真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「をさな妻」(昭和55/製作・配給:株式会社にっかつ/監督:白鳥信一/脚本:鹿水晶子/プロデューサー:中川好久/撮影:山崎敏郎/照明:小林秀之/録音:福島信雅/美術:菊川芳江/編集:山田真司/助監督:川崎善広/色彩計測:森島章雄/現像:東洋現像所/製作担当:鶴英次/テレビ画像協力:東京12チャンネル/音楽:大野雄二/挿入歌:『愛の妖精』作詞:荒木とよひさ 作曲編曲:大野雄二 唄:原悦子 『ひとり暮し』作詞作曲:石黒ケイ 編曲:鈴木宏昌 唄:石黒ケイ⦅ビクター・レコード⦆/出演:原悦子・吉行和子⦅特別出演⦆・山本伸吾・矢崎滋・三崎奈美・桑山正一・浜口竜哉・島村謙次・絵沢萠子・清水石あけみ・大平忠行・玉井謙介・小見山玉樹・八木景子・鹿又裕司・岡本達哉・水木京一・庄司三郎・浅見小四郎・賀川修嗣・兼松政義・緑川摂・野崎巳代・中嶋朋子・深町真樹子)。出演者中、水木京一と庄司三郎に、賀川修嗣以降は本篇クレジットのみ。配給に関しては、事実上“提供:Xces Film”。
 湯の沸いた薬缶が鳴り、年齢が明示されないのは兎も角、あるいは兎に角“をさな妻”の原田悦子(原悦子/公称的には封切り当時二十四)が、未だ布団の中でぐずぐずしてゐる夫の則夫(山本)を起こす。この二人、悦子は中学時代の先輩と結婚した間柄。自堕落に求めて来る則夫に対し、「今夜頑張るから」と悦子が健気に拒んでタイトル・イン。二人が暮らす、風呂なし手洗は共同の安アパート「芙蓉荘」。向かひの部屋に住むホステス・東美智(吉行)の顔見せ挿んで、共働きの二人が仲良く出勤。踏切を通過する、電車の車体にクレジット起動、悦子が勤務先の「西原郵便局」に辿り着くまでがタイトルバック。新任の事務長・田村(浜口)以下、滝沢ゆり子(三崎)と大沢(賀川)が劇中登場する悦子の同僚で、局には深夜ラジオ狂で日々大量の葉書を送り散らかす、高二の西島政人(鹿又)が通ひ詰める。一方、出勤した筈といふか要はフリの則夫は、茶店で元同僚の谷口(岡本)と密会。興信所「町田コンサルタント」に勤めて、ゐた則夫は顧客を恐喝したお痛で実は馘になつてゐた。谷口から隠し妻子の写真を入手、浅見小四郎に再度恐喝を試みる性懲りもない則夫に、町コンの強面・江崎か畑中(小見山)が目を光らせる。さあて、皆様御唱和お願ひ致します、コミタマキタ━━━(゚∀゚)━━━!!
 配役残り、桑山正一は悦子を頻繁に訪ねて来る義父・山田連太郎。絵沢萠子が―男を作り出奔した―実母のせきで、中嶋朋子は幼少期の回想に於ける子役。筋者すれすれの稼業から足を洗ふ腹を固めた谷口の、お腹の中に子供もゐる女は恐らく春江役とされる八木景子。江崎か畑中を連れ則夫と谷口を急襲する、大平忠行が兄貴分の畑中か江崎。誰も呼称して呉れぬゆゑ、この二人の名前を詰めきれない。矢崎滋は、美智のヒモ・島元。ほかにこれといつた人影の見当たらない兼松政義は、窓口でうはの空の悦子を急かす影英似のパーマ頭か、後述する「パコパコ」の無駄に美青年のボーイ辺り。ヤサに押しかけた大平忠行が悦子を犯す際鳴つてゐる、事前に政人クンから聞くやう乞はれてもゐた文化放送のDJが、吉田照美らしいけれど個人的には確認能はず。町コンが浅見小四郎に支払つた―とする―示談金・百万の返済を強ひられた悦子は、郵便局を辞め美智が働くキャバレー「パコパコ」に転職、ピンサロみたいな屋号だ。清水石あけみは先輩ホステスのアケミで島村謙次が、元々アケミの客であつた上客・湯山陽一郎、女達からの愛称はゆーさん。緑川摂と野崎巳代はその他ホステス、多分。水木京一と庄司三郎が、二人連れのパコ客で飛び込んで来る、さりげなく芳醇なカットが今作のハイライト、頂点そこかよ。玉井謙介は、町コン社長の町田。則夫がコミタマに文字通りの手傷を負はせ、何だかんだ二百万まで膨らんだ借金を、悦子は寝るのを条件に湯山から借り返済。町コンから救出した則夫と悦子が出くはす、子連れ夫婦のこれ見よがしに幸せさうな三人と後々登場する、島元の浮気相手はノンクレだと思ふ。最後にパチンコ屋で放心状態の悦子に、「お姉ちやん玉なくなつてるよ」とフランクに声をかけて来る女丈夫は深町真樹子。あと、東京12チャンネルが提供するのはお馬さんの中継。島元が見事に負け、美智こと吉行和子が溜息交りに放つ、鮮やかなほどやさぐれた名台詞が「アタシの労働の結晶が馬公のウンコになつちやつた」。馬公のウンコ、カッコよすぎんぢやねえか。
 扱ひの詳細がよく判らないが、一応ロマポでなく一般映画らしい白鳥信一昭和55年第三作。なほ、「をさな妻」といひながら富島健夫の原典とは関係ないフリーダムな建付け。許されるんだ、そんな真似。
 当時博く絶大な人気を誇つた原悦子をヒロインに擁し、実際客席を若年層なり女性客で埋めてはみせ、たさうだともいへ。「愛の妖精」とかいふ、謎の挿入歌が何処で流れてゐるのかサッパリ判らない―予告ででも使つたのか?―のはさて措き、ただでさへ、腐れ則夫の粗相に悦子が振り回され続ける、正しく火に油を注ぎ。クソ則夫いはく“どうしてかうなつちやつたのかな”だなどと馴初めは豪快にスッ飛ばしてのけた上で、何時の間にか則夫の外道がまさかかしかものゆり子と男女の仲。主人公が手籠めにされたり体を売つてゐる間、諸悪の根源たるゴミ男は余所の女の部屋で呑気に、マンガを読んで笑つてゐたりなんかしやがる。悦子を奈落の底に叩き落すことにのみ全てを賭け、挙句終ぞ一切の救済に一瞥だに呉れぬ、潤ひを欠いた暗黒作劇には畏れ入つた。アイドル映画にしては原悦子を美しく可愛らしく撮らうとする意欲すら特段窺へず、憔悴しきつた悦子が悄然と砂浜に佇む。入水しか連想させない沈痛なラストに至つては、往時大好きな大明神の主演映画を観るんだと、小屋の敷居を嬉々と跨いだ少年少女の心中や果たして如何に。慈悲といふ言葉を知らんのか、昭和。この際原悦子は諦めてしまふとして、濡れ場といふ見せ場にこそ与らないものの、決して一幕・アンド・アウェイで駆け抜けるでなく終盤まで潤沢な出番に恵まれる、本隊ロマポの道祖神・小見山玉樹にエモーションを注ぐのも一興。話を戻すと先に見切れる、地味な名演技で本当に楽しさうな水京からカメラがパンすると、連れがサブであつた瞬間には小屋の暗がりの中思はず声が出た。


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 「不倫する人妻 眩暈」(2002/製作・配給:国映株式会社・新東宝映画株式会社/製作協力:Vシアター/監督:田尻裕司/脚本:西田直子/企画:朝倉大介/プロデューサー:衣川仲人・森田一人・増子恭一/撮影:飯岡聖英/編集:酒井正次/録音:シネ・キャビン/現像:東映ラボ・テック/助監督:吉田修/撮影助手:田宮健彦・小宮由紀夫・山本宙/監督助手:松本唯史・岩越留美・池亀亮輔/協力:志賀葉一、榎本敏郎、小川満、大西裕、熊谷睦子、坂本礼、躰中洋蔵、城定秀夫、日本映機株式会社、カースタント・タカ、⦅有⦆ライトブレーン/出演:佐野和宏・松原正隆・佐倉麻美・あきのなぎさ・細谷隆広・馬場宙平?・上井勉・小峰千佳・羅門中・朝生賀子・川上寛史?・藤本由紀・佐々木ユメカ)。出演者中、あきのなぎさがポスターには本名義の秋川百合子で、細谷隆広から藤本由紀までは本篇クレジットのみ。といふか画質云々以前に、アホなタイトルバックで日の透けるブラインドに白文字が飛び、俳優部の名前が二人分どうにも読めない、考へろよ。
