版を訪ねた美紀は、定時で全員捌ける管理部門階にて、獣性を露にした山形に犯される。趣味は社交ダンスといふ山形が、軽快なステップを踏みながら踊るやうに美紀を追ふシークエンスは、荒木太郎の奇矯な作家性が商業映画と偶さか親和した、今作ほとんど唯一のハイライト。所詮、杉本まことの独壇場ないし一人勝ち。さういふ気も、否めなくはないにせよ。
 配役残り、風間今日子と小林徹哉は、結局バッドマガジンズを作る零細出版社に就職した、美紀が取材するサファイア女王様とその奴隷、ではなく編集長のヤベ。張形に―無修正で―熱ロウを落とす、苛烈通り越して激越な責め。小林徹哉はもう少し、でなく大暴れして苦痛にのたうち回るべきではあるまいか。ウルトラ熱いだろ、それ。普段通り着物で出て来る快楽亭ブラックは、サファイアが山形の身辺調査を乞ふ、変り者の探偵。調査結果の報告も、一席ぶつ形で行ふ。そして篠原さゆりが、のちに山形がダンス教室で出会ひ、結婚した社長令嬢のアサコ。
 カザキョン女王様にコッ酷く苛められたプレイ後、翌日子供の運動会である旨自嘲する小林徹哉の台詞が、記憶の片隅に残つてゐた荒木太郎2000年第一作。気づくと再来年で閉館二十年、今はどころかとうの昔に亡き福岡オークラで観たのだらうが全体、何処の枝葉で一本の映画を思ひだすものやら。
 前半のセクハラ凌辱篇、を経ての中盤。風間今日子なる既に旦々舎で十二分にブラッシュアップされた、ピンク史上最強級の援軍を得た上で、雪崩れ込む後半のリベンジ篇。温存し抜いた三番手を、クライマックスの供に用する一見強靭な構成まで含め、起承転結を釣瓶撃つ濡れ場で紡ぐ、腰の据わつた裸映画に思へかねない、ものの。世にいふ荒木調ならぬ、荒木臭。事の最中山形と美紀が交す、黒に関するただでさへ形而上学半歩手前の漠然ともしてゐない遣り取りを、子供の筆致じみた手書スーパーで事済ます木に竹しか接がないサイレント演出。いざ女の裸に徹したら徹したで、弛緩し始めるきらひは否めない、よくいへばセンシティビティと引き換へた、荒木太郎の最終的な資質の弱さ。美紀がピアノを叩き始める―実際に弾いてゐるのは篠原さゆり―や、操り人形の如く山形が踊り始めるシークエンスは確かに一旦輝きかけつつ、その後は漫然とフレームの片隅で右往左往よろめくに終始する、矢張り詰めの甘さ。そして、アバンを拾ひこそすれ、掉尾は飾り損ねる含意の不明瞭な8mm。諸々の足枷に歩を妨げられる、要は自縄自縛の結果。観客なり視聴者の精巣を轟然と、空にしてのけるエクストリームな煽情性には果てしなく遠い。そして、もしくはそれ以前に。最大の疑問は、サファイアに感化された美紀が、他愛ないミサンドリーを振り回すのは展開の進行上必要といへば必要な、取つてつけた方便にせよ。山形とのミーツが美紀の一件と全く以て無関係であるアサコを、単に山形を完全に破滅させるためだけの目的で、箍の外れた暴虐に完膚なきまで曝す。徹頭徹尾無実で一切非のないアサコに対し、美紀―とサファイア―が欠片たりとて悪びれぬまゝ、ぞんざいな攻撃性を叩きつける無自覚な図式は懲悪のカタルシスと、見事復讐を果たしたエモーション、何れの獲得にも如何せん難い、途方もなく難い。己の品性下劣の極みを憚りもせずいふと、一人の女が、大勢の男共に嬲られ尽す。さういふ腐りきつたシチュエーションが大好物とはいへ、流石にノリきれない残念な一作であつた。


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 「未亡人の性 しつぽり濡れて」(1998/製作:多呂プロ/配給:大蔵映画/監督・出演:荒木太郎/脚本:内藤忠司/撮影:清水正二・岡宮裕/編集:酒井正次/制作:小林徹哉/演出助手:小林康宏/スチール:佐藤初太郎/録音:シネキャビン/現像:東映化学/協力:東京UT・ゆきなり/出演:西藤尚・坂本Q子⦅新人⦆・しのざきさとみ・白都翔一・内藤忠司・広瀬寛巳・今泉浩一)。
 大浴場、半身浴で律儀にオッパイを出した西藤尚が百まで数へると、湯の中から白都翔一が浮上する。白都翔一の活動は恐らく当年で終了、今作までに荒木太郎が二本撮つてゐる薔薇族にも出演してをらず、最初で最後の多呂プロ作となる筈。この辺り、最終的には全部通らないと正確なことがいへない、量産型娯楽映画ならではの盛大な藪の中。雅子(西藤)と東坊城貴麿か孝麿、それとも資麿(白都)の新婚旅行。割と庶民的な、そこら辺の温泉旅館で済ますのね。貸切つてゐるのか、単なる羽目を外した非常識か。今度は雅子が潜つての口唇性交に続き、湯船で対面座位を大敢行。二人で“天国”フラグを林立させた末、完遂後沈没。そのまゝ、貴麿は浮かんで来なかつた。正しく今際の間際を示す泡(あぶく)からカット跨いだ先が、白都翔一の遺影とかいふ未亡人ものならではの清々しいスピード感、やつゝけ仕事とかいふたら駄目だよ。喪服で悲嘆に暮れる雅子がワンマンショーをオッ始めつつ、貴麿が生前遺してゐた遺言を、白都翔一の声で語るモノローグ起動。曰く母屋を学生下宿にしてゐる、道志町―実際には村―の屋敷といふのが雅子の相続財産。雅子が離れで管理人を務めがてら、一年間は服喪期間として貞操を守れといふのが、西坊城家の従妹・ナヅナを後見人に立てた上での条件。如何にも、裸映画的な方便で真に麗しい。とまれバスに揺られ富士五湖にやつて来た雅子が、件の大原荘(山梨県道志村)に辿り着いてタイトル・イン。少なくとも、大原荘が2019年までは普通に営業してゐた形跡が見当たる反面、グーグル先生によれば現在は閉業してゐるとの諸行無常。試しにかけてみたが、電話番号も使はれてゐない。コロナ禍で力尽きたか、全く別個の理由かも知らんけど。
 配役残りしのざきさとみが、幼少期に大原荘で貴麿とお医者さんごつこもした仲のナヅナ。何故か東坊城家の財産を総取りせんと目論む、闇雲なヴィラネス。ナヅナの情夫ないしバター犬で、浅井嘉浩みたいなマスクを被つた探偵は、この時点では勿論不明。反時計回りの自己紹介、金髪の広瀬寛巳と普段通りの荒木太郎、途轍もなく名義で検索し辛い、謎の二番手が大原荘の店子。都の西北大学二年の縄早大と多摩多摩芸術大学三年の岡持太郎に、お茶汲み女子大学一年の御茶ノ水慶子。パッと見松木義方かと勘違ひした、内藤忠司はナヅナの紹介で大原荘に加はる、東京帝都大学の権俵助六、戯画的なバンカラ造形。この人が、ウルティモ探偵の中の人。どうでもいゝのがこの人等、そこから都内の大学に通ふのか、授業に出る気限りなくないだろ。ち、なみに。架空とはいへ富士村営バスの停留所が劇中美術で登場するゆゑ、富士の麓を隠す気も誤魔化しもしない模様。そして今泉浩一が、富士七里バス停に二本橋ロイドのグラサンで降り立つ謎の男。終盤―開き直つた説明台詞で―名乗る、その正体は貴麿にとつて無二の親友で、かつて雅子を巡り恋の鞘当てもした城之内か城ノ内旗三郎。ナヅナの蠢動を知り、ボスニアから緊急帰国。木に竹も接ぎ損なふ、徒なアクチュアリティではある。往時リアルタイムでキナ臭かつた、ボスニアなんて別に持ち出さなければいゝのに。最後に色情もとい式場バスに、ビリング順で坂本Q子・内藤忠司・広瀬寛巳・荒木太郎以下、総勢十名投入。二列目に小林徹哉、三列目に堀内満里子がゐる以外判らない。
 気づくとex.DMMのサブスクに、別館手つかずの荒木太郎を五本も眠らせてゐた、結構な粗忽に直面しての緊急出撃。薔薇族が一本先行しての、1998年ピンク映画第三作。なので中村幻児と、マリア茉莉は一旦お休み、荒木太郎が先。
 意図的に退行するか如き、大人の娯楽映画で児戯じみた小ふざけ悪ふざけに終始する。あの頃持て囃されてゐた荒木調ならぬ、当サイトが一貫して唾棄するところの荒木臭さへさて措けば、しのざきさとみを暫し温存してなほ、西藤尚と坂本Q子は寸暇を惜んで貪欲に脱ぎ倒し、女の裸的にはひとまづ安定する。ディルドを用ゐ尺八を無修正で見せる張尺の、弾幕ばりの乱打も大いに煽情的効果的。これ荒木太郎の自宅だつけ?離れにしては正直母屋から離れすぎてゐる掘立小屋。トタン屋根の上で西藤尚がガンッガン脱ぎ散らかしてみせるのは、後方に民家が普通に見切れ、通報されはしまいか無駄に肝を冷やす何気にスリリングなロケーション。最も素晴らしいのは、雅子の危機に旗三郎が駆けつけての、権俵の放逐後。恋と財産の何れが大事かと、一見雅子の背中をエモく押すかに思はせた慶子も、実はナヅナに買収されてゐた。ヒロインを狙ふ、姦計が二段構へで展開する巧みな構成は、荒木太郎は兎も角内藤忠司の名前は伊達ではないやうで実にお見事。同時進行する、全てを捨てる覚悟でオッ始めた雅子と旗三郎に、ナヅナと麗子が二人がかりで岡持の篭絡を試みる巴戦。女優部全軍投入で華麗に火花を散らすカットバックが、お話が最も膨らむ劇映画と、股間も膨らむ濡れ場双方のピークが連動する最大のハイライト。息するのやめてしまへ、俺。閑話休題、下手な抒情を狙ひ損ねる、その後のハチ公パートで幾分以上だか以下にモタつきながらも、ピンクで映画のピンク映画を、確かに一度はモノにした手応へのある一作。トンチキトンチキ空騒いでゐるうちに、気づくと大定番たる未亡人下宿的なテイストが極めて希薄なのは、大蔵からの御題の有無云々も兎も角、そもそも、荒木太郎にその手の志向なり嗜好が特になかつたのではなからうか。

