真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「新任女刑務官 禁じられた関係」(1999『女刑務官 美肉狩り』の2013年旧作改題版/製作:フィルムハウス/提供:Xces Film/脚本・監督:坂本太/企画:稲山悌二《エクセスフィルム》/プロデューサー:伍代俊介/撮影:創優和/照明:小野弘文/照明助手:藤塚正人・高橋理之/助監督:羽生研司・元如宏・村上宣敬/製作担当:真弓学/ヘアーメイク:成田幸子/編集:金子尚樹《フィルム・クラフト》/効果:東京スクリーンサービス/出演:牧原美穂・佐倉萌・佐々木基子・久須美欽一・竹本泰史・吉田祐健)。
 本物の刑務所の外観を押さへた、南関東女子刑務所。所内を地下に設けられた特別棟に進む特別棟主任刑務官・黒田京香(牧原)の姿に、京香と、婚約者で保護観察官の緒方道夫(竹本)との、在りし日の婚前交渉が併走する。結婚式に同僚で京香とも高校の同級生である江住サキ(佐倉)を呼ばうとする緒方の問ひかけを、京香が冷淡に拒んだところでタイトル・イン。京香が辿り着いたのは半裸の上右足を吊られた片足立ちの状態で、足下に置かれた洗面器に放尿、には未だ至らないサキの独房。京香は粘着質の関西弁を駆使するサキの担当刑務官・三上伸二(吉田)に自身の身を捧げ篭絡、緒方を殺害したサキに対しジャンル的な要請に忠実に応へる虐待を加へてゐた。
 佐々木基子は、売春防止法で摘発されたとの緒方の発言をみるに、多分いはゆる5号観察中の篠原怜子。完成された悪代官ぶりが寧ろ清々しい久須美欽一は、そんな怜子に売春させた金を巻き上げる悪徳保護観察官・金原源一郎。緒方の上司であつた金原は京香に接触、緒方が残した対象者に関する資料の提供を求める。一応突つ込んでおくと、何でさういふマキシマムにデリケートな代物が、職員の自宅にあるんだよ。
 性懲りもないやうだがピンク映画版「ガルシアの首」こと「マル秘性犯罪 女銀行員集団レイプ」(表主演:平沙織/本主演:吉田祐健)に先立ち、キャスト・スタッフの多くを共有する坂本太1999年第一作。PG誌の訃報記事に於いて代表作のひとつに挙げられることもあり、丹精な語り口を通して濡れ場を積み重ねつつ、婚約者殺しと扇情的な復讐といふ表面的にも過激な物語の影に隠された、闇に徐々に徐々に迫つて行く作劇には力強い充実が漲る。京香が全てを失つてなほ、残された“一番大切なもの”に辿り着く悲愴にして美しい結末も、女の裸と素面といふ意味での裸の劇映画としての鮮烈さとを両立する。俳優部も百戦錬磨の重鎮・久須美欽一を扇の要に甘さと苦さを併せ持つ色男の竹本泰史と、変質的な飛び道具役で弾ける吉田祐健。攻守磐石な男優部に加へ、女優部も佐倉萌に佐々木基子と、ピンク界の誇る芝居巧者が頑丈に脇を固める。となると坂本太一撃必殺のマスターピース、と手放しで行きたいところ、なのだが。肉付きも口跡もともにレス・ザン・シャープネスな牧原美穂のエクセスライクが、今作の致命傷ないしは御愛嬌。乳の太さだけは買へるものの、天は二物を与へなかつた、あるいは与へ過ぎ賜ふた。主演女優が真の傑作への道を閉ざすといふのがある意味実にエクセスらしく、そしてさういふエクセスを一筋に戦ひ抜いた坂本太にとつては、背負ひし十字架にも似た一作。エクセス・クロス!かういふと何かカッコいい?


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 「兄嫁 禁断の誘ひ」(1998『白衣と人妻 したがる兄嫁』の2013年旧作改題版/製作:国映株式会社/配給:新東宝映画株式会社/監督:上野俊哉/脚本:小林政広/企画:朝倉大介/撮影:小西泰正/編集:金子尚樹《フィルムクラフト》/音楽:山田勳生/助監督:坂本礼/監督助手:大西裕/撮影補:水野泰樹/撮影助手:加藤武志・中原昌哉・阿津坂英樹/録音:シネキャビン/ネガ編集:門司康子/タイトル:道川昭/タイミング:武原春光/現像:東映化学/応援:岩田治樹・榎本敏郎・鎌田義孝/協力:細谷隆広・今岡信治・高田賢・アウトキャストプロデュース・UKプロダクション/出演:江端英久・佐々木ユメカ・葉月螢・河名麻衣・伊藤猛・岡田智宏・本多菊雄)。
 鹿島鉄道鉾田駅に、今となつては傍目にも恥づかしい馬鹿デカい眼鏡の江端英久が降り立つ、俺も昔かけてゐた時期あるけどさ。江端英久がバスに乗り換へ、ほてほて歩いてタイトル・イン。茨城から山梨に飛ぶロケーションは実際とは異なるのだが、ケンジ(江端)は事前に報せもせず実家に帰る。結婚の口約束を交してゐた恋人(河名)にフラれ、要は都落ちして来たのだつた。学生なのか仕事を持つてゐるのか、ケンジの東京での生活のディテールは、河名麻衣が喫茶店のウェイトレスである点以外語られない。久方振りに戻つて来たケンジを兄嫁のハルヨ(葉月)は温かく迎へるのに対し、それだけで飯が食へるのか、家業の竹篭細工を継いだ兄・リョースケ(本多)は妙にでもなく冷遇する。
 配役残り佐々木ユメカは、リョースケ行きつけの居酒屋の店員・井上ミチコ。店に連れて行つたケンジに、リョースケはミチコとの浮気を自慢する。ケンジには知らされぬまゝ、癌を患つてゐた兄弟の母(登場はしない)が入院する病院の看護婦が、ミチコの本業。狭い田舎町で、殊更に非現実的ではある。憎まれ役の色男、といふ与へられた役割を地味に完璧に果たす岡田智宏は、河名麻衣の新しい彼氏。そしてラスト間際にチョコッとだけ出て来る伊藤猛は、ミチコが満更でもない以上の風情を漂はせる医師・木村。
 結局今なほ戦線に留まるのは五十音順に今岡信治・榎本敏郎・田尻裕司に限られるピンク七福神の中心人物として脚光を浴びつつ、今年四月に急逝した上野俊哉の代表作「バカ兄弟」シリーズの栄えある第一作。今もリアルタイムの感想がネット上のそこかしこに残る点をみるに余程好評を博したのか、シリーズは以降連続する続篇の「したがる兄嫁2 淫らな戯れ」(1999)、前日譚となる「どすけべ姉ちやん 下半身兄弟」(2000)、そして純然たる別のお話の「新・したがる兄嫁 ふしだらな関係」(2001)と、順調に年一本づつ計四作が製作される。個人的には、新・したがる兄嫁の粗筋と主演女優の絶妙なルックスだけは記憶に残つてゐつつ、今作は多分観てゐる筈にしては、綺麗に忘却したのか今回初見と全く変らぬ感触であつた。「バカ兄弟」だなどと愉快な冠に釣られ、面子的によしんばオフ・ビートにせよもう少し笑かせるコメディを期待したものの、一応都会的といへるのか、センシティブな弟をある意味ポップな田舎者の粗野で動物的な排他性も発揮する兄が、殆ど理不尽にいびり倒す。どうもコッテコテの娯楽映画好きの当サイトには肌に合はない、往時何でまた、斯様な鬱屈とした両義的に抜けない映画が持て囃されてゐたのだか改めて皆目見当がつかない、時代をも超えて釈然としない一作であつた。仏相手に憎まれ口を叩く筆禍は心苦しくもあれ、偽らざる感想であるゆゑ仕方がない。小屋に落とした木戸銭を、免罪符にしてしまへ。意図的に抑揚を欠いた始終に、激しい濡れ場を飛び込ませ波紋を起こすアクセントも二度三度繰り返されれば飽きる、裸映画を馬鹿にするのはやめて頂きたい。まだあつた、回想パートのノー・モーションぶりも考へもの。ケンジが水上荘の敷居を跨いで直ぐに始まる江端英久V.S.河名麻衣戦は、初め兄夫婦の夫婦生活かと錯覚した。
 そんな中感興を覚えたのは、未練がましく江端英久が河名麻衣に電話をかけてみたところ、河名麻衣は岡田智宏と大絶賛ギシアンの真最中。といふ医者の木村も想起すれば尚更情容赦ないリアリズム、ではなく。したがる兄嫁といふと、江端英久と本多菊雄のコンビを除けば、女優部では葉月螢がいの一番にフィーチャーされる傾向にあり、現に当方もさういふ印象をウッスラ持つてゐた。ところが議論の分かれ次第では形式論にせよ、ビリングは佐々木ユメカが上位に来る事実は新鮮に映つた。尤もその辺りにも、当時の空気が窺へるといへるのか、そもそも当初公開題では人妻“ハルヨ”よりも、白衣“ミチコ”が先んじてゐる。


