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真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「情炎の島 濡れた熱帯夜」(2015/制作:VOID FILMS/提供:オーピー映画/脚本・監督:山内大輔/撮影監督:田宮健彦/録音:大塚学/編集:山内大輔/音楽:T&K Project・AKASAKA音効/助監督:江尻大/監督助手:菊嶌稔章/制作:ワダミサ/制作応援:リチャードTH/スチール:本田あきら/協力:Bebe・島のみなさん/エキストラ:鎌田軍団・井尻鯛/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:朝倉ことみ・川瀬陽太・真木今日子・和田光沙・小鷹裕・森羅万象)。撮影部助手は落としたのではなく、クレジットなし。
 紫の螢が舞ふやうな、VOID FILMSのカンパニー・ロゴ。背景に灯台を望む海岸に、赤い帽子とデカいサングラスの朝倉ことみが佇む。川瀬陽太のモノローグ起動、「四年前、妻のミチルと新婚旅行で来たのが、この島だつた」、ミチル(朝倉)がグラサンを外しタイトル・イン。ミチル念願の、石垣島でのゲストハウスの開店を控へ、煙草を吸ふかとした夫で作家の吉岡由人(川瀬)は、テラスに追ひやられる。五年前、吉岡が憂き身をやつすカルセンの講師と生徒といふ関係で、吉岡と旧姓黒木のミチルは出会ふ。ペンネーム・ジャック霧崎での吉岡のポルノ小説の愛読者―代表作だか最新刊は『悶絶!裏夢いぢり』らしい―だといふミチルは「先生の才能は本物」、「私が支へる」と全方位的に膳を据ゑる。やがて二人は結婚、ミチルが保険外交員として実際に吉岡の創作活動から暮らし全般をサポートする生活が始まつたものの、当の吉岡はといふと筆はさして進まず、酔ひちくれるばかり。そんなある日、セクハラどころでは済まない豪快顧客・矢木澤(森羅)からからがら逃げ帰つて来たミチルは、日々の鬱屈がてら家事を全くしようとしない吉岡に不満を漏らす。飛び出した吉岡は行きつけのスナックのママ・マキ(真木)と関係を持ち、そのまゝ家には戻らなくなる。この真木今日子がどエロくイイ女で、ピンクにバリバリ出て呉れたら愚息大狂喜。
 配役残りここで顔を覚えた普通にイケメンの小鷹裕は、吉岡改めジャック霧崎のロマンス書院担当編集者・岡本裕、この人ももつと普通に俳優部活動も展開すればいいのに。ポスターに名前が載るにも関らず本篇クレジットではオミットされるリチャードTHは、ゲストハウスの物件を吉岡に紹介する不動産屋。何処の何物なのか一欠片も判らないが、モジャモジャで馬面の白人。適当な沖縄弁で当初は単なるコミック・リリーフかと思はせた和田光沙は、吉岡が一人で入る石垣島のスナックのママ・明恵。奥の布団を敷いた間に、吉岡をザクザク連行する件が笑かせる。登場順を前後してエキストラの鎌田軍団は、マキの店で文学新人賞受賞の報を受けた吉岡に、カメラを向ける報道部か。例によつて店の中が暗くて見えはしなかつたともいへ、井尻鯛(=江尻大/a.k.a.AJD)は声で気付いてゐないといけないところだ、不覚を取つた。
 昨今、何でだか山内大輔推しの強いPGピンク大賞で、終に大蔵初上陸を果たした城定秀夫をも押さへ事実上二位の優秀作品賞を受賞した、山内大輔2015年第二作。因みに一等賞の最優秀作品賞は、今やすつかり沙汰を聞かないOP PICTURES+としても公開された前作「痴漢電車 悶絶!裏夢いぢり」(主演:朝倉ことみ・川瀬陽太)。十八番の残虐描写とバッド・テイストの封印、塩山温泉なり伊豆どころかまさかよもやの大敢行石垣島ロケ。二つのサプライズが騒がしい外堀に囲まれた本丸は、静かで美しい夫婦愛の物語。といつて、鬼畜変態で鳴らしたエロ作家が、若くて美人でおまけに絵に描いたやうに甲斐甲斐しい妻に支へられ、文芸一般作で功を成す。といふと主体をハーレクイン好きのオールドミスからオタク男に置き換へただけで、いはゆる白馬に乗つた王子様が迎へに来て呉れる類と与太レベルの変らない、所詮は惰弱な夢想じみてどうにもマッタリとした居心地の悪さにモジモジしてしまふのを禁じ得ないのは、下衆を拗らせた小生の心性が、変形性腰椎症を患ふ背骨よりも歪み抜いてゐるゆゑにさうゐないさうゐない。
 邪気はあれども他愛ない憎まれ口はさて措き、吉岡のモノローグにヒントが隠されてあるらしいが、ラストの二転目は突いた藪から出て来た蛇の足程度にしか思へず、卑しいばかりか愚生にはピンとは来なかつた。但し、奇矯な飛び道具と思はせた三番手投入から、九十度舵を切つてみせる最初の大転換は、いはずもがなをいふやうだが、今作が三人目の女優の処遇が地味に雌雄に影響を及ぼさなくもない、ピンク映画であることを踏まへるならばなほさら素晴らしい。戦ぐ風にも恵まれた鮮烈なロケーションの中、川瀬陽太が喪はれた者への想ひを叫ぶロングのエモーションも、確かにピンク離れした決定力を轟かせてゐる。尤も、元々の出発点が都合のいい浪花節で着地点も些か釈然としないとなると、未だ九州には着弾してゐない城定秀夫のオーピー初陣が仮にセカンドバージン級の一作であつた場合、「悶絶!裏夢いぢり」にせよ「情炎の島」にせよ、別に城定秀夫の敵ではないやうな気しかしないといふのが、最も直截な感想である。

