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真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「痴漢電車 変態の夢と現実」(2017/制作:旦々舎/提供:オーピー映画/脚本・監督:山﨑邦紀/撮影:小山田勝治/撮影助手:宮原かおり/照明:ガッツ/録音:山口勉・廣木邦人/助監督:小関裕次郎/応援:山鹿孝起/編集:有馬潜/音楽:中空龍/整音・音響効果:若林大記/録音スタジオ:シンクワイヤ/ポスター撮影:MAYA/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:東凛・水嶋アリス・黄金むぎ・山本宗介・細川佳央・永川聖二・吉田俊大・岡輝男・望月義夫・武子政信、他七名・荒木太郎)。出演者中、吉田俊大から他七名までは本篇クレジットのみ。照明のガッツは、守利賢一の変名。
 2050年、モノレールの車中で荒木太郎が述懐する。政府が電車痴漢対策に本腰で乗り出した結果、脳を侵す特殊なウイルスが発見される。一旦感染すると不治につき、痴漢師は“痴族”と名付けられ撲滅の対象となる。淡々とディストピアの蓋を開けた荒木太郎が、一応手袋で隠された、親指と小指の二本しかない右手を見やつてタイトル・イン。インジヤー・トウェンティトウェンティツー、2022年。東凛が山本宗介の電車痴漢を被弾し、その画面後方では、水嶋アリスも細川佳央の電車痴漢を被弾する。なされるがまゝ苦悶してゐるかに見えた東凛が、カッと目を見開くや起動。鉄道女子防衛局所属の痴族ハンター・狼牙(東)は痴族撲滅法三条第四号に基き、まんまウルヴァリンな鉄の爪―安いものだと数千円からあるみたい―で朝日リンクに勤務するヒノハラ比丘人(山本)の右手中指を、第二関節から切断する。現行犯の逮捕はおろか刑の執行までもが、痴族ハンターには認められてゐた。あるいは、痴族に対しては許されてゐた。指のみならず職も失ひ荒れる比丘人に、以前望月義夫からの痴漢を救はれてゐた詩音(水嶋)が接触。苛烈な痴族撲滅に絆されたのか単に山宗のジャスティス男前にチョロ負かされたのか、詩音は膳を据ゑる勢ひでコンビを組んでの痴漢美人局を比丘人に持ちかける。
 配役残り見慣れぬ名前揃ひの他七名は、二名女性も含む乗客要員。御大将の山﨑邦紀も、見切れてゐた気がする。白刃を抜いてのそこそこの殺陣も披露する永川聖二は、鉄道女子防衛局局長の満州九州男。女子高生時代に、当時法務大臣であつた父親に引き取られた狼牙とは、義兄妹の関係にある。黄金むぎが、九州男の妻・亜蘭。横浜の映画館でたまたまミーツした浜野佐知に声をかけられ、今作に参加する運びとなつた岡輝男は、美人局の最初のカモ。その場に居合はせ、詩音とは再会した格好のロザリ夫(細川)も比丘人の両脇ヘッドロックで連行される。吉田俊大も、美人局のカモ、但し介入した狼牙に逃がされる。武子政信は狼牙が痴族ハンターの足を洗つたのち、詩音と比丘人が開設した対痴族の民間組織「痴族撲滅 鉄の爪センター」最初の戦果。指を落としはせず、手の甲に引つ掻き傷をつけるのみ、歴然とした傷害罪なんだけど。
 岡輝男が「露出願望 見られたい人妻」(2014/脚本・監督:国沢☆実/主演:あいださくら)以来の電撃大復帰を果たす一方、かつての盟友の、ガチ痴漢師にしてエロ漫画家なる伝説のアウトロー・小多魔若史先生(a.k.a.山本さむ)は捜したものの見つからなかつた、山﨑邦紀2017年第二作。自身二十年ぶり四度目となる、大蔵伝統栄えある正月痴漢電車。この期に改めてよくよく考へてみると、目出度い新春を、クライム映画で寿ぐ爽快な底の抜け具合。それはさて措き、比丘人必至の制止も届かず、狼牙に手を出したロザリ夫は、サクッと指チョンパされる。事後の取調室、誕生時に遡る五感への執着を痴漢行為の源泉とし、処断も甘んじて受け入れる旨を説くロザリ夫に、狼牙は激しく動揺する。二本三本と性懲りもなく指を狩られ続けるロザリ夫の態度も、破滅的なマゾヒズムと解するならば理解出来なくはないにせよ、痴族は脳をウイルスに侵された、要は後天的な存在であつた筈だ。ロザリ夫が生まれついての痴漢であつた場合、果たしてウイルス自体が実在するのか?一般的な痴族をパートタイムと看做し、自らを運命の痴漢と称するロザリ夫は現実社会内に寄る辺の不在と、その外部の夢想なり幻想への志向をも口にする。即ち“うつし世はゆめ、よるの夢こそまこと”、乱歩が到達したひとつの真実に突入。終盤まで主演女優を温存する間も、ともに初陣ながら卒なく持ち堪へ得るそれなりの女優部を擁し、なほかつ山宗は現代ピンク最強のイケメンを弾けさせ、細川佳央はラッキョ感覚で皮の剝けた眼力を迸らせる。前年の、痴漢電車少なくとも今世紀最高傑作「痴漢電車 マン淫夢ごこち」(2016/監督・脚本:城定秀夫/主演:希島あいり・竹内真琴・松井理子)に続き、二年連続正月痴漢電車が超特急をカッ飛ばし、てゐておかしくなかつた、のに。山﨑邦紀が力を失する際の悪癖で、斯くも魅惑的にオッ広げた極大風呂敷を、ものの見事に畳みやしないんだな、これが。再三コンプライアンス的な反痴漢に尺を割いてみせる割に、ロザリ夫が開示した視座は何処へ辿り着くでなく、展開は狼牙の通俗的か表層的なアタシ探しに収束、より直截にいへば失速する。痴族ウイルスの存否といふ劇中世界の正否を左右する最大の疑惑は、九分九厘等閑視。ついでに比丘人と詩音が、御丁寧に火に油を注ぐ、あるいは傷口に塩を塗る。比丘人が岡輝男―とロザリ夫―に美人局を正当化する方便が、痴族ハンターが刑事裁判で、十万円を要求する痴漢美人局が民事裁判。刑事も民事もあるか、何時から国民一人一人に司法権が委ねられた。原則禁止の自救行為にすら当たらず、「鉄の爪センター」に於いて詩音が今となつては懐かしき「エルム街の悪夢」のフレディばりに武装する点に関しては、当然銃刀法といふプリミティブなツッコミも禁じ得ない。思ひだした、デジタルの簡便な果実を綺麗に享受した、東凛がセーラー服を着た後姿のセピア色回想ショットも、一欠片たりとて掘り下げないどころか、直後に―2022年時制で―オカテルが唐突に飛び込んで来る、無造作な繋ぎには正直面喰はされた。新年祝賀作といふのもあつてか、近年省力撮影づく山﨑邦紀にしてはロケーションの手数にも富み、勿論女の裸を愉しむには申し分なく、とりわけ出し惜しんだ分、東凛のゴジャースな裸身は締めの濡れ場で目乃至お腹一杯に堪能させて呉れる。とはいへ全体的な物語としては物足りなさを猛烈に残し、アバンとラストで思はせぶりなばかりの物憂げな風情を振り撒く、自作ごと封殺された荒木太郎の、打開を果たせない限り現状見納めといつた色彩が最も強い。