 この年に改名した、西藤尚(ex.田中真琴)は第九回ピンク大賞に於ける新人女優賞に続き、1998年作を対象とする第十一回で遂に女優賞を受賞。しは、したものの。だらしのない口元とメソッドに、かつて大いに博してゐたアイドル的人気は、この期の未だに激しく理解に難い。一方、しのざきさとみもしのざきさとみで、終ぞ棒口跡の抜けなかつた愛染“塾長”恭子と同類の御仁につき。初顔の坂本Q子が、案外一番女優の風貌をしてゐる、変則的な力関係がそこはかとなく琴線に触れる。


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 「野外《秘》エッチ 覗いて」(2004/製作:多呂プロ/提供:オーピー映画/監督:荒木太郎/脚本・三上紗恵子/撮影照明:飯岡聖英・田宮健彦・松澤直哉/編集:酒井正次/助監督:田中康文・三上紗恵子・中川大資/音楽:とんちピクルス 唄:野上正義 主題歌:『夜風』/ポスター:白汚零/応援:小林徹哉/夢の絵:三上哲弘/録音:シネキャビン/現像:東映ラボテック/タイミング:安斎公一/出演:仏本あけび・風間今日子・しのざきさとみ・鈴木ぬりえ・本田まゆこ・内山太郎・ハワイの人々・吉岡睦雄・綺羅一馬・野上正義)。
 適当といふか、テッキトーな海の絵に貼りつけたタイトル開巻。既にその時点で、勝敗は見えてゐたとまでいふのは、果たして結果論であらうか。
 海沿ひの町の民宿「山本荘」、派手にトッ散らかつた二階の居室で左足を固めたギブスを右足で掻きながら、娘の山本なり子(仏本あけび)がヘッタクソな絵筆を狂騒的も通り越し、殆ど強迫的に走らせる。描くのは女体か、男女の性行のみ。両親(野上正義としのざきさとみ)が営む山本荘に、カップル客(遠すぎて識別不能)が。その夜、庭にて水着で乳繰り合ふカップル(本田まゆこと内山太郎)を目撃したなり子は、部屋まで近づき勇猛果敢にスケッチ。あのさあ、だから濡れ場の最中に、クッソ下手糞な絵とか要らねえんだよ、バカ荒木。
 そんなバカ扮する医師―酷え―にギブスを外して貰つたなり子は、早速海までダッシュ。全裸で海に入り、背泳しながらのワンマンショーといふ、何気に破天荒な大技も敢行した上でなり子が浜に戻ると、波に浚はれたのか脱ぎ捨てた衣服が見当たらない。てな塩梅で、臆面もない役得の荒木太郎と青姦する風間今日子のビキニを盗んでゐたりする内に、両親が福引で当てた十日間のハワイ旅行に出発、なり子は暫し山本荘に一人となる格好に。
 配役残り、吉岡睦雄はホッつき歩くなり子に声をかけ、最終的にはボートの上で致す幼馴染、漁師。三十分を跨いで漸く登場する綺羅一馬(ex.綺羅一馬で天川真澄)は、寛子(しのざき)の写真を手に、町に現れる男。出て来た際には綺羅一馬が自分で声をアテてゐるのに、何故かその後荒木太郎のアテレコに移行するのは全く以て謎。その他どうせ小林徹哉や演出部もゐる筈の、三上紗恵子しか見切れなかつたエキストラ部がハワイの人々とか称して若干名。元々顔が頭に入つてゐないといふのもありつつ、ビリングは本田まゆこよりもひとつ高い鈴木ぬりえが、何処に映つてゐるのかが相変らず完ッ全に判らない。何処に出てゐるのか一度ならず皆目判らないといふのも、稀有な特性ではあるステルス女優。
 月額ex.DMMの中に、手つかずで残つてゐるのをこの期に発見した荒木太郎2004年第四作。二年後に「ふしだらな女 真昼に濡れる」(2006/監督:田尻裕司/脚本:山田慎一)もある主演の仏本あけびは、ちやうどこの頃から荒木太郎が募つてゐた女優―なり助監督―公募の一般応募者。富士川真林(実働2002~2004/三本)のほかに話を聞いた覚えもないゆゑ、結構何だかんだな勢ひで長い間募集してゐた割に、もしかすると二人目で最後の採用者なのかも。既にデビュー済みのAV部が、水面下で手を挙げてゐたりするのは知らないけれど。
 映画の中身に話を戻さうにも、戻すほどの中身もないんだな、困つたことに。フラットな主演女優の面相以前に、一言で片付ければ一番ダメな時期、箸にも棒にもかゝらない類の荒木太郎。消極的に不要どころか積極的に余計な意匠、軸足のまるで定まらぬ覚束ない脚本に、手癖か安つぽさか内輪臭しか窺へない手作り感、ついでに途中で声変りする登場人物。初期には窺はせたソリッドなりエッジも半端に熟れた分何時しか喪はれ、さうなると畢竟、自主臭い出来損なひの商業映画が残されるばかり。嗚呼さうだ、俺はかういふ荒木太郎が大嫌ひだつたんだ。あるいは、かうであるから荒木太郎が大嫌ひだつたんだなと、今更ながら再認識させられる一作。尤もかといつて、大蔵に梯子を外されたまゝ抹殺される―当サイト解釈―荒木太郎の現状を、是認する訳では無論ない。それとこれとは、話が別である。

 なり子が寛子への片思ひを二十年懐き続ける綺羅一馬と情を交す主眼?は、へべれけな尺配分ないし構成にも阻まれ、精々木に竹を接ぐ程度で凡そ満足なハイライトたり得てゐない。に、しても。仏本あけびの絡みの回数を増やすだけの方便で、なり子が吉岡睦雄相手に場当たり的な水揚げを済ませてしまつてゐる点は、矢張り粗雑に映る。この辺り、改めて三上紗恵子はホンット何にも考へずに脚本を書いてゐるのであらうし、どうせそれをそのまゝ撮る荒木太郎も荒木太郎。


