真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「あぶない美乳 悩殺ヒッチハイク」(2011/製作:パワーフール/提供:オーピー映画/監督:森山茂雄/脚本:佐野和宏/撮影・照明:佐久間栄一/編集:酒井正次/音楽:ムスキ・アルバボ・リー/助監督:中川大資/監督助手:畠中威明・桑島岳大/撮影助手:池田真矢・芳野智久・蟻正恭子/編集助手:鷹野朋子/スチール:津田一郎/タイミング:安斎公一/録音:シネ・キャビン/現像:東映ラボ・テック/協力:セメントマッチ・杉本智美/出演:みづなれい・倖田李梨・酒井あずさ・川瀬陽太・久保田泰也・幸野賀一・後藤佑二・本多菊次朗)。出演者中、幸野賀一と後藤佑二は本篇クレジットのみ。
 田舎道、急停車した黄色い軽自動車から、悩殺ヒッチハイカーが手荒に放り出される。少し車が走つて、オレンジ色のキャリーバッグも投げ捨てられる、傷が入るぞ。仕方なくホテホテ歩き出したみづなれいが、夏の日差しについた溜息ひとつに合はせてタイトル・イン。
 バスが来るのは何時間に一本なのか、そんな風情のバス停で恐らく吸ひ方を知らない煙草を燻らせる北見れい(みづな)に、軽トラから気さくな農夫・矢島竜介(久保田)が声をかける。サクッと矢島の車に乗つたれいの目的地は、まだもう少し離れた病院。誰か縁故でも入院してゐるのかと訊かれたれいは、「親爺」とポツリと答へる。気分を変へてれいの方から気軽に求め、川のほとりでいはゆる青姦。そもそも開巻れいが放り出されたのも、走行中に尺八を吹かうとしたからであつた。ここで、声は兎も角見切れるのは本当に一瞬きりの黄色い軽自動車運転手が、杉浦昭嘉最終作「ラブホテル 朝まで生だし」(2005/監督・音楽:杉浦昭嘉/脚本:杉浦昭嘉・丸本昌子/主演:せりざわ愛蘭)以来の、電撃―チョロッと―復帰となる幸野賀一。正直この人が何処に出てゐるのか全く判らなかつたこともあり、久々に三本立てをもう一周して二回観た、勿論それだけでもないが。
 事後、矢島が全裸で川に入る隙に、れいは軽トラを奪ひ逃走。黙つてゐても再び乗せて呉れようものなのに、無体な女である。ところが運転には慣れないのか、れいは軽めの単独事故を起こし車を捨てる。主婦・山本智子(倖田)と、終始ピクリとも動かぬ寝たきりの夫・茂雄(森山茂雄)の顔見せ挿んで、額を怪我したれいは、トライアルにて絆創膏その他を万引きする。そこに、両手一杯に買物袋を如何にも重たさうに抱へた智子が通りすがる。荷物を半分持つてあげがてら、れいは山本家に転がり込む。
 後述する切なくも美しい一夜を過ごし、れいが智子の下を後にしたタイミングで飛び込んで来る酒井あずさは、居酒屋「千秋」女将の柴田千秋。病気で一時リタイアしてゐなければ、佐野和宏のポジションであつた穴を埋めたのかも知れない本多菊次朗は、「千秋」に一泊し、翌朝時間差で目覚めると改めて千秋を抱くテキ屋・擦木力。川瀬陽太は「千秋」常連客の漁師・坂本辰吉、何時ものやうに仲間と飲んでゐるところに一人で来店したれいにジェントルマンを気取るも、千秋いはく「何がジェントルよ、マンホールみたいな顔して」。マンホールて、幾ら何でも川瀬陽太を捕まへてあんまりだ。後藤佑二は辰吉の連れで、杉本彩が撮影に使用したとの染み付き縄端―無論、パチモンである―を、昨晩擦木から五千円で買つた漁師其の弐。三人の並びで一番右側、画面手前で殆ど照明の影に隠れる漁師其の参は、定石からは演出部動員か。終盤、駅のホームで電車を待つ擦木とれいに、既に廃線である旨をロングから伝へる農夫は、多分中川大資。れいは千秋に、件の病院に入院する誰かさんは、十年前に妻を亡くし、その結果飲めない酒に溺れ体を壊したと語る。
 前作にして愚直な感動作「肉体婚活 寝てみて味見」(2010)に引き続きみづなれいを主演に迎へた、森山茂雄通算第十一作にしてパワーフール第五作。ひとまづ最終的には陰鬱な始終を通過し、れいが別れ際に擦木からさみしくなつたら吹きなと手渡された―その際に、擦木が持ち歩く商売道具の大きなトランクの、中身が空であることが見えてしまふのはミス―シャボン玉に口をつけた次の瞬間、私は度肝を抜かれた。ムスキ・アルバボ・リーの、意図的に掠れさせたか細いヴォーカルが爽やかなメロディをそれでも力強く撃ち抜く、必殺トラック「さんまれんこう」が起動、劇中二度目に音楽の富を奪取した上で、エンド・クレジットの合間合間に差し込み効果的に間を持たせた、衝撃のラストには心が震へた。れいの心が、世界を包む。全ては何も変らず、即ち決して誰も救はれはしないまゝに、智子(と茂雄)・千秋・辰吉と矢島、ビリング順に擦木。束の間の出会ひと別れの末に、終には互ひに断片に過ぎぬ各々をヒロインの心が繋ぐ、より大きなものへの回帰。これこそが、ロードムービーの織り成すロマンティックな奇跡でなくしてなんであらう。素晴らしい素晴らしい素晴らしい、百遍繰り返したとていひ足りまい。凄いものを観た、とんでもない映画を観た。開放的に初戦を飾ると同時に、れいが後背位は頑なに拒む伏線も投げる矢島との野外プレイ。気配に気付いたれいが覗きもする、閉塞した絶望が胸に痛い智子の自慰と二度目の二人の花火を噛ませ、ムスキ・アルバボ・リーの、正しく搾り出される如く狂ほしい「笑顔の信者」と、ベタな線香花火のイメージの力も借り、傷ついた二つの魂が寄り添ふ姿をこの上なくエモーショナルに描いた智子と咲かせる百合。千秋と擦木の、爛れた色情が重量級の煽情性を炸裂させる貫禄の一戦。哀しい過去への距離を次第に近づけつつ、辰吉とは魅力的なロケーションの中、無理矢理後ろから突かれたため物騒な形で中途に終る。そして終に明かされる、悲愴な十年前。主演女優の裸を、つつがなく事済む形で見せる手数が前半で尽きてしまつてゐるバランスさへさて措けば、六つの濡れ場を適宜展開に即して六様に描き分ける超絶も圧巻の一言。荒木太郎はなかなか辿り着けないピンクで映画なピンク映画の到達点への扉を、遂に森山茂雄は抉じ開けたか。お人形を思はせる整つた顔立ちに、基本孤独を凍りついたかのやうに窺はせながらも時折見せる柔らかい表情が胸を打つみづなれい、ピストル柄のワンピースもイカす。詰んだ生活の暗闇に沈む倖田李梨と、やさぐれた色香が堪らない酒井あずさ。お人好しで間抜けな久保田泰也に、男ぶりはいい反面幾分粗野な川瀬陽太。そして、文字通りの風来坊の皮を被つた下に、賢者の相をダンディに隠す本多菊次朗。配役も完璧ならば、積み重ねられる回想中の扇風機が、実は倒れたものであることが明らかになるにつれ、暗い予感を徐々にではあれど濃厚に立ち篭めさせる秀逸な語り口。一欠片の捨てカットもない、森山茂雄はどうかしたのかと、一歩間違へば心配にすらなりかねない完成度。オーピーが一社気を吐く現状にも関らず、意外と筆を滑らせては何だが豊作であつたやうに思へる2011年のピンク映画、その中でも群を抜くマスターピース。繰り返すが、れいの心が、世界を包むラスト。凄いものを観た、とんでもない映画を観た。この興奮、未だ醒めやらぬ。
 劇伴としての威力も申し分ないムスキ・アルバボ・リーの楽曲は、ザックリしたジャンル分けでいふとワールド・ミュージックを連想させる。正体不明の名義ではあれど、この人鹿児島県は沖永良部島生まれの見た感じも純然たる日本人なのだが、一体歌つてゐるのが何語なのかはサッパリ判らない。それとも何か、これは要はいはゆるハナモゲラ?

