真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「誘ひ濡れ 〜さあやとこはる〜」(2022/制作:ラブパンク/提供:オーピー映画/監督・編集:髙原秀和/脚本・漫画:福井遙香/音楽:おおくぼけい/撮影:下山天/照明:田宮健彦/録音:大塚学/助監督:森山茂雄/演出部応援:末永賢・小泉剛・堂ノ本敬太/撮影助手:王英男/スチール:本田あきら/仕上げ:東映ラボ・テック/同人誌協力:犬井あゆ・とーはに・たまむし・白縫ちせ・花影あると・夜・ピーナッツバター/協力:金田敬・永元絵里子・京本千恵美・西坂伊央里・中村亜海・高橋マシュー・山田はるか/出演:栄川乃亜・燃ゆる芥・初愛ねんね・永澤ゆきの・東野良平・吉田憲明・直樹フェスティバル・森川凛子)。小泉剛のピンク参加は、エク動が封切り僅か三週間強での電撃配信を敢行した、松岡邦彦個人三作目のデジエク第十弾「憂なき男たちよ 快楽に浸かるがいい。」(2019/脚本:金田敬/主演:並木塔子)以来。
 多分品揃へを同人誌協力、頭数は金田敬以外の協力で賄ふ―明確に視認出来たのは永元絵里子と京本千恵美に高橋マシュー―同人誌即売会場。本名でマンガを描く足立沙綾(栄川)の、百合の花薫る新刊『マーヤとチハル』を三菱正樹(東野)が作者当人と、隣ブースのおおくぼけいも軽くでなく引く大袈裟なピュアさで絶賛する。マンガのマーヤとチハルをまづ一人づつ見せた上で、マーヤとチハル二人にタイトル・イン。作品の出自を簡潔に表した、的確なアバンではある。
 本篇頭はタブをチョイチョイ触る、適宜挿み込まれる沙綾先生の制作風景、手先は福井遙香のハンドダブルかも。正直世辞にも整つてはゐない沙綾の部屋を、おうちデートする約束の彼氏・浅見裕太(吉田)が訪れる。第一声から脊髄で折り返す違和感を禁じ難い、吉田憲明の棒口跡は流石に意図的なものなのか?後述する森川凛子の、“嘘臭い笑顔”評も踏まへればなほさら。少なくとも浅見相手には沙綾がイカない、絡み初戦は当然盛り上がらなければ有難味にも欠く。先走ると、要は一回表から躓いてゐたのか。
 配役残り森川凛子は沙綾の母で、偶さか用事で上京してゐたすずこ。沙綾に肌寒い北風を吹かせる世間の代弁者兼、もう一人の主人公に送りバントで繋ぐ係。自らもダンゴムシのペンネームで百合小説を嗜む、三菱が遂に即売会デビューを決断。尤も「百合に男は必要ない」と断ずる三菱は、何処から連れて来たのか人前用の影武者を用意。工藤雅典の大蔵第四作「悶々法人 バリキャリ男喰ひ」(2022/脚本:橘満八/主演:希島あいり/三番手)から二戦目の初愛ねんね(現在はねんね名義らしい)が、影武者を務める宮下美月。本職は女性用風俗嬢、たゞセクシャリティはバイである模様。十億万歩譲つて昭和ならまだしも、平成ですらない令和。セイガクの卒業制作にしては途轍もなく旧い、何なら髙原秀和どころか、渡辺護に劣るとも勝らないくらゐどうしやうもなく古めかしい、堂ノ本敬太の「海底悲歌」(2021/共同脚本:松田香織)からこちらも二戦目の燃ゆる芥はチハルのモデルにして、かつて沙綾とプチ駆け落ちした過去も持つ中野小春。ビアンを原因に職を辞しパーマネント上京してゐた小春が、すずこ同様往来で沙綾に声をかける再会。同じシークエンスを臆面もなく二度繰り出してのける、地味に手数を欠いた作劇は如何なものか、派手かな。東野良平共々、髙原秀和前作「人妻一番! 二人きりトゥナイト」(2021/共同脚本:宍戸英紀/主演:希島あいり)が初陣。総勢で二戦目カルテットを成す直樹フェスティバルは、この人も創作活動してゐた百合クラスタの木崎すすむ、自ら求める愛称はキザッチ。改めて矢張り、荒木太郎に結構似てゐる、直フェス第一回監督作品はまだか。永澤ゆきのはエピローグで乳までなら拝ませる、ウィキにはアシスタントとされるものの、劇中何の作業も特にしてゐない、沙綾にとつて単なる彼女かも知れない浜辺あやか。あと、出番的には森川凛子に先行する、倅から沙綾に代つた電話越し、通俗的な憎まれ口を叩く浅見ママの声の主は無理、辿り着けない。
 よくよく調べると一年先取りしてゐる「つれなのふりや」(昭和54/PANTA&HAL/『マラッカ』収録)を、80’sダサさのアイコンとこの期に唾棄する当サイトにつき、知らなかつたが「頭脳警察」を結成する以前のPANTAが、瞬間的に在籍してゐたGS「ピーナッツバター」。の、2021に発売された1stミニアルバムにメンバーとして参加してゐるおおくぼけいと、ジャケを担当した福井遙香。に、旧弊なロック村に棲む髙原秀和が出会つた契機で、企画が始動した大蔵第六作。閉鎖的かつ専制的にして因習的な、いはばROCK封建社会と髙原秀和の関係については、散々通り越して惨憺たる第二作「トーキョー情歌 ふるへる乳首」(2018/共同脚本:うかみ綾乃/主演:榎本美咲)を想起されたし、俺は思ひ起こさない。子供心に80年代は端からダサかつたけど、今やロックもダサいかー
