真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「タクシー野郎 夜の淫花」(昭和52/製作:ワタナベプロダクション/監督:山本晋也/脚本:山田勉/製作:真湖道代/企画:渡辺忠/撮影:久我剛/照明:近藤兼太郎/編集:中島照雄/音楽:多摩住人/助監督:高橋松広/協力:川崎市 新興タクシー会社 (044)344-5871/特別出演:スピリット オブ ポルノ号/出演:南ゆき・星亜也子・青山涼子・北斗レミカ・徳永レナ・安田清美・中野リエ・しば早苗・久保京子・東あき・野上正義・松浦康・滝新二・土羅吉良・たこ八郎・小川馨・太田隆・久須美護・岡田良・荒木柾明・久保新二)。出演者中滝新二と、小川馨から荒木柾明までは本篇クレジットのみ。代りといつては何だが、ポスターにのみ九九八十一なる謎の文字列が載る、代りの意味が判らない。脚本の山田勉は、山本晋也の変名。スピリット オブ ポルノ号を叩き込んで満足したか、録音や現像その他大胆に端折つてのける、随分なクレジットは本篇ママ。
 現存する新興タクシーの、電話番号も変らぬゆゑ恐らく本社(神奈川県川崎市川崎区)。凄まじく雑多にカットを繋いだ上で、二言目には「新興の倉本」云々大層な啖呵を切る運転手・倉本健二(野上)がボサーッと登場。フロントガラス左下隅にピンナップガールのステッカーを貼つた、愛車の名づけて「スピリット オブ ポルノ号」(以下SOP号)で仕事に出てタイトル・イン、車体自体は別に弄つてゐない。これが往時の標準なのか、それとも川崎固有の特殊事情か。野放図な路駐で激しくせゝこましい往来を、無造作に走り抜けるランダムドライビングを見てゐると無駄か無闇に肝を冷やす。混んだ駅前を嫌ひ、堀之内のトルコ街に回したSOP号を、東あきが停める。ところが実際に乗るのはぢいさん(滝)だと見るや、倉本は華麗か豪快に乗車拒否。曰く、“男の子の古くなつた奴は恐ろし”いらしい。アバンから全篇を貫く野上正義のモノローグが何故か、水谷豊の物真似みたいな朴訥とした口跡。
 あれこれググッてゐると出て来た、『月刊シナリオ』昭和52年二月号の画像に大分助けられた配役残り。尤も、先に白旗を揚げておくと大男役とされる太田隆が、いふほどの偉丈夫も特に見当たらず特定不能。更に、土羅吉良は警官役とあるものの、後述するたこ八パートと、南ゆき×久須美護(=久須美欽一)パート。別個に二人出て来る制服警官が、何れも土羅吉良ではないのも謎。最後に、月シナに記載がなく、jmdbとnfaj、ついでで別館検索にも引つかゝらない荒木柾明には、手も足もぐうの音も出ない。閑話休題、先に進むと星亜也子はホテル街で車を停めた倉本が、「何か突拍子でもねえこと起きねえかなあ」とか漫然としてゐると、SOP号の脇を全裸で駆け抜け正に突拍子ないことを起こす女・ナオミ。グルッと一周したプリミティブが斬新に到達する、天衣無縫な導入には驚いた、山晋矢張り天才かも。岡田良が、逃げるナオミを執拗に追ひ続ける男、仔細一切等閑視。久保京子はオケラでSOP号に乗つたのち、「あたし尺八だけは自信あるんです」と宣ひ倉本を吹く女・釈ならぬ尺八子。息するのやめればいゝのに、俺。久保新二は、息を吐くやうにマスをかき始める中毒症状まで含め、「未亡人下宿」シリーズに於ける尾崎と何もかも同じ造形のバンカラ、月シナによると応援団員。この多分セイガク、トルコに行くのにSOP号を拾ふ、金持つてんな。中野リエは連れのオッサン(知らん)が平塚までと倉本に渡した二万を、初乗りで降りくすねる現金な女。もう少し、大きな役で見たかつた。たこ八郎は、無賃乗車する筋者気取り。そしてa.k.a.愛染恭子の青山涼子が、よくいへば色情狂のヒロタ。何気に、塾長の沙汰も暫し聞かない。松浦康と、小川馨は姿を消したあるいは、外に出しちやいけないヒロタを捜す山本精神病院の白衣。安田清美としば早苗は、SOP号の後部座席でオッ始める百合カップル、しば早苗の固有名詞はサチコ。南ゆきと久須美護は勝手に仕出かす安清・サチコとは異なり、端から過分に支払ひSOP号を逢瀬に使ふ、ある意味紳士的なアベック、久須美護の固有名詞はミツオ。サチコから抜けなくなつたジョイトイをモンキーでヒッこ抜く、倉本に対して矢鱈喧嘩腰な新興整備班二人組のうち、ティアドロップのサングラス越しだと大杉漣似に映る方の声を、久保チンがアテてゐるのと同様、久須りんも主不明のアテレコ。艶のある声色が特徴的な御仁につき、違和感がバクチクする。ビリング四番手ながらポスターを一人で飾る北斗レミカと、徳永レナはタクシーの車内で喧嘩しだしたかと思へば、停車しドライバーが仲裁に入つたどさくさの隙を突き、逃げる性質の悪い遊びを繰り返す常習犯。