 由来なり背景が描かれることはない故、フィニッシュの結実に至るまでは木に竹を接ぎ続ける感も否めなくはないが、れいは会ふ人会ふ人に、自身の印象を漢字一文字で尋ねる。順に矢島・智子・千秋、「オラ馬鹿だからそつたらことはよく判んネ」と回答を留保した辰吉は飛ばして擦木の、それぞれの答へは“愛”・“陽”・“若”と、“哀”。己の甚だしい知性の貧しさと感性の歪みも省みず、小生が今作を漢字一文字で表す愚挙に挑むならば、“情”である。

 再見に際しての付記< れい・ミーツ・矢島のロケーションは、よくよく見てみるとバス停ではなく、カフェの看板。


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 「肉体婚活 寝てみて味見」(2010/製作:パワーフール/提供:オーピー映画/監督:森山茂雄/脚本:佐野和宏/原題:『アラサー、よつこらしよッと!』/撮影:清水正二/編集:酒井正次/音楽:勝ヒロシ/助監督:小川隆史/撮影助手:吉田明義、他一名/編集助手:鷹野朋子/監督助手:江尻大/協力:BAMBOO HOUSE、他多数/出演:みづなれい、上原優、倖田李梨、伊藤太郎、後藤佑二、ヤング・ポール、他二名、勝寛至、森山茂雄、佐野和宏)。出演者中、ヤング・ポールと他二名、森山茂雄は本篇クレジットのみ。
 実際に佐野和宏の店らしい―嗚呼、地方民の哀しさよ―高円寺のバー「BAMBOO HOUSE」での、恋愛と、家ではパンツを履くことを面倒臭がる常連客の福山杳子ことヨッコ(みづな)と、マスターの佐藤(佐野)との、後腐れない前提の情交にて開巻。タイトル・イン明け、まんまと二日酔ひのヨッコが目覚めたところ、同居するアラサーOL―因みに、ヨッコの作中年齢は25―の岡田亜梨沙(上原)は、既に明け暮れる婚活デートに出陣し留守であつた。因みに因みに、そこかしこで見ないでもないハウス・スタジオの、二人が暮らすプチ屋敷ばりにそこそこ豪華な物件は、亜梨沙が海外に滞在する伯母夫婦から借り受けてゐるといふ設定。収入だけならば申し分ないとはいへ、それ以外は逐一万事が頂けない下川太陽(後藤)に、亜梨沙が挫けかかる心を奮ひ立たせ必死に喰下がる一方で、食べるなとわざわざ置手紙で釘を刺されてもゐた、男心迎撃用に亜梨沙が用意したビーフ・シチューを、まるで振られでもしたかのやうに悪びれることもなく、ヨッコはケロッと空けてしまふ。そんな、悪戦苦闘する亜梨沙の周囲で、ヨッコは飄々としながらも漫然と過ごす日々。「BAMBOO HOUSE」で時間を潰すヨッコは、佐藤いはく最近チョクチョク現れるといふ、注文したショット・グラスを口元を隠すマスクをずらしはすれど外しもせずに一息で飲み干すと、直ぐに店を後にする大きなスケッチ・ブックを抱へた不思議な男・須賀樫男(伊藤)と出会ふ。後日、「BAMBOO HOUSE」帰りの夜道を亜梨沙と連れ立つて歩くヨッコは、歩道橋から如何にもな風情で身を乗り出す須賀の姿を目撃する。それは単に、車好きでホンダのS2000を体ごと目で追つてゐただけのことであつたのだが、すは早まるなとヨッコと亜梨沙が慌てて飛びついた須賀の鼻と唇の間には、大きな黒痣があつた。そして須賀は始終肌身離さぬスケッチ・ブックに、自身をダイレクトに反映させた、羽に大きな、そしてそれは当然異常な白い模様を持つ、カラスを主人公とした絵本を描いてゐる最中であつた。佐野洋子のタッチの模倣が窺へる、須賀描画の主は不明。亜梨沙は特段意に介さぬ反面、明確なテーマを自らの裡に抱く須賀に、ヨッコは憧憬にも似た興味を持つ。
 倖田李梨は、ヨッコ・亜梨沙共通の友人で、矢張り「BAMBOO HOUSE」常連でもあるパルコ。男に、縁がないことは必ずしもないのだが、ものの見事に運はない。パルコがヨッコと佐藤に自慢げに紹介し、その後秒殺で何時ものやうにヤリ逃げされる、佐藤からは“ラムネ目玉”と揶揄される外人の彼氏・ダニエルが、ヤング・ポール。試みに調べてみたところ、監督作も数作ある東京芸大の院生とのこと。パルコに話を戻すと、倖田李梨の扱ひは決して悪くはないものの、物語の本筋には、器用なまでに関らない。初めから志向してはゐない、といはれてしまへばそれまででもあるが、女友達三人組のグルーヴは、展開の主要に対しては全く機能せず。
 要因の、対内外の別までは勿論与り知らぬが、豪気にも2009年は素通りした、森山茂雄二年ぶりの第十作。亜梨沙の婚活狂想曲がメインの前半部分と、ヨッコと須賀のセンチメンタルな恋愛模様に大胆に移行する後半戦とが、パルコも噛ませ損なひ綺麗にちぐはぐな全体的な構成の出来栄えは、贔屓目にも何も、一本の劇映画を求めるならば端的に褒められたものではない。その上で、須賀が紡ぐ物語にプリミティブに移行してみせつつ、己の容姿に強いコンプレックスを抱く者が、理解ある異性との出会ひを機に自信と自由とを取り戻すに至るといふ終盤は、正直シニカルには都合か調子のいい御伽噺気味の、それでも、まるで自分で自分の背中を押すかのやうな、傷つき疲れたダメ人間を優しく慰撫すべきララバイ、乃至は終に倒れた魂に捧げられたレクイエムとしては、文字通り形振り構はぬ突進力、肉を切らせるとも骨を断つ決定力を有する。そのダサさと紙一重の、寧ろ非洗練を些かも厭はぬ勇敢な愚直が、元々佐野和宏の資質であるのか、それとも森山茂雄が猛然とアクセスを踏み込んだものなのかを正確に判別する、素養もしくは資質を持ち合はせない不見識は面目ないばかりではあるが、兎も角、遮二無二撃ち抜かれたエモーションだけは、確かに伝はつて来る。善し悪しでいへば決して芳しくはないと同時に、好き嫌ひでいふと断然大好きな一作。棒球をスタンド上段にまで運ばれたとて、真つ向挑んだ直球勝負は天晴だ。みづなれいは兎も角、敵が伊藤太郎(マイト利彦・伊藤利と同一人物)であることも鑑みると、無防備と引き換へに手に入れた着地の爽やかさは、ある意味離れ業といふ評価も相当しよう。森山茂雄のことは一旦さて措くとして、伊藤太郎にとつてはマスターピースと称するに値するのではなからうか。

 出演者残り、名前が連ねられる他二名は、深夜の公園でヨッコと須賀を冷やかす柄の悪い二人組みであらうことはまづ間違ひないとして、音楽も担当する勝寛至がよく判らない。不完全な消去法ながら、ヨッコと二度、セクシャルな意味合に於いてではなく絡むチャリンコ二尻の高校生の、後ろの方か。漕ぐのは江尻大なので、定石からいふと小川隆史ではないかとも思へるのだが、その他何処かに見切れ要員が居たのを見落としたか失念したかな?森山茂雄は、劇中二度目の婚活で亜梨沙を幻滅させる、ビールの飲み方がポップに下品なオヤジ。妙に髪に白いものが多いのは、それはわざわざ染めたのか?


