真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「巨乳ソープ 谷間でイつて!」(1996/製作・配給:大蔵映画/監督:小林悟/脚本:如月吹雪/撮影:柳田友貴/照明:藤森玄一郎/編集:フィルムクラフト/助監督:佐藤吏/スチール:佐藤初太郎/タイトル:ハセガワプロ/監督助手:堀禎一/照明助手:那雲哉治/録音:シネキャビン/現像:東映科学《株》/協力:吉原・エルメス 03・5603・0233/出演:細川しのぶ・吉行由実・風間晶・雪村まどか《新人》・坂入正三・山本清彦・真央はじめ・白都翔一・港雄一)。確認出来てゐる藤森玄一郎の照明部メイン作は、ほかに杉浦昭嘉2000年第二作「愛人・人妻 ふしだらな性癖」(監督・脚本・音楽:杉浦昭嘉/主演:葉月螢)、最近は一般映画でチョイチョイあるみたいだけれど。
 実名登場吉原のソープランド「エルメス」、目下はララァ・スン専用モビルアーマーに改称といふのは完全無欠に不必要な与太で、なほかつ店自体が現存してゐるや否やも知らん、我ながら酷過ぎる。源氏名くららこと里中有希(細川)が、常連客の森村(坂入)を決戦兵器たる迫力に満ちた爆乳を活かしパイズリで抜く。元々親の借金が原因で泡風呂に沈み、金の方は完済した有希はトルコ稼業に嫌気がさし、先輩のゆかり(吉行)に足を洗ふ希望を適当に口にするも、ゆかりはファーストフード店で働いたところで、客に顔バレして終りだと突き放す。イヤイヤと頭(かぶり)を振る細川しのぶの、服を着てゐてもブルンブルン揺れるオッパイを押さへる誠実が麗しい。深夜の帰宅、ボディコンのロングが如何にもタイトル・インにうつてつけの画に見えたのは早とちり、有希はストーカーと化した森村に追ひ詰められる。その場に通りがかつた、通りすがりの好青年・健太(山本)は妙な戦闘力を発揮し森村を一撃で昏倒、気を失つた有希をいはゆるお姫様抱つこで運ぶ。実は意識を取り戻した有希が、気絶したまゝのフリに改めてタイトル・イン。別れ際に名刺を渡した有希は後述する果歩の冷やかな視線も意に介さず健太からの電話を待ち侘びつつ、やがて看護婦への道を本気で歩き始める。
 配役残り風間晶は、何かにつけて有希を矢鱈と小煩く敵視するのなら、同居生活を解消してしまへばいいのにとしか思へない、有希のルームメイト・中林果歩。バーケーな造形にてつきり場末のホステスか何かかと思つてゐたら、普通の勤め人だといふのにはそれでOLなのかと意表を突かれた。堅いコンビネーションで二人して清々しいまでのダニぶりクズつぷりを披露する白都翔一と真央はじめは、ゆかりのヒモ・ツグオ?と、ツグオを度々麻雀でカモる遊び仲間。無論、負け金の形方便で濡れ場に突入するのはある意味王道展開。尤も、まどかと後に有希とで、一本の映画の中で同じカードを二度切つてのけるのは信頼は兎も角量的な実績は比類ない貫禄の大御大仕事。港雄一はエルメスのオーナーだか店長で、踊り子らしい雪村まどかが、エルメスに入店するハーセルフ。新人の“お勉強会”と称して、如何にも港雄一らしく女をいいやうに貪る絡み。実際に緊張してゐる風に見えるまどかが、一回他人の目を見る勢ひでカメラの方を向く。
