真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「往診女医の疼き 介護恥療」(2001『未亡人女医 極秘裏責め』の2009年旧作改題版/製作:サカエ企画/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:岡輝男/企画:稲山悌二《エクセスフィルム》/撮影:千葉幸男/照明:高原賢一/編集:酒井正次/助監督:加藤義一/スチール:佐藤初太郎/音楽:レインボーサウンド/監督助手:北村隆/撮影助手:池宮直弘/照明助手:石井拓也/効果:中村半次郎/録音:シネキャビン/現像:東映化学/出演:松井はるか・林由美香・椎名みなみ・なかみつせいじ・久須美欽一・竹本泰忠・佐々木恭輔・丘尚輝)。出演者中竹本泰忠が、ポスターには竹本泰志。泰忠自体が泰史の誤字で、何れにせよ全部間違つてゐる、丘尚輝は本篇クレジットのみ。
 小野寺由美(松井)の開業する皮膚科と泌尿器科の医院で、丘尚輝(=岡輝男)がカンジタの診察結果を受ける。小ネタとして、逆に爽やかだ。後にもう一名、間違ひなくスタッフの何れかが(再見注:加藤義一)矢張り患者役として見切れる。その日の診察はそれで終つた由美を、岸田淳也(竹本)が訪ねる。パソコンの調子を見て要件を済ませた岸田から口説かれるが、由美は躊躇する。由美の夫・章吾(なかみつ)は海釣りに行つた先で高波に浚はれ、遺体は未だ見付かつてゐないまゝに、死亡したものとされてゐた。そして岸田は、章吾の親友だつた。とか何とかで大人の、女と男の湿つぽいドラマを繰り広げられるのかと思ひきや、それはそれとして岸田が勃起不善気味なので看て呉れないかといふ段にもなると、何だかんだと四の五のいはせずオッパイもといオッ始めてみたりなんかする。底の抜けた大らかさではあるのだが、今作に於ける決定的な要因は、主演女優が新田栄映画にしては信じられないほどに、画期的に美人であること。微妙に所在なさげな辺りが、極私的なツボにクリティカル・ヒットした、などと明かしてしまへばそれこそ実も蓋もないが。擬似の筈の割には、何となくリアルな喘ぎ顔も、即物的なることを包み隠しもしない小生には又そゝられる。松井はるかの存在の前に、今やあらゆる自堕落も何の問題も感じさせずに通る。稀にだかあるいはしばしばなのか、映画にはさういふ時もあらう。情動が論理を斥ける横紙破りも、時に許してしまへ。
 由美が石川幹彦(久須美)の下に往診に向かつての一幕が、また狂ほしく素晴らしい・・・・素晴らしいか?いいんだよ、素晴らしいんだつてば。若い頃には絶倫を誇つたとはいへ、現在は打ち止めた石川に対し、由美が新しい治療方法を考案したといふかと思ふと、次の瞬間にはやをら自ら服を脱ぎだし「夫が死んでずつと寂しかつたの」、「私の体、慰めて」と絡みに突入。本来ならば大概粗雑であるところなのだが、ここは迷はずエクセレント。とはいへ矢張り勃つこと叶はぬ石川に由美が向ける、聖性さへ漂はせる慈しみに溢れた眼差しこそが全てだ。改めてお断りする、俺は謹んで松井はるかに騙されようと決めた、後に続けとはいはないが。医院の看護婦・三田まどか(椎名)が関係の冷却傾向にある彼氏の佐藤道隆(佐々木)と、由美のアドバイスを受け習得した性戯でヨリを戻す件は正直不要ではあるけれど、まあいいや。催してゐれば、そこで我慢せずに手洗ひにでも行けばよい。もしくはつまみでも買つて来て、小屋に金を落とすか。街で章吾とソックリの男(勿論なかみつせいじの二役)を見かけた由美は、衝撃を受ける。
 主人公が遭遇した、事故死した形になつてゐるものの、遺体は未発見の亡夫と瓜二つの男。そこからファンタジーなりサスペンス的要素を膨らませることなど一欠片もなく、単なる他人の空似に過ぎない男・神崎浩之は、妻・美子(林)は九州に残し単身赴任中の身であつた、といふかでしかなかつた。とかいふ拍子も抜ける展開はある意味といふか別の意味で流石だが、そんなこんなもだから全てさて措け。何度か接触した上で仲良くなると、ひとまづ食事でも振舞ふといふ流れで、由美は神崎を家に招く。庭で食後の茶でも飲みながら、由美が泌尿器科医といふのを知つた神崎がおづおづと早漏の悩みを打ち明けたところ、屋内へ場所を移してカウンセリングに。「私の治療、受けてみますか?」、「是非」といふ遣り取りからカット変るといきなり二人とも全裸のベッドの上で、由美が神崎の股間に顔を埋めてゐたりなんかする新田栄超絶の速攻には、驚かされたり呆れ果てる以前に、最早ここは拍手喝采だ。光速の壁を越えた映画が、時間の流れさへ止めてみせればいい。刻み込め、松井はるかを永遠に刻み込め。これで別に、自棄を起こしてゐる訳ではないぞ、多分。
 夫に会ひに来た美子の姿を目撃し神崎、と章吾に踏ん切りをつけた由美は岸田の求愛を受けながら、相変らず石川を往診しては肉弾本番治療に勤しんで呉れたりする辺りは、傑作だなどとは口が裂けてもいへぬがケッ作。しかもそれが締めの濡れ場と来た日には、岸田的にはまるで立場を失くしかねないとしても、ここに石川が男性機能を取り戻すといふエモーションを設けて来る辺りは、羽目を外しつつも地味に堅実といへるのかも知れない。あるいは、若い色男よりは主要客層により近からう久須美欽一をラストに持つて来るべきだといふ、更なる賢慮が働いたものなのか。

 新題に際して、本来看板の筈の“未亡人が”消え代りに“介護”なる文言が差し挿まれた点には、エクセスなりに時流を酌んでみた、とでもいふ格好なのであらうか。あるいは久須美欽一に捧げた、ハチャメチャなカウンターか


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 「痴漢の指先 やめないで」(1989『痴漢電車 やめないで指先』の2008年旧作改題版/企画:㈱旦々舎/配給:新東宝映画/監督:浜野佐知/脚本:山崎邦紀/撮影:稲吉雅志・佐藤和人・渡辺保彦/照明:秋山和夫・田中明/音楽:藪中博章/編集:金子編集室/助監督:毛利安孝/車輌:金子高士/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東映化工/出演:今井かんな・桐沢愛・南崎ゆか・成田誠・小多魔若史・米田共・中村憲一・久保新二)。照明が、ポスターでは何故か出雲静二。出演者も、これまた輪をかけてやゝこしい。久保チン・米田共・中村憲一の三名は本篇クレジットのみで、代りにといふか何といふか、ポスターには結城呂庵なる如何にも変名臭い正体不明の謎の名前が載る。それやこれやはさて措き、“やめないで指先”といふ旧題は、当時のピンク映画としては画期的に洗練されたものでもなからうか。そこからいふと、新題は残念ながら数段劣る。
 笑子(今井)はルームメイトの悠希(桐沢)に、サドルに穴を開けシートチューブ側からバイブを通した、笑子スペシャルの改造自転車を披露する。苦笑気味の悠希に対し、生身の男は面倒だとすら豪語する筋金入りのオナニーマニアである笑子は、颯爽と跨るや愉悦に震へながらも走り出す。流石に二十年前ともなると清々しく若く、さうすると黒沢年男も少し入つてゐる久保チンが店長の㈲国際事務センター赤坂に、個人でデザイン事務所を営む笑子が名刺作成の注文に訪れる。蛇の道は蛇と、久保チンは笑子をマークする。一方、電車内にて、憐れな被害者(南崎)が久保チンを筆頭に、小多魔若史・米田共・中村憲一の計四人からなる痴漢師軍団の餌食になる。残りのメンバーは、内藤忠司に鼻髭を生やした感じで久保チンと同年代の小男と、若い男に年配の男であるが、何れが何れかであるのかは、全く以て特定不能。本業はエロマンガ家である小多魔若史と、米田共はそれぞれ別の旦々舎作にも出演があるやうなので、どうにか出来れば今後詰めて行くほかない。続いて痴漢師軍団が接触した女は、何とバイブを挿したまゝ電車に乗つてゐた。女が笑子であることに、久保チンは重ねて驚く。出演者残り成田誠は、啓蒙目的で笑子に貸し出されもする悠希の彼氏。
 詰まるところ笑子が生身の男に、悠希は悠希でバイブにも目覚めるだけが着地点の物語に、これといつた中身は別にない。今作兎にも角にも特筆すべきは、エクストリームに過激な撮影。笑子は一度、南崎ゆかは都合三度の電車痴漢は、挿入こそしないものの女優部は殆ど裸にヒン剥かれるので、てつきりよく出来た電車セットを擁しての撮影かと思つて観てゐたところが、車窓の外に流れる景色を見るに、これは営業運転中の実車輌内での撮影か、何と勇敢かつ攻撃的なチャレンジャーなのだ。更に凄まじいのが、久保チンに尾けられてゐるのにも気づかず、笑子が一人で遊園地へと露出遊戯に赴く件。観覧車内での全裸オナニーといふ怒涛の飛び道具に加へ、そんな笑子の痴態に久保チンが別のゴンドラから望遠レンズを向けるといふシークエンスに際して、まづ全裸オナニーに狂ふ笑子の姿を、久保チンの乗るゴンドラから。続けてファインダーを覗く久保チンを、今度は笑子の乗るゴンドラから。更には二つのゴンドラを一望する第三のゴンドラからの三視点といふ、ピンク映画にしては考へられないほど大掛かりな撮影を敢行。撮影部が三人ゐる以上、強行すれば一発同撮でどうにかなる、といふ話ではない。第三のゴンドラに関しては、笑子のゴンドラも久保チンのゴンドラも結構なロングになるので、どうにか誤魔化せぬでもなからうが、笑子・久保チンのゴンドラ間の半ば正面戦に於いては、狭いゴンドラの中にカメラが同乗してゐては当然見切れてしまふ。しかも、今井かんなは豪快に全裸である。振り切られた桃色の威力に加へ、比類ない決死の意欲に身震ひさせられる。実は久保チンが乗るゴンドラが、笑子のゴンドラよりも何故か前に来てゐたりなんかする瑣末に、立ち止まるべきではない。
 更にユニークなのが、南崎ゆかの扱ひ。笑子と悠希が、男達を手玉に取りがてら貪欲に性を謳歌するのは、浜野佐知映画の常なる姿。笑子との事後、「何だか人間バイブになつた気分だな」とボソリと呟く成田誠の姿をネガに、浜野佐知が頑強に貫く女性上位時代が宣言される。対して南崎ゆかは驚く勿れ、品性下劣な男観客の獣性を歓喜させるばかりの、徹頭徹尾酷い目に遭ふだけの痴漢被害者に一貫して止(とど)まるのである。三度目の繰り返される悲劇に南崎ゆかが自らの悲運に涙を零す一方、久保チンは痴漢電車に臆面もなく快哉を叫んで終りといふオーラスには、この時浜野佐知が作家性と商業性との両立について依然悩みか迷ひを残してゐたか、さうでなければ催眠術でもかけられてゐたのではあるまいか、としか思へない。お話的にはどうといふこともないのだが、今井かんな・桐沢愛・南崎ゆか。三本柱とも少なくとも現在の目からすれば微妙に問題なく美人といふ訳では必ずしもないにせよ、体のラインの方は、全員素晴らしく美しい、殊に今井かんなの肌の綺麗さが一際映える。昭和と平成との狭間に狂ひ咲いた、豪腕エロ映画の快作である。
 南崎ゆかの処遇に残したのかも知れない迷ひを反映してか、電車遠景に重ねられるエンド・マークも通例の“FIN”ではない。“・わ・”→“お・わ・”→“お・わ・り”といふ、しかも順序の変則的なよく判らない終り方をしてのける。

