真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「やさしい手」(2010/企画・制作:ミューズ・プランニング/製作:ファインフィルムズ/監督:関根和美/脚本:保坂延彦・関根和美/製作:加藤義久/企画:新田博邦/エグゼクティブプロデューサー:赤井航/プロデューサー:高中義光/撮影監督:下元哲/助監督:山口雄也/録音:飴田秀彦/美術:黒須康雄/編集:新居あゆみ/スチール:小阪和則/制作担当:高橋誠喜/撮影助手:斎藤和弘・浅倉芙里子/照明助手:榎本靖/録音助手:清水オサム/制作進行:綿貫仁/演出助手:新居あゆみ・市村優/スタイリスト:本多徳生/ヘアメイク:相場広美/助手:矢澤睦美/制作デスク:清水由佳/脚本協力:仁瀬由深/メインテーマ:光士老/EED:丸山正浩《エムジェイ》・千葉康将《エムジェイ》/MA:スワラ・プロ/整音:星一郎/整音助手:森田祐一/効果:伊藤克己/選曲:鈴木潤一朗/撮影協力:ハーベスト・厚生水産・SENTO CORPORATION・club Calme Kisarazu・ホテル コスタルーナ・NPO パートナシップきさらづ/衣裳協力:秋本商事株式会社・Angela、他二社/協力プロダクション:株式会社オスカープロモーション・青年座映画放送株式会社・有限会社三輪事務所・株式会社太田プロダクション・株式会社ぱあとなあ・株式会社メロウリップス・株式会社パーティ企画・株式会社ダブルフォックス・原田オフィス・石田企画/制作協力:関根プロダクション・有限会社マジックアワー/出演:水沢アキ、風祭ゆき、大竹一重、白須慶子、志水季里子、原絵里、三上剛史、山口真里、花井美代子、今井和子、すぎ。《インスタントジョンソン》、ゆうぞう《インスタントジョンソン》、じゃい《インスタントジョンソン》、松本勝、SATOMI、日堂圭子、甲斐太郎、なかみつせいじ、弓田和彦、秋本昇一、秋岡妙子、池田知世子、石井淳一、市川美枝子、GYU、サファリ・マジー、芝崎薫、瀬戸晴江、立石武昭、永塚忠弘、畑中靖則、芥善人、前田めぐみ、山口佐智世、吉原英子、渡辺和文、天川真澄、吉田祐健、宮川一朗太)。衣裳協力の他二社が、ポータブル・プレイヤーのチンケな液晶ではロゴを判読出来ず。あとオーラスにはⓒで、「やさしい手」製作委員会がクレジットされる、製作委員会方式なんだ。
 夕日や橋の画に加藤義久と新田博邦をクレジットした上で、鴎の飛ぶ空にタイトル・イン。明けて特に不穏な雰囲気も感じさせない、ニュートラルな港の風景に赤井航と関根和美の名前が続く。パート主婦の岩崎葵(水沢)が、ママチャリで快活に出勤。顔見知りと挨拶を交す何気ないカットに、よもやまさかあの男が潜んでゐようとは、後述する。特段重きを置かれるでなく志水季里子含むパート仲間計六人と、葵の前に現れた工場長(天川)は出て来るなり深々と頭を下げ、不況の煽りを受けての水産加工場閉鎖を言明して即座に退場。ピンク映画に於ける女優部三番手も斯くやと思はせる、鮮やかな御役御免が清々しい。とりあへず帰宅、義母・豊子(今井)に失業を報告した葵が夫で漁師の潤一に電話してみると、携帯はハンガーにかゝつた作業着の中で鳴つてゐた。翌日、結局潤一は連絡も取れないまゝ戻らなかつた岩崎家を、かつて潤一の弟子筋で十五年前突然姿を消した島村圭太(宮川)が訪ねて来る。潤一不在につき一旦そゝくさ辞した圭太は、桟橋まで追つて来た葵に青天の霹靂を告げる。圭太が社長を務める(有)ハッピーローンから潤一が三百万を借り、岩崎家家屋も担保に入つてゐるといふのだ。
