真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「女は濡れてひらく」(1991/製作:小川企画プロダクション/配給:大蔵映画/監督:小川和久/脚本:水谷一二三/撮影:大道行男/照明:内田清/音楽:OK企画/編集:金子編集室/助監督:石崎雅幸/撮影助手:梶原浩一/照明助手:佐野良介/録音:ニューメグロスタジオ/効果:協立音響/現像:東映化学/出演:水鳥川彩・石川恵美・南野千夏・野澤明弘・熊谷一佳・鳥羽美子・姿良三・吉岡市郎・久須美欽一・工藤正人)。脚本の水谷一二三は、小川和久(現:欽也)の変名、姿良三も。
 物件的には御馴染み摩天楼、大学多分四年のカウンター画面奥から清水功(工藤)・北山(熊谷)・吉田(野澤)の三人が、吉田と北山は馴染みの店「白馬」にて試験終りの祝杯。ところでこの件、開巻から目を疑ふほど正体不明に画が暗い、後述する別荘パート―風呂場は除く―も。ママのアケミ(鳥羽)が初めて店に来た功に、ホステスの加藤美雪(水鳥川)を紹介してタイトル・イン。タイトル明けるとすつかり恋人同士の美雪と功はいい雰囲気、但し帰宅した美雪を待ち構へてゐたアケミ紹介のパトロン・須山(吉岡)は、不能の癖に独占欲は強く、美雪が他の男と関係を持てないやう縛り上げた上で剃毛する。吉岡市郎が本格的に暴れ始めるや、エレキが起動する安い劇伴が絶品。功も功で、東西工業の社長令嬢・大山マリ(南野)に見初められた功を、三人揃つての就職の皮算用込みで吉田と北山は応援する。マリが車で迎へに来てのデート、車に乗り込む間際の功に、吉田こと野澤明弘が「キメて来いよ」とカッチョいい一声をかけるのが堪らない。美雪への想ひを断ち切れず功が逆玉の輿にウジウジ逡巡する一方、アケミは功の将来を見据ゑ、美雪に身を引くことを促す。
 出演者残り石川恵美は、みんなでマリの別荘に遊びに行く際に同行する、マリの友人・ノブコ、二人で入つた風呂では長々と百合の花も咲かせる。久須美欽一は、白馬を辞めた美雪の新しい勤め先、打ちつぱなしの「東西ゴルフセンター」支配人。当然勿論いふまでもなく、美雪に手を出す、ああ出すともさ。大山社長も予測させた姿良三は美雪の下宿の管理人で、何気なく完璧な配役を煌かせる。功を一喝する大山社長の声の主と、美雪のファースト・カットで相手してゐたボックス席の男は不明。
 正しく声はすれども姿は見えぬ、第一回の佐藤寿保でいきなり出鼻を挫かれた、慎ましやかな名女優・石川恵美ルネッサンス企画。第二回は小川和久1991年全十一作中(+薔薇族一本)第二作、五作後の「むちむち・ぷるるん」といふのが狂ほしく見たい、凄まじい公開題だ。それは兎も角、今回の石川恵美はほぼ純然たる濡れ場要員に甘んじ、脱ぐまでも始終ケタケタ笑ひ続ける芝居を強ひられる、殆ど白痴のやうな造形ではある。それもさて措き、一応前途有望な若者と薄幸な夜の女であるヒロイン、と社長令嬢との綺麗な三角関係。男の将来を鑑み身を引いたヒロインを、一方若い男は忘れられない。ヒロインに手を出すオッサン二人の横槍部隊の配置も十全に、思ひのほか正攻法の堂々としたメロドラマ。で、途中まではあつたのだが。再会した美雪が再び姿を消し、捨て鉢になつた功が女狂ひに変貌する辺りから一息に映画が雑になる。そもそも己が美雪と功を引き合はせた癖に、安穏と膳を据ゑるアケミに功のみならず見てゐるこちらも驚かせておいて、カット跨ぐとマリ戦といふ繋ぎはイカサマに近い。挙句にルーズな御都合主義が生温かく火を噴く、ラストで完全に万事休す。水鳥川彩の文句ない大美人ぶりは、何はともあれ美雪のハッピー・エンドであれば首を縦に振らせかねないところが、相手役の工藤正人が男前は申し分ないものの声質もあるのか如何せん軽く、物語の嘘を満足に騙し得ない。一本くらゐは水鳥川彩主演のマスターピースを何か観て見てみたいといふのと、石川恵美に関しては、おとなしく深町章を攻めるのが吉のやうだ。