 ところで再び、(今回?)新版ポスターに関して。山﨑邦紀の“﨑”の字―そもそも、脚本クレジットは山“崎”邦紀なのだが―が機種依存か何かで出て来なかつたのか、ポスターでは脚本が縦書きで、山_邦紀などとなつてゐる、どう読めばいいのか。ところがこゝでも更にやゝこしい先があり、「人妻不倫願望」の新版ポスターだと、別に普通に山“﨑”邦紀で打ててゐたりもする。因みに「人妻不倫願望」の新版公開は十月で、今作は十二月、何が何だか正直判らない。

 以下は再見に際しての付記< 笑子が最初に㈲国際事務センター赤坂を訪れる際、入れ違ひで出来上がりを受け取り立ち去るのは山﨑邦紀、山﨑邦紀は鈴木静夫と車内にも見切れる。劇中登場する遊園地は、2002年に閉園した向ヶ丘遊園。痴漢師軍団久保チン以外の三名の特定に関しては、こちらを参照されたし


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 「痴漢電車 指使ひ感じちやふ」(2004/製作:関根プロダクション/提供:オーピー映画/監督:関根和美/脚本:関根和美・清水雅美/撮影:下元哲/照明:野口素胖/音楽:ザ・リハビリテーションズ/助監督:中村拓/色彩計測:海津真也/照明助手:小綿照夫/監督助手:吉行良介/出演:桜月舞・香取じゅん・紅蘭・江藤大我・城春樹・なかみつせいじ・竹本泰志・所博昭・兵頭未来洋・町田政則・谷畑聡/特別出演:華沢レモン・酒井あずさ・中村拓)。特別出演勢の内、酒井あずさだけがポスターに記載あり。撮影助手と、エキストラを拾ひ損ねる。
 開巻、 m@stervision大哥がリアルタイムで既に難じておいでだが、セット撮影にも関らず電車痴漢シーン以前に、電車が走行するショットからキネコなのは大いに頂けない。混み合ふ車中、後ろには華沢レモンが見切れる東西建設人事課長の向井一(なかみつ)に、見るからに痴女然とした坂本ルミ(桜月)が接近する。まんまとノセられた向井が盛り上がり、調子に乗つて「ホテル行くか?」と切り出したタイミングで、手の平を返したルミは「痴漢よ、誰か助けて!」と大声を上げる。ここで御存知関根和美の愛妻・亜希いずみが、華沢レモンの向かつて左で何事かといふ顔をして振り返る。とかいふ次第のアヴァン・タイトルが丸々キネコといふのは、幾ら何でもあんまりだ。タイトル・インから漸く本来の35mm主砲を換装、おぞましくも女装の上囮捜査中の足立政則刑事(町田)も間抜けに登場すると、憐れ向井は告訴まで持ち込まれる。今回町田政則が、濡れ場に与ることはない。
 「一人目のターゲット、告訴完了」、ルミは坂本泰三(江藤)に、擦れ違ひざま報告する。続けて歩いて来た老紳士(今度は関根和美)が、これ見よがしに泰三の足下に封筒を落として行く。封筒の中には同じく東西建設に勤務する二人目のターゲット・田島修一(竹本)を指定する資料と、ボスから指令を伝へるカセットテープとが入つてゐた。ボスの声が城春樹であることは、一目ならぬ一聴瞭然。行きがけの駄賃で高田直人(兵頭)にこちらは純然たる痴女行為を仕掛ける第二の女・河瀬晶(香取)に、泰三は接触する。
 大雑把に、あるいは大いなる蛮勇を以て整理してみるならば、要は城春樹がチャーリー、泰三がボスレー、ルミ・晶と後に登場する斉藤裕子(紅蘭)が三人の女探偵のポジションに相当する、痴漢電車版「チャーリーズ・エンジェル」である。幾ら何でも、滑らせた筆が空にも舞ふぜ。ボスの意の下泰三の指示で、ルミ・晶・裕子が過去にボスを陥れた男達に、馬鹿の一つ覚えの通勤電車ハニートラップを展開するといふ物語である。これ、今になつてよくよく考へてみると、標的が一人でも自動車通勤してゐた場合はどうするつもりだつたのか。何はともあれ痴漢電車なんだぜ、といふ鉄の決意で押し通すことにする。
 江藤大我と同じく、二家本辰己率ゐるアーバンアクターズ所属の所博昭は、冤罪事案―といふかそれ以前に、向井・田島は被害者ですらあるといへるのだが―を連発する足立のアシストも借りつつ田島も葬られたところで登場する、当然東西建設の三人目のターゲット・佐久間睦。実は本職はジュリといふ源氏名でデリヘル嬢であるルミの、常連客でもある。佐久間に関する封筒を泰三に手渡す金髪長髪のチャリンコ・メッセンジャーは、中村拓。向井らの悲劇だか喜劇だかを前に当たり前のやうに学習した佐久間が、罠を察知すると、ハニートラップを仕掛けようとした裕子を事前に「痴女だ!」と迎撃、それを慌てて泰三が救出する件は、突発的、あるいは瞬間的に映画が締まる。これは何時もの関根和美とは訳が違ふのかも、と期待しかけたのも束の間、強引も度が過ぎるとグダグダになつてしまふルミが佐久間を撃墜する件を経て、実は泰三・ルミ兄妹の、更に実は実は父親である英樹(城)がボスの正体である衝撃の珍実が明らかにされるに至つては、のんべんだらけるにもほどがある、矢張り何時も何時もの関根和美。とはいへ一ファンとしては、どうでもいいのんべんだらりとした映画を、どうでもよくのんべんだらりと楽しむ。さういふ志に欠けるルーズな映画の愉楽といふものがあつても構はないのではないか、などといふ破廉恥を心密かに思ふ次第でもある。勿論、賛同は一切求めない。面白いか面白くないのかといふならば面白い訳がない一作ではあるが、常連の面子や頭数だけでも妙に豪華な布陣が繰り広げる相変らずのチープ・ピンクに、それでもあくまで個人的には、惰弱な穏やかさや欠片も建設的ではなくとも安定感を感じぬでもない。一言で最終的にいつてしまふならば、ダメな観客の為に、ダメな映画があつてもいいのではなからうか。とかいふ塩梅である、開き直るのも大概にせんか。

 偶発的に鮮烈な役柄も含め一人気を吐くといへなくもない酒井あずさは、かつて向井らが英樹に差し向けたハニートラップ。杓子定規なカウンターに、向井達も初めから気付けよ。といふ常識的なツッコミが成立し得ない魔性が、蜜罠の蜜罠たる所以であるといへばいへるのかも知れないが。谷畑聡は、そこだけ切り取るとそれなりに娯楽映画を綺麗に締め括つてゐなくもないラスト・シーンを側面から飾る、ルミが誘惑するどころではなく毒牙にかける男前。
 最後に枝葉を二点採り上げておくと、佐久間が裕子を返り討つ場面では、邪魔だ何だと、華沢レモンが佐久間に何かとを通り越し矢鱈と柄悪くカラむ。ものの、そんな華沢レモンのアフレコは、明らかに別人である。さうなると、さうまでして盛り込むことも全くない別に不必要なシークエンスであるのは、関根映画の常であるともいへる。それと、英樹が泰三らに支払ふ成功報酬の金の、どうでもいいことこの上ない出所を明かすカットでは、紅蘭が「ガクッ」となるタイミングが早過ぎる。ネタが詰まらないの斜め上を行きろくでもないのも兎も角、しかもそれをいひ終る前からコケてしまつてどうする。ギャグとして、形式的にすら成立してゐない。火に油を注ぐか、止めを刺すつもりか。そんなこんなで、何処までも実に関根和美的な一作といへよう。