 敗色濃厚な面接を受けて来た、旧姓岡崎の高田千春(佐々木)はエレベーターで、結婚前に勤めてゐたデザイン会社の同僚、兼当時不倫相手の芳村(松原)と再会する。何故か千春が求職中であると瞬時に察した―別の階から乗り合はせて来た―芳村に対し、千春は夫がリストラされた近況ないし苦境をサクッと告白。一旦別れたのち、五年前と番号が同じ千春の携帯に、芳村から復職を勧める電話がかゝつて来る。ポカーンとする、佐々木ユメカにタイトル・イン。
 配役残り佐野和宏が、千春の夫・良二、目下CADの資格を取るため通学中。佐倉麻美は千春の元後輩で、その後離婚した芳村の現交際相手・小林美佳。一応独身につき芳村サイドでいふと自由恋愛にせよ、美佳には劇中全く登場しない彼氏が実はゐる。そして良二が千春を外で働かせてゐるのに驚く、秋川百合子の変名のあきのなぎさが良二の前妻・本田博子。主たる離婚事由は博子の仕事、あとこの人は不脱。本クレ限定隊に、可能な限りの整理を試みると。ビリング推定で藤本由紀が最初の画面に映る、次に面接を受ける女で、千春を送り出す面接官は川上寛史?かなあ。松原正隆と大して変らない年恰好の社長含め、その他デザイン会社部―屋号不詳―が、多分馬場宙平?から小峰千佳、トム・ウェイツどの人よ。良二の前を歩く、総合資格学院に入つて行く男女二人連れのうち、軽く横顔を拝ませる男の方はa.k.a.今岡信治の羅門中、背中しか見せない女は、何処となく演出部ぽい佇まひを見るに朝生賀子ぽい。隣のベンチで黄昏る男の姿に、アテられた良二が吸はうとしてゐた煙草をボックスに戻す、矢張り職探しに苦しむ中年男は細谷隆広。凄まじく今更だけど、らもんなかて何か由来あるのかな、アナグラムにしては原型が判らん。あと、かつて千春に別れを決めさせた、子供の出来た―当時―芳村夫人の、電話越しの声の主には流石に辿り着けない。
 安い月額料金―月極でないと使へない―だと結局一本毎にポイントを消費させる、理に適つてゐなくもないが使用感としては割とまどろこしい、ビデオマーケットと正直早く手を切りたい国映大戦。第五十四戦は前作「姉妹OL 抱きしめたい」(2001)に続き西田直子と組んだ、田尻裕司第六作。素のDMMが焼野原に刷新された今、ビデマが有難いのは確かに有難いのだけれど。
 アメイジングなフランクさで元の職場に出戻つた人妻が、昔の男と焼けぼつくひに点火する。そもそも無職である以外千春と良二の関係にさしたる問題が見当たらず、忽ち芳村によろめくヒロインの姿に偶さかな下心くらゐしか窺へないのが、埋められぬまゝ放置される最外縁の外堀。十九時半にオフィスで乳繰り合ふのかよ、早えなといふぞんざいなツッコミはさて措き、定時退社した会社に謎の理由で引き返した千春が、抱き合ふ芳村と美佳を目撃。良二からかゝつて来た携帯を鳴らし、芳村のみならず気づかれてゐない訳がないにも関らず、千春との絡みで美佳がその点一切通り過ぎる途轍もない不自然さも、下手に堅実な作劇の中では却つて看過し難い。これ、「G線上のアリア」でなくて「カノン」かいな。千春のフェイバリットが往来で流れての、終に別れた筈の千春と芳村が、熱いランニング抱擁を交すシークエンスの結構なダサさに関しては、カット自体の満更でもない強度に免じてこゝはさて措く、にせよ。跨ぎで―事実上―締めの濡れ場に突入する、本来ならピンクが一番盛り上がるべき流れに、生半可な一般指向が災ひ、ジャンル映画の限界が透けてしまふのが、田尻裕司にまゝ見受けられる自殺点的な致命傷。佐倉麻美共々、感嘆させられるほどデカいデスクトップを睨みつけるオッカナイ形相を中心に、どちらかといふと努めて綺麗に美しく撮らうといふより寧ろ、飯岡聖英は佐々木ユメカを容赦なく捉へてゐたやうにも、m@stervision大哥の御眼鏡に反し当サイトには映つた。所詮この人等に、些末を力で捩ぢ伏せる、強靭な裸映画を望んでも仕方がなく。さうなるとラストの長く回すためだけの長回し―ついでに車道走んなや―が象徴的な、漫然とした一作、であつても全然おかしくなかつたところが。良二も良二で、博子が再就職先の口を利いて呉れる。壮大なラックを同じ映画のしかも夫婦で二発放つ、博子いはく確かに二度とない話に対し、如何にも佐野らしい意固地を拗らせた良二が「自力で勝たなきやダメなんだよ」。これがアテ書きでないなら何なのかといはんばかりの、佐野の佐野による佐野のためのエモーション。脊髄で折り返して命名するとサノーションが、佐野ならではの一撃必殺を轟然と撃ち抜く。


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 「欲情牝 乱れしぶき」(2002/制作:セメントマッチ/配給:オーピー映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/撮影:清水正二/編集:酒井正次/音楽:大場一魅/助監督:佐藤吏/監督助手:田中康文・笹木賢光/撮影助手:岡部雄二・星山裕紀/録音:シネキャビン/スチール:津田一郎/現像:東映化学/協力:小川隆史/出演:若宮弥咲・倉沢七海⦅新人⦆・渋谷千夏⦅新人⦆・佐藤広義・なかみつせいじ・浅井康博・樹かず・色華昇子・蓮花・神戸顕一・河村栞・水原香菜恵⦅声の出演⦆・池島ゆたか)。出演者中、二三番手の新人特記と、蓮花に水原香菜恵は本篇クレジットのみ。公開当時に書かれたm@stervision大哥のテクストを繙いてゐて、蓮花ちやんが、橋本杏子の娘さんであるとの記述にはこの期に及んで改めて驚いた。生まれたての、この御子こそ真の新人である。
 ブーケのついたお帽子を頭に載せた、赤いコートの女が電車に揺られる。まるで石井隆にでも気触れてみせたかのやうな、傾けた書体のタイトル・イン。“赤いコートの女”だけだと、すはソリッドな美人かと誤解を招くのかも知れないけれど、実際あるいは直截には、地雷ないし火薬の匂ひのする装飾過多な女である。重ねて恐ろしいのは、どうせその素頓狂な扮装が、主演女優の私物にさうゐない点。
