真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「絶頂くらべ 人妻の味」(2001『誘ひ妻 不倫でお仕置き』の2013年旧作改題版/製作・配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:かわさきりぼん/企画:福俵満/撮影:飯岡聖英/編集:酒井正次/助監督:佐藤吏/出演:水原かなえ・麻生みゅう・佐々木麻由子・かわさきひろゆき・久保新二)。
 タイトル開巻、シルエットにて女の手に可愛がられる一物が、剃刀一閃阿部定れる!のは、高座が受けない自棄酒の挙句に、店の女・ミミ(麻生)宅にて三回戦をこなした噺家・麺家春団子(かわさき)の他愛もない夢オチ。一方南酒々井の自宅では妻の福代(水原)が、女房の誕生日に帰つて来なければ連絡もつかない旦那におかんむり。福代の双子の妹で、こちらも器用に春団子と瓜二つの木下哲男(今回は登場しない)と結婚したものの喧嘩し家を飛び出したすもも(いふまでもなく水原かなえの二役、区別として口元に黒子がある)からの電話挿んで、不在の春団子を師匠の麺家春雨(久保)が、何時も通りに慌ただしく訪ねて来る。見境のない春雨に迫られるや、平素は春団子の已まぬ女遊びを難じておいて、福代はいやよいやよといひながらも案外ケロッと受け容れてしまふ。そこに今度はオッカナイ剣幕の春雨の妻・恋子が、逃げた春雨を追ひ登場。当然激怒した恋子は脊髄反射で破門・絶縁を厳命、福代は頭を抱へる。
 謎の配役残りミミ曰く三年は帰つて来ない長い出張から正確には“出所”、春団子の肝を冷やさせる筋者のミミ夫が、本篇クレジットもポスターもともに沈黙するままに、何処から湧いた名前なのかjmdbにはガイトとある。ただ見覚えのある顔でもなくガイトといはれても・・・・鴎街人で細山智明な訳がないしな。
 スチャラカ亭主のへべれけな女癖が一件の発端となるところから綺麗に踏襲する、「いんらん旅館 女将の濡れ姿」(2000)の正統続篇。フリーで大暴れする久保チンに刺青美女に宇宙人。バラエティ豊かな飛び道具がビュンビュン飛び交ふ中、二つの一人二役が交錯する。案外複雑な構成で楽しませる第一作と比べると、幾分でもなく物足りない。師匠夫婦の積極介入で不貞のクロスカウンターがトリプルにまで発展する展開は、濡れ場を放り込む方便込みで面白い。とはいへ以降の幽霊騒動は、仕掛けとしても膨らませ方も全くの一本調子。そもそも絡みが設けられない点が暗示するやうに、すももが登場する意味はあんまりない。今回の役所では、別に仲良しの御近所なり何なりで全然事足りまいか、頭数の問題は等閑視するが。要はパート1に見劣りするパート2、といふとそれもそれで、娯楽映画続作のある意味正調といへよう。尤も然様な瑣末はさて措くべきだ、全盛期の水原かなえの裸身は出し抜けにせよ木に接いだ竹せよ、クライマックスを情感豊かに締め括り得るしつとりとした美しさに満ち溢れてゐる。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )




 「黒い団地妻 妊娠したい入居者」(2013/製作:フィルム・ハウス/提供:Xces Film/脚本・監督:山内大輔/企画:亀井戸粋人《エクセスフィルム》・団清志《ダンディフィルム》/プロデューサー:伍代俊介《エクセスフィルム》・草刈一夫《ダンディフィルム》/撮影監督:創優和/撮影助手:知久紘子・小松麻美/助監督:小山悟/監督助手:江尻大/協力:笠島徳竜/編集:有馬潜/音楽:山内大輔/出演:寺崎泉・永井智美・篠田あさみ・竹本泰志・佐藤良洋・ほたる)。