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 さて今回は本道のピンク映画の感想ではなく、プロジェク太上映の切ない小屋とはいへ、地元―故郷ではないが―福岡県福岡市に唯一残された牙城、駅前ロマンに関する雑記である。ここは元々は正式なエクセス系列館であつた筈なのだが、現在はナニがアレしてどういふ訳で、新東宝の新作・新版公開と、抜粋しながら順々に消化して来てゐるオーピー旧作が、現在は2004年次に絶賛突入してゐる。さういふピンクが通常は週替りの三本立ての内の一本で、残りはVシネが埋めてゐる。いふまでもなく新東宝の新作製作本数が激減してゐる昨今、番組のメインは、専らオーピー2004年作が占めてゐる。基本はオーピー旧作一本とVシネ二本、そこに新東宝の新作が絡んで来る週には、Vシネが一本になる。さう捉へて頂ければ概ね間違ひないが、稀にVシネ三本立ての週もある。勘弁して欲しい、さうなると流石に回避するが。
 そこでよく判らないのが、先に国沢実の旧作を観に行つた折に、八月の番組表が貼り出されてあつた。荒木太郎の「食堂のお姉さん 淫乱にじみ汁」や竹洞哲也のデビュー作がその中に含まれてゐるのはいいとして、九月に跨ぐ八月最終第五週が、何故か清水大敬の「人妻暴行 身悶える乳房」。・・・・・?これ、2001年の映画なんだけどな。ひとまづ清水大敬とはいへ一応さういふ心積もりで準備は整へておくが、以前にかういふ前科も仕出かしてゐる小屋なので、もう少し推移を見守りたいと思ふ。


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 「スケベ美容師 むせかへる下半身」(2001『女美容教師 ぬめる指先』の2009年旧作改題版/提供:Xces Film/制作協力:シネマアーク/監督:下元哲/脚本:石川欣/企画:稲山悌二・奥田幸一/撮影:小山田勝治/照明:代田橋男/編集:酒井正次/スチール:津田一郎/助監督:永井卓爾/監督助手:伊藤一平/撮影助手:西村聡仁/照明助手:高田たかしげ/録音:シネキャビン/現像:東映化学/出演:河井紀子・佐々木基子・しのざきさとみ・間宮ユイ・河村栞・本多菊次朗・真央はじめ・神戸顕一)。出演者中本多菊次朗が、(今回新版)ポスターでは本多菊雄。
 美容院「POWDER」を経営する横山綾子(佐々木)は芳しくない経営を立て直すために、敏腕の美容教師・速水麗子(河井)を店に招く。従業員の桜(河村)・ススム(真央)と綾子が麗子のレクチャーを受ける中、無職の夫・孝(本多)が、パチンコの軍資金の無心に現れる。風来坊の孝の存在も、綾子の悩みの種のひとつであつた。麗子の登場により、POWDERは活況を取り戻す。綾子らとともに忙しさうに立ち居振舞ふ麗子のセクシーさに何をするでもない孝が鼻の下を伸ばしてゐると、それを見て不機嫌さうな桜が釘を刺す。二人は、綾子の目を盗んで不倫関係にあつた。一方、綾子は綾子で、ススムと関係を持つてもゐた。そんな爛れた状況の中、麗子は矢張り自らに露骨な感心を示すススムを、迎撃でもするかのやうに誘惑する。全くの脇道だが、麗子の洗髪技術にススムが記憶中枢が刺激される、と恍惚となる件は、それはいつそのこと、シャンプーに何か混ぜてあるかのやうにすら見える。
 ざつくばらんにいつてしまふと、現れた好色な家庭教師に、一家が上へ下へと、といふか要は腰から下を中心に掻き乱される、とでもいつた趣向の一作。生温いシティボーイぶりが微笑ましい神戸顕一は、本格的な絡みには与らないもののスケベなPOWDERの常連客・青田。しのざきさとみは、同じく常連でビアンなスナックのママ・清美。ここまで全員脱いで呉れるとは思はなかつた間宮ユイは、孝が麗子に連れて行かれる、クラブ風味のハプニング・バーの女。
 手当たり次第に差しつ差されつした挙句に、済し崩し的に乱れた、もとい大らかな桃色の地平に一応は肯定的なメッセージを方便として着地してみせる。さういふ展開は消極的ながらピンク映画のスタンダードの内としてひとまづとしても、その割には、桜の扱ひには限定的な無体さも残さぬではない。涙ぐみながら抗弁する河村栞、といふショットを何が何でも押さへておきたかつた、といふのであれば酌めなくもないが。個々の濡れ場のヒット・ポイントは決して低くはないものの、展開のメリハリに欠ける分、どうしても全体的にはのんべんだらりとした印象は禁じ得ない。流れる女の裸に、己が身を浸すべき一作といへよう。

 間宮ユイの店にはその他大勢の客のほかに、給士役として高田宝重も姿を見せる。オーラスPOWDER店内に見切れる、長い黒髪が麗しい何気に超絶な美少女は、一体何処から連れて来たどちら様、POWDER現地調達組?


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 「猟色未亡人 着物のまゝで」(1997『いんらん家族 好色不倫未亡人』の2008年旧作改題版/製作・配給:新東宝映画/脚本・監督:深町章/企画:福俵満/撮影:清水正二・大宮八満/照明:多摩三郎/編集:酒井正次/助監督:高田宝重/監督助手:佐藤吏/スチール:津田一郎/録音:シネキャビン/現像:東映化学/出演:槇原めぐみ・相沢知美・浅倉麗・田口あゆみ・熊谷孝文・樹かず・池島ゆたか・風見怜香)。
 私立探偵・中川洋(熊谷)の探偵事務所を、出入りする法学部で犯罪心理学を専攻する女子大生・晶(槇原)が訪ねる。法学部に犯罪心理、学科ではないにせよゼミなんてあるか?晶は郵便受けに放たらかしになつてゐた、仕事の依頼と思しき手紙を渡しに現れたものだつたが、中川はそれには構はず晶を押し倒す。アラレちやんメガネと、カーキのジャケットにベレー帽を合はせてみたりなんかする、晩熟風の変則フェミニンな女子大生ルックで武装しながら、いざ一服剥いてみると、思ひのほかムチムチとした槇原めぐみのオッパイの破壊力に心を持つて行かれる。事後漸く便りを繙いてみたところ、依頼人が生命の危機を訴へる内容に、二人は山梨県の山村を訪れてみることにする。開巻は工藤ちやん風のシティ・テイストな探偵扮装であつた中川は、今度はかういふ格好がうつてつけの事件だと、金田一耕介のコスプレを披露するフットワークの軽さを見せる。
 中川と晶が目指したのは、当主・大作(池島)が莫大な遺産を遺し死去したばかりの旧家・小松家。ところが二人が小松家に辿り着いた時には既に、依頼人で大作秘書の須藤美子(風見)は死亡してゐた。大作の死に伴ひ労を労ふ酒席で、美子のグラスに青酸カリが入つてをり服毒死したのだ。ポップに一癖も二癖もありさうな小松家の成員は、大作の後妻・シズコ(田口)。シズコとは反目する大作前妻(一切登場しない)の娘・アケミ(浅倉)、但しアケミは実は前妻と不倫相手との間に出来た子供で、大作との間に血縁関係はなかつた。アケミの婿養子で隠れて―当然だが―シズコとも関係を持つタモツ(樹)に、最初に中川と晶を怪訝に出迎へた、お手伝ひのキミコ(相沢)。全方位的に胡散臭げな家族の面々と何処かしら影を宿すキミコを前に、ひとまづ中川は事件の調査を開始し、晶は一同の過去を洗ふ。
 何事か豪華にも五人とも女優が脱ぐたて続けられる濡れ場濡れ場に彩られた、別に松田優作に囚はれるでもない文字通りの探偵物語。色香に始終迷はされ倒すのはさて措き挙句に無能な中川を押し退け、晶が俄かに名探偵ぶりを発揮する展開は兎も角、肝心の謎解きの件のお粗末さに、評価が一段上がるのは阻まれた一作ながら、濡れ場の質量には全く遜色ないゆゑ、十分にピンク映画的にはとりあへず成立してゐる。加へて個人的には、濡れ場に突入してもメガネを頑強に外さぬ―あるいは外させぬ―見上げた槇原めぐみの、しかも意外に重低音をバクチクさせる桃色の威力だけで、全く問題なく戦へる。遅ればせるにもほどがありつつこの期に至つて漸く気がついたが、深町章がしばしば見せる、少々本篇がグダグダでもラストだけは爽やかに、時には叙情的な余韻を持たせて締め括る、得意の振り逃げも今回爽やか方面に綺麗に決まる。探偵の果たす役割に期待し過ぎだといふ無粋なツッコミが成立するならば、このお話、そもそも美子が中川を呼び寄せる意味がないよななどといふ大本の疑問は、それを持ち出した途端探偵映画が初めから成立しなくなつてしまふ以上、ここは好意的に控へるべきだ。晶、と中川のコンビは大変魅力的であるゆゑ、シリーズがあればそちらの旧作改題にも網を張つてみようかと調べてみたが、残念ながら、晶と中川の探偵譚といふのは今作限りであるやうだ。

 ところで旧題、未亡人なのだから不倫といふのは厳密に形式的には当たらないのではないか、とも思つたのだが、相手が血は繋がらぬとはいへ娘婿、即ち既婚者である以上、不倫といへば矢張り不倫なのか。それ、とも。更によくよく考へてみれば擬似近親相姦でもないか?等々とあれこれ思ひを巡らしてゐる内に、段々と訳が判らなくなつて来てどうでもよくなつた。


