真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「不倫、変態、悶々弔問」(2019/制作:Blue Forest Film/提供:オーピー映画/監督:竹洞哲也/脚本:当方ボーカル/撮影監督:創優和/録音:山口勉/編集:三田たけし/音楽:與語一平/整音:吉方淳二/助監督:江尻大/監督助手:山田理穂/撮影助手:宮原かおり/スチール:富山龍太郎/仕上げ:東映ラボ・テック/制作協力:可仁正光/出演:高瀬智香・涼城りおな・彩奈リナ・森羅万象・ケイチャン・小林節彦・櫻井拓也)。如何にも可児正光の誤字か変名臭い可仁正光が、本篇クレジットに於いても確かに可仁正光。
 線香のCMみたいな白い雲の浮かんだ青い空に、上中下各句ひとつづつ入るタイトル・イン。開巻もとい開口一番、「人は皆何時か死ぬ、こればかりは」云々と割と実も蓋もない森羅万象のモノローグが起動し、喪服を着装する主演女優、といふほどでもない高瀬智香の背中。結論を一部先走ると、余程初心でなければサルでも判る森羅万象の重低音に対し、ビリング頭の初御目見えにしては個別的具体性を排したカットに一種の明示を酌み取るべきなのか、今作の主役はだとしたらせめてトメに据ゑてあげればよかつた森羅万象で、女優部の番手に限りなく意味はない。とまれ飯塚みのる(森羅)が、突き出た捩子にズボンの裾を引つ掛け転倒、頓死する。プロレスラーの名前をミキシングなりアレンジしたと思しき、男衆各々の固有名詞については面倒臭いので等閑視して済ますのと、予め存在しない筈の、みのるの妻に関しては一切語られず。ところがみのるは体が動かせないだけで意識は普段通りにあり、聴覚始め五感も恐らく生きてゐる―寧ろそんなに死んでねえ―中、声しか聞かせないバカ息子(EJDではない、気がする)が、勝手に忖度した親爺の意向を方便にへべれけに飲み倒す通夜。みのるの枕元に現れた息子嫁の麻耶(高瀬)は、寝落ちた配偶者が確実に当分起きては来ないのを見越し、浮気相手でしかも思くそ平服の松田勇(ケイチャン)を大胆にも連れ込んだ挙句、その場でオッ始めてみせる。忘れてゐたのがケイチャン(ex.けーすけ)は師匠である大御大の映画にはその晩年レギュラー格でよく出てゐたが、竹洞組は前作前々作の二部作が初陣。抽斗もしくはメソッド的には、奇声を発しての顔芸を温存しこそすれ、特にも何も何時もと殆ど全く変らない。麻耶の裸を拝みたい頑強な一心で、みのるは閉ぢられてゐた両目のうち左目を僅かに抉じ開けるミラクルに成功する。ものの、漸く開けた視界は当然の如く白一面。みのるの顔を覆つてゐたうちおほひで、松田が事後のチンコを拭いて無造作にまた元の場所に戻す。それ、汚れのみならず匂ひも激越に際立つだろ。仏を小便小僧程度にも思はない松田の不埒な行ひが、ある意味一番面白い。
 配役残り、棘の生えたチョーカーを巻いた首から髑髏のネックレスを提げた涼城りおなは、麻耶の娘で大学生の晴夜、オカルト女子。生死体(なましたい)に興奮した晴夜が、彼氏・高木賢介(櫻井)とのセックロスを振り返りつつワンマンショーに耽るのが、流石のみのるも孫に妄想を膨らませる予知はない二番手唯一戦。みのるとは多分中学の後輩以来といふ、半世紀に近い仲の旧友・最上彰役の小林節彦が松岡邦彦のデジエク二本を除くと、今回以前のピンクが矢張り竹洞哲也の2015年第一作「誘惑遊女の貝遊び」(脚本:小松公典=当方ボーカル/撮影:ザオパン・ツェン=早坂伸/主演:かすみ果穂)まで、意外と大きく遡る。そして圧倒的な素材でビリングを爆砕する彩奈リナが、みのるが結構本気で狙つてゐた、最上共々馴染の店「六本木」のママ・檜美都子。田舎のラブホには海外の都市名がつけられ、飲み屋には日本の地名が。春夜の回想中高木が垂れる、薀蓄が地味に活きるのは手数の割に数少ない妙手。
 死んだ男のモノローグで火蓋を切る、竹洞哲也2019年第五作。女の裸もおちおち落ち着いて愛でてゐられないほど、森羅万象がのべつまくなく無駄口を叩き続ける高瀬智香パートに放り投げかけた匙は、涼城りおなと彩奈リナの濡れ場に際しては概ね沈黙を守つてゐて呉れて辛うじて回避、それなら高瀬智香の時も黙れ。全体ピンクの本義を何と弁へてゐるのか、竹洞哲也と小松公典は泉下の小林悟と関根和美に改めて説教して貰へばいい。春夜が使ふ“マシマシ”に対し、みのるが“ラーメンにトッピングする時みたいに”とか途方もなく冗長にツッコミ損ねる―“二郎みたいに”の一言でいいぢやねえか―小事故に目を瞑るか耳を塞げば、ネタ自体の精度は必ずしも低くなく。尤も、三本柱が順々に登場する各篇を通して、みのるが溜め込んだレイジが遂に爆発。森羅万象が見事な発声で吠える「ふざけるなー!」でみのるを轟然と蘇生させておきながら、結局蛇に描いた足気味なエピローグは、何がどうなりも何をどうしもせず、漫然とか鬱屈と尺を持て余す。トラックを分けた場合森羅万象の音声ファイルばかり徒に膨らませた行き先は、母娘の口癖がみのるにも感染るのが精々関の山。大きな展開がうねるなりそれらしき主題が起動するでなく、七十分も要るのかなといふ脊髄で折り返した生温かい疑問を拭ひ難い、粒の小さな印象が何はともあれ最も強い。とはいへ、もしくは兎に角。いい意味でヤバい乳尻と、悪い意味でヤバくない腰周り。馬面も絶妙にエロく映る彩奈リナが、『走れメロス』ばりの爆走を―みのるのイマジンの中で―繰り広げる小林節彦をも押し退け、詰みかけた映画をサルベージしてのける孤軍奮闘にして一騎当千の救世主。最上が連れて来た美都子が上着を脱ぐとノーブラで、大ぶりのお乳首様をチョコンとされてゐる御姿だけで既に神々しい。オッパイは、エモーション。その真理の放つ眩く甘美な光芒の下では、万事は取るに足らぬ些事と化すであらう。現状彩奈リナがピンクに継戦してゐる形跡は窺へないが、幸なことに引退もしてゐない。早く清水大敬のところに連れて行くか、実用性に徹する条件で山内大輔。あるいは旦々舎と歴史的手打ち、セメントマッチもカシアス・クレイ、もといアリなんだぜ。


