真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「温泉情話 湯船で揉みがへり」(2020/制作:Blue Forest Film/提供:オーピー映画/監督:竹洞哲也/脚本:小松公典/撮影監督:創優和/録音:山口勉/編集:三田たけし/音楽:與語一平/整音:吉方淳二/助監督:島崎真人/監督助手:山崎源太/撮影助手:赤羽一真/スチール:阿部真也/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:きみと歩実・新垣智江・千葉ゆうか・吉田憲明・モリマサ・細川佳央・山本宗介・佐倉萌)。
 伊豆なのに、今上御大にデビューの面倒を見て貰つた大恩を忘れたか、大正義伊東のペンション「花宴」、ではなく、温泉旅館「華の湯」(長岡温泉)の外観にタイトル開巻。二人で映つたスナップからパンした先で、三川明日香(きみと)と頭師智郎(吉田)がディープキス。二人の薬指には、二人を繋ぐ指輪。吉田憲明が髙原秀和の大蔵第二作第三作と、越した新居にネット回線の繋がらない間、KMZのスケジュールを知り得ず観落とした―矢張り髙原秀和が連れて来た―石川欣電撃大帰還作に続く、ピンク四戦目にして初の本隊作。この人、戯画的なツッパリのメソッドは持つてゐなささう―なくて別に困らんし―ではあれ、ハレ物に触るといふか障つたか、とんと沙汰を聞かない岡田智宏(a.k.a.岡田智弘)の穴を埋められる、かも知れない。閑話、休題。妙に男のノリが悪いか暗い、正直微妙に感情移入し辛い一戦を経て、二人は内風呂の大といふほどでもない中浴場に。温もりがてら、明日香は頭師に「華の湯」を初めて訪れた時からの、割と壮大な顛末を語り始める。
 配役残りモリマサと、まさかの母娘風呂にも飛び込んで来る佐倉萌は、就職した明日香が家族旅行をプレゼントする、両親の丈と沙由理。本で読んだ前評判とは随分違(たが)ふ、「華の湯」のプアなサービスには閉口しながらも年一の往訪を約しつつ、その後二人は震災死する。初陣の新垣智江と、意外にも2020年初出の山本宗介は、客がヤリ倒した清掃中の部屋にて致す「華の湯」仲居の桑名菜摘と、大病フラグを抱へてゐるにも関らず薬を飲まない、無精者の彼氏・松野至。劇中最初は三川家の三人で参る、縁を死後も結ぶとか御利益がなかなかエクストリームな神社。明日香と菜摘がすつたもんだする境内に、悄然と現れる細川佳央が野々宮卓、千葉ゆうかが野々宮の十年前に事故死した恋人・野宮朱音。それと順番的にはホソヨシの前、菜摘の“忘れる努力”に足元だけ見切れさせる男なんて当然手も足も出ない。
 二作前の2019年第六作「発情物語 幼馴染はヤリ盛り」(主演:川上奈々美)から再び、小松公典が本名で挑んだ竹洞哲也2020年第二作。以降も今のところ小松公典名義につき、徒か戯れな変名の濫用に漸く飽きたか厭いたか、兎も角止めた模様。
 当初さんざ勿体つけた―交霊系の―能力が、いざ蓋を開けてみると個々人の間を比較的でなく自由に往き来する、都合のいゝフレキシビリティはこの際さて措き、一人につき一年に一回のみ、死者と再会出来る温泉を舞台に繰り広げられる感動物語。に、しては。主演女優を爆心地として二番手とよもやの四番手にモリマサまで誘爆する、小松公典の横好きとしか匙の投げやうもない、他愛ないネタを延々舌先ないし小手先で捏ね繰り回し続ける性懲りもない掛け合ひ会話が、木に竹を接ぐのが精々関の山の枝葉も枯らすダイオキシン。何がボインちやんなら、面白いつもりなのか。どうしてさう執拗に正攻法を拒む、といふか拒んでゐる訳では必ずしもなく、全体の展開的には業を煮やすかの如く無駄口の被弾を免れた野々宮が、朱音に対する激越な思慕を正しく振り絞るシークエンス。細川佳央が相当の地力と馬力とで轟然と撃ち抜く、ど直球勝負のエモーションが文字通り一撃必殺。それまで生煮えてゐた映画が劇的に復活する、その様にも吃驚した。