真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「襦袢コンパニオン 密着露天風呂」(2001/製作:サカエ企画/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:夏季忍/企画:稲山悌二《エクセスフィルム》/撮影:千葉幸男/照明:小川満/編集:酒井正次/助監督:加藤義一/音楽:レインボー・サウンド/監督助手:岡輝男/撮影助手:池宮直弘/照明助手:石井拓也/効果:中村半次郎/出演:神崎南・小川真実・推名みなみ・なかみつせいじ・竹本泰史・丘尚輝・都義一・河野孝・久須美欽一)。出演者中、丘尚輝・都義一・河野孝は本篇クレジットのみ。推名みなみは、椎名みなみの誤クレジット。そして脚本の夏季忍は、久須美欽一の変名。
 実名登場「老神観光ホテル」の露天浴場、親の遺した借金を抱へ仲居見習、兼肉弾コンパニオンとして日々奮闘する上原ひかり(神崎)と、助平客の丘尚輝(=岡輝男)との、“密着サービス”を謳つた温泉戦にて順当極まりなく開巻。予習段階では神崎優と混同もした主演の神崎南は、ザックリ譬へるとオッパイの大きな量産型麻田真夕。但し見事な、張り物ではある。それはさて措きここでの二人の、最終的には全篇を貫くストレートに楽しさうな風情が堪らない。銀幕の内外で共有され得るエモーション、別に殊更に誇りはすまいが、この時新田栄は何気に、娯楽映画の到達点にタッチして来たのではなからうか。タイトルとクレジット挿んで、山の中の神社に日課のお参りに出たひかりは、休憩所で窒息し苦悶する鈴木彦太郎(久須美)と出会ふ。ひかりは自死を図つたものと頓珍漢に早とちりするが、お握りを喉に詰まらせただけであつた鈴木は、結構な資産家らしく、手荷物のボストンバッグの中には無造作に相当な金額の現ナマを持ち歩いてゐた。そんなこんなで「老神観光ホテル」貴賓室に宿を取つた鈴木は、ひかり相手に春を回復する。久須美欽一が捌けると、今度は小川真実登場。単なる無作為の結果かも知れないが、ベテランを出し入れする構成は地味に手堅い。ハイミス仲居の重子(小川)は、日々ひかりを厳しく指導すると称してポップにいびり倒す。買物に行かされたひかりはスーパーから出て来たところで、バス停を探すイケメン旅行者・川野涼太(竹本)と出会ふ。
 配役残り登場順に、なかみつせいじは、降つて湧いた重子の見合ひ相手・村上和雄。結果的に、重子を野外と回想室内の最低二回抱いておきながら、見合を断つた理由も語られぬままに、徹頭徹尾重子としか接さない要は純然たる濡れ場要員を、それでも妙に高いクオリティで勤め上げる。椎名みなみは、そこかしこでひかりに気軽に接触する、町の外から来たと思しき娘・はるか。都義一(=加藤義一)と正体不明の河野孝は、二人連れの「老神観光ホテル」好色宿泊客。はるかとタッグ・チームを結成したひかりと、居室・露天浴場の二連戦を華麗に戦ふ。当初硬さを見せた都義一も、湯に浸かるや俄然大ハッスル。尤もこのコンビ、声は二人とも丘尚輝のアテレコのやうな気がする。大将の新田栄も、507号室の田中役で、事前にひかりの確かに密着サービスを堪能する。更に終盤登場する鈴木の推定顧問弁護士が、多分新田栄の二役。
 新田栄の2001年第四作は、詰まるところはも何もスッカスカの物語ではあるものの、あつけらかんと陽性のヒロインが呑気に牽引する、のんびり穏やかな温泉映画。後にはどころか観てゐる最中から、濾紙を通過する綺麗な湯の如く何も残りはしないが、特に目的もなければ追はれる時間もない状況下での、温泉地の適当な散策にも似た映画体験は、それはそれとして案外以上に悪くはない。寝落ちてしまふならば、いつそそれもまた興の内。何はともあれ、あくまでアクトレスとしてはエクセスライクながら、そこに居るだけでシークエンスをやはらかく包み込む、神崎南の温かい幸福感が素晴らしい。とはいへ心許なさは矢張り否定し難い主演女優を、久須美欽一×小川真実の二大ベテランが頑丈にサポートする態勢も磐石に、強ひて難点をあげつらはんとするならば、加へて三番手ポジションに林由美香か風間今日子の不在ばかりか。新田栄の襦袢パニオン映画大定番の、ひかりが半裸から次第にほぼ全裸で部屋部屋を四次元に往き来するてんてこ舞ひショットを噛ませた上で、オーラスは絡ませる相手が居ない故、ひかりの覚束ない口上で堂々と締め括る、珍しいフィニッシュを披露する。


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 「熟女訪問販売 和服みだれ濡れ」(2010/製作:加藤映像工房/提供:オーピー映画/監督:加藤義一/脚本:近藤力/撮影監督:創優和/編集:有馬潜/音楽:與語一平/助監督:竹洞♀哲也/監督助手:江尻大/撮影助手:丸山秀人・高橋舞・瀬名波尚太/スチール:本田あきら/音響効果:山田案山子/現像:東映ラボ・テック/出演:青山愛・合沢萌・しじみ・津田篤・柳東史・平川直大・広瀬寛巳・岡田智宏・なかみつせいじ)。脚本の近藤力は、小松公典の変名。
 柳生美加(青山)率ゐる不良グループ「犯行忌、」の、回想顔見せで開巻。総勢四名からなるメンバーは、美加の妹分・菅田晃子(合沢)と、彼氏の友成陽介(柳)。それぞれ晃子の右胸には“犯”、友成の左腕には“行”の入墨。ヤンキー役に超絶ジャスト・フィットする合沢萌は加へて、柳東史に並んでカッコよく単車を駆る雄姿ならぬ雌姿も披露する。もう一人は、バイカー・スタイルをハクく決めた三人に対し、一人三の線のヒッピー然とした剛田竜也(なかみつ)。果し合ひ相手の人数の多さに、怖気づいた剛田の尻を蹴飛ばした美加が、カメラ目線で蹴りを呉れたところでタイトル・イン。徐々に明らかとなる点として、美加の右太股に“忌”、そして剛田は右尻に“、”の矢張り入墨を施してゐる。“、”て、「黒子ぢやないですか」とは、後述する津田篤の全くその通りとしかいひやうのないツッコミ。
 現在、美加は“低所得者”Tシャツを着用した江戸昭雄(広瀬)宅での、若干お色気も利かせた低反発枕の訪問販売を経て帰社。枕の開発者、兼社長の剛田が、トップ・セールスウーマンの美加を迎へる。ここで津田篤が、もう一人―きり―の同僚セールスマン・安藤力。最終的には絡みの恩恵に与るでなければ、後半の「犯行忌、」再結成にも一切噛まない津田篤は、実は何しに出て来たのかよく判らないと片付ければ判らない。親の遺産で渡英しパンク・レーベルを立ち上げるも失敗する、等々と正体不明の略歴を剛田が長々と自己紹介したりもする、結果的には逆の意味で順調な序盤を豪快に整理すると、武勇を馳せる「犯行忌、」ではあつたが、美加の逮捕を機に解散。父親の死後娑婆に戻つた美加を剛田が要は拾つた格好で、今に至る。一方晃子と友成は、相変らずバイクで全国を放浪してゐた。目下美加が堅気の熟女訪問販売員としてそれなりに奮闘する反面、剛田の会社は、恒常的に資金繰りに窮してゐた。安藤と牛丼を食ひがてら営業会議、といふほどのものでは別になく談義程度を持つた美加は、安藤の安直な提案に乗り、女の武器を活かした営業手法に開眼し一応柳腰を上げる。この辺りで気付いたことだが、どうも誰かに似てゐるやうな気が喉元まで出かゝつてゐた青山愛は、口元がC・イーストウッドに見える。嬉しいのか嬉しくないのかは、判断に苦しむふりをしてしまへ。閑話休題、そこで華麗に登場しては一幕限りを駆け抜けて行く平川直大は、美加の初陣にして劇中唯一の枕営業本戦相手・加納雅。純然たる男優部濡れ場要員ながら、「全ての洋画はAV」とすら豪語する筋金入りの白人偏好を、平川直大一流の突破力を利して披露する。尺八の吹き過ぎで美加が遂にダウンする中、自身も出撃した剛田は法人契約を目論みラブホテルに飛び込むが、何をどう間違つたのか、現れたのは冷酷な闇金業者・大杉善一(岡田)であつた。ここでしじみは、大杉が周囲に侍らせる元々は多重債務者・丸尾理恵。
 さういふ次第で剛田は大杉の仕掛けた地獄にまんまと嵌り、会社には寝耳に水の倒産を告げる大杉子分のマスク男(小松公典、後に子分其の弐で江尻大も登場)が乗り込んで来る。如何にも姐御よろしく、和装に武装した上で美加は大杉邸に乗り込むが、深手を負ひ、なほかつ美加を逃がすため自らその場に止まつた剛田も残して来る。いよいよ腹を括つた美加は晃子を呼び寄せ、預けておいた―正真正銘の、しかも箆棒な―飛び道具を受け取る。純然たる私事でしかないが、先に来た小倉を回避したところ八幡は素通りしてしまつたゆゑ、リアルタイムでは未見の加藤義一2010年第二作は事ここに至つて漸く、開巻時既に萌芽の窺へたピンキー・バイオレンス嗜好が、満を持して本格再起動する。ものの、前述したイントロダクションから迷走する流れも律儀に引き摺つてか、狙ひが明確であることと、以降の始終が一直線に進行する割には結構派手にグダグダする。ところが、満足に動けない主演女優の、別の意味で堪らない不安定極まりないアクションに味つけされた覚束ない展開が、偶さかなその日の気分と体調の問題に過ぎないやうな気もしないではないが、兎も角妙な塩梅で琴線に触れて仕方がない。強ひて過大評価を試みるならば、基本的な枠組自体はそれはそれとして堅固な脚本と、加藤義一の穏当な語り口とが、仕出かすは仕出かすにしてもチャーミングな仕出かしやうに、幸にも辛うじて辿り着き得たとでもいふ寸法か。一般的に面白いだの傑作云々だなどと、度外れた強弁を弄するつもりまでは勿論元よりない。いはゆる“アガる”類ではなく、生温かい目でウダウダと楽しむ分には、もしかすると上手く行けば万が一、楽しめ、るかも知れない一作。柳東史と合沢萌が並んで単車を転がすショットの威力は手放しで尋常ではないので、いつそこの二人―のみ―によるスピンオフ作を希望したいところでもある。