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 「女囚折檻‐いたぶる‐」(1996/企画・製作:フィルム・ハウス/提供:Xces Film/脚本・監督:伊藤正治/プロデューサー:伍代俊介/撮影:創優和/照明:斉藤久晃/編集:金子尚樹《フィルム・クラフト》/助監督:上田良津・加藤義一/録音:ニューメグロスタジオ/撮影助手:立川亭/照明助手:山崎満・津田道典/ヘアメイク:大塚春江/スチール:本田あきら/現像:東映化学/出演:佐々木優・吉行由実・林由美香・憂木かおる・杉本まこと・田原政人・山本清彦)。
 鉄格子を警棒が舐め佐々木優がまづクレジット、両手を吊られビッシビッシ背を鞭打たれる女のオッパイを抜いて吉行由実、縛られた手首に続いて林由美香と憂木かおる、唸るバイブで男優部、熱ロウから伊藤正治が順々かつ手短にクレジット。改めて、Y字に女囚が吊られた房に歩み寄る、黒い下着の女刑務官。女刑務官が鞭を振るひ始めるやカッと照明が点灯しタイトル・イン、鮮烈にして猛烈に扇情的な開巻は完璧。
 サディスティックな女刑務官・美鈴(吉行)は女囚(憂木)に、憂木かおるに飽きた故の新しい生贄となる、友人の名前を求める。そんなこんなで娑婆、キャラクターが薄く雑踏の中に埋没する主演―の筈の―女優を、冴子が尾行する。何故かこの頃は今より老けて見える吉行由実が、今回は殊更悪く、怖い。殆ど妖怪人間の如き面相をしてゐる。青木商事に勤務する水野容里枝(佐々木)は、同僚、兼恋人の高畠コーイチ(田原)と、気味ではなく明確に擦れ違ふ。容里枝が何者かによるストーキングを訴へるも、高畠は如何にも面倒臭げに自意識過剰とまるで取り合はない。尺八から入る文法が的確な容里枝宅での情事、女の体の柔らかさを感じさせる吉行由実に対し、マッシブすれすれにムチムチした佐々木優の爆乳も、ボガンボガンと映え眼福眼福。高畠が取引先か片岡社長の娘との縁談を進めてゐる不実を、容里枝は知つてゐた。一方、容里枝を要は売つた褒美に、美鈴が憂木かおるを責める、パンティの上下から警棒で女陰をグリグリいたぶるのが激しくエロい。抵抗するでなく、何時しか鞭の味を覚えた憂木かおるを、美鈴は捨てる。
 配役残り、四番手の後塵を大きく配し三十一分過ぎ漸く登場する林由美香が、件の社長令嬢・由美。カーセックスを一幕こなして退場、といふと実質的な扱ひは一番低い。但しやんはりと、然し確実に高畠の女遊びを窘める芝居は魅せる。杉本まことは週末の容里枝誕生日、由美と会ひ約束をスッぽかした高畠の代役、を装ひ容里枝宅を訪ねる男・原口。その少し前の場面、高畠をにやつかせる電話の向かうの片岡社長も、声色を変へた杉本まことではないかと思はれる。原口から首筋にナイフを突きつけられた高畠の嘘アポに従ひ、深夜のオフィスで一人待つ容里枝を三人のマスク男が襲撃。山本清彦は先にマスクを外したリーダー格の原口に続き、もう一人マスクを脱ぐ男、あと一人は加藤義一ぽく見える。そもそも、正体曝すなら別にマスク要らんよね。それと青木商事の職場風景、容里枝の対面に座る高畠の右隣は加藤義一、扇の要に据わる結構男前の課長は、この人が上田良津なの?伊藤正治ではない。
 矢張り女囚もの、主人公の珍しい下の名前も同じ容里枝―第三作「女刑務官 牝私刑」(1997/主演:冴月汐)に於いては、今度は女刑務官が容里枝―の第一作を観に行く予習にと、DMMで見ておいた伊藤正治ピンク映画第二作。我ながら、何でこんなに真面目なのか、ピンクに関してだけは。都合六本のピンク映画監督後、数作のVシネしか確認出来ない伊藤正治の現況は、因みに城西国際大学メディア学部兼任講師。女の肌を美しく捉へる硬質の撮影と、攻撃的かつ頭数通常三割増しの女優部に支へられ裸映画的には全く磐石の今作の最も顕著な特徴は、全体の構成をも破壊して省みない大胆なビリング無視。前半は容里枝の対高畠・対原口戦を消化しつつも、基本的には檻の中の憂木かおると、憂木かおるを折檻する美鈴が尺を喰ふ。確かに、それで看板に偽りは清々しくない。とはいへ、諜報機関ばりの高機動力を誇る美鈴の姦計に囚はれた容里枝が、幾分以上に粘着質ともいへ堅気のOLから女囚に身を落とすまでを描く後半。終に容里枝が房に入るのが、何とラスト二分―しかも最終的に六十分には一分余す―といふ怒涛の終盤には為にする方便ではなく本当に度肝を抜かれた。女囚映画なのにヒロインが女囚になるのがラスト二分!こんな乱暴な映画見たことない、滅多に。容里枝はプレイボーイの彼氏と無体な運命―と大雑把な作劇―に翻弄されるばかりで、劇中を支配してゐるのは完全に美鈴である。そもそも、開巻から美鈴に責められる容里枝で始めてゐれば、別にこんな無茶を仕出かす必要もなかつたのではなからうか。といふ尤もか素朴な疑問は、憂木かおるパートの強靭な充実が忘れさせる。女の裸を目一杯楽しませた末に、正しく衝撃のラストが炸裂。素面の劇映画としては無茶苦茶なのだが、深いか浅いかは兎も角印象には残るチャーミングな一作である。


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 「SEX実験室 あへぐ熟巨乳」(2013/製作:旦々舎/提供:オーピー映画/脚本・監督:山﨑邦紀/原題:『絶頂研究所』/撮影:鏡早智/撮影助手:北野奈央/照明:ガッツ/照明助手:蟻正恭子/助監督:北川帯寛・藤崎仁志/編集:有馬潜/音楽:中空龍/録音:シネ・キャビン/ポスター:本田あきら/タイトル:道川昭/現像:東映ラボ・テック/出演:有奈めぐみ・里見瑤子・なかみつせいじ・津田篤・荒木太郎・大城かえで)。照明のガッツは、守利賢一の変名。
 暗い書斎にて、滅びを予感したなかみつせいじが馬鹿げたこと、物笑ひの種になるやうな愚かで意味のないことに尽力する腹を固める。絶望的かつ―反―英雄的な開巻を経て、机上のパイナップルを抜きタイトル・イン。タイトル明けると招聘されホテホテ歩く有奈めぐみ、ファースト・カットから受けた印象を一言で片付けると、首から下のフォルムがまんま漫才師の今くるよ。正直、個人的には全ッ身全ッ霊を込めて御免蒙りたいタイプではある。口を開くと針生未知(ex.川瀬有希子)系の素頓狂な声質がどうにもアテレコ臭く聞こえるのは、為にする勘繰りなのかも。一万人斬りを誇る性豪・輝葉(有奈)が到着したのは、大企業の会長・城前耕造(なかみつ)が開設した「CLIMAX LAB」こと“絶頂研究所”。城前以下秘書、兼愛人の杏奈(大城)、研究員の栗城洋二(津田)と、言葉とセックスの出会ひに関する集中実験に被験者として参加する目的で輝葉は招かれたものだつた。城前いはく輝葉を称して“どんな状況にも対応出来る全天候型の女”、褒めてゐるのだか人間扱ひしてゐないのだか判らない。ところで、紹介されたとされる輝葉に対し、一応象牙の塔の出身でもあるものの、巨根を買はれた洋二は城前がサウナでスカウトしたとのこと、ハッテンかといふ話である。
 濡れ場が一段落つく毎に、新たな面子がラボに加はる構成は地味に秀逸。荒木太郎は城前とは旧知と思しき、官能小説家の泡肌凡人、性癖的には好対照を成す。里見瑤子は、洋二を頼る路頭に迷つた義姉・風花。ピンク映画全体の製作本数自体が激減した現在にあつても安定した仕事ぶりに、やゝもすると忘れがちになりかねないが、十年どころか里見瑤子は十五年選手でも納まらない事実は、この期に及ぶと弥増して頼もしく輝く。案外、何時も通りの飄々とした風情で、女優部のラスト・スタンディングはこの人なのではなからうか。里見瑤子と荒木太郎が奇矯に脇を固め、なかみつせいじがダンディに扇の要を務める布陣はその限りに於いては全く磐石。
 山﨑邦紀2013年第二作にして、御大将・浜野佐知の決裂に伴ふ旦々舎オーピー最終作。最期を見据ゑた男が仕掛ける、大真面目な茶番。まるで、山﨑邦紀が浜野佐知とオーピーの関係の末期を悟つたかのやうな挑戦的な物語にも思へるが、ここは一旦、邪推に過ぎまいと呑み込む。それは兎も角、斯くいふ当方もかうして厭きもせず“虚空を撃ち続ける無為”の果てに、どれだけ積もらせても所詮塵は塵のまゝの岡をオッ建ててゐる次第ではあるが、城前と小生、彼我のベクトルは出発点が異なる。その心は?惨めたらしくしかならないからいはない。それもさて措き、“セックスで人がどんな言葉と出会ひ、最高潮のエクスタシーを得るのか”。そもそも捉へ処のない城前の提出したテーマは、東郷健的な比較文化論に展開するですらなく、“黒い犬が草原を走る”だの“ピンクの豚が青い空を飛ぶ”だの、“モグラが熱く密度の高い土の中をグイグイ進んで行く”だなどと、甚だ他愛のない動物ポエムが実験の成果だといふのは腰も砕ける御愛嬌。寧ろ、自家用のテキストを輝葉に渡した泡肌が要は女王様プレイを満喫する件の方が余程充実、前戯あるいは挿入中に相手の肛門に指を挿し入れ抉るフランス流テクニック・ポスチョーナージュまで繰り出される大サービスには、山﨑邦紀自身のノリノリぶりも窺へる。城前自ら輝葉に皮膚感覚を開発され、絶頂に達した風花は、プッチーニのオペラ「蝶々夫人」を代表するアリア「ある晴れた日に」を出し抜けに披露する。実際にそんな女と対面した男は大抵萎えるに違ひないとも思ひつつ、そのやうな珍奇なシークエンスを堂々と成立せしめられるのも、改めて流石里見瑤子だ。城前の元々思ひつきじみた目の鱗が落ちたところで、ブラックアウトする研究所。即ち、完璧なタイミングで、終る祭り。正しく劇的、それ以外の言葉が見付からぬ見事な終盤は、なほも静かに、然れども同時に猛然と加速する。杏奈と洋二、風花と泡肌を手際よく落ち着かせた上で、城前と輝葉が沈黙した屋敷に残される。男と出会ふと握手するやうにセックスする女は、別れる時にも手を振るやうにセックスするといふのは画期的に洒落てゐる。だから有奈めぐみがせめて体型だけでも標準的であつたならば、歴史的な名場面たり得てゐた可能性もあつたのに。ディバイン好きの山﨑邦紀は首を縦に振るのかも知れないが、有奈めぐみは単なる単に太つた女だ。気を取り直して、そして、あのオーピーが手切れ代りなのかよくぞ許した、静謐にして衝撃的なラスト・ショットが、如何とも形容し難いエモーションを叩き込む。執拗に繰り返すがエクセスに劣るとも勝らない、裸映画的には更に肝要なビリングの頭に開いた主演女優の太穴、もとい大穴。現に尺も喰ふ最重要の筈の実験室が、一番貧しいロケーション。少なくも小さくもない弱点に関しては、この際忘れてしまへ。相変らずな奇人変人の変態博覧会に偽装した引導にしか最早どうしても思へない、もしかすると2013年最大の問題作。とりあへず、普通に充実した映画を残し後を濁さず綺麗に飛び立つた旦々舎の、古巣エクセスでの更なる大飛翔―浜野佐知による、帰還作が目下大絶賛撮影中―が今から楽しみで楽しみで楽しみで仕方がない。
 蛇足にいはずもがなな瑣末をツッコんでおくと、全部落ちても、館内は生きてるんだな。それともうひとつ、触れられたくない過去に洋二が見せるチック風の異常動作。津田篤が全く似たやうな演技プランを何処かで採用してゐたやうな気がするのだけれど、「性欲診察 白衣のままで」(2007/監督:池島ゆたか/主演:結城リナ・星沢マリ)であつたか?