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 「姉妹相姦 いたづらな魔乳」(2013/製作:ナベシネマ/提供:オーピー映画/監督:渡邊元嗣/脚本:山崎浩治/撮影照明:飯岡聖英/編集:酒井正次/助監督:永井卓爾/監督助手: 江尻大/撮影助手:宇野寛之・藤田朋則・岡本彩/編集助手:鷹野朋子/スチール:津田一郎/タイミング:安斎公一/効果:梅沢身知子/録音:シネ・キャビン/現像:東映ラボ・テック/協賛:GARAKU/出演:ティア・山口真里・野村貴浩・久保田泰也・津田篤・眞木あずさ)。銘々改めて登場するエンドロール野村貴浩の背後に、一瞬ナベが見切れる。
 アルバイトのコンパニオンで、買ひ物依存症の末にカードを停められた稲森玲奈(ティア)が、ポップでキュートに悲鳴を上げる。一方失恋のショックでOLを退職、目下―玲奈が居候する形の―自宅を警備する姉の有希子(眞木)は、古典的なカウチポテト姿でそんな妹を冷ややかに見やる。早くに両親を亡くし、女手ひとつで苦労を重ね高校まで出したものの、その間当人はエッサカホイサカ男遊びに励んだ挙句、終に―有希子は―本命の不倫相手を寝取つた玲奈を、有希子は軽やかに見放す。その時、テレビに流れる心中もののテレビドラマ―これもしかして、「いひなり未亡人 後ろ狂ひ」(2010/主演:星優乃・岡田智宏)内の一幕?―に、玲奈が触発されタイトル・イン。結果論を踏まへて振り返ると、ここまでは完璧、ほぼ眞木あずさとティアしか出て来ないから。
 何のかは語られないが老舗御曹司の三好悠太(久保田)を呼び出した玲奈は、借金をそれしきの端金と肩代りしては呉れぬかと、自死を大袈裟に仄めかす。ところが、放蕩が祟り勘当されてしまつた悠太に火に油を注がれ、話は偽装自殺から心中へと発展。こんな筈ではと頭を抱へるティアが、銀河系代表レベルに可愛い。
 熟(こな)れない展開の中で正直文字通りの苦戦を強ひられる津田篤は、悠太の当てが外れた玲奈が続けて頼る、今度は大工の木村竜二。山口真里は竜二が“姐さん”と呼ぶ前田真由美で、親爺で前田組の組長ならぬ棟梁の万作が、予想外を通り越し衝撃的なインパクトで飛び込んで来る永井卓爾、後述する。そして野村貴浩が、玲奈が有希子から寝取つた問題の元不倫相手・戸上宏、竜二篇を通過した都合のいいタイミングで姉妹の前に現れる。百兆歩譲つて久保田泰也に関しては我慢するにせよ、今作の致命傷は、西岡秀記の不在。
 第二作に先を越されて着弾した、渡邊元嗣2013年第一作。妹と姉が時にそれぞれ時に一緒くたに、チャラいダメ男や激しく紛らはしい男や鬱陶しく性質の悪い男に振り回される、公言される落語ベースも超えてコメディ仕立ての陽性ナベシネマ。本来ならば、あるいは兎にも角にも、ゴミゴミしい野村貴浩と久保田泰也にこんなものが形になるかドアホ(#゜Д゜)と匙も投げたくならうところが、映画をたをやかに救ひ出すのは超絶の美人姉妹。眞木あずさは完全に美人女優の風格を漂はせ、演出の勝利なのか、地から浮いてゐる筈の足を不可思議に固定する、ティアの謎の安定感は初陣にして完成してゐる。何より、正しくクライマックスと称するに相応しい姉妹相姦に際しての、四座の大山が連なる“魔乳”の破壊力は圧倒的。各々悶着を経ての姉妹の去就をハッピーエンドに落とし込む、有希子の起業も桃色に気が利いてゐる。何はともあれ、眞木あずさとティアが載つかつた銀幕の至福。より正確には、眞木あずさとティア“だけ”が載つかつた銀幕の至福。ほかのものは何も要らない、あるいは最低限の物語さへも。
 無論、力技の三番手ポジをスマートに切り抜ける、山口真里の存在も忘れてはならない。新田栄を始め、場数に恵まれぬ状況の悲運はせんなく惜しまれつつ、風間今日子の穴を、何時の間にか山口真里が埋めた印象を強くする。もうひとつ特筆すべきは、地毛なのか染めたのかは知らないが、白いものが混じると何と飯島大介似に見える永井卓爾のまさかの貫禄、内トラに度肝を抜かれるとは思はなんだ。