 改めて話を戻すと真木今日子・和田光沙・森羅万象の真の配役、島に“戻る”点を窺ふに果たして実際に事故が起きたのは内地なのか石垣なのか。そもそも、新人賞を受賞した、だからこそその金でリチャードTHから物件を買へた筈の『情炎の島』稿が、書きかけの如くPCの脇に。等々とレス・ザン・ゼロな知恵を如何に巡らせたところで、どうにも―劇中―ノンフィクションとフィクションの境目が何処にあるのかが判らない。

 以下は小倉で再見しての付記< 鎌田軍団は鎌田一利や周磨要ら、御馴染の面々。井尻鯛の顔も、全体的なクリアさ―とスクリーン自体の大きさ―は前田有楽に劣るものの、暗い場面は全然よく見える小倉名画座のプロジェクターでは見えた。それと、どんでん二転目の切り口は、再見しても判らなんだ
 備忘録< 受賞祝の御頭つきを魚屋に取りに行く帰りに、ミチルは交通事故死。ユタであつた明恵の手引きで、吉岡はミチルと再会する   >実際に死んでゐたのは吉岡>>真木今日子・和田光沙・森羅万象は医療部


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 「抱かれ上手な女 性欲が止まらない」(1991『巨尻 ぶち抜く!』の1999年旧作改題版/製作:プロダクション鷹/提供:Xces Film/脚本・監督:珠瑠美/撮影:伊東英男/照明:隅田裕行/音楽:新映像音楽/美術:衣恭介/編集:井上編集室/現像:東映化学/録音:ニューメグロスタジオ/出演:家永翔子・愛川まや・あおい恵・清水義人・中満誠治・牧村耕治)。美術の衣恭介は、珠瑠美の夫・木俣堯喬の変名。
 ボーカルまで入りだすロックンロール起動、主演女優の裸を軽く見せて、何処ぞの波打ち際の岩場。カメラがパンした先、顔が隠れてよく見えない二人の女の、尻を二つ並べて谷を渡る中満誠治(無論現:なかみつせいじ)を抜いてタイトル・イン。クレジット明け、改めてブティックを持たされる喜代子(家永)と、パトロン・誠一(牧村)の一戦。ここまで序盤は順調に女の裸のみ、物語らしい物語は凡そ存在しない。誠一は自宅に戻つた翌朝、喜代子が朝食の準備をしておいて鏡に裸身を映す、女の裸を銀幕に載せる以外には本当に意味を欠片たりとて計りかねる件や、適当な繁華街の繋ぎカットを経て、女子大生・大田ユカ(愛川)の家に、セフレの灰田一郎(中満)が転がり込む。何だかんだ、といふか絡みを連ねるばかりにつき、要は何が何だかの末に、誠一とお目当ての物件を見た後の喜代子と、実は喜代子とは高校の同級生で、一郎と適当に街を歩いてゐたユカとが再会。後に喜代子とヤリたがる一郎を前に、ユカは腹を立てるどころかザクザク賛同、ユカからの連絡を受けた喜代子も喜代子で巨尻といふほど別に馬鹿デカくもない尻は水素原子よりも軽く、三人での巴戦の話がサクッと纏まる。
 配役残りあおい恵は、人間嫌ひのオールドミスなのに、親の遺した旅館を細々と継いでゐるとかいふ、正体不明な造形のリカ従姉・佳代。清水義人は、誠一だけでは土台飽き足らぬ喜代子の愛人・時男。誠一が一週間日本を離れるとやらで時間の出来た喜代子の思ひつきをリカが膨らませ、当然一郎も交へた三人で、佳代の旅館に泊まることになる。とかいふ寸法で今回、後半はまさかの伊豆映画へと発展する。
 珠瑠美1991年第七作は、お姉さん・神代弓子の「人妻不倫 夫にばれなければ!」(1992)に四作先駆ける、全然似てない妹・家永翔子のピンク映画初陣、因みに妹のピンク出演は最初で最後。伊豆に出張つたところでどうせ物語らしい物語が依然起動するでもなく、相変らず濡れ場濡れ場を連ね倒すばかりの、よくいへば腰の据わつた裸映画。とはいへこれはこれで、何はさて措き、といふか要は何もかもさて措いてさへともあれ女の裸だけはお腹一杯愉しませてみせる分、半端な―映画的―色気を出して下手に生煮えて呉れやがるよりは、一兆倍マシだといふジャスティス。と、自分に言ひ聞かせようかと思つてゐたら、一郎の夜這ひに女の悦びを知つた佳代が、笑顔を取り戻す予想外に正方向の爽やかなラストには驚いた。といつて一般的な劇映画の水準からすると十二分にも三分にもへべれけではあるのだが、何せ敵が珠瑠美なだけに、不意打ちがてら心が洗はれてしまつた。何だか、仔犬を可愛がる不良のやうな一作である。


