真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「女子大生セックス占ひ」(昭和59/製作:小川企画プロダクション/提供:オーピー映画/監督:小川和久/撮影:柳田友春/照明:内田清/編集:金子編集室/脚本:水谷一二三/助監督:細山智明/音楽:OK企画/監督助手:石崎雅幸/撮影助手:古谷巧/照明助手:田中照/録音:ニューメグロスタジオ/効果:協立音響/現像:東映化学/出演:三条まゆみ・立花裕子・しのざきさとみ・杉佳代子・風間美香・大山潤次・椙山拳一郎・山本竜二・速水健二)。クレジットには大蔵映画株式会社配給とあるものの、オーピー映画提供としたのは白黒オーピー開巻に従つた。脚本の水谷一二三は、小川和久の変名。
 スッケスケのネグリジェの三条まゆみが、人目も憚らず窓辺にて溜息ひとつ、曇天の街景ロングを抜く。ところで三条まゆみが公称を真に受けると、日曜日封切りは考へ難いゆゑ今作公開時点で二十五歳。正直女子大生役には疑問符も浮かばざるを得ない山口圭子(三条)宅のベッドには、既に会社には間に合はない、恋人で雑誌編集者の真木(大山)が勝手に焦れてゐる。ヤリたくてヤリたくて辛抱堪らん真木に対し、性行自体に未だ乗り気でない圭子の立ち位置を案外手堅く見せた上で、ベッドを引きで捉へた画から、手前に置いたお花にピントを送つてタイトル・イン。a.k.a.柳田“大先生”友貴のカメラがカット頭では画角に凝つてみたり、特に何もないところにスーッとパンして、何事もなかつたかのやうにシレーッと元の位置にまた戻る。前人未踏ないし理解不能の―黒―魔術的カメラワークを仕出かすこともなく、寧ろ拍子抜けするほど順当な仕事ぶりを披露してみせる。初戦をザクッと中途でブッた切つての、最早開き直つたか真木が慌てるでもない出勤風景。圭子も圭子で大学には行かず、週刊誌に与太記事を書いて貰ふ縁で真木から紹介された、「平田セックスクリニック」の助手的アルバイトに。原稿を受け取る用件がありつつ、同伴出勤は流石に気が引け、お茶でも飲んでと一旦雑居ビルの表で別れ文字通り茶を濁して来ようとする真木に、朝食でも摂つてゐたのか店の中から往来の二人を見てゐた平田(椙山)が接触。けだし慧眼とでもいふべきか、平田は圭子の性感未開発を見抜いてゐた。もひとつ、ところで。椙拳のこめかみ付近、生え際に違和感を覚えるのは気の所為かなあ。
 配役残り、圭子らが常用するバーの、バーテンダーは多分細山智明でカウンターの一人客は小川和久。立花裕子としのざきさとみが、圭子の友達・砂原昭子と苗字不詳のエミ、昭子がタチでエミがネコの関係。椙山拳一郎と夫婦共演の杉佳代子は、夫婦生活のマンネリ解消を相談しに平田のクリニックを訪れる、人妻の会田美沙。といふか美沙の主たる出番はサシで平田の診察を受けるカウンセリング濡れ場につき、ある意味リアル夫婦生活ともいへるのか。昭子とエミから乞はれる形で、圭子は二人のマン拓と簡単な陰毛の生え具合を平田に渡し、平田が名を馳せるセックス占ひを依頼。予想外の登場を果たす山本竜二と速水健二は、山本竜二が平田がエミにマッチングする―となるとクリニックの患者である―堅物青年実業家の橋爪で、昭子にマッチングする速水健二は性的に何の問題を抱へてゐるのか全く不明な高倉、普通のプレイボーイにしか見えない。そして、茂みの中でキスこそすれそれ以上には至らないものの、綺麗ないはゆる瓜実顔で実は作中最強の美人である風間美香が、高倉の婚約者・朱実。
 ザッと探して見た感じ恐らくソクミル最終戦となる、今上御大和久時代(昭和51らしい~1998)の昭和59年第九作。が、我ながらな引きの強さに呆れるべきなのかはたまた単純な確率論の問題か、性器に跨つて、もとい世紀を跨いで二十年の時を経た、2004年第三作「痴漢義父 新妻をいたづら」(主演:水来亜矢)のパイロット作。セルフリメイクの元作ではあくまでなく、“パイロット作”とするところのこゝろはセックス・カウンセラーの平田啓介(なかみつせいじ)が、圭子(水来亜矢)のビーナス丘線―要は観音様のアウトライン―が白百合型であるのに狂喜する。といつた主モチーフを共有する程度に二作の近似は止(とど)まり、「痴漢義父~」に於いては会田でなく宮田美沙(小川真実)が看護婦で、エミならぬ藤木恵美(真崎ゆかり)は患者。そもそも圭子が息子(兵頭未来洋)嫁であつたりと、物語的には概ね別物である。
 一応十万人に一人とかいふ抜群の素質を圭子が持つにも関らずな、腰の重さといつたテーマをアバンであつらへたにしては、以降の軸は些かならず定まらない。各々高倉と橋爪を宛がはれた昭子とエミが時間差で男の味に目覚め、百合の結束が緩む展開は面白くもあれ、所詮は本丸を囲む外堀。エミが橋爪と、昭子は朱実から強奪する形で高倉と普通に結ばれる一方、性の悦びにいよいよ目覚めた圭子が、求婚を争ふ平田と真木をまとめて袖に振り、最適解を求めての男性遍歴を期す。といふ結末はそれらしくなくもない、とはいへ。致命的な悪手が、不可解極まりない全ての絡みを中途で端折る完全未遂。そのため圭子の終なる覚醒が十全には描かれず、着地点の微妙な心許なさは如何ともし難い。jmdbにもnfajにも名前の見当たらない、謎の逸材たる風間美香の不脱といふ画竜点睛の欠如も当然厳しく、開巻とオーラスを飾らない曇り空の如く、どうにもスカッとしない漠然とした一作である。


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 「小悪魔妻 美乳で誘ふ」(2020/制作:オフィス吉行/提供:オーピー映画/脚本・監督:吉行由実/撮影監督:宮永昭典/録音:奥村洋和/編集:中野貴雄/助監督:松岡邦彦/整音・DB:西山秀明/効果:うみねこ音響/選曲:竹内雅乃/グラフィック:佐藤京介/スチール:本田あきら/監督助手:高橋雄一/撮影助手:光田良樹/ポストプロダクション:スノビッシュ・プロダクツ/仕上げ:東映ラボ・テック/協力:ハイクロスシネマトグラフィ/出演:琴井しほり・真樹涼子・西山康平・可児正光・田中龍都・針田総偲・白石雅彦・紅藤マイトZ・里見瑤子)。出演者中、紅藤マイトZは本篇クレジットのみ。
 台所にてスミレ(琴井)が見るから“映える”料理を盛りつけする一方、居間では夫の浅田圭一(西山)が―タメ会話につき―全員同い年には正直思へない、大学の友達である画面時計回りに玲子(真樹)・坂上(田中)・下田(針田)らから冷やかされ気味に歓談。軽いホームパーティー的な一席に漫然と尺を費やしたのち、暗転タイトル・イン。絶妙に曲がつた口元と、恐ろしく表情に乏しい目。一歩間違へば今時のラブドールより非人間的に映りかねないビリング頭以下、谷間も挑戦的に露はな、二番手のアグレッシブな爆乳は大いに悩ましくはあれ、こゝまで五人の登場人物全員口跡が覚束ない早速かつ結構な惨事に、当然の如く起動する不安は結論を先走ると概ね的中する、して呉れんでいゝんだけど。
