真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「黒い下着の女 雷魚」(1997/製作配給:国映株式会社・新東宝映画株式会社/監督:瀬々敬久/脚本:井土紀州・瀬々敬久/原案:瀬々敬久/企画:朝倉大介・衣川仲人/プロデューサー:福原彰/撮影:斉藤幸一/音楽:安川午朗/編集:酒井正次/助監督:坂本礼/監督助手:藤川佳三・森元修一/撮影助手:中尾正人・鏡早智/スチール:佐藤初太郎・本田あきら/録音:シネキャビン/現像:東映化学/美術協力:安宅紀史・丹治拓実/協力:上野俊哉・古澤貴子・榎本敏郎・久万真路・徳永恵実子/出演:伊藤猛・佐倉萌・鈴木卓爾・穂村柳明・のぎすみこ・外波山文明・佐野和宏・岡田智弘・佐々木和也・金田敬・吉行由実・河名麻衣・泉由紀子)。
 タイトル開巻、国映と新東宝をクレジットしておいて“昭和六十三年 春三月”。二三車線程度の幅の川で、息遣ひでその人と知れる伊藤猛が舟から網を引き魚を獲る。獲れた魚を乗せ走りだすカブのロングに劇伴起動、炎の中で雷魚が爆ぜる画に再度雷魚のみのタイトル・イン。寂れた商店に立ち寄り魚を下ろした竹原和昭(伊藤)は、雷魚一匹だけ無造作に前篭に放り込み再び走りだす。一方、病院の公衆電話から、どうやら見舞ひにも来ない亭主にほかに女が出来てゐると思しき高原紀子(佐倉)が、会ひたいだ何だと傍で聞いてゐるだけでどうしやうもなくなる文字通り居た堪れない電話をかける。片や、ゴミ捨て場で白い鳩の死骸を見つけた柳井浩幸(鈴木)は、拾ひ上げ一旦悼むかと思ひきや、結局無下に投げ捨てる。臨月の妻が入院中の柳井は会社をズル休みし、過去にテレクラで捕まへた女々に電話をかけてみる。
 配役残り佐々木和也は、出がけの柳井と会話を交す、玄関口で歯を磨いてゐた御近所。にしては、普通に話せてるのが奇異といへば変ではある。吉行由実は、紀子が病院を脱け出した直後に、病室を巡回する看護婦。魚獲りは早朝の副業らしく、竹原の本業はガソリンスタンド店員。出馬康成のピンク映画第二作「異常テク大全 変態都市」(1994)では穂村エリナ名義で主演を務めた穂村柳明と外波山文明は、愛人的な関係のスタンド事務員?・美智子と、店長の田中。岸田劉生の「麗子像」みたいな髪型の河名麻衣は、柳井のセフレのワンノブゼン・洋子。美容師で、電話が繋がつた時店には紀子が長い髪をバッサリ切りに来てゐた。泉由紀子は柳井が気紛れに立ち寄る子供服店の、攻撃的に愛想の悪い店員。金田敬は、多分柳井とは同級生のテレクラ「コスモスロード」店長。そして何気に俳優部最強の飛び道具、如何にもそれらしく見える巨躯と絶妙なバイブレーションとで空前に完成されたダウナー芝居を爆裂させるのぎすみこが、コスモスロードで電話を取つた柳井に脊髄反射でチェンジさせる節子。一回きりしか呼称されないにも関らず、何でだか、節子といふ名前さへもがしつくり来させる映画の魔術が途轍もない。佐野和宏と岡田智弘は、ラブホテル「ナポリ」での柳井惨殺事件の捜査、映画的には呆気にとられるほどアッサリ本星に辿り着く安藤刑事と坂田刑事。JR東日本成田線小見川駅にて、待合室にて何かをムシャムシャ食べてゐる紀子を、正視するお婆さんは流石に判らん。
 黒い下着の女といふとアメリカン・ニューシネマの魂を継承した斉藤信幸版元祖「黒い下着の女」(昭和57/脚本:いどあきお/主演:倉吉朝子・上野淳)だろと常々力説する上で、故福岡オークラで一度か二度観て以来、改めて見ておくかとした瀬々敬久版第三作。北沢幸雄のミリオン版(昭和60/脚本:丸山良尚/主演:杉佳代子?)なんて、今から観るなり見ることが果たして可能なのか。スタッフもキャストも大体何時ものかよく見る面子ながら、必ずしもといふか何といふか、元々ピンクとして撮られたものではないらしい。因みに今や女優部の重鎮・佐倉萌のデビュー作、ウエストの細さに軽く度肝を抜かれたのは何処だけなのかよく判らないここだけの話だ。
 荒涼としてゐる割には、気の所為か異常に湿つぽい風景。土の匂ひといふよりも泥で汚れさうなロケーションの中、加へてたとへばカウリスマキ映画の登場人物のやうに、適度に離れて傍観し合ふカラッとかサラッとした人間関係は心地よく映るものだが、さしてどころか全然交感するでもない癖に、徒に相手の懐に飛び込んでは勝手に渾身の一撃を撃ち続ける距離感の破綻した遣り取りは、見てゐてシンプルに重たい。そもそも予め明確な着地点なり結末を設けた物語でもなく、当たり前だ間抜けといはれればそれまでだが、女の裸もそれなりにあるとはいへ今作は娯楽映画ではなく、少なくともその限りに於いて、量産型娯楽映画たるピンク映画では初めからなかつたのであらう。絶望的に業の深いビリング頭二人を結びつける、結びつけてしまふのが官憲といふ作劇の妙に関しては、非常に面白く思へたが。

 日本一の長身痩躯・伊藤猛との対比でのぎすみこが幼女かと見紛ふ、鮮烈なストップ・アンド・スローモーションのラスト・ショットは、鬱屈と永遠に晴れぬ曇天を思はせる一作に、正しく土壇場中の土壇場で風を通す。