 全篇を通してジャカジャカ鳴る與語一平のバンドサウンドは、個人的には心地良い種類の音楽。但し量産型娯楽映画の劇伴にしては、合ふ合はないの賛否両論も避けられまいか。


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 「美脚秘書 締めつける股間で」(1991『女秘書の生下着 剥ぎとる』の2012年旧作改題版/製作:旦々舎/提供:Xces Film/監督:浜野佐知/脚本:山崎邦紀/撮影:河中金美・田中譲二/照明:秋山和夫・金田満/音楽:薮中博章/助監督:広瀬寛巳・山村幸司/編集:金子編集室/制作:鈴木静夫/ヘアメイク:藤峰豊子/スチール:岡崎一隆/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:憂花かすみ・山本なつき・大沢恵里加・池島ゆたか・久須美欽一・芳田正浩)。
 社長秘書の辻蓮美(憂花)が自室にて、電話越しの双子の妹・蓮根に愛も語らふ大胆な自慰を一頻り見せた上でのタイトル・イン。明けて「健島設計株式会社」、社長室の割には蓮美のボスである健島昭一(池島)以下、社長室長の汐見克彦(久須美)、更には若い社員要員(ひろぽんではないゆゑ山村幸司?)までもが同室する。適当にその日の予定を掻い摘み健島は蓮美と外出、当時完成直後の東京都新都庁舎―“新都庁”といふ用語自体が既に死語か―に蓮美が欲情する呼び水で、二人はホテルに入る、のでなく蓮美宅での昼下がりの情事。蓮美と健島は、さういふ間柄にあつた。こゝで、蓮根同様ラバー製の下着を愛用する嗜好とともに、蓮美の性的に顕著な特徴を示す建設現場属性は、如何にも山﨑邦紀が好んで盛り込みさうなモチーフとも思へつつ、結果的にはこの件で一度通り過ぎるかのやうに触れられるのみ。それは兎も角、今作最大のチャーム・ポイントが、何はともあれ主演女優。開巻では色も白い抜群のプロポーションに見惚れ気づかなかつたが、素のお芝居を通して今の目で見てみると、まあ感動的に城島健司に瓜二つの女である。城島健司は1994年の福岡ダイエーホークスドラフト一位につき、この時点では憂花かすみにとつて全く与り知らぬ話でしかないのだが。閑話休題、黒のラバー下着を着用する姉とは対照的に、白ラバーの蓮根(当然憂花かすみの二役)と彼氏・木和田是生(芳田)の一戦挿んで、半ば強引に蓮美とエレベーターに乗り合はせた汐見は、健島との不倫を出汁に、自身も蓮美に関係を強要する。
 配役残り山本なつきは、昭一の妻・歌子。未だ80年代の残滓を色濃く引き摺る、時代を超え得ないショート・カットにも足を引かれた魅力の乏しさは直截に苦しいが、昭一が婿養子である立ち位置と、現会長である歌子父親から健島建築設計を継いだ旨とを意地悪げにイントロダクションするのは、それはそれでそれなりの好演ともいへようか。大沢恵里加は、汐見の彼女・久美田香織。三本柱の中では一番首から上下の総合的にバランスが取れてゐる反面、却つて残る印象は河豚の刺身よりも薄い。完全無欠の三番手濡れ場要員とはいへ、汐見に臨時収入の希望的観測がある皮算用を絡みを通して語る段取りには、ピンク映画として何気に一流の論理と誠意とが透けて見える。
 手をつけた秘書を体よく処理する、卑劣な姦計に囚はれた穏当な姉の窮地を前に、藪から棒に攻撃的な双子の妹が活躍も通り越した大暴れ。混乱にも出鼻を挫かれた男達は、忽ち翻弄される。浜野佐知1991年第五作は、1+1が1のまゝのサイコ・サスペンス。今回の浜野佐知は丁寧にトリックを積み重ねることに終始し、蓮美は兎も角蓮根といふお誂へ向きなアクティブ・ヒロインを擁しながらも、平素の苛烈な女性主義は、展開の流れを逸脱するほどではなく概ね影を潜める。蓮美宅に乗り込んだ健島が、決して二股といふ訳ではない木和田と鉢合ふクライマックス。半ば真相に辿り着いた健島に対し、依然善意の第三者である木和田が室内の電話を手に取る件では、予想通りのロジックがもたらす、パズルに最後のピースがピシャリと合はさる安定感を伴つた快感を味はへる。正味な話が新味には欠いたいはゆる“意外な結末”ではありながら、オープニングに連動した、徒に現し世に復帰しはせず夜の夢の真の中で幸福に微睡み続ける蓮美の一人で二人遊びが、一時間の裸映画を磐石の強度で締め括る。最終的には城島健司主演の衝撃にほぼ大半を持つて行かれるともいへ、総じてはこぢんまりとした仕上がりまで含め、肯定的な意味合に於いて水準的な一作である。

 本篇クレジットにも載らないが、始終の鍵を握る配役がもう一人。劇中唯一真実を最初から知る、才賀メンタルクリニックを開業する精神科医の才賀邦彦は、旦々舎の隠し球・山崎邦紀。束の間の出演ではあれど、僅かな尺にオチを押し込む正しく立て板に水の台詞回しを披露する。


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 「女真剣師 色仕掛け乱れ指」(2011/製作:旦々舎・ラボアブロス/提供:オーピー映画/脚本・監督:田中康文/プロデューサー:浜野佐知/撮影:飯岡聖英/照明:ガッツ/編集:酒井正次/音楽:與語一平/助監督:金沢勇大/監督助手:江尻大/撮影助手:宇野寛之/編集助手:鷹野朋子/タイミング:安斎公一/応援:小林徹哉・小川隆史・秋戸香澄/協力:セメントマッチ・オフィス吉行/出演:管野しずか・佐々木基子・山口真里・なかみつせいじ・那波隆史・牧村耕次・荒木太郎・太田始・小林節彦・池島ゆたか/Special Thanks:将棋観戦のみなさま)。出演者中、荒木太郎・太田始・小林節彦は本篇クレジットのみ。
 将棋を賭博として行ひ身を立てる者、とする“真剣師”の紹介テロップ噛ませて、老真剣師・中村鶴一(牧村)が、女子高生の夏服姿の養女・真希(菅野)と対局する。形勢の不利な真希が長考に入ると、鶴一は背後に回り体を弄る。カードや麻雀であれば、それ以前に許されない行為ではある。とまれその刺激に触発され、真希は妙手に辿り着く。「この感覚は、でも後に私の戦ひ方になる」、管野しずかの拙いナレーションに一旦は頭を抱へかけるが、映画に引き込まれるにつれ、以降は次第に全く気にならなくなる。数年後、盤上を捉へた大型液晶を前に真剣師が対戦し、それを大勢の賭客が観戦する闇カジノ。戦闘服の和装の真希が、これは石動三六か?九十八連勝目の相手に勝利する。真希に賭けた者の携帯の液晶には“WIN”の字が躍り、沸く場内、「勝者、真希!」の勝ち名乗りに合はせてタイトル・イン。
 金を受け取つた真希は、その足で闇カジノの元締で凄腕真剣師、本名不詳通称ダルマ(池島)の屋敷に向かふ。ドーラン感全開の、ドス黒いダルマの造形と貫禄に度肝を抜かれる。自身の2011年第三作「婚前生だし 未熟な腰つき」(脚本:五代暁子/主演:夏海碧)を観た際にも感じたことだが、声質の軽さを克服出来れば、池島ゆたかは本気で港雄一のセンを狙へるのではなからうか。死んだ鶴一が不審な借金を遺したダルマに、真希は一旦挑むも敗退。目下ダルマへの再挑戦を懸け、真剣の百人斬りを目指してゐる最中であつた。昼間は荒木太郎と太田始が盤を挟んで油を売る、「東十条将棋道場」の心ここにあらずな看板娘としてぼんやり過ごし、夜は侘しい自室で自慰なり将棋の勉強に耽る真希の日常を挿んで、再び真剣。元プロ棋士の沢村(なかみつ)と対局した真希は、守りの堅い沢村の陣形に苦戦しつつも、沢村との情事をイマジンするや俄に将棋勘起動。沢村を倒し、百人斬りに後一人と迫る。逆襲に転じる真希、ギャラリーの加藤義一が「沢村の穴熊が崩れる!」と叫ぶ瞬間の、娯楽映画的な興奮が堪らない。一勝負終へ、何時ものやうに闇カジノを静かに立ち去らうとした真希は刃物を持つた山口真里に襲はれるが、凄腕然とした初登場をかます那波隆史に助けられる。ここの対沢村戦、“将棋観戦のみなさま”の中に、色華昇子が見切れてゐたやうな気がしたのだが、個別のクレジットは施されないゆゑ未確認。
 佐々木基子は、女流名人目前の表のプロ棋士であつたものが、ダルマとの関係が発覚し将棋界を追はれた女真剣師・祥子。正妻か情婦かは不明なれど、ダルマとは男女の仲にある。後述する敬一を髣髴とさせる超高速の棋風で、百人目として真希の前に立ち塞がる。関西弁が混入した広島弁を話す那波隆史は、広島の佐山組からの客人真剣師・敬一。小林節彦はダルマ邸にて、真希に敗れた結果命を落とした真剣師の情婦であつた、山口真里を陵辱する男。グラサンで目を隠してはゐるが、ダルマの最も近くに控へる子分は、多分田中康文。
 青い硬さを色濃く残す処女作「裸の三姉妹 淫交」(2006/脚本:内藤忠司・田中康文・福原彰=福俵満/主演:麻田真夕・薫桜子・淡島小鞠)、本格娯楽映画の萌芽を感じさせる第二作「裸の女王 天使のハメ心地」(2007/脚本:福原彰/主演:青山えりな・結城リナ)に続く、田中康文新東宝からオーピーに越境しての四年ぶり第三作。性的なエモーションに直結した戦法を駆使する女真剣師が、最強の敵目指して修羅の道を進む。女の裸に直通道路を通した主力ギミックはピンク映画的にこの上なく麗しく、穴のない魅力的なキャラクター陣にも彩られたバトル系映画鉄板のストーリー・ラインは磐石の一言、グイグイ観させる。全盛期の梶芽衣子にすら匹敵する、とまでいふのは些かならず褒め過ぎか、とまれ抜群の目力で外連味タップリの物語を堂々と支へ抜く超攻撃型クール・ビューティーを主演に擁し、終始緊張感を維持する田中康文の演出に、歴戦の名カメラマン・飯岡聖英は冴え渡る硬質のショットで応へる。対局が過熱するや、スイングし始める與語一平の劇伴もスタイリッシュ且つ的確に場面場面を加速・補強。等々と言ひ募ると、あたかも決定的な大傑作かとも思ひ込みかねないが、絶妙にさうでもないのが、「裸の女王 天使のハメ心地」よりは前に進みながらも、なほ田中康文が壁を越えきれないよくいへば余力を残す点。窮地に立たされた真希が、直截に淫らな妄想で自身の裸身を銀幕に載せると同時に、“将棋を感じ”形勢を大逆転する。完成形とさへ称へ得よう論理的な名シークエンスでは確かにあるものの、都合三度ほぼ全く同じ段取りを繰り返すのは、流石に如何せん芸に欠かう。山登りに譬へるならば、八合目辺りまで一息に駆け上つておいて、そこから先は平行移動してしまつたが如き印象は残る。とはいへ、それでも十二分に面白い。もう一度でも二度でも観たい、田中康文の次の映画が観たい、と強く思はせるに足る一作。賛否の分かれるクライマックスではあるやうだが、ダルマが実は案外イイ人になつてしまふ過去の因縁の回想パートは、個人的には牧村耕次と池島ゆたかの激突が素直に見応へがあつた。