 最初に女の乳尻方面から攻めると、マーヤとチハルならぬさあやとこはるが、咲き誇らせる筈か咲き誇らせてゐるつもりの百合が、今一つも二つも三つも、てんで満足に開花しないのが根本的な致命傷。画が汚い訳でも別にない割に、変にフラットな距離を保つカメラは当然踏み込みを欠き、所詮片方が寸胴阿亀である土台負け戦を差し引いたとて、よくいつて精々プレーンな絡みは本気で女の裸を撮らうとする、意欲の有無すら最早疑はしい。中学時代を振り返りがてら、沙綾宅にて、沙綾と小春が二人ともスクール水着を着ての一夜。女二人がスク水で、睦み合ふ。これで煽情性が狂ほしく爆裂しないのがある意味不思議な、漫然とした組んず解れつには女の裸云々に加へ、髙原秀和にフェティシズムの根本的な欠落も感じた。よもやR15ver.に余計な色目を使ひ、故意にギアを落とした訳でもあるまいが、裸映画的には竹洞哲也よりも淡白で、全く以て物足りない。ついでに導入したのがよほど嬉しかつたのかウェーブエフェクターを、事に及んでゐる間終始使用するのは効果が半減ヒアシンス、もといしやせんか。他愛ない素人考へながら、次第に昂る官能に乗じて、こゝぞといふタイミングでエフェクト起動。劇伴も猛然と追走し、覚悟を極めたカメラは決死の近接戦を挑む。なんて塩梅で、如何かしら。何でずつとフィックスなの、動けよ寄れよ、その正当な手順の外に、真に濡れ場を救ひ得る便利な近道が有りうるだらうか、黙れ。
 他方、劇映画的にも苦しいのね、案の定。沙綾は家族から愛されて育ち、マンガといふ判り易い夢も―十分現実的に―持ち。行間のダダッ広い、一方的か勝手な認識のみで片づけられるため甚だ判り辛いのはこの際さて措き、小春いはく“綺麗なものしか見ようとしない”。沙綾に対し小春が性質の悪いルサンチマンを実は拗らせてゐた、とかいふ垂直落下の急展開は生硬な脚本を火に油を注いで生硬な二番手が演じた挙句、髙原秀和自体間違つても器用な人ではないゆゑ、大人しく打ちのめされる沙綾の姿は感情移入に果てしなく遠く、力尽きたかの如く映画は一旦塞ぎ込む。と、ころが。徹頭徹尾陽性の造形を宛がはれた、東野良平が起死回生の一撃逆転を放つ。嘘でも幻想でも、いゝぢやない。物語で救はれる、誰かのために。煮詰まるほかなかつた袋小路を、温かな南風でヒロイックな作家宣言にヒッコ抜く。凡そ髙原秀和らしからぬ、豪快な力技が普通に詰んでゐておかしくなかつた一作を見事にサルベージ。斯くも爽快なラストといふのも久々に思へる、六度目の正直で髙原秀和の大蔵初日。基本地に足が着いてゐない浮遊感もしくはホバリングを、舌足らずの口跡で加速。それでゐて意にそぐはぬ、三菱の求愛は頑然と拒否。初愛ねんねが比類ない完成度で形にしてみせる、二次元の受肉に成功したかのやうな超絶の不思議ちやん造形は遠い遥か昔、「制服美少女 先生あたしを抱いて」(2004)の蒼井そらで壮絶な爆死を遂げたリベンジを、この期に及んで髙原秀和が果たしたヴィンテージの感興をも惹起する。

 最後に枝葉を一茂り、愛車はルッククロス―無論、LOOK社のクロスバイクには非ず―のダンゴムシ先生が生計を立てる手段が、今時出前の「OP EATS」といふのは小道具がよく出来てゐる割に、台詞は微妙に聞き取り辛い小ネタ。一点律儀に釘を刺しておくと、オーピーイーツは業務中の配達員に、ヘルメットを被らせた方がいゝぞ、何かと。

 飾るでなく、掉尾を騙つた筆の根も乾かぬうちに。藪を突いて、蛇に足でも生やしてのけるか。OP PICTURES+フェス2023の、全十六本からなるラインナップには何気に衝撃を受けた。堂ノ本敬太の二本目や木村緩菜長篇デビュー作―中篇?―等、外様ないし青田買ひは小栗はるひの二本含め計六本。残り十本の内訳が、竹洞哲也と小関裕次郎に、山内大輔がそれぞれ二本、こゝまでは別に頷ける。大蔵第三作はまだ来てない以上観てゐないが、石川欣が紛れ込んでゐるのも兎も角、髙原秀和が今作の続篇と更に二本。合はせて三本といふ、三本もといふ奇異にすら映りかねない重用ぶりには吃驚した。ピンクの新しい時代なり在り方を摸索するにあたつて、そもそも髙原秀和―や石川欣―を連れて来るセンスもしくはチョイスからどうなのよ、それと常々思つてゐるところでもある。監協こと日本映画監督協会に於いて、理事の要職に髙原秀和が工藤雅典と名前を連ねてゐる―実は浜野佐知もゐる―公式サイトの役員一覧を眺めるにつけ、生臭い政(まつりごと)の気配が漂つて来るやうな気もするのは、下衆が勘繰るにもほどがあるであらうか。


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 「少女縄人形」(昭和58/製作:幻児プロダクション '82. 12作品/配給:ミリオンフィルム/監督:中村幻児/脚本:望月六郎・吉本昌弘/企画・製作:才賀忍/撮影:高井戸明/照明:山口一/編集:菊地純一/助監督:石川均/監督助手:望月六郎太/撮影助手:牛島昭・新山信人/照明助手:佐藤才輔/車輛:竹林紀雄/製作進行:広木隆一/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/音楽:PINK BOX/効果:内田音響/出演:風かほる・杉本未央・渡辺さつき・佐藤靖・新井真一・荒井三郎)。企画と製作の才賀忍は、中村幻児の変名。セカンド助監督の望月六郎太は何でまた、わざわざ太なんて蛇に足を生やしたんだろ。脊髄で折り返すタイミング的には、「家族ゲーム」でデビューする宮川一朗太より今作の方が半年弱早い。
