真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「ぐしよ濡れ美容師 すけべな下半身」(1998 夏/製作:アウトキャストプロデュース/配給:新東宝映画/脚本・監督:女池充/企画:福俵満/プロデューサー:岩田治樹/撮影:長田勇市《J.S.C》/編集:金子尚樹《J.S.E》/音楽:タワーホウムズ/録音:鈴木昭彦/助監督:佃謙介/監督助手:斉藤克康/撮影助手:鏡早智、他一名/タイトル:道川昭/協力:榎本敏郎・女池陽子、BIG MAMA、他多数/出演:佐々木ユメカ・田中要次・川瀬陽太・相沢知美・田嶋謙一・三浦景虎・国沢実・白土翔一、他三名)。出演者中、国沢実以降は本篇クレジットのみ。激しく情報量の多いクレジットに、概ね屈する。
 深夜のラブホテル「プリンシパル」が火事に、元々痛飲し前後不覚の早瀬麻子(佐々木)が、飛び込んで来たフル装備の消防士に救出される。スプリンクラーが起動し、土砂降り状態の室内。麻子のその夜のお相手・山田(川瀬)がベッド下から、何気に見事なアクションで弾けるやうに跳ね起きると、矢張り相変らず正気をなくしたまゝとりあへず服を着て自力で脱出する。もう一人男が居る筈だといふ麻子の声に消防士は部屋に戻るが、誰も見当たらず、携帯電話を拾ひ上げる。「BIG MAMA」で飲んでゐるところまでは一緒であつた美容師の同僚・山崎妙子(相沢)に、病院に担ぎ込まれた麻子から連絡が入る。その時妙子は、夜の美容室で店長の増田(田嶋)と不倫の情事の真最中であつた。妙子はひとまづ事を中断し、一軒家に同居する間柄でもある麻子を回収しに向かふ。麻子は男の顔も名前もおろか、飲み屋での顛末からまるで覚えてゐなかつた。子宮にジンジン来る、感覚の残滓以外には。翌日、ここは実は、それを個人的に所持してゐることに関しては明確な職務規律違反も予想される点は一旦さて措き、消防士・須藤公平(田中要次/下の名前は大絶賛推定の当て字)は自分の番号に電話をかけて来た山田と会ひ、携帯を返す。ところがメモリーが飛んでしまつてゐて、山田も山田で、容貌がウッスラ残つてはゐるものの、麻子の名前も連絡先も判らなくなつてゐた。白土翔一が壇上の国沢実を吊し上げる、「プリンシパル」ホテル火災被害者説明会。何しに来たのかその場に私服で現れた須藤は、麻子と再会する。後藤と呼ばれるホテル側と被害者側にそれぞれ他一名(何れも不明)、即ち麻子と須藤も入れて僅か計六名しか見切れない会場は、流石に閑散とするにもほどがある。話を戻すと、接近した須藤は、麻子に山田の記憶がないのをいいことに、再開を偽り交際をスタートさせる。一方、須藤と山田の交友関係も継続、事の真相は当然露知らず、山田が須藤と麻子の恋路にアドバイスを与へてみたりもする中、山田の勤務先が急に倒産。社宅住まひであつたのか、同時に住居も失つた山田は、煮え切らない懇意に甘えて須藤の部屋に転がり込む。
 好人物風の印象に一見誤魔化されかねないが、人を騙してゐるといふ一箇所を注視するならば、消防士のある意味明白な悪意に上手いこと切り離された、一夜を共にした女と男。女池充第二作は、凝つたプロットを丁寧に形作つた、小洒落た大人の恋愛映画である。そもそも小屋の上映環境が覚束ないことならば忘れたつもりはないが、その他の場面では然程躓くでもないゆゑ、矢張り映画自体の音響設計からの問題ではあるまいかとも思はれる、全く聞き取り難いTVニュースを見た山田は、麻子即ち事件当夜の女の生存に辿り着く。続いて、麻子が招いた須藤と、家に居た妙子とが鉢合はせる。ここで肝心なのは、名前は兎も角、妙子には少なくとも山田の面影を残してゐる点。一人平然とした麻子の傍らで、妙子と、その風情を看て取つた須藤とが順に固まるカットの映画的強度は秀逸。若い川瀬陽太に綺麗に親和する、一旦はほろ苦さも見せるところまで含めて以降の麻子の姿を求め山田が健気に奔走する展開も鉄板。ただオーラスを、そのまま素直に畳みはしない辺りが、良くも悪くも女池充的ともいへるのであらうか。詳細は自重するが、ああいふ形で須藤を放り込むのであれば、絵を引つ剥(ぺ)がした壁にタイトルがバーンと大書されてあるくらゐの、更に一押しの外連も仕掛けてみれば?といふ希望寄りの疑問は残らぬでもない。折角といふか何といふか、原題が“まるで再出発 -(STOP USING) SEX AS A WEAPON + (JUST LIKE) STARTING OVER-”だなどと、無闇に長たらしいものでもあることだし。佐々木ユメカを正しく間に挟んだ、田中要次と川瀬陽太の三本柱は勿論強力だが、その上でも一際目を引いたのは、鎖つきの眼鏡もスタイリッシュに映える相沢知美。ドラマ本筋の進行に拘束されざるも得ない主演女優に代り、うつてつけに取つてつけられた田嶋謙一との絡みで、商品的な煽情性はどちらかといふと相沢知美の方が担保する。

 出演者中残り、三浦景虎は山田の同僚。麻子に髪を触られる、七里圭似の美容院客。麻子の姿を求め、現に川瀬陽太の筆による自作ポスターと定点カメラを頼りに張り込みを開始した山田は、火災現場向かひのラブホテル「フォーラム」をベースに選ぶ。森羅万象似のそこの支配人、テレビでニュース原稿を読む女、の三名は何れも不明。因みに今作、2002年最初の旧作改題時のあんまりな新題が「美容室の情事」で、今回は旧題ママによる、二度目の新版公開に当たる。「美容室の情事」て・・・・確かに佐々木ユメカも相沢知美も、一度づつ披露するとはいふものの。流石にプリミティブに過ぎる、あるいは、やつゝけるにもほどがある。


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 「潮吹き花嫁の性白書」(2010/製作:Blue Forest Film/提供:オーピー映画/監督:竹洞哲也/脚本:小松公典・山口大輔/撮影監督:創優和/編集:有馬潜/助監督:櫻井信太郎/監督助手:エバラマチコ/撮影助手:丸山秀人・高橋舞/制作担当:小山悟/音楽:與語一平/協力:加藤映像工房・Sunset Village/出演:かすみ果穂・倖田李梨・☆LUNA☆・佐藤玄樹・久保田泰也・岡田智宏・岩谷健司・毘舎利敬)。出演者中、☆LUNA☆がポスターでは星抜き、星込みで正式な名義らしい。尤も、昨年の十二月で公式な活動は終了されたやうだ。
 ウエディングドレス姿のかすみ果穂が、新郎目線のカメラに微笑みかける。変な言ひ方だが、信じられないほどに美人だ。かすみ果穂と、倖田李梨・毘舎利敬の達者なイラストが添へられたタイトル・イン。劇中に登場するものも含め、イラストレーションの主に関してはクレジットの有無から確認し損ねる。少なくとも人物画は、何処かで見たやうな気もする絵なのだが。
 平田真美(かすみ)の父親・淳嗣もとい俊司(毘舎利)がベランダでスケッチブックに筆を走らせながら、トマトを手に載せた妻・純(倖田)のポーズに注文をつける。純と俊司、二人揃へばジュンジが完成するな、ガガガ。但し俊司が描いてゐたのは愛妻ではなく、トマトであつた。結婚後二十年、依然微笑ましい両親の風情に、真美も目を細める。不動産屋で平田夫婦共通の友人・松田納ならぬ治(岩谷)は、真美にとつては擬似伯父的な相談相手でもあつた。そんなこんなで松田の店の物件は、社長が森角威之の(有)杜方。初見時にはハンサムな幸野賀一にも見えたが、三作目にして竹洞組にも綺麗に馴染んで来た岩谷健司には、戯れにピンク映画界の石橋凌の称号を冠したい。松田は尋常ではない度々新婚新居の下見に訪れる、シネフィルの園田本気(久保田)とハル子改め晴子(☆LUNA☆)のカップルに呆れるのも通り越して悩まされる。真美には、後々実は俊司の弟子筋に当たることが語られる、イラストレーターの石沢常光ではなくして常吉(佐藤)といふ恋人が居るものの、なかなか男女の仲には至れずにゐた。現在は社会に出た真美には女学生時代、レイプされた哀しい過去があつた。ここで、緊迫したカメラ・ワークの中その人と知れる形で捉へられることはない上で、岡田智宏がここでの憎き破廉恥漢。石沢と手を繋ぐことすら躊躇する真美が寂しげに見やる、二人連れの男女役の内訳は識別出来ず。
 耐へ難い愛する者との別離と、残された者のなほのことそこからの克復。重量級のテーマを、巧みにそれとは悟られぬやう軽妙な語り口に包み隠した抑制的な一篇。岩谷健司と毘舎利敬、ビリングのラスト二人が主に牽引する、温かみを失はず嫌味さは感じさせない小粋な遣り取りと、銀幕の中に普通に佇むだけで十二分にウットリさせられる主演女優とに概ね満足しつつ、何時まで経つても本格起動する気配を見せず覚束ない本筋に次第に不安も覚えかけた中盤以降、徐々に徐々に喚起させられる違和感は、やがて悪し様にいへば昨今よく見る驚きの褪せたサプライズに着地する。その、直截に工夫を欠いた在り来りさは兎も角、ヒロインの強姦被害を心の痛みの種として、ミスディレクションの用に持ち出す無神経な悪趣味には流石に首を縦には振り難い。ところが、続く二段構へ、もしくは二連発のどんでん返しにより明らかとなるもう一つの真実には、蛇足と難ずる向きもあるやうだが、全く不意を突かれたことも含め素直にハッとさせられる映画的興奮を覚えた。一方オーラスを文字通り飾る、漸く真美が辿り着き得た石沢との情交に際して、それが遅ればせながら劇中最初で唯一となるかすみ果穂の濡れ場らしい濡れ場であることに関しては個人的に必ずしも躓くものではなかつたが、依然改善されぬ、山田孝之風のそこそこ今時イケメンではある佐藤玄樹の、脱ぐと逆の意味で凄い体の緩みはどうしても目についた。締めの絡みを任せるには、女優を刺身に譬へるとツマのやうな男の裸ではあれど、矢張り些かならず見苦しい。肉体は俳優の言葉であると自他を律する千葉真一御大の立場に、演技者如何を問はず人生観の領域にて全面的に賛同するものである。全体的な求心力は然程強靭ではないままに、じわじわと染み入る一作。ただ確かに、胸から上で味はへこそすれ、腰から下を揺すぶる訴求力は決して強くはないとはいへよう。ピンクよりも、明確に映画寄りのピンク映画である。