 総勢十名の結構豪華な女優部を擁するにしては、完全着衣とはいへ一応ひと濡れ場務める久保京子はまだしも、東あきと中野リエは純粋に不脱。安田清美もサチコをバイブで責めこそすれ、自らは全く不脱。本クレ・ポスターとも最初に名前の来る南ゆきですら、久須りんに跨る尻までしか実は脱がない。半分は脱ぐ南ゆきは0.5でカウントすると、ほゞ半数を温存する贅沢な山本晋也昭和52年第一作、羊頭狗肉ともいふ。
 タクシーの客と運転手が互ひにコノヤローコノヤロー痛快にいがみ合ふ、昭和のワイルドビート爆裂する久保新二篇は双方の間断ないマシンガン罵倒が絶品。何処まで脚本に書いてあつたのか知らないが、仮名尾崎の「信号なんか無視して走れバカヤロー」には声が出た。同じガミさんと久保チンの組み合はせでも、ほかの監督ではなかなか斯くも上手くは行かない辺り、山本晋也ならではの演出のキレなり油の乗り、時代の味方につけ具合といつた何某かがあつたのであらう。行きたい方角を指さす尾崎と、客の指示を見やる倉本が二人で走行するSOP号の窓から頭を外に出し、風を浴びるショットなんてもうまるで何かの間違ひかのやうな、ニューシネマの名作をも思はせる奇跡的なカッコよさ。要はも何も倉本を主役に面白可笑しく見させつつ、気がつくと案外どころでなく薄い女の裸を、まづ本格的に補完するのは愛染恭子に改名後、大ブレイクを果たす青山涼子。劇中季節は真冬―ちなみに封切は一月下旬、となると撮影は年の瀬前後?―であるにも関らず、暑い暑いとザクザク脱ぎ始める天衣無縫なシークエンスを、尊ぶ以外如何なる態度が観客なり視聴者に許されるといふのか。芳醇な男優部に恵まれ多様性には富むともいへ、やゝもすると雑多なエピソードの羅列で木に竹を接ぐに終始する破目に、なりかねないところを。野上正義の弾け続けるドライブ感で、誤魔化すもとい勢ひに任せ走り通した末。藪から棒な謎セダンで現れた岡田良が、何をトチ狂つたか100パー故意でSOP号の土手つ腹に衝突。倉本も倉本で真向から受けて立ち、飛んだり転がつたり落ちたりはしないものの、車同士でガッツンガツン殴り合ふ凄惨なカーアクションが、凡そ量産型裸映画らしからぬクライマックス。果ては大破した二台の車が迎へる、新しい一日の朝日は正体不明のスペクタクルを湛へ、それで車が動くのが不思議な状態の、SOP号でなほ倉本が平然とその日の営業に向かはうとするラストは、形容し難いカタルシスを撃ち抜く。結局公開題下の句で謳ふほど、夜の淫花が咲き誇るでは必ずしもなく、額面通りなのはトラックもといタクシー野郎。人心の沸点が常温より低い、「ドゥ・ザ・ライト・シング」のブルックリンばりにエントロピーの高い爆裂都市・カワサキを舞台に、無頼なタクシードライバーの無秩序な一日を描く。乳尻が四の五のいふより寧ろ、野上正義主演映画の色彩が兎にも角にも色濃い一作である。

 ひとつ無性に気になつて仕方がないのが、倉本がSOP号を停める度に、四つ角の真中で堂々と停まる自動運転ならぬ自由運転。あれ単に、撮り易い方便を優先しただけの話なのかな。


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 「幼な妻 絶叫!!」(昭和51/製作:日活株式会社/監督:白鳥信一/脚本:大工原正泰/プロデューサー:海野義幸/撮影:安藤庄平/照明:直井勝正/録音:橋本文雄/美術:柳生一夫/編集:井上親弥/音楽:月見里太一/助監督:鴨田好史/色彩計測:田中正博/現像:東洋現像所/製作担当者:高橋信宏/出演:渚りな・谷ナオミ・坂本長利・水城ゆう・中原潤・島村謙次・あきじゅん・玉井謙介・木島一郎・北上忠行・賀川修嗣・大谷木洋子・原田千枝子・水木京一)。出演者中、賀川修嗣以降は本篇クレジットのみ。クレジットがスッ飛ばす、配給に関しては事実上“提供:Xces Film”。あと音楽の月見里太一は、鏑木創である旨日活公式が変名を水泡に帰す。
 山梨県都留市ら辺の山中、神社の石段を駆け上がるセーラ服の背中。境内に隠しておいたボストンバッグの荷物で、野外更衣―それとも無縁所着替へ―した十七才の沖本順子(渚)が、脱いだ制服に幾許かの未練も滲ませる。橋のロングにクレジット起動、バスに揺られた富士急行谷村町駅にて、順子は宮脇啓次(中原)と合流。二人で東京に駆け落ち、乗り継ぐ電車の、三本目に割と唐突なタイトル・イン。玉井謙介の不動産屋に紹介された、風呂なし手洗と炊事場は共同の安アパート「曙荘」。初期費用が足りなかつたものの、看板が目についた北沢質店に救はれ順子と宮脇は11号室に転がり込む。カーテンはおろか、布団も持たずに。