 小林悟1996年全十一作中第九作、ピンク限定だと九の八。数年前までは“最後の”詐欺を幾度と繰り返してゐたにしては、デジタル時代に突入してなほ相変らず定期的に薔薇族の新作が作られ続ける現状が、何気に不思議でさへある。己の話で恐縮だが、小屋でのみ戦つてゐた頃は、ピンクの感想千本なんて目指すのは勝手だが辿り着けないかもなと、片足諦めかけた日もあつた。クソ以下の懐旧はさて措き、足を洗ふ腹のトルコ嬢が、ストーカー化した常連客に襲はれたりパイセンのヒモに犯されたりしながらも、最終的には憧れの色男とラブラブに結ばれる。桃色の量産型娯楽映画でなければ、あるいはであるのをいいことに、まるでバーホーベンでも撮らないやうな底が抜けるか腰も砕ける物語ではあれ、細川しのぶと吉行由実。四峰の巨山の否応ない破壊力と、有希の部屋着にシースルーのチュチュのやうな無茶苦茶な衣装を着せる、それはそれとしてそれなりの至誠。有希の想ひ人を豪快に誤解した果歩が森村を寝取る―寝取つたつもりの―ネタのオチがない点に関しては画竜点睛を欠くにせよ、裸映画的には徳俵一杯一杯に辛うじて止(とど)まる、詳細に判定するとチョロッとはみ出てるやも知れないけれど。

 最後に、チーフついでにセカンドの話も。現在CMディレクターとして活躍する那雲哉治は、本篇上映前の映画館で御馴染「NO MORE 映画泥棒」の監督。さうかうしてみると、二十年の歳月があれやこれや感慨深い、マオックスもだけどサカショーとか今どうしてるんだろ?


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 「ボインのお宿 熟女大宴会!」(2016/製作:加藤映像工房/提供:オーピー映画/監督:加藤義一/脚本:深澤浩子/撮影監督:創優和/編集:有馬潜/録音:小林徹哉/音楽:OK企画・友愛学園音楽部/助監督:小関裕次郎/監督助手:植田浩行/撮影助手:福島沙織/照明応援:佐藤雅人/スチール:本田あきら/着付・髪結:佐倉萌/ロケ協力:嬬恋村フィルムコミッション/録音所:シンクワイヤ/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:伊織涼子・加山なつこ・折原ゆかり・深澤幸太・津田篤・紅森伐人《写真出演》・柳東史)。出演者中、紅森伐人は本篇クレジットのみ。
 旅館の女将ぽい和服の伊織涼子と、従業員のやうな法被の津田篤の絡み。遺影か、伊織涼子は最中傍らに置いた紅森伐人(=鎌田一利)と写つたスナップをチョイチョイ見やる、完遂してタイトル・イン。嬬恋の傾いた―温泉は出ない―旅館「浜や」。十年前に事故死した両親から「浜や」を継いだ三姉妹の長女・浜口純子(伊織)が女将として、三女で仲居の理恵(折原)と切り盛りする。純子の夫(紅森)はアルバイトの仲居と駆け落ち、風景の撮影に嬬恋を訪れた山田健太(津田)が「浜や」に置いて貰ふ代りに下働きと、純子のいはゆるバター犬を務めてゐた。開巻に話を戻すと山田は正直閉口しつつ、事後乱雑に箪笥の中に放り込まれるスナップは純子が山田との情事を、見せつけてゐるつもりの格好だつた。婿に逃げられるのも仕方がない、愚かしい女だ、痛くも痒くもないは。
 他愛ない憎まれ口は兎も角、そんな「浜や」に三姉妹の次女で、二十年前に上京し郷里を捨てた真由美(加山)が不意に戻つて来る。当然居心地がいい訳がなく、何気にキナ臭い「浜や」に続けて、見るから危なげに沈痛な中年の一人客・大島俊之(柳)が現れる。大島の顔に見覚えを感じた真由美は旅館ブロガー・宿吉(アイコンは柳東史の二役)に辿り着き、「浜や」の名を上げる千載一遇のチャンスだと純子と理恵にハッパをかける。
 配役残り目深に被つたキャップで満足に顔も見せない深澤幸太は真由美の同級生で、純子に筆を卸して貰ひ、理恵を水揚げした過去を持つ島本大助。現在は―恐らく継いだ―酒屋「島本酒店」の大将、袖の振れぬ「浜や」の酒代を何ヶ月もツケてゐる。一日撮りの城定秀夫でも自分達でどうにかしたのに、「浜や」を賑す団体客が人つ子一人見切れないのは、スポイルされたかに見せる地味に致命傷。
