真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「‐ファイナル・スキャンダル‐ 奥様はお固いのがお好き」(昭和58/製作:《株》にっかつ、《株》ニュー・センチュリー・プロデューサーズ/配給:株式会社にっかつ/監督:小沼勝/脚本:出倉宏・金子修介/プロデューサー:岡田裕《N・C・P》・中川好久《N・C・P》/企画:成田尚哉/企画協力:第一プロ・五月事務所/撮影:森勝/照明:内田勝成/録音:福島信雅/美術:渡辺平八郎/編集:山田真司/助監督: 金子修介/選曲:佐藤富士男/出演:五月みどり・岡本かおり・朝吹ケイト・天田俊明・青空はるお・久我太郎・原田悟・雨宮克治・五社亘・都築泰治・海保一秋・小山直良・野村宇一郎・橋本勝人・蛯原稔幸・田口克也、他若干名・アッパー8・森村陽子・笑福亭鶴光《友情出演》・赤塚不二夫《友情出演》・鹿内孝)。出演者中、他若干名と赤塚不二夫は本篇クレジットのみ。配給に関しては事実上“提供:Xces Film”か。
 新宿の下町のスズヤ質屋、値上げされた家賃を払へなくなつた雨宮(ヒムセルフ)が、教科書を担保に金を借りに来る。雨宮の未経験を看て取つた女主人・鈴谷珠子(五月)は、童貞を質草に金を貸す。タイトル挿んで岡本かおり登場、静岡の兄から、お転婆娘を行儀見習でスズヤに寄こすといふ手紙を受け取つた珠子の夫・紳一郎(天田)がその危機を伝へに来たタイミングで、当の幸子(岡本)が現れる。幸子が苦手な紳一郎は、金にならない焼き物にうつゝを抜かす陶房に逃亡する。一方、質屋のほかに珠子がもうひとつ営むスズヤ学生寮。実は一人五十台であるのを鼻にかける五社(矢張りヒムセルフ)を除き、全員偏差値三十点台の久我・原田・都築・海保・小山・野村・橋本・蛯原(だから全員ヒムセルフ)の正しく動物的な姿に、幸子は「アニマルハウス・・・・」と秀逸に絶句する。更に幸子を驚かせたのは、お高くとまる五社以外の面々に珠子が日替りで身を任せる寮の夜。紳一郎に据ゑた膳も拒否られた幸子は居場所をなくし、珠子とスズヤの物件を狙ふ不動産屋・黒川(青空)に接近する。
 配役残り朝吹ケイトは、久我の彼女・今日子。三こすり半すらもたない超速の早漏に匙を投げ、久我の心を折る。鹿内孝は、珠子が土方と悶着を起こしてしまつた現場に、割つて入る男前の現場監督・津村。何時の間に距離を近めたのか独身者である津村のアパートを訪ねた珠子は、濡れ場がてらとんとん拍子に郷里に戻る津村と、BIG BOX―高田馬場―前で落ち合ふ段取りに。ラストはスズヤ学生寮出身者が集ふその名も「珠子会」、赤塚不二夫は開会の辞を務める当然ヒムセルフで、多分田口克也がそこに幸子が連れて来る彼氏のヒムセルフ。森村陽子を見付けられないのは、素直に認めるけど俺の限界。
 小沼勝昭和58年最終第四作、タイトルにこそその名の冠されぬものの、紛ふことなき五月みどりの看板映画。開巻早々、単なる初見も伴ふ認識の欠如でしかないのだが驚かされたのは、愛染恭子やイヴちやんや小林ひとみといつた女優部御大勢とは正しく役者が違ふ、五月みどり抜群の安定感。抜群といつたところで比べる相手がよくないのか悪いのかよく判らない次第で、要は世間的一般的標準的な安定感といつてしまへば、それまでの話でしかない。山本晋也ほどハチャメチャではない未亡人―でもない―下宿の騒々しい日々が、定番の地上げ危機や、深い仲になる件は割愛しつつ藪から棒な珠子と津村の駆け落ちも絡め賑々しく描かれる。割愛だ藪から棒だといつてみたが、実はこの点絶妙に覚束ない。それなりに楽しんで観てゐたので僅かたりとてまんじりともしてゐないに関らず、今回前田有楽に於いて私はツルーカス監督役で出て来るらしい笑福亭鶴光と、明確に二人組で出て来る筈なお笑ひコンビのアッパー8にお目にかゝつてゐない。特段の違和感を感じる箇所は見当たらなかつたが、どうもプリントが結構派手にスッ飛んでゐるものと思はれる。全体的な仕上がりとしては世間的一般的標準的な娯楽映画といつてしまへば、それまでの話でしかないともいへ、BIG BOX表から驚愕のカメラワークで回り込むのは流石に無理にせよ、裏手からグワーッとパンするとゴミゴミした中に突き立つた煙突。そこから今度はグッと縦移動すると自殺騒動を仕出かした久我と、久我を助けに向かふ珠子といふダイナミックなカットはロマンポルノならではのスケール感。それと珠子会のフィナーレにて、五月みどりが堂々と―撮影時没時の年齢も遠く通り越した―マリリン・モンローに扮してみせるのは豪快な御愛嬌。そこそこ以上のクオリティであることと、モンローに対して何の思ひ入れもないこともあり、個人的にはやりやがつた程度に微笑ましく眺めてゐられつつ、当時マリリン畑では五月みどりのモンロー気取りは如何に受け取られてゐたのであらうか。


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 「新妻の朝濡れ下半身」(1992『若奥様の生下着 濡れつぱなし』の1999年旧作改題版/製作:プロダクション鷹/提供:Xces Film/脚本・監督:珠瑠美/撮影:伊東英男/照明:隅田裕行/音楽:新映像音楽/美術:衣恭介/編集:井上編集室/現像:東映化学/録音:ニューメグロスタジオ/出演:秋川典子・浅間夕子・仙城かなえ・杉本まこと・野沢明宏・十辺伸)。出演者中、十辺伸がポスターには十坂伸。少し遠ざかりつつ、どうしても惜しい。それと照明の隅田裕行といふのも、当方の誤字ではない。