 久野浩一(竹本)と、ミチルといふ名の中年らしい女の不倫の逢瀬。“らしい”といふのは、諸々引つ包めて不倫の相手は熟女に限るとする、浩一の実も蓋もない述懐に従ふ。騎乗位を背中から狙ふアングル乃至は長い髪に隠され、ミチルの顔は見えない。事後、レコーダーに仕込んだ街頭のSEも持ち出して女房にアリバイ偽装の電話を入れた浩一は、薄つぺらい手切れ金を手渡し、ミチルとの二年続いた関係にサクッと終止符を打つ。ホテルを出て、事前にカミさんとは今夜は徹夜仕事と話をつけた上で今度はマリコなる別の女に電話をかける浩一に対し、独り部屋に取り残されたミチルは嘔吐する。ここまで十分、未だ面を割らないミチルの右腰に薔薇の鍵を落としてタイトル・イン。
 夜の開巻からケロッと一転、日差しの強さを感じさせる白昼。浩一の妻・怜子(寺崎)が、冷凍イカの土産物をキャリーバッグに引き北海道旅行から戻つて来る。その頃浩一はといふと、ボロッボロの外観と小奇麗な内装とが別物件疑惑も拭へない団地の自宅にて、ほたると昼下りの情事の真最中。居留守を使はれる配達員は、江尻大。碌にどころか一切本人確認しやしない江尻配達員から、階段口でわくわく健康生活の荷物を受け取つた怜子は、郵便受けから鍵を探り濡れ場ならぬ修羅場に突入。こんなこと―亭主の不貞―もあらうかと帰りを一日早めたと、オッソロシイ形相で浩一をイカで強打する。泡を噴いて悶絶した浩一は、カット明けると佐々木基子の因果が報ひたのか憐れ車椅子に乗せられ涎を垂れ流す廃人に。その状態でも棹は勃つのかはたまた淫具か、その点の明確な説明はなかつたやうにうろ覚える―怜子が妊娠を希望するのをみるに、どうやら勃つらしい>再見時の付記―が、浩一を甲斐甲斐しく世話しつつ、車椅子ごと跨り激しく気をやるドス黒く爛れた日々を送る怜子は、加工した吐息が薄気味悪く流れて来る迷惑電話と、家中に漂ふ呪怨音とに悩まされる。そんなある日久野家の隣室に、一頻り面相は見せないが髪形で年齢を偽装する、怜子と同年代の長谷川由衣(永井)が越して来る。
 配役残り篠田あさみは、販売方法に清々しく問題のある高額化粧品の訪問販売人・向井柚月。純然たるピンク映画は愛染塾長の「平成未亡人下宿 痴漢みだら指」(2006/主演:天衣みつ)以来、エクセス初参戦の佐藤良洋は、由衣宅を度々訪ねる三流ホストのツバメ・准一。今作唯一抜けてゐる気がするのは、怜子と由衣、仕事をしてゐる風にも見えない割には普通―あるいは以上―に暮らす、二人の女の経済状況に関して地に足が着かない。
 何やら次の矢は何と清水大敬らしいが、セカンドバージンの超絶で幕を開いた2013逆襲のエクセス第三作は、三年ぶりの「スナック桃子 同衾の宿」(主演:山吹瞳)から今度は僅か一月半といふ、プログラム・ピクチャー全盛期ばりの速さで再び飛び込んで来る山内大輔。いきなりといふのもおかしな話だが躓いたのが、尺は七十五分あると聞いてゐたものの、前田有楽劇場に於ける実尺は七十分程度といふミステリー。かといつて飛びます、飛びますした印象は特にどころでもなく受けなかつたにせよ、確かにこの辺りが小屋本戦最大のネックといへようか。さて措きといふか仕方がないのでとでもいふべきか、兎も角観た映画本体に話を戻すと、ほたる(ex.葉月螢)は一応留保する形で除くとして、絵に描いたやうに善人が全ッ然出て来ないストレートに歪んだ作中世間の中、十八番のバッド・テイストを粛々と積み重ねた果てに、鮮やかな一ネタを振り抜きシャープに映画を切り抜ける。伏線を周到に巡らせる語り口は終始丹精で、この期に及んでマメな迷惑電話に激昂した怜子が気の利いた声を荒げるラストから、カッコいいギターリフとともに大クレジットを叩き込むエンディングはスパッと決まる。尤も、ミス・リーディングに釣られなければ黒い団地妻の主ベクトルを立体的に膨らませる手数には欠くだけに、Vシネ展開との兼合も込みでの七十五分なり七十分といふ長尺に比しては、アッサリとした印象も受けた。勢ひ余ると驚愕の五十分に絞り込む深町章を見習へとまではいはないが、デフォルトの六十分に納めた方が、より確かな鮮烈を残せたのではないかとも素人考へる。もう一点締めのキレを減じたと思へたのが、色恋沙汰貞子の死屍累々と比較するのはお門違ひにせよ、今回の不殺は逆に不自然に映る。要は、先鋒にセカンドバージンをやられてしまつては、後に続く者は如何せん分が悪いといふことか。

