真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「女囚 いたづら性玩具」(1998/製作:多呂プロ/配給:大蔵映画/出演・監督:荒木太郎/脚本:内藤忠司/撮影:河中金美/編集:酒井正次/助監督:横井有紀/制作:小林徹哉/撮影助手:李奉奎/録音:シネキャビン/現像:東映化学/協力:《株》東京UT・天野商事・大町孝三/出演:長曽我部蓉子・西藤尚・林由美香・清水大敬/特別出演:今泉浩一・木立雅隆・太田始・内藤忠司・除福健・国沢実・染屋冬香・横井勇気)。実際のビリングは、林由美香の次にカメオ勢が来て清水大敬がトメ。
 コツコツ足音と多呂プロ風味の出演者クレジットが三本柱と清水大敬まで、名美ならぬナミ(長曽我部)の、出所風景は8mm撮影。画面右側大半を巨大な塀が黒々と占め、左隅に向かつて歩くナミの背中が次第に小さくなつてタイトル・イン。荒涼とした画と呑気なクレジットとの齟齬は、個人的には邪魔な意匠に思へる。
 山の中で泳ぐ真二(荒木)は、釣人(識別不能)からバケツに入れた二匹の魚を貰ふ。バケツを提げ真二がほてほて戻つた先は、荒木組何時ものあばら家。庭ではすつかり呆けた為吉(特定不能)が騒々しく踊り、屋内では花枝(林)が蚊帳の中に眠る。モソモソと真二が潜り込んでの情事、花枝は母親を泣かせた放蕩の末今では夢の中に生きる父・為吉を、“幸せな人”と生温かく突き放す。あれ?荒木太郎にしては充実してるな。尤も、濡れ場の最中唐突に西瓜を挿み込んでみたりしたがるのは、矢張り不要な横癖としか思へない。事後、出し抜けに花枝からちやんとしない生活を詰られた真二は、バケツにお父さんを大切にするやう書置きを残しライトバン―以後、劇中呼称に従ひキャラバン―で逃走する。流れ着いたのは東京の街中、川で頭ごと顔を洗ふ真二は、音無橋の上にナミの姿を遠目に見る。そこに杖をついた男が現れると逃げ出したナミが、真二のキャラバンに乗り込んで来る。そのまま真二の稼業の白黒ショーを、ナミと興行する成り行きに。一旦キャラバンを去り再び戻つて来たナミは、真二に女囚であつた過去を告白する。心から愛した男に遊び道具扱ひされたことに激昂、男を殺害したナミは温情判決で五年の臭い飯を喰ふ。塀の中、髪を銀髪に染めた女囚(見たことないソリッドな西藤尚)に襲はれ負傷したナミを、看守の村木もとい村井(清水)は医務室で手当てしながらその都度抱く。但し西藤尚は、ナミを手に入れる為の村井の手の者であつた。西藤尚からも男を求められ村井が抱く現場に―文字通り―飛び込んだナミは、村井の右太股をメスで刺す。懲戒免職された村井は右足の自由を失ひ、ナミの刑期は一年延びた。音無橋は、出所後に突き落とすなり赦すなり判断はナミに委ねた、村井の指定した待ち合はせの場所だつた。
 配役残り、ショーの客は左から国沢実・今泉浩一・太田始・木立雅隆。一方、超絶の造形に感嘆させられる村井が身を置くホームレス村の面々は、並んだ際の同じく左から国沢実・木立雅隆・グラサン(が除福健?)・太田始。殆ど素顔で勝負する太田始を除き、重複する面子も扮装を完全に違(たが)へよくよく確認しないと判らない、この点もお見事。染屋冬香と横井勇気はまづ間違ひなくその他女囚として、問題はその他女囚が同一カットに計四名見切れるゆゑ、林由美香が加はつてゐたとしてももう一人足らない。内藤忠司を見逃したのは画面の小ささか、小生の―現に―壊れかけの節穴の限界、為吉のやうな気もするが。
 長曽我部蓉子目当てでチョイスした最初で最後の大蔵戦は、荒木太郎の映画館シリーズと並ぶ看板シリーズ「キャラバン野郎」の第五作。ここでこの期に改めて沿革を整理すると、デビュー作が第一作「異常露出 見せたがり」(1996/主演:工藤翔子)。第二作「ヒクヒクする女 ‐見られたい‐」(1996/北沢幸雄と共同脚本/主演:工藤翔子)は、第一作の連続した続篇。第三作「熟女の誘ひ汁 ‐何本でも欲しい‐」(1997/脚本:北沢幸雄/主演:しのざきさとみ)、第四作「濡れ尻女将のねばり汁」(1997/内藤忠司と共同脚本/主演:田口あゆみ)がその翌年。本作、第六作「主婦の性 淫らな野外エッチ」(1999/脚本:内藤忠司/主演:伊藤清美)、第七作「飯場で感じる女の性」(2000/脚本:内藤忠司/主演:鈴木あや)と年に一本づつ。一年御無沙汰して第八作「痴漢電車 秘芯まさぐる」(2002/脚本:内藤忠司/主演:山咲小春)と来た上で、最終第九作がエピソード0となる「隣のお姉さん 小股の斬れ味」(2003/脚本:内藤忠司/主演:林由美香/まだ心も健在な為吉は野上正義)。実は第二作以外は全てDMMの中に入つてゐる、この際折角なので今更といはず「ヒクヒクする女」も何とか御検討願へないでせうか   >オーピー様
 話を戻して、一見驚かされたのは、長曽我部蓉子のオッパイの大きさと、荒木太郎であるにも関らずな映画の面白さ。性懲りもなく繰り返すが、世評が“荒木調”と持て囃すところの諸々のギミックを、憤懣やるかたない“荒木臭”と排するのが当サイトの基本的な立場である。当人の志向は正調の娯楽映画と思しき割に、実際の結果は正攻法を挑まずに小手先でシークエンスを弄んでばかりの荒木太郎の映画が、私は大嫌ひなのだ。このことは、第三作以降の竹洞哲也にも概ね該当する。ただでさへ孤立無援な上に敵を増やすのがそんなに楽しいかと自重するでもなく、火に油を注いでみせるとそのことで、正直俺は荒木太郎推しの故福岡オークラとは仲が悪かつた。一体今になつて、何をどうしやうもない筆を滑らせてゐやがるのか。

 だから閑話休題

 硬質の美貌を加速する長曽我部蓉子の豊かなオッパイに轟き、完成された三部構成に唸らされる。序盤は相ッ変らず根無し草の真二がヒロインと出会ひ、ショーの新装開店に至るシリーズのフォーマット。中盤を本当に丸々二十分支配する長い回想は、激情がここでは首の皮一枚ロマンティックの範疇に踏み止まる、変格にして出来栄えは結構本格の女囚映画。そして衝撃と、救済の終盤。時に鈍器に、時に鋭利な刃物と化す長曽我部蓉子と、地獄の底でなほ大笑する清水大敬。ナミと村井のタナトスと紙一重の苛烈なエロスが、真二の、そして殆ど即ち荒木太郎のよくいへば線の細い、直截には脆弱なリリシズムを粉砕するクライマックスは圧巻。何だこの映画、荒木太郎はこんな凄い映画撮つてたのか。撃墜されたキャラバンがおめおめ帰還するのは、何時の間にかそんなに季節が移つた花枝の下。おこたを挿んで、穏やかに平然と迎へる花枝と、はふはふの体の真二のショットは圧倒的。あまりに美しくて素晴らしくて、美しさと素晴らしさとに度肝を抜かれた。何だこの映画、荒木太郎はこんな凄い映画撮つてたのか。喰はず嫌ひも、流石に反省した。あと四本、見られるものは全部見る。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )




 「おしやぶり天使 白衣のマスコット」(2000/製作・配給:新東宝映画/監督:榎本敏郎/脚本:井土紀州・榎本敏郎/企画:福俵満/撮影:前井一作/編集:酒井正次/助監督:小泉剛/録音:シネ・キャビン/現像:東映化学/監督助手:吉田修・三好保洋/撮影助手:横田彰司・本多伸明/応援:森元修一/出演:横浜ゆき・川瀬陽太・林田ちなみ・秦国雄・奈賀毬子・細谷隆広・今本洋子・元井ゆうじ・鈴木ぬりえ・長曽我部蓉子・伊藤猛)。>応援の前に元永斉がポスター・スチール担当
 暗くて汚い海岸、打ち上げられた鞄から女の右腕が覗くとバイオリンが哭きタイトル・イン。院内をポケーッと歩く総合病院の勤務医・森山博之(川瀬)と、キャストとスタッフをそれぞれ二緒くたに叩き込むクレジットに、ダイビング中の事故から蘇生する森山の姿が挿み込まれる。看護婦の吉川亜由美(横浜)と河野ミキ(奈賀)を左右に従へた森山に、どちらが入院してゐたのか判らない田崎夫妻(細谷隆広と今本洋子)が退院の御挨拶。一々そこでセンシティブに立ち止まるのは職業意識としては如何なものかと思はぬでもないが、生きて病院を後にする者と、そのまま病院で死ぬ者。亜由美が出し抜けに切り出した運命論を、ポジティブなミキは否定し、森山は言葉を濁す。妻・慶子(長曽我部)と離婚調停を拗らせる森山は、婦長の豊永優子(林田)と不倫関係につた。娘の親権含め身包み剥がれる敗色が濃厚となつたある夜、多分家を追ひ出された仮住まひで森山が優子と関係を持つた事後、優子の趣味のドライフラワーを取り上げる返せと戯れてゐる内に、転んで頭部を強打した優子はある意味感動的に呆気なく死んでしまふ。
 配役残り秦国雄は、この人はミキを喰ふ若手医師・飯田啓介。伊藤猛はダイビング事故時にもその場に居合はせた、森山の先輩・竹村信一。元井ゆうじと鈴木ぬりえが視認不能、恐らくスクリーンのサイズでも、その人と明確に抜いたカットは見当たらない気がする。
 この頃のm@stervision大哥が榎本敏郎に対してはハンター的な更なる凄味を御披露なさる中、回避も躊躇もせずに負け戦に突入する。かんらかんら、笑はれる前に自ら笑ふてみた。各種公式資料に見られる、田崎ヨシエが森山の医療ミスで死亡する件が本篇内には欠片も見られない点からも、榎本敏郎が井土紀州の元脚本を相当に改変したであらう節は如実に窺へる。竹村パイセンと呑む森本は、迎へに来いといふ優子からの携帯に度々振り回される。慶子との交際時と同じであることを竹村に指摘された森山が、その時は一旦判断を留保した亜由美提出の運命論を是認する際には、終始マッタリと思はせぶりなだけのドラマが偶さかとはいへ確かに強度を取り戻した。ともいへ結局は、“大きな流れ”の中で溺れかけてゐたことを認識した森山がその流れに逆らふとして採つた行動が、無断欠勤したついでにホテルに宿を取りブラブラするばかりといふのは、開いた口も塞がらない清々しい逃避行動。覚束ない始終に淡々と止めを刺す、オーラスは取調室での横浜ゆきのモノローグ。運命論を克服する上で自分が森山の役に立つたのかと亜由美が呑気に微笑んでみせるに至つては、生と死の、といふよりはデスだらけの―井土紀州が本来提出したのはかういふ形でなかつたらうかと思はせる―物語が、如何にもスイーツ(笑)風な小娘のアタシ話へと変貌するソフトに見せかけたハード・ランディングに腰も粉と砕ける苦笑を禁じ得ない。ここはどちらの責に帰したものやら微妙だがそれ以上だか以下に腹立たしいのは、ホテルを訪ねた亜由美の、森本が見たといふ“大きな流れ”とは何ぞやといふ問ひに対する答へが「花」、「枯れた花」といふのは何だそりや、禅問答かよ。挙句にその、もといそんな素頓狂な遣り取りを通して何故か亜由美が表情を崩し、コーラの間接キス噛ませて濡れ場にインだなどといふ大概な導入は重ねて何だこりや。「暑いはあ」だとかいひながら強引か豪快にブラウスの釦を外し続ける―胸襟を開くとは正しくこのことである―熟女が、若い色男(竹本泰志が最適役)を無理から誘惑し事に及ぶ。小川欽也の方がまだしも地に足を着けてゐる、裸映画を虚仮にするのは勘弁して頂きたい。


コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )




 「監禁いんらん遊戯」(2013/製作:Blue Forest Film/提供:オーピー映画/監督:竹洞哲也/脚本:小松公典/撮影監督:創優和/編集:有馬潜/音楽:與語一平/助監督:小山悟/監督助手:奥村裕介/照明助手:小松麻美/協力:加藤映像工房・江尻と小鷹/出演:天野小雪・秋菜はるか・佐々木麻由子・津田篤・久保田泰也・岡田智宏・岩谷健司・倖田李梨)。
 適当に庭を弄るロッジの雇はれ管理人・天神四郎(岩谷)が、山道を近付いて来るトレンチ・コートの女に目を留める。トレンチの女・名倉遥佳(天野)が画面を右から左にスライドして捌けタイトル・イン。目標の五十店舗目前のラーメン店を経営する遥佳の夫・真澄(津田)は、交通事故の―リアルな―大怪我から漸く退院。真澄に何気な浮気の影も看て取つた遥佳は、転地療養先を探してゐた。天神が変に含みを持たせる一方、何故か不安定な遥佳は建物の構造上地下ではない床下部屋にて、激しい思慕の綴られたノートを発見する。そもそもそんな遺留品が残つてゐる不自然はさて措き、その場所はかつて丸山詩子(秋菜)が父親が恨みを買つた福原雅(久保田)に、誘拐・監禁された現場であつた。詩子が最初に福原の襲撃を受ける件、日傘が宙に舞ふ凄まじいクリシェは果たして如何なものか、逆に吃驚した。半裸に剥いた上目隠しと拘束した詩子に、福原はそれ以上だか以下に手を出さうとはしなかつた。代りに他の女(ボディダブルは天野小雪)との情事の気配に曝し続けた後(のち)不意に姿を消した福原は、詩子に強烈な自身に対する希求を刻み込む。話を聞く内何時しか詩子と自らを混濁させる遥佳に、天神は既に若くはない老いに壊れた女・長田五月(佐々木)と、本好きの人嫌ひ・湊川公一(岡田)とのもうひとつの“事件”についても語り始める。一瞬誤解しかけたが池島ゆたかの「巨乳奥様 エッチで御免なさい」に見切れる以前に、関根和美の「巨乳天国 ゆれ揉みソープ」がある佐々木麻由子は、何某以来のピンク出演を詮索するには早過ぎた。
 いはゆる曰くつきの物件に越して来た女が、因縁染みた魔性に囚はれる。竹洞哲也2013年タイミングの問題で控へめに最終第三作は、ホラーホラーといふほどには別にも何も全然怖くない、竹光ならぬ竹ホラー。我ながらクッソみたいに詰まらない冗談は、それが狙ひであるといふのは決して負け惜しみではない。二人の女が藪から棒にクロスする詩子篇は、女優部新顔二人の清々しいまでの心許なさに順調に失速。妙にピンク大賞での受けがいい山内大輔の向かうを張つた訳でもあるまいが、急におどろおどろしい方向に舵を切る五月篇はその点俄然格段に安定感を増しつつ、結局全篇を貫くメリハリの乏しさに屈し完全に不時着する。濡れ場の歪みの一点突破で品性の―更に―下劣な観客の琴線を激弾いてみせるでもなく、となると高々一時間に過ぎない尺をまるで停止したかに思はせる、よくいへばSF的な超高速移動を疑似体験出来る一作、それは全く話が違ふ。派手に卓袱台を粉砕するほどの今風にいへば草を生やすツッコミ処にも欠き、ただ単に面白くないといふ意味で裏ランキングに潜り込む可能性すら閉ざされた、ワーストの有力候補である、力が有るのか無いのだかよく判らない。

 配役最後に残り倖田李梨は、連鎖の最前線に踏み入れてしまつた女。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )




 「TOKYO BALLDE」(1994/企画・制作:株式会社バックステージ/監督:神野太/脚本:上野由比/企画・総指揮:衣川仲人/製作:春名謙一/総合プロデュース:内田安夫/制作プロデュース:黒須勲/撮影:橋本直樹/照明:吉村泰三/美術:西村徹/技術:賤機喜美/編集:神野太/音楽:中西龍夫/助監督:吉武秀敏/監督助手:松永敦夫/撮影助手:吉永元茂/照明助手:岡本正仁/技術助手:田辺守/ヘアーメイク:牧野亜美・角田直子/スタイリスト:栗山ヒロコ/スチール:小林賢一郎/EED MA:TOVIC/制作進行:西垣孝誠/制作宣伝:武末浩明・松島政信/制作協力:プラスメディア・オフィスエイム・ラストショーカンパニー/撮影協力:株式会社ナガオカスタジオ、他一社・MYLORD・Salud・Space Ship/出演:小松みゆき・鈴木亮介・秦由圭・池田一成・北出真也・石田圭三・子迫三喜子・星野仁美・浦西真理子《友情出演》・大城英司)。協力の他一社が、見知らぬロゴが潰れてて判読出来ない、地味に問題だよね。
 川面にオーバーラップする小松みゆきの濡れ場、挙句に何の意味があるのか全く判らない時計までもが川面と小松みゆきに更にゴチャゴチャと被さり、どうしてちやんと見せないのかと軽く憤慨する。夜景挿んでシャワーを浴びる小松みゆき、ここでも尻もそこそこにオッパイを通過して顔を抜く抜けないカメラに、開巻早々フラストレーションが溜まる。風呂を上がると森川美恵子(小松)は宮崎(北出)に出し抜けな別れを告げ、一人勝手にホテルを出る。タクシーを拾ひ、運転手との「高速乗りますか?」、「ええ・・・・」といふ短い遣り取りに続いて如何にもVシネ風味のローマ字クレジット起動、運転席目線の画が料金所手前で減速したところでタイトル・イン。半年後、FM関東制作部勤務の美恵子と、美容師で両親にはカミングアウトしてゐないゲイの弟・秀男ことヒデ君(鈴木)は、バブリーな馬鹿デカい戸建での新しい生活を始める。美恵子が一緒に仕事することになつた、著書『東京バラッド』が話題の新進シナリオライター・後藤博之(大城)に豊満な胸を弾ませる一方、御機嫌な姉から後藤の名を聞いたヒデ君は愕然とする。秀男と後藤は何時の間にかもとい既に、肉体関係を持つ仲にあつたからだ。
 配役残り秦由圭は、引越しの片付けを手伝つたり相談に乗つたりする、秀男の幼馴染・ユミちやん。池田一成が多分間違ひないビリング推定でヒデ君の同僚・リョウ君、この人もゲイ。石田圭三は不完全な消去法で、FM関東のディレクター?子迫三喜子と星野仁美は、美恵子の友人・アキコ役と同じく同僚・上野役をシェアする筈。友情出演の浦西真理子は化粧室の鏡の前にて、美恵子と凄く不自然な『東京バラッド』に関する会話を交すショートカットの女。
 当時よくお世話になつてゐた小松みゆきを久々に見てみたくなり、手を出した純然たるVシネ。一応、販売元は新東宝―ビデオ―で、今でも新東宝公式ではピンクに混じつて配信されてもゐる。新東宝公式やjmdbに於いてはタイトルは「小松みゆき 東京バラッド」とされ、VHSのジャケには「TOKYO BALLDE 危険な誘惑」とあるのだが、今回ここで「TOKYO BALLDE」としたのは、あくまで本篇中インするタイトルに従ふ。ストレートな姉とオカマの弟と、最低のバイ野郎―ヒデ君曰く―の三角関係。といふユニークな主モチーフは素晴らしく魅力的ながら、残念なことにそこから話が全く拡がらなければ当然深まりもしない。エンド・ロールのどオーラスまででも五十五分弱とただでさへ短い尺の中、ヒデ君に続き美恵子も後藤の凶悪な二股に漸く辿り着くのがラスト十分。しかもその件にせよ、事後後藤が秀男のことを知つてゐるサプライズから、美恵子が「まさか・・・!」と愕然とするといふのは些かならず飛躍が甚だしい。まさかとはこちらの台詞で、普通女が今しがた自分を十全に抱いたばかりの男が、よもや両刀使ひだなどとはまづ思はないだらう。世界観あるいは美恵子の人生経験なり想像力が、突拍子もなさ過ぎる。その癖ヒデ君の出勤風景等々他愛ない繋ぎの一幕には一々妙に尺を割き、出発点のアイデアから以降を端折つた物語を水増ししたといふか要は薄めた、漫然とした印象しか残らない一作。小松みゆきの超絶裸身は改めて見ても惚れ惚れする完成度ではありつつ、それすらお腹一杯にさせて呉れるほど尺を喰ふでもないとなると、いよいよ以て万事休す。リアルタイム的にはこれで全く問題なかつたのかも知れないが、如何とも形容し難い劇伴のどうしやうもないダサさにも、激しく足を引かれる。
 そんな今作のチャーム・ポイントは、美恵子とアキコの“何時ものとこ”兼、後藤も常用するクラブの店内ショット。娯楽映画界の伝統的な地雷ともいへるディスコ―あるいはライブ―シークエンスに際して、御多分に洩れず綺麗に爆死してみせてゐるのは生温かく微笑ましい。

 鈴木亮介と大城英司は都合二度、後輩位―ヒデ君がウケ―も含め然程長くはないともいへ、本格的な絡みを披露する。といふ次第でもしかして東京バラッドのバラッドは薔薇とかけてゐやがるのか!?とときめきかけたものの、別に必ずしもさういふ趣向でもないやうだ。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )




 「超猥褻ミステリー 暗闇のストーカー」(2002『猥褻ストーカー 暗闇で抱いて!』の2005年旧作改題版/制作:セメントマッチ/配給:新東宝映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/企画:福俵満/撮影:清水正二/編集:酒井正次/音楽:大場一魅/助監督:佐藤吏/監督助手:下垣外純・森島健夫/撮影助手:長谷川卓也/録音:シネキャビン/スチール:津田一郎/現像:東映化学/協力:後藤大輔/挿入曲:『蛇行都市』詩・曲・唄:鷹魚剛/出演:葉月蛍・真咲紀子・美麗・石川雄也・入江浩治・色華昇子・かわさきひろゆき・神戸顕一・河村栞・樹かず・池島ゆたか・山ノ手ぐりこ・佐藤吏・笹木賢光・平田浩治・下垣外純・石動三六)。出演者中神戸顕一と河村栞、池島ゆたか以降は本篇クレジットのみ。それと、ポスターでは新題の猥褻が平仮名。
 家事とかどうしてゐるのか知らんけど一人住まひの部屋で全盲の星野ナツキ(葉月)が目覚め、朝シャワーで軽く裸を見せた上で、路面を白杖で探り探り出勤してタイトル・イン。ナツキの勤め先は、自身も出身者の杉並区立リハビリステーション、そこでリハビリ生に体操その他を教へる講師をしてゐた。帰宅するナツキに、この人は老人ホームで働く友人の長島陽子(真咲)が声をかける。相談事のある陽子が後程ナツキ宅に行く約束を交し、一旦別れる。トーン一転、「味楽」のマッチでタバコに火を点ける暗く硬いカット。こゝで、陽子が何事か面倒を抱へてゐるらしきといふ以外、作中唯一にして最大の外堀を埋める段取りをスッ飛ばした点ではありつつ、ただでさへ出がけの陽子の部屋にストーカー男・水野優一(入江)が、陽子への気持ちを表してゐるだとかいふ鷹魚剛の「蛇行都市」を手土産に無理矢理上がり込む。完膚なきまでに拒絶された水野は、衝動的に陽子を強姦。もしも仮に万が一妊娠してゐた場合、陽子が堕胎する腹を酌んだ水野は再あるいは最逆上、陽子を絞殺する。一方、何時まで経つても訪れぬ陽子を案じた、ナツキは自分から陽子を訪ねてみる。鍵のかゝつてゐない陽子宅で水野と交錯したナツキは二人目の被害者になりかけるも、あまりの騒々しさに堪忍袋の緒を切らした隣人(イコール五代暁子の山ノ手ぐりこ、実に的確な配役ではある)の介入で九死に一生を得る。捜査陣を指揮する長谷川警部(かわさき)は画像情報を一切持たないナツキに初めから重きを置かない反面、センシティブなイケメン刑事・武智(石川)はナツキの証言によるプロファイルを試みる。
 登場人物残り色華昇子は、ナツキの親身な隣人・ケイ。ポップな異形感が、グルッと一周して何だか有難い。要求する水準に達しない成績を難じ、水野の心を折る父親が池島ゆたかで、美麗が母。樹かずは美麗の間男、美麗が池島ゆたかに続き悪口を垂れ水野を火に油を注ぎ愕然とさせておいて、間髪入れず飛び込んで来る爆乳を揉み込むカットが素晴らしい。ドラマの繋ぎ上も濡れ場の破壊力に於いても、何気に完璧な三番手の起用法は今作の隠れた出色。河村栞は遅れ馳せるやうに誤解を招き易い性格の証言を武智が得る、陽子の友人。石動三六は、遺品を整理しに来る陽子の伯父か叔父。形見分けにナツキは、陽子殺害時に流れてゐた「蛇行都市」を選ぶ。神戸顕一は「蛇行都市」についてゐた値札から辿り着く、水野がバイトしてゐたゴジラや店長。これ実際に「蛇行都市」の再販CDではなくしてLP盤は、ゴジラやの売り物だつたのかな。その他見切れる面子はナツキが指導するリハビリ生が六人、刑事がもう一人と犯行前に水野が餃子を食べた中華料理店「味楽」の従業員に、リハビリステーションの職員か警備員。他方、クレジットに残る内トラ的な名前は四人分。合はない頭数に関しては、最早諦める、リハビリ生の中で女子は河村栞かも。
 m@stervision大哥が紹介されてをられる事実を十二年の歳月を経て改めて久し振りに取り上げると、当時矢張りヒロインが盲目の「痴漢レイプ魔 淫らな訪問者」(2002/監督:深町章/脚本:岡輝男/主演:河村栞)と、二本並べて封切られた池島ゆたか2002年第三作。この辺りのタイミングが初めからの予定通りなのか、結果的なバッティングなのかは内情に通じてゐないゆゑよく判らないが、兎も角新東宝は凄いことをしてみせる。それと、今作に潜り込んだ河村栞が、両作に出演を果たしてゐるのは地味なファイン・プレー。映画本体に話を戻すと、要はゴジラやで一発ツモる点はインスタントともいへ、案外遺留品がてんこ盛りな水野に順を追つて迫る、正攻法の捕物帖は綺麗に形を成してゐる。「痴漢レイプ魔」と並べて観た場合なほさら光つて見えたにさうゐない、池島ゆたかが時に発揮する、大所帯を構へた際の神通力が窺へる一作である。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )




 「痴漢電車 気分は絶頂」(昭和61/製作:獅子プロダクション?/配給:新東宝映画/監督:渡辺元嗣/脚本:平柳益実/製作:伊能竜/撮影:倉本和人/照明:石部肇/編集:酒井正次/助監督:笠井雅裕/監督助手:末田健/撮影助手:栢野直樹・斉藤幸一/照明助手:佐久間栄一/協力:渋谷道頓堀劇場/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:大滝かつ美・風見玲香・清川鮎・藤冴子・池島ゆたか・ジミー土田・渡辺正樹・螢雪次朗)。製作の伊能竜は向井寛の変名。監督の渡辺元嗣は、勿論現在渡邊元嗣。
 宇宙空間にスペースシャトルが無造作に放り投げられ、地球のショット挿み赤く光る彗星。そこそこの特撮を三十秒見せた上で、カメラは地上の東京に、電車噛ませてタイトル・イン。「ジャン!」と自らアタック鳴らしてストリップ小屋「渋谷道頓堀劇場」のサンドイッチマン・丘野松太郎(螢)登場。女(誰か判らん)に痴漢を楽しむ松太郎の画面後方には、ドリフの爆破コントみたいな、といふかそのものの真黒に汚れた顔の少女(大滝)が。電車が揺れ、気付かぬ内に松太郎の痴漢はドリフにスライド。思はず声を洩らしたドリフと顔を見合はせた、松太郎の方が悲鳴を上げる。チンコみたいな、といふかそのものの鼻眼鏡に、銜へタバコでダラダラ歩く松太郎のレス・ザン・モチベーションな仕事ぶりに、労働なんてこんなもんで十分だよなと全力で感動する。一方、大手航空会社「全日航」社長の大空邸。後妻の麗子(風見)と、大空の秘書・雨宮(池島)がベッドの中に。二人は大空からの電話(受話器越しの声も聞かせず)と、十全なラジオ・ニュース(手堅い読み手不明)を通して全日航が受注したスペースシャトルが宇都宮山中に墜落。大空のごり押しで乗り込ませた、一人娘の未来(ミキではなくミライ)が死んだことを知る。
 配役残り、麻生みゅうとは別のベクトルでゴリラによく似た藤冴子―我ながらムチャクチャだ―は、悲しむでもなく寧ろな麗子の寝室を木上から覗くTVリポーター・高橋政子。木の下から政子と共同作業で、未来が死ねば大空の遺産は麗子が総取りするといふ外堀を投げる渡辺正樹は、政子の同僚・寅吉。ゴリラの癖に政子は木から落下、諺のやうな女だ。それを受け止めた寅吉は負傷し、政子の部屋に担ぎ込まれる。そこで二人が情を交すのはカテゴリー上当然の流れとはいへ、部屋には「痴漢電車 いくまで待つて」(昭和60/監督:稲尾実=深町章)のポスターが貼られ、政子がレポーターの前職はポルノ映画に出てゐたといふのは薮蛇な蛇足にしか思へない。百軒店飲食街で一度見付かつた際には振り切つたドリフと、松太郎は道頓堀劇場のゴミ捨て場にて再々会。支配人(片岡脩二)に促され、松太郎はドリフの面倒を見ることに。浮浪児といふ言葉を、久々耳にした気がする。同時進行で大空邸では、死体が発見されず生存の可能性が出て来た未来の始末を麗子が雨宮に指示。ゲーセンでインベーダーゲームの筐体から顔を上げないトレンチコートの人物に、雨宮は接触する。ジミー土田は、ゲーセン氏と同じトレンチを着用する池内。何処からか未来の情報を聞きつけ、道頓堀劇場の周囲に出没する。今でいふ高身長女優の清川鮎は、わざと脱ぎ忘れたパンティで松太郎を釣る、道頓堀劇場の新人踊り子・島田モモコ。
 沈黙して久しい今なほ、伝説にして最強のピンクス・m@stervision大哥。そのm@ster大哥が何と最高傑作と認定されておいでの、渡辺元嗣昭和61年第一作、通算では第八(と1/3)作に当たる。あのm@ster大哥お墨つきのナベ最高傑作、期待はいやが上にも高まらぬ訳がない。してみたところが、尻の青い―ことが許される歳でもないが―節穴にはいまひとつピンと来らなんだ。そもそも、最終的には洗練度の低い主演女優に琴線を擽られない、個人的な嗜好が致命傷ともいへ、ドリフが大空未来であることを松太郎が隣室の政子に教はるのが土壇場も土壇場―但し尺は二分半強跨ぐ―の五十分。展開は始終をよくいへば丁寧に追ひ、未来の―少なくとも劇中―処女性を優先し本格的な濡れ場を温存した諸刃の剣が響かぬ筈もなく、女優部の中で大滝かつ美に渡辺元嗣が殊更に入れ揚げた形跡は案外窺へない。ズームが引くと実は結構なロングであることに驚かされる、街の灯に包まれた感動的なラストにリアルタイムの小屋で直面してゐたらコロッと号泣してゐたやうな気もしつつ、仮に今作がm@ster大哥仰せの通り第一期の頂点であるならば、渡邊元嗣の真の絶頂期は、2006年に幕を開け大絶賛現在進行形の第二期ゴールデン・エイジといへるのではなからうか。
 これだけ逆らつておいて何だどころの話では済まないが、m@ster大哥がナベに捧げたエールは何度読み返しても涙が出る。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )




 「快楽セールスレディ ~カラダも買つて~」(1996/製作:関根プロダクション/配給:大蔵映画/監督:関根和美/脚本:関根和美・小松公典/撮影:小山田勝治/照明:秋山和夫/編集:《有》フィルムクラフト/助監督:加藤義一/音楽:リハビリテーションズ/監督助手:小松公典/撮影助手:岩崎智之/照明助手:草篤/スチール:津田一郎/録音:ニューメグロスタジオ/効果:協立音響/現像:東映化学《株》/出演:河名麻衣・浅野桃里・沢口レナ・杉本まこと・下川おさむ・平賀勘一・樹かず・牧村耕次)。
 督促状と競馬新聞の散乱した部屋、ハッピーローンからの居留守を使つた留守番電話(声は実は下川おさむの二役)に海外に売り飛ばすぞとポップに脅された魚住灯(河名)が、どうせ売られるならカジノのある国がいいよねだなどと悪びれもせず、最早使ひ物にならないカードに鋏を入れタイトル・イン。ラスト間際灯が取り出す携帯電話の巨大さ同様、作中誰よりも黒々と太い河名麻衣の眉毛に時代が偲ばれる。タイトル明け誰にでも出来てしかも高収入、ハッピーローンの脅し文句同様限りなく透明に近くポップなキャッチに釣られ、灯は羽根布団を出張販売する女性販売員の面接に赴く。ここで牧村耕次は面接の最中に乳繰り始める底の抜けたエロ社長で、沢口レナが情婦、もとい秘書のリカ。元はトップ・セールスを誇つたセールスレディ上がりで、秘書兼共同経営者とのこと、よく判らんポジションではある。情事の邪魔だといはんばかりにぞんざいに採用された灯は、入れ替りに面接を受けに来た旦那が失業した滝田早苗(浅野)と、一週間の売上で負けた方が五万円を支払ふ勝負をする成り行きになる。
 配役残り、いきなりクレジット外から。早苗を世間知らずの専業主婦となめてかゝつた灯ながら、自身の初陣となるマンション戦ではあへなく惨敗。音声情報のみ―画はマンション―で処理されるその模様、一軒目の宗教と羽根布団が間に合つてるのは関根和美夫人・亜希いずみで、二軒目の短気な関西弁は加藤義一。平賀勘一は公園のベンチで茫然自失とする灯に、「アンタも、人生に疲れちやつたの?」と声をかける男・砂場(仮名)。何故に仮名が砂場なのかといふと、突然声をかけられ驚く灯のベンチからカット跨いでカメラが引くと、平勘が砂場でお山を作つて遊んでゐる。わはははは!そんな頓珍漢なファースト・ショット見たことねえよ。間抜けとシュールのタイトロープ上から平勘が飛び込んで来る瞬間が、今作の最高潮。え、ここがピーク?初日は坊主の灯に対し、早苗はまさかの5セット。再び内トラ勢、尾行してみた早苗がメガネの長髪(痩せてた小松公典)を逆ナンする要は色仕掛けの販促戦法を目撃した灯は、目には目をと脊髄反射で発奮。独り言で盛り上がる灯の肩を叩き、「どつかお悪いんですか」と声がけする―服装はラフだけど―紳士は関根和美、こちらは凡そ二十年前にも関らずそんなに変らない。杉本まことは、そんな次第で灯がロック・オンした何と早苗夫・耕平、凶悪極まりない女だ。後々、亭主を寝取られ地団太を踏む早苗を見てゐると、最早どちらがヒロインなのだかよく判らなくなる。仕事仲間といふことで、灯は普通に滝田家に上がり込む。居間にて軽くビール、暑いですねと出し抜けに灯が脱ぎ始め、みるみる全裸で膳を据ゑる小川欽也の向かうを張るへべれけな濡れ場の導入が中盤のハイライト。見所が明後日か一昨日ばかりにも思へるのは、決して気の所為ではない。樹かずは、単なるセックス目的ではなく当然布団を売りつける腹の、早苗とホテルで一戦交へるイケメン。下川おさむは、凄い強引な流れで灯が手を出したテレクラを介し、待ち合はせた学生・タツヤ。
 今回、前作に薔薇族挿んで関根和美1996年ピンク映画第五作を適当にではなく明確に選んで見たのは、jmdbに記載のない沢口レナ出演作であるといふ理由。具体的には、ここがピンク出演第一作といふのは多分動かないであらう「高校教師 私は、我慢できない」(1996/脚本・監督:北沢幸雄/主演)と、関根和美の次作にして1996年最終作「隣の奥さん バイブでトロトロ」(脚本:関根和美・加藤義一・小松公典/主演)の間に今作が位置する。続くjmdbに記載のある沢口レナ出演作は関根和美1997年第一作「痴漢電車 くひこむ生下着」(脚本:関根和美・加藤義一・小松公典/主演)に、DMM未配信の第二作「女医ワイセツ逆療法」(脚本:小松公典/主演:青木こずえ?)。何れにせよ、この時沢口レナは最低四作連続で関根組に出演してゐたことになる。映画の中身に話を戻すと、何処からでもビリングトップを狙へる攻撃的な女優部と穴のない地味に豪華な男優部とに恵まれ、一応形だけは起動したものの物語らしい物語が終ぞ走りだすでもないままに、絡みだけが漫然と連ねられる始終は何となく楽しませる。既に硬質の美貌を完成させた沢口レナと、浅野桃里の裸見せがともに一度きりなのは些か惜しい反面、河名麻衣の弾ける肢体はふんだんに拝める。タツヤ投入で無理矢理に舵を切ると、ちやつかりしたハッピー・エンドに押し込む、ケロッとした裸映画。よくいへば陽性のドライさといへ、悪くいへばスッカラカンともいへる。そんな中もう一点特筆したい件は、初日から予想外の大差をつけられた灯は、早苗が勝ち誇る電話を切るや何故か闇雲に自慰をオッ始める。通常の文法的には無茶苦茶となるところなのかも知れないが、ジャンル上はある意味正しい。一旦負けるもんかと正方向に奮起した上で、依然自慰を続行するのは断然正しい、誰が何といはうと正しい。女の裸を銀幕に載せる、それがジャスティス、その姿勢は真綿色したシクラメンよりも清しい。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )




 「阿鼻叫喚! 熟女の三所責め」(1994『本番熟女 急所責め』の2014年旧作改題版/製作:旦々舎/提供:Xces Film/監督:浜野佐知/脚本:山崎邦紀/撮影:稲吉雅志・小山田勝治/照明:秋山和夫・永井日出雄/音楽:藪中博章/編集:㈲フィルム・クラフト/助監督:佐々木乃武良/制作:鈴木静夫/ヘアメイク:森口美沙・宇野ひろみ/スチール:岡崎一隆/効果:時田滋/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東映化学/出演:森田久恵・石原ゆり・小川真実・久須美欽一・荒木太郎・太田始・リョウ)。
 Tバックを脱ぐ尻の接写で開巻、バタ臭い主演女優が裸身を鏡に映しながらの自慰、股間を下から抜くダイナミックな画にタイトル・イン。明けて商店街、ステーキ・レストラン「Mister 肉」―凄くぞんざいな店名だ―から出前持ちの麻子功(荒木)がほてほて徒歩で出撃。出前先は、楠木晃(森口)が仕事らしい仕事もせずに暮らす高級マンション。但し内部は、何時も通り旦々舎ではある。ステーキに舌鼓を打つ晃はかといつて代金を支払ふでなく、ブリーフ越しに麻子を抜く。晃は毎度その手でタダ肉を喰らひ、麻子の給料の半分は、晃の出前の支払に飛んでゐた。今度は新山不動産に勤務する豊田誠(久須美)が、家賃の催促に晃宅を訪れる。麻子同様、晃は豊田に対しては本番行為の対価に、家賃を肩代りさせる。高級マンションの家賃はステーキとはいへ出前どころでは済まず、豊田は遂にサラ金にまで手を出してゐた。こゝまで序盤からふんだんに飛ばす濡れ場を通して、情けない―造形の―麻子と豊田が晃が振り回す高圧的な肉の欲望で支配する構図は、旦々舎一流のアクロバット。豊田が据膳を食はされた晃に食ひ物にされてゐるのを知つた、事務員の尾崎真奈美(小川)とは不倫関係にもある新山不動産社長・新山哲治(リョウ)が、自ら晃にこれまでの家賃を耳を揃へさせた上で追ひ出してやると息巻く一方、晃の妹・美樹(石原)は、婚約者で『週刊クラッシュ』の雑誌記者・大矢光弘(太田)を姉に紹介する。妹との待ち合はせに指定して以降晃が常用する店「ザボン」―本来はラーメン店―も、内部は別物件のバーだな、何でまたザボンが店名だけわざわざ台詞中に登場するのかは知らん。
 浜野佐知1994年最終第十作、量産型娯楽映画を現に量産し得た麗しき時代よ。これを文字通りといつてしまつてよいのか、裸一貫で逞しく凌いで行く今でいふニート女の物語。新山の攻勢に窮地に立たされる風を窺はせるでもなく、脛の傷を探るべく晃は大矢を篭絡。その事実が発覚し、美樹は大矢を一刀した返す刀で晃とも訣別。実の妹とも袂を分かち、表情が乏しいのを威風堂々と捉へることにした、ヒロインの行く末や如何に。と一応は、劇映画的な展開の盛り上りに期待してはみたものの。晃は大矢から得た、真奈美との不実を楯に婿養子の新山を迎撃、フィナーレは対麻子劇中第三戦。印象的なストップ・モーションで最低限の体裁を整へたとはいへ、要は晃の立ち位置が微動だにしないある意味豪快なラストには感心しはしないが驚いた。裸映画的には洗練度に欠きつつ反面迫力はなくもない森田久恵の裸が目一杯尺を喰ふのに対し、石原ゆりの絡みが一度きりなのは、滅多に小屋でお目にかゝれない点も踏まへれば尚更惜しい。反面、小川真実は矢張り一度きりの絡みではあれ、相手役のリョウ(a.k.a.栗原良 or ジョージ川崎 or 相原涼二)にも恵まれ貫禄のコッテリ感を刻み込む。

 然し“阿鼻叫喚!”て・・・・そこだけ切り取るととてもピンク映画のタイトルには思へない、最早エクセスはヤケクソなのか?


コメント ( 4 ) | Trackback ( 0 )




 「最近、蝶々は…」(2014/製作・配給:株式会社コスタエスト/監督・脚本:友松直之/原作:内田春菊『最近、蝶々は…』《新潮文庫刊》/エグゼクティブ・プロデューサー:紫垣雅一/プロデューサー:桐島正樹・石川二郎/キャステイング・コーディネーター:五十嵐学/音楽:シトー/撮影・照明:田宮健彦/録音:井手一郎/助監督:大西裕/ヘア・メイク:松平薫/衣装:吉田実穂/特殊造型・特殊メイク:石野大雅/特殊造型:ゼライ直井/特殊効果:近藤佳徳/スチール:高橋大樹/ポスター撮影:佐藤学/監督助手:高野平・島崎真人/撮影・照明助手:俵謙太・川口諒太郎/衣装助手:河口節子・松浦美幸/特殊効果助手:田村卓海/特殊メイク助手:佐野千尋/制作応援:奥渉/編集:西村絵美/CG合成:新里猛/ロケ協力:田中尚仁・ファンテッド・桃源郷公園・須田造園・一宮温泉病院/日本兵衣装提供:カミカゼ/制作協力:有限会社アウトサイド/出演:後藤理沙・徳元裕矢・黒木歩・川又シュウキ・希咲あや・金子弘幸・朝霧涼・あん・稲葉凌一・倖田李梨・文月・世川翔子・若林美保・衣緒菜・ホリケン。・高杉心悟・伊藤正博・青山真希・冨田じゅん・カミカゼ・田村卓海・鈴美はな・石黒繭子・百地優子・不貞妻マリコ・内田春菊)。
 開巻は鍵穴シリーズとは流石に異なり戦闘シーンを新撮した、まさかの1945年(昭和20年)南方戦線。連合国に負ける前に何でだか日本軍は同士討ち、高杉心悟を残しほぼ全滅する。一人彷徨ふ高杉心悟は亡骸から血を吸ふ妖しい蝶の群生と、群れの中心に佇む判り易くいふとセイレーン演出の後藤理沙を目撃。慄く高杉心悟と、髪をざんばらに微笑む後藤理沙とを押さへてタイトル・イン。原作を素通りしておいて何だが、そんなところから話が始まるとは思はなんだ。
 六時半のスマホの目覚まし、独身独居のキャリアOL・篠塚留可(後藤)の朝。起き出す後藤理沙のお芝居、早くも透けずに見えた底に潔く諦める。ユニットバスの洋式便座に腰かけた留可は驚く、膣内に、正しく身に覚えのない男の精液が残つてゐたのだ。基本的に女の考へてゐることは理解出来ない以前にする努力も半ば放棄してゐるが、それは驚くよな。出勤する留可と擦れ違ふ平和タクシーは客を乗せてゐる訳ではなく、女タクシードライバーの高原(トメに座る春菊先生)が娘の駒子(あん)を学校に送るところだつた。留可の勤め先、の休憩室。部課長の野本圭子(黒木歩/ex.宮村恋)以下、総勢六人の女が『女性自分』誌の「毎晩幽霊に犯される私」なる与太記事を肴に盛り上がる。ここで倖田李梨と文月(ex.かなと沙奈)が留可の同僚、もう二人には力尽きる。一人深刻な留可の様子を、圭子は気に留める。一方、土間こと通称ではなく自称ドマックス(金子)の店。ドレッドの金子弘幸が軽薄に、もとい軽快に飛ばしてて楽しい。「毎晩幽霊に犯される私」を書いた、東都出版『女性自分』編集部の萩本征幸(徳元)がドマックスに、昨今下世話な界隈を騒がせる“蝶女”の都市伝説について取材する。「私の二匹の蝶、見たい?」を決め台詞に男を漁る女にドマックスもお世話になりつつ、蝶女の正体を探つた常連客は、噂通り確かにそれ以来店に現れなくなつてゐた。引き続き目覚める毎に大量のフローバックやキスマークに悩まされる留可は、萩本に接触。ナルコレプシー気味に寝落ちた留可は蝶女の人格を発現、春菊先生のタクシーでラブホに連れ込んだ萩本を大胆に捕食するも、事後は一転我に帰り助けを求める。
 辿り着ける限りの配役―ドマックスの店のハクい女給、これ誰だ?―残り川又シュウキは、留可らとは別の部署の間宮和也。何故かあんの向かうを張るロリッロリした造形の希咲あやは、萩本が踏んでしまつた東都出版の契約社員・越川樹里。冨田じゅんが席次推定で『女性自分』編集長。朝霧涼は萩本が留可と蝶女に関して助言を求める大学時代同級生の精神科医で、若林美保は朝霧先生とコンビを組むセラピスト・山田。伊藤正博は入院する現在ver.の残存兵、衣緒菜(ex.吉瀬リナ)は萩本の眼前、七十年ぶりに“蝶”を目撃し逆上した伊藤正博に松葉杖で突き殺される看護婦。稲葉凌一(ex.隆西凌)は春菊先生の旦那。最強のex.勢青山真希(ex.逢崎みゆ)は、夫婦の会話もお留守に稲葉凌一が見入るワイドショーに見切れるリポーター役のハーセルフ。ホリケン。(ex.句点レス)は朝霧先生と萩本に接見する、多分弁護士?低予算映画界的にはオッソロシク豪華な布陣である。
 シレッと筆を滑らせるとあの嘉門洋子がカモンし倒す衝撃作「出逢いが足りない私たち」(2013)の要は第二弾企画、一般映画の感想をしかも公開前に何でまたドロップアウトが負け戦に関らず吹いてゐやがるのかといふのも、友松直之の掌の上でまんまと踊らされる同一の事情に基く。とはいへ今回の俺様は一味違ふ、遂に外付けDVDドライブを導入!わはは、これでもうネカフェに用はない。どうでもいい閑話は休題、裸の威力込みで何もかもが、嘉門洋子と比べると後藤理沙がスケール・ダウンしてゐる感は否み難い。その分友松直之が前に出たのかどうかは知らないが、世流も織り込み比較的順当あるいは穏当なサイコサスペンスであつたデアタリに対して、今作はスラッシュ方面にフル加速。伊藤正博が衣緒菜を出し抜けにグッチャグチャにするや、留可だか蝶女は自宅を本当に血に染める大暴れ、締めるは捥ぐは抉るは刺すはともうやりたい放題。絞殺された―かに思はせた―圭子を見て当然萎えたチンコを、蝶女に捥ぎ取られた上てめえでしやぶりやがれと口に突つ込まれる間宮の姿には、男ならば誰しもキンタマが震へ上がらうといふものだ。反面、最終的には正体の不明な邪欲が不滅に連鎖する、案外オーソドックスなラストはおとなし目にさへ映る。箍をトッ外した人体損壊描写に萌える、今時の琴線を個人的には持ち合はせないゆゑ、正直あまり得意な部類の一作ではない。オッパイは許さないのに残虐には手放しで甘い、規制基準がちぐはぐなつべに上げられた予告を見て二の足を踏むヘタレに、友松直之はオッパイもたつぷり登場すると太鼓判を押して下さつたものの、蓋を開けてみると満足にも何も濡れ場をこなすのは訴求力が高いのか低いのかよく判らない主演女優のみで、これだけの面子を揃へてゐながら希咲あややあんさへ脱ぎはせず、グロ映画としては兎も角エロ映画的には全く物足りない。阿鼻叫喚以上に最も肝を冷やしたのは、そんな中鏡の前で春菊大先生が裸身を御披露しかけた瞬間といふのは内緒だ。但し特筆すべきはこれだけ、後藤理沙サイドの他愛ない方便を主に徹頭徹尾商業主義全速前進な企画にあつて、端々に鏤められた平素の友松節含めここまで我を通してみせる友松直之の画期的な制作モデル。実は一番重い一撃のエモーションを誇る森山茂雄が沈黙し、“エクセスの黒い彗星”松岡邦彦が完全に失速した今、多フィールドに跨る縦横無尽の快進撃で問答無用の友松直之。テクニカルなものロジカルなものをこつこつこつこつ積み重ねた末に、真逆のアプローチで終に天才と同じ高みに到達する。とり・みきの定義による“ポップ”に最も近い男・城定秀夫。旧態依然の牙城を守り続ける、アイドル映画のみならず娯楽映画の静かなる鬼、我らがナベこと渡邊元嗣。目下量産型裸映画の三強は、この三人に絞られるといふ意を改めて強くした次第。巷に溢れる映画学校は単に本業にあぶれた無職よりも、ツイッターに耽る時間を削らせた友松直之に教鞭を執らせた方が余程学生の為になるのではなからうか。女学生を片端から喰つてしまふから駄目?それはさうかもな(´・ω・`)