 日本庭園に響く嬌声、縁側から演者の顔も満足に見せることなく股間に高速ズームが寄りタイトル・イン、ある意味斬新な開巻ではある。死去した父親が先代社長の飛翔機器に勤務する宮尾正男(杉本)は、元スチュワーデスであつた過去には感動的に特に意味はない妻・佐知子(秋川)に、叔父か伯父の現社長らとの接待ゴルフに朝から御頭つきの豪勢な朝食で送り出されておいて、実際は愛人・トシコ(浅間)との逢瀬。トシコと結婚させた部下の辻野(十辺)は首尾よく関西に出張させた上で、正男はコッテリとトシコを抱いた更に上で、家に帰ると夜は夜で夫婦生活も欠かさない。正男は底の抜けた性豪であつた、底の抜けた映画の主人公に相応しいといへば相応しい。
 配役残り野沢明宏は、正男悪事の懐刀・滝田か瀧田。内緒の会社の転がし株の利鞘と、注文された媚薬と催眠薬とを届けに堂々と社内に現れる。仙城かなえは正男が見初める、新入社員の社長秘書。
 先日再見した「ど淫乱!!熟妻倶楽部 『あぁ~ン、たまンナイ…』」(1996/監督:川村真一/脚本:藤本邦郎)で見せたパキパキッとした表情作りが印象深い、秋川典子目当てで選んだ珠瑠美1992年第一作。してみたところが、若奥様が下手にお上品な造形で、加へて髪型もモッサリした秋川典子が全然パッとしないのは残念。四年といふ歳月がその分若いといふよりは、単に未完成といふ方向にしか作用してゐない。当然珠瑠美と川村真一を比較した場合の演出上の下駄の低さも看過し難く、どうも女優目当てで映画を踏んでみると上手く行かない。女優部では奔放にセックスを楽しむトシコ役の浅間夕子が最も輝き、秋川典子と微妙に被らなくもない矢張り男顔美人の仙城かなえはそこそこ以上の逸材ながら、おとなしく三番手のポジションに止(とど)まる。結局辻野とは別れ、外国人の再婚相手と日本を離れるといふトシコを、何と正男は自宅に招く。そのまま眠剤で眠らせておいた佐知子を交へた、要は主演―の筈の―女優を蔑ろにする巴戦が締めの濡れ場だなどといふのは、一体珠瑠美は自作のビリングを如何に解してゐるのかと問ひ詰めたくもならうところだ。物語といふほどの物語なんぞ端から存在しないことは今更いふまでもないとして、化物じみた性欲の持ち主である正男がただひたすらにヤッてヤッてヤリ倒すに終始する、潔いとでもしか評しやうのない一作。女房を滝田に明け渡すは薬で眠らせた叔父貴の秘書は手篭めにするはと、滝田に片棒担がせた経済犯罪以外にも悪行三昧の正男が、報ひのムの字すら受けるでなくただ一筋にヤッてヤッてヤリ倒す始終は如何にも珠瑠美らしい、流石に幾ら裸映画といへどあんまりな無造作さではあるものの、三本柱の粒は揃つてゐるだけに、割り切るなり観念して接する分にはそれなりに楽しめる、諦めないといけないのか。


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 「嫁の寝床 恥知らずな疼き」(2013/製作:多呂プロ/提供:オーピー映画/脚本・監督:荒木太郎/撮影・照明:飯岡聖英/編集:酒井正次/音楽:宮川透/助監督:金沢勇大・三上紗恵子/撮影助手:桑原正祀・矢澤直子/編集助手:鷹野朋子/ポスター:本田あきら/協力:花道プロ・スナックぷあぷあ・新風料理出世・新宿ベルク/録音:シネキャビン/現像:東映ラボ・テック/タイミング:安斎公一/出演:美泉咲《新人》・里見瑤子・姫野未来《新人》・淡島小鞠・伊達由佳里・岡田智宏・久保田泰也・佐々木基子・牧村耕次)。出演者中伊達由佳里は、本篇クレジットのみ。
 ウエディングドレス姿の主演女優に、牧村耕次が顔をよく見せるやう乞ふ。応へた美泉咲が、ニンマリと微笑んでタイトル・イン。絵本作家か、何か文筆業らしき家長・周平(牧村)、長男嫁の紀子(美泉)、呑気なパラサイト無職の次男・和夫(久保田)が表面的には朗らかに暮らす戸田家。一人陰鬱な役所勤めの長男・幸一(岡田)と紀子の不仲に、周平と和夫は気を揉む。三十年来の旧知・百合子(佐々木)に雰囲気のいい店(ぷあぷあか出世の何れかか)を紹介された周平は、その店で亡妻に似た従業員・岸田アヤ(里見)と出会ふ。
 配役残り淡島小鞠(=三上紗恵子)は、周平即ち牧村耕次が修繕してゐた屋根から落ち足を怪我したため慌てて実家に戻りまた直ぐに出て行く、周平の長女・秋子。例によつて連れてゐる子供が、短い間に凄く大きくなつてゐるのには驚いた、生命力の強い御子だ。姫野未来は和夫の、小さくて丸くて変つてゐる彼女・マミ。顔だけパンッパンなので脱ぐと痩せて見える、器用な離れ業を披露する。演劇畑からの動員らしい伊達由佳里は周平が侘びを入れに向かふ、幸一の子供を妊娠したやさぐれ女。美泉咲や姫野未来がさうであるならば、伊達由佳里も少なくとも映画的には新人ではないのか。戸田家に出入りする三河屋と、アヤが勤め、てゐた店の恰幅のいいマスターは不明。