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 「好きもの家系 とろけて濡れる」(2008/製作:パワーフール/提供:オーピー映画/監督:森山茂雄/脚本:佐野和宏/原題:『大阪タコ焼きBLUES』/撮影:佐久間栄一/編集:酒井正次/音楽:勝啓至/助監督:伊藤一平/監督助手:高杉考宏/撮影助手:秋吉正徳・佐藤遊/スチール:津田一郎/録音:シネキャビン/現像:東映ラボ・テック/8ミリ協力:杉本智美/協力:ロックバー マジック・うじちゃん・森山タカ・宇宙家族・中川大資・飯田佳秀・田辺悠樹・里佳ちゃん/出演:結城リナ、愛乃彩音、友田真希、岡部尚、後藤祐二、佐久間まさふみ、色華昇子、望月梨央、小澤とおる、恭子、小坂井徹、みのさん&あやちゃん、マイケル・A・アーノルド、白井音羽、佐野和宏)。出演者中小澤とおるがポスターには小沢とおるで、後藤祐二と色華昇子・望月梨央に、恭子から白井音羽までは本篇クレジットのみ。逆に、ポスターには載る、菊池透の名前が本クレにない。あと撮影の佐久間栄一と音楽の勝啓至が、ポスターでは前井一作と勝ヒロシ。
 東京でヒモのアキラ(岡部)と爛れた生活を送るキャバクラ嬢の金本友美(結城)に、大阪在住の母・タツ子(友田)から電話が入る。窃盗の常習犯で例によつて服役してゐた父親の本間六三(佐野)が、出所した上東京に向かふいふのだ。父親に小澤とおるが店長を務める店にまで押しかけられた、友美が不機嫌を隠さうともしない一方、六三は自称“谷間No.1”のエリカ(愛乃)とどういふ訳だか意気投合、臍を曲げてしまつた娘宅の代りに、エリカの部屋へと転がり込む。愛乃彩音は確かに谷間は深いが、全般的に肉が厚い。ところでタツ子はタツ子で、情夫のツトム(菊池)からSMを仕込まれると再婚を決意するまでに入れ込むが、緊縛され秘部にはバイブを突つ込まれた状態で放置された隙に、印鑑と貯金通帳とを持ち逃げされる。
 佐久間まさふみも佐久間まさふみで、今度はエリカのヒモ・マコト。実際往々にしてさういふものなのかも知れないが、工夫に欠ける感は禁じ得ない。といふか、女優三本柱が揃ひも揃つて男にチョロ負かされるとは、それは流石に、手数以前に些か世界観が歪んではゐまいか。残りの中所帯は主にキャバクラ店内に見切れる皆さんと、六三の東京到着場面。東京の味が逆鱗に触れ一口口にしただけで六三が捨ててしまつたタコヤキを、直後に漁るルンペン。話は変るが、福岡で出るお好みも酷いぞ。六三の急襲にキレると同時に憔悴を隠せない友美に労ひの声をかける色華昇子と、荒れる友美にボトルをカパカパ開けられ頭を抱へるマイケル・(A・)アーノルド、それに望月梨央だけは確認出来た。
 東京での生活に疲れ気味の娘と、らしいことはまるでして来れなかつたダメ父親とが、娘が胸に秘めるオーソドックスな希求を契機に偶さか向き合ふ。といふ主題はオーラスに及んで漸く明らかにはなるとはいへ、そのテーマに辿り着くのが本当にオーラス。即ち最終的には、どうにもかうにも勿体つけ過ぎであらう。そこに至るまでが濡れ場は質・量とも十全にこなされ、佐野和宏はどうあれひとまづ画面を支へる力を有してはゐるものの、何がしたいのかがサッパリ判らない。そもそも、自分の時間には公園で8㎜カメラ―ホーム・ビデオやデジカメですらなく―を回すキャバクラ嬢、といふ画期的なキャラクター造形の独創性を誇る友美に関する、人物造形の外堀を埋める説明の欠如は致命的にも思へる。映像系の専学に進学しながら学校には通はず風俗嬢に、といふ設定で友美はあるらしいが、スノビッシュな室内から友美が映画好きである風は窺へつつ、そのやうなバックグラウンドは自信を持つて半カットたりとて劇中で語られはしない。最後の最後で一息に全てが語られてしまふゆゑ、バタつく以前に要はそれまでの一切は何だつたのか、といふ話である。殊に相手は父娘を描いた人情ものである以上、もつとベタで、泥臭くあつてもよかつたのではなからうか。余裕を持たせたかつたのか何だか知らないが、溜めて溜めてその挙句に、エモーションの大魚を釣り逃がすのでは本末転倒、それならばコッテコテの浪花節で何が悪い。仕損じた洗練と判り易過ぎる不格好とでは、娯楽映画は後者を選ぶに若くはないと当サイトは思ふ。残念ながら森山茂雄は今作の作劇に際して、完全に舵取りを誤つたか、あるいは勘所を見失つてしまつたのではないかと難じざるを得ない。

 一方、ポスター惹句は非常に奮つてゐる。
 “母は縄で縛られ、”
 “娘はヒモに縛られて”
 “淫欲の家系図が濡れていく…”
 尤もこれは恐らく単なるオーピー映画の一人相撲で、実際の本篇に於いては、友美とタツ子の関係に初めから重きが置かれてゐるやうには特に見えない。エピソードを一つ持つにせよ、友田真希は概ね濡れ場要員に止(とど)まる。その濡れ場にしても、タツ子が見せるやうな業の深ささへ漂はせる肉欲を、友美は別に感じさせない。あるいは、二代に亘つて男に騙される母娘の物語だとするならば、それだけでは幾ら何でも救ひがなさ過ぎよう。


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 「色情坊主の後家くずし」(2004『後家・後妻 生しやぶ名器めぐり』の2007年旧作改題版/制作:セメントマッチ/提供:オーピー映画/監督:森山茂雄/脚本:佐野和宏/原題:『三千世界の烏を殺し 坊主と添ひ寝がしてみたい』/プロデューサー:池島ゆたか/撮影:長谷川卓也/編集:酒井正次/音楽:大場一魅/助監督:伊藤一平/監督助手:中沢匡樹・松丸善三/撮影助手:斉藤和弘・大城真輔/録音:シネキャビン/スチール:津田一郎/現像:東映ラボテック/ネガ編集:フィルムクラフト/協力:Gullwing.inc・digital gizmo・長谷川九仁広・宇佐美忠則・スナックちよ/出演:神島美緒・佐々木麻由子・水原香菜恵・神戸顕一・松丸善三・フク三郎・佐野和宏)。出演者中フク三郎は、本篇クレジットのみ。
 後家といふと手を出す生臭坊主・武田鎮源(佐野)が、けふもけふとて少々頭のネジの緩んだ若後家・神谷百合子(神島)に、あれやこれやと理屈にもならぬ方便で手をつける。オッパイも煩悩、イチモツも煩悩。挙句「和尚様の煩悩硬あい☆」と来た日には、『歎異抄』まで持ち出しておいて、麗しいとすら最早いへる振り抜かれた馬鹿馬鹿しさである。鎮源の弟と、教会での挙式当日に交通事故で死に別れ悲嘆に暮れてゐたところを、前妻とはこちらも死別した鎮源に手篭めにされそのまゝ結婚した本妻・美子(佐々木)は、そんな鎮源に終に堪忍袋の尾を切らす。二号の、カラオケスナック「ちよ」のママ・宗形ちよ(水原香菜恵/因みに公開は、今作の方が半年早い)と、ついでに百合子も仲間に引き込んだ美子は、鎮源殺害計画を練る。成年コミックを経本に偽装し歩き読む松丸善三は、憚りもせず下根を自称する修行僧・鎮念。
 とかいふ次第で、特異体質(?)と異常な強運とに頓挫しつつ、「大怪獣決闘 ガメラ対バルゴン」(昭和41)よろしく矢継ぎ早に展開される鎮源殲滅作戦が、今作の白眉。最初は美子がネットで仕入れた心臓発作を催させる毒―神経毒の類か?―を、ちよの旦那の回忌にビフテキに混ぜ喰はせるも、何故か鎮源には強精剤として作用するばかりで失敗。おかしいなと、一舐めしてみたちよが泡を吹いて卒倒する件を差し挿む辺りは手堅い。続いては、意外な特技を持つ百合子に、鎮源の原チャリのブレーキに細工させる。ものの、首尾よくコース・アウトして山肌に突つ込んだ鎮源ではあつたが、何とそこで埋蔵金を発見し一躍時の人に、何て大胆なオチなんだ。最後はその点スケール・ダウンしてしまひ、ちよに熱を上げる「ちよ」常連の馬渡(神戸)に、割に合はない色仕掛けで直線的な鎮源刺殺を仕向ける。三年後のワイセツ和尚シリーズ第二作と観比べてみると、鎮源のビート感もポップ性も未だ発展途上で、全般的な垢抜けなさも残すが、濡れ場の彩りも鮮やかに概ね愉快に観させる娯楽ピンク高目の水準作である。ラジオならば放送事故寸前の、百合子の間の抜け具合を強調したギャグは、演出なのか、神島美緒の素を弄らずに利したものなのかよく判らない。
 順番は前後しながらも二作を通して観てみると、三年の歳月を経ても、今作と次作が完全に連続した物語である旨がよく判る。次作開巻の鎮源と百合子の―キネコ処理された―絡みは今作締めの濡れ場で、鎮念のショットも、今作ラストからの流用である。さうなると、鎮念の扱ひの無常さが、冷たい北風に混じり殊更身に染みる。

 エンド・クレジットも通過してオーラスは、「三千世界の烏を殺し 坊主と添ひ寝がしてみたい」と締め括られる、原題らしい。出演者中フク三郎に関しては、残念ながら特定不能。ほかに画面中見切れるのは、若干名の「ちよ」客と、遺影としてのみ抜かれる百合子亡夫。一昔前、エクセス未亡人もので亡き夫の遺影といへば、何故か高田宝重がヘビー・ローテーションの時期があつた。
 昨年十一月公開の最新作は勿論未見の上で、漸く第八作までをコンプした森山茂雄の私選ベストは、不器用なエモーションを慎ましやかに撃ち抜く前作である。