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 「性感極秘マッサージ 全身愛撫」(1993/製作・配給:新東宝映画/脚本・監督:佐野和宏/原題:『南瓜の味』/企画:田中岩夫/撮影監督:斎藤幸一/編集:酒井正次/助監督:梶野考/撮影助手:斉藤博/演出助手:花山信大/録音:ニューメグロスタジオ/効果:協立音響/現像:東映化学/協力:田中昭次・高橋卓司/出演:冴木直・浅野桃里・上田耕造・小林節彦・梶野考・須川修次・クレヨン信大・大橋郁乃・大橋杏美・津崎公平・岸加奈子)。
 出演者クレジットを差し挿みつつ、冴木直がシャワーを浴びる。全盛期を思はせるプリップリの美身を時間をかけて堪能させながらも、傾き始めカメラの動きは少々余計かも。三分過ぎのタイトル・イン明けは、部屋の中を走る電車模型。ヒモの裕二(征木愛造ではなくあくまで梶野考)と同居する奈苗(冴木)は、正月のオーストラリア旅行を目指し風俗で働いてゐた。「俺が性感マッサージしてやるよ」と、真顔でムカつく裕二の口火で開戦。テレビのブラウン管に直撃を被弾する勢ひで照明が映り込んでゐるのが、あまりにも堂々としてゐて寧ろこれはこれで何ら問題はないのかしらんと妙な不安を覚える。最中出もしない電話をかけて来た主は、実家にはボランティアと偽る―そもそもそれでどうやつて生活してゐるのか―奈苗に、組合寄合の上京がてら野菜を持つて来た父・吾一(津崎)。電車模型とのカットバックの意味が判らない絡み初戦の完遂経て、しまひには風鈴まで鳴りだす下町ショットを丹念か延々と連ねた上で、岸加奈子が洗濯物を干す。どうにも奈苗が捕まらない吾一は、遣り取りを聞くに親子の縁を切つたと思しき、大学まで出してやつたにも関らず芝居に傾倒しドロップアウトした、奈苗の姉・井口美奈子(岸)に連絡を取る。美奈子の苗字は、吾一の知らない内に変つてゐた。
 配役残りビリング推定で多分須川修次は、なけなしの金で女を買ふ底辺ブルーカラー。浅野桃里が、その劇中第一戦お相手のホテトル嬢。シックスナインの体勢で、チンコを嘘褒めする際の凶悪な面相が堪らない。断りなく口内射精され、目線を左右させながら顔をしかめるメソッドも絶品、この人こんな抽斗も持つてたんだ。上田耕造は、体育教師―か部活の顧問―とブルマー女子高生といふ設定での、奈苗の客。因みに舞台は校舎の屋上に見立てた、御馴染東映化学(現:東映ラボ・テック)屋上。前立腺を責められ、イク時の絶叫が「日教組バンザーイ」なのは今となつてはクスリともピクリとも何とも来ないが、昔はかういふセンスが面白がられたやうな気もしないではない。不完全消去法で、当然イコールセカンド助監督であるクレヨン信大は、エレベーターの中にて奈苗と致す守衛、料金四万円也。小林節彦は浅野桃里の第二戦を介錯する、無駄口を叩く男。郁乃・杏美の大橋姉妹は、結局奈苗には会へなかつた吾一の、相好を崩させる仲良くボールで遊ぶ姉妹。オーラス声だけ聞かせる井口(職業ニコヨン)は佐野和宏、もう新たにこの声を耳にすることは出来ないのかと思ふと、無闇に沁みる。
 ある意味四天王の四天王たる所以ともいへるのか、小屋でかゝる機会にも恵まれず、佐野和宏初対戦となる1993年第三作。ピンクで俳優部から演出部に進出した魁の津崎公平―「崩れた官能」(昭和43)―に関しては、流石に手も足も出せぬゆゑ潔く通り過ぎる。とりあへず田舎訛が達者過ぎるのかそれとも単にアレなのか、台詞がヘッドフォンで聴いてゐてもよく聞き取れないのは、量産型娯楽映画的には地味に厳しくなくもない。津崎公平と―濡れ場レスの―岸加奈子によるオーソドックスな日本映画と、冴木直と浅野桃里がはつちやける普通の裸映画。殆ど別々の二本の映画が交互に並走する趣向は面白いともいへ、最終的に二本が交はるのは吾一と裕二の短いミーツ―と置いて来た南瓜―と満足に交錯するでもない以上、木と竹を並べてみただけともいへる。一見良質の津崎公平パートにしても、何か言葉を交すでもない吾一と大橋姉妹が、一人と二人とで正対するのみのカットは、長く回せば回すだけ不自然さは否めず、何はともあれ、裕二と底辺役、演出部から引つ張つて来た俳優部外人部隊の、如何ともし難い画的な貧しさが致命傷。思はせぶりなばかりのラストも、深い余情といふよりは、寧ろ消化不良感を残す。
 佐野和宏を見るのは初めてなのでよくも何も全く知らないが、オーラスに原題を持つて来るのは、この人の映画の常なのか?

 津崎公平にはおとなしくシャッポを脱ぐ一方、俳優が監督デビューした例として、現状最新あるいは最後は樹かずのENK薔薇族「君ニ惚レテル」(2002/脚本:五代暁子・岡輝男/主演:千葉尚之)。その前となると前年のともにエクセスで、“塾長”愛染恭子の「愛染恭子VS小林ひとみ 発情くらべ」(2001/脚本:藤原健一/主演:愛染恭子・小林ひとみ/ナレーター:佐藤慶)と、しのざきさとみ・小川真実・佐倉萌が今でいふいんらんな女神たち方式で集団初陣に挑んだ「人妻不倫痴態 義母・未亡人・不倫妻」。荒木太郎清水大敬吉行由実がそれぞれ大蔵で初土俵を踏んだのは、1996年に当たる。