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 「性器の大実験 発電しびれ腰」(2017/制作:旦々舎/提供:オーピー映画/脚本・監督:山﨑邦紀/撮影:小山田勝治/撮影助手:伊藤尚輝/照明:ガッツ/録音:山口勉・廣木邦人/助監督:小関裕次郎・江尻大/編集:有馬潜/音楽:中空龍/整音・音響効果:若林大記/録音スタジオ:シンクワイヤ/ポスター撮影:MAYA/仕上げ:東映ラボ・テック/協力:バイブ☆マイスター 桃子・pop life department m's・LOVE PIECE CLUB・SSI JAPAN・Sex Toys Wild One since 1991・VIBE BAR WILD ONE/出演:東凛・西内るな・酒井あずさ・山本宗介・永井聖二・細川佳央)。照明のガッツは、守利賢一の変名、しかしEJDがKSUの下につくのには軽く驚いた。
 抜けるやうな青空を背負つた送電鉄塔、からカメラが下パンすると、麓には赤い革のジャケットが映える東凛。海星(ひとで、ではなくしてうみほし/東凛)が鉄塔に向かつて「あなたは私のライバルよ」と宣言するや耳慣れぬテクノ起動、アカヒトデの画像にタイトル・イン。同じ主演女優が、前作では東京タワーと結婚してゐたにも関らず、鉄塔に“あなた”と呼びかけるのはまだしも今回は好敵手。擦れ合ふ連続と正反対の非連続とがパチパチ散らす火花に、観れば観るほど面白い、量産型娯楽映画の神髄を見ゆる。
 “さよなら、男根。チンコなんて、もう要らない”を謳ひバイブ☆マイスターとして活動する海星が、旗印を偽らず自らバイブでオナニー。首には安普請の銀のベルトが巻かれ、傍らには随時点灯する三基並んだプラズマボールと、電気ケトル。事後、海星は自力で淹れたコーヒーを愉しむ。“初めに睾丸ありき”なる形而上学を標榜するマスキュリズム団体、「睾丸系男子ボールズ本舗」。代表のボールズ(細川)の下に、結婚十年の配偶者から未だ夫婦生活でエクスタシーに達したことがない旨を告白され、ショックを受けた鮭尾(永井)が相談に訪れる。一方、鮭尾の妻である香魚子(西内)は香魚子で、海星のカウンセリングを受ける。男と女の腐れ縁的にドサ回りを続ける、海星の先輩で歌手の海月(酒井)と、そのマネージャーのメバル(山本)も海星の前に。最終的には獄死した、師匠からも嫌はれたフロイト一門異端の精神分析学者、ヴィルヘルム・ライヒ(1897~1957)。緊張→荷電→放出→弛緩のプロセスで、性的絶頂に際し体内で発生した電気が体外に放出される。ライヒが唱へた「オルガスムの法則」に基づいた、オナニーによる文字通りの自家発電で日常生活に使ふ電力を賄ひ、究極的には脱原発の大志をも目論む海星は、香魚子らとの出会ひなり再会を通して男女のセックスによる発電量にグルッと一周して注目、ボールズに接触を図る。ところでヒトデが正真正銘全篇を貫く主モチーフたる所以は、雌雄同体あるいは卵だけによる単為生殖、更には分離した分体の再生と、ひとつの個体だけで増殖し得るヒトデの特性に向けられた海星の羨望。さういふ芸当もヒトデくらゐだから出来るんだよといふ無粋なツッコミは、控へるべきだ。
 1995年第一作「痴漢電車 覗いて嗅ぐ!」(山崎邦紀名義/主演:石原ゆり)、翌1996年第一作「痴漢電車 痴女丸出し」(山崎邦紀名義/主演:白石奈津子/未見)に、1998年第一作「痴漢電車 おさはり多発恥帯」(主演:篠原さゆり)。年末封切りの次作「痴漢電車 変態の夢と現実」(主演:東凛)で二十年ぶり!四度目となる、大蔵伝統の栄えある正月痴漢電車を射止めた山﨑邦紀の2017年第一作。因みに山﨑邦紀は痴漢電車自体、「おさはり多発恥帯」以来。といふか山﨑邦紀どころか、実は浜野佐知も1996年ピンク第三作「痴漢電車 貝いぢり」(脚本:山崎邦紀/主演:永尾和生)を最後に痴漢電車から離れてゐるゆゑ、旦々舎単位で二十年ぶりの痴漢電車となる、松岡誠のデビュー作を等閑視するならば。
 オーピーとの手打ち以降ノリッノリで快走する山﨑邦紀が、1996年ピンク第三作「性感治療 いぢり泣く」(山崎邦紀名義/主演:永尾和生)を原典に、大好きなライヒ大先生―今だとライヒ役に太三で、映画にも出せさうな気がする―のオルゴン理論を華麗に援用した脱原発ピンクに挑むとあつては、俄然期待も膨らむ、ところではあつたのだけれど。またしても肩に余計な力が入つてか、“当時”仕損じた2012年第一作の放射能ピンク「人妻の恥臭 ぬめる股ぐら」(坂口安吾『白痴』+『風博士』を翻案/主演:大城かえで)のリベンジはならず。オルガスム発電なる奇想中の奇想まではいいとして、問題がその奇想を十全に通さうとするあまり―ボー本のキン冷法に関しても―説明過多に陥り、これで尺がフィルム時代の60分であつたならば全体がキュッと締まる望みがまだ繋がれてゐたのかも知れないものの、如何せんテンポが悪い。原発の返す刀で、海星が改めてチンコに決別するラストは、東凛の爽快な突破力も借り形になつてゐなくもないにせよ、そもそも事そこに至る展開そのものも薄く、終始マッタリと間延びした印象が兎にも角にも禁じ難い。重ねて、あるいは加へて。序盤早々火に油を注いで露呈する致命傷が、野村貴浩の歯を治した代償に、華を地味な一般人レベルにまで抜いたが如き永井聖二。ただでさへ最小限の頭数に開いた大穴は否応なく、我等がナオヒーローこと平川直大がゐて呉れたらといふのは、ファン心理の牽強付会に止(とど)まるものでは必ずしもあるまい。そんな中でも見所は、多彩な提供元に支へられた、濡れ場を彩るジョイトイの数々。海星が香魚子に施す、Happyプッチンプリン大の容器を乳房に被せた上で、乳輪ごと吸ひ上げた乳首を四個の極小ローターで責める器具が、実際にスイッチを入れた途端アンアン大声で喘ぎ始めるほど気持ちいいのか否かは兎も角、画的に実にどエロくて素晴らしい。
 更にもう一吹き、蛇足気味の野暮を。海星が実用化にまで漕ぎつけたオルガスム発電について再度整理すると、性的絶頂の際放出された電気はそれだけでは微弱ゆゑ、日常生活に供するには“増幅器”―劇中用語ママ―でアンプする要があるのだが、ところでその増幅器とやらは、熱力第一法則には反してゐないのか?といふ脊髄で折り返した素人考へが、最大のネックではある。

 更に更にもう一吹き、今度は蛇足ではなく、2018年のピンク映画を左右しかねない重大特報である。二十九日公開の「痴漢電車 変態の夢と現実」に於いて、何と岡輝男が「露出願望 見られたい人妻」(2014/脚本・監督:国沢☆実/主演:あいださくら)以来の電撃大復帰を遂げる。横浜の映画館―ジャック&ベティ辺りか―で偶々ミーツした浜野佐知が声をかけ、出演が決定したとのこと。そんな・・・まるで、まるで映画のシークエンスみたいな話ぢやないか!


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 「令嬢玩具 淫乱病」(1995/製作:旦々舎/配給:大蔵映画/脚本・監督:山崎邦紀/撮影:河中金美・難波俊三/照明:秋山和夫・渡部和成/音楽:中空龍/編集:㈲フィルム・クラフト/助監督:国沢実/制作:西海謙一郎/効果:時田滋/スチール:岡崎一隆/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東映化学/出演:姫ノ木杏奈・小川真実・吉行由美・荒木太郎・樹かず・甲斐太郎)。
 楠瀬志帆(姫ノ木)が、東化医院―凄え仮称―で精神科医(荒木)の診察を受ける。荒木先生(仮名)に手を出させた志帆は、荒木がとりあへず出してみた左手を両手で包み、「かうすると安心して話せることに気づいたんです」。姫ノ木杏奈にそれだけの芝居心があるのか否か今となつては甚だ微妙ながら、ニコニコ荒木を翻弄する志帆の見るからヤバい笑顔に、絶妙なリアリズムが煌めく。あるいは上手いこと切り取つた、演出の勝利か。荒木に何か書類を渡しに来た看護婦の潮(吉行)が、傍から見てゐるとデレデレでもしてゐるかのやうにも見えかねない二人の様子に、捌け際何気な不信感を露にするのは、吉行由実、ほかには小川真実や青木こずえら、魔女属性の名女優が得意とするスリリングなメソッド。荒木の目に幾許かの邪心を看て取る志帆に対し、当の荒木は無防備におどけてみせる。変に人を不安にさせる志帆の笑顔を改めて抜いて、無造作さが案外煽情的な筆致のタイトル・イン。
 タイトル明けは蛇口がグラグラ、直してゐるのか壊してゐるのかよく判らない水道修理。志帆は一人で暮らす相続遺産である旧旦々舎に、便利屋「ニコニコ便利社」―便利舎かも―の安野(甲斐)を呼ぶ。数日後の夜、就寝中の志帆の寝室に男が侵入。馬鹿正直に暗くて殆ど見えないが、兎も角志帆は犯される。この一幕、一通り尺も費やしあれやこれやヤッてゐるにも関らず、少なくとも配信動画をPCで見る限りでは本当に見えない、闇夜の黒牛の如き絡みではある。安野が妻・千香子(小川)の淹れたコーヒーを飲んでゐると、志帆からの電話を被弾。すぐ来て欲しいと尋常ならざる様子に駆けつけた安野に、志帆はレイプされた旨を告白。精神科通院中につき警察は被害妄想と取り合つては貰へまいと、志帆は安野にボディーガードを依頼する。
 念のためヌイておくには、途轍もなく濃厚な小川真実と甲斐太郎による安野家夫婦生活を経て、いざボディーガード初日、安野がすつかりその気の黒服で出撃するのはポップなギャグ。配役残り、超絶の陰鬱な無力さで立ち尽くす国沢実は、安野が楠瀬邸に到着したところ、門の前にゐた不審者。当然過敏に反応する安野を制した志保には、“ゐてもゐなくても人畜無害よ”と無体に等閑視される。人畜無害の、使ひ方がちぐはぐなやうな気もするが。ゐてもゐなくても何ら変りのない、いはば焼け石にかける水にもならぬ類の人間を、人畜無害と称するのではなからうか。樹かずは、色んな意味で楠瀬邸に出入りする配送業者の若い衆。
 遂にバラ売りにも残弾数ゼロ!山﨑邦紀1995年第五、ピンク限定第四作。いや別に、新着させて呉れたら、買ふよ。魔性の女といふほどでもなく、寧ろより直截にはプリミティブなり無作為な地雷女に振り回された男達が、軒並み破滅に至るオッソロシイ物語。半ば仕事も放ぽらかし志帆に捕まる亭主にさんざ業を煮やし倒した挙句、遂に颯爽と三下り半を叩きつける千香子の姿には清々しき女性主義が窺へ、るのだけれど。幾ら主導権を握るのが女にしても、甚だ旦々舎らしからぬ問題作。最大の疑問点は、荒木が医者としての職業倫理を放棄し、志帆に下した診断とその症例とを安野に打ち明ける件。劇中用語ママでボーダーライン症候群に関して、患者の殆どが女―正確な台詞は『殆どの患者は女性なのですが』―としてゐるのには度肝を抜かれた。旦々舎が最も量産しまくつてゐた修羅場の最中とはいへ、浜野佐知がよく首を縦に振つたもんだ。志帆に対抗心を燃やし荒木に膳を据ゑる潮の濡れ場も、如何せんノルマの消化感は否めず、荒木との対面を経た安野に元気出してねと向ける、頓着のない笑顔の意味も判らない。そもそも国沢実ならば兎も角、自立し成熟した男である筈の安野こと甲斐太郎が、小娘相手にみすみす同じ轍を踏むのも説得力には遠い。折角三枚揃つたオッパイで、エクセス作かと見紛ふ重量級の裸映画をゴリ押せばよかつたのにと思へなくもない、不用意な方便を持ち出したばかりに、語るに落ちた印象の強い一作である。