 外堀の中に見所がなくはない、荒木太郎2013年第二作。幸一は伊達由佳里ですらなくアヤと駆け落ちし、就職より先に結婚の決まつた和夫も家を出て行く。にも関らず依然戸田家に留まる紀子に、周平は再婚しての新しい人生を促す。一絡げるところの義父と息子嫁ものにしてはよくある話でもありつつ、逐一はことごとく出し抜けで、ちぐはぐな印象ばかりが残る一作。アヤ登場後カット跨ぐと、いきなり屋根もスッ飛ばし周平が足を怪我した戸田家に、秋子が騒々しく弾丸帰省してゐる。どうしても淡島小鞠を子連れで捻じ込みたいのならば、後にスナップで回想される周平の還暦祝ひで事足りる筈で、紀子の背中を押す周平と百合子の嘘再婚話の出汁にせよ、結果的に尾を引く怪我でもない以上必ずしも不要であらう。序盤の昭和ホームドラマ風の演出は牧村耕次は兎も角、美泉咲と久保田泰也の面子でその選択ないしは戦略は無謀といふほかない。美泉咲が見せる不自然にニッコニコな笑顔は、幸一との不仲を押し隠した偽りの幸福と思へば仮面じみて悪くはないものの、後に自堕落な意味で如何にもピンク映画的な和夫との情交に際しても見せるのは、さうなると不用意。要は美泉咲の、抽斗の数の問題でしかあるまい。結果的に伊達由佳里は何しに出て来たのか判らず、演者の地力と安定感とで丸め込めなくないともいへ、幸一とアヤの絡みは薮からにもほどがある。その画自体は素晴らしい反面、森の中でフルートを練習してゐるかに見えた紀子が、電話が鳴るやサクッと家の―固定―電話に出るのも描写としては大概ストレンジ、戸田家は何処の別荘だ。唯一といふか正確には二つ映画が求心力を取り戻すのは、開巻に連なる紀子の再婚前夜。周平が過去に安住することなく、未来を切り開くことを紀子に説く件は牧村耕次の孤軍奮闘で力を帯び、締めの紀子と周平の濡れ場を、その夜の出来事ではなく一人戸田家に取り残された周平の、イマジンで処理してみせたのは荒木太郎らしからぬ賢慮。接木だらけで覚束ない幹に対し、枝葉は妙に豊かに生ひ茂る。エキセントリックな造形の百合子が、異常に浜野佐知に酷似して見えるのは可笑しくて可笑しくて仕方がない。昨今加齢に伴ひ顔が少し伸びた里見瑤子も、初めて気付いたが浜野佐知の盟友・吉行和子に微かに掠つてゐる。最もシークエンスが輝くのは、古きよき浅草の終焉を嘆く一方周平は、“最後の聖地”と称へる新宿ベルクに紀子を誘ふ。ここでウェイトレス役で飛び込んで来るのが、現代ピンク最強の美人―名女優とはいつてゐない―まさかの愛田奈々!主観風のカメラに何故か驚いた様子を見せる愛田奈々が、そゝくさと奥に入りチョコンとお辞儀する姿は超絶。そのワン・カットだけで、木戸銭の元は十三分に取れる。


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 「愛欲霊女 潮吹き淫魔」(2013/制作:セメントマッチ・光の帝国/提供:オーピー映画/監督・脚本:後藤大輔/原題:to the memory of M 『獄門島の鬼頭家の本陣の淫魔が来たりてフェラを吹く 或いは色情霊~金田田一耕助の昇天~』/プロデューサー:池島ゆたか/撮影:飯岡聖英/音楽:大場一魅/編集:酒井正次/録音効果:シネキャビン/助監督:永井卓爾/監督助手:菊嶌稔章・増田秀郎/撮影助手:宇野寛之・宮原かおり/タイミング:安斎公一/現像:東映ラボ・テック/スチール:津田一郎/淫魔デザイン:H.R.ガーギー/造形・特殊メイク:たまむし工房/衣装協力:かわさきひろゆき/協力:ナベシネマ/出演:竹本泰志・北谷静香・星野ゆず・野村貴浩・なかみつせいじ・世志男・永井卓爾・菊嶌稔章・松井理子)。出演者中、菊嶌稔章は本篇クレジットのみ。
 江戸時代の怪異譚を繙く竹本泰志のモノローグで開巻、男の肌を舐め回す奇癖が妖怪扱ひされた娘の幸福を案じタイトル・イン。旧家と来れば御存知水上荘、亀頭家のお手伝ひ・はる(松井)のスカートを障子で祝言客AとB(永井卓爾と菊嶌稔章)が固定し、それに乗じて捨吉(世志男)がパンティ越しに秘裂に手を走らせる。ここで菊嶌稔章は友松直之と勝矢(ex.勝矢秀人)を足して二で割つたやうなビジュアルで、永井卓爾は肥え方がヤバい、確かにこの人は50kg減量するべきなのかも知れない。話を戻してその日は先を越された長女・珠代(北谷)が見守る中、次女の郁代(星野)に、煎餅屋の道楽息子・甘噛佐清(野村)が婿入りする祝言。スルーしても構はないがファースト・カットから、佐清は無駄に白パックを都合二度披露。二度とも同じ箇所が剥げ残るのは、野村貴浩の額の形状の問題なのか。兎も角正真正銘の初夜、事の最中に自身の口臭を気にした佐清は歯だけ磨けばいいのに風呂に入ると中座。一人おとなしく待つ郁代を、プリミティブな特撮で上手いこと天井を這ふ淫魔が襲ふ。淫魔の床まで届く長い舌で高速クンニの洗礼を受けた郁代は、潮を噴くや色情狂に変貌。郁代を鍵穴シリーズでも御馴染の座敷牢にひとまづ幽閉、珠代とはると佐清が途方に暮れる亀頭家に、幽霊探偵と称する金田田一耕助(竹本)がセールスマン感覚の飛び込みで現れる。ある意味、画期的な名探偵登場のシークエンスではある。
 配役残りなかみつせいじは、事件の鍵を握るらしき極楽寺の万然和尚。影の軍団風の祈祷シーンと、座頭市の決めポーズを披露、当たり前の話でしかないが野村貴浩との役者の違ひを地味に見せつける。特に座頭市が意外な再現度なので、竹本金田一の次はなかみつ座頭市で如何か。え、時代劇?