 実家の弘前で家業の造り酒屋を両親と守りつつ、高校で国語教師をしてゐる筈の朝倉栄子(若宮)が突然上京。娘のナナコ(蓮花)も生まれたばかりの妹・鈴木真弓(倉沢)宅に、手紙の一通で寄越した“ちよつと疲れた”だなどと、情報不足か情緒不安定な方便で藪から棒に転がり込む。実は不仲の姉妹が会ふのは六年ぶりといふのはまあ兎も角、真弓がナナコの誕生も朝倉家に報せてゐなかつたとかいふ、音信不通も通り越しプチ絶縁に近い無造作な不自然さが実に五代暁子。真弓の夫で男性成人誌編集者の秀敏(佐藤)は、見てくれに違はずエクストリームに傍若無人な姻族二親等に憤慨し、要はも何も居候の分際で、昔と変らず剥き出しの優越感を振り下ろす姉に、妹も妹で密かに厭忌を再起動させる。仕事を尋ねられた秀敏が、初対面の栄子に脊髄で折り返す気軽さでエロ本を手渡す、ぞんざいかへべれけなシークエンスも実に池島ゆたか。
 配役残り、鈴木家での鍋パーティーに三人まとめて投入される樹かずと渋谷千夏になかみつせいじは、秀敏と仕事上の付き合ひもあるAV監督・高階と、色んなところにピアスを開けたAV女優のアリスに、元々秀敏とは出版社で同期であつた、現在区役所戸籍係の光永洋、愛称ミッチ。色華昇子は真弓が酒乱の秀敏と喧嘩する毎に、ナナコを連れ度々避難する夫婦共通の友人・ヒロミ。真弓とは女同士の仲、一応。高階がアリスとのハメ撮りを、スズキスタジオ(仮称)で撮影する現場。笹木賢光の面相は知らないが、佐藤吏ではなく田中康文でもないため、助監督は小川隆史かも、今何処。栄子の無防備なマウンティングに齟齬を感じた真弓が郷里の近況を訊く、電話越しの同級生・津島サツキの声は水原香菜恵。こゝは順番を前後して浅井康博は、栄子が関係を持つてゐた男々の一人にして、当時高校三年生の教へ子・佐久間克之、限りなく自殺に近い事故死を遂げる。栄子が佐久間君との逢瀬―ないし淫行―を想起する、ゴジラのフィギュアはおろか、そもそもゴジラや(店主:木澤雅博)自体一欠片たりとて導入の用を成してゐない、店主か店番が神戸顕一。例によつて店内には、鷹魚剛が流れてゐたりする。凄え、全部意味がない。一切の合理性も蓋然性もかなぐり捨て、偶さかな固執なり趣味性を邪気もなく放り込んで来る。池島ゆたかは裸映画のプロフェッショナルに徹してゐる―恐らく当人もさういふ自負―風に見せ、商業映画の他愛ない愛玩が不条理か前衛の領域に、グルッと一周しかねない。そして、もしくはそんな池島ゆたかと、河村栞は真弓が呼んだ、栄子を治療施設に連れて行く人。
 故福岡オークラ(2006年閉館)で観てゐて全然おかしくはない筈なのだが、全く記憶に残つてはゐなかつた池島ゆたか2002年第四作。よしんば粗筋ごとあらかた忘れてゐたとしても、純然たる初見でない限り、何処かしらワン・カットくらゐ覚えてゐるものなのに。
 田舎を捨てた真弓が真弓もAV女優であつた、藪の蛇を突く過去は木に竹を接ぎつつ、一方光永は白状する如く秀敏からミッチミッチ連呼される。触れずに済ますのが寧ろ無理も否み難い、「欲望といふ名の電車」(1951/米/監督:エリア・カザン)の、結構アグレッシブな翻案に関して当サイトは論ずる資質を持ち合はせないゆゑ、潔くか臆面もなく通り過ぎる。かんらかんら、開き直つてみせろ。
 裸映画的には二番手が夫婦生活で良質の煽情性を撃ち抜き、アダルトビデオ撮影中を愚直に具現化した結果、濡れ場自体は薄汚れたキネコであれ、三番手の始終への吸収も卒なくこなしてゐる。何故か一旦チョロ負かされる光永―と未だ物心のついてゐないナナちやん―以外、劇中全ての人間と観客・視聴者の癪に障るしか能のない造形ではあるものの、ビリング頭も背中は凄く綺麗。光永から求婚を受けた旨勝ち誇る栄子が、ついでに一番風呂を強奪した浴室でブチかます箍のトッ外れた自慰に、真弓が猜疑を半ば確信に変へる件も、女の裸と劇映画の進行を円滑に両立させた何気に秀逸な一幕。
 尤も総じては、既にそこかしこで触れてゐる通り池島ゆたかと五代暁子の各々が、各々であるところの所以で舗装された一言で片付けると甚だ粗雑な映画ながら、守つてゐた実家か囚はれてゐた郷里を事実上放逐された姉は、何時の間にか完全にブッ壊れてゐた。さういふいはば姉の悲劇を、幼少期から劣等感を拗らせてゐた妹が何気に言祝ぐ残酷は、揚々と帰途に踵を返す、愛娘を抱いた妻の背中を秀敏が半ば呆然と見送る、ラスト・カットの苦味にも加速され形になつてゐる。若宮弥咲の、明らかに板の上寄りと思しき資質が漸く且つ轟然と火を噴く、クライマックスをホラーに垂直落下させる「守つて下さいね」の一大連撃が、相撲でいふところの決まり手的なハイライト。恐らく、ビビアン・リーと若宮弥咲を下手に重ね合はせさへしなければ、案外満更でもないのではなからうか。


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 「夫婦情話 されどはまぐり」(2022『はまぐり三景 吸つていぢつて』の、OPP+版『されどはまぐり』のDVD題/制作:Blue Forest Film/提供:オーピー映画/監督:竹洞哲也/脚本:小松公典/撮影監督:坂元啓二/録音・整音:植田中/編集:竹洞哲也/音楽:與語一平/助監督:江尻大・島崎真人/制作応援:山本宗介/撮影助手:戸羽正憲・原伸也・辻菜摘/機材協力:中尾正人/スチール:須藤未悠/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:並木塔子・岡江凛・辰巳ゆい・石川雄也・モリマサ・近藤善揮・倖田李梨)。
 モデルハウスみたいな普通の一軒家に、民泊「はまぐり」の黒板。生活感すらない厨房、女将の北川達子(倖田)が蛤を蒸しがてら、明るいうちからの酒をキメる。机上の写真に語りかけながらの、グルメ番組風に美味しさうな自分メシ。達子が手に取つた、蛤の殻にタイトル・イン。車で来れば敷地内に停められさうな気もしつつ、駅から歩いて二十分の「はまぐり」を、望(並木)と一郎(石川)の鶴見夫妻がとほとほ目指す。手前勝手にノッリノリの一郎に対し、望は微妙な距離感も滲ませる。ちやうど出て来た辰巳ゆい・近藤善揮と、交錯はせず二人は宿に到着。達子が望と一郎を部屋に通す三人のフルショットに、メニュー1「はまぐりのお吸ひ物」の副題イン。
 配役残り、芸か性懲りもなく、鶴見夫妻と入れ違ふ形で「はまぐり」に辿り着いた、岡江凛とモリマサがメニュー2「焼きはまぐり」部、加奈と明久の高尾夫妻。入院手術で休業に入る、相変らず活動が安定しない岡江凛(ex.美村伊吹/ex.緒川凛)は八戦目で流石に打ち止めか。尤も、八年前の初陣「尼寺 姦淫姉妹」(2013/監督:友松直之/脚本:百地優子・友松直之)で既に、ソリッドな美貌に勝るとも劣らない、お芝居の強さでも光芒を放つた岡江凛が目方を30kg落とした落とせた上での電撃復帰なら、遂に満を持すか機が熟しての、大逆転天下を取れても全然おかしくない気はする。一方、元年デビューのモリマサは、この人令和のかわさきひろゆきのセンで行けるのではないかしら、行けても別に行きたかなかろ。改めて辰巳ゆいと近藤善揮が、メニュー3「煮はまぐり」隊。こちらのカップルは入籍前、珠江と、式の段取りに頭を悩ませる関川元成。そ、して。「はまぐり三景」では省かれてゐる可能性も否めない、エピローグ的なメニュー4「はまぐりの酒蒸し」。現代ピンク最強の男前・山本宗介が、達子の亡夫役で「はまぐり」開業時のスナップに飛び込んで来る。時制的にはメニュー4が現在で、312の順に古いエピソードを、123の順で回想して行く構成。