 ソファーで寝落ちたスミレを圭一がベッドに寝かせ、ヒット・アンド・アウェイで飛び込んで来るのは白石雅彦。ところで田中龍都と針田総偲の二人も、アバンを賑やかすだけ賑やかすと御役御免。それはさて措き二年前、スミレの亡父かつ、当時圭一勤務先の社長・健吾(白石)は臨終に際し会社と、娘を圭一に託してゐた。社長が会社はまだしも娘の配偶者をも、従業員に任せて死ぬ。この辺りの直截に片づけると「何時代の話なんだよ!」なアナクロニズムは、関根和美が先に逝き、前代未聞のレベルで梯子を外された挙句抹殺された荒木太郎と、池島ゆたかは塩漬け。袂を分つ以前に旦々舎は端から棹さしてをらず、国沢実は終に望み薄。OPP+路線に大人しく尻尾を振り、一般映画に色目を使つてゐる限り竹洞哲也は論外、王道路線の頭に“邪道”のつく、清大は資質的に論外。加藤義一の心積もりなり覚悟も今一つ不鮮明となると、その手の古めかしさは寧ろ吉行由実が大蔵本流を継承して別におかしくもない、類型的な女流監督の枠組みから吹き零れる逆説的な多様性。閑話、休題。スミレが如何にも手料理然と一堂に振る舞ひはした美麗メニューが、実は何れもデパ地下で買つて来た出来合ひの品々。元々割と深めの仲の圭一と玲子は、加へて独留学までしたピアノを指の怪我で断念しただなどと、虚言癖の領域に易々と突入する小悪魔妻のヴァニティに手を焼く。
 配役残り、何某か撮影部ぽい玲子にお疲れ様する、背中しか覗かせないセクシー熟女は吉行由実。一旦その日の業務を終へた玲子に、急遽もう一仕事捩じ込む同僚は紅藤マイトZ。舞台系の演出部らしいが、まあ俳優部的にはボサッともしない馬の骨。斯様に脆弱な布陣の中気を吐く里見瑤子は、圭一が健吾から継いだ目下「浅田エステート」―浅田は元々圭一の姓―の顧客・ハヤマ祥子。二十五年愛人として仕へた社長から、手切れ金代りに会社をブン捕つた厄介な女子、もとい女史。そして同様に命綱たる可児正光が、玲子のセフレ以上彼氏未満的な順。職業は美容師、女にモテるために生まれて来たかのやうな色男。
 松岡邦彦の名前がオーピーのクレジットに載るのが、何時以来かと探してみたところ2017年第二作「人妻ドラゴン 何度も昇天拳」(主演:二階堂ゆり)があるゆゑ、然程どころでなく離れてはゐなかつた吉行由実2020年第一作。ところが「人妻ドラゴン」の更に前ともなると、よもや勝山茂雄通算第二作「ドキュメント 性熟現地妻」(1995/主演:摩子)まで遡るのかと身構へつつ、矢張り吉行由実の2003年第一作「不倫妻 愛されたい想ひ」(脚本:五代暁子/主演:つかもと.友希)があつた、それでも十四年空いてはゐる。
 最近ではあまり見ないオッパイの二番手も二番手で、アドバンスド塾長的な意思の強さを感じさせるクッキリとした目鼻立ちは兎も角、兎にも角にも嬌声が単調な一本調子なのが地味でない致命傷。主演?女優に劣るとも勝らず台詞回しは心許なく、吉行由実がVシネ畑から連れて来たと思しき西山康平も、経年変化に抗つてゐる形跡の稀薄といふか概ね皆無な、体脂肪率から締まりがなくてしやうがない。圭一を争ふ形で対峙する玲子とスミレが、やがて順も巻き込み互ひに影響を与へ合つて行く。吉行由実ならではではある女同士のそれなりに複雑な―筈の―ドラマが、量産型娯楽映画を凡そ支へきれない、ボッロボロに穴の開いた最早網のやうな面子に粉砕された印象は否み難い。反面、そこでむざむざ敗退しはしないのが、何時の間にか二十年選手も突破した―荒木太郎や清水大敬と同期である―吉行由美の強み。出鱈目に暴れ倒させたに見せた、里見瑤子の圭一捕食で展開を大きく動かすのは、三番手投入を以て起承転結に於ける転部を成す、豪放磊落にして秀逸な大妙手。ソフトフォーカスとスローモーションを臆することなく多用する、琴井しほりと可児正光によるフレームを花枠で囲みたくなるほどの綺麗な濡れ場と、対して肉弾戦法でゴッリゴリ圧して来る、真樹涼子と可児正光ないし西山康平によるエロい絡み。綺麗な濡れ場とエロい絡み、好対照を各々見事に撃ち抜いてみせるのは吉行由実なればこその離れ業。人形よりも生気を失した琴井しほりが、可児正光との濡れ場に突入するや何故か喪はれたヒューマニティを回復する映画の魔術も鮮やかに、事実上のスワッピング的に直結した二連戦で猛然と駆け抜けるクライマックスは、少々の瑕疵なんぞこの際蹴散らし、案外な強度で裸映画を締め括る。序盤のスミレと圭一の夫婦生活、美乳に負けじと可愛らしいおヒップから、ペロンとパンティを剝く一見何気ないカットとて、その“ペロン”が完璧。“ペロン”とか“プルン”大事、まるで音が聞こえて来さうな、質感を豊かに伝へるカット凄く大事。“ボイーン”とか、馬鹿自慢はもうやめろ。


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 「中沢慶子 ザ・昂奮」(昭和63/製作:?/配給:新東宝映画/監督:小路谷秀樹/脚本:山中秀男/プロデューサー:大橋達男・古野克己/撮影:斉藤幸一・佐藤文男/照明:吉角荘介・井上英一/助監督:生田聡・吉村典久・大内裕/音楽:外河浩/編集:酒井正次/メイク:秋山由季/録音:銀座サウンド/制作協力:ディレクターズユニオン・東京U.T.・VALIS INC/出演:中沢慶子・外波山文明・新村由紀・田村寛・佐分利真三郎・外田勉・瓜生由美・稲村幸子・益子英子・中野千秋)。
 ビデオ題「中沢慶子 性-さが-」でのタイトル開巻、銀座サウンドがある辺りビデオ用にあつらへた代物にも思へないのだけれど、フィルムからの翻刻を謳ふ、nfajとクレジットに差異が散見されるのはどうした次第なのか。早朝の繁華街、ゴミの中から口に入れるに値するものを探す浮浪者(外田)が、倒れてゐる女に気づく。軽く突いて反応のないのを確かめ、財布を漁る浮浪者は通りがかつた牛乳配達のチャリンコにその場を離れる。女(中沢)を家まで送るつもりで自転車に乗せた村沢(外波山)は、女がアタシが誰で、何処から来て何をしようとしてゐるのか、全部忘れちやつたみたい。とか天井の抜けた心許ない口跡同様、雲を掴むやうな女をとりあへず独居の安アパート―風呂無し―に連れて行く。村沢は女の求めに応じ、結構な朝方にも関らず隣人の割烹着(稲村)から借りた金盥に、給湯器で湯を張り簡易風呂を設営。女が湯を浴びる間村沢が買物に出てゐる町の様子も、見た感じ夕刻ぽく映る時空の歪みは如何なものか。