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 「制服処女 ザ・ゑじき」(昭和61/製作:獅子プロダクション/提供:にっかつ/監督:佐藤寿保/脚本:渡剛敏/プロデューサー:鶴英次/撮影:斉藤幸一/照明:吉角荘介/音楽:早川創/編集:酒井正次/助監督:橋口卓明/監督助手:五十嵐伸治・瀬々敬久/撮影助手:滝彰志/照明助手:泉田聖/緊縛指導:志摩紫光/スチール:田中欣一/VTR技術:日本VTR/現像:IMAGICA/出演:倉田ひろみ・早瀬めぐみ・相本燿子・松岡愛子・星野小夜子・藤崎卓也・渡剛敏)。録音が見当たらないのは、本篇クレジットまゝ。
 地下街的なロケーション、学生服でキョドる脚本家。渡剛敏のアレな面相―と高校生にしては随分な後退した前髪前線―以前に、キネコの画質が壮絶を吹き散らす。兎も角肩に担ぐサイズのビデオカメラを構へた純(渡)の周囲を斉藤幸一のカメラが360°一回りしてから、純は歩き始める。雑踏にクレジット起動、向かつた先は星修高等学校。純カメラの視点が放送室に辿り着き、暗転してタイトル・イン。放送部の由貴(倉田)がてれんてれん他愛なくすらないストリップを披露するのは、数学の夏期講習中寝落ちた、同じく放送部である純の淫夢。ここで教室に俳優部が、一旦出揃ふ。大卒一年目の新任教師・星野小夜子(ハーセルフ)に当てられた問題に答へられないどころか、純は夢精してしまつてゐた、斯くも残酷な悲劇見たことない。エクストリームな恥辱にその場から逃げ出した純は廊下を激走、放送室に駆け込む。平静を取り戻した純は、全校に張り巡らせた盗撮システムを起動。今しがた逃げて来た3年B組に関しては、カメラを教室の前後に設置するは寄れるはで、割とでなく至れり尽くせり。純がシステムを止め傍らのVHSを再生すると、「3年B組出席番号十六番早瀬めぐみです」と、教室では純から見て十時の方向に座つてゐた早瀬めぐみ(矢張りハーセルフ)が大登場。美術部で油絵の大作に取りかゝつてゐるめぐみを、純が襲撃。しかも描きかけのカンバスにめぐみを大の字に拘束した上で、手当たり次第色んな調味料をWAM的に塗りたくつた末凌辱する。
 配役残り相本燿子は、音楽部で3年B組出席番号二番のだからハーセルフ、一番は哀川翔にさうゐない。ピアノを弾いてゐた燿子を、純が今度は開脚緊縛。まづはリコーダーで尺八を吹かせるのが、さう捉へると斬新。松岡愛子は体操部で3年B組三十六番のハーセルフに決まつてるだろ、藤崎卓也―も体操部―がボーイフレンドのヒムセルフ。たつたナウ気づいたのが、この高校は三年生が何時まで部活をやつてゐるのか、もう夏休みだぞ。
 佐藤寿保昭和61年第四作―通算第五作―は、全三作中二作目となる買取系。尤も買取系は買取系でもロマポではなく、アダルトビデオに対抗してのビデオ撮り×本番路線を採用した毒々しい徒花、もしくは一種の断末魔にも近いロマンXであつた。さうなると現状エクセスが小屋に放り込んででもして呉れなければ触れる手立て―昔VHSは出てゐたらしい―のない、買取系初陣の「人妻コレクター」(昭和60/脚本:丘哲民=片岡修二/主演:小川美那子)も激越に見たくなるところだが、それはさて措き東映セントラルで二本撮つた商業デビュー三本目で、買取系に飛び込んで来た佐藤寿保の戦歴に、残りの三天王とは一味違ふ感興をこの期に覚える。
 始終の流れとしてはめぐみ同様、燿子と愛子に小夜子先生を自己紹介V噛ませ順々に犯したのち、改めて対ビリング頭。目に見えるやうにしか撮れない―少なくとも当時の―ビデオの特性、あるいはフィルムの魔力に頼れない根本的な劣勢にも足を引かれ、マトモに可愛いか美人な女優部が一人もゐない―何故か顎率が妙に高い―布陣は如何せん厳しいものの、ある意味潔い一本調子ながら、めぐみ~小夜子各篇に於ける責めの多彩さもあり、裸映画的な全体の構成は案外磐石。燿子戦の事後、純―といふか渡剛敏―がピアノの鍵盤をチンコで戯れに叩くシークエンスに、「酷え!」と呆れ返つてゐたら続いて、金属バットでガツンガツン丸ごと破壊し始めるのには度肝を抜かれた。彼氏と69型に緊縛した愛子に、卓也クンのガチ眼前後背位。珍しい形の二穴も敢行する愛子戦の事後は、軽く花嫁衣装も着せた愛子と卓也を抱き合はせに縛りあげ、放尿で祝福!劇伴は、適当な演奏の「結婚行進曲」。純―といふか渡剛敏―のプリミティブ且つ破壊的な衝動が、グルッと一周した清々しさに易々と突き抜ける中盤は、形容し難い見応へを爆裂させる。それだけに、いつそ豪快な一点突破オチで片付けて呉れた方がまだしもな、結局死んだのは何れなのかが些か混濁するラストには失速感も否めなくはない、にせよ。今は何処で何をして生きてゐるのか、己は当然の如く例によつて棚の奥底に押し込むと、言葉を選べば凡そ普通の社会生活を送れるやうには見えない―逆に、純の偏執性が演技によるものであつたならば超絶すぎる―渡剛敏の、暴発しかしない物騒なピストルのやうな歪んだエモーションが兎にも角にもなハイライト。闇雲に鳴るノイズに連動して、純―といふか渡剛敏―が痙攣してブッ倒れるカットとか、最高でなかつたら全体何なのか。佐藤寿保のといふよりも、渡剛敏の映画といつた印象が寧ろ強い衝撃作である。