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 「人妻女医 性奴隷の悦び」(2013/製作:幻想配給社/提供:オーピー映画/監督:友松直之/脚本:百地優子・友松直之/撮影・照明:田宮健彦/編集:酒井正次/助監督:石川二郎/監督助手:貝原クリス亮/撮影助手:俵謙太・川口諒太郎/ヘア・メイク:江田友理子/スチール:高橋大樹/制作応援:奥渉/録音:シネキャビン/現像:東映ラボ・テック/制作協力:幻想配給社・アウトサイド/出演:小沢アリス・小林さや・青山真希・福天・津田篤・金子弘幸・倖田李梨)。公開題の画期的なまでのどストレートさに震へる。
 総合病院の心療内科診察室、キモいダサいウザい四十代―には見えないが―負け犬を自虐する津田篤が、女医の主演女優を手酷く陵辱するエクストリームを、開巻即叩きつけた上でタイトル・イン。別に休んでゐた訳ではないゆゑ当たり前なのだが、実に迷ひがない。
 ポップに打ちひしがれた田中(倖田)の診察を終へた村上玲奈(小沢)を、夫で外科医の雄介(福天)が訪ねる。夫婦の予定がある雄介は、玲奈の助手・葛西春子(小林)と何事か脛に傷持つらしき目配せを交した上でそそくさと捌ける。その夜の予定といふのは、雄介が実兄のやうに慕ふ従兄弟・宮田秀彦(津田)の来宅。リストラされたのに加へ、離婚した秀彦が鬱を患つてゐるのではないかと案じ、雄介は心療内科の診察を促さうといふのだ。込んだ負けがグルッと一周して厄介にアグレッシブな秀彦は、ガキの頃から長い雄介の風呂に乗じて、玲奈に軽くでもなく手を出す。兎も角いざ診察、元嫁の浮気の現場に出喰はした体験を告白した秀彦は、男女双方の移り気を玲奈のフンドシも借り遺伝子が求める多様性に帰する方便を、とても弱つた人間には思へない立て板に水のアクティブさで開陳。そんな秀彦に、神と契約を交しもせずに“永遠の愛”とやらを信じるだなどと自堕落に口にする春子は接近、シレッと凶悪な共同戦線を張る。
 改めていふと中村和愛の「三十路同窓会 ハメをはずせ!」(2001/共演:星野瑠海・佐々木基子)以来実に十二年ぶりとなる、驚愕のピンク帰還を果たした青山真希(ex.逢崎みゆ)は秀彦の元嫁・佳織と、秀彦が友人から借りたDVDを見る、AVデビューした元アイドル設定でのハーセルフ。DVD内でも青山真希と絡む金子弘幸が、佳織の間男・伊藤、氷売りらしい。何故氷なのか、氷にするならリンゴにすればいいのにといふのはオジサン趣味。
 ①ナイーブなオタク青年が②誰も知らない映画女優と③銀幕の中で終に添ひ遂げる。今世紀空前の美しさを撃ち抜いた衝撃作「囚はれの淫獣」(2011/主演:柚本紗希・津田篤)で干されたといふのが、ためにするリップ・サービスなのか実際さうなのかは在野の一ピンクスには与り知らぬにせよ、何はともあれ二年ぶりに目出度くピンクに復帰した友松直之の2013年第一作。城定秀夫と山内大輔を擁しソリッドに暴れるエクセスも視野に入れると役者が揃つた高揚感が昂りつつ、旦々舎撤退の衝撃から目を逸らさないならば、目下響くのは森山茂雄の沈黙。人の話は措いておいて、何処かで観た気もする薄味の展開を、頑強に御馴染みの友松直之持論で埋め尽くすプロパガンダ戦術は良くも悪くもお手の物。但しそんな中、静かに凶暴なキャラクター込みで口跡を疾走させる、津田篤のビート感が今作の出色。同じく友松直之が十八番とする、春子が雄介を分断しての濡れ場併走も裸と映画両面安定してお見事。申し訳ないが医師国家試験に合格した才媛には一ッ欠片たりとて見えないものの、造形の成果もあるのか、首から上に受ける印象からは予想外の小沢アリスのムッチムチ、ムッッッッチムチな爆裂と、こちらはオッパイは寂しめともいへ、現代風にアップデートした吉行由実に見える小林さや。ともに35mm主砲にその身を曝すのは初めてながら、友松組は経験済みのこともありエクセスライクな痛痒は全く感じさせない。「セカンドバージン」を墜とすのは今作では無理にしても、悪意に満ち満ちたラストの切れ味の鋭さが逆に清々しい印象を残す、ひとまづ挨拶代りの強烈な一作。2013年のピンク映画は、いよいよ面白いことになつて来さうだ。ぼちぼち年の瀬に、何をスッ惚けた寝言を垂れてゐやがるといふのはいはないで(´・ω・`)

 ひとつ友松直之に負け戦を挑んでおくと、相続といふ要素も重視した私有財産制と、生まれて来た子供に初等・中等・高等教育まで基本受けさせたい社会的要請を考慮するだけで、現行の結婚ないしは家―庭―制度を、超克して行くのはなかなかな難事業であるやうにも思へる。ドロップアウトした癖に、パラダイムに囚はれてるかな?


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 「尻軽浮気妻 バイブ地獄」(1996/製作:関根プロダクション?/配給:大蔵映画/監督:関根和美/脚本:関根和美・加藤義一/撮影:三原好男/照明:秋山和夫/助監督:加藤義一/音楽:リハビリテーションズ/編集:㈲フィルム・クラフト/監督助手:小谷内郁代/撮影助手:伊藤琢也・末吉真/録音:ニューメグロスタジオ/効果:協立音響/現像:東映化学㈱/スチール:津田一郎/出演:小川真実・田中ゆうき《新人》・林由美香・杉本まこと・樹かず・平賀勘一)。
 山際時枝(小川)が床の中で溜息をひとつつき、隣の布団で眠る耕司(平賀)に夫婦生活を求める。この前したの何時だ?忘れただのとらしくないアンニュイな遣り取りを経て一通りこなすも、耕司は達してゐない。もう自分ではイカなくなつたのかと時枝の絶望的な自問に乗せて、闇雲にオットロシイ劇伴とともに南酒々井の一軒家のテローンとした外観に被さるタイトル・イン。明白に険悪ではないにせよ、結婚十年、擦れ違ひ感は隠せない朝食の風景。時枝は、耕司と部下の涼子(林)の浮気の現場を目撃してゐた。夫を送り出し一晩寝かせておいたのか郵便受けを探ると、時枝宛に南洋大学同窓会の案内が。小川真実の単騎模擬戦と、林由美香と平勘の一戦噛ませて、時枝は同窓会幹事で元恋人の、高見沢浩(杉本)に連絡を取る。時枝と事前に二人で会ふことを快諾する浩ではあつたが、電話を切ると部屋にはシャワーを浴びてゐたまりえ(田中)の姿が。“ダーリン”と称する吉永賢一(樹)との二股に満足するまりえと、浩が結婚を本気で希望してゐることを知らず、加藤義一がバーテンの店で浩と再会した時枝はサクサク焼けぼつくひに火を点けるや、いきなりもう後戻り出来ないだなどと前のめりによろめいて行く。
 特にこれといつたお目当てなりテーマがあるでもなく、次は何を見るべえかと適当に見繕ふ。豊かなのか貧しいのかよく判らない月額動画の愉しみは、さて措き番組頼りの小屋に於ける本戦とはまた全く別種の趣もあるのではなからうかと、改めて漫然と思ふDMM荒野篇。そんなこんなで1996年関根和美作、小川真実も林由美香も杉本まことも煌くやうに若いが、樹かずと平賀勘一は、意味合は異なれど然程変らない。樹かず(現:樹カズ)は、この人の細胞は我々とは違ふのではあるまいかと思へるほど歳をとるといふことを知らず、平賀勘一は、この時点で既に完成形のオッサン。ところで田中ゆうきは、アクティブでボーイッシュな容貌と、若干詰めもの臭くなくもないが伸びやかでグラマラスな肢体は悪くないどころかかなり素晴らしいとはいへ、結構どころでなく声が悪い。どうせ新顔であるゆゑ、潔くアテレコといふ選択肢もあつたのではないか。映画の中身に話を戻すと、倦怠期に煮詰まる人妻が、フとした弾みで再会した昔の恋人に入れ揚げる。時枝の焦燥、まりえに対する浩の執心。そして小川真実と杉本まことの絶妙な名演が笑かせる、どうかした勢ひで突つ込んで来る時枝と、対照的に地雷を踏んだ後悔に慄く浩。シークエンス単位では、個々の心情描写にそこそこの深みも窺はせる。尤も質的にも量的にも濡れ場に関して―だけ―は貪欲である反面、物語の進行は清々しく遅い。モッサリモッサリ女の裸を積み重ねた末に、耕司が時枝の不貞を知り―己のことは棚に上げた上で―第一次修羅場が開戦するのが中盤もとうに通り越した終盤。起承転結のバランスは完全に崩壊しつつ、急旋回に次ぐ急旋回の場当たり的な展開の果て残り三分で辿り着く、“バイブ地獄”―正確にはここで使用するのはローターだが―のまさかよもやの真相には度肝を抜かれた。直截にいへば何がどう転んだらさう着地するのか皆目予測不可能な、木にオリハルコンを接いだある意味オーパーツのやうなトンデモ結末でしかないものの、兎にも角にも衝撃度は掛け値なし、この際ベクトルの正否など問ふな。挙句にその際には大仰な音声処理まで施しておいて、クレジット時のエンド・テーマの長閑さは鮮やかに拍子を抜く。何処までもツッコませる過積載ぶりが堪らない、過激な一作。途中といふか八捨二入でもマッタリした裸映画でしかなかつただけに、なほ一層チャーミングである。


