真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「看護婦日記 獣じみた午後」(昭和57/製作・配給:株式会社にっかつ/監督:黒沢直輔/脚本:宮田雪/プロデューサー:村井良雄《日本トップ・アート》/企画:進藤貴美男/撮影:水野尾信正/照明:加藤松作/編集:奥原茂/録音:伊藤晴康/美術:金田克美/音楽:津島利章/助監督:甲斐八郎/監督助手:加藤文彦/色彩計測:高瀬比呂志/製作担当:鶴英次/出演:風間舞子・美保純・山地美貴・白山英雄・村尾幸三・江角英・川村真樹)。事実上、配給に関しては“提供:Xces Film”か。デビュー作でもないのに、ポスターでは何故か美保純に(新人)特記が。
 後に閉鎖された病棟旧館である旨が明らかとなる廃屋、看護婦の磯貝直美(山地)を助手に研究を続ける橘病院院長・橘俊一郎(江角)が、夢の再生装置“ドリームリング"を完成させる。完成したのも本当に束の間、嵐に伴なひ停電したかと思ふと、矢継ぎ早な次のカットでは何故かいきなり俊一郎と直美が並んで首を吊つてゐる、何だこの超展開。俊一郎の縄は解け、半死半生の状態で落下した俊一郎の掌から、太目の指輪大のドリームリングが転がる。一方直美の首から外れた、何の変哲もない赤い鈴が二つ繋がれただけの貧相なネックレスを抜いてタイトル・イン、実に奇天烈なアバンではある。
 満月の夜、榊原玲子(美保)と順(村尾)のカップルが、寒い寒いといひつつ青姦に戯れる。ところが、目の前に下りて来た大きな蜘蛛に「ワァオ!」と順がノスタルジックな悲鳴を上げた弾みで玲子が膣痙攣を起こし、二人は当然繋がつたまゝ橘病院に搬送される。簡単な、といふかより直截には適当なロールシャッハ・テストを経て、橘病院の女医・秋月亜矢子(風間)は玲子にセックス恐怖症の診断と、一週間の入院治療を言明する、因みに順は入院拒否。如何にも妖しげな催眠治療室、亜矢子に診察を施される玲子を、ガラス越しの別室から俊一郎の妻で病院理事長の郁子(川村)と、医師の桂木(白山)が胡散臭げに見下ろす。そんなこんなで満を持して登場する、ドリームリングの使用法が無駄に煩雑。リングに指を通すのではなく、亜矢子いはく“女は子宮で夢を見る"だとかいふことで―ほんなら何か?男は玉で見るのか―ドリームリングをまづ玲子の膣内に入れる。続いて、ただの鈴にしか見えないが、直美の形見の首飾りの鈴を片方更に玲子の膣内に設置。残るもう片方を亜矢子が鳴らすと、玲子の観音様の中で発生する鈴同士の共鳴がドリームリングを起動する。何を食つて生きてゐたら斯くもやゝこしいシークエンスを思ひつけるのか、清々しく理解に苦しむ。案の定郁子と桂木は男女の仲にあり、玲子の夢―挙句に淫らなものばかり―を映像化出来るところまでは兎も角、効果の有無は猛烈に微妙な催眠治療が続く中再び橘病院旧館、実は俊一郎は正気を失つた状態ではあれ生きてゐた。学会でドリームリングを発表するには俊一郎に回復して貰はねば手も足も出ない桂木―と郁子―は、どうやら俊一郎と相性のいいらしい亜矢子に命運を委ねる。
 精神医療を、フロイトやユングも為し得なかつた地平に到達させる画期的な新技術、ドリームリングを軸に巻き起こる大騒動。とかいふと、まるでナベシネマのやうな昭和57年ロマンポルノ。ピンクよりは数倍潤沢であるのは堅い普請にも支へられ、果たして如何程のファンタスティックが繰り広げられるのか期待したものだが、蓋を開けてみると、全方位的に甚だ中途半端でちぐはぐといふ印象が兎にも角にも強い。ファンタジーにしては、渦巻く愛憎が徒に重く物騒。淫夢描写の牧歌的なまでのダサさは夢の不条理に免じさて措くにせよ、サスペンスにしても全篇を通して脇がグッダグダに甘い。一部始終の隈ない無造作さも兎も角、玲子を事実上橘病院に囚はれた順が、中央図書館にて催眠術に関し付け焼刃を紐解く件。カット尻にはわざわざ『変装の技術』表紙まで抜いておきながら、騒がしい順を注意する、これ見よがしに見切れるグラサン+マスク男は一体何者なのか。大体が、自分達ではドリームリングの原理を理解してゐないにも関らず、郁子と桂木が俊一郎を始末しようとしたところから話が通らない。一応SF風味に幕は開いておいて、オカルトに着地する結末は、ある意味時代が偲ばれるいい加減さといへるのかも知れないが、底を抜くにもほどがある。クライマックスにはとりあへず大火を燃やしておけといふ半ば確信犯的な映画術は、別の意味で鮮やかだ。いはゆる珍作の部類に、端的には含まれよう一本。尤も、ミニシアターでの特集上映には恐らく採り上げられないであらうかういふショッパイ作を、成人映画館で観ることにはそれはそれとしてそれなりの趣がなくもない、上澄みを掠め取るばかりぢや詰まらんぜ。

 ところで、ドリームリングで女の夢を見る際の段取りはひとまづ判つた。問題は、男に対してはどうするのか。指輪のやうに棹に嵌めるには、蝶番で輪が割れる構造を採用してゐたとしても、明らかに径が細過ぎる。そんなものを巻かれては、圧迫されて怖い夢しか見れないぞ。え、尿道に(;´Д`) 無理無理無理無理!