間髪入れず、受けるきみと歩実も既に滂沱の大火に涙のガソリンを注ぎ、憚らずにいふが竹洞哲也の映画を観て当サイトが斯くも泣いたのは、通算第二作の依然現時点最高傑作「美少女図鑑 汚された制服」(2004/主演:吉沢明歩)以来ではなからうかといふほど泣かされた。一旦一段落したのち、持ち直した野々宮が人払ひする一幕に際しては、明日香―と観客―にもう大丈夫である旨明確に示す、強い目力も捨て難い。あと死者造形の所以でもあるのか、一見貧相なルックスに見せかけた三番手も、事後にはフレームの片隅でキラッキラ美しい瞳を慎ましやかに輝かせる。死に至る、松野の面倒臭がりに関しては流石に如何なものかといふ以外の言葉も見つからないが、菜摘が松野を偲んでの、豊かなオッパイの自撮りならぬ自舐めをも繰り出すワンマンショーは、エロくてエモい裸映画的ハイライト。咥へて、もとい加へて新垣智江がそんな可愛くも美人でも決してないけれど、半信半疑の明日香を断言で諭す「逢へる」の、オーラがグッと前に出る力の込め具合には案外確かな芝居勘を窺はせる。茶碗の飯を箸を使はずに食ふ、トチ狂つたやうにしか映らなかつた丈の奇行を、回収してみせる思はぬ離れ業にも不意を突かれた。
 それ、だけに。確かに映画的にアッと驚かされる、世にいふ衝撃の結末ではあるものの、形の如何を問はず結果的に諸方面の想ひを反故にした格好の、所謂シックス・センス風オチには疑問が残るといふか、より直截には「えー!」的に愕然とした。初戦に於ける、頭師の不可解な風情を拾つてゐるのは酌めるともいへ、オーラス改めて積み上げる生に向かつて背中を押す南風を、盛大に卓袱台返ししてのけるのは結構な蛇の足ではあるまいか。それ、とも。もしも仮に万が一、一般映画版を観るなり見れば頷ける相談であるのだとしたら、否、だとしても。そんなもん知らねえよ!と、何度繰り返し声を荒げたところでどうせ大蔵に届きはせんだろが、腹の虫が治まらないといふ―だけの―理由で何遍でもいふて呉れる。逆に、なほ釈然としない場合、いよいよ以て仕方のない次第、OPP+は言ひ訳じみた避難道か。

 最後にもう一点、マッパのきみと歩実を前に、甚だ礼を失した頭師の態度と丈の白痴ムーブはリカバーした反面、「華の湯」玄関での松野との別れ際。菜摘の「治つてもね」は投げたまゝだよね・・・・は!それももしも仮に万が一!?知らんがな、いい加減にせれ。そもそも、二兎を追ふからとかく編集が窮屈になるか、至らぬ詮索を生むのでは。といふのは腹立ち紛れの素人考へと、ためにするマッチポンプ。


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 「ワイセツ隠し撮り 夫婦の寝室」(1993/製作・配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:瀬々敬久/製作:田中岩男/撮影:稲吉雅志/照明:渡波洋行/編集:酒井正次/助監督:原田兼一郎/監督助手:榎本敏郎/撮影助手:片山浩/照明助手:斗桝佳之/スチール:津田一郎/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:岸加奈子・杉原みさお・伊藤舞・池島ゆたか・久須美欽一・久保新二)。
 タイトル開巻、「人の噂も七十五日といふが」と、往来で池島ゆたかのモノローグ起動。何放送協会なのかHHK局のディレクター、であつたカワシマ春雄(池島)はドキュメンタリー番組に於けるヤラセを巡り懲戒免職、また派手に詰め腹切らされたね。目下は元々共働きで雑誌編集者の妻・みゆき(岸)の稼ぎが家計を支へ、カワシマは専ら主夫業に納まつてゐた。そんなカワシマの悩みはみゆきの配偶者に対するヒモ扱ひ、ではなく、失職以来の性的不能。その旨を示す、初戦の夫婦生活。やをらカメラがスーッと―何もなければ誰もゐない―部屋の端にパンするのに、よもや稲吉雅志が柳田友貴ばりの“大先生”ムーブを繰り出すのかと引つ繰り返りかけたのは、当然当サイトの脊髄で折り返した早とちり。障子に隙間を開け夫婦の寝室を隠し撮りしてゐた、裏ビデオ界のクロサワを自任する兵頭六輔か六助か六介(久保)もカワシマがインポであるのを看て取り、「あかん、勃たへん」と落胆する。如何せん文字情報のみで伝へやうもないが、久保チンの聞くも無残な似非関西弁に関しては、下手な造形を潔く放棄する賢明は検討されなかつたのか。