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 「熟女事務員 癖になる痴態」(1996『女事務員 トイレの痴態』の2013年旧作改題版/企画・製作:フィルム・ハウス/提供:Xces Film/脚本・監督:上田良津/プロデューサー:伍代俊介/撮影:創優和/照明:小野弘文/編集:金子尚樹/助監督:加藤義一/制作担当:真弓学/監督助手:紀伊正志/撮影助手:国松正義/照明助手:船戸一生/ヘアーメイク:大塚春江/スチール:本田あきら/録音:ニューメグロスタジオ/効果:協立音響/現像:東映化学/出演:加藤ユキ・山本清彦・青木こずえ・杉本まこと・真央元・大原猛・小川真実)。
 浄水器電話セールスの「AOKジャパンコーポレーション」何処そこ支店、わざわざ思はせぶりに音声処理とスローモーションまで施される喧騒を離れ、事務の大谷かおり(加藤)は―東映化学(現:ラボ・テック)の―手洗ひに。かおりが個室に入り、閉められた扉にタイトル・イン。用を足したかおりは、隣から洩れ聞こえる嬌声に驚く。汚物入れを踏み台に大胆にも覗いてみると、何と営業トップの香坂まり子(青木)が自慰に狂つてゐた。驚いたかおりは、流しもせずにその場を離れる。新商品「24時間風呂」の販売に係長(大原)以下、営業の佐原昭宏(山本)と加藤義一に発破をかける営業課長の沢田礼子(小川)は、本来事務職であるかおりにも営業を厳命。しておきながら、ミーティングを放棄して漸く戻つたまり子には猫撫で声で接する華麗な手の平返しを披露。その夜、周囲には内緒で恋人である佐原と致したかおりは、女営業のトイレに於ける痴態を告発する。佐原はその秘密を出汁に、まり子に接触を図る。
 配役残り真央元は、つくづくトイレ好きなまり子が継続的な関係を持つ清掃員・木村。結果的にはまり子に佐原を寝取られてゐた夜、佐原が捕まらないかおりは仕方なく宅呑み。呑み足りず酒を買ひに出たかおりは公衆便所に入ると、まり子に感化されたのか一人遊び。をオッ始めたはいいものの、覗き魔がたてた物音に慌てて逃げ帰る。杉本まことは後日かおりの自宅を訪ねる、センシティブに無精髭を生やした出歯亀・サブ。定期には名前しか書かれてないゆゑ―住所を探すのに―苦労したといふが、かおりは酒は兎も角財布ごと忘れて来てゐるので、多分ヤサくらゐどうとでもなる筈だ。
 実は元題のまゝDMMでも見られる、上田良津第三作。小屋で戦へるものは小屋で観るべきだといふのと、これで上田良津のエクセス時代を網羅出来たのが嬉しい。大蔵第二作には先日辿り着いたので、あと二本。今からオーピーが投入して呉れたなら、見る前から射精して感激する。別に普段、ピーウィーしながらピンク観てゐる訳でもないけれど。余談を加速させると、小屋でマスなんてかくのは本域でイッちやつてゐる一部の脳がチューナー内蔵型の御仁を除き、十中八九「ここに食べ頃のフランクフルトがありますよ☆」といふ餌撒きであるとみる所存。ポール・ルーベンスの事情は知らん

 閑話休題、

 首から上は不美人といふほどではないにせよ、目つきの悪い馬面。ところがいざ脱いでみると案外けしからんプロポーションを誇る主演女優を擁し、裸映画的にはひとまづ安定する。出し抜けに窃視者の孤独を振り回すサブに対し、色男は得だ、かおりはケロッと膳を据ゑる。一方、昼も夜も女王の礼子が巡らせる、大雑把な姦計。一応ドラマ的な種も投げるかに見せかけて、手洗ひでかおりが木村に犯される隣で、まり子が自慰に相変らず燃えるクライマックスに突入。纏まりを欠いた始終をどう畳んでみせるかといつた点に注目したのは、単なるまだまだな俺の修行の甘さ。地味に荘厳な劇伴を起動させたドサクサに紛れ、何もかんも放り出したまゝ絡み逃げしてしまふ幕引きには、この際いつそ素直な完敗を認めるばかり。真央元に後ろから揉み込まれる、加藤ユキの意外と豊かなオッパイを上から押さへた画の威力には手放しで満足すると同時に、普段は滅多に頓着ないのだが、この件で放たれる凄まじいまでのリップ・シンクロ無視には、グルッと一周した清々しさを覚えた。


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 「熟女と不倫 すがりつく肉体」(1998『未亡人の下半身 濡れつぱなし』の2010年旧作改題版/製作・配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:武田浩介/企画:福俵満/撮影:柳田友貴/編集:酒井正次/助監督:佐藤吏/監督助手:栗原淳一郎/撮影助手:荒谷通広/撮影協力:広瀬寛巳/出演:吉行由実・麻生みゅう・相沢知美・熊谷孝文・杉本まこと・神戸顕一・佐々木恭輔)。
 タイトル開巻から風に戦ぐ木の暗いショット、季節外れの熱風の中父が突然家を出て行つたことを、妹・母・兄のリレーで掻い摘む。大学助教授の曾我部(後に抜かれる写真は誰だこれ)が行方を晦まし一ヶ月、にも関らず浪人生の息子・ケイジ(熊谷)は曾我部の研究室の大学院生・マユコ(相沢)と、高校生の娘・シズ(麻生)は同級生の西村カズオ(佐々木)を自宅に連れ込んでお盛んに励み、一方妻のミユキ(吉行)もミユキで、曾我部とも共通の大学時代の同級生・工藤シンスケ(杉本)と心配がてらイイ感じに旧交を温める。案外平然とした家族の姿に、マユコは逆に距離を覚える。神戸顕一は、家庭訪問するシズの担任・馬野。
 父親が蒸発した、その事実を何となく受け容れる家族を、父親の教へ子との対照も通して描く。そしてやがて明かされる、意外な真実。ざつとさういふ風情のナイーブなホーム・ドラマ、といつた辺りに狙ひはあるのであらうが、正直なところ如何に攻めたものやら途方に暮れさせられる深町章1998年全七作中第五作。南酒々井の一軒家から殆ど外に出ない省力設計は、淡々としたのもある意味エクストリームに通り越し、展開の手数と盛り上がりの欠如に直結する。曾我部が家族に遺した嘘も甚だパンチ力不足、肉を食はうが野菜を食はうが、要は不倫は家族には当然内緒の出来事である以上、個人的な他愛ない変身願望程度に過ぎまい。そして激しくちぐはぐなのが、これは純然たる全くの素人考へだが武田浩介の企図を深町章が積極的にか無作為に酌まなかつたのか、艶笑譚を撮る際の丸つきり何時も通りの、馬野の田吾作造形。そもそも馬野て、あるいはそこに、深町章の態度を見るべきなのか。シリアスな筈の物語に頬の赤い神戸顕一が闖入して来た瞬間には、あまりにも鮮やかな木に竹を接ぎぶりに逆の意味で感心した。尤も本筋が覚束ないゆゑ、どつちが木で竹か最早よく判らない。

 一点目についた、多分神は宿さない細部。シズの部屋に、イングヴェイ・マルムスティーンのポスターが。1998年といふともう十五年も前にせよ、それにしても平成の女子高生の部屋にインギはねえだろといふ話である。これが無造作なツッコミ処なのか、時代背景を表す小道具のつもりなのか判断に苦しむ。