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 「OL日記 あへぐ牝穴」(2003/制作:セメントマッチ/提供:オーピー映画/監督:森山茂雄/脚本:佐野和宏/プロデューサー:池島ゆたか/撮影:飯岡聖英/編集:酒井正次/音楽:大場一魅/助監督:伊藤一平/監督助手:松丸善三/撮影助手:馬路貴子・藤本秀雄/録音:シネキャビン/スチール:佐藤初太郎/現像:東映ラボテック/協力:高円寺ビストロ「K」・《有》オフィスバロウズ・中村美穂・中沢匡樹・《有》ガルウイング・長谷川九仁広・吉野充・宇佐美和彦・BAMBOO HOUSE/出演:佐々木日記・片岡命・色華昇子・山口玲子・柏木舞・真央はじめ・神戸顕一・池島ゆたか)。出演者中、池島ゆたかは本篇クレジットのみ・・・・ではあつたのだけれど、後述する。
 行きつけのオカマバーでママの翔子(色華)と、大学時代軽音サークルの二つ後輩で、現在は取引先の会社に勤める馬場有也(片岡)を相手に、OLの中田礼夢(日記)がポップに頭を抱へる。ここは素直に、「ドリームハンター麗夢」からのインスパイアを看て取つてよからう。話してみろと急かされるも初め拒んでゐた礼夢は、終に重い口を開く。礼夢の奇想天外な悩みとは、「アタシの夢に出て来た人が、アタシと同じ夢を見てる」といふもの。礼夢はオカマバーで、何故だか大嫌ひなオヤジ上司・吉幾多三(神戸)を相手にストリップを披露する夢を見る。明くる朝、悪夢と浅い眠りとに気分の冴えない礼夢の前に現れた吉は、明らかに礼夢のストリップを見てゐた気配を窺はせる。しかも、再び夢の中に出て来た吉の顔を今度は礼夢が思ひ切りひつかくと、次の日の吉は、夢の通り顔中傷だらけであつたといふのだ。まるで取り合はない有也に対し、理解を示す翔子は礼夢に、夢の内容をよく思ひ出してみるやう促す。店で吉を相手に裸で踊る礼夢の艶姿を、翔子も見てゐたのだ。
 歪んだ色男ぶりが狂ほしくハマリ役の真央はじめは、実は言ひ出せない想ひを礼夢に寄せる有也は余所に、礼夢が憧れる有也の会社の先輩・渋川陽平。山口玲子は、夢の中に渋川が登場し礼夢がぬか喜びしたのも束の間、渋川が礼夢ではなく抱く、同僚の雨野晴美。山口玲子は後にも先にも全くの純然たる濡れ場要員に止まるが、因みに渋川と晴美の絡みが展開されるのは、無印国沢実の「人妻たちの性白書 AVに出演した理由」(2001/主演:青山円)で、野上正義が片瀬めぐみを相手にするのと同じ部屋。柏木舞は、完全に酔ひ潰れた礼夢を部屋にまで送り届けた有也が、礼夢の渋川への想ひを成就させる目的で、即ち自らは身を引くために、そのまま礼夢の部屋に呼ぶ風俗嬢・沙香里。初めは3Pはお断りだと臍を曲げてゐた沙香里は、有也の説明を聞くや納得すると同時に同情し、心を尽くす。それはそれで、三人目の脱ぎ役の女優の存在まで含め酌めぬでもないが、それならば、おとなしく有也が自分の部屋に帰つてから呼べばいいものではないのか。流石に人の部屋に、加へて酔ひ潰れてゐるとはいへ主も居るにも関らず、そこにデリヘルを呼ぶなどといふのは些か不自然も度を越さう。挙句にその主は惚れた女、無理の役満だ。
 有也は食事を御馳走すると称して渋川を礼夢の部屋に連れて来ると、ひとまづ三人での夕食後、デザートを買つて来ると偽り退場する。
 ヒロインが見る不可思議な形態の夢の物語は、何時の間にか、ヒロインに対して抱へた終ぞ伝へられぬ片想ひに悶々とする、ダメ男に焦点を移す。最も身近で、しかも一番自分を大切に想つて呉れてゐた人物の存在にヒロインが気付くのと、全方位的な消極性に首まで浸かつたダメ男が、漸く重い腰を上げ目出度く結ばれる段に、明確に手間が足りない。展開が適当になし崩されてしまつてゐるやうに、一旦は思へた。実は今回、仕事終りに小屋の敷居を跨いだのは、尺も3/4を概ね経過した時点であつた。そのままグルッと丸々もう一周して―因みに残りの二本は『新・監禁逃亡』の再見と、どうといふこともない宇田川大悟のVシネ―改めて全篇を通して観た際、私の心は洗はれた。心ない渋川に蹂躙され失意のまゝ眠りに就いた礼夢が目覚めた翌朝、予感を胸にアパートの通路に出てみると、そこに一呼吸置いて有也が現れる。昨晩肩のぶつかつた結構ハンサムな労務者(伊藤一平)にノサれた有也が、傷だらけの顔で「俺・・・」と口を開くと礼夢は、<「判つてる、夢で見たの」>。ダルで砕けた佐々木日記の口跡が、慎ましやかな名台詞を撃ち抜く。二人が共有した予兆を明示しないストイックさは、娯楽映画としては如何なものなのかといつた点に微妙に疑問の余地を残しつつも、忘れ去られた訳では決してなかつた基本設定が、さりげなくも決定力のあるエモーションを轟かせる。粗忽なヒロインと生きて行く強さに欠いたダメ男とが、もし会へたらな夢に背中を押され結ばれる、何てロマンティックなんだ。そこからの二人の濡れ場が、前夜の有也と翔子の相克に尺を割き過ぎたのか、あるいは無茶の大きな沙香里のパートは丸々不要ともいへるのか、やつとこさ漕ぎつけた礼夢と有也のセックスが描写として中途に終つてしまふのは重ね重ね痛く、全般的な完成度の面に於いてはひとまづ兎も角、一点突破の可能な決戦兵器たるべきワン・シーンを有した一作。時にさういふ映画の方が、強い印象を残すこともある。痛快なラストの一オチも、終幕を爽やかに飾る。

 出演者クレジットには、確かに池島ゆたかの名前があつた。m@stervision大哥のレビューにも、“腰だけ出演”とされてある。ところが、今回5/4回観たものの、何処に池島ゆたかが登場してゐたのだかさつぱり判らなかつた。情けない話がプロジェク太上映の小屋につき、カットが飛んでしまつた訳でもなからうに、とも思へるのだが。他に翔子の店に、それぞれ二人連れづつの女客男客が登場。女の二人連れは、翔子ママにオッパイを触らせて貰ふ、欠片も羨ましくはないが。