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 「トリプル淫女 白衣のケダモノ達」(2002『白衣の痴態 -淫乱・巨乳・薄毛-』の2011年旧作改題版/製作:フィルム・ハウス/提供:Xces Film/第一話『淫乱』監督:坂本太/第二話『巨乳』監督:佐々木乃武良/第三話『薄毛』監督:羽生研司/脚本:佐々木乃武良/企画:稲山悌二/プロデューサー:伍代俊介/撮影:創優和/照明:野田友行/編集:フィルムクラフト/録音:シネキャビン/助監督:竹洞哲也/編集:金子尚樹/監督助手:伊藤一平/撮影助手:宮永昭典/照明助手:藁部幸二・深沢修治/スチール:本田あきら/タイトル:道川昭/現像:東映化学/第一話出演:藤崎加奈子・澤山雄二・坂入正三/第二話出演:中渡実果・千葉誠樹/第三話出演:ゆき・竹本泰志)。出演者中、澤山雄二と竹本泰志がポスターには澤山雄次と竹本泰史、だから竹本泰志は改名したんだつてば。
 第一話「淫乱」、名物町医者の赤ひげならぬ赤顔先生こと安田清二(坂入)が、正体不明の二人組(スタッフの何れかか)に正しく今でいふドヤ顔で戦果を誇りパチンコ屋からホクホク出て来たところで、仁王立ちせんばかりの剣幕の看護婦・湯川もとい湯山れい子(藤崎)にトッ捕まる。さりげなくも、坂入正三らしさが実によく窺へる開巻ではある、安田は往診に向かふ最中であつた。その日の二人の往診先は、リストラ後女房子供にも逃げられ、これ見よがしに表札の名前が二つ消された江口俊(沢山)。単なる心因性の一時的な体調不良にも関らず、自身が末期癌であると勝手に思ひ込んだ江口を安田は半ば相手にしないが、悪癖と自覚する淫乱症をくすぐられたれい子は、往診後単身江口家に戻る。自ら粥を白衣に零しては半裸となり、挙句に何処から湧いて出たのかシースルーのエロ白衣を安田に持つて来させると、直線的な色香で江口を強制攻略。桃色の一夜明け江口が目出度く精気を取り戻した翌朝、二階ベランダに干されたれい子のノーマル白衣が、穏やかに日を浴びるラスト・ショットは案外完璧。
 第二話「巨乳」、とかく余裕に欠いた遣り手ビジネスマンの水野俊彦(千葉)が、巨乳雑誌に囲まれつつ寝坊して目覚める。その日は朝からプレゼンとやらで、バナナを咥へ慌ただしく飛び出した水野と、何事か確か最後まで説明は別に為されない大きな荷物も抱へた、安田医院の看護婦・近藤美砂(中渡実果/ex.望月ねね)が出会ひ頭に衝突してしまふ。高圧的に水野が怒鳴り散らかすと、美砂は俄に昏倒。通行人(計三人、矢張りスタッフの何れかか)の目を憚りひとまづ自宅に美砂を回収した水野は、処置に困り安田に連絡。すると血相を変へて飛んで来た安田いはく、美砂は百万人に一人のショック性子宮緊縮症候群の患者であるとのこと。何だそりやと呆れる間も与へず、子宮が緊縮して、何がどう巡ればさうなるのかまるで判らないが、心臓に血液が行かなくなる―それは根本的に致命的だ―といふので露にした生乳(なまちち)に、しかも御丁寧にも安田は左水野は右と、仲良く二人で心臓マッサージと称したペッティングを施す。ひとまづ美砂が危機を脱するや、安田はそゝくさ退場。たつた一度の遅刻で網走営業所への転属を電話で告げられた水野は、詳細がよく聞き取れぬ腹の発作に悶絶しながらも自暴自棄で美砂を抱く。と、こゝまで一話二話、底が抜けるにも甚だしいばかりではあれ、それはそれとしてそれなりに、他愛ないエロ小噺としてポップに出来上がつてゐなくもない。寧ろ妙に上品な劇伴が、この際不要とすら思へて来るくらゐである。頓珍漢なシークエンスには、素頓狂なサウンドを。それもひとつの、適材適所といへるのではなからうか。
 第三話「薄毛」、例によつて往診で安田は不在の安田医院に、田所明夫(竹本)が急な不調を訴へ駆け込む。診察室で友人と携帯で話してゐた―通話相手の存在自体も、最終的には疑はしいのだが―看護婦の相川響子(ゆき/ex.横浜ゆき)から、とりあへず待合室でフルーツを勧められた田所は、毛の生えた赤い皮を剥くと白いツルンとした果肉が卑猥に顔を覗かせる果物に、響子をオカズにしたこの際よくいへば瑞々しいイマジンを惹起される。頻繁かつ、徐々に移動が御座成りになつて来る―カメラ前にフィルターが堂々と差し込まれるカットが、数度繰り返される ―のが狙ひなのか単なる無造作なのかよく判らない、虚実の激しい往き来の末田所は一時的に意識を失ふ。ところが、戻つて来て田所を介抱した安田によると、不思議なことに現在医院に看護婦は不在であるといふ。
 三監督による、尺の配分も均等な三篇によるオムニバス作。クレジット的には第一話のみであるものの、要は坂入正三が三話全てに顔を出すほかは、各篇を貫くなり繋げる連関は特に発生しない。さういふ大雑把な構成も含め一言で片づけてみると、とりたてて顕著な演出のトーンなり画面のルックの差異がある訳でもなく、わざわざ仕事を分けた意味は一見清々しく判らない。但しその中でも最も完成度が高いのは、ラスト・カットの安定感あるいは強度が妙に素晴らしい坂本太の第一話で、逆に芳しくないのが、妄想と現実との単調な往復が顕示的なばかりで、次第にメリハリを欠きモタつく感も否めない羽生研司の第三話。無闇にバッドなオーラスも、この上ない下らなさは兎も角基本陽性の娯楽映画の後味を、藪から棒に乱す。佐々木乃武良の第二話は、良くも悪くも水のやうに流れ過ぎる。水のやうな一題の主人公が水野、今直ぐにでもデスればいゝのにな、俺。無理矢理纏めにかゝると、坂本太がそれなりの形で上げ、佐々木乃武良がそのまゝ回した球を、下手な色気を出した羽生研司が決め損なふ。さう捉へるならば、単なるルーチン企画にも見え、意外と各々の年期が如実に現れた一作といへるのかも知れない。

 因みにポスターでは各話に関して、順に“一晩中患者に跨り淫乱ケア”、“巨乳の発作は揉んで解決!!”、“いたぶり好き、薄毛の女王様”と、何れも簡潔にして的確極まりない名注釈がつけられる。何気ないが、これはエクセスのファイン・プレー。ただ、それにしても新題が“白衣のケダモノ達”とはこれまた随分だ。