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 「息子の花嫁 いんらん恋の詩」(2015/製作:多呂プロ/提供:オーピー映画/監督・脚本:荒木太郎/撮影・照明:飯岡聖英・藤田朋則/編集:酒井正次/助監督:金沢勇大/撮影・照明助手:近藤祥平、他一名/音楽:安達ひでや・宮川透・島袋レオ/制作進行:佐藤選人/スチール:本田あきら/協力:花道ファクトリー/タイミング:安斎公一・小荷田康利/録音:シネキャビン/仕上げ:東映ラボテック/タイトル画:天才ナカムラスペシャル/出演:星野ゆず・加山なつこ・杏堂怜・ダーリン石川・平川直大・春風亭傳枝・天才ナカムラスペシャル・縄文人・稲葉良子・牧村耕次)。出演者中春風亭傳枝が、ポスターには春風亭伝枝、クレジットの情報量に素直に敗北する。
 タイミングが難しい話題を、最後ではなく最初に。吉行良介の復活と同時に、金沢雄大はピンクから足を洗つたのか?といふのは粗雑な早とちりに過ぎず、単に関根組を離れ、2013年第三作「異父姉妹 だらしない下半身」(主演:愛田奈々・美泉咲)以来二年ぶりに荒木組に復帰しただけだつた。ものかと思ひきや、荒木太郎の2016年第一作にも矢張り、金沢雄大の名前が見当たらない。
 すつかり定着した立体ロゴ開巻、牢の中、“妻をめとらば才たけて”、“顔うるはしくなさけある”と、牧村耕次が与謝野鉄幹の「人を恋ふる歌」を吟ずる。“全てはここから始まつた”と色を抜いた回想だか幻想イン、川の岸辺にて水かけつこと称するには随分苛烈に水を浴びせかけた星野ゆずを、牧村耕次は両手で抱へなければならないほどの大きさの石で殴打する。一転日々の日常、同居する息子・修(ダーリン)が仕事に出ると、妻には先立たれた井伊六輔(牧村)は暫しぼんやりとした一人きりの時間を過ごす。食事療法が必要な六輔のために、ヘルパーの外山姫子(星野)が来宅、姫子のノーブラの透け乳を抜いてタイトル・イン。六輔の仲間の不良老人達、元芸人のパハップス沼田(天ナス)・那須三太郎(縄)・毒茸三太夫(禿鬘を被つて男役の稲葉良子)の顔見せ噛ませて、六輔は姫子に、年甲斐もない下心を拗らせる。ところが姫子は、修と結婚を約束する関係にあつた。
 配役残り、界隈随一タンクトップが似合ふ平川直大は、姫子に付き纏ふ性質の悪い元カレ・大橋汚染、役者くずれ。加山なつこは、「脱法暴走老人愛人生活協同組合」こと“脱暴愛生協”―荒木太郎版ゲーターズみたいなものか―を構成する沼田・那須・毒茸が、皆で囲ふ業態不明の「宵待草」ママ・松島とめ子、顔よりも大きな正しく爆乳で年寄りを喰ひまくる。春風亭伝枝は、最終的には六輔が診て貰はうとした今後の運勢を、「“これから”つて何よw」と綺麗に一笑に付す捌けた占ひ師。とはいへ腕は確からしく、風雲児の相を看て取つた六輔から、エロ事師として全国を放浪した過去を引き出す。杏堂怜が、その過去パートに登場する亡妻・詩子。その他荒木太郎と佐藤選人と西村晋也が六輔が姫子を誘ふ、ゴーゴー音楽が爆裂する歌声喫茶に乱入する、荒木太郎は刑務官の声も兼務。
 荒木太郎2015年第三作は、ピンク映画十四戦目にして初めて主演女優の座を掴んだ、星野ゆずの引退作。六輔は脱暴愛生協の面々を抱き込むだか焚きつけられ姫子と息子に横槍を捻じ込まうとするものの、六輔が動けば動くほど、二人の仲は深まつて行く。近年の荒木太郎にしては珍しく形になつた正攻法の物語は、良くなくも悪くも荒木太郎的なガチャガチャした余計な意匠にも妨げられずに綺麗に進行し、春風亭伝枝の投入を、数字的には時機を失しかけた三番手の濡れ場にスムーズに繋げるスマートな導入には、素面で感心した。展開の盛り上がりに綺麗に同調し、「親子の縁を切るぞ」、「死刑の前に寿命だよ」。鬼気迫る凄味で、名を通り越した猛台詞を連発する牧村耕次も激越にカッコいい。前作で荒木調ならぬ荒木臭を完全復活させ―てしまつ―た危惧をいい意味で裏切り、なかなか以上に見応へのある一作である。
 牧村耕次と平川直大によるクライマックスの修羅場が相変らず、木端微塵に暗くて何が何だか全ッ然判らないのは双方執拗に考へものながら、土手の画面手前に小さく星野ゆずと牧村耕次。右上斜めに巨大な鉄橋の影を黒く通した上で、更にその遠く背景には流れる雲海越しに夏富士の頂が覗く。ダイナミックな構図と奥行きとが猛烈に素晴らしいショットには、完敗を認める勢ひで感嘆した。ただ多用する白黒画面に関しては、元素材がデジタルなだけに下手にクリアなモノクロてのもなあ、と荒木太郎が狙つたと思しき詩情なり抒情よりも、パッと見のしつくり来なさの方が先に立つ。同時に今回荒木太郎は七十分の尺を持て余したのか、姫子が転がすキックボードを中心に、乱打されるインサートは積み重ねられて行く手数といふよりは、意図を測りかねる漫然さがより色濃い。
 星野ゆずに触れると、荒木太郎いはく“星野ゆずにNGはない!!星野ゆずがNGだ!!”とのことで、下手だ下手だとする世評も存する気配が窺へる。尤も、個人的には2014年第二作「巨乳未亡人 お願ひ!許して…」(主演:愛田奈々)で目についた、初代上野オークラ劇場公認マスコットガールとして知られるふんはかしたイメージとは全く遠い、スレた突破力が今も印象に強く、藪蛇に刀を返すと未完の大女優・愛田奈々よりは余程上手く思へるものである。あるいは、意地悪をいふとそもそもさういふ荒木太郎の演出力が如何程なのか、といふ話なのでもなからうか。

 2000年最終第五作「飯場で感じる女の性」(脚本:内藤忠司/主演:林由美香・鈴木あや/縄文人ではなくTAKAO名義)以降、六年のブランクを挿みつつ長く荒木太郎映画に携はつて来た縄文人氏は昨年十一月に死去されたらしく、今作が最終戦に当たる。封切りが九月中旬となると撮影時期は初夏か、前回に引き続き今回も特段死期が迫つてゐたやうにはお見受けしなかつた。

