真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「養老ホームの生態 肉欲ヘルパー」(2008/製作:シネマアーク/提供:Xces Film/監督:下元哲/脚本:関根和美/企画:亀井戸粋人・奥田幸一/撮影:斎藤和弘/照明:代田橋男/編集:酒井正次/スチール:佐藤初太郎/録音:シネキャビン/助監督:高田宝重/監督助手:三谷彩子/撮影助手:浅倉茉里子/照明助手:塚本宣威/編集助手:鷹野朋子/選曲:梅沢身知子/現像:東映ラボ・テック/出演:Asami・久須美欽一・酒井あずさ・なかみつせいじ・吉行由美)。出演者中、吉行由美がポスターには吉行由実。端的に、本篇クレジットの方が仕出かしたのか?
 折に触れ繰り返し挿み込まれる、シャープな半透明のサングラスをかけ強い海風に吹かれる、久須美欽一の渋い表情にて開巻。
 海と山に恵まれた景勝地、伊豆か?そこそこの資産家らしい岩淵宗一郎(久須美)は元看護婦で、離婚歴のあるらしいヘルパーの三浦友紀(吉行)と暮らす。岩淵が肉感的なヘルパーに下心を抱く旨をモノローグで告白するや否や、友紀が薄い格好で汗を拭きながら風呂を掃除する模様に際し早速スローモーションが火を噴く。クレジットを真に受けるならばカメラを回してゐるのは当人ではないものの、直後に畳み込まれる友紀が排泄の愉悦に震へるカットといひ、全く以て紛ふことなき下元哲の画作りである。独り痛飲する友紀が、岩淵の視線に気付きつつ酒瓶を用ゐド迫力の自慰に狂ふエクストリーム―但しここでの、潮噴きは角度が明後日だ―を経て、岩淵が直に好意を伝へると何故か即座に、翌日友紀は家内の現金類を持ち出し姿を消す。無頓着なドライさではあるが、後々微妙に効いて来ぬでもない。カット明けると超絶の速さで、そんな次第で出された募集に応じたヘルパー資格を持つ西尾太一(Asami)と、無資格者で太一の姉・千春(酒井)が岩淵の面接を受ける。弟の苦手な炊事や掃除を担当したい、とかいふ千春は正直別に不要ではあつたが、太一を気に入つた岩淵は、ひとまづ姉弟を纏めて雇ふことにする。声の細さ以外は、体格から絶妙に青年に見える太一と岩淵が、当初から妙に距離を近づけるのはいいとして、二人が階段の下りしなに踊り場で会話を交す件が、カメラ位置と動線の塩梅で二人が画面の右端ギリギリはおろか若干外れてすらみせるのは、下元哲がカメラマン・ディレクターである点も鑑みるとなほさら頂けない。話者がフレームに削られる一方で、中央には何の意味もない壁面がのうのうと広がる様は相当に間が抜けてゐる。体調も良く、山道に太一と散策に赴いた岩淵は、普請の安さが迸るが唐突な再登場を果たす友紀が、木村隆二(なかみつ)と森中で致す現場に遭遇する。贅沢にもなかみつせいじは、完全無欠に絡みの一幕を駆け抜ける濡れ場要員。友紀は岩淵家での戦果は早くも散財したのか、事後木村が金を支払はうとするのもよく判らない。話を戻すと、ジーンズを膨らませる怒張を注視する岩淵の手を取つた、太一は自身の男性自身に誘(いざな)ふ。どちらからともなく岩淵は扱き、太一は着衣の中に果てる。その夜、風呂場でのちよつとしたイマジンも噛ませて、岩淵は戯れに、何か余興で楽しませては呉れまいかと太一に申し出る。特にこれといつた持ち芸もない太一は逡巡するが、褒美を出すとの岩淵の声に一計を案じ、一旦退出後女装して戻つて来る。大いに喜ぶも通り越し普通に欲情した岩淵に、太一も抱かれる、のではなく、重ねて倒錯的に、後ろから女の格好をした太一が岩淵を貫く。一方その頃、精の放たれた弟の白いブリーフに点火された千春が、冒頭の友紀と同じ画角で、自ら浣腸し悶え狂ふ外連を叩き込むのは展開上は殆ど無茶苦茶だが、下元哲的にはここにありといはんばかりの全速全肯定である。
 迂闊といふか何といふか、本篇に触れるまで気づかなかったが太一役のAsamiとは、ある意味何のことはない誰あらう亜紗美である。しかも、役作りのために体重を増やしたのか顔がパンパンどころか、全体的にゴツい。といふと、要は翌年松岡邦彦の「男で愛して 女でも愛して -盗まれた情火-」に先立つ、昨今流行るところの“男の娘”の、未だ統一的な名称は安定を見ない逆バージョンを主モチーフに抱いた変化球ピンクである。とはいへ、亜紗美の男装があまりにも様になつてゐるのが功を奏してか禍してか、一見するに太一は一貫して中性的ですらない男として描かれ、トランスヴェスチズムの蘞味なり幻想的な側面が、追及されるでは特にはない。太一と千春が、近親相姦関係にあるのか、単なる犯罪カップルに過ぎないのかも清々しく不分明なまゝに済まされる以降は、深化も何もこれといつたテーマの不存在さへ感じさせるほどに、軽やかに平板でもある。この点に関しては、改めて俯瞰すれば吉行由実に割かれる尺の潤沢さも、全般的には起因しよう。尤も、決定打に欠いた物語が投げやりに進行した上での、オーラスに至つて漸くその真価を発揮する、岩淵が浜風にその身を曝す画の古い映画のやうな無造作な乾きは、最終的な映画トータルの薄さまで含めて逆に堪らない。松原一郎名義による、最後の最後に狙ひ澄まされた鮮烈が炸裂する「折檻調教 おもちやな私」(2009)も踏まへると、改めていふにもほどがあるが、このショット感は裸映画から裸を差し引いた際の、下元哲の主力装備といへるやうに思へる。詰まるところが、邪推するに異性装した女優が主人公といふ、エクセスから与へられた変則的な御題を特に考慮するでもなく、下元哲が普通に、下元哲のピンク映画を何時も通りに撮り上げた一作といふ評価が、最も適当であるのではなからうか。

 ところで、そもそも岩淵は自宅で、養老ホームではない件については最早気にしない。その程度の羊頭狗肉は、往々にしてある瑣末。一本の商業映画の、タイトルであることを忘れればの話だが。冒頭に触れた吉行由実の表記のブレ共々、全く以て実に大らかな世界ではある。