 前作まさかの二番手不脱に続き、今回も山内大輔が何気なく放る危険球。決してNGといふ訳ではないにも関らず、女優部の中で一番若い女が脱がない。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )




 「淫行フェチ 変態うねり尻」(2013/製作:旦々舎/提供:オーピー映画/脚本・監督:山﨑邦紀/原題:『ヘブンズドア~暴走女子2013~』/撮影:鏡早智/撮影助手:矢頭知美/応援:中島美緒/照明:ガッツ/助監督:中根克・渡辺友磨/応援:田中康文/記録:中根加代估/編集:有馬潜/音楽:中空龍/録音:シネ・キャビン/ポスター:本田あきら/タイトル:道川昭/現像:東映ラボ・テック/出演:美月・山口真里・牧村耕次・なかみつせいじ・荒木太郎・竹本泰志・丘尚輝・松井理子・長田真紀子・武子愛・武子政信・星響子・大塚健祐・大城かえで)。照明のガッツは、守利賢一の変名。出演者中松井理子から大塚健祐までは、本篇クレジットのみ。
 鉄格子の中でコルセット付きのボディ・スーツとTバック姿の美月と大城かえでが、妖しく尻をうねらせる。「私達がどうして出会つたのか」、「不思議な成り行き教へてあげる」と二人で分割して告げタイトル・イン。
 ほのか(美月)は鬱病を患ふ義父・荒耕作(荒木)を介護する。幾ら何でもそこは佐々木基子かしのざきさとみの役ではないかと数字的には思へる山口真里は、リタイアした亭主に代り人材派遣会社「ユニバーサルスタッフ」を切り盛りするほのか実母・香織。はるか(大城)は軽く親子並に歳の離れた植物学教授の夫・穂積誠(なかみつ)と結婚する。色気だけは旺盛なのか耕作はほのかにああだかうだ迫り、一方目下妊娠するつもりのないはるかと、子作りを焦る誠とは夫婦生活に際して対立する。互ひに濡れ場込みの悶着の末に一旦家を出た二人は、自販機の前でほのかがチンピラ(丘)に絡まれてゐるところに、通りがかつたはるかが助け舟を出したきつかけで意気投合。ひとまづはるか曰く知り合ひのオッチャン・深谷建造(牧村)が営む、“監獄で人生を考へよう”をコンセプトに監獄を模したカフェに転がり込む。一応開巻に繋がるシークエンスの立役者とはいへ、正直何しに出て来たのか疑問な竹本泰志は、店で見初めたほのかとはるかに写真を撮らせて呉れることを乞ふ、尻フェチ・猪俣直樹。配役残り登場順に、この人が―後述する―暴走女子A?武子愛は監獄カフェでの猪俣の連れの女、の画面向かつて右の方、左が星響子か。松井理子と暴走女子Bこと長田真紀子に、愛配偶者の武子政信と大塚健祐はオーラスの乗客要員。
 山﨑邦紀2013年第一作にして、結果的にだが旦々舎ラスト三作!いや待てよ、一般映画は作るだろ。因みに原題にある“暴走女子”とは、「百合ダス」製作を支へた「浜野佐知監督を支援する会」面々のパワフルさを、山﨑邦紀が評した用語である。支援する会は尤もといふか当然といふべきかピンクス有志では勿論ない上に、興味の対象は映画よりも寧ろ浜野佐知個人。さうなると最早シネフィルですらなく、フェミニズム乃至はリベラルの陣営に首まで浸かる。