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 「巨乳飼育術・監禁」(1995/製作:旦々舎/配給:大蔵映画/脚本・監督:山崎邦紀/撮影:小山田勝治・中川克也/照明:秋山和夫・荻久保則男/音楽:藪中博章/編集:㈲フィルム・クラフト/助監督:国沢実/制作:鈴木静夫/効果:時田滋/スチール:岡崎一隆/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東映化学/出演:姫ノ木杏奈・青木こずえ・荒木太郎・米田共・甲斐太郎・小川真実)。
 不安定にフェードインしてピントが合ふと、檻の中に主演女優が横たはつてゐる。姫ノ木杏奈が意識を取り戻し、目を覚ましたやうだと国沢実を中心に男達の声がガヤる。檻の周囲に四五人の男がゐるのに姫ノ木杏奈があげた悲鳴に合はせて、サングラスの荒木太郎を引き連れた小川真実がチャイナドレスで大登場。女子大生のキリハタ靖生(姫ノ木)が所属ゼミ教授の犬丸(小川)とゼミの先輩兼彼氏の原田(荒木)に助けを求めるものの、犬丸と原田の筈のオガマミと荒木太郎は、マダムファンとチーフの黒谷として靖生ならぬ紅子に客の男達に尻を突き出してみせるサービスを強要する、困惑する靖生だか紅子が叫んでタイトル・イン。評論家の柳原(米田共/超絶今更ながら、これ、糞をバラした変名だ)を招いての、犬丸が知人から提供を受けた旧旦々舎でのゼミに、靖生と原田が出席する。出席してゐたかと思ふと、開巻の檻のある一室。競りが始まり順に山﨑邦紀・鈴木静夫・国沢実を制して、柳原もといハイバラ(米田共の二役)が紅子を落札する。ゼミの模様と、黒谷のアシストの下にハイバラが紅子を凌辱する絡みを行き来した上で、紅子二度目の悲鳴明け、ワキユウコ(青木)が犬丸に、所属ゼミ教授・卜部(甲斐)によるセクハラを訴へる。半信半疑の犬丸は、とりあへず卜部に電話をかけてみる。昭和のNHKアナウンサーのやうな、テッカテカの七三分けで甲斐太郎が飛び込んで来る瞬間が、カット単位での今作最大の破壊力。
 山﨑邦紀1995年、「痴漢電車 覗いて嗅ぐ!」(主演:石原ゆり)から薔薇族一本挿んでピンク映画第二作。ユウコを発火点に卜部のセクハラ騒動と、これ見よがしな膳の据ゑぶりがポップな原田略奪。旦々舎一流の濃ッ厚な濡れ場込み込みで枝葉を咲き誇らせつつ、女子大生が恩師と彼氏に日々男々に売られる、パラレルな悪夢が連ねられる。端的に檻の中のヒロイン、あるいは別人格として現れる登場人物といつたモチーフもしくは特徴から、事前には自身の2007年第二作「社長秘書 巨乳セクハラ狩り」(主演:安奈とも)なり、浜野佐知2009年第一作「女豹の檻 いけにへ乱交」(脚本:山﨑邦紀/主演:Clare)辺りとの連関を予想させた。ユウコも源氏名不詳―紅子を買ふ卜部の名前はアオイ―で収監されるに及んで、先輩格でもある紅子の心境に変化が生じる。拡げた風呂敷を、なほ魅力的に展開させもした、かに思はせて。関連作どころの、話ではない。何もかにも一欠片たりとて回収せぬまゝ、豪快に走り過ぎてみせるラストには逆の意味で吃驚した。女の裸に全てのエモーションを賭けろ、一度(ひとたび)物語を追はうとしたが最後、貴様の負けだ。とでもいはんばかりの、ゼロヒャクさが清々しい一作である。


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 「性感治療 いぢり泣く」(1996/製作:旦々舎/配給:大蔵映画/脚本・監督:山崎邦紀/撮影:河中金美・田中譲次/照明:秋山和夫・斉藤哲也/編集:酒井正次/音楽:中空龍/助監督:国沢実/制作:鈴木静夫/効果:時田滋/スチール:岡崎一隆/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東映化学/THANKS:上野スター座、世界傑作劇場、ドゥシャン・マカヴェイエフ『WRオルガニズムの神秘』《ダゲレオ出版販売ビデオ》/出演:永尾和生・栞野ありな・真央はじめ・杉本まこと・甲斐太郎・荒木太郎・吉行由実)。
 けたゝましく防犯ベル?の鳴る上野の繁華街、一見何を見せたいのか判然としないカメラが漫然と左折すると、上野スター座の看板を掠めてタイトル・イン。ex.上野スター座の上野スタームービーを取り壊した跡地に建立されたのが、昨今目出度く上映環境が刷新されたピンク映画の大本丸、一社のみならず一カテゴリーの旗艦館中の旗艦館たる上野オークラいはゆる新館。左折する手前もピンクの小屋ぽいが、これは何処なのか。上野の地理を知らないのだけれど、これが旧館?
 クレジットされるビデオを見ながらバナナを頬張る吉行由実の背景に、宇宙人の声風のモジョモジョした音効が流れる。清々しく怪しげなカットから一転、雨の旧旦々舎こと鴨居家に、永尾和生の悲鳴が木霊する。飛び込んで来るなり甲斐太郎がフルスロットル!鴨居(甲斐)が齢の離れた妻・さやか(永尾)を猛然と手篭めにする一方、白衣を脱ぎ神々しくさへあるオッパイを露にした藤圭子もとい藤冥子(吉行)は、正体不明の箱の中に入る。鴨居家では、当然そんなザマでは濡れもしないさやかを、鴨居は口汚く罵る。鴨居いはく、「どうして気持ちよくないんだ、冷えた麦飯食つてるみたいな索漠とした気分になるぢやないか」。この御仁、知性があるのかないのかよく判らない。不忍池の畔で夫婦生活を気に病み黄昏るさやかに、マオックスが声をかける。話してみませんかなるザックリし倒した切り口に、さやかは「夫と上手く行かなくて・・・・」と見ず知らずの色男に本題をケロッと打ち明ける。拙速のその先に突き抜けた遣り取りを通して、さやかは研究所勤務の倉沢(真央)に連れられ、冥子が待つ上野スター座の三階―但し内部は旧旦々舎―に。年上の頼れる人だと思ひ鴨居と結婚したにも関らず、結婚後はセックス一辺倒で不感症云々と日々罵倒される悩みをサクサク告白するさやかを、冥子は先行した謎箱「オルゴンボックス」に入るやう促す。
 配役残り栞野ありなは、治験者を探すと称して、街頭でぶらぶらナンパ師にしか見えない倉沢に、逆ナン気味に接触する三番手。杉本まことは大学を追放された冥子に今回何でまた二十年ぶりに電話して来たのかは結局語られない、象牙の塔に残つた元といふか昔カレ・橋田。荒木太郎は、オルゴンボックスで一皮剝けたさやかにわしわし捕食される俳人。忘れてた、悪徳商法で呆気なく摘発された倉沢の両脇を抱へてゐるのが、画面左から国沢実とマオックス挟んで山﨑邦紀、鉄壁の演出部動員。
 「これはオルゴンボックス、宇宙のエネルギーを集めるの」。吉行由実がたをやかな名台詞を撃ち抜く、山﨑邦紀1996年第四作、ピンク限定だと第三作。何はともあれ特筆すべきは、北川絵美明花従姉妹主演の「TOKYOオルゴン研究所」二部作(2004~2005)に先んじる、当然―ヴィルヘルム・―ライヒの名前だけでなく肖像もガンッガン劇中登場する、山﨑邦紀しか撮り得まい書き得まいオルゴニック・ピンクである点、もしかすると今作が原典となるのか。
 抑圧された性に苦しむヒロインが、オルゴン理論と出会ひ華麗かつある意味苛烈に開花する。浜野佐知の頑強なフェミニズムが主導する旦々舎王道展開に、山﨑邦紀一流の裏通りのペダンティックが加味される傍ら、ライヒ同様アカデミズムからは排斥され、諦観にも似た叡智を覗かせる冥子の周囲では、男達が俗つぽい野心を募らせる。オルゴンエネルギー満タンのさやかが、極端に口数の少ない荒木太郎に対し「声を出すんだよ」と語調も荒げるのは、かつて自身を虐げた鴨居と、何時しか同じ轍。何れも魅力的に風呂敷が拡げられながら、流石に六十分に詰め込み過ぎたか、最終的には起承転結を通り一遍畳んだに過ぎなくもない印象は否めず。そんな中目についたのは、大概な飛躍で上野オルゴン研究所に自力で辿り着いたものの、さやかにオルゴンボックスに放り込まれた鴨居が見せる、疑心暗鬼と閉所に追ひ遣られた戸惑ひの表情から、喜悦の涙を流すに至る甲斐太郎超絶のリアクション。目間距離―そんな言葉あんのかな―が堪らない主演女優のルックスや吉行由実の絶対爆乳も勿論捨て難いにせよ、剛柔両面で他の俳優部を圧倒する、甲斐太郎の地力が光る。


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 「痴漢電車 覗いて嗅ぐ!」(1995/製作:旦々舎/配給:大蔵映画/脚本・監督:山崎邦紀/撮影:稲吉雅志・片山浩/照明:秋山和夫・蛭川和貴/音楽:藪中博章/編集:㈲フィルム・クラフト/助監督:高田宝重/制作:鈴木静夫/スチール:岡崎一隆/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東映化学/出演:石原ゆり・小川真実・福乃くるみ・荒木太郎・樹かず・杉本まこと)。秀逸な1998年新題が、「痴漢電車 若気の湿り」。
 ヒャヒャヒャーヒャラと始まる虹色王冠ファンファーレ開巻!これよこれ、これが―“これも”だろ―見たかつたのよ。
 膝元にサボテンの小鉢を抱へ電車に揺られる石原ゆり、こめかみにビデオカメラを装着した荒木太郎が、ノッシノッシと石ゆりの前を通り過ぎる。電車を外から捉へた画挿んでタイトル・イン、ところでヒロインが常備するサボテンに関して、何の意味、あるいはどういつた所以があるのかに関しては最後まで見事に放置したまゝ済まされる。
 慌てて走つて来る馬鹿みたいにデカいメガネの樹かずと、優雅に茶を愉しむ杉本まこと。出社するハイヤーの手配ミスを詫びるサカエダ(樹)に対し、会社専務の陸奥(杉本)はたまには電車で行くかと寛大に意に介さない。ところが陸奥専務がさて出ようとすると、夫人の小川真実は部屋の模様替への手伝ひにと称してサカエダを捕まへる。陸奥夫婦間でも兎も角、社内的にそれが通るのか。電車の車中、陸奥は手元にもカメラを装着した荒木太郎に痴漢される花田菜々恵(石原)が、自らスカートを捲り電車痴漢を受け容れてゐるのに驚愕する。陸奥宅こと古の旦々舎ではオガマミが当然サカエダをガッツガッツ喰ふ一方、荒木太郎が離脱した奈々恵を、陸奥も痴漢してみる。その日は一旦拒絶した奈々恵が、スカートの上からパンティを直す仕草が、案外見ないアクションにも思へるが結構そゝる。翌日か、電車で奈々恵と再会した陸奥は、とり憑かれたかのやうに電車痴漢再戦。又しても逃げた奈々恵を追はうとした陸奥を、実はすぐ傍らにゐた荒木太郎が引き止める、「あの女はやめた方がいい」。
 配役残り福乃くるみは、荒木太郎が自室で致す女、相変らずカメラは回し続ける。荒木太郎のガジェット嗜好に寄与する点を除けば物語には感動的に一欠片たりとて全く掠りもしない反面、バイブを用ゐた鬼のやうにどエロい自慰を大披露。よしんば展開の進行には一切与らずとも強い印象を刻み込む、真鮮やかな三番手濡れ場要員。問題が、オーラス奈々恵の次なる獲物として登場する、森羅万象のレプリカを更にデチューンした劣化コピーもどきのオッサンが誰なのか、何者なのかに手も足も出せず。とりあへず、本職の俳優部には見えない。
 阿漕な商売をしてけつかるDMMが、バラ売りには新着させてゐる月額動画スルー旧作を渋々―でもなく―買つた、山﨑邦紀1995年第一作。山﨑邦紀のピンクを兎に角一本でも多く見たいのに加へ、盟友の山本さむ(ex.小多魔若史)が出演してはゐぬかといの一番に痴漢電車をチョイスしたものだが、残念ながら小多魔先生は姿をお見せにならず。今のところ確認出来てゐる最終作は、同じく山﨑邦紀の1996年第五作―ピンク限定だと第四作―「痴漢電車 潮吹きびんかん娘」(主演:小泉志穂)。
 奈々恵と役名不詳の荒木太郎、痴漢電車に棲む二人の怪人物に専務さんが翻弄される、確かに“やめておいた方がよかつた”一篇。といつて主モチーフのサボテンから華麗に通り過ぎる始末で奈々恵と荒木太郎の外堀は清々しく埋められず、陸奥は陸奥で嵐に放り込まれた小舟の如く心許なきこと甚だしく右往左往するばかり。終盤―女性上位の旦々舎映画の常ではあれ―頼りもなければ情けない旦那に対し、自身で奈々恵を迎撃する腹を固める陸奥夫人は、小川真実の決定力で加速した上で俄かに絵に描いたやうな出来た女房面する、ものの。そもそも己は己で朝つぱらから若い色男と派手にヨロシクやらかしてゐやがつた癖に、といふ臆面もなさは、今作単体のみならず、寧ろピンク映画固有のいはば制度的な諸刃の剣。小川真実の濡れ場が別に夜の―朝でも昼でもいいけど―夫婦生活で普通に消化出来たかも知れないにせよ、陸奥の電車痴漢筆卸とクロスさせる構成が、より諸々面白味を増すのは論を俟つまい、樹かずもあぶれてしまふし。最終的には痒いところに冬の上着の上から手が届かないやうな一作ながら、撃墜寸前の陸奥を追ひ、夫人も痴漢電車に乗るクライマックス。奈々恵に吸ひ寄せられる陸奥の姿を目撃、血相を変へ突撃しかけたオガマミを、陸奥を制止した際と同様、事態に電撃介入した荒木太郎が阻止するドラマティックなカットが一点突破で素晴らしい。