 体調を派手に崩し遠征を断念、OPP+版「されどはまぐり」を更に改題した円盤を外王で借りて来て茶を濁した、竹洞哲也2022年第一作、つか90分あんのかよ。
 蛤料理を主たるモチーフに、三組の夫婦情話を綴る。脊髄で折り返した印象を、ぞんざいに吹くけれど。これをテアトル新宿―とシネ・リーブル梅田―にて一般映画でございと上映したのか!?と、霞よりなほ空ろな話といふか中身の薄さに衝撃を受けた。馬鹿の一つ覚えの砂浜を概ね主に、そこいらの往来を俳優部がホッつき回る辺りが中心なのだらうが、ピンク版を水増しするにせよ、二ヶ月先行したフェス作をベースに寧ろ削るにせよ。全篇ある意味もしくは良くなくも悪くも均質なほぼ真空ぶりにつき、二十分分の差異に目星をつけようにも忽ち途方に暮れる始末。鶴見夫妻のわだかまりは、新婚最初の献立とかいふ、はまぐりのお吸ひ物で何故か何となく氷解。高尾夫妻は接着剤で止めた焼きはまぐりが開かない開く訳がない、子供騙しのトリックで離婚に持ち込む。関川夫妻(予)に関してはわざと煮詰めすぎた煮はまぐりで煮詰まりを戒める、クソみたいな方便の壮絶な詰まらなさに度肝を抜かれ、る以前に。そもそも珠江が勝手に思ひ詰めてゐたところの所以が、初婚の元成に対し珠江は二度目ゆゑ、挙式に激しく抵抗を覚えてゐた、とかいふ他愛なさには尻子玉を抜かれた。片や、並木塔子と石川雄也の通り一辺倒な濡れ場が、可もなく不可もないのが精々関の山。岡江凛の完全に箍の外れたか底の抜けた大質量は触れる琴線を選び、ほかに連れて来る男優部はをらんのかとしかいひやうがない、素の口跡すらへべれけな近藤善揮はいざ絡みに入るや秒で息が上がり、今年の二月にも新作の撮影に参加してゐた模様の、有難く長く継戦して下さる辰巳ゆいを台無しにするばかり。所詮、坂元啓二によるプレーンな画は女の裸を官能的に煽情的にといふよりは、料理を小綺麗に撮るのには長けてゐる程度。と来ると即ち、要は地の劇映画としても、裸映画的にもスッカスカのカッスカス。前年からの不調を逆の意味で順調に継続する、竹洞哲也が四連敗も通り越した四爆散を遂げたとて別に驚くにはあたらないのかも知れないが、子飼ひの寵児が煮ても焼いても食へない体たらくで、大蔵の認識や果たして如何に。唯一、針の穴にボーリング玉を通す決死の覚悟で面白味を見出せなくもなかつたのが、浜辺で黄昏る珠江に達子が上手いこと目を留める、そもそも屋外温水シャワーで達子は何をしてゐたのよといふ、大恩師・小川欽也のスピリットを竹洞哲也が継承した、アグレッシブな頓着のなさが火を噴く無造作なロケーション。はこの際さて措き、近年沙汰の全く聞こえて来ない、今上御大の御様子が地味にでなく気懸りな件。


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 「果てしない欲情 もえさせて!」(2000/製作・配給:国映株式会社・新東宝映画株式会社/監督:サトウトシキ/脚本:小林政広/企画:朝倉大介/プロデューサー:衣川仲人・森田一人/協力プロデューサー:岩田治樹/音楽:山田勲生/撮影:広中康人/照明:高田賢/録音:中山隆匡/編集:金子尚樹/助監督:女池充/監督助手:城定秀夫・菅公平・伊東一平/撮影助手:鏡早智/照明助手:屋宣瞬?/特殊造形:むくなしよる/タイミング:安斎公一/タイトル:道川昭/現像:東映化学/録音スタジオ:福島音響/ネガ編集:フィルムクラフト/応援:坂本礼・永井卓爾・榎木敏郎・鎌田義孝・大西裕/協力:江尻健司・竹内宏子・西浦匡規・上田耕司・三和映材社・東洋照明・不二技術研究所/出演:向井新悟・川瀬陽太・奈賀鞠子・佐々木ユメカ・本多菊次朗・上野俊哉・伊藤猛・勝山茂雄・吉田俊・請盛博行・坂本礼・下元史朗・伊藤清美・横浜ゆき)。照明助手の名前が、五六回ダビングを繰り返したVHSみたいな画質で潰れ判読不能。所蔵するプリントが飛んでゐたのか、nfajはnfajでスッカスカなんだな、これが。
 国映と新東宝のクレジットから公開題イン、生首を提げた、思ひのほか髪の長い向井新悟のロング。「最初に久美子と会つたのは新宿、歌舞伎町でしたかね」。以降全篇を貫く、刑事に対する供述を思はせるモノローグが起動する。年少―劇中用語は“学院”―出の順一(向井)が更生し損なひ、薬の売人に身を落とす、までを語つた上で改めて原題―にして一般映画題―の「青空」イン。ブルーハーツの「青空」のカラオケかと一瞬耳を疑ふ劇伴は、流石に少なくとも狙つてはゐるよね?
 繁華街の往来、曲り角の出会ひ頭で順一と、佐々木ユメカを連れた久美子(横浜)が交錯。口論から出し抜けに張つて来た久美子を、順一は路地裏に連れ込むと腹パン一発で制圧し犯す。いきなり手を出す久美子もヤバいが明らかに危機的な状況を前にしながら、友人を捨てその場を逃げるユメカも大概な更に上か下を行き、一番壮大なのは斯くもブルータルな出会ひなり出鱈目な経緯で、久美子が順一のアパートに転がり込んで来る奇想天外なファンタジー。シリアスだかソリッドを気取つてゐる割に、油断してゐると国映がへべれけに底を抜いて来る、最早一括りかよ。ビリング推定で吉田俊・請盛博行・坂本礼のプッシャー仲間と卓を囲む順一宅に、二人組の刑事(本多菊次朗と上野俊哉)が突入。上野俊哉は何故か、一直線に隠し場所からヤクを見つける。徒歩で逃走した順一が意外な健脚を誇り、ちやうどフルマラソンくらゐ走つて流れ着いたのが、習志野といふ土地のセレクトは距離からの逆算か。
 配役残り下元史朗は、二つ目の途方もない夢物語でそんな順一を拾ふ、旋盤工場の社長・熊沢。川瀬陽太がネームド工員の及川で、伊藤猛と勝山茂雄はその他工員。奈賀鞠子は昇給を餌に、日々熊沢に抱かれる事務員・朋子。昼休みのキャッチボール、順一が全力を出してみたところ、及川を昏倒させた剛球を拾つて呉れる伊藤清美は、熊沢の妻・礼子。その件のモノローグに於いて、「こんな美人があのエロ親爺の女房だつたなんて」といふのが、都合三つ目のアシッドな羽目外し。
 東京に舞ひ戻つた順一が亀有駅南口にて再会を果たした、久美子と交す会話で何時か多分故福岡オークラで観てゐたのを思ひだした、サトウトシキ2000年第二作で国映大戦第五十三戦。いや、そこは青空アバンで思ひだせよ。
 恐らく、行き先なんて端から知らない空白と、持て余す充溢。そして、偶さか弾ける暴力を主演の一人語りで淡々と綴る、ピンクにしては珍しい明々白々な男優映画。女の裸を、宗とはしてゐないのもある。さう来た日には早々か易々と煮詰まつてゐてもおかしくないものが、演出部の勝利か朴訥としかしてゐないやうに聞かせ、これで案外向井新悟が独白に長けてゐたのか。一時間を四五分跨いだ尺を、飽かせも厭かせもせず最後まで見せきる。二三番手は共々挨拶程度で茶を濁す反面、終盤再び、あるいは終に道を踏み外した久美子が順一とひたすらに闇雲にヤリ倒す過程で、一番手に関してはそれなりに挽回。と、いふことは。要は同じ便法で、女優部の濡れ場とゴリゴリに墨を入れた青年の屈曲した青春映画とを、両立させるミッション:インポッシブルも決して不可能ではなかつたのではなからうか。とかいふ漠然とした疑問は、単にもしくは結局、裸映画に向き合ふ姿勢の問題に過ぎまい。