 ダルマは不在の屋敷にて、真希は敬一と“遊びで”一局交へる。ところが“何時ものやうに感じ”ることが出来ず、敗退する。この件、敬一がゲイ乃至はインポといふオチに繋がるものかと勘繰つたのは、すつかりピンク色に脳を煮染められた、小生の明々後日な岡読みであつた。

 以下は再見時の付記< 「沢村の穴熊が崩れる!」の主が加藤義一か否かは微妙ながら、沢村を倒した真希を両手の親指を立てて祝福する、色華昇子は確かに見切れてゐる。


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 「老舗旅館の仲居たち 不倫混浴風呂」(2000『人妻混浴温泉 不倫盛り』の2007年旧作改題版/製作:サカエ企画/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:岡輝男/企画:稲山悌二《エクセスフィルム》/撮影:千葉幸男/照明:渡波洋行/編集:酒井正次/助監督:加藤義一/音楽:レインボー・サウンド/監督助手:北村隆/撮影助手:池宮直弘/照明助手:和田正宏/効果:中村半次郎/出演:翔見磨子・林由美香・葉月螢・岡田謙一郎・隆西凌・杉本まこと)。
 展望風呂を満喫する二人の人妻、都立校国語教師の神崎早紀(翔見)と、悪友の野村かのり(林)は、こちらは専業主婦かも。二人は早紀の不倫旅行にかのりがついて来る形で当地を訪ねたことと、早紀の高校時代恩師からの“不倫は人を成長させる恋”なる有難い教へが、女の裸を見せ見せ手短に語られる。何といふこともないが、何気に完璧なイントロダクションではある。繰り返すが、淫らに新田栄を過小評価する悪弊から、我々はいい加減免れるべきではなからうか。タイトルとクレジットを経て、改めて実名登場熱川温泉「一柳閣」、丘尚輝(=岡輝男)が回す送迎車が、妙にウキウキの加藤義一を下ろす。後に、丘尚輝は早紀とかのりのチェック・アウト時にはフロント係で再登場。但しその際には、初めて観たケースだが声は別人によるアテレコ。都合がつかなかつたか、大風邪でもひいてゐたのか。閑話休題、早紀は不倫相手で、一柳閣支配人の船橋聖治(岡田)を急襲。迂闊にも一柳閣に早紀が宿泊してゐることを把握してなかつたのか、完全に不意を突かれた格好の船橋は浜辺の岩場に一旦避難。早紀の、「会ひたかつたのよ、抱いて」だなどとショート・レンジ過ぎる求めに応じその場で一戦交へるも、事後流石に辟易した船橋は別れを告げる。一柳閣の「野菊の間」から、早紀とかのりは気を取り直した付近散策に出る。湯掛辨財天と射的遊技場を巡つた後(のち)に、二人は埠頭から釣り糸を垂れる大貫浩一(隆西凌/a.k.a.稲葉凌一)をロック・オン。大貫も一柳閣に宿を取つてゐたことから、三人は忽ち意気投合する。一方、野菊の間左隣の「山茶花の間」には、糖尿から来る不能の湯治に訪れた、作家の蕗谷春泥(杉本)が入る。糖尿の割には、飲み食ひはほぼノーガードにも見えるのだが。蕗谷の顔を見知つてゐた、船橋の妻で女将の加寿子(葉月)は、作中に登場させ一柳閣の名前を広めては貰へぬかと色気を出す。そんな最中、野菊の間ではフルスイングの乱痴気騒ぎ。ウトウトしてゐたならば目を覚ませ、今作の白眉はここからだ。大貫は既に泥酔状態、太股で挟んでのビール瓶リレーに早紀が負ければ、気軽に全裸にヒン剥きワカメ酒。次は口での綱もとい海苔引きに大貫が負けると、女体ならぬ

 男体盛り敢行

 男に盛るだけでも随分なのに、業界屈指の渋い二枚目を捕まへた、斯様な羽目外しが拝めやうとはよもや思はなかつた。実際のところ矢張り気持ちがいいものではないのか、苦悶の表情を浮かべる大貫に対し、驚喜する早紀とかのりは舌鼓を打つのもそこそこに、華麗なる巴戦に突入。とりあへず残りはさて措き、この件の愉快な衝撃で木戸銭の元は十五分くらゐまで取れるぜ。
 新田栄の、記念しようと思へば記念すべき2000年第一作。かういふ後ろ向きな物言ひは決して好むところではないのだが、長く浸かれる温めの湯加減にも似た、のんべんだらりとした仕上がりも今となつては懐かしくなくもない、実に新田栄らしい温泉映画。自堕落に筆を滑らせると、“温泉映画”といつた時のなだらかな言葉の響きは、如何にも新田栄に相応しく聞こえはしまいか。ある意味当然ともいへるのか、エクストリームな中盤の枝葉を超えるインパクトに、後半辿り着くことは別にない。件のあらぬ教へを早紀に残した“恩師”が、誰あらう蕗谷であつた―ついでに、蕗谷は早紀との淫行の果てに教職を追はれる―ことから膨らむ以降ではあるものの、最大限の過大評価を試みたところで順当以上には半歩たりとて踏み出でるものではない。そもそも、理想的なプロポーションには反して、ルックスは十人並に曲がつた主演女優のエクセスライクにも、当然の如くエンジンブレーキをかけられる。ここのところは寧ろ、心許ない四番の後ろで健気に最強の五番打者を務める、林由美香の仕事ぶりをこそ心豊かに味はふのが正解といへるのかも知れないが。そんな中地味なれど確実に光るのは、感動的にスマートな三番手戦。早紀と混浴風呂にて思はぬ再会を果たした蕗谷は、早紀の―船橋との―有体にいふと不倫体験告白を基にした新作の執筆に着手する。俄に触発され筆の乗る中、呼ばれもせぬのに一柳閣の宣伝に下心を抱いた、加寿子が山茶花の間に現れる。執筆中の作家先生に邪険に追ひ払はれるかと思ひきや、顔色を変へた蕗谷が「女将、これを見て呉れ」と自らの股間を指で示すと、一柳閣の湯が効いたのか見事な屹立。すると加寿子は、「このままだと気が散つて書けないでせう」、「私が鎮めて差し上げますわ」。一見、水の如く低きに流れるばかりのシークエンスにも見えかねないが、折角丹念に築き上げた作品世界を、三番手の濡れ場の出鱈目な挿入の仕方でしばしば無体に卓袱台を引つ繰り返してみせる、三上紗江子との心中路線以降の荒木太郎よりは、裸映画の論理として実は数段上等なのではないかと小生には思へる。声を大にして主張するほどの、蛮勇は持ち合はせぬが。早紀が宿泊を一日伸ばす点には強力な無理も残しつつ、最終的には出し抜けにラブ・ストーリー的な擦れ違ひも経ての、早紀と蕗谷の温泉戦でそれなりに磐石に締め括る。改めて繰り返すと、良くも悪くも、実に新田栄らしい温泉映画である。何処が良かつたのかはよく判らないやうな気もするものの、細かいことは心の垢と一緒に湯に流してしまへ。

 ところでええと、“たち”どころか一人も仲居なんて出て来ない件につき。何かもう、清々しいまでにエクセスだ。


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 「婚前生だし 未熟な腰つき」(2011/制作:セメントマッチ/提供:オーピー映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/原題:『Memory』/撮影監督:清水正二/編集:酒井正次/音楽:大場一魅/助監督:中川大資/監督助手:北川帯寛/撮影助手:海津真也/照明応援:広瀬寛巳/編集助手:鷹野朋子/録音:シネ・キャビン/現像:東映ラボ・テック/スチール:津田一郎/タイミング:安斎公一/協力:松井理子、ステージ・ドアー、鎌田一利、小林徹也/劇中歌:『明和女学院校歌』作詞:五代暁子 作曲:大場一魅/出演:夏海碧・佐々木麻由子・日高ゆりあ・野村貴浩・久保田泰也・池島ゆたか・中根大・山の手ぐり子/Special Thanks:周磨要、高木高一郎、YAS、東京JOE、吉永幸一郎、うめ、岡本氏、だいちん、わたなべりんたろう、ステージ・ドアーの方々)。出演者中、山の手ぐり子は本篇クレジットのみ。見るから怪しい協力の徹哉小林徹也は、本クレに従ふ。
 夕暮れ時の海岸、佐倉あおい(夏海)がキャリーバッグを傍らに佇む。右腕には痛々しい大きな傷跡、まさか気づいてゐないのか、あおいに袖で隠さうとする気配は凡そ窺へない。後ろからあおいの両目を手で覆ひ、あおいの恋人で、母校・明和女学院の生物教師・遠山俊作(野村)登場。今作の撮影と並行して舞台でもやつてゐたのか、野村貴浩がまるで日本兵のやうな髪型だ。二人で埠頭を海に向かつて歩き、腰を下ろした背中越しに、低い位置の満月を抜いてタイトル・イン。
 タイトル明けて佐倉家、あおいの母・真理子(佐々木)と、恋人の田村(池島)の情事。先に二人の関係を整理しておくと、真理子はあおいの父親とは、未だあおいが幼い内に、DVの末外に女を作り出て行く形で離婚。独立はしてゐないが、二人の子供は社会に出た田村は頻りに真理子に求婚する―前妻の去就は不明―ものの、結婚に懲りた真理子は固辞してゐた。それはさて措き、田村は聞き分けのない自らの手を“お手手”と称し、真理子にだらしなくムシャブリつく。その池島ゆたかの重量感溢れる惰弱な姿に、小生は偶さか港雄一を見た!
 真理子と田村が、コッテリした一戦を通して丁寧に種を蒔きつつ、入院してゐたあおいが半年ぶりに帰宅。福祉施設副所長の職を持ち潤沢な収入のある真理子は、娘にひとまづのんびりするやう勧める。夕食の買物に出た真理子に、あおいの幼馴染で、推定三河屋店員の佐伯達郎(久保田)が接触。あおいが戻つたことに喜ぶといふよりは、どちらかといふと不安を募らせる。後述する遠山との一回戦挿んで、パブ「ステージ・ドアー」にて、あおいは明和女学院バレー部の先輩でOLの遠藤ミカ(日高)と会ふ。ミカとフリーターの劇団員、といふか要はほぼヒモの杉浦尚也(中根)の恋愛に、教師と付き合ふ自身を勝手に高みに置くあおいは、出過ぎた世話の異を唱へる。後に尚也写メに見切れる浮気相手は松井理子、演技上派手に問題のある夏海碧のアテレコも担当してゐるが、松井理子自体正直然程達者といふ訳でもない。相対的な結論としては、それで十分であるのやも知れないが。
 池島ゆたか2011年年第三作は、新味には薄い一ネタを、兎も角丹念に丹念に積み重ねた習作。明白な雰囲気が静かに流れる中、遅くとも、主演女優の濡れ場初戦の直前。佐倉家玄関口のカットに於いて既に、オチの起爆装置も地表に露な物語ながら、教科書通りの的確な段取りの集積に対しては、娯楽映画に際して論理と技術とを第一義的に尊ぶ個人的な立場からは、大いに好印象を抱いた。無人のシャワーと、空のクローゼットの畳み込みは、ベッタベタにしても抜群のテンポで予想通りの満足感と同時に、緊張感も失はずに観させる。その前段、猜疑に引き攣る山の手ぐり子(=五代暁子)の表情は、些かトゥー・マッチにも思へたが。コッテコテも逆向きに通り越し流石にダサい、終に明示される半年前の悲劇の真相に関してはツッコミ処と生温かく受け取るにせよ、さうなるとこぢんまりとではあれ手堅く纏め上げられた佳品に対し、それなればこそ心を残しもする二点。素面といふ意味での裸の劇映画としては、オーラスのバッド・エンドは、演者のスキルも鑑みるとなほさらもう少し手短にチャッチャと片付けた方が、より余韻を深めたのでもなからうか。そして裸映画的には、日高ゆりあが二戦戦ふのを否定するつもりは毛頭ないが、タップリ長めともいへ、佐々木麻由子の絡みが序盤の一度きりといふのは、最終的には地味にバランスを失した印象も強い。