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 「どすけべ夫婦 交換セックス」(2000/製作:旦々舎/配給:新東宝映画/監督:的場ちせ/脚本:山邦紀/企画:福俵満/撮影:小山田勝治・阿部一孝/照明:上妻敏厚・河内大輔/編集:㈲フィルム・クラフト/音楽:中空龍/助監督:加藤義一・田中康文・椎名健大/制作:鈴木静夫/Special Thanks:松岡誠/出演:時任歩・風間今日子・鏡麗子・平賀勘一・柳東史・石川雄也・なかみつせいじ)。出演者中、柳東史がポスターでは何故か久保和明に。どうしたらさうなるのか。
 平沼佑美(時任)は最近距離の遠い公務員の夫・起一(なかみつ)が、頻りに風俗サイトを覗いてゐるらしき様子に悩む。履歴からか、泡風呂「アクシズ」の公式を開いてみた佑美は、そこで鏡麗子が石川雄也と絡むエロ画像に心を乱され、自身も、石川雄也に抱かれる妄想に囚はれる。そんな佑美に、友人の石井マキ(風間)は何事もないかのやうに結構な告白をする。泡が弾けた経済的苦境の余波で、不動産業を営むマキの夫・菊夫(平賀)は五年前よりインポテンツとなり、以来マキは、若い間男との恣な逢瀬を楽しんでゐるといふのだ。あつけらかんとした風間今日子の空気感が、軽やかに飛躍の大きなシークエンスを器用に着地させる。自身の火遊びは兎も角、不能を他人に暴露された菊夫は堪つたものではないが。諸方面に悪びれることもなく、マキは佑美に送つたメールに間男・慎二郎(柳)との情事の模様を収めた動画を添付し、友人の焦燥に無邪気に火に油を注ぐ。風間今日子も風間今日子だが、柳東史の、ライトで細身マッシブなセフレぶりも絶品。意を決した佑美が直接夫を問ひ質し、半年ぶりに義理で抱かれるも埒は明かない中、起一が近所のマンションに越して来たとかいふ、派手派手しい女・江里子(鏡)を伴ひ帰宅する。翌日、江里子は「アクシズ」の名刺を持参し素性を自ら明かした上で、佑美を改めて急襲。江里子いはく、起一は確かに「アクシズ」の常連ではあるが、売れつ子の自分を指名するのは難しく、面識はないとのこと。
 何はともあれ、裸映画としての充実度は圧倒的。硬質の美貌がアンニュイな役柄に映え、主演の重責を堂々と担ふ時任歩に、旦々舎作最強の五番打者・風間今日子。更に、頓珍漢な攻撃力を誇るセクシャル・サイボーグ鏡麗子を擁した布陣は頑丈過ぎるほどの鉄板。俳優部も濡れ場要員まで含め文字通り役者が揃ひ、ただでさへ旦々舎超一流の、煽情性の重量感はなほさら尋常ではない。対して物語の落とし処は、浜野佐知の別名義である的場ちせ作といふ点を鑑みるにつけ、随分と穏当な印象も強い。どすけべな夫婦が正しくセックスを交換する、エクストリームな一幕が順当にクライマックスに設けられはするものの、主体は佑美とマキとはいへあくまでそれぞれ起一・菊夫との関係の継続なり尊重を第一義に置く、一対一の結婚制度自体には検討を加へることもなく容認する結論は、苛烈なるラディカリストの浜野佐知にしては素直に過ぎるあるいは平板ではないのかと、肩透かしに思へなくもない。そもそも、放埓な乱交の末にもあくまで当人達の心がけ次第により、核を成す婚姻関係自体は平常に保たれ得るものであるとするならば、些か楽観主義の底も抜けるとの誹りを免れ得まい。尤も最終的には、適宜挿み込まれるイマジン乃至はナイトメアを通し、次第に佑美の淫蕩で開放された別人格であるかのやうにも取り扱はれる江里子が「もつと自由になりたくないの?」と本質的な揺さぶりをかけるラスト・ショットが、出し抜けともいへ幻想的に叩き込まれる。尤も尤も、詰まるところは斯様に瑣末な野暮をあれやこれやと詮索する足りない頭を、腰から下が黙れ唐変木と制すべき、ひとまづは轟然と撃ち抜かれる桃色の破壊力に、身も心も曝すのが兎にも角にも吉の一作といへよう。

 例によつて、今回は旧題ママによる二度目の新版公開で、今作は2003年に既に一度、「どすけべ2組の夫婦」なる新題で旧作改題されてもゐる。


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 「美人ノーパン下半身 壺飼育」(1991『ナマ本番 変態治療』の2010年旧作改題版/製作:シネマアーク/企画:奥田幸一/提供:Xces Film/脚本・監督:北沢幸雄/撮影:三原好男/照明:佐久間優/編集:金子編集室/音楽:TAOKA/助監督:増野琢磨・樫原積・上野徹/効果:東京スクリーンサービス/出演:浅井理恵・一の瀬まみ・板垣たか子・香田まゆ・山本竜二、男女各二名づつ、野上正義)。撮影・照明助手他諸々ロストする。出演者中、男女各二名づつは本篇クレジットのみ。
 Tachibana Psychological Clinic、八年間のアメリカ留学を経て帰国した精神分析医・立華隆造(山本)と患者の桜井典子(一の瀬)とが、診察室にて全裸ペッティングに戯れる。文字通り乳繰り合ふやうにしか見えないものの、どうやらこれが、これで診療行為の一環、といふかしかも本丸らしい。因みに立華の医学理論といふのが、互ひにボディ・タッチすることにより医師と患者間の精神を交感させ、治療効果を上げるだとか何だとかいふもので、典子の抱へる問題は、酔つた実父に犯されて以来の膣痙攣と男性恐怖症とのこと。簡単にいふと馬鹿馬鹿しいにも程がある、最早グルッと回つて感動的に下らないオープニング・シークエンスではあるが、ピンク映画としてはとりあへずではなく断じて正しい。方便の体裁になんぞ囚はれるな、女の裸―それのみか、一の瀬まみの超絶美身である―を銀幕に載せる、兎にも角にもそれこそが最も肝要なジャスティス。逆に、言ひ草の底の抜け具合を、清々しいとすら寧ろ尊ぶべきだ。場面変つて河口湖の別荘、到着した八神病院院長・八神徳治(野上)を、愛人の村瀬美紀(浅井)が出迎へる。風格と精悍さとを両立させる、在りし日のガミさんが男の目からもカッコよくてカッコよくて仕方がない。八神がシャワーを浴びてゐる隙に、美紀はトランクから漁つた入院患者のカルテと思しき書類に、気忙しくコンパクト・カメラを向ける。どうやら美紀は、何かを探つてゐるやうだ。自宅のプール―物件は、ミサトではない―で優雅に泳ぐ立華に、アメリカ在住時の彼女から電話がかかつて来る。といふ次第で、立華が得意気に駆使する中学英語に何と字幕がつく、現在の目からすると驚きの一幕も挿みつつ、立華は後輩・村瀬(不明)のジャズ・バーを訪ねる。旧交を温めた先輩に、村瀬は穏やかではない相談事を持ちかける。村瀬の亡母は、八神病院に入院した途端に容態を悪化させ結果死去した。いはゆる薬漬けにされたのではないかと強い不信感を抱く村瀬は、立華に同業者の専門的見地から八神病院のことを調べては貰へまいかといふのである。それもさて措き、立華は八年の間に美しく成長したであらう、村瀬の妹に呑気に思ひを馳せる。
 ビリング順―登場は逆―に板垣たか子は、八神の本妻・恭子。幸か不幸か脱ぎはせず、この人の素性が全く判らないが、芝居の手堅さとガミさんに年齢的にもつり合ふいい感じの令夫人ぶりとを披露する。対してこちらは絶妙なワイルドさが堪らない香田まゆは、金で雇はれ恭子の替へ玉を演ずる女・光絵。普通に考へれば八神夫人にしてはどう見ても若過ぎる、偽恭子は夫との不仲の末にノイローゼを患つたと称して立華に接近する。深夜にも関らず加へて河口湖にまで、睡眠薬のオーバードーズを偽り呼びつけると、半ば自暴自棄の立華と強引に事に及んだ光絵は、秘かにその模様を写真に収める。改めて立華に接触した本物の恭子は、仔細はどうあれ医者が患者と関係を持つた動かぬ証拠をネタに、亭主の二号を手篭めにすることを回りくどく強ひる。要は、恭子・光絵連合軍は兎も角典子に同じことをされた場合、立華は忽ち詰みかねない訳で、改めてといふのも我ながらどうかと思ふが、甚だ無防備な医療手法ではある。
 開巻に羅列された一見全く無関係に思へた二つの情事が、やがて大胆かつ鮮やかに結びつき、束ねられた物語が力強く動き始める。とは些か称へ難く、正味な話が画期的な偶然に支配された、良くも悪くも御機嫌な一作である。無理なく呑みこめるのは、村瀬からの依頼を受けた立華が八神病院をロック・オンするベクトルまでで、一応の説明原理も整へられるとはいへ、恭子が夫に一泡吹かせる特務をわざわざ立華に負はせることには少々どころではなく飛躍が大きく、挙句に河口湖での無造作な衝撃の再会に至つては、無茶苦茶だと片付けても差し支へあるまい。尤も、無理矢理畳んだ一件を、そこだけ切り取れば完璧なラスト・ショットで爽やかに落着させる力技には、陽性の北沢幸雄らしさも窺へる。実のところは、主演女優の印象が一番心許なかつたりもする不均衡が映画全体に影響を及ぼさない筈はなからうが、逆から見れば三本柱の粒は強力に揃ひ、裸映画としては頑丈に見応へがある。徐々に通院が功を奏する、といふよりは、直截に関係を深めて行つてゐるやうにしか見えない、典子パートが本筋には特に関らない反面、腰から下で観る分には満足度は極大。洋行帰りといふことで、山本竜二が片仮名で振り回す単純な英会話も微笑ましく、三種三様の濡れ場をタップリと楽しんで、最終的な据わりの良さに何となく騙されて心地良く小屋を後にする。さういふ大らかな酔狂に戯れるのも、時に一興といへよう。立華の愛車のセダンの左全部が、一体何を仕出かしたのか尋常ではなく壊れてゐたりするのも、実にチャーミングである。