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 「目隠しプレイ 人妻性態調査」(1997/制作:セメントマッチ/配給:大蔵映画/監督:池島ゆたか/脚本:岡輝男/撮影:千葉幸男/照明:多摩三郎/編集:酒井正次/助監督:佐藤史/スチール:津田一郎/演出協力:木澤雅博/監督助手:広瀬寛巳/撮影助手:嶋垣弘之/照明助手:多摩次郎/タイトル:道川昭/録音:シネ・キャビン/現像:東映化学/協力:早稲田松竹/出演:真純まこ・桜沢愛香・杉原みさお・久保新二・樹かず・H ひろぽん・神戸顕一・木澤雅博・丘尚輝・H2 ひろぽん/SPECIAL THANKS:田口あゆみ・田口みき・槇原めぐみ・中田新太郎・佐々木共輔・浅岡博幸・伊藤要・土橋聞多・林田義行・生方哲・中山則政・松島政一・石動三六・西山亜希・大浦貧北斎・ラーメン光男・田中里佳・米谷信胡)。助監督が、吏でなく佐藤史なのは本篇クレジットまゝ。惜しい、一本足らない。あと照明の多摩三郎は、散発的にカミングアウトされてゐる白石宏明の変名かも、次郎は知らん。
 住宅地のロングから、風鈴、西瓜、豚の蚊取線香を連ねる夏の風物詩。目隠しされた浴衣の女が、後手に縛られ転がされてゐる。そこに入つて来たマスクの男が女の尻を捲り、観音様に荒々しく指を捻じ込む。牝豚、口汚くか底浅く女を罵る声で、男が久保新二であるのが聞いて取れる。男が果てたのち、目隠しを外された真純まこがマスク男に「いやー!」と上げた悲鳴が暗の逆で白転して、三宅夕子(真純)はその日も午前様の配偶者を待つ居間で目覚める。果敢―もしくは無策―に突つ込んだ陳腐の壁を、突き破る勢ひのどストレートな夢オチが清々しい。夫の茂樹(樹)が漸く帰宅、ハウススタジオ外観にタイトル・イン。開巻の風物詩に話を戻すと、この手の苔生したクリシェは、ぼちぼち憲法で禁止したとて別に罰は当たらない気がする。
 二人でデパートに行く約束を、茂樹が接待ゴルフとやらで反故。さうした場合の埋め合はせないし謝罪として、それは果たして如何なものかとさりげなくない疑問も否み難い、茂樹は人から貰つた早稲田松竹の招待券で茶を濁す。LKGN(1996)のポスターが見切れる早稲松に大人しく出向いた夕子は、表の往来で五年前の元カレ・オカダ健二(久保)と再会する。と、ころで。アロハばりに派手な品のないシャツのみならず、まさかの短パン。浅学菲才に品性下劣とのコンボもキメた当サイトは当然の如く与太者につき、紳士のスポーツとされるゴルフにも縁がないのだけれど、茂樹は然様にラフな格好でコースの敷居を跨げるのか。
 配役残り、フレームの中では久保チンの肩に上手く隠れてゐた、桜沢愛香は健二の今カノ・ナガノともえ。盛大なSPECIAL THANKS勢―とイコール岡輝男の丘尚輝―が、その他観客要員。田口みきが丘尚輝と、石動三六は多分西山亜希、そして田口あゆみが中田新太郎とカップルで観に来てゐるのは見切れたものの、槇原めぐみの連れは不明、あと佐々共何処にゐる。こゝで、恐らく今回きりしか使用してゐない名義の田口みきは、池島ゆたか二作後の1998年ピンク映画第一作「薄毛の薄情女」(脚本:五代暁子/主演:誰になるの?)に於いて、田口あい名義で母親である田口あゆみと改めて共演する一親等。「薄毛の薄情女」が何故かサブスクには収録されないまゝ、バラ売り限定でex.DMMに入つてゐるのを配信してある以上そのうち見る。その他田口あいの確認可能なフィルモグラフィとしては、全四作通してお母さんは出てゐない、「ザ・痴漢教師」シリーズ第三作「制服の匂ひ」(1999/監督:池島ゆたか/企画・脚本:福俵満/主演:里見瑶子)の生徒要員。閑話休題、映画が詰まらなく寝落ちてしまつたのか、夕子は五年前の回想か淫夢に突入。当時の上司であつた健二と付き合ひ始めた夕子は、処女を捧げる。ところがある夏の日、趣向を違へる旨提示した健二は、目隠しと手錠を施した上、夕子をベッドに拘束して暫し放置。複数人の男の気配に夕子が慄くと、一斉にバイブで嬲り始める四人のマスク集団が神戸顕一以下四名、神顕は途中でマスクを外す。微妙にハンサムなのが何か可笑しい、顔出しのH ひろぽん(a.k.a.広瀬寛巳)は三宅家に出入りする、朝日ならぬ曙新聞の集金人。正直何時まで経つても三番手が出て来もしない、荒木太郎なら平然と映画を詰んでのける温存ぶりにやきもきさせられた、杉原みさおは茂樹の浮気相手、を豪快にオーバーシュートするサンドラ女王様。初登場時に於ける、肌を隠してゐる面積の方が寧ろ狭い、「HOT LIMIT」時のT.M.Revolutionみたいなボディコンが何気に凄まじい。しかも、どうせそれ私物だからな。
 小屋の表―とタダ券―だけ無断で撮影して、場内は上野スタームービー(現:オークラシアター/inc.上野オークラ劇場)辺りで誤魔化してみせるのかと勝手に思ひきや。正式に取りつけてゐた早稲田松竹の協力に、軽く驚かされる池島ゆたか1997年第四作。といふか、よくよく調べてみるとこの時点では未だ、上野スタームービー(1999~2009)は前身の上野スター座(昭和27~1999)であつた。
 何れかの実家が太いのか結構な戸建に暮らしてゐる割に、贅沢気味な寂寥も抱へる専業主婦が、かつての交際相手に刻み込まれた、調教の苛烈あるいは甘美な記憶に囚はれる。直截にいふと所謂イヤボーンの一辺倒で、濡れ場といふ虚構と現実の往き来に終始する、裸映画的には頑丈で、も決しておかしくはなかつたのに。輪郭的にサンダルの裏を彷彿とさせる、主演女優の文字通り間延びした面相に関しては綺麗な首から下で免責、百歩譲り等閑視して済ますにせよ。最初に激しくズッこけたのが、例によつての「いやー!」で夕子が早稲田松竹の客席に帰つて来ると、周囲の客が全員マスクを着けてゐる相当に衝撃的、な筈であつた二段構への幻影。結構なスペクタクルにしては池島ゆたかのカット割りが一言で片づけるとトロすぎて、この鮮烈なイメージがどうすればこゝまでモッサリ出来るのか、不思議で仕方ないのが以降全篇を支配する、長き木端微塵か五里霧中の火蓋、どんな映画なんだ。近所の往来でも仮面男のヴィジョンに苛まされる夕子が、三人目で広瀬集金人と鉢合はせる件も矢張りカット割りが壮絶で、単なる下手糞が超現実主義の領域に突入しかねない。シュルレアリスムといへば、夕子が最初に健二のサディズムに翻弄される過程で、モチーフに「記憶の固執」を持ち出すセンスにも頭を抱へた。ダリに祟られミスター・ピンク自身が、グニョ~て湾曲すればいゝのに。