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 「奔放マダムは…とつてもエロかつた」(1993『朝吹ケイト お固いのがお好き』の2012年年旧作改題版/製作:旦々舎/提供:Xces Film/監督:浜野佐知/脚本:山崎邦紀/撮影:稲吉雅志・片山浩/照明:秋山和夫・荻久保則男/音楽:藪中博章/助監督:女池充/制作:鈴木静夫/ヘアメイク:斉藤秀子/スチール:岡崎一隆/出演:朝吹ケイト・哀川うらら・璃緒奈・平賀勘一・栗原良・森純・ジャンク斉藤・山本竜二)。最近辿り着いた事実だが、照明部セカンドの荻久保則男は、まんたのりおと同一人物。
 燃え盛る炎を手前に置くメソッドが昭和の時代も偲ばせる、主演女優のイメージ風濡れ場を一頻り見せた上でのタイトル・イン。
 後述する、ヒポポタマスの説明台詞によると一応女優らしい、アマンダ(朝吹)が電話で写真家の高野冬夫(平賀)と痴話喧嘩。諍ひの理由は、アマンダが北川(会話中に名前が上るだけ)と寝たとかいふこと。尻軽女と罵られたアマンダは欠片も意に介せず、「お生憎様、私は“超”尻軽女よ」と明後日に開き直る。あちらこちらに高野撮影によるヌード写真が闇雲に飾られた、ミサトニックなアマンダ邸でのホーム・パーティー。多分八名のその他パーティー客要員が、潤沢に見切れる。アマンダは露出過多な赤のビザール衣装で颯爽と登場、一堂の注目を集める。セックス・シンボルとして一世を風靡するアマンダに、同業者の桑島香苗(哀川)はポップな嫉妬心を燃やし、モデルの仰木はるか(璃緒奈)は覚束ない憧憬を向ける。ここで最終的に脱ぐのは共に一幕限りの、イーブンな2.5番手ともいふべき哀川うららと璃緒奈に関して簡略に整理しておくと、哀川うららは素直に成熟したプロポーションを誇りつつ、首から上は綺麗な馬面ならぬ河馬面。名義から漠然とした璃緒奈は、ある意味名は体を表すともいへようか、全般的に心許ないギャル。端的には、二人仲良く朝吹ケイトの噛ませ犬を従順に務める格好となる。現れるなり服飾デザイナーの古藤祐二(栗原)を見初めたアマンダは、そのまま自室に連れ込みベッド・イン。早い、早過ぎるよ、4.5分もかかつてゐない。一方、遅れて到着した高野は、カバもとい香苗に捕獲。随分な心性でもあるが、アマンダと古藤の情事を見せつけ傷心の高野を、香苗は捕食する。同時進行による二連戦の事後、古藤ははるかがアマンダに抱くリスペクトも利して、言葉巧みに接近する。
 森純は、ジョギング中のアマンダに狙ひを定める、一応プレイボーイ?な安城隆。ジャンク斉藤は、安城の兄貴格あるいは・・・・兎も角スペイン帰りの弓田公彦。安城が弓田に献上する形で、二人でアマンダを拉致監禁、陵辱する。弓田に対しては、ゲイ的な視線を送る素振りも絶妙に窺はせる安城ではあるが、促されると、二穴責めにも参加する。アマンダが殆ど放置と同義で解放される現場に、自転車で通りがかる山本竜二は、設定上はクールな伊達男・車田和夫。アーネスト・ボーグナインやジョン・ボイド並の演技力があれば別だが、幾ら何でも画面(ゑづら)上の無理が甚だしい。
 ロマンポルノでのデビューからAVを経ての、朝吹ケイトのピンク映画初陣。因みに、結構間の空いた第二作は工藤雅典の本篇デビュー作「人妻発情期 不倫まみれ」(1999/脚本:橘満八・工藤雅典/主演:小室友里)助演で、再び主役を張つた最終第三作が「馬を飼ふ人妻」(2001/監督:下元哲/脚本:石川欣)。当時十二月終盤の公開であつたところをみると、朝吹ケイトを金看板に戴いた正月映画といふ寸法なのか。アマンダは、人の話を聞いてゐるのかゐないのかよく判らないはるかに諭す、「オチンチンで磨いた知性が、女を強くするの」。下手に勿体ぶつた口跡は色んな意味で堪らないが、何はさて措き完成された肉体美を誇る朝吹ケイト演ずるアマンダが、男達の欲望にその身を任せるやうにもみせて、主体的に性と生とを謳歌する。如何にも麗しく浜野佐知らしい物語と受け取れなくもないものの、「セックス・シンボルだつて恋はするのよ」なる名台詞を生み出しはする、アマンダと車田とのロマンスが、山竜のコメディ顔を見てゐるとどうしても冗談にしか見えない辺りは如何せん苦しいか。男優部の徒な分厚さが、話の散漫さに繋がつてしまつた印象も否定し難い。そんな中、劇中最たるキャラクター的な薄さには反し、ベクトルの正否は兎も角最大の絶対値で気を吐くのが、スペインからは矢尽き刀折れ逃げ戻つて来た風情も匂はせる弓田。アマンダを手篭めにしながら、不敵に宣つて曰く「拉致監禁てのも、スペイン流の愛情表現でね」、

 無敵艦隊激怒

 無茶苦茶にもほどがある、山邦紀は何かスペイン人に恨みでもあるのか。背骨の首が据わらぬ故、そこかしこのチャーミングを生温かく楽しむのが吉の一作ともいへ、とりあへず、黙つて朝吹ケイトの裸だけ眺めてゐればそれで元は取れる。劇映画のことは、いつそ雄々しく忘れてしまへ。

 最後に、元題がズバ抜けて優れてゐるだけに、エクストリームに際立つのは新題の適当さ加減。奔放マダムが、とつてもエロい。いつてゐることは、特に間違つてゐる訳でもないのだが。


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 「淫らなお姉さん たくさんかけて!」(1993『女子大生 後ろから突き上げて』の2012年旧作改題版/企画:セメントマッチ/製作:オフィスバロウズ/提供:Xces Film/監督:池島ゆたか/脚本:五代響子/撮影:下元哲/照明:白石宏明/編集:酒井正次/スチール:佐藤初太郎/助監督:高田宝重/監督助手:広瀬寛巳/撮影助手:郷田有/録音:シネキャビン/現像:東映化学/出演:岡崎結由・草原すみれ・杉原みさお・山ノ手ぐり子・井上あんり・山本竜二・森純・杉本まこと・真央元・小林愛子・林田義行・栗谷栄作・神戸顕一・池島ゆたか)。さあて、多いぞ。出演者中、山ノ手ぐり子と井上あんり、林田義行を間に挟んで小林愛子と栗谷栄作、そして池島ゆたかは本篇クレジットのみ、もう一本撮れる人数だ、難しい魚偏の照明助手をロストする。
 東京に進学なんてまるで考へなかつたのもあり、キャンパスの画だけでロケ地に辿り着き得ぬのは地方民の哀しさよ。兎も角何処園大学(超仮名)の講義室、女子大生の辻倉あゆ子(岡崎)と、助教授・江崎(山本)の不倫で開戦。旧題額面通りに後背位好きのあゆ子が、後ろから突かれ喜悦するストップ・モーションにタイトルが被さる。事後、江崎は誕生日のあゆ子にニナリッチのネックレスを贈る。屋上にて、あゆ子の親友・町田めぐみ(草原)が、江崎以外にも交際相手のゐるあゆ子に苦言を呈する。手を振り振り駆け寄つて来る、ポップなハンサム感を爆裂させるファースト・カットが苦笑気味に微笑ましい真央元は、めぐみの彼氏・安藤勇次。めぐみと安藤の名画座三本立てデートを冷笑したあゆ子は、めかし込んで小洒落たバーへ。そこで藪から棒に登場する神戸健一は、バーテンのアルバイト中の四留八回生・山田。のちに、山田の台詞中には自身を捕まへて“八年生”とあるが、四年制大学に八年生は存在しない。四度卒業し損ねて在学八年目であつたとしても、四年生はあくまで四年生。小林愛子・林田義行・栗谷栄作は、店の背景に見切れる客要員。閑話休題、言ひ寄りかねない気配の山田をかはすまでもなく、あゆ子はお目当ての医大生・小田切和彦(森)と落ち合ふ。因みに、真央元と森純は、樹かずや山本清彦と同じくかつて神戸顕一が率ゐた、その名も神戸軍団―1993年当時既に結成済みなのか否かは、憚りもせずに知らん―の成員。軽く変態的なプレイを経て、あゆ子は小田切からもおねだりしてゐた同じニナリッチをゲットする。めぐみV.S.安藤一回戦挿んで、二本目のニナリッチを金に換へた―狡猾な女だ―あゆ子は、公園の野外ステージでハムレット役を稽古する、小劇団の舞台俳優・中川俊一(杉本)の下へと向かふ。
 その後中川は、舞台公演を観に来たプロデューサーの目に留まりTVドラマに大抜擢、忽ち脚光を浴びる。杉原みさおは、撮影中の中川を突撃取材するレポーター・里美。池島ゆたかは、続けて「里美の突撃レポート」内で中川の感想を求められるカントク、もしくはテレビ畑なので演出家か。
 開巻即火を噴くのが、惨劇ならぬエクセスの奇跡とすら称へることも許されよう、主演女優・岡崎結由の決定力。公称81のCカップといふのが、とてもその程度に納まるやうには見えない丸々と見事に盛り上がつた双球と、引き締まつたボリューム感が弾ける尻から太股にかけてのラインとが絶品のプロポーションに、素直に華やいだルックス。AV女優としての実働期間から短く、今作以外にピンク出演が見当たらないのは返す返す残念でもあれ、結果的にそれなればこその一撃必殺を振り抜く逸材を前に、池島ゆたかもシンプルにノッてゐたのか、岡崎結由の美身を鋭角に狙ふ画の数々は銀幕に載せるとなほ一層強力。一方、江崎は浮気のスパイスも効かせた中年の好色漢、幼児退行の性癖も顕著な小田切は粘着質の行為を好み、一方中川はストレートな若きハンサム。潤沢なあゆ子の濡れ場を、加へて巧みに三者三様に塗り分けてみせる演出ならぬ艶出の冴えも光る。一見、あゆ子の陰でめぐみは目立たないやうに見せかけて、如何にも“大きい”ではなくして、あくまで点を一つ打ち“太い”と評するのがより相当であらう、草原すみれの乳の太さも堪らない。物語的にも実に素直な構造を採用、当初は恣(ほしいまゝ)な男性関係を謳歌するあゆ子ではあつたが、次第にやつかみ混じりのめぐみの危惧に呑み込まれるかのやうに、みるみる全てを失ふ。順に、江崎は二人ただでさへ気まずいところを、出刃も忍ばせた細君・やよい(あるいは弥生/井上あんり)に乗り込まれ。ブレイクし冗長する中川は、何故か里美に寝取られ。二連敗したあゆ子は残る手駒であるのみならず、求婚を受けてゐた小田切をも、興信所を使つたヒステリックなママ(山ノ手ぐり子=五代響子/現:五代暁子)に三股が発覚し正しく万事休す。忽ちオケラになつてしまつたあゆ子を、一応一途な山田が救ふ落とし処は要はいはゆる都合のいゝ話でしかないものの、絡みの回数も重ねつつあゆ子を生温かく見守るめぐみ―と安藤―の視点は、底も抜けかねない展開の安定剤として極めて有効。質・量・テンポまで抜群の裸映画を、一息でグイグイ観させる。後には岡崎結由と草原すみれのオッパイしか印象に残らぬやうな気もしなくはないが、一体それで何の不足があらう。大満足の、頑丈なパワーピンクである。