 配役残り、闇雲な頭数に関しては潔く白旗を揚げる。豊子も脳梗塞で倒れ、職探しの要に迫られた葵は電車で街に出る。風祭ゆきは、葵がいきなり門を叩く個室ビデオ「オアシス」の女主人・天地洋子。仕事内容に葵が一晩考へさせて貰つたオアシス二日目、大竹一重が手コキを指南する美香。手しか客には見せないといふのに、服もメイクもキッメキメの藪蛇か頓珍漢な造形が香ばしい。泣きだしてその場を飛び出した葵が、その後あちらこちらで求職に爆死する一連。SATOMI名義の里見瑤子が客を見送つたスナック「とらい」の表で、葵に一瞥呉れるホステス役で艶やかに投入されるのが、天川真澄(ex.綺羅一馬)に続くピンク隊第二の矢。では実はなかつたんだな、これが、だから後述する。更にその翌日、再々度葵がおめおめ出直したオアシス三日目。サファリ・マジーは、洋子が葵を連れ3番個室のブースに入る間、受付を任せられるマジセルフ。ナードなお眼鏡が狂ほしい白須慶子が、控室にもう一人登場するオアシス嬢・るみ。えゝと、僕はるみさんで・・・・黙れそして息するのをやめろ。僅かな時間差でまとめて投入されるインスタントジョンソンは、まづじゃいが仕事終りに洋子が葵を誘ふ、バー「HARVEST」のバーテンダー。すぎ。とゆうぞうは遅れて「HARVEST」に来店するサラリーマンと、レオナルド熊風の鉢巻男。頭に来たのを脊髄で折り返し何度でも繰り返すが、徒に句読点を名詞に入れるなアホンダラ、文が乱れるのが気持ち悪くて仕方ない。閑話休題、三人には鎌田・片山・掛川と銘々固有名詞も用意されてゐるやうではあれ、全く以て特定不能。豊子を見舞つた葵は同じ病院の敷地内で、矢張り老婆を見舞ふ圭太を目撃する。また狭い町だな、とついついツッコミたくもなるのは、いはぬが花といふ奴だ。圭太らに声をかける医師が、なかみつせいじぽく思へなくもない―にしては少し若いかなー?―が明らかに録音が遠く、抜かれるのも背中からゆゑ確信には至れず。その直後、葵から呼びとめられるや患者の情報をペラッペラ開陳する、エクスキューズ看護婦が山口真里。関根和美―もしくは保坂延彦―が何も考へずに書くのは勝手だが、山口真里は脚本を渡されて首を傾げるなり匙を投げなかつたのか。と、いふかだな。脚本協力でもう一名加はつてゐたりもする、どうしやうもない地獄の体たらく。船頭多くして山に上るはおろか、船沈めてどうするのか。気を取り直して劇中最強かつ、電撃のワイルド・カードが吉田祐健。手を差し込む穴の開いた、ビデオ個室の薄い壁越し。客の洩らす呻き声で男が顔見知り(吉田)であるのに気づいた、葵が愕然とする件。葵が想起する吉田祐健の笑顔に、何処に出てゐたのかと大慌てでタイトル直後、葵の出勤風景に戻つてみたところ、確かに祐健イタ━━━(゚∀゚)━━━!!ピントも合はせられず、明らかに背景に埋れ。単なる無作為の結果棚ごと牡丹餅が落ちた比類ないウォーリーぶりが、場外馬券売場に紛れ込むのも通り越し極々自然に溶け込む、超絶のステルス性能を誇る新田栄をも凌駕する。それでも探せば見つかるだけ、吉田祐健はまだマシ。あゝも濃い、特濃のオフェンシブな面相を見落とす方が難しい御仁であるにも関らず、何故か甲斐太郎がどうしてもノッファウンドなのが重ね重ね残念無念。といふより寧ろ、直截には心の底から不思議。よしんば音声情報のみでも、逃がしはしない自信ならある。
 旧物件デモリッションに伴ふ、必ずしも非といふ訳でもないが半自発的転居後、純然たる業者都合で呆れる勿れ三週間強、新居に通信回線が固定電話分すら繋がらない新ならぬ珍生活。折角なので随分前にレンタル落ちをポチッてはゐた関根和美のVシネで、まさかのフライングを仕出かした、五人目の感想百本に到達するフィフス・ハンドレッドを改めて仕切り直し。なほ、クレジットには2010年制作とあるが、さうすると2010年の何作目に入れたらよいのか判らなくなるため、当サイトのインデックスはピンクの封切り日同様、あくまでDVDの発売日(2011/7/8)に従つた。