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 「あぶない美乳 悩殺ヒッチハイク」(2011/製作:パワーフール/提供:オーピー映画/監督:森山茂雄/脚本:佐野和宏/撮影・照明:佐久間栄一/編集:酒井正次/音楽:ムスキ・アルバボ・リー/助監督:中川大資/監督助手:畠中威明・桑島岳大/撮影助手:池田真矢・芳野智久・蟻正恭子/編集助手:鷹野朋子/スチール:津田一郎/タイミング:安斎公一/録音:シネ・キャビン/現像:東映ラボ・テック/協力:セメントマッチ・杉本智美/出演:みづなれい・倖田李梨・酒井あずさ・川瀬陽太・久保田泰也・幸野賀一・後藤佑二・本多菊次朗)。出演者中、幸野賀一と後藤佑二は本篇クレジットのみ。
 田舎道、急停車した黄色い軽自動車から、悩殺ヒッチハイカーが手荒に放り出される。少し車が走つて、オレンジ色のキャリーバッグも投げ捨てられる、傷が入るぞ。仕方なくホテホテ歩き出したみづなれいが、夏の日差しについた溜息ひとつに合はせてタイトル・イン。
 バスが来るのは何時間に一本なのか、そんな風情のバス停で恐らく吸ひ方を知らない煙草を燻らせる北見れい(みづな)に、軽トラから気さくな農夫・矢島竜介(久保田)が声をかける。サクッと矢島の車に乗つたれいの目的地は、まだもう少し離れた病院。誰か縁故でも入院してゐるのかと訊かれたれいは、「親爺」とポツリと答へる。気分を変へてれいの方から気軽に求め、川のほとりでいはゆる青姦。そもそも開巻れいが放り出されたのも、走行中に尺八を吹かうとしたからであつた。ここで、声は兎も角見切れるのは本当に一瞬きりの黄色い軽自動車運転手が、杉浦昭嘉最終作「ラブホテル 朝まで生だし」(2005/監督・音楽:杉浦昭嘉/脚本:杉浦昭嘉・丸本昌子/主演:せりざわ愛蘭)以来の、電撃―チョロッと―復帰となる幸野賀一。正直この人が何処に出てゐるのか全く判らなかつたこともあり、久々に三本立てをもう一周して二回観た、勿論それだけでもないが。
 事後、矢島が全裸で川に入る隙に、れいは軽トラを奪ひ逃走。黙つてゐても再び乗せて呉れようものなのに、無体な女である。ところが運転には慣れないのか、れいは軽めの単独事故を起こし車を捨てる。主婦・山本智子(倖田)と、終始ピクリとも動かぬ寝たきりの夫・茂雄(森山茂雄)の顔見せ挿んで、額を怪我したれいは、トライアルにて絆創膏その他を万引きする。そこに、両手一杯に買物袋を如何にも重たさうに抱へた智子が通りすがる。荷物を半分持つてあげがてら、れいは山本家に転がり込む。
 後述する切なくも美しい一夜を過ごし、れいが智子の下を後にしたタイミングで飛び込んで来る酒井あずさは、居酒屋「千秋」女将の柴田千秋。病気で一時リタイアしてゐなければ、佐野和宏のポジションであつた穴を埋めたのかも知れない本多菊次朗は、「千秋」に一泊し、翌朝時間差で目覚めると改めて千秋を抱くテキ屋・擦木力。川瀬陽太は「千秋」常連客の漁師・坂本辰吉、何時ものやうに仲間と飲んでゐるところに一人で来店したれいにジェントルマンを気取るも、千秋いはく「何がジェントルよ、マンホールみたいな顔して」。マンホールて、幾ら何でも川瀬陽太を捕まへてあんまりだ。後藤佑二は辰吉の連れで、杉本彩が撮影に使用したとの染み付き縄端―無論、パチモンである―を、昨晩擦木から五千円で買つた漁師其の弐。三人の並びで一番右側、画面手前で殆ど照明の影に隠れる漁師其の参は、定石からは演出部動員か。終盤、駅のホームで電車を待つ擦木とれいに、既に廃線である旨をロングから伝へる農夫は、多分中川大資。れいは千秋に、件の病院に入院する誰かさんは、十年前に妻を亡くし、その結果飲めない酒に溺れ体を壊したと語る。
 前作にして愚直な感動作「肉体婚活 寝てみて味見」(2010)に引き続きみづなれいを主演に迎へた、森山茂雄通算第十一作にしてパワーフール第五作。ひとまづ最終的には陰鬱な始終を通過し、れいが別れ際に擦木からさみしくなつたら吹きなと手渡された―その際に、擦木が持ち歩く商売道具の大きなトランクの、中身が空であることが見えてしまふのはミス―シャボン玉に口をつけた次の瞬間、私は度肝を抜かれた。ムスキ・アルバボ・リーの、意図的に掠れさせたか細いヴォーカルが爽やかなメロディをそれでも力強く撃ち抜く、必殺トラック「さんまれんこう」が起動、劇中二度目に音楽の富を奪取した上で、エンド・クレジットの合間合間に差し込み効果的に間を持たせた、衝撃のラストには心が震へた。れいの心が、世界を包む。全ては何も変らず、即ち決して誰も救はれはしないまゝに、智子(と茂雄)・千秋・辰吉と矢島、ビリング順に擦木。束の間の出会ひと別れの末に、終には互ひに断片に過ぎぬ各々をヒロインの心が繋ぐ、より大きなものへの回帰。これこそが、ロードムービーの織り成すロマンティックな奇跡でなくしてなんであらう。素晴らしい素晴らしい素晴らしい、百遍繰り返したとていひ足りまい。凄いものを観た、とんでもない映画を観た。開放的に初戦を飾ると同時に、れいが後背位は頑なに拒む伏線も投げる矢島との野外プレイ。気配に気付いたれいが覗きもする、閉塞した絶望が胸に痛い智子の自慰と二度目の二人の花火を噛ませ、ムスキ・アルバボ・リーの、正しく搾り出される如く狂ほしい「笑顔の信者」と、ベタな線香花火のイメージの力も借り、傷ついた二つの魂が寄り添ふ姿をこの上なくエモーショナルに描いた智子と咲かせる百合。千秋と擦木の、爛れた色情が重量級の煽情性を炸裂させる貫禄の一戦。哀しい過去への距離を次第に近づけつつ、辰吉とは魅力的なロケーションの中、無理矢理後ろから突かれたため物騒な形で中途に終る。そして終に明かされる、悲愴な十年前。主演女優の裸を、つつがなく事済む形で見せる手数が前半で尽きてしまつてゐるバランスさへさて措けば、六つの濡れ場を適宜展開に即して六様に描き分ける超絶も圧巻の一言。荒木太郎はなかなか辿り着けないピンクで映画なピンク映画の到達点への扉を、遂に森山茂雄は抉じ開けたか。お人形を思はせる整つた顔立ちに、基本孤独を凍りついたかのやうに窺はせながらも時折見せる柔らかい表情が胸を打つみづなれい、ピストル柄のワンピースもイカす。詰んだ生活の暗闇に沈む倖田李梨と、やさぐれた色香が堪らない酒井あずさ。お人好しで間抜けな久保田泰也に、男ぶりはいい反面幾分粗野な川瀬陽太。そして、文字通りの風来坊の皮を被つた下に、賢者の相をダンディに隠す本多菊次朗。配役も完璧ならば、積み重ねられる回想中の扇風機が、実は倒れたものであることが明らかになるにつれ、暗い予感を徐々にではあれど濃厚に立ち篭めさせる秀逸な語り口。一欠片の捨てカットもない、森山茂雄はどうかしたのかと、一歩間違へば心配にすらなりかねない完成度。オーピーが一社気を吐く現状にも関らず、意外と筆を滑らせては何だが豊作であつたやうに思へる2011年のピンク映画、その中でも群を抜くマスターピース。繰り返すが、れいの心が、世界を包むラスト。凄いものを観た、とんでもない映画を観た。この興奮、未だ醒めやらぬ。
 劇伴としての威力も申し分ないムスキ・アルバボ・リーの楽曲は、ザックリしたジャンル分けでいふとワールド・ミュージックを連想させる。正体不明の名義ではあれど、この人鹿児島県は沖永良部島生まれの見た感じも純然たる日本人なのだが、一体歌つてゐるのが何語なのかはサッパリ判らない。それとも何か、これは要はいはゆるハナモゲラ?

 由来なり背景が描かれることはない故、フィニッシュの結実に至るまでは木に竹を接ぎ続ける感も否めなくはないが、れいは会ふ人会ふ人に、自身の印象を漢字一文字で尋ねる。順に矢島・智子・千秋、「オラ馬鹿だからそつたらことはよく判んネ」と回答を留保した辰吉は飛ばして擦木の、それぞれの答へは“愛”・“陽”・“若”と、“哀”。己の甚だしい知性の貧しさと感性の歪みも省みず、小生が今作を漢字一文字で表す愚挙に挑むならば、“情”である。

 再見に際しての付記< れい・ミーツ・矢島のロケーションは、よくよく見てみるとバス停ではなく、カフェの看板。


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 「家政婦のカラダ 押し倒したい!」(2000『痴漢家政婦 すけべなエプロン』の2012年旧作改題版/製作・配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:川崎りぼん/企画:福俵満/撮影:清水正二/編集:酒井正次/助監督:佐藤吏/スチール:津田一郎/録音:シネキャビン/現像:東映化学/出演:里見瑶子・河村栞・佐々木麻由子・入江浩治・かわさきひろゆき)。
 雲行きには恵まれぬ波打ち際の画に、海に憧れてゐた女が主人公である旨告げる河村栞のモノローグが被さりクレジット起動。御馴染みの津田スタの川中家、万年係長の康司(かわさき)が、思ひのほか早く帰宅する。通勤に二時間かゝるといふ割には、外光は白昼のものに見える。康司は一体何時に退社したのか、南酒々井には白夜があるといふのなら別だが。兎も角、後に与へられる情報込みで、売れ残りに我が身を重ね、不憫に思つた金魚を一匹、康司は買つて帰つて来てゐた。水の用意を命ぜられた娘の夕希子(河村)は、家庭教師が来てゐると父親の指示には従はず自室に上がる。家庭教師など知らない康司に、早い帰宅を特に喜ぶでもない妻・恵美(佐々木)は、浪人生である夕希子に、一週間前から一流大学四年生の家庭教師をつけてゐることを伝へる。そんな訳で、階下には両親が揃つてゐるといふのに、夕希子と家庭教師・吉川晃(入江)の濡れ場初戦。一応こゝで、夕希子机上の料理本を拾ふ。その夜、金魚に夢中の康司を恵美が求めるも、康司は勃たなかつた。翌朝、父娘を送り出し、恵美一人の侘しい朝食。冷蔵庫からトマトとマヨネーズを取り出した恵美は、トマトをマヨネーズで食すのかと思ひきや、トマトはそのまま齧り、マヨネーズ容器で衝動的に自らを慰める。虚しい事後、鉢の中で呑気に泳ぐ金魚に激昂した恵美は、金魚鉢にマヨネーズをぶち込む暴挙を敢行。そこに、上手い具合に忘れた書類を取りに戻つた康司が飛び込む。康司は恵美を激しく叱咤、居た堪れなくなつた恵美は、家を飛び出してしまふ。己も構つて呉れない旦那が金魚には御執心とあつては、それは女房がキレるのも無理からぬ話よ。その夜、康司から恵美が家を出て行つた顛末を聞いた夕希子が当然完全に臍を曲げる中、村中家に赤いべべ着たかはいゝ里見瑤子が現れる。里見瑤子は家政婦兼家庭教師の村上出海を名乗り、恵美が手配したものかと豪快に勝手に解釈した康司と夕希子は、ひとまづ出海を家に上げる。
 正直、とうの昔にm@stervision大哥がリアルタイムで雌雄を決しておいでのところに、今更のこのこ遅れ馳せるのも心苦しいだの勇気が要るだのといつた騒ぎでは済まないが、兎も角深町章2000年第四作、かわさきひろゆきの妻である川崎りぼん(a.k.a.かわさきりぼん)の映画脚本初陣は、全般的に甚だ無造作な鶴ならぬ“金魚の恩返し”。そもそも淡水魚が海に憧れたりなんかして死ぬ気か?と、小学生でも脊髄反射で辿り着く強大なツッコミ処から始まり、来訪したばかりなのに早速その夜「私、夜の御奉仕も致しますの」と康司に体を任せた出海は、「人読んで、体感SEXカウンセラーと申しませうか」。“申しませうか”ぢやねえよ、何だその“体感SEXカウンセラー”といふのは、御伽話の雰囲気も何もあつたものではない。出海を拒絶する夕希子との和解の呼び水に、夕希子の強姦被害―レイプ魔は声をかけるセドリックのみ登場―を持ち出す無神経さは、凡そ女性脚本家のものとは思へない。仲のいゝ御夫婦で、亭主に似たといふのなら仕方がないが。悲しければ美しいのかといふ雑なラストは、矢張り如何とも呑み込み難い。