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 「ワイセツ和尚 女体筆いぢり」(2007/製作:パワーフール/提供:オーピー映画/監督:森山茂雄/脚本:佐野和宏/撮影:長谷川卓也/照明:ガッツ/編集:酒井正次/音楽:大場一魅/助監督:中川大資/監督助手:内田芳尚/撮影助手:平原昌樹/スチール:津田一郎/録音:シネキャビン/現像:東映ラボテック/題字:杉本智美/協力:オフィス・バロウズ・いぐち武士・バンブーハウス・セメントマッチ・デジタルギズモ/応援:田中康文/出演:野々宮りん・平沢里菜子・山口玲子・江端英久・堀本能礼・白井里佳・望月梨央・恭子・伊藤太郎・中川ダイスケ・内田ヨシナオ・佐野和宏/スペシャルサンクス:田中繭子)。出演者中、恭子から内田ヨシナオまでは本篇クレジットのみ。逆に、松丸善三はポスターのみ。正確なビリングは、堀本能礼と白井里佳の間に田中繭子が入る。
 森山茂雄が撞く鐘の、「ゴ~ン♪」といふ音にて開巻。残念ながら未見のワイセツ和尚シリーズ前作、「後家・後妻 生しやぶ名器めぐり」(2004)中の一幕。若後家(神島美緒)を相手に奮戦する生臭坊主の武田鎮源(佐野)が、イッたところでタイトル・イン。
 三年後、度の過ぎた荒淫が祟り、鎮源が実は意識はハッキリとしてゐるものの、身体の自由は全く失つてしまつてゐた。要介護の患者も顧みずのうのうとタバコを吹かすブスの看護婦・リカ(白井)に、憐れ放置され涎を垂れ流してゐた鎮源を、別の看護婦の野々村りん(野々宮)が有体にいふと拉致する。自宅に鎮源を連れ込んだりんは、自らの裸身を鎮源に捧げると、遂に復活させるレヴェナントに成功する。携帯電話の受信状態を指し示すアンテナの表示が、バリ3も通り越しピンコ立ちになるイメージと同調して、鎮源が再起動を遂げるシークエンスは綺麗に快調。ピンクにしては珍しく、イメージ自体の出来も挿み込み具合も全く申し分ない。
 りんが鎮源を蘇らせたのは、兄の復讐のためであつた。鎮源リタイア後、寺は同じく生臭で、りんの血の繋がらない義理の兄に当たる鎮念(松丸)が継ぐ。然しそんな村に、厳格な修行僧の上杉憲陳(江端)が現れる。やがて村人の信奉を集めるやうになる憲陳と、ダルに破戒の鎮念とは当然の如くソリが合はず、鎮念はノイローゼの果てに死に、寺の住職の座には結局憲陳が居座つたといふのだ。シリーズ前作は未見につき、松丸善三の登場場面が、バンクなのか新撮なのかは不明。正直鎮念なんて別にどうでもいい鎮源ではあつたが、りんに改めてヤラせて貰ふ条件で、仕方なくも張り切りつつ打倒憲陳を期し村に向かふ。
 配役残り山口玲子は、森の中で修行してゐたところ、臆面もなく下根(げこん)を自称する元助(堀本)に犯される浜田めぐみ。因みに下根とは上根・中根と三対を成す仏教用語で、仏道への適性の、生まれつき劣つてゐることを意味する。時に問題視される仏教の差別性を指し示す用語といへようが、改めて考へてみるまでもなく、仏教は近代思想の生まれる遥か前より存するいふならば全く別個の体系。幾ら現行のパラダイムとはいへ、仏教が一々民主主義に媚を売る要もあるまい。生臭具合は鎮源―と鎮念―も同じながら、元助は徹底して悪役として描かれる対照は鮮やか。話を戻して望月梨央は、めぐみの画面向かつて左側で、同じく修行する村の女。右側にもう二名見切れる村娘は白井里佳の二役目と、正体不明の恭子。伊藤太郎と中川ダイスケに内田ヨシナオは、村人のトン吉・チン平・カン太、流石に各々の特定にまでは至らず。現在は憲陳に傾倒し、元気だつた頃の鎮源に、隣村の田吾作の山羊を紹介して貰つた恩は忘れる。平沢里菜子は、亡夫の初七日を迎へ、未だ鎮まらぬ肉の欲に悶える檀家の未亡人・渚リナコ。憲陳は裸に剥いたリナコの全身に写経しながら、驚く勿れ、なほ苦悶するリナコを冷笑しこそすれ、その姿に欲情しはしなかつた。両腕を縛り上げられたリナコの前に鎮源が飛び込むと、マゾのリナコは鎮源をあつさり求める。
 佐野和宏扮する俗物の権化・鎮源の、人間味・ユーモア・ビート感はどれも文句の欠片もつけやうがなく百点満点。鎮源が自由自在に暴れ回るパートの、面白さは正しく無類。そこに森山茂雄の、手がどれだけ加はつてゐるのかといふ点に関しては、微妙なところでもあるのだが。女優陣も、天然ものの矢藤あき、とでもいつた風情のキュートな野々宮りん。一幕限りの純然たる絡み要員ながら、余計な肉だけ落として超攻撃的なボディに進化を果たし、もう少し堪能したかつた心も残す最新型の山口玲子。白く細い体に、縄ととが堪らなく映える平沢里菜子。話が面白過ぎて逆に見落としてしまひがちにもなりかねないが、濡れ場の威力もどれも十二分。未見のシリーズ前作が既にさうであつたのかも知れないが、森山茂雄が遂にマスターピースを叩き出したものかと、大いに目を輝かせられた。ところではあつたのだが、途中までは。
 人の温もりも知らず凍りついた憲陳の心に触れたりんが、再び自らの肉体を捧げその非人間性を解き解す。といふ流れは、娯楽映画の定番展開としても、ピンク映画のジャンル的要請としても、何れも肯ける。尤もその際の方便が、いふに事欠いて“仏の愛”とは幾ら何でも何事か、自堕落にもほどがある。何処に対しても狭義の信心を持ち合はせはしないが、それはさて措き、御仏が愛だなどと破廉恥をいひ出すものか。逆からいへば、愛だとか口走る仏が当てになんぞなるものか。直前に、「私は仏に仕へる身、得度《とくど/出家の意》した時に人間は捨てた!」とまで憲陳にカッコいい見得を切らせておいて、何たる無様な体たらく。尻の穴の小さい難癖をいふやうだが、その怠惰は軟弱は、如何とも看過し難い。痛快な娯楽映画の良作たり得てゐたのに、最後の最後で取り返しのつかないミソがついてしまつた。そもそも、幾ら義理にせよ、兄貴の敵討ちも何処に消えた。
 田中繭子(一時的なex.佐々木麻由子)は、オーラス、新たなる再び愉快な日々の始まりを告げるべくカメオ出演する、鎮源の本妻・美子。

 クレジットの最後は、“パワーフールNo.2”と締め括られる。ここで第一作目とは、昨年の前作にしてピンク第七作「痴漢電車大爆破」(主演:園原りか)。森山茂雄は2002年のデビュー後、第六作「後家・後妻 生しやぶ名器めぐり」まではそれなりにコンスタントに作品を発表してゐたのだが、以降がどうにも足取りが重い。


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 「純愛夫婦 したたる愛液」(2003/制作:セメントマッチ/提供:オーピー映画/監督:森山茂雄/脚本:五代暁子/原作:森山茂雄/プロデューサー:池島ゆたか/撮影:小山田勝治/編集:酒井正次/音楽:大場一魅/助監督:中沢匡樹/監督助手:松丸善三/撮影助手:藤田朋生、他一名/照明助手:及川厚/出演:まいまちこ・高根綾・美奈・牧村耕次・竹本泰志・神戸顕一・JUDO中沢・北千住ひろし・松丸善三/特別出演:城春樹・野上正義)。出演者中、松丸善三は本篇クレジットのみ。
 ヤリ手営業マンの高瀬常夫(牧村)は、度を過ぎた辣腕が祟り敵を増やし、リストラされてしまふ。私物を整理し階段を不貞腐れながら下り際、かつての部下・森(竹本)からはこれ見よがしに邪険にされる。後姿の高瀬が、新橋駅へとトボトボ消えて行く画からタイトル・イン。明けて最初の濡れ場、ラブホテル(HOTEL アルパⅡ)で高瀬はホテトル嬢・風子(美奈)を抱く。経験豊富な風子に、高瀬はリストラされたことを見抜かれる。聞いた風な口を利く風子に対し高瀬は荒れる。ここで鼻につくのは、美奈の嬌声は少々わざとらし過ぎる。一ヶ月後、高瀬の再就職は難航してゐた。酔ひ潰れチンピラ(北千住)とぶつかりながらも帰宅、高瀬は鬱屈を妻・のり子(高根)にもぶつけると、半ば犯すやうに暴力的に抱く。次の朝高瀬が目覚めると、のり子は置手紙を残し家を出てゐた。とはいへ職探しに向かつた高瀬は、横断歩道を渡る最中、猛烈な事故音に身を硬くする。が、事故は高瀬の周囲の何処にも起こつてなどゐなかつた。カット跨いで更に翌日、高瀬が家を出ようとすると玄関先で、白いワンピースを着た正直アレな雰囲気の謎の女(まい)が、スヤスヤと眠つてゐた。目を覚ますといきなり「高瀬常夫さんですよね?」と切り出す女に対し、「何で知つてるの?」と高瀬が訝しむと、女は満面の笑みで「仕事ですから」と人を喰つたかのやうな答へを返す。ひとつここでツッコミを入れると、場所が玄関先であることを考へれば、表札を見れば高瀬の下の名前まで判る場合もあらう。
 人生の壁の前でもがく男の前に不意に舞ひ降りた、白尽くめの謎の女。男からすれば付き纏はれつつ、女は苦しむ男に寄り添ひ温かく激励する。終盤まで引張らずに結構中盤で完全にネタを割つてしまふことに関しては疑問が残るが、時折挿み込まれる何処か遠くを見やるやうなまいまちこのショットや劇伴の選択に、大人の御伽噺を志向した演出意図は明確に窺へる。デビュー作で瞬間的に感じさせた突破力は感じられないものの、四作目にして最も、といふか初めてお話はキチンと纏まつてもゐよう。公開当時m@stervision大哥が提出された、謎の女の適役は林由美香ではないのか?といふ指摘は確かに今作に対するクリティカル・ヒットであらうが、良きにつけ悪しきにつけ、抜け切らない硬さといふのが少なくともここまでの森山茂雄の持ち味ともいへる。当時仮に林由美香を連れて来たところで、例へばファンタジーの名手あるいは迷手渡邊元嗣や、艶笑譚に長けた深町章のやうに柔軟に、豊かに羽ばたくままに“天国に還る前の天使”林由美香を羽ばたかせることが果たして出来たのかといふと、些かならず疑問が残るところでもある。尤ももしもこの時点で森山茂雄が、林由美香が謎の女役で完全な輝きを放つ決定的な傑作をモノにしてゐたならば、現在のピンク映画少なくともオーピー映画の地図は、今とはまるで異なるものになつてゐたのかも知れない。
 