 配役残り、水城ゆうは一般的な並びでいふと多分10号室の、華美なお隣・野崎ユキ、キャバレー「ニューサービス」(新宿)のホステス。のち宮脇を店に誘ふ際、「ばつちりサービスしちやふからさ!」とかいふ屈託ない弁を聞くに、さういふキャバレット?大体二年後大平に改姓する北上忠行は、宮脇が働く出光興産成城給油所の店長・井村。一方順子の勤め先は、同僚の梅沢クミ(あき)に執心する水木京一や、津田栄三(坂本)が常連客の喫茶店、屋号不詳。水木京一のある意味邪気のない助平男ぶりが、さゝくれた映画に一滴の潤ひを添へる。最初ナンシー・アレンみたいな頓珍漢なウィッグを被つてゐるのに、軽く頭を抱へさせられた谷ナオミは2ドアの外車でスタンドに出入りする、高級バー(矢張り新宿)のママさん・生田エリ。島謙後述、原田千枝子は、津田が順子に着せる下着を買ひに行く洋品店の従業員。賀川修嗣はその間津田家を訪ねる電気料―劇中用語ママ、普通電気代では―の集金人で、大谷木洋子は津田の不在をカガシューに告げる近所の主婦。そし、て。地味に満を持して飛び込んで来る木島一郎が、エリに身勝手な心を残し高級マンションの701号室をのこのこ急襲した宮脇を、文字通り撮み出す精悍な男。首から上のみならず、下にもドーランを塗つてゐるらしく今でいふ日サロ感覚で全身浅黒い。
 告白シリーズ第一作「をさな妻の告白 衝ショック撃」(昭和48/監督:西村昭五郎/脚本:いどあきお/主演:片桐夕子)と、三ヶ月後同じ面子による多分正調続篇「をさな妻の告白 陶クライマックス酔」。翌年の「をさな妻の告白 失エクスタシー神」(昭和49/脚本・監督:磯見忠彦/主演:立野弓子)が告白最終第三作、二年半強の歳月を経て、二ヶ月前に買取系「幼な妻 初夜のわなゝき」(昭和51/監督:渡辺護/脚本:高橋伴明/主演:早川リナ=渚りな)を挿んでの白鳥信一昭和51年第二作。主演女優的には、代々木忠昭和49年第一作「セミドキュメント スケバン用心棒」(脚本:林崎甚/主演:五十嵐のり子)に於いて大谷リナ名義でデビュー後、早川リナ期を通過、再改名した渚りなとしての水揚げ作にもあたる。通して買取系が主戦場の渚りなにとつて、本隊ロマポは今作と、白井伸明昭和53年第一作「《秘》肉体調教師」(脚本:村田晴彦)の実は二本きり。
 “幼な妻”とは、いふけれど。往時は活きてゐた民法737条(未成年者の婚姻についての父母の同意/2022年削除)に従つた上で、正式に婚姻届を提出し受理されてゐる、訳でもなく。要は単なる同棲に過ぎない、若き二人の日々、束の間の。薄い壁を通し島村謙次(アフター客、なんて自宅には連れて来ないか)に抱かれるユキの嬌声がガンッガン洩れ聞こえる中、その頃津田に捕まつてゐる順子は当然未だ帰宅しない曙荘11号室。宮脇が放置したマンガ雑誌が『週刊漫画アクション』で、いはずと知れた上村一夫『同棲時代』(昭和47~48)の頁が開いてゐたりするのは、流石に臆面もなくか大胆不敵に開き直りすぎかも。
 各々の交替制勤務―と生活―が擦れ違ふほど働けど働けど、口に出来るのは食パンと即席麺ばかり。逆の意味で順調に煮詰まる貧しい暮らしの火に油を注ぎ、宮脇が外に女を作る―正確には受動態―どころか、偏執通り越して変質的な津田に、順子は犯される。「失エクスタシー神」の六年後、当時バチバチのアイドル的人気を博した“大明神”原悦子がビリング頭に座る無印大作にして、白鳥信一昭和55年第三作「をさな妻」(昭和55/脚本:鹿水晶子)も想起するとなほさら、あたかもヒロインを心身とも酷い目に遭はせるのが、幼な妻フォーマットなのかと呆れさせられ、ながらも。
 手と手を取り故郷を捨てた筈が、侘しい暮らしに疲れ、何時しか二人の心は離れて行く。挙句の果て、の斜め上だか下。津田が及んだ二度目の凶行から、そのまゝ順子を―恨み節を窺ふに恐らく親の死んだ―実家に拉致する。ありがちな青春残酷物語が、いはゆる監禁飼育ものに転換する衝撃的な展開に、度肝を抜かれるのはそれでも些かならず早いんだな、これが。理不尽な凌辱に曝された女が、それまで知らずに生きて来た性の悦びに目覚めて行く。所詮昭和の昔日を方便に垂れ流された、箍の外れたファンタジーでなければ底の抜けたミソジニーでしかなく、現在の鑑賞には一欠片たりとて耐へ得る代物では土台ないにせよ。兎も角、兎に角力業にへべれけを合はせるクロスカウンターばりの超作劇で、映画がまさかのグルッと一周。順子の伴侶が宮脇には非ず、よもや津田との組み合はせで、思ひのほか綺麗な幼妻噺に着地しようなどとは。