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 「変態シンドローム わいせつ白昼夢」(2008/製作:旦々舎/提供:オーピー映画/監督:浜野佐知/脚本:山﨑邦紀/撮影・照明:小山田勝治/撮影助手:大江泰介/照明助手:藤田朋則/助監督:横江宏樹・新居あゆみ/制作応援:下薗淳美・府川絵里奈/編集:有馬潜/音楽:中空龍/録音:シネキャビン/現像:東映ラボ・テック/出演:ミュウ・大原ゆり子・平原絢・石川雄也・平川直大・なかみつせいじ)。
 結婚を間近に控へた香取ちとせ(ミュウ)は最近、檻の中に囚はれた女が肉の欲望に溺れる淫夢に苛まされてゐた。婚約者・須山涼二(石川)の出張に伴ひ、ちとせも上京する。仲人を依頼する、涼二の大学時代の恩師・小宮山晃(なかみつ)への挨拶も兼ねてのことだつた。久方振りに東京を訪れたちとせは学生時代、当時恋人の八潮崇(平川)から無理矢理事に及ばれた苦い過去を想起する。一方、道場を用意する余裕なんぞ欠片もなかつたのか、児童公園の思ひきり普通の砂場で空手を稽古する男女。ちとせの妹・まどか(平原)が優勢を収めた稽古相手兼彼氏は、八潮であつた。小宮山宅を訪ねたちとせは、小宮山の妻・怜子(大原)も交へての四人での会食中、涼二が怜子を抱く白昼夢を見ると、まるでナルコレプシーの催眠発作でもあるかのやうに眠り落ちてしまふ。翌日まどかとも再会したちとせは、妹の彼氏が八潮であるのに驚く。八潮も八潮で、まどかが元カノの妹であらうなどとは露知らなかつた。ここでもちとせは、妹が元カレに抱かれる猥褻な白昼夢に寝落ちる。
 包み隠すほどのこともないため堂々と結末まで割つてのけるが、要は元カレによる過去のレイプ体験に基き性に抑圧されてゐた主人公が、加齢に伴ふ性欲の発動に戸惑ひながらも、最終的にはセクロスの味を覚えた本当のアタシ発見☆とかいふだけの、晴れやかに底の浅い物語である。“本当のアタシ☆”といふ頭を抱へたくもなるキー・ワードは、実際劇中に登場しもする。最早ここは、浜野佐知か山﨑邦紀の若さを讃へすらするべきなのか。とはいへ、だからといつてまるで拾ふところもない一作といふ訳では決してない。攻撃力の高いミュウの濡れ場一点突破で、乗り切れなくもないどころか、十五分にも六分にも楽しんで見させる。個人的に最も激しく下心の琴線を爪弾かれたのは、杏のブランデーに催したちとせが落ちる幻想。薔薇のあしらはれたセクシーな黒い下着を自ら露にしたちとせが、背面騎乗で小宮山に跨るショットには、強力に腰から下を撃ち抜かれた。弾ける笑顔を輝かせる、といつたショットこそ少なめなものの、ミュウの予期せぬ性の目覚めに葛藤する沈痛な表情と、軛を解かれた上での振り切れた淫蕩さとの対比も素晴らしい。楽天的な啓蒙にも似た怜子のアシストを受けて以降の、失はれてゐたものを取り戻し走り始めたちとせの姿には、ギアをひとつ前に入れた即物的な煽情性のほかに、娯楽映画を十全に畳む主人公の力強さが溢れる。尤も、初めちとせが繰り返し見る淫夢に登場する檻の中の女が、よもや自分だとは思つてゐなかつたといふのは、キネコにして誤魔化さうとしてみても画面上観客の目にさうは映らないだけに、些か通り辛い。明後日で爆発的に面白いのが、まどかがちとせの妹であるのを知つた八潮が、“幻の姉妹丼”(劇中台詞ママ)を夢想するシークエンス。旦々舎一流の怒涛の巴戦を経たところで、それでは現実の八潮はといふと、グローブジャングル―別名に回転雲梯―の中に虚ろな目をした平川直大がぽつねんと座つてゐるショットには、激しく笑かされた。詰まるところがお話の中身自体としては少々薄味ながら、頑丈な作家性に乗せられた主演女優の色香が力強い羽ばたきを見せる、浜野佐知らしく且つ桃色に爽やかな快作である。

 わざわざ特記せずとも聞けば一発で判るが、大原ゆり子のアフレコは、佐々木基子がアテてゐる。それならばいつそ、容姿に微妙に難のある大原ゆり子よりも、怜子役はそのまゝ佐々木基子で良かつたやうにも思はれる。何某かの意味が込められてゐるやうな気はしたのだが、繰り返し織り込まれる電車が走行する風景を、如何に捉へればよいものかには辿り着けなかつた。


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 「女子大生 恥ぢらひの喘ぎ」(2004/製作:フリーク・アウト/提供:オーピー映画/監督・脚本:国沢☆実/撮影・照明:岩崎智之/助監督:城定秀夫/監督助手:三浦麻貴/撮影助手:岩崎豊、他一名/音楽:因幡智明/効果:梅沢身知子/出演:池田こずえ・橘瑠璃・小沢志乃・松田正信・岡田智宏・田宮士郎)。撮影助手もう一名を拾ひ損ねる。
 柊敦子(小沢)は大学の家政科に通ふ娘・麻由(池田)に作らせた豚汁に、プチトマトが入つてゐることに閉口する。作るものの味がてんで安定しないことを叱責されると、麻由は容易く臍を曲げる。麻由自身も自らを御せないことの原因は、訪れてゐた月のものにあつた。自室で汚れた生理用具を外すとゴミ箱に放り棄てるといふ、ある意味ピンク映画に於いても画期的に珍しいカットを経て、月経中の麻由には料理の味が不安定になることのほかに、もうひとつ表れる特徴があつた。敦子から固く戒められ未だ純潔を守る麻由ではあつたが、殆ど冗談かのやうにドギツイ真つ赤な照明の当てられるイメージの淫夢に、秘裂に指を這はせる。だからそれは、最終的には当てたばかりの新しいナプキン越しでもあるのだが。肉の悦びへの飢ゑに半ばの懼れも見せる麻由のオナニーに続く、白地に黒文字からわざわざ矢張り深紅に染められるタイトル・イン経て、舞台は移り古本屋。麻由は同じタイミングで書架の本を手に取らうとして指が触れた、高校時代の担任・村松聡(松田)と再会する。開き直つたかのやうに類型的なシークエンスであることに対しては、娯楽映画の間口といふものはそのくらゐ広くてもまあ良からう、と思はぬでもないのでさて措きたいところではあつたのだが、それにしてもそれならばそれで、変に不器用にカットを割つてみたりする不格好さはどうにかして欲しい。陳腐である以上、完璧にスマートに撮らなくては逆に引つ込みがつかなくなる、といふこともあるのではないか。“先生”と呼びかけられることを、村松は拒む。藪から棒に作家を目指し教職を辞した村松は、現在は絶賛フリーター生活を送つてゐた。麻由と村松の会話の中から、敦子との間に確執を抱へ家を捨てた、姉・香澄(橘)の存在が明らかになる。因みに一切登場しない父親とは、麻由は全く幼くに死別してゐた。麻由はCLUB「リッチ」を開店準備中の、香澄を訪ねてみる。そこに現れる清々しく戯画的なダニ感を爆裂させる岡田智宏は、競馬の軍資金を香澄に無心しに来たヒモの川上。香澄と川上の濡れ場から、辛紅の、もとい深紅のイメージ挿んで再び麻由の自慰に、そこも通過すると今度は姉妹の母親である敦子の密会へ。といふ流れは、ピンク映画らしい流麗さといふよりは、正直混乱の方が勝るか。ところで素通りしてもよいのだが、ダイナマイトといへば聞こえのいい小沢志乃は、逃げ場のない詰め物ぶりを披露する。ハンサムな石野卓球といつた風の田宮士郎は、敦子が出会ひ系で調達したお相手・風間隆司。敦子は風間とホテルから出て来るところを、麻由に目撃される。
 ドロップアウトした作家志望のいつてしまへばダメ人間の下に、ピチピチの処女が転がり込んで来る。たつたそれだけの、激越に他愛もない物語であつたとしたら、逆にまだしも立つ瀬があつたのかも知れない一作。他愛もない願望を他愛もないままに形にして、それを他愛もない観客が他愛もなく楽しむ。それは世の中の標準、あるいはあるべき映画論の立場からは、単なる非生産的な不毛に過ぎないのかも知れない。ただ然し、仕方のない者供の為にのみ供された、仕方のない映画。さういふものも世間の片隅にひつそりと存する仕方のないとしてもなほ潤ひを、私は仕方なく切望する。尤も、さういふだらしない願ひは、詰まるところは何を目指してゐるのだかサッパリ読み取れない国沢実には聞き容れられなかつた。焦点は終に、村松には合はせられない。その割に妙なギミックをゴテゴテと身に纏つてもゐながら、村松は最終的には麻由の恋物語の貧相な王子様に止(とど)まり、他愛もない願望映画といふ、仕方なくもいはば唯一の切り札を今作は失ふ。代つて前面にしやしやり出て来るのは、敦子と香澄とそして麻由との、家族の物語。一応かつては抱へた確執から、理解経由の和解へ、といふ段取り自体は十全ではあるのだが、兎にも角にも、当の問題自体の中身も過程の踏み込みも薄過ぎる。しかも、その際の主要な当事者は敦子と香澄で、主人公は母と姉との間を行き来する、傍観者に過ぎなくもないといふ致命性すら抱へる始末。麻由と村松の物語と、母と娘姉妹の物語といふ二頭立ては、まんまと二兎とも得ずじまいといふ結果に終る。とはいへここに至ると、要所要所にセックス・シーンを置いてさへおけばギリギリ何とか形にならないこともないといふ、漫然とした国沢実の作家性が、デフォルトとして要請される女の裸に却つて救はれたといつた趣すら漂ふ。さういふ捉へ方をするならば、変則的もしくは直截には消極的には、これはこれとしての麗しさを、ピンク映画として有してゐるといへるのかも知れない。