 分厚い出演陣が、地に足の着き過ぎたファンタジーを支へる。神戸顕一とJUDO中沢(中沢匡樹のことか)は、居酒屋で高瀬の悪口を叩く森の、向かひに座る同僚。松丸善三は、独りヤケ酒をあふる高瀬の背後で、偶々居合はせた風子にキレられる風子のヒモ。特別出演の城春樹は、謎の女の助言を活かし漸く再就職にこぎつけた高瀬の、再就職先の社長・坂田。野上正義は、のり子の父親。出演者クレジットは無いものの、高瀬とのり子との馴れ初めの回想シーンの背後に、女連れで飲む池島ゆたかも見切れてゐる。とりあへずこの映画、主役が新橋のサラリーマンだから仕方がない、などといつてしまへば元も子も無いのかも知れないが、何かといふと居酒屋が登場する。

 更にふたつツッコムと。のり子は謎の女に、「誰かが居ないと駄目な人なの」と夫を託す。そもそもなら家を出るな。謎の女は高瀬の再就職探しに、「プライドを捨てれば、絶対道は開かれるわ」と応援する。“開かれる”でも間違ひといふ訳ではないが、普通そこは“道は開ける”の方が自然ではなからうか。


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 「美人保健婦 覗かれた医務室」(2003/制作:セメントマッチ/提供:オーピー映画/監督:森山茂雄/脚本:黒澤久子/プロデューサー:池島ゆたか/撮影:飯岡聖英/編集:酒井正次/音楽:大場一魅 /助監督:城定秀夫/撮影助手:赤池登志貴・宇野寛之/監督助手:北村翼・松丸善三/出演:麻木涼子・川瀬有希子・河村栞・野村貴浩・西岡秀記・池島ゆたか・松木良方・神戸顕一・本多菊次朗・北千住ひろし・石動三六)。出演者中、北千住ひろしは本篇クレジットのみ。
 綜合商社の「大蔵商事」医務室、保険医の大西真子(麻木)が男性社員(北千住)の喉を診察する。カット変ると医務室のベッドの上では、真子とは同期で総合職の高橋桐子(川瀬)が、別の男性社員(神戸)と一戦交へてゐる。淫蕩な桐子は勤務時間中にしばしば、誰彼構はぬ相手と医務室をラブホ代りに利用してゐた。ドアに“立入禁止”の札を掲げ、真子が仕方なく一旦医務室を後にしたところでタイトル・イン。非常階段で一服してゐた真子は誰もゐない筈の屋上に人の気配を感じつつ、施錠されてある屋上には入れなかつた。真子が戻ると、佐川弘美(河村)が医務室を訪ねてゐた。桐子と同じく真子と同期でこちらは一般職の弘美は、鬱病持ちで矢張り度々医務室に入り浸つては、ボリボリとタブレット感覚で錠剤を口にした。弘美に続き、リストラの不安に始終慄く松浦(池島)も医務室に現れる。松浦も、医務室の常連だつた。各々悩みを抱へた二人はまるで上の空に、真子は熱心にレシピ集に目を落とす。
 西岡秀記は、真子の彼氏でエリート社員の遠藤彰。仕事で遅くなる遠藤の部屋で真子は料理を作つて待ちながら、一段落ついたのでタバコに火を点ける。ものの換気扇が動かないゆゑ、慌ててタバコを消す。さういふ女の心理も判らぬではないが、料理してゐる最中換気扇は使はなかつたのか?家庭的な女を気取るべく、真子は部屋を掃除してみたりなんかする。とはいへ、帰宅した遠藤と食事を摂り、ヤることはヤッてその日は帰宅した真子自身の部屋は、典型的な汚部屋であつたりもするのだが。こゝで。劇中真子宅の見事な散らかりぶりは、全体誰の自宅で撮影したのか。母親からの電話を取つた真子は、遠藤との関係を誇らしげに仄めかす。翌日、例によつて医務室には真子と弘美。そこに桐子が経理部長の岡田(石動)と現れたため、二人は退散する。何時ものやうに非常階段でタバコを吸つてゐた真子は、再び屋上に上がつてみると、けふは鍵が開いてゐた。驚く勿れ屋上にはデスクを置き忙しく仕事をしてゐる風の、浅岡信幸(松木)がゐた。真子を見止めた浅岡から、コピーを取つて呉れと手渡された書類は、てんで意味を成さぬものだつた。衝撃を受けた真子が呆然としてゐると、鍵をかけ忘れた粗相を激しく悔いながら岡本公平(野村)が現れる。岡本は真子に事情を説明する、浅岡は、公共工事に関る会社ぐるみの不正工作の責任を一身に背負はされ、自殺に追ひ込まれる。実際に屋上から飛び降りはしこそすれ、浅岡は死にきれなかつた。挙句すつかり狂つてしまつた浅岡を、何時正気を取り戻されるか判らない以上会社は飼ひ殺す選択を決定。岡本は、その監視役だといふのだ。屋上で唯一人、存在しないケニアでのダム建設プロジェクトを精力的に推進してゐる、つもりの浅岡を真子は可哀相だと慮るが、対して岡本には、そんな浅岡が幸せさうに映つた。
 主人公の支配する世界と、個性的なその世界の住人。理想的な恋人と、屋上に隔離されてゐた飛び道具、にその監視者。道具立てとしては揃ひ過ぎるほどに揃ふ森山茂雄の第三作は、そこまでは素晴らしく充実してゐたにしては、以降が全く解せない。けふもけふとて医務室は桐子に明け渡し、一服するかとしてゐた真子は、タバコを忘れて来てゐた。医務室に戻つた真子は、桐子と男性社員其の参(本多)との情事に思はず目を奪はれる。そこを岡本が急襲、後ろから真子を無理矢理抱く。以降、どういふ訳だか真子が漫然と岡本にもなびいてのけるのが判らない。多少その前では取り繕はねばならぬともいへ、実家も裕福な遠藤に真子が何かしら不足のあるやうには描かれてゐない。セックスの相性といふならばピンク的にも判り易いが、明確にはおろか黙示される訳ですらない。その癖岡本は汚部屋に上げてゐるにも関らず、最終的にバーで三角関係の三者が図らずも対峙する段ともなると、真子は「公平とゐる時のアタシより、彰とゐる時のアタシの方が好きなだけ」と来たもんだ。“女心と秋の空”とでもいふ方便か、知るかタコ。畢竟、桐子や弘美―と松浦―それぞれの物語に手堅くケリがつけられる反面、肝心のヒロインがまるで片づかない。クライマックスの、浅岡を先頭に真子、岡本と三人でケニアを目指すいはゆるハーメルン・マーチは全くの機能不全。最後の濡れ場―二人して仕事を休んだ汚部屋での、真子×岡本―からエンディングまで随分間が空く要は間の抜けた間延びも、カテゴリー上大いに火に油を注いでゐる。
 そもそも、この浅岡といふキャラクターが決定的に惜しい。江戸川乱歩いはく、「うつし世はゆめ よるの夢こそまこと」。自らの狂つた意識の中にしか存在しないプロジェクトに生きる浅岡こそ、正しくこの乱歩テーゼを体現する、虚構上極めて魅力的な登場人物であつたのに。現し世といふ現実世界よりも、夜の夢といふ一種の真実に生きた方が、人間の一生としてはあるいはより豊かであるのかも知れないといふ視座は、真子と相対する岡本の浅岡への眼差しとして既に提出されてもある。最終的には、浅岡の懐いた夜の夢の誠の一点突破で、真子といふ主人公の見せるブレを捻じ伏せる力技も、攻め方次第では成立し得たのかも知れないとさへ思ふ。さうはいへ浅岡のキャラクターが表面的には、何某かの人間といふ存在に対する認識の深遠さを窺はせるものではなく、類型的な団塊然とした、平板で高圧的なまるで魅力的ではない造形に止(とど)まつてもゐるのだけれど。