 最後にか改めて気づいたけど、劇中、特筆するほど別に覗きも嗅ぎもしてゐない。


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 「巨乳vs巨根 ~倒錯した塔愛~」(2016/制作:旦々舎/提供:オーピー映画/脚本・監督:山﨑邦紀/撮影:小山田勝治/撮影助手:宮原かおり/照明:ガッツ/録音:山口勉/助監督:小関裕次郎/応援:武子政信/編集:有馬潜/音楽:中空龍/整音・音響効果:若林大記/録音スタジオ:シンクワイヤ/仕上げ:東映ラボ・テック/ポスター撮影:MAYA/出演:東凛・牧瀬茜・山口真里・津田篤・平川直大・荒木太郎)。照明のガッツは、守利賢一の変名。
 東京タワーの鉄骨越しの遠景と、歩道橋を上るタイトスカートの女の尻。尻の主である主演女優から東京タワーを遠くに望んだ上で、一方、マネキンに大人が漸く抱へられる大きさの風船、前輪の巨大な自転車が配された不思議な空間。二番手が、車輪にグリグリ観音様を押し当てる。背後―といふかより直截には尻後―に荒木太郎がベッタリ尾けて来てゐるのにも気づかず、東凛は恍惚とといふか、あるいはあらうことか東京タワーとのセックスを妄想。我に帰り、様子を案じた荒木太郎に声をかけられた東凛は、出し抜けかつ真綿色したシクラメンよりも清しい明朗さで東京タワーと結婚すると宣言。「ワタシの彼氏身長333メートル、1958年生まれ☆」とキラッキラに弾ける東凛が東京タワーを森高千里ばりに指さすと、走り始めるギターリフを追ふカメラが東京タワーを下から上に空まで舐めてタイトル・イン。らしからぬほど溌剌とした開巻に於いて既に顕著な今作の特徴として、劇伴が、耳慣れぬものばかり使用してゐる。
 タイトル明けは先刻の謎部屋、車輪をこよなく愛する車輪女(牧瀬)に、サドルになりたいサドル男(津田)がいはゆる顔面騎乗を求める。片や幼少期より尖つたもの、空に聳えるものに心奪はれる鉄塔女(東)―スカイツリーは、武骨でなくセクシーさが足りないとお気に召さぬらしい―と、階段を上る女の人のお尻を見上げる瞬間が最高で、自ら階段に取り憑かれた男と称する階段男(荒木)が自己紹介。後述する山口真里とナオヒーローの濡れ場を経て、階段男は車輪女とサドル男が待つ、物体に対する愛を共有する同士が集ふ―田中―スタジオに、鉄塔女を招く。
 配役残り、改めて調べてみると意外にも、山﨑邦紀2013年第一作「淫行フェチ 変態うねり尻」(主演:美月)以来旦々舎参戦は僅か二度目の山口真里と、ピンク映画フィルム最終作「女子大生レズ 暴姦の罠」(2014/監督:小川欽也/脚本:水谷一二三=小川欽也/主演:きみの歩美)で復活後快進撃を続ける平川直大は、ガンッガン性交してガッツガツ肉を喰ふ、その名もマダム肉欲とミスター珍棒。最早一種の貫禄をも漂はせかねない、ヤマザキ節がスパークする。二人は女陰と陽根の結合を根本と看做す「新 陰陽道」を唱へ、マダム肉欲とは旧知でもある階段男らの物体愛に、矯正して呉れると上から目線の対抗心を燃やす。
 のちに正月薔薇族が控へる、山﨑邦紀2016年第二作。三作前の肛門探偵で華麗なる戦線復帰を遂げて以降、以前にも増して種々雑多、突拍子もないモチーフを飛び道具に嬉々と孤高―といふと、高くはないと卑下なさるかも知れないが―の地平を快走する山﨑邦紀が、今回この期に及んでのキャリアハイを叩き出さんばかりの勢ひで絶好調。「新 陰陽道」から売られた喧嘩を鉄塔女が華麗に買ひ、激闘の末ミスター珍棒を撃破する終盤の本筋も普通に見所あるが、今作の白眉は中盤を支配する、車輪女いはく自身等の物体愛が人間同士のセックスに結びつくのか否かを検証するとする、よくよく考へてみれば「新 陰陽道」の横槍は織り込み済みでもある“実験”の数々。色彩豊かな実景に長けた小山田勝治が鮮やかに捉へる、東京タワーの荘厳な威容を適宜挿み込むアクセントに、大傑作「《秘》盗撮 素人穴場さぐり」(1995/主演:白石奈津子、ではなく荒木太郎)で火を噴いた無限編集こそ火を噴かないものの、諸々衣装も替へ階段を上がる女の淫靡な尻と、スタジオでの様々なプレイを延々と一頻り連ねる件はかつてないかもとすら思へるくらゐに漲る英気を感じさせる、煽情的かつ幻想的なショットがひたッすらに乱打され倒す究極の映画体験。本気で震へて、全力で勃てた。押しつけたオッパイを風船を通して抜くのはここに来ての地味に偉大なる発明かも知れず、車輪女の指揮の下、各人が石になるワークショップ風の一幕。女優部の傍ら、五体が分岐しない全身タイツ―全体何の目的で商品化されたアイテムなのか―に身を潜めた男優部が、一見誰もゐないかに思はせていきなり動き出したのには素面で意表を突かれた。重ねて驚かされたのは、「新 陰陽道」に勝利後の鉄塔女が車輪女の助言に従ひ辿り着く、純粋無垢なるハッピーエンド。東凛初陣でもある前作では、よもやまさかの卓袱台を原子に還すまで粉砕する荒業を仕出かしてゐるだけに、メンデルスゾーンのパパパパーン鳴る中、ウェディングドレスの鉄塔女が愛する東京タワー目指して颯爽と駆ける画の圧倒的な幸福感には、薄―くでなく―汚れた卑しい心性を隅々まで洗はれた。山﨑邦紀映画のヒロインにしてなほ、案外内向しない東凛の溌剌さは万事行き詰まつた時代に対する清涼剤ないしはカウンターとして、最終的には見事に南風薫る観後感に帰結。どエロい奇想天外の極みが、最後は量産型娯楽映画の本道らしくスカッとさせる離れ業をやつてのける。一々拾ひ始めるとキリがないキレの伴つた情報量も比類なく、これ、相当面白くないか?第29回ピンク大賞には東凛の新人賞さへ掠りもせなんだけれど、別に城定秀夫や山内大輔ばかりが、ピンクといふ訳でもあるまいに。ピンク大賞自体に関しては、上野オークラ集客イベントの一環といふ側面を重視するならば、よしんばAVアイドルの人気投票であらうとなからうと、公開ラグに屈しざるを得ない津々浦々ピンクスを切り捨てようと、あれはあれで全然無問題とも同時に思ふけれど。