それこそ、あるいはこれぞ正しくお釈迦様でも案件。事そこに至る過程を断じて肯んじ難い点に目を瞑ると、空前絶後のアクロバット結末には滅多にない強度で吃驚した。無論、瞑れるかバカタレ、といふ全否定に対して、異を唱へるつもりも毛頭ない。最早それで、別に構はない、保守なのに。あと、枝葉に弾ける徒花にも目を向けると、正真正銘卓袱台を引つ繰り返す、渚りなのスキヤキキックが大笑必至。実際脊髄で折り返した速さにも映る、坂本長利の熱がりぶりは果たして芝居であつたのか否か、マジ火傷するぞ。裸映画の旧弊を等閑視する、天より高いハードルさへ超えられれば、なかなか以上に面白い一作。公開当時ジャスト五十歳、好々爺と称するには些か早い気もしつつ、水京の微笑ましい好色漢ぶり以外の見所で、縄のかゝらない谷ナオミの爆乳も、タップンもといタップリ堪能させる。

 元々マリに買はれたのも順子が心密かに望む、東京美容専門学院の入学費用を捻出する目的で、軽く匂はされかけた三番手による逆転救済も、結局実らず仕舞ひ。最終的に全てを失つた宮脇がたゞ独り取り残される、ナカジュン一人負けの様相をも、何気に呈しなくはない。


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 「痴女昇天」(昭和52/製作:ワタナベプロダクション/配給:日活株式会社/監督:中村幻児/脚本:中村幻児/製作:渡辺輝男/企画:渡辺忠/撮影:久我剛/照明:近藤兼太郎/編集:竹村編集室/音楽:山崎良平/記録:前田侑子/助監督:高橋松広/効果:中野忍/美術:軽沢美術/スチール:津田一郎/製作進行:大西良平/製作担当:一条英夫/衣裳:富士衣裳/小道具:高津映画/タイトル:ハセガワプロダクション/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東洋現像所/出演:杉加代子・中野リエ・高鳥亜美・青山涼子・鶴岡八郎・国分二郎・楠正道)。出演者もう一人、吉田一郎がポスターにのみ載る。製作の渡辺輝男は、渡辺忠(a.k.a.代々木忠)の本名。渡辺輝男はといふか、渡辺輝男もといふか、も?
 WP印のナベプロロゴに続き、ヒャッハヒャッハ単車を駆る三人組のバイカーにサクッとタイトル開巻。尻(ケツ)に高鳥亜美を乗せた国分二郎の多分中型と、125ccですらない、楠正道のダックス50が一緒に走らうとするツーリングに土台無理がある。兎も角クレジット明け、てつきり高鳥亜美は国分二郎のスケかと思はせ、弟分の楠正道から乞はれると怒るでなく、案外平然とシェアする仲のいゝ穴兄弟ぶり。エンストした2ドアのボンネットを開け、途方に暮れる青山涼子(ex.青山涼子で愛染“塾長”恭子)の脇を、三人が通りがかる。エンジンを見るフリとか適当にしがてら、国二と楠正は塾長に食指を動かす。一方、後部座席に二代目社長の鶴岡八郎と、後妻のレイコ(杉)。運転手の谷山(吉田)がハンドルを握り、助手席にはお手伝ひのメグミ(中野)が座る高級セダン。山中の別荘に到着すると運転手が東京に何の仕事を残してゐるのか、谷山はとんぼ返りで帰京。名残を惜しむ、メグミと谷山はデキてゐる風情を窺はせる。さて措き、今回鶴八一行の三人が繰り出したのは、レイコの誕生日祝ひ。メグミの悲鳴に二人が風呂場に駆けつけると、風呂桶で全裸の塾長が意識を失つてゐた、そら吃驚する。ところ、で。俳優部は吉田一郎までで全員出揃ひ、配役は残らないが、軽く面長にした天川真澄(ex.綺羅一馬)、あるいは山西道広的な。見る前は字面で吉岡市郎と勘違ひしてゐた、吉田一郎の風貌に何処かで見た既視感を覚え、画像でググッてみると若き渡辺忠、の要は変名。この時代の買取系なりピンクに、なかなかこの期に手を出しやうもないけれど、チョイチョイ俳優部に紛れ込んでゐておかしくなささうな、ビジュアル込みの手堅さをヨヨチューが何気に披露する。
 改めて後述するが、プロトタイプ的な中村幻児昭和52年最終第七作。本隊ロマポには絶対つけないであらう、公開題のぞんざいさがある意味清々しい。