 ところで残る問題は、ポスターにも名前の見られる浅井理恵から山本竜二までと野上正義の六人の他に、本篇のみ男女各二名づつが更に出演者クレジットされるものである。ところが、立華の後輩兼美紀の兄貴の、村瀬以外の目立つた登場人物といふのが、どうにも見当たらないのだが。


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 「寝乱れ人妻の妹」(2010/製作:ナベシネマ/提供:オーピー映画/監督:渡邊元嗣/脚本:山崎浩治/撮影:飯岡聖英/照明:小川満/編集:酒井正次/助監督:永井卓爾/監督助手:市村優/撮影助手:桑原正祀/照明助手:八木徹/編集助手:鷹野朋子/スチール:津田一郎/タイミング:安斎公一/効果:梅沢身知子/録音:シネ・キャビン/現像:東映ラボ・テック/協賛:ウィズコレクション/出演:西野翔・山口真里・真田幹也・仲田敬治・藍山みなみ)。
 高校時代はサッカー部の花形選手と美人マネージャー、とかいふ、我々が愛したかつてのティム・バートン的には清々しい憎悪の対象ともなつたであらう、浅田慎也(真田)と旧姓西尾咲子(藍山)は当時からの恋愛を経て結婚後六年。然れども現在、夫婦仲が必ずしも順調とはいへなかつた。お人好しの慎也は同僚を庇ひリストラ、コンビニでバイトもしつつ、家計はディベロッパーで働く咲子が支へてゐた。そんな西尾家に、こちらも仕事を辞め実家から出て来た、咲子の妹・美波(西野)が家人も気づかない隙に転がり込む。そんな次第で、知らぬ間にシャワーを浴びてゐた美しい義妹に、慎也が仰天するのがオープニング・シークエンス。無造作極まりない開巻ではあれ、ラブコメとはそのくらゐ底も抜けてゐて初めて順調に転がつて行くやうに思へなくもなく、この時点に於いては、さしたる障壁も感じさせない。その晩、闖入者の色香にもアテられ致した慎也と咲子の夫婦生活は、二ヶ月ぶりのものであつた。翌日、いふまでもなく咲子は出勤。実は本篇中終始別に働く素振りも見せない慎也は家に残る中、一人で東京見物にと繰り出した美波は、咲子が部下とやらの大場淳(仲田)と、かといつてとてもそれだけの間柄には見えない親密な様子で連れ立つのを目撃する。実の姉を捕まへて、ある意味破廉恥にも思へるが美波は即座に携帯でムービーを撮り、こゝから先は厳密には他人は与り知らぬ正しくプライベートでもあるが、現に咲子と大場はホテルに入る。とりあへずな濡れ場をこなした事後、職場不倫とはいへ日々の張りを見出す咲子に対し、学生時代からの恋人と結婚も決めた大場は別れを切り出す。と、ころで。事前に名前の字面に見覚えは全くなく、後にも印象が綺麗に残らない仲田敬治は、真田幹也や西岡秀記らと同じ芸能プロダクション「今井事務所」所属。話を戻して、一体どういふ了見なのか帰宅後美波は、妻を信用し義妹の言葉を真に受けない慎也に、動画も突きつけ姉の不貞を告発する。
 ピンク映画初参戦となる当代のAVアイドル・西野翔を、アイドル映画の雄・渡邊元嗣が時に活き活きと、時に儚くも美しく銀幕に焼きつけることには、勿論ひとまづ以上の成功を果たしてゐる。尤も、全般的に劇映画としては、まるで起承転結の本来は存在した転部を丸々スッ飛ばしてしまつたかのやうな、壮絶にテローンとした一作ではある。決定的な展開上の手数の不足に加へ致命的なのが、途中まではこの人が大場の婚約者かとも思はせた、山口真里のポジション。慎也の元同僚・佐山翠(山口)が、同時に浮気相手といふのは派手に頂けない。後に届く結婚式の案内に見切れる、お相手のオッサンは永井卓爾。激しく明後日に勘繰ると、仲田敬治に二つ目の絡みを負はせるのを途中で断念した―相手が誰にせよ、兎に角山口真里が一度は脱いで絡まなくてはならない―のかも知れないが、ともあれ、どんなクズ男に惚れようと美波の自由、と片づけてしまへばそれまでながら、流石にこれでは、全てを見る観客の目からすればどうしてもヒロインの純愛物語上不都合を覚えざるを得まい。ただでさへ勝手に現れた美波が勝手に捌ける平板さの中で、お互ひ様の倦怠期気味夫婦が何時の間にか平穏にヨリを戻しました目出度し目出度し、では、幾ら何でもそもそも今作の主人公は一体誰なのかといつた辺りから、少々どころでは済まず物語の体を成してゐない。因みに、藍山みなみの甚だ不安定なウェイトが昨今は落ち着いたのか今回も問題はなく、三番手を駆け抜ける山口真里は兎も角、西野翔のポートレート映画とでも割り切つて攻めるほかには捉へ処も俄には見つけ難い、起伏に乏しい難所映画である。