 土の上でクラウチングスタート、結構劇的な鈍足で走る佐藤靖の、タイムを風かほるが計測する。懲りずにもう一走りする大学生の苗字不詳シロー(佐藤)に、妹で女子高生のアヤコが頑張つてねと声をかけブルーバックにタイトル・イン。ちなみにアバンの記録が、とてもそんな速さには映らない100m11秒6。
 同じ大学のガールフレンド・ユキヨ(渡辺)とホテル街に入るシローを、制服姿のアヤコが目撃。難もない代りに特徴のない馬面、けれどお乳より寧ろ御々尻が素晴らしい三番手が初戦の火蓋を切る。ユキヨでなく、シローの左乳首九時の方向にある黒子を抜いてみせるカットに、含意でもあるのか訝しんでゐると、ユキヨに触れられたシロー曰く、アヤコにも同じ位置に黒子があるとのシミラリティ。当時の水準を知らないが、現代医学では個々の黒子に遺伝性は認められてをらず、この場合も単なる偶さかにさうゐないのはさて措き、当然、その事実を知つてゐる不自然を突かれたシローは、子どもの頃云々と言葉を濁す。一方、アヤコは二人が入つたホテル「京都」の表で、あやとりしながら兄が出て来るのを待つてゐたりする、補導されるぞ。ところでこの兄妹、母親の再婚を理由に、戸建の実家で二人暮らししてゐるのが割と根本的な謎方便。
 配役残り杉本未央は、その後恐らくシローと顔を合はさずアヤコが帰宅すると、家の前でもぢもぢ挙動不審にしてゐる同級生の文子。新井真一はシローの友人でアヤコに気のある、仏文の木村アキラ。多分ユキヨも同じ、シローの学部は不明。もう一人名前が残る、荒井三郎が曲者。登場順でいふと四番目、杉本未央の前。「京都」前でアヤコに接触を図り、煙たがられる「お嬢さん遊ばない」氏の荒井三郎が、誰あらう若かりし荒井晴彦の変名。少なくとも当時、中村幻児と近しい距離にあつたらしい。
 数は少ないものの、ex.DMMでも見られないブツがザッと見渡した感じ新旧二三十本は入つてゐると思しき、楽天TVで中村幻児昭和58年第一作。普通に生活してゐるだけで何となく貯まつて行く、ポイントで賄へるのも便利。レコメンドに、一々踏まないとタイトルの判らないサムネが散見される点を除けば、サイトの使ひ勝手も悪くない。
 文子が郵便受けに投函してゐたシローへのラブレターを、アヤコは目を通した上でしかも破棄。元々男として見てゐた兄に対し、文子の名を騙り恋文通り越した、より実践的なテレフォンならぬレターセックス紛ひの艶文を送り続ける。ヒロインが他人を偽り、直截禁忌に触れるまでには踏み込めない、血族二親等に劣情もとい恋情を綴る。それなりに凝つた大筋に加へ、アヤコが二通目では自分で撮つたパーツ単位のポラロイドを同封する。撮影風景含め実にピンクらしい見事な趣向まで繰り出すにしては、今ひとつ盛り上がりに欠くのが解せない一作。アヤコの手筈で、シローは文子と初めて会ふ実デート。文子の趣味がアヤコが書き散らかした自慰と、本人が本当に書いた編物。凄まじく擦れ違ふシークエンスなどもう少しは面白い筈なのに、如何せん弾まない。もたつく手際の悪さが目につく絡み共々、責はあくまで演出部に求めるのが筋かともいへ、男主役を筆頭もしくは底とする、総じて俳優部の覚束なさは否み難い。シローがユキヨに貸した児童心理学のノートに、件のエロポラが挟み込まれてあるのなんて全く以て無駄な悶着。良くも悪くも三番手ならではの気軽な便利さで、渡辺さつきの二回戦にはどうとでも入れる。目に留まつた自撮りと、シャンプーを取つて貰ふ風を装ひ、洗面台込みの脱衣場にて見せつけられた生乳。黒子を鍵に、ラブレターの秘密にシローがほとんど辿り着く件はあと一手の詰めに欠き、重ねて挿入される赤々とフィルタのかけられた兄妹二人きりの遊園地メモリーは、過剰な情緒を優先したのか説明不足で宙に浮き気味。文中一人称―の主体―が文子からアヤコへと明確に揺らぐ、少なくとも視聴者ないし観客目線では激しく不安定か不可解な四通目にまんまと唆されたシローが、家に誘き寄せた文子を平然と強姦。アヤコも帰つて来る事後には笑つて追ひ返す、無造作な凶悪さは何か、要はこの家族の血筋か。へべれけな導入も厭はず濡れ場の手数には富む反面、主演女優と二番手折角のオッパイを二枚四山擁すにしては、吸ひきれない舐めきれない揉みきれない、格好のエモーションを鷲掴みし損なふ不満は色濃い、即物的にもほどがある。結局、呆然とはいはないが唖然としたのは、申し訳程度に最終盤木に縄を接ぐ「SM ロリータ」(昭和59/監督:影山明文/脚本:知らん/主演:早坂明記)に劣るとも勝らない、壮絶な羊頭狗肉ぶり。昭和のへべれけさで木村がアヤコを、シローは文子を手篭めにしこそすれ、凡そ狭義のサドマゾ的なメソッドなんて一欠片たりとて何処にも垣間見えさへしない。全体“縄人形”なる大仰な公開題の、所以や果たして如何に。と首を傾げるか頭を抱へてゐたところ、よもやもしや、万が一。不調法につき、個々の所作に何某か隠喩でも込められてゐるのなら測りかねる、アヤコが常時嗜むあやとりに由来するといふか、力づくで付会させるモチーフではまさかあるまいな。縄もクソもない、糸である。
