真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「蜜まみれ変態家族 ~いぢりあひ~」(1995/製作:旦々舎/配給:大蔵映画/脚本・監督:山崎邦紀/撮影:小山田勝治・小島裕二/照明:秋山和夫・斎藤哲也/音楽:中空龍/編集:酒井正次/助監督:国沢実/制作:鈴木静夫/効果:時田滋/スチール:岡崎一隆/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東映化学/出演:桃井良子・美里流季・青木こずえ・荒木太郎・頂哲夫・真央はじめ)。
 大書のタイトル開巻、何かを丸パクリした劇伴の、元曲に辿り着き得ぬ不分明が口惜しい。両親の去就は軽やかにスッ飛ばし旧旦々舎に暮らす折賀三姉妹、女子高教師の長女・黄身子(美里)と次女・鹿子(桃井)が豪勢な朝食を優雅に摂つてゐると、女子大生の三女・とおる(青木)がオレンジジュースにだけ口をつけ慌ただしく飛び出して行く。どストレートなホームドラマぶりが、清々しくらしくない。自宅で着付け教室を開く鹿子を、大学生の彼氏で探偵志望の頂哲夫が、秋葉原で入手したばかりの電波受信機を持参し訪ねて来る。体の美しさに惚れ惚れする桃井良子の濡れ場明け、ネオン街を赤シャツ×銜へ煙草の真央はじめことマオックスが、獲物を探し求めるギラついた風情で徘徊する。とおると易者の彼氏(荒木)の逢瀬噛ませて、合田ヨシオ(真央)は偶々学校帰りを見かけた、妹の千尋かちひろ(名前しか登場せず)の担任であつた黄身子に接触する。
 この頃は未だ山崎名義による、山邦紀1995年第五作。ピンク六本と更に薔薇族二本、量産型娯楽映画を実際に量産してゐるこの年が、量的な山邦紀のキャリア・ハイに当たる。別に、今後更新して頂いて全然問題ないけれど。旦々舎鉄のフェミニズムは軽やかに何処ぞの一昨日だか明後日に置き忘れ、ピンク映画らしい自堕落な文法にのみ従ふ急転直下の手篭めが無理に無理を重ね正体不明の和姦に帰結する、黄身子陥落に続き返す刀で、あるいは棹も乾かぬ間に合田改めマオックスは超人的な洞察力で痴語属性を見抜いたとおるも、この頃の山邦紀らしい薀蓄を底も浅く披露しつつ攻略。いよいよ挑む本丸の主演女優たる鹿子戦に際しての切札が、鹿子が頂哲夫にも秘したラバー愛といふのは如何にも如何にもな飛び道具ではあるものの、尺の支配率から散発的なフェチズム描写は踏み込みに欠け、全く軽い。要は黄身子はやつとこさ出来た彼氏を妹二人に寝取られた次第にも関らず、何故か最終的にはアハハハハで姉妹の絆が深まる謎展開は頂哲夫の調査で判明する、合田の他愛ない正体で加速。一応ラバーも絡めてあるとはいへ、鹿子と頂哲夫の思ひきり普通な絡みの果てのラスト・ショットは、相変らず歓楽街にてギラつくマオックス。勧善も懲悪も共倒れた上に、一体誰が主人公なのかすら判然としない漫然とした釈然としなさが終に哲夫、もとい頂に達する。何れも濃厚な濡れ場と、対照的に稀薄な物語。山邦紀の名前なり旦々舎の看板に囚はれれば面喰はされること必至の薄いのだか濃いのだかよく判らない一作ながら、女の裸に垂涎してナンボのピンク映画としては、案外それはそれでそれなりに理想的な匙加減であるのかしらんと思へなくもない。


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 「女看護師 やすらぎの美乳」(2014/製作:ラボアブロス/提供:オーピー映画/監督・脚本:田中康文/撮影:飯岡聖英/照明:ガッツ/編集:酒井正次/音楽:小鷹裕/助監督:菊島稔章/監督助手:小関裕次郎/撮影助手:海津真也/照明助手:宮原かおり/メイク:大橋茉冬/タイミング:安斎公一/応援:小林徹哉/協力:小川兄弟/出演:岡田智宏・加藤ツバキ・愛田奈々・尾嶋みゆき・なかみつせいじ・久保田泰也・本多菊次朗・野村貴浩・池島ゆたか・牧村耕次)。