 エロVシネ畑で活動してゐるらしき、深澤浩子を新たな座付脚本家に擁した―今のところ三作連続起用―加藤義一2016年第一作。因みに三本柱は熟女×爆乳AV女優ユニット「3boins」を結成し目下も活動中、ついでに年齢の公称がビリング順に46・45・41。オッパイはそれは好きだが肉襦袢は論外で、元来の年上嗜好を拗らせた基本年増好きといつて、ものには限度がある気合の足らない性癖の愚生にとつては、正直最大限によくいつて裏ローテのやうな女優部ではある。
 閑古鳥の鳴く旅館の一同が、アルファな来客の登場に文字通り色めきたつ。狙つたのか単なる量産型娯楽映画の大海から生み出された豊かな偶然か、我等が前田有楽こと正式名称「有楽映画劇場」ではちやうど前の週に上映されてゐた、新田栄の「熟女温泉女将 うまのり」(2001/脚本:岡輝男/主演:仁科夕希)とまあよく似た物語に、2006年第三作「混浴温泉 湯けむりで艶あそび」(脚本は相変らず岡輝男/主演:上原空)以来十年ぶりの忘れた頃に師匠のスピリットを継承するいい湯加減の一作を期待しかけたのは、明後日だか一昨日な早とちり。確かに羽目を外すとはいへ、碌に弾けもせずにマッタリマッタリ尺を喰ふ漫然とした人情劇は、その癖無神経に毒ガスサリン事件を二人の馴初めに持ち出すクスリとも来ないブラックジョーク―の、つもりなのか?―も癪に障り、斯様な代物を寝落ちもせずに観通した己が不思議に思へるほどに、清ッ々しく面白くも何ともない。深い山の中や奥行きを望めるロケーションを活かし、ロングを多用するショットはそこかしこ―の繋ぎのカット―で―無駄に―気を吐く一方、肝心要の濡れ場は何でだか総じて妙に暗い。大体、棚牡丹の団体客を丸々オミットした結果、最大の敵と三姉妹がジェット・ストリーム・アタックを敢行どころか単騎でも誰一人交戦しない、即ち看板に謳つた“熟女大宴会!”を完全にスッ飛ばしてのける豪快な姿勢には、改めて思ひ至るや吃驚した。加へて恐ろしいのが城定秀夫や山内大輔に紛れて、今夏開催されるOP PICTURES+の特集上映に今作を絡めた大蔵のブレイブ。ブレイブといふか蛮勇といふか、狂気の沙汰といふか。最短距離で直截にいふと、大丈夫?(´・ω・`)


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 「痴漢電車 淫コースは夢いつぱい!」(2016/製作:ラブドワンフィルムズ/提供:オーピー映画/監督・脚本:小山悟/脚本:鬼多麿/撮影監督:創優和/編集:有馬潜/録音:松島匡/スチール:阿部真也/音楽:膳立煙猫/助監督:躰中洋蔵/撮影助手:福島沙織/制作応援:山口通平 《有》アウトサイド/MA:EEスタジオ/仕上げ・効果:東映ラボ・テック/美術協力:相川瑞紀/衣装協力:羽生研司/ロケ協力:BAR KICK-ASS/出演:きみと歩実・広瀬奈々美・岡田智宏・金井みお・倖田李梨・青山真希・世志男・大瀬誠・柳東史・北川帯寛・鎌田軍団・射内妖造・小鷹裕・森羅万象)。出演者中、北川帯寛以降は本篇クレジットのみ。
 シーズンオフのトレーニング中に、管理部長・後藤(終始電話越しの声しか聞かせない主には辿り着けず)にオーナー室への聞くからキナ臭い呼び出しを受ける、弱小プロ野球球団「鮫島ドルフィンズ」の元エースながら、目下は長く二軍ことファーム“農場”に燻る水野聡(岡田)の姿と、自らドルフィンズの熱烈なファーム女子たる鮫島優子(きみと)による、ファーム選手の心と体のお世話をする、要はさういふ塩梅のファーム女子のイントロダクションを噛ませてタイトル・イン。相川瑞紀の作か、イルカとサメのマスコット・キャラクターが並ぶ、ドルフィンズのロゴが結構な出来。ついでにドルフィンズの個人オーナーは鮫島といつて、別に清水大敬ではない。