 ここから先は、映画単体からは完全に離れた余談であるが、今回今作を観たのは小倉駅前徒歩二分の小倉名画座。二本立ての併映は、新田栄の現状最終作「未亡人家政婦 -中出しの四十路-」(2009)。主演は何れも肉襦袢、それぞれの事情による二本の最終作。後ろ半分は結果的な偶然にせよ、一見頓着なさげに見せて、小倉名画座はなかなかハイ・コンセプチュアルな番組を組む。因みに、肉の厚みは有奈めぐみ>>>大空音々。


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 「人妻禁猟区 屈辱的な月曜日」(2013/制作:《有》大敬オフィス/提供:Xces Film、の筈/音楽・脚本・監督:清水大敬/撮影:井上明夫/照明:小川満/音声:吉永武彦/撮影助手:河原啓喜/照明助手:広瀬雄二/助監督:秋山大介・田原賢治/出演:北条麻妃・倖田李梨・中居ちはる・竹本泰志・那波隆史・山科薫・若林立夫・大黒恵・菊池美佳子・中村勝則・姫野ケイ、他大所帯)。出演者中、菊池美佳子がポスターには菊地美佳子、その他御馴染み大所帯は本篇クレジットのみ。清水大敬がポスターには名前が載るのに、出演者クレジットはなし。平素より情報量は少な目ながら、VEその他諸々拾ひ零す。編集:酒井正次、てクレジットあつたかな?
 ど頭に来るのは、OVERとかいふ謎のレーベルのロゴ。小屋に掲示されてゐるのは間違ひなくエクセスによるパブであるにも関らず、今回地元駅前ロマンにて上映された本篇中にはエクセスのエの字も見当たらない。
 タイトルからイン、夫・武男(山科)に悩ましくおねだりする北条麻妃(華麗にハーセルフ)の痴態をピンで暫く見せての、濃厚な夫婦生活にて快調極まりないスタート・ダッシュ。髪の色が軽いと―高校生にしては軽過ぎるが―白人の血が混じつて見える、陸上部の朝連に飛び出して行く娘・裕子(中居)と三人で幸せな暮らしを送る麻妃に、十八年前OL時代の同僚・博子(菊池)から驚きの電話が入る。同じく同僚の真由美(そこそこ美人の遺影不明)が、癌で死去したといふのだ。母親(大黒)が形見分けしたいといふので四十九日に参列した麻妃は、真由美の死は報されてゐない癖に現れた当時の上司、そして麻妃をレイプしお縄を頂戴した鮫島権三(那波)と対面する。後々二枚返して残り百十八枚といふと、計百二十枚のレイプ写真を出汁に、麻妃は改めて鮫島に犯される。
 配役残り竹本泰志は、裕子が志望する理工学部在籍の家庭教師・健児。倖田李梨は風俗嬢上り目下シャブ漬けの鮫島妻で、麻妃とは田舎の同級生でもあるといふ超絶の偶然を迸らせる明美。若林立夫は鮫島のム所仲間・荒井敏明、龍神会若頭といふとそこそこの顔役にしては、年長の鮫島の素直に弟分らしい。この人の、ダイレクトに昭和の香りを持ち込む抜群のルックスなりキャラクターは、もう少し珍重されるべきではないかと思ふ。中村勝則と清水大敬は、健児を釈放する刑事。菊池美佳子のラインで連れて来られたのか、本業は文筆業の姫野ケイは看護婦役とされるが、何処に出てた?その他大勢は四十九日参列者、兼回想中社内の皆さんと、麻妃の家族が入院した湊川総合病院の医師に、オーラスでニュース原稿を読む男性アナウンサーの声の主。
 デビュー以来活動の場として来たオーピーにはもう戻らないのか、電撃エクセス第一作となる清水大敬2013年第二作。キネコすらしてゐない―そもそも上映が、プロジェク太館に限られてゐる―清々しいまでのビデオ撮りで、尺も七十分強。他媒体への越境といふ話を小耳に挟んだやうな気もしつつ、確認出来なかつた。かつて自身を強姦した男と再会した人妻が、再び強姦される。フランス書院ばりの実も蓋も、ついでに工夫も欠いた無体な物語の中まづ目につくのは、当の卑劣で凶悪な強姦魔・鮫島の造形。殆ど常時目はヒン剥き台詞を喉の奥から振り絞るか、あるいは腹の底から喚き散らす。要は清水大敬と同じ芝居を要求された結果、数少ない得意ジャンルの悪漢役をも封じられ綺麗に空回る那波隆史を眺めてゐると、これはこれで他人がおいそれと真似し得るメソッドでもないのかと、それはそれとしての清水大敬の偉大さに思ひ至る。作劇上の特色は、開巻に於ける北条麻妃の誘惑に呼応しての、山科薫のオッソロシく無造作なフレーム・イン。絡みに入ると無駄にデンプシー・ロールしてみたり、完全にベッドの上に乗つて撮影したものだから、ギシアンに連動して上下にガチャガチャ揺れるカメラ。コピー一枚取るのにわざわざ上階の別室に向かはねばならない会社等々、プリミティブにツッコませる種には事欠かない反面、極大のクレジットで他愛ないだけならばまだマシな能書を垂れ倒す、清水大敬病は完全に封印。観客を混乱とやがて絶望の淵に叩き落して上から更に石を投げる、魔展開に次ぐ魔展開が火を噴くこともなく、始終は女の裸を見せることに粛々と奉仕する、かに思はせて。我慢に我慢を重ねた逆説的にストイックな裸映画が終に弾け、闇雲に死体の山を築き始める終盤は堰が切れたかのやうなスピードとグルーヴ感を以て走る。締めの濡れ場が存在しない点に関しては画竜点睛を欠くといつていへなくもないとはいへ、全体的には案外絶妙なバランスを保つてゐるのが興味深い。加へてその期に及んでも依然上滑り続ける那波隆史に対し、鈍くなのか鮮烈なのかよく判らない輝き方をするのが山科薫。清水大敬第三作「変態プレイ 教師すすり泣く」(1998/主演:相沢奈保)に初参戦後、出てゐない映画を探す方が難しい経験値は伊達ではない、貫禄が違ふ。清水大敬が演出する世界に完全にフィットしてみせるのは、ある意味なのか逆の意味でなのかは兎も角、兎に角凄い。あれだけ執拗にブッスブッス刺したのに―子供騙し以下の工作含め―御都合主義がグルッと一周して爆裂するハッピー・エンドは、娯楽映画としての落とし処を精一杯摸索した、不器用な誠意と捉へたい。攻撃的なエロ、エロティシズムなんて高尚なものではなくあくまでエロは目一杯楽しませ、それ以外の見所も結構盛り沢山。何故か手放しで喜んで観てゐる自分が、何となく不思議にもなる素敵な一作である。