 さういふ、終始しつくり来ない物語にあつて、明後日だか一昨日な心の琴線に触れた件が一箇所。夕希子の部屋からコンドームの箱を見付けた康司は、訪問した吉川に忘れ物だとそれとなく差し出し、ついウッカリ受け取らうとした破廉恥家庭教師を馘にする。逃げ帰る吉川と、村上家の周囲で帰つたものかどうしたものか逡巡する恵美が鉢合はせる。鉢合はせたかと思へば、本当に即座の次のカットではラブホテルのベッドの上にて開戦する、新田栄をも凌駕する超速展開には度肝を抜かれた。尤も、劇中終に満足な夫婦生活は営まれない点を考慮に入れると、佐々木麻由子の完成された絡みを見せようとした―無論、見せて貰はないと困る―場合、この布陣では吉川に親子丼を完成させるしかない―出海と百合を咲かせるのは流石に無理が過ぎる―といふ要は、確かに酌めなくもない。だとしても、もう少しは段取り踏めよといふ反駁の余地は矢張り残されよう。


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 「人妻の恥臭 ぬめる股ぐら」(2012/製作:旦々舎/提供:オーピー映画/監督:山﨑邦紀/脚本:山﨑邦紀 坂口安吾『白痴』+『風博士』を翻案/原題:『ブラック・エッグス』/撮影:大江泰介/撮影助手:花村也寸志/照明:ガッツ/助監督:金沢勇大・小鷹裕/応援:田中康文/編集:有馬潜/音楽:中空龍/録音:シネキャビン/タイトル:道川昭/現像:東映ラボ・テック/現場応援:久米脩哉・小池菜々絵・大高信・木瀬量介/出演:大城かえで・浅井千尋・吉行由実・荒木太郎・丘尚輝・池島ゆたか)。この期に及んでだが、照明のガッツは、守利賢一の変名。
 研究室なのか、乱雑な机上のPC・鉱石・顕微鏡その他諸々をカメラが逆パンで舐めた先には、小鳥用の鳥籠に無理気味に飼はれた烏骨鶏。烏骨鶏が産み落とした、殻の黒い卵を手に絶望を夫に叫ぶ主演女優と、モノトーンの都市遠景を挿んで、ガイガーカウンターの作動音とともにタイトル・イン。濃厚に立ち籠める、死の気配。
 話者が当人である点が大きな差異とはいへようが、「諸君は偉大なる風博士を御存知であらうか?」云々とそのまんま自問自答しながら、自ら偉大なる歴史学者であるとする風博士(荒木)が、浴衣姿で生気を失した妻・匂ひ姫(大城かえでの二役)を伴なひ登場。匂ひ姫の記憶を吸ひ取つたとの、宿敵・蛸博士を探索中である旨を、重ねて自己紹介する。一方、バンパイア・ピンクの最高傑作「超いんらん 姉妹どんぶり」(1998/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/主演:水原かなえ・吉行由実)に於ける、吸血鬼姉妹の棲家と同じ物件のやうな気もするが、違ふかも知れない―何でも試しに書いてみる悪癖は改めろ―倉庫風の建物のシャッターが開き、ラフな服装の上から白衣を羽織つた免疫学者・伊沢健策(池島)が、鳥籠の烏骨鶏を連れ外界に身を曝す。伊沢は簡易型のガイガーカウンターで周囲の放射線を測定すると、落胆した嘆息を洩らす。いはずもがなといふ寸法なのか、明示はされないが3・11後の状況を更に悪化させた世界。大地震の末に、広範囲が高濃度に放射能汚染される。建物は最終避難所で、伊沢は管理人の座に納まり放射線を研究してゐた。とそこに、風博士一行が現れる。伊沢を見るや風博士は蛸博士と激情し、改めて後述するが風の音(ね)と共にそこかしこに瞬間移動する。同時に匂ひ姫は、ハイリスクな生活を厭ひ伊沢の下を去つた、妻・しぐれ(大城)と瓜二つであつた。続いて最終避難所に、スカジャンを着た精悍な女と、ゴーグル×タンクトップ×短パンといふ扮装の、正体不明感が絶品の男が到着する。汚染度のより高い東北から逃れて来た、女は「東北女子プロレス」プロレスラーの咲蘭(浅井)で、男はマネージャーのハリー(丘)。復興後の東北でのファイトを目標とする咲蘭は早速トレーニングを始め、ハリーは既にゴーストタウンの付近に食べ物を探しに行く。
 最終避難所は元々金持ちの道楽の場で、各階には様々な趣向の部屋があつらへられてゐた。吉行由実は、その中の一室で軽食バーを営む間々田延江。放射能を捕まへ“諸刃の剣”と称し、適度の放射能は性欲を増進させる等健康に好影響を与へるだなどと、最早自暴自棄なのか豪快なオプティミズムを唱へる。“監獄ホテル”なる牢屋を模した別室にて、体液交換は頑なに拒みつつ手コキ一万円といひながら、気前よく乳尻も開放するサービスを提供する。それも兎も角何はともあれ、薄暗い店内青の照明の中に白く浮かび上がる、吉行由実の妖艶な美しさが尋常ではない。着衣のファースト・カットを観た瞬間に、トップを快走する酒井あずさ、大復活を遂げた美咲レイラを抑へ、吉行由実が俄然熟女戦線の最前線に飛び込んで来た興奮に打ち震へた。後に風博士が一人で店を訪れた際には正逆の名台詞を連発、「今夜は放射能が華々しく降り注いでゐるよ」、と風博士をハクく迎へたかと思へば、アラビアの諺として、「オナニーすれば、お前は風と結婚出来る」。アラビア人、そこは怒つていいぞ。山﨑邦紀といふ人は、精緻な論理を構築する傍らで、時に天真爛漫の領域に突入した無造作な与太を吹く。ひとまづ役者が揃ふ中、放射能警報のサイレンに、一体この御仁は幾つなのか一々空襲する爆撃機エンジン音の幻聴を惹起され恐れ慄く伊沢は、大城かえでの裸込みでしぐれとの過去を度々回想する。
 吉行由実と同じく福島県出身の山﨑邦紀2012年第一作は、東日本大震災と福島第一原発事故を経た現在を、坂口安吾の『白痴』と『風博士』の翻案を交へて描いた御本人いはく放射能ピンク。これはピンク映画の枠も軽やかに飛び越え、日本映画と社会全体をも揺るがしかねない大傑作ないしは問題作が飛び込んで来るものかと、事前には激越な期待に胸を膨らませた、ところではあつたのだが。悪びれもせずバレてのけるが、“地震と爆発のモーニング・セット”が起こり、遂に最終避難所さへ放棄するやう促すサイレンが鳴り響く。残りの者を先に行かせた伊沢は、御丁寧にも布団まで被り、匂ひ姫と二人走り逃げる。その過程を通して、先に終に食した黒い卵の効能も借りたのか、匂ひ姫はしぐれの記憶を取り戻す。暗黒を抜けた先の光明を着地点に設定すること自体は、娯楽映画の梶ならぬメガホン捌きとしては必ずしも間違つてはゐまい。寧ろ、極めて健全な在り様であるともいへよう。但し、そこで『白痴』を持ち出すのは、大いに問題がありはしないか。白痴女と風博士の―蛸博士に記憶を吸ひ取られた―女房を同一人物に設定する、大胆なアイデアは確かに気が利いてゐなくはない反面、生命の危機にさへ瀕する極限を通して、従来の鬱屈した日常はリセットされ、ゼロから始まる“新しい世界”に辿り着く。大雑把に整理するとさういふ『白痴』最大のクライマックス・イベントを、目下の状況にそのまま当て嵌めるアレンジに対しては、根本的な疑義を呈じざるを得ない。死ぬも生きるも一晩喉元を過ぎれば一旦ケリはつく夜間空爆と、原発放射能とは根本的に訳が違ふ。そこは断じてゼロではない、文字通り人智を超えた果てしないマイナスなのだ。“勝つことのない戦争”―“新しい世界”と“勝つことのない戦争”とは、何れも伊沢が同じ場面で口にする、相反した文言である―という認識は山﨑邦紀にも無論あつた筈なのに、カミさんの記憶が戻つたところで一体何が変るといふのか。悪し様に片付けると、気の迷ひに近い気休めにもほどがある。そもそも、これは山﨑邦紀近作の困つた顕著な特徴でもあるが、後ろに戻つての堂々巡りで尺を無闇に喰ひ潰し、ちつとも前に進まない展開は、全体的な物語の希薄を否応なく感じさせる。加へて、といふか直截には火に油を注ぎ、これは読者個々人のイメージの持ちやうによつて当然議論も分かれて来ようが、持ち前の飄々とした佇まひと、適度に漂はせる文学性とから、風博士に荒木太郎はハマリ役に、少なくとも個人的には思へた。対して、伊沢役に池島ゆたかを据ゑた致命的なミスキャストには、ミスターピンクに気を遣はなければ恐らく論を俟たないのではなからうか。大城かえでとはどう転んでも親子にしか見えない高齢以前に、理知の欠片も感じさせないどころか甚だ申し訳ないが如何せん鈍重。一挙手一投足で一々息が上がつてゐるザマでは、『白痴』如何に関らず形にならぬ。原作に忠実な実写化を試みた場合、伊沢が固執する青臭い―思想的な意味での―潔癖主義などは、たとへば平川直大辺りに適役であるやうに、ファンの素人考へでは見受けるものである。あるいは、監督ブッキングに拘るならば国沢実とか、画の貧相さがこの上ないにせよまだマシだ。ユニークな設定を概ね持ち腐らせさしたる働きを見せるでもない浅井千尋は、こちらは山﨑邦紀映画にしては珍しく三番手感を爆裂させる、ビリング上はあくまで二番手だけれど。実は然程決定的に酷いといふ訳でもないものの、望みが巨大であつた分、消沈も深い一作である、実に勝手な話でしかない。