 痴漢する男(森羅)と、何事か弱みを握られてゐるらしき佐々木千春(金井)が大概破天荒なプレイを仕出かす痴漢電車―乗客要員が鎌田軍団―に食傷しつつオーナー室に出向いた水野に、オーナーの鮫島奈美(倖田)は戦力外を通告する。水野は度重なる肘の故障からの復帰後、セオリー通りとかいふアウトコースのドロップを嫌つた、キャッチャーの壁田壁男(世志男)が要求するインハイを投げ損じ、対戦相手「西京スコーピオンズ」のトマホーク島田(柳)の頭部に危険球。以来車椅子の島田は廃人状態、水野はイップス―精神的要因に基く運動障害―に陥り投げられなくなつてゐた。壁田は奈美への捨て身の直訴で水野の一人自球団トライアウトの機会を勝ち取り、優子も巻き込んだ三人四脚で、水野の復活を目指す特訓を開始する。
 配役残り大瀬誠と、今上御大・小川欽也のデジタル時代も独自の地平を飄々と爆走する最新伊豆映画「エロ番頭 覗いてイヤン!」(2015/監督:小川欽也/脚本:水谷一二三=小川欽也)からピンク映画二戦目となる広瀬奈々美は、愛称が何でだか“ジョーズ”のドルフィンズ若手ピッチャー・高田望と、ジョーズを喰ふ、もといお世話するファーム女子・久万里由香。広瀬奈々美は「覗いてイヤン!」時よりも幾分以上に、リファインされた印象を受けた。北川帯寛は島田の急死を受け―さうとも知らず―痛飲する水野を、取材するスポーツ紙記者・吉村。青山真希は、千春を事実上飼つてゐた森羅万象の、飼ひ主となる東海林瑠美。水野と千春がいい雰囲気で会話する背景に、こだまする森羅万象の悲鳴が笑かせる。他一名と小鷹裕(=膳立煙猫)とされるドルフィンズその他ファーム選手が、何処で見切れてゐたのかは失念。大瀬誠に話を戻すと、何気にジョーズと奈美が男女の仲といふ次第で、倖田李梨までもが本濡れ場を敢行するお年玉布陣には油断してゐて軽く吃驚した。
 いんらんな女神たち勢の中で一人飛び抜けた小山悟の単独第三作は、元日封切りの栄えある大蔵伝統の新春痴漢電車。とは、いふものの。男主役の水野が乗るんだからいいぢやねえかといはんばかりに、幾分ドラマ上の救済措置も施されるにせよ三番手―と不脱の五番手―しか乗らない痴漢電車は正直申し訳程度。水野が握りかけたボールを落とした時点で、この物語に始めから電車は走らなくとも特にも何も一切影響はない。といつて、さういふ偏狭な難癖はこの際些末にすら当たらず。
 小山悟の正月痴漢電車の、痴漢電車要素が取つてつけた為にするものである点は、本来ならば量産型娯楽映画中の量産型娯楽映画たる定番映画的には真偽に関る重大な問題ともいへ、だからそれどころではない。「貴方はまだ終つてない」、「一生詰まんない顔して生きて行くのか?」、「俺達は何時までも農場の家畜ぢやない」。再起を図る負け犬達の物語はインハイに150キロ越えの剛名台詞をドカンドカン叩き込み続ける、強力にエモーショナルなダメ人間映画。加へて、可愛い女の子が失墜した者の背中を観音様で押して呉れる。現実的には宝くじが当たるよりも確率の低いファンタジーを、裸映画の下駄を履き堂々とフルスイングしてのけるのも麗しい。ピンク映画六戦目のキャリアで培つた地力できみと歩実(ex.きみの歩美)が撃ち抜く、「貴方はまだ終つてない」にはここだけの話ジワッと来た。穴のない女優部以上に特筆すべきは、凡そ二十年選手にして、ここに来てのキャリアハイをも思はせる岡田智宏の陰のある二枚目ぶり。壁さんの44番の背番号越しに、水野がゆつくりとマウンドに上がるスローモーションのロングは、裸映画から裸を差し引いてなほ決定的な超絶にカッコいい一大名ショット。