実録 （秘）通勤痴女日記

　「実録　｟秘｠通勤痴女日記」（昭和51/製作：ユニバース・プロダクション/監督：向井寛/脚本：宗豊/企画：江戸川実/製作：伊能竜/撮影：鈴木史郎/照明：斉藤正治/音楽：芥川たかし/編集：田中修/記録：豊島恵子/助監督：中山潔/監督助手：田尻丈人・仁科洋介/撮影助手：沖野健・松本信夫/照明助手：千葉正義・村田英二/効果：秋山サウンド/録音：東音スタジオ/現像：東洋現像所/製作主任：佐野日出夫/出演：四光まり子・東祐里子・茜ゆう子・水沢亜子・鳳玲香｟新人｠・中原美衣子・沢田マコ・松村洋子・黒田信子・田中敦子・谷岡ヤスジ｟特別出演｠・港雄一・久保新二・松浦康・神原明彦・三重街竜・深野達夫・吉岡清・太田幹夫・田川正幸・小原信久）。出演者がもう大変、大変て何よ。四光まり子と茜ゆう子が、ポスターではそれぞれ四光マリ子と茜夕子、といふのはほんの準備体操。中原美衣子から田中敦子までと、神原明彦以降は本篇クレジットのみ。更に、それとも逆に。ポスターにのみ野上正義と堺勝朗、滝沢由美・川路洋子・田中淳一の名前が載る出鱈目ぶりもしくはやりたい放題。百歩譲つて、仮に見切れてゐたとて見当のつかない滝沢由美と川路洋子は兎も角、男優部三人なんて影も形も出て来はしない、何故斯くも自由なのか。気を取り直して、製作の伊能竜は向井寛の変名、企画の江戸川実も怪しい。脚本の宗豊はユニクロもといユニプロの共有ペンネーム、ex.ユニプロで獅子プロ。クレジットがスッ飛ばす、配給に関しては実質“提供：Xces Film”。
　女子高生の明子（苦しいビリング推定で水沢亜子）がガムをもぐもぐ揺られる、大分混んだ地下鉄。以降、登場する鉄道は全線地下。UMAの鳴き声的な怪音を出し抜けに鳴らすや否や、谷岡ヤスジのマンガと矢継ぎ早に叩き込む、雑なスピード感のタイトル・イン。タイトルバック後ヤスジが一旦暫し鳴りを潜めつつ、終盤の大先生御当人降臨前後から、堰を切つたかの如く怒涛かランダムな弾幕を張る。
　一方、看板ママで生華「古流一石派」の家元・竹松友子（四光）の新作発表会。盛況の会場を訪ねたトップ屋の杉山（神原）は、自分―ら―で勝手に“永遠の処女”とかレッテルを貼つた、男の噂を聞かない友子の真相を暴く素振りを匂はせる。
　大半の本クレのみ勢に手も足も出ない、配役残り出来得る限り。友子の義父かつ先代家元で、いきなりクレジットの狭間から九重京司が飛び込んで来る。クレジットとポスターのみならず、本篇自体もフリーダム。義理とはいへ娘にココキョーが手をつける、濡れ場初戦。どうやら既に勃たないと思しき先代が、友子の寝室に手ぶらで現れておいて、ボウリングピンを取り出すカットの明後日か一昨日なスペクタクル。それ挿れるのかよ！といふサプライズと、その大きさのブツ何処から出したの？といふアメイジング。三重街竜は、変装に近い洋装で外出した友子に、車中逆痴漢を仕掛けられる頭にはタオルも巻いた労務者。実車輛でゲリラ撮影を敢行するのはいゝけれど、率直なところ結構諸刃の剣。誰が誰にはまだしも、何をどうしてゐるのか派手に雲を掴むのが霧の向かうに霞むお茶目処。東祐里子は、明子の担任か生徒指導的ポジションの教師・まり子。明子の彼氏・オプション君（超仮名）が謎、ノンクレの筈がないものの、如何せん既に飛び込んで来てゐる九重京司の存在が、その辺りすら怪しくしかねない壮絶な藪の中。松浦康は、劇中唯一通勤で電車を使ふ―後述する三番手は不明、明子はそもそも通学―まり子に、矢張り逆痴漢を仕掛けられるこの人も通勤氏。降車後、松浦康の方から追ひ駆けて来る形で連れ込みにも入る。茜ゆう子は、友子が姦淫の罪を懺悔する修道女・妙子。尤もそんな、もしくは当の妙子が、ポルノ映画上映館で捕まへるのが深野達夫。上映中の映画は無理、もしかしなくとも買取系でさへない、平然とピンクかも知れないし。ちなみに抜かれるポスターは、大蔵の「｟秘｠個人トルコ　抱かれ上手」（昭和51/監督：藤本潤二/主演：小杉じゅん）、個人トルコて何。各々覗いてゐた友子とまり子がミーツを果たす件の青姦カップル以下、総勢五組も端からどの人であれその人と知れる風に捉へられてはをらず、どうもかうもしやうがない。橋の上にて、別々に両側から渡つて来たまり子・明子と、友子・妙子が合流。さんざ覗き散らかした末、谷岡ヤスジは中目黒で一番デカいと噂される逸物を、四人で拝みに行くヒムセルフ。天真爛漫に、自らの天才を確信する幸福な御仁。港雄一は、妙子に襲はれる強面、無論律儀に電車で。寧ろ、半ば身動きを封じられた空間であるからこそ、女に男が犯される。少なくともサシだと常識なり体力的に無理も否めない、シークエンスにグルッと一周した蓋然性が発生するのであらうか。久保新二は新人特記に加へ、茜ゆう子と二人ポスターを飾る絶妙に重きを置かれた扱ひから推し量れなくもない、多分鳳玲香に痴漢する作中唯一の純然たる痴漢師。たゞし、アベンジャーズばりに出撃した四本柱の、集中砲火あるいは集団逆痴漢を浴びる。
　正直ピンクと殆ど全く変らない出来映えながら、買取系特権で素材が残つてゐた向井寛昭和51年第五作。ロマポもさう考へると、満更でもない。
　義父との姦通と、電車での男漁り。諸々辿り着いた“調査票”を出汁に杉山が友子と事に及ぶのは、所詮全体の調子を整へるのが精々の枝葉。jmdbと、今やアーカイブでしか出て来ない公式サイトにも記載の見当たらない点を窺ふに、何時かタイム・ゴーズ・バイの流れに押し流された、恐らく谷岡ヤスジ最初で最後の映画出演。といふ地味に歴史的なトピックをさて措くと、友子以下四人の痴女が、天真爛漫に男を狩る。尤も、物語の名に足る物語が一篇を貫きもしなければ、最終的にはブツ切つて事済ます、雑然とした一幕一幕を漫然と連ねるに終始。順に三重街竜と松浦康、深野達夫は飛ばして、港雄一に久保新二。三重街竜と港雄一が殊に信じ難い、正しく錚々たる豪華男優部の面々―松浦康と三重街竜で、長介顔が何気に二枚並ぶ―が、アクティブ通り越しアグレッシブな女達に、一人また一人墜とされて行く。盛大な撃墜ショーが確かに面白く、あるにしても。痛快といふほど丁寧もしくは心を込め撮られてある訳では別になければ、無論浜野佐知の如く、激越な女性主義ないし苛烈な女尊男卑に裏打ちされたものでも当然ない、全然ない。一般的な構図を戯れか偶さか引つ繰り返してみた程度の、他愛ない趣向替への範疇に止（とゞ）まる一作ではある。