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 「変態芸術 吸ひつく結合」(2016/製作:旦々舎/提供:オーピー映画/監督・脚本:山﨑邦紀/撮影:小山田勝治/撮影助手:宮原かおり/撮影応援:山川邦顕/照明:ガッツ/録音:山口勉・廣木邦人/助監督:小関裕次郎・高田芳次/編集:有馬潜/音楽:中空龍/整音・音響効果:若林大記/録音スタジオ:シンクワイヤ/ポスター撮影:MAYA/仕上げ:東映ラボ・テック/協力:アクアショップ マリンキープ・桃子・ラブピースクラブ/出演:東凛・酒井あずさ・ダーリン石川・津田篤・荒木太郎・卯水咲流)。照明のガッツは、守利賢一の変名。
 ガード下を通過する車列を一時捉へて、尻尾から白いウーパールーパーを舐める。全裸の主演女優を、全身抜く自室のロング。ルーパー嬢(東)がパンティ・ブラの順で下着を着け、チャイナドレスに体を通すと、水槽のウーパールーパーに「私は変つた」と語りかける。ルーパー嬢の、薬科大に通つてゐた過去。取り憑かれたかのやうに乳鉢で薬物を擂るルーパー嬢あるいはタリウム女が、カッと目を見開いてタイトル・イン。静かなアバンながら、溜息が漏れるほどに均整の取れた東凛のプロポーションを、丹念に堪能させるカットの数々には確実な力が漲る。
 男女の等身大人体模型が並び、背景には鉄格子も見切れる見るから怪しげな一室。和洋といふか和フラワー折衷な扮装の卯水咲流が、模型胴体のカバーを外し腸に頬擦りした上で、ちやうどディルド―程度の大きさの小ぶりな人体模型でオナニーに耽る。そこに現れたルーパー嬢に、完遂したグル(卯水)は手を差し伸べる。
 種々雑多な奇人変人が入れ替り立ち替り登場する、山﨑邦紀十八番の展覧会的な序盤は今作も健在。配役残り、バサッとマントを広げての疾走で飛び込んで来るダーリン石川は、自らをドラゴンの化身と目するサラマンデル。ウーパールーパーことメキシコサラマンダー繋がりのルーパー嬢の彼氏で、後にルーパー嬢は巷間を騒がせた事件に触れ、自身も人に毒を飲ませてしまふと薬科大を中退、ウーパールーパーとの出会ひによつて救はれたと語る。サラマンデルに話を戻すと、真のドラゴンと化すには通過儀礼として、亡夫の遺産で全身整形を繰り返す母親・整形ママ(酒井)とのファックが必要だと常々息巻くも、いざといふ段となると何時も息苦しさに見舞はれ果たせずにゐた。浜野佐知に丸グラサンを借りた―凄い与太―荒木太郎は、実質的には整形ママの間男といつて差支へあるまい、家内に逗留し整形ママの自伝を口述筆記する三文文士。誰のためにもならない、何の役にも立たないことこそ芸術の宿命とする、よくいへば一切の下心を廃した純粋な、直截には諧謔的な芸術観の持ち主。それで社会生活はどうしてゐるのかホワイトカラーの癖に髪までツンツンに立てた津田篤は、この人は自らを機械仕掛け、しかも壊れたと目するエレキ君。一見バラエティ豊かに見せて、拗らせた自意識だらけでもある。とまれエレキ君、キーだのカシャンだのロボット風のSEがなければ、傍目的な症状は単なるチック症と大差なかつたりもする。大腸を脳を上回る最重要な器官と位置づけ、入り口である口腔の舌と出口である肛門の同時刺激とにより、要は一本の管を成すその間の消化器官の活性化を説く。正しく独自の説を提唱し、助手をルーパー嬢が務める、グルのラボに窮したエレキ君が相談に訪れる。
 神は細部に宿るとばかりに、個人的には2015年ベストの肛門探偵で華麗なる復活を遂げて以降、加速してモチーフ勝負を嬉々と続けてゐる様が窺へる、山﨑邦紀の2016年第一作。肛門探偵をより理論的に整備したグルの大腸要諦主義を軸に、類が友を呼ぶが如く集つた“失敗した芸術家”達が繰り広げる下へより下への大騒ぎ。といふと、例によつて風呂敷を拡げるだけ拡げておいて畳みもせず散らかしたまゝ映画が終る。終つてのける危惧は、どうかしたのかと驚かされるくらゐの完璧な形で大回避。サラマンデルが頑なに固執する母子相姦に関し、グルは脳の過大視と同列の子宮幻想に囚はれてゐると指摘、大腸に繋がるべきと主張。母のヴァギナではなくアナルとグルが述べるや、ユリイカと鳴り始める安いハードロック調の劇伴が絶品。点の奇想が線に繋がるドラマティックなカタルシスが満開に咲き乱れ、続く実際に上のグルと下のルーパー嬢による、サラマンデルの舌と肛門の同時刺激。絶頂に達したサラマンデルが上げる「オーオー大腸!」なるスッ惚けた歓声が、厭世的には人間そのものを糞袋とも看做し得る、人体を貫く一本の管を快感が駆け巡る劇中体験を観客にも実感させる大いなる映画的魔術!
 とこ、ろが。サラマンデルが整形ママのアナルに挿入しつつ、ルーパー嬢の肛門を舐める。舌肛同時刺激があたかも秘蹟の領域にすら突入せんかに思へた、否、その時は確かに突入した荘厳なまでの濡れ場を経て、グル曰くの“聖なるトライアングル”が完成した瞬間。嗚呼俺は、何て素晴らしい映画を観たんだと、心の底から感動した、のに。一見意味不明な件なりショットが、魚雷のやうに命中する伏線はパンドラの箱じみた蓋が開いてみれば理解に難くもないとはいへ、斯くも完璧にテーブルコーディネートしておいて、したにも関らず卓袱台を豪快に引つ繰り返すどころか木端微塵に原子に還す、変りも救はれもしなかつたのかよ!な無体なエンディングには呆然とするのも通り越し度肝を抜かれた。綺麗に等閑視されるエレキ君や、前作前々作の充実ぶりからするとヤマザキ組荒木太郎が比較的大人しい点も特筆しようと思へばし得なくもないものの、この際取るに足らない些末。山﨑邦紀が大御大・小林悟に連なりかねない、貴様等の望む映画など撮るものかといはんばかりのダンディズム溢れる一作である。

 何処で触れたものか逡巡してゐる内に最後まで機を失してしまつたが、徒に仰々しくもなければ、稚拙の結果の素頓狂といふ訳でもない。山﨑邦紀映画のヒロインにしては案外目もとい耳新しい東凛の至つて普通といふ意味でのフラットな口跡は、奇矯な世界観が雲散霧消するのを防ぐ、アンカーの役割を果たしてゐるやう効果的に聞こえた。


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 「変身人形 肢体を愛でる指先」(2015/製作:旦々舎/提供:オーピー映画/脚本・監督:山﨑邦紀/撮影:小山田勝治・猪本太久磨/応援:竹野智彦/照明:ガッツ/録音:沼田和夫・石田三郎/監督補:北川帯寛/助監督:菊嶌稔章・藤井愛/音楽:中空龍/編集:有馬潜/整音:若林大記/音響効果:吉方淳二/録音スタジオ:シンクワイヤ/ポスター:MAYA/タイトル:道川昭/仕上げ:東映ラボ・テック/撮影機材:アシスト・株式会社 Po-Light・株式会社フルフォレストファクトリー/ロケ協力:田中スタジオ・シネカフェソト/出演:卯水咲流・逢沢るる・倖田李梨・ダーリン石川・平川直大・津田篤・荒木太郎)。照明のガッツは、守利賢一の変名。
 戯画的な爆乳と、無毛ながら体型は普通、二体のマネキン人形を入念に舐めてタイトル・イン。“肢体を愛でる指先”とは、らしからぬほど詩情に溢れた公開題をつけたものだ。
 洋間に置かれた和式の棺桶から、通称・棺桶オヤジ(荒木)が起床する。棺桶オヤジが見やる壁に飾られた写真が、重要なモチーフにしてはこのカットでは暗くて何の写真なのか見えない。何度でも繰り返すが、それでは意味がない。半熟の目玉焼きから零した黄身を、トーストにつけて食べるのが本当に美味しさうな、ウェイトレスの氷川チリ(卯水)と、同棲相手でボクシングに挫折したサラリーマン・雲井竜雄(平川)の朝食。チリと致しかけるも迫る時間に屈した雲井が、平川直大持ち前の熱量で撃ち抜く名言が「む、無念だ!」。映画のポスターとフライヤーが所狭しと貼られた階段を地下に下りた先が、雲井は感心しないチリのバイト先、その名も「Mannequin Bar」。因みに物件的には、浜野佐知映画祭も開催された東京都北区上十条の「シネカフェsoto」。店内ではアバンに登場した爆乳ことグレーテを相手に棺桶オヤジが、無毛のアイちやん相手にヘッドライトを常備する、愛称ヘッド君(津田)が静かに酒を飲み、チリはロボットのやうに給士する。ダーリン石川が、変態客にマネキンをホステス代りに酒を飲ませる商売を考案し御満悦の、「Mannequin Bar」俗物の店主・ドン牛川。棺桶オヤジに問はれたヘッド君いはく、愛用のライトは暗い未来に一筋の光を照らして呉れるとのこと。俺からいはせれば、光を求めてゐる内はまだまだ健全だ。それで全然構はないのは、いふまでもあるまいが。棺桶オヤジと御贔屓のデリヘル嬢・ドール姫(ドール姫といふのは恐らく棺桶オヤジがさう呼んでゐるだけ/逢沢るる)との、棺桶に寝かされた人形に模したドール姫に、棺桶オヤジが陰茎を通じて命を吹き込む何時ものプレイを経て、ドン牛川は店の意匠の足しにと、フィギュアの素体となる球体関節人形を通販で購入してみる。ピンと来ないドン牛川や棺桶オヤジに対し、チリはどうかした勢ひで眼球も入つてゐない球体関節人形の眼窩に宇宙を見る。と書いてみると、山邦紀の世界は、ギターウルフに通じてゐるのかも知れない。
 配役残り倖田李梨は、静謐な変態の聖域に土足で上り込む、ドン牛川の愛人・スージーQ。ドン牛川とのダンサブルな絡みは趣向としては面白いが、下心を揺さぶる煽情性には欠く。
 今月中旬には最新作が封切られる、山邦紀2015年第二作。クラゲだ公開待機作では人体模型に加へメキシコサラマンダーことウーパールーパーだと、昨今俄かに小道具づいてゐる山邦紀が今回主力兵装に採用したのは棺桶に、マネキンと球体関節人形。その中でサラ・ベルナール発、最終的には心謎解色糸まで持ち出しての“究極の欲望”屍姦に至る棺桶オヤジの物語は、どんな台詞でも名台詞に聞かせる山組荒木太郎の名調子も相俟つて、綺麗に最後まで見させる。他方、藪から棒に竹を接ぎ続けるのはある意味伝統芸ともいへ、薄汚れた天使が救済に舞ひ降りもしないチリの人形偏愛は、相変らず山邦紀の独走を許す、観客が置いてけぼりともいへる。最終的に自身を人形と化すほどの苛烈なピグマリオニズムが、元々現し世に居場所のなさげなヘッド君は百歩譲るにせよ、生身の権化たるスージーQにまで伝播するのは超飛躍に甚だしく、そもそも、“未来の神様”と称した球体関節人形が、大星雲に浮かぶ山邦紀のセンス・オブ・ワンダーは凡庸な衆生には画期的に理解に遠い。斯様な、魔球の領域にすら突入した変化球を放り込んで来るのもひとつの醍醐味とはいへ、量産型娯楽映画としては、如何せん難解に過ぎよう。顛末が消化不良を否めない中、散発的に気を吐くのは俳優部、より正確には主に男優部。公開順にピンク映画フィルム最終作「女子大生レズ 暴姦の罠」(2014/監督:小川欽也/脚本:水谷一二三=小川欽也/主演:きみの歩美)で豪快に完全復活を遂げた、我等がナオヒーローこと平川直大は録音レベルがおかしく聞こえるほどの怒涛の声量と、鍛へ上げられた鋼の肉体、そしてそれから放たれる重く鋭い打撃を披露。山邦紀監督御当人の指摘を耳にして以来、旧官吏の制服を手に入れた荒木太郎は昭和天皇にしか見えない。大蔵は、今こそ古の天皇映画を再興するチャンスだ。タイミング的には、今しかない。勿論、表情の乏しさを上手く人形性の枠内に押し込めた逢沢るるの、劇中棺桶オヤジが“神様からの贈り物”と讃へるのも万感の同意を以て肯ける、見事なオッパイも当然見所。最終的には煙に巻かれつつも琴線の触れ処は豊かでなくもない、なかなかチャーミングな一作である。
 もう一点、間にエロスの対象を移す「Mannequin Bar」常連客らとあくまで肉の匂ひに満足する自らとを捕まへて、スージーQやドン牛川がニュータイプだオールドタイプだと俄かにガンダムじみた方便を持ち出すのは、この期に及んで山邦紀はどうしたのか。