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 「性欲タクシー 走る車内で」(1999『痴漢タクシー エクスタシードライバー』の2012年旧作改題版/製作・配給:新東宝映画/監督:新里猛作/脚本:大河原ちさと/企画:福俵満/プロデューサー:友松直之/撮影:中尾正人・田宮健彦/音楽:GAIA with S.Mitani/編集:酒井正次/助監督:石川二郎/監督助手:斉藤一男/制作応援:原田厚志・根本強史/車輌協力:マエダオート・村上公教/制作協力:㈲幻想配給社/協力:坂本礼・千葉朋明・㈲ペンジュラム・㈱アクトレスワールド/キャスティング:寺西正己/スチール:佐藤初太郎/録音:シネキャビン/現像:東映化学/出演:田中要次・奈賀毬子・佐倉萌・風間今日子・け―すけ・隆西凌・山科薫・久保新二・草野陽花・ナリオ・一生・ヒロチビ太・奥田智・高城剛・千葉尚之・工藤剛・石川雄也・神保俊昭)。出演者中、ナリオがポスターには成尾文敏、一生以降は本篇クレジットのみ。高城剛といふのは、まさか噂の半ズボン氏?
 工藤昌弘(田中)と、恋人以上正式な婚約者未満の和美(佐倉)の婚前交渉。二人は工藤のニューヨーク転勤を見据ゑ、和美がついて行く形で結婚する予定であつた。ところが事後、紐育行きが決まつてゐたといふとそれなりのエリートかとも思ひきや、何事か派手に仕出かしたのか工藤がリストラされた旨を告白すると和美は脊髄で折り返して臍を曲げる。呆然とする工藤を、けんもほろゝに和美は自室から追ひ返す。夜の街を走る、タクシーの車外灯を押さへてタイトル・イン。
 「新宿交通」のタクシー乗務員に、仕方なく転職した工藤は綾瀬行きの客(不明)を乗せるも、道をよく知らないことから機嫌を損ね、路上で車を停めさせられると無体に無賃乗車。重ね込まれる不自然にタクシーを探す男(矢張り不明)にも、綾瀬氏(仮名)は工藤の車を排斥する。黒鷹組と赤叉組の抗争状態を伝へるゴシップ誌記事を落として、この道二十五年の久保新二が、新米の工藤にタクシー乗務員の遣り甲斐を説く。ワンカップ酒を呑み呑み地下鉄の駅に掃ける久保チンの背中に、「マトモな会社に就職出来なかつただけぢやねえか」、と工藤が投げる蔑視も露な憎まれ口が途中で切れるのは、プリントが津々浦々を巡る過程での、よもやマーケティング的な作為を感じ取ればよいのか。
 そんなある日、工藤のタクシーにスケコマシの木島(隆西)に追はれた、援交女の中田沙織(奈賀)が逃げ込む。そのまゝとりあへず走る車、沙織は工藤のノルマを達成させるため、不意を討ち相乗りさせた田中(山科)を車中で抜き、無理矢理大枚を毟り取る。引き続き当てもなく車を走らせつつ、沙織は自分語りを始める。田中に出任せた、貧しい育ち云々は真赤な嘘であつた。沙織の家は裕福ではあつたが、兎にも角にも頻繁な転居を繰り返し、それゆゑ常に身の置き場を見つけられない生活に嫌気が差し家出して来たものだつた。工藤も、この時点に於いては“身を落とした”認識の、タクシーに乗り始めた経緯を話す。冒頭話にも上つた、和美と年下美容師の新しい彼氏(草野)の一戦挿んで、工藤は今度は、既に泥酔状態かつ戯画的にテンパッたチンピラ・竹本(けーすけ)を乗せる。黒鷹組事務所を目指す竹本は、選りにも選つてカチ込む腹の赤叉組構成員。けーすけ一流の竹本が下手に弾けるすつたもんだの末、工藤のタクシーには、一丁の回転式拳銃が残されてゐた。千葉尚之と石川雄也が、黒鷹組若い衆の中に含まれてゐるのは確認出来た。ある意味も何も当然でしかないが、千葉尚之が恐ろしく若いのも通り越し、殆ど幼い。
 配役残り風間今日子は、工藤のタクシー後部座席にて、断りも憚りもない車内プレイに燃える女・陽子。それにしても、つくづく客運のない男である。藪から棒に髪が目にも鮮やかなオレンジ色のナリオは、陽子の小生意気な連れ・孝。堪忍袋の緒を切らし車を急停車させた工藤が、入手したばかりの拳銃を突きつけ孝を追ひ払ふまではいいとして、続きが疑問手。単に車から降ろさうとしたところ、わざとらしく尻を向け怯える陽子を工藤がその場の勢ひで犯すのは、ルーチンルーチンした絡みの導入でなくして果たして何であらう。もう一人、都合二度登場する、工藤が住む安アパートの明らかに背の低過ぎる大家は、この人がヒロチビ太?
 先行する二本の薔薇族に続いての、新里猛作ピンク第一作。結果的にはあるいは事実上、新里猛作にとつて純然たるピンク映画といふのは、翌年の「買ふ妻 奥さま《秘》倶楽部」(脚本:高木裕治/主演:望月ねね・時任歩・松永えり)と二作きりではある。公開から三十六年の歳月を経て今なほ、全世界のボンクラ供のやさぐれた魂を鷲掴みし続ける、映画史上屈指のアンチ・ヒーローたる我等がトラヴィス・ビックルと、マキシマム好意的に受け取つたとて、自堕落ながらタクシー運転手としての成長物語を平板に通過する今作の工藤とは、設定も造形も当たり前だろ!と、自分で話を振つておいて思はず筆も荒げたくなるほどに全く異なつてゐる。とはいへ木島に追はれた沙織が工藤のタクシーに飛び込んで来る、即ちアイリスとスポーツがほぼそのまんまの形で登場するに及んで、「エクスタシードライバー」が案外律儀にもしくは向かう見ずにも、「タクシードライバー」(1976/米/監督:マーティン・スコセッシ/脚本:ポール・シュレイダー/主演:ロバート・デ・ニーロ)を明確に意識してゐる蛮勇が判明する。間を大幅に端折つてオーラスに際しても、和美がベッツィーの座に納まり結構臆面もない、もとい忠実なトレースが展開される。とはいへとはいへ、アイリスがトラヴィスのタクシーに乗り込むまではそれはそれとしても、沙織と工藤がそれぞれの辛気臭い身の上話をモタモタ始める辺りからみるみる雲行きは怪しくなり、ヤクザが出て来た時点で完全に何時もの類型的な日本映画。ドミノ倒しのやうにバタバタと三人死ぬ中盤の修羅場は、一人目はまだしも、三人目の死に様はグルッと一周して清々しく酷い。そもそも、何の情報も持ち合はせまいに、沙織と木島が黒鷹組事務所周辺に上手いこと居合はせる豪快なラックも、幾ら虚構内の方便ともいへ流石に随分である。蛮勇にといふか直截には身の丈も弁へずに、兎も角「タクシードライバー」をやらうとしてゐる中で、何を考へればそれとも考へなければ、斯くも間抜けな一幕をのうのうと盛り込めるのか、非感動的に理解に苦しむ。されども、それでそのまゝ終らない辺りが、映画の面白いところ。すつかり匙を投げかけた終盤、「タクシードライバー」になり損ねた「エクスタシードライバー」は「タクシードライバー」の無謀な模倣に頼らない、「エクスタシードライバー」であるがゆゑの輝きに辿り着く。あの奈賀毬子が―どの奈賀毬子だ―見たこともないくらゐに可憐な、工藤から貰つた“勇気が出るお守り”を胸に、沙織が案の定居場所はないのかも知れない日常に勇気を出して飛び込んで行く件。上手く行くにせよ行かないにせよ、前に進まうとしてゐる人間の背中をさりげなく押す陽性の娯楽映画鉄板のシークエンスが、入念な積み重ねの末に優しくも力強いエモーションを撃ち込む。少なくとも、小生の貧しき心は確かに撃ち抜かれた。この際、「タクシードライバー」に気兼ねなど要るものか。奈賀毬子ラスト・カットの一点突破だけで、「エクスタシードライバー」も胸洗はれる一作と堂々と公言し得よう。久し振りにいふが、私選ピンク映画最高傑作といふと今でも「淫行タクシー」であるのだけれど、それはまた画期的に別の話か。