 配役残り、みゆきとの不忍会談で飛び込んで来る久須美欽一は、カワシマの復職を願ふみゆきが頼らうとする、HHK局のプロデューサー・岡本、実はヤラセを命じた張本人。パチンコ屋の表とかいふ、風情があるのか単なる大雑把か無頓着の類なのか甚だ微妙なロケーションにて、普通に歩いてゐたところ兵頭に捕まりその場でビデオを一万で売りつけられる若い男が、結構遠いロングにつき断定はしかねつつ、多分セカンド助監督の柳蜂逸男。一方、当初ワンマンショーを盗撮されてゐるかに思はせた杉原みさおは、兵頭の情婦・ヒロミ。そして、声は石川恵美がアテる伊藤舞が、勿論津田スタのカワシマ家に呼んでの情事を、兵頭が撮るのでなく自身がヤルのを―無論カメラの扱へる―カワシマに撮らせようとした、出張風俗嬢・ヨーコ。エナニー?とか聞こえる、屋号を詰めきれず。
 改めて調べてみると、瀬々敬久が他人に脚本を提供するのは獅子プロの兄弟子たる片岡修二―や橋口卓明―のみならず、jmdbに記載のあるだけで深町章に案外八本も書いてゐる、1993年第三作。
 自慰で絶頂に達する女を撮りたい兵頭の思惑に反し、ヒロミが六ちやん六ちやんと情夫の名をいぢらしく呼ぶのに押し切られ、イケイカないの攻防戦の末、結局兵頭はビデオカメラを捨てヒロミを抱く格好に。即ち、裏ビデオを撮影中といふ体の窃視視点から、男女が本格的に致す濡れ場に移行するシークエンスは、実質的な意味合ひが特にある訳でなくあくまでさういふ進行に過ぎないともいへ、ある意味アダルトビデオがピンク映画に屈した風に曲解出来なくもなく、敗者なり精一杯のロマンティックかアクロバットであつたにせよ、瀬々よく考へたなと感心した。うつかり兵頭が当のカワシマに隠し撮りを買はせてしまひ―キャッチした時点で気づけよ―発生した接点が、職を探すカワシマに兵頭が組まないかと持ちかける形で発展。その過程で三番手を回収する輝かしく秀逸な妙手を何気に撃ち抜いた上で、ヒロミも岡本に喰ふだけ喰はれ騙されたことから、カワシマと兵頭の共同作業が、岡本といふ共通の敵に対する共闘へと変る。さういふ次第での大一番が、伏線的なサムシングも気配程度に撒いてはゐる、みゆきを弾に擁したハニートラップ。自らは決して撮らうとはしない小癪ささへさて措くと、何だよ瀬々思ひきり普通の、正調娯楽映画らしいコッテコテの物語も編まうと思へば編めるんぢやないか。なんて見直しかけたのも、今作に際し通算二度目の早とちり。結局、カワシマが回復あるいは回春するほかは、勧めるほどの善も別に存在しないゆゑ勧善は兎も角、懲悪も大団円も寸止めで回避。最終的には良くも悪くも平素の深町章、のんべんだらりとした絡みで駆け抜けるといふよりは振り逃げる、焦点を失したラストは逆の意味で見事に失速。照れ臭いのか馬鹿にしてゐるのか知らないが、ベタなものを、潔しとしない態度を基本的に当サイトは評価しない。ベタにはベタなりに、定番として熟成され得るに足る、積み重ねられた何某かが備はつてゐなければそもそもベタの名に値しないのではなからうか。これは定石が成立する過程にも重きを置く、ひとつの保守の態度である。


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 「オトナのしをり とぢて、ひらいて」(2020/制作:加藤映像工房/提供:オーピー映画/監督:加藤義一/脚本:筆鬼一/撮影監督:創優和/録音:小林徹哉/編集:有馬潜/演出部応援:小関裕次郎/撮影助手:赤羽一真/撮影部応援:酒村多緒/スチール:本田あきら/協力:広瀬寛巳・鎌田一利/選曲:友愛学園音楽部/整音:Bias Technologist/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:神咲詩織・雪乃凛央・大原りま・細川佳央・折笠慎也・竹本泰志)。加藤映像工房のクレジットが地味に難敵なのが、友愛学園音楽部の担当が音楽と選曲とで映画毎にブレる。