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 「火遊び女房 乱婚のすすめ」(1994『本番 《秘》夫婦生活』の2006年旧作改題版/企画:セメントマッチ/製作:オフィス・バロウズ/提供:Xces Film/監督:池島ゆたか/脚本:五代響子/撮影:下元哲/照明:田中三郎/編集:酒井正次/助監督:高田宝重/監督助手:森山茂雄/撮影助手:鈴木一博、他一名、釣崎清隆/出演:泉京子・杉原みさを・杉下なおみ・黒沢俊彦・神戸顕一・もりやましげお・ちよみ・山ノ手ぐり子・林田義行・柴原光・太田始、他、池島ゆたか)。照明助手を、雨宮姓までで力尽きる。
 中堅会社課長の雨宮広彦(池島)は二度目の結婚で十五も若い細君を貰ふと、後述する職場仲間からの誘ひも断り、専ら仕事が終るや真直ぐ帰宅する日々を送る。けふも、といふかけふは雨宮を、妻・サツキ(泉)は女学生のセーラ服姿で待つ。そのまま雨宮も朗らかに詰襟の学生服にチェンジ、部屋の中でフォーク・ダンスも繰り出す先輩と後輩プレイに戯れた夫婦は、しかもその模様を8mmビデオに収める。事後は膨大な自画撮りビデオのコレクションを前に、私はこれが好き僕はこれがいいと、二人は仲睦まじく盛り上がる。といふのも、雨宮は欠片も登場しない前妻には、セックスレスの末に逃げられてゐた。雨宮とサツキは夜の営みがマンネリズムに陥らないやうに、日々和気藹々かつ貪欲に、性生活の探求に明け暮れてゐるものだつた。雨宮の部下・内藤美奈子(杉原)が誕生日プレゼントに寄こした、正直別に高さうには見えないダサい腕時計に、サツキは無邪気に冷酷な悪巧みを思ひたつ。妻は実家と偽り、雨宮は美奈子を自宅に連れ込む。糠喜ぶ美奈子と夫が致すのを覗き見ながら、潜んでゐたサツキは熱い自慰に耽る。後にその事実を知つた美奈子は当然憤慨するが、勿論回してゐたビデオを盾に、雨宮は黙らせる。出汁にした美奈子を振り返ることもなく、雨宮夫妻は走り続ける。ライトに悪びれないが、なかなか凶悪な夫婦ではある。サツキがテレクラで調達したイケメン大学生・今井尚也(黒沢)が、雨宮のマンションに向かつてゐるらしき様子に、依然諦めきれない美奈子が交錯する。現に今井が雨宮家に入つて行くのを確認した美奈子は、果敢にもベランダに突入。すると最初からネグリジェで現れたサツキに続き、御丁寧にも老けメイクを施した上で、ガウンを羽織つた雨宮が車椅子に乗り登場。事故により下半身の自由と男性機能を失つた自分の代りに妻を抱いては貰へまいか、といふ―今井は知らぬが実際には―筋立てを切り出す。何故か微妙に富豪風の池島ゆたかが姿を見せるショットが、笑ひ処としての機能も伴ふことはいいとして、見守る雨宮を手前に置き今井に抱かれるサツキを屋内から捉へた窓の外に、呆れて座り込んだ美奈子即ち杉原みさを―みさおの誤記ではなく、本篇クレジットはあくまでみさを表記―のソバージュの髪型も込み込みで巨大な背中を、無造作に映り込ませてみせるのは些か如何なものかとも思ふ。都心を離れざるを得ないマイホーム計画も絡めて、サツキと雨宮は更に加速。今度は女を交へての3Pだといふことで、池島ゆたか映画御馴染みのシティ・ホテルに、ホテトル嬢・ゆかり(杉下)を招聘する。ゆかりの勧めで、SMにフロンティアを見出した二人は猛勉強の末、紹介された「倒錯の館」へと出向く。流石に警戒心も隠せない雨宮とサツキを、ショーロホフではなく新田たつおの方の、『静かなるドン』に於ける近藤静也のやうなビジュアルの館の主(神戸)が迎へる。
 本篇クレジットのみ名前の載る、もりやましげおから太田始、他までの配役を纏めて片付けると、まづセカンド助監督と兼任するもりやましげおは、都合二度登場する雨宮の部下・村田。それなりの台詞も与へられ仕事終りの会話がてら、雨宮の人物設定説明に協力する。ちよみから太田始、他までは、総勢四組の男女が銘々のプレイに燃える、「倒錯の館」要員。内一名は杉下なおみがM嬢として再登場を果たす為、拾ひ零したのは男女各一名である筈で、その中に、体型から高田宝重は含まれないものと思はれる。柴原光は無理としても、太田始の特定は能はず。山ノ手ぐり子(=五代響子/現:暁子)が、張形をベロンベロン舐め回す、結構な暴れぶりを披露する。クレジットの号数が他の者よりは明らかに大きい、ちよみといふ投げやりな名義の正体が実は、a.k.a.本城未織こと林田ちなみ。かつて戯れに語られた、PG誌編集発行人・林田義行との姉弟説をこの期に真に受けてゐる間抜けなんぞ、小生ドロップアウト―コメント欄も、併せて御一読頂きたい―の他には居らぬであらう。話を戻すとサングラスで顔を隠してもゐるものの、整つた顔立ちから、ちよみが決して林田ちなみその人と知れないこともない。因みに、ちよみ女王様に責められる奴隷が林田義行と、W林田はペアを組んでゐる。案外他でも実現してゐたのかも知れないが、個人的には初見のこの組み合はせは、さりげない隠し飛び道具ともいへるのではあるまいか。実は何気に、旧版は判らぬがポスターにも堂々と抜かれてゐる。
 ドリフ夫婦コントに於けるゲスト女性歌手のやうに、一々サツキが性交渉の惰性に大袈裟に慄いてみせる様も微笑ましい、夫婦生活の研究に情熱を注ぐ好色夫婦が繰り広げる腰から下へ下への一騒動。あちこち移動し続ける訳では別にないが、セクシャルな意味合でのロード・ムービーとでもいふに相応しい趣向は、ピンク映画として素晴らし過ぎるまでに鉄板中の鉄板。終始ポップで小気味よい演出部の堅調に加へ、冷静には馬鹿馬鹿しくなくもない物語をそれでも温かく輝かせるのは、取りも直さず主演女優・泉京子の銀幕に咲き誇る魅力。キュートなファニー・フェイスには不釣合ひな、脱がせてみると意外なほどに悩ましく豊かなオッパイの、桃色の威力は正しく決定的。若くて可愛くてスタイルも良くて、かてて加へてセックスも大好きな、斯様に羨ましいことこの上ない奥さんの居る雨宮の幸福感をダイレクトに共有出来る。逆からいへば二番手三番手には弱さを感じさせるともいへるのだが、そこは引き立て役に回つたものと、好意的に捉へるべきだ。杉原みさをには芝居の堅さで序盤の地味に重要な繋ぎ役を担はせ、純然たる三番手濡れ場要員に過ぎなくとも仕方がなかつた杉下なおみにも、「倒錯の館」への屈託ない誘導を果たさせる。隙のない三本柱の起用法は、目立たないが秀逸。「倒錯の館」にて、最初はその場の異様な雰囲気と、居並ぶマニアさん達の迫力とに気圧されてはゐたサツキと雨宮も、やがて意を決して衆人の注視する中、いよいよ事に及ぶ。サツキが達するや一同が拍手を以て美しい夫婦愛を祝福する場面は、フェデリコ・フェリーニの「8 1/2」のラスト・シーンをも髣髴とさせる、とまでいふのは、頓珍漢の度が過ぎると笑はれようか。それはさて措き、側面ながら最も感動したのは、サツキと雨宮の濃厚な夫婦物語の返す刀で、互ひに騙された者同士といふ形で今井と結ばせた、美奈子の処遇も通り過ぎて済ますことなく回収してある点。映画トータルの抜群な安定感を、幾分叙情的なフィニッシュで締め括る終幕まで含めて完璧。愉快でいやらしい娯楽ピンクの決して気負ふこともない、軽やかな到達点である。

 微力及ばず、有無から音楽担当のクレジットを確認し損ねたが、雨宮夫婦がエロ本を熟読し受験勉強さながら次なる機軸を摸索するカットに際しては、「ロッキー」の映画音楽を豪快にパクつてみせる。一応、少しだけ弄つてゐたりもする辺りは御愛嬌である。