 ところで、人妻が屈辱的な目に遭ひ禁猟区までもいいとして、月曜だらうが火曜だらうが、劇中曜日がフィーチャーされることなど半カットたりとてなかつたのだが。かういつた辺りの薮蛇具合は、確かにエクセスだ。それと、触れ忘れたが空山基とタクシードライバーのポスターがベタベタ貼られた鮫島宅のヴィレヴァンなセンスも、実に清水大敬だ。
 備忘録<二人ともブチ殺した鮫島と荒井は同士討ちに偽装。武男は一命を取り留め、健児も不起訴


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 「若妻淫熟 ダブル性感帯」(2001『若妻快楽レッスン 虜』の2013年旧作改題版/製作・配給:新東宝映画/脚本・監督:渡辺護/企画:福俵満/製作:深町章/撮影:鈴木志郎/編集:田中修/助監督:佐藤吏/録音:シネキャビン/現像:東映化学/出演:里見瑤子・永井努・佐々木ユメカ・かわさきひろゆき・佐倉萌・岡田智宏・門前忍)。出演者中門前忍は、本篇クレジットのみ。
 テレビ局勤務のドキュメンタリー・ディレクターである夫(岡田)の東南アジア出張中、新婚八ヶ月の若妻・工藤舞(里見)は高校時代の親友・洋子(佐々木)がカラオケバーを営む山間の田舎町を訪ねる。舞の欲求不満を看破した洋子は初めてではない百合の花を咲かせ、自身のパトロン・村木(かわさき)も舞に宛がふ。その件、床の中一人で遊ぶ舞が気づくと直ぐそこまで村木が迫つてゐたなどといふシークエンスは、幾ら何でも粗雑に過ぎる。一方、奴隷のやうに洋子に傅く洋子の店のナイーブなバーテンダー・晃(永井)は、洋子が母親に似てゐること、その母親を犯しかけ家出した末に洋子に拾はれたことを、大して面識もない舞に語る。そんなディープな話出し抜けに切り出されても、普通聞く耳持たないよね。
 配役残り佐倉萌は、洋子の店「ちよ PART Ⅲ」のホステス・明美。この名義での監督作もある、渡辺護の変名である門前忍はちよ店内カットに於いて洋子が相手する客、明美が対する二人連れは不明。
 “ピンク映画黎明期を支えた巨匠”―新東宝公式配信頁より―渡辺護十二年ぶりのピンク映画帰還作。今回今作を観たのは八幡の前田有楽で、因みに次作は、先週小倉名画座に新版が来てゐた「義母の秘密 息子愛撫」(2002/主演:相沢ひろみ)。個人的にはピンクを観始めて間もなく、淫タクに一人で熱狂してゐた―今でも一人だが―頃なので、当時の受け取られ方なり何なり雰囲気は全く覚えてゐない。本丸に話を戻すとこれ百合か?無粋なもので申し訳ないが何かの花から自ら股を開き股間を晒す里見瑤子の下半身にオーバーラップする開巻にまづ、清々しいまでのアナクロぶりに苦笑する。里見瑤子は兎も角、佐々木ユメカは正直殆どギャグ感覚の、セーラ服の二人がキャッキャ戯れ合ふ女学生時代の回想パートも、遣り口自体が特殊な訳でも決してない割に、不可思議なほどに古めかしい。そこまでは、微笑ましさの範疇として。髪形が軽いと永井努が結構真央はじめに酷似して見える、晃が振り回す徒な重さで薮蛇な大仰さを醸し出しつつ、これ要は、旦那の出張中に火遊びを楽しんだ人妻が、マキシマムの刃傷沙汰が起こつたにも関らず再び元の日常にケロッと復帰する、如何にも人を喰つた話なのではなからうか。さういふものを誰それ先生のお撮りになつたものだからと有難く押戴く心性は、残念ながら今も昔も持ち合はせない。ルーズなルーチンがグルッと一周してアヴァンギャルドなりパンクの領域に突入しかねない、大御大・小林悟や今上御大・小川欽也、最強の小屋の番組占拠率を誇る無冠の帝王・新田栄らにツッコミツッコミしながらも生温かく接する愉悦を、寧ろ俺は選ぶ。粗雑に総括すると全盛期を知らない不勉強な若輩者にとつては、渡辺護のピンク映画少なくともラスト三作は、他と比較して明らかに重く扱はれる、その名前の大きさを実感させるものでは必ずしもなかつた。

 洋子宅が御馴染み水上荘であることはm@stervision大哥のレビュウを通じて広く知られるところとして、現代的な問題は、水上荘公式サイトのドメインが切れてゐる件。