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 「純情濡らし、愛情暮らし」(2016/制作:Blue Forest Film/提供:オーピー映画/監督:竹洞哲也/脚本:当方ボーカル/撮影監督:創優和/録音:松島匡/音楽:與語一平/編集:有馬潜/整音:高島良太/助監督:小関裕次郎/撮影助手:酒村多緒・柳田純一/スチール:阿部真也/仕上げ:東映ラボ・テック/演出部応援:広瀬寛巳/制作:和田みさ・植田浩行/協力:甲斐銃介/出演:通野未帆・森星いまり・加藤ツバキ・ダーリン石川・森羅万象・山本宗介・北川和志・佐々木麻由子・和田光沙・世志男)。出演者中、北川和志から和田光沙までは本篇クレジットのみ。
 タイトル開巻、自分で握つたおにぎりを頬張る、世志男の口元。清掃員バイトの控室、手前はピコピコゲーム音を鳴らす小生意気なセイガク(北川)に、大山友(世志男)は咀嚼音を咎められる。遅れて現れた中年底辺仲間の草壁吾郎(森羅)も、何時ものガッハッハ調でカップ焼きそばをズールズル食べ始めつつ、結局二人して情けなく北川和志に手も足も出ない。そんな父親の気も知らず、友の娘の友美(通野)は、通ふ―あるいは通はせて貰ふ―塾の社長兼講師の松本幸助(ダーリン)とラブホ―恐らく後に表が抜かれるアトラス―にてセックス。通野未帆の、オッパイの質感をプリップリに捉へたカットが素晴らしい。絡み初戦の合間に、メイクの薄い加藤ツバキ見参!白杖遣ひは正直大雑把な盲(めしひ)の正田友香(加藤)は、階段を掃除する大山に丁寧に挨拶する。早朝、大山がポスティングした団地に、友美の高校は違ふ塾友達・酒田瑠璃(森星)が朝帰りで帰宅。大山が友美に用意しておいた朝食は、手がつけられてゐなかつた。いはゆる難しい年頃とはいへ子供のゐる大山を、草壁は羨ましがる。リストランの草壁は、若年性アルツハイマーを発症した妻(佐々木)の介護を抱へてゐた。
 俳優部残り佐々木麻由子と登場順を前後して和田光沙は、友美の誕生直後に交通事故死した大山亡妻。今回は前二戦―加藤義一2015年第二作「巨乳狩人 幻妖の微笑」(監督:加藤義一/脚本:筆鬼一=鎌田一利・加藤義一/主演:めぐり)と関根和美2015年第三作「桃尻娘のエッチな大冒険」(主演:青山未来)―とは異なりナーバスなメガネ造形ながら、気がつくとダニ配役のトップに立つた感もある山本宗介は、瑠璃の彼氏で医学部浪人生の野々宮進。暴力で瑠璃を支配する、ソシャゲの課金厨。ラスト近く、足下しか映らない医師なんてどうしたつて判る訳がない。
 重く静かに燃える、竹洞哲也2016年第一作。森羅万象が重低音をバクチクさせながらも、それこそ絶望的な暗さに沈む序盤には、正直匙を投げかけた。振り返ると個人的には鎮西尚一十五年ぶりとなるピンク映画第二作「熟女淫らに乱れて」(2009/脚本:尾上史高/主演:伊藤猛)辺りから持ち始めた嗜好ないしはある種の現状認識か、この手の辛気臭い話ならば、今既に目の前にあるか身を置く現し世で十二兆分間に合つてゐる。フとあれがもう七年前かと思ひ至ると、未だ己がデスらずにゐるのが不思議なくらゐだ。他人の不幸をお気の毒にと絶対安全圏から眺めてゐられる階層にない場合、小屋の暗がりに集ふ衆生に、更なるか最たる暗黒を叩きつけてどうする。他愛ない慰撫で包め、銀幕と尺一杯のオッパイで包め包め。と、時代に正面戦を挑んだつもりの、恐らくは小松公典主導の問題意識に一旦は臍を曲げかけた。ところが中盤、公園でのロングが映える大山と友香のラブ・ストーリーが、美しく大起動。何時詰んでもおかしくないオッサン―俺もさうだ、文句あるか―に目は見えないけれど若くて美人の彼女が出来る。それはそれとしてのファンタジーに、濡れ場の暗ささへさて措けば優しくも激しく癒される。何でだか知らんけど浮かれてるクソ親爺の様子に、友美が首を傾げる件が側面から微笑ましくて微笑ましくて仕方がない。演出力の確かさが何気に光る、さりげない名シークエンスではあるまいか。にも関らず、ところがところが。山本宗介が絶対的なヒールを一手に引き受ける、火に油を注いでドス黒い終盤には終に映画―と観客―に止めを刺す気かよと、呆れるのも通り越して腹を立て、るのは些か早かつた。
 森羅万象に負けじとばかりに、世志男が遮二無二突つ込んで来る見せ場を経ての、サラッと撃ち抜かれる一言の台詞「代りなんかぢやないぢやん」。竹洞哲也が飛び込んで来た!これでは要は、森羅万象は噛ませ犬かよと思へなくもない点は兎も角、圧倒的なまでの北風展開を見事に穏やかな南風吹く結末に畳み込んでみせた。城定秀夫が繰り出す超絶技法に、抗し得るのは果たして誰かが今年も主要なテーマとならう、ピンク映画2016年戦線。平川直大と里見瑤子がエモーションを賑やかに大爆発させる荒木太郎に続いて、一撃の威力で竹洞哲也が飛び込んで来た!どうする加藤義一、何してる森山茂雄と田中康文。撮了した待望の浜野佐知新作は、大復活を遂げたデジエクなのか、それとも大蔵とヨリを戻したのか。何だかんだで、この期に風雲急を告げて来た。

 竹洞哲也に話を戻すと、二部作の後篇で大化けした前作に続く近年稀に見る二連勝。次は二度あることは三度目のホップ・ステップ・ジャンプで、いよいよ何時の間にか十二年前ともなる最高傑作の更新なるか?


