「火遊び女房 乱婚のすすめ」(1994『本番 《秘》夫婦生活』の2006年旧作改題版/企画:セメントマッチ/製作:オフィス・バロウズ/提供:Xces Film/監督:池島ゆたか/脚本:五代響子/撮影:下元哲/照明:田中三郎/編集:酒井正次/助監督:高田宝重/監督助手:森山茂雄/撮影助手:鈴木一博、他一名、釣崎清隆/出演:泉京子・杉原みさを・杉下なおみ・黒沢俊彦・神戸顕一・もりやましげお・ちよみ・山ノ手ぐり子・林田義行・柴原光・太田始、他、池島ゆたか)。照明助手を、雨宮姓までで力尽きる。
中堅会社課長の雨宮広彦(池島)は二度目の結婚で十五も若い細君を貰ふと、後述する職場仲間からの誘ひも断り、専ら仕事が終るや真直ぐ帰宅する日々を送る。けふも、といふかけふは雨宮を、妻・サツキ(泉)は女学生のセーラ服姿で待つ。そのまま雨宮も朗らかに詰襟の学生服にチェンジ、部屋の中でフォーク・ダンスも繰り出す先輩と後輩プレイに戯れた夫婦は、しかもその模様を8mmビデオに収める。事後は膨大な自画撮りビデオのコレクションを前に、私はこれが好き僕はこれがいいと、二人は仲睦まじく盛り上がる。といふのも、雨宮は欠片も登場しない前妻には、セックスレスの末に逃げられてゐた。雨宮とサツキは夜の営みがマンネリズムに陥らないやうに、日々和気藹々かつ貪欲に、性生活の探求に明け暮れてゐるものだつた。雨宮の部下・内藤美奈子(杉原)が誕生日プレゼントに寄こした、正直別に高さうには見えないダサい腕時計に、サツキは無邪気に冷酷な悪巧みを思ひたつ。妻は実家と偽り、雨宮は美奈子を自宅に連れ込む。糠喜ぶ美奈子と夫が致すのを覗き見ながら、潜んでゐたサツキは熱い自慰に耽る。後にその事実を知つた美奈子は当然憤慨するが、勿論回してゐたビデオを盾に、雨宮は黙らせる。出汁にした美奈子を振り返ることもなく、雨宮夫妻は走り続ける。ライトに悪びれないが、なかなか凶悪な夫婦ではある。サツキがテレクラで調達したイケメン大学生・今井尚也(黒沢)が、雨宮のマンションに向かつてゐるらしき様子に、依然諦めきれない美奈子が交錯する。現に今井が雨宮家に入つて行くのを確認した美奈子は、果敢にもベランダに突入。すると最初からネグリジェで現れたサツキに続き、御丁寧にも老けメイクを施した上で、ガウンを羽織つた雨宮が車椅子に乗り登場。事故により下半身の自由と男性機能を失つた自分の代りに妻を抱いては貰へまいか、といふ―今井は知らぬが実際には―筋立てを切り出す。何故か微妙に富豪風の池島ゆたかが姿を見せるショットが、笑ひ処としての機能も伴ふことはいいとして、見守る雨宮を手前に置き今井に抱かれるサツキを屋内から捉へた窓の外に、呆れて座り込んだ美奈子即ち杉原みさを―みさおの誤記ではなく、本篇クレジットはあくまでみさを表記―のソバージュの髪型も込み込みで巨大な背中を、無造作に映り込ませてみせるのは些か如何なものかとも思ふ。都心を離れざるを得ないマイホーム計画も絡めて、サツキと雨宮は更に加速。今度は女を交へての3Pだといふことで、池島ゆたか映画御馴染みのシティ・ホテルに、ホテトル嬢・ゆかり(杉下)を招聘する。ゆかりの勧めで、SMにフロンティアを見出した二人は猛勉強の末、紹介された「倒錯の館」へと出向く。流石に警戒心も隠せない雨宮とサツキを、ショーロホフではなく新田たつおの方の、『静かなるドン』に於ける近藤静也のやうなビジュアルの館の主(神戸)が迎へる。