それだけに、最終的には果敢に大きな嘘をつききれなかつた結末が重ね重ね残念無念。さんざ積み重ねておいて、セオリーだかリアリズムだか知らないが、外角低めの落とし処なんてスカッとしないぜ、壁さんに説教して貰はないかん。城定秀夫の電撃大蔵上陸作に際して同じやうな、といふか全く同じ与太を吹いたが、ベタなりダサさをものともせず大魚を釣り上げる、覇気に土壇場で欠いた狂ほしく惜しい一作。尤もきみと歩実の「貴方はまだ終つてない」一撃の威力で、個人的には今作の方が「悦楽交差点」よりも全然強い、面白いといつてゐる訳ではない。最後の最後に銀幕のこちら側に残る問題は、新春痴漢電車まで任された小山悟の、その後が聞こえて来ない件。限りなく限られたパイを奪ひ合ふしかない現状で、なかなか以上に難しいところでもあるのだらうけれど。


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 「恋人百景 フラれてフつて、また濡れて」(2015/制作:Blue Forest Film/提供:オーピー映画/監督:竹洞哲也/脚本:当方ボーカル/撮影監督:創優和/録音:山口勉/編集:有馬潜/音楽:與語一平/整音:高島良太/助監督:小関裕次郎/監督助手:植田浩行/撮影助手:酒村多緒・福島沙織/スチール:阿部真也/協力:嬬恋村フィルムコミッション/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:友田彩也香・樹花凜・加藤ツバキ・横山みれい・倖田李梨・ダーリン石川・イワヤケンジ・山本宗介・津田篤)。
 ぐだぐだなすつたもんだの果てに共演作多数の同業者・三沢琢磨(ダーリン)と別れた女優の原聡美(友田)と、助監督の小野寺良(津田)は付き合ひ始める。とはいへある意味聡美が踏む同じ轍か、相変らず自堕落な関係の末に、聡美主導で小野寺とも終止符。その後デビュー戦の三輪理佳(横山)ではやらかしたAV監督で一山当てた小野寺は、知つてか知らずか、俳優業を廃業した三沢が戻つた実家のある、嬬恋にて戯れな出会ひ系を介し佐々木房子(加藤)と出会ふ。
 新規配役山本宗介は、前後篇通して繰り返し登場する居酒屋「すなっく 美蔵」の新人イケメン店員・加藤晴明、田舎暮らしに憧れちやつた口。房子の妹・凜(樹)の男性遍歴回想中、唯一首から上が抜かれる元カレは小関裕次郎。量産型しらとまさひさのセンの山口大輔がゐれば、もう少し画になつたのに。続投組配役残りイワヤケンジは房子が一度は見合を断る、後がないのに農家の跡取り・高山義男、倖田李梨は他人にしか興味のない嬬恋民・刀根公佳。
 三週間前に公開された前作「恋愛図鑑 フつてフラれて、でも濡れて」と連続した二部作を構成する、2015年竹洞哲也、今時驚異の第六作。友田彩也香と津田篤のモノローグで交互に繋ぐ前半は、友田彩也香の裸はタップリ拝める程度で相ッ変らずマッタリする。尤もまたぞろ何時もの小細工に興じるばかりの竹洞哲也かと、食傷するのはまだ早い。といふか恋愛図鑑からだと通算で、既に百分捨ててしまつてもゐる次第なのだが。ところが互ひに対する憎悪に両足突つ込んだ苛烈な対抗心と、誰彼構はず周囲に向けられた剥き出しの敵意とを壮絶に撃ち合ふ房子・凜の佐々木姉妹が前線に飛び込んで来るや、後篇後半は猛然と急加速。前篇で披露済みのソリッドな不機嫌さを質・量ともに思ふ存分狂ひ咲かせる、加藤ツバキのイグニッション感が圧巻。そして、ブッ千切つてゐた筈が気がつくと房子に置いてかれてゐた、凜こと樹花凜が綺麗に忸怩と地団太を踏むデッドヒートの、その先で辿り着いた地平とは。