 シャンデリアからカメラがミサトの屋内を左から右にパンすると、深刻な風情の岡田智宏と野村貴浩が卓を挟む。室井ファンドが経営破綻、莫大な借金を抱へた滝沢雅也(岡田)はお抱へ会計士の佐山(野村)にミサトニックな持ち家込みで財産を全て処分し、残りは郷里で工面する旨を伝へる。室井ファンドに吸収合併された、雅也が社長の金融会社「クリックマネー」―実にそれらしい社名だ―も畳む腹を固めたところで、えらく淡白なタイトル・イン。これ何処なんだろ、実家は何回か観た気もする山間の平屋の一軒家。雅也の妹・晴美(尾嶋)と、家業である林業を継いだ、雅也からは年上の義弟となる入婿の徹(なかみつ)が守る滝沢家では、場面によつては全然矍鑠としてもゐる祖父・修一(牧村)が床に伏せ、訪問看護士の水川真理恵(加藤)が出入りしてゐた。雅也らの両親の去就は、父親も雅也と同じく故郷を捨てたことらしき以外には一切語られない。
 配役残り愛田奈々と本多菊次朗は雅也馴染みのホステス・かおりと、友人の不動産屋・梶弘嗣、愛田奈々の妖艶な夜の蝶ぶりが超絶。梶のスマートなガッハッハ調も、本多菊次朗の持ち芸。久保田泰也は真理恵の婚約者、農家の本田幸一。狭い田舎につき、滝沢家とも付き合ひなり面識がある。そして恩義に報いてか、田中康文映画に於いて大きいか重厚な役を与へられる傾向が窺へる池島ゆたかが、室井ファンド社長の室井治。雅也が室井と会食を持つかおりが働く店が、ミサト―あるいは雅也宅―の居間に幕を張つて誤魔化しただけといふ安普請は、結構目立つ。それはさて措きその件、自らの手の内がかおりから室井に洩れてゐることを察した雅也と、スッ惚けてみせるかおりを音声―乃至は台詞―情報に頼らず目線と表情のみで描くシークエンスの緊張感は素晴らしい。
 田中康文2014年第一作、2013年第二作に当たる薔薇族(未見)含め通算第八作、大蔵第六作。加藤ツバキ的にはザックリした初陣にして田中康文のピンク映画前作「人妻エロ道中 激しく乗せて」(2013)と、対照的にフェミ―ニン―フェミした第三戦の浜野佐知が古巣に復帰したデジタル・エクセス第四弾「僕のオッパイが発情した理由」(脚本:山邦紀/主演:愛田奈々)との、ちやうど中間の印象を受ける、何れの加藤ツバキも実に捨て難い。ついでに岡田智宏は鳥肌実みたいな髪型、この人は二の線にしては、散発的に突飛な頭をしてゐる気がする。加藤ツバキはある意味悲運の主演女優ともいへるのか、結果的に展開の蚊帳の外に置かれた前回に続き、今回は名実とも明確にビリングの頭を岡田智宏に譲る。三度目の正直をと行きたいところではあるのだが、「僕のオッパイが~」からも結構間が空いてゐるのでそれも望みは薄さうだ。話を映画の中身に戻すと、矢尽き刀折れ悄然と田舎道を歩く岡田智宏をロングで捉へたショットで目を見開かされる、火を噴く飯岡聖英の撮影にも、意図的にかさして抑揚を欠いた山町の日常と、雅也が想起する華やかなりし頃とが当然濡れ場にも尺を割かれつつ交互に連ねられる間に、次第に目も慣れて来る。結局、雅也が火の点いた尻は疎遠にしてゐた筈の祖父に拭いて貰ひ―縁がないゆゑ相場が皆目見当もつかないけれど、山ひとつの権利書が五千万にしかならないものなのか?―返す刀で田舎者の農夫から加藤ツバキを寝取るとは随分と都合のいいお話だな、と呆れかけたところで、鮮烈に叩き込まれる昭和の映画のやうな結末には衝撃とともに深い感銘を受けた。スローモーションから、カット跨いでカメラが引く辺り完璧。尾嶋みゆきと久保田泰也の下手な訛が強過ぎて、何をいつてゐるのかよく判らん難点には耳を塞ぎいい映画を観た、とおとなしく満足して小屋を後にすればいいものを。余計な注文を垂れると、口許から締りのない野村貴浩が、硬質な劇中世界の中で如何せん弱さを感じさせる。ここに平川直大が居たとしたら、持ち前の突進力でラストの決定力も更に増したのではなからうかとの思ひを残さぬではない。それはただ単にお前が平川直大のファンだからだろ!といふツッコミに対しては、特に筆を濁すでもなく受け容れる。