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 「拷問女暗黒史」(昭和55/製作・配給:新東宝興業/監督:向井寛/脚本:宗豊/製作:伊能竜/企画:江戸川実/撮影:志村敏夫/照明:斉藤正明/音楽:芥川たかし/美術:大園芳夫/編集:田中修/製作担当:佐野日出夫/助監督:五月じゅん/演出助手:中山潔・渡辺基次/撮影助手:墓架治郎・宮本良博/照明助手:菅原洋一・近江明/結髪:木田隆男/歌舞伎指導:中村作衛門/録音:櫂の会/効果:秋山効果団/現像:東映化学工業/協力:日経ホール・飛騨の里・湯沢観光協会/配役:青山恭子・風間舞子・美保雪子・今泉洋・神原明彦・津崎公平・大江徹・草薙良一・東薫・港雄一・国分二郎)。脚本の宗豊は、獅子プロの共有ペンネーム。
 白川郷の合掌造り集落、に模した飛騨の里に電話が鳴り、エプロン姿の青山恭子が慌てて出る。夫で作家の山村浩(国分)と白川郷に隠匿して二年、女優の関川恵子(青山)に演出家の指名を受けての、帝都劇場特別公演「曽根崎心中」主役・お初の話が舞ひ込んで来る。一方の山村も、その間を執筆に費やした力作が遂に完成、二人は喜び勇んで上京する。てな塩梅での、帝都劇場(日経ホール)で幕を開いた曽根崎心中。徳兵衛役の井上春之助(大江)と、お初がひしと抱き合ふ寸前のストップモーションにタイトル・イン。デフォルトで苦虫を噛み潰したやうな、件の演出家先生・黒田芳憲(今泉)には開口一番「何だあれ」と木端微塵に酷評されつつ、恵子のお初が世間の喝采を浴びる反面、山村は富士書房に持ち込んだ原稿を編集長(東)からけんもほろゝに没を喰らふ。ここで東薫といふのが今回は?向井寛の変名で、声は甚だ紛らはしい港雄一のアテレコ。
 埋めきれぬ余白の多い配役残り、神原明彦は、関川恵子をベタ褒めする帝都劇場小屋主・金子剛造。風間舞子は恵子に嫉妬を燃やした冷やゝかな視線を、フレームの左隅から送る女優部・松田みどり。パーティーの席上黒田に話を聞く、マカロニみたいなロン毛の報道部が不明、もしかすると中山潔かも。剃刀のやうにクールでカッコいい草薙良一は、富士書房での撃沈後シャブを再開した、山村が薬を買ふゴンゾー組の岡沢松男、津崎公平が岡沢の兄貴か親爺の堀田政文。帝都劇場の従業員で、滝田洋二郎が声をアテた渡辺基次(基次は元嗣の適当な当て字)が飛び込んで来る。関川恵子の謝罪会見ではピンで質問を投げるロン毛の連れと、ゴンゾー組事務所にもう一人見切れる茶色い背広も不明。本クレの配役に於いては“犬をつれた男”とされる港雄一は、山村が作つた借金の形にゴンゾー組が関川恵子の緊縛エロ写真を撮影する件に登場する、純然たる犯し屋。そして港雄一が連れてはゐない犬以上だか以下に謎なのが、月丘洋子役との美保雪子が何処に見切れてゐる誰を指すものなのか不完全無欠に判らない。動物部も、恵子が山村と買つて来た綺麗な色の小鳥二羽以外には、哺乳類どころか雀一匹出て来やしない。その他満員の客席は何某かのバンクにせよ、パーティー会場込みで帝都劇場のバックヤードに富士書房、報道部ら諸々全て引つ括めると、二三十人は軽い大所帯が豪勢に投入される。
 当サイトは当時小学校低学年につき、正直1mmたりとて記憶にない巷間を大いに騒がせた、関根恵子(現:高橋惠子)のいはゆる愛の逃避行。昭和54年夏、関根恵子が出演の決まつてゐた舞台の土壇場も土壇場、何と初日前日に交際相手の作家・河村季里と海外に雲隠れ。電撃帰国して謝罪会見を開いたのが晩秋で、今作は新東宝が年明けに叩き込んで来た尺もロマポばりの正月映画大作。熱いうちに鉄を打ちのめすスピード感が清々しいが、量産型娯楽映画を塵を積らせる勢ひで実際に量産してゐた時代であつて初めて、叶ふ芸当といふのもあるのかも知れない。
 要はこの頃一種の脊髄反射なのか、“拷問”だ“暗黒”だとおどろおどろしく謳ふ割には、関根もとい関川恵子がヤクザ―の手の者―に一回きり凌辱される程度、といつては語弊しかないけれど兎も角女がブルータルに破壊される訳では幸にもない。寧ろ、創作にも専念せずに、恵子の出待ちにねちねち付き纏ひすらする。足しか引かない山村との正しく腐れ縁が恵子にとつて余程拷問に近く、斯くもクソみたいなといふかクソ・オブ・クソなクソそのものの男、さつさと捨てちまへといふ逆向きの感情移入が兎にも角にも強い。恵子が山村との関係を賢明かドライに清算してしまつては、土台成立しない物語ではあれ。山村が堀田の助け舟で漸く手に入れたヤクを汚い便所で打つ、ある意味綺麗なシークエンスにはグルッと一周して感心し、国分二郎のリアル食ひ方であつた場合実も蓋もないが、ラーメンをチューチュー啜る、しみつたれた造形とかもう完璧。鮮烈さがありがちなラストまで含め、類型的なシークエンスばかりを連ねた一篇ではあるものの、濡れ場を務める女優部が二人しかゐない―といふか三番手が何処にゐるのか判らない―疑問にさへ目を瞑れば、分厚い男優部にも下支へられ一幕一幕の完成度は何れも高い。何はともあれ、十全に作り込まれた帝都劇場舞台を筆頭に普通に見事な美術と、飛騨の里(岐阜県高山市)なり湯沢(多分新潟県南魚沼郡)にまでロケを出張つた点を加味するならばなほさら、ほんの一ヶ月そこらでこれだけの映画を新春に間に合はせた疾風迅雷のプロダクションをこそ、最も特筆すべきなのではなからうか。元々動いてゐた別企画を、力任せに変形させた可能性もなくはないが。


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 「ロリータ・バイブ責め」(昭和62/製作:獅子プロダクション/提供:にっかつ/監督:佐藤寿保/脚本:夢野史郎/企画:作田貴志/撮影:瓜生敏彦/照明:加藤博美/編集:酒井正次/音楽:早川創/助監督:橋口卓明/監督助手:小原忠美・五十嵐伸治/撮影助手:茂呂高志・渡辺たけし/照明助手:森下徹/スチール:石原宏一/劇中写真:小野幸生/車輌:天貝一男/効果:サウンドボックス/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:木村さやか・梁川りお・伊藤清美・池島ゆたか《友情出演》・須和野裕子・富山綾子・伊藤猛)。出演者中、木村さやかにポスターではNo.13のロマン子クラブ特記があり、逆に、池島ゆたかがカメオである旨は本篇クレジットのみ。
 この仏頂面した男の子は全体誰なのか、写真を白黒コピーした、SEEKING“尋ね人”の手製チラシ。撮影隊(ゼムセルフか)を連れたTVリポーター(池島)が、SEEKINGチラシを繁華街に貼つて歩く北条梢(木村)に取材するものの、殆ど相手にされない。片や、愛探偵社主任井田光晴の名刺を裏返すと、調査全般格安実費制の文言と“愛は世界を照らす”。探偵を称する井田(伊藤)も、梢に興味を持つ。要は治したのか、歯がガッチャガチャの伊藤猛に軽く衝撃を受ける。そしてどうやら、伊藤猛にとつて今作が映画デビュー作となる模様。濡れ場に於ける太股の途方もない長さに、改めてビビる。私服の梢が同世代の二人(須和野裕子と富山綾子/特定不能)と深夜のファーストフード店から出て来たりなんかして、ビデオ撮りのバイブにタイトル・イン。割と唐突か雑然とした、アバンではある。
 父親と二人暮らしする家―母親が住む実家は別にちやんとある―に梢が帰宅すると、驚愕もとい共学のヨシムラ学園の同級生・野口和美(梁川)が制服で遊びの誘ひに来る。チラシ貼りを趣味の一言でぞんざいに片付ける和美に対し、梢は大概危なかしくキレる。梢からSEEKINGの彼・サカグチヤスシ捜しを請け負つた井田は、バイブレーターで犯した伊藤清美を最終的には血を噴いて悶死する毒殺。その様子を写真に収めた上で、遺体は恐らく強い酸で溶かす。梢が井田にひとまづ依頼する件の正しく抜けるやうな青空の下から、何がどうなつてゐるのかまるで判らない底の抜けた闇の中にカットが繋がる瞬間の、さあ火蓋が切られたぞ感。
 配役残り、アバンをサクッと駆け抜ける池島ゆたかの代りに、終盤もう一人登場するリポーターはクレジットレスで飛び込んで来る片岡修二、もしくは周知安。留守電に収録されたメッセージのみそれぞれ聞かせる、梢両親の声の主なんて知るもんか。
 四天王中唯一買取系ながらロマンポルノを三本撮つてゐる佐藤寿保の、昭和62年第二作が最後の三本目。ポスターに何かもうヤケクソ気味に躍る、“超過激<電動>エクスタシー!!”なるカッ飛んだ惹句が微笑ましい。
 手製SEEKINGを貼り歩く少女、一面に死体写真が貼り巡らされる、海の底を気取つたスタジオサブマリン。ジョイトイで凌辱した、より正確にはジョイトイでしか凌辱出来ない女を、毒で殺す男。少女の友達は学校で苛められ、給食の味噌汁に殺虫剤を噴霧する。ノイズだかハードコアだか、おどろおどろしく鳴り倒す攻撃的な選曲。元々心許ない録音レベルと伊藤猛のエクストリームに朴訥とした口跡とで、ヘッドフォンでもよく聞き取れない会話あるいは、初めから交はらない一方通行の散文詩。偶さか引き寄せられ、かける狂気と、無表情な暴力。これまで佐藤寿保に関しては、新東宝で思ふがまゝ撮つてゐた観念論ピンクよりも、エクセスの要請ないし束縛に粛々と従つた、案外実直かつ矢張りソリッドな裸映画をこそ、寧ろ高く評価してゐるものであつた。撮らうと思へば、別に佐藤寿保は普通に撮れる。単純な技術論で比較すると佐野和宏の三千倍、サトウトシキでも千五百倍。今なほ好きなやうに撮らせると尺の箍が外れる瀬々よりも、佐藤寿保の方が上手いと思つてゐた。それ、なのに。よもやまさか、新東宝に輪をかけて日活で好き放題カマしてゐやがらうとは。ヤッちやんについての事実が詳らかになつたところで一旦安堵したのは、到底通る相談のない早とちり。広げた風呂敷に火を点け風に飛ばし、結構な焼野原を残すが如き一作。女の裸も決してなくはないにせよ、ドッロドロに汚して最後は苦悶の末に血塗れ。兎に角特異な意匠が狂ひ咲けば、作家性の発露と言祝ぐ御仁にはこの手の映画が大好物なのかも知れないが、少なくとも、当サイトは斯様な代物で勃ちはしない。意思の稀薄さすら漂はせる薄目のルックスから、脱ぐと案外凄い梁川りおのオッパイとか猛烈に悩ましい筈なのに、何故大人しく撮らん。せめて、梢の解毒剤?くらゐは説明しておいて貰へまいか。起死回生か苦肉の策のロマンXも行き詰まり、翌年レーベルごと潰へるのもありロマポは既に末期症状を来してゐたのか、この時買取り拒否の選択肢はなかつたのかといつた、如何にも素人的な雑感も否み難い。