各人の美しいショットを連ね、性懲りもなく同じ過ちを繰り返し、それでもなほ次の恋に胸をときめかせる。恐らくは遺伝子レベルで学習機能といふ言葉から遠い、銀幕を挟んだ此岸も彼岸も全て引つ包めた迷つてばかりの衆生に注がれた仏の視座にも似た、殆ど慈しみにすら近い、穏やかではあるけれども同時に力強いエモーション。三沢がバンクでしか登場せず、理佳もほぼ全く等閑視されて済まされる辺りは群像劇にとつて百点満点の大団円には些かならず至らないものの、正直竹洞哲也が小松公典とのコンビで斯くも素晴らしい映画を撮るとは思はなかつた、吃驚した。我慢させられたかに思へた百分も、必要に積み重ねた決して無駄な時間ではなかつた魔術に、まんまとしてやられた。それとも、小松公典が長く採用する明らかに過多の情報を詰め込み倒し続ける戦法が、実を結ぶには十分延びたとはいへピンクの尺では短過ぎるといふことなのか?それならばそれで、逆に重大な問題のやうな気もするが。


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 「絶倫玉さがし」(昭和53/企画・製作:新東宝興業株式会社/配給:新東宝映画/監督:栗原幸治/脚本:堀之内透/撮影:伊東英男/照明:磯貝一/音楽:鴾野稔/録音:福田伸/効果:サウンド184/編集:室田雄/助監督:成田裕介・磯村一路/撮影助手:倉元一人/照明助手:西池彰/スチール:田中欣一/録音所:ニューメグロスタジオ/現像所:ハイラボセンター/協力:目黒エンペラー Tel 494-1211・ホテルニュー足立 Tel 848-5151・銀座アラジン Tel 567-3623/出演:椙山拳一郎・杉佳代子・橘雪子・しば早苗・岡本五郎・永田道子・青山涼子・高島亜美・ちなみらら・国分二郎)。脚本の堀之内透は、栗原幸治の変名。ロケ先のラブホを電話番号までクレジットする、Win-Winの繋がりが麗しい。それと何気にでもなく、助監督が凄い面子。
 産婦人科医の遠山(国分)が、一回五十万成功した場合百五十万と割とでもなく高額な料金で、一発で妊娠させる男を顧客の下へ差し向ける、あちこち箆棒な要件の電話を横柄に受ける。ジャージ姿で強精料理を掻き込む、当の種馬氏・草野(椙山)にタイトル・イン。クレジット明け、亭主に余所の女を抱かせて平然としてゐる細君・キミコ(杉)登場。因みにこのお二人、昭和46年に結婚おしどりぶりで知られた実夫婦。普通の食事が摂りたいと目下の稼業に食傷する草野に、キミコがハッパをかける一幕。世界が天才ばかりになれば?といふ草野の問ひに対し、キミコの答へがズバリ「平和になるは」。そのココロは戦争も犯罪も馬鹿が起こすとのことで、まるで大雑把なニュータイプ思想の趣ではある。来宅してのクライアントを控へ、雑事はお手伝ひのトシコ(青山涼子/a.k.a.愛染恭子!)に任せ外出したキミコは、元々は草野の友人であつた遠山と逢瀬する。トシコの化粧があまりにも濃くて、改めて調べてみるまで全然気づかなかつた。不思議なことに、若い頃は訛もないし。
 配役残りまだ肉感的の範囲内に止(とど)まる橘雪子が、キミコと入れ違ふ形で草野家に入る台所でするのが好きな女。岡本五郎としば早苗は、交通事故で男性機能を失した十文字デパート社長令息と、その妻・ケイコ。問題が女優部残り三人に手も足も出ない、草野の一物を萎えさせる今でいふBBAと、穴が異常に小さいとの藪蛇な設定の、首から上も下も今でも全然通用する上玉に、産油国の皇太子と婚約させる女の子、を産ませるために草野と致す元華族の那須野千草嬢。この中で、草野と上玉が相見えるのは目黒エンペラー、ベッドに“MEGURO”と書いてある。