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 「甘い罠」(昭和38/製作:東京企画/配給:宝映/監督:若松孝二/脚本:峰三千雄/撮影:門口友也/照明:磯貝一/出演:睦五郎、香取環、五所怜子、鈴木通人、岡剛、渡辺崇、内海賢二、市川弘子、ジャック・スチュアート、竹田公彦)。脚本の峰三千雄は、少なくとも今回は若松孝二の変名。
 若松孝二(2012年没)の生誕八十年を記念して、デビュー作が公式につべで公開された。但し82分あるらしい元尺に対し、収集家から寄贈された現存するフィルムは―恐らく小屋に切られた後の―54分のみ。
 竹田公彦の目のアップで開巻、街景に劇伴が入る。続けてグラサンの睦五郎登場、雑踏の画と睦五郎を行き来しながらナレーションが起動、したかと思ひきや。早速ナレーションの途中であるにも関らず、ズッタズタ入る鋏に頭を抱へる羽目に。大意で紳士面した悪党による都会の誘惑に御用心といつた、一応結果論的にはアバンで主題を述べたナレーションを早口どころでなく八艘飛び風に駆け抜け、更なる瞬間移動感覚で鈴木通人以降のキャストと監督―だけ―クレジットが高速通過する。よつてそれ以前のビリングは適当である上に脱けがあるやも知れず、もしくは後述する懐刀と警官が各々クレジットされてゐた場合明らかに足りない筈で、そもそもタイトルさへ入らない。先が思ひやられるといふか、三分の一切つてゐるのだからそれも至極当然の話でしかない。
 気を取り直して波打ち際から逆パンすると、チューするカップル。キスすら一旦は拒んだ栗山ヨーコ(五所)は、志村吾郎(竹田)のそれ以上の求めを拒む。結婚するまではといふヨーコに対し、収入が低く安アパートを借りることもまゝならぬ吾郎は臍を曲げる。吾郎のカブにノーヘル二尻で走りだしつつ、結局二人は仲違ひ、ヨーコは一人で歩き始める。一方、白人の外人客を取つた島村カオリ(香取)を要は囲つてあるデラックスなアパート―劇中ママ―を、売春組織のボス(睦)が訪ねる。栗原良似の懐刀(源吉で鈴木通人?)に運転させ女々(一人は市川弘子)を集金して回つたボスは、車の中からヨーコに目をつけるも、その日は身持ちの堅いヨーコにフラれる。ヨーコとカオリはビージーの同僚で、カオリの羽振りのよさに憧れるヨーコは―カオリの―夜の働き先であるバー「あげいん」を覘きに行き、そこでボスと再会する。
 配役残り岡剛と渡辺崇は、一服盛られボスに監禁されたヨーコを、輪姦する子分AとB。あの内海賢二な内海賢二は、吾郎の異常に声のいい友人・田島。外人客とされるジャック・スチュアートが、カオリを抱いた白い方なのか、ヨーコを抱かうとした黒い方なのかが手も足も出ない、出番が多いのは後者。
 ストリップ小屋の表か、裸の看板が抜かれるロングならひとつなくもないものの、この時期の、未だ“ピンク映画”といふ呼称が定着してゐたのか否かも今となつては定かではない時期のピンクで、女優部の乳尻は必ずしも拝めない。今作に関しては精々下着姿でゴロゴロ転がつてゐるのが関の山で、一応最もハードといへばエクストリームな、ヨーコをボスが手篭めにする件。その一部始終ズバリを見せる代りに、ネオンだの電車だの車列だのを妄りに挿み倒して、徒にカットを割つてみせる風情は微笑ましい。これで果たして濡れ場といへるのかといつた感が強いが、昭和38年的には、これでも木戸銭を落とさせた客の下心を満たす煽情性であつたのであらうか。
 本来ならば、あるいは本当は若松孝二自身の激しい警官憎悪に裏打ちされた警官殺しの映画であるらしいのだが、現存する54分を見る限りでは、何処がどう転べば警官殺しの映画に展開するのかといふ以前に、殺すも殺さないも警官自体が出て来ない。さういふ羊頭を懸けもしない代物を捕まへてどうかういふのも如何な話かとも思へ、然れどもあくまでその限りに於いての全般的な印象としては、直截にいふとどうもかうもない。吾郎が本丸に辿り着く辺りの妙は気が利いてゐなくもないが、基本的に都度進行するシークエンスに表面上以上の意味なり意匠なりは特段見当たらず、二言で片付けると清々しいほどに面白くも何ともない、詰まらなくもないほどに何ともない。尤も、全篇を通して断片的にであれ、兎も角あるいは兎に角三分の二のみでも残つてゐるだけ、冒頭数分以外が未だに出て来ないところをみるに、どうやらかどうにもほぼ完全に消滅してしまつた可能性が高い、ピンク映画第一号とされる大御大・小林悟(1930‐2001)の、「肉体の市場」(昭和37/脚本:米谷純一・浅間虹児/主演:香取環)よりは余程マシなのかも知れないけれど。


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春画  


 「春画」(昭和58/製作配給:株式会社にっかつ/監督:西村昭五郎/脚本:西岡琢也/原作:西村望/プロデューサー:細越省吾《N・C・P》/企画:進藤貴美男/撮影:山崎善弘/照明:加藤松作/録音:福島信雅/美術:菊川芳江/編集:西村豊治/色彩計測:高瀬比呂志/選曲:伊藤晴康/監督補:伊藤秀裕/現像:東洋現像所/製作担当者:香西靖仁/主題歌《ユピテルレコード》アルバム『春画』より 唄:藍ともこ/音楽協力:ボアミュージック/出演:藍ともこ・趙方豪・信実一徳・田浦智之・斉藤林子・風吹丈・小宮紳一郎・神林浩道・坂上雅一・若原初子・美野真琴・礎道杳子・小川恵)。出演者中、風吹丈から坂上雅一までは本篇クレジットのみ。
 自宅マンションに押し入つた四人組(多分風吹丈以下四人)に、新妻の京子(藍)が輪姦される。嵐の過ぎ去つたのちに帰宅した、弁護士の夫・浅川義之(信実)は事が表沙汰になることを懼れ、なほかつ京子が要望する転居なり、離婚も拒否。お引越ししませうと京子が振り絞る哀願から、朝の雑踏にビデオ合成が滲むタイトル・イン。ルンペンの小室和夫(趙)が、ラジオ体操の歌を歌ひながら起動。行き交ふ人に金を無心して回り、相手にされない小室に、如何にも端金といはんばかりに京子が―勿論博文さんの―千円札を差し出す。小室が一ヶ月ぶりに恋人の君子(美野)の下に戻つてみると、君子は小室のボクシングの後輩・隆男(田浦)に寝取られてゐた。完全に行き場を失つた小室は、京子が入つた美容院と、タバコ屋のおばさん(若原)経由で結局浅川が京子に折れ、反対を押し切つた結婚時に親爺に買つて貰つた、マンションから越した戸建ての浅川家に辿り着く。留守かと空巣狙ひで小室が物色してゐると、大判の紙封筒に収められた春画が出て来た。
 パチンコに負けた小室は、常習なのか浅川家とは別宅に空巣に入る。配役残り礎道杳子は、腰巻を巻いてみた小室が悶えて戯れるところに帰宅、慌てた小室に腹パン一発で撲殺される和服妻。トメに相応しい決定力を滾らせる小川恵は、元顧客を手放してゐなかつた旧居のマンションに囲ふ、あちこちキナ臭い浅川の愛人・康子。整つた顔だちに映える、シャープなメタル・フレームの眼鏡が堪らない。各種資料にも黙殺される、隠れキャラ的な斉藤林子は、小室が乗り込んだ際にバッチリ抜かれる浅川法律事務所事務員。
 小室が二度目に浅川家を襲撃した最中に、浅川が帰宅。ところがその場の勢ひで京子が下宿人と言ひ包めた小室は、そのまゝ浅川家に居つく。原作短篇もさうなつてゐるのかどうかは知らないが、豪快なシークエンスが如何にも西村望らしい、西村昭五郎昭和58年第二作。顎のしやくれた主演女優はぼちぼち平成もな今の目からは心許ないばかりな反面、ブルータルな岡部尚にも見える趙方豪の野太い突破力で、ひとまづ展開の求心力を維持する。ともいへ―多分国内―チャンプまで上り詰めつつ、対戦相手を殺しドロップアウトした小室の外堀を何故か執拗に埋めきらずに放置するため、絶妙に痒いところに手が届かない感を残す。京子がラジオ体操の歌を歌ひながら、小室が愛好したいはゆるにやんこ飯もモリモリ掻き込むラストも、ヒロインが一皮剝けた風情といふよりも、単に類型的な印象が強い。


