真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「夜の手ほどき 未亡人は19才」(昭和62『新・未亡人下宿 夜の手ほどき』の2010年旧作改題版/製作・配給:新東宝映画/監督:渡辺元嗣/脚本:平柳益実/製作:伊能竜/撮影:志賀葉一/照明:守田芳彦/編集:酒井正次/助監督:笠井雅裕/監督助手:瀬々敬久/撮影助手:稲吉雅志・中松敏裕/照明助手:田端一/スチール:津田一郎/車輌:横田修一/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:新田恵美・橋本杏子・秋本ちえみ・水野さおり・ジミー土田・池島ゆたか・山本竜二・平賀勘一・久保新二)。監督の渡辺元嗣と撮影の志賀葉一は、いふまでもない現:渡邊元嗣と現:清水正二。製作の伊能竜は、向井寛の変名。
 都会の遠景が右から左に軽くパンしてグーッと寄ると、下町の商店街に地図を片手に大きなトランクを引く、初めての目的地を目指す風情の新田恵美。カット変りカメラが新田恵美の正面に回るや、新田恵利の2ndシングル「恋のロープをほどかないで」が堂々と火を噴く、何と大らかな時代よ。新田恵美と新田恵利の比較に関しては、ど真ん中中のど真ん中世代―公開当時十五才―の割に全く興味がなかつたゆゑ、一切通り過ぎる。一方、恐らくサドルに提げたトランジスタ・ラジオで「恋のロープをほどかないで」を流してゐるといふ方便と思しき、クリーニング屋「ランドリーランド」店員の陣内松太郎(ジミー土田)が配達中。イイ感じでチャリンコを転がす松太郎と、地図片手の新田恵美が衝突。倒れた弾みで新田恵美の股間に顔を突つ込んだ状態の松太郎が、「キャー☆」といふ悲鳴とともにビンタを張られるオープニング・シークエンスは、クリシェを微塵も恐れぬ覚悟まで含めあまりにも鉄板、地味に手間もかゝつてゐる。一体新田恵美の地図は、どんな遠くから経路を辿るのかといふ疑問を持つのは禁止だ。新田恵美の目的地は、古アパート「黄昏荘」。すると建物はお化け屋敷だ住人はプッツンと変態揃ひ、おまけに地上げに狙はれてゐると黄昏荘を悪し様にいふ松太郎に、新田恵美は顔色を変へる。吉永杏子(新田)が自分が黄昏荘の新管理人となることと、19才の未亡人である旨を自己紹介、「未亡人は、19才!?」と松太郎が驚喜したところでタイトル・イン。となると、新題の方が実はテンポなりフィット感がいいといへなくもない。AV感覚で適当に文字を被せただけの、タイトル処理自体は実に御座なりなものなのだが。
 山本竜二は、杏子にいはゆる手荒い洗礼を本当に浴びせかける、黄昏荘の住人で京帝大学大学院生の大崎ワタル。頭はいいらしいが、病的を通り越したオナニー魔人。おしやぶり付きの笛を常用し、笛に合はせて腰を振るメソッドが爆発的に笑かせる。久保新二が、結婚後病死、かどうかは兎も角秒死した杏子の亡夫・吉永先生、高校時代の恩師である。松太郎が黄昏荘に転がり込まうとする騒動の中登場する橋本杏子は、黄昏荘の良心的ポジションを担ふホステスの国分未来、松太郎とは腐れ縁。そんなある日、配達中の松太郎が、パパさんに三ヶ月放たらかしにされた愛人業・純(水野)に文字通り捕獲される。パンティ投網で本当に捕まへた松太郎の前に、際どいレオタードでプリップリのオッパイを殆ど隠しもせずに現れる、水野さおりが実に素晴らしい。陽性のキャラクターとそつない台詞回しも相俟ち、磐石の裸要員ぶりを披露する。そこに現れる池島ゆたかが純のパパさんで、何かと噂の黄昏荘を狙ふ「黒沢ハウジング」社長の黒沢。冷凍庫ばりに冷やす冷蔵庫に押し込まれた松太郎が潜んでゐると、杏子の遠い親戚でもある急死した前管理人は、どうやら黒沢が用心棒の鎌田(平賀)に始末させたらしき風情と、前管理人に作成させた嘘借用書が存在する姦計とが明らかとなる。そして秋本ちえみは、大崎の斜め前の部屋に住む三原加世。美人ではありつつ、自分を魔女だと思ひ込んでゐる完全にイッちやつてる人。但し夜這ひを仕掛けた松太郎に対し、念動力風に体の自由を奪ふ怪現象もどさくさに紛れて起こす。
 新田恵美と新田恵利の近似―度合―については無関心につき等閑視するとして、若き未亡人の響子ならぬ杏子が文化財的なおんぼろアパートの管理人といふと、いはずと知れた『めぞん一刻』パロディといふ格好になる。尤も、パロディはあくまで格好まで。未来と松太郎の恋路が何時の間にか進行する反面、杏子は吉永先生を中途半端―あるいは生殺し―に回想するばかりで、五代君ポジションの登場人物は影すら出て来ない。本筋が杏子・未来・松太郎トリオV.S.黒沢&鎌田コンビの、鎌田が常備するバービー人形の中に隠された嘘借用書の争奪戦とあつては、これで『めぞん一刻』といふのは―何処まで本気だつたのかも判らない―気持ちは酌めるにせよ実質的には無理だ。とはいへ、加世が清々しく木に竹を接ぐほかはサクサク進行する嘘借用書争奪戦は、カラッと面白い。誰だ、“ポ”を忘れてるとかいつてやがるのは。娯楽映画には、尺の束の間をホケーッと楽しませて、エンド・ロールが流れ終る頃には中身を全部忘れてる。そのくらゐがちやうどいいといふ匙加減も、時にあるのではないか。とりわけ、兎に角借用書を奪取、自転車で逃げる未来と自転車に乗れない杏子をランドリーランドの荷篭に無理矢理突つ込んだ松太郎を、車は煙を吹くボンネットがアボーンしたゆゑ、何と鎌田の原チャリが黒沢が乗る玩具の車を引き猛追跡する、ハチャメチャなチェイスが異常に面白い。編集の奇跡とでもしかいひやうのない、絶妙な早送りが醸し出す正体不明のスピード感と予想外の活劇性。ともに白痴と強面の設定を忘れたかのやうに、鎌田と黒沢が手放しのノリノリで飛び込んで来るファースト・カットにも腹を抱へたが、河原に突入しては、黒沢がダイナマイト―的な何か―をも乱投する羽目外しにはストレートに大笑した。実は、杏子と吉永先生なり未来と松太郎なり、然るべき相手と完遂される濡れ場が終に存在しない点はピンク映画として地味に致命傷かと思へなくもないものの、細けえ些末はドント・マインド。よくよく冷静に検討してみると、男優部が全員飛び道具担当といふのが何気に恐ろしい、少し奇怪で愉快痛快なスラップスティック・ピンク。うん、矢張りどう転んでも、『めぞん一刻』ではないはな。


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