「兄嫁 禁断の誘ひ」(1998『白衣と人妻 したがる兄嫁』の2013年旧作改題版/製作:国映株式会社/配給:新東宝映画株式会社/監督:上野俊哉/脚本:小林政広/企画:朝倉大介/撮影:小西泰正/編集:金子尚樹《フィルムクラフト》/音楽:山田勳生/助監督:坂本礼/監督助手:大西裕/撮影補:水野泰樹/撮影助手:加藤武志・中原昌哉・阿津坂英樹/録音:シネキャビン/ネガ編集:門司康子/タイトル:道川昭/タイミング:武原春光/現像:東映化学/応援:岩田治樹・榎本敏郎・鎌田義孝/協力:細谷隆広・今岡信治・高田賢・アウトキャストプロデュース・UKプロダクション/出演:江端英久・佐々木ユメカ・葉月螢・河名麻衣・伊藤猛・岡田智宏・本多菊雄)。
鹿島鉄道鉾田駅に、今となつては傍目にも恥づかしい馬鹿デカい眼鏡の江端英久が降り立つ、俺も昔かけてゐた時期あるけどさ。江端英久がバスに乗り換へ、ほてほて歩いてタイトル・イン。茨城から山梨に飛ぶロケーションは実際とは異なるのだが、ケンジ(江端)は事前に報せもせず実家に帰る。結婚の口約束を交してゐた恋人(河名)にフラれ、要は都落ちして来たのだつた。学生なのか仕事を持つてゐるのか、ケンジの東京での生活のディテールは、河名麻衣が喫茶店のウェイトレスである点以外語られない。久方振りに戻つて来たケンジを兄嫁のハルヨ(葉月)は温かく迎へるのに対し、それだけで飯が食へるのか、家業の竹篭細工を継いだ兄・リョースケ(本多)は妙にでもなく冷遇する。
配役残り佐々木ユメカは、リョースケ行きつけの居酒屋の店員・井上ミチコ。店に連れて行つたケンジに、リョースケはミチコとの浮気を自慢する。ケンジには知らされぬまゝ、癌を患つてゐた兄弟の母(登場はしない)が入院する病院の看護婦が、ミチコの本業。狭い田舎町で、殊更に非現実的ではある。憎まれ役の色男、といふ与へられた役割を地味に完璧に果たす岡田智宏は、河名麻衣の新しい彼氏。そしてラスト間際にチョコッとだけ出て来る伊藤猛は、ミチコが満更でもない以上の風情を漂はせる医師・木村。
結局今なほ戦線に留まるのは五十音順に今岡信治・榎本敏郎・田尻裕司に限られるピンク七福神の中心人物として脚光を浴びつつ、今年四月に急逝した上野俊哉の代表作「バカ兄弟」シリーズの栄えある第一作。今もリアルタイムの感想がネット上のそこかしこに残る点をみるに余程好評を博したのか、シリーズは以降連続する続篇の「したがる兄嫁2 淫らな戯れ」(1999)、前日譚となる「どすけべ姉ちやん 下半身兄弟」(2000)、そして純然たる別のお話の「新・したがる兄嫁 ふしだらな関係」(2001)と、順調に年一本づつ計四作が製作される。個人的には、新・したがる兄嫁の粗筋と主演女優の絶妙なルックスだけは記憶に残つてゐつつ、今作は多分観てゐる筈にしては、綺麗に忘却したのか今回初見と全く変らぬ感触であつた。「バカ兄弟」だなどと愉快な冠に釣られ、面子的によしんばオフ・ビートにせよもう少し笑かせるコメディを期待したものの、一応都会的といへるのか、センシティブな弟をある意味ポップな田舎者の粗野で動物的な排他性も発揮する兄が、殆ど理不尽にいびり倒す。どうもコッテコテの娯楽映画好きの当サイトには肌に合はない、往時何でまた、斯様な鬱屈とした両義的に抜けない映画が持て囃されてゐたのだか改めて皆目見当がつかない、時代をも超えて釈然としない一作であつた。仏相手に憎まれ口を叩く筆禍は心苦しくもあれ、偽らざる感想であるゆゑ仕方がない。小屋に落とした木戸銭を、免罪符にしてしまへ。意図的に抑揚を欠いた始終に、激しい濡れ場を飛び込ませ波紋を起こすアクセントも二度三度繰り返されれば飽きる、裸映画を馬鹿にするのはやめて頂きたい。まだあつた、回想パートのノー・モーションぶりも考へもの。ケンジが水上荘の敷居を跨いで直ぐに始まる江端英久V.S.河名麻衣戦は、初め兄夫婦の夫婦生活かと錯覚した。
そんな中感興を覚えたのは、未練がましく江端英久が河名麻衣に電話をかけてみたところ、河名麻衣は岡田智宏と大絶賛ギシアンの真最中。といふ医者の木村も想起すれば尚更情容赦ないリアリズム、ではなく。したがる兄嫁といふと、江端英久と本多菊雄のコンビを除けば、女優部では葉月螢がいの一番にフィーチャーされる傾向にあり、現に当方もさういふ印象をウッスラ持つてゐた。ところが議論の分かれ次第では形式論にせよ、ビリングは佐々木ユメカが上位に来る事実は新鮮に映つた。尤もその辺りにも、当時の空気が窺へるといへるのか、そもそも当初公開題では人妻“ハルヨ”よりも、白衣“ミチコ”が先んじてゐる。
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