 付記< 気がつくと、金沢雄大は一般映画でデビューしてた http://pinchu.jp


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 「三十路秘書 太股ご接待」(1995『人妻秘書 肉体ご接待』の2002年旧作改題版/製作:ルーズフィット/提供:Xces Film/監督:山岡隆資/脚本:七里圭/プロデューサー:真田文雄/撮影:河内洋/照明:赤津淳一/編集:菊池純一/助監督:七里圭/監督助手:西村和明・黒川幸則/撮影助手:伊藤直人/制作進行:岡元啓/スチール:宮澤豪/録音:福島音響/タイトル:道川昭/現像:東映化学/出演:白井麻子・荒木太郎・寺十吾・菅野敬子・辻かりん・貴奈子・小林節彦)。出演者中菅野敬子は、本篇クレジットのみ。
 メランコリックなギターが鳴り、製作のルーズフィットのみクレジットしておいてタイトル・イン。新聞をスクラップしてゐる風の曜一(荒木)の背中に、妻の杏(白井)が先に寝るねと声をかける。シャキシャキ淀みなく進んでゐるものの、斜めに走つてみたりと明らかに不自然な鋏の軌跡に、そこはかとない不安感が掻きたてられる。耳鳴りを訴へ寝室に倒れ込んで来た曜一を杏は再び仕事部屋に急きたて、夫婦生活即ち絡み初戦を十全に完遂する。翌朝、並木道を軽快にチャリンコをカッ飛ばして寺十吾登場。杏と曜一の兼住居は曜一が社長の「news fax servis」と、曜一の友人・靖幸(寺十)が社長の「《有》ほかほか人材派遣」の共同事務所。「news fax servis」の業務内容は、靖幸いはく“新聞切り抜いてファックスするだけ”。それで―幾許かの注釈なり何某かの再編集は加へられてゐるみたいではある―どうやつて金が取れるのかよく判らないが、曜一の作業は滞り、顧客の片岡システムからの催促の電話は鳴り止まない。外回りがてらと称して片岡システムに出向いた靖幸は、社長の片岡(小林)に貴奈子を紹介する。何のことはない、ほかほか人材派遣もほかほか人材派遣で、要はデリであつた。相変らず不安定な曜一は一旦帰宅後、代りに杏が仕上げて送つたファックスに目を落とすと、杏が薬缶の火を止めてゐる隙に姿を完全に消す。
 配役残り辻かりんは、劇中登場するもう一人のほかほか嬢・ヨシコ、靖幸の恋人でもある。脱ぎもしないのにビリング上位、且つオープニングでは四人ばかりのクレジットにも紛れ込む菅野敬子は、関係は最後まで語られないが家を出た曜一が転がり込む先の女・リョーコ。
 シネマアイランドなりルーズフィットなり、ザックリいふとエクセスのアート班界隈で名前を見かける山岡隆資の唯一作。Vシネにせよ、活動の痕跡は前世期までしか見当たらない。何はともあれ驚いたのが、寡聞にして全く知らなかつた。主演女優の白井麻子が何処かで見た顔もへつたくれもない、一旦引退するまでと全然変らない工藤翔子、元々白井麻子名義でタレント活動をしてゐたらしい。ロングの多用と今となつてはむず痒さを覚えなくもない、背景のアタック音。当時の自主映画界の花形?菅野敬子を―しかも選りにも選つてエクセスに―招聘してみせたりする辺りに、才気走つた風情は窺へる。さうはいへ、ラストは上手くリョーコに匙を投げさせる、三人が何となく三人で生きて行く姿はあくまで何となくの範疇に止(とど)まり、その何となさが琴線に触れる向きも当然あらうが、一見娯楽映画にしては始終の求心力は終に心許ない。寧ろ、さうした中でも質・量とも濡れ場だけは十二分に揃へ、ひとまづ裸映画的には過不足なく仕上げさせて来るエクセスのレーベルとしての誠実が、反照される形でより際立つて来るやうに思へるものである。


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 「痴漢電車 お尻が疼く!」(1995『痴漢電車 美乳押しつけ』の1998年旧作改題版/製作・配給:大蔵映画/脚本・監督:小林悟/撮影:柳田友貴/照明:新井豊/編集:酒井正次/録音:シネ・キャビン/助監督:国沢実/音楽:東京BGM/効果:サウンドBOX/スチール:佐藤初太郎/フィルム:AGFA/現像:東映化学《株》/タイトル:ハセガワ・プロ/出演:貴奈子・吉行由美・冴木直・白都翔一・門倉達哉・樹かず・荒木太郎・港雄一)。
 雨の街景から適当にカット繋いで御馴染「RiZ」、但し店内は摩天楼。電話越しの“会長”に借金返済の命乞ひをするマスターの金井(白都)は、翌朝十時に会長宅に呼び出される。朝の十時といふ時間指定に、「電車混んでしやうがないチクショー」と開き直つた金井が悪態ついてタイトル・イン。どうでもいいけれどクレジットが流れる間、実車輌の乗客がガンッガンカメラの方を見て来るのが編集なり何なり、もう少しどうにかならなかつたものかと苦笑する。それとも、寧ろ天衣無縫の領域に突入しかねない頓着のなさを、この際言祝ぐべきなのか。どの際なのかよく判らないが。
 混み合ふ車中―痴漢パートは全てセット撮影―金井は村中一郎(門倉)に自ら電車痴漢を仕掛けた大山智子(貴奈子)が、体を密着させた色香に紛れ財布を掏る現場を目撃する。誰が何処にゐるのかよく判らないまどろつこしい代々木八幡駅前のロングを経て、金井は智子に接触。すると棚から葱を背負つた鴨が飛んで来るが如く、途端に魔が差しただ何でもしますだと哀願モードに突入した智子を、金井は会長(港)宅に同伴、返済期限を六ヶ月に延長と無利子の条件と引き換へに差し出す。拾つた風を装ひ村中に財布を返した金井は、裏に連絡先を書いた写真を抜いておいた、村中の彼女・留美(冴木)に何となく心を奪はれる。一方、会長宅では健気に凌辱されてゐた割に、事後「RiZ」を訪ねた智子はシレッと女スリの本性を現し、金井にコンビを組むことを提案する。
 配役残り吉行由美は、智子が金井の財布を手荷物の中に放り込み、因縁をつけ会長に供する二人目の女、正しくゴムマリのやうなオッパイの質感が堪らない。国沢実を連れに端役とはいへ感動的なアクトを披露する荒木太郎は、ピンサロ感覚で智子が放任する過激サービスに垂涎し、まんまとぼつたくられる助平客、ヘネシーを入れられ愕然とする様が笑かせる。樹かずは智子発案の留美攻略戦、金井が連れて来た村中の眼前で、瑠美を痴漢するダチ、と称して実は元カレ。
 大御大・小林悟1995年全十二作中第四作、ピンク限定だと十作中第三作。何気に、薔薇族も量産されてゐた時代が偲ばれる。智子が金井にコンビ結成を持ちかけ、これはさはつてビックリな展開の幕が開けるものかと思ひきや、会長とナシをつけた借金を帳消しにする条件が、智子含め都合三人の女。とかいふ次第で智子と組んだ金井が適当な手口で、順々に捕まへた吉行由美と留美を会長に売る無体な物語には、小林悟貫禄のドライなビートが唸る。それでゐて、樹かずに犯され一旦「RiZ」から姿を消した智子を、金井が電車の中にて捜し当てる案外ストレートな恋愛映画風のラストは、心にもなさがグルッと一周して清々しい。但し、出会ひと何だかんだの末の再会の舞台を、キチンと電車に求めた姿勢は痴漢電車に対する誠実さと、あくまで正方向に捉へたい。何より、この時何が如何に転んだのか要は下手な鉄砲でも当たる時は当たるといふことか、港会長が三本柱を手篭めにする濡れ場が何れもどうかした勢ひで激しくエロい。それゆゑ品性下劣な琴線を激弾きされるには申し分ない、腰の据わつた裸映画である。