 オーラスは再び自ら、「諸君、偉大なる博士は風となつたのである」云々と講釈を垂れた後に消失する風博士が、ここは山﨑邦紀らしい詩情を力技で叩き込む。それはさて措き、二度目は射精も絡めた点は愉快かつピンク映画的に感動的に鮮やかではあるが、風博士が精神の昂りに連動して風の音と共にそこかしこに瞬間移動する神出鬼没は、『風博士』を通つてゐないと完全に意味不明である。短篇でもあり、坂口安吾の『風博士』くらゐ普通読んでゐることを求める初期ハードルの設定であるならば、それは現代の量産型娯楽映画としては、必ずしも適切なものではないやうに思ふ。さうでなくとも、素面のシークエンスとして唐突極まりない、もしくは頓珍漢である点に変りはない。使ひ損なつた蛇足<更に一点、この期に気がついた。風博士の細君は“匂ひ姫”を謳ひながら、匂ひ姫から何とも芳しい香が漂ふ、または逆に何でもとりあへず匂ひを嗅いでみるカットのひとつも設けないのは、らしからぬ不手際とはいへまいか。


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 「痴漢体験 くはへる股ぐら」(昭和63『痴漢電車 エッチがいつぱい』の2012年旧作改題版/企画・製作:《株》旦々舎/配給:新東宝映画/監督:浜野佐知/脚本:山崎邦紀/撮影:下元哲・片山浩/照明:白石宏明・李永光/音楽:藪中博章/原画:中森ばぎ菜/車両:金子高士/助監督:柴原光/編集:金子編集室/撮影協力:KIYO出版/出演:藤沢まりの・秋本ちえみ・山本竜二・鹿島和彦・直平誠・小多魔若史・山崎邦紀・白木麻耶)。出演者中鹿島和彦が、ポスターには鹿島利彦。
 ズンドコ適当な、もとい軽快な劇伴に乗せ、エアロビな扮装でバーベルをエッチラオッチラ上げ下げする、藤沢まりののトレーニング風景から流すタイトル・イン。処女を噂される女流ロリコンマンガ家・南野バイブ(藤沢)が、そこそこ混み合ふ電車に揺られる。痴漢暦二十年のエロマンガ家・小多魔若史(現:山本さむ/ヒムセルフ)がバイブの背後から接近、開巻早速電車痴漢を敢行。ひとしきり愉しみパンティの中にまで攻め込むも、最終的にはバイブが常備する安全ピンに撃退される。編集長の北山(山本)以下、真由加(白木)と更に計三名のその他編集者要員が見切れる編集部。シリアスな路線も摸索するバイブと、売り上げ重視で陽性のロリコンマンガ一辺倒の北山の対立を一応挿み、バイブ一旦退場後に、今度は小多魔先生が社内に到着。北山から南野バイブ痴漢体験取材企画の痴漢師依頼を受けると、小多魔若史は本業のマンガではないのに軽く臍を曲げる。既に実は―その人とはこの時点では知らぬ―バイブに刺された左手の甲を撫で撫で、小多魔先生は最近調子が悪いゆゑ、その際には仲間を連れて来ると言明する。実際に未経験のバイブは、コインランドリー店に設置された自販機で買つたエロ本を資料にシコシコ仕事。すると何者からか、結構な大きさの箱一杯に詰められた、大量のバイブがバイブに送り届けられる。日程の逼迫に窮したバイブが、ライバル格の所沢ゴックン(秋本)に救ひを求めたところ、その時当のゴックンはといふと、北村と一戦交へつつこちらもマンガを描いてゐた。現実的には、まづ無理なシークエンスに思へなくもないが。ここは些か判り辛い雑な繋ぎで、続く初夜風のバイブと北山との情事は、臆面もなく北山の夢オチで落としてみせる。
 配役残り登場順に、感動的にボサッとした普通ぽさを迸らせる鹿島和彦は、この人は童貞確定のロリコンマンガ家・ライオン丸、何故怪傑もしくは風雲なのかは清々しく不明。そして横道の端役なれど魅力的過ぎる決戦兵器、小多魔先生が連れて来る痴漢仲間・柿沼役で、山崎邦紀大登場。いはゆるイイ顔が二つ並んだ、胡散臭いショットが堪らない。小多魔先生は本義たるバイブの体験取材に赴く前に、柿沼を引き連れ憎き女編集者を懲らしめる。事後立食形式の焼き鳥屋、柿沼が真由加に後ろ髪を引かれる風情を窺はせるのは、枝葉中の枝葉とはいへそこはかとないペーソス漂ふ地味な名場面。直平誠は、成年マンガ誌参入を目し蠢動する、如何にも大手な社名の大日本出版編集者・高浜。先に接触を受けたゴックンは寝た末に「ゴックンしてあげる」のに対し、バイブは飯を食はせて貰ふだけ貰ふと、セクシュアルにも追ひ縋る高浜を下段突きの金的で一蹴。「エロやつてるからつて、甘く見ないでよね!」と啖呵を切るのは、小気味よいナイス・カット。
 これで案外少ないともいへるのか、浜野佐知昭和63年全七作中第六作。脚本家・映画監督となる前職はエロ本編集者であつた、山崎邦紀がその経験も活かし活写する女流ロリコンマンガ家を中心に、腰から下の苛烈な攻防戦を描いた一作。ピンク映画てるもの、何れも自動的に腰から下の苛烈な攻防戦を描いてゐるやうな疑問も尤もだが、些末は気にするな。中盤、小多魔若史&山崎邦紀のある意味最強タッグが猛加速するチン騒動の果てに、終盤に至つて漸く、果たしてバイブは、誰にその処女性を捧げるのか、といふ本筋が遅れ馳せながら提出される。北村ではあんまりで、アシスタントを頼んだライオン丸と事に及びかけるものの、何処に入れたらいいのか判らないライオン丸が撃沈、ここでも果たせず。ケロッと割つてみせるが、最終的には「チンチンなんかに頼んない、私はバイブよ!」とバイブがバイブで自ら破瓜を散らすのは、そこだけ切り取れば浜野佐知一流の主体的な女性主義に見える反面、映画全体のバランスとしてはその前段。バイブ宅から敗走したライオン丸を真由加が救済、優しく筆卸す慈愛に満ち満ちた濡れ場に、エモーションの片肺を持つて行かれた感も否めなくはない。徒に浜野佐知の視座に拘泥した牽強付会に囚はれることも、統一的な物語を意固地に求めるでもともになく、手数から豊かな展開を一気呵成に観させる娯楽映画の快作、さういふ評価が、最も相当であるやうに思へる。藤沢まりのと秋本ちえみ、アイドルを二枚並べたビリングのトメに、容姿は若干曲がり気味である点はさて措き、肢体は美しく成熟した白木麻耶が控へる布陣も鉄壁。因みに、今作は豊丸映画の決定版「豊丸の変態クリニック」前作に当たるのだが、何といふ充実よと、改めて感嘆させられずにはをれない。