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 「人妻AVギャル 団地売春」(1993/製作:小川企画プロダクション/配給:大蔵映画/監督:小川和久/脚本:池袋高介/撮影:伊東英男/照明:内田清/音楽:OK企画/録音:ニューメグロスタジオ/編集:フィルム・クラフト/助監督:石崎雅幸/撮影助手:佐久間栄一/照明助手:佐野良介/現像:東映化学/タイトル:ハセガワ・プロ/効果:協立音響/出演:水鳥川彩・山岸めぐみ・英悠奈・久須美欽一・杉本まこと・栗原一良・山科薫・鳥羽美子・姿良三)。出演者中、姿良三は小川和久の変名。
 いきなり佳境の、テレフォンセックスに狂ふ水鳥川彩が飛び込んで来る開巻、スタート・ダッシュのトップ感は申し分ない。三年前ファンと結婚し寿引退したAVギャル・飯島彩こと目下団地妻の佐藤あけみ(水鳥川)は、旦那が長期出張中につき欲求不満を持て余し、旦那相手のテレフォンセックスに燃える。こちらは余裕ある旦那(久須美)を軽く顔見せ、何時ものテーマが起動してタイトル・イン。水鳥川彩はクレジットと併走する一仕事を手短に完遂、ところでその頃旦那の傍らにはといふと、性的込み込みのマッサージ嬢・ユリ(英)が。コッテリと英悠奈V.S.久須美欽一戦を消化した上で、佐藤夫婦は互ひに何となく疑心暗鬼を募らせ、てみたりもしつつ、その種が後々花開く訳では特にない。あけみが元AVギャルであつたといふ設定も、ここで旦那が無造作に投げる。仲良しの御近所(山岸)の登場噛ませ、またしても鳥羽美子がママの仮称「摩天楼」にて、飯島彩のファンであつた井上(杉本)から声をかけられたあけみは、白状こそしないものの気楽に二つ返事で意気投合。何処ぞに踊りに行く件は軽やかに割愛し、あけみは井上をサクサク自宅に連れ込む。
 配役残り、総計五つめの名義ではなかつた栗原一良は、井上からあけみに紹介される川野か河野。川野が井上の自慢話に喰ひつく、摩天楼のカウンターに二人並んでナポリタンを食ふファースト・カットが地味にイイ感じ。山科薫は、あけみには下手だと愚痴を零す割に別にさうも見えない、山岸めぐみの夫。そして二十年前ともなると流石に若い姿良三は、久須美欽一長期出張先の課長。課内にもう一人見切れる若い男は、定石からいふと石崎雅幸か。
 これといつてテーマもなく適当に選んで見てみた、今上御大・小川欽也の、全て和久名義による1993年全十作中第九作。井上を旦那の居ない家に上げたあけみが何故かいはゆるといふか純然たる手コキ―但しそこに旦那からかゝつて来た電話で点火、最終的には事に及ぶ―挙句に対川野戦に際しては、団地ソープを正しく本当に文字通り何時の間にか開業してゐたりする魔展開には、軽くでもなく吃驚した。因みに浮気になるので本番はしないとの大した方便で、それゆゑあけみ曰く“インスタントソープ”とのこと、何だそれ(´・ω・`)
 起承転結でいふと承部の、階段を階数ごとブッ飛ばす大を通り越した超飛躍さへさて措けば、流れる水の如く一時間を滞りなく見させる、スマートかどうかは兎も角、スムーズな裸映画。山科薫が転部として十全に機能し、山岸めぐみが叩き込む一応ブラックなオチはそこだけ掻い摘むとそれなりに堅い。結局終盤の鍵を握り劇映画の体裁を整へるのが山木品(やまぎしな/仮称)夫婦である以上、否めないビリング転倒に関しては気付かないふりをする。

 大事な枝葉を忘れてた、井上役の杉本まことはアテレコ。時期が時期だけに、主はとても特定出来ない。この頃には後年熟成する独特の間をもたせた口跡が大きく未完成であることもあり、九年後「若妻 敏感な茂み」(2002/主演:山咲小春)の時のやうに如何ともし難い違和感を爆裂させるでもなく、本人の声を知らない限り案外すんなり呑み込ませるのではなからうか。