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 「浮気妻 寝室の覗き穴」(2015/製作:オフィス吉行/提供:オーピー映画/脚本・監督:吉行由実/撮影監督:田宮健彦/編集:中野貴雄/録音:大塚学/助監督:江尻大/監督助手:増田秀郎/撮影助手:高嶋正人/スチール:本田あきら/ポストプロ:スノビッシュ/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:椿かなり・柳東史・樹カズ・あやね遥菜・和田光沙・井尻鯛・デカ増田・ピン希林・吉行由実・里見瑤子)。出演者中、井尻鯛・デカ増田・吉行由実は本篇クレジットのみ、要は全員演出部だ。撮影助手とスチールの間にクレジットされる選曲担当に力尽きる、瀬下といふ苗字だけで辿り着けるかと思つたが、結構大勢ゐらつしやるのね。
 汗ばむ胸元と首筋を舐め、憔悴しきつた下着姿の椿かなりを、女刑事(和田)が取調べる。色気を優先させたのかも知れないが、不自然なシークエンスではある。名前を訊かれた秋元梨花(椿)が、「秋元梨花、誠の妻です」と振り絞りタイトル・イン。私称第二ミサトの秋元邸、会社社長である夫・誠(柳)に誘はれた、外賓を歓迎するレセプションへの出席を何だかんだと断つた梨花は、浮気相手でジャーナリスト(笑)の仁科雄二(樹)に電話を入れる。逢瀬に着て行くつもりの白のワンピースを、誠の幼馴染でもある家政婦の一ノ瀬優子(里見)がクリーニングに―梨花の指示で―出してゐたのに激昂した梨花は、ヒステリックに取りに行かせる。慌てて走る優子と擦れ違ひ、以降散発的に顔を見せる吉行由実は、秋元家お隣のタカノ、ウォーキングが日課。樹カズが「JCVD」(2008)以降のJCVDばりの渋味を増した色気を爆裂させる、シャワー・ルームでの濡れ場初戦。二枚目と絡む主演女優をスタイリッシュに押さへるのは如何にも吉行由実らしいカットともいへ、窓から溢れるやうに差し込む外光が、白々と飛ぶ惨劇を残念ながら回避出来てゐない。飾られた絵を外すと誠夫婦の寝室を窺へる優子の覗き穴、幼女が川に落ちただか落とされる、梨花が度々苛まされる悪夢を投げつつ、仁科が出発する一週間の九州への取材旅行にどうにかして随伴したいと思案する梨花は、セレブ臭をひけらかす自ブログにコメを寄こした、怠け者の在宅プログラマー・津川七恵(椿かなりの二役)の顔写真アイコンに注目する。
 配役残り、さらだたまこが前作から使用する変名であるピン希林は、両親の去就の説明が確か見当たらない梨花の育ての親・滝山芳子。いはずもがなを憚らぬと、こちらは江尻大の変名の井尻鯛は、梨花と七恵がミーツするオサレなカフェにシュッとして見切れる、孤高のラッパーEJD、途中からは与太。何処まで温存するのか地味にハラハラさせられたあやね遥菜は、梨花をどうかした勢ひでやきもきさせる、仁科のアシスタント・楠田彩奈。もしかすると、“百鬼夜行をぶつた斬る、地獄の番犬”ことデカマスターとかけてゐるのかも知れないデカ増田―当然イコール増田秀郎―は、和田刑事に同行する刑事。何度かスナップが抜かれなくもない誠の前妻・玲子(故人)役が、画が遠過ぎて識別不能。
 画期的な新機軸で甘美なる恍惚を撃ち抜いた革命作「お昼の猥談 若妻の異常な性体験」(主演:奥田咲・羽月希)に続く、吉行由実2015年第三作。窃視家政婦ものに、デジタル化の便利な恩恵を享受しつつ、同時にメガネ地味女ver.の椿かなりの魅力を通り越した威力を撃ち抜く替へ玉サスペンスを絡める。ものかと、思ひきや。二作前の闇鍋怪作「お天気キャスター 晴れのち濡れて」といひ、ことによると椿かなりには吉行由実を狂はせる魔性といつたものでもあるのか、確かに伏線は敷設済みともいへ、それまでの一切合切を吹き飛ばす終盤の破天荒には度肝を抜かれた。替へ玉サスペンスは片足突つ込んでないにせよ、公開題を見るに、恐らく当初企画では主眼であつたのではあるまいかと思しき、寝室の覗き穴に至つては完全に意義が消滅してしまつてゐる、穴があらうとなからうと関係ない。裸映画的には遅きに失した感もなくはない二三番手の連続投入は、力技の衝撃展開を無理から畳み込むには、要はどさくさに紛れ込ませるには寧ろ最適のタイミングであつたのかも知れないが、それにしても真の黒幕は理恵なのかミタなのか、それともなのかといつた辺りは、荒れたオフ・ロードを馬力頼みのダンプカーで強行突破したが如き結末なだけに、せめて座らせておいて欲しかつた感は残す。女子トークピンクの奇跡の前後で、椿かなりが魔女の扮装で高笑ふ2015年。荒木太郎清水大敬とともに監督デビュー二十周年を迎へる2016年、吉行由実から何を仕出かすかと色んな意味で目が離せない。