 コピー厳禁のサンプルDVDと同封された、フライヤーが非常に微笑ましい。十日の土曜日から二週間ヒューマントラストシネマ渋谷にて、“悶々とレイトロードショー”といふのが振るつてゐるし、都合三度設けられた舞台挨拶とスペシャルトークショー。初日の後藤理沙と春菊先生と友松直之による舞台挨拶が行はれる五月十日を、“初日はゴトウの日”としてゐるのがさりげなく爆発的に可笑しい、コスタエストがノリノリである。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )




 「熟女ヘルパー 癒しの手ざはり」(2013/製作:旦々舎/提供:オーピー映画/監督:浜野佐知/脚本:山﨑邦紀/撮影:小山田勝治/撮影助手:赤池登志貴/照明:ガッツ/助監督:永井卓爾・北川帯寛/応援:田中康文/編集:有馬潜/音楽:中空龍/録音:シネキャビン/ポスター:本田あきら/タイトル:道川昭/現像:東映ラボ・テック/協力:ラ・カメラ、株式会社我樂/出演:咲本はるか・水希千里・牧村耕次・なかみつせいじ・荒木太郎・竹本泰志・あきら・山﨑邦紀・大城かえで)。出演者中、あきらと山﨑邦紀は本篇クレジットのみ。
 床に臥す老人の淵川(牧村)は介護ヘルパーの咲本那美(咲本)に、あの世に逝く前にこの世でイカせて呉れるやう乞ふ。応じた那美は裸身を捧げ、俗にいふオナホで抜く。淵川が達し、那美がニンマリと微笑んでタイトル・イン。冥土の土産なんだから生身でヤラせてやれよ、といふのは一旦呑み込んで後述する。
 末期の患者に性的サービスを施した咎で看護士と介護福祉士の資格を剥奪され、今は下半身専門のタクシー風にいふと白ヘルパーとして流れ歩く那美に、新たな依頼が入る。一方、大城さやか(大城)の自主ヌード撮影会。見られることによる欲望や体感の変化、といふと実存主義も二、三口齧つてゐるのか、カメラに痴態を晒しながら、さやかは独自のセックス論を摸索してゐた。あきらと山﨑邦紀が、ここでのカメコ。少なくとも山﨑邦紀は声の馴染まないアテレコで、あきらといふのは恐らく本田あきらか。因みに撮影会会場が協力のラ・カメラであるのはいふまでもなく、株式会社我樂は、GALAKUブランドのジョイトイが那美の商売道具の中に提供される。那美が辿り着いた先は、女性専用シェアハウス長良。今作が、在りし日の旦々舎が登場する最後の映画となる。現旦々舎は、静岡にあるらしい。閑話休題、事故以来車椅子の身となつたオーナー・長良(なかみつ)の尺八を吹いた那美が逗留を希望したシェアハウスに、さやかが帰宅。互ひにセクシャルな我が道を往く二人は、忽ち意気投合する。
 配役残り水希千里が、もう一人のシェアハウスの住人・鏡子。流れ作業に厭き店への在籍を拒んだ、フリーのトルコ嬢。要はホテトルと変らないやうな気がするのは兎も角、“伝説のマットプレイヤー”と称へられる。どの辺りが伝説なのかよく判らないが、松葉崩しの体勢から足の親指で男の肛門を刺激する、ポスチョーナージュを披露する。ほんで荒木太郎が、鏡子の絶技に心酔する岡倉泰安。動因を担ふやうで然程でもない竹本泰志は、準教授でさやか元指導者、兼婚約者でもあつた塩田。未練を残すさやかの、変貌なり加速を理解出来ず困惑する。
 エクセス電撃復帰作が関西先行で既に封切られ、並行する自主映画版も完成間近の今、過日を惜しんでゐる場合ではない。浜野佐知2013年唯一作にしてオーピー最終作は、よくも悪くも手堅く纏まつた裸映画。那美の下半身介護とさやかのヌード撮影会に、鏡子はマットプレイ。単純にギミックとして三者三様であるだけでなく、各個人のバックボーンにも沿ふ形を採用した、三花繚乱の裸の見せ方は裸的にも映画的にもあまりの磐石さに何気なさすら錯覚させかねないほどに安定してゐる。旦々舎のトメの座を完全に手中にした大城かえでを扇の要に、ビリング頭二人は仲良くルックスは微妙ともいへ、浮世離れまではしない適度なプロポーションは絶妙、三本柱は問題なく機能する。泰安の伝統芸能保存云々といつた件は、鏡子の自分はまだ現役だとする至極御尤もな反発を除けば薮蛇気味でもあるものの、穴のない男優部も物語の進行に粛々と奉仕する。浜野佐知映画のひとつの常として、漂泊のヒロインは何処かへと去りつつ、さやかと鏡子の高齢者と障害者向けのヌード撮影会とマットプレイを売りに、実は資産持ちらしい淵川の支援も受け長良の女性専用シェアハウスは、高齢者と障害者のシェアハウスその名も残照へと発展的に展開する。返す刀で回春に伴ひすつかり回復した淵川に続き、長良も十年ぶりに直立二足歩行を取り戻すとあつては全く順当な、実に綺麗な綺麗な風呂敷の畳みぶりである。ただ、些かお上品にも過ぎまいか。極大のエモーションの前髪を、掴みかけた瞬間は間違ひなくあつたやうに思へる。
 さやかを追ひシェアハウスに乗り込んだ塩田に、那美はさやかと自身を―それぞれ象牙の塔と白衣の園からの―“はぐれ者”とした上で、要介護者等弱い立場にある、社会から“弾き飛ばされた者”に相対する決意を語る。久々に採り上げるが、福田恆存が残した文学と政治について、文学と政治各々果たすべき役割について論じた必殺中必殺の名評論「一匹と九十九匹と‐ひとつの反時代的考察」(昭和二十二年二月)。「なんじらのうちたれか、百匹の羊を持たんに、もしその一匹を失はば、九十九匹を野におき、失せたるものを見いだすまではたずねらんや」、と新約聖書ルカ伝の一節を引用した後に、福田はかう述べる。「文学にしてなほこの失せたる一匹を無視するとしたならば、その一匹はいつたいなにによつて救はれようか」。この時確かに、那美ははぐれるでなく社会の中に留まる九十九人のことはさて措いてでも、弾き飛ばされた一匹に飛び込む、文学の―淫らな外延を、福田は到底呑まぬにせよ―映画の音楽の、即ち全ての思想の核となる領域に到達し得てゐた。純然たる極私的な志向なり嗜好でしかないのは千も承知、そのまゝそこから形振り構はず突つ込む覚悟ないしは馬力が、浜野佐知から今回感じられなかつた。商業娯楽作としての体裁と、映画の、あるいは思想の本質。両者を天秤にかけた際に迷はず後者を選び、臆することなく卓袱台を粉砕して済ます苛烈な咆哮を、勝手に望んだ心は残す。