 劇中一箇所きりの見所は、案じた母親の様子を妹に確認した香澄といふか要は橘瑠璃が、元気だといふ答へに、右横顔から正面を向いて力強く安心した表情を見せる「そ」、の一言のみ。橘瑠璃必殺の美しい硬質が、銀幕中に満ちる。お前が今回観てたのは、プロジェク太上映の小屋ぢやねえか、とかいふ仮借ないツッコミは御容赦の方向で。


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 「こつてり奥さん 夫の弟もくはへて」(2004/製作:杉の子プロダクション/提供:オーピー映画/監督・脚本・音楽:杉浦昭嘉/撮影:前井一作/編集:酒井正次/助監督:小川隆史/監督助手:嘉門雄太・下垣外純/撮影応援:広瀬寛巳/効果:梅沢身知子/出演:鏡野有栖・風間今日子・葉月螢・石川雄也)。協力を拾ひ損ねる。
 くたびれて眠る夫・坂田秀治(石川)を揺り起こしつつ、リサ(鏡野)は子作り機運一辺倒の夫婦生活に励む。最中で寝落ちてしまつた秀治が再び叩き起こされる件には、男性観客は涙を誘はれずにはをれまい。女の客が、存在するのかどうかは知らぬが。一切全く、存在しないことはないか。映画を観に来てゐる訳ではないか、もしくはニセモノの。事後、姑から教はつたとか、受精し易くなるやうにと逆立ちに汗を流すリサの姿に秀治が閉口する正にその時、秀治の母親から電話が掛かつて来る。堅実なサラリーマンである兄・秀治に対し、根を張らぬ生活を送る双子の弟・晴男(石川雄也の当然二役)から最近めつきり連絡がないので、一度秀治から電話してみて貰へないかといふのである。仕方ないなと秀治が連絡を取つてみると、その頃晴男は相変らず、テレクラで知り合つた西田婦人(風間)とラブホテルに居た。速水雪子(葉月)の泌尿器科で診察を受けた秀治は、無精子症であるといふ衝撃的な診断結果を受け愕然とする。即ち、リサが幾ら欲しがつたところで、本来の夫である秀治とセックスしてゐる限りは、子供は絶対に授からないのだ。そのことを妻には打ち明けられぬままに、心因的なショックからか、秀治は不能になつてしまふ。追ひ詰められた秀治は、正しく起死回生の奇策に辿り着く。同じ遺伝情報を共有する晴男に妻を抱かせ、妊娠させようといふのだ。実直であつた筈の兄の持ち出した箆棒に、晴男も最初は困惑するが、秀治の鬼気すら迫らんばかりの勢ひに押し切られる。
 種無しの男が、無邪気に子供を欲しがる妻の為に、結果的には堕ろさせてしまつたとはいへ女を妊娠させたこともある、双子の弟に妻を抱かせる。ストーリーの展開上セックスが不可欠であるといふ点で、如何にもピンク映画に相応しいプロットではあるともいへ、流石にこれだけでは、幾らほんの六十分とはいへ間が持たない。さういふ次第で、西田婦人発の晴男からの変則的なカウンターとして、晴男がリサを抱く一種の罪滅ぼしに、秀治も西田婦人と一戦交へるといふイベントも設けられるが、それにしても、矢張り未だ尺が満たぬ。実は電光石火、高速の手際良さを誇る新田栄にでも本気を出させれば、三十分でも釣りが来よう話の薄さである。といふ訳で杉浦昭嘉がのんびりのんびりと、繋ぎの展開を丁寧に水増ししながら撮つてみたところで、それでも全体的な間延び感は極めて強い。良くも悪くもマッタリした一作ではあるが、個人的にはこの人の映画とは肌が合ふので、嫌ふ種類のものではない。あくまでそれは、極々私的な好みに左右される領域の話でしかないのだが。温かい、白湯のやうな一作である。
 無精子症といふ診断後、再び秀治が雪子の医院を訪れた際、雪子は酒に荒れてゐた。交際してゐた看護士が、婦長との二股発覚後、二人して姿を消してしまつたといふのだ。といふ訳で俄然勿論酒の勢ひも借り、「ちやんとペニスが正常に機能するかどうか試してみませう」だなどと葉月螢の濡れ場が済し崩されてしまふのは、ジャンル上不可避の仕方なさなのでさて措くべきだ。寧ろ、せめて聴診器といふ小道具を後々に繋げた―まあ、然程重要な役割を果たす訳でもないのだが―部分に、シネアストたらんとした杉浦昭嘉の苦心、あるいは誠実の跡を窺ふべきであらう。ここで瑣末中の瑣末ながら重要なのは、雪子と秀治の絡みの馬鹿馬鹿しいことこの上ない導入でもセックス・シーン自体でもなく、荒れる雪子が呑んでゐた大吟醸の銘柄が、「大蔵盛」。いはずもがなではあるが、オーピー映画の旧社名は、大蔵映画である。ラベルも普通にしつかりした大蔵盛が、実在する―した?―酒なのかよく出来た小道具なのかは、残念ながら確認出来なかつた。ただ大蔵盛は今作の三ヶ月前に公開された、渡邊元嗣の「痴女OL 秘液の香り」(脚本:山崎浩治/主演:桜井あみ・星川みなみ)に於いても、星川みなみの部屋の中に登場し、こちらの方は強力にうろ覚えで清々しく自信はないのだが、三年後、加藤義一の「浪花ノーパン娘 -我慢でけへん-」(脚本:岡輝男/主演:岡本優希)中に、こちらも女医の風間今日子が何時も小脇に抱へてゐたのが、確か大蔵盛ではなかつたか。
 橋の上で晴男が兄からの電話を取るシーンの背後に、清々しく不自然に広瀬寛巳が見切れるのは、別に不要であるやうにしか見えない、ひろぽんファンの皆さん御免なさい。

 主演の鏡野有栖は、よく判らん譬へだが文学部か教育学部に籍を置き、平素からロリータ服を愛用してゐるやうなタイプで、間違つても“こつてり”としてゐる風ではない。対して風間今日子はといふと、いふまでもなく重量級で頑丈なコッテリ感を炸裂させるものの、西田婦人といふ以上一応奥さんであることは兎も角、喰らふのは男の兄ではある。


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 煌く滝田洋二郎三連撃を通過したその上で、「滝田洋二郎のピンクが面白かつた」といふのならば判るが、「昔のピンクは良かつた」と来た日には冗談ぢやないぜ。今の俺達には、松岡邦彦がゐるぢやないか。