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 「ザ・痴漢教師 制服狩り」(1997/製作:IIZUMI Production/配給:新東宝映画/脚本・監督:北沢幸雄/企画:福俵満/製作:北沢幸雄/撮影:小西泰正/照明:渡波洋行/編集:北沢幸雄/音楽:大場一魅/助監督:増野琢磨/監督助手:三輪隆・飯田勇地・小林一三/撮影助手:佐藤剛・奥田武史/照明助手:細貝康介・小倉正彦/ヘアメーク:りえ/スチール:本田あきら/エキストラ:日暮謙&Dear Friends/ネガ編集:酒井正次/効果:東京スクリーンサービス/録音:シネキャビン/現像:東映化学/出演:メイファ・西山かおり・麻生みゅう・佐伯奈美子・川瀬陽太・樹かず・杉本まこと/友情出演:神戸顕一・濱本泰輔・真央はじめ)。正確なビリングは、樹かずと杉本まことの間に、本篇クレジットのみの特別出演を挿む。
 ファースト・カットは混み合ふ電車の車中、杉本まことが、女子高生の制服姿の佐伯奈美子に痴漢をする。出番は清々しくこの開巻のみの、佐伯奈美子の駆け抜けぶりはある意味見事。感動的に、女子高生には見えないけれど。
 後に西山かおりの口から語られるところによると、そこそこの偏差値らしい私立順光学園。数学教師の鎌田利明(杉本)は、「笑つていいとも!」に於ける観客を転がすタモリを真似たウザさで生徒を乗せ、現代社会の大崎順司(川瀬)は授業中にマンガを読む不良気味生徒の上野(樹)と揉み合ひになり、英語を教へる神田梓(メイファ)は教師らしい清楚な装ひながら、狂ほしく人妻の色気も漂はせる。放課後、進路指導を担当する鎌田は、成績が悪く大学受験に悩む西台優子(麻生)を、四の五の言ひ包め裸にまではヒン剥いた上で、今回はとりあへず文字通り触りだけ辱め、着用してゐた下着を奪ふ。演出の力もあるのであらうが、麻生みゅうの実際にお頭(つむ)の弱さうな感じが場面に力を与へる。一人住まひにも関らず鎌田の箪笥の中は、同様に手篭めにした生徒のものと思しき、女性用下着で一杯であつた。翌日か、終に激突した大崎と上野が、廊下で大立ち回りを演じた大騒動もさて措き、しかもだから既婚者だといふのに梓を口説いた鎌田は、ものの見事に玉砕。変質的な粘着ぶりを発揮した鎌田が跡を尾けてみたところ、意外にも大崎と落ち合つた梓は、あらうことかホテル街に消える。大崎は未婚のやうだが、二人は不倫関係にあつたのだ。ブラウスの正しく悩ましい膨らみだけで既に及第点を軽々と突破しつつ、濡れ場に際して披露されるメイファの超絶美乳の、桃色の威力は抜群に高い。結果論としては、この件以降樹かずが再び登場することはないため、若干の消化不良感も残さぬではないが、鎌田は上野に、大崎が援助交際をしてゐるとのガセネタを仕込む。続いて鎌田は大崎の名を騙り、他校の援交JK・青山英美(西山)と事に及ぶ。ところが小娘の大人を舐めた態度に逆上した鎌田は、衝動的に英美を絞殺してしまふ。英美が絶命した瞬間にジャン!と派手に鳴る、大仰な劇伴が堪らない。音楽堪能で、ポスターに大場一魅の名前を見つけた際には新東宝がやらかしたのかとも思つたが、本篇クレジットにもその旨明記される。
 二作目以降は池島ゆたかにメガホンを託し、「ザ・痴漢教師2 脱がされた制服」(1998/2002年に『獣欲教師 校内セックス』、2009年に『獣慾学園 やりまくり』と旧作改題)、「ザ・痴漢教師3 制服の匂ひ」(1999/2002年に『淫行教師』と旧作改題、2010年に旧題ママにて新版公開)、「ザ・痴漢教師4 制服を汚せ」(2001/2004年に『淫乱教師 SEX進路指導』と旧作改題、2011年に旧題ママにて新版公開)と、全て杉本まこと(2000年になかみつせいじに改名)を主演に据ゑ都合四作製作された、「ザ・痴漢教師」シリーズの第一作である。勿論、御多分に漏れず2007年に「痴漢する教師 不倫と制服」と旧作改題されてもゐる今作に話を絞ると、痴漢教師の底の浅い姦計が、通り一遍進行してポップに頓挫するばかりの、所々で鎌田の造形にはエグみも見せつつ、平板な印象も強い一作ではある。下手にお話を馬鹿丁寧に追ふよりはいつそ、メイファの素晴らしい裸身をお腹一杯に堪能させて呉れたならばまだしも、といつた心は残り、とりわけ、毒牙にかけた梓に鎌田の獣欲が完遂される、エクストリームな一幕が設けられは終にしなかつた点は激しく惜しい。上げ底の物語を収束させるのにただでさへ短い尺を使ひきり、相手は鎌田でも大崎でもはたまた明後日から上野であつてすら兎も角、締めに梓の濡れ場を再び持つて来れなかつた構成あるいは配分は、ピンク映画的にはなほさら決して小さくはなからう減点材料である。改めてよくよく考へてみると、この粗相は、意外と北沢幸雄が往々に仕出かすものであるやうな気がしないでもない。