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 「制服絶叫 いんらんパニック」(1989/製作・配給:新東宝映画/監督:渡辺元嗣/脚本:平柳益実/製作:伊能竜/企画:大橋達男/撮影:稲吉雅志/照明:田端一/編集:酒井正次/助監督:笠井雅裕/監督助手:小原忠美/計測:佐藤和人/撮影助手:西庄久雄/照明助手:金子高士/スチール:津田一郎/美粧:鷹嶋青子/美術協力:佐藤敏宏/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/音楽:西田一隆 主題歌:“ピンク・ポリス・タイフーン”作詞:川上謙一郎・作曲:西田一隆・唄:荻野目翔子・山口麻美・秋本ちえみ/出演:荻野目翔子・山口麻美・秋本ちえみ・北村舞子・外波山文明・ジミー土田・沢田幻士・中谷慎一・間信博・山本竜二・池島ゆたか・橋本杏子)。
 秘密結社のアジト感覚で、地図の掲げられた暗い一室。ボルサリーノな扮装のハシキョンが、煙草を燻らせ部下の報告を受ける。手下AとBとC(特定不能な沢田幻士・中谷慎一・間信博/声は順に軽く声色を変へた外波文・山竜・池島ゆたか)が城南・城東・城北各地区の地上げの完了を報告、但し残る城西地区は、移転構想が中途で頓挫した月見署が邪魔で手をこまねいてゐた。菊の御紋を懼れもしない、女ヤクザの有田かのこ(橋本)が地図上の月見警察署にキスマークをつけると、トーストを咥へた荻野目翔子が婦警の制服を着ながら走る、いはゆる「遅れちやふーッ><」なロングにビデオ題「ピンク・ポリス・タイフーン」でタイトル・イン。クリシェもダサさにも一瞥だに呉れるでなく、ポップなイメージを一直線に叩き込んで来るナベの、多分当人は意識してゐまいダイナミズム。異動初日に遅刻した桜田未来(荻野目)が、建物は案外ちやんとしてゐる月見警察署に到着するや、男の悲鳴と銃声が。作業着のジミ土が逃げて来て、追ふ掃除婦ルックの秋本ちえみはリボルバーを振り回す。未来に署長室を尋ねられた秋本ちえみは、鋭い視線で振り向きざま署長室の札を撃ち抜き、なほ一層未来の度肝を抜く。この秋本ちえみの振り向きざまのズドンが、量産型娯楽映画のそれこそ果てしない試行の果てに紛れ当たつたか弾き出された、嘘みたいにカッコいい奇跡の名カット。署長室に入れば入つてみたで、咥へ煙草の見るからラーメン屋の出前持ちが署長の鬼俵熊八(池島)。そこにかのこが堂々と乗り込んで来た旨を伝へに飛び込んで来た婦警の倉沢ひとみ(山口)も、ウェイトレスの制服。一同安月給だけでは食へずにバイトしてゐる―熊八のバイト先は満珍軒―とかいふ寸法で、秋本ちえみはオールドミスでトリガーハッピーなこれでこの人も婦警の黒鉄操、ジミー土田は月見署のメカニック・佐々木九だつた。
 配役残り外波山文明は、実は賃貸物件である月見署の地権者・大仁好夫。作中一番いいオッパイの北村舞子は、かのこの懐刀で黒マントで平然と外を出歩く小山久美子。腕は確かな殺し屋らしいが、後に逃走する未来・ひとみ・大仁を追跡襲撃する件では、戯画的なトマホーク、トマホーク・オブ・トマホークともいふべき大斧を振り回す、だから黒マントで。御馴染の退行芝居と、恐らく誰か当代のツッパリ系アイドルの口跡を真似たと思しき山本竜二は、熊八からも平さんと一目置かれる月見署刑事・平塚松太郎。
 店子を射んと欲すればまづ大家を射よとばかりに、大仁を狙ふかのこ一派と月見署が激突する形で物語が進行する渡辺元嗣―勿論現:渡邊元嗣―1989年第二作。昨今ではすつかり常態化してゐるともいへ、AV畑のアイドルを主演に擁し、初めからビデオと連動した企画所以の―幾分―潤沢なプロダクションであつたのか、全員―橋本杏子は一人遊びに戯れるのみで絡みはしないにせよ―濡れ場のある女優部が豪華五人態勢。尤も上へ下へと終始ガチャガチャ大騒ぎしてゐる内に、それぞれジミー土田と池島ゆたかとしつかり絡む秋本ちえみと北村舞子以外の三人は、何れもノルマごなしに終つてしまつた感は否めない。とりわけ、何時まで経つても脱ぐ素振りを窺はせなかつた主演女優の温存ぶり、より直截にいへばさんざ出し惜しんだ末の、持ち腐らせぶりは結構考へもの。一見なかなかこれといつた相手役の気配すら見当たらなかつたのが、よくよく考へてみるまでもなく、初期ナベシネマにあつて、未来が結ばれるのは―周囲にさういふ名前の男がゐれば―松太郎と相場は決まつてゐる。さうはいへ、その導入はあまりにも唐突も通り過ぎて粗雑で、そもそも、拉致された大仁とひとみの捜索に未来と松太郎が向かふ。事そこに至る過程も踏まへると、いはゆるバディものの当事者二人が結ばれる展開を目したものなのかも知れないが、それにしては山竜を何時も通りのメソッドで好きに暴れさせ倒した結果、それらしき雰囲気の欠片さへ醸成されない始末。全体的な基調としては如何にもナベ的なチープで雑多な賑々しさでもありつつ、裸映画的にはビリング頭に開いた大穴に、如何せん首を縦には振り難い釈然としない一作ではある。

 最後によく判らないのが、尺がjmdbのデータでは58分とあるのに対し、今回DMMで見たオーラス主題歌が流れるバージョン―別ver.があるのかどうかも知らないが―だと十分弱長い、即ち一時間も優々跨ぐ。節穴の素人目には、58分で収めるには相当ズッタズタに切る羽目になるやうに映る。果たして、平成元年の小屋では“ピンク・ポリス・タイフーン”が聴けたのであらうかなからうか。未来が学生時代は女の子だけでロックバンドを組んでゐた、とひとみに過去を語る件は、PPTへの伏線と思へなくもないものの。