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 「巨乳未亡人 お願ひ!許して…」(2014/製作:多呂プロ/提供:オーピー映画/監督・脚本・出演:荒木太郎/撮影・照明:飯岡聖英/編集:酒井正次/音楽:モンタージュ・ファクトリー/助監督:三上紗恵子/撮影:宮原かおり・末永祐紀・畠山航/演出助手:三上一/製作進行:佐藤選人/ポスター:本田あきら/録音:シネ・キャビン/現像:東映ラボ・テック/タイミング:安斎公一/協力:花道プロ・小林徹哉・光永淳/出演:愛田奈々・松すみれ・星野ゆず・佐々木基子・石川雄也・野村貴浩・なかみつせいじ・今泉浩一・太田始・牧村耕次・那波隆史)。協力が、ポスターには花道プロと光永淳に、小林徹哉でなく小谷香織。音楽を担当したモンタージュ・ファクトリーといふのは、宮川透のバンドあるいはユニット。
 タイトルからイン、続いて路傍の石たる文言が現れるのは、原作とでもいふつもり?いや、未だ山本有三の没後五十年が経過してゐない以上、精々原題か。兎も角クレジットが追走、ロングでモノレールを一拍挿んで、全裸で横たはり電話を取る松すみれが飛び込んで来る。リストラ後、別居中の妻・秋子(松)を始め周囲からも見放され八方塞がつた谷口周平(那波)は、町内のラジオ体操グループのマドンナ・垣花佐和子(愛田)と出会ふ。
 配役残り―早えな―野村貴浩は、秋子の不倫相手・司博。佐々木基子は、佐和子と纏めてこの人等もリストランの倉田節。なかみつせいじと今泉浩一と太田始は、ラジオ体操メンバーの飲食店店主・杉山恒夫、袈裟を着てゐるゆゑ多分坊主の西脇実、職業不詳の近藤庄太郎。小谷香織含め協力勢と佐藤選人も、ラジオ体操の輪の中に見切れる。あと相変らず子連れの淡島小鞠(a.k.a.三上紗恵子)も、成長日記か。牧村耕次は、遺影の夫(不明)没後六年佐和子が面倒を見続ける、目下は痴呆症も発症した義父・種吉。元石屋で、琴線に触れる石を見付けると―元々最早殆ど覚えてない―我を忘れる。石川雄也は、金に窮した佐和子が文字通り一肌脱ぐ、白タクならぬ白売春の客。星野ゆずに関しては後述する。忘れてた、荒木太郎は谷口を悪し様にいふ噂話と滞る家賃を催促する―垣花家の―大家の声と、クロブタカマトの「カマト運輸」引越作業員、もう一人ゐる若い後輩は判らん。一応ツッコんでおくと、斯くもナノ尻穴な御時勢、今時の引越屋が幾ら待ち呆けを喰らはされてゐるとはいへ、客の部屋の前、乃至マンションの通路で煙草は吸はんよな。一歩間違へたらトラックの中でさへ許されない可能性も、己等不自由な世界を作るのがそんなに楽しいか。
 はてさてな荒木太郎2014年第二作、松すみれのゴージャスなオッパイの陰から、野村貴浩が不意に身を起こし正しく出現するカットには、ピンクで映画なピンク映画らしい冴えが煌いた。徘徊する種吉が分け入つた薮の中にて、不自然極まりなくもそんなロケーションで寝てゐる星野ゆずと出会ふ件はまたエラい三番手の放り込みやうをと一瞬呆れかけたが、星野ゆずに関心を払はず種吉はそこにある大きな石を引き抜かうとする。即ち、種吉が石に激しく執着する種を事前に十全に蒔いた末に結実するシチュエーションであるといふ点は、三上紗恵子が終に辿り着き得なかつた論理性のビクトリー。イチ・ニ・サン・シ、すりすりすりすりとラジオ体操と称して訳の判らないオリジナル体操の、同時に異様な溢れんばかりの幸福感は、荒木太郎が今なほストライクを取れる数少ない決め球。転がり込んだ垣花家で、ありもしない金目の物を物色してゐる現場を佐和子に見咎められた星野ゆずが、信じて貰へなくていいと前置きした上で投げる「好きぢやなきや、寝なかつた」との捨て台詞も、上野オークラのマスコットガールとしてのふんはかしたキャラクターとは全く異なる相貌を呈した、星野ゆずのスレた突破力に加速されハクい。尤も、肝心の佐和子と周平の物語がスッカスカ。外堀がある程度豪華であつたとて、本丸が掘立では話にならぬ。それまで半ばでもなく見下すかのやうに周囲との接触を拒んで来た谷口が、愛田奈々の色香にチョロ負かされたといふならば万感の同感を以て肯くほかないにせよ、スッぽかした町内掃除に出し抜けに狼狽するかの如く改悛する。取つかゝりから快調にバタついたラブ・ストーリーは、以降も銀幕に愛田奈々が映し出されてゐる以外にはさして拡がるでも深まるでもなく。