 一点興味を惹いたのが、文子の信書をアヤコが開封する際の、風かほるの独白。“ちよつと悪い気もしたのですが、お兄ちやん宛の、文子の手紙を読んでしまつたんです”。“読んでしまつたんです”ぢやねえだろ、といふ刑法第百三十三条的なレイジは兎も角。量産型娯楽映画的には原典を曾根中生昭和48年第六作「ためいき」(脚本:田中陽造/原作:宇能鴻一郎《『週刊新潮』連載》/主演:立野弓子)に求め得る、宇能鴻一郎調モノローグ、縮めてウノローグが十年後の昭和末期に於いて依然、平然と有効性を保つてゐるリーチの長さに感心した。あるいは、女の声で“何々なんです”といふだけで、自ずとウノコーを連想させる支配力の侮れない強さとでもいふべきか。

 何気にラストが衝撃的、何故かスローモーションみたいに見える不思議なフォーム、なほかつ劇中遊んでばかりゐたにも関らず、何時の間にかシローのラップが驚異の一分近く短縮。遂に十秒台に突入してのけるのが、実は劇中最大のツッコミ処。


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 「女高生“スケバン” SEX暴力」(昭和48/製作:日活株式会社/監督:白井伸明/脚本:佐藤道雄/企画:伊藤亮爾/撮影:山崎敏郎/美術:川原資三/録音:高橋三郎/照明:直井勝正/編集:辻井正則/音楽:奥沢散策/助監督:中川好久/色彩計測:仁村秀信/現像:東洋現像所/製作進行:山本勉/出演:片桐夕子・潤ますみ・山科ゆり・薊千露・原田千枝子・しまさより・木村レミ・織田俊彦・玉井謙介・影山英俊・清水国雄・大泉隆二・近江大介・深町真樹子・伊達直人・山岡正義・大八木洋子・小宮山玉樹/技斗:田畑善彦)。出演者中玉井謙介と、近江大介以降は本篇クレジットのみ。音楽の奥沢散策は山本直純の変名である旨、日活公式サイトが白状してゐる。クレジットがスッ飛ばす配給に関しては、事実上“提供:Xces Film”。
 ブルマ七人とジャージ一人で何かしてゐる、錦城女学園高等学校のグラウンドを校門表から抜いて、チャリンコで移動してゐるのが微笑ましい、番長の宮川(清水)以下、弟分のシゲル(影山)とサブ(伊達)が敷地内に忍び込む。スカート丈の長い―劇中用語的には洋ラン―英子(木村)が、用を足しがてら一服キメてゐる手洗個室を宮川とシゲルが襲撃、サブは見張り役。カット跨ぎの魔術で、適当なロケーションたる体育倉庫にバイパススリップ、英子は三人に輪姦される。草叢を駆けるカメラ、錦城で番を張るモナリザお京こと森永京子(片桐)と英子に、もう一人三羽烏を成すドモ政(薊)、三人並んだ画にタイトル・イン。「よくもウチの英子甚振つて呉れたねえ」、テンプレ会話で火蓋を切る、宮川トリオとの対決。暫し尺を食つたのち、ドモ政の巴投げでサブが宙に舞ふ、豪快なストップモーションでクレジットが起動するタイトルバックがカッコいゝ。大宮をシマとするお京らは、お京が失くした定期券を犯行声明感覚で万引き現場に残して行つた、謎の二人組捜しに奔走する。一方、お京も含む地区番長の中から総番長を選ぶ、総番選挙も近づいてゐた。
 配役残り、大八木洋子は下着の万引きを見咎める店員。玉井謙介は、冤罪でお京―とドモ政―を呼びつける校長、カマキリなる綽名をつけられてゐるのが笑かせる、もう一人校長室に居合はせる馬面の女教師はノンクレ。山科ゆりが、錦城と敵対する椎葉女子で番を張る山根洋子。宮川とは、宮川が洋子のマブを気取る仲。洋子からはなかなか認めて貰へない辺りの力関係が、実にシミクニらしい。大泉隆二は永和商事のエリート営業・八代哲也、潤ますみが同僚である八代と事実上婚約してゐる中川ユキにして、果たしてその正体は。お京や洋子らを統べる、関東野あざみ会の会長・カルメンユキ。総番が卒業後顧問に昇格して組織に残る、OL番長とかいふ斬新な機軸にはホッコリした。終盤登場する、美術部もう少し仕事せれとツッコまざるにゐられない、プリミティブな模造紙組織図を見るに、顧問が進学した場合はセイガク番長なのか、高校生も一応セイガクだろ。野坂昭如みたいな造形の織田俊彦は、八代との結婚を見据ゑカルメンが手を切りたくて仕方ない、どうやら堅気ではない腐れ縁の男・南城。憎々しい色男、超絶のハマリ役ぶりが絶品。深町真樹子は雑貨屋を営む、ドモ政改め本名は政子の耳の遠い祖母、両親はゐないみたい。そして原田千枝子としまさよりが、お京の名を騙つたモト子とジュン、椎葉の新入り。山岡正義は、自分とこのビニールハウスで乱闘を繰り広げる、錦城と椎葉の面々を追ひ払ふ百姓、何気に強い。選挙でのOL番長買収資金に、お京らは売春パーティーを企画。再婚一年のセカンドハネムーンで、親は不在の森永家にて。近江大介はドモ政を買ふ男で、小宮山玉樹が英子を買ふ男。但しこの件、要はたゞの団地にしては照明部が徒にハッスルしすぎてゐて、近江大介はまだしも、コミタマは辛うじて程度にしか映らない。お京の相手には、何処から聞きつけたのか性戯に長けた南城が忍び込む。その他無駄に美少年の駅員始め、台詞の有無を問はず、総勢五十人でもきかない膨大な頭数がふんだんに投入される。あ、あと決して神など宿しはしない細部を忘れてゐた。ドモ政の部屋に、原作・監修を務めた買取系短篇が計三本前年公開されてゐる、医学博士・松窪耕平の俗流セックス指南本があるのは微笑ましい御愛嬌。つか、セックス指南本の本格ないし学術的とは何ぞや。