 「母性愛の女 昼間からしたい!」(2008/製作:松岡プロダクション/提供:Xces Film/監督:松岡邦彦/脚本:今西守/企画:亀井戸粋人/撮影:村石直人/照明:鳥越正夫/編集:酒井正次/助監督:山口稲次郎/監督助手:高野佳子/撮影助手:橋本彩子/照明助手:神永順一/編集助手:鷹野朋子/録音:シネ・キャビン/選曲:梅沢身知子/スチール:佐藤初太郎/協力:関谷和樹/現像:東映ラボ・テック/出演:浅井舞香・真咲南朋・酒井あずさ・千葉尚之・柳東史・久保田泰也・小林節彦・小川はるみ・サーモン鮭山・吉岡睦雄・若林美保)。因みに女優部中、脱いで絡むのは順当に真咲南朋まで。通例の倍近い大目の出演者は、全員ポスターにも名前が載る。
 福祉法人「幸世会」里親連盟代表・内藤マキ(小川)が、児童施設ボランティア・小泉茜(浅井)の熱意を讃へる。持参した水筒に手をやる仕草に対し、茜は来客に茶も出さぬ非礼を詫びようとするが、マキは遮る。これしか飲まぬといふ「御神水」をマキから勧められた茜も口にしてみるが、それは恐ろしく不味かつた。茜はコロッと心酔してゐる風だが、ポップに充満するマキの胡散臭さに、人間性の悪なることを見据ゑた松岡邦彦のビートが開巻からビリッビリ感じられる。子供のゐない茜は商社マンの夫・真(柳)に対し、藪から棒に恵まれない子供の里親にならうだなどと言ひ出すが、当然の如く当惑する真に反対されると、逆ギレとしか思へないが臍を曲げた茜は夫婦生活を拒む。メガネがエロい若林美穂が司会のテレビ番組にて、コメンテーターの大学教授・淀川ミツオ(サーモン)が語る。凶悪犯罪を犯した者が殺すのは誰でも良かつた云々といふ場合、本当はその対象は親であるのだ、とかいふ適当な能書。サーモン鮭山も松岡邦彦の演出意図に応へシニカルな薄つぺらさを爆裂させるものの、茜はまんまと真に受ける同じ番組を見る吉岡睦雄の家で、電気配線工アルバイトの柳智浩(千葉)が、コンビを組むB系の森岡善(久保田)と作業する。二人が次に向かつた一軒家は不在のやうだつたが、智浩の制止も聞かず森岡が勝手に上がり込んでみたところ、クリミナルにも死体が転がつてゐた。逃げ帰る二人、画面には見切れぬ死体を森岡が発見する一方、智浩はその家で、拳銃を拾つてゐた。智浩が帰宅すると、大病を患ひ床に臥せる父・巌夫(小林)と、義母・悦子(酒井)が破廉恥に情を交してゐた。巌夫は病気で仕事が出来なくなると一切登場しない前妻、即ち智浩の母には逃げられ、息子の僅かな稼ぎで生活しながら、看護婦上がりの悦子と再婚してゐた。自宅だといふのに、濡れ場の途中でカット跨ぐと悦子が白衣を着てゐたりする、確信犯的な不自然さは天晴。整合性の上では兎も角、客の見たいものを見せる、それは娯楽映画として極めて誠実な態度である筈だ。悦子も悦子で、巌夫を保険金目当てに殺害しようとする気配をあからさまに漂はせつつ、迂闊な巌夫は全く気づかず、何処が病人なのか後妻の女体に驚喜するばかり。智浩には帰るところがないどころか、そもそも殆ど家庭すら存在しなかつた。翌日、森岡がサボッてしまつたゆゑ、智浩は一人で茜の家に向かふ。豊かな商社マンの生活に羨望の眼差しを向けるも、即座に力なく諦めてしまふ智浩に対し、俄かに健康的ではない母性を刺激された茜は、英会話くらゐなら自分が教へる旨を約束する。
 ファースト・カットから胸の谷間も派手に露な、殆ど水着のやうなエロ服で登場するや足回り抜群の弾ける色香を振り撒く真咲南朋は、森岡が童貞の智浩に紹介する目的で連れて来ておいて、結局は自分で喰つてしまふ知美幸。美幸は智浩が小学生の頃の同級生・西村君(全く登場しない)の妹であつたが、両親の離婚を機に、智浩の前から姿を消してゐた。
 “エクセスの黒い彗星”松岡邦彦2008年怒涛の第四作は、未だ足りぬ、未だ足りぬと貪欲に、人間といふ生き物の本性を、あるいは嘲笑こそされ、決して祝福はされ得ぬものと描き抜いた、描き倒した問題作。無防備な善意を食ひ物にする魔女、金にも色にも強欲な毒婦。それらとの対比の上では無邪気とすらいへるものの、自己中心的な女狂ひ達。魑魅魍魎や有象無象どもに囲まれた心に隙間を抱へる女は、やがて勘違ひを拗らせると走り出し、捻れた母性を狂ひ咲かせる。女と出会つた、予め全てから阻害された無力な男は、つられて危なつかしく走り始めてはみるが、済し崩すやうに暴発するのが関の山で、無様に転ぶ。“妥協”などといふ言葉は知らないかの如く、歪み抜いた、歪み通した物語には、いつそ清々しさすら感じられて来る。主役二人の―心を―病んだ人間と典型的なダメ人間以外には、仮に他人に悪を為さずとも欲に塗(まみ)れてゐるといふ意味では、何れにせよ兎にも角にも悪人しか出て来ない。松岡邦彦の繰り出す暗黒ピンクに、一曇りの迷ひなし。暗黒の馬力と同時に、松岡邦彦が誇るのが縦横無尽、硬軟自在な融通性。真にタイのチェンマイへの出張ではなく、赴任が決定する。ここは劇中世間の狭さも感じさせぬではないが、実は美幸と不倫関係にある真は、美幸を連れて行く心積もりで、茜に対してはチェンマイについて来るやう求めない。ところが、病的なフットワークで明後日に改心した茜は、夫に随伴することに理解を示す。したところで、当ての外れた真が顔色を変へる瞬間は絶品。絶妙にビブラートさせた柳東史の「え?」には、激しく笑かされた。エンジンの馬鹿デカさに加へた、シャープな繊細もさりげなく輝く。茜が智浩に一旦は押し倒された件での、事前にマキから夫婦仲の足しにと渡されてゐたエロDVDの使ひ方のスマートさには感動した。更に更に、暗黒とはいへども、勿論ピンクである。滲み出るいやらしさが抜群の浅井舞香に、まるでこの人は、一番いいところで歳をとるのを忘れてしまつたのではないか、とすら思はせる酒井あずさ。超攻撃的な熟女ツートップに添へる三番手には、地味に芝居勘もあるピッチピチの小娘。茜が履き違へた母性が桃色の方向に転がるお約束の好都合も軽やかに、頑丈な布陣にも支へられた今作、即物的な煽情性の面に於いても一欠片の不足さへ見当たらぬ。
 とはいへ、全く手放しに何の問題もない、訳では必ずしもない。両親の離婚後、実は幸世会の里親に引き取られた美幸が性的虐待を受けた挙句AVに出演させられてゐた、などといふ外堀の埋め方の十全さには執念すら感じさせるが、真とチェンマイを目指すのは、チェンマイに売られた兄を探すため、とまでいふのは流石に些か過積載の誹りも免れ得まい。更にいふならば、子供が売り買ひされるとしてもその場合、経済情勢的にはまづ流れが逆ではなからうか。折角拳銃まで持ち出しておきながら、智浩三発目の、そして最大のイベントが短い、しかも伝聞情報のみで片付けて済まされるのも如何せん弱い。てんこ盛りのキナ臭いネタの数々を、ギャグといふ方便で勢ひで振り逃げ得た前作と比べれば、精一杯伏線を展開せんとした手数は窺へるが、どうしても消化不良感は残る。前々作「人妻のじかん 夫以外と寝る時」(主演:山口真里)と同趣向の、勘違ひも華麗に通り越した気違ひ女ものとしては出来上がつてゐる反面、智浩視点の、追ひ詰められたダメ人間の自滅ものとしての側面は、甚だ中途に止まる、と難じざるを得ない。よくいへばディスサティスファクションの表れともいへようが、明らかに尺が足らない。そこで女の裸を削るといふのは間違つた対処法、選択肢であるのはいふまでもないにせよ、その上で茜のある意味喜劇と、智浩の人騒がせな悲劇とを共々描き切るには、六十分では短過ぎる。だからといつて、松岡邦彦にそこから飛び出されたとしても、その場合喜べばいいのか寂しがればいいものやら、気持ちの落とし処を見つけかねるところでもあるのだが。

 森岡から童貞呼ばはりされた際の智浩の憤怒の表情は良かつたが、即座に続けての二つ目の凶行は明白にヌルい。逼迫した状況下での撮影であるのは想像に難くないが、アクション演出としては、矢張りお粗末にさうゐない。仕方のない部分であるのかも知れないが、超えようとしない限界は、単なる行き止まりに過ぎなくもある。


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 「痴漢電車 下着検札」(昭和59/製作:獅子プロダクション/配給:新東宝映画/監督:滝田洋二郎/脚本:高木功/製作:沢本大介/撮影:志賀葉一/照明:森久保雪一/編集:酒井正次/音楽:恵応泉/助監督:片岡修二・笠井雅裕・木幡直正/計測:大輪吉数/撮影助手:阿部喜久夫/照明助手:坂本太/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/スチール:津田一郎/タイトル:周工房/出演:風かおる・竹村祐佳・雅セリナ・木村和美・中山光男・高橋雅之・佐伯恭子・周知安・笠松夢路・竹中ナオト・螢雪次朗)。出演者中、佐伯恭子から笠松夢路までは本篇クレジットのみ。シリーズ前作に続き今作も、撮影が―今回新版―ポスターには清水正二。
 昭和三年、満洲。関東軍第六十九部隊所属の山森吾平(中山光男か高橋雅之>面目ない)は、爆殺された張作霖の右手首を発見すると、小指から超大粒の黒真珠「黒い月」を抜き取る。時は流れて昭和五十九年、東京。混み合ふ車中でイイ歳もして電車痴漢に耽る吾平は、脳卒中で卒倒する。わざわざこの件を電車内に持つて来た辺りに、既に額面に対する強い意志が表れてゐるとみるべきなのか。木村和美が、多分ここでの吾平の被害者。吾平の財産目当ての後妻・松子(風)が形ばかりの看病をする中、吾平は時価二億円ともいはれる黒い月の在り処に関し、「マン拓・・・・!」なるダイイング・メッセージを遺し死去する。床の間の掛け軸の上には、過去に火事で半分焼けた、姪の陽子のものとかいふマン拓が飾られてあつた。そもそも、何で姪つ子のマン拓なんて取つてあるのか、といふツッコミは禁止だ。とはいへ陽子本人は家出したため行方不明で、一体全体何が何やら量りかねた松子は、黒田一平(螢)探偵事務所を訪ねる。竹村祐佳演ずる浜子は、仕事のない時には家事や黒田とセックスしてばかりで、助手なのか内縁の妻なのか殆ど判らない。とりあへず完全なマン拓を入手すべく、酸素マスクを装着した黒田は満員電車に潜行し、女々のマン拓採集に勤しむ。その方法論に立ち止まるのは、ひとまづ通過するどころか、ある意味積極的に正しくはない、何はともあれ痴漢電車なんだぜ。強力なあてずつぽうでしかないが、佐伯恭子は、ここでの基本腰から下しか画面に見切れないお尻要員か。黒田が女の下着を落ろすと墨を塗り、マン拓を集めて回るシークエンスに於いては、生理用品に挙句に脱糞と、妥協知らずの下ネタが臆することなく繰り出され続ける。漸く陽子(雅)を探し当てたものの、依然解けぬ謎に匙を投げた黒田は、歴史研究家の松本ならぬ松木清張(竹中)を頼る。竹中ナオトといふのは、いふまでもなく現在の竹中直人。清張が似てゐるのか否かは最早よく判らないが、一応―松田―優作もついでで数回登場する。陽子マン拓の完全版を得て松木・黒田・松子が黒い月の隠し場所と格闘する一方、吾平の息子でバンドマンの春夫(だから高橋雅之か中山光男>仕方ないぢやないか)が、鍵のかゝつた自室で青酸カリ入りのビールを飲み絶命してゐるのが発見される。三人が飛び込んだ春夫の部屋の窓の外には更に、春夫のものではあるドラムスティックで刺殺された、陽子の死体が。一旦は陽子を殺害した春夫が自死を遂げたものと処理されつつ、果たして鍵のかけられた密室の真相も如何に・・・・?
 度々ながら、助監督も務める片岡修二の別名である周知安は、黒田探偵事務所に出入りする、満洲から日本に渡り中華料理屋を営む陳さん。こちらはひよつとすると笠井雅裕の変名であるのかも知れない笠松夢路は、さうなると残るは、帰国するといふので黒田らに別れを告げた陳さんが一旦退場するのに続いて登場する、リヤカーでゴミを回収する人?
 海を越え時も超え、人人の手を渡る黒い月が織り成す数奇な歴史ロマンに、大したものでもないにせよ、最低限十全な密室殺人トリック。膨大な痴漢電車群の単なるワン・ノブ・ゼンに堕することなきやう、意欲的に盛り込まれた要素要素は、二十五年の歳月を経た上でもピンク映画のクラシックとしての輝きを確かに有してゐる。それはそれとしてなほのこと注目したいのは、結局黒田は、自力で吾平の遺した暗号を解く。ところがその時既に、黒い月は失はれてゐた。落胆する黒田と浜子は、テレビ番組に出演する松木の指に、黒い月を発見する。殺害された春夫と陽子の死体発見のドサクサに紛れて、松木は黒い月をカッ攫つてゐたのだ。そこから黒田と浜子が展開するフラッシュでダンスな黒い月奪還ミッションこそ、当サイトは今作の肝と推したい。晴れやかな馬鹿馬鹿しさと同時に、電車痴漢といふメイン・モチーフに対する超絶の親和に、ジャンル映画としてのこの上ない麗しさを見るものである。吾平はわざわざ電車痴漢の最中に卒倒し、黒田は陽子を車中に探索、そして、正しく痴漢電車でしか為し得ない下らなくも独創的な奪還作戦。総合的な完成度に於いてはシリーズ前作に及ばないとしても、痴漢電車といふ看板に対する誠実さに関しては、今作の方が断然勝るといへよう。あるいは、特に痴漢電車である必要が別にない「百恵のお尻」への一種の反省が、もしかすると初めからあつたものであるのやも知れない。