よせばいいのにやめられない悪態はさて措き、目のトンだビリング・トップと、過積載が完全に危険水域に突入した―アングル次第でしばしば別人かと目を疑ふ―大城かえでが走り出したまではひとまづいいものの、二人が出会つた別にアメイジングでもない成り行きから、話は然程膨らまない。初登場時にはその絶望的な孤独と疎外感とが「変態未亡人 喪服を乱して」(2003/脚本・監督:山﨑邦紀/主演:川瀬有希子・なかみつせいじ)に於ける郵便ポスト男を思はせた耕作も、根本的に何が違ふといつてこの男の場合は手を伸ばせば手篭めにする義理の娘が居る。ノリッノリの荒木太郎は観てゐて楽しいが耕作は回春するや、単なる助平に忽ち堕す。深谷の監獄カフェも、そもそも監獄である意匠の意味がよく判らない。ほのかもはるかも、家族を捨て家といふ監獄を飛び出して来たのだ。居心地もよく出入り自由な深谷のカフェが、脱獄した者がまた別の獄に囚はれるアイロニーとして機能してゐるやうには特に見えない。とはいへ、マッタリしかけるのはまだ早い。今回の山﨑邦紀は、木戸クラッチばりに映画を丸め込む。ほのかが完全に家を出る手土産にくすねた薬瓶を時限式の発火装置に、ピンク映画チーフ撮影前作は、意外にもエクセスではなく「後妻と息子 淫ら尻なぐさめて」(2007/監督:渡邊元嗣/主演:真田ゆかり)となる鏡早智のブレイブが車中に35mm主砲を持ち込んだ、痴漢ではないけれどもゲリラはゲリラ電車。ある意味少女映画のひとつの定番ともいへる、静かで美しい結末。と一旦見せかけて、クレジット挿んで直線的にはマイケル・ウィンターボトム「バタフライ・キス」のアマンダ・プラナー、古くは「ゴッド・セイブ・ザ・クイーン」にも連なる、パンクなオーラスにはよしんば木に接いだ竹にせよ心の底から感動した。大城かえでがフィニッシュに決める名台詞“世界がアタシ達に無関心なんだから、こつちも勝手に生きてやらうよ”。その、前を向いてゐるのだか明後日に捻くれてゐるのだかよく判らない拗ねたビートは、俺も自身の指針として全く共有するつもりだ。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )




 「痴漢チン入乱乳電車」(1998/製作・配給:大蔵映画/監督:小林悟/脚本:五代暁子・小林悟/撮影:柳田友貴/照明:ICE C/音楽:竹村次郎/編集:㈲フィルム・クラフト/助監督:堀禎一/スチール:佐藤初太郎/監督助手:竹洞哲也/タイトル:ハセガワ・プロ/録音:シネ・キャビン/現像:東映化学㈱/出演:出演:愛田るか・工藤翔子・里見瑤子《新人》・南夕香《新人》・坂入正三・河合純・牧村耕二・港雄一/友情出演:薩摩剣八郎・沢まどか・森孝)。
 本格的な雪国、看板が半ば雪に埋もれた「大ニッポン誠の愛の会」。現代社会の乱れを嘆き、誠の愛による人間の本当の幸せの追求を説く代表の杉村(坂入)は、弟子の斉藤(河合)とクミ(里見)を会の崇高なる思想を広める為町に出すことに。大仰に御高説を垂れる杉村に斉藤とクミが「ハイ!先生」と素直に返事するタイミングで、ズンチャカ起動するズージャとともにタイトル・イン。カット数は僅かながら、道場内のサカショーは微妙にせよ里見瑤子と河合純は実際に出張る雪国パートは、何処でロケしたのか本当に雪がジャンジャカ降つてゐる。
 花の東京通勤電車、出し抜けに悶えだした工藤翔子が、傍らの牧村耕二に底の抜けたアプローチ。画面奥で新聞紙越しに額だけ覗かせ、如何にも興味津々に様子を窺ふ小林悟の小芝居が地味に絶品。いはゆる逆痴漢の末に、二人はその足でホテルに。尤も、ホテルといつても物件的には椅子を片付けた摩天楼ではある。事後、工藤翔子がユカリと名乗るのに対し、牧村耕二は行きずりを主張しそそくさと捌ける。一方、元風俗嬢のミナコと元スリのカズヒコからなる痴漢美人局コンビの、一仕事と帰宅しての一戦を長々と描いた上で、忘れた頃に斉藤とクミは東京に到着。ひとまづ電車に乗つた斉藤に、ミナコが接触。傍(はた)で見てゐるユカリも感動するほどの斉藤の馬並の一物に、ミナコは一目惚れ。稼業そつちのけで斉藤を捕獲したミナコが電車を降りてしまひ、クミとカズヒコは取り残される。