グルグル何周かして度肝を抜かれたのが、熱を出した健二を見舞つた夕子が、珍しく早い茂樹よりも遅く帰宅した夜。様子からおかしく、ガウンの下は内出血と縄跡で傷だらけの茂樹が、藪から棒に別れて呉れと土下座するや否や、照明落としてピンスポ点火。会社の馘と浮気の告白を畳みかけた茂樹の、「もう駄目なんだ、俺は変態なんだ!」なる藪から棒な絶叫を、高笑ひで飛び込んで来るサンドラこと杉原みさおが「さうだよ!お前はダメ人間なんだ」と受ける。壮絶とでもしかいひやうのないシークエンスには、派手に爆散し始めた映画が、全体何処まで壊れてしまふのか。果たして、俺の容量不足の脳はそのある意味画期的な瓦解に耐へ得るのかと、正体不明の不安を覚えた、メタ的サスペンスでもあるまいし。三度目に健二宅を訪ねた夕子に、健二曰く「お前の本当の姿を見せてやる」といふので夕子の眼前に広がつた光景が、アバンを回収してゐるといへばいへなくもない、浴衣で拘束ジョイトイ責めされてゐる己の姿。が、結局劇中現在とかいふ、時空をも無造作に歪めて意に介さない、映画自体が条理を超えるプリミティブな難解さには言葉を失ふしかなかつた。結局、あくまで偶然ぽかつたリユニオンからそこかしこに発生する、些末な齟齬になんぞ気に留める訳がない、健二の「全部俺が仕組んだ」的な大胆か大概な姦計は、けれども同時に在り来りではあり、ありがちに悪夢がループするラストは丁度いゝ塩梅に失速。映画を見てゐての発狂は、辛くも免れる、『ドグラ・マグラ』か。そこは「マウス・オブ・マッドネス」(1994/米/監督:ジョン・カーペンター)を思ひだしてやれよ、“覗くな、狂ふぞ”―狂気の入口を―なるエッジの効いた惹句で売つておいて、気が狂ひさうになるくらゐ詰まらなかつたけどな。
 唯一正方向に優れてゐるのは、ともえが自らと同じやうに犯されてゐる、夕子の妄想で二番手の絡みを消化する案外満更でもないスマートさと、同様にキナ臭くスリリングなタイミングから、首の皮一枚木に三番手を接ぐ惨状を回避するサンドラに関しても。池島ゆたかと岡輝男の間で悪い相乗効果が発生したのか、要は池島ゆたかの大根演出に、岡輝男のへべれけ脚本が火に油を注いだ問題通り越した炎上作。自分とこで撮つた映画を観に行つてみた、としたら、早稲松の関係者には今作がどんな風に映つたらう。いつそ途中で寝てて呉れとさへ、お節介な老婆心ながら思ふ次第。


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 「まん開ヒールズ 女の魔剣と熟女のアソコ」(2021/制作:Grand Master Company/提供:オーピー映画/監督・脚本・編集:塩出太志/撮影:岩川雪依/照明・Bカメ:塩出太志/録音:横田彰文/助監督:田村専一・宮原周平/小道具:佐藤美百季/特殊メイク:懸樋杏奈/特殊メイク助手:田原美由紀/コンビニ衣装制作:コヤマシノブ/整音:臼井勝/音楽:宮原周平/タイトルデザイン:酒井崇/仕上げ:東映ラボ・テック/協力:露木栄司・青木康至・香取剛・木島康博・田島基博・高嶋義明・愛しあってる会《仮》/出演:きみと歩実・西山真来・手塚けだま・渡辺好博・成宮いろは・小滝正大・津田菜都美・加藤絵莉・細川佳央・窪田翔・今谷フトシ・橘さり・星野ゆうき・新井秀幸・佐倉萌・松岡美空・西田カリナ・香取剛・後藤直樹・竹内ゆきの)。結構な人数の俳優部は、全員ポスターにも載る。
 “勘で占ふ”占ひ師の松ノ木あゆみ(きみと)と、“たまにかゝる催眠術師”の東山マキ(西山)に、“霊がみえない霊媒師”の手塚茂子(毛塚)。パラノーマルな事件を運と山勘頼りの勢ひ勝負で解決する、「ヒールズ」の御三方をイントロ的に顔見せした上でアバンの本丸。シャワーを浴びる加藤絵莉の傍らに、胴体を刀が貫通した丘尚輝似の侍―の霊―が現れる。その後侍が加藤絵莉に本格的な夜這ひを敢行するのは兎も角、絶頂に達する際、渡辺好博の他愛ない白目芸に割くのは無駄な尺、女の乳尻でヌけ、もとい女の乳尻を抜け。カトエリの異変を察知してはゐるらしきものの、矢張り霊は見えやしない悪夢の無力感に茂子が苛まされた翌朝。茂子の母・和子(成宮)と、父・茂雄(小滝)。社会性に難のある娘に、朗らかな両親が過剰に気を揉む朝食を経て。依頼人である谷口美希(加藤)宅に単身赴く茂子が、薄手の丹前を羽織るスローモーションにタイトル・イン。今回初めて気がついたのが、加藤絵莉は、基本アヒル系の口元が岸加奈子に似てなくない?
 配役残り、改めて渡辺好博は、土手腹に妖刀「黄泉息丸」のブッ刺さつた侍・佐々木乃武良の霊、通称ヨシ。確かにササキノブヨシと自己紹介してゐる以上、こゝは乃武良と表記するほかない、今何処。といふか、何故そこを突いて来た。津田菜都美は茂子がアルバイトするコンビニ「EVERY DAY」の、パイセンパイセン矢鱈茂子に懐いて来るギャル店員・海野渚。相変らず常態化してゐるヒールズ暴飲暴食で、あゆみとマキも本篇合流。二人に渚まで加はり、皆で手塚家の敷居を跨ぐお泊り会。窪田翔は茂子に気触れた渚が生兵法で召喚してしまふ、アバターに於けるナヴィぽい意匠の悪魔。と、一旦茂子が口から出任せたのが、美希宅に実際ゐたゴリラの霊、の着包みの中の人。輩造形の細川佳央は、美希の彼氏・ゆうくん。以降は後半班、今谷フトシはBTTFのドク的なマッさん、数々のトンデモ心霊系ガジェットをヒールズに提供する。橘さりと星野ゆうきはプラズマ体の宇宙人である出自が判明したシースーと、マキの彼氏といふよりも、シースーの宿主・鈴木。新井秀幸は、何時の間にかあゆみとデキてゐたクライアントの上野。西田カリナは今はマキを手伝つてゐるらしき、後述する「ぞつこんヒールズ」での顧客・上田良子。良子から本番以外は何でも「お止め下さい」な、催眠療法を施されるのが香取剛。眠らされてねえ、いや寝てはゐるだろ、別の意味でだけど。松岡美空はクラファンで集めた金で、怪我を治し綺麗になつたハナコ。昏睡状態にある上野の母親(佐倉)の、インナースペースにあゆみと茂子がダイブ。後藤直樹は最初に二人の前に現れる、そこそこ動ける死神部下。そして加藤義一2008年第二作「女復縁屋 美脚濡ればさみ」(脚本:岡輝男/村上里沙名義)から、六年空いて荒木太郎2014年第三作「めぞん美熟女 ぬるぬる下宿」(竹内紗里奈名義)と、翌年の浜野佐知2015年第一作「性の逃避行 夜につがふ人妻」(脚本:山﨑邦紀)。蓋を開けてみるまで同姓同名疑惑も捨てきれなかつた、竹内ゆきのがアイコン的な大鎌を携へる、全体的なビジュアルとしては花魁風の死神。
 四ヶ月前のピンク第二作「ぞつこんヒールズ ぬらりと解決!」を、OPP+版「胸騒ぎがする!~ヒールズ爆誕~」に仕立て上げる追撮の再構成。とかいふ概要がそれだけ聞いた限りでは正直雲を掴む、大晦日封切りの塩出太志2021年第二作。塩出太志は矢張り晦日イブ初日のヒールズ第三作「あつぱれヒールズ びつくびく除霊棒」で、二年続けて正月映画の大役を務めてゐる。とりあへず今作に話を戻すと呆れ果てるほど前作バンクを多用する、でないどころか。寧ろ殆ど全く使はずに、無事七十分を埋めてはゐる、一応。