 パケ裏面に仰々しく躍る惹句が、“女優水沢アキ主演”ד映画初ヌードを披露し”ד衝撃の濡れ場を熱演!!”。尤も、よくある“劇場公開作品”の文言が見当たらない点を見るに、箔づけ上映も端折つた、純粋無垢のVシネである模様。失職と配偶者の借金に、姻族一親等の昏倒。何れもヘビーな、悲運のジェット・ストリーム・アタックに見舞はれた五十路の人妻が、手で扱いて男をイカせる、風俗店の敷居を跨ぐ、初手から。とかいふ、ぞんざいなメロメロドラマ、メロが一個多かつた。そこ、で。水沢アキの“映画初ヌード”ないし“衝撃の濡れ場”を謳ひながら、まあ何はともあれ、何が衝撃といつて水沢アキ映画初ヌードとやらを衝撃的に出し惜しむ。何が何でも出し惜しむ、凄まじく出し惜しむ。驚天動地、空前絶後に出し惜しむ。尺の折返し間際、二度目のシャワーシーンでいはゆる半ケツを拝ませる。のと、宮川一朗太の背中で正常位を頑なに隠し抜く、確かに衝撃ではある締めの濡れ場をも、しかも中途でブッた切つての通算三度目となる事後の矢張りシャワーで、正直あまりでなく有難くもない、萎びた横乳を僅かに覗かせるのが正真正銘関の山。勿体つけるにもほどがあるのか、それともそもそも、満足に見せられる素材では最早ないとする賢慮の働いた、苦渋の落とし処であつたのか。何れにせよ裸要員が木に竹を接ぐのも厭はず狂ひ咲くでさへなく、裸映画的な満足度ないし誠実さは、驚異的もしくは絶望的に低い。それ、でも。然様な痒いところを鎧の上から掻くやうな代物で、代物でも胸が一杯になる水沢アキに捧げられた殆ど信仰にすら片足突つ込みかけた、深く激越な関心を当サイトは別に持ち合はせてはゐないし、その欠如に不明を恥ぢるつもりも無論毛頭ない。そんな中でのまづ撮影部的な見所は、加齢を否応なく感じさせる、葵の目元をレス・ザン・容赦で捉へる非情なカメラと、先に挙げた有難みのない、横乳に続くショット。半分開けた扉を間に挟んだ引きで女優を狙ふ、如何にも下元哲らしい画角。反面目も覆はんばかりなのが、件の、逆の意味で“衝撃の濡れ場”を彩らない、下元哲的に平素のソフトフォーカスから斜め上だか下に箍をトッ外した、紗をかけるどころか大概派手にくすんでゐるのがビデオも褪色するのかと目を疑ふ、兎に角正体不明の画期的な画像処理、氷の世界かよ。蒸し返すととそれは果たして見せたくなかつたのか、見せられなかつたのか。
 これまで映画について語られて来た幾多の言葉の中で、当サイトが最も好きなのはヨドチョーこと淀川長治大先生の、大意でどんな映画にも、何かしら一つくらゐチャーミングな箇所があるとする慈しみ深い眼差し。渾身か捨て身の、肉を斬らせて骨まで断たれる覚悟のポリアニズムで果敢に―蛮勇だろ―優しくない不毛の荒野から、“よかつた”の萌芽を探し出さんとするならば、見えない角度から飛んで来る戦慄のロシアン・フックの如く、見えなくて当然の角度から飛び込んで来る我等が吉田祐健。自らはバレてゐないともいへ、顔見知りがオアシスに来た―のとチンコに触つた―ショックを引き摺る葵が、何時ものやうに潤一の舟「清新丸」で黄昏てゐると、当の祐健が素知らぬ顔で現れる。そのスッ惚けた表情自体にも最高以外の讃辞が俄かには思ひ浮かばないのだが、顔見知り氏が出し抜けに切り出す“大事な話”といふのが、知人の目撃情報に基く、潤一がマグロ漁船に乗つてゐるとするシャーカな噂。地味に重大な外堀を埋めるだけ埋めると、高速のヒット・アンド・アウェイで話の火蓋を切る工場長に勝るとも劣らない、煌びやかなまでの慎ましやかさで顔見知り氏はチャッチャと捌けて行く。関根和美と、吉田祐健。各々、量産型娯楽映画の前貼りで疑似精液を拭ふ苛烈な煽情もとい戦場で長年培つて来た、地力と互ひに対する信頼とが結びついて初めて火を噴き得よう、一見他愛ないか便宜的に見せ、案外完璧な一撃離脱が今作のハイライト。それ、ヒロインの葵が単なる客体に過ぎないよね。あるいは、頂にしては随分低くね?的な至極全うな疑問を懐くのは黙つてて呉れないかな。流石に南風吹かすのも、これが限界なんだよ。