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 「さまよふアゲハ 蜜壺トロトロ」(2016/制作:ファミリーツリー/提供:オーピー映画/監督:榊英雄/脚本・助監督:三輪江一/撮影:早坂伸/照明:藤田貴路・田島慎/録音・効果・仕上げ:丹雄二/編集:清野英樹/音楽:雷鳥/ヘアメイク:木戸出香/スチール:富山龍太郎・You Ishii/撮影助手:小島悠介・日下部一也/特別協力:小沼秀剛・氏家英樹/企画協力:木原祐輔・楠智晴/仕上げ:東映ラボ・テック/美術協力:ナジャペレーネ株式会社/出演:水城りの・REN・蓮実クレア・加藤絵莉・山本宗介・阿部恍沙穂・齋賀正和・三輪江一・松浦笑美・羽柴裕吾・檜尾健太・榊英雄、他結構多数)。出演者中、榊英雄以降は本篇クレジットのみ。ロケーション協力を主に、一般映画並の情報量に惨敗する。
 全裸での古典演劇が好事家か単なる助平客の評判を呼ぶ、劇団「ネイキッドデザイア」第九回公演「ドン・キホーテ」の舞台袖。制作部の上杉京子(松浦)がやきもきするのも余所に、看板女優の虹川希来莉(加藤)と高村康太(山本)は慌しく一発キメると、前貼り担当の張本健作(三輪)にモーターレースのピット感覚で前貼りを施され、高村がドン・キホーテ、希来莉はロシナンテ役で舞台に雪崩れ込む。え、看板女優なのに駄馬?サンチョ役の根岸昭一(齋賀)とロバの西脇里美(阿部)も舞台に現れ、中出しされた精液で糊が溶けたとでもいふロジックなのか、希来莉の前貼りが危ふく剥がれさうになりながらも、公演は賑々しく大団円を迎へる。さういふものといつてしまへばそれまでなのだが、こんなら何かつていふと飲んでばかりの打ち上げの席。高村の友人・加地恭平(羽柴)に連れられ観に来てゐた、花森揚羽(水城)にネイキッドデザイアのイケメン主宰・瀬田翼(REN)は目をつける。こちらも何かと多用される、昨年末終に取り壊された上野オークラ旧館屋上で翼に口説かれた、揚羽はネイキッドデザイアに参加。主宰肝煎の新顔の登場が脊髄反射で面白くない希来莉、そんな希来莉に百合の花香らせる里美。素人の大根に手を焼く高村、俳優部に苛められ気味の鬱屈を募らせる京子、実は自身の劇団の旗揚げを画策する根岸らの思惑がドロドロと交錯し、ネイキッドデザイアはサークルクラッシュしないのが不思議な程度に不穏な空気に包まれる。
 配役残り御大将出陣の榊英雄は、揚羽を主役に据ゑた着衣の第十回公演「蝶々夫人」を前に、翼が張本を伴ひ挨拶に訪れる小屋の支配人。そこに闖入する檜尾健太は、張本が潰した劇団「ぽんぽこ商事」との因縁も滲ませる、「水玉スパンコール」主宰・濱口テツ。ネイキッドデザイアは兎も角、小劇団の劇団名がぽんぽこ商事だ水玉スパンコールだと、妙な枝葉で精度の高いセンスを発揮する。そして、「蝶々夫人」が初日の爆死後V字回復を遂げた終盤。フライヤーを手に取る形でスムーズに飛び込んで来る、荒木太郎2011年第三作「人妻OL セクハラ裏現場」から五年ぶりピンク電撃復帰のex.安達亜美こと蓮実クレアは、ネイキッドデザイアに興味を持つ遠野青空。狭い世間で濱口とは男女の仲にある形で、濡れ場も一応キチンと披露する。その他大勢はフィルムの中に刻まれた翼元カノや、濱口のファースト・カットで隣にゐる人、頭数のメインは男女潤沢な客席要員。
 一般映画やテレビドラマで普通に活躍する、榊英雄の「オナニーシスター たぎる肉壺」(主演:三田羽衣・西野翔・柴やすよ)に続くピンク映画第二戦。後篇で大化けする竹洞哲也の「恋愛図鑑 フつてフラれて、でも濡れて」と「恋人百景 フラれてフつて、また濡れて」(共に2015/四本柱:友田彩也香・樹花凜・加藤ツバキ・横山みれい)同様、昨今オーピーが好んで採用する戦略であるところの、二ヶ月弱後に「裸の劇団 いきり立つ欲望」が控へた前後篇二部作。能動的なサークルクラッシャーといふよりは、揚羽がジュスティーヌ感覚で一人センシティブを気取る翼以外のネイキッドデザイアの面々にヤラれ倒す展開は、そこだけ聞くと如何にも裸映画的とも思へ、相ッ変らず榊英雄の撮り方はお上品かつ不用意に暗い場面も多く、腰から下への訴求力は極めて低い。お前らのキンタマを空つぽにしてやるぜとでもいはんばかりの勢ひで、もう少し客を勃らせることに意欲を燃やすか、少しは試行錯誤の欠片でも見せて欲しい。張本が前貼りのデータを取るとかいふ方便で揚羽を手篭めにしかける、まるで今上御大・小川欽也ばりに底の抜けたシークエンスは、ルーチンの向かう側でコッテコテに撮るくらゐでないと、寧ろ形を成し得ないのではなからうか。甚だ中途半端な今作の有様では、一般とピンクの間でフラフラする、蝙蝠のやうな映画だなあといふ印象が強い。濡れ場はしつかりこなした上で、なほかつ劇映画としても頑丈に仕上げて来る技術は、今でもたとへば城定秀夫の中に生きてゐる。オナシス同様、全員脱ぐ豪気はとりあへず買へる女優部に関しては、後篇でブーストするのか、蓮実クレアは挨拶代りの乳見せに止(とど)まる。水城りのが本職の裸稼業にしては体がシェイプされてをらず、ソリッドな脱ぎつぷりを輝かせる加藤絵莉が、劇中世界とは対照的に主演女優を喰ふ。「いきり立つ欲望」で大逆転する可能性もしくは希望は留保した上で、暫定的に明らかとなるのは、加藤義一の薔薇族「兄貴と俺 ときめきのKiss」(2010/脚本:城定由有子/脚本協力:城定秀夫/主演:津田篤・丸山真幸)は観てゐないが、結局上野オークラ旧館で撮影して白星をあげたのは、ヒロインが軽く立ち寄る程度の「新人巨乳 はさんで三発!」(2014/監督:加藤義一/脚本:城定秀夫/主演:めぐり)を除けば、「囚はれの淫獣」(2011/主演:柚本紗希・津田篤)に於いて、孤独なキモオタが誰も知らない女優とスクリーンの中で添ひ遂げる壮絶なロマンティックを撃ち抜いた、友松直之ただ一人といふ割と死屍累々な事実。

 あ、大事でないことを忘れてた。蝶々夫人が間男を連れ込んでる最中に旦那に帰つて来られた人みたいになつてる、グダグダの極みの着付けはあれはツッコんだら負けの世界なのか?