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 「淫乱美巨乳 たわわな媚肉」(1997/製作:多呂プロ/配給:大蔵映画/出演・脚本・演出:荒木太郎/撮影:清水正二・飯岡聖英/編集:酒井正次/撮影助手:岡宮裕/演出助手:横井有紀/スチール:佐藤高太郎/制作:小林徹哉/イラスト・音楽・脚本協力:槇原まんじゅう/協力:ついよし太・東京UT・劇団火の鳥・ペンジュラム/録音:シネキャビン/現像:東映化学/出演:槙原めぐみ・吉行由実・森下ゆうき・野上正義・太田始・内藤忠司・《今泉浩一》/声.国沢実)。出演者中、普通に姿を見せ台詞も与へられる今泉浩一が、括弧つきの理由がよく判らない、要はカメオ枠なのかな。あと、佐藤高太郎て誰や。
 てつきり古の麗しき七色王冠を予想してゐたら、となると少なくとも上野でかけたにさうゐない、ツートンOP開巻に軽く驚く。鐘の音鳴る教会のロングからカメラがもう一段ドーンと引いた上で、カット切り替り暫し桜を捉へる。最悪撮影部が何とかして呉れなくもないのは、映画の強み。売春婦のダリア(森下)が、巴戦の注文を携帯で受ける。公園の片隅で似顔絵屋を開業する春菊(槇原)を、「嫌はれ者が絵描いてやんの」といきなしな悪態でダリアが急襲。志すマンガがモノにならず困窮する春菊に仕事を持ちかけると称して、ダリアは太田始の相手に引き摺り出す。一貫して春菊が嫌悪のみ覚える、今時のポリコレにも案外合致する初戦を完遂、キレた春菊が二人を殴り倒してタイトル・イン。何時もの堀内満里子とは一目で異なる、何れにしても当時的にはとうに古い、80年代のサンデーみたいな筆致のイラストは、クレジットを見るに主演女優が自ら手がけた御様子。
 配役残り、クレジットに於いて、自分の名前を一番デカくする神経は如何なものかと思へぬでもない荒木太郎は、春菊の唯一の理解者・キョージュ。実際に教授で、なほかつキョージュもキョージュで“書かずの巨匠”らしい、今や“撮れずの巨匠”である。隙あらば、起動する余計な与太。閑話休題、家賃を払へない春菊に、ヒステリックに喚き散らす大家の声は、声色を変へた吉行由実、殆ど変つてないけど。そして改めて吉行由実が、白いブラウスを悩ましく盛り上げるいはゆる着衣巨乳がエクストリームに素晴らしい、春菊が憧れを寄せる小川すみれ、大屋の娘でもある。雑然と本の積まれた謎部屋に帰宅したすみれを、ポップかベタに虐げる正体不明の同居人の声は、小林徹哉に聞こえたが実際には国沢実。内藤忠司は、ダリアのマゾ客。へべれけなプレイボーイ造形を強ひられ、幾ら何でも負け戦に苦戦する野上正義は、春菊の周囲に出没する自称(?)詩人・ヤマギシ。今泉浩一は、春菊に描かせた似顔絵が気に入らず、代金の五百円を払はない人。この期に及んで、この人が下手糞な理由が見えた、もしくは聞こえた。最終的に、口跡が不安定なんだ。
 バラ売りex.DMMに新着した、荒木太郎1997年ピンク映画第三作。この年薔薇族一本込みで全六作、前年即ちデビュー年から五作を発表し、以来生え抜きとして本隊のレギュラーをずつと張つて来た、のに。
 はみ出し者が理想形を投影する同性に、ホモソーシャルな思慕を拗らせる。尤もそこは女の裸で商売するピンク映画ゆゑ、締めの濡れ場に際しては華々しくフルスイングのエモーションで大輪の百合を咲き誇らせる。何はともあれ、何はなくとも、槙原めぐみのオッパイの説得力。裸にして立たせてみると、森下ゆうき共々結構下半身を中心に重たさを感じさせる体躯でもあるものの、単なる肉の塊といふ訳ではなく、何某か尊い生命の本質的な、いふならばゲッター線的なサムシングが満ち満ちて映る槙原めぐみの絶対巨乳は、些末をさて措かせる決定力を都度都度撃ち抜く。春菊のがさつかつ粗暴なキャラクターと、意図的に体の線を封殺したファッションとの対照も必然の如く迸る。昨今久しく見ない気がする張尺―張形を用ゐた無修正の尺八―も多用し、絡みは何れもアグレッシブ。近作を思ひ起こせばいはゆる枯れのやうなものも連想せざるを得ない、充実した直線的な煽情性の面でも申し分ない。さうは、いへ。先に槙原めぐみのオッパイに関して“何はなくとも”と述べたが、逆に、もしくは直截にいふと、槙原めぐみ―と吉行由実―のオッパイしかないんだなあ。すみれの真相に下手に踏み込んだのも諸刃の剣に、グジャグジャ自虐ないし自閉的に春菊が内向する始終は、槙原めぐみの偉大なるオッパイがあるにせよ、多義的に抜けないこと抜けないこと甚だしい。ざつくばらんに片付けてしまへば、荒木太郎の癖に、隠々滅々路線国沢実のやうな逆の意味で盛大に自爆、あるいは自縛する一作。クライマックスの白百合も美しさだけは手放しで称賛するに値する反面、それまでの全てを覆し、春菊が自己を肯定するに至る、至らせる力強さには些かならず遠い。ついでに火にガソリンを注ぐのが、中盤“本を仕上げに行きます。”と自ら二百字詰原稿用紙にメッセージを残しておいて、斯くも綺麗に別れておきながら、すみれを籠絡すべく出撃するヤマギシを、尾ける春菊の傍ら、臆面もなくキョージュがひよつこりゐやがる一大疑問手。そこ平然と引つ繰り返してゐては、そもそも置手紙の意味がまるでないだろ。流石荒木太郎だと、呆れるのも通り越して吃驚した。


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 「痴漢暴行バス しごく」(1998/製作:多呂プロ/配給:大蔵映画/脚本・出演・監督:荒木太郎/撮影:清水正二・飯岡聖英・岡宮裕/編集:酒井正次/助監督:横井有紀・片桐重裕/制作:小林徹哉/録音:シネキャビン/現像:東映化学/協力:《株》東京UT、鈴木誠、敬バス・サービス/出演:河名麻衣・西藤尚・ヒロ・今泉浩一・木立隆雅・小林徹哉・内藤忠司・廣瀬寛巳)。下の名前が寛己は然程珍しくもないにしても、苗字が廣瀬寛巳名義は初めて見た。
 クレジットには素通り―jmdbには音楽担当と記載のある、東京UKI and HIROも―されつつ、堀内満里子の手によるタイトル開巻。鮮やかに意表を突き、要は実際カメラの前に置いたタイトル画が紙芝居風に捌けると、流石にカットの繋ぎは誤魔化して富士を遠目に臨む雪景色。しかも今回、普通の乗合と同じ大きさのバスを現に走らせてゐる。都留市駅から終点富士村までの、富士村営バス。車掌は朗らかな路子(西藤)で、無表情な四郎(小林)がハンドルを握る。ラジオの県内ニュースが、山梨刑務所から前科三犯の男性服役囚が脱走した事件を伝へる。ほかに乗客もゐないにしては不自然極まりなく、大学進学を機に上京、地元に戻つた博物館学芸員の河名麻衣と、詰襟のセイガク二人(今泉浩一と荒木太郎/ただし帽子は微妙に違ふ)が最後尾に詰めて座る。四郎が適宜仕出かす急ハンドルで、セイガク二人は麻衣(大絶賛仮名)に覆ひ被さる格好に。自分のことしか興味のない路子と、超絶の造形を爆裂させ時折「ジャスティス」と独り言を漏らす以外には、生気さへ感じさせない四郎は頑なに干渉しない無法地帯、セイガク二人は何やかやあやをつけ、無抵抗どころか殆ど無反応の麻衣を犯し始める。
 配役残りだからイコール広瀬寛巳の廣瀬寛巳は、富士二里の停留所でバスに乗る御馴染グレーの一張羅。インポのひろぽんが、セイガク二人に無理から促され犯した麻衣の肉体で回春する無体な件も兎も角、大を通り越した超問題がひろぽんは実はインポなどではなく、単に彼女が緩かつただけであつたとする彼女・リカ役が、西藤尚の二役である点。ピンク映画的にはなほさら、こここそヒット・アンド・アウェイで三番手濡れ場要員を放り込む絶好の好機であつたらうに、バスを走らせるので足がついたのか、一枚欠いた女優部の薄さは致命的かつ、無駄な判り辛さに直結する。木立隆雅はセイガク二人が恐れをなす、富士三里で乗つて来た体罰教師。当然といふか何といふか、生徒だ教育だと屁以下の方便を捏ねて麻衣を犯す。内藤忠司は、窓ガラス越しに輪姦される麻衣を目撃、自転車でバスを追ひ駆けて来る駐在。そして荒木太郎前作の薔薇族「旅の涯て」(脚本:内藤忠司・荒木太郎)で主演を張つたヒロが、乗降車するバス停不明の脱走逃亡犯。如何にも満を持して飛び込んで来たかに思はせて、地力の差が露呈したのか、さしたる戦果も挙げずに麻衣を一応犯すだけは犯してバスを降りる。ところで広瀬寛巳が、「旅の涯て」でも廣瀬寛巳名義。
 いよいよ一切の沙汰を聞かなくなつた、荒木太郎1998年薔薇族込みで第二作。果たして当時の荒木太郎は、二十年後にどういふ未来を思ひ描いてゐたのか。
 一面の雪に囲まれ、如何せん抗ひ難い散乱光が日中終始飛び気味ではあるものの、走行中のバスの車内、人形のやうな河名麻衣がなされるがまゝ凌辱される不条理なエロさは、歪んだ琴線を激弾きする。とも、いへ。ひろぽんまではいいとして、小立先生で手数の不足を感じさせ、ヒロ逃亡犯は重用に応へられずほぼほぼ失速。一旦始終が力尽きかけた終盤、四郎以外荒淫に疲れ果てたバスは、終に終点に到着する。とこ、ろが。バスがエンジンを切るや、痴漢バスが轟然と再起動。それまで“ジャスティス”の一言しか発せず、文字通り時計仕掛けに黙々と運転してゐた四郎は、麻衣をバスから救ひだす。素面に吹雪く中、四郎が負ぶつた麻衣に訥々と、決して直線的な表現には至らない愛を囁くシークエンスは紛ふことなく一撃必殺。しかも相ッ当離れた静寂にして怒涛のロングも繰り出し、荒木太郎×小林徹哉が、量産型娯楽映画の枠を易々とブチ壊し、スタージョン・ローをも黙らせる圧倒的なまでのエモーションを見事に撃ち抜いた。にも、関らず。なあんで荒木太郎はそこまで積み重ねた展開を、他愛もない妄想オチ風に畳んでしまふのかな。ピンクに限らず映画史上に―残らんでいいのに―残る蛇の足が李三脚ばりに唸りを上げる、途轍もなく残念すぎて、尻子玉が抜かれさうになる一作、ジャスティス。いかん、四郎の心に開いた穴が伝染つたかも。