 鏡子に縋りシェアハウスまでついて来る泰安が、二人して駅から出て来るカット。正直かなり際どい別の二人連れが映り込んでゐるのだが、作品テーマに対する妥協を排した結果か、撮り直すなり何なりするでもなく使つてある。単なる、時間なり労力の問題に過ぎないのかも知れないが。流石に、まさか狙つて捉へた訳ではなからうな。   >ダウン症児と母親


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )




 「過剰性欲 ‐エッチな遊び‐」(1991/製作:獅子プロダクション?/配給:新東宝映画/監督:渡辺元嗣/脚本:双美零/製作:伊能竜/撮影:稲吉雅志/照明:田端一/編集:酒井正次/助監督:藤本邦郎/監督助手:所俊輔/撮影助手:片山浩/照明助手:小田求/スチール:津田一郎/録音:銀座サウンド/現像:東映化工/出演:山本竜二・ジミー土田・南城千秋・石川恵美・高樹麗・伊藤清美)。製作の伊能竜は向井寛の変名。監督の渡辺元嗣は、勿論現在渡邊元嗣。
 冬の森の中に加工された鳥の鳴き声が響きタイトル・イン。浮気に臍を曲げた彼女・未来ではなく美樹―クレジットに従ふ―を、マンガみたいなモジャモジャ頭の橘桃太郎(ジミー)が探す。その珍奇な髪型の方便は、最終的に明らかとなる。探し当てた美樹が女装したジミー土田であつた悪夢に飛び起きた桃太郎を、義兄、兼高校の野球部先輩でもある花咲渡(山本)が適当に案じる。妻にして桃太郎の姉・梅子(伊藤)も共有する橘家家系の眠り病に、渡は手を焼いてゐた。姉弟の父親・達郎(山本竜二の二役)は死去し、遺言状を管理する弁護士の早乙女昇(南城)が三人を訪ねる。遺産は三人の子供達に平等に分配するとする遺言に、梅子と桃太郎に渡も首を捻る。金髪であるといふ理由で里子に出された第三子・桜に、生前達郎が風俗店で再会してゐたといふのだ。頭数が増えたところでと高を括つた予想に反し、何だかんだで十億あるといふ遺産総額に驚喜した桃太郎と梅子・渡は、それぞれ美樹(石川)と実は渡の愛人・久美(高樹)にパツキンのヅラを被らせ桜発見を主張。何時の間にか家に上がり込んでゐた早乙女が、金髪女二人が睨み合ふ頓珍漢な修羅場に割つて入る。
 ポスターはどうなつてゐるのか知らないが、クレジットされども出て来ない、衝撃の幕開け以降も順調に迷走する石川恵美ルネッサンス企画。第三回は三度目の正直を狙つた渡辺元嗣1991年第一作、ナベなら安心だらう。してみたところが蓋を開けると金髪ウィッグを被つた石川恵美が、簡単に説明すればバービー人形を模したかのやうな扮装で登場するファースト・カットには、二度あることは三度あるのかと頭を抱へた。二人の桜の真偽を、早乙女がエロ対決で判定するグダグダに底の抜けた展開も、肩の力が抜け過ぎなナベ風味。ところがところが、二人桜も宿泊する橘・花咲両家の夜。渡は梅子と順当に夫婦生活劇中通算第二戦、桃太郎は美樹と致す一方、久美は一人爪弾き。真偽判定第二ラウンド後、くたびれてウィッグを外す美樹を目撃した久美が、自身の偽装も白状した上で寂しさを訴へ麗しく咲かせる百合は、力技にせよしつとりと情感のこもつた名濡れ場。結局、第三ラウンド後に意気投合した美樹と久美が手と手を取り桜探しの茶番から降り、始終が橘三姉弟と渡・早乙女に収束する展開は全般的に粗さの目立つ物語の中で何気に素晴らしく秀逸。何が粗いといつて、桃太郎と梅子がともに見る同じ内容の悪夢に関して、思はせぶりに本物の桜まで噛ませておいて丸投げする豪快さには驚いた、開巻の意味がまるで消滅してしまふ。ナルコレプシーが遺伝性疾患なのかどうかはさて措き、桃太郎と梅子が頻繁に発症する眠り病が―第三ラウンドに梅子を欠場させる効果を除けば―カット尻として以外に機能しないのも惜しいともいへ、その分固定されたオチに対しての、山本竜二七色のツッコミでテンポは快調。何より初めて認識したものであるが、山竜とジミー土田のコンビネーションが抱腹絶倒にして豊潤。瑣末な起承転結の検討なんぞは、この際どうでもよくなる。石川恵美目当てで見た映画で山竜とジミー土田に酔ふといふのも、ルネッサンス企画依然難航中といつた気配ではありつつ、面白かつたからよしといふ奴だ。オーラスはB.B.クイーンズの「ギンギラパラダイス」実曲が堂々と起動、薮蛇なハッピー・エンドをミュージカル風に楽しく締め括る、大らかであつた時代のフリーダムさが堪らない。

 今作側面的な見所は、ロケに出るや不用意、といふか最早無防備に近く映り込むあれやこれや。重機の停まる更地にて繰り広げられる真偽判定第三ラウンド、石川恵美が無謀なパイズリも敢行する美樹と渡の野外プレイ―その頃桃太郎が久美と交戦、要はスワップ対決である―の後方を、普通に車や自転車が往き来するのは序の口、ある意味途轍もないのはクライマックスの舞台となるそこら辺の公園。野次馬気味、ですらなくそのものとして見切れる一輪車の女児が、カット跨ぐと二人から三人に増殖するマシーン現象も大概なのだが、最も凄まじいのはその直前。桜の名を呼びながら公園にやつて来た桃太郎と梅子の、引いた画面向かつて右手。公園に下りる階段の脇でチャリンコを停め体操座りしてるオッサンは一体何者なのか、そんなシュールなショット見たことない。


コメント ( 4 ) | Trackback ( 0 )