 神咲詩織の朗読で“リョウと今、ひとつになる”。イメージ風の絡みは語り部の胸キュン女子高生―劇中用語ママ―が栗原良、あるいはジョージ川崎、もしくは相原涼二に抱かれてゐる訳では残念ながらといふか無論なく、矢張り劇中用語ママで“ビブリオワーク”なる要は文学フリマに本名で参戦する叶章子(神咲)の、執筆中新作のハイライト。一見冴えない同級生の田尻が、覆面アイドル・マサキリョウの正体。とかある意味清々しい類型的な内容に煮詰まつた章子が、愕然とPCに項垂れる背中にタイトル・イン。に、しても。結構な高頻度で首を傾げさせられるのが、その部屋一体何畳あるのよ?といふ一介の事務員に過ぎない章子居室の広さ。自宅のあばら家もあばら家、破屋界的にも結構ハードコアなあばら家で撮影する、といふかしてゐた―現状を追認するものでは断じてない―荒木太郎もそれはそれであんまりだけれど、ピンクの中の日本、経済政策間違つてなさすぎだろ。別の意味での、夢物語の趣さへ漂ふ。
 毎日定時でザクッと離脱する、章子の理想的な職場は零細不動産会社「藤山不動産」。理想的な職場とかつい何となくな流れでキーを滑らせてしまつたが、土台労働が賃金の発生する時間の無駄でしかない以上、如何なる環境であれイデアの名になど値するものか、解放されるに如くはない。非人道的極まりない残虐卑劣な第二十七条一項の削除こそが、改憲のいの一番である。激越に叫ぶ真理はさて措き、国語教師の職を辞し亡父の遺した会社を継いだ、社長・藤山正彦(竹本)の理解にも恵まれ締切前には有給もほいほい貰へたりする中、頻りに口説いて来る、ウェーイな営業・増永(折笠)のウザさに章子は頭を悩ませてゐた。
 配役残り、雪乃凛央は藤山が多分運転資金を無心する、元妻で同じく教職に就いてゐた高子、復元した旧姓不明。元夫に貸すほど高子が金を持つてゐるのが、単なる塾講師なのか、経営してゐるのかは例によつて遣り取りが不鮮明。その辺りを埋めて呉れないから、締まらない。細川佳央は合鍵も渡されてゐる割に章子と男女の仲には全くない、大学時代からの文クラ親友・水島来夢。今時珍しい威勢のいゝ詰めぷりの大原りまは、当初章子には知人と称される、増永の要は彼女・佐藤マリア。二言目には「うむ」をアクセント的な口癖に、一人称が“あたい”のズベ公口跡を大仰に操る傾(かぶ)いた造形が、狙つたものにせよ決して外してはゐないし、もしも仮に万が一、初陣女優の壮絶な台詞回しに頭を抱へた、苦肉の起死回生であつたなら加藤義一超絶大勝利。その他、藤山と高子が常用するレストランに、鎌田一利(a.k.a.筆鬼一)が見切れてゐるのは楽勝につき兎も角、声だけ聞かせる、増永が応対するヤサ探しの来客がひろぽんであるのか否かには辿り着けず。
 鎌田一利とのコンビも漸く安定して来たのか、相ッ変ら木端微塵なのかよく判らない加藤義一2020年第二作。神咲詩織がAV引退後も、ピンクには継戦してゐる模様。
 水島の助言に従ひ一度だけの前提で増永との食事に付き合つた章子は、結局その夜のうちにサクサク喰はれた挙句、翌日には自室に連れ込む始末。設定上は章子が抱へてゐる筈の恋愛に関するトラウマなんて何処吹く風、腐女子がヤリチン野郎にチョロ負かされる無体な写実主義であつたとしても、神咲詩織の裸さへ潤沢に確保してあれば、水島が流す血の涙といふ我々の琴線を激しく弾き千切らずにはをれない、切札的エモーション込みでお話が成立し得なくもなかつた気もしつつ。結局物語を、三本柱で案外三等分。増永の手垢に関しては概ね等閑視して済ませた上での、上手いこと実る水島と章子オタク同士の一応純愛に、そもそも何でこの二人が別れたのかが映画を観てゐてまるでピンと来ない、高子と藤山がライオンファイアする焼けぼつくひ。