 最後に、映画の中身とは全く関係ないが、中森ばぎ菜がのりまつななみあるいは範松那奈美名義で、依然現役である事実には少し驚いた。


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 「人妻三十九歳 不倫同窓会」(1999『人妻同窓会 密猟乱行』の2008年旧作改題版/提供:Xces Film/製作:シネマアーク/監督:下元哲/脚本:岡野有紀《小猿兄弟舎》/企画:稲山悌二・奥田幸一/撮影:下元哲・中泉三郎/照明:代田橋男/編集:酒井正次/助監督:高田宝重/出演:間宮ユイ・日比野達郎・入江浩治・佐々木基子・しのざきさとみ・風間今日子・神戸顕一)。
 タイトルから入り、ヒロインのモノローグ。井上純子(間宮)三十七歳は、倦怠期に突入したサラリーマンの夫・竜次(神戸)とは半年もの間セックスレスの状態にあつた。夫を送り出し、純子が欲求不満を洋モノのエロサイトを巡回し紛らはせてゐるところに、隣に越して来た和辻徹生(入江)が挨拶の品を持参し現れる。固辞するのを強引にお茶でもと家に上げ、一見学生かと思ひきや、ゲーム制作会社に勤務するといふ和辻に、純子は今しがた閲覧してゐた画像を見せモザイクの消し方を知らぬかと、半ばそれとなく誘惑してみる。純子のバイブを用ゐてのオナニーを、回転する扇風機の半透明の青いファン越しに抜く、意欲的なショットで主演女優の裸を軽く拝ませておいて、純子に同級生の沢田里佳(佐々木)から、先月したばかりといふのに同窓会の誘ひの電話が入る。全員既婚者にしては随分とフットワークも軽く、早速その夜、里佳が同じく同級生で女医の岸辺志保(しのざき)と飲むカウンター席に、遅れて純子が到着する人妻同窓会。今回は珍しくとでもいふべきなのか、会場は実店舗を使用、カウンターの内外に1×3名の全員男が見切れる。因みに、志保は早生まれといふことでひとつ若い三十六歳であることを二人に誇る。何時しかも何も最初から、三人は各々の夫婦生活の不満・苦労に関する赤裸々な猥談で盛り上がる。
 里佳は銀座に店も持たせて呉れた、十九歳年上で小説家の威三郎(キンッキンの金髪に染め上げた高田宝重)と結婚したはいいものの、終に威三郎が勃たなくなつてしまつたことに頭を抱へてゐた。アテレコ(主は多分間宮ユイ)であることが残念な風間今日子は、実は威三郎の仕込みで里佳と大輪の百合の花を咲かせる、里佳の店の女・岡本ミオ。逆に志保は、旦那の度外れた絶倫ぶりに困り果ててゐた。変態セックスマシーンを強靭に好演する日比野達郎は、同業者の志保夫・大作。あれよあれよと話がつき、大作が里佳・純子・志保を向かうに回す4Pをしようといふマッチメークになるが、純子は退散する。佐々木基子×風間今日子×しのざきさとみ×日比野達郎、重量級の面子がその名に恥ぢぬ濃厚な濡れ場の連打で支配する中盤、実用的な煽情性の充実も流石だが、下元哲が何気に、合間合間の女三人による“元”ガールズ・トークを実に活き活きと描いてみせた点にも感心した。
 下元哲の1999年第二作、絡みの推移をここで整理すると、序盤主演女優の本戦は温存。続く圧倒的な同窓会の体験告白合戦、風間今日子が佐々木基子を喰らふが如く百合戦と、しのざきさとみが日比野達郎に手を焼く夫婦生活に於いて、まづは浣腸が火を噴く。一旦間宮ユイは捌けた上で、矢継ぎ早に大作が女房とその同級生を迎へ撃つ巴戦に際しては、改めて志保が今度は失禁を強ひられる。二度二様の排泄を下元哲がコンプする圧巻を経て、さてそれではクライマックスはといふと、翌日竜次は接待ゴルフで終日家を空ける隙に、高級ステーキといふ具体的な餌も携へ和辻宅を急襲した純子が、一応若いイケメンを捕食する。間宮ユイには悪いがこの流れでは如何せん些か荷が重いか、とも当初思へたものだが、蓋を開けてみると超絶に美しく捉へられた間宮ユイのスレンダーが、意外と十二分に映画を背負ひ得る。モノガタリ、何それ新しいポケモンか?とでも嘯(うそぶ)かんばかりに、女優をいやらしくそして美しく撮ることのみに情熱と技術の全てを賭ける。成果は不純な下元哲の純情が眩しい、一息にグイグイ観させる裸映画のマスターピース、これぞいい意味でのエクセスだ。

 さて、意図的に通り過ぎて来た巨大なツッコミ処に、賢明なる諸兄は既にお気付きであらうか。間宮ユイ(現:間宮結)が佐々木基子やしのざきさとみと同級生といふのも大概な逆サバ設定なのだが、更に凄まじいのは、開巻いの一番に謳ふやうに、純子は劇中三十七歳なのだ。新題にある“人妻三十九歳”とは一体誰のことなのか、へべれけ過ぎるだろ、エクセス!ついでに里佳は兎も角、純子の不倫は、そもそも同窓会とは何の関係もない。これも、エクセスだ(´・ω・`)


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 「エッチ指南 はだける赤襦袢」(2011/製作:ナベシネマ/提供:オーピー映画/監督:渡邊元嗣/脚本:山崎浩治/撮影:飯岡聖英/照明:小川満/編集:酒井正次/助監督:永井卓爾/監督助手:山田勝彦/撮影助手:宇野寛之/照明助手:八木徹/編集助手:鷹野朋子/応援:広瀬寛巳・壁井優太朗/スチール:津田一郎/効果:梅沢身知子/タイミング:安斎公一/録音:シネ・キャビン/現像:東映ラボ・テック/協賛:ウィズコレクション/出演:眞木あずさ・しじみ・津田篤・なかみつせいじ・美咲レイラ)。
 おおぴい神社に現れた、適当に結つた髪にかんざしを挿し、扮装はメイド服とかいふ奇怪な女。当惑気味に洩らした、「ここは・・・・?」の呟きに続いてタイトル・イン。因みに、オーピーのオーは元々大蔵の大である由来を踏まへると、重箱の隅を突くが“おおぴい”神社ではなく、本来ならば“おほぴい”神社となる、“ぴい”は気にするな。
 御馴染み南酒々井のハウススタジオ、とはいへ設定上は都内の吉原家。夫婦で同じ会社に勤務する、平営業から倉庫番に更に格下げとなつた夫の博志(津田)が、営業課長で姉さん女房の優子(美咲)に対し、小遣ひアップを賃上げ要求と称して大袈裟に求める。実は博志には、ヘッドハンティングされての転職話がある旨を明らかにした流れで夫婦生活。ここで、改めて振り返るとナベシネマ二作前「母娘《秘》痴情 快感メロメロ」(共同主演:紗奈)、工藤雅典のボンクラお盆映画「夏の愛人 おいしい男の作り方」(主演:星野あかり)を経て、約十年ぶりの電撃ピンク復帰第三戦となる美咲レイラが兎にも角にも圧巻。騎乗位で気をやる際の、オッパイの美麗な重量感が圧倒的。こんな女にならば、乳もとい尻に敷かれたとて本望だ。話を戻して、事が終るのを絶妙に見計らつたかのやうなタイミングで、見慣れぬ町並みに困惑する先刻の奇怪な女・清瀬(眞木)が、表札に誘はれ吉原家に辿り着く。覚束ないありんす詞を操る清瀬の言ひ分を整理すると、清瀬は西洋人の商人に身請けされた花魁で現在はメイド、ここの方便は天才的。おおぴい神社で願掛けしてゐたところ、慶応三年(1867)からタイムスリップして来たやうなのだ。時間移動もさて措き、素性不肖の女を家に置くだけで既に十二分な飛躍なのだが、とまれ清瀬は吉原家に厄介となる格好に。後々明かされる清瀬の願ひ事とは、互ひに想ひを寄せる者同士が、一緒になれる世に生まれ変ることであつた。
 しじみは、博志の転職を世話するヘッドハンター・加藤麻美。裏の顔を持つ曲者役を小悪魔的に好演、少し痩せた?高級セダンをブイブイ乗り回すなかみつせいじは、吉原夫妻勤務先の小室人事部長。
 天皇誕生日に封切られた、最速最強渡邊元嗣2011年第五作。目前のクリスマスとその先には正月も控へ如何にも目出度い今作の飛び道具は、何と凡そ百五十年の時空を超え、二十一世紀の江戸改め東京に飛び込んで来た元花魁のメイド!そこだけ聞くと、無冠の帝王・ナベが本領を遺憾なく大発揮、と、大喜びしたいところではあつた、ものの。ポスターの止め画は非常に妖艶なのに、実際に動いてゐるのを見ると不思議なことにどうにも全般的に寸詰まりで、加へて表情にも微妙に乏しい主演女優も兎も角、劇中起こる騒動が、人材引き抜きに偽装した博志の―会社と家庭両面の―リストラ限りといふのが致命的。これでは最終的に清瀬が第三者にしかなり得ず、さうなると清瀬の素性は、何も箆棒な大仕掛けに火を噴かせるまでもなく、単に野良猫のやうに何某かの弾みで転がり込んだ優子の妹か何かで、特に問題はなからう。厳密に、あるいは悪し様にいへばあくまで趣味に止まるファンタジーが、コスチューム・プレイとして以上には、力技で纏め上げたオーラスを除くと世辞にも満足には機能しない。美咲レイラの処遇に不用意な迷ひに近い未練を残した、優子の真意に関しても結局回収されずじまひでは、蛇足といふ誹りも免れ得まい。清瀬の死んだ想ひ人と、博志が似てゐるとかいふのも、回想シーンのひとつも設けられぬでは随分と口先ばかりの適当な方便である。