 衝撃の初陣「色恋沙汰貞子の冒険 私の愛した性具たちよ…」(2010/脚本・監督:山内大輔)以来、まさかのピンク映画第二戦となる北谷静香を主演に擁した後藤大輔2013年第二作は、「痴漢探偵 ワレメのTRICK」(2004/監督・脚本:深町章/銀田一耕助:岡田智宏)以来九年ぶりの金田一耕助もの。と、沿革といへば聞こえはいいものの要は外堀ばかりを攻めてみたのは、直截なところ如何せん本丸が心許ないゆゑ。二作並べると尚更、案外全うに推理してゐなくもなかつた「ワレメのTRICK」に対し、今作はといふと金田一風味は竹本泰志のコスプレと、端々の他愛ないパロディに全く止(とど)まる。トリックらしいトリックはおろか解くだけの謎の存在自体疑はしく、短い尺の中を、要は金田田一にとつては所与の真相までサクッと一直線。一見探偵映画に思はせておいて、実はお盆戦線定番の幽霊映画。さういふ趣向は確かに洒落てはをり、クッダラないのを紙一重で爽やかに切り抜けるオチも悪くない。尤も、過ぎた筆を滑らせてのけるがかういふ仕事は渡邊元嗣や、その師匠の深町章に許されるもので後藤大輔には些か早い、未ださういふ格でないのではなからうか。観客を酔はせる魅力的な物語なり意表を突く斬新な構成なり、かつて小屋を揺るがせた重厚な本格なり。後藤大輔にまだまだギラッギラ刺激的でゐて呉れることを求めるならば、物足りないとまでいふのは当たらないにせよ、大いにピンと来ない一作ではある。

 水上荘映画の伝統的には、永井卓爾と菊嶌稔章のポジションは神戸顕一と広瀬寛巳―か高田宝重―の役か。水上荘公式のドメインが切れて久しいことが気懸りな今、ピンク自体も兎も角一体何時まであと何本、水上荘で撮影された映画を観られるのか。


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 「浴衣未亡人‐乱れ肌‐」(1998/製作:フィルム・ハウス/提供:Xces Film/脚本・監督:伊藤正治/企画:稲山悌二《エクセスフィルム》/プロデューサー:伍代俊介/撮影:佐藤文男/照明:小野弘文/助監督:加藤義一/製作担当:真弓学/撮影助手:西村友宏/照明助手:奥村誠/監督助手:竹洞哲也/ヘアメイク:住吉美加子/スチール:加藤彰/編集:金子尚樹《フィルムクラフト》/現像:東映化学/録音:シネキャビン/効果:東京スクリーンサービス/挿入歌:JAFRICAN POP BAND コンワンバー『Ppu!』/出演:つかもと友希・山本清彦・吉行由実・葉月螢・吉田祐健・田原政人)。
 よくよく考へてみると不自然なシークエンスではありつつ、美容院の店内にて浴衣の主演女優が自慰に乱れる。鬼のやうにエロいゆゑ、細かいことは気にするな。開巻で公開題を完遂した天晴は兎も角、遺影スナップの―俳優部には見えない―亡夫役は不明。先にクレジットが流れ、達するのを待ちタイトル・イン。美容院「ローズガーデン」の表に添へられた勿忘草の小さな花束を、茅野涼子(つかもと)が亡夫と一緒に撮影したスナップに手向ける。開店前の店には涼子の友人で、ここも不用意な意匠でしかないのだが、ストーカー男―結局その後一切登場しないどころか触れられさへしない―から逃れた苗字不詳のユキ(吉行)が居た。一方ユキが一人でカウンターに入るバー、ユキと常連客の茂木淳(山本)は、世間話の流れで厳しいらしいローズガーデンの経営状態に触れる。すると即座に茂木が「さうだ浴衣だよ」とローズガーデンでの浴衣教室を発案、ユキの店に多い涼子のファンを動員すれば人は集まると盛り上がる。山本清彦と吉行由実は素頓狂な会話を一見スムーズに回す大健闘をしてのけるともいへ・・・・あのさ、といふかてかさ、

 さうだぢやねえよ。

 是が非ともつかもと友希に浴衣を着せたい気持ちは判るが、傾いた美容院を建て直すのに脊髄反射で浴衣教室。どんな世界観だ、突拍子もないにもほどがある。土台が、出発点の美容院が余計だつたのでは?仕方がないので話を進めると、浴衣教室に汐見隆之(田原)を呼ばうと言ひ出した茂木を、涼子が汐見に少し気があることと、茂木が涼子を好きなこととを知るユキは窘める。