 配役残り基本登場順に、カメオ勢からピンク映画界三人目のスーツアクター・薩摩剣八郎は、カズヒコが見捨てる形で一人逃げ尾を引く、ミナコが誤爆するスリ専門の刑事。ゴチャつく台詞が配信動画をイヤホンで見てるのに全然聞き取れない、こんなもの小屋では完全に雑音だ。折角呼んで来て出す以上、録り直すべきではあるまいか。歴史を前後して坂井あいりに酷似する南夕香は、斉藤と、弟子の布教活動を視察すべく三十年ぶりに上京した杉村の二人がかりで痴漢される女。下半身は本格的に責められるものの、特にどころか全く脱がない。森孝が、ミナコ&カズヒコのイントロダクションでカモとなる鳥越俊太郎似なのか、ミナコが斉藤に乗り換へる格好となつた為、カズヒコがクミと組み美人局した際の肥後克広似の何れであるのかは不明。ただ肥後克広似は、これ荒木太郎のアテレコ?沢まどかに至つては、それらしき女性客すら見当たらない。上野オークラの公式ブログには三監督が目茶目茶登場してゐるとあるが、小林悟が全篇を通して車中にビッシビシ見切れるのに対し、堀禎一と竹洞哲也もよく判らなかつた。
 里見瑶子のデビュー作だといふので、明確に選んで見た小林悟1998年全六作中第二作。したところ、随所で深い映画的叙情を突発的に叩き込む表情作りは初陣離れしてゐるともいへ、クミの台詞は相沢知美のアテレコ。となると普通ならば拍子を抜かれかねないのかも知れないが、この点には実は極めて重要な意味があるやうに思へる。何となれば私的なピンク映画史観ではほかならぬ里見瑶子こそが、後に女中女王の座を相沢知美から引き継ぐその人であるからである。そんな里見瑶子のデビュー作で、声を相沢知美がアテる。運命的な偶然に、深い感興を覚えた。それはそれとして、里を離れ娑婆に下りた善男善女が、都会で悪党と出会ふ。本来オーソドックスな枠組の物語である筈なのに、正体不明の―単に不安定ともいふ―リズムで尺を空費し、始終がグダグダと迷走するのは信頼はしないけれどもある意味安心の御大仕事。但し女を幸せにするのは棹で、逆もまた真なり。プリミティブでラディカルな幸福論が行き着く、人を虚仮にしぷりがビートの効いたラストは出色。グルッと一周してスコーンと抜けた、案外正方向の爽快感を味はへる。

 薩摩刑事絡みで一旦仲違ひした上で、ヨリを戻しついでにオッ始めたミナコとカズヒコに気を遣ひヤサを出たクミと斉藤は、とりあへず一夜の寝床を手近な倉庫に求める。何だかんだな段取りで二人が結ばれる件で流れる、まるでといふかまんまNSPのやうなトラックは、あれは一体何なのか。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )




 「喪服妻暴行 お通夜の晩に‐」(1998/製作:ワイ・ワン企画/提供:Xces Film/脚本・監督:遠軽太朗/企画:稲山悌二/プロデューサー:戸川八郎/撮影:鷹野聖一郎・相模昌宏・藤田育男/照明:宮崎輝夫・日刈源次/助監督:山田卓・増尾鯉太郎/進行:米村和絵/メイク:岡田美子/スチール:菊地康陽/録音:シネキャビン/音楽:駿下真実/編集:㈲フィルムクラフト/現像:東映化学/出演:里見瑶子・村上ゆう・河名麻衣・小林節彦・平賀勘一・樹かず・真央はじめ・増尾鯉太郎)。