 配役残り、nfajには水商売風の女とされる益子英子は、そもそも女の登場人物がほかに見当たらないゆゑ、村沢が買物から帰宅すると、車で男が迎へに来てゐた割烹着の更に隣の隣々人?流石に牛乳配達だけでは食へないらしく、今でいふダブルワーク的な次の仕事で、村沢は女をヤサに残し店番するゲームセンターに。遅れて来た村沢に憎まれ口を叩く、村沢と交替する形の若造は不明。ゲーセンへの道すがら、昨晩のゴミ捨て場に寄つてみた村沢は女の持ち物と思しきハンドバッグに手帳と、漫画家・中山ケイの名刺を見つける。瓜生由美と中野千秋は、村沢が名詞の電話番号にかけてみたところ、先生が消えた非常事態にお手上げのアシスタント・ユミと、乳繰り合つてゐる彼氏のカトウ。新村由紀はケイが幻視する、廃工場の少女、田村寛が少女に声をかける労務者。崩壊する締切―馬鹿に綺麗な目をした、下膨れの『週刊パンジー』編集者も判らん―もよそに、男性恐怖症の割に結婚願望の明確なケイはブライダルコンサルタントに赴く。応対する職員が、ノンクレながらnfajによると梅田清子。そして佐分利真三郎が、梅田清子がケイに紹介する加藤道郎。佐分利真三郎だのと、人を喰つた名義の正体は末次真三郎の変名。再々度nfajを参照するに、西村卓昭和62年第六作「ハードにつゝこめ」(主演:秋本ちえみ)にも佐分真名義での出演が僅かに確認出来るが、全く以て、小癪な真似をしくさる。錯綜の、毒を盛らはば皿まで。今篇とnfajにVHSジャケット各々の女優部表記を、比較し易いやうビリング順に並べてみると
    今篇:中沢慶子・新村由紀・瓜生由美・稲村幸子・益子英子
    nfaj:中沢慶子・瓜生由美・新村由紀・稲村幸子・梅田清子・益子克子
 VHSジャケ:中沢慶子・山岡麻美・新村由紀・稲村幸子・益子英子・園田順子
 益子英子と益子克子の何れが正しいのかも兎も角、山岡麻美や園田順子といふのは全体誰なのか。更に、ex.DMMがVHSジャケの六人に加へて―端役である―中野千秋の計七人タグづけを施してゐるものの、中野千秋は男ではないかといふ以前に新村由紀は幼女に片足突つ込んだ未成年で、なほかつ稲村幸子に至つては恐らく新村由紀のお母さん通り越して、お婆さんにより近い年恰好だぞ。
 小路谷秀樹のロマンXを二本発表後、最初で最後のフィルム映画。更にその後的には小路谷秀樹がAVを主戦場とする傍ら新日本プロレスの公式映像でも名を馳せ、近年はUFO映画でプチ山当ててゐる。
 侘しい寡暮らしの中年男が、今でいふ解離性健忘の若い女を拾ふ。忽ち村沢がときめく一方、ケイが辿り着いた記憶を取り戻すメソッドが、よもやの絶頂。画期的に秀逸な方便を、ど真ん中に火の玉ストレートを投げ込む作劇で加速。完全に回復するまで村沢宅に置いて欲しいと乞ふケイの“もうひとつだけお願ひ”が、「思ひだすまで抱いて下さい!」。空前絶後に麗しいファンタジーを見事構築し得た、小路谷秀樹の勝利は約束されたも同然。とその瞬間には、確信しかけたのだけれど。村沢がゲーセンに出勤してゐる隙の、ソーセージ自慰―自体は堂々と完遂する最大の見所―で幼少期のトラウマに基づくスランプに苦しむケイが、車中にて加藤から犯される。即ち冒頭の夜明けに至る顛末を懇切丁寧に追つてゐるうちに、一旦握り締めたかに思へた途轍もないエモーションの前髪を、まんまと手から逃がしてしまふ。オッパイはいはゆる美乳の範疇、画期的に美しい御々足を中心に、伸びやか且つたをやかな肢体と、精悍な馬面の美人。平成以降なかなか見ないルックスの主演女優を擁し、公開当時四十ないし四十一歳。既に出来上がつた外波文が、偶さか舞ひ降りた天使と昼夜を忘れヤッてヤッてただひたすらにヤリ倒す。エクストリームな裸映画になつてゐて全然おかしくなかつた萌芽は芽生えてゐただけに、力任せに当てた照明が白々しい、キメに来たショットも空振りする中途半端なロマンティックは重ね重ね惜しい一作。車中で揉み合ふケイと加藤が、へべれけな弾みでダブルノックダウンに陥る、壮絶に仕出かしたカットにはうわあ!と頭を抱へた。


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 「花井さちこの華麗な生涯」(2005/『発情家庭教師 先生の愛汁』《2003》のディレクターズ・カット一般映画版/製作・配給:新東宝映画株式会社・国映株式会社/製作協力:Vシアター/協賛:報映産業株式会社/監督:女池充/脚本:中野貴雄/企画:朝倉大介/プロデューサー:衣川仲人・森田一人・増子恭一/協力プロデューサー:岩田治樹/音楽・アニメーション:岸岡太郎/撮影:伊藤寛/録音:小南鈴之介/編集:金子尚樹/助監督:永井卓爾/特殊造形:むくなしよる/特殊メイク:小川美穂/ガンエフェクト:ビル横山/アニメーション撮影:沖野雅英/ミサイル・エンドクレジット:清水康彦/挿入歌:溢れてまs guitar&drums オカニワフミヒロ bass こひやまる子 guitar 辻 drums,piano&trunpet タロー/監督助手:松本唯史・重信彰則・清水雅美/応援:田尻裕司・堀禎一・坂本礼・大西裕・伊藤一平/撮影助手:鏡早智・中島美緒・松下茂・柳澤光一/照明応援:大澤秀幸・増谷文良/録音助手:中尾憲人・小南敏也/特殊メイク応援:太田昭子/ネガ編集:松村由紀・小田島悦子/リレコ:福田誠/タイトル:道川昭/タイミング:安斎公一/スチール:田尻裕司/バカヤロー!:吉田修/協力:岩越瑠美、榎本敏郎、大野敦子、木全公彦、佐々木靖之、菅沼隆、竹洞哲也、西山秀明、真弓信吾、上田耕司、江利川深夜、大塚幸子、小泉剛、佐瀬佳明、ダーティ工藤、沼田和夫、三浦俊、柳田友貴、永井家の方々、藤井謙二郎、新井直子、作美はるか、石井幸一、林田義行、NK特機、OMB、タオ・コミュニケーションズ、ティ・ニシムラ、東映ラボ・テック、ナック・イメージテクノロジー、オノライト、スノビッシュ・プロダクツ、高津装飾美術、ティファナ・イン、東京衣裳、フィルムクラフト、ブロンコ/フィルム提供:報映産業株式会社・PG/出演:黒田笑・速水今日子・水原香菜恵・螢雪次朗・松江哲朗・川瀬陽太・小林節彦・アグサイ レザ・本多菊次朗・松原正隆・野上正義・久保新二・元井ゆうじ・吉岡睦雄・葉月螢・絹田良美・石川裕一・伊藤猛/《声の出演》:中野貴雄・佐藤啓子・キム アンソニー)。(声の出演)の正確な位置は、石川裕一と伊藤猛の間に挿む。
 何気にコンクリート打ちつぱなしの殺風景な部屋、金髪のみならず特服の山田君(川瀬)に、パッツンパツンでキワッキワのタイトスカートと、ガッバガバに開いた―といふか開けた―胸元がエクストリームに悩ましい、花井さちこ先生(黒田)が他愛ない英語の授業。スタイルは超絶な主演女優の、最終的には垢抜けない面相と端から議論の余地なく、覚束ない口跡に関してはこの際気にせず先に進め。密着とチラどころでない見せを連べ撃ちでカマして来るさちこ先生に、ライオンファイアした山田が猛然と起動。フィニッシュは途方もない量オッパイに大射精、するのは家庭教師プレイ専門のイメクラ「ホームティーチャー」に於ける、罰金百万円で禁じられた本番行為、判り易い罰ぽさも清々しい。山田のお痛は不問に付したさちこが、退勤後に現れたのは小林節彦が店主の、“社長”(電話越しの声が中野貴雄)と待ち合はせたオーソドックスな店構への喫茶店。なのに店内で流れてゐる似つかはしくないノイズが、挿入歌なのかなあ。客はほかに何某か取引事をしてゐるらしき、北朝鮮の工作員・キム(伊藤)とアラブ系の男(アグサイ)。“社長”から見えるやう入口近くに移動しようとしたさちこが、コバタケが水拭きした床に足を滑らせキムらのテーブルに倒れかゝり、アグレザの手荷物が暴れ大ぶりな口紅状の、金属製の円筒が床に落ちる。一方、三億ドルもの大金を振り込んだにも関らず、アグレザがブツを失くした様子に、キムは脊髄で折り返し凄まじいマズルフラッシュで発砲。至近距離から胸を撃ち抜かれ、即死したかに見えたアグレザを二発目で仕留め、三発目の流れ弾が、さちこの額に命中する。おでこの真ん中に大穴を開けたまゝ、ふらふらと店を出ようとするさちこの手鞄に、コバタケは円筒をさちこの持ち物かと誤認して放り込む。