 最後に、近旧態依然とした日本映画のクリシェとして使用するのでなければ、背景にヘリコプターのローター音を鳴らすのは如何せんダサく聞こえる。


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 「変態観測 恥穴むき出し!」(2015/製作:旦々舎/提供:オーピー映画/脚本・監督:山邦紀/撮影:小山田勝治・岡崎孝行/照明:ガッツ・蟻正恭子/録音:沼田和夫・小林理子/助監督:小笠原直樹/応援:広瀬寛巳/車輌:尾藤雅敬/音楽:中空龍/編集:有馬潜/MA:シンクワイヤ/整音:若林大記/音響効果:吉方淳二/タイトル:道川昭/ポスター:MAYA/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:卯水咲流・加藤ツバキ・酒井あずさ・ダーリン石川・津田篤・荒木太郎)。照明のガッツは、守利賢一の変名。クレジットの中に広瀬寛巳の名前があると、何故だかホッとする。
 廃工場に踏み入れる卯水咲流、コートの似合ふスタイルの良さが、ロングに映える。放置された三輪車には関心を払はず、女は持参した―旦々舎作頻出の―ディルドで自慰に燃える。一旦達した後、飽くことなく二回戦に突入。とここまで、デジタル化の恩恵を素直に享受。従来の白黒とも違ふ、グレー基調の画面、黒地に滲むやうな赤で鮮烈に刻み込むタイトル・イン。プールがある方の私称第一ミサト、電動車椅子に―右目だけの―片玉眼鏡の目赤家当主・目赤蔵人(荒木)が、巨大な目玉料理を満喫するディナー。明らかに無理からな量を頬張りながらも、無事咀嚼し嚥下してみせる荒木太郎の俳優部魂が煌めく。蔵人の娘・霧絵(卯水)と、瞼に瞳を描いた―レディー・ガガを模してマザー・ガガとかいふらしい―後妻の南(酒井)も、別室にて普通の夕食。蔵人が二十四時間家人を監視するか見守るカメラ越しに、三人は一見普通に満ち足りた家族の会話を交す。蔵人は全ては見るところから始まると、“目玉主義こそわが人生”を謳ふ。珍しく、山邦紀の奇矯なイメージが、何某かなりそれなりの言ひ分と結びつけられてゐる。一方、繁盛せず古い市営住宅の一室―実は廃工場スタジオの一部―に事務所を構へる、“探偵は肛門であり 肛門は探偵である”なる奇怪な文言をモットーとする、自らを称してそのまゝ肛門探偵こと伊賀黄児(ダーリン)と、伊賀の肛門主義に心酔し弟子入りした、助手の不動藍(加藤)。百の目を持つ神話の巨人、アルゴスを名乗るネット経由謎の依頼者から、伊賀は霧絵の行動調査を依頼される。対象者の廃工場での痴態まで押さへつつ、素性の知れぬ人物においそれと渡せる内容ではないゆゑ、伊賀はアルゴスと直に会つてみる腹を固める。
 配役残り津田篤は、シャンデリアの電球の交換に目赤邸の敷居を跨ぐ、出入りの電気屋の新入り若い衆・青山玄。作業する青山が腰に提げた―真つ新の―工具袋に霧絵が点火、豹変した霧絵に跨られるものの勃たなかつた青山の一物は、持参する角電池を一舐めするや忽ち逸物と化す。電池を勇気とエネルギーの源と奉ずる電波ならぬ電池人間といふのは素晴らしいとして、一点青山の造形に苦言を呈しておくと、ブルーカラーにしては如何せん身形が小奇麗過ぎる。
 山邦紀2015年第一作は、前作「SEX実験室 あへぐ熟巨乳」(2013/原題:『絶頂研究所』/主演:有奈めぐみ)以来待望と感動の復活作であるのと同時に、旦々舎とオーピーの復縁作。更には酒井あずさが目出度く旦々舎初参戦、驚く勿れ平成初となる小笠原直樹のピンク映画参加とひとまづトピックは盛り沢山。
 映画の中身はといへば、深窓の令嬢と、忘我の状態で正しく誰彼構はず男を貪る痴女の二つの顔を持つヒロインを軸に、これで案外腕は確かな肛門探偵が、目玉主義を唱へ歪んだ家族を形成する資産家と対決する。ところで如何にも山邦紀らしい飛び道具といへよう、肛門探偵の肛門探偵たる所以とは。クライアントの悩みの種を肛門から観察し、排泄を促すとのこゝろ。牽強付会といふべきか、はたまた理に落ちてゐるのか。如何にも苦しい勿体ぶつた方便といはざるを得ないのは兎も角、奮つてゐるのが伊賀の後を追ひ追ひ越すどころかブッ千切つて行く不動藍の女傑ぶり。伊賀が実際の性向に於いてはしばしば平常に女性器に挿入しようとするのを日和見主義、あるいはより直截に―もしくは単に口汚く―ウンコ野郎とすら罵つてみせる、いはく“ヴァギナ絶対主義に反対しアナルの黒い旗”を掲げる藍の急進的肛門主義とは、妊娠の可能性がある以上相手を選ぶヴァギナに対し、肛門はフリーダムと尊ぶ立場。避妊しろよといふプリミティブなツッコミ処はさて措き、防御を最大の攻撃に転じたかのやうな、退いてゐるのだか進んでゐるのだかよく判らない屈折した先鋭さが実に傑作。話を戻すと、目玉家長と肛門探偵が対決する周囲で電池人間がおずおずと起動し、ラディカル・アナリストは華麗に飛び回る。そしてマザー・ガガは醜女メイク越しになほ、常にたほやかな微笑みを浮かべる。山邦紀一流の奇人博覧会が屈指の完成度を誇るともいへ、そこで終つてゐては、散らかしぱなしで振り逃げ気味なきらひが目立つ近作と何ら変らない。今作何が素晴らしいといつて、複雑怪奇に拡げられた風呂敷が、奇麗に畳まれるカタルシスが格別。「この家族は失敗した」、荒木太郎が見事に締め括る蔵人の誂へた卓袱台が引つ繰り返る一幕に、主演女優のメイン・イベントを直結、したばかりか二番手も電池人間と追走する濡れ場の力学がキラキラと輝いてさへ映る、これぞピンクで映画なピンク映画ならではのクライマックス。斯くも奇想を積み重ねておいて、十全な起承転結も完結、オーソドックスな娯楽映画として成立せしめてのけるのは、ファンタとロジック、二門の主砲を誇る山邦紀ならではの強靭な離れ業。因みにその前段、肛門探偵が霧絵の真実に辿り着く件。的確かつ印象的な小道具のマトリョーシカが、脚本を読んだダーリン石川が持参したものといふのは、壁の竜に睛を入れる隠れたファイン・プレー。ビリング頭二人がシネマジェニックに幕を引く、ラストも印象深い。

 と、席を立つのも筆を擱くのも早計早計、だから映画は最後まで観ろつてば。山邦紀がかつて目玉姫に際して用意した疑似尻子玉が改めて火を噴く、荒木太郎が超絶の節回しで名文句を撃ち抜くオーラスが映画史に残りかねない勢ひで絶品。御当人は次作の方がお気に入りのやうだが、文句なく滅ッ茶苦茶に面白い。大蔵とエクセスを自在に往来する、旦々舎の快進撃を2016年も見たい。


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 「全国変態妻 ‐どスケベ三昧‐」(1996/製作:旦々舎/提供:Xces Film/脚本・監督:山﨑邦紀/企画:稲山悌二《エクセス・フィルム》/撮影:千葉幸雄・嶋垣弘之/照明:上妻敏厚・荻久保則男/編集:酒井正次/音楽:中空龍/助監督:高田宝重・飯塚忠章/制作:鈴木静夫/スチール:岡崎一隆/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東映化学/出演:美咲あやの・月野ひとみ・細野里緒・春野ふぶき・泉由紀子・扇まや・杉下なおみ・杉本まこと・佐々木恭輔・鈴木道徳・青木こずえ・甲斐太郎)。
 飛行機の着陸をモノレール越しに押さへてタイトル・イン、奥に東京タワーを置いた新幹線の画を挿み、クレジットに乗せて主演女優、二番目と三番目、杉下なおみに泉由紀子、続々と女々が馳せ参じる。更に若干名の男衆を加へた一同が会する一室、四つん這ひのウェディングドレス姿の女が、白衣の鈴木道徳に二股の張形で責められる。達した女が拍手に送られ捌けると、甲斐太郎にピンスポットが当たる。“心の同類と馬鹿をやらう”、“自分の変態を誤魔化さないで愉快な変態を厳密にやらう”をモットーとする、いはゆるマニアさん達の同好会「厳密美学研究会」主宰の梅原潔(甲斐)が会の総決算的な大イベントの開催を宣言したところで、噂を聞きつけたフリーのビデオジャーナリスト・ミナミレイコ(青木)が乱入する。梅原は取材の条件としてレイコが自身等と“心の同類”になれるか否かを提示し、事実上門前払ひ。開巻二番目の大阪から来た女と、鈴木道徳を助手ポジションに強姦プレイを敢行・撮影した梅原は、事後は大阪から来た女が持参した三重名産の赤福に舌鼓を打つ。
 配役残り、山﨑邦紀アテレコの高田宝重は序盤で早くも核心を割る、リビング・ニーズの件で梅原を訪ねる保険会社社員。泉由紀子はラバーフェチの女で、佐々木恭輔が泉由紀子戦の助手役。泉由紀子の土産はういらう、漢字で書くと外郎て書くんだ。続いてはビザールかと思ひきや、要は単なるコスプレらしいミチコ(美咲)篇、ここでの助手は再び鈴木道徳。杉本まことは、プレイの最中に雪崩れ込むミチコ夫。飛び込んで来るや出し抜けに女房の頬を張る杉本まことと、ミチコが激しく遣り合ふ一幕では美咲あやのがエクセスライクを吹き飛ばす、予想外の決定力を披露する。田中スタジオのエレベーター前で佐々恭に出迎へられる扇まやは、九州から明太子を手土産にやつて来た自ら曰く“二穴同時挿入の女”、正体不明の説得力を迸らせる。杉下なおみは正直泉由紀子と被る、レザーフェチの女・タカコ。この人は札幌からで、おみやはレーズンホワイト、品のセレクトも弱い。依然残す出演者に関しては、纏めて後述する。