 タイトルにまで戴く割に、“やさしい手”なる主モチーフが口頭に上るのはオアシス最初の面接時、洋子が葵の手をさう評するのが最後の一度きりな、腰も砕ける無頓着。一種マクガフィンじみた潤一が遂に帰還―腕と脇付近を人影程度に見せはする―したかと思ひきや、ところてん式に葵は出奔してゐる無体なラスト。果てしなく長い回想と、出入りが雑で混濁する時制といつた主兵装は温存しつつ、端々に関根和美が関根和美たる所以も刻み込まれてゐなくはない、ものの。まあ水沢アキ目当ての堅気衆が触れるか踏む分には、途轍もなく詰まらないにさうゐない。限りなく苦難に近い八十分を空費したすゑ非感動的に呆気なく物語が終る、消極的に壮絶な一作。尼のユーザー評でも木端微塵にコキ下してあつたのが、ある意味微笑ましいがこつちには関係ない。兎も角漸く、元々最悲願であつた関根和美ハンドレッド。さうはいへ百本といふのは目的地でなく、あくまで通過点。既に泉の下につき、関根和美の新作を関門以西で首をキリンにして待ち望む酔狂は叶はない。けれども潤沢に弾を握る大蔵はもとより、片手で足りる程度なら持つてはゐる筈のエクセスと新東宝にも、小屋と配信に円盤の形を問はず、旧作を市場に放り込んで貰へると少なくとも当サイトは諸手を挙げ身銭を切る、喜び勇んで身銭を切る。世間一般的な、需要の如何は知らん。

 神を宿さない細部を忘れてゐた、それを些末といふ。電車のカットで画と音が合つてゐなかつたり、洋子はすぎ。を持ち帰つた、「HARVEST」退店後。葵が帰途に就かうとするのを放さないゆうぞうを、要は葵を事実上ストーキングしてゐた圭太が、手荒く撃退するプチ修羅場。半殺しどころか、全殺ししかねない勢ひのブルータルな殴打音を鳴らしてみたりと、ちぐはぐな音効が散見ならぬ散聞される辺りも、この際別の意味で完璧。


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 「おせんち酒場 君も濡れる街角」(2019/制作:関根プロダクション/提供:オーピー映画/脚本・監督:関根和美/撮影:下元哲/照明:代田橋男/助監督:加藤義一/録音:小林徹哉/編集:有馬潜/監督助手:小関裕次郎/撮影助手:和田琢也/スチール:本田あきら/選曲:友愛学園音楽部/整音:Bias Technologist/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:梨々花・水城奈緒・涼南佳奈・安藤ヒロキオ・折笠慎也)。
 マンション外景にタイトル開巻、彩加(梨々花)がヨガで体を伸ばす傍らのベッドでは、夫の坂崎蓮(折笠)が多分法律雑誌に目を落とす。二人は彩加も資格を持つ弁護士夫婦で、坂崎は自らの事務所を独立開業。した、ものの。業績は芳しくなく元気のない坂崎に、彩加が発破をかける形の夫婦生活。彩加が配偶者の性器を、“分身クン”とか愛玩する苔生したセンスはどうなのよ、そもそも分れてねえ。翌日か、出勤した坂崎はひとまづ物理メールをチェック。明青学院大学法学部の同級生で、中退以来会つてゐない友人の杉山大輝から、“会はなきや話せない話”があるとする手紙が届いてゐた。少なくとも坂崎は入学当時、坂崎が落とした書類を杉山(安藤)が拾つて呉れたきつかけで、二人は仲良くなる。同じく同級生の彩加(旧姓三田)を巡り、坂崎と杉山は先にオトした者に千円支払ふ―もう少し出せ―賭けから進展して、互ひにアタックの進捗を事後申告し合ふ紳士協定を結んでゐた。