 等々と、期待の高さも込みでいまひとつノリきれない一作ではありつつ、熱いエモーションに心を鷲掴まれたのは序盤の枝葉。清瀬の吉原家二日目の朝、同じ会社にそれぞれ自転車と電車で通勤する博志と優子を時間差で送り出した清瀬が見る、万華鏡ならぬテレビ。番組を模して映し出されるのは、十三作目のナベシネマ「母娘《秘》痴情 快感メロメロ」出演を多分最後の仕事に、足かけ八年の全活動に幕を下ろした藍山みなみ―一切クレジットレス―のビデオ・メッセージ、しかも御丁寧にもこの人もメイド・コス。正直大分薄汚い画質ではありながら、明るく爽やかにファンに別れを告げる藍山みなみの姿と、それをかういふ形で我々に届けて呉れた渡邊元嗣のさりげない真心とに、不意を突かれた驚きよりも、寧ろストレートにグッと来るものを感じた。


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 「義母たちの乱行 レズつて息子も…」(2003『義母レズ ‐息子交換‐』の2012年旧作改題版/提供:Xces Film/製作:シネマアーク/監督:下元哲/脚本:関根和美・大竹朝子/企画:稲山悌二・奥田幸一/撮影:下元哲/照明:代田橋男/編集:酒井正次/助監督:高田宝重/撮影助手:海津真也/出演:橋本杏子・しのざきさとみ・酒井あずさ・しらとまさひさ・拓植亮二・佐々木基子)。
 窃視を表現する為に、左右を大きく削つた可視部分は縦長の画面。風呂上りの橋本杏子が、全身にボディ・ローションを塗る。しらとまさひさの目のアップと、視線に橋本杏子が気付き実を固くしたところでタイトル・イン。
 朝の竹内家、日常的かつ互ひに覗き覗かれてゐることを、血の繋がらぬ母・あい子(橋本)と義息の慎吾(しらと)が既に満更ではない風情で仲良く喧嘩する。そこに横柄に現れる、オーラスと都合二度何れも背中越しにしか見切れない、あい子の夫で慎吾の実父・貴之役の、強ひて譬へるならば小太りの竹本泰志は一体誰なのか。定石だと高田宝重なのだが、髪質が違ふやうに見える。大した度胸で代々木ゼミナールの外景を押さへておいて、予備校の屋上。慎吾は悪友の西山恭輔(柘植)と、幾らジャンル映画といへど藪から棒な大飛翔だが各々父親の後妻を狙ふ素振りを見せる。そんなこんなで恭輔の義母・香奈(佐々木)が内職の翻訳業に精を出す西山家、恭輔が帰宅したものかと思ひきや、慎吾も遊びに来てゐた。その際に実は約束を交し、木曜日にマンション裏で待ち合はせた慎吾と香奈は、ケロッとホテルにて一戦交へる。母親同士も親交を、といふことであい子が香奈を訪ねる。飲み食ひしがてら、何時しか二人は交はる。双方義理の母親が初対面から同性愛、最早奇想天外に近いシークエンスではあるが、細かいことは気にするな。香奈は慎吾を喰つたことを仄めかし、あい子をやきもきさせる。
 しのざきさとみは香奈の元恋人で、矢張り木曜の夜になると香奈が遊びに行く、推定レズビアン・バーのママ・白石律子。酒井あずさは、店名不肖律子の店の女・岡嶋葉子。葉子と寝る香奈を前に、律子が葉子即ち酒井あずさを捕まへて、“若くてピチピチした娘”と称することに何となく度肝を抜かれる。この面子の中では、確かに最年少なのだとしても。
 その後も散発的に輩出しなくもない、“最後のピンク女優”と最初に呼ばれた、80年代後半を中心に大活躍した名女優・橋本杏子。池島ゆたかの「コギャル・コマダム・人妻・美熟女 淫乱謝肉祭」(1996/脚本:五代暁子)で一旦引退後、同じく池島ゆたかの「デリヘル嬢 絹肌のうるほひ」(2002/脚本:五代暁子/主演:真咲紀子)でまさかの電撃銀幕復帰を果たした上での、今作が改めてピンク映画・ラスト・アクトに当たる。因みに、恐らく脱ぎはしないであらうが、近年アタッカーズ社のDVDに、橋本杏子はチョクチョク出演してゐる。それらの監督の川村慎一といふのは、もしかすると川村真一と同一人物なのか?橋本杏子に話を戻すと、口跡は前世紀の全盛期と全く変らず、肢体にも然程の衰へは感じさせない。ものの、潤ひを欠いたのか表情の強張りが流石に正直少々キツい。さうなると、最低限の繋ぎで一応の体裁を整へつつ残りの尺は、クライマックスの義母子スワッピングを含め様々な組み合はせの濡れ場濡れ場でひたすらに埋め尽くす。ある意味裸映画として潔い態度ないしは戦略ともいへ、統一的な起承転結を成し得るだけの物語が存在しない以上、どうしても漫然と絡みが連ねられるばかりでメリハリに乏しいきらひは否めない展開を、主演女優として堂々と支へ抜くには如何せん厳しい。落日の感慨に、おとなしく浸るべきであるのやも知れぬ一作。純然たる枝葉中の枝葉に過ぎず、明後日だか一昨日なハイライトは、香奈が律子の店を劇中一度目に訪れる件。夜の街のショットと、下元哲映画によく見られる光景ではあるが、実店舗ではなくスタジオ内にそれらしくボックス席をあつらへた―だけの―店内風景との間に、二輪挿された白百合を捉へたカットを挿み込むさりげないポップ・センスが、妙な強度で琴線に触れた。


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 「やらせるナース 在宅濡れ治療」(1996『どすけべ付き添ひ婦 さはつていいのョ!』の2012年旧作改題版/製作・配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:夏季忍/企画:福俵満/撮影:稲吉雅志/照明:伊和手健/編集:酒井正次/録音:シネ・キャビン/現像:東映化学/協力:獅子プロダクション/出演:林田ちなみ・三橋里絵・青井みずき・久須美欽一・樹かず・山本清彦・頂哲夫)。ポスターには何故か岡輝男と誤記される脚本の夏季忍は、久須美欽一の変名。助監督が、榎本敏郎らしいのだがクレジットレス。
 東京の雑踏、ロング・ショットで宏(樹)が恋人の美緒(林田ちなみ/a.k.a.本城未織)との、一年間の別離を嘆く。東京を離れる美緒の赴任先は、三才の時に亡母に手を引かれ離れた、宏の生まれ故郷でもあつた。母親の職業は看護婦で、白衣を貸さうかといふ宏に対し、美緒がヘルパーである旨を観客には自己紹介した流れでタイトル・イン。だから看護婦ではないといふのに、主演女優の文字通り舌の根も乾かぬ内の新題のいい加減さはいはずもがなにせよ、元題のグダグダ感もことここに至ると最早清々しい。下手な鉄砲が、数打たれてゐた時代の麗しさよ。
 カット明けると、美緒は南酒々井駅に降り立つ。今回物件の固定までには至らなかつたが、ピンク映画超頻出の極々普通の二階建て一軒家ハウススタジオは、南酒々井にあるのか。よく判らないのが美緒の業態、当地に住居を確保しつつ、美緒は寝たきりのゲンさん(久須美)と、左足以外は全滅で包帯・ギブスに固められた一郎(頂)。更には夫を喪つて以来意気消沈し床に臥せる、レイコ(三橋)の世話に家々を回つてゐた。寝たきりは偽装なのか、ゲンさんが自分の土地である山を見回りがてら散歩してゐると、一台の乗用車が停められてある。また不動産屋かと山に入つてみると、後の二回戦で名前が判明する彦麻呂(山本清彦/a.k.a.やまきよ)と、終に呼称されぬゆゑ役名不詳の青井みずき(a.k.a.相沢知美)のカップルが青姦に励んでゐた。ゲンさんは家を出て行つた妻・トメの忘れ形見の看護婦服を美緒に着るやう望むと、俄然猛ハッスル、思ひのほか大らかに敷居の低い美緒と一戦交へる。それにつけても、林田ちなみの安定した美貌は改めて素晴らしい。即物的なことをいふやうだが、これでこの人のオッパイがもう少し大きければ、裸映画の歴史は結構変つてゐたのでもなからうか。美緒は日々の介護を報告する、絶妙に性的な内容の手紙を送り、宏をやきもきさせる。
 今回、八幡は前田有楽で観たプリントの上映時間は五十分。仮に津々浦々を巡る内に削られて行つたとしても、然程端折られた件の存在も見当たない。と訝しみながら帰宅後jmdbで調べてみたところ、何と元尺から五十分。深町章1996年第二作は、久須美欽一とのコンビで送られる実になだらかなルーチンワーク。逆方向に火を噴く今作のハイライトは、ゲンさんと宏の、美緒を間に挟み世間の狭さが爆裂する意外な関係を軸に据ゑた、作中最大のモチーフを欠片の頓着もなくケロッと割つてしまふ、よくいへば気前の良さ。気前が良いとか悪いとか、さういふ話でもないやうな気もするが。以降は―相変らず―他愛もない濡れ場とホームドラマを連ね、たかと思へば、出し抜けに呆気ないラストでコロッと映画を強制終了する。これで腹も立たない穏やかな仕上がりは、寧ろ不思議とすらいへるのかも知れない。良くも悪くも裏打ちし得るだけのキャリアを有した者にのみ、許されたかのやうな案外円熟した一作。文学的にいふならば無常観をも漂はせる、直截には出し抜けな終幕の振り逃げは、実は深町章が時に繰り出すいはば持ち芸のひとつでもあるのだが、今はもう、類似作を探さうといふ気力も雲散霧消した。
 備忘録< 猫の居る夕焼けの縁側、ゲンさんが再び病の床に臥せるエンド