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 「裂けた柔襞」(昭和62/製作:オリエント21/提供:にっかつ/監督:小林悟・日垣一博・青柳一夫/脚本:池田正一/プロデューサー:矢野浩祐・奥村幸士/撮影:柳田友貴・古谷巧/照明:大塚豪彦・平岡裕史/編集:エディターズカンパニー/スチール:中野基/メイク:田中尚美/音楽:東京スクリーンサービス/録音:銀座サウンド/現像:東映化工㈱/製作担当:堺沢優治/主演:清水ひとみ/出演:風見玲香・炎上寺由羅・岩城冴子・風間ひとみ・坂入正三・天野良治・吉岡一郎・渡辺一平・朝田淳史・飛鷹純・井沢誠・大場亀・平賀勘一・武藤樹一郎/特別出演:大前均・沢まどか・ハニーラブ)。実際のビリングは、平勘とトメの武藤樹一郎の間に特別出演勢を挿む。各部のセカンド・サードは一緒くたに、但し小さい号数でクレジットされる。撮影・照明は兎も角、演出部でそんなことするの初めて見た。
 パクられた容疑者に殺到する報道陣、上着がトッ外されると出て来たのは女。消耗しきつた風情の女に、この人が清水ひとみですよと主演クレジットが入りタイトル・イン。クレジットに乗せ取調室に連れて行かれる清水ひとみの姿を消化して、時制は少し遡る。麻雀に弱いコーイチ(恐らく天野良治)とサカショーがコーイチ宅に転がり込むと、父親に性的虐待されたアヤコ(清水)が逃れて来てゐた。麻雀の借金の形にサカショーがアヤコに強制夜這ひをかける一夜を通過して、死にたいとすら溢すアヤコを、友人(風見玲香?)は―男に―苦労させられるよりも騙して搾り取ることを考へろと、自身が働くピンサロに誘ふ。友人も友人だが、そんな話に乗るアヤコもアヤコだ。本番も全然アリアリなピンサロ稼業に案の定馴染めないアヤコに、愛称はジュンちやんの割に、ジュンジなのかシュンジなのかシンジなのだか呼称される毎に本名が全然安定しない―多分シンジが本命―バーテン(武藤)が接近する。
 殆ど手も足も出ない配役残り、どうやら、基本ビリングが登場順に並んでゐるぽいといふ推定で、炎上寺由羅と岩城冴子が、ピンサロの嬢とママ?風間ひとみが、シンジ本命のストリッパー???吉岡一郎と渡辺一平は、ママのパトロン氏イワブチさん―ここは確定―とピンサロ客。朝田淳史・飛鷹純・井沢誠は、プレ新婚旅行気分のアヤコとシンジを海岸にて急襲、アヤコを犯す狂犬三人組。ここも、朝田淳史は間違ひない。大御大の人を喰つた変名である大場亀“大馬鹿め”が、ストリップ興行会社「世界藝能」を営むシンジ父。大前均と平賀勘一は、興業に穴を開けかけた「世界藝能」に怒鳴り込むヤクザと子分。平賀勘一は、ピンサロにていはゆる三輪車に驚喜する客も兼務してゐる筈だ。口跡は変らないが、流石に別人のやうに若い。ハニーラブは本職の踊り子さんで、沢まどかが、首尾よくアヤコを捕まへたことに父息子が祝杯を挙げる、店の女給???
 DMMに新着した買取系ロマンポルノに喰ひついた、大御大・小林悟の昭和62年作。jmdbを鵜呑みにすると全六作中第三作に当たり、残りは全て大蔵。絶望的に男運に恵まれぬヒロインが刹那的な凶行に至るまでを無体に描いた一作は、始終が器用にストリップ小屋に着地してみせることと、性急の斜め上だか下を驀進するラストのドライなビートは如何にも貫禄の御大仕事ながら、流石に潤沢な普請に恵まれた、撮影の分厚さは見させる。豪快に長尺を費やすスローモーションと、砂浜を一体何処から抜いたのか大胆なロングとが火を噴くアヤコが狂犬三匹に陵辱される件は、裸の素直な煽情性としても、映画的な叙情としても激しく魅せる。


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 「痴漢覗き魔 和服妻いぢり泣き」(1998/製作・配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:岡輝男/企画:福俵満/撮影:清水正二・郷田有/照明:伊和手健/編集:酒井正次/スチール:津田一郎/助監督:高田宝重・佐藤吏/録音:シネキャビン/現像:東映化学/出演:葉月螢・工藤翔子・西藤尚・杉本まこと・樹かず・平賀勘一)。セカンド助監督の佐藤吏の史の字が、クレジット上正確には左から右のはらひが髭付き、明朝体でないと出せん。
 タイトル開巻、ズンドコ節と写真と爆音のSEとで、時代背景の外堀を埋める。昭和二十三年、本郷の角倉邸。先に眠る主税(杉本)の隣に遅れて床に入つた千尋(葉月)は、夫の求めを拒む。当人は悪びれもせぬ三ヶ月前、主税が女中の定か貞(西藤)を手篭めにするのを、千尋は目撃してゐた。役人として敗戦国の復興に奔走する主税は三日間京都に出張、ビルマで戦死した平井太郎(本物の戦時スナップ)の写真に涙を落とす千尋に、定が差出人不明の手紙を届けに来る。主税にも、部屋に運ばせた大きな箱の荷物が。平勘の声で突然の非礼を詫びる手紙の主は、千尋の友人の奥寺桂(工藤)が大麻を吸つてゐること、色男の間男(樹)と密通してゐることを告発する。翌日、桂から劇中台詞ママでパーテーに誘はれた千尋は、手紙の影響もあつてか淫夢挿んで断りの電話を入れる。その夜千尋は愕然とする、その年制定されたばかりの大麻取締法に触れ、桂がパーティー出席者ごと逮捕されたといふのだ。
 深町章1998年第一作にして、必ずしもブランドを冠されてはゐなくとも同趣向のものまで含めると足かけ八年に亘り計七作連なる、鍵穴シリーズの記念すべき第一作。因みに2001年新題が、VHS題にローマ数字を付け足した「鍵穴Ⅰ 和服妻痴漢覗き」。鍵穴シリーズの沿革に関しては、自リンクを参照されたし。映画単体に話を戻すと、猟奇要素は比較的どころでもなく薄めの展開が、中盤で箱男の秘密を割つてみせるある意味気前のよさには仰天しかけたが、驚くのは些か早い。不具者と不遇の和服妻とのそれはそれとして切なく美しいラブ・ストーリーに大胆に移行するかと思はせて、更に破天荒な梶ならぬメガホン捌き。一日予定を早め帰宅したススムもとい主税大ショックと、平勘の絶叫エンドで尺を六十分にも四分余しズバッと切り抜ける衝撃のラストは、幕引き際の魔道師・深町章の面目躍如。と手短に纏めかけて、更なる驚天動地に思ひ至つた。製作当時の今作に厳密には何の罪もないとはいへ、真の、そして全く予想外にして史上空前のツッコミ処は、箱男が箱の中から女の前には頑として姿を現さない以上“覗き”は兎も角“痴漢”要素の欠如、ではない。そのやうなことは、新田栄その他の痴漢と覗きシリーズに於いては茶飯事である。実は男が潜む箱には鍵など取りつけられてをらず、“痴漢”以前にそもそも“鍵穴”が存在しないよもやの羊頭狗肉。謀つたな、新東宝!