羨ましさが限りなく爆裂するラスト・ショットは素晴らしいものの、佐和子も佐和子で“覚悟”の一言を口にしたにも関らず、何だかんだ、何だかんだとしかいひやうのない展開に従ひ谷口と懇ろとなるに至るのでは、着地点が然るべき納まり処に納まつたといふよりは、正直単に水が低きに流れた印象の方が強い。これは純然たる好き嫌いに過ぎないのかも知れないが、那波隆史といふ人は笑顔の輪郭があやふやなので、下手な好い人役、もしくはハッピー・エンドにはどうしても御都合なり自堕落さが先に立つ。マキシマムにそもそも、今作の何が、何処が路傍の石かといふ話である。石好きの爺が出て来るだけだ、何だそりや。結局、事ある毎にフィルム文化の終焉を声高に嘆いておきながら、残された数少ない、指を折るにしても片手で足る本当に残り僅かな35mmフィルムで映画を撮る機会を、今回荒木太郎は何時もの気の合つた仲間と、すりすりすりすり漫然と茶を濁してしまつたと難じざるを得ない。そして、それは現代ピンクにとつてひとつの象徴的な光景でもあるだなどと、惚けた顔して筆を滑らせてのければ実も蓋もない、ババンバン。


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 「OL生撮り本番」(1992/製作・配給:大蔵映画/監督:矢竹正知/脚本:浮舟節子/企画:佐藤道子/撮影:伊東英男/美術:最上義昌/音楽:中村半次郎/照明:森隆一郎/編集:国沢実/助監督:加藤翔/撮影助手:佐久間栄一/照明助手:佐野雅俊/スチール:最上義昌/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/小道具:高津映画装飾/衣装:日本芸能美術/ロケ協力:那須ハイランド・那須高原ヴィレッヂ/出演:南野千夏・斉藤桃香・英悠奈・井上まゆみ・赤城玲子・山崎さちこ・野沢明弘・ロッキー伊藤・長沢聖也・森下昌也)。受け容れざるを得ない訳だけれども、これ本当に国沢実が編集してるのかな?それとピンク映画の撮影で、遊園地に話を正式に通してゐる、あるいは通つてゐる点は、地味にトピックであるやうに思へる。
 我等がノジー・ザ・ワイルドこと野沢明弘(ex.野沢純一)が、嫌がる南野千夏に肛姦を強ひる。「どうしてえ、外国ぢやこんなの当たり前だよ」と無理矢理挿入を試みる方便が、「よく締まつて男は堪らんのだ」、無体な先制パンチが完璧。結局断念し正常位に移行、限りなく三こすり半で達した事後、上京する親と会ふやう南野千夏に求められた野沢明弘は無下に拒否。食下がる南野千夏を振り切り野沢明弘が多分シャワーに立つたタイミングで、教会の鐘が鳴り始めタイトル・イン。後述する、タイトルバックへの繋ぎも実にスマート。
 堤物産社員の秋山竜二(野沢)は、交通事故に遭つたところを助けた社長の娘・浅子(斉藤桃香/斉藤桃華とは別人)に見初められ結婚。最終的には将来の社長の座も約束された竜二が、日の高いうちから初夜を満喫する一方、竜二に結婚をちらつかされた挙句掌返しに捨てられたホステス・やよい(南野)をカウンター内扇の要に、三人の女が苦虫を噛み潰す。画面左が重ねて貯金まで巻き上げられ、ついでにビデオも撮られた堤物産同僚の水木か水城秋子(井上)で、右はこの人も堤物産で、この人は強姦された美子(英)。見境なさ過ぎる、底の浅い野獣感が、N系OZAWA・NOZAWAこと野澤明弘最大の魅力。要は秋山竜二被害者の会は、今でいふ逆リベンジポルノを切札に復讐を期し行動を開始する。