と、あれだけ執拗に章子を口説いてゐた姿に正直齟齬か便宜みは否めない増永の、エキセントリックな本命に唯々と振り回される悲喜劇。ミスキャストすれッすれに若い二番手と、主に竹本泰志の口から散発的に放り投げられるばかりで、芽吹くなり根を張るどころか、木に竹も接がない人間交差点か黄昏流星群か、まあ似たやうな人生訓的モチーフに鼻白む点に目を瞑れば、寧ろ馬鹿正直にドラマを三分割した結果、一撃の威力も三分の一に。破綻はしてゐない程度の、漫然とした三者三様といつた印象が強い。とりあへず、締めの濡れ場を腰を据ゑて完遂に至らせない、十万億土の彼方へカタルシスを放逐する悪弊は如何なものか。もひとつ呆れ果てて匙を投げたのが、藤山不動産のパラノーマルかロステクな通信環境。画面逆さにした扇の要に座る藤山の、即ち電話機の端子口が正面を向く画角に逃げ場のない、机上の固定電話が物理的にすらオフラインの大概な無頓着に、加藤義一は銀幕の大きさで観客が気づかないとでも思つてゐるのか、二十年間何をしてゐたんだ。といふか百歩譲つて俳優部はまだしも、撮影部も撮影部で立ち止まらなかつたのかな。
 筆の根も乾かぬ反面、感心したのはカミナリ信用金庫―漢字だろ―から融資を切られた藤山が、例によつて高子から金を借りての帰途、高子の方から膳を据ゑる件。藤山が突かれた不意に合はせカットを跨いだロングで、一拍おいて二人の脇を電車が通過する。当然、即座にもう一回カットを跨いだ先は藤山の寝室。全く以て紋切り型的な繋ぎを、あくまで紋切り型は紋切り型のまゝ、それでも綺麗に撃ち抜いてみせる馬鹿にならない地力は、満更二十年も伊達ではなかつたらしい。


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 「三十路妻の不倫」(1995/製作・配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:双美零/企画:中田新太郎/撮影:稲吉雅志/照明:伊和手健/編集:酒井正次/助監督:榎本敏郎/スチール:津田一郎/監督助手:菅沼隆/撮影助手:片山浩/録音:シネ・キャビン/現像:東映化学/出演:田口あゆみ・三橋里絵・林田ちなみ・風間晶・平賀勘一・神戸顕一・杉本まこと)。
 不忍池越しに、林田ちなみが人待ち風情で佇むロング。クレジットと同時に、「これ本当に恥づかしい話なんですけど」と杉本まことのモノローグが起動する。八年前、現在の妻・さとみ(林田)と就活に苦労してゐた二流大学かつ二留の沢野(杉本)も、漸く内定に漕ぎつける。ちやうどその頃、沢野には二股をかけてゐた女が存在した旨、告白して不忍池にタイトル・イン。
 配役残り、早えな!掻い摘むストーリーとかねえのかよ、別にないんだけど。タイトル明け津田スタに飛び込んで来る田口あゆみが、件の二股相手で当時三十二歳の人妻・荻山あやこ。社員の身辺にナーバスな会社につき、関係を清算する腹の沢野が餞別も兼ねたバイブであやこを責めた事後、帰つて来る神戸顕一が、十八であやこが見合結婚した夫。それゆゑあやこが若いツバメ―沢野に対する呼称はヒロ君―との逢瀬を、“初めての恋”と称するのに沢野は軽くでなく引く。平賀勘一と風間晶は、沢野にとつて単なる上司を超えた兄貴分の藤森部長と、藤森の愛人で、藤森が転勤で東京を離れる間の世話を沢野に託さうとした、凡そ堅気のOLには見えない凄まじいギャル造形の小川りお。身辺には神経質でも、服装は案外どころでなく自由なんだな。藤森が持たせたりおのアパートを、沢野が辞す際。何気に見切れてゐる三橋里絵が、藤森の本妻・あきよ。
 菅沼隆の目下確認し得る最古のキャリアが、二作前の「ぐしよ濡れスワップ 《生》相互鑑賞」脚本:双美零/多分主演:青木こずえ/未配信)となる深町章1995年第四作。