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 「痴漢電車 人妻柔肌篇」(1995『痴漢電車 人妻の肌ざはり』のVHS題/製作・配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:双美零/企画:中田新太郎/撮影:稲吉雅志/照明:伊和手健/編集:酒井正次/助監督:田尻裕司/演出助手:榎本敏郎/撮影助手:小山田勝治/録音:シネ・キャビン/現像:東映化学/スチール:津田一郎/出演:青木こずえ・吉行由美・風間晶・田口あゆみ・杉本まこと・荒木一郎・池島ゆたか)。
 ミヨ(青木)とリョースケ(杉本)の夫婦生活で開巻、ミヨが“また”と呆れる頻度で中折れたリョースケは、入院した理由が腎虚を噂される鳥山課長の話で茶を濁す。脚本がイコール片岡修二の周知安でないからか、固有名詞が耳慣れない名前ばかり。リョースケは滅法肉感的な鳥山夫人(吉行)が悩ましく大股開くイマジンを膨らませるどころか、すぐ隣のミヨと比較する口を滑らせかけた挙句、不用意な粗相を察して布団の中に潜り込む。至極全うにむくれたミヨは、「その時アタシは思つたいい女になつて、こいつを腎虚にしてやるんだつて」と決意、明快にテーマを設定する。てな塩梅でミヨは寿退社した職場の先輩で、重役が相談に来るほどのSEXカウンセリングを社内で誇る性豪・風間葵(田口)を頼る。葵が唱へるのは、自らを知る上でもオナニーのすゝめ。何でもやつてみると泣きつくミヨに、葵が念を押して電車にビデ題タイトル・イン。明けて車内の、実景からセットに。左右を田尻裕司と榎本敏郎に挟まれたミヨが逡巡する、葵から最初に下された指令が電車内ワンマンショー、初球からフルスイングすぎんだろ。とまれ果敢に決行したミヨが、気づかれた演出部に加へ周囲の集団痴漢を被弾する一方、駅前のラブホテル「山下」に入る葵の逢瀬の相手は、あらうことか結婚式当日に出会つたリョースケだつた。
 配役残り池島ゆたかが、件の鳥山課長、勤務先は初芝電産。二度目に見た荒木一郎名義の荒木太郎は、電車に乗つた鳥山夫人が会敵する痴漢師・花田、風間晶が花田の配偶者。
 もしや今作が幻の、映画の公開順は前後した「人妻篇Ⅰ」となるのかも知れない深町章1995年第一作。この年案外少ない全五作、昨今のローテーション監督と然程変らない。自身とレスであるにも関らず、鳥山が腎虚で入院した不義理か不条理に怒つた吉行由美は、鏡に映して自信のある乳尻に対し、最終的な具合は挿れた男に訊いてみないと判らない観音様の是非を確かめてみるべく、捕獲した花田と劇中一同が常用する山下に。脛を抱へる形のM字で、秘部を男に曝す吉行由美が鬼のやうにどエロくて素晴らしい。ところが出て来るところを、花田を張つてゐた風間晶に目撃される。そもそも鳥山が腎虚になつた所以は、告白された夫の痴漢癖に衝撃を受け電車に乗つてみた風間晶が、電車痴漢を仕掛けて来た鳥山を矢張り捕獲。「これが私なりの―痴漢行為に対する―復讐なのでした」とか自堕落極まりない方便で、元々自覚する人一倍強い性欲で鳥山を貪り尽くしてのことだつた。偶さか鳥山夫人と一度山下に入つた程度の花田に、憤慨する謂れ一欠片たりとてねえよこの女。兎も角、あるいは兎に角。改めてキレた風間晶は、入院中は流石に手を出さなかつた鳥山に連絡。リアル生命の危機を感じた鳥山は、葵と山下を出て来たネタを出汁に、上司を見舞ひに来てゐたリョースケに虎の尾を踏ませる。風間晶からの呼出に応じるのが「代理でもいいつてさ」と嘯く鳥山の力ない言葉を、初め黙つて聞いてゐたリョースケが真意を察するや「あ俺!?やですよー」と途端に鳩が豆鉄砲を喰らふのは、杉本まことの見事なノリツッコミ。とここまで、棹と蛤で繋がつた全ての俳優部が壮大な惑星十字配列“グランドクロス”を形成する、何気に秀逸な構成は案外比類ない完成度を誇つてゐた。序盤から四十一分―総尺五十五分弱―の長きに亘り豪快に退場する、ビリング頭の存在をいつそ忘れてしまへば。結局何だかんだでミヨとリョースケが何となくヨリを戻すラストは展開自体他愛ないか下手にまどろこしいばかりで、ピンク映画デビュー間もない青木こずえにも、全然普通の三本柱たり得る、女優部後ろ三人を単騎で蹴散らす決定力を望むのは未だ酷だつた。最後がある意味見事に尻すぼむ、仕上げを仕損じた印象の拭ひ難い一作ではある。