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 「淫行 見てはいけない妻の痴態」(2010/製作・配給:新東宝映画/脚本・監督:深町章/企画:福俵満/撮影:清水正二/編集:酒井編集室/録音:シネ・キャビン/助監督:佐藤吏/撮影助手:海津真也/照明応援:広瀬寛巳/スチール:津田一郎/現像:東映ラボ・テック/応援:小川隆史・小林徹哉/出演:奈月かなえ・亜紗美・里見瑤子・西岡秀記・久保田泰也・川瀬陽太)。出演者中、奈月かなえがポスターには水原香菜恵。改名したらしい、何を今更といふのは禁止だ。
 電話のベルとともに、「隣の奥さあん、お茶しませう☆」と里見瑤子の軽快なシャウトにて開巻。
 そんな訳で園山明子(奈月)を訪ねた黒崎悦子(里見)は、ダイニング机上に積まれた大量の洗剤・サランラップその他に、お隣が新聞を替へた気配を嗅ぎつける。ここで、寄り道して細部の外堀を埋めておくと、園山家物件が主には小川(欽也)組でも御馴染み、伊豆大室高原はペンション花宴。あくまで民家設定ゆゑ、花宴であるのを明示するショットは抜かれず。話を戻して、明子は現に、新聞を関東タイムズから毎朝新聞に替へてゐた。すると悦子こと里見瑤子は、「喪服妻暴行 お通夜の晩に」(1998/監督・脚本:遠軽太朗/未見)でデビュー以来何時の間にか十二年、未だ失はれぬどころか、寧ろ昨今輝度を増したとさへ思へる瞳をキラッキラと輝かせる。無邪気さと、同時に不純さとを完全に並行し得るメソッドは、名人芸の領域にをも達しつつあるといへよう。俄に点火した悦子いはく、オッサンの関東タイムズとは異なり、毎朝の新聞配達員は若くイケメンであるとのこと。とかいふ次第で殆ど尋ねられてもゐないのに、悦子はたまたま昼下がりの自慰の最中に集金に訪れた轟渉(久保田)を、何のかんのと言ひ包め喰つてしまつた火遊び自慢を嬉々と語る。その夜、マンガ好きの明子夫・高志(西岡)が、弟・健二(川瀬)が翌日青森から上京して来る旨を妻に報告する。その晩は特に意に介するでもなく、二人は健二が居ると流石に憚られる夫婦生活を楽しむ。ところが、いざ現れた健二は、恋人の山越谷江(亜紗美)を連れてゐた。両親同士が犬猿の仲で結婚が許されないゆゑ、何と駆け落ちして来たのだといふ。当然ながら度肝を抜かれる園山夫婦に対し、健二は十五年前に長男の高志ではなく、次男の自分が家業である農家を継いだ貸しの一点張り。ステレオタイプな傍若無人ぷりをズーズー振り回す健二と谷江は、兄宅とはいへ勝手に転がり込んだ家で恣な情事に励む大飯は喰らふ、挙句にデズニーランド―劇中健二・谷江による呼称ママ―に行くとなると金まで無心する、絵に描いたやうな遣りたい放題。結局、それ以上セクシャルな方向に膨らむ訳では別にない十五年前の借りを持ち出されると、高志がこの期に力無く健二に対し何もいへなくなることも含めて、明子は自分達の生活が完膚なきまでに脅かされる鬱屈を、至極全うに爆発させる。
 前年お盆映画の「よがり妻」(2009)以来、深町章にしては非常に間の空いた新作は、嘘か誠か出来れば嘘であつて欲しい、新東宝の―少なくとも従来型―ピンク映画撤退最終作も噂される一作。因みに本作の封切りは大晦日、即ち2011年正月映画といふ寸法になる。改めて整理すると、序盤で悦子が種を蒔き、流麗に移行した中盤で、望まれぬ闖入者カップル登場。ここで尺をタップリタップリ費やし、当初主眼の筈である「新聞配達は二度ベルを鳴らす」は一体何処に忘れ去られたのかと不安にもなりかけた頃合を見計らふかのやうに、再登場を果たした悦子が轟召喚。巧みにその場に交錯した川瀬陽太が頑丈なコメディ芝居で牽引する狙ひ澄まされた一ネタを撃ち抜くや、そのままの勢ひで磐石の落とし処に叩き込んだ映画をチャッチャと畳む。序破急様式の完成形ともいふべき、工芸的な一品。物語自体のどうといふこともなさが、逆に量産型娯楽映画としての肩肘張らないスマートさを感じさせる。完璧な構成によつて編まれた、他愛もない艶笑譚。正しく、これぞ深町章ここにありをさりげなく轟かせる何気ない佳篇の中にあつて、唯一の瑕疵は出番も台詞も然程多くはない点から、通り過ぎても別に構はないのだがイケメン新聞配達員・轟に扮する久保田泰也の、表情も兎も角肉体の緩み。大体が、一番の若造が最も体に締りがないとは何事か。我ながら牽強付会も清々しいと思へなくもないものの、若手俳優部に顕著なこの辺りの構造的な貧しさが、新東宝のピンク撤退が囁かれるに至る正直絶望的な現況に、象徴的なものともいへるのではなからうか。直面せざるを得ない暗鬱から目を逸らすかの如く今作に話を絞ると、オーラスに繰り返される里見瑤子のシャウトが明子の再び穏やかな日常の回復を、荒れた一夜明けの朝日のやうに朗らかに宣言する。

 本来のピンクもさて措いた新東宝ではあるが、四畳半襖の下張りと羊の頭を偽り夫婦善哉といふ狗の肉を売つた、「新釈 四畳半襖の下張り」(2010)に続き愛染恭子が麻美ゆまを主演に迎へ再び無闇なテーマを向かうに回す、一応ピンクの番線に含まれてもゐるとはいへ、一目瞭然、狭義のピンク映画とは非なる以前に似てすらゐないキネコ・シリーズ最新作「阿部定 ~最後の七日間~」(脚本:福原彰)が、7/22に封切られる。提携先がこれまでの竹書房から、GPミュージアムソフトへと移行したやうだ。さうであるならばどうせなら、城定秀夫を連れて来て呉れよだなどと、明後日な希望も湧いて来ぬではない。

 以下は再見に際しての覚書< 園山家玄関口にて、世間話調に兄嫁の奈月かなえを褒めたことに脊髄反射で嫉妬の角を生やす恋人の亜紗美に対し、川瀬陽太が久保新二ばりにどさくさで紛れて叩き込んだ小ネタが、「わがままジュリエット」。


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 「淫乱看護師」(2008/製作:マーメイド/監督:城定夫/脚本:小松公典・城定夫/プロデューサー:村上尚・久保和明/撮影・照明:長谷川卓也/録音:中川究矢/助監督:伊藤一平/監督助手:貝原クリス亮/撮影助手:広瀬寛巳/ラインプロデューサー:横江宏樹/ヘアメイク:仲ひとみ/スチール:高橋大樹/編集:城定夫/音楽協力:タルイタカヨシ/出演:今野梨乃・伊庭圭介・なかみつせいじ・稲葉凌一)。
 深夜の個室病室、どう見ても堅気には非ずと思しき点は兎も角金持ちの入院患者・本山(稲葉)に、看護師の仁科エミ(今野)が体を売る。ひとまづ煽情性の踏み込み具合に関しては、AVと紙一重の開巻。
 率直なところ、そこいら辺りのギャルが戯れにナース服を着てゐるやうにしか見えないことはさて措き、劇中設定としては病院一有能らしい看護師のエミは、婚約者のリュータ(ユータかも/伊庭圭介)とのドライブの最中、助手席から運転者の尺八を吹く定番のフラグに逆らはず、二人が乗る乗用車は大型トラックと喧嘩する。自身が勤務する病院に運び込まれたエミは、重傷を負ひつつ一命も意識も取り留める。ところが医師(なかみつ)から、リュータが植物状態―呼吸器はつけてゐない為、脳死には至つてゐないものと推測される―にあることを聞かされたエミは、脊髄反射で絶望、後に「懺悔-松岡真知子の秘密-」(2010)で原紗央莉も披露する、衝動的な窓からダイブを敢行。ところが、余計な傷を負ふこともなく再び命を失はなかつたエミを前に、慌てがてら中満医師は奇跡を宣告するアシスト。「私の身に奇跡が起きたのなら、リュータにもきつと」と、エミはリュータの快癒を確信する。以来、リュータの両親は延命を望まず、中満医師も専門的かつ冷静な見地から匙を投げる逆風に抗ひ、エミは本山に身を任せ得た金で婚約者の治療を継続する。
 直截にキャバキャバした主演女優の印象は如何せん苦しいものの、在りし日にリュータがエミに贈つたオルゴールが奏でるエドワード・エルガーの、「愛の挨拶」が美しくも其れなればこそ儚く綴る、後退戦も強ひられ悲愴な「トーク・トゥ・ヒム」である。カテゴリー的に全く麗しい、エミがリュータに秘かにセクシャルなトリートメントを施す中、ある意味仕方のないことともいへ、本山はやがて退院。いはばも何も資金源を断たれ、中満医師はエミが感知したリュータ快方の兆しには非医学的と一切耳を貸さぬいよいよの逆境に追ひ詰められた、淫乱看護師が雪崩れ込む“最後の治療”の件は圧巻。シルエット―そして勿論撮影上は擬似―ながらに、挿入の模様を無修正で叩き込む短いカットも噛ませた上での、振り切れたエクストリームを展開してみせる。裸商品としての要請をお腹一杯に果たす一方で、終に確認されたリュータの完勃起と、再び穏やかに鳴り始めた「愛の挨拶」に続く鮮やかなフィニッシュ・ホールドには、逆からいへばノー・ヒントの荒技に対しては若干反則と思へなくもないが、ともあれ綺麗に驚かされた。女の裸を差し引けばなほさら短い尺を駆け抜けるかのやうな余韻に、一滴の温もりが落とされるラストまで含め秀逸。一枚看板の素材に開き直つたかのやうな純エロVシネかと一見思はせておいて、なかなかどうして、侮れぬ一作である。


