真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「四十八手 勃ちつぱなし」(1994『《淫》四十八手 巨乳責め』の2012年旧作改題版/企画・製作:吉満屋功/配給:新東宝映画/監督:川村真一/撮影:下元哲/照明:井和手健/編集:酒井正次/助監督:花田秀二/音楽:遠藤浩二/演出助手:西垣孝誠/撮影助手:森下彰三/照明助手:広瀬寛巳/タイトル:ハセガワタイトル/制作協力:ファントムライン/出演:青木こずえ・七瀬ゆりか《新人》・扇まや・杉原みさお・久須美欽一・吉岡圭一郎・西直人・久保新二)。兎にも角にも徒に多岐、出演者中七瀬ゆりかと照明の井和手健が、ポスターには七瀬ゆかりと伊和手健。ポスターでは企画は久保チンの個人事務所「オフィスKUBO」に。更に―jmdbその他各種資料にも―脚本は双美零と友松直之となつてゐつつ、少なくとも今回小生が観たプリントには、何と脚本家クレジットが見当たらなかつた、飛んでゐただけならば面目ない。
 大きな箱包みを前に、久須美欽一が垂涎する。箱の下部が開き、中から銀ラメのハイヒールを履いた女の足がニョキッと出て来る。久須美欽一の手には、「女体宅急便」なる新風俗のチラシが。箱から尻が全部外に出たタイミングで、底の浅さが今となつては微笑ましいブレイクビーツがズンチャカ鳴り始める。クレジットが流れ終る頃には、ラスタ・カラーのボディコンを着た女が久須美欽一を前に乱舞、綺麗なオッパイを披露したところでタイトル・イン。
 タイトル明けライトバンの中では、「女体宅急便」主幹の陽子(青木)が、香港行きの準備に勤しみつつ箱の角に取り付けたマイクで室内の模様もモニタリング。製薬会社営業部長の水田(久須美)と、リサ(杉原みさお/但し声は多分石川恵美のアテレコ)の一戦。水田が体位を変へる毎に、筆書きの適当なテロップが順に①茶臼②松葉くずし③帆かけ舟④陸蒸気(丸数字はこちらでつけた便宜)と入り、ここまでは江戸に限定せぬにせよ、四十八手を生真面目にトレースしようとする気配は窺はせた、ものの。昼間はOLの陽子が、用を足しがてら何やら名簿を整理してゐると、水田と専務のオオバ(久保)の猥談が聞こえて来る。水田がオオバに「女体宅急便」のチラシを押しつけるのを盗み見た、陽子は青木こずえ得意のメソッドでほくそ笑む。そんなこんなで女房は一浪中の息子・真一の山篭り夏期講習に同伴し不在のオオバ宅に、ユカ(七瀬)が届けられる。ユカV.S.オオバ戦で繰り出されるのは⑤まんぐり返し⑥チングリ返し⑦火口責め・・・・まんぐり返しで既に随分なのだが、江戸四十八手でいふ鏑流馬“やぶさめ”を、⑧オグリキャップスペシャルといふに至つて完全に企画の底は抜ける。続いて氏名不詳の扇まやも加はつての、「女体宅急便」全体練習、ここでは⑨つばめ返し⑩宝舟が穏当に。営業部長、専務と来て、いよいよ本丸の社長・室田龍一(吉岡)の下へまや女王様が出撃。ここでは⑪巨乳窒息責め⑫巨乳ビンタ⑬顔面騎乗⑭人間便器(注:いはゆる聖水のこと)、最早体位ですらない。室田を撃破し「女体宅急便」本部に帰還する陽子とまや女王様を、当時の一応イケメン(西)が尾行。不用意に本部の様子を覗き見た西直人は、忽ち女四人に捕獲される。
 何処まで本気なのか判らない、四十八手を紹介する営みが中盤で既にグダグダとなり終盤に至つては完全に放棄される。改めて調べてみると量産型娯楽映畑では意外と少ないともいへるのか、本篇は六本しか撮つてゐない川村真一の通算第四作。木端微塵に終る四十八手の未了に関しては忘れることとすると、序盤で撒いた魚雷のやうな伏線が後々見事に命中する、陽子の無造作に大胆な野望で最低限の劇映画としての体裁も整へられた、穏当な裸映画はのんびりとはしながらも、案外終始求心力を維持する。それだけに、素直にそのまゝ始終を流した御機嫌なサクセス・エンドで十分なのに、正しく取つて付けられた最終盤の一捻りは、無駄な蛇足に思へなくもない。作劇上の不用意な色気が最後の最後でリズムを乱した、残念の否めない一作ではある。

 以下は再見に際しての付記< 矢張り脚本家クレジットはない、それと石川恵美に聞こえる。
 備忘録< 西直人とは別ルートで室田製薬(仮名)のスキャンダルがすつぱ抜かれ、陽子が首尾よくジャックした―筈の―香港支社は閉鎖


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 「人妻家政婦 うづきに溺れて」(2012/製作:Blue Forest Film/提供:オーピー映画/監督:竹洞哲也/脚本:小松公典/撮影:創優和/編集:有馬潜/助監督:永岡俊幸/監督助手:奥村裕介/撮影助手:小松麻美・高橋可奈/スチール:阿部真也/車両:増田直人/協力:加藤映像工房/出演:横山みれい・眞木あずさ・日高ゆりあ・牧村耕次・サーモン鮭山・久保田泰也・岩谷健司)。車輌をロストする。
 フィーバーしないサタデーナイト、家政婦の職も持つ佐藤みちる(横山)と、夫で地方公務員の秋雄(サーモン)の淡々とした夫婦生活。タイトル挿んで、結婚丸六年の夫婦は距離感の微妙な、俗にいふ倦怠期にあるらしき雰囲気ないしは設定が、主にみちるの物憂げな風情を通して匂はされはする、とはいへ。それにしては翌朝、その日が忘れてゐた結婚記念日当日であることを妻から知らされた秋雄が、お祝ひのケーキを自ら作ると張り切りだす件にはいきなり軸が覚束ない違和感も覚える。結果論からいふと、結局ここで躓いた危惧が、最終的には全篇を支配してしまつた。
 みちるが週に一度日曜に通ふ先は、大病を機に会長職に退き事実上セミ・リタイア状態にある、原嶋邦生(牧村)宅。早くに先立たれた亡妻の遺影(凄く若い頃の小川真実のやうな、写真の主はクレジットにも見当たらず不明)を前に邦生が黄昏てゐると、娘の悦子からその日は帰宅しない旨の、母国語を破壊するのが楽しくて楽しくて仕方がないメールが届く。その頃当の悦子(眞木)は、彼氏兼、何処で知り合つたのか邦生の会社の社員でもある伊橋孝太(久保田)の部屋に。どうでもよかないが、久保田泰也のそこそこ長いアシンメトリーの髪型は、堅気のサラリーマンがその頭はないぞ。ビリング上二番手にしては一度きりの眞木あずさ、開巻を繰り返すが如き横山みれい二度目の濡れ場を経て、出勤がてらみちるが電話で話す相手方に登場する日高ゆりあは、みちるの家政婦元同僚で、現在は那須塩原の温泉旅館「石川荘」の女将の座に納まる中澤舞子。日高ゆりあとは結構な身長差の岩谷健司は、互ひに結婚は二度目の舞子夫・俊也。一回目の反省も込みなのかお盛んな二人は、時と場所を動物的に選ばず絡みの回数を稼ぐ。
 2012年竹洞哲也、三月末にして順調に第二作。物語から現象論のみを切り取ると、ダンディな初老の男が、セクシーな人妻家政婦と懇ろになる。そこだけ掻い摘めば主要客層の欲求する商品性に即応した、誠有難い話でもありつつ、何はともあれ致命的なのが、みちるが吹かれる隙間風と、一方邦生に関しては家を出て行く娘と、増えるのは薬の量ばかりといふ否応のない寂寥。双方の外堀の攻略が兎にも角にも心許なく、何時しか惹かれ合ふみちると邦生が、終には一線を越えるに至るまでの流れが、形にならなくはないもののまるで力を持ち得ない。小松公典悪癖の台詞遊びに戯れてゐる尺があるならば、もつとドラマを分厚くする手数に割くべきではなかつたか。加へて、しつとり情感豊かな大人のメロドラマを、薄地どころか希薄な展開の中ひとまづ健気に志向する主役二人の健闘といふ名の負け戦も省みず、悦子&孝太と中澤夫妻の造形は、竹洞組良くも悪くも御馴染みの、ライトだか軽薄なもの。簡単に図式を整理すると、然程冷淡にも見えないサーモン鮭山を蚊帳の外に、勝手に思ひ詰めた横山みれいと牧村耕次の周囲では、残りの四人が何時も通りにスチャラカスチャラカ。となるとそもそもが、コメディ・リリーフが過半数を跨いでどうする、そんな逆の意味で画期的な布陣の映画観たことない。硬質な美貌と服の上からも男の目を釘づけにせずにはをれまい攻撃的な肢体、横山みれいの大金星を愉しまうにも、中途半端にシリアスな始終は裸映画にしては如何せん気取り過ぎ。助平爺さんがナイス・バディの美人でおまけにヅマヒトの家政婦に鼻の下を伸ばし、常識的あるいは現実的にはジジイこつち見んなとしかならないであらうところが、何故だか女もホイホイと体を開いて呉れる。そんな、師匠の小川欽也にはあまり覚えがないが関根和美や新田栄が得意とするのかもしくは臆面もなく撮り散らかす、ウハウハな一山幾ら作であつた方が、どれほどまだしも救はれたことか。一応切ないラスト・シーン、邦生が握り締める拳。それは本来、全方位的に肩透かされた我々のものだ。