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 「フェリーの女 生撮り覗き」(2001/製作:多呂プロ/提供:オーピー映画/監督:荒木太郎/脚本:瀬々敬久/撮影照明:前井一作・横田彰司/編集:酒井正次/助監督:森山茂雄・石田朝也/制作:小林徹哉/録音:シネキャビン/現像:東映化学/挿入歌:『フェリーの女』 作詞:瀬々敬久 作曲:足達英明 アコーディオン:〃 トランペット:永島幸代 唄:野上正義・中川真緒/協力:佐藤選人・睦月影郎/パンフレット:堀内満里子/出演:中川真緒・佐倉萌・佐々木基子・縄文人・内藤忠司・石川雄也・野上正義/ナレーション:今泉洋)。
 青地に白い意図的にプリミティブな筆致と、今泉洋のナレーションで「昔々、男のロマンは女だつた」。久保チンより九つ上のガミさんより更に一回り上で、堺勝朗と同世代。昭和30年代中盤から昭和末期にかけてピンク映画で膨大な戦歴を残した今泉洋は、翌年没する。久保チンでさへその死を後々知つたといふから、内々に継続して親交のあつたガミさんが、いはば一種の花道を用立てたのか。それ、とも。今泉洋最後の出演作「裏ビデオONANIE 密戯」(昭和63/監督:北沢幸雄)の、脚本を担当したのが監督デビューを遥かに遡る初脚本となる荒木太郎!あるいは荒木太郎自身が、今泉洋とある程度以上近しい間柄にあつたものやも知れない。しかも、その「裏ビデオONANIE 密戯」がex.DMMで見られると来た日には、次に見る。
 一旦さて措き、行進曲が起動して日の丸。今度は荒木太郎の、ヤケクソすれすれに性急なナレーションで「オマンコ×オメコ×ヴァギナ、呼び方は色々だが男は必死にそれを追ひ求めた」、「これはそんな時代の物語である」。東京湾フェリー運航のかなや丸を正面から抜いて、如何にもこの時期の多呂プロテイストなイラストタイトル・イン。結構デカい軍船と飲み屋街、平成24年八月に閉館した金星劇場(神奈川県横須賀市)の画を連ね、ボンカレーを皮切りに、昭和な雑誌なりポスターがこれ見よがしに撒かれた部屋。裏ビデオ監督兼ビニ本カメラマンのフーやんこと藤川オサム(縄)が、ノリの悪い恵(佐倉)相手にビニ本を撮影する。悪戦苦闘の末に、とまれバナナを使つたワンマンショー完遂。第三者の気配にフーやんが気づくと、恵の義父・菊池(内藤)がマスをかいてゐた。荒木レーション曰くフーやん同じく“エロの虫”たる菊池とフーやんの関係は、菊池が経営する電気屋―キクチなのに屋号は「PANA PORT タジマ」―で、フーやんの裏ビデオをおまけにデッキを売り捌いてゐた。佐々木基子が恵の母親にして、パートの子連れ未亡人に菊池が手をつけた真紀子。客で広瀬寛巳が、完全無欠のクレジットレスで飛び込んで来る。菊池に話を戻すと、m@stervision大哥はフーやん役が佐野和宏の瀬々ver.を観たいと仰つておいでだが、さうなると菊池役は、諏訪太郎だと思ふ、目に浮かぶツーショットが超絶カッコいいぞ。菊池がフーやんに、製作費を出す老人が脚本も自分で書き、ついでに主演もその老人とかいふ、要は俺裏ビデオを撮る話を持つて来る。恵には逃げられつつ、とりあへず乗つた老人が住む島に渡るフェリーの船内、フーやんは鼻歌でローレライを歌ふ夢子(中川)に見惚れる。
 配役残り、最終的には佐々木基子の濡れ場を介錯する役得、もとい大役を果たす荒木太郎は、真紀子にソニーのベータを売りつけられる男。フーやんが、ベータでも裏ビデオを出してゐたのかは不明、店でダビングすれば済む話だけど。てか、そもそもベータ規格に手を出してゐない、松下の特約店なのに。兎も角石川雄也は、後を追ふフーやんの眼前、夢子と自販機の物陰で致す行きずりの絡み要員。よくよく考へてみると、瀬々が悪いのか荒木太郎の所為なのか、大概な力技ではある。そして野上正義が、島でフーやんと夢子を待ち受ける菊池。ガミさん登場で、展開が偶さか走り始めるラッシュは圧巻。電車で七十の婆に痴漢した菊池を逮捕するのと、菊池が口を割り、フーやんも追ひ駆ける刑事は小林徹哉と森山茂雄。コバテツは殆ど変らないが、森山茂雄が何か凄え若い。
 別れ際、「傑作を期待してますぞ」と波止場から全身を使つて手を振る菊池に、声など届かぬのをいいことに、フーやんが「早く死ね糞爺」と爽快に毒を吐くカットと、菊池が仕出かした恵との親子丼を知り、一修羅場起こした真紀子は荒木太郎を捕まへ、二人が本番する裏ビデオを撮るやうフーやんに強要。四の五のしながらもオッ始めたゆゑ、勢ひに吞まれるやうにフーやんがカメラ、夢子はライトを構へるカットは覚えてゐた、荒木太郎2001年第四作。如何なるものの弾みか、現状といふ限定も最早必要あるまい、最初で最後の瀬々敬久大蔵上陸とは、いふものの。生死が熱くか、真逆に冷たく立籠めるでなければ、政の気配が滾るでもなく。軽妙でリリカル、且つギミック過多の下町譚は、徹頭徹尾荒木太郎の映画にしか見えない。見えないのと、よくいへば穏やかな、直截にいへば硬度に乏しい演出の中に放り込むと、これまで絶対美人かに思つてゐた中川真緒の、案外間延び具合が際立つのはこの期に及んでの発見。もうひとつ興味深いのが菊池と夢子、あるいは野上正義と中川真緒が完パケ題は「戦場に燃ゆる恋」となる裏ビデオの歌パートとして披露する、挿入歌「フェリーの女」―劇中題は「人生裏表」―のメロディが、「恋情乙女」(作詞:三上紗恵子 作曲:安達ひでや 唄:牧村耕次)とほぼほぼ同じな件。なんて思つてゐたら、足達英明は安達ひでやの本名であつた、長い付き合ひなんだね。

 とこ、ろで。ナレーション特記はないまゝに、他の俳優部とともにポスターにも名前の載る今泉洋であるが、驚く勿れ仕事はラストで再度使用される、「昔々、男のロマンは女だつた」の正真正銘一言のみ。正直その口跡は、少なくとも力強さを感じさせるものではない。