 一筋縄では行かない配役残り、一筋縄では行かぬとは何事か。改めて、タイトルバックは教会での挙式後、それぞれの両親計四人に見送られ、タキシードとウェディング・ドレスのまゝ竜二が車を運転しハネムーンに出発するロング。因みに車は浅子の車で、行き先も堤家の別荘ではある。閑話休題、赤城玲子は竜二の母親で、山崎さちこが浅子の母親。問題が父親勢、問題とは何事か。竜二の父親は森下昌也しか名前が残らないが、この人は小林次郎と同一人物。浅子の父親はクレジットレスの西田光月、全く何の根拠もない思ひつきじみた直感に過ぎないが、もしかすると西田光月といふのは矢竹正知の変名?長沢聖也は、竜二に犯された一件で解消に至つた、美子の婚約者・ケンスケ、どうも山科薫のアテレコに聞こえる。ビリング推定でロッキー伊藤が、竜二に騙された結果、折角向かうから口説かれてゐたのに秋子が釣り逃がした格好の、重役出世を確実視される独身の時田部長。最早この人の顔は見せたくないとしか思へない、井上まゆみ(勿論イコール井上真愉見)にしか当たらない照明の影に沈み面相は判然としないものの、少なくとも声は高崎隆二、そんな闇雲に錯綜するのが楽しいか。拘泥する方が悪いといはれたならば、頭を垂れるほかないやうな気もする。
 1992年第一作、今後新しい弾がDMMに投入されるなり復活公開されなければ、矢竹正知最終戦。興味深いのが八作後の「高級秘密クラブ ザ・秘書室」(1993/主演:明日香ゆみ)同様、開巻でハイライトをジャミングする矢竹マジックは不発。カットの長さも繋ぎも普通といふより直截には平凡で、没個性的かつ端的に詰まらない作風が、少なくともこの時点で完成してゐる。ベクトルの正否はさて措き、絶対値の大きささへ失つてしまふことが、“完成”と称するに値するのか否かはこの期に及んではよく判らない。人間にとつて、成長といふ奴は得てしてさういふものかも知れず、何れにせよ、八作前の1990年全五作中第四作「凄絶・監禁レイプ」(主演:川奈忍)までのどれも判で捺した如き木端微塵を想起すると、恐らくは1991年といふ一年を重要な契機に、矢竹正知は一皮剥けるなり悔い改めたのかも知れない。
 監督が照明部出にも関らずな照明の下手な暗さが地表に露出した起爆装置であるといふ文字通り顕示的な特徴も、「高級秘密クラブ ザ・秘書室」同様。但し、微妙に検討の余地を残さなくもない。クリスマス・イブの夜、竜二は酔つた美子を強引に送つた上で犯す。「まるで送り狼ぢやない」といふ美子の抗弁に対しては、送り狼なんだよ!とツッコんでおくとして、部屋が暗いのもある意味リアリズムにせよ、何時まで照明焚かねえんだよと思つてゐたら結局終始暗い一本気には逆の意味で度肝を抜かれた、濡れ場も満足に見せないつもりか。ところが、那須への車中、秋子と美子がそれぞれ時田とケンスケとの情事を回想する二連戦。その件で初登場の時田は兎も角、ケンスケの早漏オチで終る情けない絡みに何の意味があるのかと一旦呆れかけたが、ここで英悠奈の裸を回収してゐるのだ。ロッキー伊藤を頑なに回避するライティングも、実は構図込みで、寧ろ案外高等なテクニックなのかも。

 最後に、矢竹正知戦は最後となつてしまひつつ、不思議と矢竹正知絡みのエントリーが何故か評判が悪くない。更に二年前に文字通りの戦死を遂げた、大御大・小林悟にも未だ追ひ着いてゐないといふのに、没後十余年、漸く時代が矢竹正知に追ひ着いたか。底の抜けたロマンティックを吹くやうだが、矢竹監督が泉下にてお喜び下されば、それに勝る喜びはない。小林悟に関してはDMMの豊潤な荒野に未見作がまだまだ転がつてゐるので、これからも追ひ駆けて行く。だから、大御大は四五百本映画を撮つてるんだろ、百本に一本の映画を四五本撮つててもおかしかねえよ。虚仮にするならせめて百本は観るなり見てからにしろよ、それが量産型娯楽映画に対する仁義つてもんぢやねえのかよ。


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 「ザ・アダルト 性告白実話」(1993/製作:多分サカエ企画か新東宝/配給:新東宝映画/監督:新田栄/脚本:岡輝男/企画:田中岩男/撮影:千葉幸男/照明:渡波洋行/編集:酒井正次/助監督:久須美欽一・広瀬寛巳/撮影助手:池宮直弘/照明助手:上別府創/音楽:レインボー・サウンド/効果:時田グループ/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:花井かおる・神山尚輝・沢田文也)。変名の夏季忍でなく、久須美欽一名義の助監督クレジットは初めて見た。今回ダウンロード視聴したのは新東宝ビデオからリリースされたAV版につき―モザイク処理に連動してかつけ換へられた―クレジットの若干の改変も考へられたが、弘前大学映研のブログにも助監督は久須美欽一とある。