 DMMで名前も知らない監督の古いピンクをとりあへず見てみる、無造作な愉悦の過程で辿り着いた栗原幸治最終作。若くして亡くなつたらしく、既に故人の栗原幸治のザックリとすらしてゐない略歴としては、日芸経由の若松プロ出身、栗原姓の複数名義で活動した映画製作・配給会社「東京興映」(ex.小森白プロダクション)と命運をともにする格好で、昭和48年一旦キャリアが途絶える。昭和52年師匠のATG映画「聖母観音大菩薩」の助監督で現場復帰、栗原秀光名義の「痴漢特ダシ公園」(同/矢張り新東宝)を経て、今作に至る。
 映画の中身は草野が外で産ませた子供がことごとく天才児である事実に注目した遠山が、草野の種での一儲けを思ひたつ。なかなか豪快だか強引ともいへ、如何にも桃色の量産型娯楽映画に相応しい物語、かと思ひきや、これが案外一筋縄では行かない。元々夫婦の不仲の源が自らの不妊にあつたキミコが、草野に対する複雑な―殆ど前者を完全に抜いた―愛憎を滲ませる、ホテルニュー足立か銀座アラジンでの遠山との情事。正直煩雑さを覚えなくもないほどカットを結構割つてみたり、頑なに女しか抜かない濡れ場には決して裸は疎かにはしないまゝに、栗原幸治が映画に捧げた情熱を垣間見させて、おいて。続くその頃の草野家ではの草野と橘雪子の一戦に際しては、橘雪子の狂乱に連動して台所のザル篭を頓珍漢なSEとともに乱舞させる、グダグダといふかグジャグジャなコメディ演出を披露、もしくは仕出かす。出張しての対ケイコ戦では、全身を包帯でグルグル巻きにされる十文字デパート社長令息に、悲運の名馬・テンポイントを絡める謎モチーフ。正直少なくとも今となつてはあまりにもダサ過ぎて苦笑しか湧いて来ない、伊勢功一の「泣くな!テンポイント~涙で蹄を濡らすな~」をこの時代の大らかさで堂々と―ほぼフルコーラス―実曲使用してのけるのは寧ろ、しば早苗的には折角の見せ場を邪魔されたとさへいへるのではなからうか。ヤル気があるのかルーチンなのか、とかく安定しないトーンの果てに、終に観音様には勃たなくなつた草野が、種馬業の合間にトシコの菊門を無理から犯す地獄絵図を通過するや、今度は後者を殆どオミットした悲喜劇に真つ逆様。長閑な公開題には反し、ダークに片足突つ込んだペーソス漂ふラストには、あるいはかつて夢見たやうには恐らく戦へなかつた、栗原幸治自身の投影を勘繰り得るのかも知れない。


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 「セックスサスペンス リズの熱い肌」(昭和59/製作:小川企画プロダクション/提供:オーピー映画/監督:小川和久/撮影:柳田友春/照明:内田清/編集:金子編集室/脚本:水谷一二三/音楽:OK企画/助監督:細山智明/演出助手:石崎雅幸/撮影助手:古谷巧/照明助手:坂本武/効果:協立音響/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東映化学/出演:モニック・ニコルソン、三条まゆみ、佐々よし子、吾妻二美、柚木かおり、北白川早苗、武藤樹一郎、鶴岡八郎、久須美欽一、椙山拳一郎、速見健二、姿良三、後田三津夫)。出演者中北白川早苗が、ポスターには北白川由美。それとポスターには名前のある高見澤ミカが、本篇クレジットには―劇中それらしき頭数も―見当たらない。恐ろしく中途半端な位置にクレジットされる脚本の水谷一二三と出演者中姿良三は、小川和久の変名。“配給:大蔵映画”ではなくオーピー映画提供としたのは、白黒OP開巻に従つた。
