真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「タクシー野郎 夜の淫花」(昭和52/製作:ワタナベプロダクション/監督:山本晋也/脚本:山田勉/製作:真湖道代/企画:渡辺忠/撮影:久我剛/照明:近藤兼太郎/編集:中島照雄/音楽:多摩住人/助監督:高橋松広/協力:川崎市 新興タクシー会社 (044)344-5871/特別出演:スピリット オブ ポルノ号/出演:南ゆき・星亜也子・青山涼子・北斗レミカ・徳永レナ・安田清美・中野リエ・しば早苗・久保京子・東あき・野上正義・松浦康・滝新二・土羅吉良・たこ八郎・小川馨・太田隆・久須美護・岡田良・荒木柾明・久保新二)。出演者中滝新二と、小川馨から荒木柾明までは本篇クレジットのみ。代りといつては何だが、ポスターにのみ九九八十一なる謎の文字列が載る、代りの意味が判らない。脚本の山田勉は、山本晋也の変名。スピリット オブ ポルノ号を叩き込んで満足したか、録音や現像その他大胆に端折つてのける、随分なクレジットは本篇ママ。
 現存する新興タクシーの、電話番号も変らぬゆゑ恐らく本社(神奈川県川崎市川崎区)。凄まじく雑多にカットを繋いだ上で、二言目には「新興の倉本」云々大層な啖呵を切る運転手・倉本健二(野上)がボサーッと登場。フロントガラス左下隅にピンナップガールのステッカーを貼つた、愛車の名づけて「スピリット オブ ポルノ号」(以下SOP号)で仕事に出てタイトル・イン、車体自体は別に弄つてゐない。これが往時の標準なのか、それとも川崎固有の特殊事情か。野放図な路駐で激しくせゝこましい往来を、無造作に走り抜けるランダムドライビングを見てゐると無駄か無闇に肝を冷やす。混んだ駅前を嫌ひ、堀之内のトルコ街に回したSOP号を、東あきが停める。ところが実際に乗るのはぢいさん(滝)だと見るや、倉本は華麗か豪快に乗車拒否。曰く、“男の子の古くなつた奴は恐ろし”いらしい。アバンから全篇を貫く野上正義のモノローグが何故か、水谷豊の物真似みたいな朴訥とした口跡。
 あれこれググッてゐると出て来た、『月刊シナリオ』昭和52年二月号の画像に大分助けられた配役残り。尤も、先に白旗を揚げておくと大男役とされる太田隆が、いふほどの偉丈夫も特に見当たらず特定不能。更に、土羅吉良は警官役とあるものの、後述するたこ八パートと、南ゆき×久須美護(=久須美欽一)パート。別個に二人出て来る制服警官が、何れも土羅吉良ではないのも謎。最後に、月シナに記載がなく、jmdbとnfaj、ついでで別館検索にも引つかゝらない荒木柾明には、手も足もぐうの音も出ない。閑話休題、先に進むと星亜也子はホテル街で車を停めた倉本が、「何か突拍子でもねえこと起きねえかなあ」とか漫然としてゐると、SOP号の脇を全裸で駆け抜け正に突拍子ないことを起こす女・ナオミ。グルッと一周したプリミティブが斬新に到達する、天衣無縫な導入には驚いた、山晋矢張り天才かも。岡田良が、逃げるナオミを執拗に追ひ続ける男、仔細一切等閑視。久保京子はオケラでSOP号に乗つたのち、「あたし尺八だけは自信あるんです」と宣ひ倉本を吹く女・釈ならぬ尺八子。息するのやめればいゝのに、俺。久保新二は、息を吐くやうにマスをかき始める中毒症状まで含め、「未亡人下宿」シリーズに於ける尾崎と何もかも同じ造形のバンカラ、月シナによると応援団員。この多分セイガク、トルコに行くのにSOP号を拾ふ、金持つてんな。中野リエは連れのオッサン(知らん)が平塚までと倉本に渡した二万を、初乗りで降りくすねる現金な女。もう少し、大きな役で見たかつた。たこ八郎は、無賃乗車する筋者気取り。そしてa.k.a.愛染恭子の青山涼子が、よくいへば色情狂のヒロタ。何気に、塾長の沙汰も暫し聞かない。松浦康と、小川馨は姿を消したあるいは、外に出しちやいけないヒロタを捜す山本精神病院の白衣。安田清美としば早苗は、SOP号の後部座席でオッ始める百合カップル、しば早苗の固有名詞はサチコ。