 そこの仔細は豪快にスッ飛ばし、拉致つた塾長を監禁凌辱するのに鶴岡別邸を拝借してゐた国二一行が、葱を背負つた鴨と富裕層の休日もジャックする。スッ飛ばす割愛自体に、実は蓋然性がなくもない。そのまゝ大人しく、さんざ女々を嬲る犯すに、徹して呉れればいゝものを。所謂“資本家の豚”的な、今となつてはノスタルジの対象とさへなりかねない、教条的な憎まれ口を国二が長々叩きだすと逆の意味で順調に、中盤から映画は躓き始める。荒淫の前妻にさんざ虐げられたかと思へば、上手いこと交通事故でオッ死んで呉れ迎へたレイコが、今度は不感症だつた。繋げなくていゝバトンを国二から貰ふ形で、鶴八も延々恨み節を垂れるに至つては、男優部の長広舌なんぞどうでもいゝ、もつと濡れ場を真面目に見せんか、と完全に匙を投げかけた。尤も、呆れる勿れ四分延々愚痴つた末、自力で鶴岡社長が拘束をパージした際には―空費したかに思はせた尺を―回収してのけた!と一旦感心させる。重ねて、もしくは火に油を注いで。破瓜を散らせたつもりのメグミが、処女でも谷山が二人目―恐らく鶴岡八郎で六人目―でさへなく。挙句レイコからは短小包茎早漏の役満罵倒すら浴びるに及んでは、まるでこの御仁が主役の、鶴八残酷物語の様相をも呈する。何れにせよ、ピンクか買取系なら全員ビリング頭を狙へさうな、攻撃的な女優部のみならず。革のバイクスーツがカッコよく似合ふ、国二と楠正も擁してゐながら。もう少し小気味よく、女の裸を畳み込めなかつたものかと消化不良感を最も強く、残すものかと思ひきや。そこかしこに否み難い無理は、好意的に評価―か等閑視―するならばこの手の作劇に於いてデフォルトの初期装備。知らぬはメグミばかりな、全てを引つ繰り返しはする無体な種明かしに落とし込む。全般的に個々のシークエンスのエッジと展開のキレに欠き、ラストも衝撃といふよりは、木に竹を接ぎ具合の方が上回る。それは果たして、上なのか下なのか。整理すると、外界から隔絶された山小屋を舞台に、過分にバイオレントな乱交の果て、アッと驚く大どんでん返しが爆裂する。要は、総合的な完成度が派手に劣る点まで踏まへるとなほさら、買取系を二本残しての中幻ピンク最終作「ザ・SM 緊縛遊戯」(昭和59/脚本:吉本昌弘)の、素案と看做してさうゐなささうな一作。といふのが、先に触れた試作のこゝろである。
 備忘録< 全部誕生日の余興


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 「欲情セレブ妻 いやらしい匂ひ」(2023/制作:VOID FILMS/提供:オーピー映画/脚本・監督:山内大輔/特殊メイクアップ&造形:土肥良成/劇中画:只埜なつみ/撮影監督:中尾正人/録音:西岡正巳/編集:山内大輔/音楽project T&K・魔王魂/ラインプロデューサー&助監督:江尻大/助監督:菊嶌稔章・小関裕次郎/DIT:石川真吾/撮影助手:榮穣・林遥南/監督助手:神森仁斗/ドライバー:モリマサ・赤羽一真/効果・整音:AKASAKA音効/ポスター:加藤彰/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:山岸逢花・只埜なつみ・美園和花・豊岡んみ・安藤ヒロキオ・小林節彦・モリマサ・加藤絵莉・杉浦檸檬・八ッ橋さい子・福山理子・須藤未悠)。面倒臭いゆゑ日本語で打つたが、実際の本篇クレジットはアルファベット、サトウトシキか。
 大書のタイトル開巻明け、轟然と飛び込んで来るのは三番手の爆乳。これぞピンク映画、カット跨ぎのオッパイに勝る、カタルシスが宇宙に果たして存在する哉。ギターウルフ的に底を抜いた真理はさて措き、旧姓江口の入婿・雅之(安藤)が家政婦の尚代(美園)を憚りもせず抱く一方、会長職に退いた父親に強ひられ、現社長の雅之と強制結婚、したといふかさせられたけれど。夫婦関係を持つつもりなど端からなく、もしかすると明示こそされてゐないだけで真性ビアンかも知れない、妻の神宮寺綾乃(山岸)は観音様にしか見えないアクリル画を前に軽く昂る。前職が女性限定会員制クラブ「PIERCING」の百合デリ嬢であつた尚代から、足の指舐めはおろかハモニカまで吹いて貰ふ性感マッサージを受けがてら、綾乃はアクリル画の作者で、芸大の同窓生・白井朱美(只埜)との逢瀬を想起する。こゝで三本柱が、順に恐らく最初で最後の賑やかし作「若妻ナマ配信 見せたがり」(2020/監督・脚本・編集:佐藤周)と、吉行由実監督生活二十五周年記念作「ママと私 とろけモードで感じちやふ」(2022/主演:花音うらら/モブ)に、古澤健ピンク映画第二作「怪談 回春荘 こんな私に入居して」(2020/主演:石川雄也/三番手)ぶりの全員二戦目。現時点で山岸逢花のみ、三本目となる髙原秀和大蔵第七作に継戦してゐる。