 そんなエマニエル、もとい生煮える今作、枝葉中の枝葉ながら爆発的に可笑しかつたのが、冒頭の一夜明けロンドン・コーリングならぬサンデー・モーニング。みちるがぼちぼち家を出たところ、秋雄は前夜の予定を覆し、玄関先でゴルフ・クラブなんぞ振つてゐる。そのスイングの、完全に野球のバットと勘違ひしてゐるへべれけさには思はず激しく笑かされた。


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 「奴隷弁護士 乱れたエロスジ」(1997『女弁護士 陵<こます>辱』の2012年旧作改題版/製作:フィルムハウス/提供:Xces Film/監督:坂本太/脚本:有馬仟世/企画:稲山悌二《エクセス・フィルム》/プロデューサー:伍代俊介/撮影:創優和/照明:藤塚正行/助監督:羽生研司/監督助手:加藤義一・古川昌史/撮影助手:大塚雅信/照明助手:高橋理之/ヘアメイク:大塚春江/スチール:本田あきら/製作担当:真弓学/編集:金子尚樹《フィルムクラフト》/録音:シネキャビン/効果:東京スクリーンサービス/現像:東映化学/出演:飛鳥ひとみ・林由美香・葉月螢・杉本まこと・山本清彦・久須美欽一)。撮影の創優和が、各種資料には紀野正人、変名のカミングアウトに当たる。
 “私達弁護士は法の精神を遵守し”云々かんぬんと、何処かで耳目にした気もするが出典に辿り着けないコンプライアンスの能書モノローグを垂れつつ、ノシノシ街を闊歩する飛鳥ひとみのショットに続けて、女弁護士の青山貴子(飛鳥)と、同棲する恋人で主席検事である三上信一(杉本)との情事。飛鳥ひとみは確かに乳も太いが、劣るとも勝らず胴回りもまあ太い。兎も角そこに初めてのものではない、正体不明の久須美欽一から脅迫電話がかゝつて来たところでタイトル・イン。改めて開巻戦を完遂した上で、青山弁護士事務所。郵便物の中から摘み出した、こちらも継続するスクラップ式の怪文書を辟易しながら抽斗に放り込んだ貴子は、米田勲(山本)の訪問を受ける。勲の相談は、レイプされた恋人の弁護。さういふ案件は専門外であると固辞する貴子に勲は食下がり、なほも貴子が思ひ出せずにゐると素性を明かす。二年前、OLであつた勲の姉・織絵(林)は、上司・清水(久須美)に残業中のオフィスで強姦される。事件後弁護を担当した貴子の、容赦はおろか配慮の欠片もないいはゆるセカンドレイプに耐へかね、織絵は自殺してゐた。日傘を手に歩道橋から、織絵が放心状態で流れる車列を眺める。カット変りカメラも百八十度動くと、持ち主を失つた日傘が歩道橋の上に転がる。二つの画を通して、織絵が飛び降りた旨を伝へる手法は酌めるが、それならば無理も承知で贅沢をいへば、そこは車を止めておいて呉れると完璧であつた。勲に関する三上の危惧も噛ませて登場する葉月螢は、勲が金を無心する恋人・浜田智里。智里から金を受け取つた勲の前に、何と清水が現れる。清水は貴子に対する復讐のために、勲に雇はれてゐた。噴出するツッコミ処は強ひて押し殺し、一戦後シャワーを浴びに勲が席を外した隙に、智里を清水が急襲。勲から横流れた金と、憐れな生贄たる智里、英気を養つた清水は弁護士会の人間を偽り三上に接触、言葉巧みにでもなく三上家―青山家かも知れないけれど―に上がり込む事に成功。三上を秒殺で制圧した清水は、貴子の帰宅を待ち受ける。
 前年の「女弁護士 羞恥なぶり」(脚本:佐々木乃武良/主演:水沢えり/2003年に『美人弁護士 発情の悦び』と旧作改題/流石に今からそれを観るのはほぼ不可能か)、翌月の「女弁護士 犯す!」(脚本:佐々木乃武良/主演:葉多朋子/東映ビデオ製作によるVシネ)の間に挟まれた、坂本太の女弁護士三部作の第二弾。因みに、“女弁護士三部作”といふのは本当にたつたナウ思ひついた純然たる与太に過ぎないので、ゆめゆめ真に受けられぬよう。閑話休題、織絵のスーサイドに伴なひ親告罪が成立せず、臭い飯は食はずに済んだといふ次第なのか、それにしても勲が姉の片方の敵の清水を頼るだなどと、一体全体如何なる悪い冗談か―後にこの点については一応、甚だ通り難い苦しい方便が設けられはする―といふ以前に、そもそもの発端の織絵が清水に犯される件。時刻は午後八時だといふ割には、ガラス壁向かうの外光は燦燦と明るい。それとも何か、当時織絵と清水はヘルシンキ支店にでも勤務してゐたのか。鏤められた無造作さを仕上げるだか止めを刺すのは、清水に陵<こま>辱されながら、微動だにせず即座に勲を仲間に引き込み無体な逆襲に転じる、貴子の難攻不落な無敵設定。ある意味威勢はいいともいへるのか、幾ら何でもスティーブン・セガールでもあるまいし、それではドラマが成立しない。勿体ないくらゐに硬質な画作りの中、直截に目方から重量級の飛鳥ひとみの猪突猛進が後には何も残さず通り過ぎるのを、ポカーンと見送るばかり。飛鳥ひとみの強面と体型が心の琴線に触れて触れて仕方のない特殊な御仁にしかお薦めし難い一作ではあるものの、林由美香ファースト・カットの可憐さには、一撃で胸を撃ち抜かれる。