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 「淫美談 アノコノシタタリ」(2019/制作:ファミリーツリー/提供:オーピー映画/脚本・監督:角田恭弥/プロデューサー:榊英雄・木原佑輔/撮影:春木康輔/録音:根本飛鳥/編集:松山圭介/音響効果:丹雄二/ヘアメイク:齋藤美幸/音楽:佐藤亙/監督助手:石橋侑大・宮本鉱生/撮影助手:高瀬大輔・上川雄介・平見優子・松本健太郎/スチール:富山龍太郎/制作進行:片平梓/制作応援:角田琢朗・上山功佑/カラリスト:やよいあい/仕上げ:東映ラボ・テック/協力:本間光平・犬童一利・原田佳歩・松原直・日本映画大学の皆さん/出演:なつめ愛莉・増田朋弥・可児正光・加藤絵莉・石橋侑大・春園幸宏・中山祐太・石田武久・加藤毅・瀬乃ひなた・榊英雄・川瀬陽太)。
 食器類と書かれた引越荷物の箱越しに、またしても金髪でカニ・クルーズ仕様の可児正光と、依然外様作ばかり四戦目の加藤絵莉がオッ始めるのは、何も自分達の新居でではなく。大学生である菅原正樹(可児)が同級生の滝沢海斗に拾つて来た、1DKで驚く勿れお家賃二万五千円、とかいふ所謂事故物件。滝沢が弁当やビールを買ひに出てゐる隙に、菅原と年上の彼女でライターの原田祐里香(加藤絵莉)が人の家で盛つたといふ有難い次第。如何にも映画的にカットを細かく割りつつ、それでゐて情熱的に乱れる加藤絵莉は的確に捉へた見応へのある初戦の最中、滝沢(増田)は秘かに帰つて来てゐた。不気味な大家・花園(春園)の顔見せ噛ませて、未だ女を知らず二人の情事に衝撃を受けた滝沢は一旦自宅なのに踵を返し、無事事後帰つて来た風を装ふ。その夜、滝沢に電話を寄こした矢張り同級生の石橋悠介(石橋)は、実は滝沢宅を見上げる階段のすぐ下まで来てゐた。昼間の身に覚えのない薄汚れたマスコットに続き、部屋の中から出て来たこちらは多分祐里香が忘れて行つた口紅を、滝沢は憑かれたやうに塗りたくる。友達のセックロスを想起した滝沢が、ワンマンショーがてら馬鹿にしやがつて系に荒れてゐると、台所の蛇口が水漏れ起動。徐々にBPMを上げて、普通におどろおどろしいタイトル・イン。加藤絵莉と可児正光による初戦に話を戻すと完遂と寸前中途の、正しく紙一重で切るスリリングな繋ぎも超絶。
 ある日滝沢が帰宅すると、テレビは砂嵐で映らず。恐らく浴室から全裸のなつめ愛莉が現れ―て消え―た夜、再び今度は布団の中からライズしたなつめ愛莉は、そのまゝ滝沢に跨る。なつめ愛莉の戦歴が、五本目で初の非竹洞組。翌日か、再々度布団の中から滝沢に跨つたなつめ愛莉は零奈と名乗り、“ここの人?”といふ滝沢の問ひを認める。大学に出て来ない滝沢を心配した菅原と祐里香が訪ねたところ、既に石橋が来てゐて、なほかつ室内の様子を覗いてみると滝沢はまるで誰かと情を交してでもゐるかのやうに、誰もゐない虚空に腰を振つてゐた。驚いた三人と突如出現した零奈の目が合ひ、一同はなほ一層度肝を抜かれる。
 配役残り中山祐太・石田武久・加藤毅に瀬乃ひなたは、零奈が滝沢に語る過去パートに登場する、イベントサークルのリーダー格・三橋リク以下橋本大輝に加藤剛志と、木下優里。最終的に、優里のみ実際の去就は不明。三橋相手に優里が肉便器を務める、男子手洗の敷居を跨ぎかけて断念するセイガクは知らん。榊英雄は滝沢を救はうと石橋が頼る、オカルト誌『心霊研究室』のライター・明神健次郎。そして川瀬陽太が“変な人”と留保した上で明神が石橋達に紹介する、霊媒師の堀之内天豪。細木数子みたいなオカマだが、菅原の無礼な態度にキレると普通のオッサンになる。川瀬陽太の女装役がほかにもあれこれありさうで、別館を探してみたけれど案外見当たらなかつた。その他一応卒業生とはいへ、祐里香が平然と出入りするフランクな学内に見切れるのは、日本映画大学の皆さんか?
 監督と出演した東映の配信新レーベルXstream46の第一弾「暴力無双 ‐サブリミナル・ウォー‐」(2021/脚本:光伸春/主演・アクション監督:坂口拓)が、予想といふか予告通りチャチくて詰まらなかつた榊英雄が連れて来た角田恭弥ピンク映画筆卸作。二ヶ月弱先行して先にOPP+版がフェス上映される、オーピーが城定秀夫の「恋の豚」で先鞭を着けた方式を採用。ただ城定秀夫と角田恭弥で根本的に異なるのは、限りなく全く変らない「恋の豚」と「世界で一番美しいメス豚ちやん」に対し、上の句が消失した今作の一般映画版は、尺だけで十分長い。
 童貞で見るから非モテな大学生が、破格の安アパートに越す。ところがそこはその筋で有名な曰く付きの物件で、プリップリに可愛い女の幽霊が出た。入れ揚げた喪男は裸の幽霊のために赤いワンピースを買つて来たりなんかして、下着を忘れたとかしまつたしながらも、昼間から万事を忘れラッブラブにヤリ倒す。具体的な実例のある、やがて回復不能に壊される運命も知らず。最終的にカワセ・エクス・マキナがザックザク全て解明しほぼほぼ解決する幽霊噺は、佐々木浩久は除外しても本隊が一勝四敗二分の死屍累々を築いた、復活後の大蔵怪談が立場を失くすくらゐ綺麗に形を成してゐる。ラスト十五分主演女優がゴス通り越しゴアなメイクを施されぱなしで、締めの濡れ場といふ概念を、完全に粉砕して済ます力技さへさて措けば。確かに、如何なる組み合はせをも、凡そ捻じ込みやうのない展開ではあれ。角田恭弥が経験値の高い助監督の力を借りるでなく、思ひの外高水準の腰から下にグイグイ訴求する絡みを撮つてのけた分、“うつし世はゆめ、よるの夢こそまこと”。乱歩テーゼを全ての創作物を統べる唯一無二の真実と遮二無二支持する立場からは、不意に降つて湧いたあり得ない別嬪が、それどころか嬉々と体を開いて呉れさへする。滝沢がうつゝを抜かすのも仕方ない、鬱屈した日常に突如現出した甘美な幻夢にこそ、当サイトはエモーションの照準を合はせる。俺は、この映画をさう観る。などといふのはエクスプロードする手前勝手でしかなく、現物の本篇は折角堀之内が差した釘に滝沢は従はず、淫美談のコンティニューを匂はせるありがちなオーラスが、されども手堅く纏まる。大事なことを忘れてた、終始画がキメッキメにキマッてゐるのは、初めからさういふ風に撮影したものか後処理なのか節穴には判らないが、わざと粒子調のサムシングを空間に浮かせ、フィルムぽく撮つてもゐる。惜しむらくは、物語を下手に構へず撃ち抜いた点に関しては寧ろより高い評価も成立し得よう、谷口恒平に勝るとも劣らない外様作屈指の完成度を叩き出した角田恭弥が、昨年来のコロメ禍も当然災ひしてか、ピンクに継戦する気配が今のところ窺へない件。

 闘魂ロデオ、もといところで。再三フィーチャーされる割に、花園が水をやる植木鉢に何の含意があるのだかサッパリ雲を掴むのは、例によつてR15+版を観るか見なければ辿り着けない、性懲りもなく戯けた寸法なのか?だとしたら、そんなクソ以下に余計なカット切つちまへ、その分女の裸を増やせ。あと春園幸宏が一人明確に格が落ちて映つたのは、ググッてみると何だこの人、本職は単なるシネフィルのホワイトカラーに過ぎないのね。地味に開いた、小さからざる穴にも思へる。

 最後に、量産型娯楽映画的に看過能はざるのが、感動の名作「おねだり狂艶 色情いうれい」(2012/脚本:山崎浩治/主演:大槻ひびき)と、同じくナベで厳密には幽霊ではないものの、矢張りヒロインが人ならざる者の「ラブホ・メイド 発射しちやダメ」(2006/脚本:山崎浩治/主演:白瀬あいみ)。新東宝の城定秀夫―顔が似てるだけだろ―こと佐藤吏の現状ピンク最終作「絶倫・名器三段締め」(2009/金村英明と共同脚本/主演:佐々木麻由子・愛葉るび)に、師匠である深町章の「熟母・娘 乱交」(2006/脚本:河西晃/主演:藍山みなみ)。怪異譚に於ける川瀬陽太の、パラノーマルな高打率が何気に図抜けてゐる。