 配役残り森羅万象、でなく小林節彦が、件の綾乃父。多分一人娘である綾乃の、母親は二十年前に死去、遺影も見切れず。モリマサは、実家が太い訳でも別にない模様の朱美が、学生時代から元倉庫をアトリエ用に月二万五千円で借りる、判で捺したかの如く「ハッピー不動産」の高田。ところでその破格家賃、大島てる物件かね。新入生の時既に目をつけてゐた綾乃―綾乃は放送学科で、朱美は美術学科―が四年生になつて、朱美のバイト先である男子禁制のビアンバー(屋号不詳)の敷居を跨ぐ本格的な二人の出会ひ。まづ山内大輔2020年第二作「つれこむ女 したがりぼつち」(主演:桜木優希音)以来の杉浦檸檬が、朱美に煙草の吸ひすぎを窘めるパイセン店員。たゞその件、もしくは藪蛇な造形。嗜まない俳優部に下手な煙草を吸はせる悪弊は、いゝ加減国際条約で禁止すべきではなからうかとも思ふ。加藤絵莉と福山理子は、本格的に催したのか手洗でオッ始めてのける、カウンターのカップル客。気づいた杉浦檸檬の、声は発さず口の動きで「ヤッてる、ヤッてる」が激しく可笑しい。須藤未悠は、杉浦檸檬と会話を交すカウンターもう一人客。綾乃と雅之の、結婚式招待状を手に朱美が黄昏る、元職場のビアンバー。豊岡んみが、変つてるつてよくいはれてさうな、エッジの効きすぎた闇もとい病み店員・エミリ、どつちでも変らんか。あと特殊メイクは、箍の外れたマゾヒストであるエミリの文字通り痛々しい腕の噛み傷で、八ッ橋さい子は須藤未悠と同じポジのカウンター客。その他、流れ的には豊岡んみ登場の直前。大学卒業後、アート系グラビアアイドルとして一時的に本名で活動してゐた朱美を、とちぎいちごテレビ局女子アナの綾乃が取材する一幕、現場にカメラマンと照明を当てる二人見切れる。
 ピンク初でDIT“デジタル・イメージ・テクニシャン”がクレジットされる、四ヶ月強フェス先した山内大輔2023年第一作。尤もDITが、実際どういふ作業をしてゐるのかは知らんがな。
 ジャッロ感を明快に嗜好もしくは明確に志向したと思しき、毒々しい極彩色で彩られる鮮烈通り越し苛烈な百合万華。何はともあれ女の裸的には、山内大輔が腹を括つた堅調を堅持。隙あらば放り込む往時の回想込みで、季節を忘れたかのやうに百合が狂ひ咲き続け、僅かなヘテロを介錯する男優部も主に安藤ヒロキオと、気持ち小林節彦、何れにしても穴は開かない。印象的なアクリルの下駄も履き、ドギツい色調は作品世界の狙つたトーンと、力任せの煽情性を共々加速。申し分なく勃つ、どちらかといはずとも平素は逆の感興を覚えがちだが、寧ろ画に対する劇伴の非力をも感じさせるほど勃つ。片や劇映画的には、神宮寺が―下心限定の―テレパスで“創造的な妄想”を朱美に見抜かれた際、小林節彦の地力が爆裂する圧巻の目芝居。そして何より、只埜なつみが空前のソリッドとエモーションを敢然と撃ち抜く、「愛してないなら、綾乃あたしに返して」の極大名台詞には度肝を抜かれた。山内大輔はまだしも、只埜なつみがいゝ意味でとんでもねえ。ヤバいシークエンスを観た、凄い映画を観た。未だ半分も小屋に辿り着いてゐないうちに、2023年ベストを決定してしまはうかと思つた、一旦。
 さうは、いふてもだな。この物語、最初から朱美は神宮寺会長をその御仁と知つた上で、狙ひ撃つてゐないと展開が成立しないやうに思へつつ、その辺り、絶妙に堀が埋めきられてあるとはいひ難い。恵まれ倒した境遇に要は胡坐をかいてゐた綾乃と、苦しみながらも、戦ひ抜いて来た朱美。人物造形の対照がよくいへばそのまゝ反映されてゐなくもないにせよ、ビリング頭が名前の大きさ以外、超新星伏兵の二番手に何もかも負けてゐる。破綻したビリングが映画全体の均衡に、影響を及ぼさぬ筈もあるまい。最終的には手放しの傑作には些か遠い、攻めきれてゐない余地も否み難い一作ながら、昔日のピンク大賞が健在であつたならば、只埜なつみの助演女優賞は鉄板中の鉄板、まづ間違ひなからう。そのくらゐ吃驚した、引つ繰り返るかと思つた。

 あと何気に特筆すべきは、劇中に限つても三人着床。尚代と朱美に至つては二発二中の雅之が自慢していゝ、一撃必殺もとい必生の種馬属性。


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 「女子大生 三日三晩汗だらけ」(昭和54/製作:千鳥と宝石/監督:山本晋也/脚本:山田勉/原作者:市原安夫 大阪日日新聞連載『体験レポート女子大生の性』より/製作:千鳥文子・久保新二/撮影:笹野修司/照明:近藤兼太郎/音楽:翔べない鴉/編集:田中治/記録:豊島睦子/助監督:中山潔/監督助手:柴田ゆう/撮影助手:藤家力/照明助手:森信太郎/録音:SMスタジオ/効果:サウンド効果/現像:東映化工/協力:大人の玩具 渋谷 ファッションドリーム/出演:桂たまき・結城マミ・与那城ライラ・北沢ユキ・西野幸子・杉佳代子・加倉井次郎・堺勝郎・久保新二/特別出演:千鳥文子)。出演者中、加倉井次郎と堺勝郎がポスターでは加蔵井次郎と堺勝朗。加蔵井姓に関しては、シンプルな誤字かと思はれる。同じくカメオの千鳥文子は本篇クレジットのみで、代りといつては何だが、ポスターに載るたこ八郎が本クレで抜けてゐる謎の均衡。脚本の山田勉は、山本晋也の変名。クレジットがスッ飛ばす、配給は実質“提供:Xces Film”。