 木に竹を接ぎ気味に和美がベッツィーのポジションに滑り込むラスト・シーンではあるが、さうなると作劇上、イケメン映画監督・草野陽花扮する美容師の存在の是非に関しては本格的な議論の分かれ処ともなりかねない。尤も、佐倉萌の濡れ場二回戦に、如何にも等閑な回想により済まさない節度と同時に重きを置く―その場合、どうしても“新しい男”が必要となる―ならば、ピンク映画的には必ずしも無下に不要と斬つて捨てられる訳でもない。


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 「発情学園 やりたい年頃」(2001『痴漢ハレンチ学園 制服娘の本気汁』の2012年旧作改題版/製作:T・M・Project/配給:新東宝映画/監督:上田吾六/脚本:松岡誠/企画:福俵満/撮影:前井一作・横田彰司・真船毅士/録音:シネキャビン/編集:金子尚樹《フィルムクラフト》/スチール:佐藤初太郎/助監督:佐藤吏・小川隆史/撮影機材:日本映機/現像:東映化学/フィルム:愛光/協力:株式会社 旦々舎・横井有紀・増田庄吾/出演:西尾直子・河村栞・風間今日子・和田智・佐藤幹雄・麻生みゅう・千葉誠樹・吉行由実・なかみつせいじ)。出演者中、麻生みゅうは本篇クレジットのみ。m@stervision大哥のサイトには、上田吾六と松岡誠が同一人物であるとする記述が見られる。今回別ソースでの確認を試みたが、辿り着けなかつた。
 土手をブルマー姿でホテホテ走る女子高生二人の背景鉄橋に、左からフレーム・インする電車を押さへてタイトル・イン。込み合ふ電車の車中、明和学園陸上部顧問の大沼秀行(千葉)が、麻生みゅうの尻に手を這はす。最初は尻だけ撫でてゐたものが、次第に襟口からオッパイにも手を捻じ込み、ムッハーと天を仰ぎヒートアップした大沼は隣の男にホールドアップ。明和学園陸上部女子部員―共学校であるにも関らず、男子部員は登場しない―の斉藤美樹(西尾)と大森沙織(河村)が、朝連(あされん)から校内に戻る。部室に入り着替へつつ、二人が目指す全国高校マラソン大会までの日めくりを沙織が一枚捲り17日としたところに、マネージャーの原島圭介(和田)が血相を変へ飛び込んで来る、新聞で大沼の逮捕を知つたからだ。校長室、当惑する三人に詰め寄られた明和学園学校長・森川健次郎(なかみつ)は、気色ばむ生徒をはぐらかすかのやうな終始半笑ひの態度で、事を荒立てたくないゆゑの陸上部廃部を匂はせる。動揺する陸上部、なほも頑強に練習を続ける腹の美樹に対し、一旦心の折れた沙織は、悪い佐藤幹雄が憎々しいスケコマシをそれはその限りに於いて好演する、元カレの高林賢治に転ぶ。マラソン熱に反対する母・美土里(吉行)と衝突した美樹が夜ジョギングに飛び出す中、沙織は高林の部屋で抱かれてゐるのが、今作の本格的な艶場初戦。翌日、即ちマラソン大会までは十六日。一週間前が期限の、校長と―現状空位となる―顧問の名前が必須の大会エントリーを巡り、校長室にて二度目の押問答。三人と入れ替りに、森川の懐刀、兼愛人のセクシーな女教師・岸洋子(風間)が校長室に入る。そのまま一戦、森川は洋子を陸上部の新顧問に据ゑた上での廃部を目論むが、一方怪しい気配を察知した圭介は二人の情事の模様を写真に収め、卑劣な姦計への逆襲に備へる。
 大人の粗相と事情で目標の大舞台への途を閉ざされかける高校陸上部、不屈のヒロインと、ドロップアウトする親友。親友を信じ黙して背中で待つヒロインに、マネージャーは放置するのかと対立する。迫るタイム・リミット、果たしてヒロイン達の夢の行方や如何に。瑣末な難癖をつけることなど憚られるほどの、綺麗な綺麗な青春映画。他方、更衣時の下着と、シャワー・シーンが一度設けられるのみで、オーラスまで美樹を出し惜しむ。沙織に関しては物語上、どうしても辛気臭さも免れないところで、洋子が畳み込む重量級の濡れ場で頑丈に繋ぐ、煽情性の論理はピンク映画的にも鉄板。美土里から美樹の、夭逝した矢張りランナーの父親(遺影スナップが一度見切れるが、遠く小さすぎて特定能はず)譲りの走ることへの情熱を聞いた洋子が、次のカットで本屋に消える、展開の要諦をさりげなく占める件の繋ぎも完璧。ただ逆に、これは編集ミスではないかと思へなくもないのは、袋から覗くマラソン専門書を抜くのは、事後の一度きりでいいのではなからうか。尤も最終的にはどうにも苦しいのが、新東宝の癖にエクセスライクな主演女優。積極的に不細工といふほどではなく、女子高生には到底見えない、といふ訳でも必ずしもない。不器用に走り続ける女子陸上部員にはある意味ハマリ役でもあるのだが、西尾直子のルックスの華のなさとプロポーションの普通さは如何ともし難い。そのため美樹の、クライマックスまで溜めに溜めた圭介との絡みが、どうしても一撃必殺の決定力を有し得ない。折角圭介には、洋子の色仕掛けにも敢然と踏み止まらせたといふのに。他の全ては概ね揃つてゐるだけにビリングの頭に開いた穴が重ね重ね惜しい、そのことが判官贔屓の下駄を履かせたと寧ろいへるのかも知れない一作である。

 ところで今回は八年ぶり二度目の新版公開で、2004年最初の旧作改題時新題が、「むれむれ学園 汗ばむ肉体」。“痴漢ハレンチ学園”に“むれむれ学園”に“発情学園”、“制服娘の本気汁”に“汗ばむ肉体”に“やりたい年頃”。三題が実にほぼ等価といふ、実は結構な離れ業をやつてのけてもゐる。所与の用語のみで「痴漢ハレンチ学園 汗ばむ肉体」、「痴漢ハレンチ学園 やりたい年頃」、「むれむれ学園 やりたい年頃」、「むれむれ学園 制服娘の本気汁」、「発情学園 制服娘の本気汁」、「発情学園 汗ばむ肉体」と、更にもう六回何の違和感もなく戦へる。だからどうしたとかいふ情け容赦ないツッコミは、後生だからいはないで。


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 「四十路の蜜つぼ 男好きな肉体」(2008/製作:多呂プロ/提供: オーピー映画/監督・出演:荒木太郎/脚本:三上紗恵子・荒木太郎/撮影・照明:飯岡聖英/編集:酒井正次/助監督:金沢勇大・三上紗恵子/撮影・照明助手:鶴崎直樹・松川聡/音楽提供:宮川透/ポスター:本田あきら/協力:足立青果市場・足立のガソリン屋さん・noconico cafe・佐藤選人/タイミング:安斎公一/出演:浅井舞香・淡島小鞠・佐々木基子・吉岡睦雄・大久保了・縄文人・大高純・内藤忠司・広瀬寛巳・小林徹哉・内山太郎・ドイタペコリーナ・野上正義)。出演者中、内藤忠司からドイタペコリーナまでは本篇クレジットのみ。
 何処ぞの湖畔、女がうづくまるやうに自慰に悶える。山道に出た女は、大胆にもコートの下の全裸を晒しダンプを停める。丈、といふ男を知らないかとダンプを運転する縄文人に切り出した女は忍(浅井)と名乗り、セックス狂との方便で助手席にて相も変らない様子で自慰に溺れた。二人が運転席の上に乗り、上げた荷台に忍が手をつく格好での野外立位後背位の豪快なロングも叩き込みつつ、ダンプはやがて足立に入る。丈の好物の煎餅屋がある足立の町で、忍は車を降りる。短いトンネルを走り抜け、再び露出痴女を敢行した忍の手元に、ガソリン嬢を募集するGS「足立のガソリン屋さん」のチラシが舞ひ降りる。チラシを持つ忍の手に、浮浪者を思はせる男の手が「四十路の蜜つぼ 男好きな肉体」と書き殴られたペラ紙を、差し換へるやうに手渡すタイトル・インが薄汚くも洒落てゐる。
 忍は「足立のガソリン屋さん」を訪ね、社長の綱人(野上)と息子の義人(荒木)は驚喜する一方、家事もまるで出来ぬ旨公言する何処の馬の骨とも判らない女に、娘の鉄子(淡島)は脊髄反射で臍を曲げる。開放的な淫蕩さで男達を浮つかせる中、忍は度々雑踏に消えては、当てもなく丈の姿を捜し求める。
 登場順に配役残りの大半を整理すると、職業不詳の寛(大久保)を筆頭格に、内藤忠司以下五名は足立要員、完成されたいはゆる“イイ顔”を披露する。吉岡睦雄は、反発を覚えながらも忍の雰囲気にアテられたのか、鉄子が自身七年ぶりの情事に燃える、今彼・岸辺。出し抜けに燃え盛る鉄子の底なしの情欲に、応へきれず匙を投げる。終盤ヒヤヒヤしかけた頃に飛び込んで来る佐々木基子は、実は忍を狙ふ腹の寛から義人にクロスカウンター気味に宛がはれる、腹違ひの姉貴で、動物的な欲求不満バツイチ女、その名もパー子。
 性に奔放なストレンジャーの闖入に、俄に揺れる旧来型のコミュニティー。古典的な物語の大枠に、ヒロインを狂奔させる、よもやマクガフィンかとさへ思はせかけた謎の男捜しを絡めさせる。統一的な起承転結を克明に叙述するではなく、どちらかといはなくとも行間の風情を充実したショットの数々で観させる戦略は、予想外にズバ抜けて見応へがある。兎にも角にも、丈を追ひ、殆ど錯乱するかのやうに奔走する忍の、それでゐて不可思議なまでの透明感が、桜居加奈(a.k.a.夢乃)をも明後日に想起させるほどに決定的。浅井舞香の魅力に胸を撃ち抜かれるのと同時に、荒木太郎と組むと無類の強さを発揮する飯岡聖英のカメラの威力を、改めてまざまざと実感する。巷説は恐ろしくも“荒木調”だなどと称して持て囃すものの個人的には、荒木太郎の映画作家としての真の成長を自ら拒み続ける悪癖にしか思へない、チャカチャカした小手先の演出法も、増殖する丈の幻影に忍が翻弄される件に際しては大有効。ドンキー宮川(=宮川透)によるライブ劇伴に関しては、意見の分かれるところであるのかも知れないが。浮世離れたパー子の造形も、主に佐々木基子の地力に頼り固定に成功してゐる。序盤の忍と丈の回想戦、肥大させたボカシで丈の全体像を隠す―ただ口元から窺ふに、どうも荒木太郎の役得か?―アイデアも秀逸。パー子に話を戻すと、三上紗恵子が脚本を担当してゐるにしては珍しく、戦線に三番手を投入するタイミングを仕出かさなかつた点には、本当に心の底から安堵した。ちやうど中盤、展開を整へるダンプ男の再登場、忍が足立を離れる直前の、鉄子との和解。今回は概ね正方向に満ち満ちた荒木太郎らしさに更に重ね込まれる、オーソドックスな映画的文法は光り、淡島小鞠と佐々木基子の脱ぎは共に一度きりながら、浅井舞香が頑丈に牽引する下心要素も大満足。長い三上紗恵子(=淡島小鞠)との心中路線の中にあつて、荒木太郎の2008年第一作は奇跡の傑作、と諸手を挙げ喝采、したいところではあつたのだが。逆の意味で諸手を挙げさせられてしまはざるを得ないのが、さうなると忍を呼び出した丈の妻役でオーラスに登場する、大高純がどうにもかうにも今作の急所。年甲斐もない赤毛は兎も角、まるでニューハーフのやうな五十絡みの、直截にはババア―直截にも限度があるだろ―に丈の妻で御座いとノコノコ現れられた日には、事ラスト・シーンに至つての致命的な画の貧しさに頭を抱へた、浅井舞香と絶望的に釣り合はない。女房がこのザマでは、忍の人生をも狂はせ体と心とを奪つた、丈といふ謎の男の男ぶりにすら、一抹以上の不安を抱かせかねない始末。締めを締め損なつた粗相が、しみじみ惜しい一作ではある。