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 「痴漢電車 舌は許して」(1994/製作・配給:大蔵映画/監督・脚本:小林悟/撮影:柳田友貴/照明:永井日出雄/編集:㈲フィルム・クラフト/助監督:国沢実/スチール:佐藤初太郎/フィルム:AGFA/音楽:TOKIO BGM/録音:シネ・キャビン/現像:東映化学《株》/出演:吉行由美・西野奈々美・藤沢美奈子・板垣有美・七重八絵《新人》・冴木直・港雄一・白都翔一・樹かず)。
 鉄橋を通過する電車にズームして車内、白都翔一が如何にも怪しげに周囲を物色して起動する、何気に開巻は痴漢電車的に完璧。河原(白都)は吉行由美に強引に接触、パンティ越しの観音様攻略戦をじつくりと見せた末に三分前、軽くフュージョン系の劇伴が鳴り始め再び走行する電車のロングにタイトル・イン。由美りんは河原の指戯に失神、適当な近場の公園で介抱されると妙なノリのよさを大発揮。早朝ソープの出勤に郊外から乗つて来たにも関らず、ちやうど降りたすぐそこにもあるとかいふマンションに、サクサク河原を連れ込む。由美りんが二ヶ所に家を持つさりげなくも強力な不自然さを、別に後々回収するでも何でもない実に大らかな大御大仕事は、判で捺すが如き配役で板垣有美がママの店で半田(港)・石井(樹)と飲む際の河原の回想。挙句に女に対しての口唇性行を嫌悪する石井と半田の会話に絡むですらなく、単に河原が勝手に想起してゐるだけといふのが奮つてゐる。小林悟の映画は、何処まで自由なのか。重ねて河原の勝手な回想は続行、七重八絵が、二度目に登場する時とでクンニを拒むのか好むのか造形が180°フレキシブルに変化する河原カノジョ。グダグダあるいは、何も考へてゐないだけともいへる。兎に角、半田の思ひつきで三馬鹿は、五万円の賞金を賭けて―半田が成功した場合は二人で二万五千円づつ―電車痴漢でのハモニカに挑戦する。
 残り配役西野奈々美は石井カノジョ、西野奈々美の絡みは迫力がある。西野奈々美と同一人物である草原すみれの関係を改めて整理しておくと、元々はAV時代からの名義である草原すみれでデビュー、初陣は「団地妻 不倫つまみ喰ひ」(1992/監督:池島ゆたか・鳥丸杏樹/脚本:五代響子/未見)。その後基本大蔵と新東宝では西野奈々美名義を併用する形で活動しつつ、確認出来てゐる範囲で、北沢幸雄1993年第三作「痴漢と覗き -社員女子寮篇-」(脚本:笠原克三/主演:上杉愛奈)ではエクセスなのに西野奈々美で出演してゐる。河原と石井個別のトライ・アンド・エラーを経て、河原は三人がかりでのジェット・ストリーム・アタックを思ひたつ。ビリングの―実際劇中の扱ひも―低さが地味にストレンジに映る冴木直は、ジェット・ストリーム・アタック一人目の犠牲者。超絶美身をどうでもいい濡れ場で空費する勿体なさがある意味気前のいい藤沢美奈子は、ジェット・ストリーム・アタック二人目の被害者。
 電車痴漢に於いて女陰を舐めることは果たして可能か、一見果敢か魅力的な風呂敷を拡げてみせたかに思はせた、小林悟1994年第六作、ピンク限定だと第四作。結局三馬鹿が展開する三位一体のフォーメーションが、三人でドア際の女の三方を封鎖した上で、内一人が身を沈めるといふ創意工夫の欠片もない解答には、困難な障壁をクリアする娯楽映画のカタルシスもへつたくれもなく、ラスト河原が単独で成し得るに至つては、座つた座席からそのまゝ前に立つ女の股間に首を伸ばすだなどと、グルッと一周したプリミティブが前衛性の領域に突入しかねない―する訳ないが―底の浅さといふか何といふか、底といふ概念自体の消失具合に、今更ながら量産型娯楽映画の極北に触れた感を強くする。


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 「昼下りの女 挑発!!」(昭和54/製作:日活株式会社/監督:斉藤信幸/脚本:桂千穂/プロデューサー:村井良雄/撮影:安藤庄平/照明:直井勝正/録音:福島信雅/美術:林隆/編集:井上治/音楽:高田信/助監督:池田敏春/色彩計測:米田実/現像:東洋現像所/製作担当者:沖野晴久/出演:八城夏子・深沢ゆみ《新人》・飛鳥裕子・関川慎二・日向明子《新人》・高橋明・堀礼文・鶴岡修・石山雄大・石太郎・草薙良一・佐藤昇・内藤均・小見山玉樹・影山英俊・梨沙ゆり・笹木ルミ・フォーキッカーズスタントチーム 山本祐三子)。出演者中、佐藤昇・小見山玉樹・影山英俊と、笹木ルミと山本祐三子は本篇クレジットのみ。各種資料にある企画の進藤貴美男が、本篇クレジットには見当たらない。
 口腔内視点の、治療中の歯科医開巻。当人いはく真夜中になると歯が痛みだすとの勝子(飛鳥)は、キュインキュインやられてゐるのに何故か恍惚の表情。勝子がチンコに手を伸ばすのにも構はず、大平(内藤)が治療を続けてゐると、停電といふ形で説明される一度目の暗転。計三度の暗転を経て、挑発される夫に助け舟を出したつもりの由希(八城)が、フーセンガムをクッチャクッチャ噛みながら登場。結婚五年、体の線が崩れるだ緩くなるだと妊娠を拒む由希に、大平が強行する形での夫婦生活。事後、何をしてゐるのか正確にはよく判らない、キレた由希がガムをチンコ辺りに捻じ込んでタイトル・イン。大雑把極まりなく譬へると曽根中生の「わたしのSEX白書 絶頂度」(昭和51/脚本:白鳥あかね/主演:三井マリア)に似た、作為は感じられるけれども作意はサッパリ判らないアバンが、好き嫌ひだけで片付けると得意ではない。
 翌朝、由希は赤のセダンで衝動的に家出。踏切にてカーセクロス中のカップル(影山英俊と梨沙ゆり)の車にオカマを掘られ、危ふく死にかけた由希は住宅街で結構なカーチェイス。梨沙ゆりがバラ撒く何やかやの食材で綺麗にフロントガラスを汚された由希は、剛次(関川)を撥ねてしまふ。柔道経験があり受け身の手を使つたといふ剛次の目的地は、遠く静岡の先。由希は若く逞しい剛次を喰ふ気マンマンで、助手席に乗せ送つて行くことに。
 配役残り小見山玉樹は、車を修理中のスタンドか何かの手洗ひで、由希を襲ふセールスマン。鶴岡修と相当な絶対美人ぶりに目を見張つた日向明子は、剛次が訪ねた相手、大学の柔道部の先輩・健と、その婚約者・早苗。前日モーテルで由希がさんざ据ゑた膳を剛次が―裸映画であるにも関らず―頑なに食はなかつたオチが、剛次と健が薔薇の花香る間柄であつたといふのも兎も角、健は車椅子生活からのリハビリ中で、試合で頭を打ち柔道を断念した剛次も、散発的に悪魔の笛を吹かれたジローの如く激しい頭痛に苦悶する。大学柔道ブルータル過ぎるだろ。当然臍を曲げた由希は、一旦剛次を捨てて行く。ところが清々しいほどに繋がつてゐない繋ぎで、再び剛次を拾つた由希はお別れの御馳走にとドライブイン「深海魚」に入る。草薙良一が、薄気味悪い深海魚店主・啓一。高橋明・堀礼文と、レッドバロンからブルドーザーに乗り換へたex.岡田洋介の石太郎は、深海魚にたむろするチンピラだの愚連隊だのといつたそれはそれとして日常性の枠内からは根本的に逸脱した、三人の気違ひ順に竜造・明夫・京介。深沢ゆみと佐藤昇は、深海魚を離脱した由希の車をヒッチハイク風味でジャックするカップル・ヨーコと宏。石山雄大は―凶悪犯罪の巣窟である―深海魚に出入りする、村の駐在・島田正吉。そして何処に出て来たのか素面でロストしかけた、隠れキャラ感を爆裂させる笹木ルミは、島田が虚ろな目で見やるブルーフィルム。チンピラに誑かされ島田と家を捨てたまではまだしもいいものの、その後男に捨てられ転落した島田の女房・カヨ。
 会場の確保が困難とやらで十年の節目で幕を閉ぢた、カナザワ映画祭で改めて滅法評判だつた、前年、「高校エマニエル 濡れた土曜日」(脚本:那須真知子・佐治乾/主演:水島美奈子)でデビューした斉藤信幸第二作。“改めて”と紋切型的に筆を滑らせてみたが、リアルタイムでは不入りであつたらしい。ある意味、それもその筈。
 異常者ばかりが住む辺鄙な土地に迷ひ込んだ余所者が、大概酷い目に遭ふ。それまでもそれなりなスメルを漂はせつつ、中盤深海魚に辿り着いて以降は、たとへばスラッシャー映画によくある地獄絵図へと急転直下、あるいは垂直落下。奪ふか殴るか犯すか殺す。鬼畜全開の三キチがトゥー・マッチに非人道的で、否、動物世界には斯程の残虐非道な出鱈目が―多分―見当たらない以上、寧ろグルッと一周した明後日だか一昨日で極めて人間的とさへいへるのか、兎に角ムチャクチャ。石太郎が駆るブルの左右に扇を開く形で高橋明と堀礼文がヒャッハーする画は、対ジョージ・ミラーの日本代表クラスの箆棒な迫力。尤も、女の乳尻を観に来たところが、繰り広げられるのは不条理な暴力の超大型台風。羊頭を懸けて狗肉を売るのは、数撃つドサクサに紛れる量産型娯楽映画の豊潤な沃土か、あるいは不毛な荒野でこそ許される芸当ともいへるのかも知れないが、それでは首を縦に振れるのかと問はれるならば。少なくとも、俺は勃たない。