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 「私の調教日記」(2010/製作:レジェンド・ピクチャーズ、シグロ/監督:東ヨーイチ/脚本:東ヨーイチ/企画:山上徹二郎・利倉亮/プロデューサー:江尻健司・渡辺栄二/撮影:下元哲/録音:山口勉/助監督:佐藤吏/監督助手:加藤学/撮影助手:高田宝重・榎本靖/メイク:島田万貴子/メイキング:榎本敏郎/音効:藤本淳/EED:桐畑寛/EED助手:竹内宏子/制作協力:セゾンフィルム/出演:亜紗美・速水今日子・澤村清隆・上田亮・古藤真彦・奥村望・竹田朋華・奈良坂篤・諏訪太朗・佐藤幹雄)。
 交通量の激しい道路を跨ぐ歩道橋の上、人待ち風情のやさぐれ女・銀杏(亜紗美)に、通りがかつた澤村清隆(役名不明、以下同)が声をかける。他愛もない遣り取りの末、銀杏がわがままニー二発で澤村清隆を轟沈させたところに、感動的に唐突に諏訪太朗も登場。観客にはヒントの欠片すら与へられない段取りを経て、銀杏は諏訪太朗と澤村清隆がコンビを組むペテン師であることを看破、二人が退散するや無造作なトコロテン式に、銀杏が待つ恋人・吾郎(佐藤)が現れる。新作では「姉妹 淫乱な密戯」(監督:榎本敏郎/主演:麻田真夕・千川彩菜・佐々木麻由子)以来四年ぶりに観た佐藤幹雄は、驚くほど全然変つてゐなかつた。
 吾郎と銀杏を、多分奈良坂篤が運転手のワンボックスが迎へる。車が走り始めると、予め決められてゐたことと吾郎は銀杏を目隠し、軽く乳繰り合ひつつ、二人が入つたのはミサトニックな洋館。時折吾郎に抱かれることも認められてゐるやうな反面、銀杏は所定の一週間の間、館の女主人(速水)が連れて来る一号から三号までの目出し帽の男(後述する)に繰り返し手を替へ品を替へ陵辱される、苛烈な―と、いふことにひとまづしておいて通り過ぎる―調教を受けることに。因みに、速水今日子の相手を佐藤幹雄が務める絡みにて、吾郎がかつては、目出し帽男のポジションに在籍してゐたことも、あるいは“ことは”語られる。
 残りの出演者は、ビリング順に上田亮が、館を後に娑婆に戻つた銀杏の前に素顔を晒しても現れる、目出し帽一号。恐らく目元のアップから、古藤真彦が同じく三号。どうやら性別は男らしい、といふ辺りまでしか判然としない奥村望にどうにもかうにも手も足も出しやうがないが、二号か、それとも一度は長台詞も与へられる館のエスコート役の若い男。澤村清隆・上田亮・古藤真彦と同じくレジェンド・アクターズスタジオ所属の竹田朋華は、少なくとも、その姿がフレーム内に捉へられることはない。となると、正直何の意図があるのか激しく腑に落ちない、冒頭の歩道橋の画に被せて中盤妙な尺を割かれ繰り広げられる、痴話喧嘩の女の声か。男の声は、勿論大絶賛不明。
 成り立ちのあらましから先に攻めておくと、“障害のある人たちが、エロティックな映画を映画館で楽しめ、体感できる環境を作る”とのコンセプトを謳ひ、副音声と字幕つきの裸映画を製作・上映する略称エロバリこと、エロティック・バリアフリー・ムービーの第一弾である。ポレポレ東中野を始めとする各劇場での上映に当たつては、第一弾もう一本の「ナース夏子の熱い夏」(2010/監督:東ヨーイチ/バリアフリー副音声:速水今日子)主演の、愛泰(ex.薫桜子)が副音声を担当してゐるらしい。“らしい”といふのは、今回小生がプロジェク太上映の地元駅前ロマンにて観戦したのは、レジェンド・ピクチャーズよりリリースされた純然たるVシネ仕様で、副音声・字幕何れもつかず、確かクレジットからなかつた筈だ。因みに、結果論を先走ると出来栄え自体に一見ウッカリ通り過ぎかねないが、監督・脚本の東ヨーイチとは、「もう頬づゑはつかない」(昭和54)や「橋のない川」(1992)等々で広く知られ、かねてから自作のバリアフリー化に尽力する東陽一その人である。実際に今作を観て頂ければ、改めてお断り申し上げるまでもないことではあるが、最初に“エロティックな映画”とはいつたものの、アスペクト比16:9のHDで撮影された、直截には単なるVシネである。なので話を戻すと単館公開に際して、キネコで事に挑んだのか、矢張りプロジェク太で茶を濁したのかは不明。全くの邪推ながら、どうせわざわざフィルムを焼いてなどゐまい。
 その上で、作品自体の吟味を一言で片付けてみると、バリアフリーの美名に引き寄せられた善男善女か、もしくは東陽一の名にまんまと釣られたシネフィルは、共々撃沈必至の一作。自堕落に自動的なのみでてんで形になりはしない開巻から、映画といふかVシネといふか、兎も角エロバリがワン・カットたりとて回復することはない。そもそも主眼の銀杏がミサトスタジオで過ごす一週間からが、サドマゾもなければ特にエクストリームな訳でもなく、実質的には凡そ調教も陵辱もへつたくれもない。端的に、生温い濡れ場濡れ場が正しく漫然と連ねられるばかり。一応七日間監禁状態には置かれる特異な状況に関しての、外堀が次第に埋められて行くことも別にも何もほぼない。終盤吾郎と銀杏がスノビッシュに中原中也の「春宵感懐」を輪唱してみせるといふか、より正確には輪唱してしまふ件に顕著な、何とはなくの雰囲気だけで間をもたせ一時間強を見せきるには、兎にも角にも平板極まりなく、平均的な水準から半歩も踏み出でることはないVシネ画質が厳し過ぎる。機材的な問題なのか、下元哲十八番のソフト・フォーカスも不発。オーラスに至つて、藪から棒にとしかいひやうがない銀杏のモノローグにより、件の一週間が“人間改造計画”とかいふイベント―何故か凹み気味の主催者として、再登板した奈良坂篤が見切れる―で、なほかつその本質が、実は“男性改造計画”であつたとする結論が、木に竹すら接ぎ損なふかの如く言明される。諏訪太朗登場時と同様に、唐突に開いたものを更に唐突に畳んだと考へれば、逆の意味で完成された構成とも皮肉としてはいつていへなくもないが、実際のところは良くて狐につままれるか、悪くすると開いた口が塞がらない。それもこれも、寝落ちなければといふ、最も困難なハードルを越え得た場合にのみの話ではある。女の裸の腰から下への訴求力さへ覚束なく、こんなところで名前を持ち出して申し訳ないが、東ヨーイチであらうと陽一であらうと、コーヒーと同じ意味に於いての、レジェンド謎の四番打者・久保寺和人監督作かと見紛ふアメリカンVシネ。個人的にはリアルタイムの佐藤幹雄の健在ぶりを確認出来たことが、唯一の収穫である。

 当初は2010年中の第二弾―初弾のロードショーは八月―が予定され、残存する公式サイトには“11月下旬、ポレポレ東中野にて公開決定!”とこの期に臆面もなくあるが、幸か不幸かといふか当然の報ひとでもいふべきか、未だ、第二弾の詳細は有無から清々しくまるで聞かない。下衆が勘繰るに、あるいはないから聞きやうがないのか?