 主演者残り茂木を追ひ出す格好でユキの店に現れる吉田祐健は、ユキの別れた夫・井関悦史。婚姻状態には既にない反面、未だ男女の仲にはある。ユキはユキで、実は茂木のことが好きなのを見抜く。案の定涼子と汐見がくつゝき失意の茂木は、女とホテル街に消える汐見を目撃。葉月螢は、汐見と別れることを拒否する元カノ以前今カノ未満・小谷梢。業の深さを感じさせるキャラクターを活かした的確な配役であると同時に、ここが吉行由実であつても矢張り問題ない。あと建築会社に勤務する茂木の、現場に見切れる計三名も不明、画面が小さいのと抜かれるでもないゆゑ多分だが、演出部ではない。
 象牙の塔に出入りする今、言ひ切つたとて語弊あるまい伊藤正治ピンク映画最終第六作にして、つかもと友希的には初陣。浴衣を着たつかもと友希といふと何はともあれ二年後の第三作「ノーパン浴衣妻 太股の肉づき」(監督:下元哲/脚本:金田敬)が想起されるが、結論を急ぐと「ノーパン浴衣妻」を覚えてゐればそれで事足りる。俄に距離を近づける涼子と汐見に対し、失恋に胸を痛める茂木と、更にそんな茂木の姿にやきもきするユキ。外延から井関と梢をも巧みに回収するメインの四角関係は、ひとまづ物語の軸として綺麗に成立する。汐見も涼子に気があることを確認した茂木は、浴衣教室を嘘急用で欠席、その夜涼子と汐見はまんまと結ばれる。トボトボ夜道を行くやまきよの泣けるカットに続いての涼子と汐見の濡れ場は、濡れ場なのに感情移入した茂木を慮り腹立たしい気持ちにさせられる、裸映画を劇映画が捻じ伏せた屈折した名場面。丘尚輝(a.k.a.岡輝男)が自脚本作で役得にしか見えない絡みにうつゝを抜かすのとは訳が違ふ、展開力の勝利が輝く。但し、既に幾つか触れた大雑把な作劇に加へ最大の致命傷は、不器用な三枚目ポジションの茂木がヒロインを譲る、本来ならば二枚目でなくてはならない筈の色男が、何の因果か福笑ひフェイスといふまさかのミスキャスト。「Ppu!」のトラック起動で幕を開く、ユキの店での浴衣パーティーの最中に、刃物を持つた梢が飛び込んで来る。本来ならば緊迫した修羅場となる筈の一幕が、田原政人の面の間の抜け具合に逆の意味で劇的に弛緩するのは木端微塵の迷場面。話を戻して茂木の尾行も知らずの、汐見と梢の逢瀬。梢が求める唇を汐見が拒むのは酌めるものの、その直前に思ひきりシックスナインはベロンベロン舐め倒してゐやがつたのは大概如何なものか。そもそも、祐健に任せた吉行由実と、一旦纏まりかけた関係性を動揺させる要因としての、葉月螢の見事な起用法。二番手・三番手の裸の見せ方は全く問題ない、寧ろ三番手に関しては地味に完璧とすらいへよう。反面、つかもと友希の絡みが数欲しい要請は至極当然のものにせよ、如何せん涼子がたて続けに汐見と茂木にホイホイ股を開いてゐては、単なる男日照りの尻軽女なのでは、だなどと悪し様な人物像も禁じ得ない。浴衣を着たつかもと友希といふと「ノーパン浴衣妻」を覚えてゐればそれで事足りると述べたのはさういつた意味で、あちこち粗い一作である。これまで第五作「嫁の告白 凄い!義父さんの指使ひ」(1998/主演:佐久間百合子)の非常にいい印象が伊藤正治には残つてゐたものだが、改めて全六作の残り三作に連続して目を通してみたところ、何だかそんなでもないみたい。繊細にして端整な心情描写、レーベル・イメージからはある意味遠いその領域でのエクセス最強は、となると中村和愛のやうだ。


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 「喪服の人妻 ‐白い長襦袢‐」(1991『喪服妻の生下着 突つ込む』の1997年旧作改題版/製作:プロダクション鷹/提供:Xces Film/脚本・監督:珠瑠美/撮影:伊東英男/照明:墨田浩行/音楽:新映像音楽/美術:衣恭介/編集:西脇尚人《井上編集室》/出演:浅間夕子・広瀬未希・朝比奈樹里・野澤明宏・清水義人・大島徹・中満誠治・村田ゆり子)。
 黒いブーケと脱ぎ乱れた喪服を抜いてチャッチャとタイトル・イン、浅間夕子と朝比奈樹里の濡れ場に乗せてクレジットが走る。クレジットされないことが間々あるけれど、その場合珠組には助監督居ないのか?