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 「SEXファイル むさぼり肉体潜入」(2012/製作:旦々舎/提供:オーピー映画/監督:浜野佐知/脚本:山邦紀/撮影:小山田勝治/撮影助手:宇野寛之/見習ひ:末松祐紀/照明:ガッツ/助監督:北川帯寛/応援:田中康文・岡輝男/編集:有馬潜/音楽:中空龍/タイトル:道川昭/出演:大城かえで・浅井千尋・佐倉萌・松井理子・平川直大・丘尚輝・なかみつせいじ・小林徹哉・新居あゆみ、他)。照明のガッツが、ポスターには守利賢一、変名のカミングアウトに当たる。出演者中、小林徹哉・新居あゆみ、他五十音順の計八人は本篇クレジットのみ。Thanks二者をロストする。
 エフェクトのかけ過ぎで何が映つてゐるのか初見では殆ど判らず、都合三回目の挿入で漸く把握出来たのだが、それはさて措き黒い鶏の着包み―着包み自体は案外可愛らしい―を着用した怪人物・チキンマンに陵辱されるイメージと、「また、あの夢・・・・」、悪夢から目覚めた主演女優とを手短に連ねタイトル・イン。
 旦々舎にしては相当久し振り、もしかすると今世紀初ではなからうかとも思はれるまさかのミサトスタジオ、タキシードに伊達なハットを決めた鳥骨鶏ライフ(以後UL)の代表・神尾忠則(なかみつ)が、大城かえでら会員の面々を出迎へる。ここで、出演者中本篇クレジットのみ勢は、後々含めUL会員要員。妙に服装の若い山邦紀も、結構ガッチリ見切れる。後述する前作よりも更にイントロダクション乃至は以後の説明も省略した、セックスするには免許証の所持が必要とされる社会。免許証が交付されるのは幾つからで、それ未満の者の“犯罪”を、一体如何に処罰するのか。神尾は悪法もまた法なりとはしつつも、鳥骨鶏の卵の頒布を通して、セックス免許制に反対する運動を展開することを表明する。因みに、何でまた鳥骨鶏なのかといふと、山邦紀の卵偏愛は恐らく浜野佐知の知つたことではないにせよ、「人妻の恥臭 ぬめる股ぐら」(脚本・監督:山邦紀/主演:大城かえで)で用意した鳥骨鶏を、さくらと名付け浜野佐知が飼つてゐるからである。洋行帰りで、日本の特殊政策に仰天しULへの参加を決めた、藤代文緒(大城)を神尾が一同に紹介し、UL上級会員の平田信幸(丘)は、文緒に丘尚輝(=岡輝男)一流なのだか二流なのだか兎も角劣情の透けて見える視線を注ぐ。ところが実は大城かえでは、一言も語られないので何の略なのか手も足も出ない、F・G(意外とファイティング・ガール?)と呼ばれるSEX捜査局若くして伝説の女捜査官で、相手の声は多分丘尚輝二役のスカイプ的な会議を経て、ULへの潜入捜査を図つてゐるものだつた。神尾は一人残した文緒を、エキゾチックな扮装の吉村美代(松井)が控へる祈祷室に誘(いざな)ひ、古代インカ帝国より伝はるとかいふ―無論レッドな嘘で、過去作で何度も見覚えのあるブツである―張形で挨拶代りに嬲る。チキンマンを繰り返し想起する文緒には、もうひとつ囚はれる記憶があつた。それは幼少時に姿を消した、義父の背中。ところで、終盤の解説がゴチャゴチャする徒な実父回避の不可解の所以は、これは近親相姦を禁ずる、オーピー・レイティングに抵触したといふことなのか?話を戻して後日、神尾から手渡された卵を手にホクホク顔のUL一般会員・黒川諒介(平川)は、工藤百合香(浅井)とぶつかつた弾みで大切な卵を落とし、割つてしまふ。慌てる黒川を、百合香は自宅に招く。一方、文緒は神尾から“セッション”と称して、平田との祈祷室での情事を持ちかけられる。それぞれ互ひの免許証を照合した上での、浅井千尋×平川直大+大城かえで×丘尚輝二つの絡みが併走する中、事前に食させられた秘伝の剥き卵の薬効なのか、異常に興奮した文緒は、最終的には前門の平田と後門の神尾に挟まれる、二穴責めのエクストリームをも受け容れる。事後訝しみ、指先から採取した血液の簡易検査で違法薬物の使用に辿り着いたF・Gに、スカイプ越しの声は他部局からの、別の潜入捜査官の存在の可能性を告げる。
 浜野佐知2012年第一作は、重層的に交錯するイデオロギーがダイナミックに火花を散らす、思想の魔性あるいは歴史の狡猾をも射程に捉へた大ロマン「SEX捜査局 くはへこみFILE」(2006/主演:北川明花)の、オーピーからの要望を受けての五年ぶりとなる待望の続篇、ではあつたのだが。謎のチキンマン、蒸発した父親、そして正体不明もう一人の潜入捜査官。娯楽映画一般的には必ずしも疑問手ではないとはいへ、不用意な機軸を下手に盛り込んだ結果、始終は旦々舎的には甚だらしくない着地点に、悪い意味で素直に落ち着いてしまつた。確かにそれなりの強度は有してゐる反面、F・Gが神尾をカッコよくパクるのが一件の落着だなどと、天下御免の浜野佐知ともあらう女傑が、あたかも御上の片棒を平板に担いで済ますやうな物語を捻りもなく撮り流してみせるのは大いに考へもの。一応オーラスには、少なくとも日本人の全てがせえのでニュー・タイプに覚醒する日をイマジンする遣り取りも設けられはするものの、お為ごかしなエクスキューズ感は清々しく否めない。寧ろ、「あたしのセックスはあたしのもの」と金剛力士の如き面相で豪語し、当然セックスの免許制には反対しながら、同時に仮に薬物で誑かした女を喰ひ物にしてゐるのであるならば、当然ULも許してはおけない。官憲に捜査協力するにもあくまで自身の筋を通す、百合子ならぬ百合香の雄々しい、もとい雌々しい姿こそが、矢張り浜野佐知映画のヒロインには相応しい。偽造免許証の行使で摘発され、消沈する黒川を百合香が力強く励ますカット。与へられた役どころを骨の髄から理解した平川直大の好演にも支へられ、安定感は抜群、実に素晴らしい。強いエモーションを秘めた眼差しは光るがここまで二戦作品には依然恵まれぬ大城かえでを抑へ、今作最も輝いてゐたのは浅井千尋とみるものである。

 配役残り、何故か喪服の佐倉萌は、自らの不倫といふ身から出た錆で離婚後免許を失効、ULを頼る松島加奈子。元夫の免許は継続してゐることを捕まへ、「女は夫以外の方と、恋も出来ないのでせうか!?」と利いた風な口を叩くが、現行憲法下逆のケースでは男の免許のみが失効し元妻のものは継続することが常識的には予想され得る以上、一言で片付ければ自堕落な女でもある。それはそれとして、三番手ベテラン女優の濡れ場をクライマックスの修羅場に文字通り直結させるのは、流石と唸らされる熟練の妙手。いかつい男前を活かす田中康文は、UL本部を警護する黒服、スタンガンに昏倒する小芝居が完璧。
 最後に、映画の中身とは欠片の関係もないが、“見習ひ”といふスタッフ・クレジットは地味に凄い。初めからその旨であつたのか、現場で余程役に立たなかつたのか。


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 「変態女課長 陵辱ぶち込む」(2012/製作:フリーク・アウト/提供:オーピー映画/監督:国沢☆実/脚本:岡輝男/撮影:佐久間栄一/音楽:因幡智明/助監督:桑島岳大/撮影助手:横田彰司・芳野智久/編集:有馬潜/効果:梅沢身知子/フィルム:報映産業/協力:劇団玉の湯/出演:樹林れもん・愛純彩・伊沢涼子・村田頼俊・三貝豪・八納隆弘・丸田光輝・荒木太郎・内藤忠司・丘尚輝・切通理作・佐倉萌・マイト和彦、他)。出演者中、丘尚輝(=岡輝男)以降は本篇クレジットのみ。監督助手その他拾ひ洩らす。協力の劇団玉の湯(石動三六主宰)が、ポスターには劇団五の湯に、これは惜しいといへるのか?商業映画のポスター表記を捕まへて、惜しいだの惜しくないだのと一体どういふ世界だ。
 廃屋に近い物置、扇情的な赤い安ドレスに身を包んだ馬面の主演女優が、ジャンキーの如く顔を汚した三貝豪に連れ込まれるのも通り越し放り込まれる。当然そのまま三貝豪は女を乱暴に犯し、フィニッシュは顔射で止(とど)めに放尿と正しく遣りたい放題。かと思ふと、それはレイプではなくビジネスであつたのか、これで顔を拭けと万札二枚を投げた三貝豪は、駄賃にブラジャーとパンティをくすね立ち去る。ボロボロの状態で街を彷徨ふ樹林れもんは、下着を奪はれたことに改めて思ひ至ると、自ら胸元を肌蹴露出遊戯を敢行、通行人の好奇ないしは蔑視を浴びる。佐倉萌を確認出来なかつたのは口惜しいが、マイト和彦、他も含め該当するカットが見当たらない為、配役不明のキャストは後々込みで街頭要員か。誰か親しい者に出くはした風情で、樹林れもんが頬を綻ばせるのに続けてタイトル・イン。
 常駐しない切通理作も見切れる、何処ぞの会社の企画宣伝課。面々は切通理作と遣り取りするオカベ(丘)から反時計回りに、吉本(八納)、高田(内藤)、そして愛純彩。出社しただけで一同を戦々恐々とさせる鬼課長の水沢沙紀(樹林)に、高田が新しい派遣社員である棚橋久美(愛純)を紹介する。アフター5、仕事の捌けぬ久美を残し、沙紀もブービーで退社。煙草を吸ひながらエロ小説を読んでゐた、外注警備員の黒江雄作(村田)が慌てて挨拶するも、沙紀は何時ものやうに一瞥も呉れない。昼間はバッリバリの職業婦人、夜はフリーランスの街娼。何処かで聞いたり本や映画化されたり、今将に司法の場では卓袱台がブッ飛びエラいことになつてゐたりもする事件の、被害者を脊髄反射で想起させる造形の沙紀は、この日も赤の安ドレスで街に立つ。一人捕へ損ねた沙紀に、デリヘル嬢のタバサ(伊沢)がショバを荒らされたことに対する、それは筋が通るのか通らないのかよく判らない因縁をつける。後日、相変らずモタモタ仕事する久美を残し沙紀は退社。そこに、大胆なのか単に底抜けの粗忽者であるのか、黒江から社内に呼ばれたタバサが現れ、何時ぞやとはまるで装ひの異なれど、沙紀に目を留める。
 丸田光輝は、国沢実を逃した直後に捕獲される、夜の沙紀の客。ともに細身で長身の国沢実と丸田光輝の背格好が激しく似通つてゐる為、正直混同が否めなくもないキャスティングは考へもの。開巻と同じ物置にて丸田光輝と一戦終へた沙紀を、タバサ経由で辿り着いた黒江が、日々のルサンチマンと劣情とを滾らせビデオカメラ片手に襲撃、最終的には企画宣伝課に雪崩れ込む。この期に、久美が残つてゐることも知らずに。最後に登場する荒木太郎は、フィジカルにも傷だらけの状態で山中を放浪する沙紀と久美が出会ふ、首吊り男・細川、所持金八十八円也。
 2012年第一作は、国沢実のメガホンが久々に快音を放つ評判作。言葉を選ばぬと、樹林れもんの長大な面相は常識的にはピンク映画のヒロインとしては概ね議論も俟たずNGとならうところが、適度に熟れ絶妙に崩れたプロポーションと併せると、役柄にもジャスト・フィットした何ともいへぬリアルさを醸し出す。企画宣伝課で警備員に陵辱をぶち込まれる変態女課長を、眼鏡をキャスト・オフするや生粋のサディストぶりと思はぬ戦闘力も披露する久美が暴力的に救済。エクストリームな3Pに突入するまでの展開は、村田頼俊の芝居と体躯の弛みにさへ目を瞑れば腰から下に対する実用性を遺憾なく発揮する、適度に映画的な本格派のエロ映画として、国沢実にしてはかつて見た覚えのないほどの充実を見せる。久美が支配する巴戦、胴体には縄をかけられ、両手は頭の後ろで結ばれた沙紀が、全身を拘束された黒江に跨がされた状態での、樹林れもん狂乱の腰使ひは圧巻。歴戦のエクセス勢をも圧倒し得よう、予想外の国沢実の辣腕には大いに驚かされる。更に、今回の国沢実は一味どころか二味も三味も違ふのは、映画がここで満足しない。久美に駆逐される形で邪魔臭い黒江は御役御免とばかりに退場、そこから下手に社会派に振れることもなく、沙紀と久美、傷者二人の物語に華麗に移行する大転化が凄まじく素晴らしい。何れが凸で何れが凹か、ともあれMの沙紀とSの久美。一旦は目出度く安定したかに見えた束の間の幸福からも、仕方なく零れ落ちて行く沙紀の姿には国沢実持ち前のナイーブさが場面に分厚さを与へ、一方、沙紀の不幸自慢を相手にせず突き放す久美の苛立ちには、らしからぬソリッドが火を噴く。最終盤の出し抜けなロードムービーは、尺の満了にも阻まれ消化不足に終つた感も残さぬではないにせよ、国沢実の地力の総量をあまり期待しないとするならば、残した心を余裕と捉へれば寧ろこれはこれで、ちやうどよい頃合であつたものやも知れない。ヒッチハイク・ピンクは当たる、もしや森山茂雄と国沢実がピンク映画の新たなる潮流を創出したのか、2010年代はマッタリし続けた国沢実が久方振りに息を吹き返す、前半のピンクと後半の映画、両面見事形にしてみせたスマッシュ・ヒットである。


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 「濡れた人妻秘書 肉体妄想」(2001『人妻社長秘書 バイブで濡れる』の2012年旧作改題版/製作・配給:新東宝映画/監督:渡邊元嗣/脚本:波路遥/企画:福俵満/撮影:飯岡聖英/照明:小川満/編集:酒井正次/助監督:加藤義一/監督助手:城定秀夫/撮影助手:清水慎司/照明助手:堀直之・石井拓也/スチール:佐藤初太郎/録音:シネキャビン/現像:東映化学/出演:時任歩・水原かなえ・ささきまこと・十日市秀悦・熊谷孝文・林由美香)。
 朝の藤原家、先に起きた夫の秀樹(ささき)が朝食の支度も済ませ、妻・茜(時任)をいよいよ起こさうかと布団を剥いでみると、茜の右手はパンティの中に突つ込まれてゐた。秀樹が苦く想起する、妻の求めに応じ“られ”なかつた昨晩が、挨拶代りの裸見せ。ところで、寝てゐる間に入れ替つたのだといふならばそれまでだが、夜と朝とで、茜と秀樹の寝位置が左右逆ではある。満足に勃たない以前に、秀樹はリストラされ、社長秘書の職に就く茜の収入が家計を支へてゐた。さういふ全方位的に微妙な空気の中、茜が家を出たところでタイトル・イン。
 気を取り直して颯爽と出勤する茜に、同じ会社に勤務する浜崎須美(水原)が合流。続けて飛び込んで来た矢張り同僚の平良欽一(熊谷)は、天下の往来だらうと社内であらうと、あらうことか須美の尻を撫で走り去る。常識的に憤慨する茜に対し、須美は社長以下会社ではセクハラは茶飯事だと意にも介さずたしなめる。そんなこんなで、株式会社源商事に、当のエロ社長・源英磨(十日市)が賑々しく出社。ここでオフィスに見切れるのは、手前の須美と平良対面の青シャツが城定秀夫、奥左隅に加藤義一。加藤義一右隣のもう一人は不明、少なくとも福俵満ではない。社長室、肩に手を乗せられた茜は、指先を褒める源の「セクスィーだねえ」といふ下卑た一言の、エコーもかませた四度のリフレインの末に、源から本格的に手篭めにされる白日夢を軽く見る。ぼんやりする茜の胸を後ろから鷲掴みにした源は、当然驚く茜の右手を自らの股間に導き、男にかうされたら、かう応へるのがわが社の礼儀だと豪語。浜野佐知が、アップを始めた模様。公園でションボリくたびれる茜の前に、ピンクのパラソルをクルクルとはためかせながら濃い色のチャイナドレス姿の林由美香が、ロケーションにそぐはぬ素頓狂な扮装には反し林由美香天性の可愛らしさで意外と爽やかに登場。“福俵満子”とだけ書かれた名刺を差し出し、下の名前を「まんk・・・」と読みかけた茜を、「みつこです」とピシャリと遮る。茜の欲求不満を看破した満子は、この世界を濃密な官能で満たすためにやつて参りましたの、だなどと結構な大風呂敷をスマートに拡げると、弁当箱大の布包みを茜に手渡す。その場で開けようとした茜を制し、中身を決して他人に見られてはならないと釘を刺す。
 女優林由美香を最も愛し、由美香もその現場を最も愛した―かも知れない―渡邊元嗣2001年第二作は、正体不明神出鬼没の謎のセールスレディが、隙間風の吹く夫婦を双方向から攻略、目出度く人肌のハッピー・エンドに落とし込む。我等がナベ―業界的には大ナベ―十八番の、キュートな人情ファンタジー。明確にシリーズ化も匂はせる幕の引き方をしておいて、残念ながら結局続篇が製作されずじまひのところをみると、当時としては会社的にも水準的な出来栄え、といふ評価に止まつたのか、m@stervision大哥の御評価も辛い。けれども、天使が天国に還つてしまつて地上時間で七年の歳月が経過した今、久し振りに触れた今作は、ひとへにとまれ何はなくとも、改めて林由美香が懐かしくて可愛らしくて仕方がない。満月に満子の間延びした笑顔がオーバーラップする、間抜けなラスト・ショットまで含めもう狂ほしいほどに愛ほしくて愛ほしくて仕方がない。ガタガタいはずに由美香に身悶えろ、文句をいふ外道は地獄に堕ちろ、さうとでもしかいひやうのない、最早言葉も失はせる一作。林由美香のエンジェル・ボイスが、薄汚れ疲れた下劣な品性も、少しは洗つて呉れようといふものだ。
 さうはいひつつ野暮を一吹き、エロ本を排しAVを排し性具を排しイマジンすら排し、生身の人間同士の結びつきを称揚する満子の健気なエモーションは、濡れ場に直結する方便としても実に素晴らしい。とはいへ、さうなると最終的にはピンク映画も立つ瀬がなくなつて来る点に関しては、気付かないふりで遣り過ごしてしまへ。