 友情出演の三人は、梓の手引きで鎌田の部屋に踏み込む刑事三人。


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 「貪欲な人妻たち -うづうづする-」(2002『いぢめる熟女たち 淫乱調教』の2010年旧作改題版/製作:フィルム・ハウス/提供:Xces Film/監督:佐倉萌/脚本:佐倉萌/企画:稲山悌二/プロデューサー:伍代俊介/撮影:加藤孝信/照明:倉橋靖/編集:フィルムクラフト/助監督:竹洞哲也/監督助手:斎藤勲・上乗直子/撮影助手:茂呂高志/照明助手:小林卓実/録音:シネキャビン/スチール:本田あきら・伊藤久裕/タイトル:道川昭/現像:東映化学/協力:Mr.SEN/出演:鷲亮子・翔見磨子・鈴木敦子・風間今日子・藤岡太郎・渡辺力・森羅万象《特別出演》)。出演者中、カメオの森羅万象は本篇クレジットのみ。
 結婚七年、伊藤沙弥香(鷲)と夫の修二(渡辺)は清々しく倦怠期にあつた。求めるも夫には拒まれた翌朝、沙弥香は修二を送り出すと、いそいそと身支度を済ませ浮気相手・仙道崇(藤岡)の単身赴任宅へと向かふ。よくよく考へてみると、ここで躓いても別に構はなかつたのだが、少なくともこの時点に於いては、未だピンク映画的には進行も円滑であつた。仙道が仕事はどうしたのか、午前中から沙弥香と一戦交へるところに、厳密にはそれを“帰宅”とはいはないのだらうが、兎も角ホステスの京香(風間)が、まるで自分の家かのやうな勢ひで仙道宅に戻つて来る。あまりに堂々とした京香の風情に妻かと勘違ひした沙弥香は一旦身を隠し、連戦の隙を見て脱出する。その一件について、結婚前からの親友・奥野尚美(翔見)に愚痴を零す沙弥香ではあつたが、何のことはない、開始時期こそ明示されないものの、尚美は修二と現在進行形の不倫関係にあつた。一方、仙道も仙道でとことんお盛んな男で、業者として出入りする病院の看護婦・浜田律子(鈴木)とも更に関係を持つてゐた。特別出演の森羅万象は、院内に登場するガッハッハ系医師。もう一人抜かれる、屋上で一服する入院患者役は不明。もしかして、この人がSEN氏?とまれ後日、京香は呑気にシャワーを浴びる仙道の家を、沙弥香が再び訪れる。京香はとりあへず隠れたものの、時間差で訪ねて来た律子と、沙弥香が鉢合はせる事態に。脊髄で折り返した修羅場に京香もバツが悪さうに顔を出し、マンコ・シスターズ、もとい棹姉妹ともいふべき三人は仙道に呆れ果てる。挙句に何故かそこに尚美も顔を並べ、女達は女を弄ぶ男達に一泡吹かせるべく、逆襲の気炎を上げる。
 しのざきさとみ・小川真実とオムニバスの一篇づつをそれぞれ監督した、1/3デビュー作「人妻不倫痴態 義母・未亡人・不倫妻」(2001)に続く、佐倉萌の長篇第一作である。尤も、その後の監督作は七ヶ月後の第二作「貪る年増たち サセ頃・シ盛り・ゴザ掻き」(2002)以降、依然途絶えてもゐるのだが。それはさて措き今作単体に話を絞ると、不誠実な男達を懲らしめる女達の爽快な活躍を描かうとした、相談など通りはするかと机も叩かんばかりに、まあ事こゝに至ると逆に感動的なほど瓦解した物語がまるで体を成さない、強ひてよくいへば噴飯作である。下手糞な繋ぎで沙弥香と律子が揉み合ふ現場に、京香も仕方なく姿を現すまでは百歩譲つていゝとしても、そこに何時の間にか、元来無関係の筈の尚美も割り込んで来る辺りからが完全にへべれけ。順に鈴木敦子・風間今日子・鷲亮子を嘗めた画の最後に、シレッと翔見磨子も出てきた瞬間には素面で我が目を疑つた。インター・UN・PWFならぬ鷲亮子・鈴木敦子・風間今日子の、藤岡太郎の女優三冠だけでも既に十分に豪快な話だが、ビリング後ろ二人との―濡れ場に限定せずとも―絡みは以前にワン・カットたりとて置きもせず、火に油を注いで何時の間にか渡辺力が女優陣総嘗めの四冠を達成してゐたりもするのは全く以て滅茶苦茶。そもそも、これでは沙弥香と律子と京香はともに―少なくとも―修二と仙道の二股をかけ、尚美に関しても、自ら白状したとはいへ悪びれるでなく、堂々と親友の旦那を寝取つてゐた訳である。斬つて捨てるが、彼女達の誰一人すら、修二や仙道を非難する謂れなどなからう。仙道との不貞は棚に上げ、修二に離婚届を突きつける沙弥香の憎たらしいしかめ面には、久し振りに銀幕の向かう側に本気で腹が立つた。重ねてその上でなほ、存続する沙弥香と尚子の女の友情とやらで映画を畳むなどといふのも、一体佐倉萌は何を血迷ふてこんな頓珍漢な脚本を書いたのか、巨大な世話の男目線では画期的に不自然としか映らない。男同士でも、斯様に珍奇な友情などあるものか。仮に、この状況で同性間の交友関係がその後も成立し得るとして、そのやうなものは友情の名には値すまい、打算でなければ単なる自堕落である。加へて、ビリング前二人の素材にさへ難があり、如何なる場面にあつても求められた自分の仕事だけは頑丈に完遂する森羅万象の逞しさ以外には、探してみても見るべき点が俄には見当たらぬ。人妻たちは貪欲かも知れないが観てゐるこちらはうづうづしない、直截にいふと相当に凶悪なデビュー本戦である。


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 「性交エロ天使 たつぷりご奉仕」(2010/製作:Blue Forest Film/提供:オーピー映画/監督:竹洞哲也/脚本:小松公典・山口大輔/撮影監督:創優和/編集:有馬潜/助監督:山口大輔/監督助手:櫻井信太郎/撮影助手:丸山秀人・高橋舞/音楽:與語一平/協力:Sunset Village・加藤映像工房/エンディング曲『僕らは未来を歩いてゐる』作詞:小松☆大輔・作曲:與語一平・歌:藤崎クロエとB.F.F.合唱団/出演:藤崎クロエ・かすみ果穂・若林美保・津田篤・吉岡睦雄・サーモン鮭山・岡田智宏・倖田李梨)。
 竹洞哲也の故郷青森ででもロケを張つたのか、豪雪の中、「トキコ、頼んだよ」と津田篤が藤崎クロエを静かに送り出す。「ピョン☆」と一声藤崎クロエの姿が消滅するや、カット変つて現代、何処ぞの雪町。町のマドンナの虎田ジュリーならぬ樹里(かすみ)が、兎年のマスコット・ガールを目指してゐるとやらでピョンピョン撥ねて矢張り深い雪の中を進んで来る。正直な話、樹里のキャラクター造形は可愛らしいといふよりは病的に不安定で、半分頭の弱い女にしか見えない。一方、沢田TOKIOもとい登喜男(津田)が、ガキ大将からそのまま長じた親分格で米屋の大山麗人(サーモン)、町長の息子で参謀格の時野杉男(吉岡)、町一番の秀才らしいが微妙にトランスジェンダーな海側郁夫(岡田)らから苛められてゐる。三人は三十にして無職の登喜男を馬鹿にするが、要は四人全員、やつてゐることが子供と変りないことは疑ひない。技名がよく聞き取れない投げ技で登喜男を葬り去り、返す刀で杉男と郁夫も蹴散らし、乾いた唇はワインで濡らすのかどうかは兎も角麗人はその場に現れた樹里の後をついて行く。改めて後述するが、サーモン鮭山の戯画的で痛快な暴れぷりは最高だ。未亡人、設定には父親役を端折るといふ実質的なメリット以外に本筋に関る欠片の意味もないが、演者の年齢を隠す為か美容パック好きでもある母親・聖子(倖田)に手当てされた登喜男が、取り出せばズボンの腰口から優にはみ出すほど甚大に余つたドリルの皮をベローンと引張り黄昏てゐると、あらうことか、余るどころか長大に拡がる皮の中から、トキコ(藤崎)が飛び出して来る。当然目を白黒させる登喜男に対し、トキコは更なる驚愕の事実を告げる。何とトキコは登喜男の子孫(開巻に登場する津田篤の二役)に遣はされたロボットで、麗人の双子の妹・麗子(勿論サーモン鮭山の二役)と結婚し悲惨な人生を送る登喜男の運命を変へ樹里と結ばせる為に、未来からやつて来たといふのだ。嘘か誠かロボットだといふことで、「ビームとか出せる?」、「出せない」、「ミサイルは?」、「無理」、「変形出来る?」、「出来ない」が、合体ならば出来ると軽快な遣り取りを経て、トキコは登喜男と「釣りバカ日誌」風に合体。事後、トキコは観音様から、メガネ型のガジェットを吐き出す。重ねて驚くことにトキコには、精子レベルで取り込んだ相手の願望を、叶へる道具を作り出す能力があつた。半信半疑ながらとりあへずメガネをかけ換へてみたところ、衣服の下が透けて見え登喜男は驚喜する。喜び勇んで外に飛び出した登喜男の前に、最終的にオチは麗人が現れたことはいふまでもあるまい。
 ここまで来ていはずもがなをいふやうだが、トキコがドラゑもん。樹里が一応しずかちやん。登喜男がダメ人間のアイコン・のび太で、麗人と杉男がジャイアンとスネ夫に、郁夫が剛田軍門に下つた出来杉ポジション。などといふ、大胆不敵にもピンク映画版『ドラゑもん』である。国民的マンガをピンク映画に拝借するとは、竹洞組は兎も角オーピーはよくぞこの企画を通したものだと感心しかけたが、何も徒に畏れ入ることはない。結論からいふと、正攻法のデビュー二作は遠いラックに過ぎなかつたのか、以降は、殊に近年は自分達のカラーに固執し概ね小ふざけ悪ふざけに終始して来た竹洞哲也が忘れた頃に叩き出した、必殺のマスターピースである。何はともあれ、女優はさて措き俳優部のヴィジュアル的な再現度が地味に高い。中でも、体躯を活かした豪快なアクションも映える壮絶唱法まで含めたサーモン鮭山のジャイアンは、女装も手慣れたものでジャイ子込み込みで完璧。もしも仮に万が一、本家がトチ狂つて実写映画化に乗り出した暁には、サーモン鮭山には今作をソフト化したものを手に是非とも本気で狙ひに行つて頂きたい。鉄板のジャイアンぶりで麗人が巧みに間を繋ぎつつ、家庭教師を強ひられた郁夫―この人の名前の由来が見えない―は登喜男の頭の悪さが伝染し、発狂して退場。杉男は杉男で、義母・順子(若林)と駆け落ちするといふ、飛び道具的な展開も随時盛り込みながら、そこかしこでトキコが何気に悲壮なフラグを積み重ねる。樹里を巡り麗人だけでなく登喜男も無理矢理出場する羽目になる、町内相撲大会といふ娯楽映画的にうつてつけのイベントも軸に、何時しかSF風味のお色気コメディは、本質的に忠実過ぎるまでの『さやうならドラゑもん』へと華麗に移行する。悪くいへば臆面もないコピーともいへ、それなればこそ振り抜かれるエモーションは絶大。この際オリジナリティなんぞ、犬にでも喰はせてしまへ。最後の対決時に、何故か性交も伴なはずにトキコが繰り出した、仔細は不明の都合三番目の秘密メガネを登喜男が装着したただならぬ気配に、振り返つたサーモン鮭山が見せるこれまで観たこともない神妙な表情には、刹那に映画の神が微笑みかけたかのやうなマジックを感じた。締めの濡れ場から連動する、トキコと登喜男の悲しくも猛烈に美しい別れに際しては、カメラがジワーッと寄る手法は全く平凡なものであるにも関らず、もうどうしやうもなく心を撃たれる。結局一人残された登喜男が、決然と未来を歩き始めるラスト・シーン。登喜男が見付けた、十全な伏線も踏まへたトキコ忘れ形見の鈴の、実はハート・マークであつた鈴穴が大写しになるショットこそが実に竹洞哲也的な結実で、なほかつここに、涙の堰は終に決壊する。大人の娯楽にしては全般的に少々チャチいが、徹頭徹尾ダメダメであつた主人公が、出会ひそして別れの末に、雄々しく自分の力で歩き出すまでを描いた、磐石の正統派正方向の娯楽映画。面白可笑しくやがて全力で感動させる、完成された一作である。