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 「初恋不倫 乳首から愛して」(2001/製作:多呂プロ/提供:オーピー映画/監督・出演:荒木太郎/脚本:吉行由実/撮影:清水正二・岡部雄二/編集:酒井正次/助監督:森山茂雄・下垣外純/制作:小林徹哉/ポスター:縄文人/タイトル パンフ:堀内満里子/録音:シネキャビン/現像:東映化学/協力:長野ニュー商工会館/出演:里見瑤子・佐倉萌・山咲小春・西川方啓・中沢真美・太田始・内藤忠司・田中さん・井上さん・大町孝三・吉田康史・野上正義・長野市のみなさま)。出演者中中沢真美から吉田康史までと、長野市のみなさまは本篇クレジットのみ。なのはいいにせよ、絡みも介錯するそれなりに大きな役でポスターには―当然―名前が載るにも関らず、丘尚輝(a.k.a.岡輝男)が本クレに忘れ去られるよもやまさかの大惨事。
 長野の善光寺周りを流す車載カメラで開巻、修理屋の吉田公男(荒木)が、恋人で参道の喫茶店「夢屋」で働く苗字不詳の―早川?―小百合(里見)に車から声をかける。小百合の仕事終りを待ち二人で寿司を食つたのち、常用するラブホテル「プレジデント」に。婚前交渉の事後、一人勝手に満ち足りる吉田を余所に小百合が目を泳がせてゐると、8ミリ起動。善光寺近辺と2011年三月末に閉館した長野ニュー商工を暫し見せた上で、二人とも浴衣の、小百合と中学時代の同級生・野村健太(西川)が仲良く花火。のちに語られる撮影者は、小百合亡父。綺麗な女優さんになる夢と、小百合主役の映画を作る監督になる夢とを語り合つてタイトル・イン。明けて一転、再び35による東京の下町ショット。目下映画配給会社「東西映画」の営業として働く野村に、長野出張が決まる。一方、小百合の実家は、妹の香織(佐倉)と入婿かも知れない純一(丘)が継いだ長野ニュー商工。ところで小屋自体に話を逸らすと、スクリーンの横幅は本格的に狭く、無理からシネスコで上映すると派手に上下が空くにさうゐない。四席づつの客席が左右二列並ぶのが、妙に斬新に映る。ハッテンするには、何気に窮屈な気がする。閑話休題、長野入りした野村は、小百合と再会。楽日早めの終映後、老映写技師・山田(野上)の計らひで小百合が野村と“二人のための特別興業”を楽しんでゐると、吉田が迎へに来る。
 配役残り中沢真美から吉田康史までは、オフィスを手狭に見せるトゥー・マッチの東西映画要員か。太田始も内藤忠司もその人と知れる形では抜かれないが、頭数は合ふ。山咲小春は、既に一緒に生活する野村の婚約者・美香。長野隊は小百合と吉田の結婚に興味津々な夢屋常連客に、潤沢なニュー商工要員。
 大絶賛今をときめかない、どころか、抹殺された風情すら漂ふ荒木太郎2001年薔薇族込みで最終第五作。「キャラバン野郎」と双璧を成す多呂プロ二枚看板、「映画館シリーズ」の第一作である。荒木太郎推しの故福岡オークラで幾度と上映されてゐた筈にしては、この期に改めて見てみると何故だかワン・カットたりとて観た記憶が蘇らない。またこの男が頑なに臍を曲げ、忌避する勢ひで回避してたのかな?再度閑話休題、よくて藪蛇、しばしば積極的に邪魔な意匠で映画の素直な成就を妨げる、基本荒木調と持て囃されるところの荒木臭は、恐らくラブホ実景ではない、プレジデントの安普請サイバーパンクな美術を除けば今回鳴りを潜める。順に主演女優と、形式上のビリングに実質的な差異は特に見当たらない三番手と二番手の濡れ場を何れも入念に大完遂。先に見せるものを見せておいて、前半は小百合と野村のリユニオンを辛抱強く我慢、後半に勝負を賭ける戦法は裸映画的に極めて順当な構成に思へる。さうはいへ純真な輝きを放ち続ける里見瑤子は兎も角、面も口跡も間の抜けた西川方啓は決定力に激しく欠く。となると、極めて即物的に解するならば、要するに互ひに結婚を見据ゑた女と男が、双方後腐れない安全圏にて焼きぼつくひに火を点けるに過ぎなくもない、始終にワーキャー騒ぐほどの感興は別に感じなかつた。感じなかつた、ものの。野村の宿での、最初で最後の情交。静かながらハイキーに照明がスパークする一回戦も美しいが、二回戦に突入8ミリの映写機が二人の体に照射するや、ニュー商工の舞台にワープする大胆な映画の嘘は、一点突破で一撃必殺のエモーションを煌めかせる。

 昭和天皇を―モックンよりも数百倍素で寄つてゐる―荒木太郎が模した、2018年第一作が土壇場中の土壇場で公開中止の大憂き目を喰らつた事件に関しては、大蔵が完全に出来上がつた新作を蔵入れし、生え抜きのレギュラー監督である荒木太郎が、以来代りの一本も撮らせて貰へずにゐる事実ないしは現状以外に、表に出て来る情報が兎にも角にも乏しく、白黒のつけやうもない。尤も、普通に考へればオーピーが脚本なり初号に目を通してゐない訳がなく、直截にいふと、荒木太郎は梯子を外された印象を持つものである。


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 「日本夜伽話 パコつてめでたし」(2017/制作:多呂プロ/提供:オーピー映画/監督・脚本:荒木太郎/撮影照明:飯岡聖英/編集:酒井正次/現場演出:若月美廣/撮影助手:宮原かおり・岡村浩代/照明助手:広瀬寛巳/演出助手:三上紗恵子/製作:佐藤選人・小林徹哉/ポスター:本田あきら/音楽:龍宮首里音楽協会/応援:中西さん/亀捕獲:三上紗恵子/タイトル協力:ヴィッケ/セッティング協力:コポンチ・ミニコ/録音:シネキャビン/仕上げ:東映ラボテック《株》/カラコレ:石井良太/協力:福島清和・首里劇場/出演:麻里梨夏・塚田詩織・愛野ももな・西藤尚・本木幸世・淡島小鞠・平川直大・夕須虎馬・冨田訓広・小篠一成・稲葉良子/特別出演:牧村耕次)。出演者中、西藤尚・本木幸世と冨田訓広は本篇クレジットのみ。牧村耕次の正確なビリングは冨田訓広と小篠一成の間で、荒木太郎の俳優部に関してはオミットされる。
 可動ギミックを仕込む形で進化を遂げた多呂プロ立体ロゴと、亀の甲羅にタイトル開巻。国民年金を受け取りさゝやかにホクホク帰宅する浦島才蔵(小條)は、あちきなヒャッハー造形の不良少女三人組(西藤尚×本木幸世×淡島小鞠)が、亀を苛めてゐる現場に遭遇する。ここで、ともに銀幕初陣の小篠一成と本木幸世は黒テント一派。といふか、遅れ馳せながら今回初めて辿り着いたのだが、多呂プロでのキャリアをぼちぼち積み上げる冨田訓広がそもそも黒テント。この御三方、小篠一成は創立メンバーで、本木幸世と冨田訓広はそれぞれ2000年と2010年の入団。そして改めて声を大にして訴へたいのは、何がそんなにいゝのか個人的にはてんでピンと来なかつた、アイドル扱ひで持て囃されてゐた現役時代よりも、西藤尚は顔の線がリファインされた現在の方が絶対に美人である、である(ドン!   >強く机を叩いてみる
 収拾のつかなくなつた感情の発露は兎も角、亀を助ける引き換へになけなしの泪金を巻き上げられた才蔵は、亀を川に逃がしたのちとぼとぼとまさかのシネキャビンに帰宅。浦島家のロケーションは、荒木家を巧みに兼用してるかも。軽く呆けた妻のさなえ(稲葉)は困窮した事態を理解しない中、長い付き合ひの大家の、ドライな息子(平川)が滞らせた家賃の催促に現れる。突きつけられた猶予は、非情か非常識にも二日、といふかそもそも違法である。何も出来ない一昼夜を通過した、シネキャ最後の夜。若き日のさなえ(塚田)の幻影に誘き寄せられ、自身も若返つた才蔵(夕)が騎乗位を完遂した淫夢明け、娘が満額家賃を払つて行つたと、ナオヒーローが領収書を手に現れる。謎の恩人を捜しに家を飛び出した才蔵は、川のほとりにてこの人?が金を出して呉れてゐた、助けた亀の化身・アンモナイト麻美(愛野)と出会ふか再会する。むかしでないけど浦島は、助けた亀につれられて。豪快にハンドメイドな紙細工と、要は夕須虎馬が愛野ももなを後背位で突くイメージを通して、亀の背中に乗つた才蔵は、琉球建築を王宮に模した竜宮エレン国に到着する。
 配役残り満を持して登場する麻里梨夏が、暗殺された国王に代る事実上の女王として、竜宮エレン国を統べる王女・エレン。散発的に名曲「恋情乙女」(2010)が劇伴にも使用される牧村耕次と、冨田訓広にコバテツがエレンの従者。華麗に二役を務める淡島小鞠は、竜宮エレン国に侵攻する隣国のAve Maria少年総統、荒木太郎が配下。その他景色的に、首里劇場館長が見切れる。
 関東近郊だけでなく、沖縄・大阪ロケをも謳つた荒木太郎2017年第二作。尤も、沖縄に渡つたのは恐らくカメラを持つた荒木太郎と亀を持つた三上紗恵子(=淡島小鞠)のみで、多分大阪も、出張つたのは塚田詩織と夕須虎馬の二人きりか。そして、あるいはそんな。正直何気に意義が微妙な大阪パートを、生存が確認されるレベルで久ッし振りに名前を見た若月美廣が仕切つた格好なのか?
 映画の中身に話を戻すと、性愛によつて発生するエネルギーで文明を回す―図らずも、山﨑邦紀と荒木太郎が近いタイミングで同じやうな話を書いてゐるのが興味深い―竜宮エレン国では、正装がいはゆるバカには見えない服。日常の各挨拶も愛撫諸々とかいふ、如何にもピンク映画的なユートピア設定。兎にも角にも特筆すべきは、さういふ方便で荒野に於けるAve Maria少年総統との対峙時以外には正真正銘の全篇をトップレスか全裸で通す麻里梨夏が、荒木太郎前作に続くピンク第二戦で代表作の貫禄を以て撃ち抜く、たをやかにして弩級のエモーション。飯岡聖英デジタル時代も必殺のカメラの力も借り、時に美しく時に気高く、濡れ場に入るや問答無用にどエロい麻里梨夏が叩き込み続けるショットの数々は、要は浦島太郎に二三本毛を生やした程度に過ぎぬ他愛ない物語をも、主演女優の一点突破で堂々と支へきる。エレンの背景で、如何にも竜宮城的な舞を舞ふ役を担ふには、表情に限らず体も硬い三番手に、荒木太郎が我慢しきれない、表層的なアクチュアリティ。こちらもピンク第二戦で、闇よりも暗い第一戦では唯一人気を吐く輝きを誇つた塚田詩織の、実質締めの濡れ場でこゝぞと再び「イン・ザ・ムード」を鳴らさない超絶のロスト画竜点睛。猥雑な昭和を懐かしんでばかりの荒木太郎には、これから自分が描く世界にも目を向けなよと声をかけたくもならうところではあれ、万事些末とさて措いてしまへ。麻里梨夏だけ見てればいゝ、それだけで戦へる。いや、それだけでもないもう一点。一人づつだと映画的にはクドさも否めない小篠一成と稲葉良子が、二人見事に噛み合ふとシークエンスが芳醇な香りを放ち始める、滋養深いケミストリーは裸を離れた見所。もしかすると、演劇畑でもこの二人の共演は何気にエポックたり得るのか。