 無駄と紙一重に豪華な配役残り、本多菊次朗は新宿コマ劇場前でへたり込む、さちこを拾ふ警備員。菊の御紋がなく、警官の制服には見えない。寄る気の皆無な不誠実の誹りも免れ得まい警備員戦の事後、さちこは漸く自らの前額に開いた、弾丸の覗く銃創を認識。何をトチ狂つたかアイペンシルで傷口を突いてみたところ、ザックリした断面図で弾は脳の深い領域に達し、た弾みでさちこは超天才に覚醒する。水原香菜恵は白昼うづくまるさちこを心配して声をかけるOLで、松原正隆は、予知能力をも得たさちこが水原香菜恵の最期を幻視する、屋上青姦の末にOLを突き落とす、不倫相手の課長。野上正義はガッチガチに哲学系の品揃へを、ガード下にて広げる路上古本屋、しかも一冊百円。“人類の叡智の結集”と図書館に感激するさちこが、蔵書を破つて食べ始めたのには「おゝい!」と怒髪冠を衝きかけつつ、実際には破損したのはぼちぼちよく出来た小道具、まあ許す。螢雪次朗が大学の研究室にまでさちこが訪ねる、当該著作『形而上学的現実に対する論考』を書いた哲学教授の佐伯俊夫。速水今日子は俊夫の妻・加代子で、今をときめかない松江哲朗が息子の守。実家が竜巻に巻き込まれたとか藪蛇か闇雲な方便で、さちこは佐伯家住み込みの家庭教師に。ノンクレジットで飛び込んで来る田中要次は、キムが張り込むさちこの部屋に荷物を届けに来る、しろねこ宅急便の配送員。a.k.a.朝倉大介の佐藤啓子が、さちこにまゝかりと米を送つた母親の声。首から上はジョージ・W・ブッシュの写真といふ、商業映画として成立してゐるのか否か際どいビジュアルで攻めて来る久保新二は、第四十三代アメリカ合衆国大統領。女池充六作前、即ちデビュー作の「白衣いんらん日記 濡れたまゝ二度、三度」(1997/脚本:小林政広/主演:吉岡まり子)があるガミさんはまだしも、ザッと探してみても見当たらないゆゑ、普通に、もしくは普通のピンクを作つてゐた昔日はさて措くと、久保チンが狭義の―あるいは現代的な―国映作は今作が最初で最後となるのではなからうか。「白衣いんらん日記」も、厳密にいふと新東宝作ではあれ。元井ゆうじと吉岡睦雄は、遂に件の円筒こと“大統領の指”を奪還したキムと、さちこを佐伯家の玄関口にて急襲する吃驚するほど役立たずの黒服。吉岡睦雄に至つては、得物を持つてゐるだけで素人以下の的。キム アンソニーは偉大なる将軍様の声で、葉月螢と“ぶーやん”絹田良美にもう一人ノンクレの太るとも細らない巨漢女が、地下道か洞窟の奥深く、最終兵器“ゼウス・エクス・マキーナ”に辿り着いたさちことキムを包囲する暗殺部隊の皆さん。破滅的な、といふかガチのマジで破滅するラストにいゝ感じの生温さで花を添へる石川裕一は、椿の落ちる如くポロッと弾が取れるや元に戻つたさちこを、ナンパするサーファー。
 俺達のインターフィルムさんがex.DMMのピンク映画chに新着させて呉れた、女池充通算第七作―全八作―の、大幅に再編集した一般映画版で国映大戦第三十九戦。これまでもバラ売り素のDMMで別に見られたとはいへ、今回新着のサブスク―かバラ売りex.DMM―で見た方が、どうせ画質は全然いゝといふのはどうかしたツッコミ処。
 二十五分短いピンク版(六十五分)―故福岡オークラか駅前ロマンで、観た記憶は残つてゐない―にあつて、文字通り地球規模にオッ広げてみせた大風呂敷がどれだけ削り込まれるかトッ散らかし倒す、壮絶な代物と化したのかは正直想像に遠い。クライマックスの舞台となる洞窟だか地下道周りを筆頭に、確かにピンクの小屋―に於ける上映環境―では甚だしく見え難かつたにさうゐない、徒に暗いカットも散見される。心配せずとも伊藤猛のよくいへば無二な滑舌は、どうせ何処で観てゐても聞こやしない。尤も、余程女池充に対しては腹に据ゑかねてをられたのか、m@stervision大哥が木端微塵に酷評なさるほどには何故か腹の立たないのも通り越し、素の劇映画と裸映画の両面とも思ひのほか楽しめた。如何にもレギュレーションに沿ひましたといはんばかりに、夫婦生活を披露するですらなく瞬間的に駆け抜ける速水今日子は兎も角、矢張り一幕限りの水原香菜恵が水原香菜恵はそこそこの濡れ場を披露するのに加へ、ビリング頭は誰かしら相手の絡みよりも寧ろ、発作的に襲はれる発情で恵まれた肢体を大いに愉しませる。カテキョ衣装のタイトなスカートに勝るとも劣らない、終盤のジーンズがまた大いなる眼福。突き出したおヒップをデニムでキュッと包み込む、ど定番のジャスティスも忘れない。侵入してみたさちこ宅の荒れた様子に、呆れがてら片付け始めた挙句、洗濯機まで回す案外家庭的な一面まで含めキム113号のハードボイルドな造形は結構な完成度。一々大仰なブローバックはプロらしからぬが、長い体躯を活かしての銃を向ける姿は逐一画になり、同級生のよしみで店を貸したのに、これ以上汚さないで呉れよと泣き言を垂れるコバタケを「判つた」と同時の一発で葬つた直後の、「これで最後だ」には伊藤猛の手柄といつてしまへばそれまでながら、女池充が斯くもカッコいゝシークエンスを撮れるのかと痺れた。プレジデント方面の迸る安つぽさと、“ゼウス・エクス・マキーナ”のリアリティが上手く埋まらない辺りには貧しさなり限界も否めない反面、目出度くなく釦を押したところで、さちこの憑き物が落ちて以降のラストが、ゲッター線を浴びたさちこが地球を奈落の底に呑み込む、オーラスが蛇の足に思へて仕方ないくらゐ秀逸。サーファーに声をかけられた佐知子もといさちこが、海の家の焼きそばにホイッホイ釣られついて行く長閑さか間抜けさの遥か彼方で、空に刷かれるアディダス調の三本ライン。静かに世界が終る、鮮烈な砂浜のロングは見事に映画的。安普請のビデオ合成を施す諸刃の剣の、豪快なキネコ画面にさへ目を瞑れば。如何なる形にせよ、この期に及んで「発情家庭教師 先生の愛汁」と比較対照する手立てが全く見当たらないのが如何せん苦しいものの、話が一応綺麗にまとまる「花井さちこの華麗な生涯」を見た限りでは、予想ないし経験則―あるいは偏見にも似た先入観―を覆して全然面白かつたといふのが、偽らざるところである。

 さりげなく特筆すべき一点、「花井さちこの華麗な生涯」(2005)と「発情家庭教師 先生の愛汁」(2003)で有無からクレジットの差異は検討出来ないが、翌年の「定食屋の若女将 やめて、義父さん!」(2004/脚本・監督:野上正義/主演:三月瞳)に制作協力で参加してゐるため、必ずしも最後のピンクとはならないが全体この時、“大先生”柳田友貴は何をどう協力してゐたのか。