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 「下宿妻の告白…もう、我慢できないの」(1994『痴漢と覗き 人妻下宿』の2012年旧作改題版/企画・製作:オフィス・コウワ/提供:Xces Film/監督:坂本太/脚本:大門通/プロデューサー:高橋講和/撮影:斉藤幸一/照明:斉藤久晃/編集:金子尚樹 《有》フィルム・クラフト/音楽:伊東善行/製作担当:堀田学/助監督:佐々木乃武良/録音:ニューメグロスタジオ/効果:協立音響/撮影助手:梶野考/照明助手:新井豊/スチール:小島浩/現像:東映化学㈱/出演:小栗景子・七重八絵・一条りえ・久須美欽一・白都翔一・杉本まこと・秋吉貢次)。
 最低二ヶ月の米出張に向かふ宮口孝一(杉本)と、妻・美沙子(小栗)の名残も惜しんだ夫婦生活。クレジット中協力周りの特記は見当たらないが美沙子の声は、多分吉行由美(現:吉行由実)のアテレコ。一方、兄宅に同居する、二十一には感動的に見えない三浪生・耕作(秋吉)が、隣の自室から覗き窓を通してその模様に熱い視線を注ぐ。そもそも、夫婦の寝室の隣に受験生の部屋が配された不自然極まりない間取りに関しては、それは言はぬが花といふ奴だ。覗き窓の反対側寝室壁に提げられた、弟から兄夫婦に贈られた結婚祝ひの鏡を押さへてタイトル・イン。
 翌日、孝一は相変らずボサッとした耕作に小言のひとつも垂れつつ渡米、予備校に出かける耕作に、美沙子は受験の御守を手渡す。寝室を掃除中、虫の報せを受けた美沙子は、耕作の部屋に入り覗き窓の存在に気づく。耕作はといふと嫌味な、高校時代は同級生の和也(白都)から、早明大学英文科二年の彼女・上田有美(一条)を自慢される。和也と有美の情事に、耕作が果敢に闖入する件を挿み、帰宅後の宮口家。シャワーを浴びる美沙子は耕作の窃視を察知するや、身を隠すどころか奔放に裸身を晒し、挙句には破廉恥なランジェリー姿で夜食を届け、義弟を当惑させる。そんなある日、美沙子友人の裕子(七重)とその夫・英幸(久須美)が、宮口家に下宿する形で転がり込んで来る。美沙子は強引気味に自然な流れで孝一不在の寝室を裕子夫妻に明け渡し、早速その夜出歯亀を敢行した耕作は驚く。女王様に扮した裕子が、英幸を激しく責めたてゝゐたからだ。火に油を注いでその場に飛び込んだ美沙子は、予想外の告白がてら耕作に身を任せる。
 六月に五十の若さで急逝した坂本太の1994年第一作、通算でも第二作に当たる。何はともあれ、事前には坂本太も「痴漢と覗き」シリーズを撮つてゐたのか!と頭も抱へ気味に驚いたが、改めてjmdb先生に尋ねてみたところ、更に北沢幸雄や小林悟だけでなく、何と佐藤寿保や新東宝に越境しての的場ちせ(=浜野佐知)版まで存在するのには重ねて驚いた。さて措き、開巻から明白に登場する“覗き”に加へ、停めた車内で和也と事に及ぶ有美のオッパイに耕作が手を伸ばす―大胆過ぎて無造作なシークエンスではある―格好での、“痴漢”も完遂してみせた点はひとまづ天晴。物語本体に話を進めると、力技で飛び込んで来た二番手が、無闇な性癖をブン回す辺りからも明らかな、誠確信犯的な裸映画である。とはいふものの、夫婦の寝室を覗かれてゐるのに辿り着きながら、美沙子の結構なフランクさは幾ら何でも劇映画のヒロインとしては如何なものか。といふ疑問も確かに、残らぬ訳ではない。ところが、大門通は実はこの点キチンと、裕子・英幸夫妻に設けた女王様属性が姑に忌避された―逆からいへば、息子も息子で奴隷なのだが―とかいふ方便だけでなく、美沙子が義弟に体を開くに至るそれなりに説得力を有した動機をも設定してゐる。重ねてとこ、ろが。中盤開陳されるそのテーマが以降深化の図られることは本当に一切欠片もまるでないまゝに、御守に導かれ再登板した有美が何故か藪から棒に耕作に乗り換へた以外は、諸々の組み合はせの情事が漫然と連ねられるうちに何時の間にかエンド・マーク。素人の浅知恵で邪推するに、デビュー二戦目の坂本太は濡れ場を描くのと矢継ぎ早に繋げるのに一杯一杯で、折角大門通が敷いた本来存在しなくもない本筋を、ついつい等閑視してしまつたものであるのかも知れない。

 然しこれでは、“告白”の主体が裕子となる新題の器用なちぐはぐさは、寧ろ鮮やかなトリック・タイトルだとすら称へるべきなのであらうか。いふまでもなく、ヒロインの美沙子はこの場合大家である。
 備忘録的付記< 美沙子の動機は、耕一の種なし


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 「人妻OL セクハラ裏現場」(2011/製作:多呂プロ/提供:オーピー映画/監督・脚本・出演:荒木太郎/撮影・照明:飯岡聖英/編集:酒井正次/音楽:宮川透/助監督:金沢勇大/撮影助手:宇野寛之・宮原かおり/編集助手:鷹野朋子/演出助手:佐藤心/ポスター:本田あきら/応援:小林徹哉・田中康文/協力:静活・佐藤選人/録音:シネキャビン/現像:東映ラボテック/タイミング:安斎公一/出演:安達亜美《新人》・佐々木基子・浅井舞香・那波隆史・那波隆史・野村貴浩・柳東史・小林節彦・太田始・遠藤潤・名越孝太郎・別所万伸、他三名・ドンキー宮川・田中康文・牧村耕次)。出演者中、名越孝太郎とドンキー宮川・田中康文、他三名は本篇クレジットのみ。那波隆史の二重表記は間抜け管理人が仕出かしたのではなく、本篇クレジットに従ふ。
 緊張した面持で深呼吸する主演女優、無人の広い劇場内に、オリオン座の最終公演である旨を告げるアナウンスが流れてタイトル・イン。因みに―静岡―オリオン座(定員五百九十名)とは、静岡市内で映画館を経営・運営する静活がかつて有してゐた旗艦館、本作公開二ヶ月前の十月に閉館してゐる。
 古道具屋が深夜営業してゐるのか、釈然とはしないが早朝の「我楽多屋」。雇はれ店長兼作家の有吉タカユキ(那波)一人の店内に、明るくネガティブなラジオ番組「西藤尚の朝からスタンド・アップ」が流れる、朝立ちか。タカユキに起こされた、妻・祥子(安達)の職業は公務員。祥子はタカユキに、生活の心配は要らないゆゑ望み通りの創作活動に励むやう、何処かしら上から目線で望む。そんなこんなで、窓口に詰めかけた田中康文に祥子がぼんやり対応する、何処ぞの役所の福祉課。ここで佐々木基子は祥子の同僚・アサ、ビリング順に野村貴浩・柳東史・遠藤潤・別所万伸も同僚で、大して仕事もしなければ祥子に憚りもない下卑た視線を向ける枝野・亀井・内田比呂志・吉崎。多分最年長の吉崎が、一番の上長。アサにアフター5のお誘ひを受けた祥子に、就職も世話した吉崎が資料室にてセクハラ紛ひに言ひ寄る件噛ませて、更衣室で着替へる祥子が靴を履き替へようとすると、ハイヒールは精液で汚されてゐた。半ベソをかきながら流しで足を洗ふ祥子の前に、ヌボーッと不気味に現れる警備員は小林徹哉。アサとの待ち合はせ場所に向かふ祥子は、若い三人組の男(全員不明)に袋叩きにされる、タカユキと瓜二つの労務者風―後に判明する稼業はポスティング―の男(当然那波隆史の二役)を目撃。祥子と目が合つたポスティング男は、キキキキキと奇声を上げニヤーッと薄気味悪く笑ふ。気を取り直して“何時もの”飲食店、アサはタカユキの単行本『発情の国』を取り出し、サインして貰へないかと祥子に求める。テレビ好きで小説に興味はなく、これまで読んだことはなかつたタカユキの本を半笑ひのアサから薦められ、手に取つた祥子は驚く。祥子をモデルにしてゐない訳がない、公務員の妻が奔放も通り越した情欲に溺れる過激な内容であつたからだ。作中祥子は庁舎内でポスティング男にレイプされ、傍らでは、その模様を見るアサと吉崎が助けもせずに乳繰り合つてゐた。激昂した祥子は、タカユキに詰め寄る。
 残る配役を無理矢理整理すると、随時登場する窓口要員に、ドンキー宮川(=宮川透)以下その他。名越孝太郎も、多分ここに含まれるのか。小林節彦と牧村耕次に荒木太郎は、祥子を拉致・陵辱する、取り壊しの決まつたオリオン座の元従業員。それぞれのヘルメットに書かれた文言が、順に“造反有理”・“自己批判”・“総括せよ!”。この辺りの、機能不全のアナクロニズムは煮ても焼いても喰へない。太田始は、祥子の身代りにオリオン座に飛び込む小林部長。小林が内田からの電話報告を受けるカットに、内田と小林警備員に加へて更に二名の公務員が見切れる。「恋情乙女 ぐつしよりな薄毛」(2010/主演:桜木凛)以来となる浅井舞香は、お断りのチラシを放り込んだことを注意したところ、ポスティング男に犯される肉感的な主婦。増量した色香が、ギリッギリ堪らない、ここが徳俵だ。もう一人、オリオン座から帰還後の祥子がポスティング男と見紛ふ、同じ服装の男が登場する。
 タカユキとの夫婦喧嘩の後(のち)、祥子は三日間無断欠勤する。その際のタカユキの台詞に“レイプされて三日”とある点から、これは現実世界に復帰したやうに見せかけて、実は依然『発情の国』内の出来事なのかと邪推したが、最終的にはその辺りも木端微塵に覚束ない。荒木太郎2011年薔薇族を一本挿んでピンク第三作は、ヒロインが主にセクシュアルな方向に壊れて行く過程を、壊れ行く映画を通して描いた問題作。とでもいつた寸法に、なるのかも知れないが。何はともあれ、何が何だかサッパリ判らないのだ。劇中虚実の別は混濁したまゝ、とりあへずといふか兎に角といふべきか、兎も角祥子がレイプされ倒す不条理展開に、失はれる小屋への惜別はまだしも、悪し様に片付けると負け犬根性満載の営利主義と公務員に対する批判が矢継ぎ早に薮の蛇を突き、重ねてオリオン座の舞台で安達亜美が舞踏する謎ショットが、折に触れ幾度となく木に正体不明の竹を接ぎ続ける。挙句に、福祉課事務卓上での祥子と内田の情事を、枝野と亀井が延々ガチャガチャに掻き回す。煽情性の霧消した出来損なひの濡れ場を端緒かつ逆の意味での頂点―直截には谷底である―に、緩急が決してなくはない割に全体的にはメリハリを激しく欠き、たかだか尺は六十分の中篇が、途方もない長大な苦行に感じられる。恐るべき映画的反魔術は、頼むから勘弁して欲しい。浅井舞香の起用法なんぞも、三上紗恵子の影が見当たらないにも関らず無茶苦茶大雑把な放り込みやうなのだが、それ以前に全篇が火にガソリンを注いで滅茶苦茶なので、寧ろ三番手補正もかゝると全然自然にすら思へてしまふ始末。今作が、閉館するオリオン座に捧げられたことと、荒木太郎の無造作なルサンチマンだけならば寝落ちてさへゐなければ容易に酌めるものの、残りの一切は清々しいまでに支離滅裂。そもそも、タカユキとポスティング男が同じ男である意味ないしは必然性から非感動的に全く理解出来ない。理解出来ぬ小生が己の節穴ぶりを晒したに過ぎないとしても、俺はこんなもの呑み込めなくて結構だ。是非はさて措き破壊力の絶対値だけは闇雲な、純粋に詰まらないのも通り越し、最早怪作の領域に突入しかねない一作である。