 「人妻美人秘書 主人を忘れて」と改題された、2004年次新版を観てゐた可能性も大いにあるが、「ベッドの上でガオー!」。愛人が二十八人―以上―居ることを誇る源が歌ふ鉄人ならぬ愛人28号の替歌を、歌ひ出す前から覚えてゐたことには我ながら呆れ気味に驚いた。冷静に考へると、こちらが“ガオー!”ならば兎も角、女にガオー!と吠えられても困るやうな気もしないではないのだが。リアルタイムでは、あの頃のナベシネマの温さの象徴と目されかねなかつたのかも知れない十日市秀悦は、個人的には次作の「美咲レイラ 巨乳FUCK」(脚本:山崎浩治/主演:美咲レイラ)や、「美人姉妹の愛液」(2002/脚本:山崎浩治/主演:美波輝海/二作とも林由美香共演)で撃ち抜いた不器用な純情が印象深く、決して嫌ひではないどころか、地味に好きな役者である。完全に話を明後日に飛ばすと、同様のポジションが関根―和美―組では、町田政則に相当する。
 最後に、セールスレディ・福俵満子シリーズの続篇が製作されなかつた最終的な所以は、翌年以降、渡邊元嗣が活動の場をオーピーに固定した点が決定的に影響したのか。


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 「ザ・高級売春 地獄の貴婦人」(1990/制作:メディア・トップ/配給:新東宝映画/脚本・監督:片岡修二/撮影:下元哲/照明:佐久間優/編集:酒井正次/助監督:松村とおる・水野智之・川崎季如/撮影助手:古谷巧/照明助手:池田光/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:栗原早記・加納妖子・深田ミキ・佐野和宏・爆発村とおる・池島ゆたか・下元史朗)。を、日本ビデオ販売から発売されたVHSタイトル「ザ・女狐 地獄の貴婦人」で。
 栗原早記が、自らが娼婦となつた経緯を振り返る。元々堅気のOLであつた栗原早記は、処女も捧げた上司の佐野和宏と不倫関係に堕ちる。佐野和宏は栗原早記を肉体的にも精神的にも、そして経済的にも満たすことを望み、その結果、会社の金五千万を使ひ込む。栗原早記はその金を返すためにOLを辞め、娼婦となつたものだつた。在り来りな理由、男と金と栗原早記がプロローグを締め括つたところでタイトル・イン。
 タイトル明けると栗原早記のホテトル面接風景、栗原早記に店長の下元史朗が対峙し、後方のソファーには初め深田ミキが一人座り、ほどなく加納妖子も加はる。ここで“地獄の貴婦人”なる大仰な文言が、単なるホテトルの店名に過ぎない点には正直度肝に近く拍子を抜かれる。客からの電話が入り出撃した爆乳自慢の深田ミキと、イメージ風に挿入される爆発村とおる(=松村とおる=松村透=爆発村とをる)との濡れ場を経て、アメリカ大統領の名前を尋ねるところから始まり、主に国際情勢の基礎用語に関する質問責めに終始する、腹立たしく説教臭い池島ゆたか相手の栗原早記ホテトル初陣。池島ゆたかの鬱陶しい能書の締めが、「チェルノブイリに比べれば幸せなんだよ、日本は」。何時の間にか栗原早記が売れつ子になる中、茶を挽く加納妖子を下元史朗が抱く一幕噛ませて、客の下に出向いた栗原早記は、取引先から噂を聞きつけた佐野和宏と対面する。ホテトルをホテルに呼んでおいて、寝るでなくあゝだかうだと煮え切らぬ佐野和宏に対し、栗原早記は「私は娼婦よ!」と一喝。幾ら丸腰の役どころともいへ、佐野和宏を圧倒し得る栗原早記の思はぬ決定力には驚かされた。
 七月の名作特選(緊縛特集)から、企画としては兎も角枠的には一定の形で固定されたのか、二週前の「谷ナオミ しびれる」(昭和53/監督:姿良三《=小川欽也》/脚本:神田明夫/主演:谷ナオミ)に続く十月二本目の新東宝クラシック・ピンク枠―仮称、日本ビデオ販売リリース枠と称した方が、より適当であるのかも知れない―は、公開題が闇雲な片岡修二1990第三作。ただでさへ短い尺が更に深田ミキと加納妖子の裸にも削られ、推移自体は流れの中で上手く誤魔化された感もなくはないが、初め自らを―娼婦に―“なつてはいけない女”だとすら考へてゐた栗原早記が最終的には娼婦としてのアイデンティティに辿り着く展開は、そこだけ掻い摘むと俄には呑み込み難く思へるのかも知れないが、栗原早記の侮れない地力にも支へられた、ドラマの仕上がりは頑丈に見応へがある。深田ミキの寿引退と、送りついでに下元史朗が栗原早記宅に一泊する一夜を挿んで、ラストは下元史朗の送迎車。首を縦に振るのか横に振るのか、二者択一をいよいよ迫られる土壇場中の土壇場に客からの自動車電話が鳴る、緊張感迸るカットには震へた。栗原早記と下元史朗の色気の真向勝負が甘さよりは苦さを残す、ソリッドな大人の恋愛映画。粒は然程大きくはないものの、いゝものを観させて貰つた。量産型娯楽映画の大樹の、幹なり根を成しはしないにせよ、枝先を鮮やかに飾る一輪の花にも似た佳品である。

 さうはいへ、クレジット後のオーラスに“我が愛しの娼婦たちへ・・・・・”と字幕を打つ、打つてしまふのは清水大敬病とまではいはないが、流石にクサいといふ誹りは免れ得まい。


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 「就活女子 下劣な色気尻」(1993『女子大生 スカートの下をゑぐれ!』の2012年旧作改題版/製作:新映企画株式会社/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:亀井よし子/企画:伊能竜/撮影:千葉幸男/照明:渡波洋行/編集:酒井正次/助監督:広瀬寛巳/音楽:レインボーサウンド/監督助手:三木修/効果:時田グループ/出演:豊田みづほ・夏みかん・桜井あつみ・岡竜太郎・杉本まこと・石神一)。企画の伊能竜は、向井寛の変名。撮影部セカンドをロストする。
 「城南女子大学」風情から推し量るに四年生か三年生の中山幸子(豊田)と田辺美香(夏)は、二人で「ファッション同好会」を結成。“どのやうな服装が男にSEXアピールを与へるのか”を底の抜けた会のテーマに設定し、今日もへべれけなボディコンに身を包み―きれてないが―街を闊歩する。お巡りさんに見咎められても文句はいへまい二人に、アパレルメーカーのオンもとい「インワールド」社員・吉本洋司(石神)が、下心と混濁した興味を持ち接触する。雑な繋ぎで幸子宅にて、彼氏・竹内達也(岡)との初戦にしてはバランスを失し長々とした一戦。ここで横道に逸れると、若気ならぬ時代の至りと片付けてしまへばそれまででもあるものの、まあ達也の眼鏡がデケえことデケえこと。顔の半分はあるぞ、今ではそんなフレーム、探しても売つてないよ。幸子は達也の姉と同じ、ファッション・デザイナーの職に素朴な憧れを抱くも、達也は複雑な心境を窺はせる。その頃竹内家では、当の達也と二人暮らしの姉・マリ(桜井)と、劇中世間の狭さも爆裂させ吉本の上司で課長の坂上守(杉本)との、矢張り全体の構成などスッ飛ばし延々とした作中第二戦。達也が幸子に対し奥歯に物を挟む所以は、マリがインワールド専属デザイナーの肩書と引き換へに、坂上愛人の座に納まつてゐたからであつた。ところで、ビリングは三番目ながら桜井あつみの完成されたプロポーションはあまりにも素晴らしく、自身に興味を失ひつつある坂上の心を何とか繋ぎ止めようとマリが焦るといふ設定は、観てゐる素直な気持ちとしては些かならず呑み込み辛い。坂上在宅中を示す赤いリボンの巻かれたドアノブの前で、帰宅した達也は憤懣やるかたない様子で仕方なく時間を潰す、何処かに行けばいいのに。幸子と美香はインワールドに招かれ、坂上と吉本の見守る中、自作のボディコンと適当なダンスとを披露する。下賤に品定めした坂上と吉本は、どうかしてゐやがるやうにしか思へないが、何故か豊田みづほではなく夏みかんをロック・オン。幸子は帰し、美香をホテルに連れ込む。仕方がないではないか、男には負けると判つてゐても戦はなくてはならない時があるやうに、ピンク映画には、面相が悪い冗談の―実質―三番手の濡れ場でも、必要な時もあるのだ。といふか、初期設定で殆ど常に必須なので、出来れば三人目にもせめて十人並を揃へて貰へると、観客席サイドとしても心の底から助かる。
 劇映画としての十全な体裁は軽快にかなぐり捨て、見応へのある豊田みづほと桜井あつみの裸に果てしのない長尺を堂々と費やす時点で趣向の明確な、女の裸を銀幕に載せるに最小限スレスレの物語で六十分を自堕落に切り抜ける、裸映画的には全く麗しいと同時に、別の意味でスリリングな新田栄1993年第三作。とはいへ、美香に続いて幸子も悪い大人に喰はれかけ、たところにマリが乱暴に飛び込んで来る。中盤の粗雑な修羅場を軸に、珍しくといふか器用にもとでもいふべきなのか、兎も角展開の首が初めて据わる。そこから、虚飾に屈しぬ主人公が夢見る少女ぢやゐられない夢物語、といふアプローチも予想させなくはなかつたが、もう一つ別な形での、それなりの着地点に落とし込む終盤は案外良心的。尤も、二箇所奇異に思へたのが、美香が一対二で坂上と吉本を向かうに回す巴戦、の締め。二人揃つてエッサカホイサカ挿入運動から、微妙なジャンプ・カットで体外射精に移行するのは、一々気にする方が大人気ないとも我ながら思へなくはないが、主人公の声がベテラン女優―仲山みゆき?―のアテレコである点には通り過ぎ難い。豊田みづほが容姿も肢体もともに綺麗に若々しいだけに、不必要に落ち着いた口跡との間にどうにも感じさせる違和感は、全篇の充実度を決して地味にではなく後退させよう。小沢仁志を数万倍希釈したかのやうな、岡竜太郎(丘尚輝=岡輝男とは別人)もヒロインの相手方を務めさせるには非感動的に魅力を欠く。即ち、主役二人に開いた穴が惜しいといへば惜しい、もう少し満更でなくともおかしくはなかつた一作である。