 尤も尤も、真に最も恐ろしいのは箍が外れきつた深海魚パートよりも、“直ぐ帰るは”が本当に直ぐ帰つて来るラストの、何気なキナ臭さ乃至は悪意であつたりもする。


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 「やは乳太夫 月夜の恋わずらひ」(2016/製作:多呂プロ/提供:オーピー映画/監督・脚本:荒木太郎/撮影・照明:飯岡聖英/編集:酒井正次/撮影助手:矢澤直子・友利水貴/照明応援:広瀬寛巳/演出助手:林有一郎/音楽:島袋レオ・宮川透/メイク:ビューティ☆佐口/ポスター:本田あきら/制作担当:佐藤選人・小林徹哉/協力:花道ファクトリー/録音:シネキャビン/仕上げ:東映ラボテック株式会社/出演:澁谷果歩・里見瑤子・結城恋・橘秀樹・平川直大・天才ナカムラスペシャル・春風亭伝枝・那波隆史)。出演者中春風亭伝枝の、“傳”の字の略字表記は本篇クレジット・ポスターまゝ。
 まんま浄瑠璃調の狂言回しな義太夫(春風亭伝枝/ex.滝川鯉太郎)が、ベンベン三味を鳴らしながら明治時代、“I love you.”なる英文を二葉亭四迷は“貴方とならば死んでもいい”と訳し、別の作家―周知注:夏目漱石―は“月が綺麗な夜ですね”と訳したとか紹介してタイトル・イン。開巻即座に吹き荒れる、荒木調ならぬ荒木臭に大いなる危惧を覚えるのも禁じ得ないのはとりあへずさて措き、“I love you.”訳に向き合ふと漱石も兎も角、二葉亭に関してはどうやら事実ではないらしい旨が検証されてゐたりもする。
 年金暮らしの気持誉三郎(那波)が、古いピンク映画のプレスシートを貼り巡らせた自宅兼―劇中営業してゐる風にも別に見えないが―「我楽多屋」の周囲で、ビューティ☆佐口も交へた一同と三線の音に乗りよいよいと踊り明かす。いよいよ以て暗い予感が胸を過りつつも、まだ諦めるのは些か早い。ビリング中盤に、我等がナオヒーローこと平川直大が控へてゐるんだぜ。複数の男の下を死なない程度に搾り取つて渡り歩く、腹黒姫ユミ(義太夫いはくには腹黒娘だけれど、多呂プロ作成の特製チラシにも腹黒姫/結城恋)との情事の最中、誉三郎の腰がメシッと恐ろしい音とともにデストロイ、誉三郎は元気に七転八倒しながら床に臥せる。一方、誉三郎の息子・盾男(橘)も、いはゆる恋わずらひで寝込む。土手で「ムーンライト・セレナーデ」をギターで爪弾く紺屋高尾(澁谷)を、盾男は見初める。ところが高尾は順番だけで一年待ち、一晩三百万を取る高級中の高級娼婦だつた。年収二年分の高嶺の花に力なく白旗を掲げる盾男に対し、兄貴分の得呂喜一こと通称エロッキー(平川)は、二年死ぬ気で働けば高尾に会へるぢやないかと背中を押す。斯くてエロッキーに励まされ、盾男は我武者羅に働き始める。
 配役残り里見瑤子は、順調に婚期を逃す盾男の妹・唯々子。妹!?何気に豪快なキャスティングではある。ヒット・アンド・アウェイよろしく、どさくさに紛れて飛び込んで来ては即座に捌けるエロッキー母親は、背格好推定で多分淡島小鞠(a.k.a.三上紗恵子)。たんぽぽおさむのセンでジェントルマンを物静かに好演する天才ナカムラスペシャルは、高尾が抱える借金を直ぐにでも完済し得る、高尾の上客・伴潤一郎。ほかに明確に見切れるのは小林徹哉が、盾男やエロッキーが働く現場の親方。唯々子に話を戻すと、盾男と高尾の逢瀬を何かとアシストするエロッキーの真意ないしは下心が、ズバリ唯々子。多呂プロ映画御馴染のロケーション、スワンボートが並ぶ富士五湖何れかの湖畔。何故か上半身裸になつたエロッキーの、ナオヒーロー持ち前の情熱が迸る唯々子に対する求愛。自身の容姿に自信を持てない唯々子に「そんなことはない!」と雄々しく断言したエロッキーが、「思つた通り綺麗だ・・・・」と囁く時、平川直大の姿はこの星の上で最も美しい映画「キャリー」(1976/米/監督:ブライアン・デ・パルマ/主演:シシー・スペイセク)に於けるベティ・バックリーに重なり、一旦その場を立ち去るかに見せた唯々子が、フレーム外からダイナミックなジャンピング・ボディー・アタックでエロッキーに抱きついた瞬間、「ムーンライト・セレナーデ」と同じくグレン・ミラーの「イン・ザ・ムード」が賑々しく鳴り始めるカットで今作のエモーションは最高潮に爆発する。
 遠目に富士が望めてゐれば日本映画は何とかなる気がする、中川大資は木端微塵に仕損じた何の根拠もない楽観論を思はず持ち出しかける、荒木太郎2016年第一作。荒木臭の悪寒に苛まされたのは、幸にも杞憂。盾男の愚直に何故か絆された高尾が、更に二年後の満月の夜に今度は自から嫁ぎに来る。欠片たりとて中身のない物語を、外野のハイテンションと主演女優の的確な濡れ場とで一息に観させる。平川直大と里見瑤子がエモーションを爆発させる傍ら、今回奇跡的に那波隆史も空回るでなく、三番手の結城恋が地味に、佐々木基子と速水今日子を足して二で割つて若くした逸材。反面、澁谷果歩と橘秀樹には正直多くを望めない高尾と盾男のパートに際しては、春風亭伝枝は黙らせ、エッサカホイサカの最中(さなか)も盾男の存在を半ば排したわゝに揺れ躍る澁谷果歩のやは乳―のみ―を執拗に抜くカメラワークはあまりにも秀逸。当代人気AV女優の裸を、大スクリーンでお腹一杯に見せるジャスティス。一見勢ひに任せた一発勝負に見せかけて、アバンをズバッと回収してみせる、即ち義太夫が単なる余計な意匠ではなかつたことも意味するラスト・ショットはお見事。締めがキチンと締まる映画は強い、この期に及んで荒木太郎がノッてゐる風情を窺はせる快作。三百六十度全周するパンを通して、三者三様の選曲に乗つた高尾V.S.盾男戦・唯々子V.S.エロッキー戦・ユミV.S.誉三郎戦を順々に連ねるピンク映画らしい濡れ場のジェット・ストリーム・アタックも、一周で終つてしまつたのが惜しいほどのスペクタクル。