 白井伸明昭和48年第一作は、女高生に“スケバン”のルビを振る、ロマポでは初の顕示的スケバンもの。最初に女番長を冠したのは多分「女番長 仁義破り」(昭和44/日活/玉謙が出てゐる)の、邦画全体的にも黎明期。尤も狭義のスケバンロマポ―女高生なら沢山ある―はいふほど量産してゐる訳でも別になく、しかも本隊作よりプリマを主に買取系の方が寧ろ多い。
 仁義を欠いた姐御のユキなりライバルの洋子に、お京が落とし前をつける。黙つて聞いてゐると悪役が姦計を勝手にペラッペラ開陳して呉れる、オートマチックな御都合作劇にさへ目を瞑るか耳を塞げば、シンプルな物語がフォーマット通りに進行する、ひとまづは安定した一作。技斗も存在してゐるだけに、切つた張つたもとりあへずの水準で見てゐられはする。代々忠のやうに、何処の誰を撮ればいゝのか、白井伸明が見失ふこともない、大体見失はないんだけど。にしては明らかにノリきれないところの所以は、ズベ公が柄に合はなかつたのか、異常に不細工な主演女優。下品に歯を剥いた片桐夕子の見るに堪へない醜悪さは、結構衝撃的なレベル。挙句火に油を注ぐのが、いざ声を荒げ始めるや発声がへべれけで、京子が何いつてるのか本当に聞き取れなくなるのは、この手の活劇としては地味でないアキレス腱。反面、過分にビリングが低い気も否めない木村レミが、半世紀後の現代でも第一線で全然通用し得よう、スマートに整つた容姿は作中最強の美人。お芝居的にも、周りと比べて全く遜色ない。但し、惜しむらくはこの人、ググッてみても活動の形跡が今作以外、二三冊の週刊誌グラビアくらゐしか見当たらない点を窺ふに、どうやら瞬間的な実働期間であつた模様。

 と、ころで。お京が駆使するのが、大ぶりの指輪に剃刀を仕込んだ得物。悪辣なスケコマシを懲らしめる、流れ的な蓋然性は酌めなくもないものの、南城に対しお京がヤキを棹に入れる凄惨なシークエンスには、普通に死んでしまふと肝を冷やした、動脈通つてゐるんだぞ。


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 「女教師」(昭和52/製作:日活株式会社/監督:田中登/脚本:中島丈博/原作:清水一行⦅光文社・カッパノベルス刊⦆/プロデューサー:岡田裕/撮影:前田米造/照明:熊谷秀夫/録音:紅谷愃一/美術:徳田博/編集:鈴木晄/音楽:蓼科二郎/助監督:黒沢直輔/色彩計測:松川健次郎/現像:東洋現像所/製作担当者:服部紹男/出演:永島暎子・砂塚英夫・山田吾一・宮井えりな・絵沢萠子・樹木希林・久米明・古尾谷康雅・蟹江敬三・鶴岡修・穂積隆信・福田勝洋・織田俊彦・五條博・近江大介・八代康二・堺美紀子・森みどり・あきじゅん・橘田良江・佐瀬陽一・渋江一晃・藤本博之・河野道雄・佐藤義彦・白井孝幸・中原晴子・佐野美智子・桑田みどり・酒井みゆき・福田三千代・坂本万里・宮川みつ子/擬斗:田畑善彦)。出演者中近江大介と、堺美紀子以降は本篇クレジットのみ。
 所沢西部中学校、土曜の夕方。数学担当で生活指導主任の影山徹治(山田)が、未だ校内に留まる生徒にやんはり帰宅を促すどころか帰れ帰れ怒鳴り散らかす、校内放送をラウドに鳴らす。昭和の、ワイルドビート。一方音楽室では、音楽教師の田路節子(永島)がおピアノの練習に没頭。轟く影山の怒号に、節子が気持ち相好を崩してタイトル・イン。何がしたいのか黒のゴミ袋に無数の穴を開けた、不良生徒五人のデスマーチ風ロング。国語と社会科の、瀬戸山貢(砂塚)が下心を以て接近した節子に水を差す。カサブランカとカサベテス大好きオジサンから、今や“ダイウッド”の第一人者として名高い清水大敬―当人以外に担ひ手なんてゐねえ―の、声の張りで些末を捩じ伏せる馬力任せのメソッドに強い近似を覚える、砂塚英夫といふ一人の先達がゐた点は間違ひなくワン・ノブ・新たな発見。撃退された格好の瀬戸山が尻尾を撒く廊下の背中で、五人組がコソーッと音楽室に侵入。気配を察し踵を返した瀬戸山の眼前、穴は空気穴のゴミ袋を被らされた、節子が三年生の江川秀雄(古尾谷)に犯される。こゝで初陣の古尾谷康雅が、ex.古尾谷康雅で古尾谷雅人。改めてみると思ひのほか優作で、この期に軽く吃驚した。