 一点些末、タカノが秋元家に自家製のパンをお裾分けに来る際にも、劇中着たきりのウォーキング・ウェアなのは、吉行由実が女であるだけになほさら、奇異あるいは一手間端折つた横着に映る。
 真の黒幕は誰なのか< 右乳下の黒子の件を想起すると、誠のセンもギリギリ残るんだよなあ


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 「変身人形 肢体を愛でる指先」(2015/製作:旦々舎/提供:オーピー映画/脚本・監督:山﨑邦紀/撮影:小山田勝治・猪本太久磨/応援:竹野智彦/照明:ガッツ/録音:沼田和夫・石田三郎/監督補:北川帯寛/助監督:菊嶌稔章・藤井愛/音楽:中空龍/編集:有馬潜/整音:若林大記/音響効果:吉方淳二/録音スタジオ:シンクワイヤ/ポスター:MAYA/タイトル:道川昭/仕上げ:東映ラボ・テック/撮影機材:アシスト・株式会社 Po-Light・株式会社フルフォレストファクトリー/ロケ協力:田中スタジオ・シネカフェソト/出演:卯水咲流・逢沢るる・倖田李梨・ダーリン石川・平川直大・津田篤・荒木太郎)。照明のガッツは、守利賢一の変名。
 戯画的な爆乳と、無毛ながら体型は普通、二体のマネキン人形を入念に舐めてタイトル・イン。“肢体を愛でる指先”とは、らしからぬほど詩情に溢れた公開題をつけたものだ。
 洋間に置かれた和式の棺桶から、通称・棺桶オヤジ(荒木)が起床する。棺桶オヤジが見やる壁に飾られた写真が、重要なモチーフにしてはこのカットでは暗くて何の写真なのか見えない。何度でも繰り返すが、それでは意味がない。半熟の目玉焼きから零した黄身を、トーストにつけて食べるのが本当に美味しさうな、ウェイトレスの氷川チリ(卯水)と、同棲相手でボクシングに挫折したサラリーマン・雲井竜雄(平川)の朝食。チリと致しかけるも迫る時間に屈した雲井が、平川直大持ち前の熱量で撃ち抜く名言が「む、無念だ!」。映画のポスターとフライヤーが所狭しと貼られた階段を地下に下りた先が、雲井は感心しないチリのバイト先、その名も「Mannequin Bar」。因みに物件的には、浜野佐知映画祭も開催された東京都北区上十条の「シネカフェsoto」。店内ではアバンに登場した爆乳ことグレーテを相手に棺桶オヤジが、無毛のアイちやん相手にヘッドライトを常備する、愛称ヘッド君(津田)が静かに酒を飲み、チリはロボットのやうに給士する。ダーリン石川が、変態客にマネキンをホステス代りに酒を飲ませる商売を考案し御満悦の、「Mannequin Bar」俗物の店主・ドン牛川。棺桶オヤジに問はれたヘッド君いはく、愛用のライトは暗い未来に一筋の光を照らして呉れるとのこと。俺からいはせれば、光を求めてゐる内はまだまだ健全だ。それで全然構はないのは、いふまでもあるまいが。棺桶オヤジと御贔屓のデリヘル嬢・ドール姫(ドール姫といふのは恐らく棺桶オヤジがさう呼んでゐるだけ/逢沢るる)との、棺桶に寝かされた人形に模したドール姫に、棺桶オヤジが陰茎を通じて命を吹き込む何時ものプレイを経て、ドン牛川は店の意匠の足しにと、フィギュアの素体となる球体関節人形を通販で購入してみる。ピンと来ないドン牛川や棺桶オヤジに対し、チリはどうかした勢ひで眼球も入つてゐない球体関節人形の眼窩に宇宙を見る。と書いてみると、山邦紀の世界は、ギターウルフに通じてゐるのかも知れない。
 配役残り倖田李梨は、静謐な変態の聖域に土足で上り込む、ドン牛川の愛人・スージーQ。ドン牛川とのダンサブルな絡みは趣向としては面白いが、下心を揺さぶる煽情性には欠く。
 今月中旬には最新作が封切られる、山邦紀2015年第二作。クラゲだ公開待機作では人体模型に加へメキシコサラマンダーことウーパールーパーだと、昨今俄かに小道具づいてゐる山邦紀が今回主力兵装に採用したのは棺桶に、マネキンと球体関節人形。その中でサラ・ベルナール発、最終的には心謎解色糸まで持ち出しての“究極の欲望”屍姦に至る棺桶オヤジの物語は、どんな台詞でも名台詞に聞かせる山組荒木太郎の名調子も相俟つて、綺麗に最後まで見させる。他方、藪から棒に竹を接ぎ続けるのはある意味伝統芸ともいへ、薄汚れた天使が救済に舞ひ降りもしないチリの人形偏愛は、相変らず山邦紀の独走を許す、観客が置いてけぼりともいへる。最終的に自身を人形と化すほどの苛烈なピグマリオニズムが、元々現し世に居場所のなさげなヘッド君は百歩譲るにせよ、生身の権化たるスージーQにまで伝播するのは超飛躍に甚だしく、そもそも、“未来の神様”と称した球体関節人形が、大星雲に浮かぶ山邦紀のセンス・オブ・ワンダーは凡庸な衆生には画期的に理解に遠い。斯様な、魔球の領域にすら突入した変化球を放り込んで来るのもひとつの醍醐味とはいへ、量産型娯楽映画としては、如何せん難解に過ぎよう。顛末が消化不良を否めない中、散発的に気を吐くのは俳優部、より正確には主に男優部。公開順にピンク映画フィルム最終作「女子大生レズ 暴姦の罠」(2014/監督:小川欽也/脚本:水谷一二三=小川欽也/主演:きみの歩美)で豪快に完全復活を遂げた、我等がナオヒーローこと平川直大は録音レベルがおかしく聞こえるほどの怒涛の声量と、鍛へ上げられた鋼の肉体、そしてそれから放たれる重く鋭い打撃を披露。山邦紀監督御当人の指摘を耳にして以来、旧官吏の制服を手に入れた荒木太郎は昭和天皇にしか見えない。大蔵は、今こそ古の天皇映画を再興するチャンスだ。タイミング的には、今しかない。勿論、表情の乏しさを上手く人形性の枠内に押し込めた逢沢るるの、劇中棺桶オヤジが“神様からの贈り物”と讃へるのも万感の同意を以て肯ける、見事なオッパイも当然見所。最終的には煙に巻かれつつも琴線の触れ処は豊かでなくもない、なかなかチャーミングな一作である。
 もう一点、間にエロスの対象を移す「Mannequin Bar」常連客らとあくまで肉の匂ひに満足する自らとを捕まへて、スージーQやドン牛川がニュータイプだオールドタイプだと俄かにガンダムじみた方便を持ち出すのは、この期に及んで山邦紀はどうしたのか。