南ゆきと久須美護は勝手に仕出かす安清・サチコとは異なり、端から過分に支払ひSOP号を逢瀬に使ふ、ある意味紳士的なアベック、久須美護の固有名詞はミツオ。サチコから抜けなくなつたジョイトイをモンキーでヒッこ抜く、倉本に対して矢鱈喧嘩腰な新興整備班二人組のうち、ティアドロップのサングラス越しだと大杉漣似に映る方の声を、久保チンがアテてゐるのと同様、久須りんも主不明のアテレコ。艶のある声色が特徴的な御仁につき、違和感がバクチクする。ビリング四番手ながらポスターを一人で飾る北斗レミカと、徳永レナはタクシーの車内で喧嘩しだしたかと思へば、停車しドライバーが仲裁に入つたどさくさの隙を突き、逃げる性質の悪い遊びを繰り返す常習犯。
 総勢十名の結構豪華な女優部を擁するにしては、完全着衣とはいへ一応ひと濡れ場務める久保京子はまだしも、東あきと中野リエは純粋に不脱。安田清美もサチコをバイブで責めこそすれ、自らは全く不脱。本クレ・ポスターとも最初に名前の来る南ゆきですら、久須りんに跨る尻までしか実は脱がない。半分は脱ぐ南ゆきは0.5でカウントすると、ほゞ半数を温存する贅沢な山本晋也昭和52年第一作、羊頭狗肉ともいふ。
 タクシーの客と運転手が互ひにコノヤローコノヤロー痛快にいがみ合ふ、昭和のワイルドビート爆裂する久保新二篇は双方の間断ないマシンガン罵倒が絶品。何処まで脚本に書いてあつたのか知らないが、仮名尾崎の「信号なんか無視して走れバカヤロー」には声が出た。同じガミさんと久保チンの組み合はせでも、ほかの監督ではなかなか斯くも上手くは行かない辺り、山本晋也ならではの演出のキレなり油の乗り、時代の味方につけ具合といつた何某かがあつたのであらう。行きたい方角を指さす尾崎と、客の指示を見やる倉本が二人で走行するSOP号の窓から頭を外に出し、風を浴びるショットなんてもうまるで何かの間違ひかのやうな、ニューシネマの名作をも思はせる奇跡的なカッコよさ。要はも何も倉本を主役に面白可笑しく見させつつ、気がつくと案外どころでなく薄い女の裸を、まづ本格的に補完するのは愛染恭子に改名後、大ブレイクを果たす青山涼子。劇中季節は真冬―ちなみに封切は一月下旬、となると撮影は年の瀬前後?―であるにも関らず、暑い暑いとザクザク脱ぎ始める天衣無縫なシークエンスを、尊ぶ以外如何なる態度が観客なり視聴者に許されるといふのか。芳醇な男優部に恵まれ多様性には富むともいへ、やゝもすると雑多なエピソードの羅列で木に竹を接ぐに終始する破目に、なりかねないところを。野上正義の弾け続けるドライブ感で、誤魔化すもとい勢ひに任せ走り通した末。藪から棒な謎セダンで現れた岡田良が、何をトチ狂つたか100パー故意でSOP号の土手つ腹に衝突。倉本も倉本で真向から受けて立ち、飛んだり転がつたり落ちたりはしないものの、車同士でガッツンガツン殴り合ふ凄惨なカーアクションが、凡そ量産型裸映画らしからぬクライマックス。果ては大破した二台の車が迎へる、新しい一日の朝日は正体不明のスペクタクルを湛へ、それで車が動くのが不思議な状態の、SOP号でなほ倉本が平然とその日の営業に向かはうとするラストは、形容し難いカタルシスを撃ち抜く。結局公開題下の句で謳ふほど、夜の淫花が咲き誇るでは必ずしもなく、額面通りなのはトラックもといタクシー野郎。人心の沸点が常温より低い、「ドゥ・ザ・ライト・シング」のブルックリンばりにエントロピーの高い爆裂都市・カワサキを舞台に、無頼なタクシードライバーの無秩序な一日を描く。乳尻が四の五のいふより寧ろ、野上正義主演映画の色彩が兎にも角にも色濃い一作である。

 ひとつ無性に気になつて仕方がないのが、倉本がSOP号を停める度に、四つ角の真中で堂々と停まる自動運転ならぬ自由運転。あれ単に、撮り易い方便を優先しただけの話なのかな。


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