 公園にて、思ひだしたあやこの思ひでに浸る沢野に、背後から近づいた女がまさかのあきよ。あきよから“目には目を”とか迫られるまゝに、沢野は危ない橋を渡る。やがて、二人をホテル街にて目撃したりおの口から、二人の不義かつ不義理が藤森の知るところに。何れも十二分に尺を割く濡れ場の僅かな隙間隙間を、展開がスリリングに駆け抜けて行く。一見自堕落な裸映画に見せ、針の穴に紙一重を通し首の皮一枚物語を紡いで行く、何気な妙技に大人しく酔ひ痴れて、ゐさせて呉れればよかつたものを。一応「背筋が寒くなりました」で敷いてゐなくもなかつた伏線が、木に竹を接いで藪から棒に暴発。危ふく一命を取り留めはしたものの、な不用意に後味の悪い結末は、漫然としたラスト・ショットとの親和も果たせず、もやもやした居心地の悪さばかりを残す。絡み初戦から二連戦をこなしたのち、よもや終ぞ退場したきりなのかとさへ危ぶませた、田口あゆみが先頭に座る不可解に関しては、兎にも角にも劇中世界を支配してのけた点に免じて兎も角、三橋里絵が林田ちなみよりも上位に来るのは全く以て解せないとしかいひやうのない、そもそもビリングからちぐはぐな一作。沢野を驚愕させるさとみの素性も素性で、一緒に就職活動に励んでゐたアバンと齟齬を来す疑念は如何とも拭ひ難い。


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 「女ざかり 白く濡れた太股」(2020/制作:OKプロモーション/提供:オーピー映画/監督:小川欽也/脚本:水谷一二三/撮影監督:創優和/録音:小林徹哉/編集:有馬潜/助監督:加藤義一/撮影助手:赤羽一真/協力:小関裕次郎・鎌田一利/スチール:本田あきら/音楽:OK企画/整音:Bias Technologist/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:可児正光・しじみ・平川直大・小野さち子・西森エリカ・初美りん)。いつそ倒立させた方がピンと来さうなビリングに関しては、出演順と明示される。脚本の水谷一二三は、小川欽也の変名。
 伊豆急行伊豆高原駅に降り立つた大学院生の武石和生(可児)が、母親の四十九日―父は先に没―も済ませた一段落ゆゑ冬休みを別荘で過ごす旨、大きく伸びでもしがてら説明台詞で全部語る。当然ロンモチ自動的に花宴の武石家別荘に到着した和生改め、劇中呼称で若旦那を別荘番の山田武(平川)と、お手伝ひの小川佳代(しじみ)が歓待。しじみのロイドが狂ほしくキュートで琴線を激しく掻き鳴らす一方、もしくはもしかすると、もーしーかーすると―しねえよ―さういふ造形なのか、平川直大はセットのおかしなツーブロックが、変に老けて映る。その夜、書名が見えさうで識別出来ない文庫本に厭いた和生は、戯れに庭を散策。離れなのか和生が佳代の居室を覗いてみると、山田相手の奔放が豪快の領域に跨いだ情事を目撃。翌日、東京に忘れて来たPCを取りに行かせる方便で、二三日分の小遣ひも渡し山田を人払ひした和生は、敷居の乾く間もなく佳代に朝風呂の背中を流させる。山田が出発した玄関の扉が閉まるや否や和生が佳代を呼ぶ、脊髄で折り返す速さはギャグの空気に片足突つ込みかけつつ、夢なり理想を形にする営みの、ひとつのメルクマールといへるのかも知れない。
 人外の強精を誇る和生が超速でリロードする、連戦が永久(とこしへ)に終らないかに思はせた佳代との濡れ場明け。配役残り、本篇キャプションまゝで“隣の後家”とかぞんざいなイントロで飛び込んで来る小野さち子が、花宴の隣に暮らすだから後家・鈴木枝里。予告に於いては“圧倒的ヒロイン”だなどと称される通り越して賞される、西森エリカが枝里の娘のリカで、初美りんは鈴木家のお手伝ひ・久保芳子。ちなみにポスターでの序列は、西森エリカが頭で以下初美りん・小野さち子・しじみと続く。それと定位置の座をナオヒーローに譲つた大旦那の姿良三(=小川欽也)は、官憲の出る幕があるでなく、今回はお休み。