 以下は再見に際しての付記< 明美が接客する二人連れ、小用に立つのが佐藤吏で、明美を執拗に口説くのは、どうもアテレコ臭く聞こえる福俵満


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 「天使のはらわた 赤い淫画」(昭和56/製作配給:株式会社にっかつ/監督:池田敏春/原作・脚本:石井隆《少年画報社・ヤングコミック所載》/プロデューサー:結城良煕《N・C・P》/企画:成田尚哉/撮影:前田米造/照明:木村誠作/録音:小野寺修/美術:菊川芳江/編集:川島章正/音楽:甲斐八郎/助監督:児玉高志/色彩計測:福沢正典/現像:東洋現像所/製作担当者:服部紹男/出演:泉じゅん・栗田洋子・山科ゆり・沢木美伊子・伊藤京子・鶴岡修・阿部雅彦・三谷昇・北見敏之・港雄一・松風敏勝・末井昭・浜口竜哉・麻生みちこ・滝のり子・関悦子)。出演者中、伊藤京子にポスターでは括弧新人特記、浜口竜哉は本篇クレジットのみ。配給に関しては、事実上“提供:Xces Film”。
 尻を手前に、這ひ蹲る体勢で顔だけ切なげに振り返る縛り上げられた泉じゅんのスチールが、青く反転してタイトル・イン、そこは赤くないのかよ。同僚の誘ひに唆されビニ本のモデルになつた―そもそもな大飛翔ではある―デパートに勤務する土屋名美(泉)は、当のビニ本『赤い淫画』が大ヒットを飛ばしたことから、以来付き纏ひや無言電話に悩まされる。一方、咳をしながら背を丸め歩いて来るファースト・カットが今でいふフラグを立てまくる、職を転々とする村木健三(阿部)は窓から覗く向かひに住む女子高生・山下聖子(伊藤)の過激過ぎる自慰―コンドームに入れ挿入した生卵を鉛筆で突くのは、せめて削つてゐない方にしなさい―に興奮しつつ、『赤い淫画』のヒロインに尋常ならざるときめきを燃やす。主任の阿川(鶴岡)と職場不倫を楽しむ名美は、しつこいビニ本関係者と会ひ、二度と脱がない旨言明する。店を出て来た名美を、職探しにアブれパチンコには勝つた村木が目撃。追はれた名美は辛うじて逃げきつたものの、落とした定期を村木に拾はれてる。この、逃げた人間が上手いこと何某かの個人情報を落として行く、クリシェの原典は一体何なのか。そんな中、何処からか阿川が『赤い淫画』を入手、事後の軽い脅迫紛ひの言ひ草に名美は激昂、派手に決裂する。
 この年代と頭数の配役に手も足も出ないのはもう諦めてゐる、その他大体登場順に山田役とされる山科ゆりが、ビリング推定で濡れ場も捻じ込まれる、村木が住む安アパートの大家。関悦子が聖子の母親で滝のり子は恐らく、大家・聖子母と三連星を編成するもう一人の主婦連、三谷昇は聖子の父親。栗田洋子は悪びれもせずに名美をビニ本モデルの道に引き込んだ同僚・瞳、見せるのは着替へ中の下着まで。麻生みちこはデパートガール要員らしい、そこそこ見切れるのだけれど。末井昭は名美の人気に未練を残すビニ本プロダクションの編集長・角、同席する北見敏之が、ナポリタンを美味しさうに平らげるカメラマン・岡。沢木美伊子は、風呂場での夫婦生活も披露する阿川の妻・恵子。御存知港雄一は犯す前に殺し事後には放尿する、正しく鬼畜生の変質者。阿川がへいこらと『赤い淫画』を告発する、デパートの上司は松風敏勝。
 池田敏春昭和56年第二作、通算第四作にして、原作者である石井隆が自ら脚本を手掛ける「天使のはらわた」シリーズ第四作。尤もそれやこれやに言及する能力は全く持ち合はせないので、今作単体を相手に潔く等閑視して済ます、怠惰ともいふ。リアルタイムから現在に至る世評がどういつた方向で固まつてゐるのか知つたことではない上で、時代の勢ひをサッ引いたとしても、明らかにトゥー・マッチな部分は散見される。土砂降りのジャングルジムにて捨て鉢になつた名美が出し抜けに体を開く姿や、相手が犯し屋の異名も誇つた港雄一にせよ、流石にあんまりな変質者の造形。一体何処の片田舎でもあるまいし魔女狩りを思はせる狂騒の中、幾ら娘をブチ殺されたとはいへ親爺がいきなり猟銃をブッ放す辺りはムチャクチャなのだが、ビニ本のヒロインに恋する社会不適応者と、ビニ本モデルになつたばかりに、不倫相手にも裏切られ失職したデパートガール。形振り構はず我武者羅にあつらへられた予め何も持たない男と、全てを失つた女のラブ・ストーリーはどうしやうもなくエモーショナル。現実的には結ばれる結ばれぬ以前に終ぞ出会ひすらしないがゆゑに、なほさら破天荒な嘘は世紀を跨いで輝く。それが映画の、全ての創作物の力ではないのか。着ても貰へぬセーターなんぞ編んでどうするのだ、などといふ潤ひを欠いた疑問は根本から間違つてゐる。着ても貰へぬセーターでさへ編まずにはをれない人の哀しみのために、歌は歌はれ映画は撮られ、思想は囁かれるべきである、当サイトは固くさう信じてゐる。破り捨てさせたものの代りに、名美が手持ちの『赤い淫画』を村木にあげようと待ち合せに持参する件なんぞ、それこそ真つ赤な嘘で真つ赤な嘘で、だけれども美しくて美しくて泣けて泣けて仕方がない。そのやうな優しさはこの星の上には実在しない、そんなことは骨の髄に染みて判つてゐる。だから、あるいはせめて、裸に紛れ銀幕の上に映し出された束の間の温もりに、暗闇を方便に人目を憚りもせず涙を流すのだ。そして畳みかけられる、フィニッシュの強靭さは圧倒的。長距離バスが温暖な南国にやつとこさ辿り着いたかと思つたら、傍らの病んだ相棒は死んでゐた。しつこいマッポを振り切つた次の瞬間、貨物列車の直撃を被弾し木端微塵。刹那の歓喜から奈落の底に突き落とされる、かつて大槻ケンヂが大意でさう指摘したアメリカン・ニュー・シネマの精神を体現する鮮烈なラスト・ショットは、あまりにも完璧な構図とともに強く深く心に刻み込まれる。平素はエクセスが小屋に寄こすから観てゐるだけで、ロマンポルノ如きシネフィルに呉れてやつたとて惜しくはない。なんて憎まれ口を平然と叩いてのける偏狭極まりないピンクスではあれ、今作にはめぐりあへて本当によかつた。斉藤信幸版の「黒い下着の女」(昭和57)と並ぶ、ロマンポルノ心の名作である。