 昨今でいふと春奈まいを連想させる、風かおるのオッパイのボリューム感は満点。今回三本立てられた中では、今作が最強の桃色の破壊力を誇る。


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 「連続暴姦」(昭和58/製作:獅子プロダクション/配給:新東宝映画/監督:滝田洋二郎/脚本:高木功/企画:伊能竜/撮影:佐々木原保志/照明:守田芳彦/編集:酒井正次/助監督:桜田繁/録音:銀座サウンド/監督助手:房洲雅一/撮影助手:喜久村徳章・乙女守男/照明助手:柴崎功一・佐野鉄・細山智明/現像:東映化学/協力:上坂橋東映劇場/出演:織本かおる・竹村祐佳・麻生うさぎ・佐々木裕美・螢雪次郎・末次真三郎・伊藤正彦・早川祥一・大杉漣)。企画の伊能竜は、向井寛の変名。出演者中、伊藤正彦と早川祥一は本篇クレジットのみ。但し2002年版のポスターにはこの二人の名前も載り、螢雪次郎が螢雪次朗。
 反対方向からのロングで捉へられる、林道のトンネルに歩み入る女子高生(佐々木)。後を追ひ、男(伊藤)が遅れてトンネルに入る。気配を察した女子高生は逃げ出すが、男に追ひつかれると森の中で犯される。少女を蹂躙する男の右足太股には、目にも鮮やかな赤い蛇の刺青があつた。といふピンク映画「連続暴姦」を上映中の、上“板”東映。自らが映写中の映画に覗き窓より目をやつた臨時雇ひの映写技師・勝三(大杉)は、そのカットに顔色を変へるとモギリ嬢・波子(麻生)の制止も聞かず、フラフラと帰宅する。心配して部屋を訪れた波子を、勝三は手荒に抱く。勝三の矢張り右足太股には、映画と同じ赤蛇の刺青があつた。ピンク映画配給会社企画部の駿河(末次)を訪ねた勝三は、劇中「連続暴姦」の脚本家が本業はエンター石油に勤務するOL・山崎千代子といふ女であることと、「連続暴姦」の脚本は、実体験を基に書かれたものである旨を聞き出す。エンター石油前で待ち伏せした勝三は、特定した千代子(竹村)を深夜帰宅時に待ち伏せすると強姦し殺害する。だが然し、脚本は実際には千代子が書いてはゐなかつた。千代子とは同性愛の関係にもある同僚の冬子(織本)が、勝手に千代子の名前をペンネームに拝借して書いたものであつたのだ。冬子の姉・秋子(織本かおるの二役)は十二年前、右足太股に赤い蛇の刺青を彫つた男、即ち勝三に犯され殺された。その一部始終を勝三は気付いてゐなかつたが、幼い冬子(子役不明)が目撃してゐた。現場で拾つた手袋が映写技師の商売道具であるのを後に知つた冬子は、姉殺害犯の手掛かりを得る目的で、劇中「連続暴姦」の脚本を執筆したのだつた。
 全篇を貫いて弾ける大杉漣のいつもギラギラし放しの粗暴性も鮮やかに、姉殺しの敵(かたき)を追ふ主人公が、映写技師である筈の犯人をピンク映画の脚本を通して追ひ詰める、といふピンク映画。濡れ場の質量も一欠片たりとて疎かにするでなく、サスペンス映画としての構造も秀逸で正しく見事ではあるのだが、大きくひとつ、その他にも飛躍が目立たぬではない。そもそも、敵(てき)が恐らく映写技師ではあらうとして、ただそれが、必ずしもピンク映画のであるとは限らない。一般映画の小屋に勤める男であつたらどうするつもりだ、などと一々難癖をつけるほどには、小生も無粋ではないつもりである。勝三が、エンター石油社屋前で山崎千代子を探し求める件。「山崎さん」と、千代子が男性同僚に呼び止められ、映画に誘はれる。ものの、駿河とも交際する、つまりバイである冬子に対し、真性ビアンである冬子は手短にあしらつて断る。その様子を目撃した勝三は、千代子に狙ひを定めるのだが、大体“山崎さん ”だけでは、千代子だか花子だか特定出来はしないのではないか。と、いふのも瑣末と片付け得たとしても、一点、通り過ぎられない欠如がなほ残る。冬子―と駿河―が、①映写技師である②駿河の下に劇中「連続暴姦」に関して尋ねに来た③その上で、山崎千代子が殺害された以上三点から、勝三に秋子殺しの目星をつけるところまでは頷ける。ところが他方、一旦は千代子の人違ひ殺害を経た後に、勝三から冬子に辿り着く段取りなり手続きは明確に抜けてはゐまいか。当時第五回ズームアップ映画祭では作品賞と監督賞とを受賞したといふが、個人的にはその点に些かならぬ疑問が残つた。明確に勝三を疑ひつつ、駿河が波子を危険に曝すやうな真似をするのも如何なものか。その後の展開は結果論としても、既にその時点で、少なくとも女が二人死んでゐる。今作の勝三の勢ひでは、生涯に一体何人の女を殺してゐるのか判つたものでもないが。凝つたプロットと、漲る高い緊張度は抜群のものながら、穴も目立たぬでもない今作よりは、同年の滝田洋二郎に限定しても一作前の、「痴漢電車 百恵のお尻」の方が余程完成度は高いのではないかと思へるものである。

 出演者残り螢雪次郎は、上板東映支配人。問題が最後に早川祥一はといふと、これがこれといつた配役が見当たらない。その他劇中に見切れるのは、山崎千代子を映画に誘ふもフラれる男と、日曜の夜四人連れ立つて小屋を後にする上板東映の客に、後のカットで妙にピンで抜かれる一人客。