 コロニャン禍の皺が寄つたか単なる公開待機なら別に構はないが、気づくと今年この期に沈黙してゐるのが地味に気懸りでもある小川欽也の、伊豆で始まり伊豆で終る2020伊豆映画は、五本柱の扱ひが大体均等な前作「5人の女 愛と金とセックスと…」(2019/実質主演:平川直大)からの、西森エリカ主演出世作、一応。今作とは全く関係ない純然たる世間話的な余談ではあれ、従来月の半分しか新作が来ないKMZこと小倉名画座が、新居に通信回線が繋がらないオフ島太郎から現し世に帰還したところ、先月がよもやまさかの五連撃、藪から棒にどうしたんだ。御蔭で前の週に来てゐた、石川欣の三十二年ぶり帰還作を知らなくて逃がす始末、落ち着いたら外王で拾つて来る。地元駅前ロマンでも新東宝が放り込んで来るど旧作とロマポが渋滞してゐる状況につき、降つて湧いた火事場が何時収束するのかは正直知らんけど。
 和生に対し明確に性的な食指を伸ばす枝里は、ジュエルリングみたいな素頓狂な指輪で佳代を籠絡。“将を討つには”―将はリカを指す―云々と和生をハチャメチャに言ひ包めた佳代が、枝里に対する夜這ひをけしかける一方、リカはリカで和生に向ける、仄かな想ひを芳子も酌む。アクティブに暗躍する両家の家政婦に背中を押され、可児正光が棹の萎える暇もなく只々ひらすらに、母娘丼に止(とど)まらず女優部を総嘗めし倒す最早抜けるほどの底すら存在しない、淀みなく絡みの連ねられる一作。開巻第一声の方法論が結局以降全篇を貫く、展開の逐一を随時俳優部にしかもなダイアローグで開陳させる懇切作劇が割りかけた徳俵を、的確な選曲で神憑り的に回避。首から上は全然さうでもないのに、体の肌が妙に汚いしじみのコンディションと、木に竹を接ぐ山田の帰伊―もしくは帰豆―を除けばツッコミ処らしいツッコミ処にさへ欠く、限りなく透明に近い物語がこれで眠りに誘はれるでもないのが我ながら不思議ではあれ、勝手気儘な外様を中心に、銘々が時代に即したピンク映画の在り様を摸索する中、プリミティブな原点に堂々と回帰してのける姿はある意味頼もしく、同等のポジションで映画を撮り続けられる人間が今や事実上小川欽也しかゐない以上、寧ろさうであつて貰はないと困る。ともいへるの、かな、あんま自信ない。とまれ、新奇な手法ないしアプローチばかりが、新しいとは必ずしも限らない。既に通り過ぎたつもりの道で、何某かを完成させたあるいは、これから凌駕してみせるといふのは大抵大概不遜な思ひ込みに過ぎず、万物はしばしば円環を成す。女の裸を、銀幕に載せる。観客の、観たいものを見せる。本義を見失つた―か最初から一瞥だに呉れない―量産型裸映画が、総数自体大した数でもない割に目か鼻につくきのふけふ。小川欽也が辿り着いた現代ピンクの案外到達点・伊豆映画のそれはそれとしてそれなりの清々しさが、穏やかに際立つ。さうは、いつてもだな。流石にこれだけお話が薄いと、七十分の尺は如何せん長からう。一本四千二百秒で撮らせないと家族が死ぬ呪ひをかけられてゐる訳でも別にあるまい、大蔵は今上御大―と希望する者―には従来通りの一時間を特例で認めては如何か。
 西森エリカは相変らず心許なく、ex.持田茜は体調不良。小野さち子は今時よくこの人連れて来たなとさへ思へなくもない、熟女枠の範疇でも更に灰汁の強いマニア専用機。実は作中最強の輝きと安定感を煌めかせるのは、二番手にして三戦目の初美りん。ハイライトは朝食を持つて来た佳代を捕まへ和生が致してゐたところ、佳代お手製の人参酒を持参し、芳子が勝手に上がり込んで来てゐる件。水を差され要は生殺しにされた格好の和生が、芳子の有責を方便に覆ひ被さるのを合図に一旦止まつてゐた、ズンドコ劇伴が再起動する何気に完璧なカットには声が出た。


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 「看護女子寮 凌された天使」(昭和62/製作:《株》フィルムキッズ/提供:にっかつ/監督:堀内靖博/脚本:加藤正人/企画:角田豊/プロデューサー:千葉好二/撮影:志賀葉一/照明:金沢正夫/編集:鈴木歓《J.K.S》/助監督:大工原正樹/色彩計測:三浦忠/監督助手:勝山茂雄・田山雅邦/撮影助手:林誠/照明助手:関野高弘/音楽:金刺勝治/スチール:田中欣一・長内昌利/現像:IMAGICA/録音:ニューメグロスタジオ/出演:瀬川智美・小林あい・小川真実・くまもと吉成・下元史朗・長谷川誉・西本健吾)。出演者中、小林あいにポスターではロマン子クラブ No.4特記。あとポスターにのみ、内藤忠司の名前も並ぶ。