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 「杉本笑 スペルマ全身愛撫」(1990『ぐしよ濡れ全身愛撫 BODY TOUCH』のあんまりなAV題/製作:バーストブレイン・プロダクツ/配給:新東宝映画/監督:佐藤俊喜/脚本:小林宏一/プロデューサー:佐藤靖/音楽:山田勲生/撮影監督:重田恵介/照明:林信一/編集:金子尚樹/ヘアメイク:岡本佳代子/助監督:上野俊哉/演出助手:森田高之/撮影助手:古谷巧/照明助手:池田ヨシオ/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東映化学/出演:杉本笑・早瀬美奈・中根徹・木村ヤスシ・清水大敬・牧村耕次・江藤保徳・三橋昇・荒木太郎・山科薫)。実際のクレジットは英語なのだが、アルファベットを打つのが面倒臭い。人名の片仮名は漢字に辿り着けない反面、佐藤俊喜は片仮名表記が正解なのかも知れん、牧村耕次も牧村耕治かも。脚本の小林宏一は、小林政広の前名義。
 時計音と、ホテルの一室に入る男女。挿入間際の土壇場中の土壇場で拒みだす岸田容子(杉本)を、沢井か澤井邦夫(中根)は無理矢理抱く情事、馬鹿デカい―AV版の―モザイクに苦笑させられつつタイトル・イン。ある意味当然、容子は邦夫に距離を取つて一ヶ月。雑誌社に勤務する容子が作家先生を缶詰にしたプラザホテル417号室の電話番号を聞き出した邦夫は、強引にその夜会ふ約束を取りつける。但し容子が指定した待ち合せ場所は、歌舞伎町のカフェバー。数年前、邦夫がバイト先で知り合つた由美子(早瀬)とホテルから出て来たところで、由美子が歌舞伎町のヤクザ・根本(木村)とその子分(江藤保徳・三橋昇・荒木太郎)に絡まれる。情けないにもほどがある邦夫は一人で逃走、由美子は輪姦される。以来邦夫は、新宿ごと足を遠ざけてゐた、この世から遠ざかれ。仕方なく恐々歌舞伎町に足を踏み入れた邦夫を、今ではすつかり根本の情婦の座に納まつた由美子が見付ける。結局容子とは喧嘩別れ、邦夫が飲み代を払ふ店に、子分を招集した根本一派も五名様御来店。例によつて逃げた邦夫を、根本は子分に追はせる。
 登場順に配役残り清水大敬は、邦夫を歌舞伎町にオープンする知り合ひの店に誘ふ、会社の上司・田沢か田澤。猫撫で声で声をかけ、本当に容子と予定のある部下に断られた途端に激昂するのは、清水大敬のお家芸。山科薫はママなのか、邦夫が一瞬根本と見紛ふカフェバーのオカマ。山科薫がサトウトシキ作でオカマを演じるのは、さういへば「アブノーマル・エクスタシー」(1991)でも観た。牧村耕次か耕治は、いざ書き始めるや仕事の早い玉井先生。
 jmdbによるとちやうど前後で漢字と片仮名に分れる分水嶺につき、正確な名義のハッキリしないサトウトシキ1990年第一作。佐藤寿保だサトウトシキだと、ドロップアウトの分際で豆腐の角で脳でも強打したのかといふ話ではあるが、「レズビアンレイプ ‐甘い蜜汁‐」でシャープな美貌が目を引いた、杉本笑の映画を他にも見てみたくなつたのだ。さうしたところがさうしたところが、素頓狂に前髪をアップした出鱈目なヘアスタイルで、杉本笑が全然不細工に見えるまさかまさかのサプライズ。と匙を投げかけてゐたら、カフェバーにて容子が邦夫と会つてゐる間は、前髪を普通に下した形に修正されてある。間は修正されてあるとは何事かといふと、要は劇中時間の進行に伴ひ主演女優の髪型が一回変り、その後元に戻るのである。スクリプターが居る居ないの騒ぎどころではない、当該件の撮影順が一番最初なのか最後なのかは知らん。四天王方面に慣れぬ食指を伸ばしたからなのか、己の頓珍漢な引きの強さには流石に呆れるばかりである。映画本体に話を戻すと、四人が薄汚れた街を威勢よく駆け抜ける、邦夫と根本子分のチェイスは見応へがある。杉本笑が岡本佳代子に後ろから撃たれる中、イイ感じの沸点の低さとエッジの鋭さを弾けさせる、三人の中ではリーダー格の江藤保徳が俳優部最も輝く。とはいへどうにもかうにも呑み込み難いのは、根本一派には手も足も出ない割に、無理矢理抱いた容子にしつこく付き纏つた上で、漸く会つたとなると身勝手極まりなく逆ギレすらしてみせる邦夫の惰弱な造形は激しく癪に障る。選んで観てゐる訳ではないのでよく知らないが、「アブノーマル・エクスタシー」も想起するにグジャグジャ自堕落な主人公―がついでにボコられるの―が、小林政広脚本の色なのか?自ら渋る邦夫を呼び出しておいて、プラザホテルにとんぼ返つた容子は歌舞伎町の一夜を綺麗に素通りした挙句に、根本が再会した邦夫を“丁重におもてなし”することを、頑なに子分に命ずる理由といふのが致命傷。敢て中身には触れないが、旧来とは一線を画した新しい時代のアーバンなピンクを気負つたかのやうにみせて、下手なルーチン以上に―以下だ―御都合的な方便の底の抜け具合には唖然も通り越して愕然、観客を馬鹿にしてゐるのかと本気で思つた。小屋で観てもゐない癖に、といふのはツッコまないで欲しい。それでゐて、1990当時年既にさういふ風潮は出来上がつてゐたのか、『PG』前身の『NEW ZOOM-UP』誌主催によるピンク映画ベストテンに於いて今作が作品部門一位を獲得したとのことだが、もう少しマシな映画は幾らもあつたらうにといふ風にしか思へない。僅かに観た見た範囲で個人的なイグザンプルを戯れに挙げてみると、浜野佐知の「団地妻 恵子のいんらん性生活」とか、深町章の「激撮!15人ONANIE」とか、片岡修二の「ザ・高級売春 地獄の貴婦人」とか。別の意味でならば面白いことは猛烈に面白いが、大御大の「痴漢電車 よせばいいのに」といふのは冗談だ。