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 「痴漢電車・人妻篇Ⅱ」(1994『痴漢電車人妻篇 奥様は痴女』のVHS題/製作:アウトキャストプロデュース/配給:新東宝映画/監督:サトウトシキ/脚本:小林政広/企画:中田新太郎《新東宝映画株式会社》/プロデューサー:岩田治樹《アウトキャストプロデュース》/撮影:繁田良司/照明:高田賢/編集:金子尚樹《フィルムクラフト》/音楽:E-tone/挿入歌:林ヒロシ/助監督:女池充/応援:上野俊哉・タケ/監督助手:島田誠・戸部美奈子/撮影助手:西久保維宏/照明助手:藤岡英樹/編集助手:網野一則/現像:東映化学/タイミング:冨田登/録音:ニューメグロスタジオ/効果:協立音響/タイトル:道川昭/スチール:スタジオ601/協力:福島佳紀、中野貴雄、遠藤明広、白石秀憲、西浦匡規、浜野一男、河野恒彦、桜井雅章、轟夕起夫、松本峰明、磯田勉、保土田靖、鈴木佐和子、スノビッシュ・プロダクツ/出演:紀野真人・葉月螢・石原ゆり・扇まや・高野ひとみ・勝山茂雄・佐瀬佳明・伊藤猛・清水大敬)。挿入歌の林ヒロシは、小林政広(ex.小林宏一)がフォークの音楽活動してゐた頃の名義。劇中二曲使用される音源は、モンキータウンプロダクション公式サイトによると昭和50年に録音されたものらしい。
 ビデオ題でのタイトル開巻、ちなみに残念ながら、VHSは発売されてゐた筈?の人妻篇Ⅰか無印人妻篇は、ex.DMMに入つてゐない。といふか、今作以外に劇場公開―あるいは元―題に“痴漢電車人妻篇”を冠したピンクがある訳で別になく、もしかすると、そもそも「痴漢電車・人妻篇」の前作は存在しないのかも知れない。
 閑話休題、夜の新宿の雑踏を女子メインで適当に抜いた上で、タケがマスターの喫茶店に、妙に憔悴した自動車のディーラーかセールスマン・井上(清水)が入る。広めの店内にはほかに不愛想なウェイター(佐瀬)と、終始突つ伏したまゝ微動だにしない男(当然判らん)。一方、徒に苦み走つた単車乗り・コサカ?(紀野真人/ex.杉浦峰夫)が電話ボックスから自宅に電話をかけ、葉月螢が吹き込んだ留守電メッセージが流れると、この男通報でもされはしまいかと心配になるどうかした勢ひで荒れる。コサカも茶店の敷居を跨ぎ、ともにコーヒーだけ頼んで暫しぼんやりしつつ、井上は高野ひとみに対する電車痴漢を、コサカは「馬鹿野郎!」と張り倒した葉月螢を手篭めにするのかと思ひきや、平然と和姦に移行する浜野佐知激おこ必至の情事を想起する。やがてコサカは煙草を切らすが、店にコサカが吸ふセーラムは置いてゐなかつた。飲食店が、客が喫む煙草を用意してゐた時代。軽く不貞たコサカと、井上の目が合ふ。ところが実は井上も煙草はセーラムで、「どうぞ」とコサカに声をかける。偶さか同じ空間に居合はせた二人の男を、俄かに結びつける小道具の使用法は確かに洒落てゐる。ここは普通に感心した、ここは。
 配役残り伊藤猛は、コサカと籍は入れてをらず同棲してゐる間柄の、葉月螢が二股をかける男。最初コサカにはてなをつけたのは、コサカは葉月螢の苗字かもといふ留保。扇まやは井上の妻・ユミコ、扇まやと清水大敬といふモスト・ブルータルな組み合はせでの、箍の外れた夫婦生活を轟然と撃ち抜きはしない。仮にそのハルマゲドンを設けた場合、清水大敬に自分で撮らせるのに勝てる人間は、その限りに於いてはゐないやうにも思へる。石原ゆりは、ユミコも顔を見知る仲である、井上の愛人・ノブコ。その他無造作に赤信号を直進したコサカの単車と、交錯する真夜中のママチャリは勝山茂雄。の前に、井上を撥ね飛ばす車に乗つてゐた、男女も突つ伏した男同様不明、定石だと演出部辺りなんだけどなあ。
 新東宝痴漢電車虱潰し戦、十本目で再びサトウトシキがヒットした1994年第一作。この年対象のピンク大賞ではベストテン四位と、サトウトシキの監督賞ならび清水大敬の男優賞を主に、石原ゆりの女優賞と伊藤猛の男優賞、葉月螢の新人女優賞も絡めると諸々の栄冠に輝いてゐる。
 コサカと一緒に喫茶「タケ」(大絶賛仮名)を後にした井上は、単車に喰ひつくとコサカのメットを勝手に被り後部座席に。自身も単車乗りであつた井上は久し振りに乗つてみたいとか嘯き、「その辺一回り、ね!」。この、「ね!」が重要。清水大敬ならではの傍若無人にして極大の圧が、大概飛躍の大きな無理しかない展開をも力づくで固定させる。紀野真人もいい感じの苦笑ひで上手く受け、兎も角単車は二尻で出発進行。徹頭徹尾、電車痴漢が木に竹を接いだ体裁に過ぎない点さへさて措けば、ナイーブな男がエキセントリックなオッサンといふか要は清水大敬に懐かれる、オフビート系のコメディとして成立し得てゐなくもなかつた。焼酎のお湯割りを二十杯といふと、結構酔つぱらつた伊藤猛は大胆にもコサカは不在のアパートに葉月螢を訪ね、「まだ勃つかなあつてさ」と戯れに求める。キレた葉月螢の「アタシのアイデンティティはどうなるのよ!」は、独特の抑揚がバーストする迷台詞。大いに笑かされた、自己同一性関係ない。井上は終に堪忍袋の緒がブチ切れたコサカから半殺しにされた末、恐らくノブコと駆け落ちでもした―そしてその後捨てられた―と思しき、ユミコが一人待つ家に歩いてとほとほ帰宅。腹の底から爆ぜる見事な発声での「ただいまーッ!」は、今度は清水大敬ならではが正方向に機能するエモーショナルな名台詞。とこ、ろが。もしくはとは、いへ。
 映画は二度壊れる、007か。正確には全く同じ壊れ方三連撃と、最後に別の形で改めて完膚なきまでに止めを刺すもう一手。コサカは業を煮やし、単車を停め井上を降ろす。惚けた風情でメットを被つたまゝ去らうとする井上の背中に、ふざけるな的にコサカが飛び蹴り。その弾みで車に撥ねられた井上が本当に空をピョーンと飛んで、縁石で頭をゴツーンと打つ。シークエンスの壮絶に下ッ手糞なカット割りには、ゴハシャーンと映画が壊れる音すら聞こえて来かねないくらゐ頭を抱へた。のが、驚く勿れ、一度どころか二度にも止(とど)まらないんだぜ。その際ぴんぴんしてゐた井上を、のちにコサカが今度は急発進で振り落とすのと、前述した勝山茂雄のチャリンコと横断歩道で交錯した、コサカの単車が倒れる件。都合三度壮絶にど下手糞なカット割りを性懲りもなく繰り返すに及んでは、これは映画的な自傷行為でも見せられてゐるのかと眩暈がした。二発目は、ストレンジな一夜を経て、コサカと井上が各々の元鞘に収まつての最終盤。単車乗りにしては電車なんか乗つてゐるコサカに、逆痴漢を仕掛けて来た女がよもやまさかのユミコ。ジャスタモメン、匙を投げるにはまだ早い。片や葉月螢も葉月螢で、車を売りに来た井上にいはゆる枕営業を要求。頻繁にスワッピングもといクロスカッティングする締めの濡れ場から、コサカ家の玄関口に二つ並べられたヘルメットにパンしてクレジット起動。何だ、これ。男二人が二尻で一晩ふらふらする物語が逆鱗に触れた中新から、痴漢電車ナメてんのかとキツく灸を据ゑられたのかとでも考へた方が余程呑み込むに易い、ラスト六分弱がほとんど別の映画に変貌してのけるある意味画期的な一作。単車を走らせずに撮る方便にさうゐない、中盤息を吐くが如く二人が捕まる赤信号。対伊藤猛第二戦を戦ふ葉月螢の裸を、大人しく愛でるのに水を差す脚本家の本格フォーク。ツッコミ処に事欠かないのは微笑ましくもあれ、斯様な素頓狂作を年間ベストテンの四位に滑り込ませるだなどと、悪い冗談にもほどがある。シテンノーだかサトートシキだか知らないが、といふか知るか。過去を一方的に裁断するのは決して好むところでも望むものでもないものの、言葉選ぶとどうかしてんだろ。