 並んだ線路と道路をロングで抜いて、今回終に声しか聞かせない久須美欽一によるモノローグ“この物語は女達の赤裸々な性体験、本人達の告白を基に忠実に再現したものである”。淡白に主眼を開陳したところで適当なテーマ起動、いはゆる貝合はせに狂ふ麻田めぐみと長谷川いづみの画に乗せて、ビデオ題「THE ADULT 性告白実話」がタイトル・イン。天童京子(風見玲香)の生花教室、生徒は主婦の沢田静子(麻田めぐみと長谷川いづみの柄本明に似てる方)と、エステティシャンの大森あかね(長谷川いづみと麻田めぐみの森永奈緒美に似てる方)。先生が若い男とホテルから出て来た、真偽不確定な目撃情報をぶつけられた京子は一旦話を濁すかに見せかけて、ケロッと白状する。“天童京子[40才]生花○○流・名取”とのサブ・タイトルで、欠片も登場しない旦那が単身赴任一週間目の夜、一人寝の火照りを持て余した京子は、ホストクラブ「トキオ」(電話越しの店長の声も久須美欽一、素晴らしく安定する)からナオキ(神山)をホテルに呼ぶ。ここで、神山尚輝だなどと何処かで見たやうで何処にも居なさが絶妙な名義の正体は、何のことはないアテレコですらない神坂広志。酔狂に、意味如き求めてどうする。
 “沢田静子[30才]主婦”、煮詰まつたシナリオライターの夫(沢田)が求める衝動的な夫婦生活に、台所に立つ静子は喜悦する。ここでも、旦那役は沢田文也と称して本人アフレコの山科薫。それと、要は静子パートは一幕丸々、岡輝の願望と解してよろしいか?jmdbを鵜呑みにするならば、今作が岡輝男の初脚本作。因みに別館にも、より遡るものは見当たらない。
 “大森あかね[22才]都内エステックサロン勤務”、ミステイクな脱字に関しては、本篇の方は抜けてゐないかも知れないので一旦さて措く。“女の体の美しさが好き”でエステティシャンの職を選んだあかねは、自宅に招いた客のカオル(花井)と本格的に意気投合、互ひに初めての百合の花を咲き誇らせる。神山尚輝と沢田文也同様、花井かおるといふのも恐らく風花か。俳優部の正確な名義は、映画ポスターは判らぬがVHSのジャケには記載される。
 御当人出演といふ雰囲気作りと思しき、クレジットから女優部三本柱をオミットしてみせる荒業含め、全く同じく体験告白ピンクの姉妹作「性告白実話 ハイミスOL篇」(1994/主演:田口あゆみ・西原知香・早瀬美奈)の正しく姉作ともいふべき新田栄1993年全七作中第六作。クレジットしたらしたで俳優部の名義を弄る不用意なギミックは、佐々木恭輔が“恭輔(ホスト)”になる「女性専用 出張性感ホスト」(1995/主演:しのざき・さとみ、キャンディーちゃん、神永未都、美里流季)を先行する。何れも今作が最初ではなからうが、量産型娯楽映画が本当に量産されてゐた時代の途方もない物量を相手に、まづ元祖の特定は叶ふまい。ほんで映画の中身はといへばイイ感じの穏やかな劇伴流れる中、濡れ場をうつらうつら、もといつらつらと連ねるに終始する、のんびりした裸映画。京子パートまでで二十分、静子パートは十分で片付けて、女優が二人登場するあかねパートに改めて十五分。漸く残り尺が劇中現在時制に腰を据ゑる終盤、あかねが静子を誘惑し百合畑開墾。その為に、机を挟んでゐた静子の座り位置が何時の間にかあかねの隣に変つてゐるのが微笑ましい。一方京子はナオキを再召喚、三対一の乱交に突入するクライマックスはそれはそれとしてそれなりに磐石。真性ビアンの筈のあかねが、何故かナオキを普通に受け容れてゐる懐の広さは気にするな。三人の裸の下に、神坂広志が隠れるラスト・ショットの構図は地味に超絶、新田栄の案外侮れぬ地力が窺へる。


