真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「痴漢電車 魅せます巨乳」(2002/2005年に『痴漢鉄道 ムンムン巨乳号』と旧作改題/製作:ナベシネマ/提供:オーピー映画/監督:渡邊元嗣/脚本:五代暁子/撮影:飯岡聖英/照明:小川満/編集:酒井正次/助監督:佐藤吏/出演:美咲レイラ・風間今日子・林由美香・十日市秀悦・山信・ささきまこと)。
 明美(風間)の店で常連客と一見、二人の男が飲んでゐる。二人共、どうやら恋を失つたばかりのヤケ酒の風である。常連客は明美と同じアパートに住み、肉体関係も持つ曾根崎(十日市)。妻に先立たれて以来、侘しい寡暮らしを送つてゐた曾根崎は、ある日電車の中で集団痴漢に遭ふエリ(後述)と出会ひ、助けたエリをアパートに連れ帰る。バツイチだといふエリとあつといふ間に親密な仲になるや、再婚を真剣に考へ始める。万年浪人のバカ息子・春也(ささき)も含め同居の為の三世代住宅の建設資金として蓄へてゐた、虎の子の預貯金三千万円をエリに持ち逃げされる。
 一見の男は流行作家の桜木(山)、担当編集者の真理子(林)とは、男女の仲にもあつた。ある日これまた、電車の中で集団痴漢に遭ふ樹里(矢張り後述)と出会ひ、助けた樹里を自宅に連れ帰る。忽ち樹里にのぼせ上がつた桜木は結婚を申し込むが、アルツハイマーの父親の世話をしなくてはならない、と断られる。それではと父親を施設に入所させる為に六千万円を渡してしまひ、呆気なく持ち逃げされる。要は、エリと樹里とは同一人物で、本名は好子(美咲)。好子は大雨で失はれてしまつた故郷の診療所の再建資金九千万円を工面する為に、親から貰つた唯一の財産、フェロモンムンムン全開のスーパー・ボディを武器に、上京したものであつたのだ。
 どうにも致命的に問題なのが、明美が曾根崎と桜木から全く別個の、それぞれ別人相手の失恋話を聞かされてゐるといふプロットを成立させる為に、エリと樹里とが全くタイプの異なる女、といふことになつてゐる点。樹里の野性味溢れる魔性の女、といふのは兎も角、エリが曾根崎憧れの原節子の再来といふのは、幾ら何でもそれは通らない。といふか実際のところ、エリの人物造形も樹里の人物造形も大して変りはしない。それ以前に、エリが曽根崎に彷彿とさせるのが、選りに選つて何も原節子でなくともよからう。もつと他に、幾らでも攻め易いところを選べばいいのに。この場合、例へばマリリン・モンローとか。それでもそれで、エリと樹里とが全くタイプの異なる女といふのは結局成り立たないが。そもそもエリと樹里との脚本の書き分けに、前作「美咲レイラ 巨乳FUCK」(2001)程のエキセントリックな落差が無いことが最大の敗因か。ストリッパーのやうな扇情的な衣装の樹里が、文字通り体を使つて桜木の車を嬉々として洗車する底の抜けた件。渡邊元嗣といふ映画監督の醍醐味は、さういふ底の抜けた件を、底は抜けたままでもキラキラと美しく輝かせて撮り上げるところにあり、かういつた場合に、脚本の不備を演出の切れ味の鋭さで補ふやうな芸当は、些か望むべくもないであらう。尤も、そもそもがさういふ無粋なダメ出しを、殊更にすることもない、要は何時ものナベシネマ。曾根崎がシケモクに火を点けようとするライターの火を、エリのことをやつかんだ明美が何度となく隣から吹いては消し、最後に明美が煙草に点けようとする火を、オチで今度は曾根崎が吹いて消す、さういふ軽妙な遣り取りを楽しむ映画である。普通に考へたらどう撮つてもバイオレントになる筈の、集団痴漢のシークエンスがどうして斯くも牧歌的になつてしまふのかは最早ひとつの才能であらうかとも思ふが、それにつけても美咲レイラのスーパー・ボディは、少々等閑に撮られてあつたとて矢張り素晴らしい。曾根崎を巡る、風間今日子との爆乳対決は圧巻の一言。桜木を奪はれた真理子が、自らの貧乳もとい微美乳を省みて諦める、といふソリッドなギャグも笑へる。

 兎にも角にも、訴求力に全く欠ける旧題を全面的に改めた、画期的な新題が素晴らしい。「痴漢鉄道 ムンムン巨乳号」。痴漢鉄道で、おまけにムンムン巨乳号である。この新題を考へ出した担当者は、ストレートな大馬鹿者でなければ余程の天才に違ひない、多分恐らく間違ひなく絶対前者。ムンムン巨乳号。ムンムン巨乳号。ムンムン巨乳号♪このまま108回貼つてやらうかとも思つたが、それはひとまづさて措き。このタイトルを前にして、絶対この映画を観に行かうと思はないやうな御仁は、一度映画といふものに関して一から考へ直してみた方がいい。等と微温的なことはいはぬ、キンタマ切り落としてしまへ。



 最後に切り落としてしまへばいい文字通りの蛇足、のしかも最たる。当時今作、といふか今作のブリリアントな新題に触れて、クリスマス前の殺気立つた心持ちのままに書き殴つた詩(馬太)が、今目を通してみても矢張り素晴らしい。よせばいいのに、ここに再録する。

 オッパイ超特急出発進行♪
 レティクル座の彼方へまで
 この私を連れて行つてお呉れ
 オッパイ超特急出発進行♪
 聖夜を切り裂いて走れ
 燃えろ街 終れ世界
 常しへに続け夜の闇
 白夜さへも
 暗黒に覆ひ隠してしまへ


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