 それにしても主演女優―夏みかんかも知れないが―の尻を捕まへて“下劣な”だなどと、まこと下品な新題ではある。そもそも、元題から元題か。


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 哀しい気分のジョークにもならない製作本数の僅少に素直に連動してか、薔薇族除くピンク全作を例年よりも随分早からう、十月第二週には踏破してあつたにも関らず、結局何やかにやとモタモタ手をこまねいてゐやがる内に、結局代り映えしないタイミングでの2011年ピンク映画の私選ベスト・テンとワースト・スリー、裏ランキングその他与太である。如何ともし難い公開ラグに関してはこの際胡坐をかいてしまふと、これでも幾分は早い方である。だ、か、ら、管理人が人並にしつかりしてゐれば、更にもう少しは早くなつたのだが。相変らず粗相ばかり仕出かしては、稀に頂くコメに何故か恐々とする大間抜け管理人のどうでもいい近況としては、ある意味我ながら実に俺らしいが、二十年来の親友から以外には特段の反響も別に無いままに、感想実質千本もそれなりに順調に通過。目下新田栄の感想百本ことハンドレッド・新田栄を当面の目標に、行けるところまで既に一杯一杯のアクセルを、依然踏み続けてゐるものである。壁が越える為にあるものだとするならば、底なんてものは、抜く為にあるんだぜ。

 今年もそんな塩梅でうつらうつらと、11年(昭和換算:79-7年)ピンク映画ベスト・テン

 第一位「あぶない美乳 悩殺ヒッチハイク」(オーピー/監督:森山茂雄)
 完全に他作を圧倒してゐるやうにしか思へないのだが、世評の高い風情も特に窺へないのは、例によつての小生のバッド・チューニングか。この期に及ばずとも、そんなもの一向に一切構はないが。
 第二位「母娘《秘》痴情 快感メロメロ」(オーピー/監督:渡邊元嗣)
 異形の月が鮮烈なヴィジュアル・ショックを叩き込む並行世界を舞台に、母娘が“再び手に入れる大切なもの”に辿り着くエモーショナルなナベシネマ・オブ・ナベシネマ。伝説のグラマラスクイーン・美咲レイラが、凡そ十年ぶりとなる電撃ピンク復帰を果たすトピックも重要。
 第三位「囚はれの淫獣」(オーピー/脚本・監督:友松直之)
 徒か戯れに醸される物議の陰から撃ち抜かれる、孤独なオタク青年の、誰からも理解されぬエモーション。現し世は夢であり、夜ならぬ小屋の暗がりの中の夢こそ誠。俺は思ふ、これこそが映画だ。
 第四位「女真剣師 色仕掛け乱れ指」(オーピー/脚本・監督:田中康文)
 四年ぶりに本篇に返り咲いた田中康文が、なほも余力を残す鉄板娯楽将棋ピンク。池島ゆたかのドス黒い貫禄は出色。
 第五位「極楽銭湯 巨乳湯もみ」(オーピー/監督:加藤義一)
 マトモな脚本家と組むと矢張り加藤義一は強い。タイトル明けの銭湯ラップに際しては結構本格的なミュージック・クリップを披露、何気に度肝を抜く。
 第六位「人妻旅行 しつとり乱れ貝」(オーピー/監督:渡邊元嗣)
 筆の根も乾かぬ内に何だが、総合的には目下ナベ最強論未だ揺るがず。ナベ・ゴールデン・エイジ第二章の到来に、一体何時まで気付かないつもりか。
 第七位「トリプル不倫 濡れざかり」(オーピー/脚本・監督:関根和美)
 伊豆映画をイイ話に捻じ込む老練の力技に感服。
 第八位「艶剣客2 くノ一色洗脳」(新東宝/監督:藤原健一)
 稲葉凌一が一作目と同じ悪の黒幕役で、兄貴と称して出て来たのには拍手喝采。主役二人の息も合ひ、「くの一媚薬責め」よりは明らかに面白く、思へたのは気の所為か   >何故自信がない
 第九位「白昼の人妻 犯られる巨乳」(オーピー/監督:竹洞哲也)
 レス・ザン・ドンパチをソリッドなショットで乗り切るピンク・ノワール、日本語で話せ。
 第十位「愛人OLゑぐり折檻」(オーピー/制作・出演・音楽・脚本・監督:清水大敬)
 明後日には兎も角正方向の映画的評価はさて措き、ひとまづ藤崎クロエを嬲り尽くしてみせたエクストリームは圧巻にして天晴。

 と、一段落したところで・・・・うわあ、田中康文が四年ぶりならこちらは三年ぶり、ピシャリと決まるサゲの一言が見事な「となりの人妻 熟れた匂ひ」(オーピー/脚本・監督:後藤大輔)を忘れてた!慌てて次点。後藤大輔が清水大敬より下だとか頭おかしいんぢやねえのか?うつらうつらどころか完全に寝言だろがよ(;´Д`)

 簡略に個別部門、新人賞以外の全部門を森山組が舐めて別に問題もないのだが、撮影賞を飯岡聖英、音楽賞を與語一平が同時受賞。新人賞は管野しずかの一択。帰還賞が、俳優部では十三年ぶりの羽田勝博、では勿論なく、華麗なる大復活を遂げた美咲レイラ。演出部での後藤大輔と田中康文の激突は、田中康文に軍配が上がる。今後の展望としては、エクセスからの越境も望めないものか。

 幸いにも凶悪な破壊力には欠いたワースト・スリーは

 第一位「いんび快楽園 感じて」(オーピー/監督:池島ゆたか)
 蛮勇を拗らせ敢てワースト・ワン。現し世と夜の夢とを秤にかけ、現し世を選び取るやうな物語には、駄々にも似た激しいアレルギーを仕方なく覚えるものである。
 第二位「女囚701号 さそり外伝」(新東宝/監督・脚本:藤原健一)
 漆黒の闇に沈む画面、“外伝”と称してフォーマットから半歩たりとも踏み出ではしない展開、何故かモッサリモッサリしたさそりルック。チャーム・ポイントを探すのにも苦労する一作。
 第三位「淑女の裏顔 暴かれた恥唇」(オーピー/監督・出演:荒木太郎)、か「人妻OL セクハラ裏現場」(オーピー/監督・脚本・出演:荒木太郎)
 どちらでもいい、昔は積極的なアンチであつたが、最早昨今の荒木太郎には殊更に叩く気も失せて来た。

 我慢しきれずワースト次点は「夏の愛人 おいしい男の作り方」(Xces/監督・脚本:工藤雅典)
 呪はれたヒロイン・星野あかり主演で満足な映画を撮れる猛者は居らぬのか。