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 「女囚101 しやぶる」(昭和52/製作:日活株式会社/監督:小原宏裕/脚本:松岡清治/企画:奥村幸士/プロデューサー:海野義幸/原案:伊藤アンナ/撮影:水野尾信正/照明:小林秀之/録音:橋本文雄/美術:菊川芳江/編集:西村豊治/音楽:世田ノボル/助監督:斎藤信幸/色彩計測:青柳勝義/現像:東洋現像所/製作担当者:青木勝彦/挿入歌:『叱らないで』作詞:星野哲郎・作曲:小林二三・唄:大道一郎 ポリドール・レコード/出演:谷ナオミ・渡辺とく子・井上博一・森みどり・村田昌彦・島村謙次・あきじゅん・浜口竜哉・川越てまり・田畑義彦・飯田紅子・言問季里子・三原巴・溝口拳・佐藤了一・谷口永伍・清水国雄・高木レミ・神坂ゆずる・松風敏勝・麿のぼる・原田千枝子・坂巻祥子・加納千嘉)。出演者中、村田昌彦・川越てまり・三原巴と、谷口永伍以降は本篇クレジットのみ。逆にポスターには名前の載る村上道夫が、本篇クレジットには見当たらない、村田昌彦との混乱か?この時代のロマポでかういふことをされると、正直配役に手も足も出ない。気を取り直して、クレジットはスッ飛ばす配給に関しては事実上“提供:Xces Film”。
 深夜の女子刑務所、ズボンとズロースを下ろし、女の尻が露になる。男欲しさに発狂した女囚(ポスター掲載推定で飯田紅子?)が、看守に連行される。格子が閉められ、刑務所遠景にどギツいタイトル・イン、下からグワングワン競り上がつて来る煽情的なクレジットの間、恐らく精神病院に移送される飯田紅子?を、女囚が見やる。第一雑居房に、新入りの北条か宝条桃子(あき)が放り込まれる。仁義を切る最中の桃子に、マキ(森)が飛びかゝる。マキと桃子は、かつて娑婆でマキが亭主を桃子に寝取られた因縁にあつた。一悶着は牢名主の北山美樹(渡辺)が収め、桃子はどうやら真性のビアンぽい美樹のお気に入りに。一方、一人輪から外れ気味の桂木珠江(谷)は、チョイチョイ適宜回想する。ひらすらに男運に恵まれず、不妊手術を受け泡風呂に沈んだ珠江がやつと持つた店に、ある日ショバを荒らして〆られた若い流し・水島謙一(村田昌彦?)が転がり込み、珠江は束の間の蜜月を満喫する。草刈の最中、蛇を持ち出したミサ(言問)に桃子がヤキを入れられかけた帰りしな、珠江は桃子が謙一の持ち歌「叱らないで」を知つてゐることに驚く。聞けば謙一はのちにレコードデビューし、「叱らないで」でヒットを飛ばしたのだといふ。そもそも珠江がムショに入つた顛末は、店で歌ふ謙一のレコードの自主製作を、珠江はトルコ時代の常連客・赤間(井上)に持ちかけられる。ところが珠江が店を抵当に入れてまで作つた全財産を、シャブ中でもある赤間はケロッと溶かす。開き直つた赤間に犯されかけたところで、終に逆上した珠江が赤間を撲殺したものだつた。
 果たして、企画的にどちらが先行してゐたのか、フォーマット通りの女囚映画に前年巷間を騒がせた克美しげる事件を絡めた、小原宏裕昭和52年第二作。一見全盛期のロマポ本隊らしくそれなりに分厚いプロダクションにも見せて、冒頭のマキV.S.桃子の修羅場の最中(さなか)には窓の外をボサッと人影が横切つてみたり、濡れ場の繋ぎが結構ズッタズッタ雑であつたりと、ルーチンぶりもそこかしこで窺はせる。物語的には女を喰ひものにするか犯すか手の平を返す男しか出て来ない、クソみたいな世界観がグルッと一周して寧ろ清々しい。とりわけ酷いのが、わざわざ殺してから犯す色男には何処までゲスいのかと流石に吃驚した。ポンティアックのトランクから未だ手錠のかけられたまゝの手首が覗く無体極まりないショットが、一欠片たりとて救ひのない一篇にある意味キッチリ止めを刺す。


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