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 「団地妻 忘れ得ぬ夜」(昭和47/製作:日活株式会社/監督:遠藤三郎/脚本:新木薫/企画:武田靖/撮影:前田米造/美術:山本陽一/録音:古山恒夫/照明:高島正博/編集:鈴木晄/音楽:山野狩人/助監督:白井伸明/色彩計測:田村輝行/現像:東洋現像所/製作担当者:大鷲勝道/出演:宮下順子・森竜二・浜口竜哉・桜マミ・弾力也・久遠利三・甲斐康二・伊豆見英輔・桂小かん・露木護・しまさより・中野由美・広瀨優)。出演者中、久遠利三に伊豆見英輔から露木護までと、広瀨優は本篇クレジットのみ。クレジットがスッ飛ばす配給に関しては、事実上“提供:Xces Film”。
 堂々とした管弦楽を鳴らして、トンネル内を進む車載カメラの画にタイトル・イン。山野狩人といふのは小杉太一郎の変名―脚本の新木薫も石松愛弘とのこと―らしいが、そもそも小杉太一郎なり石松愛弘を知らない、うつけ者的にはうつらうつら潔く通り過ぎるばかり、起きろタコ。隧道を抜けての景色をタイトルバックに、車中の宮下順子をピンで抜いて遠藤三郎のクレジット。オリエンタル興産社員慰安旅行の面々を乗せたバスが、箱根の「清風荘」に到着する。三味の隣で陽気に太鼓を叩く、桂小かんが最初に飛び込んで来る宴席。課長(久遠)に促された推定係長(伊豆見)が、座布団を丸めて模したチンコ、桂小かんが二つ折りの同じくお座布でマンコを担当するろくでもない座敷芸に一同が盛り上がる―昭和の所業とはいへ流石に酷い―中、下戸でオレンジジュースを飲んでゐた、上坂律子(宮下)は余程気分を害したのか卒倒する。医師(露木)が往診に来た末、未だ足下がフッラフラに覚束ない、だから大人しく寝てゐればいゝ律子は、何者かに暗い部屋に押し込まれ犯される。宮下順子も宮下順子でアテレコらしいが、そんな初歩的なトピックにさへ立ち止まれないのは、正直に認める当サイトのアキレス腱。そもそも別に目隠しされた訳でもないのに、見知つた人間であれば“忘れ得ぬ夜”を刻み込んだ男が何者なのか、判らないといふのが端から難易度の高いシークエンスではあるといふ根本的な疑問はさて措き、帰京後も律子は自らを犯した男は全体誰なのか、周囲に疑心暗鬼を募らせる。
 配役残り、しまさよりと中野由美は軽く着替へする程度で絡みひとつ設けられない、女子社員要員の黒木知代子と中島ユミ。森竜二も同僚の長田、ナガタでなくオサダ。甲斐康二はオリエンタル興産の慰安旅行と、偶々同じ日に「清風荘」に泊つてゐたといふのも何気でなくアクロバットな、オリ興社内に自由に出入りする下請の鉄工所社長・木本。箆棒な太さのセルフレームをかけた浜口竜哉が、律子の夫で研究職の秀一。重さう、あるいは耳が痛さう。粗野かつ野卑なのは百歩譲つて造形にせよ、馬面と大根に擁護の余地は見当たらない弾力也は、狂ほしいほど浜口竜哉と血が繋がつてゐるやうには見えない、秀一の弟・力也。榎木兵衛×庄司三郎の、三兄弟末弟とでもいはれた方が余程しつくり来る。一応病母の世話を、秀一が力也に任せきりにしてゐる的な間柄。宮下順子以外で唯一濡れ場を担当する桜マミは、兄貴から半ば絶縁され荒れる力也を、車で拾ふ形で出会ふ女・エリ。問題が性別は男でそこそこの年嵩と思しき、広瀨優が詰めきれない。律子と秀一がテレビで人生相談を見る、赤石浩一先生かなあ、もしくは司会かも。
 遠藤三郎の昭和47年第一作は、jmdbで追へるだけで十五年に亘る修業期間を経ての監督デビュー作。その後の遠藤三郎は六年間に全十三作を発表したのち、日活芸術学院(2013年閉校)講師の座に納まつた来歴。
 裸映画的には終盤に及んで漸く幾らか持ち直しこそするものの、濡れ場は概ね細切れに片付けられ、この期に及んで低劣な煽情心を刺激されて刺激されてもうどうしたらいゝのか困る、などといふことは無論全くない。世間の目を盗み中高生が小屋に忍び込む分には、まあ興奮もするのかしら、といつた程度のお上品な裸映画に止(とど)まる。面子的にも、グラマラスの暴力で琴線を弾き千切る、タレントに恵まれも別にしない。律子が箱根の一夜を想起するフラッシュバックの度に、まるで怪談映画かの如くおどろおどろしい劇伴が起動する、素頓狂な選曲も十分に随分なのだが、木本と力也に長田。全く以て頼りないか不甲斐ない秀一をも含め、始末に負えぬ男共に振り回され倒した律子が、最終的に特殊浴場の門を潜る実も蓋もない展開は、撮影所の地力には支へられ、一応手堅くまとまつてゐなくもない表面的な出来栄えに反して結構豪快。挙句そこに秀一が通ひ詰める、救ひがあるのだか矢張りないのだが最早よく判らない割と壮絶なラストを、実曲使用する上條恒彦と六文銭「出発の歌」の、音楽の富を奪取して無理から固定させる荒業。にしても、まだ正負はさて措いたベクトルの、最大値ではないんだな、これが。律子を家の外から苛む、木本と力也に長田。ステレオタイプに好色な中年男を、島村謙次らに匹敵する強度で形にしてのける、甲斐康二は寧ろ天晴で何ら不足も問題もない。一見精悍な色男ぽく見せ、よくよく見てみると面取りの雑な森竜二も終に一線級には至り得まい風情を否み難いが、兎にも角にも、義姉をよろめかせる云々どころか、無作法な田舎者程度にしか見えない弾力也が致命傷。苗字が弾一文字とか、芸名のダサさから清々しい。木本の名を騙り誘き寄せた律子を、手篭めにしようとして「馬鹿な真似はおよしなさい」と拒絶された力也が、途方もない棒読みと下手に歪めた途轍もなく不細工な面相とで、「うーるせー」と逆上して覆ひ被さるカットの、「うーるせー」には引つ繰り返つた。それまでそれなりに積み上げて来た諸々を、一撃で水泡に帰す「うーるせー」のプリミティブな破壊力には、創成期とはいへ本隊ロマポで、今際の間際が永く続く、現代ピンクに於いてもなかなかお目にかゝれはしない、レアに酷いものを見せられた正体不明の感興を覚えた。


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 「喪服妻と縄 そつと剃つて!」(1993『喪服妻 剃毛縄奴隷』の2006年旧作改題版/製作:獅子プロダクション/提供:Xces Film/監督:佐藤寿保/脚本:五代響子/撮影:稲吉雅志/照明:小川満/編集:酒井正次/助監督:田尻裕司/監督助手:原田兼一郎/撮影助手:片山浩/照明助手:小野英仁/スチール:佐藤初太郎/緊縛:杉下なおみ/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:秋川典子・芹沢里緒・浅野桃里・吉岡市郎・今泉浩一・池島ゆたか)。出演者中、吉岡市郎がポスターには吉岡一郎、元版はちやんとしてたのに。