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 「発禁本 緊縛肉襦袢」(1999/製作:フィルムハウス/提供:Xces Film/監督:大門通/脚本:有馬仟世/企画:稲山悌二《エクセス・フィルム》/プロデューサー:伍代俊介/撮影:原田清一/照明:小川満/撮影助手:織田猛/助監督:羽生研司/監督助手:森角威之/編集:金子尚樹《フィルム・クラフト》/効果:東京スクリーンサービス/縄師:明智伝鬼/出演:月岡みちる・麻生みゅう・佐々木基子・久須美欽一・山内健嗣・岡田謙一郎)。照明・縄師各助手その他、微妙な情報量に屈する。
 後述する旧日本家屋の深夜、明示はされないが多分女子大生の遠藤弥生(麻生)が目を覚ます。正確には目を“覚まされた”弥生が両親の寝室に忍び寄ると、破綻危機に瀕した都市銀行―以後便宜上、新日本銀行と仮称する―副頭取の父・徳蔵(岡田)と後妻・美佐代(月岡)の大概豪快な夫婦生活。弥生は淫蕩な義母に嫌悪も示しながらも、タイトル挿むとアテられたのか自慰をオッ始めてみたりもするのは、薮蛇気味の貪欲さか。それもそれとして、まるでギャグマンガに出て来さうなルックスの月岡みちるが、何処かで別の名義で観たやうな気もするのだが、どうしても辿り着けない。
 翌朝、徳蔵は新日本銀行救済策に関し大蔵省―1999年作であることに留意されたし―と折衝する長期出張に。遅れて起き出し徳蔵からはお小言を頂戴した弥生は、キチンと美佐代に悪態をつきつつ登校、したにも関らず、ブラブラしてゐる風情の松木幸雄(山内)にナンパされる。一方、新日本銀行をリストラされ妻子にも逃げられた丸山昭平(久須美)は、度々金を無心した愛人でホステスの則子(佐々木)からも無下に捨てられる。弥生と松木が連れ立つて歩くのを目撃した丸山は、連れ込み「古都」で一戦交へた後の松木に接触。丸山が“松木屋の若旦那”と呼ぶ松木の実家は新日本銀行の貸し渋りの末に倒産し、父親は自殺してゐた。今は自らも新日本銀行に恨みを持つ丸山は、松木に一計を持ちかける。美佐代との不仲も利用し、義母の愛情を試す狂言誘拐を松木が弥生に提案。常識的には見るから怪しげな人相はさて措き、仲間に加はつた格好の丸山に呼び出された美佐代は、ノコノコ身代金三百万を持参し現れる。美佐代の真意を酌み喜ぶ弥生を嘲笑ふかのやうに、丸山と松木は態度を正しく豹変。松木はビデオカメラに、丸山は竹刀。各々得物を手に仁王立ちの二人が、お楽しみはこれからだと淫獄の幕開けを宣告する悪いショットが絶品。
 中盤と看板の主眼を成す母子SM万華は、明智先生招聘は恐らく方便ではなく、高い技術の縛りと吊りを一頻り大量に見させる。尤も出来栄えとしては、次から次にあれやこれやと縄のかけられた二本柱“のみ”を押さへた画の淡々と続く、要はあくまで多少モジモジと動く緊縛グラビアに止まり、映画的には端的に平板といふ印象も禁じ得ない。まづ間違ひなく潤沢ではないであらう、撮影―を許された―期間との兼合ひもあるのかも知れないが、縛られた美佐代と弥生を、丸山と松木が代る代る陵辱する。あるいは、面相は正直間抜けてゐるもののタップリとした質感は絞り込まれると一際映える、月岡みちるの乳を嬲ることに特化したシークエンスは、もつと設けられてあつて罰は当たらんのではないか、といふ決して高望みでもあるまい不満は強く残る。やがて、未だ脱がぬ則子も召集され参戦。山内健嗣手持ちのメソッドにより、悶絶する美佐代と弥生の姿に松木が目を爛々と輝かせ驚喜する中、丸山が則子に目配せしコッソリ捌ける絶妙な中座カットには、流石大門通実にスマートな三番手濡れ場の導入である、と感心しかけたが、今作が奴隷母娘はそつちのけの頂点を迎へるのは更にその先。美佐代と弥生の陥落に用ゐた小道具を予想外の形で転用した、丸山昭平人生五十年を高らかに謳ひ上げる、久須美欽一一世一代の死に様には大いに驚かされた。興奮覚めやらぬまゝ、僅かに余した尺はお約束のダークなラストにまで一直線。和装の令夫人と義理の令嬢の調教もの、と考へれば薄いどころか殆ど存在しないが如き物語ながら、脇から丸山が強引に丸め込む着地の強度は、案外以上に満更でもない。展開を曲芸のやうに操る大門通の妙技が火を噴き、貫禄の名芝居を披露する久須美欽一に惚れさせられる。一見無体かつ他愛ない裸映画に見せかけて、最終的には裸よりも映画を魅せる渋い一作。繰り返すが大門通―と勝利一も―の注目度はあまりにも低過ぎるやうに思へる、この二人の論理と技術とには、もう少し目が向けられるべきだ。

 ところで遠藤家の物件は、エクセス作での使用は結構珍しいかとも思ふが、山梨県甲州市は塩山の御馴染み「水上荘」。また随分と奥まつたところに住んでやがる副頭取だなあ、といふツッコミは一旦等閑視する。但し、舞台のメインは劇中“暗闇山の別荘地”とされる、大きめの囲炉裏が特徴的な一室を有した比較的新しく見えるロッジで、詰まるところは最初と最後に出て来る程度の、水上荘の登場頻度は然程高くない。


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 「派遣の人妻秘書 やりつ放し」(1999『人妻秘書  熟れ頃下半身』の2007年旧作改題版/製作:サカエ企画/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:岡輝男/企画:稲山悌二《エクセスフィルム》/撮影:千葉幸男/照明:高原賢一/編集:酒井正次/メーク:桜春美/助監督:竹桐哲也/音楽:レインボーサウンド/監督助手:北村隆/撮影助手:池宮直弘/照明助手:藤森玄一郎/効果:中村半次郎/出演:高橋奈津美・林由美香・佐々木基子・久須美欽一・杉本まこと・竹本泰史・丘尚輝)。出演者中、丘尚輝は本篇クレジットのみ。
 劇中一度しか呼称されないのであまり自信がないが、ダイチュー商事専務室。専務の湯川典夫(杉本)は秘書の青木まどか(高橋)にその日の予定を確認させた後、夫も居るといふのに抵抗する素振りも見せないまどかを抱く。挨拶代りにといふか御挨拶にとでもいへばいいのか、兎に角開巻を飾つた事後、湯川に電話越しの声も聞かせない常務から、社長急死の報が入る。破廉恥は社風なのか、社長の佐々木ケンゾー(一切登場しない)が愛人宅にて腹上死、しかも、次期社長の座は湯川に回つて来るといふのだ。大丈夫かダイチュー商事、二代続くと流石にマズいぞ。腹の上で死ぬならせめて本妻にしろよ、湯川。閑話休題その夜の青木家、まどかは夫の勇作(竹本)に、社長秘書に昇進することを報告。夫婦生活がてら、業績不振の中小で苦労する勇作は人脈作りに、佐々木の社葬に色気を出す。そんなこんなで式の仔細は華麗にスッ飛ばした社葬当日、忙しい一日を終へ用を足しながら一息ついたまどかは、個室を覗く久須美欽一に悲鳴を上げる。ほどなく、島田技研社長・島田潤一との会食だといふので、湯川とは別行動で神楽坂の割烹「みよし」に向かつたまどかは驚く。島田こそが先日の出歯亀氏で、挙句にその場に湯川は現れない。即ち、事実上湯川に売られた格好のまどかは、さりとてさして悲壮感を漂はせることもなく島田にやんはりと手篭めにされる。後日、まどかに島田秘書就任の話が飛び込んで来る。条件もよく受けるまどかではあつたが、同時に湯川のことが心残りでなくもない。とはいへ何のことはない、湯川の新秘書には、島田の秘書であつた徳山美加(林)が納まるのであつた。佐々木基子は、勇作の勤務先・(株)後藤企画を、父親から継いだ女社長・後藤亜弓。後藤企画には男女各一名の社員要員(二人とも不明)が見切れるが、特に正面を向きよく映り込む方の女の、何も仕事をしてなさぶりが凄まじい。演者の資質を問ふつもりはないが、演出にはさうは問屋が卸さぬ、頼むから少しは演技指導といふものを施すべきだ。配役一応残り丘尚輝(=岡輝男)は、黙してロイヤルサルーンを回すだけの湯川運転手。
 とりたてて美人といふこともなければ格段にお芝居が上手いといふ訳でもないのだが、兎も角、ヒロインに体型と容貌が普通の若い女が座る。たつたそれだけのことで、エクセスの惨劇は幸にも回避したとわざわざ言祝げる新田栄1999年第三作は、企図したものか偶々の結果かは甚だ微妙ながら、といふか恐らくはどうせ後者ではなからうかとも思ふが、さて措きまるでオムニバス作かのやうに、前半と後半とで綺麗に全く別の物語を、各々四人づつで回すといふ構成を採用した一作。前半部分は、勇作と亜弓も顔見せ程度には出て来るものの、主眼はまどか×湯川と島田×美加による、オチが鮮烈な夫婦ならぬ秘書交換コメディ、そこまではそれなりに磐石であつた。問題の後半が、まどかを間に挟んだ島田と勇作に、勇作とのみ亜弓が絡んで来る形での、後藤企画の起死回生に必要な島田技研の技術供与を軸に据ゑた、ベタの強度は有さない在り来りなビジネス人情譚。ひとまづ最後まで観通した上で、由美香は百歩譲れなくもないが、スワップが成立するや杉本まことが完全に退場したまま映画が終つてしまふことには正直驚かされた。端的に苦しいのは、着地点のユニークさがピシャリと決まる第一パートに対し、第二パートは捻らうとする意思すら感じさせない展開が清々しいほどに平板ゆゑ、どうしてもといふかどうしやうもなく退屈に見劣るきらひは拭ひ難い。加へて、共に要は三番手ポジションの林由美香と佐々木基子に関してはイーブンとしても、杉本まこと(現:なかみつせいじ)とこの時期の、依然色男的にも未完成の竹本泰史(現:竹本泰志)とでは、如何せん竹本泰史に分が悪い。お話の中身自体と布陣、名実ともに前半分が後ろ半分に勝る。今作を簡潔に評するならば、正しく竜頭蛇尾といふ一言が最も相応しいのではないか。
 
 ところで、事ここに至ると最早清々しささへ感じられなくもないのは、特にも何も、まどかが“派遣”されてゐることを示す描写は日本晴の青空の雲の如く、一欠片たりとて見当たらない。いいか、これが、これぞエクセス仕事だ!