 無駄に、もとい馬鹿に綺麗な桜の並木道。セイシン女子大学の風俗学助教授・江川卓郎(久保)と、四度の再試験を経てなほ風俗学の単位を取れない、女子大生の左から福永百恵(結城)・長嶋淳子(桂)・掛布郁恵(与那城)が歩いて来る。江川と長嶋に掛布は当然判るけど、福永といふのは誰の苗字なの。小言の弾みで江川の口をついた、“三日三晩”の単語に三人が何故か喰ひつく木に竹を接ぐ流れで、勿論内部視点の観音様模型にタイトル・イン、外側からだと怒られる。当時流行してゐた「Mr.Boo!」シリーズぽさでも狙つたのか、タイトルバックに流れる事実上の主題歌と、劇中の挿入歌が広東語歌謡。タイミング的には今作のちやうど一週間後が、本邦公開順では二作目となる「インベーダー作戦」の封切り日。
 その他店子が一切出て来ないゆゑ、セイ女の寮なのか一般賃貸なのか微妙な、兎も角三本柱が暮らす「ひとみ荘」。わざわざ江川が訪問講義して呉れるといふのに、淳子はトルコ風呂のアルバイトに行く身支度、百恵も百恵でお馬さんの勝負がしたい。一方、いやらしい通り越し軽くでなく恐ろしい勢ひでマスターベーションに文字通り乱れ狂ふ、郁恵に置手紙を残し二人はひとみ荘を脱け出す。基本郁恵が普段から概ね常にキレてゐる造形の、与那城ライラの面相が正直怖い。
 かといつてその頃江川が、ひとみ荘に向かつてゐる訳でも別になく。配役残り、連れ込みにて江川と真最中の北沢ユキは、娘をセイ女に入れたい田淵婦人。要は裏金ならぬ、枕入学といふ寸法。たこ八郎が、妹の百恵と競馬に勤しむ予想屋。この人等兄妹にしては、百恵が外した損失を特に勿体つけもせず、たこ八兄貴に体で払ふ結城マミ第一戦。禁忌ないし人間性の喪失といふ重大なモチーフを、裸映画の方便で事もなげに無効化してのける。ほんのチョイ役ながら、マッシュルームな髪型が爆発的に可笑しい堺勝郎は、特殊浴場に於ける淳子のお客、源氏名と店の屋号は双方不明。江川に挨拶すべく、正真正銘顔だけ見せる西野幸子が、田淵婦人がセイ女に入れたい娘のヒロコ。ひとみ荘の表で郁恵と再会する、詰襟の加倉井次郎は以前郁恵が家庭教師してゐた、高校生の太平一郎。そして、実にスマートに飛び込んで来ては、一ネタこなすやチャッチャと捌ける。見事な一撃離脱を披露する千鳥文子が、間違へて江川の部屋にフロントが寄越した、倅を法政に入学させたい若松婦人。田淵と若松ともども、婦人と夫人の別は別に触れられない。一言で片づけると、所詮昭和の所業。結構終盤まで温存される、杉佳代子は太平君のお母さん。役名を併記して呉れるのが有難い、本篇クレジットでは“教育ママ”。ついでで若松は劇中さう名乗りこそすれ、本クレは“特別出演”、ヒロコも“その娘”、田淵婦人は本クレまゝ。
 数本の買取系とピンクに出資してゐる謎女史・千鳥文子の、恐らくフィルモグラフィの嚆矢たる山本晋也昭和54年第四作。大登場を果たす御当人のザックリした印象としては、気持ちふつくらした杉佳代子のやうな普通に美人。
 杉佳代子に男子のマスの掻き方を性教育しがてら、カットバックのどさくさ紛れに杉佳代子自身もバイブで責める。ガイゼンセー、何それ、新番組のロボットアニメ?とでも嘯かんばかりの、腰を据ゑるか開き直つた態度で、ひたすらに絡み絡みを畳み込み続ける間隙を、何処まで脚本に書いてあるのか何時も不思議な、久保チンのマシンガン舌先三寸で埋め尽くす。立て板に水の話術の中に沈む、慎ましやかな決め台詞。「鮫肌のやうな餅肌」といふ小ネタの、初出は全体どの映画になるのだらう。百恵の発案による、憐れ終に江川が干物になつてしまふ、女子大生三人に対し助教授一人の、三日三晩汗だらけの大乱交。豪勢な酒池肉林が羨ましいより寧ろ、徐々かつシリアスに消耗して行く江川の様子が結構本気で痛々しい。壮絶どころか凄惨な締めの濡れ場といふ怪体な代物にも、なかなかお目にかゝれないやうに思へる。物語なり主題といつた、ある意味小癪な観点から相対するにはそもそも当たらない一作ともいへ、映画が偶さか爆ぜるのが、「ストリップに於ける歴史学的考察とフロイトについて」とかいふ標題の、江川が最初は本当に風俗学しようとしてゐたひとみ荘講義。悪態つき続ける郁恵を筆頭に、まるで真面目にも満足にも聞いちやゐない、三人のふざけた態度に江川が激昂。矢継ぎ早に淳子と郁恵を、頭突きで卒倒させる出し抜けで出鱈目なバイオレンスが大笑必至、声が出るほど面白い。