 剃刀で女の脇を剃る、颯爽とフェティッシュな接写。オッパイもT字で軽く嬲り、観音様にシェービングクリーム、乳房を震はせつつの、ピンコ勃ちしたお乳首がエクストリーム。細かくカットを刻んだ上で、剃り終つてタイトル・イン。喪服の秋川典子が佇むホテルの一室に、池島ゆたかが入つて来てクレジット起動。未亡人のカズミ(秋川)が、亡夫に乞はれたとかいふ菊坂(池島)から責められるのは、コスプレホテトルである旨劇中明示される、「人形の家」から嬢であるカズミを呼んでの要はさういふプレイ。満足し過分に支払ふ菊坂が、SM道具を持ち歩くアタッシュケースの内側には、芹沢里緒のスナップが。目に留めたカズミに対し、菊坂は亡妻と説明する。カズミを帰したのち、風呂に浸かる菊坂の回想。菊坂の妻・ともえ(芹沢)は、夫が望む苛烈な夫婦生活を受け入れられない女だつた。
 配役残り浅野桃里は、もう一人登場する「人形の家」嬢のエミ子。ところで「人形の家」が雑多な衣装が吊るされる控室にかゝつて来た電話を、嬢が自分で取るなかなか斬新な店。それとちんこまこたれ、もといこんちこれまた。新日本映像公式サイトの今作紹介頁では、芹沢里緒と浅野桃里の役が逆になつてゐる、初心者を翻弄するやうな真似は控へて欲しい。吉岡市郎と今泉浩一は、カズミの夫―戸籍が現在どうなつてゐるのか、厳密には不明―で金持ちなり偉いさんぽい古田と、妻の激しい男漁りに業を煮やした古田が自ら連れて来た、鎖で拘束した和美に奉仕させる部下の進藤。
 端から残り僅かなソクミル戦、第五戦は佐藤寿保1993年第一作。度を越した被虐の果て男児を流した女と、箍の外れたサドマゾの末に、妻を死なせた男。即ち実はともえを殺害してゐる菊坂が、如何様にして娑婆にゐるのかに関しては豪快にスッ飛ばしつつ、偶さか出会つた限定解除者同士が、あるいは運命的に更なる深みへと突き進んで行く。菊坂が赤で、カズミは青。各々判り易くフィルターをかけた回想パートに際しても、乳尻も満足に見えなくなるほどまでには、決して暗くなりはしない基本明るめの画調。男主役が池島ゆたかである以上、鈍重な体躯に反比例して菊坂の造形が最終的には軽みの範疇に納まり、五代響子の脚本が、徒な観念論の迷宮に突入してみせる訳もなく。夢野史郎(a.k.a.大木寛/a.k.a.別所透)や渡剛敏と組んだ時の如く、落花生だか作家性だか知らないが、淫らか恣な禅問答に戯れた挙句煽情性は上の空。とはならずに、一筋縄で行かないのは行かないまゝでなほ、頑丈に裸映画の枠内に踏み止(とど)まる。撮らうと思へばさういふ普通のピンクも別に撮れる点が、当サイトが四天王中佐藤寿保を最も高く評価してゐるところの所以。「Don't Let It Bring You Down」の一撃ならぬ一作必殺で、一番好きなのは佐野かも知れないけれど。どノーマルのエミ子はもとより、復縁を期して「人形の家」に辿り着き呼んだはいゝものの、相変らずなのか以前よりも増したのか、底の抜けた荒淫を望むカズミの姿に、元々サディストはサディストであつた古田が、古田すらもが「えゝ・・・」と俗にいふドン引きするカットなど絶品。二人を取り巻く、外堀も上手く埋まる。菊坂のエピソードを拝借して、偽りのレイヤーを重ねて行くカズミの姿は若干藪蛇気味ではあれ、タマルミ率の高い恵まれないフィルモグラフィーゆゑついつい忘れてもしまひがちにもなりかねない、秋川典子の端整にして硬質な絶対美人ぶりを、心ゆくまで再認識し得る一作。もしかすると何か塗つたのかそれとも神の光を当てたライティングの勝利か、淡いオレンジ色により近い、乳輪と乳頭の美しさが激越に映える。


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 「超いんらん家族 性欲全開」(1994/製作・配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:双美零/企画:中田新太郎/撮影:稲吉雅志/照明:伊和手健/編集:酒井正次/助監督:榎本敏郎/撮影助手:片山浩/照明助手:広瀬寛巳/スチール:津田一郎/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:林田ちなみ・石川恵美・杉原みさお・平岡きみたけ・池島ゆたか)。
 川辺にセドリックを停めた画にタイトル開巻、流石に車は違ふ、何と。芦田聖子(林田ちなみ/荒井まどか)は同じ会社に勤める粟野邦洋(平岡きみたけ/熊谷孝文)とキスを交すと車外に逃げ、あゝだかうだ他愛ない遣り取りの末、家族に関し含みを残す邦洋から、実家で紹介して貰ふ旨言質をとりつける。内心勝ち誇る聖子であつたが、林田ちなみのモノローグに曰く“さう、この時は確かに勝つたと、思つたんだけど”。一方二者択一の津田スタに構へた粟野家では、邦洋の父親で社会生物学教授の洋二(池島ゆたか/久保新二)と、後妻の美津江(石川恵美/村上ゆう)が聖子の来訪を心待ちにしながら昼間から夜の営み。ヤバい体の薄さでスレンダーは正義を体現する石川恵美の、大股開きがエクストリームにクッソどエロくて素晴らしい。性懲りもなく筆を滑らせるが、当サイトがお嫁さんにしたい女優第一位である。明後日か一昨日に暴発したエロスはさて措き、聖子がいよいよ邦洋を射らうと、天守閣に乗り込む当日。洋二こと池島ゆたかが、プレスリー柄のアロハを着てゐるのが何気に微笑ましい、狂ほしくダサいけれど。不自然に勧められた風呂に聖子がとりあへずか仕方なく入つてゐると、あらうことか洋二が平然と覗きに来る。抗弁を訴へた邦洋は、邦洋も邦洋で美津江と風呂に入る一方、憤慨してゐると洋二から一応手篭めにされた聖子は、そのことすら邦洋が満足に取り合はない、不条理に憤慨して遂に粟野家を辞す。とこ、ろで。林田ちなみと池島ゆたかの絡みが完遂には至りこそすれ、ピントが結構あり得ないレベルでボッケボケなのはどうしたものか。
 配役残り杉原みさお―か麻生みゅう―は、普段何処に住んでゐるのかは謎な、美津江の連れ子・久美。美津江との単独会談を経て、聖子が粟野家を再訪したところ義父たる洋二に抱かれてゐたかと思へば、再度踵を返した聖子が帰宅すると、先回りして布団に潜り込んでゐたりする神出鬼没ぶり。
 全七作からなる深町章の「いんらん家族」シリーズ、1994年第五作が最後に残してゐた第五作。さうしたところ自力で辿り着くより早く、ex.DMMのユーザーレビューが教へて呉れたのが1999年第二作「とろける新妻 絶倫義父の下半身」(脚本:深町章/主演:荒井まどか)の、例によつて人に書かせた脚本―双美零は普通に実在する単独個人とのこと―を剽窃した元作。スラッシュを挿んだ徒に煩はしい配役表記は、とろ絶版を併記したものである。要は粟田家を津田スタで撮るかそれとも水上荘で撮るのかに伴ふ、全般的なロケーションの別。と洋二役が池島ゆたかから久保新二に変つた最早当然の結果として、爆増する久保チン持ちネタの絨毯爆撃。以外には少々の不自然もものともせず、自由に遊撃する久美の扱ひなり、大オチまで寧ろ差異の方が余程僅かな見事でないコピー映画。量産型娯楽映画であればこそ、許された所業にさうゐない、許されてゐるのか?