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 「人妻浮気調査 ゑぐる!」(2001『人妻浮気調査 主人では満足できない』の2012年旧作改題版/製作・配給:新東宝映画/監督:橋口卓明/脚本:武田浩介/企画:福俵満/撮影:中尾正人/編集:酒井正次/録音:シネ・キャビン/現像:東映化学/助監督:小泉剛/監督助手:松本唯史/撮影助手:田宮健彦・原伸也/協力:鈴木ぬりえ・躰中洋蔵/出演:時任歩・佐々木ユメカ・工藤翔子・大槻修治・田崎敏路・内山一寿・樋口大輔・小泉博秀・伊藤猛)。出演者中、田崎敏路がポスターには田﨑敏路、内山一寿・樋口大輔・小泉博秀は本篇クレジットのみ。それにつけても、実に投げやりな新題ではある。
 “信頼と実績の愛情調査”を謳ふ割に、後述する第一作で見せた熱意は何処吹く風。仕事に身の入らない園部興信事務所の私立探偵・園部亜門(伊藤)と、腐れ縁のホステス・宮前晶子(工藤)とが、晶子は客からの求婚もひけらかしつつ何時ものやうに乳繰り合ふ中、タイトル挿んで依頼が入る。缶コーヒーアディクトの亜門が挨拶代りに差し出す一本もけんもほろゝに断る、ポップに刺々しい豊浦真美(佐々木)の依頼は夫の浮気調査、ではなく、不倫相手である中山忠文(大槻)の妻・慶子(時任)の浮気調査。随分な話でしかないが、慶子には間男がゐる筈につきそれを突き止め、結果忠文を離婚させたいといふのである。亜門はひとまづ行動開始、怪しげな一軒家に消えた慶子は、驚く勿れアダルトビデオに出演してゐた。後日、亜門がなほも尾行を継続すると、慶子は堅気ではないと思しき望月裕(田崎)と接触、金を渡した上でホテルに入つた。事後、呆気なくトッ捕まへた亜門に、慶子は身の上を語る。かつては羽振りもよかつた忠文ではあつたが事業に失敗、家に金が入らなくなる。それゆゑの借金を、裸仕事で返してゐるとのこと。配役残り内山一寿・樋口大輔・小泉博秀は、AV撮影現場の男優部。望月の死体発見時には、道端でサッカーにも興じる。協力勢の鈴木ぬりえは同じく現場のメイク担当で、躰中洋蔵が恐らく監督。小泉剛も、半ばヒムセルフの助監督として見切れる。
 第一作「人妻家政婦 情事のあへぎ」(2000/企画・脚本:福俵満/主演:佐々木麻由子)、第三作「探偵物語 甘く淫らな罪」(2002/脚本:五代暁子/主演:ゆき)、第四作 「真昼の不倫妻 ~美女の快楽~」(2003/企画・脚本:福俵満/主演:岡崎美女)と、年に一作づつ都合四作製作された私立探偵園部亜門シリーズの第二作。「甘く淫らな罪」をキチンと再見した後(のち)でなければ、最終的に確定した評は出せないが、それでも結構な自信を以て多分、兎にも角にも主演女優が木端微塵に覚束ない―松岡邦彦の「義母尻 息子がしたい夜」(2002/黒川幸則と共同脚本)の時には、さういふ訳でも特になかつたのだが―「真昼の不倫妻」に劣るとも勝らず、今作が一番芳しくないのではなからうか。m@stervision大哥がリアルタイムで完結させておいでのやうに、「人妻家政婦」と同じ序盤である点に関しては千歩譲つて覚えてゐないフリをするならば、望月の顔見せまではまだしも最低限纏まつてゐなくもない。ところが以降の、進展しない事態に真美が無造作に業を煮やす辺りからが完全にガッチャガチャ。望月の忠文襲撃未遂を皮切りに粗雑な道具ならぬ飛びイベントが闇雲に交錯し、展開上の方便のみに従つた真相は、自堕落に二転三転する。挙句に万事が棚から牡丹餅の如く自動口述の台詞頼みとあつては、開いた口の中もカラッカラに乾かうといふものだ。終盤の大転調の初弾、予想外の百合の狂ひ咲きには確かにインパクトもあれ、但しそれを最終盤引つ繰り返してみせるには、<慶子に口移しで酒を飲まされた亜門が、何時も不思議と寝落ちてしまふ>段取りを、事前に十全に納得させておいて呉れないと始まらないどころか話になるまい。忠文の死の秘密が明かされる件の、悪い冗談のやうな照明のへべれけさもあんまり。「みんな、私のこと好きだと思つてたのに」、全ての一応残酷な真実が明らかとなる段、慶子が明後日か一昨日を見ながら洩らす嘆息混じりの台詞には、そこだけ切り取ると時任歩らしい決定力が煌くやうにも見えかねないものの、それだけで相談が通るのかといへば些かならず苦しい。但し、計三回殊に―全作共通するフォーマットでもある―開巻とエピローグを占める亜門と晶子の、濡れ場込みの両義的な絡みは、「甘く淫らな罪」を一旦さて措くとシリーズ随一の安定感を誇る。

 改めて観てみたところ目を疑つたのが、佐々木ユメカと絡んだ際に、際立つ時任歩の体の大きさは衝撃的。寧ろユメカが、余程小さいのかも知れないけれど。


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 「熟妻の性 蠢く不倫痴態」(1996『人妻の性 淫乱下半身』の2007年旧作改題版/製作:IIZUMI Production/提供:Xces Film/脚本・監督:北沢幸雄/企画:稲山悌二《エクセスフィルム》・業沖球太/製作:北沢幸雄/撮影:小西泰正/照明:渡波洋雪/音楽:TAOKA/編集:北沢幸雄/助監督:瀧島弘義/監督助手:片山圭太/撮影助手:鏡早智・畠山徹/照明助手:那雲サイジ/ネガ編集:酒井正次/効果:東京スクリーンサービス/協力:吉行由美、他男女各一名/出演:水奈りか・桃井桜子・青井みずき・佐々木恭輔・田嶋謙一・山本清彦・神戸顕一)。照明の渡波洋雪は、洋行の誤記ではなく本篇クレジットから洋雪。
 松井ゆかり(水奈)と岡本貴子(桃井)と浅田佐織(青井)、各々宅での仲良し主婦三人組顔見せのテレフォンセックスから、ゆかりが派手に悶え始めたところでタイトル・イン。
 明けて三人の接点を成すヨガ教室、ここで協力勢から吉行由美(現:吉行由実)が講師で、妙齢の女と初老の男の他男女各一名も、その他生徒要員。貴子がゆかりと佐織を誘ふ形で始めた2ショットダイヤルのアルバイトは、三人で月五十万近くを荒稼ぐ活況を呈してゐた。反面、ゆかりは車のセールスマンの夫・秀夫(佐々木)のセックスの弱さに。佐織は長距離トラック運転手の夫・健二(山本清彦/a.k.a.やまきよ/神戸軍団所属)の、劇中描写をみるに三こすり半すら持ち堪へられぬ超早漏に。貴子も貴子で開業医の夫・修平(田嶋)との間に、詳細に関しては奥歯に物を頑強に挟み続ける、兎に角三本柱は三者三様の夫婦生活の悩みを抱へてゐた。そんな中、ゆかりは日々抱へる欲求不満にも背中を押され、電話越しにはキムタクを騙つてみせる神戸顕一と火遊び。ところがその模様を当然知らない内に、遠巻きに居合はせた貴子に写真に捉へられてしまふ。秀夫から購入したばかりの車が故障し、二十八万円の修理代が発生してゐたこともあり、岡本夫妻は大胆な一計を案じる。休日か、昼下がりを秀夫とのんびり過ごすさおりを貴子が呼び出した上で、写真を出汁に拘束。修平は秀夫に、細君を返して欲しくば身代金二十八万を要求する電話を叩き込み、風雲は藪から棒に急を告げる。
 大きく盛り上がつたお椀型のオッパイには張り物臭さも拭ひ難いが、緊張感を伴なふ丸みを帯びた腰から尻にかけてのラインが絶品な、水奈りかのフォトジェニックなプロポーションは銀幕の大きさに一際映える。左右に従へるはムチムチとし且つ陽性の色気が何時観ても抜群の安定感を誇る桃井桜子と、キュートなトランジスター・グラマー青井みずき(a.k.a.相沢知美)。受ける男優部に僅かな穴も無く、裸映画としての布陣は鉄板。警察に相談したところで御近所同士の悪ふざけと取り合つては貰へず、頭を抱へる秀夫に接触した貴子は、大開放のセックス・アピールと共にまさかのクロスカウンター・キッドナップを提示。佐々木恭輔手持ちのメソッドで上手いこと目を白黒させる秀夫と貴子の前に、何も知らない佐織がアイスを食べ食べキョトンと通りがかるカットは完璧。三組の夫婦が誘拐の連鎖で繋がる構成までは、虚構的なチン騒動を抜群に面白く観させたのだが。貴子と修平のネタ的に容易な他愛もない事情を、オチ扱ひで不自然に引張ることは展開上痒いところに手を届かせないもどかしさを生じ、何より、最終的には正体不明の段取りで健二の早漏が治る、だけといふのが娯楽映画の落とし処としては致命的に弱い。百歩譲つてさおりはまだしも、これでは貴子と修平の置かれた境遇は半歩たりとも前に進んではをらず、物語が満足な着地を果たさう筈もない。女の裸は十二分に愉しませるところまで含めて、良くも悪くも六十分の尺が経過すればお話が畳めてゐやうがゐまいが自動的に終了する、実にピンク映画らしい一作といへば、いつていへなくもない。


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