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 「痴漢海水浴 ビキニ泥棒」(1999/製作・配給:大蔵映画/監督:渡邊元嗣/脚本:山崎浩治・波路遥/撮影:飯岡聖英/照明:守利賢一/編集:酒井正次/助監督:佐藤吏/監督助手:森角威之/撮影助手:新原敬之/スチール:佐藤初太郎/録音:シネキャビン/現像:東映化学/出演:黒田詩織・神崎優・十日市秀悦・山信・佐々木共輔・西藤尚)。照明の守利賢一は、ガッツの本名。守利賢一でクレジットされてるのは初めて見た。
 実は風俗嬢の宗方由希子(黒田)が仲間の青山美千代(神崎)を伴ひ、郷里の海町にプラッと帰つて来る。二人が向かふ先は民宿「汐風荘」、六年前に病死した亡夫・セイジの遺影(熊谷孝文)を抜いて、セイジが遺した汐風荘を一人で切り盛りするも、過労で倒れたいさ子(西藤)を町医者の沢村(十日市)が往診する。新田栄ばりのへべれけ診察を経て、バイブ注射を巡る攻防戦の最中にいさ子の妹である由希子が到着、黒田詩織の綺麗に目を丸くするメソッドが出色。由希子と美千代は男漁りにビーチに出撃、由希子はアイスキャンディーを売り歩く、幼馴染の武史(佐々木)と再会する。佐々木共輔のキャラクターに、夏の海が感動的に似合はない。プリップリ色気を振り撒く由希子と美千代を、ライフガードの松宮(山)がロック・オン。まづは由希子が一人で浮き輪に揺られる海、汚いビデオ撮りながらまさかの水中撮影を敢行して由希子に接近した松宮は、ビキニを泥棒しておいてマッチポンプ式に救助、何だかんだと砂浜で開放的に事に及ぶ。返す刀で、松宮は美千代も矢張り言葉巧みに―でもなく―攻略する。一方、その夜久々の姉妹風呂。“思ひ出の中の男は抱いて呉れない”と姉に再婚を促す由希子の言葉に風呂場を覗いてゐた、いさ子のことが好きな沢村は明々後日に発奮する。
 “痴漢海水浴”なる機軸がありさうで案外珍しい、渡邊元嗣1999年最終第五作。前半は、痴漢海水浴を司る松宮がビリング頭二人をともに充実した二戦を通して連破する、安定した裸映画。後半は亡夫の思ひ出に安住するいさ子に沢村がかう見えて―どう見えてだ―ナイーブな片想ひを拗らせる、大定番のダメ人間恋物語。に本腰を入れて移行するでもなく、相変らず安定した裸映画。その癖グッと来なくもない今作の決戦兵器は、ナベがノリノリで撮つてゐたであらう節もキラキラと輝いて透けて見える、磐石の三本柱。ではなく、ここは敢て―といふのも何だが―十日市秀悦を推したい。好色漢のポップなアイコンのやうな面相なれど、この人が繰り出す不器用な純情には胸を打つサムシングがある、と思ふ。捻じ込まれた浜辺の告白シーンは、いい感じのロングの力も借り、全体的な構成でいふと木に竹を接ぎ気味なことは忘れ何故だか藪から棒にエモーショナル。してやられたならばそれもまたよし、ここは騙した方も騙された方も双方ウィン・ウィンだ。目出度い成就を、火花を盛大に噴く花火を背に由希子と美千代がバンザイを乱舞して祝福するのも、馬鹿馬鹿しいほど古臭い画の筈なのに、清々しい素晴らしさが堪らない。紋切型が紋切型であるだけで軽んじるやうな浅墓な態度は決して採らない、強い信頼と信念とに基いた実に渡邊元嗣らしい名ショット。展開を頁単位でスッ飛ばしお話を進行させた弊害で、武史が実のところは単なる盗撮野郎に過ぎないツッコミ処のことなど忘れてしまへ。照れ隠しの如き底の抜けたラストが、穏やかにナベシネマを締め括る。

 ピンク映画にしては結構珍しく、タイトル・インはクレジットを抜けたエンド・マークの手前。


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 「巨乳奥様 エッチで御免なさい」(2013/制作:セメントマッチ/提供:オーピー映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/原題:『幸せな家庭の作り方』/撮影監督:清水正二・海津真也/編集:酒井正次/音楽:大場一魅/助監督:中川大資/監督助手:菊嶌稔章/撮影助手:矢澤直子/照明応援:広瀬寛巳/編集助手:鷹野朋子/タイミング:安斎公一/協力:Import Lingerie Shop KURONEKO/挿入歌:『暗い海の底に』詞・曲:桜井明弘 歌:佐々木麻由子/出演:当真ゆき・青山真希・星野ゆず・なかみつせいじ・竹本泰志・野村貴浩・久保田泰也・三貝豪・福天)。撮影監督のところにセカンドの名前が並ぶのは斬新なクレジットだ。
 出産を機にセックスレスの状態に陥つた人妻が、打開すべく奮闘する旨の物語であることをクレジットで謳つて開巻。実に判り易い親切設計ではあるが、本篇は更に判り易いゆゑ、別になくとも黙つて観てゐれば判るともいへる。大根の味噌汁の支度をする栗島恵子(当真)が、朝から料理の手を止めおたまを両手に構へての豪快なオナニー。そのものズバリ「セックスしたい」と、性の飢ゑを最短距離の内側を抉り吐露してタイトル・イン。経理部長の夫・修一(なかみつ)とは既に十年近く夫婦生活がなく、そのことに恵子は激しい不服をストレートに訴へるも、修一は全く取り合はない。星野ゆずは、そんな母親を適度に突き放す女子大生の娘・リノ。
 栗島家の風景を一通り消化した上で、轟然と飛び込んで来る青山真希は恵子の友人で、こちらも既婚者の癖に恣な男遊びを楽しむ森田ミサキ。竹本泰志はミサキの不倫相手で、駅前の色男内科開業医・池上先生。ここで、エポック・メイキングな衝撃。再来週同じく小倉に着弾する、友松直之二年ぶりの2013年第一作「人妻女医 性奴隷の悦び」で実に十二年ぶりとなる電撃ピンク復帰を果たした青山真希が、何と中村和愛暫定最終作「三十路同窓会 ハメをはずせ!」(2001/共演:星野瑠海・佐々木基子)主演のex.逢崎みゆ。アイラッシュがエラいことになつてゐつつ、よく観てみるまでもなく確かに逢崎みゆ。これは凄い、この期に星野瑠海を連れて来るのは無理にしても、佐々木基子と並べれば本当の同窓会だ。マキシマム期待としては、中村和愛の大復活作で観たい
 閑話休題、三貝豪は、リノの彼氏・たすく。未だお盛んなたすく両親の声は、池島ゆたかと青山真希。相談をもちかけてみたところ、ミサキは恵子に悪びれもせずに他人棹をアドバイス。こちらは「人妻女医 性奴隷の悦び」でピンク初参戦し二戦目の福天は、そんな次第で恵子がテレクラを介して捕まへるも、授業料を払ふ羽目になる出会ひ系胡麻の灰・深沢。野村貴浩は、深沢相手に怪我した恵子にミサキが宛がふ営業マン・一宮。久保田泰也は、スワップしてのミサキ戦に際しては郵便ベルを二度鳴らす、カガワ急便の配達員・桐島音弥。
 池島ゆたか2013年、一作飛ばして関門海峡を越えた第三作。盆封切りのバッリバリの新作が、三ヶ月を俟たず九州に届くのは矢張り気味が悪いくらゐに早い。それはさて措き、欲求不満に悶々とすらでなく身を焦がすヒロインが、友人に誘(いざな)はれ夫以外の男とのセックスの愉悦を知る。煌くほどに如何にもなお話をあつらへると、後は実は裏で修一が糸を引く程度のありがちなオチを設けることもなく、ガッハッハに呑気な亭主を余所に、ミサキを従へた恵子がブルンブルンといふかグワングワンといふか、兎も角重量級の濡れ場を勤め倒すのみ。感動的なまでに巨乳の奥様がエッチで御免なさいなだけの一作、誠清々しい麗しき裸映画である。

 挿入歌の「暗い海の底に」は、劇中家事が一段落し点けたテレビ。ワイドショーで放送されファンの恵子を驚喜させる、斑鳩洋子単独ライブの模様の中で使用。そこにその曲を挿入する意味は一ッ欠片たりとて見当たらないが、脇で渋くギターを伴奏する桜井明弘も見切れる。