 亡夫―後に見切れるそこそこ爽やかイケメンな遺影の主は不明―の四十九日を終へ、田舎から唯一出席しこれから友達と会ふといふ義妹の雅子(広瀬)と別れた新村優子(浅間)に、高校と大学の同級生・吉川弓子(朝比奈)が合流、二人で喪服のまま飲みに行く。かつては百合の花を咲かせた間柄にある優子と弓子が仲良くボックス席で飲んでゐると、カウンターに弓子と仕事上の、因縁に近い付き合ひのあるらしき野澤明宏(役名不詳につき以後OZAWAにNを足してNOZAWA)が現れ、優子は二人の様子に軽くやきもきする。NOZAWAを子飼ひのスケコマシに、実は女だけでなく男も派遣するデートクラブを経営してゐる癖に下宿感覚―物件的には桃色アパート―の自宅に弓子が優子を招き、改めて旧交をマキシマムに加熱するところに、野獣NOZAWA大乱入。正体不明のギミックでしかないが内側から開けられない鍵をかけ、弓子と優子を順々に手篭めにする。優子に対し念仏唱へるより成仏させてやるぜ、野澤明宏のカッチョいいワイルド・ビートが、今作数少ないどころか唯一の見せ場。
 元々職場結婚し寿退社した会社に、優子は再“お勤め”―劇中無闇に連呼される用語より―することに。配役残り清水義人は、優子に求婚しフラれたこともある同僚・辻野で、大島徹が見るからな助平課長。三股かけた末に妊娠した雅子が、家出し優子一人の新村家に転がり込んで来る。村田ゆり子は堕胎に訪れた産婦人科医院の看護婦で、中満誠治がそんな状況にも関らず雅子が性懲りもなく見初めるハンサム産婦人科医。
 本公開から何と二十三年、地元駅前ロマンにて合見えた珠瑠美1997新版。確かプリントは残つてゐない筈なので、かういつた機会に恵まれるのも、プロジェク太上映館ならではの―両義的に―それはそれとしてのラックと尊ぶべきなのであらうか。闇雲に勿体ぶつた―割に中身は全くない―台詞回しと、辻野が過去に処女の優子をレイプしてゐた。だなどと無造作な薮蛇さを除けば、今回珠臭さは非常に薄い。物語らしい物語は存在しない中、絡みに次ぐ絡み、適当な相手が見当たらなければオナニーさせればいい。始終は女の裸を銀幕に載せることに一筋に奉仕する、それなりに健気な裸映画ではある、二番手の面相が非常に残念でもあるのだが。NOZAWAにチョロ負かされ課長を客に取らされた雅子が、中満医師と寝る為にNOZAWAを逆に利用する展開は珠瑠美にしては驚異的な妙手。弓子宅乱入時に撮影された印画紙写真と録音された音声テープ―この辺りに時代が感じられる―を出汁に、優子も課長を客に取らされる。雅子は望み通りに中満医師と、他方弓子はNOZAWAと何だかんだな腐れ縁。三本柱それぞれの濡れ場がトリプルクロスするフィニッシュは、珠瑠美らしからぬ定石中の定石、面白いとは一言もいつてゐない。

 “辻野が過去に処女の優子をレイプしてゐた”と先に触れたが、因みにこの時優子は男性経験は確かにないものの、女性経験は弓子と開花済み。それでも一応処女といへるのかな?(´・ω・`)


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 「妻の妹 あぶない挑発」(2013/製作:加藤映像工房/提供:オーピー映画/監督:加藤義一/脚本:鎌田一利/撮影監督:創優和/編集:有馬潜/録音:シネキャビン/助監督:小山悟/撮影助手:酒村多緒・前野周平/監督助手:秋元一心/音響効果:山田案山子/スチール:本田あきら/現像:東映ラボ・テック/音楽:OK企画/協力:小野一磨・小鷹裕/出演:あずみ恋・里見瑤子・TOWA・岡田智宏・久保田泰也・荒木太郎《写真》・なかみつせいじ・川瀬陽太/インターミッショナー:ハウゼントくん)。出演者中荒木太郎と、ハウゼントくんは本篇クレジットのみ。それとインターミッショナーの正確な位置は、なかみつせいじの前。
 ポール・モーリアばりのムーディーな劇伴に乗せて、男の個別的具体性は排した里見瑤子の濡れ場で開巻、口唇愛撫に喜悦する姿を抜いてタイトル・イン。夫婦生活の事後、田宮徳男(川瀬)が元職が看護婦の妻・町子(里見)に白衣を着ての二開戦を要求し断られるところに、町子の地元の同級生・キョウコ(受話器越しの声も聞かせず)から電話が入る。進路相談に町子が世話になつた、恩師の三隅先生が亡くなつたといふのだ。といふ次第で翌日、反対された結婚以来帰つてゐない実家に、町子は五年ぶりで帰省する。無職か自営業にしか見えないビジュアルは兎も角、その日は勤めが休みの徳男がアルバムを開き、町子の妹・文子(あずみ)のセーラ服写真に他愛ない下心妄想を膨らませてゐると、当の文子が突然来宅、徳男は驚喜する。
 配役残り完璧な写真写りの荒木太郎が、三隅先生の遺影。岡田智宏は三隅の息子、兼町子元カレの稔。一度だけ焼けぼつくひに火を点ける件、あれよあれよしながら町子がまづ三隅先生の遺影を伏せ、続いてシーン頭では不自然に少し開いてゐた障子を、伸ばした足で閉めるのがいはゆるOKサインといふのは実に的確な論理性。とはいへ、二人が恋を炎に譬へて云々かんぬん捏ね繰り回す能書は、木に竹すら接ぎ損なふ。遊びの少ない役柄が勿体ないなかみつせいじは、町子の厳格な父親・竜胆寺雄。ウルトラ適当な造語が清々しいインターミッショナーのハウゼントくんは、まづインターミッショナーを最も判り易く説明するとハクション大魔王に於けるそれからおじさん。改めてハウゼントくんは、「それからそれからどうしたでやんす」が決め台詞の針金―で操作する―ガエル。今作撮影前後に死去した、特撮映画の巨匠レイ・ハリーハウゼンから名前を取つたことは疑ひあるまい。といふか、ハリーハウゼンてハリー・ハウゼンではなかつたのね(´・ω・`)