 何処のものか判らんネオン開巻、適当な洋館の画に秒殺タイトル・イン。レストラン「リード」の手洗ひでメイクしてゐたバニーガールのリズ(モニック・ニコルソン)が、捕まへに来た男AとB(久須美欽一と速見健二)から逃げる。一方、東西工業宿直室。趣味が高じて拳銃を密造する峯昭夫(武藤)がその晩顧客に渡す銃を仕上げてゐると、点いた灯りを頼りにリズが飛び込んで来る。ただならぬ様子にとりあへずリズを匿ひ、追つて来た男AとBにも意外とおとなしくお引き取り頂いたところに、田島(姿)がブツを受け取りに現れる。リズを見つけた田島は、黙つておいてやるよといはんばかりに代金を払はずに帰る。香港売春組織から逃げ、旅券も持たないリズを、峯は一旦家に入れる。洋服を買つて来た峯に感激したリズが熱い肌を任せた翌日、昼間の東西工業にまで男AとBが峯を訪ねて来る。ボスとの面談にと指定されたバー「パピヨン」にて、峯は妖艶なホステス・白容(三条)と出会ふ。
 正直女優部後ろ三人に手も足も出ない―役名は拾つたものの、誰がどの女なのかが詰めきれない―配役残り、柚木かおりと北白川早苗が、峯の同僚で自分から峯を食事に誘つてみたりする啓子と、仏頂面で口数の少ない美沙?後田三津夫は尾行して峯のヤサを特定する、男Cではなくして子分、とクレジットされる。鶴岡八郎が組織のボス・陳で、佐々よし子は香港のファッション・ショー出演を出汁に、陳に喰はれる女・朱実。吾妻二美は、パピヨン控室で白容と会話する女・雪江?但し白容にはマリと呼称される。椙山拳一郎が、男Aをテツと呼ぶ更に兄貴分・中村。陳の顔に唾を吐きかけたリズに、テツと二穴責めを敢行する。
 この年は三条まゆみ主演作とパツキン女優ものしか撮つてゐない、小川和久(現:欽也)昭和59年第八作。ケバいばかりのポスターには反し、実際には案外シュッとした美人のモニック・ニコルソンは、八月公開の「USAギャル SEXカウンセラー」(監督:飯泉大=北沢幸雄)・九月公開の今作・十一月公開の「USAセックスギャル 痴漢金髪電車」(監督:市村譲!)と三本の大蔵映画に出稼ぎ、市村譲の痴漢電車が激越に観たい。
 薬品学科―劇中台詞ママ―出身だとかで副業に拳銃を密造する男が、画期的に訳アリの金髪バニーガールとミーツする。イントロダクションで既に眩暈のしさうな物語は、何でまたこの期に及んで、オーピーが斯様な代物を津々浦々に回さうと思ひ至つたのだか沙汰の限りではない感も迸らせつつ、未見の旧作と未知の新作との間に特段の差異を認めない当サイトの立ち位置としては、何にせよ観たことのない映画が観られるのは大いに有り難い。冒頭でブッ千切つたかにみせて、以降の展開は火に油を注いで猛どころか超加速。峯が男Bと子分を纏めて始末する件では、白容が右腿に常備するのと、その時は胸の谷間にも忍ばせてゐた二丁の拳銃を、白容の腰に回した両手首を十字に交差させ左右逆方向に撃つムーブも披露。一割増の六十六分と幾分長い尺とはいへ勿論濡れ場の分量は一欠片たりとて疎かにはしないまゝに、妙に戦闘力の高い一介のサラリーマンがあれよあれよと国際犯罪組織を壊滅させるのは、ある意味夢のやうな娯楽映画の怪、もとい快作とでもしか最早讃へやうがない。自棄を起こしたり匙を投げた訳では、多分ない。死体の山を築いた陳邸からの捌け際、迫る―パトカーの―サイレンにも峯が正当防衛と高を括つてのけるのは、小川欽也は銃砲刀剣類所持等取締法といふ律の存在を知らぬのかと、釣られた方が負けなのは判つてゐながらあへて突つ込むのは、俺なりせめてもの毒を食らはば皿までの態度。


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