 生徒要員は潔く諦める、配役大体残り。最初オーケン―ノーベル賞貰ふた方―かと思つた久米明は、節子が生徒からの強姦被害を訴へる校長の神野謙三。堺美紀子が校長夫人、自宅行つたんだ。絵沢萠子は秀雄を甘やかす母・明子、息子の粗相を隠匿するのに、瀬戸山を篭絡するのがこの人の脱ぎ処、と倅の癇に障り処。穂積隆信は校長以下、影山と―江川の担任である―瀬戸山の四人で事件の対応にあたる、教頭の安部誠一郎。終盤火を噴く「それどころぢやないんですよ」は、確かにその通りな呵々大笑の名台詞。たゞしその前段、こだまならまだしも、ひかりに乗つた明子を瀬戸山が名古屋に先回り、江川まで無事保護した上で待つてゐるのは何気に時空を歪める謎、飛行機なら出来たのか?鶴岡修は節子の事実上婚約者・浅井文彦、担当は英語。福田勝洋は、節子と同居する浪人生の弟・恵二、沼津が郷里。橘田良江は、職員室で何となく目立つ名なし女教師。登場した瞬間格の違ふオーラを放つ、宮井えりなはこちらも音楽教師の佐藤美也子。樹木希林と蟹江敬三は、教職員組合役員の横山百合子と同分会長の小林悟、小林悟!?史郎とする資料も見られる。この二人、節子に豪快なセカンドレイプを見舞ふためだけに出て来る、純然たる憎まれ役。八代康二と近江大介は、修学旅行の新幹線車中、気づくとゐなくなつてゐた江川を瀬戸山と捜す坂崎と早川。あきじゅんは電話口の明子後方で、目を丸くする事務員、凄まじいチョイ役。五條博は何がどうなつてさうなつたのか詳細は語られない、車サルベージ現場の刑事。そし、て。電撃のラスト三十秒、土壇場・オブ・土壇場で飛び込んで来る、球技の鮮烈な得点シーンを思はせる織田俊彦は、戯画的なトップ屋造形で神野を糾弾する記者。問題が、女中役とされる森みどりが神野邸にも、江川家―で女中の存在に言及する台詞はある―にも見当たらない件、節子宅なんて単なる安アパートだし。
 田中登昭和52年第二作は、百分といふ長尺に最後まで尻込みしてゐた、爾後足かけ六年全九作に亘る「女教師」シリーズの栄えある無印第一作。なかなかに、殺風景な公開題ではある。
 女教師の校内レイプに揺れる中学校が、正しく“それどころぢやない”更なる大事件に激震する。兎にも角にも匙を投げたのが、最初の一件を受けての四者協議。瀬戸山が火蓋を切る、浅井との交際を噂される節子の、処女非処女を詮索しだした瞬間が一発レッド、もしくはチェックメイト。曰く、被害者が男を知つてゐた場合、襲はれたとて然程騒ぐことでもないとする超方便、地殻ごと底を抜いた。そのよくいへば天真爛漫なミソジニーは、現代の鑑賞に素面で堪へ得る代物では凡そない、保守なのに。対して、「処女だらうとなからうと事件の本質に変りはないですよ!」。影山が劇中世界に残された、数少ない良心。校長相手にも平然と脊髄で折り返す、今でいふパワー系の御仁だけれど。要は端から犯人の明らかな、コロンボ式のサスペンスは瀬戸山が気づいてゐなかつた、もう一人の目撃者の存在で裸映画的にも膨らみつつ、最終的には影山が切札的に存在を匂はせる、か要は口から出任せた3rd目撃者!?を在否から、どさくさ紛れに等閑視してのけるのは地味な大穴。返す刀で<美也子は、恵二が手籠めにしてゐる最中に死んで>ゐるよね、といふのは一目瞭然明々白々の大穴。まるで蓮根ばりに、穴の数はまだ増えて行く、食べるとこなくなるぞ。特濃の教師部と比べるとなほさら、江川以外甚だ薄い生徒部はモブ同然、表層的極まりない教育批判は、枝葉も飾り損ねる。気づくと中盤以降西に東に随分退場してしまふビリングは一応頭の、濡れ場らしい濡れ場が実は一度きり。音楽室に於ける初戦は緊迫感を優先したのか、脱ぐといふほど剥かれてもゐない。瀬戸山と、節子から強奪した浅井を渡り歩く、二番手が比較的気を吐くのが関の山。三番手も、画面手前で常に何某かナメてゐないと気が済まない、砂英相手の一試合限定。終盤を完全に支配する、江川の盗人猛々しい暴走にうつゝを抜かしてゐるうちに、裸映画は案外上の空。大味の劇映画がその空白を、補へてゐない訳では必ずしもないにせよ。どうもこの辺り、三桁前後の尺に差しかゝつたロマポが、一般に下手な色目を使ひ始めるきらひは如何せん否み難い。

 とか何とか、いふ次第で。完走の過走ついでの戯れに、シリーズ全作を大雑把に概観してみる、真面目にやらんか。気づけば女教師といふより寧ろ、ツッパリ男子の映画に趣向を変へる羊頭狗肉の今第一作。あと江川が宣ふ、少年犯罪云々からの逆算なのか中学を舞台とするのは今回だけ。木に高橋明を接ぐ大概衝撃の結末を、完全無欠の小宮山玉樹起用法で緩和か昇華する力技の第二作「女教師 秘密」(昭和53/監督:白鳥信一/脚本:鹿水晶子/主演:山口美也子)。漂泊する宮井えりなこそカッコいゝ、ものの、全体的には割と行間のダダッ広い第三作「女教師 汚れた噂」(昭和54/監督:加藤彰/脚本:いどあきお/主演:宮井えりな)。矢張り何時しか女教師は何処吹く風、父娘の素頓狂な更生に物語が帰結。重ねて春休み期間中の前第三作に続き、主役を喰ふサブヒロインが登校しない関係で学校味の画期的に薄い第四作「女教師 汚れた放課後」(昭和56/監督:根岸吉太郎/脚本:田中陽造/主演:風祭ゆき)。当サイト調べで目下確認し得る、石神一の最も古いキャリアたる第五作「女教師のめざめ」(昭和56/監督:藤井克彦/脚本:那須真知子/主演:朝比奈順子)。ジグゾひとピースでレイプ犯を捜す、土台頓珍漢な無理筋さへさて措くと、女の裸的にはまづまづの安定感を誇る第六作「女教師 生徒の眼の前で」(昭和57/監督:上垣保朗/脚本:大工原正泰/主演:三東ルシア)。