 TOWAは彼氏と喧嘩したとやらで文子を頼り田宮家の敷居を跨ぐ、文子の友人・叶美樹、徳男のヘブンを現し世レベルでも加速する。久保田泰也が美樹の彼氏、80年台の残滓を漂はせるパンクス・ドラマーの本郷潤。
 加藤組と小川組で地味にキャリアを積み重ねるあずみ恋にとつて最後の主演作となるのか、加藤義一2013年第三作。妻が一時的に実家に帰り旦那一人きりの家に、妻と入れ違ひに妻の妹が転がり込んで来る。妻の妹のピチピチした色香に、旦那は鼻の下を伸ばす。公開題が素直に白状、もといカミングアウトしてゐる通りに、まあ師匠―なのか?―の「妻の妹 いけない欲情」(2003/監督:小川欽也/脚本:水谷一二三《=小川欽也》/助監督:加藤義一/監督助手:竹洞哲也/主演:三上翔子)と、更にそれに遡る「若妻 敏感な茂み」(2002/脚本:池袋高介/主演:山咲小春)を足して二で割つたやうなお話である、ついでといつては何だがなかみつせいじは皆勤賞だ。加へて、時折町子と徳男―文子も少しだけ代る―が電話で遣り取りするほかは、あずみ恋と里見瑤子が同一フレーム内で竜虎相討つこともなく。面子的にもしつとりした実家パートと、スチャラカな田宮家パートとがちぐはぐに進行する今作が、「いけない欲情」よりも劇映画としてなほ薄いといふのはある意味凄い。加藤義一がデビュー僅か十一年にして小川欽也に劣るとも勝らない裸映画に到達した、となると何気に衝撃的なトピックなのでは。そのことの是非はさて措き、挽回するタイミングは、実は確かにあつたやうに思へる。念願叶ひアイドルグループ・PKG1107―PKGが何の略なのか判らん、1107は“いい女”?―への加入が決まつた文子は、徳男にセクシー看護婦のコスを披露。その瞬間、さう来たか!と私は小屋の暗がりの中膝を打つた。開巻で投げた、徳男の看護婦属性の華麗なる回収。文子が東京の田宮家を訪ねて来る事情が必要ともいへ、飛び道具的なPKG1107方便の補完。結局、里見瑤子の濡れ場で幕を開き里見瑤子の濡れ場で幕を閉ぢる。その抜群の安定感も勿論酌めなくはないものの、如何せん文字通り役者が違ふ里見瑤子に対して大きく分が悪いあずみ恋のビリング補正あるいは救済をも考へると、純然たる素人考へでしかないが看護婦コスに点火された徳男の、イマジン通算四戦目を締めの濡れ場に持つて来る選択も、あつたのではなからうか。


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 「美熟女 好きもの色情狂」(2013/製作:Blue Forest Film/提供:オーピー映画/監督:竹洞哲也/脚本:小松公典/撮影監督:創優和/編集:有馬潜/録音:シネキャビン/助監督:奥村裕介/音楽:與語一平/監督助手:笹原聡/撮影助手:酒村多緒/スチール:阿部真也/現像:東映ラボ・テック/出演:結城みさ・酒井あずさ・菅野いちは・倖田李梨・津田篤・岡田智宏・毘舎利敬・岩谷健司・石川雄也)。出演者中、津田篤は本篇クレジットのみ。
 タイトル開巻、適宜妄想も織り込みつつ大胆に移動する時制をザックリ整理すると、短大卒事務職の早乙女千香(結城)は不倫相手の岡本健一もとい岡本健司(もしかして本当は健二?/岡田智宏)に、岡本の離婚を前提としての結婚までは一切の肉体関係を拒んでゐた。とはいへそれは、最終的に割れる底を考へると不用意に思へなくもない派手な猫かぶり。実際の千香は毎日定時に退けるや金髪ウィッグを装着した上で、奔放な男漁りに勤しんでゐた。といふことは逆に、岡本と会ふ日は休肝日ならぬ休マン日となる寸法。粉微塵に爆裂すればいいのにな、俺。閑話休題けふもけふとて、千香が成田昭次と音は変らないのに字面は全く別の名前に見える鳴田勝治(岩谷)に跨るところに、岡本から電話が入る。慌てて家に戻つた千香がホテルに忘れて来てしまつた財布を、鳴田がノコノコ届けに来宅。OLの制服を着てのセクシー写真を撮らせろ撮らせないで揉めてゐる内に、後頭部を強打した鳴田は何と御臨終。頭を抱へた千香に助けを求められた友人の、こちらは判りにくい旧メンバーから遠藤直人改め遠藤直美(酒井)はてんで緊迫感を欠いた末に、パート先同僚の祖父にしてマーとかウーしか言葉を発しない、前田耕陽からど真ん中を驀進する前田陽光(毘舎利)を招聘、火に油を注ぐ。ここで、改めて振り返ると酒井あずさは加藤義一の監督デビュー十周年記念作「どスケベ検査 ナース爆乳責め」(2012/脚本:小松公典/主演:あずみ恋)のカメオ以来、三本柱だと目下2010年代最強の最高傑作「あぶない美乳 悩殺ヒッチハイク」(2011/監督:森山茂雄/脚本:佐野和宏/主演:みづなれい)以来。個人的には意外、何時の間にやらえらく御無沙汰だつたんだな。それと、若作りながら岡田智宏は流石に、少々体が緩んで来た。