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 「結婚前夜 やさしく挿れて」(2017/制作:多呂プロ/提供:オーピー映画/監督・脚本:荒木太郎/撮影・照明:飯岡聖英/編集:酒井正次/演出部:三上紗恵子/撮影助手:船田翔・染谷有輝/音楽:安達ひでや・首里音楽研究会/挿入歌:作曲:安達ひでや・作詞:荒木太郎『人生負け祭』/ポスター:本田あきら/制作:佐藤選人・小林徹哉/現場進行:手島有・冨田訓広/録音:シネキャビン/仕上げ:東映ラボテック《株》/出演:麻里梨夏・神納花・今井ゆあ・夕須虎馬・冨田訓広・野村貴浩・牧村耕次/弁士:稲葉良子)。クレジットの大半はタイトル・イン直後の冒頭で、稲葉良子のみオーラスのエンド・マーク前。
 多呂プロ立体ロゴからモノクロ開巻、以降全篇に亘りモノクロとカラー各パートを往き来する格好なのだが、回想が全てモノクロでといふ訳でもなく、今井ゆあの濡れ場のやうに途中から色がつく件もあり、一見ランダムにしか見えないスイッチの基準は、デジタルにつきかういふ作業も簡便になつたといふ方便のほか釈然としない。稲葉良子が太宰治『弱者の糧』の朗読をオッ始め、要は大体「昭和枯れすすき」の節に、何もかんもに負け倒す歌詞がグルッと一周して痛快な挿入歌が起動した上で、パッチワーク風のタイトル・イン。後述する何と当人をも大登場させる闇雲な太宰治フィーチャーも、最終的には『一匹と九十九匹と』にも連なる太宰の卑屈と紙一重の映画観に荒木太郎が寄せる共感が、現作家としての志込みで酌めなくもないものの、斯くも断片的な引用では、実際の出来栄え上は藪から棒な印象に止(とど)まる。
 ロングで波打ち際を急ぐ二人の男、山上恒彦(牧村)の息子・達彦(野村)が、先に妊娠させた婚約者・斉藤藍(麻里)の家に父子で御挨拶に向かふ。ここから、といふか開巻で既にでもありつつ、所々で黙りながらも、初つ端は恒彦を上条恒彦と絡めたネタが爆裂する稲葉良子による口上大起動。こちらも改めて後述するが、これも荒木太郎が書いたのか案外気の利いた台本と、稲葉良子の自由自在な話芸ともに申し分ない。藍にも母親はをらず、どちらかといはなくとも恒彦より達彦に齢の近い比呂志(夕・・・・が苗字でいいのか?)は藍にとつて義父で、職業はホストだつた。達彦には失踪したと話してゐた母親に関し、恒彦が“亡き妻”と口を滑らせた弾みで、二人の父親は銘々身の上話を始める。
 配役残り今井ゆあは、三十五年前、リストラされ失意の恒彦が出会つた、当時ガソリンスタンド店員の達彦母・美奈子。妙に自信満々で恒彦の前露にする、自慢の爆乳が確かに威力絶大。重要な役ともいへ実は殆ど単なる濡れ場要員であるにも関らず、さう思はせないだけの確かな存在感を刻み込む。達彦が生まれて間もない頃、ある朝美奈子は起きて来ず、傍ら達彦も泣いてゐた。後々の描写を見るにリサイクル業を開業したと思しき恒彦が構はず仕事に出たところ、帰宅してみると美奈子は死んでゐた。といふのが、達彦に秘してゐた母親不在の真相。美奈子を搬送する救急隊員は、画面手前がコバテツに見えるのでだとすると制作部か。そして四年ぶりの復帰後荒木組三作連続登板の神納花が、藍の母親・春子。元々比呂志とは幼馴染の年上のお姉さん的な関係で、社会的地位も収入もあるけれどクソDV野郎の藍実父(荒木太郎)との生活に疲れ果てた春子が、客引き中の比呂志と再会したのが二人の馴初め。比呂志との再婚で平穏な幸福を取り戻した春子ではあつたが、交通事故で死去する。冨田訓広は、藍の子供の父親は比呂志ではないかと達彦に吹き込む―達彦も働く―古道具屋従業員と、着流しで飛び込んで来ては“私は、たいていの映画に泣かされる”と『弱者の糧』を引き続き一頻り打つ、よもやまさか太宰治当人の二役。正直精々ギター侍で、似せようとする意識は微塵も感じられない。面影で攻めるとなると・・・・岡田智弘辺りが衣裳は兎も角メイクの力も借りればいい塩梅に寄せられないか?
 闇よりも暗い神納花(ex.管野しずか)復帰作、枠そのものが恐ろしい不吉な怪談映画と結構壮絶な二連敗が続いた荒木太郎の、2017年第一作。ところがこれが、満更でもないから矢張り映画は観てみないと判らない。これから結婚する若き二人と同等か寧ろそれ以上に、二人の父親をフィーチャーした構成にしては、その若い方は佐川一政と舛添要一を足して二で割つたが如き、何処で拾つて来たぶりを迸らせる馬の骨に過ぎない。割に、夕須虎馬のところに空いた穴は適宜俳優部の全員野球でカバーする。絡みに突入してなほ始終姦しい稲葉良子の口上は、一見あるいは一聞するに不要な意匠で映画を散らかす荒木調ならぬ荒木臭の極致かと思ひきや、絡みの展開を思ひのほか的確にサポートするのと、締めの初夜に於いては麻里梨夏の乳尻に対する観客のエモーションを効果的に誘導する、のみならず。突入に際する女の裸を観に来た者供に対する注意喚起の返す刀で、素面の観客以外の一大どころかある意味主要勢力、ハッテン勢を牽制してのけるのには、荒木太郎の癖に洒落た真似をしやがると激しく感心させられた。偏に映画だけでなく、小屋にも向けられた荒木太郎の眼差しには軽くグッと来た。尤も、よくよく考へてみるまでもなく、映画館シリーズの荒木太郎を捕まへて、何をこの期に寝惚けた与太をと難じられるならば、全く以て仰せの通り。咥へてもとい加へて、少々薄味の物語も、最後は牧村耕次の朗々とした大歌唱で些末を吹き飛ばす大団円を捻じ込んでみせるのは、上手くハマれば多呂プロの御家芸。そして文字通りの手作り感が微笑ましいLucky号の砂浜ラン、もう少し物理的速度込みで疾走感が欲しかつた気持ちも残らぬではないが、陽性の娯楽映画の着地点として綺麗に抜けてゐる。オッパイオッパイして、思ひ返すほどの話の中身もないけれど、スカッとした心持で家路に就く。それはピンクの、別に偉ぶらなくともひとつの然るべき姿ではなからうか。