 一人辛くも難を免れた百恵は、尺八を命ぜられ大人しく吹く。


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 「女子学生 危険な遊戯“あそび”」(昭和54/製作:幻児プロダクション作品 昭54.10/配給:ミリオンフィルム/監督:中村幻児/脚本:吉本昌弘/企画:才賀忍/撮影:久我剛/照明:森久保雪一/助監督:岡孝通/編集:酒井正次/音楽:山崎憲男/記録:平侑子/撮影助手:渡辺秀一・倉本和人/照明助手:宮沢学/録音:ニューメグロスタジオ/効果:ムービーエイジ/現像:ハイラボセンター/出演:日野繭子・朝霧友香・坂下めぐみ・外波山文明・矢野健一・杉崎宏・尾形秋夫・加倉井和也・市村譲)。出演者中、矢野健一から三人は本篇クレジットのみ。企画の才賀忍は、中村幻児の変名。
 東西大に通ふ女子大生のマキ(日野)と、同棲相手で未だ予備校生のタカオ(加倉井)が駅前にて軽目の痴話喧嘩。二人で同じ電車に乗る、駅のホームに憂歌団起動。タカオが代ゼミに向かふ、往来にタイトル・イン。とはいへ、もしくはモラトリアム。予備校をバッくれたタカオが、青電話をかける画でクレジットは俳優部に突入、一方マキはキャンパスに。鏡に映つた、女の下半身に中幻クレ。尻に手を伸ばす指が矢鱈細く白く、予想外の百合かと面喰らひかけたところ、単に加倉井和也の指が馬鹿に綺麗なだけだつた。
 配役残り、濡れ場の火蓋を切る坂下めぐみは、タカオが自宅に連れ込む浮気相手のタエコ。マキとも旧知の、少なくともタカオとは高校の同級生。この人は、あるいはこの人も浪人した末、結局短大に進んだ口、マキも現役生ではない模様。翌年監督デビューする、市村譲はマキの浮気相手、教授としか呼称されない、多分英文科。互ひの生活に対する不干渉を宗に、マキとタカオはある程度融通無碍な関係。更にマキが教授から得た要は愛人料で、二人暮らしを賄ふ生計、月々幾らふんだくつてるのよ。バンダナに長髪、のち市村教授(仮名)からはインディアン扱ひされるフラワーな外波山文明は、マキとタカオに加へタエコも常連のバー「ひげ」のマスター・キンちやん。アホみたいに若い、アホとは何だ。公開年が、最早四十五年前ともなる冷酷な現実にクラクラ来る。昭和さへ遠く、なりにけり。「君みたいな娘には、滅多にお目にかゝれないよ」。朝霧友香は助教授ならぬ譲教授(だから仮名)が、常套の口説き文句で劇中マキ以外に手をつける、女学生B。尤も名前の重さは兎も角、マキは知らなかつた噂される<パイプカット>を繋ぎこそすれ、所詮一戦交へると御役御免の朝霧友香が要は絡み要員に過ぎず、実質三番手のきらひは否み難い。その他「ひげ」の客で、女二人含め若干名投入される。その中本クレのみ隊は、マキを雑に口説きがてら、服の上からオッパイも突く坊主頭と、クライマックスの遊戯“ゲーム”に、タカオと教授にキンちやん以外で参加するもう二人か。マキが一貫して口にする用語が“ゲーム”である以上、公開題も読み仮名は“ゲーム”とふるべきであつたとしか思へない。
 ちぐはぐなビリングの火に油を注ぎ、ポスターも日野繭子より更に大きく朝霧友香が飾る。何時の時代の、何処の会社。御多分に漏れずミリオンも大らかかへべれけな、中村幻児昭和54年最終第十三作。
 タカオとの仲いゝ小競り合ひの最中、マキが覚えた嘔吐の発作は悪阻で、妊娠二ヶ月だつた。その旨告げられると、切札たる事実を何故かか意地悪く秘しつつ、“処理”の用語も平然と口にする教授に対し、タカオは父親すら問はず手放しに喜んだ。胎児込みでマキを間に挟んだタカオと教授に、今度は逆にタカオを巡るマキとタエコ。二つの三角関係が六芒星を成す構図を、下手にカットを割らず、台詞にも頼らず。フレームの端で日野繭子に顔色を静かに変へさせる、キレッキレの演出で加速しながらも。かといつて、ドラマを物語るのにうつゝを抜かし、ピンクの本義を疎かにするでなく。酔ふと戯れに「ひげ」で脱ぎ始め、偶さかにキンちやんとも寝る。マキの奔放な造形の下駄も履き、案外従順な裸映画といふ印象がひとまづ強い。それでゐ、て。正しく全てを引つ繰り返す、衝撃の告白でタカオ―と観客ないし視聴者―の度肝を抜くや、ビクワイエットの仕草で微笑む日野繭子の、画期的にスマートなショットを叩き込んだ上で、鏡の中カラカラ回る、ベッドメリー挿んで暗転終。一瞬の隙を突き丸め込む、クラッチ技にも似た鮮烈な結末が出色。サクッと快い余韻は、小屋で観てゐたならなほ格別であつたらう。


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