本篇クレジットのみ名前の載る、もりやましげおから太田始、他までの配役を纏めて片付けると、まづセカンド助監督と兼任するもりやましげおは、都合二度登場する雨宮の部下・村田。それなりの台詞も与へられ仕事終りの会話がてら、雨宮の人物設定説明に協力する。ちよみから太田始、他までは、総勢四組の男女が銘々のプレイに燃える、「倒錯の館」要員。内一名は杉下なおみがM嬢として再登場を果たす為、拾ひ零したのは男女各一名である筈で、その中に、体型から高田宝重は含まれないものと思はれる。柴原光は無理としても、太田始の特定は能はず。山ノ手ぐり子(=五代響子/現:暁子)が、張形をベロンベロン舐め回す、結構な暴れぶりを披露する。クレジットの号数が他の者よりは明らかに大きい、ちよみといふ投げやりな名義の正体が実は、a.k.a.本城未織こと林田ちなみ。かつて戯れに語られた、PG誌編集発行人・林田義行との姉弟説をこの期に真に受けてゐる間抜けなんぞ、小生ドロップアウト―コメント欄も、併せて御一読頂きたい―の他には居らぬであらう。話を戻すとサングラスで顔を隠してもゐるものの、整つた顔立ちから、ちよみが決して林田ちなみその人と知れないこともない。因みに、ちよみ女王様に責められる奴隷が林田義行と、W林田はペアを組んでゐる。案外他でも実現してゐたのかも知れないが、個人的には初見のこの組み合はせは、さりげない隠し飛び道具ともいへるのではあるまいか。実は何気に、旧版は判らぬがポスターにも堂々と抜かれてゐる。
ドリフ夫婦コントに於けるゲスト女性歌手のやうに、一々サツキが性交渉の惰性に大袈裟に慄いてみせる様も微笑ましい、夫婦生活の研究に情熱を注ぐ好色夫婦が繰り広げる腰から下へ下への一騒動。あちこち移動し続ける訳では別にないが、セクシャルな意味合でのロード・ムービーとでもいふに相応しい趣向は、ピンク映画として素晴らし過ぎるまでに鉄板中の鉄板。終始ポップで小気味よい演出部の堅調に加へ、冷静には馬鹿馬鹿しくなくもない物語をそれでも温かく輝かせるのは、取りも直さず主演女優・泉京子の銀幕に咲き誇る魅力。キュートなファニー・フェイスには不釣合ひな、脱がせてみると意外なほどに悩ましく豊かなオッパイの、桃色の威力は正しく決定的。若くて可愛くてスタイルも良くて、かてて加へてセックスも大好きな、斯様に羨ましいことこの上ない奥さんの居る雨宮の幸福感をダイレクトに共有出来る。逆からいへば二番手三番手には弱さを感じさせるともいへるのだが、そこは引き立て役に回つたものと、好意的に捉へるべきだ。杉原みさをには芝居の堅さで序盤の地味に重要な繋ぎ役を担はせ、純然たる三番手濡れ場要員に過ぎなくとも仕方がなかつた杉下なおみにも、「倒錯の館」への屈託ない誘導を果たさせる。隙のない三本柱の起用法は、目立たないが秀逸。「倒錯の館」にて、最初はその場の異様な雰囲気と、居並ぶマニアさん達の迫力とに気圧されてはゐたサツキと雨宮も、やがて意を決して衆人の注視する中、いよいよ事に及ぶ。サツキが達するや一同が拍手を以て美しい夫婦愛を祝福する場面は、フェデリコ・フェリーニの「8 1/2」のラスト・シーンをも髣髴とさせる、とまでいふのは、頓珍漢の度が過ぎると笑はれようか。それはさて措き、側面ながら最も感動したのは、サツキと雨宮の濃厚な夫婦物語の返す刀で、互ひに騙された者同士といふ形で今井と結ばせた、美奈子の処遇も通り過ぎて済ますことなく回収してある点。映画トータルの抜群な安定感を、幾分叙情的なフィニッシュで締め括る終幕まで含めて完璧。愉快でいやらしい娯楽ピンクの決して気負ふこともない、軽やかな到達点である。
微力及ばず、有無から音楽担当のクレジットを確認し損ねたが、雨宮夫婦がエロ本を熟読し受験勉強さながら次なる機軸を摸索するカットに際しては、「ロッキー」の映画音楽を豪快にパクつてみせる。一応、少しだけ弄つてゐたりもする辺りは御愛嬌である。
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