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 「色慾怪談 ヌルッと入ります」(2016/制作:多呂プロ/提供:オーピー映画/監督・脚本・出演:荒木太郎/原作:瞿宗吉『牡丹燈記』・三遊亭円朝『怪談 牡丹燈籠』/撮影・照明:飯岡聖英/編集:酒井正次/撮影助手:宮原かおり・志田茂人/照明応援:広瀬寛巳/演出助手:三上紗恵子/音楽:安達ひでや・首里音楽研究会/メイク:ビューティ☆佐口・イム/ポスター:本田あきら/応援:榎本敏郎/進行:佐藤選人・小林徹哉/協力:花道プロ/録音:シネキャビン/仕上げ:東映ラボ・テック《株》/出演:南真菜果・水野朝陽・神納花・那波隆史・野村貴浩・河内哲二郎・春風亭伝枝・天才ナカムラスペシャル・淡島小鞠・牧村耕次《特別出演》・稲葉良子)。
 制作に変更された二代目多呂プロ立体ロゴから、タイトル開巻。特製チラシに謳はれる、“多呂プロ20周年記念作品”の文言が本篇中には見当たらない。
 夏祭りの風情も賑やかなお盆前、私財でこども食堂を開く有徳の教師・萩原喬生(那波)の下を、元教へ子の人妻・飯島美麗(南)が女中の夜音(稲葉)を伴ひ訪れる。一切登場しない夫の暴力と継母の苛めに苦しむ美麗は、かねてから想ひを寄せてゐたらしい萩原に、盆期間限定で夫婦の契りを求める。初めは固辞してゐた萩原も、何だかんだで据膳を喰ふ。美麗と逢瀬を重ね、何故か徐々どころでなくみるみる消耗する萩原の話を、萩原の叔父にして、穀潰しゆゑ甥の下男的に生計を立てる伴潤一郎(河内)から聞いた占ひ師の白翁堂幽斎(春風亭)は、二丁拳銃を振り回す美麗の義父に踏み込まれる悪夢から跳ね起きた萩原に、衝撃的な事実を伝へる。飯島家の環境に耐へかねた美麗は既に自死、夜音も後を追つてゐるといふのだ。
 配役残りex.管野しずかの神納花が件の凶悪な継母・くに子で、野村貴浩はくに子に仕向けられ美麗を手篭めにする間男・源次、二人して飯島家の財産を狙つてゐるとかいふ安い寸法。牧村耕次が美麗義父の喜一、何でくに子のやうな悪女と再婚したのか不思議な人徳者。何時まで経つても出て来ないやきもきを、まんまと的中させる水野朝陽は伴の女房・峰子。天才ナカムラスペシャルとwith二人目?の淡島小鞠は、幽斎指揮下萩原の無事を祈願し祈祷する引きこもり要員。皆さん籠もつてた期間は紹介順に三ヶ月の佐藤選人と六ヶ月の榎本敏郎でもない誰か判らん人に、一年の淡島小鞠が前列左から。後列は右から五年の小林徹哉、十年の荒木太郎と、三十八年の天ナス。大トリの破壊力は、作中僅かに命中する。新顔の女優部に話を戻すと、オッパイの破壊力は申し分ないもののお芝居の方は御愛嬌に心許ない南真菜果が誰かに似てゐるやうな気がしたのは、軽く千葉尚之。一方負けず劣らずのオッパイを誇る水野朝陽は、前回の塚田詩織同様肩の力を抜いた演出が功を奏したのか、軽快な突破力を発揮する。
 大概な土壇場に至つて二番手が飛び込んで来たり、旧態依然とした荒木調ならぬ荒木臭がガッチャガチャ空騒ぐ中を、深町章の「熟母・娘 乱交」(2006/脚本:河西晃/主演:藍山みなみ)以来の牡丹燈籠が辛うじて通り一遍進行する。国沢実は高橋祐太とのコンビでこの期に及んでの好調を死守する反面、荒木太郎2016年第三作は2012年に復活した大蔵時代の恒例夏の怪談映画枠を頂戴しておきながら、黒澤明の「生きる」を翻案した割にはちつとも生きてやしない謎が暗黒よりも深い前作に引き続き、逆の意味で見事に失速し力なく二連敗。水野朝陽投入が遅きに失した、即ち劇映画としての全体的な構成の崩壊は、神納花V.S.野村貴浩が妙に費やす尺とも加へて、裸映画としては全般的な濡れ場の総量確保と引き換へといつていへなくもなく、さういふ肉を斬らせて骨を断つ戦略を採用したと最大限好意的に曲解するならば、漸く発見しかけたせめてもの立つ瀬を。泰然と水泡に帰してのけるのが、今も昔と変らなかつた荒木太郎といふ御仁。スッカスカの始終を仕方なく通過したのちの、二組に別れた俳優部が例によつて無駄にてれんこてれんこ呑気に踊り呆けてみせるオーラスが、力尽きて寝た子も起こして癪に障る。果たして周年記念に本気で挑む気概が本当にあつたのか出任せた方便か、斯様なザマでは三十周年なんぞ来はせんのではなからうか。

 ところでといふか、ところがといふか。改めて復活後の大蔵恒例夏の怪談映画を振り返つてみると、「おねだり狂艶 色情いうれい」(2012/監督:渡邊元嗣/脚本:山崎浩治/主演:大槻ひびき)は、今も深く心に染み入る。因みに最後の水上荘映画でもある「愛欲霊女 潮吹き淫魔」(2013/監督・脚本:後藤大輔/主演:北谷静香)、手応へさへ感じられない「怪談 女霊とろけ腰」(2014/監督:加藤義一/脚本:鎌田一利/主演:水樹りさ)と来て、レス・ザン・イントロダクションで飛び込んで来る倖田李梨が大草原の「色欲絵巻 千年の狂恋」(2015/竹洞哲也/脚本:当方ボーカル/主演:伊東紅)。折角ナベが、最高のスタートを切つた、のに。真に恐ろしいのは、怪談映画の中身ではなく、映画そのものが実は何気に現在四連敗中といふ死屍累々。呪はれたシリーズの連鎖を断ち切るには、今年は必殺を期して城定秀夫でも連れて来るしかあるまいぞ。


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 「溺れるふたり ふやけるほど愛して」(2016/製作:多呂プロ/提供:オーピー映画/監督・脚本・出演:荒木太郎/撮影・照明:飯岡聖英/編集:酒井正次/撮影助手:宮原かおり・榮穰・岡村浩代/演出:榎本敏郎/演出ヘルパー:冨田訓広/制作:佐藤選人・小林徹哉/メイク:ビューティ☆佐口/ポスター:本田あきら/協力:花道プロ/録音:シネキャビン/仕上げ:東映ラボ・テック株式会社/出演:神納花・松すみれ・塚田詩織・野村貴浩・津田篤・天才ナカムラスペシャル・冨田訓広/特別出演:平川直大・淡島小鞠・ほたる)。ポスターには記載のある音楽の首里音楽研究会が、本篇クレジットには確か見当たらない。
 立体ロゴとタイトル開巻、先にクレジットが流れる。天下りの工場長・長谷川修平(荒木)が、朝から枯れ果てて定時出社。派遣の工員には陰口を叩かれつつ、仕事も特に何するでもなく、新聞をスクラップしかけた長谷川は突如襲はれた激しい苦痛に悶絶。担ぎ込まれた病院で、あつさり手の施しやうのない末期癌を宣告される。とまれとりあへず職場復帰してみた長谷川に、工場の事務員・小山内美紀(神納)は、「死んでる時間の中にゐたくない」だ「このまゝ終りたくない」だとかありがちな方便で退職を申し出る。ここで神納花といふのが、今何処田中康文大蔵移籍の第三作「女真剣師 色仕掛け乱れ指」(2011)・第四作「感じる若妻の甘い蜜」(2012)以来の電撃ピンク復帰を遂げたex.管野しずか。妻・秋子(淡島)と死別した長谷川は、秋子の思ひ出も残る親が遺した家での、現在は弟・哲平(野村)夫婦との同居生活。弟嫁の千里(松)のみならず、哲平も兄の遺産に対する色目を隠さうともせず、長谷川は家に帰つても針の筵に座らされてゐた。万事に力尽きた長谷川は、飛び込まうかとした急流の畔で、傾(かぶ)いたホームレスの保志(天ナス)と出会ふ。何のためにも誰のためにもならないとこれまでの来し方を述懐する長谷川を、山﨑邦紀に気触れたのか保志は完全な芸術家と称揚する。
 配役残り塚田詩織は、保志が長谷川に引き合はせる謎の女・ジャネット。水上荘の法被を羽織り、寿限無をシャウトしながら賑々しく大登場。「イン・ザ・ムード」鳴り響く中、散発的に自慢の爆乳を最短距離で誇示する「オッパーイ!」を連呼する飛び道具的三番手にして、今作唯一の清涼剤。利いた風な口を叩いた割に、結局美紀はデリ嬢に。客(ナオヒーロー)と別れた美紀と、出社もしないで徘徊する長谷川は再会する。以降美紀を取り巻く男達が、順にコバテツが客、順番を前後して冨田訓広の二役目、ナオヒーローの二役目、津田篤があがりを吸ひ取るダニ。この中で津田篤のビリングが高いのは、絡みがあるから。こちらは加藤義一2014年第一作「制服日記 あどけない腰使ひ」(脚本:鎌田一利/主演:桜ここみ)以来のピンク帰還となるほたる(ex.葉月螢)は、偶さか平穏を取り戻した長谷川と縁側でかき氷を食べる、多分病人友達。その他、長谷川を揶揄する派遣行員は佐藤選人と冨田訓広に、台詞のないビューティ☆佐口と、背中しか見せないもう一人。あと、ぞんざいにステージ4を告知する医師のアフレコが、クレジットは完全に素通りしてゐるけれど岡田智弘に聞こえたのだが。塚田詩織に話を戻して、それどころでなくなる前に触れておくと、塚田詩織の豪快な起用法に加へ、松すみれに秋子の秘密を明かさせるカットでは、荒木太郎の演出も冴えてゐた。
 改めて後述するが荒木太郎が心配にさへ思へて来る、2016年第二作。再会した美紀を、長谷川は食事に誘ひ、食後にはソフトクリーム、締めにブランコに乗る。それだけの一日が楽しくて楽しくて仕方がなかつた長谷川は、コバテツと別れた美紀を、再び同じ店に誘ひ、ソフトクリーム経由のブランコと、かつて美紀が“死んでる時間”と吐き捨てた工場での仕事と変らない、同じことを繰り返す。脊髄反射で臍を曲げ、一旦別れを告げるも踵を返した美紀は長谷川に、「金出せよいい夢見させてやんぞ」と悪し様に詰め寄る。これは、これはこれで無力に立ち尽くすほかないダメ人間に、延髄斬りを叩き込む残酷な天使が降臨するドラマが起動したのかとときめきかけたのは、俺史上最大級空前の早とちり。風俗嬢に入れ揚げ全財産を貢いだ男は、弟嫁まで含め全てを失ひ最終的には野垂れ死に。女も女でちよろまかした金をダニに吸ひ取られるまでは兎も角、何故か男の後を追ふかのやうにみるみる消耗、挙句急流に身を投げるストップモーションがラスト・ショット。だ、などと。斯くも一欠片の救ひもないどうしやうもない物語を、荒木太郎は一体何を考へて撮つたのか。長谷川と美紀の造形なり関係性から火を見るよりも明らかなやうに、黒澤明「生きる」の翻案をチラシに謳ふまでもなく実際に取り組んでおきながら、全ての生命力を失ひ落下運動の如く死に至るのが、荒木太郎にとつての“生きる”といふことなのか?全然生きてねえよ。侘び寂びなんぞでは片付かぬ明らかに尋常ではない生命観に荒木太郎が心配にさへ思へて来る、2016年恐らく最大の問題作である。