 裏一位は二年続けてこの人、「性犯罪捜査Ⅲ 秘芯を濡らす牙」(オーピー/脚本・監督:関根和美)
 過積載のツッコミ処、へべれけ極まりない一部始終、そして火を噴く大排泄、紛ふことなきシリーズ最珍作。キャンプな楽しみはもう満腹なので、Ⅳがあれば正方向の面白さをキボンヌ。
 裏二位は「若妻と熟女妻 絶頂のあへぎ声」(オーピー/監督:小川欽也)
 現代ピンクの極北・小川欽也の伊豆映画に対抗し得るピンク映画界のアルティメット・ウェポンといへば、最早新田栄の温泉映画しか残されてはゐないやうな気がするのだが。切札中の切札・城定秀夫の新作もいいけれど、ヨロシク頼むよ、エクセス!
 裏三位は「奴隷飼育 変態しやぶり牝」(オーピー/脚本・監督:山邦紀)
 「ユニバーサル・ソルジャー リジェネレーション」(2009/米/監督・編集:ジョン・ハイアムズ/撮影監督:ピーター・ハイアムズ/出演:ジャン=クロード・ヴァン・ダム、ドルフ・ラングレン、他)をピンクに翻案してみせた、偉業は確かに買へもするものの。


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 「三十路妻 濃蜜な夜のご奉仕」(2012/製作:関根プロダクション/提供:オーピー映画/脚本・監督:関根和美/撮影:下元哲/照明:代田橋男/助監督:金沢勇大/編集:有馬潜/監督助手:小鷹裕/撮影助手:榎本靖/照明助手:大前明/選曲:山田案山子/効果:東京スクリーンサービス/出演:白華ユリ・水沢真樹・片瀬由奈・甲斐太郎・泉正太郎・亜希いずみ・なかみつせいじ)。出演者中、亜希いずみは本篇クレジットのみ。
 天地大作(なかみつ)が床の中で本を読んでゐると、「貴方ァ、ジャ~ン!」といふ底の抜けた嬌声とともに、妻の典子(白華)がブレザーの女子高生制服姿を披露し旦那を悩殺、したつもり。四十路手前の女―劇中設定で三十八歳、白華ユリの実年齢は知らん―の無茶振り以前に、何でまた今回のNSP―ニュー・関根和美・ピンクの意―の主演女優は、日本語が片言なんだ。無論、まづ間違ひなく白華ユリが外国人といふ訳ではなく、単に口跡が覚束ないだけである。ルックスは明らかに古臭いとはいへ確かに美人ではある―然し静止画と動画とで正反対の別人に見える、写真になると、どうしてか険がある―ものの、新田栄が沈黙するだか強ひられる昨今、かういふ女優?を堂々とビリングの頭に据ゑる豪気な御仁も、最早関根和美くらゐしか残されてゐないのではなからうか。今生御大小川欽也は、素直に若い娘が好きなのか、高目に浮いた無茶は滅多に仕出かさない。閑話休題、結婚二十年を迎へ、直截にいふと大作が典子に飽きた現状を打開する為に、カンフル剤なのかそれとも単なる趣味なのか、兎も角コスプレは典子から持ち出した機軸であつた。それに止まらず、今宵のブレザーには、更に特別な意味が。二十年前、大学受験生である典子の家庭教師を、七つ年上で、当時三浪+大学四年生の大作が務めた。その時の一度の過ちが、見事多分一人息子の健作(後程登場する)に命中、現在に至るといふ寸法である。ところで回想パートに際し典子はブレザーとして、それでは大作の扮装はといふと、角帽×瓶底メガネ×詰襟。クリシェにしても誰も使はなくなつた期限切れの遺物を、グルッと一周した飛び道具に転化する荒業も、関根和美ならではといへよう。今も御存命であつたとて、大御大小林悟でさへここまではやるまい、いや、やるのかな?
 許されると許されざるとのラインが俄におぼろげとなりかねないので気を取り直して先に進むと、ともあれ最初の絡みとなる夫婦生活がひとまづ十全に完結したタイミングをまるで見計らふかのやうに、叉ぞろ夫婦喧嘩の末に家を飛び出したのか追ひ出されたのだか、大作父親の勇作(甲斐)が天地家―の寝室―に闖入、大作は驚き典子は悲鳴を上げる。過去に、勇作のセクハラが原因でノイローゼになつたことのある典子は頑として首を横に振る一方で、裏山がソーラー発電会社に売れた―関根和美なりに、時流を酌んでみせたか―とやらで一億の遺産をちらつかせられると、大作は父親の逗留を認めてしまふ。そんなこんなで、尻を触り風呂は覗く、翌日の勇作が破廉恥に羽目を外す件はロケーションから同一であることもあり、「四十路の奥さん ~痴漢に濡れて~」(2006/脚本:関根和美・水上晃太/主演:三上夕希・牧村耕次)を激しく想起させる。カッコよくいへばセルフ・リメイクか、無論違ふが。その夜、完全に臍を曲げるのも通り越した典子の機嫌を大作は修復するべく、随時顔を挿む、天地家出入りのジョイトイ訪問販売員―何だそれ(´・ω・`)―横山水穂(水沢)から下心も込みで購入したイボイボ君コンドームを駆使しての、劇中二度目、連夜の夫婦生活。未知の、そして強烈な快楽に典子が満ち足りたのも文字通りの束の間。ここは正直シークエンスが甚だ雑なのだが、フと隣に顔をやると勇作がニヤニヤ笑ひで添ひ寝してゐることに仰天、逆に典子が終に家を飛び出す。
 関根組三戦目の新常連・泉正太郎が、両親とは同居してゐない健作。泉正太郎と一緒に登場して一緒に捌ける片瀬由奈は、典子の不在も知らず、健作が実家に連れて来た婚約者・志田綾乃。恐ろしいことに、何とこの人の台詞回しもへべれけ。白華ユリと同様、容姿には難がないことを寧ろ喜ぶべきなのか。後述するが要は全員濡れ場要員に過ぎない三本柱の中で、結果的にといふか相対的にといふか、水沢真樹が貫禄の大女優にすら見える。実際に、35mmカメラに捉へられることに、長足で慣れて来た風情は大いに窺へるのだが。
 この期に及んで案外元気な関根和美の2012年第一作は、一旦姿を消したヒロインが出戻るまで完全に退場したまま本当に一切何もしない点が無言で雄弁に物語るが如く、女の裸が売りのピンク映画にありながら、あくまで主眼はボケ役の甲斐太郎の老獪にツッコミ役のなかみつせいじが時に軽妙に時にフルスイングで絡む、そこかしこで抱腹の父子コント。共に歴戦の大ベテラン故、息を合はせる程度は朝飯前ともいへ、丸顔の二人を並べてみると、絶妙に本物の親子に見える。当初は―勇作役は―牧村耕次ではないのか、と思へなくもなかつた反面、単なる結果論に過ぎないのかも知れないが、これは見事な配役の妙ではないか。基本面白可笑しく、当然所々で適宜助平に、そして次第にしみじみ染ませる父子劇は、やがて電話越しの声のみ聞かせる大作母親(亜希)の繰り出す大概な力技で、イイ話に、硬軟は微妙ではあれど何れにせよ、無事な着地を果たす。ホロッとしかけたところで、お芝居のフリーダムな主演女優が改めて卓袱台を引つ繰り返すほどのことはなく散らかしてみせる辺りは、照れ隠しとでも曲解してしまへ。大前提としてツッコミ処は満載の上で、笑ひあり情もあり、色気に関しては意外と地味に手堅い。そして正しく仕上げに愛妻・亜希いずみも飛び込んで来るとあつては、関根和美の当たりが観られたと、穏やかに幸福な気持ちになれる一作である。

 因みに、見切れることならば以降もありつつ、亜希いずみの名前がクレジットに載るのは、実に「どスケベ坊主 美姉妹いただきます」(2005/脚本:関根和美・宮崎剛/主演:朝丘まりん・城春樹)以来となる、思ひのほか久し振りだ。