 そのためのゴーグルかとも勘繰る、勝山茂雄に右足を甘轢きされた紀野真人の代りに、単車を駆る清水大敬は見た感じ若干体が大きく、ライディングダブルではなからうかと映つたものだが如何か。


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 「痴漢電車 女子校生人妻夏服篇」(1991『痴漢電車制服篇 相互愛撫』のVHS題/製作・配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:周知安/製作:伊能竜/撮影:稲吉雅志/照明:恵応泉/編集:酒井正次/助監督:広瀬寛巳/監督助手:山崎光典/撮影助手:北沢弘之・重岡幾太郎/スチール:津田一郎/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:橋本杏子・早瀬瞳・植木かおり・石川恵美・南城千秋・池島ゆたか)。脚本の周知安と製作の伊能竜は、それぞれ片岡修二と向井寛の変名。
 早瀬瞳が公園の中をそもそも冬服のセーラー服で歩いて、開巻即のクレジット起動。新東宝ビデオが今回クレジットを改悪しない分まだマシともいへ、夏服篇掲げて冬服を売るのは、流石に出鱈目が目に余る。それはさて措き早瀬瞳の、背後には詰襟の南城千秋が。下の名前が倫子と来た日には苗字は江藤にさうゐない、江藤倫子(早瀬)に憧れる高三の岩淵か岩渕タツヤ(南城)は、さりとてクラス一の美人で勉強も出来る高嶺の花に手が出せず、連日連夜オナニーに勤しむ日々。仰け反つた岩淵の視点で、逆さの電車が正立にでんぐり返つてタイトル・イン。これといつた意味も見当たらないまゝに、180°回転カメラを何かにつけ全篇を通して多用する。
 配役残り、偶さかな勢ひで岩淵が倫子に電車痴漢した翌日。岩淵に接触する引きのファースト・カットだとそこそこのおメガネに見えた―真横から抜くと、三日月型に湾曲してゐる―植木かおりは倫子の友達で、岩淵を倫子から遠ざけるためなら体も張る黒崎、となると下の名前は悦子か。石川恵美は、大学三年の岩淵が職業で狙ひを定める、役名不詳の新米看護婦。橋本杏子は新社会人になつた岩淵に電車逆痴漢を仕掛けて来る、欲求不満で矢張り役名不詳の和服人妻、池島ゆたかが配偶者。そして、隠れキャラ的にもう一人。酷似した背格好のみならず、全く同じ場所に立つてゐる点を窺ふに、「痴漢電車 百発百中」(1989)に於いて山竜が喜捨する托鉢僧が、岩淵と石川恵美が出て来る駅前のロングに見切れてゐる。当サイトが気づいてゐないだけで、目撃例はこの頃ほかにもチョコチョコあるのではなからうか。高三篇に話を戻すと、悦子に筆卸して貰ひ明後日な自信をつけた岩淵は、刺された釘もてんで意に介さず“女は誰でも男に抱かれたがつてゐる”なる歪んだ常識に則り、「ようし今夜、江藤クンの部屋に忍び込んで処女を奪ふぞ!」。とか青春映画風に凶悪犯罪予告する抜けた底が高速回転しながら、ハイブの殺人トラップばりに頸動脈目がけて飛んで来るシークエンスには、クラクラ眩暈がするのも通り越して卒倒しさうだ。
 何故か石川恵美がVHS題には拾つて貰へない、深町章1991年第三作。岩淵の部屋と江藤家にハシキョン宅は、全て津田スタで賄ふ。仮に浪人も留年もしてゐない場合、最短で五年に亘る岩淵の痴漢ライフを描いた悲喜劇。といつて、よくよく冷静に振り返つてみるに帰結は悲劇ばかりでもあるのと、その間なりが変るだけで岩淵が成長するでは特にも何もなく、要は体よく尺を概ね三等分する緩やかなオムニバス仕立ての一作。ネタの扱ひにナーバスになるほどの映画でもないゆゑ、無造作にバレてのけると高三篇は、先述した歪んだ常識が、咲き誇る百合によつて見事に覆される。一方、新社会人篇はハシキョンが岩淵をホテル代を惜しみ自宅に招いた時点で、「車内口撃」(1989)の久須りん的なオチかと思ひきや、池島ゆたかが少なくとも両刀使ひといふ、百合に続いて薔薇も狂ひ咲かせる力技。尤も痴漢電車の車中、岩淵が池島ゆたかの存在に気づいてゐるのかゐないのか判然としないオーラスに、失速は否めない。対して大三篇は面子から一人少ない最小単位で、落とし処が全く読めなかつた。とこ、ろが。要領が悪いだの不器用だの再三再四石川恵美が自嘲するのを秀逸な伏線に、他愛なくも予想外のパンチラインが炸裂。かてて加へて早瀬瞳や橋本杏子に勝るとも劣らない美人、といふ訳では決してないにせよ、電車痴漢の最中、岩淵のモノを触らされると綺麗に目を丸くし、連れ込み―も当然津田スタ―での事後、一転攻勢に転じる機運を弾けさせ「アタシのいふことは何でも聞いて呉れるつていつたはよね」。石川恵美がキラッキラ輝かせる豊かな表情が、麗しくて麗しくてもうどうしたらいいのか判らない。胸がキューッとなる、医者行けよ。それはお前の琴線の張り具合に過ぎないだらう、さう呆れられてしまへばそれまでに過ぎず、敢へてでさへなく抗弁するつもりもない。但し橋本杏子が絶対的な四番打者に座つてゐた90年代前半、慎ましやかに五番を務めてゐた影の名女優にもう少し光が当たつても罰は当たらないのではあるまいか。さう思ふ常日頃、ダレる間のないちやうどいい塩梅の長さで石川恵美の魅力にときめく至福に浸つてゐられる今作は、確かに見た甲斐があつた。