 配役残り、2019伊豆映画「5人の女 愛と金とセックスと…」(監督:小川欽也/脚本:水谷一二三=小川欽也/主演:平川直大)に続く二本目となる水城奈緒は、学生の杉山を養つてゐたホステス・西島明美。荒木太郎なら平気で仕出かしてゐた、ギリッギリの温存具合に軽くヒヤヒヤさせられた涼南佳奈は、ルポライターである杉山と生死と同義の公私をともにする編集者・杉本幸枝。ところで坂崎と杉山が使ふ、酒場そのものがおせんちな訳では別にない大学近くの居酒屋は、目下専らな馬力。その他店内に矢張り判で捺したやうな顔ぶれの馬力隊が見切れるのと、キャンパス周りにも、往来部を若干名投入してゐるものやも知れない。
 封切り前日に関根和美が急逝した、2019年第二作はNSPならぬLSP“ラスト・関根和美's・ピンク”。元々体を悪くされてゐたのは、2006年五月に閉めた福岡オークラのあつた頃既に、関門海峡を跨いだ地方にも伝はつてゐた。頑なに再映を拒む?上野が漸く上映するか、世間が先んじて追ひ着くまで飽くなき執念で持論を性懲りもなく拗らせるが、過分に極私的な思ひ込みに縛られてもゐる傾向は重々自覚した上で、当サイト選のピンク映画最高傑作は関根和美の2000年第二作「淫行タクシー ひわいな女たち」(脚本:金泥駒=小松公典/主演:佐々木基子・町田政則)である。淫行タクシーの話を始めると際限がなくなるゆゑ、詳細はマッチポンプ・リンクに飛んで頂くとしてここではさて措く。兎も角淫タクが小屋にかゝらない、円盤―現物見たことないけどVHSはあつた―も発売されてをらず。といつた状況は取るに足らない些末、最大手たるex.DMMで配信されてゐるではないか。十八歳以上でネット環境を有してさへゐれば、誰でも何時でも、モバイルなら何処でも見られる。今時、店でレンタル借りて来る方が余程面倒臭い。ついでで今更新は、バラ売り配信を偶然発見した如月吹雪脚本の「復讐篇」と「敵討篇」。大竹康師脚本の「色欲乱れ舞」による大江戸淫乱絵巻三部作(1995/Vシネ)で奇跡のリーチに辿り着いての、達成順で新田栄浜野佐知渡邊元嗣深町章に続く感想百本、最悲願のフィフス・ハンドレッドである。ただあくまで、百といふ数字は単なる通過点。関根和美の未だ潤沢に眠る旧作を、大蔵が市場に投入して呉れたなら喜び狂ふんだぜ。尤も、以上は故人の早過ぎる死まで含め全てそれはそれ、これはこれ、俺は心の棚の上。普段通りのフラットな姿勢で、本作に対する。
 彩加を挟んだ坂崎と杉山の三角関係と、男同士の友情を描いた物語自体は、派手に破綻はしてゐない程度の平板な出来栄えで、正直ワーキャー持て囃すほど大したものでも何でも特にない。最も顕著な特徴は尺の大半も大半、怒涛の五十分弱を大学時代の回想に費やしてのける豪快な構成。さうはいへ、回想の入りから事務所で坂崎の手から零れた封筒に、新入生の坂崎が落としたワークシートを繋ぐスーパー・テクニック。ひたすらに長い来し方のちやうど真中辺り、現在が短く挿み込まれるインターミッションの前後も、前を水城奈緒第一戦の事後杉山がぞんざいに呷るワイングラスと、事務所にて坂崎が茶色い酒を一人傾ける脚のないグラス。後ろは訪ねて来た杉山が坂崎にお代りを求めるグラスと、杉山が坂崎に奢るエメマンを繋げるウルトラ・テクニック。そして回想明けは、杉山の自主退学を知り泣き始めた坂崎の涙を彩加が拭くハンケチを、部屋が暑いと杉山が顔の汗を押さへるハンケチで引き継ぐアルティメット・テクニック。関根和美の誇れはしないが御馴染ではある曖昧模糊な時制移動を、種々繰り出す多彩な超絶技法で完封、この期に皮肉とは。腸(はらわた)よりも寧ろ、脳が先にヤラれてゐたんぢやねえかと頭を抱へさせられた、木端微塵の前作「激イキ奥様 仕組まれた快楽」(主演:優梨まいな)で濃厚に立ちこめた、漆黒の暗雲は見事にか至極普通に払ひ除けてみせる。マイナスがゼロに回復したのを、仰々しく言祝ぐのがそんなに楽しいか。