 ところで、フト調べてみると荒木太郎の2012年現時点での公開予定まで含め三作に、三上紗恵子も淡島小鞠の名前も引き続き見当たらない件につき。筆を滑らせるにもほどがあるが、もしかして別れたのか?もしくは、単に足を洗つたか。


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 別に目出度くもなければリアクションの欠片も無いことは毎度のこととして、さうはいひつつ虚空を撃ち続ける無為も拗らせ、もとい積もらせてはサウザンド山。感想が実質千本を通過した気紛れな記念に、私的オールタイムのピンク映画ベストテンを選んでみた。正直なところ、浜野佐知や渡邊元嗣等々何れか一本、を固定するのに難い監督も多く、その限りに於いての十傑ではある。

 第一位「淫行タクシー ひわいな女たち」(2000/大蔵映画/監督:関根和美/脚本:金泥駒=小松公典/主演:佐々木基子・町田政則)
 くどいやうだがここは不動。今作よりも優れたものならば兎も角、素晴らしい映画を観た覚えがないのだから仕方がない。忘れてゐるだけなのかも知れないが、細かいことは気にするな。時に必要であるのだ、立脚点といふものは。

 第二位「独身OL 欲しくて、濡れて」(2002/オーピー映画/監督・脚本・音楽:杉浦昭嘉/主演:木下美菜)
 この時確かに、杉浦昭嘉は世界を相手に戦つた。

 第三位「ド・有頂天ラブホテル 今夜も、満員御礼」(2006/Xces Film/監督:松岡邦彦/脚本:今西守)
 聳え立つグランド・ホテル、王道娯楽映画の大傑作。

 第四位「一度はしたい兄貴の嫁さん」(1997/Xces Film/監督:久万真路/脚本:金田敦/主演:彩乃まこと・臼井武史)
 今岡信治と城定秀夫を足して二で、割る必要のない幻の俊英・久万真路超絶の処女作。

 第五位「老人とラブドール 私が初潮になつた時…」(2009/Xces Film/監督:友松直之/脚本:大河原ちさと/主演:吉沢明歩・野上正義)
 “SPP”サイバーパンク・ピンク前人未到の到達点。SPPなる特殊な領域に、どれだけの挑戦者が居るのかなどと問ふ無粋な輩は、黙つてレンタルでもいいから「メイドロイド」を借りて来ればよい、洗はれた心が全てだ。

 第六位「美少女図鑑 汚された制服」(2004/オーピー映画/監督:竹洞哲也/脚本:小松公典/主演:吉沢明歩)
 多分本当に日本一短いエールが滂沱の涙を決壊させる、青春ピンク必殺のマスターピース。

 第七位「変態未亡人 喪服を乱して」(2003/オーピー映画/脚本・監督:山邦紀/主演:川瀬有希子・なかみつせいじ)
 静謐なロマンティックと最大級の奇想とが火を噴く、ヤマザキ・オブ・ヤマザキともいふべき衝撃作。

 第八位「髪結ひ未亡人 むさぼる快楽」(1999/新東宝映画/監督:川村真一/脚本:友松直之・大河原ちさと/脚本協力:森本邦郎/主演:野上正義・久保新二)
 ガミさんと久保チンによる、ピンク映画版「真夜中のカーボーイ」。因みに坂本太の「マル秘性犯罪 女銀行員集団レイプ」(1999/Xces Film/主演:平沙織/裏主演:吉田祐健)は、ピンク版「ガルシアの首」。

 第九位「美肌家政婦 指責め濡らして」(2004/オーピー映画/監督:荒木太郎/脚本:吉行由実/主演:麻田真夕・中村方隆)
 美しく綴られる小屋への愛。平素あれだけ荒木太郎嫌ひの小生が褒めるのだ、真に受けて欲しい。

 第十位「超いんらん やればやるほどいい気持ち」(2008/新東宝映画/監督:池島ゆたか/脚本:後藤大輔/主演:日高ゆりあ・牧村耕次)
 空前絶後の一大正面戦、池島ゆたかが監督作百と一本目に撃ち抜いた超重量級のエモーション。

 厳密にはピンクではない故の次点に、「妖女伝説セイレーンXXX 魔性の悦楽」(2010/新東宝映画/監督:芦塚慎太郎/脚本:港岳彦/主演:まりか・西本竜樹)
 「セイレーン」シリーズなればこそ結実し得た壮絶な純愛映画、櫻井ゆうこが起動する後半の猛加速からが凄まじい。


 流石にこれだけでは何だか物足りないので、戯れを重ねジャンル別ピンク映画のベストファイブ、大雑把にもほどがある。

 第一位:浜野佐知の女性上位映画
 敵陣の本丸ど真ん中、獅子奮迅の雄叫びならぬ雌叫びを終始一貫いまなほ上げ続ける女傑。作家性と商品性との結果的な両立といふ面に於いては、この人は大人になる前のティム・バートンとも互角以上に殴り合へるのではなからうか。

 第二位:渡邊元嗣のファンタ映画
 “無冠の帝王”ナベの全盛期はデビュー数年に止まる、ものでは決してない。近年の充実も著しく、目下断トツで面白い。

 第三位:新田栄の温泉映画
 微温湯の幸福感が最近妙に心地良くて仕方がない、これで案外、娯楽映画のひとつの境地ともいへまいか。あるいは、単なる小生の加齢ないしはより直截には経年劣化に伴なふ気の迷ひかも。

 第四位:深町章の水上荘映画
 兎にも角にも数が甚大、畢竟、当たり外れも馬鹿デカい。

 第五位:小川欽也の伊豆映画
 この期に辿り着いた緩やかな桃源郷、我々はもしかすると、ここで電車を降りるのか。


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