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 「ヘルパーの時間 助平な訪問」(2003『三十路家政婦 いかせ上手』の2010年旧作改題版/製作:シネマアーク/提供:Xces Film/監督・撮影:下元哲/脚本:石川欣/企画:稲山悌二・奥田幸一/撮影補:小山田勝治/照明:代田橋男/編集:酒井正次/録音:シネキャビン/助監督:高田宝重/撮影助手:塩野谷祐介/スチール:津田一郎/出演:南けい子・佐々木基子・しのざきさとみ・今井恭子・川口篤・神戸顕一・なかみつせいじ・久須美欽一)。東ラボが脱けてゐるクレジットは本篇ママ。
 三年前亡妻・美代子(後述)に先立たれた伊藤貞夫(久須美)は、息子二人と男だけの生活に業を煮やし、通ひの家政婦を家に入れる。協会から伊藤家に派遣された、三十路―この点に関しては見た感じの正直、激しい疑問が残らぬではない―家政婦・愛子(南)が家事を熱心にこなすのは勿論、熟れた女の色香―ひとまづ、そこは一旦呑み込んで呉れ―にアテられた親子三人は、忽ち熱を上げる。こゝで長男が、女遊びも盛んな会社員・一男(なかみつ)。一男が愛子を巡り臆しもせず貞夫に対抗心を燃やす一方、次男で学生のヒロシ(川口)は未だ童貞。父と兄大人二人の鞘当てをおとなしく指を咥へて眺める反面、秘めた恋情を矢張り焦がしてもゐた。と、ころで。開巻僅かに見切れる生前の美代子スナップ写真も、実は南けい子のもの。尤も―久須美欽一の声色で―愛子さんは死んだ母さんにソックリだ、とかいつた風に、その要素が掘り下げられる訳でも別にない。そんなこんな、詰まるところは凡そそれどころではないものの。
 埒が明かないので纏めて残り配役を整理すると、登場順にしのざきさとみは、ぼちぼち財産持ちである貞夫の後妻の座を狙ふ、近所の後家・かずこ。ホテルで一戦キッチリこなした上で、愛子を明確にロック・オンした貞夫がかずこに無碍な別れを切り出す非道ムーブは、男としてどうなのよと大いに難じるほかないが、ピンク映画的にはとりあへず正しい。神戸顕一はヒロシを風俗に誘ふ悪友A、Aに対し、ヒロシのチェリーを暴露する金髪ヒゲ巨漢の悪友Bが高田宝重、台詞回しが妙に硬くはなく堅い。正式に貞夫が愛子に求婚し、伊藤家は揺れる。その無造作なシークエンスも如何なものか、といつた話でしかないのだが、一男は愛子を父親から掻つ攫ひ、夜の街に消える。一男が愛子を連れ出したのは、火に油を注ぐかの如くいはゆるハプニング・バーであつた。佐々木基子と今井恭子は、そこで濃厚に戯れる女、ひとみとゆかり、一男との3Pも披露する。全員濡れ場要員と片付けて差し支へないビリング順に佐々木基子・しのざきさとみ・今井恭子の出演部分は、暗めの照明で幾分誤魔化さうといふ節も窺へこそすれ、全てキネコで茶ならぬ画面を濁す。
 男所帯に現れた美貌の家政婦に心騒がされる父息子の、腰から下に軸を据ゑた一騒動。といふと、清々しく類型的なよくある物語ではありつつ、実際の結果は言葉を選ぶと相当に奇怪な一作。直截にいへば、最も適当なのは無惨とでもいつた形容であらうか。主演は―基本的に―レーベル初主演の女優に限る、その縛りにどういつた具体的な利点があるのだかこの期によく判らないレギュレーションにより時に仕出かされる、エクセスの惨劇。主演の南けい子を遠回しに譬へると、最低15kgは増量した永森シーナ。簡単にいふと、顔のヒン曲がつたガンタンク体型の使用禁止兵器―しかも耐用年数切れ―である。愛子に男共が雁首揃へて心を奪はれるといふ展開が、ファースト・カットから最大出力全速後進で到底成立し得てゐない。以降の仔細も既視感が漂ふばかりの甚だしく単調なもので、これで主演女優に十全な魅力さへ具はつてゐれば煽情性も勝手に惹起されたものを、土台が本来なら退役済みのRX-75では、如何せんどうにもかうにも戦へない。久須美欽一を正しく扇の要に配し、アクティブななかみつせいじと対照的にセンシティブな川口篤が両脇を固める、伊藤家の成員構成は何気に磐石のバランスを誇るとはいへ、幾ら何でもこれでは流石に形になるまい。端的にいつてしまへば、下元哲にとつては初めからの負け戦といへよう。余程特殊な性癖の御仁にしかお薦め致しかねる代物ながら、ある意味話の種にはならなくもない。

