真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「実写快感ONANIE 未亡人編」(1993『実写本番ONANIE 未亡人篇』のVHS題/製作・配給:新東宝映画/監督:渡辺元嗣/脚本:双美零/企画・製作:田中岩夫/撮影:稲吉雅志/照明:伊和手健/編集:酒井正次/助監督:国分章弘/監督助手:本多英生/撮影助手:村川聡/照明助手:広瀬寛己/スチール:津田一郎/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:伊藤清美・冴木直・杉原みさお・荒木太郎・川崎浩幸・山本竜二)。出演者中川崎浩幸が、VHSジャケには川崎浩之。照明助手の寛巳でなく広瀬寛己は、クレジットまゝ。監督の渡辺元嗣は、勿論現在渡邊元嗣。
 身悶える伊藤清美の爪先、早速自慰に狂つてゐるものかと思ひきや、ベッドの中には川崎浩幸も。間男の銀二(川崎)を自宅の津田スタに連れ込んだ磯野慶子(伊藤)が、旦那の帰宅を理由に追ひ返す一方、慶子の義理の娘であるフグ田洋子(冴木)も洋子で、矢張り間男・敬一(荒木)の車の中にて別れは惜しむが周囲は憚らないベロチュー。この二人、洋子の父親が十年前に再婚した後妻が慶子といふ関係で、同居してゐる。銀二と時間差で入れ違ふ格好で帰宅した洋子と、慶子が互ひの浮気をダシに啀み合つてゐると、ポリスからの電話が。二人で海釣りに車で出かけた慶子の夫にして洋子の父・波夫(遺影はナベ)と洋子の夫・マス平(遺影は中田新太郎)が、車が海に転落し二人とも死亡したといふのだ。祭壇の前でも相変らず啀み合ふ慶子と洋子が、一周忌までの男断ち、その間はオナニーで我慢する旨を誓つたところでタイトル・イン。
 配役残り、さうはいへ耐へ難き肉の飢ゑに屈し、双方銀二と敬一の誘ひに応じた慶子と洋子が外出しかけた絶妙なタイミングで、「ハロー☆」×「ナイス・トゥ・ミーチュー☆」と飛び込んで来る山竜と杉原みさおは、当人曰く“ミーのママのカズンがマリッジした家のパパが波夫さんのアンクル”とやらの、波夫の訃報を聞きつけ駆けつけた松夫と、法律婚してゐるのか否かは不明ゆゑ、松夫のワイフでなければ少なくともハニー・千鶴子。
 「Viva Pinks!」殲滅戦第四戦にして初めて深町章から離れ、弟子の渡辺元嗣1993年第一作。何某かトラブルでも抱へてゐたのか、驚く勿れこの年全二作、現在よりも少ない。“未亡人篇”といつて、今回は珍しく無印第一作が存在する、鈴木敬晴1991年第三作「実写本番ONANIE」(主演:五島めぐ)。何れにせよ実写で本番のONANIEとなると、ちぐはぐがジェット・ストリーム・アタックで突つ込んで来るが如く公開題ではある。
 アバンでとりあへずの夫婦生活、したかと思へば筆の根ならぬカット尻も乾かぬ内に、タイトル明けるや事故死した夫の遺影の前で喪装のヒロインが悲嘆に暮れてゐたりなんかする。未亡人ピンクが往々にして採用するある意味鮮やかさに比べ、配偶者二人をまとめて鬼籍に放り込む今作の大技には、驚くと同時に感心した。そこから看板を偽らないONANIE映画が暫し続き、はてさてそれはそれとして、三番手と山竜の処遇に危惧も覚えかけた尺の折返し間際、<故人の遠い親戚を装ひ忌中の家に潜り込むコソ泥>だなどと、旦那二人同時死亡を超える松夫の荒業造形には、重ねて驚かされた。驚かされたが、ここは掛け値なしの松夫と千鶴子の蜜月ぶりと、松夫の口車に乗せられた慶子と洋子が、死んだ人間に操を立てる禁欲よりも、今も生きる自分達の幸福―より直截には快楽―を選ぶに至る即物的な大団円は、無茶を無茶で裏返して上手いこと風呂敷を畳み込む、グルッと一周して何気に魔術のやうな作劇が素晴らしい。いはずもがなを改めて整理すると、荒業で戦線に投入した三番手―と山竜―が、展開の動因を担ふ構成はピンク映画固有の論理上地味にでなく秀逸。冴木直の、肢体は超絶美麗かつ肉感的に捉へる割に、首から上を異様に不細工に撮るカメラには疑問を大きく残しつつ、全般的にフラットすぎる演出が案外よく出来た脚本をさうとは勿体ぶらせない、燻し銀の一作である。

 要は開巻を引つ繰り返したラストの“そして一年後”、それぞれの新規間男は演出部かとも思はれるが、特定不能。“人生はワンツーファック”、“汗かき腰振り励まうよ”と、臆面もなければ清々しいまでに下らない「三百六十五歩のマーチ」の替歌を、伊藤清美と冴木直が歌つて踊つてひとまづ賑々しく締め括る。今となつては、そんな力の脱ける真似が許された時代の麗しさが、寧ろかけがへのないものとさへ時に思へなくもない。


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