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 「熟女売ります」(1991『熟女マントル 欲望放出』の2012年旧作改題版/企画:サン企画/製作:Gプロダクション/配給:新東宝映画/監督:市村譲/脚本:夢野春雄/撮影:立花次郎/撮影助手:余郷勇治/照明:隅田浩行/編集:井上和夫/助監督:國沢実/スチール: 最上義昌/録音:銀座サウンド/音楽:東京スクリーンサービス/効果:サウンドBOX/現像:東映化学㈱/出演:中川みず穂・稲村竜・織本かおり・井上真愉美・風間ひとみ・島村謙二・野澤明弘・久須美欽一・麻生勍司)。さあて諸々あるぞ、照明の隅田浩行と、出演者中井上真愉美と島村謙二・野澤明弘に麻生勍司が、ポスターでは順に隅田知行・井上真愉見・島村譲二・野沢明弘・麻生勅司、何でさうなるのか。
 娘・アカネ(子役は登場しない)の教育方針を巡り夫婦喧嘩する、稲村竜と井上真愉美の声に続けて新宿。随分と日も高く見えるがアフター5に一杯やるかとしたサラリーマンの亀山(稲村)と同僚(麻生)は、それぞれその旨連絡を入れるため電話ボックスを探す。プリントの綺麗さに忘れかねないものの、時代を感じさせる光景ではある。さうしたところ、妻・キョウコ(井上)から出し抜けに実家に帰る、かも知れない最後―の半歩手前―通告を受け、麻生君(仮名)も女の下へ向かふといふので軽く途方に暮れた亀山は、“120パーセントの女”なるピンクチラシの惹句に釣られマントル―マンション・トルコの略―「エンゼル」に電話をかけてみる。ビリング推定で、猛烈に紛らはしいが織本かおるとはあくまで別人の織本かおりが、「エンゼル」のママ。後に亀山が後輩の加藤(野澤)に語つた弁によると、雇はれママといふことなのか人妻で、配偶者は長距離を走るトラック運転手。亀山に特にこれといつた希望はなく、ママに見繕はれたアケミ(中川)が、愛車のレモンイエローのベンツ280Sで亀山の前に現れる。勿論、アケミがママから連絡を受けるのは自動車電話。料金は二時間三万四千円、その癖、車で五分といふアケミのマンションに到着する頃には、真つ暗に日が暮れてゐたりする無頓着さが清々しい。ともあれ亀山はアケミと、満ち足りた束の間を過ごす。中川みず穂を観るのは初めてであつたが、アイドル級に整つた男顔に、ポップに琴線を激弾きされる。
 配役残り、久須美欽一は亀山の上司で部長職の、多分斉藤。この人と麻生君は、絡みの恩恵に与らず。島村謙二は斉藤が是が非とも獲りたい、契約の相手先「丸菱商事」のナカギ専務。バーターに枕を要求するナカギに対し、斉藤が「これですか」と立てた親指を「何だこれは」とナカギが扇子で叩き、惚けて小指を立て直す下らない遣り取りがテンポも抜群で堪らない。斉藤から助けを求められた亀山がアケミを使ふ、微妙に複雑な心境のナカギ攻略戦を経て、祝杯の席にジゴロ自慢の加藤参戦。何処に出て来たのかが本当に判らなかつた風間ひとみは、加藤の「エンゼル」連戦内に瞬間的に見切れる、その他マントル嬢なのか?巨大な世話に過ぎないが、それぞれ野澤明弘と織本かおりで全く代用の効く麻生勍司と風間ひとみは、削つて削れぬ頭数ではあるまい。
 二本きりでは当然到底未だ全貌のヒントの欠片にも辿り着き得てゐない、市村譲の1991年全八作中第五作。亀山とアケミのそれなりに都会的な大人の恋愛映画で幕を開いておいて、セックスマシーン・加藤がアケミに興味を持ち「エンゼル」に足繁く通ひ詰める。即ち野澤明弘の濡れ場―の羅列―が支配する中盤、物語は一旦完全に消失する。終盤は取つてつけた順に対加藤、対アケミの二幕挿んで、休日の朝亀山が不意に思ひついたピクニックに家人を急かす、調子のいいハッピー・エンドに何となく着地。統一的なテーマなりストーリーには色気すら感じさせない一方、一幕一幕単位の演出は手堅い。それゆゑ何てことのない展開を何てこともなく見させる始終は、観客に無用な緊張を強ひないといふ面に於いては、量産型娯楽映画として良心的な一作といつていへなくもなからうか。惜しいのは、男主役たる亀山を演ずる稲村竜の、清水大敬と日比野達郎を足して二で割つた上に、止(とど)めで八掛けしたかの如く煌かない華のなさ。これでこゝの穴が埋められてあれば、主演女優に素直に連動した、スマート・ピンクへの途も拓けてゐたやうに思へる。


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 「谷ナオミ しびれる」(昭和53/製作・配給:新東宝映画/監督:姿良三/脚本:神田明夫/原作:戸塚純/製作:鈴木邦夫/企画:岸信太郎/撮影:山崎考/照明:グレート・ドーラン/音楽:スクリーンサウンドミュージック/編集:中島照雄/効果:AKサウンド/現像録音:東京録音現像所/助監督:円城寺克己/出演:谷ナオミ・森村由加・奥ゆかり・奈良しず江・村雨まき・山谷ますみ・北村淳・小川純・三宅健・杉浩三・峯岸貝介・宮瀬健二・杉田元・草山三十郎・乃木健・神場屋彌八・鈴木通人・富士ひろ子・今泉洋・山本昌平)。出演者中、富士ひろ子がポスターには藤ひろ子、逆に富士名義なんて初めて観た。奈良しず江と村雨まき、三宅健から峯岸貝介までと、杉田元から鈴木通人までは本篇クレジットのみ。企画の岸信太郎は、山邊信雄の変名。予めお断りしておくと、括弧特記のない配役は全員不明。
 “色包丁のお久姐さん”の異名で知られるお久(谷)は母親(富士)の小料理屋で包丁を振るふ、男嫌ひで通つた女板前。後に、お久の男性嫌悪の原因を、日本一とすら謳はれた名板前である父・ソウスケが、子供も作つた芸者(会話中にしか出て来ない)の下へ家族を捨て逃げたことを、幼い頃から自分が愚痴り続けたからであると母親は悔悟する一方、お久自身の回想中では、包丁の修行中にソウスケから手篭めにされてゐたりもするのは、よくよく考へてみるまでもなく十年近く時制が合はない。兎も角、その割にお久が助平専務と気軽に連れ込みに入るのを奇異に思ひながら観てゐると、街の絵描きに背中に描かせた、下手糞な幽霊の偽入墨で驚かせ悦に入る。母親とコンノ社長(今泉)の恋路までは想定内ともいへ、女学校の同級生で百合の花咲かせる間柄にあるカズエ(多分森村由加)に、男がゐる事実にお久はショックを受ける。消沈するお久の前に、クマベ社長がニヒルな二枚目・シンキチ(トメ推定で山本昌平)を連れて来る。調理する手元をただならぬ風情で注視するシンキチは、結局料理に箸ひとつつけずに退店、お久は激しくプライドを傷つけられる。後日クマベは非礼を侘び、母娘を旅行に招待する。
 残る配役は登場順に、料理屋の常連客二名と女中一名。夜の街の女であるカズエがいはゆるアフターで小料理屋を訪れる際の、同伴者・前川。ガードの頑なに固いカズエから前川が乗り換へる、カズエ母、然し節操の欠片もない男だ。忘れた包丁を取りに戻つたところ、カズエと石塚コウジ(北村)の情事を目撃、黄昏てブランコに漕ぐでもなく腰を下ろすお久の前に現れる、痴漢氏二名。旅先の女中二名、内一人は大浴場にて裸も披露する。
 意外と恒例企画となるのか、地元駅前ロマンの新東宝クラシック・ピンク枠(仮称)。七月の名作特選(緊縛特集)、八月の新東宝名作痴漢特集、九月は単騎で飛び込んで来た「現代猟奇事件 痴情」(1992/脚本・監督:鈴木敬晴/主演:浅野桃里)に続き、十月第一弾はjmdbにも記載のない、姿良三(=小川欽也)の昭和53年作。但し配信その他で視聴することは、現在でも可能である。潤沢すぎるキャストの頭数、ロケーションの分厚さからも如実に窺へる、大スター・谷ナオミを主演に擁(いだ)くに当たつて、平素我々が知るピンクとは明らかに普請の異なる堂々とした看板映画。それゆゑともいふべきか、お久母子がクマベのアゴアシで向かつた浜辺の温泉ホテルに、新婚旅行中のカズエ・石塚夫妻は兎も角、コンノや挙句にシンキチまでもが顔を揃へる無造作な御都合展開さへさて措けば、小川欽也一流の自堕落さが火を噴くのも1カットたりとて見当たらない。お久の心情の揺れ動きを始終丁寧に描いた上で、入念に張られた伏線に導かれる思はぬ悲運がもたらした性急な悲劇は、全く正方向に充実してゐる。一歩間違へばあまりにも普通に出来がいいだけに、変に拍子も抜かれかねない一作。とまでいふのは、昨今の小川欽也の名前に曇らされた屈折でしかないお門違ひの不平は、我ながら認識してゐる、つもりではある。

 そんな中側面的な見所は、石塚コウジ役の北村淳。誰だそれといふ話にしかなり得ないのかも知れないが、我等が温泉映画の巨匠・新田栄の役者時代の名義―jmdbによると、監督作も少なくとも一本存在する―である。特にこれといつた活躍を見せるでなく、当時的には至極当たり前にしても、小川欽也の映画に純然たる俳優部として登場する新田栄といふのは、今となつてはまづお目にかゝれまいサプライズ、明後日にテンションが上がつた。

 付記< 石動三六氏のツイートによると、今作は「いろ包丁」(昭和48/六邦映画)の会社を跨いだ新版であるとのこと。


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