真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「悩殺業務命令 いやらしシェアハウス」(2019/制作:ナベシネマ/提供:オーピー映画/監督:渡邊元嗣/脚本:山崎浩治/撮影 照明:小山田勝治/録音:小林徹哉/編集:酒井正次/助監督:小関裕次郎/演出部応援:赤羽一真/撮影助手:山川邦顕・高橋広海・渡辺晃己/現場応援:鎌田一利/合成:飯岡聖英/スチール:本田あきら/選曲:徳永由紀子/MA:Bias Technologist/仕上げ:東映ラボ・テック/カラリスト:如月生雄・やよいあい/出演:生田みく・原美織・ケイチャン・可児正光・美咲結衣)。何気に驚異のピンク戦歴―これまで―全六作継続した、美咲結衣のパーマネント二番手が遂に途切れる衝撃に泡を吹きかけたが、寧ろ前作が形式上ビリングの二人目に名前が載るといふだけで、実質的にはトメに座る今作の方が矢張り、あるいは歴然とした二番手である。
 新東宝旧ロゴ壁紙みたいな背景に、銀色の大体スポーツブラとホットパンツ、頭にはハートの触覚?の生えたヘアバンドを載せた八雲花恋(生田)が「ハーイ!」と元気よく飛び込んで来る。花恋の祖母が、令和生れといふくらゐの近未来。素頓狂な扮装は当代のモードらしい劇中世界は、人類が単純労働をロボットと人工知能に行はせる理想郷、全く以て素晴らしい。藪から棒でしかないが当サイトは改憲論に決然と与する、非人道的極まりない第二十七条一項を即刻削除すべきである。二項と三項は、それでも働きたがるかも知れない病的な物好きか、主体性の希薄な暇人のために残しておけばいゝ。完全無欠の閑話休題、にも関らず、「AI任せぢやつまんない!」と頭のおかしな不平を垂れ『モテ本!』なる色恋マニュアルの小―さくない―冊子を取り出した花恋は、令和の町並を遺したレトロ地区に、同じく令和のビンテージ・ファッション―と称した私服―で現れる。なかなか秀逸なのか開き直つた力技なのか、よく判らない方便ではある。いらすとやを使用した「お見合ひシェアハウス」の看板の掲げられた一軒家に辿り着いた花恋が、「ゴキゲンだね☆」と親指を立てるとキラーンと音効が鳴り、空にパンしてタイトル・イン。初陣にして工藤雅典の電撃大蔵上陸作「師匠の女将さん いぢりいぢられ」(2018/共同脚本:橘満八/主演:並木塔子)三番手から二階級特進した主演女優が、何か顔が変つたやうに映るのは気の所為か。
 わざわざ一軒家を用立てた割に、シェアハウスの参加者は花恋と、背広で二十世紀のサラリーマンを意識した桐島平田(ケイチャン)の二人きり。花恋に対し桐島が覚えた、以前に会つたやうな謎の疑問を遮るかの如く、シェアハウスの企画者で、「スター・プリンス」社の社長・草壁冴子(美咲)がホログラフで登場。この人の格好は、緩めのサンタコス風に猫耳。冴子と目配せを交す花恋が実は、開発部所属のスター・プリンス社員。かつ桐島は自らが人間である記憶を埋め込まれた、スタプリ社主力商品たる人工知能搭載のヒューマノイド。自律思考可能な新型にヒューマノイドをアップデートする一貫で、スタプリ社は恋愛機能の実装を目指してゐた。とかいふ次第でシェアハウスを通して霧島を恋の虜にする、要はオトせといふのが、希望した―けれど社内選考に落ちた―開発チームへの参加と特別ボーナスを成功報酬に、花恋が社長から直々に受けた特命だつた。
 配役残り、地味に五年目六本目の原美織は人間童貞の桐島がかつて使用した、恋人型ヒューマノイドのエヴァ。桐島の近未来モードは、まんまか単なるモジモジくん。一方可児正光は、ヒューマノイド処女である花恋の元夫・友哉。AIが弾き出した幸福確率99%を真に受け結婚したものの、友哉が余所に女を作り一年と続かず破局する。
 2016年第二作「めぐる快感 あの日の私とエッチして」(主演:星美りか)以来、山崎浩治が三年ぶりに復帰した渡邊元嗣2019年第三作。もう一人小山田勝治のナベシネマ参加は、確認し得る範囲では1998年第四作「壺いぢり名器天国」(脚本:波路遥/撮影:下元哲/主演:西藤尚)の撮影部チーフ以来。
 如何にもオッサンじみた―オッサンだからな―繰言を吐くが、林由美香なら卒なくこなしてゐたであらう、過剰なマンガ芝居に生田みくが概ね憤死しつつ、花恋は他愛ない手練手管で持ち前のオーバーアクトを一切封印した、表情の乏しい桐島を籠絡すべく悪戦苦闘する。逆に、さういふ造形を宛がふのであれば、そもそも何故ケイチャンを連れて来たのか。兎も角山崎浩治御自身のブログによると、木乃伊取りこそが木乃伊であつた、2015年第三作「愛Robot したたる淫行知能」(主演:彩城ゆりな)の姉妹作、ぽいとのこと。土台がサシでテラスハウスを気取らうだなどと、大概な蛮勇に関してはそれをいふても始まらないゆゑ、と後ろ向きな言草で呑み込むとしても、画的にもこれといつた煌めき一つ欠いた平板さの中、決定力不足の俳優部による大人の映画で子供も騙し損なふ稚拙なラブコメは、山崎浩治大復活に狂喜したときめきを、容赦なく霧散させるに余り有る、頼むから余つて呉れ。尤も桐島がロボット工学を嗜む設定で軽くミスリードする、ある程度容易に予想し得よう「愛Robot」調のオチを軽やかか力強く通り越し、2009年第三作「愛液ドールズ 悩殺いかせ上手」(主演:クリス・小澤)の領域に至る辺りからは俄然一気呵成。「愛Robot」ではある意味見事に等閑視してのけた、ロボット三原則の第二条周りにも細やかな冴えを感じさせる。何より―恋をするのに―年齢や性別はまだしも、人機の別すら最早関係ない。桐島が到達したジョン・レノンばりの視座から、カット跨いで締めの濡れ場に轟然と突入する馬力、あるいはアクセルの踏み抜き処を決して逃さない一種の勘こそが、依然ナベがナベたる所以。百一回目の試行なのか、友哉の扱ひがあんまりなエピローグに際しては尺を持て余し気味で、スーザン・カルヴィンに片足突つ込むかのやうな、草壁冴子―美咲結衣の濡れ場は、充電中に桐島のVR遠隔セックス機能を使ふ形で処理される―が最終的に目指す地平は雲を掴む。正直昨今一抹以上の厳しさも否み難い、ナベシネマ的には些かならず物足りない一作ながら、漸く活きのいゝ連中もぼちぼち出始めて来た外様の台頭を、渡邊元嗣には鼻歌で弾け飛ばす、果てしなく高く無慈悲に頑強な壁でまだまだあつて貰はないと困るのだが。

 ところで今作のシナリオ題が、「星の王女、お見合ひに行く!」。「星の王子 ニューヨークへ行く」翻案が大蔵から与へられた御題であるといふのには、幾ら続篇が製作されたとはいへ何をこの期にと驚くほかないが、実際に星の王女様なり王子様がどの程度フィーチャーされてゐるのかといふと、テラハ以上だか以下に木に竹しか接がない。


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