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 「小川みゆき おしやぶり上手」(2002/制作:セメントマッチ/提供:オーピー映画/監督:森山茂雄/脚本:佐野和宏/プロデューサー:池島ゆたか/撮影:飯岡聖英/編集:酒井正次/音楽:大場一魅/助監督:城定秀夫/録音:シネキャビン/スチール:佐藤初太郎/監督助手:中沢匡樹/撮影助手:田宮健彦・赤池登志貴/協力:高円寺 RISUKY BAR・長谷川九二広・アルゴプロジェクト・吉行由美・森山タカ/出演:小川みゆき・風間今日子・佐野和宏・本多菊次朗/特別出演:沢田夏子・神戸顕一・北千住ひろし)。正確なビリングは、佐野和宏と本多菊次朗の間に特別出演。特別出演中沢田夏子と北千住ひろしは、本篇クレジットのみ。
 山田節男(本多)は冴えない独身ダメリーマン、要領悪く残業中のオフィスにて、同僚・菅野宏海(風間)とのオフィス情事がオッ始まつたかと思へば、一足早く帰り際にPCモニターに映り込んだ宏海の姿に惹起された、他愛もないイマジンであつたりする。開巻いきなりの濡れ場を堂々と妄想ネタで片づけてみせる、凡そデビュー第二作とは思へない不用意に手慣れた手法に関しては、風間今日子の爆乳に敬意を表しここは一旦通り過ぎる。
 山田は同居、してゐた家族も亡くした一軒家の実家に今も独り住み、休日唯一の楽しみといへば、愛車を駆る海岸へのドライブであつた。その時だけは、何もかにもを忘れた開放感を味はへた。海辺の空気を大きく吸ひ込んだ山田の目前で、如何にも訳アリ風情の女が、着衣のまゝフラフラと波も荒い海に入る。女の姿が波間に消えたところで、女が入水自殺しようとしてゐることを漸く悟つた山田も慌てて海に飛び込む。助け出した女・神村杏子(小川)を、山田はひとまづ自宅に連れて帰る。どうして病院、乃至は警察に行かないのか、といふツッコミはとかくこの手の物語に際しては厳禁である。
 山田宅に辿り着くや否や、杏子は眠りこける。杏子の衣服からは睡眠薬の小瓶と、左手首にはリストカットの跡が残つてゐた。翌朝出社しなくてはならない山田は、交通費にと一万円と、自宅に帰るやう勧める置手紙とを眠る杏子に残し家を出る。山田がくたびれて帰宅すると、未だ家にゐた杏子は家の中は片付け、豪華な夕食を作つて山田を出迎へた。その夜、こんな形でしかお礼は出来ないと、杏子は山田の床の中に潜り込んで来る。とかいふ次第での山田と杏子の、いはゆる“奇妙な同居生活”モノである。
 穏やかではありつつも退屈な山田と杏子の擬似夫婦描写を経て、中盤に登場しては一人劇中世界を支配する佐野和宏は、杏子の過去を知る男・竹地鉄治。竹地の性奴隷であつた杏子は自殺未遂騒ぎを起こし、入院してゐた病院から逃げ出したものだつた。情婦(沢田)から杏子の目撃情報を耳にした竹地は、山田家に杏子を急襲、山田には杏子の叔父と偽る。酔ひ潰した山田の目前で、杏子を犯す。
 別れ話すら自分では切り出せずに女の手を借りるダメ男と、粘着質のメンヘル女との危なつかしい新婚ゲーム。宏海から山田との別れを促された杏子が、恐々帰宅した山田を台所のテーブルの下に隠れ待つ場面には、ホラー映画かと見紛ふ恐怖を覚えた。詰まるところ自己中心的な杏子の弱さに、さうと理解するでなく不用意に理解のつもりの誤解を注ぐ山田と、徹底的に突き放し、一瞥だに呉れず杏子の女体を蹂躙するのみの竹地。脚本の佐野和宏の視点は、自ら演じた竹地の姿により強く表れてゐるやうにしか見えないが、一方森山茂雄の軸足は、対して杏子に寄せられてゐるのか、そもそもどちらにあるのか不鮮明な辺りが兎にも角にも痛い。所々に、情感豊かな場面も散発的には見られなくもないのだが、最終的には、映画全体としての求心力は失してしまつてゐると難じざるを得ない。首の何時までも据わらぬ物語は、他の着地点を森山茂雄が摸索することは望むべくもなかつたのか、どうしやうもない暗黒の結末を迎へ、最早どうしたらいいのか判らない居心地の悪さばかりが残される。放置されたかのやうな国沢実の陰々滅々路線といひ、三社の中で最もノンポリのやうな顔をして、時に最も危険な球を放つて来るのが大蔵(現:オーピー)映画の、隠された真の姿といへるのかも知れない。

 配役残り神戸顕一は山田の上司、北千住ひろしは同じく同僚。それにつけても、恐ろしく久し振りに見た沢田夏子は、残念ながら佐野相手に別に脱ぎはしない。


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 「痴漢電車 秘貝いたづら指技」(2006/製作:POWER FOOL/提供:オーピー映画/監督:森山茂雄/脚本:佐野和宏・森山茂雄/原題:『痴漢電車大爆破』/撮影・照明:長谷川卓也/編集:酒井正次/音楽:大場一魅/助監督:高田宝重/監督助手:城定秀夫・杉本智美/撮影助手:斎藤和弘・中村拓/スチール:津田一郎/録音:シネキャビン/現像:東映ラボテック/協力:オフィス・バロウズ、色華昇子/出演:園原りか、水原香菜恵、木の実葉、真田幹也、伊藤太郎、岡田智宏、色華昇子、K・野中、れいじ、M・佐藤、ジョン・A・マイケルズ、吉永幸一郎、ショック集団&ゆっき~、ナカヤマノン、久保覚、佐野和宏)。出演者中、K・野中から久保覚までは本篇クレジットのみ。
 満員電車の車中、女の尻に痴漢師の指が妖しく蠢く。痴漢師・坂巻好介(佐野)は複雑な表情を浮かべると、「失礼しました」と痴漢対象から体を離し、姿を消す。痴漢対象が振り向くと、それは女ではなく、オバQニューハーフの色華昇子。「んもう、いいところだつたのニィ!」と、色華昇子が地団太を踏む。途中でオチは読めてしまふが、キレのいいツカミではある。色華昇子の出番は後にも先にもこの開巻のみ、適材適所ここに極まれり、ここまでは完璧であつたのだが。
 金髪に片足突つ込みかけた茶髪と、更に肥えたのか顎から首にかけてのラインに戦慄を禁じ得ない木の実葉もよがり泣かせつつ、好介は一人の女に辿り着く。ところで木の実葉といふ人はex.麻生みゅうで、旧名は、事務所からの独立に際し使へなくなつたとのこと。話を戻しイメージとして後光すら射す名器に指を入れただけで恍惚の表情を浮かべながらも、目的駅に到着した好介は渋々電車を降りる。自らが指南した、誤爆させてばかりの爆弾マニア・加藤文吉(伊藤)の部屋に金の無心に転がり込むと、父親からの仕送りを届けにやつて来た文吉の妹・由佳子(園原)こそが、電車内で好介を惚れ込ませた名器の持ち主であつた。彼氏とのデートに出掛けた由佳子を、好介も追ふ。そこで好介は由佳子をストーキングする、青山トオル(真田)と出会ふ。由佳子の幼馴染だといふトオルは、由佳子の彼氏・剣崎真也(岡田)の危険を説く。金持ちの色男といふとIT社長かよ、といふステレオタイプに関しては通り過ぎる。
 百戦錬磨の痴漢師が田舎の純朴青年と手を組んで、都会の男に騙されかけたヒロインの目を覚まさうとする。といふプロット自体に全く問題は無いものの、兎にも角にもあまりにキャスティングがガタガタに貧弱で、全うな商業映画の体を為してゐない。真田幹也は弱過ぎて、伊藤太郎は酷過ぎる。川瀬陽太ではあからさまに新東宝じみて来るといふのであれば真田幹也のところは松浦祐也で、伊藤太郎のところは国沢実―えええ?―でも持つて来て貰はない分には、主演を佐野和宏が張るだけになほさら釣り合ひが取れない。御丁寧に三度も繰り返される文吉の、爆弾誤爆の件も全く興醒め。威勢よく発破を掛ける訳にも行かぬゆゑドリフの安易なパクリで済ませる点は、ドリフ自体の素晴らしさにも免じて兎も角、煙の吹き方もなつてゐない無様な模倣を三度も見せられては、仏の顔も早めに店仕舞ひしたくなつて来る。電車の中で好介を心酔させた由佳子の名器ぶりが、肝心の剣崎あるいはトオルとの濡れ場に際してはほぼ全く忘れ去られてゐる無頓着も矢張り物足りない。
 そんな中、思はぬ収穫は剣崎の愛人、兼金づるの藤田麻里役の水原香菜恵。セクシーなショートカットで、年増女優への扉をいい感じで開けた好演を見せ今後の展開に、大いなる期待が持てる。
 最終盤二度に亘り好介が観客に向かつて堂々と愚痴つてみせるのは、伝統的な痴漢電車シリーズのオフ・ビートさを踏襲でもしてみたつもりなのかも知れないが、それも致命的なキャスティングまで含めて、現代の観客にそれを酌めといふのも些かハードルの高い話ではなからうか。俳優部の本篇クレジットのみ部は、概ね車中のその他乗客要員か。

 少なくとも原題だけは、画期的にに素晴らしい。ならば北海道にまで行けとはいはないから、オープニング・ショットは電車を待つ佐野が、ホームで大映しのハイライト―これ劇中好介が吸つてゐるのは・・・・キャビンか?―の封を開ける画にでもして呉れればよかつたのに。