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 「痴漢電車 百恵のお尻」(昭和58/製作:獅子プロダクション/企画:沢本大介/配給:新東宝映画/監督:滝田洋二郎/脚本:高木功/企画:沢本大介/撮影:志賀葉一/照明:森久保雪一/音楽:こかつあつし/編集:酒井正次/助監督:桜沢繁/監督助手:渡辺元嗣・房洲雅一/色彩計測:寺屋史郎/撮影助手:乙守隆男/照明助手:坂本太/車輌:井川日光之/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:山内百恵・竹村祐佳・織本かおる・神原明彦・正司直人・富岡晴夫・中曽根金策・早川眻一・新名健博・渋谷一平・戸川日光・高嶋聖子・上川幸子・螢雪次朗)。撮影が、ポスターには清水正二、詰まるところ同一人物ではあるのだが。音楽も、ポスターでは何故か芥川たかし、こちらは別人かと思はれる。更に更に、相変らず性懲りもなく螢雪次朗は螢雪次“郎”で、富岡晴夫は富岡晴美に。但し、正司直人がポスターには庄司直人なのは、ポスターの方が正しい、やゝこしいこと極まりない。
 開巻、劇中都合二度きりの看板を偽らぬ電車痴漢に勤しむ探偵の黒田一平(螢)は驚く。女(山内)が、三年前に引退した山口百恵に瓜二つであつたからだ。山内百恵が山口百恵で通用するのかそれは通らぬ相談であるのかは、八つの時に引退したオリジナル自体の印象を実体験として強く持つてゐないのもあり、正直何れに判断すればよいのかよく判らない。一方こちらは東洋テレビ、何事か音声テープを編集中のプロデューサー・春川梅子(織本)の下に、局長(神原)が訪れる。手掛けた二時間ドラマがお蔵入りになつてしまつた春川は、生放送の山口百恵復帰スペシャルでの汚名返上に燃えてゐた。織本かおるの濡れ場は、局長との間に展開される。ところが土壇場になつて、山口百恵(山内、二役)が急性胃炎で出演をキャンセル。慌てた春川は、助手の浜子(竹村)と一発致してゐたところの黒田に助けを求める。黒田は、電車の中で痴漢したばかりの普段は女子大生であるソックリさんを口説き落とすと、山口百恵本人として担ぎ出す。さういふ次第で、ビートたけし、あるいはビトタケシ(正司)の司会で、「山口百恵スペシャル」は凶行、もとい強行放送開始。のつけからたけしが山口百恵に、三浦友和との夫婦生活の回数を聞き出さうとする破天荒を、黒田はテレビ局の雰囲気に浮かれる浜子と見守る。とそこに、脅迫電話がかゝつて来る。東洋テレビ局内に、爆弾を仕掛けたといふのだ。黒田らは爆弾を探し始めるが、犯人からの要求は生放送中の山口百恵のオナニー、更には江川卓との白黒ショーと過激といふか滅茶苦茶にエスカレートし、なほかつ浜子は姿を消す。ところでその頃当の百恵ちやんはといふと、何故か藤竜也と不倫してゐたりなんかする。この二人が噂になつたことなど、確かなからう。
 「おくりびと」(2008)の大ヒットと第81回アカデミー賞外国語映画賞受賞とに、それ行け便乗するんだと機を見るに敏な新東宝が旧題ママで繰り出した「黒田探偵」シリーズ第三作は、心の底から、全身全霊も込めて、いい意味で何処から突つ込めばよいものやら途方に暮れる破茶滅茶な痛快作。山口百恵・ビートたけし・藤竜也らが当人として登場するだけでも十二分に凄い上に、挿しつ挿されつの大騒ぎ。投球中に急遽降板させられた江川卓がスタジオに連れて来られるのに加へ、背中しか映らないが、放送を見ながらマスをかく槙原寛巳も登場。あんまりだ、せめて女と絡ませてやれよ。射精の瞬間に、デジタル時計を代用したスピードガンは150キロを計測する。下らないにもほどがあるが、プロ野球が絡んで来るところで爆弾魔がテレビ番組をジャックする。となると、東海村からプルトニウムを強奪したジュリーがナイターの巨人大洋戦を試合終了まで中継させる、「太陽を盗んだ男」(昭和54/監督:長谷川和彦)も髣髴とさせる。御託を並べるばかりで役には立たない江川を押し退けたたけしが百恵ちやんに覆ひ被さりつつ、謎の犯人から二千万の現金が要求される辺りから、フリーダムな勢ひはそのまゝに実は本格サスペンスといふ本筋を、俄かに映画は取り戻す。破茶滅茶は破茶滅茶で確かに箆棒に面白いのだが、今作の本当の白眉はここから。直截なところ映画ファンとしては犯人の目星は概ねつかなくもないものの、兎にも角にも黒田一平が真相に達するシークエンスの出来映えがズバ抜けてゐて、正しく身震ひさせられる。入念に練り込まれた脚本と、それを僅かに躓くでなく、なほ加速させた強靭な演出とがもたらす、最後のピースがピシャリとはまり謎解きが綺麗に完成された、極上の娯楽映画のみが与へて呉れる抜群の安定感を心ゆくまで味はへる。山内百恵に面影と思ひ入れとを重ね合はせる心的操作が出来た場合、ふんだんな“山口百恵の”裸に一層心の琴線を掻き鳴らされるにさうゐなく、他方では、いはば生物(なまもの)である時代性に囚はれずとも、そのサスペンス映画自体の煌く完成度は些かも損なはれはしない。開き直つたかの如く痴漢電車要素の薄さ以外には、あらゆる方面にあまりにも強力な紛ふことなき傑作ピンクである。
 鮮烈なストップ・モーションと、自由奔放、あるいは大胆不敵さが映画を見事に締めるオーラスのもう一ネタに関しては、大らかであつた時代の麗しさを尊ぶべきだ。細かいことをグチャグチャいひない、息苦しくて仕方がないぜ。

 (今回新版)ポスターにも名前の記載される中曽根金策と富岡晴夫が、藤竜也のソックリさんと江川卓のソックリさんではなからうかとも思はれるが、何れが何れであるのかは特定不能。ただ二人の相似度でいふと、正味な話江川に関しては手放しで然程すら似てはをらず、大分グラサンで誤魔化してゐるとしても藤竜也の方が未だ断然見られ、濡れ場も十全にこなす。その他、局内スタッフや妙に御丁寧に抜かれる江川緊急降板の模様に固唾を呑む四人組等が登場。ワン・カット楽屋に見切れるイチャつく男女も、当時熱愛を囁かれた誰かと誰かを模したものであるのやも知れないが、情報量が少な過ぎて、皆目見当はつかなかつた。


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 「不倫ごつこ 淫らに燃えた妻<オンナ>たち」(昭和63『人妻不倫願望』の2008年旧作改題版/企画:《株》旦々舎/配給:新東宝映画/監督:浜野佐知/脚本:山崎邦紀/撮影:稲吉雅志/照明:佐藤幸郎/音楽:藪中博章/編集:金子編集室/助監督:柴原光・毛利安孝/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東映化工/出演:舞坂ゆい・日高優・結城れい子・荒木太郎・池島ゆたか・直平誠・日比野達郎)。(今回)新版ポスターでは、脚本が山邦紀・・・・あれ?
 正直、二十年後の現在の目からは甘酸つぱい思ひも禁じ得ない、光線式のコンバット・ゲームに興じる麻木子(舞坂)・俊介(池島)の荒牧夫妻と、ちづる(結城)・幹男(直平)の芹川夫妻。ところが四人は入り乱れがてら次第にそれぞれの配偶者の目を盗んでは、いはゆるW不倫の上を行くクロスカウンター不倫、あるいは結果論的スワッピングを展開する。芹川と戯れる麻木子の姿に、草むらの中に潜んだ大学生の芳起(荒木)が熱い視線を注ぐ。芳起は、アルバイトする個人スーパー「ジャンプ」を訪れる専業主婦の麻木子に、熱烈もストーカー気味に通り越した愛慕を注いでゐた。ジャンプ店内に見切れる、芳起同僚の矢張り同年代の若い男は、誰なのか全く不明。定石からいふと、柴原光か毛利安孝か。芳起はOLの姉(日高)と二人暮らし、ここで話を反らすが、正直なところ、日高優と結城れい子の配役に関しては、ビリングからの完全なる推定である、手も足も出せなかつた。話戻して、仕事に疲れた姉―固有名詞は呼称されないゆゑ不明―は風呂上りに芳起の前で肌も隠さず、その日も連れ込んだ恋人(日比野)と、隣室には芳起もゐるといふのに激しい情事に耽つた。そんな姉の姿に反発を覚える芳起は、潤ひに欠いたキャリア・ウーマンに対し激しい憎悪を燃やし、返す刀で、専業主婦への偏愛を更に一層募らせる。一方姉は、内向的で抱へ込んだ屈折を静かに、然し確実に強く醸成させる弟を心配してもゐた。専業主婦を徒に崇拝視すらする芳起は、芹川との間に働いた不貞に正義だか性義の鉄槌を下すべく、終に麻木子を拉致する。
 浜野佐知の映画だからといつて、夫と夫の親友を共々相手に、自由奔放に性の快楽を謳歌する麻木子が主人公かと決めつけてしまふのは、誤つた先入観。舞坂ゆいと日高優の―多分結城れい子の、出番は明確に少ない―攻撃的な濡れ場の合間合間を、未だ若い、のか今とあまり変らないのかに関しては大いに議論も分かれさうな荒木太郎が、ウジウジしながらフラフラするばかりの展開は、本筋が一向に見えず、中弛むといへば確かに中弛む。オッパイの大きな舞坂ゆいの首から上は品がなく、美人の結城れい子はオッパイが寂しい。対照的に二物を与えぬ、天の残酷さも心憎い。ところが、捕らへられた麻木子が額面通り意外な真実を芳起に明かしてからが、列車がトンネルを抜けるが如く、晴れ晴れとした結末へと向け映画が俄かに快調に走り出す。昨今の頑強な浜野佐知の姿からは意外にも思へるが、今作は実は芳起を主役に据ゑた、青年から大人へと至る過程をテーマとした、ど直球の成長物語なのであつた。悪意のみを以て眺めるならば手の平返した転向といへなくもないが、歪み、自閉した偏向が補正され芳起の世界が開けて行く中で、弟を案じる姉の視点は健全さの象徴として有効に機能し、大人になつた芳起を迎へ入れる、麻木子・荒牧・ちづる・芹川の四人も、殆ど戯画的なまでに頼もしく描かれる。宴席に招かれたものの、依然所在なさげな芳起に対し、芹川と荒牧がわざわざ二度に分けてそれぞれ乾杯を促すシークエンスの意図は、直後のイメージ風食事ショットに於いて、他の四人と同じく旺盛に料理を口に運ぶ、成長した芳起の姿へと帰結する。狙ひ通りの形になつた映画といふのは、実に清々しい。役者荒木太郎天性の変態性を武器に、溜めに溜め込んだ閉塞感を、模範的に鮮やかな起承転結の転で抜くと、一息に畳み込んで磐石に幕を引く。時代の流れの中に埋もれがちなエロ映画に一見見えなくもないが、何気に完璧な構成に支へられた、ストレートな青春映画の良作である。

 門外漢なもので短いカットから車種までは判別しかねるが、今作では、荒木太郎が中型の単車を運転するのが見られる。さういふ姿に、これまで見覚えはなかつた。ところで、旧題は本篇に軽やかに似(そぐ)はず、新題は新題でさりげなくプロットを割つてゐる。


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