 根本的な疑問はさて措き、話の中身が逐一の流れごと同じ以上、比較するかとした場合俳優部にでも目を向けるほかない。ビリング頭は荒井まどかが総体的な美人度では勝りつつ、お芝居の心許なさで概ね五分。大体似たやうなタイプを揃へた二三番手に関しても、決定的な優劣は見当たるまい。反面所詮エテ面で小男の平岡きみたけが、社内中の女子社員が争奪戦を繰り広げる優良株には凡そ柄でなく、無論久保新二は池島ゆたかをアシャッと瞬殺、男優部はとろ絶に分がある。
 更に荒木太郎が遺した数少ない有効な視座―死んではゐねえ―に従ひ、量産型娯楽映画を線として捉へ攻め進んでみると、林田ちなみが性的にエキセントリックな一家に翻弄されつつも、やがて惹かれて行く展開と来れば、七作後の1995年第五作「痴漢電車 夫婦で痴漢」が思ひ浮かぶ。脚本が双美零といふのは矢張りと受け取るべきであるのかも知れないが、家長が何れも池島ゆたかなのは流石に偶々かも。いや、まだ終らないよ。「いんらん家族」シリーズ中、第三作の「いんらん家族 花嫁は発情期」(1992/脚本:周知安=片岡修二/主演:桜井あつみ)が、2005年第五作「変態家族 新妻淫乱責め」(脚本:深町章/主演:山口玲子)の親作。津田スタで撮るか水上荘で撮るかの違ひだけの二作も、1991年第二作「ザ・夫婦交換 欲しがる妻たち」(脚本:周知安=片岡修二/主演:川奈忍)と、1998年第七作「隣の女房 濡れた白い太股」(脚本:深町章/主演:村上ゆう)が見当たる。事この期に及ぶと、さういふ例に出くはすのも一興と錯覚か錯乱しかねないでもなく、脚本の使ひ回し自体は百歩譲つて目を瞑るにせよ、元々さういふ契約を結んでゐたといふのならば―んな訳ない―まだしも、他人の仕事を、文字通りの我が物顔するのは擁護の余地なく宜しくないと思ふぞ。


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 「痴漢電車 夢見る桃色なすび」(2020/制作:鯨屋商店/提供:オーピー映画/監督:小関裕次郎/脚本:深澤浩子/撮影監督:創優和/助監督:小鷹裕/録音:小林徹哉/編集:鷹野朋子/選曲:大河内健/スチール:本田あきら/仕上げ:東映ラボ・テック/カラリスト:如月生雄・やよいあい/整音:Bias Technologist/監督助手:高木翔・河野宗彦/応援:菊嶌稔章/撮影助手:赤羽一真・酒村多緒/設定協力:M・B・スプリングレイン/出演:佐倉絆・卯水咲流・鳥越はな・ケイチャン・竹本泰志・可児正光・加藤義一・鎌田一利・広瀬寛巳・郡司博史・津本奏雅・廣田篤紀・里見瑤子・和田光沙・津田篤・森羅万象)。出演者中、加藤義一から廣田篤紀までと、またしても森羅万象は本篇クレジットのみ。
 左隅から水平に細く糸を引き電車が走る、夜景にクレジット起動。図面筒を抱へ外回りする後々の描写を窺ふに、建築系―の営業―と思しき清水優壬(可児)が草臥れ果て寝こける帰りの通勤電車。寝てゐる清水も起こして、誰彼構はず豆菓子を勧めて回る豆オジ(視覚的に特定可能な形で抜かれはしないが、鎌田一利かなあ)の徘徊噛ませて、ピントは可児正光にのみ合はせた帰途のロング。画面を清水が通り過ぎたのちの、薄ぼやけた光にタイトル・イン。しかし、全体木に何を接ぐ気なのかといふ、煽情性に振れてみせる訳でさへ別になく、雲を掴むやうな公開題ではある。ピンクはまだしも、茄子は何処から出て来た。閑話休題、明けてコンビニ弁当も食べかけのまゝ、目覚まし時計に叩き起こされた清水が再び揺られる通勤電車の車中に、時機を失し気味の監督クレジット。加藤義一から廣田篤紀までの乗客要員は出し惜しまず一気に全軍投入した上で、菊りん入れてもまだ頭数が一人分多く、更に幾人かの降車時には、後姿の脚本家も男の背丈に隠れてゐたのが現れる。
 サトウトシキよりはまだマシな不調法な弾みで心理療養士・灰原丁子(卯水)のお胸に顔を埋めた清水は、丁子の方から清水の手を取りオッパイに誘ふ、白日夢に囚はれる。声しか聞かせない、部長(森羅)に電話でドヤされる賃金の発生する時間の無駄風景挿んで、再々度電車の再度痴漢電車。隣に座る土門未己(佐倉)が胸元に差した、何をあしらつたものか何か和風のブローチ―正体は簪の模様―に魔が差した清水は痴漢を働き?、声をあげられる。以降再三再四登場する、原つぱにポカーンと置かれたベンチに逃れた清水は、フレーム逆側から追つて来た未己に捕獲され、廃工場に連れて行かれる。電車痴漢に際しては下手に拘泥すると誰が誰に何をしてゐるのかしばしばよく判らなくなる、不用意なリアリティは潔く廃し、豪快に振り切れたか開き直つた、より実戦的なシークエンスを展開する。
 配役残り、廃工場で清水を待つケイチャンと竹本泰志に鳥越はなは、自称“光の戦士”のリーダーで火担当の穂村翔丙と、穂村とは大学の同窓生で木担当の森田甲太郎に、金担当の鈴木加乃恵。土担当の土門と水担当の清水を含めた五人は、穂村いはく五行の力を持つ選ばれた戦士で、文字通り菱形に走る「大和菱形線」と、その四頂点を結んだ「新京縦横線」。二路線が形成する鉄の結界―“鉄の結界”なる劇中用語は凄えカッコいい―で封印された龍の心臓を巡り、龍を目覚めさせんと暗躍する“闇の戦士”と戦つてゐる。とかいふ今となつては懐かしきか甘酸つぱい、転生者系の盛大な戦士症候群を開陳。当然の如く、清水を画期的に煙に巻く。ラストを殆どカメオ感覚のジェット・ストリーム・アタックで駆け抜けて行く里見瑤子と和田光沙に津田篤は、眠つてゐた龍が終に再起動した気配を、「暫くお休みしなくちやね」と受け止める何某かのお師匠ぽい葵生川露子と、「別件入つちやつた」と仕事の電話を切る根本乙希に、「あゝゝ始まつちやつたか」と菓子パンをパクつきながら静観する金子辛之介。忘れてた、未己が過剰に反応する、ダブル・ミーニングで軽い自動車事故現場に見切れる男女三人は、遠目に背格好を見た感じ全員若さうゆゑ、加藤軍団(超絶仮称)でなく内トラの気がする。
 一撃必殺のクライマックスを見事撃ち抜いた、デビュー作「ツンデレ娘 奥手な初体験」(2019/脚本:井上淳一/主演:あべみかこ)に続く小関裕次郎第二作は、五本目の加藤義一単独三本目の小山悟をも追ひ抜き、史上最速デビュー二戦目での栄えある2020大蔵正月痴漢電車。今更改めて気づいたのが、今年は運休してたんだな、盆の怪談もどうなることやら。
 “光の戦士”―もしくは“暁を告げる者”いはく“黄昏の守護者”―は消耗したライフを、各々特定のメンバーとの交はりで回復する。森田の案外フランクな求めを清水が頑なに拒み通す、咲かずの薔薇込みでなかなか秀逸な方便を設け、裸映画的にはまあまあ安定。舌足らずが実際さういふ女の子がそこいらにゐさうに思はせる逆説的な口跡と、マキシマムによくいへばわがまゝボディとを、カット跨ぎの騎乗位で猛然と飛び込んで来る威勢のよさまで含め、三番手はそこそこ以上に楽しませる。尤も、大きめのロイドに玉がちやんと入つてゐるのは天晴な反面、加乃恵が未己にリカバリーして貰ふ、順番的には締めの大百合に際して。眼鏡クラスタ的にはあり得ないほど皮脂で大概汚れてゐるのは、少なくとも銀幕では誤魔化せない残念ポイント。あるいは液晶なら、液晶でも見えるぢやろ。未己のホイミは穂村が行ふ佐倉絆は、上に乗られたケイチャンは全く映さない画角での、両義的に単騎で堂々とした完遂を披露。卯水咲流に関しては、それ以上の見せ場が用意される。さうは、いへ。半ば確定的故意に基き頑なに必要な情報を与へられない、ただでさへ突飛な状況に放り込まれた主人公が翻弄され倒した挙句、尺的に決して予測不能のサプライズではないともいへ、いよいよ終局の火蓋が切られたところで、裁断されるかの如く映画が終了する。今作を観た百人のうち、五百人が想起するにさうゐない、エヴァQにも似た壮絶なエンディングには唖然とした。待てよエヴァQにはまだ続きがあんだろといふのと、何がエンディングか、終つてねえ。予め規定された上映時間が尽きるか満ちれば、起承転結の途中で平然と映画を強制終了する。竹洞哲也の師匠たる大御大こと小林悟が得意とした、映画殺しの荒業「起承転」をよもやまさか令和の世に、孫弟子が継承するなどとナイトメアにも思はなかつた。いはゆる闇堕ちした未己が、清水に名を呼ばれぼんやりと振り返る。画的には首の皮一枚キマッてゐなくもないカットに、一切合切何もかんも完結してゐないにも関らず悪びれもしないで叩き込まれる“完”には、最早突つ込んだ方が負けのレベルなのか。斯くも壮大な伝奇ロマンをオッ広げておいて、逆の意味で見事に放り投げて済ます体たらく。どれだけ性急に刻み込まうとよしんば壊滅的にへッべれけであらうとも、身の丈を超えたオーバーフロー風呂敷もとりあへず畳みはする、国沢実の方がまだマシなのかもとネガティブに再評価する日がこの期に来ようとはといふのも、それこそお釈迦様でも夢精、もとい夢想だにしまい、無駄口を叩くのがそんなに楽しいか。