 さうは、いふてもだな。世辞にも褒められた、代物でも決してない。ゴリラも多分成仏し、美希の一件は無事解決。前半がそれなりの大団円を迎へた、カット尻も乾かぬうちに。一回口頭に名前が上つてゐるとはいへ、しかも飛躍の高いキャラクターであるマッさんが、純然たる出し抜けに飛び込んで来る後半の入りが衝撃的通り越して壊滅的。体感的にいふと、斯くも雑な編集見たことないレベル、古の洋ピン以外で。事実上締めの濡れ場が存在しないのは十万億歩譲つて兎も角、佐倉萌が回復してひとまづ目出度し目出度しに辿り着いておきながら、冒頭に劣るとも勝らずぞんざいなラストが不用意に後を濁す。ヨシやマッさんに、妖艶に色気を加速させた竹内ゆきのがしかも二度目となる六年ぶりの大復活を遂げる死神。飛び道具的な登場人物が随時新規投入される傍ら、綺麗になつたハナコはまだしも、ヒールズ第四のメンバーといつても過言であるまいスーシーは一幕・アンド・アウェイの賑やかし。鈴木に至つては完全に単なるスーシーの器扱ひで、終始画面の奥で寝てゐる始末、誰なのか結構判らなかつた。無闇な頭数の、消化不足も何気に否み難い。
 女の裸的には二戦目は細川佳央に介錯して貰ひ、加藤絵莉は十二分に脱ぎ倒す。西田カリナは木に絡みを接ぎつつ、最低位の番手にしてはまあまあ量的には最低限を確保。果たしてオッ始めるものか否か半信半疑であつた夫婦生活を、実にピンク映画らしい即物的な濃厚さで、成宮いろはが轟然と撃ち抜いてみせるのには驚かされた。反面、気を吐くビリング下位に対し頭二人が、エクス・マキナと紙一重な上野のヤリチン頼みといふのは如何せん厳しい。目まぐるしく体位を連ねるきみと歩実V.S.新井秀幸戦を見るに、塩出太志が撮らうと思へば案外撮れさうな分、騒々しく弾ける娯楽映画も構はないが、もう少し裸映画にも身を入れて向き合つて欲しい。腹が立ちこそしないものの、首も縦には振り難い一作。二年目ならぬ二作目二発目のジンクスか、マキこと西山真来の決め台詞「ヒールズ始動やで!」がキレを欠き、映画を救ひ損なつたのが地味なアキレス腱。


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 「哀愁のサーキット」(昭和47/製作:日活株式会社/監督:村川透/脚本:村川透・古屋和彦/企画:三浦朗/撮影:姫田真左久/美術:菊川芳江/録音:福島信雅/照明:川島晴雄/編集:井上親彌/助監督:中川好久/色彩計測:田村輝行/協力:プロショップ日豊/製作担当者:大鷲勝道/現像:東洋現像所/音楽:樋口康雄 使用作品:キャニオンレコード 歌:石川セリ⦅キャニオン⦆『海は女の涙』・『鳥が逃げたは』・『Good Music』・『野の花は野の花』・『天使は朝日に笛を吹く』/出演:峰岸隆之介・木山佳・槙摩耶・青山美代子・殿岡ハツエ・石川セリ⦅キャニオン⦆・絵沢萠子・日高悟郎・江角英明・木島一郎・志賀正文・清水国雄・浜口竜哉・粟津號・下馬二五七・小森道子・早川マキ・中野由美・美里かおり・矢藤昌宏・中平哲仟・氷室政司・谷口芳昭・影山英俊・佐藤了一・広瀬優)。出演者中、木島一郎から浜口竜哉までと下馬二五七、早川マキ以降は本篇クレジットのみ。逆にポスターにのみ、戸塚あけみなる名前が載る。あと槙摩耶が、ポスターでは正字の槇摩耶。
 富士スピードウェイに、コルベットスティングレイが滑り込む。少なくとも劇中、終ぞテスト走行しか走つてゐないレーサーの滝田和郎(峰岸)を、ピットチーフの小林二郎(木島)が大仰な身振り手振りで迎へ入れてサーキットにタイトル・イン。そのまゝクレジット大トリの村川透を大人しく待つかの如く、約一分間うんともすんとも車が走つて来ない、案外静的なタイトルバックに軽く拍子を抜かれる。滝田が順調にタイムを刻む一方、ほぼ無人のスタンド観客席には、その日当地を撮影で訪れてゐた人気歌手・榊ナオミ(木山)の姿も。夕暮れ時の砂浜、奇声を発しながら両手を広げ走り回つてゐた、キマッてるレベルで挙動不審の滝田が、その時点に於ける最新曲「鳥が逃げたは」のドーナツ盤を、フリスビー感覚で波に放る榊ナオミと出くはすのが二人のミーツ、海を汚すなや。その後、基本情緒不安定なのか、児童公園でキャッキャキャッキャ遊ぶ滝田とナオミが再会。歌手活動にありがちな喪失なり疎外感を抱へてゐたナオミは、マネージャーの山ちやん(下馬)から再三再四釘を刺されてゐた、十二時の集合時間を華麗か豪快に何処吹く風、滝田と出奔する。
 辿り着けるだけの、配役残り。佐藤了一はタイムマンの清水大二、中平哲仟もピットクルー。えらく濃い面子のチームではある、小さな犯罪組織のひとつやふたつ壊滅させられさうだ。日高悟郎はスティングレイに目をつけ、滝田に接近する単車トリオのリーダー格・哲也。二尻の槙摩耶が哲也のスケ・洋子で、志賀正文と清水国雄はもう二人の丹前と革ジャン。滝田が三人のヌードモデルと写真を撮られる、何某かのコマーシャルなのかはたまた滝田和郎の頓珍漢なプロモーションに過ぎないのか、詳細が判然としないアシッドな撮影風景。青山美代子は、その中で最初に滝田と寝るモデルA。各種資料にモデルB―矢張り終盤寝る―とされる戸塚あけみといふのが、見れば即判る岡本麗の何と御本名。中野由美は違ふとして早川マキか美里かおりが、戸塚あけみないし岡本麗に該当するのか否かは知らん。浜口竜哉は禅問答みたいな取材を榊ナオミに仕掛ける、実名登場『平凡パンチ』誌記者。出て来るのはほんの束の間で、当然脱ぎも絡みもする訳がない石川セリは、クラブ的なところで歌ふてはるハーセルフ、台詞自体ない。哲也から滝田に挑んだ、哲也は洋子、滝田にはスティングレイを賭けさせるバイク競争。小森道子と影山英俊は二人の勝負を無駄に賑やかす、路地裏あるいはコース脇で対面立位に励むアベック。滝田と哲也の何れかより寧ろ、a.k.a.森みどりと影英の木に濡れ場を接ぎやうまで含め、割と画期的な一幕・アンド・アウェイぶりが一番速い。殿岡ハツエはクラブで踊る、アフロのダンサー。絵沢萠子と江角英明は、滝田とナオミがホッつき歩く公園にて、「デーモンのさゝやき」をゲリラ公演中のアングラ劇団「悪魔仮面」の俳優部、そのセンス。飛び込んで来た駐在に怒られる、水木京一ではない。最終的には派手に煮詰まる、榊ナオミと滝田和郎の戯れか偶さかな逃避行。粟津號はドライブインでカレーライスを突く滝田とナオミに、二人をその人と見知つた上で絡んで来る単車乗り、この辺りが限界。
 峰岸徹をイナズマンに譬へるならばサナギマン時の峰岸隆之介―渡五郎は峰健二―主演の、村川透昭和47年第三作、通算でも第三作にあたる。今作を最後に日活を離れ、一旦山形に帰郷する村川透が、滝田和郎の謎撮影現場に見切れてない?地元駅前に来
てはゐたものの、十年に一度のレベルで体調を崩し、潔く配信に退いたものである。今作よく判らないのが各所で69分とされてゐる尺に対し、今回小屋に来てゐたのと、同じバージョンにさうゐないサブスクで見たのは80分ある地味でない差異。