 小林節彦がワープロを前に一服プカリ、官能小説家の栗林誠一(小林)が、ワープロ画面を映しても冴えないので仕方はないにせよ、不自然にも自分でキーを叩いてゐるのに口述しながら執筆中。情景は、作者自身の遺影に手を合はせる、喪服妻の里見瑶子。軽く割つた裾に手を挿し入れた里見瑶子が、半身の体勢から悩ましげに右に傾けた顔を画面左半分。中央には栗林の遺影、そして右側に鮮烈なフォントで叩き込まれる、完成されたショットが抜群にカッコいいタイトル・イン。孤児で売春婦の朋美(里見)を誠一が拾ひ、作中では“私がこの世に作り出した最高傑作”とさへ称へる自分好みの女に仕上げて行く過程に際して、岩場の海辺での露出愛撫、目隠しした上での口唇奉仕も交へ、タップリ十分消化。一息つく絶妙なタイミングで、セカンド助監督が飛び込んで来る。来宅した編集者の増尾(ヒムセルフ)は鬼気迫ると新作を絶賛するのと同時に、芳しくない誠一の体調に触れ進行上重要な一役をさりげなく担ふ。時代の度肝を抜くほど面白いといふことは別にどころか決してないとしても、遠軽太朗の映画は実にスマートだ。
 来客と入れ替りに増尾は帰社、町まで買物に向かふ、朋美も車に乗つけて貰ふと一旦退場。配役残り村上ゆうは、栗林邸を金の無心に訪れた、誠一の元恋人・旧姓不明で春奈。要は寝取られる形で、春奈はこちらも作家の原田英男(平賀)と結婚。但し共に懐いた純文学志望から官能小説にシフトし成功した誠一に対し、原田家の生活は困窮してゐた。例によつて海を見ながら朋美の乳を揉みかけたところで、終に誠一は倒れる。樹かずと河名麻衣は、往診する医師・橋爪正史と看護婦の松川由香里、不倫の仲にもある。ニッカポッカ×リーゼント気味の真央はじめは、死期をいよいよ明確に悟つた誠一の命を受けた朋美が、自身が誠一に“拾はれた”のと同じやうに“拾ふ”土方・日高繁。
 山﨑邦紀を適当に選んで見るかとしたところ、出て来たのは遠軽太朗第三作。DMMへべれけ過ぎるだろ(´・ω・`)と頭を抱へたくもなりつつ、怪我の功名とはいへこれで遠軽太朗をコンプ出来たことが何より嬉しい。因みに里見瑶子のデビュー作は実際には今作ではなく、二日後といふ公開文字通り鼻差の「痴漢チン入乱乳電車」(監督:小林悟/脚本:五代暁子・小林悟/主演:愛田るか)であるらしい。有難いことにこちらもDMMの中に入つてゐるので、次に見る。小林節彦の静かな語り口で幕を開き、抑制的でシリアスなトーンの中、文学青年同士で奪ひ奪はれした昔の女といふ頗る魅力的なポジションの村上ゆうが登場。誠一が春奈に取材方便と借金の形に英男との夫婦生活を語らせるまではいいとして、証言明けると応接室のソファーの上、春奈がいきなり大股開きでオナッてゐたりなんかする辺りで、雲行きは愉快に怪しくなつて来る。一頻り絡み二連戦を見せると春奈はケロッと捌け、以降は由香里―と橋爪―篇・日高篇と各パートが連関することもなくサクサク移行。尺を十分に残し誠一は臨終、一応クライマックスは英男を間に挿んだ朋美と春奈、新旧二人の女が誠一の遺影の前で乱れるコンセプチュアルな見せ場で纏めるものの、一見文学風に感じられるのは正しく“風”なだけの風情に止(とど)まる、実質的にはシンプルな裸映画である。但し、何時ものエクセスライクだなどとはいはせない、里見瑶子はこの時点で既に、堅実な地力を窺はせる。巴戦の最中、生前に企図した通りの光景が繰り広げられ大仰に御満悦な誠一の幻影を、独り朋美は見る。一旦複雑な心境に顔を逸らせ、再び面を上げた時、誠一は既に消えてゐた。その束の間に里見瑶子が移ろはせる表情は、確かに確かな劇映画を見たといふ鮮烈な印象を残す。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )




 「痴漢電車 イクまで動いて!」(1993『痴漢電車 あなたとイキたい!』の1998年旧作改題版/製作:旦々舎/提供:Xces Film/監督:浜野佐知/脚本:山崎邦紀/撮影:河中金美・田中譲二・難波俊三/照明:秋山和夫・上妻敏厚/音楽:藪中博章/編集:㈲フィルム・クラフト/助監督:女池充/制作:鈴木静夫/ヘアメイク:酒井智恵子/スチール:岡崎一隆/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:広瀬由夏・中島あずさ・本田華奈子・祇樹優可・芳田正浩・平賀勘一・山本竜二)。
 男と女が誰と誰なのか最終的に判らない判らせない、没個性的な電車痴漢にて開巻。クレジットを消化したところでパンストを下ろし、パンティ越しに本丸攻略を始めた中途半端なタイミングでタイトル・イン。結果論からいふとキレを欠いたアバンタイトルに、以降の雌雄が透けて見えるともいへる。
 判り易く旅行帰り風にスーツケースを引いた理穂(広瀬)が、憮然とした風情で帰京。童貞でAVオタクの―あくまで推定―正確には“元”新郎・伸一(芳田)の、身勝手で頓珍漢なプレイに臍を曲げ成田離婚した理穂は、その足で元々不倫相手の石原(平賀)の下へ。石原の熟練したテクニックを満喫する、回想込みの二連戦を華麗に披露。一方、呆然と電車に揺られる伸一は、ハンチングを渋くキメた山本竜二が、祇樹優可に痴漢する現場に遭遇。意を決して追ひ駆けたゴロー(山本)を捕まへた伸一は強引に師事を志願、当然困惑し固辞するゴローに傍目も憚らぬ土下座を敢行、渋々首を縦に振らせる。
 後述するが全ては片付けきれない配役残り、中島あずさと本田華奈子は、石原の細君と、ゴローの指のファンで伸一の練習台にと招聘されるナミちやん。ビリング推定で行くと多分中島あずさが石原細君で本田華奈子がナミちやんではないかと思はれるのだが、ここも特定出来ない。
 旦々舎にしてはあちこち珍しい、1993年浜野佐知痴漢電車。自己中心的な幼い初夜で、婚姻届に捺した判も乾かぬ内に、新妻に逃げられた男が指戯に長けた痴漢師に弟子入り。女と、女を自分から奪つた男への報復を画策する。徹頭徹尾自己中心的な伸一が正直感情移入には難い主人公で、理穂はといへば優しく愛して欲しいだなどと平板な性交観を振り回すほかは、石原との不倫関係を漫然と愉しむばかり。浜野佐知映画らしいアクティブでラディカルなヒロイン像といふよりは、裸映画にお誂へ向きな単なるセックス好きの女に過ぎない。対話でありコミニュケーションであるとする痴漢哲学―大概な方便でしかないが―を披露し、ハードボイルドな求道者としての相を窺はせるゴローも、ナミの登場に伴ひ何時もの山竜に落ち着いてしまふ。何より問題なのは、仕方なく伸一を従へたゴローに軽く責められる、クレジットにも等閑視される正体不明の五番手が一体誰なんだ、といふ神を宿さぬ瑣末では勿論なく。伸一の告発電話を受け旦那の浮気を知つた石原妻が、濡れ場込みで伸一に被害者同士の共同戦線を持ちかける。そこまでは大胆で魅力的な展開を巡らせておいて、理穂を電車の中で陥落させ一泡噴かせてやりたい。ゴローが呆れるのも当然な観客目線でもどうしやうもない目的で動く伸一と、理穂が電車痴漢を通してまさかの普通にヨリを戻した挙句に、石原家騒動に関しては綺麗に丸投げした放置もしくは放棄で済ます。ルーズ極まりないラストには、旦々舎がこんな真似を仕出かすのかとグルッと一周して驚かされた。但し石原家の物件は旦々舎につき、それでもどうしても旦々舎だ。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )




 「壺いぢり名器天国」(1998/製作・配給:大蔵映画/監督:渡邊元嗣/脚本:波路遥/撮影:下元哲/照明:伊和手健/編集:酒井正次/助監督:高田宝重/スチール:津田一郎/監督助手:片山圭太/撮影助手:小山田勝治/照明助手:小田求/録音:シネキャビン/現像:東映化学/出演:西藤尚・十日市秀悦・原田るみ・竹村祐佳・久保新二)。