 最後に、もうひとつ注目は、一体何時の時点で、荒木太郎は現在の顔が完成してゐたのか、清水大敬も。


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 「愛液まみれの花嫁」(2013/製作:ナベシネマ/提供:オーピー映画/監督:渡邊元嗣/脚本:山崎浩治/撮影・照明:飯岡聖英/編集:酒井正次/助監督:永井卓爾/監督助手:増田秀郎/撮影助手:宮原かおり・竹野智彦・岡山佳弘/編集助手:鷹野朋子/スチール:津田一郎/タイミング:安斎公一/効果:梅沢身知子/録音:シネ・キャビン/現像:東映ラボ・テック/撮影協力・下着協賛:GARAKU/出演:樹花凜・横山みれい・なかみつせいじ・野村貴浩・津田篤・山口真里)。
 タイトル開巻、ウェディングドレスを着たヒロイン(樹)が、なかみつせいじの声から逃げる。崖から海に転落したヒロイン―以下仮名で花凜―が意識を取り戻すとそこは貸し別荘で、傍らにはリゾードウエディングを挙式する予定の婚約者であるといふ坂口一輝(津田)がゐた。尤も花凜に、坂口の記憶はなかつた。更に混乱する、花凜の脳裏。医療行為の無効を説き花凜に迫る白衣のなかみつせいじと山口真里は、別荘のオーナー夫妻・千葉将雄とさゆりとして、同様に花凜に男が女たらしである旨を警告する横山みれいと当の女たらし・野村貴浩は、旅行中の尾崎京子と徹として花凜と坂口の前に現れる。既視感とも幻覚とも知れぬイメージに度々襲はれながらも坂口と一日を過ごした花凜は、その夜婚前交渉を営む。ところが花凜が満ち足りた眠りから目覚めると、再びウェディングドレスを着て海に転落。再度貸し別荘にて意識を取り戻すと矢張り傍らに居た坂口は、何とさゆりとのハネムーン中。一方自らは、不倫相手の尾崎とその場に来てゐるらしい。昨日坂口と撮つた筈の写真も入つてゐないスマホの日付は、昨日と同じ五月一日。周囲の人間に関する記憶は兎も角、花凜はそもそもアイデンティティを依然取り戻せぬまゝに、“この世界は、前の世界とは違ふ”ことを悟る。
 先に小倉に着弾した、渡邊元嗣2013年第三作。因みに二本立てもう一本は、渡辺護の「義母の秘密 息子愛撫」(2002/主演:相沢ひろみ)の、2009年旧作改題版「背徳エロ 義理のおふくろ」。小倉名画座は特にも何も一切喧伝するでなく、何気にナベ・ツイン・ドライブを打ち込んでみせた、実に洒落た番組を組む。映画本体に話を戻すと、花嫁姿の女が記憶を失ふところから幕を開く、如何にもな物語。混乱する記憶の断片に苛まされつつ、女は細部を違へ繰り返される、五月一日に彷徨ひ込む。ダークなエンドレス、エイトならぬファイブに心身ともの病弱を思はせる、樹花凜の大き過ぎる瞳と白過ぎる肌は尚一層映える。それでゐて、濡れ場に突入すると案外肉感的であるのは殊更に素晴らしい。西岡秀記の不在にこの期に及んでも直面せざるを得ない、男優部の若干の弱さには目を瞑れば、脇に控へるのも前作から連続参戦のクール・ダイナマイト・ビューティー横山みれいに、ナベシネマのトメの座が今や完全に似合ふ山口真里と、裸的にも映画的にも全く磐石。丹念に丹念に積み重ねた伏線の数々を、幾つか切り口が予想される中で、全て此岸で綺麗に片付ける丁寧な謎明かし、自体には何の問題もなかつたのだが。陽光に眩しく輝く木々などは息を飲むほど鮮やかに捉へてゐた割に、選りにも選つて肝心要の真相が明らかとなる段に際しての、頭を抱へたくなるほど画期的な画の貧しさが致命傷、激しく興を殺がれる。もう一点、劇中一回目の五月一日。坂口が花凜の記憶喪失を嘆く件、津田篤の泣き芝居がコメディ調にしか見えないのは、とてもさういふ演出意図とは受け取り難いゆゑ考へものだと思ふ。そもそも聞いたことのない斬新なアイデアではないにせよ、端整な一品たり得てゐておかしくなかつたにも関らず、惜しくも釣り糸の切れた一作である。尤も、無機質な着地点をそのまゝ放り投げはしないのが、ゴールデン・エイジの第二章を長く快走する目下のナベ。「愛液ドールズ 悩殺いかせ上手」(2009/主演:クリス・小澤)も髣髴とさせる幻想的かつ美しいラストは、無体なネタに潤ひを添へる。

 心が閉ざされた今、舞台となる貸し別荘の詳細は不明。もしかして御馴染みの下着協賛に加へ撮影協力ともクレジットされる辺り、保養所か何かGARAKU(ex.ウィズ)所有の物件?
 備忘録< ヒロインは①一日分が限界②全消去付加③セクサロイドである二号機とのリンク障害、といふメモリーに欠陥を抱へた、恋愛シュミレーション・アンドロイドの試作初号機。残りの五人は開発チーム


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 「レズビアンレイプ ‐甘い蜜汁‐」(1991/製作:獅子プロダクション/配給:新東宝映画/監督:佐藤寿保/脚本:夢野史郎/撮影:稲吉雅志/照明:斉藤久晃・清野俊博/編集:酒井正次/助監督:広瀬寛巳/監督助手:江尻健司/撮影助手:片山浩/照明助手:古賀昭文・南園智男/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:高樹麗・杉本笑・水鳥川彩・石川恵美・前村進・今泉浩一)。
 女が赤い液体を数滴垂らすと、試験管の中の透明な液体はみるみる黒ずみさくさくタイトル・イン。蜥蜴を飼ふ女はテレコを取り出し、「四月一日晴れ、何も記すことはない」。「明日は私の誕生日、ねえアナタ聞いてる?」と、結局最後まで何者なのか判らん“アナタ”に語りかける。うん、開巻から順調に地に足が着かないぞ。相変らずテレコ片手の辰宮か竜宮今日子(高樹)が退室した江間研究室を訪れた出入りの医療器具販売業者「ビーム」の弓坂(今泉)は、江間先生(一切登場しない)の秘蔵つ子といふ触れ込みの松田實子(杉本)と出会ふ。實子を介して弓坂からの誕生日プレゼントである特製の試験管を、但し誕生日の翌日に受け取つた今日子は厄介に豹変、實子の手を傷つける。想ひを寄せる實子と、距離を近づけるどころか衝突すらした―当たり前だといふ気しかしないが―今日子は、透明なサイレンサーのついた改造銃で女をレイプして回る、夢を今日子に語つた弓坂を抱き込み、實子を犯すことを画策する。弓坂改め今泉浩一が「僕が見た夢の話聞いて呉れますか?」と切り出す瞬間が、今作の明々後日だか一昨日の方向に輝く最高潮、笑ひ死ぬかと思つた。
 配役残り前村進は扮装は怪しいが素顔は普通な、今日子と予想外にコロッとホテルに入るナンパ師。水鳥川彩は、腹に一物含んだ今日子の協力を受ける形で、弓坂にレイプされる女。ん、これで終り?まだ残してないか(´・ω・`)
 何でまた関根和美や新田栄の温泉映画が大の好物で、最近では小川欽也の伊豆映画が、三本立てで並べて観た訳ではないので何となくにせよ案外一作毎にプログレスしてゐるやうな気もする小生ドロップアウトが、わざわざDMMで動画をダウンロードして対極に存しよう、得意でなければ別にファンでもない佐藤寿保を見てゐるのかといふと、どれでもいいから石川恵美の出演作が見たい気持ちになつたからである。そこでだから何でまた佐藤寿保なんだ、深町章なら何本も観てゐるから一旦回避したんだ。特に美人といふこともなければ決して超絶のプロポーションを誇る訳でもないけれど、如何にも人の好ささうな笑顔から銀幕を介して滲み出る穏やかな幸福感は、量産型娯楽映画の大海の中慎ましやかに輝く何気に得難い宝石であるのではなからうか。如何せん、活動時期なりポジションあるいは扱ひ的には橋本杏子の一歩後ろに下がりがちともなつてしまひかねないのかも知れないが、個人的にはこの期に、石川恵美に地味に注目してゐる。さうしたところが、まさかの石川恵美が見切れすらしないサプライズ。クレジットは、確かにされる。面倒臭い研究室の先輩に食傷した實子が、帰宅後友人に連絡を試みるも捕まらないといふ一幕に於いて、アツコ役の留守電メッセージで特徴のあるハニー・ボイスを聞かせては呉れる。但し、脱ぐ脱がないの以前に出て来やしない。石川恵美ルネッサンス企画のど頭にて、かういふ話の種にブチ当たる辺りは我ながら流石だと別の意味で感心する。
 仕方がないので映画に話を戻すと、仕方のない映画であつた。何はともあれ、新東宝公式の配信頁にある今作の紹介文が振つてゐるのも通り越して完璧。斯くも見事なイントロダクションには、さうさう巡り合へるものではない“夢野史郎のサイキックなシナリオを俊英・佐藤寿保監督がシュールな演出で描くサスペンス調の傑作”。“サイキックなシナリオ”とは果たして何ぞやといふのが最大のツッコミ処であるのはいふまでもないとして、それをおまけに“シュールな演出で描”いちやつたりしたりなんか日にはどうなるものやら。ある意味当然、サスペンスの体を成してゐなければ傑作でもない。女学生時代の強姦被害を方便とするのか、苛烈に異性を憎悪する同性愛者にして、終に正体不明のまま終るテレコに謎メッセージを吹き込み続ける。頭を抱へたくなるやうな造形のヒロインが、屈折したガンマニアを巻き込み百合の花を狂ひ咲かせる。無理矢理纏めてみたが、実際の始終は個々の遣り取りから展開の各々、ラストに及んではカットの繋ぎに至るまでことごとく噛み合はない。何処に向かつてゐるのだか見当もつかない反面、頑なに真直ぐ進みたくはないことだけならば如実に看て取れる。女装すると主演女優より美形になる今泉浩一も、元々大概な支離滅裂に更に火に油を注ぐへべれけな口跡は、ひとつきりではない致命傷。そもそも、メインのガジェットからして頓珍漢。サイレンサーに試験管を装着した改造銃といふと聞こえは激しくロマンチックではあるものの、劇中実際の代物は、銃口に先端に吸盤的な構造物のついた軸を挿して、底を抜いてはゐない試験管を固定する。・・・・あのさ、