正直、全く覚えてゐない第七作「女教師狩り」(昭和57/監督:鈴木潤一=すずきじゅんいち/脚本:斎藤博/主演:風祭ゆき)。これがあの「黒い下着の女」(昭和57/脚本:いどあきお/主演:倉吉朝子・上野淳)次作かと、疑ふ通り越して目を覆つた第八作「襲はれる女教師」(昭和58/監督:斉藤信幸/脚本:桂千穂/主演:風祭ゆき)。第七作に劣るとも勝らず覚えてゐない、最終第九作「女教師は二度犯される」(昭和58/監督:西村昭五郎/脚本:熊谷禄朗・城谷亜代/主演:志水季里子)。「狩り」と「二度犯される」に関しては、綺麗に忘れてゐるくらゐだから大して面白くも詰まらなくもなかつたにさうゐない。だなどとぞんざいに等閑視して済ますならば、群を抜いて酷いのは80年代のダサさを結晶化したかのやうな、水木薫の髪型から頭を抱へさせられる第八作。逆に最高傑作はとなると、どれもこれといつた決め手に欠くといふのが偽らざる印象。大した中身もない癖に矢鱈と長く、正直裸も疎かな第一作。首の座らない第三作と風祭ゆきの限界が露呈する第四作に、明確に迷走する第五作。所詮は三東ルシアに恋をするしかない第六作、何れもピンと来ない。なあんて、来た日には。ムスッと黙した小宮山玉樹が一見悄然と、されど幾多の集積に裏打ちされた、一種の自信にも満ちた態度で厳かに降臨する。一個の、確固たる秩序の完成する強度をも湛へた、完璧なカットの一点突破ないし一撃必殺で、第二作「秘密」をシリーズの随一に挙げるのは、苦し紛れの酔狂にもほどがあるであらうか。


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 「いんらん百物語 喜悦絶叫!」(2022/制作:VOID FILMS/提供:オーピー映画/脚本・監督:山内大輔/特殊メイクアップ&造形:土肥良成/撮影監督:中尾正人/録音:西岡正巳・大塚学/編集:山内大輔/音楽project T&K/効果・整音:AKASAKA音効/ラインプロデューサー:江尻大/助監督:谷口恒平/制作進行:菊嶌稔章/撮影助手:戸羽正憲・梅田さかえ/河童&蛇神イラスト:土肥良成/特殊メイク&造形スタッフ:大森敦史・山岡英則・大塚汐莉・川口怜/ポスター:本田あきら/仕上げ:東映ラボ・テック《株》/出演:宝田もなみ・きみと歩実・岬あずさ・川瀬陽太・森羅万象・安藤ヒロキオ・豊岡んみ・西山真来・赤羽一真・折笠慎也・小林節彦)。
 まづ最初に、気づくと2021年は空いてゐたので、再起動後恒例の、大蔵怪談映画の系譜を改めて掻い摘んでみると。恐らく映画を本気で信じてゐる渡邊元嗣が、「おねだり狂艶 色情いうれい」(2012/脚本:山崎浩治/主演:大槻ひびき)でルネサンスの火蓋を華々しく切つたのも、何だか何時しか遠い昔。金田一や座頭市は出て来る、後藤大輔の「愛欲霊女 潮吹き淫魔」(2013/主演:竹本泰志・北谷静香)が早速ズッ扱けたのが、今にして思へば所謂パンドラの箱。画だけは綺麗な加藤義一の「怪談 女霊とろけ腰」(2014/脚本:鎌田一利/撮影監督:創優和/主演:水樹りさ)と、ツッコミの余地ならば無駄にデカい竹洞哲也の「色欲絵巻 千年の狂恋」(2015/脚本:当方ボーカル=小松公典/主演:伊東紅)。名はまだしも、結局実は全く取れなかつたハレ君事件の誘爆を受け、水野朝陽にとつて事実上最初で最後の映画出演となつた、荒木太郎の「色慾怪談 ヌルッと入ります」(2016/主演:南真菜果)で死屍累々の四連敗。実に尺の1/3を費やす長大なアバンで度肝を抜いた、山内大輔の「女いうれい 美乳の怨み」(2017/主演:佐倉絆)が負けはしない程度に連敗を辛くも四で止めつつ、高説は御尤もなこの御仁が、面白い映画を撮つてゐるのを個人的に観た覚えのない。佐々木浩久の「情欲怪談 呪ひの赤襦袢」(2018/主演:浜崎真緒)で一旦、通算成績は一勝五敗一分け。再び山内大輔の「変態怪談 し放題され放題」(2019/主演:星川凛々花)が甘目に見て引き分けにせよ、ある意味最大の問題作、翌年古澤健の「怪談 回春荘 こんな私に入居して」(2020/主演:石川雄也)に至つては、凡そ一切のあやかしなんて登場しやしない、そもそも怪談映画ですらない大概な羊頭狗肉。都合、一勝五敗二分け一没収試合といふのが、当サイト調べでの大雑把な戦禍、もとい戦果である。つか、今年も怪談やつてないのね。降霊もとい、恒例ではなくなつたのかも知れない。
 閑話休題、おどろおどろしい河童の看板で水難事故を注意喚起する河辺に、山咲小春(ex.山崎瞳)を令和ver.にブラッシュアップしたかのやうな三番手が佇む。アイリ(岬)と落ち合つたミツル(赤羽)は、純粋に金欠なのか釣つた魚に餌を与へる気がないのか、そゝくさホテルに直行。跨ぎで突入する、岬あずさのお胸のみならず御々尻も大変麗しい絡み初戦を、轟然と大完遂。事後、依然デートらしいデートをする気のまるでない、クソ彼氏に対し泣き出したリンカを、ミツルは曰くたゞで入れてホラー映画よりも面白いとかいふ、病院廃墟に連れて行く。こゝで、廃病院と来れば「変態怪談」と同じロケ先かと思ひきや、より廃墟みを増した全くの別物件、八潮市元病院スタジオとのこと。各々の幽霊カミングアウトで結果的には木に竹を接ぎがてら、二人は猫の捨てられてゐた痕跡も窺へる、屋内を右往左往。既視感を覚えるメソッドのみで造形された、ガチ幽霊(西山真来のゼロ役目)にアイリ・ミツルの順で闇の中に引き摺り込まれて一転。一応宗教画風の蛇神イラストに三本柱と、山内大輔をクレジットしてタイトル・イン、男優部三本柱までタイトルバックは続く。