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 「小林ひとみの快楽熟女とろける」(1997/製作・配給:大蔵映画/監督:小林悟/脚本:五代暁子/撮影:柳田友貴/照明:S&Mink/編集:フィルムクラフト/録音:シネキャビン/スチール:大崎正浩/助監督:掘禎一・佐藤吏/音楽:東京BGM/タイトル:ハセガワプロ/現像:東映化学㈱/出演:小林ひとみ・葉月蛍・風間今日子・坂入正三・河合純・中川日吉丸・港雄一)。葉月蛍の略字は、本篇クレジットまま。
 殆ど昼に近い朝、ベッドの中の小林ひとみと、サカショーの濡れ場で開巻。編集者の南雲恭子(小林)宅に、妻には締め切り前の缶詰と偽つたフリーライターの大沢明弘(坂入)が不倫のお泊り。マッタリと五分絡みを見せてタイトル・イン、都合数曲使用される、妙なクオリティの外人女性ヴォーカルのトラックはこれは何?
 刹那的な享楽主義者、といふか要はサカショニックに場当たり的な女好きの大沢に対し、結婚二年・セックスレス早くも半年となる妻の真奈美(葉月)は、とうに夫の不貞を察知してゐた。あれ、これだけか?いやこれだけだ。
 配役残り、港雄一は呑気な編集長。以前には既婚者ハンターの恭子と不倫関係にあり、今でもものの弾み―自堕落な便宜性ともいふ―で関係を持つ。河合純は真奈美がテレクラで漁る大学院生、問題が、如何にも穿つた名義の中川日吉丸がそれらしき登場人物から見当たらない。真奈美と河合純の待ち合せ場所に見切れるもう二人は、手前で目立つ方が佐藤吏なので、さうなると限りなく風景に埋没する方は掘禎一ではないかと思はれるのだが。
 裸稼業に限らずとも長いキャリアと商業映画の公開タイトルにその名を冠す天下の金看板ぶりを誇りながら、終ぞ抜けることはなかつた棒口跡。その意味で愛染恭子と綺麗に双璧を成すそれはさて措き大女優・小林ひとみを、大蔵映画を代表して迎へ撃つのはピンク・ゴッド小林悟。ダブル小林の醸し出すキナ臭さが半端ない、小林悟1997年第二作。ウッスラ残る大昔に故福岡オークラで観た記憶はオーラスの無造作さしか印象に残つてゐなかつたのか、ルーチンワークが紙一重を超え損なふ御大仕事・オブ・御大仕事といふものであつた。そんなものを何を好き好んで再見するのだといふ話にしかなりかねないものの、さうはいへ百顧も一見に如かず、見てみるもんだ。改めて見返してみたところ、確かに作劇は大雑把で裸の見せ方から漫然としたへべれけな一作ではありつつ、案外見るべき点もなくはなかつた。快晴の空の如く―白夜かも―物語らしい物語は澄み渡る中、図式的な通り一辺倒ともいへ、愛人と本妻、恭子と真奈美の心情なり立場を結構丁寧に描いてゐることには素直に感心した。至極当たり前のことでしかないではないかと呆れる勿れ、敵は大御大・小林悟、ここは有難く驚くべきだ。加へて、遂に恭子が真奈美を自宅に急襲したことによつて、大沢の底の浅いアリバイ工作が露呈する展開は流れとして手堅く、そしてそれが尺の残り四分の一以降といふタイミングが地味に磐石。何より素晴らしいのは、何処まで出し惜しんで木に竹を接ぐつもりなのかと本気で心配した、風間今日子を五十分も跨ぎ正しく満を持して投入。三番手濡れ場要員の、“第三の女”ぶりは裸映画的にも劇映画としても掛け値なく完璧。ただここで画期的に残念なのは、亜美(風間)の声が甚だ無個性なアテレコである点。そこだけを捕まへて、画竜点晴を欠くとまで称するのは流石に褒め過ぎか。


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 「レズビアンハーレム」(昭和62/製作・配給:新東宝映画/監督:細山智明/脚本:秋山未来・松岡錠司・鴎街人/撮影:志賀葉一・三浦忠・中松俊裕/照明:金沢正夫・渡辺豊・八木徹/録音:長嶋吉宏・佐久間猛/編集:金子尚樹・高藤雅志《金子編集室》/音楽:魔神スタジオ/助監督:鬼頭理三・石崎雅幸・土屋尚彦/製作担当:白石俊/記録:松葉勢津子/美術:細山聖子/スチール:田中欣一/製作進行:若月久男/車輌:田冶直樹/録音スタジオ:ニューメグロスタジオ/現像:IMAGICA/衣装協力:BUY/撮影協力:㈱富士総合企画・稲吉雅志・吉角荘介/出演:橋本杏子・京徳ゆり子・志方いつみ・叶麗華・秋本ちえみ・松田知美・菊地のり子・上杉久美・秋山未来・徳重さゆり・いわぶちりこ・中原和美・小田りつ子・早瀬由美・大川忍・杉下なおみ・鈴木涼子・高橋道子・丸山佳代子・田辺かおり・田中幸子・春さやか)。脚本の鴎街人は、細山智明の変名、撮影の志賀葉一はa.k.a.清水正二。
 「女の子には、幸せな恋愛をする時期があります」、「この物語は、早くさうありたいと願つてゐる女の子達のお話です」とナレーション開巻。主(ぬし)に辿り着けないナレーションの質は終始安定してゐる反面、意地悪をいへば覚束ない作劇は頼りきりともいへる。新宿で待ち合はせる、ともに大きな荷物を抱へた十九歳と二ヶ月の伊織(叶)と、十九歳と四ヶ月の詩麻(志方)。元々中学の同級生であつた二人はやがて本格的に愛し合ふやうになるも、それぞれの両親は同性愛を全否定。互ひに普通に法律婚させられさうになつた二人は心中を決意、思ひ詰めた風情で軽く電車に揺られてタイトル・イン。適当に彷徨ひ込んだ深い森の中、詩麻が用意した各種薬物と、伊織が調達したハンマー・ロープ・熊手・包丁・糸鋸・アイスピック、そして何処から入手したのか回転式拳銃。無駄にバラエティ豊かな得物を拡げ、逡巡ついでに二人がついつい抱き合つてゐると、茸取りの篭をぶら提げた杏(橋本)が現れる。とりあへず、失敗したおでんみたいな正体不明の料理が出される杏の家にその日は一泊。翌日、憲兵1(上杉)の呼び出しは無視し、デスる気の失せた伊織と詩麻は杏の下を御暇しようとするが、どうしても森の中から出られない。そこは両性具有の女王(秋本)の魔力に支配された、女の子だけの王国であつた、化粧品とかお洋服のサプライはどうしてるの?
 エンド・ロールと新東宝―の配信―公式に頼らねば正直手も足も出ない主要配役は、登場順に松田知美が憲兵2で、菊地のり子が憲兵2と御法度の百合を咲かせる道子。京徳ゆり子は、スポンの大役も担ふ杏の彼女・唯。秋山未来は女王の鍋臭い侍従、この人は脱がない。徳重さゆりは、回想中男に振られ痛飲し荒れる杏を東の山に広がるキングダムに誘(いざな)ふ、“相談”とプリントされた黒いトレーナー着用の占ひ師みたいな女、この人も脱がない。いわぶちりこ以降は脱ぐ脱がないチャンポンでその他大勢、大川忍や杉下なおみは知らない名前ではないのだが、裸の海に沈む。
 御本人のサイトと添付されたピンク映画時評によれば、通常ピンク倍以上―それでもロマポ未満―の奮発予算、一週間を超える撮影期間と、キャスト総勢二十二人の大所帯。スーパー16で撮影後35mmにダイレクトブローアップする特殊な方式に加へ、ピンク映画にしてはまさかの同時録音、諸々規格外の細山智明昭和62年第二作。尤も、蓋を開けると業界関係者は唖然とさせるか激怒させつつ、一部シネフィルにはカルト的な好評を博したとのこと。さうはいふものの、率直なところ当サイトにはまるでピンと来らん。物語の大枠は、奇天烈な女王の支配する奇妙な世界に、二人の新参者が彷徨ひ込む。新参者が生んだ波紋はとんとん拍子で叛逆に発展し、少女達の楽園が新たに誕生する。と掻い摘んでみると、実は意外とありがちなファンタジー。股間に正しく屹立する巨大なチンコから精液代りに火花を噴き驚喜する、秋本ちえみ一世一代の大怪演。リボルバーを抜いた橋本杏子超絶のカッコよさと、見所もなくはないとはいへ、総じては未熟な女優部―そもそも男優部は存在しない―と、後の名前も挙げると荒木太郎臭も感じさせる持ち前の不用意な意匠とに足を引かれ、素直に作ればもう少し形になつたらうものを、シンプルに仕損じたといふ印象が強い。逆の意味で特筆しておかねばならないのは、十数人―第一回オナニー大会の一度目は十二人で、クライマックスの二度目は一人頭数が減つてゐないか?―の女が自慰に狂ふ桁外れの人海戦術の見せ場を、にも関らず一列に並べた上でテローンと舐めるだけといふのは、大概無策に過ぎまいか。裸映画の即物的な文法を忌避したつもりなのかも知れないが、何れにしても折角のシークエンスがスペクタクルに欠くきらひは否めない。細山智明は構想段階で、ジョン・ウォーターズの「デスペレート・リビング」(1976)に触発されたらしい。お手本があるやうでは尚更、所詮は頭で考へて、ヘンなことヘンなことをしようとした結果でしかなからう。斯くも脆弱な代物を捕まへて、何がカルトか。片腹痛い、狂へばカリスマかといふ奴である。それよりも寧ろ、大御大・小林悟、今上御大・小川欽也、小屋の番組占拠率最高を誇る無冠の帝王・新田栄らが無造作に繰り出す、ルーチンがグルッと一周して紙一重を突き抜けた凶暴な無常。ナチュラルな破壊力では他の追随を許さない―但し処女作は除く―忘れ去られがちなモンスター・関良平、明後日にせよ一昨日にせよ、兎も角ベクトルが無闇にデカい映画ならばほかに幾らも浮かぶ。意図的に筆を躍らせると一見コアで能動的な領域に見えて、案外狭い料簡で固定されてしまふ惰性は今も昔も変わらないが、世界の見方は、ひとつきりでなくてもいい筈だ、常々俺はさう思ふ。