 配役残り菅野いちはと石川雄也は、空家の筈と千香が高を括る隣室に、越して来てた訳アリらしいカップル。こちらも旧メンバーから土田一徳ならぬ槌田徳子と、一方こちらは近さうで印象的には何となく遠い高橋一也ならぬ橋一成。とかいふ次第で、千香以外の主要登場人物は、何故だかこの期に及んで男闘呼組の各人を捩つた名前がつけられてゐる、胸に愛を刻むぜ。倖田李梨と津田篤は、直美が見たがるメロドラマの出演者と、陽光爺さんが見たがるエクササイズ番組の出演者。勿論後者の場合倖田李梨がインストラクターで、エクサ番組には小松公典も参戦。画面の奥のテレビ画面の中で、無駄に頓珍漢に見切れてる小松公典は凄え面白い。
 上野封切り三ヶ月と経たず九州着弾した第一作「野外プレイ 覗きの濡れ場」(主演:吉瀬リナ)に対し、随分間が空いた―先々月先に小倉に来てはゐる―三ヶ月後の竹洞哲也2013年第二作。倖田李梨と津田篤のメロドラマ―それも僅か数カットだ―を除けばカメラがベランダから屋外に出ない、ラブホや隣家に寄り道しなくもないものの、概ね千香の居室を舞台に進行するブラックなシチュエーション・コメディ。一つでも大概厄介な死体が、濡れ場が開けた途端いきなり三つに増える展開は確かにサプライズが輝いた。そこから揃ひのアイ♡ロンT込みで、三番手の絡みを片付ける流れも秀逸。とはいへ主に徳子に下駄を任せた、ただでさへ短い尺も顧みず長々と玄関口にてああだかうだする攻防戦でみるみる低速。結局例によつて枝葉ばかりを繁らせた挙句、星に願ひを真面目にかけすらせず捨てて、全てを丸投げして済ます結末には呆然とした。どうやら確信犯的に採用した姿勢らしいが、何れにせよ当方怠惰な観客につき、そのやうな魚を途中までしか捌かずに、あとはシャリの仕込み含め手前で握れといふが如き代物は頂けない。拡げた風呂敷を如何に畳むかに関する論理と技術をこそ、量産型娯楽映画に於いて最も肝要な幹の部分と尊ぶ立場である。ただ一点、といふか正確には二点。前田有楽劇場―大改善を果たした小倉名画座にせよ―の音響は断じて悪くないにも関らず、ドッキリとアルミホイルの件が、台詞がガチャついてよく判らなかつた。神を宿し損ねた細部で勝負する類の一篇を観るに際しては、些か心を残さぬでもない。


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 「鉄格子の女 私を苛めないで」(1995『女囚・毛剃り私刑』の2013年旧作改題版/企画・製作:フィルムハウス/提供:Xces Film/脚本・監督:伊藤正治/プロデューサー:伍代俊介/撮影:三浦忠/照明:多摩三郎/編集:酒井正次/製作担当:真弓学/音楽:糸井良喜/効果:協立音響/助監督:藤川佳三・加藤義一/撮影助手:片山浩/照明助手:守利賢一/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東映化学/出演:吉川由貴・吉行由美・本城未織・大場政則・真央元・久須美欽一)。どうも多摩三郎は、共有名義でなければ白石宏明の変名らしい。
 タイトル開巻、女看守(本城未織/a.k.a.林田ちなみ)が孤立した独房の前に差しかゝると、女囚の濱田容里枝(吉川)は既に乳も放り出し激しい自慰の真最中。果てるや今度は夫・悟(大場)との夫婦生活の回想、実に勤勉な濡れ場の連打である。それは兎も角、こゝで、唯一のささやかな成果として大場政則はイコール田原政人(恐らく田原政人が改名後)、福笑ひみたいな面して判りにくいことしやがる。悟に会つて来た女看守は、容里枝がハメられた旨報告。約束の百合の花を咲かせがてら、容里枝は再び長い回想に入る。見知らぬ顔でもない男(となると真弓学か?)からティッシュを受け取つた容里枝が、何となくテレクラに電話をかけ直ぐに切つた絶妙なタイミングで、高校時代のバレー部の先輩・上条冴子(吉行)と五年ぶりに再会する。容里枝の欲求不満を見抜いた冴子は、魔女の微笑を浮かべホテルに誘(いざな)ふ。かといつてこの人も同性愛者といふ訳ではなく、自身が結婚詐欺師であるとサクッと告白した上で、冴子はカモの立川(久須美)との情事を容里枝に覗かせる。容里枝が先輩のいふことなら何でもホイホイ聞く中、濱田家に入り込んだ冴子は悟とも距離を近め、交通事故で入院中の姉がゐる、といふ設定で容里枝には真央元を紹介する。
 キャリアの最初はにっかつ入社といふと、エクセス生え抜きとして工藤雅典のポジションに納まつて、ゐた可能性も考へられなくはない伊藤正治のピンク映画第一作。教職で飯を喰ふ人生と、どちらが恵まれてゐるのかは個々の希望ないし資質もあり、当サイトには判らない。今回は大人しく最初からヒロインが鉄格子の中に鎮座するのもあり、容里枝が臭い飯を喰ふに至るぞんざいな経緯が額面通りの毛剃り私刑込み込みで、相変らずサディストの女刑務官が娑婆まで及ぶ妙な権力を保持する奇怪な世界観に於いて、於いてはひとまづ滞りなく進行する。主演の篠原三姉妹の三女こと吉川由貴はトランジスタグラマーが被虐的なシークエンスに映える反面、首から上は端的に覚束ない。何はともあれ屋台骨が弱く、派手なツッコミ処をも欠いた物語自体に特筆すべき点は見当たらない以上、良くも悪くも水のやうな裸映画である。マイナスよりもゼロの方が、絶対値は小さい。伊藤正治といふともう少し端整な映画を撮る印象を持つてゐたものだが、流石に未完成であつたといふ塩梅か。


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