 フロンティア・ロスト、

 今回は伊達ではない、水元はじめも見尽くした、正真正銘の残弾数ゼロである。オーピーのデジタル新作が観られる目処が未だ立たない中、大蔵時代の凄い旧作の新版プリントを焼いて呉れるのを期待するほかなくなつてしまつた。何気に絶望的な泣き言はさて措き、兎も角山﨑邦紀1996年最終第六作。最期を見据ゑた男が仕掛ける、一世一代の馬鹿騒ぎ。といふと絶頂研究所に先行する魅力的な大風呂敷にも思へ、話はなかなかさう単純には進まない。今回脱ぎも絡みもする女優が総計八人といふ大軍勢の所以は、対正月の御祝儀布陣。ところがこれが、諸刃の剣が悪い方向に転ぶ。濡れ場濡れ場と正直他愛ない津々浦々感に尺を埋め尽くされた結果、梅原のドラマが一向深化しない以前に、そもそも率直なところ量を優先した、粒の揃はぬ女優部すら自壊する。どストレートに可愛いルックスとプックリ悩ましく膨らんだオッパイの美咲あやのや手短に消化される泉由紀子に加へ、トメ前に座る青木こずえに至つては、クライマックスに及んで駆け込み気味に漸く脱ぐ始末。挙句に、八人も並んでゐるにも関らず、どう見てもなほ名前が少なくとも一人分足らない。オーラス今際の間際の梅原が見る全裸走馬灯の中に登場する点とビリング推定から、大阪から来た女が恐らく月野ひとみで、終盤コンビで片付けられる猿轡女とクスコ拡張女が細野里緒と春野ふぶきの何れかではなからうかとは、容易に推測出来る。ところが、さうなると些かカメラが遠く見慣れない人相が判然としない開巻三番目と、目隠しで隠された顔が殆ど満足に抜かれないウェディング女が仮に同一人物であるとしても、この人がクレジットから抜けてゐる。開巻三番目≒ウェディング女が、大阪から来た女・猿轡女・クスコ拡張女の何れでもないことは首から上的にも下的にも間違ひない。無闇な大所帯自体が混乱を来たしてゐるとなると、映画が纏まらないのもある意味至極当然の結果といつたところか。但し御上に怒られる箇所は強い光でトバした、銘々が微笑みながら順々にお迎へに来るオーラスの全裸走馬灯。役者の違ひを見せつける青木こずえの貫禄が出色、細い腰から骨盤にかけての充実したラインの美しさが比類ない。

 薔薇族込みで五十本弱のDMMピンク映画chの山﨑邦紀の頁には、実は浜野佐知1992年第五作「拷問水責め」(脚本:山崎邦紀/主演:木下みちる)と、遠軽太朗通算第三作「喪服妻暴行 お通夜の晩に‐」(1998/主演:里見瑶子)が紛れ込んでゐる。DMMがザルなのか元々エクセスが仕出かしたのかは兎も角、これ、となると逆に何処か余所に山﨑邦紀作が混入してゐる可能性があるかも知れないのか?


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 「《秘》盗撮 素人穴場さぐり」(1995/製作:旦々舎/提供:Xces Film/監督:山崎邦紀/脚本:的場千世/撮影:小山田勝治・中川克也/照明:秋山和夫・斎藤哲也/音楽:藪中博章/編集:酒井正次/助監督:森満康己・井上麻衣子/制作:鈴木静夫/スチール:岡崎一隆/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東映化学/出演:白石奈津子・青木こずえ・美里流季・杉下なおみ・栞野ありな・桃井良子・甲斐太郎・樹かず・伊藤岳人・真央はじめ・頂哲夫・荒木太郎)。脚本の的場千世も、山邦紀の変名。
 軽快な劇伴とともにタイトル開巻、真央はじめと電車でイチャつく美里流季の、股座をビデオカメラが狙ふ。撮つてゐるのは、人払ひさせたのかガラガラな車内で不自然に真正面に陣取つた荒木太郎。電車を降り、草叢の中での本格的な青姦もカメラは追ひ、帰宅後荒木太郎は全裸体育座りで結構よく撮れてゐる動画をチェックする。区施設の何かの出張所、出勤した出向中のエリート課長・東松(荒木)を、現場叩き上げといふ割に劇中デスクワークばかりではある主任の魚住(甲斐)は慇懃に迎へる。独身の東松に対し魚住は若い嫁を貰つたことを鼻にかけるものの、東松は動じない。魚住とその妻・早苗(白石)の夫婦生活も、東松は既に盗撮してゐた。
 対盆正月なり黄金週間の飛び道具でもないのに異常に分厚い配役残り、桃井良子(ex.秋乃こずえ)は直帰予定で東松が出向く大病院「栗栖病院」の看護婦。杉下なおみは一体何階上がるのか階段を東松に尾けられる、ボディコン女。後述する青木こずえ投入道中の―電―車中、東松対面のミニスカ女も兼任、この際は首から上は回避。階段を上がるボディコンの尻を長々と追ふ一幕では、脱衣イマジンに加速後更に桃井良子も追加。他愛ない蓋然性なんぞ軽やかに蹴散らし二人の半裸の女が無限階段を延々上る、果敢にして素敵なファンタスティックを撃ち抜く。そして伊藤岳人が、杉下なおみと階段の踊り場にて一戦交へる入院患者。樹かずは、検温がてら桃井良子に喰はれる骨折入院患者・大林和人、色男は得だ。栞野ありなは、エスカレーターと階段の下からスカートの中を撮られる女の二役、唯一この人は脱ぎも絡みもしない。青木こずえと頂哲夫は東松が改めて山の中に足を伸ばし、テントの中での仲良く喧嘩しながらの営みを盗撮するカップル。初めて気付いたが、美里流季と頂哲夫は似てゐる、この二人を絡ませても面白かつたのに。栞野ありなに話を戻して、無造作に突き出されたカメラに気付いた―寧ろ気付かない方がおかしい―栞野ありなは騒ぎ出し、最終的には「金もないのに痴漢するなよ」と無体な捨て台詞とともに東松は巻き上げられる。その場を目撃してゐた早苗は、あらうことか撮られてゐると興奮するだなどと果敢なカードを切り東松に接近する。
 封切りは十月末と特段何てこともないタイミングの、山邦紀1995年ピンク映画最終第六作。俳優部が男女六人づつと要は通常の倍の大所帯、一体この時何が起こつたのか、椿事にせよ春だ。盗撮を趣味を通り越し逃れ得ぬ業の如く背負ひ、いざ生身の女を前にしてもカメラから放した手は自らのチンコに向かふ。綺麗に屈折する東松の内面に迫る、ありがちな色気を出したテーマになど尺を費やさず。東松の描写は適宜最小限度に止(とど)め尋常でなく質量ともに潤沢な大軍勢を惜しみもなく戦線に投入、重量級の煽情性満開の濡れ場濡れ場をこれでもかこれでもかこれでもかと執拗に積み重ねた末に、呆気なく訪れる、カレーの匂ひが儚い破滅。それも確かに映画的によく出来た畳み具合なのだが、それはそれとして主演女優の締めの絡みは如何に処理するのか、捻じ込みやうがないぞと訝しんでゐると、さう来たか!のアクロバットで放り込まれる鮮やかな妙手で、恐ろしいことにこの映画は未だ止まらない。何処まで温存する気なのか地味にハラハラした青木こずえに側面的に介錯させる、東松の、紙一重を超えたどうしやうもなさ乃至は絶望が、純粋性と見紛はんばかりの美しき静謐に突入するラストには深い感銘を受けた。荒木太郎的には風とともに去つた「人妻の恥臭 ぬめる股ぐら」(2012/坂口安吾『白痴』+『風博士』の翻案/主演:大城かえで)、より山邦紀全体的には真のポストマン「変態未亡人 喪服を乱して」(2003/主演:川瀬有希子・なかみつせいじ)に遡る、消失エンドに薄くでもなく汚れた心を全力で洗はれた。山盛りの女の裸を腹一杯愉しませた上で、衝撃の三連撃で叩き込む激越なるロマンティック。ピンク映画の完成形、山邦紀屈指のマスターピースと称へるに足る壮絶にエモーショナルな一作。絶対マスト必見、嘘はいはぬ。


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 「セクハラ就職面接 女子大生なぶり」(1997/製作:旦々舎/配給:大蔵映画/脚本・監督:山邦紀/撮影:小山田勝治・岩崎智之/照明:上妻敏厚・新井豊/編集:酒井正次/音楽:中空龍/助監督:井戸田秀行・飯塚忠章/制作:鈴木静夫/スチール:岡崎一隆/録音:シネキャビン/現像:東映化学/出演:小泉志穂・青木こずえ・杉本まこと・久須美欽一・佐々木恭輔・小川真実)。
 これ東大なのか?殆ど闇に沈んだ夕刻の大学校舎、超氷河期の女子大生就職戦線に乗り遅れた旨の小泉志穂のモノローグが入つてチャッチャとタイトル・イン。世間は既に正月、ゼミの大先輩のデザイナー・福沢か福澤慶子の紹介で銀座にオフィスを構へる広告代理店、その名も「銀座広告社」の面接を取りつけた東大哲学科四年生―劇中履歴ママ、文学部が抜けてるよね―後に語られる専攻は現代フランス哲学の緒方涼子(小泉)は、依然正月休みにつき人事担当の杉村(杉本)一人の雑居ビルの一室を訪ねる。のつけから涼子の全身を思はせぶりに視線で舐めた杉村は絵に描いたやうなセクハラ面接全開、男性関係や月々の生理を問ひ質すに止(とど)まらず、直線的に押し倒し愛人契約を迫る。涼子が口唇性交の強要に歯を立てその場を離脱すると、要は杉村に涼子を売つた慶子(小川)が悠然と登場。慶子と杉浦がわざわざ屋上で一戦交へる一方、腹の虫の納まらぬ涼子の前には、結局涼子を落とした建設会社のリクルーター(佐々木)が現れる。一時期涼子は佐々恭と男女の仲にあり、以来別れた後も佐々恭は涼子をストーキングしてゐた。
 配役残り久須美欽一は、銀座広告社の一件は白々と惚けてみせた慶子が続けて涼子に紹介する、印刷業界の業界紙の面接官、机のデカさを見るに社長かも。青木こずえは、久須りんが涼子を面接する正にその最中、デスクの下に潜み久須りんの尺八を吹く名目上は秘書。一流の軽妙なメソッドで次第に悶え始め、激しく挙動不審に陥る久須りんに恐れをなした涼子はその場を退散。机下に沈み青木こずえと対面した久須りんは何故か明後日に発奮、放つ名台詞が「あの娘を入れてあの娘に挿れる!」。久須美欽一の類稀なバランスなり安定感は、もう少し博く評価されても罰は当たらないやうな気がする。久須りんとの事後涼子を追ひ駆けた青木こずえは、デスクの下に潜んでゐたことを白状し、慶子が涼子を売つた事実を突きつける。挙句にフリーのレンタルボディと自己紹介する青木こずえの颯爽とした姿に、涼子は動揺する。
 2001年新題が「女子大生 いたづら就職面接」、新旧ともにタイトルはポップな山邦紀1997年第二作。窮地に追ひ込まれたヒロインが、果敢に開き直り女の武器で逆襲、卑劣か惰弱な男供を蹴散らし華麗なる女性上位時代を築く。まるでプロットを旦々舎ジェネレーターに放り込んで自動出力させたが如き定番中の大定番の物語ながら、流石に些かならず苦しい。結局展開の動因が青木こずえの一押し一発勝負といふのは、そもそも“レンタルボディ”なる珍奇な意匠の外堀を埋める作業を清々しくスッ飛ばしてのけるところから無理がある。加へて、邪悪なハンサム・杉本まこと、綺麗に屈折する佐々木恭輔、晴々しく好色な久須美欽一。酸いも甘いも噛み分けた貫禄を漂はせる小川真実に、持ち前のフットワークの軽さで奇矯に飛び抜ける青木こずえ。曲者揃ひの俳優部の中で、三戦目にしてなほエクセスライクが抜けない主演女優が如何せん弱く、行間の果てしない突飛な後半を独力では凡そ支へきれない。女が勝利し男が負ければパブロフの犬よろしく喜ぶ幸福な観客でなければ、釈然としない物足りなさは否めない一作。寧ろ未だ世間を知らぬ涼子の青臭い理想主義を排し、冷たいリアリズムを吐き捨て捌ける、小川真実のラスト・カットにこそ深い映画的叙情を覚えた。