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 「多感な制服 むつちりな潤ひ肌」(2010/製作:加藤映像工房/提供:オーピー映画/監督:加藤義一/脚本:城定秀夫/撮影監督:創優和/編集:有馬潜/音楽:與語一平/助監督:江尻大/監督助手:菊嶌稔章/撮影助手:丸山秀人/照明助手:高橋舞/音響効果:山田案山子/出演:稲見亜矢・貝瀬猛・しじみ・岡田智宏・平川直大・ちび介・井尻鯛・鎌田一利、他五名・広瀬寛巳・佐々木麻由子・なかみつせいじ)。出演者中、井尻鯛(=江尻大)から他五名までは本篇クレジットのみ。
 ドリフの雷様コントばりの天界、天使のテンコ(しじみ/ex.持田茜)の役目は、下界の人間の寿命に相当する炎を灯すロウソクの管理。とはいへ業務はどうしやうもなく退屈で、テンコは人間界を覗き見ることの出来るGOD TV―あれ?―を通じて、主に情事の模様を中心に楽しむ。高校生カップルの早川麻美(稲見)と広樹(貝瀬)の初々しいセックスも悪くはないが、中年夫婦の立花景子(佐々木)と正志(なかみつ)の情感溢れる文字通りの情交に、テンコは目を細める。ところで、憐れ麻美のロウソクは程なく燃え尽きつつある一方で、立花夫婦の余命は、二人ともタップリ四十年はあつた。景子と正志の夫婦生活を見ながら一人遊びしてゐたテンコの鼻を、一匹の蝿―の、開き直つたかのやうな玩具―がくすぐる。弾みでテンコは大きなくさめ、あらうことか、景子のロウソクを吹き消してしまふ。テンコが慌ててGOD TVを見やると妙な低画質の中、事の最中に急死してしまつた妻を、正志は必死で揺り起こさうとしてゐた。と、ここまで、テンコの造形はフニャフニャグズグズした、しじみ的には標準的なメソッド。今の時代としてはそれで構はないのかも知れないが、ピンクの本道からするとここは本来ならば、テンコはドジッ娘属性まで踏まへて林由美香の役に違ひない。ピンク映画の本道、そのやうなものが現に存在するのか否か、などといふ潤ひを欠いたツッコミは御容赦願はう。
 一方死んだ人間を天国と地獄とに振り分ける、冥界の入り口。事務的な番人・ペテロ(岡田)が、判りにくい小ネタも噛ませて義良男(平川)を天国に通し、地獄行きを了承せず暴れるヤクザ(ちび介)は、フィンガースナップ一閃呼び寄せた赤鬼(広瀬)に排除させる。全く謎の名義ながらちび介は、本当に銀冶よりは少し高いくらゐの短躯に適度な強面を載せ、大雑把に譬へれば成家班唯一の西洋人ことブラッドリー・ジェームス・アランにも似た好キャラクター。井尻鯛から他五名までは、死者の行列要員。一旦荒れたその場を整へたペテロは、未だ死んでゐてはおかしい景子が受付に現れたことに当惑。担当のテンコを問ひ詰め事の真相を知るや、許されざる派手な不祥事に頭を抱へる。結局、ペテロがゼウス様(一切登場せず)から“聖火マッチ”を拝借し、それで景子の半分近く残したロウソクを再点火、要は生き返らせることにする。ひとまづ安堵したテンコは、反省といふ言葉を知らんのかペテロと一戦交へる。ところが、間抜けな二人が満ち足りてマッタリしてゐる内に、景子の亡骸はチャッチャと荼毘に付される。帰るべき側(がは)を失ひ、至極全うに激怒し詰め寄る景子のオッソロシイ剣幕に押され、テンコは運命通りに夭逝したての麻美の肉体に景子の魂を入れ、正志の下に戻す奇策を練る。
 そんなこんなで麻美の肉体を借り、景子逆走ver.のケイコ(当然稲見亜矢の二役)は、早川家にて気丈に寝ずの番を務める広樹の眼前で復活、そのまま二人で夜道を立花家へと急ぐ。とはいへいふまでもなく、斯様に超常的な状況を妻に先立たれたばかりの寡夫がおいそれと受け容れよう訳もなく、その晩はけんもほろろに追ひ返される。果たして、中年男と不釣合ひな若い娘の姿をとつた、天使の粗相で徒に死に別れた夫婦の行く末や如何に、さういふ次第のファンタジーである。いふても詮ないことは千も承知の上で、いはずもがなを憚りもせずにいふが、ピンクの誇る二枚名看板・佐々木麻由子&なかみつせいじと比べるまでもない、稲見亜矢と貝瀬猛の如何ともし難い覚束なさに、中盤から本格起動した物語は当初清々しく心許ない。帰宅の叶はなかつたケイコは、そのままとりあへずは早川家―家人は娘の遺体と彼氏の姿が消え、大騒ぎになつてゐる筈だ―に帰ればいいものを、広樹の部屋に一旦退避。自棄酒を呷つた勢ひも借り、ケイコは若い広樹を喰ふ。その際ケイコが見せる見慣れぬ積極性にそれまでは半信半疑であつた広樹が、自らの腰に跨るのがあくまで麻美ではなく、矢張りケイコであることを認識する件は本来ならば本作最大の飛翔を濡れ場で補完する、これぞピンクで映画なピンク映画ならではの名シークエンス。と、行きたい相談ではあつたのだが手際も問題したか、カットの強度は些か弱い。とはいふものの後述する弁当でどうにか間を繋ぐと、終に漕ぎつけたケイコと正志の映画デートを通して、一撃必殺の映画的強度が煌く。因みに前段階で、おどけるケイコからカップルにしては歳の離れ過ぎてゐる二人の様子を尋ねられるのは、私服が妙にカッコいい加藤義一。何某か3D映画―3Dメガネが単なるサングラスでしかない安普請は、この際さて措け―を観た後に、セピアの色調、二人きりの児童公園。発条で前後上下に揺れる三人掛けの遊具に画面左を向いて正志と、ひとつ間を空けてケイコが乗り、かつてこれまでデートで観た映画映画のタイトルと、短い感想を語り合ふ。二人で初めて観た映画は「シザーハンズ」、この時点で反則だ。その映画のタイトルだけで、少なくとも現在アラフォー世代の、センチメンタルな琴線は激弾きされずにはをれまい。「羊たちの沈黙」が怖くて怖くて仕方なかつた正志は、「バットマン・リターンズ」で泣いた。臭いも通り越しあざとくすらある遣り取りではあるが、女の裸のことも忘れ引き込まれた名場面にいよいよ竜の瞳を描き入れるが如く、背を向けた正志は気付かぬところで、ケイコから景子に、即ち稲見亜矢と佐々木麻由子が巧みにスイッチする映像マジックが叩き込まれる。寧ろここまで溜めておく為に、3D映画館での先走りは控へておくべきでもなかつたか。起承転結の落とし処についてはすんなり呑み込めるのかさうでもないのか、ここでもビリング頭二人の決定力の欠如にも遮られ、甚だ微妙でもある。自堕落に自戒するばかりで、結局元凶たるテンコに些かの報ひが与へられないことに対しても、娯楽映画とはいへど些かの不均衡を覚えぬでもない。改めて整理すると、ほぼ前半は劇中世界の外堀を埋めることに費やし、尺も半ばに差しかゝり漸く動き出した物語は、仲良く頼りない主演女優と猿顔の雰囲気イケメンに不安定に立ち上がり、やがてビリング後ろ二人が、穏やかな超絶を確実な手応へを以て撃ち抜く。そして結末に至つて、再び若干求心力を失する。野球でいふと、不調の四番が内野ゴロで最低限進めた走者を五番が返す如き一作ではあるが、今作が全体的には真の完成度にまでは到達し得なかつた余地を、敢て余裕と捉へたい。公園シーンの一点突破でいい映画を観たといふ余韻に、傑作傑作とギャンギャン騒ぎたてることもなく、のんびり静かに浸らう。
 広樹宅に逗留してゐるやうにも見え、劇中絶妙に判然としなかつたケイコならぬ形式的には早川麻美の扱ひに関しては、同じ相手と正式にやり直す最終的な去就をみるに、普通に麻美が蘇生したものと処理したやうだ。

 ケイコは徐々に正志との距離を縮めるべく、“あしたのために”感覚で景子しか知り得ないであらう秘密をひとつづつ書いた手紙を添へた弁当を、立花家の玄関ドアノブに提げておく形で届ける。手紙の印象的な筆致は、城定タイトルと同じものである点から、城定秀夫の手によるものとみてまづ間違ひなからう。


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 「ザ・他人と情事 奥まで痙攣」(2002『人妻不純交際 奥の奥まで』の2010年旧作改題版/製作:サカエ企画/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:岡輝男/企画:稲山悌二《エクセス・フィルム》/撮影:千葉幸男/照明:高原賢一/編集:酒井正次/助監督:高田宝重/音楽:レインボーサウンド/監督助手:北村隆/撮影助手:清水康宏/照明助手:原康二/効果:中村半次郎/出演:若松あい子・林由美香・風間今日子・岡田智宏・田代剛士・平川ナオヒ・丘尚輝)。
 主婦の吉沢琴美(若松)が、テレビの料理番組を見ながら晩御飯の献立を決めたちやうどそのタイミングで、旦那の隼人(丘)から、その日は仕事で帰れない旨の電話が入る。琴美が不貞腐れついでに、レディース・コミックをおかずに自慰を始めるのに合はせてタイトル・イン。ここまで、新田栄らしい手際の良さが何気なく発揮される開巻の運びは地味に完璧、後述する、最重要なある一点さへ除けば。一頻り終へたところで今度は、後々の会話から察するにOL時代の同僚と思しき、矢張り人妻の市原友里(林)から電話が入る。合コンするので、琴美も来ないかといふのである。細かいことはいひないといふメッセージでも込めんばかりに、琴美は二つ返事で同意、友里と、更に新婚一年の樋口浩子(風間)とも合流し、三人は会場を目指す。ここで、激越な違和感が爆裂せざるを得ないのが、製作費節減目的で、撮影との同録ではなく声は後から吹き込むことを宗とするピンク映画にあつて、今回風間今日子のアフレコの主が真赤な別人。出番自体が少なく、然程喋らない故微妙に自信も持てないが、多分杉原みさおの声に聞こえた。何れにせよ、風間今日子本来のハスキー・ボイスからは清々しく遠く、浩子が口を開くカットの心地が悪くて悪くて仕方がない。話を戻して、三対三の相手は何れも明応大学生の、画面奥から津田和樹(田代)・星野秀介(岡田)・岩崎淳之輔(平川)。因みに女性陣の並びは、同じく琴美・友里・浩子。ところで淳之輔の素朴な疑問に答へて、隼人は仕事で外泊は説明済み、友里のところは出張中まではいいとして、浩子夫が新婚一年目にも関らずいきなり単身赴任といふのは、些かならず無造作に不自然だ。氷の口移し程度は序の口、乳首を舐めることまで平然と指定する遣り過ぎ王様ゲームを経て、浩子は淳之輔とそそくさと合意、残る四人の目も憚らず、手洗ひに中座し一戦交へて来る。風間今日子的には、早くもここで打ち止め。その晩琴美は秀介を、友里は和樹をお持ち帰り。以来秀介との関係を重ねる琴美ではあつたが、ある日以来、プッツリ連絡が取れなくなる。友里が和樹を通して得た情報によれば、心臓に持病を抱へる秀介は、手術を控へ入院中であるとのこと。そもそも発端の合コンも、そんな秀介の為にセッティングしたものだといふ。琴美は居ても立つてもゐられず秀介が入院する、深夜の日の出町中央病院に潜入する。
 兎にも角にも今作を鮮やかにではなく秒殺してみせるのは、勿論ファースト・カットから登場する若松あい子。女優としてはおろか一般人としても華を全く欠くボサッとした容姿に、辛うじて乳は大きいものの、同時に肉も見事に厚い。逆の意味で斯くも綺麗な三段腹といふのも、久々に観た気がする。わざわざ木戸銭を落として、そのやうなものを見せられなければならない不条理は、この期の未だに理解出来なければ、今後とも決して受け容れるつもりはないが。そんな不細工な肉襦袢―直截にも程がある―である主演女優の、脇を固めるのは林由美香と風間今日子。これぞエクセス・クオリティ、とでもいはずして、果たして何といはう。風間今日子の声をあからさまな他人がアテレコする明白な瑕疵さへもが、寧ろ別の意味で完璧とすら思へてしまひかねない。今作中、幸にも琴美と絡む災難を免れる隼人に不貞が発覚しかけた危機に、友里が渡した絶妙な助け舟を、今度は友里と和樹の水葉亭に舞台を移した藪から棒な伊豆パート―浴室の窓から覗く外景が合成に見えるのは、当然気の所為か?―に繋げる段取りや、効果的な一オチも噛ませた、それぞれの懲りないお互ひ様ぶりが巧みに交錯するラストなどには、実は意外と光るものも感じさせぬではない。とはいへ最終的には超絶のアンバランス感以外残るものはほぼ無い、若松あい子の通つた後には、ペンペン草一本残らぬ勢ひの壮絶な一作である。脚本自体の純然たる完成度からすれば、実現可能な人選でいふと、これで主演が例へば同年二作前「介護SEX お義父さんやめて!」の安西なるみであつただけで、全体の印象が、相当に変つてゐたのではないかとも思へるのだが。

 それどころではないことなど、この際いふまでもあるまいが、新題の感動的なまでの適当さが堪らない。何が“ザ・他人と情事”だ、その定冠詞に、一体何の意味があるといふのか。大体“家族と情事”であつた方が、問題が生じる場合が多からう。


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 「ザ・痴漢教師4 制服を汚せ」(2001/制作:セメントマッチ/配給:新東宝映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/企画:福俵満/撮影:清水正二/編集:酒井正次/音楽:大場一魅/助監督:佐藤吏/撮影助手:長谷川卓也・岡部雄二/監督助手:長谷川光隆・斎藤勲/スチール:津田一郎/録音:シネキャビン/現場応援:小川隆史/現像:東映化学/出演:佐々木麻由子・河村栞・麻生みゅう・なかみつせいじ・北千住ひろし・松木良方・神戸顕一・千葉誠樹・鈴木ぬりえ・浅井康博・樹かず/特別出演:石動三六・小池雪子・山ノ手ぐり子・大場一魅・入江浩治・菱沼美枝子・のろけん・かわさきひろゆき/SPECIAL THANKS:吉永幸一郎・山本幹雄・宮野真一・長谷川耕平・アンタッチャブル林・渡辺武洋・望月海吏・荒川正勝・林有一郎・生方哲・松嶌正樹・柄本倫子・高氏源治・佐々木久志・平田耕二)。出演者中、樹かずは本篇クレジットのみ。
 混み合ふ電車の車内、全篇貫き火を噴くエキセントリックに下卑たニヤケ顔を浮かべ、北千住ひろしが多分小池雪子に痴漢する。背後から女の肉を愉しむ北千住ひろしと弄ばれる小池雪子、更にその前に背中を向けて立つ石動三六が不穏な気配に気づきかけたところで、無体にも北千住ひろしは石動三六に自らの罪の濡れ衣を着せる。あちこち不自然さも甚だしい開巻ではあれ、一応後々の、助走を果たしてゐなくもない。
 明和学院高校、そんな北千住ひろしこと科目は社会科教師の塚本が、己の姿も省みず生徒にソクラテスの思想を説く。天の怒りに触れ、雷にでも打たれてしまへ。劣等生の霧島かおり(麻生)が話も聞かずに携帯を弄り、優等生の渚ゆい(河村)は、右隣の髪型と眼鏡が無闇に野暮い彼氏・岡部(浅井)に消しゴムを貸す。一方校長室、校長(松木)は信頼を置く教師の山村(なかみつ)に、昨今二世議員の石原(千葉)と結託した教頭(神戸)が、金儲け目的で明和学院中等部新設を目論む動きへの警戒を打ち明ける。同調と共闘を山村に求めかけた校長は、心臓の発作に見舞はれ昏倒、その場に、英語教師の三島涼子(佐々木)も居合はせる。そのまゝ校長が入院してしまつた大事も何処吹く風、互ひに家庭を持つにも関らずW不倫の状態にある山村と涼子はホテルにしけ込み、漸く最初の絡みらしい絡みをキメる。因みに、都合三度繰り広げられる電車痴漢は、何れも実車輌での撮影につき、然程深追ひはせず。翌日以降、山村が入院中の雑務を校長から任されたのが、教頭は激しく面白くない。腰巾着で学年主任の塚本経由で招聘したかおりを、教頭は実際の成績からは到底あり得ない大学推薦もちらつかせ3Pでコッテリ堪能した上で、仔細は塚本に委ね無造作なハニー・トラップ発動。再び大雑把なシークエンスを経て、かおりを操り塚本は石動三六に続き山村にも、破廉恥犯の汚名を負はせる。憐れ山村が校内の白眼視に耐へかねる中、勢ひづく教頭と塚本は入念なリサーチを通して初物であるとの確証を得た、ゆいを石原に献上する。石原も石原で、ラリッてでもゐるかのやうにしか見えない、奇矯極まりない演技指導を施される。かつては新田栄が多用した、模型を使つての膣内視点を表現する―そもそも、一体どんな視点なのかといふ話でもあるのだが―特撮に際しては、薄紙でも用ゐたのか膜越しに千葉誠樹の顔をぼやけさせる、珍しいショットを披露する。現実的かどうかはさて措き、アイデアとして視覚的にも判り易く実に素晴らしい。
 登場順に樹かずは、確かに多忙さうであるのは兎も角、特に不仲さも全く窺はせぬどころか寧ろ満更でもない雰囲気の、涼子の夫で映像ディレクターの三島。と、ころで。涼子が差し入れに訪れる三島がビデオを編集中の一室には、35mmのフィルム缶が画面左手前に大量に見切れもする。鈴木ぬりえはヘッドフォンとガムがトレードマークの、かおりと反目する女生徒・野上和代。確執の発端たる、鼻糞が目糞に笑はれる回想に於いて、サイレント映画風に二人の台詞を―しかも乱雑な―手書きテロップで処理するのは、柄にもなく、池島ゆたかは荒木太郎にでも気触れてみせたのか。特出勢中僅かに確認出来たのは、教師役の山ノ手ぐり子(=五代暁子)とかわさきひろゆきと、かおりと仲のいゝ男子役の入江浩治のみ。大場一魅が顔を見れば判る筈なのに、確認能はず。
 節目に改めて整理すると、額面通りの痴漢教師が底の浅い姦計を振り回す、「ザ・痴漢教師 制服狩り」(1997/脚本・監督:北沢幸雄/女優主演:メイファ)。以降池島ゆたかにメガホンが渡り、シリーズ最強の獣欲の権化が大暴れの末見事に破滅する、「ザ・痴漢教師2 脱がされた制服」(1998/女優主演:立川みく)。気弱な痴漢ならぬ正確には盗撮教師が、サイコ・キラーの千葉誠樹に完全に喰はれてしまふ「ザ・痴漢教師3 制服の匂ひ」(1999/女優主演:里見瑶子)に続く、第三作までは杉本まこと名義のなかみつせいじを主演に据ゑ、前三作のペースと比べると若干間も空いた「ザ・痴漢教師」シリーズ第四作。尤も、山村メインで今作を捉へようとすると、些かならず面喰ふか拍子抜けする羽目になる。教頭&塚本の悪党コンビに力無く撃墜されたまゝの山村の復権に尽力するのは、岡部に捧げる約束の処女を無惨に散らされ、傷心のゆいを保護した―飛躍も大きな―弾みで痴漢疑惑の核心に無理矢理辿り着き、文字通り一肌脱ぐ涼子。塚本に仕掛けた、例によつて場当たり的な逆ハニー・トラップが露見の危機に瀕するや、今度は左右にかおりとゆいを助さん角さんよろしく従へ、黄門感覚で校長復活。俄に蛇に睨まれた蛙の如く、教頭と塚本は何故か色んな段取りもスッ飛ばして止めを刺される。大絶賛他力本願ぶりが最早清々しい山村は、挙句に締めの濡れ場すら関係の清算を決意した涼子からはかはされ、取つてつけた感も迸らせぬではない、ゆいと岡部に譲る始末。少なくとも、山村の扱ひに関しては等閑視するにせよ、映画を畳ませるのであるならば、もう少し岡部にも出番なり描写を割いてあげるべきではとの釈然としなさは残る。これまでの傾向も踏まへ山村に求めると、案外今作の軸を見失ふ。よしんば最後は短絡的に片づけられてしまふとしても、事実上の主役は不倫教師のなかみつせいじではなく矢張り痴漢教師の、北千住ひろしと見るのが妥当ではあるまいか。対涼子戦、対かおり戦、対ゆい戦のそれぞれ一戦のみに止まる順に山村、教頭、石原に比して対かおり戦と、最終的には未遂に終るもののアグレッシブに攻め込む対涼子戦、加へて冒頭とかおりの懇願を受けた和代殲滅戦の、二度の電車痴漢をも展開する塚本の劇中支配率こそが、物理的な尺の長さ以上に何はともあれ兎にも角にも高い。ギョロ目で歯は剥き出し、喚くやうに高笑ふ。主用メソッドは一つきりの鮮やかな一本調子ではありながら、物語を牽引しつつラスト間際まで走り抜き、低劣な好色漢をそれはそれとして快演する北千住ひろしの姿が、表面的なビリングに囚はれなければ最も印象に強い。電車内といふ衆人環視の状況下で、和代を辱めるべくピンクローターを下着の中に忍び込ませ責めた塚本は、「時をかける少女」の節で「バーイブ、入れた少女♪」なる頓珍漢な替へ歌まで歌ひ上げる。だからローターだろ(´・ω・`)、などといふ無粋なツッコミは自粛だ。主演が助演に喰はれた前作に引き続きといふか更に斜め上を行き、実は助演が主演であつたのではなからうか、とさへ思はせるトリッキーなシリーズ最終作である。


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 「未亡人銭湯 おつぱいの時間ですよ!」(2010/制作:セメントマッチ/提供:オーピー映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/撮影・照明:清水正二/音楽:大場一魅/編集:酒井正次/助監督:中川大資/監督助手:新居あゆみ/撮影助手:橋本彩子・花村也寸志/照明助手:広瀬寛巳/編集助手:鷹野朋子/スチール:津田一郎/録音:シネ・キャビン/現像:東映ラボ・テック/タイミング:安斎公一/協力:田中康文、小川隆史、だいさく、ステージ・ドアー《新宿》/出演:晶エリー・竹下なな・日高ゆりあ・甲斐太郎・野村貴浩・久保田泰也・色華昇子・津田篤・池島ゆたか/SPECIAL THANKS:里見瑤子・倖田李梨・木の実葉・酒井あずさ・ミュウ・月夜野卍・久保新二・竹本泰志・国沢☆実・丘尚輝・永井卓爾・山名和俊・松本格子戸・岡本真一・後藤大輔)。SPECIAL THANKS中、里見瑤子からミュウまで、即ち女湯裸要員はポスターにも記載あり。
 煙を吐く銭湯の煙突―これ、判り辛いけど煙はCGか?―と、寡黙にボイラーを焚く野村貴浩の画を噛ませて、常連客のオザキ(久保)と色華昇子(ハーセルフだかヒムセルフ)が、仲良く喧嘩するやうに連れ立つて下町のオアシス・銭湯「松の湯」を目指す。新作では久し振りに見た―森山茂雄の「好きもの家系 とろけて濡れる」(2008)以来―割には大絶賛相変らずな色華昇子の、久保チンを向かうに一歩も引けを取らない存在感はある意味流石だ。我先に松の湯に辿り着いた二人の、「女将さあん、時間ですよ!」といふシャウトに合はせたタイトル・インの強度は完璧。親子ほど歳の離れた亡夫から継いだ、女将の及川志乃(晶エリー/ex.大沢佑香)が一人で切り盛りする松の湯は、亡夫の友人、兼現在は志乃の相談相手も務める大学教授・谷原(甲斐)の進言に沿つたポイント制のサービスも好評を博し、時流に屈せず賑つてゐた。ここで、抜群に潤沢な銭湯客は甲斐太郎と色華昇子、後述する日高ゆりあと久保田泰也のほかに、SPECIAL THANKS勢中女湯に里見瑤子からミュウまでと、男湯には久保チンから岡本真一まで。余計な方向に筆を滑らせると、木の実葉(ex.麻生みゅう)のよくいへばリアルな裸は正直少々キツい。兎も角、欲情ならぬ浴場の様子に被せて、不格好に今作を貫く窃視者の視線を表す瞳のCGが、横好きに起動する。役得感を爆裂させる、志乃と亡夫・及川(池島)との在りし日の夫婦生活―それにつけても昨今の池島ゆたかの肥えぶりは、まるでマーロン・ブランドのやうだ―をタップリ尺も消費し且つコッテリ回想した上で、及川家に、義理の娘とはいへ志乃より年上の松子(竹下)が、夫とは離婚したと騒々しく出戻つて来る、コッソリ帰つて来られても驚くが。その扱ひを巡り早速諍ひとなつた志乃は松の湯の継続死守と、松子を養ふ旨を果敢に宣言する。志乃が守り抜くと誓ふ、銭湯といふ失はれ行く一つの業態を超えた文化に、ピンク映画の姿をも重ね合はせるのは、センチメンタルな勘繰りであることならば判つてもゐるつもりだ。志乃が松子帰還を谷原や、松の湯の常連客でパブ「ステージ・ドアー」のママ・ゆかり(日高)に零すやうに伝へる中、当の松子はといふと、薮蛇に樹かずが登場するAVでオナッてゐたりなんかもする。一方ステージ・ドアー、学生時代から松子をマドンナ視する矢張り松の湯クラスタ・長田ユースケ(久保田)が、泥酔しゆかりに管を巻く傍らで、松の湯のボイラーマン・滝沢(野村)は、東スポを手に不器用に一人飲みする。ここではSPECIAL THANKS勢から月夜野卍が店の女で、後藤大輔がその他客らしい。もう二人店内に見切れるのは、確認し損ねたが田中康文と小川隆史辺りか。そんなこんなで、ポイント会員限定の松の湯混浴デー。フレーム内に三つ並んだ湯船の内、向かつて左側の湯船には久保チンを先頭に男客、右側の湯船には里見瑤子以下女客が互ひに緊張して固まる中、中央の湯船にはいはば男でも女でもない色華昇子が一人ポツンと浸かる画は、森山茂雄の今度は「痴漢電車大爆破」(2006)開巻を飾る佐野和宏の誤爆痴漢にも繋がらう、到達感さへ煌かせる超絶の名ショット。20ポイントを貯めたゆかりはイケメン三助特典をゲット、水着の志乃の「タッキー、カモーン!」の呼び込みと共に、着流し姿の滝沢が大衆演劇感覚の見得を切りながら華麗に登場。秘かにでもなく滝沢に想ひを寄せるゆかりは三助サービスを猛烈に跨ぎ越えた、殆どどころか完全ないはゆる“逆ソープ”に、次第に固唾を呑む衆人環視を憚るでなく喜悦する。ところで、滝沢が二十代の頃は六本木NO.1ホストであつたとする人物造形には、深読みすれば「ホスト狂ひ 渇かない蜜汁」(2006/主演:たんぽぽおさむ・日高ゆりあ)も踏まへた、裏設定の存在が予想といふか妄想される。
 終盤に至つて漸く登場する津田篤は、かつて志乃を及川に奪はれた元カレ・柏木ヒビキ、詰まるところが窃視者の正体でもある。数度目の松の湯潜入で滝沢に捕らへられ、後に二人きりになれたところで、諦め悪く復縁を迫り志乃に襲ひかかる。とそこに、松子が混浴デー二日目にこちらも目出度く結ばれた、長田と帰宅。再び捕らへられるや、商店街緊急連絡網を通じ召喚された妙にマッシブな色華昇子が来襲、柏木が危ふく喰はれかゝるシークエンスは恐ろしくも抱腹絶倒。
 SPECIAL THANKSに名を連ね、劇中特にこれといつたギミックを披露する訳でもなく一貫しておとなしく風呂を浴びる、国沢☆実の「新・未亡人銭湯 女盛りムンムン」(主演:原ゆきの)以来、七年ぶりの未亡人銭湯。さりげなく特筆すべきは、実は里見瑤子が現時点で今世紀三作何れもオーピーの未亡人銭湯―渡邊元嗣の「未亡人銭湯3 覗いちやつた」(2001/主演:高橋千菜)は、残念無念未見―の全てに、女湯裸要員としてカメオ出演を果たすといふ地味な偉業を何気なく達成してみせてゐる点。時節柄当然予想し得る、銭湯の存続問題は冒頭に於いて既に導入済みの、谷原発案のポイント・サービスにて概ね通り過ぎると、後は要は順々に三番手、二番手、そして主演女優がそれぞれ恋路を成就させ幸せになるだけの、といへばだけの、一本調子の一作でもある。冷静になつてみると展開らしい展開にも乏しいところではありつつ、演者の頭数が増えれば増えるだけキレを取り戻す池島ゆたかの演出は頗る快調、一歩間違へばメイン・キャストよりも豪華なSPECIAL THANKS勢―といふか、この面子で全然一本撮れるぞ―が飾る画面の分厚い賑々しさには、つらつら眺めてゐるだけで胸がワクワクさせられる心地良い豊かさ温かさが溢れる。物語がどうの主題がどうの、手法としてはどうだかうだと野暮はこの際さて措き、正しくいい湯加減の広々とした風呂に身も心も解(ほぐ)されるかの如き映画体験が味はひ深い、肩肘張らないまゝに高水準の、戦闘的ならぬ銭湯的な娯楽映画の良品である。観終つた後には、小屋に置いてあればコーヒー牛乳でもキメてしまへ。無論、仁王立ちで空いた手は腰だ。そんな中、映画を汚すとまでいつてのけるのは些か言葉が過ぎるやも知れないが、一円安くしてしまふもは否めない―昨今は影を潜めた、渡邊元嗣のプリミティブ特撮にも匹敵する悪弊といへよう―コンピューターならぬチープ・グラフィックスも含めると、ビースト・モードの色華昇子に愉快にとつちめられるほかは特段の見所に欠く柏木は、一体何をしに出て来たのか判らないとも一見いへかねない。とはいへ、ここで更に「新婚OL いたづらな桃尻」(2010/監督:小川欽也/脚本監修:関根和美/主演:愛葉るび)を想起するならば、久保新二と共演すると津田篤が無駄遣ひされる、明後日な法則性も認められぬではない。


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 「大好きなお姉さん 性感帯バイブ」(1991『異常性愛 OLバイブ責め』の2010年旧作改題版/製作:新映企画㈱/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:高島暁/企画:伊能竜/撮影:千葉幸夫/照明:秋山和夫/編集:酒井正次/助監督:青柳一夫/音楽:レンボーサウンド/撮影助手:佐久間治/スチール:大崎正浩/現像:東映化学/録音:銀座サウンド/出演:川島美優・大橋美加子・石神一・久須美欽一・登根嘉昭・芹沢里緒)。企画の伊能竜は、向井寛の変名。音楽のレンボーサウンドは当サイトの誤記ではなく、本篇クレジットによる脱字、何と大らかな世界よ。
 明和製薬研究所、研究所所長・田上陽一(石神)と、研究員兼愛人の三浦圭子(芹沢)による昼下がりの情事で順当極まりなく開巻。舞台移り、研究資金の出資者・時田啓二(久須美)邸にて、悪代官と腰巾着商人の風情をポップに窺はせる密談。時田の援助の下、田上らは新媚薬の開発に当たると同時に、更に何事か一件、田上が秘かによからぬ相談も請け負つてゐさうな趣を匂はせる。劇中唯一軸らしい軸として機能する、時田の邪な好色が鮮やかに起動する。薮蛇な圭子へのリモコンバイブ責めも噛ませ、田上は媚薬試作第一号の実験台に、酒場で見初めた一人飲みの女・田口美加(大橋)を選ぶ。田上が悟られぬやうグラスに試薬を混ぜ、忽ち欲情した美加をホテルにまで連れ込んだまではよかつたものの、事の最中我に帰つた美加は、さつさと身を離すやとつとと田上を一人残し帰つてしまふ。どうやら第一号には、持続時間に欠く難点があるやうだつた。その点を改善した試作第二号の被検者に、圭子は自分の後輩である牧さゆり(川島)を推挙。束の間の瑣末だが、圭子が取り出したさゆりの履歴書の、あたかも男児を思はせる字の汚さは商業映画のフレーム内に見切れる以上、もう少しどうにかならなかつたものか。とりあへず面接、両親は三年前に交通事故で亡くし、兄弟もゐないさゆりを田上は採用する。マンションの一室を宛がはれ、外部との連絡は禁じられた上で食後に白い錠剤、就寝前には赤い錠剤を飲むだけの、殆ど軟禁状態に二三本毛を生やしたかの如き普通ではない検体生活に、特に疑ひを覚えるでなくさゆりは入る。日に一度状態を確認すべく部屋を訪れる圭子が、効果が現れつつある節を看て取り土産と置いて行つた張形に、さゆりもさゆりで素直に溺れる。登根嘉昭は、淫夢の中でさゆりを犯す覆面男。登根嘉章と名義を改めた、暗がりに沈んだ上野俊哉の「本番!!ドすけべ夫婦」(1995 冬/主演:小川真実・佐瀬佳明)といひ、僅か二作とはいへ未だどうしても、この人の満足に抜かれた顔に拝めない。
 女の裸以外残り一切を清々しく排した、無造作な展開の速さと開き直つた物語の薄さとが堪らない一作。田上は時田の下に連れ出したさゆりを、無体に献上。ところがさゆりが実は最終目標ではなかつたとの、一応ミスリードが何となく通る。新媚薬完成のパーティーと称して時田邸に誘き出した圭子を、今度は田上はそんな真似をして人体に影響はないのか、しかも濃縮した完成媚薬で強制攻略。さゆりと同様、時田共々陵辱する。一点触れておきたいのは、特徴ある耳馴染みのよい抑揚を駆使し久須美欽一が繰り出す、力強い破廉恥漢・時田の煌く悪台詞。対さゆり戦に際しては、田上に指示し「田上君、この女の口を塞いでしまひなさい」。媚薬を盛られたのに気づき、「ハメたわね!」と声を荒げる美加に対しては、「ハメるのはこれからさ」。全く陳腐な文句ながら、それでゐて妙に綺麗に決まる。今更ではあるが、いよいよ病も膏肓に達して来たのか俳優・久須美欽一の評価は、もう少し高くとも罰は当たらないのではなからうか。といつた気にならなくもなく、特に今作にあつては、石神一とのバランス感も実に申し分ない。一頻り時田・田上の悪党コンビがさゆりを楽しむと、起承転結を十全に着地させる営みも放棄―収束させるほどの始終も、そもそも存在しない訳だが―すると、囚はれるでなく開放されたのか、与へられた居室での相も変らず感が迸る、長々としたさゆりのバイブONANIEである意味といふか別の意味で堂々と映画を畳んでみせる。見る者によつては一番の上玉と捉へても無理はない、三番手の大橋美加子まで含め奇跡的に三本柱の粒も揃ひ、何かを勘違ひして劇映画を求めるならば非あるいは反感動的に物足らないと同時に、余計なものを極限まで省いた、それはそれとしてそれなりに、逆説的にストイックな裸映画ではある。

 出演者として、ポスターにのみ加藤義男―時期的に、加藤義一の変名ではない筈だ―なる謎の名前が見られ、エクセス母体の新日本映像公式によると、配役はバーテンとある。現にさうであるならば、田上が美加を捕獲した、店にでも見切れよう相談となる。但し、憚りながらちやうどその辺りで便意に駆られ一時中座したゆゑ、実際の出演の有無から確認能はず面目ない次第。

 以下は再見に際しての付記< 指パッチンで田上に呼びつけられる、バーテンといふよりはウェイターが確かに登場する


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