 歩道橋越しの仰角で捉へた観覧車にクレジット起動、アスファルトに絵を描く幼女(クレジットなし)と、観覧車を背負ひフレームに入る主演女優。ほてほて歩くロングのタイトル・イン経て、新人看護婦のササノ由加里(瀬川)が辿り着いた先は、白百合総合病院寮「シオンの家」。自室に入り、念願叶つて戴帽した由加里が改めてナース帽を載せてみた鏡の中に、同室の君江(小林)が咥へ煙草のサングラスで映り込んで来る。そんなこんなな実務風景、飯田健治(西本)を健診した由加里のパンティを、ベッドの下に潜り込んで覗く相部屋のサイトー役で、飛び込んで来るのがまさかの内藤忠司。確認出来る資料が見当たらず、もしかすると今回が内藤忠司の俳優部初仕事となるのかも知れない、堀内靖博と何か繋がりでもあるのかな。閑話休題、病院から近いのか、白百合関係の客が無闇に多い下元史朗がマスターの店。君江らが由加里の歓迎会を開いてゐると、腹を開く手術をしてゐた割に、後の台詞では当該患者を指して複雑骨折だとか、脚本がやらかしたか内科なのか外科なのかよく判らないハンサム医師・村岡(くまもと)や、婦長的なポジションにあると思しき小川真実も来店する。君江が寮に男を連れ込み中につき、帰るに帰れず公園で黄昏てゐる由加里を、急患を手伝つた縁の村岡が拾ふ。配役残り、長谷川誉は君江の彼氏くらゐしか役らしい役も見当たらないが、何せ夜這ひを敢行するシークエンスゆゑ殊に男の面相如き闇に沈み、誰であらうと識別出来る形で首から上が抜かれはしない。
 五年後に「8マン すべての寂しい夜のために」(1992)でリム出版に引導を渡す格好となる堀内靖博の、昭和62年第一作にしてロマポ通算五作の第三作。この人日活入社でキャリアをスタートさせたサラブレッドの割に、今作と次作の二本、買取系を撮つてゐたりもする、退社した?その辺り元来専門外のよしなしはこの際さて措き、寧ろより重要なのが、小川真実デビュー作といふ何気でないトピック。
 村岡宅に直行で連れ込まれた由加里はサクサク喰はれた上、ケロッと関係を深めて行く。一方、退院したぽい健治が由加里にラブレターを渡してみたり、結局因縁の内実には欠片たりとて踏み込まないまゝ、村岡から捨てられた小川真実が、由加里に対する横槍を拗らせる。一応深夜の院内に於ける大立回り的一幕も設けられるとはいへ、看護婦と医者とex.入院患者が織り成す3.5角関係―0.5はオガマミ分―が基本娑婆で他愛なく繰り広げられる、白衣要素は案外薄い一作。アバンで幼女が描いた落書きを、特機感の清々しい土砂降りで洗ひ流す。ダサさも微笑ましいラストで一皮剝けた由加里の、いはゆる大人の階段的なプログレスを描く物語は手堅く纏まつてはゐる程度で、面子の中で西本健吾のところに開いた軟弱な穴も否み難く、特段喝采するほど面白くは別にない。反面、由加里と村岡の二戦目を、様々な趣向を尺も費やし入念に展開。ストロングスタイルの素晴らしい濡れ場は、裸映画的に確かなハイライト。たださうなると、徐々に性質の悪い加虐嗜好者の相を露呈する村岡に、若さを弾けさせる小川真実―の絡みは下元史朗が介錯する―がコッ酷く責められる。エクストリームな回想を設けておいて欲しかつた、画竜点睛レスに心を残す。

 とこ、ろで。この映画が小川真実の初陣で、ほんなら引退試合は何かといふと、愛染恭子の脱ぎ納めも兼ねた「奴隷船」(2010/監督:金田敬/福原彰=福俵満と共同脚本)。二十有余年と元号はおろか世紀をも超え、何れにも内藤忠司が紛れ込んでゐる単なる偶然にしてはな奇縁が、そこはかとなく琴線に触れる。


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