 最後にもう一ツッコミ、為にする嘘ないしは事実誤認であるのかも知れないが、健康問題でも家族との不和でもなく、中高年―男性―自殺の原因第一位は経済的な要因ぢやろ。


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 「やは乳太夫 月夜の恋わずらひ」(2016/製作:多呂プロ/提供:オーピー映画/監督・脚本:荒木太郎/撮影・照明:飯岡聖英/編集:酒井正次/撮影助手:矢澤直子・友利水貴/照明応援:広瀬寛巳/演出助手:林有一郎/音楽:島袋レオ・宮川透/メイク:ビューティ☆佐口/ポスター:本田あきら/制作担当:佐藤選人・小林徹哉/協力:花道ファクトリー/録音:シネキャビン/仕上げ:東映ラボテック株式会社/出演:澁谷果歩・里見瑤子・結城恋・橘秀樹・平川直大・天才ナカムラスペシャル・春風亭伝枝・那波隆史)。出演者中春風亭伝枝の、“傳”の字の略字表記は本篇クレジット・ポスターまゝ。
 まんま浄瑠璃調の狂言回しな義太夫(春風亭伝枝/ex.滝川鯉太郎)が、ベンベン三味を鳴らしながら明治時代、“I love you.”なる英文を二葉亭四迷は“貴方とならば死んでもいい”と訳し、別の作家―周知注:夏目漱石―は“月が綺麗な夜ですね”と訳したとか紹介してタイトル・イン。開巻即座に吹き荒れる、荒木調ならぬ荒木臭に大いなる危惧を覚えるのも禁じ得ないのはとりあへずさて措き、“I love you.”訳に向き合ふと漱石も兎も角、二葉亭に関してはどうやら事実ではないらしい旨が検証されてゐたりもする。
 年金暮らしの気持誉三郎(那波)が、古いピンク映画のプレスシートを貼り巡らせた自宅兼―劇中営業してゐる風にも別に見えないが―「我楽多屋」の周囲で、ビューティ☆佐口も交へた一同と三線の音に乗りよいよいと踊り明かす。いよいよ以て暗い予感が胸を過りつつも、まだ諦めるのは些か早い。ビリング中盤に、我等がナオヒーローこと平川直大が控へてゐるんだぜ。複数の男の下を死なない程度に搾り取つて渡り歩く、腹黒姫ユミ(義太夫いはくには腹黒娘だけれど、多呂プロ作成の特製チラシにも腹黒姫/結城恋)との情事の最中、誉三郎の腰がメシッと恐ろしい音とともにデストロイ、誉三郎は元気に七転八倒しながら床に臥せる。一方、誉三郎の息子・盾男(橘)も、いはゆる恋わずらひで寝込む。土手で「ムーンライト・セレナーデ」をギターで爪弾く紺屋高尾(澁谷)を、盾男は見初める。ところが高尾は順番だけで一年待ち、一晩三百万を取る高級中の高級娼婦だつた。年収二年分の高嶺の花に力なく白旗を掲げる盾男に対し、兄貴分の得呂喜一こと通称エロッキー(平川)は、二年死ぬ気で働けば高尾に会へるぢやないかと背中を押す。斯くてエロッキーに励まされ、盾男は我武者羅に働き始める。
 配役残り里見瑤子は、順調に婚期を逃す盾男の妹・唯々子。妹!?何気に豪快なキャスティングではある。ヒット・アンド・アウェイよろしく、どさくさに紛れて飛び込んで来ては即座に捌けるエロッキー母親は、背格好推定で多分淡島小鞠(a.k.a.三上紗恵子)。たんぽぽおさむのセンでジェントルマンを物静かに好演する天才ナカムラスペシャルは、高尾が抱える借金を直ぐにでも完済し得る、高尾の上客・伴潤一郎。ほかに明確に見切れるのは小林徹哉が、盾男やエロッキーが働く現場の親方。唯々子に話を戻すと、盾男と高尾の逢瀬を何かとアシストするエロッキーの真意ないしは下心が、ズバリ唯々子。多呂プロ映画御馴染のロケーション、スワンボートが並ぶ富士五湖何れかの湖畔。何故か上半身裸になつたエロッキーの、ナオヒーロー持ち前の情熱が迸る唯々子に対する求愛。自身の容姿に自信を持てない唯々子に「そんなことはない!」と雄々しく断言したエロッキーが、「思つた通り綺麗だ・・・・」と囁く時、平川直大の姿はこの星の上で最も美しい映画「キャリー」(1976/米/監督:ブライアン・デ・パルマ/主演:シシー・スペイセク)に於けるベティ・バックリーに重なり、一旦その場を立ち去るかに見せた唯々子が、フレーム外からダイナミックなジャンピング・ボディー・アタックでエロッキーに抱きついた瞬間、「ムーンライト・セレナーデ」と同じくグレン・ミラーの「イン・ザ・ムード」が賑々しく鳴り始めるカットで今作のエモーションは最高潮に爆発する。
 遠目に富士が望めてゐれば日本映画は何とかなる気がする、中川大資は木端微塵に仕損じた何の根拠もない楽観論を思はず持ち出しかける、荒木太郎2016年第一作。荒木臭の悪寒に苛まされたのは、幸にも杞憂。盾男の愚直に何故か絆された高尾が、更に二年後の満月の夜に今度は自から嫁ぎに来る。欠片たりとて中身のない物語を、外野のハイテンションと主演女優の的確な濡れ場とで一息に観させる。平川直大と里見瑤子がエモーションを爆発させる傍ら、今回奇跡的に那波隆史も空回るでなく、三番手の結城恋が地味に、佐々木基子と速水今日子を足して二で割つて若くした逸材。反面、澁谷果歩と橘秀樹には正直多くを望めない高尾と盾男のパートに際しては、春風亭伝枝は黙らせ、エッサカホイサカの最中(さなか)も盾男の存在を半ば排したわゝに揺れ躍る澁谷果歩のやは乳―のみ―を執拗に抜くカメラワークはあまりにも秀逸。当代人気AV女優の裸を、大スクリーンでお腹一杯に見せるジャスティス。一見勢ひに任せた一発勝負に見せかけて、アバンをズバッと回収してみせる、即ち義太夫が単なる余計な意匠ではなかつたことも意味するラスト・ショットはお見事。締めがキチンと締まる映画は強い、この期に及んで荒木太郎がノッてゐる風情を窺はせる快作。三百六十度全周するパンを通して、三者三様の選曲に乗つた高尾V.S.盾男戦・唯々子V.S.エロッキー戦・ユミV.S.誉三郎戦を順々に連ねるピンク映画らしい濡れ場のジェット・ストリーム・アタックも、一周で終つてしまつたのが惜しいほどのスペクタクル。


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