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 「喪服未亡人 四十九日の情事」(2014/製作:関根プロダクション/提供:オーピー映画/脚本・監督:関根和美/撮影:下元哲/照明:代田橋男/助監督:三谷彩子/編集:有馬潜/監督助手:金沢勇大/撮影助手:大前明/照明助手:榎本靖/協力:白壁の宿『花宴』/効果:東京スクリーンサービス/出演:宮野ゆかな・衣緒菜・藤北彩香・牧村耕次・竹本泰志・久保田泰也・里見瑤子・なかみつせいじ)。
 仏前、喪服の女が手酌で一人酒。声は聞かせる伯父か叔父を帰した妹の栗田さくら(衣緒菜/ex.吉瀬リナ)も帰り、一人ぼつちとなつた野島雪乃(宮野)は、出張先のシンガポールで寝込みを強盗に襲はれ急死した夫・忠(竹本泰志/間抜けな遺影とチラリとしか出て来ない)を想起し自慰に突入。一本の映画を背負はせるには感動的なまでに目力を欠くものの、宮野ゆかなのいはゆるロケット型オッパイの破壊力は実に素晴らしい。順当に、雪乃が達するまで待ちタイトル・イン。ところで、後述する伊豆逗留は二泊三日で、その翌日が看板を偽らぬ四十九日。一ヶ月強雪乃が何やかやに感けたか油を売つてゐたのでなければ、開巻が何の法要なのか実はよく判らない。
 遺品を整理してゐた雪乃は、ウルトラ適当な手書きの百万円の借用書を発見。

 一路伊豆、

 ペンション「おもひで」を訪ねる。となると、「おもひで」とはいひながら舞台ないしロケ先は御馴染み御存知「花宴」。忠が金を借りてゐた旧友にして、花宴改め「おもひで」オーナーの三輪哲也(なかみつ)は雪乃をお手伝ひ募集の応募者と早とちり、バタバタ仕事を押しつけた非礼のお詫びに、雪乃は百万の本題も切り出せぬまゝその日は「おもひで」に一泊することになる。流れるやうな展開を滞りなく流す、なかみつせいじの地力が地味に麗しい。
 配役残り二戦目の藤北彩香と久保田泰也は、女湯の雪乃に聞こえよがしに―断じて混浴ではない―男湯にて事に及ぶ、近所の葛西夫婦・良美と洋司。介護疲れのストレス発散とかいふ方便は、薮蛇なエクスキューズに思へなくもない。牧村耕次は、姉を追ふ形で「おもひで」に雪崩れ込むさくらの不倫相手・園田良夫、リアル親子ほど歳が離れてゐる点は気にするな。そして旋風の如くシークエンスを駆け抜けて行く不脱の里見瑤子が、良夫の妻・育代。それと、花宴映画の裏定番、食堂に二人見切れる爺さん客はだから誰なんだよ。
 NSP“ニュー・関根和美・ピンク”2014年第一作、関根和美の伊豆行は2011年第一作「トリプル不倫 濡れざかり」(主演:水沢真樹)以来、深町章も黙する中、花宴映画自体年一本今上御大の伊豆映画のみ。雪乃と、欠片も登場しない元妻には逃げられた三輪が何となく距離を近づける中、適宜伊豆の好ロケーションを活かしたショットに火を噴かせつつ、のんびりと濡れ場を連ねる。忠と三輪が疎遠になつた理由と、反面男同士の約束の件は、最終的に返済したから手許に戻つてゐる筈の、借用書が一旦三輪が破つて破棄したにも関らず復元してゐたりする辺り、清々しくゴチャゴチャする。となるといつそ里見台風の通過を明後日なハイライトに、雪乃帰京で畳んでしまへば伊豆に行き、伊豆から帰つて来る。伊豆映画として寧ろ完成してゐたのに、といふ一昨日な無念も残さぬではない。その場合、“四十九日の情事”が消滅することなどだから気にするな。そもそも“四十九日の情事”とは何ぞやといふ話でもある、ほとぼりの冷めた感が爆裂する。彼岸に旅立つたばかりで女房を知己に寝取られてゐては、客死した忠も浮かばれまいに。
 
 本篇の見た目には特に関係ないが、クレジットで最後に三谷彩子の名前を見たのは「養老ホームの生態 肉欲ヘルパー」(2008/監督:下元哲/脚本:関根和美/主演:Asami=亜紗美)と結構久し振り。三谷彩子の現場復帰を受け、金沢勇大がセカンドに下がるのが興味深い。


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