 とこ、ろで。クレジットに話を戻して照明部サードが八木徹!?この人つい最近でもセカンドだけれど、一体幾つなんだ。


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 「ザ・SMレズ」(昭和60『緊縛の仕置き』の1992年旧作改題版/製作・配給:新東宝映画/監督:北川徹/脚本:北川徹・井上潔/撮影:長田勇市/照明:三好和宏/音楽:坂田白鬼/編集:菊池純一/演出助手:井上潔・諏訪敦彦/撮影助手:斎藤幸一/録音:ニューメグロスタジオ/効果:協立音響/現像:東映化学/出演:田口あゆみ・早乙女宏美・涼音えりか・牧村耕次・下元史朗・高橋良二・中村伸次)。
 タクシーの後部ドアがガチャッと開き、ゼブラ柄のタイトスカートと黒いハイヒールの女の下半身が現れる、颯爽と歩き出す足を画面中央に据ゑタイトル・イン。御御足の持ち主は、編集プロダクション勤務の水沢ジュンコ(田口)。眩い田口あゆみの若さに感嘆ついでに軽く調べてみると、昭和末期から前世紀末まで四捨五入すると二十年連なるピンク暦は案外長い、流石といふべきか。僅か総勢四人の編プロの面々は、ジュンコの他に代表の加藤(下元)と、経理兼、現場ではアシスタント的な役割も担当するカズコ(早乙女)。どうでもよかないけど、風邪でもひいてゐたのか、下元史朗の声がガッサガサ。抜群に聞き苦しいが、アテレコもアテレコで迸る違和感は否めまい。話を戻して、そこにジュンコが殆ど秘かにでもなく好意を寄せる、河村(牧村)が一週間の東北温泉取材旅行から帰社する。ここで、早乙女宏美以外にもう一人別の女の声―ジュンコの口は動いてゐないし、田口あゆみの声でもない―でお帰りなさいが聞こえるのは、舌の根も乾かぬ内におかしかないか?『女性ファイブ』誌の特集「この秋あなたは足美人」を抱へるジュンコは、別の仕事もあるだとかで足美人の方は事実上周囲に丸投げ。涼音えりかは、そんなこんなで取材費から乏しく難航するモデル選びに、カズコが連れて来るユミ。その実は、男が出来たカズコが捨てた格好の元カレ的な元カノ。時折攻守交替しつつ、基本SのユミがMのカズコを責める間柄にあつた。
 その他それらしき登場人物は、河村が街行く女々の足を眺める。だけのことにのんびりと三分弱を費やす中盤の荒業中、マネキンの足を抱へショー・ウィンドウの前を画面向かつて左から右に横切る男と、こちらは二言の台詞も与へられる、終盤終に河村がマネキンの右足を特注する業者。出来栄えが全然違ふので、その際に取らせて貰つたジュンコの足型を使用したものか否かは不明、何れが高橋良二で残りが中村伸次なのかも特定出来ない。
 ショック映画風のさういふ幕の引き方もなくはないともいへ、起承転結でいふと転部近辺でバサッと映画が断裁されてしまつた印象が強い「緊縛 鞭とハイヒール」(主演:竹村祐佳)の二作後に、jmdbによるとシリーズ作が存在するといふので続篇かと見てみた、北川徹(=磯村一路)昭和60年第三作。磯村一路に関しては一般映画は一本も観たことがなく、北川徹名義のピンクも今回でほんの三作目につき、ひとまづ平然と通り過ぎる。してみたところが、結論からいふとジュンコの苗字が水沢であることと相変らずな早乙女宏美の仕事ぶりを除けば、清々しく全く別の物語。簡単にいへば、中途の話の続きを期待したのは勝手な早とちり乃至は勇み足でしかなかつた訳だ。それはそれとして、あるいはとはいへそれ以前に、相当に頓珍漢な一作。ジュンコが自分の企画を概ね他人に任せ、己は事務所でオナニー三昧だなどといふ間抜けな展開も大概ではあるものの、致命傷は河村が次第に女の足―だけ―に囚はれて行く過程よりも、ユミとカズコが文字通り狂ひ咲かせる百合が断然尺を喰ふ、進行をスッ飛ばされたドラマの底を抜く自縛もとい自爆配分。元新題とも本篇とのフィット感が申し分ないことをさて措くと、虚ろでショッキングなラストはそれなり以上に鮮烈ではあるのだが、所詮は木に接いだ竹。女の足で幕を開き女の足を追ふ男で幕を締めながら、間は基本一面の百合畑につき、一体何をしたい映画なのだかサッパリ判らない。もひとつ忘れてた、ジュンコは不在の中、加藤がファインダーを覗き撮影するグラビアが、単車に跨つた、積木くずしなパーマと化粧のユミ。だから女性誌だろがよ、無防備なこの辺りの感覚のダサさもどうしやうもない。三作限りに於いては未だ然程どころですらなく成程と唸らされる決定力にはお目にかゝれず、北川徹改め磯村一路に関しては、上手いこと出世したんだらうなといふ印象しか今のところない。


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