真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「痴漢電車 イケナイ遊び」(1993/製作・配給:大蔵映画/脚本・監督:小林悟/撮影:柳田友貴/照明:ジミー宮本/編集:フィルム・クラフト/助監督:国沢実/録音:シネキャビン/スチール:佐藤初太郎/現像:東映化学/フィルム:AGFA/タイトル:ハセガワ プロ/出演:吉行由美・冴木直・藤沢美奈子・芳田正浩・樹かず・白都翔一・港雄一)。
 雑居ビルの「川上探偵事務所」、川上(港)に今井(白都)が、どうも出勤するや家を空けてゐるらしき妻・知子(吉行)の素行調査を依頼する。川上が仕事を受けるとベンチャーズ風の劇伴起動、魅惑的なボディコンで武装した知子が出撃、駅構内の画にタイトル・イン。電車の車内、知子から川島か川嶋タケシ(芳田)にコンタクト。連れ立つて降車後ベッタベタ地下道に消える二人を、レイコ(冴木)が尾行する。ラブホでの濡れ場初戦を経て、事後は川島をアッサリ袖に振つた知子を、レイコが急襲。てつきりレイコは川上の助手か何かかと思ひきや、他の女と寝た男ではなく、人の男に手を出した知子へのダイレクト・アタックを敢行した川島の職場恋愛相手。知子とレイコがとりあへず入つた、喫茶店と称したハウススタジオの一室。知子の言ひ分は、知子が子供の出来ない体につき、今井夫婦はセックスレス。さりとて肉の飢ゑには抗へず、“燃え上がつた時にはボディコンを着てイケナイ遊びに駆け込む”とかいふ方便。“何が子供が出来ないのよ、そんなのアンタの勝手でせう”とレイコが知子に掴みかゝる無体な修羅場に、この人もレイコを同業者かと勘違ひしてゐた川上が割つて入る。観客を驚かすなり騙す前に、川上がレイコを見紛ふカットを盛り込んでおくのが先だと思ふ。
 配役残り、一言二言台詞も吐く国沢実は、レイコと川島が勤務する「東北物産」東京営業所の、営業所所長辺り。にも関らず、ジャンパー姿の無頓着が堪らない。樹かずは、レイコが知子の向かうを張り、あるいは同じ轍を踏んで痴漢電車のイケナイ遊びを仕掛ける行きずりのイケメン、レイコを連れ込む自室はジリオン部屋。冴木直V.S.樹かず戦の完遂を待つて飛び込んで来る藤沢美奈子は、私の彼氏を返してとレイコに泣きつく樹かずカノジョ。女学生ギミックのおさげ髪が思ひのほか馬面に火に油を注ぎつつ、改めてこの人のプロポーションは超絶。巨乳・ストリーム・アタックを完成させる強力な女優部の中でも、オッパイだけなら最強の攻撃力を誇る。反比例するかの如く、存在感は薄らぼんやりしてゐるものの。
 小林悟1993年ピンク映画最終第九作、薔薇族込みで第十作。案外少ない気がする、感覚の麻痺。腕の一本くらゐ引き換へてでも辿り着きたいが、ハンドレッドが流石に遠い。公開題まで口にさせておきながら、何気にシリアスな主演女優の寂寥を、カラッと等閑視してのけるのがピンク・ゴッドこと小林悟。中盤以降は何故か冴木直が、寝取られた女が臆面もなく人の男を寝取る自堕落な展開を支配する。樹かずの部屋に入るレイコが、遅刻する旨を営業所の川島に連絡。川島主導でテレフォンセックスをオッ始める件なんて、どうでもよすぎて確かビリングは頭の筈の知子もスッ飛ばし、何で斯様な一幕に尺を割いてゐるのか感動的なほど呑み込み難くてクラクラ来る。挙句レイコ曰くの元凶たる知子に対し、藤沢美奈子が何故かレイコと共同戦線を張るに及んで、映画の底は完全に抜ける。川島の協力を取りつけるにあたり、レイコが藤沢美奈子をいはばでなく売るに至つては寧ろ、グルッと一周した清々しささへ覚える。結局知子は川上、今井はレイコと藤沢美奈子で押さへる痴漢電車挟撃から、今井家で川上が知子を喰ふ一方、今井はレイコ・藤沢美奈子とジリオン部屋にて巴戦といふのがクライマックス。川上が適当な説教を垂れて夫婦の問題は強制落着、川上×レイコ、樹かず×藤沢美奈子でダブル電車痴漢に戯れるラストの乾いた白々しさこそが、未だ恐らく誰もその真価には辿り着き得てゐまい大御大仕事の本質。こんな映画ばかり、現場で倒れそのまゝ他界するまで、正真正銘の命懸けで撮つてゐたんだぜ、そんな人間理解出来る訳がない。だからこそ、かうして懲りずに観るなり見られるだけ追ひ続けてゐる次第。戦つて、死ぬ。虚勢を張つてみせるのは容易いが、小林悟は、実際に戦つて死んだ。

 女の裸以外で唯一琴線に正方向で触れたのは、知子のイケナイ遊びといふよりも、川上から攻める電車痴漢。セット撮影である利を活かした、視点でいふと網棚辺りから狙ふ画角が目新しい。


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