 一緒の読みで恵深に改名して、石川恵美が芸能活動を継続してゐるのには軽く驚いた、今年還暦なんだ。まだイケる、何が。


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 「おせんち酒場 君も濡れる街角」(2019/制作:関根プロダクション/提供:オーピー映画/脚本・監督:関根和美/撮影:下元哲/照明:代田橋男/助監督:加藤義一/録音:小林徹哉/編集:有馬潜/監督助手:小関裕次郎/撮影助手:和田琢也/スチール:本田あきら/選曲:友愛学園音楽部/整音:Bias Technologist/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:梨々花・水城奈緒・涼南佳奈・安藤ヒロキオ・折笠慎也)。
 マンション外景にタイトル開巻、彩加(梨々花)がヨガで体を伸ばす傍らのベッドでは、夫の坂崎蓮(折笠)が多分法律雑誌に目を落とす。二人は彩加も資格を持つ弁護士夫婦で、坂崎は自らの事務所を独立開業。した、ものの。業績は芳しくなく元気のない坂崎に、彩加が発破をかける形の夫婦生活。彩加が配偶者の性器を、“分身クン”とか愛玩する苔生したセンスはどうなのよ、そもそも分れてねえ。翌日か、出勤した坂崎はひとまづ物理メールをチェック。明青学院大学法学部の同級生で、中退以来会つてゐない友人の杉山大輝から、“会はなきや話せない話”があるとする手紙が届いてゐた。少なくとも坂崎は入学当時、坂崎が落とした書類を杉山(安藤)が拾つて呉れたきつかけで、二人は仲良くなる。同じく同級生の彩加(旧姓三田)を巡り、坂崎と杉山は先にオトした者に千円支払ふ―もう少し出せ―賭けから進展して、互ひにアタックの進捗を事後申告し合ふ紳士協定を結んでゐた。
 配役残り、2019伊豆映画「5人の女 愛と金とセックスと…」(監督:小川欽也/脚本:水谷一二三=小川欽也/主演:平川直大)に続く二本目となる水城奈緒は、学生の杉山を養つてゐたホステス・西島明美。荒木太郎なら平気で仕出かしてゐた、ギリッギリの温存具合に軽くヒヤヒヤさせられた涼南佳奈は、ルポライターである杉山と生死と同義の公私をともにする編集者・杉本幸枝。ところで坂崎と杉山が使ふ、酒場そのものがおせんちな訳では別にない大学近くの居酒屋は、目下専らな馬力。その他店内に矢張り判で捺したやうな顔ぶれの馬力隊が見切れるのと、キャンパス周りにも、往来部を若干名投入してゐるものやも知れない。
 封切り前日に関根和美が急逝した、2019年第二作はNSPならぬLSP“ラスト・関根和美's・ピンク”。元々体を悪くされてゐたのは、2006年五月に閉めた福岡オークラのあつた頃既に、関門海峡を跨いだ地方にも伝はつてゐた。頑なに再映を拒む?上野が漸く上映するか、世間が先んじて追ひ着くまで飽くなき執念で持論を性懲りもなく拗らせるが、過分に極私的な思ひ込みに縛られてもゐる傾向は重々自覚した上で、当サイト選のピンク映画最高傑作は関根和美の2000年第二作「淫行タクシー ひわいな女たち」(脚本:金泥駒=小松公典/主演:佐々木基子・町田政則)である。淫行タクシーの話を始めると際限がなくなるゆゑ、詳細はマッチポンプ・リンクに飛んで頂くとしてここではさて措く。兎も角淫タクが小屋にかゝらない、円盤―現物見たことないけどVHSはあつた―も発売されてをらず。といつた状況は取るに足らない些末、最大手たるex.DMMで配信されてゐるではないか。十八歳以上でネット環境を有してさへゐれば、誰でも何時でも、モバイルなら何処でも見られる。今時、店でレンタル借りて来る方が余程面倒臭い。ついでで今更新は、バラ売り配信を偶然発見した如月吹雪脚本の「復讐篇」と「敵討篇」。大竹康師脚本の「色欲乱れ舞」による大江戸淫乱絵巻三部作(1995/Vシネ)で奇跡のリーチに辿り着いての、達成順で新田栄浜野佐知渡邊元嗣深町章に続く感想百本、最悲願のフィフス・ハンドレッドである。ただあくまで、百といふ数字は単なる通過点。関根和美の未だ潤沢に眠る旧作を、大蔵が市場に投入して呉れたなら喜び狂ふんだぜ。尤も、以上は故人の早過ぎる死まで含め全てそれはそれ、これはこれ、俺は心の棚の上。普段通りのフラットな姿勢で、本作に対する。
 彩加を挟んだ坂崎と杉山の三角関係と、男同士の友情を描いた物語自体は、派手に破綻はしてゐない程度の平板な出来栄えで、正直ワーキャー持て囃すほど大したものでも何でも特にない。最も顕著な特徴は尺の大半も大半、怒涛の五十分弱を大学時代の回想に費やしてのける豪快な構成。さうはいへ、回想の入りから事務所で坂崎の手から零れた封筒に、新入生の坂崎が落としたワークシートを繋ぐスーパー・テクニック。ひたすらに長い来し方のちやうど真中辺り、現在が短く挿み込まれるインターミッションの前後も、前を水城奈緒第一戦の事後杉山がぞんざいに呷るワイングラスと、事務所にて坂崎が茶色い酒を一人傾ける脚のないグラス。後ろは訪ねて来た杉山が坂崎にお代りを求めるグラスと、杉山が坂崎に奢るエメマンを繋げるウルトラ・テクニック。そして回想明けは、杉山の自主退学を知り泣き始めた坂崎の涙を彩加が拭くハンケチを、部屋が暑いと杉山が顔の汗を押さへるハンケチで引き継ぐアルティメット・テクニック。関根和美の誇れはしないが御馴染ではある曖昧模糊な時制移動を、種々繰り出す多彩な超絶技法で完封、この期に皮肉とは。腸(はらわた)よりも寧ろ、脳が先にヤラれてゐたんぢやねえかと頭を抱へさせられた、木端微塵の前作「激イキ奥様 仕組まれた快楽」(主演:優梨まいな)で濃厚に立ちこめた、漆黒の暗雲は見事にか至極普通に払ひ除けてみせる。マイナスがゼロに回復したのを、仰々しく言祝ぐのがそんなに楽しいか。
 裸映画的には安直なフェードの多用が幾分目につきつつ、比較的でなく薄いおヒップ要素に対して、下元哲のカメラがオッパイには的確に寄り続ける。単純な美人不美人でなく、色気が先行する女優部三本柱を擁し、肉の温もりと柔らかさとを伝へる濡れ場には、磐石以外の言葉が見つからない。水城奈緒第二戦に於ける、吸つた口を杉山が離した明美の左乳房が、絵に描いたやうにプルルンッと震へるミラクル・ショットは最大級のエクストリーム眼福。刹那に、エモーションを叩き込め。
 反面、当初二浪して明青学院に入つた筈の杉山が、文学部から二年で法学部に転入した格好に何時の間にか―でもないが―なつてゐたりするへべれけさなり、現下の杉山が事件を追ふうちに、知れば坂崎の身も危険に曝されるほどの機密に触れ幸枝共々国外逃亡を図つてゐたりする藪蛇さにすら劣るとも勝らない、らしさが選りにも選つてラストで火を噴くんだな、これが。彩香を想ひ励む坂崎が幻影を見る、相互ワンマンショーも当然数へるとビリングに違はず最多の豪華四戦をこなす主演女優に、二番手は二戦。細心の注意を払つた展開で映画を壊すこともなく、一時間を優に跨いだタイミングで飛び込んで来る三番手は、時間切れ気味に一戦きり。それまで計七戦の絡みを何れもつゝがなく完遂したにも関らず、彩加がシャワーを浴びてゐると、杉山と馬力で別れ帰宅した坂崎が入つて来る。無理から捻じ込んだきらひも否めない、締めの浴室立位後背位の恐ろしく唐突な中途で、タイトルバックの余地もないブルーバック・クレジットが起動するのには腰が爆砕した。折角九回二死までノーヒットノーランで投げてゐたのに、次の打者に詰まらない内野安打を打たれたが如き一作。最後の最後の最後でこれかよ、流石関根和美だと、改めて畏れ入つた次第。

 以上、与太はともあれ。泉下の関根和美さんに遅れ馳せながらお伝へ申し上げたいのは、私は貴方の映画が大好きです。無論、“でした”などとはいひません。三十五年の長きに亘り、元号も二つ跨いで量産型娯楽映画のフィールドで戦つて来られ、近年は病んだお体でさぞかし辛抱と御苦労もなさつたのでせう。どうぞ、どうぞ安らかにお休み下さい。

 壮絶な付記< と締め括つたつもりでゐて、大変な大惨事に気がついた。淫タクはやつとこさ地元駅前ロマンで再見を果たした時とDMM戦の、二回更新してゐたのを思ひだした。なのでこのエントリーは関根和美の九十九本目、よもやまさかのフライング・ハンドレッドである(;´Д`)


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