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 「スワッピング狂ひ ‐山の手和服夫人編‐」(1995/製作:旦々舎/配給:大蔵映画/脚本・監督:山崎邦紀/撮影:河中金美・難波俊三/照明:秋山和夫・渡部和成/編集:酒井正次/助監督:西海謙一郎/制作:鈴木静夫/録音:ニューメグロスタジオ/スチール:岡崎一隆/現像:東映化学/秘画提供:月刊『ホームトーク』編集部/出演:秋乃こずえ・杉原みさお・荒木太郎・平賀勘一・甲斐太郎・青木こずえ)。
 波音に乗せてタイトル・イン、明けると波打ち際。青木こずえがゴーグル着用の荒木太郎を膝枕、また随分とロケーションから凝つて来た開巻である。一方旧旦々舎和室、春画の散乱する机上で秋乃こずえ(後の桃井良子)が巨大なワープロを叩く。文章の中身は、青木こずえと荒木太郎を描写したと思しき小説。二人の謎めいた逃避行の模様を挿んで、スワップ界の有名人・自由が丘夫人こと歌川麻由(秋乃)と、彼女のパートナーでスーパー・ファック・マシーンの異名を誇る平田淳市(荒木太郎/名前の元ネタがスーパー・ストロング・マシーンこと平田淳嗣であることは疑ひない)のビデオに、マンション経営の大谷慎冶(甲斐)とその妻・槇子(青木)が垂涎する。平田は外を出歩いてゐると度々ライトバンから飛び出して来る拉致男(背格好から恐らく山邦紀)の襲撃を受け、その度に、アタック音とともに女の後姿のビジョンを見た。いざ自由が丘夫人&SFマシン組と大谷夫妻のタッグ戦もといスワップ、二年前に事故で海馬に損傷を受けて以来記憶障害、何でも“自分の外側の記憶装置”と持参する電子手帳に打ち込む平田の姿に、槇子は興味を覚える。
 配役残り平勘と杉原みさおは、勃起不全のラーメン屋大将・町田と女房。絶妙な即物性で、中盤一息つきつつ絡みの尺を稼ぐ。後ろからしか抜かれない、町田の店でチャーシュー麺を頼んだ客は西海謙一郎?
 「僕の頭は記憶することをやめた」、過去どころか十分前すら覚束ない、その都度その都度の瞬間的な現在しかない男。力強い母性をも湛へ、男と逃げる女。男と女の足取りを綴るが如き、男を管理してゐた女が執筆中の物語。男を襲ふ正体不明の悪漢、襲はれる毎に男の脳裏に煌く、母のやうな女の背中。山邦紀1995年ピンク映画第三作は、魅力的なモチーフの数々と錯綜する時制とを手短かつ的確に繋ぐ、ミステリアスでスリリングな一篇。情報密度の高さにくたびれかけたところでスチャラカな町田夫婦を投入、ブレイクを図る構成も心憎いが、感心するのはまだ早い。事後平田が席を外した隙に、町田婦人はジャケットの中から電子手帳を拝借、中身を覗く。三番手濡れ場要員に物語の発火点を担はせる秀逸な戦略と、杉原みさおならば悪びれもせずにそんなことも仕出かしさうだと思はせる超絶な配役が素晴らしい。結局、せめて後姿の女の正体くらゐは明かして呉れよと思へぬでもないにせよ、拡げた風呂敷を一切畳まずに切り抜ける終幕には物足りなさも覚えつつ、拉致男から逃げ、これは何処なのか観光地の人混みの中を駆け抜ける平田と槇子をロングで暫し捉へる。ラストまで含め狙ひ澄まされたショットの連打に、ダウンロードした動画をPC視聴しておいて何だが映画的な満足度は高い。拉致男に追はれてゐることも早速忘れ、「どうして僕等走つてんですか?」といふ平田に対し、槇子は青木こずえ一流の大らかさで「逃げ切つたらその時考へたらいいぢやない」。爽やかなポジティブネスを振り撒き走る二人の前方に長髪×丸グラサンの浜野佐知らしき人物が見切れるのは、多分レッドな空似。

 ところで、“山の手和服夫人編”を謳ひながら、例によつて他編が存在する訳ではない。今後撮るといふのであれば、勿論全然極大歓迎。それと旦々舎の一傍流・ガジェット・ピンク的には平田が持ち歩く電子手帳のほか、スワップ畑の連絡ツールに静止画テレビ電話が登場。時期の近い「ナマ本番 淫乱巨乳」(1994/脚本は的場千世名義/主演:姫ノ木杏奈)を飛び越えて、「裏本番 女尻狂ひ」(1992/監督:浜野佐知/主演:三田沙織)で使用した「みえてる」まで遡る。


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 「ナマ本番 淫乱巨乳」(1994/製作:旦々舎/提供:Xces Film/監督:山崎邦紀/脚本:的場千世/撮影:繁田良司・小林嘉弘/照明:宮城力安・小林昌宏/音楽:薮中博章/編集:㈲フィルム・クラフト/助監督:佐々木乃武良・戸部美奈子/ヘアメイク:斉藤秀子/スチール:岡崎一隆/効果:時田滋/制作:鈴木静夫/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東映化学/出演:姫ノ木杏奈・摩子・辻かりん・荒木太郎・太田始・樹かず・甲斐太郎)。脚本の的場千世も、山邦紀の変名。
 本格的なウェディング・ドレスを着込んだまなつ(姫ノ木)が、電話回線に別途噛ませた機器を介して自身の画像を相手に送る。まなつが今日は―電話の向かうの―貴方のお嫁さんになる旨を宣言したタイミングで、ドーンと威勢のいいタイトル・イン。情報家電を持ち込んだ画つきのテレクラといふと、浜野佐知1992年薔薇族込みで最終十二作「裏本番 女尻狂ひ」(主演:三田沙織)に於ける平勘主催の「世田谷TVデート」が想起されつつ、今回使用するガジェット―何れもSONY製―は大幅に小型化されたことに加へ、依然白黒ながら解像度も通信速度も格段に向上。更に、解像度を落とせば動画も送れる驚異の高性能。現代の水準で論じるならば牧歌的以前の骨董品とはいへ、当時としてはガンッガンに好事者の胸をときめかせた夢の新商品にさうゐない。恐らく、当人がときめきついでに山邦紀はその点ツボを弁へ、後述するユウコの顔見せに際しては、粗いけれどもイイ感じに扇情的な動画を、じつくりと尺も費やして見せる。
 横道から本道に復帰、まなつと関川(太田)の一戦。関川は鈴のついた、まなつのラビア―陰唇―ピアスに度肝を抜かれる。一見樹かず(現:樹カズ)の陰に隠れ忘れがちとなつてしまふのかも知れないが、実は矢張り今なほ戦線に留まる太田始の変らなさ、歳をとらなさぶりも十五分にも六分にも異常。一方、まなつの友人で画つきテレクラを運営する美香(摩子)は、如何にも人の好さげな画像を送つて来た業田か郷田か合田(甲斐)とホテルで待ち合はせることに。ところが部屋に黒服×サングラスで現れた業田の第一声は、「トーシローがプロの仕事にちよつかい出しちやいけねえな」、甲斐太郎の振り幅が素晴らしい。手篭めにされるも事後業田が寝落ちた隙に、美香は辛々脱出する。
 配役残り荒木太郎は、まなつが今度は看護婦の白衣で出撃する顧客。辻かりんは第三のテレクラ―といふか、業田の言の通り限りなくホテトルではある―嬢・ユウコ。この人は本物の刺青女で、まなつとボディピアスと刺青に関する談義に花を咲かせる。樹かずは送られて来た画像にユウコが喰ひつく色男・ヨシヤ。
 山邦紀1994年薔薇族含め最終第五作、アルバイト感覚の風俗営業を筋者に睨まれた、三人娘の運命や如何に。といつた寸法の如何にも娯楽映画的な粗筋ではあるのだが、中盤、事を済ませ―ナース服のまゝの―まなつと出歩く荒木太郎の曰く“業界には業界のユニフォーム”といふ私服を見た時点で、明らかとなる落とし処が裏切られるなり捻りを加へられることは別にない。ラビアピアス描写もピンク映画の限界におとなしく従ひ、普通にエロい以外に特段のエグみを感じさせるものでもない。寧ろすつかりビビッた美香の代りに、修道女姿で出向いたまなつのピアスに気付いた業田が「格好も変だし、変態女かお前は!?」と驚くのが、平素の雄姿を思ひ返すにつけ爆裂する「お前がいふな」感の面白さの方が先に立つ。よくいへば素直な、悪くいへば薄味な物語に対し、三番手は少々垢抜けないもののオッパイのジェット・ストリーム・アタックを撃ち抜き得る女優部三本柱は文句なく強力。とりわけ、即物的な破壊力では若干姫ノ木杏奈に劣れど、ルックス・プロポーション共々メリハリの利いた摩子が改めて超絶。摩子の絡みが序盤の対甲斐太郎一戦しかないことが、重ね重ね惜しい。とまれまなつのラビアピアスに、関川がチンコピアスで応へる締めの濡れ場は下心がグルッと一周したハート・ウォーミングに溢れ、エクセスの流儀に沿つたストレートな裸映画としては、全く磐石の仕上がりである。


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