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 「少女の微熱 甘酸つぱい匂ひ」(2002『桜井風花 淫乱堕天使』の2005年旧作改題版/制作:セメントマッチ/提供:オーピー映画/監督・脚本:森山茂雄/プロデューサー:池島ゆたか/企画協力:五代暁子/撮影・照明:清水正二/編集:酒井正次/音楽:大場一魅/助監督:高田宝重・松岡誠/ダンス指導:真央はじめ/協力:小林徹哉、他/出演:桜井風花・河村栞・水原香菜恵・石河剣・山名和俊・千葉誠樹・樹かず・林由美香・神戸顕一・荒木太郎・里見瑤子・若宮弥咲・池島ゆたか、他)。女優の名前が多いので予めお断りしておくと、脱ぐのは普通に、水原香菜恵までの三人のみ。
 大学生―四年?疑問点に関しては後述する―の佐藤勇作(石川)は、そろそろ就職活動も始めないといけない時期ではありながら、これといつた目標も目的も見付けられず、学校にも行つたり行かなかつたりとモラトリアムにプラプラしてゐる。合鍵を渡してある彼女・仁科みゆき(河村)も居るが、今ではもう特段好きだといふ訳でもなく、ただ何となく付き合つてゐるだけだつた。ある夜、勇作は友人の田代(山名)と飲みに行く。田代は酒が過ぎ、すつかり足下も覚束ない。田代をどうにかおとなしく、連れて帰らうと勇作は苦心する。羽目を外しおどけた田代が、少女(桜井)にぶつかり突き飛ばしてしまふ。慌てて少女に駆け寄る勇作は、口が不自由さうな少女の可憐さに、一目で心を奪はれる。何ともない、とボディ・ランゲージで告げ、足早に立ち去らうとする少女を、勇作は目で追ふ。何時の間にか、田代のことなどまるで放たらかしである。遠目に、人を探してゐる風の少女は、ヤクザ者に写真を見せて尋ねてゐる。そのヤクザ者に連れて行かれさうになる少女を、勇作は慌てて追ひ駆ける。も、ヤクザ者・押田務(千葉)に一発でノサれ、結局少女は連れて行かれる。翌々日、就活の足しにでもならぬかと、ボンヤリ新聞を眺めてゐた勇作は仰天する、押田が殺されてゐたのだ。少女のことが改めて心配になつた勇作は、慌てて警察に向かふ。少女は、その夜を押田と過ごしただけで、事件とは全く無関係であつた。身元引受人の俊子(水原)に連れられ出て来た少女に、勇作は再び声をがける。が、面倒事を嫌ふ俊子からは、邪険に突つ撥ねられる。
 他に浜野佐知た荒木太郎、主に今作のプロデューサーを務める池島ゆたかの助監督を経て、森山茂雄のデビュー作は、何時までも少女、といふ齢でもない危なつかしい元少女女未満と、何時までも少年、といふ齢でもない更に輪をかけて心許ない元少年男未満との、ボーイ・ミーツ・ガールものである。
 少女役の桜井風花、今作は兎にも角にも主演女優に尽きる。率直なところ、かなりの線まで善戦しつつも、それでもどんなに青くとも臭くともダサいながらに、それでもそれでも今作が人の心に何かを残すものになつたとしたら、その所以は、殆ど全て桜井風花が持つて来た、とすらいつてしまへるのかも知れない。強度の吃音で、殆ど満足に日常会話もままならぬといふ人物造型。まるで卵の殻から出て来るのが早過ぎた、といつた風すら漂はせる、庇護願望をくすぐられずにはゐられない可憐さ。それでゐて、衣服を一枚脱がせてみるや、全体的にか細い肢体とは不釣合ひに乳房も尻も、十二分に大人の女のそれである。何といふか、何といへばよいのか判らないからそのままに筆を滑らせてしまへば、もう、堪らない。正味な話、一般的な起承転結でいふと転、辺りで映画が終つてしまふ脚本にも殊に、森山茂雄の初陣には至らないところや足らないところが山とあつたとしても、この役に桜井風花を持つて来れた時点で、最早少々どのやうに撮つたとて、とりあへずはどうにか成立し得るやうな思ひすらして来る。
 少女は、東京の人間ではなく、沖縄から出て来てゐたものだつた。祖母と母親との三人暮らしの少女は母の死後、母からは死んだと聞かされてゐた父親が、実は今でも生きてゐることを祖母に知らされる。少女は、東京に住むらしい父親を探しに上京して来てゐたのだ。郷里で隣に住んでゐた、俊子の下に厄介になるものの、俊子には森田(樹)といふ同居人が居た。美しい少女に森田も関心を持ち始める、何時までも置いてはおけない。少女は俊子の家から、半ば追ひ出されるかのやうに出て行かなくてはならなくなる。探偵・江戸(荒木)を尋ねた少女は、人探しの料金の思ひのほかの高さに驚かされる。アルバイトを探さうにも、言葉は不自由で、住む場所も持たない少女を雇つて呉れるところなど無い。そこで少女は街頭で踊り、金を集めようとする。
 何はともあれ今作の映画としてのピークは、この、街頭で桜井風花が日銭稼ぎにダンスをするシーン。最短距離で、青く、臭く、ダサい。だが然し、その上でなほ、決然と美しい 。何度観ても、ダンス―ダンス指導:真央はじめ―を踊り始めるところまでは映画を観てゐるだけで無性に恥づかしくなつて来るのが禁じ難く、どうにも座席の上でモジモジと、黙つて座つて観てゐられなくすらなるのだが、一度(ひとたび)桜井風花が踊り始めた途端、ハッと思はず息を呑む。心を撃ち抜かれる。劇伴も綺麗に親和し、少女の儚くも真摯な美しさが、束の間とはいへ、銀幕に永遠の支配を刻み込む。青からうと、臭からうと、ダサからうと、臆することなく森山茂雄はここぞと演出のギアを目一杯前に押し入れる。そこが素晴らしい、何遍観ても素晴らしい。青臭い愚直さがピリオドの向かう側に到達する、如何にもいい意味でのデビュー作らしいデビュー作である。

 林由美香と神戸顕一は刑事。林由美香は、少女の調書を取る女性刑事。調書を取り辛い少女に業を煮やし、戯れに漂はせる指先の演技が地味に光る。神戸顕一は、少女が取調べを受ける警察署の門番、どう呼称したらいいのか判らない。里見瑤子と若宮弥咲、更に他、は勇作同級生の皆さん。勇作が少女と一夜を過ごした次の朝、不意にみゆきが合鍵を使つて部屋に現れる。みゆきは愕然とする。「矢張り、かういふことだつたんだ・・・」、「何よ、それならさうと―他に好きな女が出来た、と―いつて呉れたら良かつたぢやない!」と、みゆきは勇作を詰る。すると何処から何処まで、徹頭徹尾いい加減な勇作は、「何だよ、さういふ義務があるのかよ」(幾ら何でもそれはないだらう・・・>森山茂雄)。「バカ!」、と部屋を飛び出したみゆきは、実はみゆきに想ひを寄せる田代を肴に、ヤケ酒をあふる。池島ゆたかは、居酒屋でのみゆきと田代の背後で、興味ありげに二人を何度も振り返つては不自然に見切れる他の客。
 言葉の不自由な少女に、勇作は庇護願望をくすぐられる。そんな勇作に、少女はたどたどしくも何度も繰り返す。「あ・・・あなたは、・・・な、何も・・・判つて、ない・・」。勇作には少女の言葉を理解出来ない、だが、全く少女のいふ通りなのである。少女には、父親を探すといふ目的があつた。踊りと、そして若く美しい女である、といふ手段もある。だが果たして、勇作には何も無かつた。少女が勇作の前から姿を消した後も、勇作はその少女の言葉を理解せずに、理解せぬままに映画は幕を閉ぢる。脚本の不備と、演出の稚拙、演技力の欠如までもが却つて、勇作といふ登場人物の不全ぶりを補完する感さへ漂ふ。これで勇作がもう少ししつかりしてゐて呉れたなら、最終的には少しでも成長してゐて呉れたならば、どうにも覚束ないまま仕舞ひの映画の足が、少しは地に着いて呉れてゐたやうな気もする。
 ラストは踊る少女の、手の甲を前に高く突き上げた右手を、顔の前にまで畳む動作のスローモーション。ストップモーションがフィニッシュ。大変美しいショットなのだが、続くクレジットが、品もセンスも欠片も無い、頂けないビデオ画面であつたりするのには如何せん興が醒める。

 もう一つ。 少女が俊子の下を去るシーン。トボトボと歩いて行く少女に続いて、通り過ぎて行く勇作と、見送りに出てゐた俊子の目が合ふ。そこで俊子は、「これで少女も―勇作が面倒を見て呉れるので―安心だ♪」とばかりにニンマリとするのだが、それも猛烈におかしくはないか?仕方のないことともいへ、追ひ出すやうな形で送り出した少女を、何処の馬の骨とも判らない男がフラフラ後をつけて行くのである。当然心配する、といふか少女を保護しようとしなくては駄目だらう。

 最後に、勇作の学年もしくは年齢に関して。劇中、少女・まりのにより、勇作はまりのと同い年の二十歳であることが語られる。とはいへ一方、ラストでは勇作の同級生がちらほら内定のひとつふたつも取つたり取らなかつたりしてゐる。勇作が通つてゐるのが短大でなければ、少々ちぐはぐではないか。


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