 お話的にはあくまで未己の筈なのに、清水のベクトルが女優部三本柱の何れに向いてゐるのか、絶妙に不鮮明なのも地味なアキレス腱。そんな中、暫し退場と同義の雌伏する中盤を経て終盤大いに気を吐くのが、もしかすると現代ピンク最強の二番手・卯水咲流。龍の覚醒を自由への解放と説く丁子が、超絶の天候にも恵まれた正しく抜けるやうな青空を背負つての、世間体社会性倫理観etc.etc.、人を縛る全ての軛をデストロイした上での新世界の創造を、恵まれた肢体が奏でるドラマチックな身振りも交へ堂々と謳ひ上げる分単位の長台詞は、その間傍らでションボリしてゐるだけの主演女優を余所に、十二分の強度に足るハイライトを根こそぎカッ浚つてのける。もの、の。流石に斯くも物語が派手に未完であると、竹洞哲也2019年第三作「平成風俗史 あの時もキミはエロかつた」(脚本:当方ボーカル/主演:友田彩也香)に於けるやうな、一発大逆転サルベージには如何せん遠い。劣等感の塊で、自己肯定感の限りなく稀薄な男主役がオッサンは兎も角、エクストリームにキュートな佐倉絆なり、オッパイの大きなメガネ女子から兎に角仲間と受け容れられる。俯いたダメ人間を何が何でも絶対にアグリーメントする、力技の南風、を吹かせ得た可能性。エモーションの前髪も決して見当たらなくはなかつただけに、勿体なさも否めない一作。軽くググッてみたところ、綺麗に引退した佐倉絆のみならず鳥希に改名したらしい鳥越はなの活動も怪しいが、卯水咲流が捕まれば何とかなる。捲土重来を期した、続篇―といふかより直截には完成篇―の企画は検討されてゐないのであらうか。

 あと、清水が最初に水の力を発揮する、段ボールを幾つかバラした程度のゴミ捨て場のプアな美術は、もう少しヤル気を出して欲しい。


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 「連続レイプ 突き破れ!」(1993『ストッキング暴行魔 一発かませて!』の1996年旧作改題版/製作:新映企画株式会社/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:亀井よしこ/企画:伊能竜/撮影:千葉幸男/照明:石部肇/編集:酒井正次/音楽:レインボーサウンド/助監督:高田宝重/監督助手:広瀬寛巳/撮影助手:片山浩/照明助手:石井克彦/現像:東映化学/録音:銀座サウンド/効果:時田グループ/出演:入江まこ・松本順・遠藤由紀・大川忍・石神一・神坂広志・杉本まこと)。何といふか、新旧問はず、今の時代では到底通り得まいワイルドな公開題に、倒錯した清々しさも禁じ得ない。
 午前様を指す時計、右隅にVHSのアイコンだとか、“再生”だの“標準”といつた文字が映り込むある意味壮絶な配信動画、売り物なんだぞ。初端から―映画以前の―結構豪快なツッコミ処は兎も角、新人弁護士の加川ヒトミ(入江まこ/例によつて仲山みゆきのアテレコ)が夫の遅い帰りを待ち侘びがてら、初陣で強姦致傷事件の容疑者弁護を担当する参考に判例にでも目を通さうとして、脊髄で折り返す速さで寝落ちる、大丈夫かこの先生。風呂上がりか就寝前肌着で身支度するヒトミの背中に、ストッキング暴行魔が忍び寄る。「弁護士さん会ひたかつたぜ」の第一声でヒトミに襲ひかゝつたスト暴はナイフで衣服を切り裂き犯し始め、馬乗りになり首を絞めたところでタイトル・イン。激しい攻防戦の末、遂にヒトミが全裸に剥かれたタイミングで、新田栄の名前が入るタイトルバック。かういふ、それなりに計算された一手間を費やす人を最近あまり見ない気がするが、流行らないのかなあ。
 挿れられた辺りで悪夢から目覚めたヒトミは、「あゝ吃驚した、こんな判例よむからだは」、天真爛漫を突き抜けたヒロイン像に眩暈がする。一方夜道の不細工な三番手―直截すぎる―に単車が迫り、フルフェイス暴行魔が適当に追ひ込んだ繁みの中で犯す。中途で取調べ室、展開がザックザク推移する、粗いスピード感は満更でなくもない。刑事(石神)がイワサキイサム(神坂)に、「お前がやつたんだろ!」と最短距離の内側で詰め寄る。取調べ室にもう一人、電灯をイワサキの顔に当てる手先だけ見切れるのは高田宝重か広瀬寛巳か、流石に識別出来る訳がない。ステレオタイプに横暴な石神刑事(仮名)の剣幕に動じるでなく、イワサキは薄ら笑ひを不遜に浮かべる。
 配役残り、最初は外から風呂場を抜いた擦り硝子越しに飛び込んで来る杉本まことが、弁護士夫婦であるヒトミの夫、固有名詞不詳。四年前にもイワサキは二人の女をレイプしてゐた、松本順が当時女子高校生のサクラダアツコで、大川忍は一人住まひのOL・ヤマザキナオミ。更にもう一人、四年前の調査を独自に進めるヒトミが、ナオミ宅に辿り着く過程で話を訊くロングの通行人は新田栄、地味にガチッとした体格が特徴。
 エク動が連月未配信作を飛び込ませて来た、新田栄1993年第二作。もつと新田栄を見せて呉れ、もつと見せて呉れ。I ​can't get no satisfaction、熱病か。錯乱はさて措き当初ビリング頭以外は凡そ手も足も出ないかに思へた女優部も、若月美廣の「森尾歩衣 聖水折檻」(1993/田辺満と共同脚本/プロデューサー:久保新二)で遠藤由紀、大川忍は西川卓1991年第一作「朝まで生いぢり」(脚本:北町一平/主演:伊藤舞)で固定に成功。初見の松本順は消去法、やれば出来るもんだ。
 そこそこハードな描写が火を噴きこそすれ、ぼんやりしたビリング頭の脇を森公美子似の三番手が固め、損なふ布陣は比較的一番マシな二番手も普通に可愛い程度で印象は薄く、女優部の訴求力は然程でなく高くはない、大川忍にも言及してやれよ。冤罪犯を弱々しく装ふ、イワサキの小芝居にケロッとチョロ負かされたヒトミが、実は四年前の事件を担当し、恐らく矯正不能なイワサキのレス・ザン・ヒューマニティを知る配偶者と対立する構図は、意図的にかイワサキの真相が不鮮明であるのも怪我の功名的に、僅少の頭数では土台無理のある、関根和美的などんでん返しが床板ごと一切を御破算にしてしまふ、底の抜けたサスペンスの成立も予感、させかけた。もの、の。結局は退路か進路を自ら埋め塞ぎ、ヒトミがまんまと騙されてゐるだけでしたでイワサキに加川家を襲撃させ、一件落着後の夫婦生活でのほゝんと締めてのけるラストは、限定的に掻い摘めば表面的には磐石な割に、腰骨が砕け散る脱力感は矢張り否み難い。軽くクラシックな肌触り、は味はへる一作である。

 百万の金が何処から出るのか知らないが、示談に応じた森公美子(仮称)は告訴を取り下げてゐる筈だとすると、公訴提起前であればその時点で2017年―中頃―まで親告罪であつた強姦罪(刑法第177条/現:強制性交等罪)は公訴棄却(刑事訴追法第338条第4号)となり、執行猶予つきとはいへイワサキの有罪判決が確定した点には根本的な齟齬があつたりもするのだが。と腑に落ちずにゐたところ、だからイワサキにかけられた容疑は強姦致傷、一貫して非親告罪である、危ねえ危ねえ。モリクミの告訴取消なり示談の成立は、若干の追ひ風を吹かせるに過ぎない、にしても再犯なんだけど。となると実刑を回避してのけた、ヒトミはあゝ見えて案外有能なのか。


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