 最後に、近旧態依然とした日本映画のクリシェとして使用するのでなければ、背景にヘリコプターのローター音を鳴らすのは如何せんダサく聞こえる。


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 「女同士の痴戯 むせび泣き」(1995『濃密愛撫 とろける舌ざはり』の2007年旧作改題版/製作・配給:新東宝映画/監督:渡邊元嗣/脚本:五代暁子/企画:中田新太郎/撮影:清水正二/照明:伊和手健/編集:酒井正次/助監督:羅門ナカ/監督助手:菅沼隆/撮影助手:長谷川卓矢/照明助手:小田求/スチール:津田一郎/録音:シネ・キャビン/現像:東映化学/出演:林由美香・吉行由実・貴奈子・橋本杏子・山ノ手ぐり子・しのざきさとみ)。久し振りにつきいはずもがなを、助監督の羅門ナカは、いまおかしんじの変名。撮影助手の長谷川卓也ではなく卓矢は、本篇クレジットまゝ。出演者中、山ノ手ぐり子は本篇クレジットのみ。
 タイトルはオーラスに、田舎駅、風見まりえ(林)が降り立つ。線路をホテホテ歩き始めたまりえは、一旦追ひ抜いた女・曾根崎透子(しのざき)と、暗めの風情に入水を図つたものかと観客目線では思ひかけながら、透子が川に帽子を落とし窮してゐるところに再会する。宿を取つた二人は本格的な百合を開花、互ひにビアンである旨をカミングアウトする。心臓を患つたまりえの姉・忍(橋本)が、裸は見せずに顔だけ見せる―まりえの―短い帰省を経て帰京したまりえと透子は、まりえは絵本作家、透子はダンサー。各々の夢を追ひ駆けられてゐることを条件に、三ヶ月後の再会を約し別れる。
 配役残り吉行由実が、まりえにはスポンサーなりマネージャーと言葉を濁す、透子のパートナー・由香里。実際には婚約者に裏切られボロボロになつてゐたのを救つた縁だか恩とやらで、透子をレズビアン・バーでストリップさせる。その際の扮装がいはゆる「愛の嵐」のアレなのは、当時的には仕方なさの範疇にギリギリ納まるのかも知れないにせよ、この期に及んだ今の目からすると正直いい加減こそばゆい。それはさて措き透子と由香里が咲き誇らせる、巨山が四峰並んだ大輪の百合は圧巻。ボーイッシュな造形がこちらもむず痒い貴奈子は、こちらはまりえの同棲相手・久美。イコール五代暁子の山ノ手ぐり子は、まりえが絵本を持ち込む編集者・葉月。
 本数自体からマッタリしてゐた時代、渡邊元嗣1995年最終第三作と―残りは新東宝とENK薔薇族―この期に及んで駅前にて邂逅。何だかんだで結局約束の日の一年後に漸く、まりえと透子が再々会を果たすまでの物語。何よりユニークなのが絡みは全て百合畑に回収し、劇中男が見切れもしない点、正しく百合族映画といつた趣がある。それは兎も角、キレを失したナベにとつてベタな展開は容易に平板なダルさに堕し、三十路前にして不思議なほど美しく輝き始める林由美香も未だリファインに遠い。河原乞食の真似事を禁じられたお姫様が、月明りの下動物たちにダンスを披露する。まりえが透子をイメージして描いた劇中童話『おひめさまのダンス』の件は渡邊元嗣らしい渾身のエモーションを撃ち抜きかけつつ、全般的にはモッサリした印象に尽きる一作。まりえと久美の組み合はせで濡れ場を締めた後に、諸々の顛末込みともいへまりえと透子の再々会で正直漫然と尺を喰ふ、工夫を欠いた構成も裸映画的には地味に厳しい。


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