 明けて胡瓜を常食する、不思議な雰囲気の転校生・ナツメ(豊岡)の高校時代の思ひでを、安藤ヒロキオが振り返る。のは、「ミサワ心霊研究所」所長・三沢武雄(森羅)が主宰する百物語の一環。参加するのは前職はIT系サラリーマンであつた江口(安藤)のほか、害虫駆除業者の吉井由人(川瀬)。
 配役残り、きみと歩実は江口の妻・マリカ。といふ次第で、きみと歩実(ex.きみの歩美)のマリカ・サーガ第四作。それ以外があるのかよ、なくもないんだな。百物語の舞台ともなる、件の廃墟は神宮寺病院跡地。江口が、あるいは江口は齢をとる割と根本的な疑問を等閑視すると、驚愕のオチに辿り着く江口の話を経て、吉井が神宮寺病院の元院長宅に入つたエピソードを語り始める。ビリング頭にして実に四十分もの長きに亘り温存される宝田もなみが、吉井が仕事で訪れる神宮寺家の、家事手伝ひ・リンカ、漢字は凛花。寝たきり状態にある神宮寺善三(小林)の、義理の娘にあたる。この乳娘、ならぬ父娘。公式のアナウンスはないが榊英雄で封印されたにさうゐない、角屋拓海の「唄へ!裸舞ソング ふれてGコード」(2021/主演:川上奈々美/二番手)に続き宝田もなみが実は二作目。地味にフィルモグラフィの途切れない小林節彦は、竹洞哲也2019年第五作「不倫、変態、悶々弔問」(脚本:当方ボーカル/主演:高瀬智香)ぶり。左肩甲骨の辺りに蛇の墨を入れた看護師、兼神宮寺の愛人・田中フジコは宝田もなみの二役目。堕胎を迫られたフジコが素頓狂なスローモーションでスーサイドする一方、リンカの同じ位置には、蛇の鱗状の痣があつた。西山真来は神宮寺の妻・幸子、リンカの母。それでは何故(なにゆゑ)に、神宮寺がリンカの実父ではないのか。折笠慎也が若かりし三沢、幸子がクロスカウンタ式の浮気に走つた、当時勤務医の三沢がリンカの父親。フジコの死後心身を壊した神宮寺のリタイア乃至クラッシュ後、病院の実権を掌握する野心に走り間男を無下に捨てた幸子を、心中を図り三沢が殺害。自身は死に損なつたといふのが、三沢の来し方。とこ、ろで。劇中百物語の当事者が三人であるにも関らず、並べられた椅子は四脚。吉井が訝しむ四つ目は、怪異譚を百語り終へたのち、降りて来る物の怪をお迎へするための椅子。となると、森羅万象が超絶のモノローグを静かに爆裂させる、三沢の告白含め江口が口を開くまでに、九十七は既に消化済みである旨、踏まへる段取りを設けてゐて別に罰はあたらなかつたのではあるまいか。
 2022年はあれだけ重用されてゐた山内大輔ですら一本きりに止(とゞ)まる、前述した「女いうれい」(2017)と「変態怪談」(2019)に続く三本目の怪談映画。三度目の正直や、果たして如何に。
 兎にも、角にも。大山の如き見事な爆乳を誇る主演女優以下、オッパイを三枚並べた上でなほかつ、電撃の四番手をも飛び込んで来る豪勢通り越して豪快な布陣を、山内大輔の的確な作家性が持て余しや出し惜しみする訳が勿論なく。中尾正人の鋭角な画作りにも加速され、裸映画的には文句なく充実する、ウッハウハに満ち足りる。その、上で。プロローグを半分は回収する江口パートと、本丸に突入する吉井篇。そして三沢がそもそもの謎を明かす、強靭にして完璧な構成を経て。対偶人魚型着包みの大概なプリミティブさは棚に置くと、三沢が彼岸に謝罪を請ふ美しい物語が遂に完成。「色情いうれい」を猛然とパシュートする一撃必殺の感動作が、十年の時を隔て漸く現れた。と、諸手を挙げ、感激しかけたのも正しく束の間。「貴方はまだ嘘をつくのね」の殺し文句こそ切れ味鋭く決まるものの、即座に卓袱台を床板ごと引つ剥(ぺが)す蛇女に劣るとも勝らずショボい猫娘で、折角綺麗に構築された映画が逆の意味で見事に木端微塵。要は多分大蔵から与へられた妖怪映画の御題に愚直か健気に従つた結果、セコい特殊造形とメイクに底を抜かれた割と壮絶な一作。良くも悪くも大勢に影響しない河童は兎も角、猫娘さへ出て来なければ、確かに勝ててゐた筈なのに。寧ろ殺させておけば据わりもよくなつたミツルはまだしも、虚空に浮いたアイリのぞんざいな扱ひには、三番手らしさでもメタ的に酌めばよいのか。猫が化けて出て来た、より直截には出て来てしまつた瞬間の、絶対値は無闇に極大、ベクトルの正負さへさて措けば。
 最終的な各々の去就<リンカは吉井と結婚・マリカは江口に殺害・アイリアバンを駆け抜けゆ・三沢幽霊にズユーッ・江口猫娘に返り討たれカパチョンパ・ナツメはマペトと江口の帰りを待つ>永遠に・ミツユ全裸で逃げゆ・神宮寺顔面騎乗から大蛇にパクーッ


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