 ロマポ一個下の、当サイトにとつて物心はおろか生まれる前の話であり、正直知つたことでもないのだが福澤幸雄(昭和44年没)と小川知子を、滝田和郎と榊ナオミのモデルとした一作。裸映画的には、美人なのかさうでもないのか甚だ微妙な、主演女優を前半丸々温存する反面、後半のプチ駆け落ちの過程でそれなりに攻め込み、この時期のロマポにしては比較的形になる。尤も、村川透曰くの形で謳はれる、ロマンXに先立つこと十三年、峰岸隆之介と木山佳の絡みに於いて実は本番撮影を敢行してゐたとかいふ点に関しては、そもそも腰から上ばかり狙つてゐる―もしくは下を抜かない―のもあり、真偽のほどは判別しかねる。節穴自慢を重ねるに過ぎない気もしつつ、劇映画的にも往時の、あるいは喪はれたコンテクストが今のものとは異なりすぎてゐて、雲を掴むか煙に巻かれる漠然か漫然とした印象が強い。今作を捕まへてアメリカン・ニューシネマと評する風潮もなくはないやうだが、最後主役が唐突なり呆気なく死んだらニューシネマ。さういふ、脊髄で折り返す紋切型にも疑問を覚える。何時からニューシネマといふのは、その手の類型的な様式に堕したのか。


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 「どすけべ姉ちやん」(2000『どすけべ姉ちやん 下半身兄弟』の、何時旧作改題?/製作:国映株式会社/配給:新東宝映画株式会社/監督:上野俊哉/脚本:小林政広/企画:朝倉大介/撮影:小西泰正/編集:金子尚樹《フィルムクラフト》/音楽:太刀川彦一朗/助監督:坂本礼/撮影補:水野泰樹/撮影協力:岩田治樹/録音:シネキャビン/監督助手:大石健太郎・躰中洋蔵/撮影助手:田宮健彦/ネガ編集:門司康子/タイトル:道川昭/タイミング:武原春光/現像:東映化学/製作応援:森元修一/協力:広中康人・今岡信治・田尻裕司・女池充・星川隆宣・佐藤宏・鈴木賢一郎・ポパイアート/出演:佐藤幹雄・しらとまさひこ・奈賀毬子・井出ナヲミ・大西裕・川瀬陽太・山崎瞳/ナレーション:江端英久)。出演者中大西裕は本篇クレジットのみで、ナレーションの江端英久が正確には、井出ナヲミと大西裕の間に入る。
 タイトル開巻、流石に神奈川から徒歩で来た訳ではあるまいが、しらとまさひこ(a.k.a.しらとまさひさ)が東京の土手を走る。劈頭と掉尾を飾る、江端英久のナレーションが起動、「それは母が亡くなる、ずつと前のことでした」。
 母親が亡くなるずつと前に、郷里の父親がサイドブレーキ云々で自分の車に轢かれて急死。横浜で大学生活を送るカワイ健司(しらと)は帰省する金がなく、パチプロの兄を頼るもちやうどその時奈賀毬子とヤッてゐる真最中の、良介(佐藤)もオケラだつた。潔く母親に泣きついて、振り込んで貰へばチャッチャと事済むやうな気もするのは、それだと物語が動かない。二人は良介のパチプロ仲間に、金を無心しに行く。
 配役残り、翌年山咲小春に改名する山崎瞳は、最初良介と悶着を起こす喫茶店のウェイトレス・春代、屋号は多分「POKO」。川瀬陽太が、件のパチプロ仲間・木村。兄弟がアパートに辿り着くと木村もヤッてゐる最中で、相手はその日口説いたばかりの春代であつた。とかいふ、ありがちかアメイジングな世間の狭さ。紆余、曲折後。春代を二親等に譲る腹を固めた健司は、サラ金で金を借りソープに、大西裕は素晴らしくそれらしく映る店員。井出ナヲミが、特上と大西裕にオーダーしたにも関らず、健司の前に現れる肉襦袢、誰も特大とはいふてない。終盤まで温存されながら、濡れ場要員といふよりも寧ろ出オチのコミックリリーフとして、遅きに失した三番手が始終の推移に水を差す、量産型裸映画特有の悲劇を巧みに回避する。その他、プロジェク太の画質が壮絶でとかく要領を得ないけれど、「POKO」店内には内トラが投入されてゐるかも。
 国映大戦第五十二戦にして初となる小屋での本戦は、地元駅前ロマンに未配信作が飛び込んで来た、上野俊哉の「したがる兄嫁」第三作。尤も三本目とはいへ、弟も都落ちする無印第一作「白衣と人妻 したがる兄嫁」(1998/脚本は全て小林政広)と、その直後を描いた「したがる兄嫁2 淫らな戯れ」(1999)に対し、兄と兄嫁の馴れ初め、あるいは兄弟と兄嫁の出会ひを描いたプリークェルの「エピソード1」である旨、ラストの手書き字幕でも爽快に謳はれる。翌年、更にもう一本続く「新・したがる兄嫁 ふしだらな関係」(2001)は、ナンバリング二作で弟役の江端英久を兄貴に、今作の兄・佐藤幹雄を弟に据ゑた対偶のやうなキャスティングによる、三人の名前から変つてゐる所謂リブート作。改めて俳優部の相違を整理しておくと、前二作に於ける兄弟と兄嫁が、本多菊雄と江端英久に葉月螢、新の兄嫁は宮川ひろみが演じてゐる。
 二三番手を共々一幕・アンド・アウェイで通り過ぎる一方、絶頂を描くのを頑なに拒む据わりの悪さか小癪ささへさて措けば、男優部三冠も達成する、主演女優の裸は正攻法の濡れ場で質的にも十全に量的にもふんだんに拝ませる。そんなに飯が旨いのか、田舎に帰ると佐藤幹雄が体からデカくなるのかよだの、どれだけ壮絶な人生を送れば精々セイガクの間僅か数年で、白土勝功が江端英久になるのといつた類の、児戯じみたツッコミに戯れるつもりもない。ただ、一点如何せん看過能はざる、致命的な瑕疵が。最初は春代の側から―良介でなく―健司にさういふ形で膳を据ゑる、放蕩息子が年貢の納め時で家業を継ぐべく帰郷するに際して、嫁を手土産代りに連れて帰る展開の主要な構造、乃至さういふ感覚が土台肯んじ難い旧弊。誰と誰であれ誰かを誰かの、オプションにするのは間違つてゐる。当時の空気なんてとうに覚えてはゐないが、これがシレッと通つたか、二十世紀。春代の移り身、もしくは直截に尻の軽さについては、何せしたがる人につきもう仕方ない。青いほど若い川瀬陽太に触れるのも、それはそれとしての興を覚えなくもないとはいへ、木村の他愛なくしかない“自分なり”探しも所詮、木に竹も接ぎ損なふか枝葉も枯らすモラトリアムな自堕落。さうかう、あれこれするに。「淫らな戯れ」こそ「スーパースター21」パートを主にエッジの効いたキナ臭さが弾けつつ、そもそも「したがる兄嫁」、そんなに面白かつたのか。一頃の流行りもとうに廃れたきのふけふ、この期に及ぶにもほどのある疑問を、新版公開が惹起する。ピンクならではの椿事が、何気に趣深い。

 最後は再び江端英久のナレーションで、「それが兄嫁との、隠された過去の出来事だつたのです」。結局、順にエピソード2→3→1と来て、明後日か一昨日に飛び4以降に連なることのなかつたシリーズ構成に関しては、こゝで実は健司と春代に関係を持たせてゐた、持たせてしまつた風呂敷を、如何に畳んだものか窮したのも否めないのではなからうか。


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