 それ弾出ないよね?

 高樹麗は美波輝海似の鬼瓦系面相はさて措いて、首から下は適度にグラマラスな美しい体をしてゐる。杉本笑は狐系のシャープな美貌と、全体的なイメージも全く損なはないスレンダーな肢体を誇る。おまけに三番手に水鳥川彩をも擁しておいて、挙句に石川恵美は温存さへしておいて。裸映画的には幾らでも戦へた布陣であつた筈なのに、無駄に捏ね繰り回して逆の意味で綺麗に仕出かした一作。作家主義だか何だか知らないが、俺の立ち位置でいはせて貰ふとかういふ映画は鳥の里に紛れ込んだ蝙蝠だ。尤も、ここは蝙蝠も同居する鳥の里の多様な豊潤さをこそ、寧ろ尊ぶべきなのか。


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 「妻の誘惑 完全なる性感帯」(1994『股がる人妻たち』の2013年旧作改題版/企画・製作:オフィス・コウワ/提供:Xces Film/監督:上垣保朗/脚本:佐々木尚/プロデューサー:高橋講和/撮影:松尾研一/照明:多摩三郎/編集:金子尚樹[㈲ フィルム・クラフト]/音楽:伊東義行/助監督:勝利一/製作担当:堀田学/録音:ニューメグロスタジオ/効果:協立音響/撮影助手:猪本雅三/照明助手:多摩次郎/編集助手:高田宝重/ヘアーメイク:桜井ルミ/スチール:小島ひろし/現像:東映化学㈱/出演:小泉ゆか・吉行由美・福乃くるみ・白都翔一・真央元・東田やこ・東田かんろう・中根徹)。監督の上垣保朗と、脚本の佐々木尚は同一人物。ついでに新日本映像公式で助監督とされる添田克敏といふのは、勝利一の本名。となると、多摩三郎も白石宏明の変名なのか?
 小田急横尾八幡駅に電車が入つてタイトル・イン、三浦誠(白都)が向かつたのは家庭教師先の藤森家。小学生の娘・美香(東田やこ/子役)の授業と、母親の志津子(小泉)も交へた夕食の風景。三浦が自身に向ける地味に突つ込んだ眼差しに、志津子は全く気づいてゐなかった。一方新宿の映画館街、息子・勇樹(東田かんろう/子役)を連れた松本道代(吉行)は勇樹の家庭教師・滝本幸一(真央)と落ち合ふと、勇樹をアニメ映画上映中の小屋に放り込み、己はラブホテルにて滝本の若い肉体に歓喜する、何て母親だ。狭い世間の中で友人同士の滝本は三浦に、まだ生徒の母親を抱いてゐないのかと無造作にけしかける。
 配役残り中根徹は、志津子の別れた元夫・松浦浩平。女手ひとつの志津子が結構な一軒家にて、確実にそこそこ以上の暮らしを送る懐事情は一欠片も描かれない。一方、道代は亭主の安月給の中から苦労して工面した金を滝本に貢いでゐるのを、何故か今より年喰つて見えるこの頃の吉行由美らしい切迫感を以て訴へる、男の側からしたら鬱陶しい話でしかないがな。福乃くるみは、離婚前から関係を持つてゐたと思しき、松浦の情婦・真理絵。松浦と真理絵の絡み、中根徹は普通なのに、福乃くるみのリップシンクが木端微塵に出鱈目、綺麗な体を素直に見せる邪魔をする。
 最後に改めて整理しておくと、ロマンポルノで活躍した上垣保朗はVシネ戦線に一時雌伏後、矢張りオフィス・コウワから佐々木尚名義で三作のピンク映画を監督。更にその間第一作「不倫妻 夫の眼の前で」(1994/主演:浅井理恵)と第二作「義母と息子 不倫総なめ」(1995/主演:小泉ゆか)との間に、元あるいは本名義で発表したのが今作。上垣保朗は健康面から映像の仕事は離れたと伝へられて久しいが近年、むさしの吉祥寺映画フェスティバルの第1回ムービンピックに殴り込んでみせたりもしてゐる。今作に話を戻すと主演は夫人の小泉ゆか、但し明らかなオーバー・ウェイトと、jmdbを鵜呑みにするならば前作の「唐獅子株式会社」(昭和63)から明らかに開いた間をみるに、理由は何にせよ一旦引退後の、復帰作となるのではなからうか。等々と外堀に長々と拘泥してみたのはほかでもない、本丸が掘立どころか更地かと見紛ふくらゐスッカスカのカッスカス。物語らしい物語があるでもなく、各々の組み合はせの濡れ場が漫然と連ねられるばかり。重ねて今風にいへば草を生やすほどのツッコミ処にも乏しく、キャラクター単独で引き込ませるだけの、魅力的な造形も見当たらない。そもそもビリング通りに配分された絡みの回数で華麗にでもなく男優部三冠を達成するヒロインが、よくいへば福々しくキレを欠く始末。ところが、そのまゝショッパイだけでは終らなかつた。事そこに至る語り口はハッチャメチャなのだが、兎も角小泉ゆかの鮮烈なイメージを無理矢理叩き込む鮮烈なラストは、そこまで我慢して―寝落ちずに―観てゐられれば兎にも角にもとりあへず印象には残る。平板な面白い面白くないでいふと全く詰まらない割に不思議と忘れ難い、仕出かすにも振りきつた感は清々しいチャーミングな一作である。
 備忘録< 雨のリベンジャー


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