 「エーッ、私が!?」、人事部長の久尾アキラ(クオなりクビではなくキュービ/久保チン)から寝耳に水のリストラを宣告された、分福麗子(西藤)はポップに仰天する。麗子がそのことで同僚の小林有紀(原田)に泣きつく、背後にはキリンやUCCの自販機が並ぶ休憩室のやうな部屋は、「ねつとり妻 おねだり妻」(1997/監督:深町章/脚本:江戸去里晩)の矢張り冒頭にて林由美香と青木こずえが世間話を交すのと同じロケーションなのだが、これは一体何処なのか。深夜の応接室、久尾と有紀の情事。実は麗子を敵視する―その理由はスッ飛ばされる―有紀に篭絡された久尾が、強権を発動して麗子を退職に追ひ込んだものだつた。と、いふのは厳密には原田るみの裸を銀幕に載せる方便で、後々と齟齬を来たさぬでもない。それは兎も角、尺八を吹かれる久尾の一物は、並外れて馬鹿デカい。他方、早速着弾した先月のグアム旅行の請求に悶絶する麗子は、加藤弁護士事務所からの心当たりのない郵便物に首を捻る。捨てる神あれば拾ふ神あり、といふよりは棚から牡丹餅とでもいふべきか、死去した祖父から古道具屋「夢見屋」を相続した麗子は、颯爽と人生の第二章をスタートさせる。今度は「夢見屋」が、順番を前後して羽生研司のデビュー作「和服熟女の性生活 二十・三十・四十歳」(2001/脚本:遥香奈多)に登場する時代屋と同じ物件。話を戻して、麗子が夢見屋を継いだことが面白くない、顎の外れた有紀は再び顎を外した張本人である久尾を焚きつける。アンティークに興味があつたのどうのかうのと夢見屋を訪ねた久尾は、何だかんだな自堕落な勢ひで麗子を陥落。夢見屋の共同経営者の座に納まり登記を手に入れると、麗子を再放逐する。途方に暮れつつ麗子は、手元に唯一残つた、単なる植木鉢にしか見えないが劇中頑なに壺を、鑑定士・池野口極太郎(十日市)の下に持ち込む。持ち込んだものの、由緒はあれども値打ちはないらしい壺を帰宅後の麗子が軽く拭いたところ、煙を噴いた壺からアラビアンな扮装の竹村祐佳が現れた。何てファンタ映画だ、しかも竹村祐佳て。分福家に仕へる壷の精とやらの綾(竹村)によると、そもそも分福家と久尾一族とは、数百年の長きに亘り争ひ合ふ因縁にあるとのこと。
 十日市秀悦のjmdbに記載のある最初の出演作といふので、見てみた渡邊元嗣1998年最終第四作。してみたところ十日市秀悦が初陣からほぼ完成形で、その点に関しては拍子を抜かれる。物語の大枠としては、時空を超えた狸V.S.狐の伝奇バトル。如何にも如何にもなナベシネマであるとはいへ、飛び道具一の矢の綾が漸く登場するまでにただでさへ短い尺の半分を費やし、その後も分福式名器養成からくり―判り易くいへば名器養成ギブス―なんぞ持ち出しての女子(をなご)の武器を磨く特訓をタップリとと、本筋の首は一向に据わらない。ところがグダグダさに匙を投げかけた残り十分、コーンと飛び込んで映画をヒッコ抜くのは序盤は持ちネタの「ジャン!」も連発する久保新二。久保チンのリミット・ブレイクな怪演に、マッタリし続けた始終が俄に弾け出す発作的な高揚感が堪らない。要は「人妻淫らな情欲」(2000/脚本・監督・音楽:杉浦昭嘉)とやつてゐることは全く変らない筈なのだが、これこそ正しく役者の違ひといふ奴だ。人の手には余る力の諸刃の剣ぶりを平然と放置して済ます豪快さんはさて措き、オーラスを夜空に浮かぶ主演女優の笑顔で堂々と締めてみせるのも、渡邊元嗣ならでは。

 この頃のトレンドなのか、今作もタイトルはエンド・マークの手前に入る。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )