真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「淫乱貴婦人 止められない不倫」(1992『いんらん不倫妻』の2011年旧作改題版/製作:獅子プロダクション/提供:Xces Film/監督:わたなべもとつぐ/脚本:双美零/撮影:稲吉雅志/照明:?/編集:酒井正次/助監督:今岡信治/監督助手:国分章弘/撮影助手:斉藤博/照明助手:広瀬寛巳/出演:森下あみい・石川恵美・しのざきさとみ・浜崎優・南城千秋・山本竜二)。助手は拾へたにも関らず、見慣れぬ名前のチーフ照明に力尽きる。少なくとも、エクセス母体の新日本公式にある、田端功ではない。監督のわたなべもとつぐは、勿論現在渡邊元嗣の平仮名名義。
 都心の夜景にザックリとしたタイトルが入るや、即座にラブホテルでの逢瀬。ひとまづ、無駄のない開巻ではある。十九歳の若妻・平野晴子(森下)は、間違つても強くはない旦那との夫婦生活だけでは物足りず、徐々に登場する先輩で遊び仲間の高田美津江(石川)や大町久美子(しのざき)から紹介された男と、一人につき一回のみといふマイ・ルールを一応設けつつも、日常的な火遊びを繰り返してゐた。純然たる男優部絡み要員の南城千秋は、美津江経由のここでの晴子のお相手・今西正。翌日か、晴子が今西の感想を報告する電話をかけた美津江は、久美子が出会つた滅法セックスが上手いとの男にすつかり心ときめかせてゐた。したところに、晴子は抜群のタイミングで久美子からかかつて来た電話をキャッチ。久美子と、噂の性豪・太田浩一(浜崎)との情事を一頻りトレースした上で、慌てて晴子が美津江に通話を戻すと、待ちくたびれるでもなく、美津江は通販で買つたばかりのバイブで自慰に燃えてゐたりなんかする。裸裸また裸、それでも裸なほも裸。誠麗しき、裸映画ではある。くたびれた亭主に新妻が栄養ドリンクを差し出し―実にポップなメソッドだ―求める、晴子と夫・明彦(山本)との夜の営みを噛ませて、一旦話も忘れかけた十日後、首尾よく太田と致した美津江から電話が入る。よくよく思ひ起こしてみると、今作に於いて、劇中遣り取りは全て電話に限られる女優三本柱が、二人以上同一フレーム内に納まるカットは存在しない。長けた性戯の虜となる美津江ではあつたが、未婚者ながら太田も晴子と同じく、一人の女とは一度きりといふポリシーの持ち主であつた。そんなこんなで、遂に晴子が太田と相見える。互ひに相手に心身を奪はれ、太田の方から主義を曲げ再会を求めて来たものの、美津江との賭け―晴子が勝つと美津江お気に入りのバイブ、美津江が勝てば一万円―もあつてか、その場は強ひて固辞した晴子は後日、驚きの対面を果たす。明彦が家に招いた、事前に夫婦の会話中さりげない伏線も投げた新任の有能な部下といふのが、誰あらう太田であつたからだ。
 渡邊元嗣の略し過ぎた略歴を大雑把に踏まへておくと、昭和58年に三監督によるオムニバス作の形で東映セントラルからデビュー。以降は概ね新東宝を主戦場に選びつつ、90年代後半から大蔵映画(現:オーピー映画)にも参戦。2002年以降はオーピーに常駐し、無冠の帝王として顧みられることも殆どないままに、大絶賛現在進行形でローテーションを頑丈に守り続けてゐる。さういふ中、1990年前後の僅かな期間軸足を置きかけてゐなくもなかつた、エクセス作に初めて触れるものである。さうはいへ、実際の出来栄えはといふと。少なくとも現在の目から渡邊元嗣に求めたいエッセンスとしては、高田みづえと大町久美子をもぢつたものと考へて間違ひあるまい、高田美津江と大町久美子といふ石川恵美としのざきさとみの役名以外には凡そ見当たらない。これといつた物語が全篇を貫くでもなく、始終は偏に濡れ場濡れ場また濡れ場、それでも濡れ場なほも濡れ場しかも濡れ場にて埋め尽くされる。厳密に検討すると、尺の支配率が最も高いのは、主演女優も差し措き実は濡れ場三冠を達成する浜崎優ではなからうか。さういふ物理的な劣勢を挽回するにしては、今度は森下あみいにエモーションが稀薄で、その結果ナベ十八番のアイドル映画も不発気味に終る。となると、そこに石川恵美と南城千秋と山本竜二が居ることもあり、殊に、継続的な不倫関係に至つた晴子と太田の情事にやつかむ美津江の、「全くこの、いんらん不倫妻!」といふシャウトが被せられるラスト・カットも観るにつけ、要はわたなべもとつぐエクセス作といふよりは、師匠である以上ある意味然るべき姿といへるのかも知れないが、全く深町章新東宝作のやうな仕上がりではある。

 然しそれにしても、“淫乱”と“止められない不倫”は兎も角、“貴婦人”などといふ発想は一体何処の明後日もしくは一昨日から飛び出して来るのか。いふまでもなく、豪奢な生活レベルに無い袖を振ることもなく、平野家は思ひきりそこら辺の中流家庭にしか見えない。


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