 ところで新題について、だから愛子の職業はあくまで家政婦で、介護する者といつた意味合での、狭義のヘルパーではない件につき。


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 「コスプレ挑発 おしやぶりエッチ」(2010/製作:関根プロダクション/提供:オーピー映画/監督:関根和美/脚本:関根和美・新居あゆみ/撮影:下元哲/照明:代田橋男/助監督:新居あゆみ/スチール:小櫃亘弘/編集:有馬潜/録音:シネキャビン/撮影助手:浅倉茉里子/照明助手:江尻大/監督助手:川島創平/効果:東京スクリーンサービス/現像:東映ラボ・テック/出演:鈴木ミント・真咲南朋・佐々木麻由子・牧村耕次・なかみつせいじ・天川真澄・平賀勘一)。タイトル画面と劇中登場する詐欺指南書の表紙を飾る、イラストの主はクレジットされないため不明。
 桃崎ミント(鈴木)と、どう転んでも不自然に歳の離れた彼氏・加納一行(なかみつ)の濡れ場で順当に開巻。加納との海外旅行も控へ無防備に満ち足りた眠りに就いたミントは、翌朝目覚めたところで愕然とする。部屋に加納の姿はなく、持ち金も見当たらない。挙句に、大家の高橋(新居あゆみ)に家賃未納をやんはりと怒鳴り込まれたミントが預金通帳を確認してみると、口座の中の金まで失はれてゐた。要は、ミントは加納に騙されたのだ。僅か三箇月の滞納で住居を追ひ出された―この辺りの無造作なアバウトさが、如何にも関根和美的ではある―ミントは、転がり込む友達の当てもないのか、自然落下のやうな勢ひで宿無しに。ポップにといふか逆にアヴァンギャルドといふか、昼間から公園で寝込むミントに、邪気のない下心も軽やかに本職ホームレスの徳さん(平賀)が接触する。ところで、新版公開畑では依然、俄然高い出演率を誇るゆゑ忘れがちにもなりかねないが、平賀勘一の新作出演は、加藤義一のお好みピンク「浪花ノーパン娘 -我慢でけへん-」(2007)以来。単に落としたのかも知れないが、この時には顕著であつた平賀勘一の体重増加は、体の線のまるで見えない扮装であるのもあり、今回特には感じさせない。ミントから憐れなあるいは浅墓な顛末を聞いた徳さんは、加納が桃サギであると即座に看破する。徳さんいはく、金を騙し取るのが白サギ、結婚詐欺の如く体と心を騙し取るのが赤サギ、そして加納のやうに、両者の中間点に位置するのが桃サギであるのだといふ。そこで立ち止まると以降の一切が滞つてしまふので、気にせず通り過ぎても別に構はないのだが、経済的損失を一切伴なはない曲芸にも似た奇跡的状況が仮に成立し得るとして、その場合の、純然たるスケコマシあるいは魔性の女を、詐欺師と称するのは適当なのであらうか。兎も角、だから兎も角、兎にも角にも兎も角。加納への復讐を誓ふミントは、勢ひにも任せ徳さんに弟子入りするやうな形で、桃サギ修行に取り組むことになる。悪く受け取ればグダグダなのだが、全篇を通して、始終の推移だけは実にスムーズである。
 そんなこんなで、開巻のプロローグに続いて「episode1 桃サギへの道」。とりあへず思ひつきで富裕層の老人に的を絞つてみたミントは、徳さんの偽造した看護師免許を手に、一つ上の姉で現に師長であるナリス(真咲)を訪ねる。ナースだからナリスかよ、再びいふが、この辺りの大雑把なポップ・センスも、実に関根和美らしい。ザックリした判り易さが、敷居も低めの娯楽映画として案外完璧だ。戯画的にいやらしく撫でつけた髪型から厄介な、元カレで白衣フェチの製薬会社営業マン・宮田(天川)とナリスの回想絡みも手際よく盛り込みつつ、仔細は簡潔に割愛した上で、ミントは姉の口利きで老人介護施設「ふれあひホーム」に首尾よく潜り込む。牧村耕次が、ここでのミントの標的・吉田。吉田が少なくとも、会社役員クラス以上の大人物である旨を観客に示すギミックに、サカエ商事に関してお伺ひを立てる初老の部下は関根和美。最短距離の更に内側を抉り吉田を誑し込むのに成功したミントではあつたが、土壇場で改悛し、頭を垂れ自らの素性を明かす。手ぶらで立ち去る覚悟のミントに吉田が強ひて持たせた和菓子には、百万円の札束が隠されてゐた。吉田も吉田で、一々そのやうな小さいのか大きいのかよく判らない小道具を、枕元に常備してゐるのであらうか。
 こんなそんなで以降ミントは、「episode2 桃サギの試練」にてナリスを犯罪的に煩はせる宮田を、コスチューム・プレイのバリエーションも披露しながら懲らしめる。「episode3 桃サギ最終決戦!」では、亡夫(遺影すら登場せず)の遺した料亭「ふじ川」を一人で守る長姉・藤川ミナミ(佐々木)に三千万の借金を負はせた、加納に二重の復讐戦を挑む。ミナミがミントの姉と加納が知らない、器用な世間の狭さに関してはさて措くべきであるのは、最早いふまでもなからう。
 基本、もしくはほぼ終始湿り気味の不発ギャグに彩られるのか彩られはしないのか、見習ひ詐欺師の桃色奮戦記。展開の悉くに清々しいまでに工夫と新味を欠き、一見一欠片の見るべき部分も見当たらない、シンプルなルーチンワークにも思はれかねない。にも関らず、不思議と微睡むでもなくそれなりに満足して楽しく観通せてもしまふのは、これでトレーニング系のバディものとしての構成は、あはよくば続篇の製作も不可能ではない二人の別れ際まで含め意外と完成度が高い。実は頼りになる指南役・徳さんこと伝説の詐欺師・岩神徳三を演ずる平賀勘一の、少々の無理でも軽快な断定口調でスパッと通してのける、地味に侮れない突破力が効果的に機能する。悪くいへば頭も尻も軽いが、よくいへば素直なミントこと鈴木ミントを、平賀勘一が絶妙な愉快と親身のブレンド具合で導く構図の強度は、よくよく観てみると不思議なほどに磐石。困窮するミナミが、騙した当人である加納を頼る豪快な不可解を回収する一手間も、関根和美にしては珍しく怠らない。episode3に於いてミントと徳さんが使用する戦法が、ダイレクトな物理攻撃と子供じみたテレコ・トリックだけであるなどといふ、桃サギが全く関係ない腰も砕けるドッチラケ感は、この際微笑ましい愛嬌と慈しむのが吉だ。わざわざ三姉妹設定を採用してゐながら、日程と同義の拘束上の問題からか、終に女優三本柱が勢揃ひするショットが設けらずじまひの点は大団円を求めるならば一段落ちるが、平板に見えて定番な、慎ましやかな娯楽映画の佳作である。

 一箇所だけ素面で大笑したのは、ルーズなコメディを無理矢理に加速する、なかみつせいじのオーバーも苛烈に通り越したエクストリーム・アクト、一箇所だけなのかよ。加納がミントらから、切るやう迫られる小切手の所在を初めは惚けてゐたものが、差迫る妻―声のみ、亜希いずみにも聞こえるが、佐々木麻由子のやうな気がしないでもない―の気配に観念するや、まるで咆哮するかのやうに「あれえ、あつた!何でだらう!?」。殆どヤケクソにすら思へるフルスイングには、激しく笑かされた。


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