 裸映画的には安直なフェードの多用が幾分目につきつつ、比較的でなく薄いおヒップ要素に対して、下元哲のカメラがオッパイには的確に寄り続ける。単純な美人不美人でなく、色気が先行する女優部三本柱を擁し、肉の温もりと柔らかさとを伝へる濡れ場には、磐石以外の言葉が見つからない。水城奈緒第二戦に於ける、吸つた口を杉山が離した明美の左乳房が、絵に描いたやうにプルルンッと震へるミラクル・ショットは最大級のエクストリーム眼福。刹那に、エモーションを叩き込め。
 反面、当初二浪して明青学院に入つた筈の杉山が、文学部から二年で法学部に転入した格好に何時の間にか―でもないが―なつてゐたりするへべれけさなり、現下の杉山が事件を追ふうちに、知れば坂崎の身も危険に曝されるほどの機密に触れ幸枝共々国外逃亡を図つてゐたりする藪蛇さにすら劣るとも勝らない、らしさが選りにも選つてラストで火を噴くんだな、これが。彩香を想ひ励む坂崎が幻影を見る、相互ワンマンショーも当然数へるとビリングに違はず最多の豪華四戦をこなす主演女優に、二番手は二戦。細心の注意を払つた展開で映画を壊すこともなく、一時間を優に跨いだタイミングで飛び込んで来る三番手は、時間切れ気味に一戦きり。それまで計七戦の絡みを何れもつゝがなく完遂したにも関らず、彩加がシャワーを浴びてゐると、杉山と馬力で別れ帰宅した坂崎が入つて来る。無理から捻じ込んだきらひも否めない、締めの浴室立位後背位の恐ろしく唐突な中途で、タイトルバックの余地もないブルーバック・クレジットが起動するのには腰が爆砕した。折角九回二死までノーヒットノーランで投げてゐたのに、次の打者に詰まらない内野安打を打たれたが如き一作。最後の最後の最後でこれかよ、流石関根和美だと、改めて畏れ入つた次第。

 以上、与太はともあれ。泉下の関根和美さんに遅れ馳せながらお伝へ申し上げたいのは、私は貴方の映画が大好きです。無論、“でした”などとはいひません。三十五年の長きに亘り、元号も二つ跨いで量産型娯楽映画のフィールドで戦つて来られ、近年は病んだお体でさぞかし辛抱と御苦労もなさつたのでせう。どうぞ、どうぞ安らかにお休み下さい。

 壮絶な付記< と締め括つたつもりでゐて、大変な大惨事に気がついた。淫タクはやつとこさ地元駅前ロマンで再見を果たした時とDMM戦の、二回更新してゐたのを思ひだした。なのでこのエントリーは関根和美の九十九本目、よもやまさかのフライング・ハンドレッドである(;´Д`)


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 「色欲乱れ舞」(1995/製作:ピンクパイナップル/監督:関根和美/脚本:大竹康師/プロデューサー:御前順一・松島富士雄・佐藤靖/撮影:川井英幸/照明:金子雅勇/美術:小林和美/録音:杉崎喬/編集:酒井正次/記録:津島由起江/結髪:広川日出明/助監督:小波津靖/制作担当:坂井茂樹/監督助手:安原正恭・西海謙一郎/撮影助手:滝彰志・細野正道/照明助手:水野良昭・里舘統康・関口賢/美術助手:松永一太・稲村彰彦/編集助手:利光英樹・伊藤伸行/衣裳:山田伸太郎・笹森繁子/美粧:葭葉透子・高山初香/スチール:石郷岡徹/制作主任:豊岡英郎/制作進行:太田圭祐/EED:村仲康太郎/音楽:エレファンカンパニー/協力:アール・ユー・ピー、奥松かつら、東京衣裳、しみず工房、KSSスタジオ、ニューメグロスタジオ、日本照明、フィルムクラフト、東映化学/制作協力:エクセレントフィルム/出演:水野さやか・野口恒也・加藤陸子・木下雅之・西田ももこ・石原直哉・羽田共持・下山栄・平賀勘一・吉行由美・キクマプロダクション・小竹林早雲)。
 フォントを共有まではしないが、製作とプロデューサーに脚本と監督の全作共通前クレに、何故か怪談映画みたいなタイトル・イン。藪蛇さが、堪らない。いきなしドブッシャと判り易い音効鳴らし、足元に鮮血が散る。林道にて、潰れた札差「濱屋」の元番頭・伝蔵(野口)が、超絶の偶然で出くはした小間物問屋「もみじ屋」の主人・弥兵衛(小竹林)を刺す。五年前、懇ろになつた伝蔵と濱屋の娘であるおみつ(西田)が乳繰り合はうかとしてゐたところ、人の気配が。伝蔵が襖の向かうに身を潜めると現れたのは、二人の交際を認めてゐない濱屋の主人、ではなく当時賊であつた弥兵衛。脊髄で折り返す速さで弥兵衛がおみつを手篭めにしかける一方、遅れて現れた弟分の猪吉か亥之吉とか伊之吉系(木下)は、離脱を焦り兄貴に勝るとも劣らない拙速さでおみつを斬り、折角の絡みを摘む。一件を機に濱屋は店を畳み、おみつとの仲を咎められるかのやうに、伝蔵はゐられなくなつた江戸を離れる。話を戻してそれではもみじ屋はといふと、弥兵衛の帰りを待ち侘びる、女房のお結(水野)が息を吐くが如くワンマンショーに耽る気も知らず、番頭の猪吉とおもん(加藤)は、夫婦生活の嬌声で女将さんの焦燥に火に油を注ぐ。濱屋から奪つた金を山分ける当初予定を弥兵衛に覆され、望みもしない番頭稼業に燻る猪吉は、兄貴不在となるとお結に対し平然と牙を剝く中、手荷物から弥兵衛の素性を掴んだ伝蔵が、お結にもおみつと同じ目に遭はせるべく江戸に舞ひ戻つて来る。
 手も足も出ない名前は潔く諦める配役残り、平賀勘一と吉行由美は、伝蔵の弥兵衛殺害を目撃する夫婦(めをと)。前作に引き続き、不脱の吉行由美は抱きつかれもせぬまゝ殺され、対平賀勘一に於いての伝蔵はスリーパーからチョークで首をヘシ折る、大雑把な戦闘力を披露する。あとは下山栄が、ラストに登場する同心部。三作のうち二作に出演する俳優部が計八人ゐるにも関らず、誰一人トリロジー皆勤を果たす者がゐない点に関しては、寧ろさせてなるものかといはんばかりの、謎の鉄の意思を感じてみたり。
 VHSのジャケット題は普通に「大江戸淫乱絵巻 色欲乱れ舞」である割に、本篇タイトルはあくまで下の句のみの三部作最終作。この辺りの無頓着なちぐはぐさが、何となく琴線を甘噛みしなくもない。
 復讐を起点にしないと物語を構築出来ないのか、といふ根源的な疑問はさういふコンセプトと呑み込むとして。一旦含め、主要キャストが全員死ぬ徒な血生臭さが、一にも二にも「色欲乱れ舞」最大の特徴。ザックザク死屍累々が築かれる、粗削りの展開は一見闇雲な勢ひも錯覚させつつ、如何せん厳しいのが男主役を担ふ野口恒也の薄く軽く、過剰さが芸にならない駄メソッド。「こいつ死んでなかつたのか!?」の衝撃も、野口恒也に引き摺られたか関根和美の演出自体―か演者自身―の問題なり限界か、他愛ないヒャッハ造形に堕し鼻白む。行水中のお結が襲撃される一連の件は女の裸と、美術部が奮闘する風情とを両立させた名濡れ場たり得ておかしくなかつたところが、伝蔵が顔面を素頓狂に歪める、子供も騙せないオーバー・アクトに激しく水を差される。何れ菖蒲か杜若、キャラクター的にはコーヒーでいふとアメリカンながら、加藤陸子も水野さやか共々たをやかな肢体を誇れど、普段ピンクに触れてゐる目からすると、地味に肝心の介錯役を務める木下雅之も木下雅之で、決して絡みが達者とはいひ難い。乳を揉む手もぎこちない、逆マグロの大根では話にならず、かといつて、徒に前に出て来られても困る。この辺りの女優部と男優部の天秤加減は、偶さかなラックを除けば、さうさう最適解は見つかるまい永遠の難問でもある。バラ売りex.DMMで関根和美の大江戸淫乱絵巻を完走した概評としては、明後日にも正方向にも、ベクトルの絶対値が最も大きいのは第一作「復讐篇」。良くも悪くも纏まつてはゐるのが第二作「敵討篇」で、「色欲乱れ舞」はキャスティングに難のある惜しい、もしくは残念な一本といふ印象である。

 ビリング頭二人がどうも林由美香と平勘のアテレコ臭く聞こえたものの、断言するに足るだけの自信には至らず。


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 「大江戸淫乱絵巻 敵討篇」(1995/製作:ピンクパイナップル/監督:関根和美/脚本:如月吹雪/プロデューサー:御前順一・松島富士雄・佐藤靖/撮影:川井英幸/照明:金子雅勇/美術:小林和美/結髪:広川日出明/録音:杉崎喬/編集:酒井正次/記録:津島由起江/助監督:小波津靖/制作担当:坂井茂樹/監督助手:安原正恭・西海謙一郎/撮影助手:滝彰志・細野正道/照明助手:水野良昭・里舘統康・玄弘明/美術助手:松永一太・稲村彰彦/衣裳:山田伸太郎/美粧:葭葉透子・高山初香/スチール:石郷岡徹/制作主任:豊岡英郎/制作進行:太田圭祐/EED:村仲康太郎/音楽:エレファンカンパニー/協力:アール・ユー・ピー、奥松かつら、東京衣裳、しみず工房、KSSスタジオ、ニューメグロスタジオ、キクマプロダクション、日本照明/制作協力:エクセレントフィルム/出演:森原由紀・浜田まき・飯島大介・中満誠治・吉行由実・岡島博徳・倉田昇一・梅田弘次・樹かず・森田夏姫・藤井友美・皆川衆・小川真実・並木史朗)。出演者中吉行由実が、VHSのジャケットには吉行由美。
 ぼんやりと横たはる遊女のお冴(森原)に、樹かずの声が「もう夏だつてのに今日はやけに冷えるな」と語りかける。客の男(樹)に向かつて身を起こしたお冴は、「今に暑くさせてあげるよ」。ところが前を肌蹴た樹かずの左肩に、大きな火傷の跡を見つけたお冴は衝撃に固まる。訝しむ樹かずに答へて、「今夜みたいに底冷えのする夜だつたよ」。端的に筆を滑らせると、とても如月吹雪―か関根和美―とは思へないくらゐ綺麗に入る、十五年前の回想。何某かの商家に、四人組の賊が押し入る。気配を察した両親(皆川衆と小川真実)が、当時十歳のお冴(多分森田夏姫)と四つ下の妹・お多恵(恐らく藤井友美)を襖の向かうに逃がした寝室に、四人組到着。小川真実がリーダー格以外の三人から手篭めにされる初戦を経て、金の所在を吐いた皆川衆は清々しい即座さで斬られ、先に撤収した三人が何故か残して行つた長ドスを抜いた小川真実も、サクッと返り討たれる。遂に飛び出したお冴は、襟元を掴んだリーダー格の左胸に件の火傷跡を認めてゐた。その後生き別れることになるお多恵が、特定不能の男優部に手を引かれて行くロングに総尺の五分の一を費やす、十二分強と結構長いアバンを経てのタイトル・イン。今でもお冴はお多恵を捜すのと並行して、客の体に火傷跡を探してゐた。
 例によつて辿り着けるだけの配役残り、並木史朗は材木問屋の大黒屋で、浜田まき(ex.川上裕子)が大黒屋の女房の座に納まつてゐたお多恵。吉行由実は、お冴の女郎仲間・お千代、ジャケに名前が載る割に不脱。あるいは、それだけのネームバリューを見込まれた格好なのか、脱がないなら詐欺に近いのだけれど。閑話休題中満誠治(大体ex.中満誠治が杉本まことで、ex.杉本まことがなかみつせいじ)は、お冴馴染客の遊び人・新八。そして飯島大介が、新八が出入りする賭場の代貸・喜平か喜兵衛か、嘉平系かも。
 1996年の四五六月に月一でリリースされてゐた、関根和美の「大江戸淫乱絵巻」第二作。好評を博してにしては早過ぎるといふ以前に、クレジットを見るに製作自体は前年で、端からトリロジーとして企画されてゐたものと思はれる。正味な話、復讐篇と敵討篇とで何がどう違ふのかといふのは、大江戸淫乱絵巻を謳ひながら会津が舞台の前作とは次元から違ふレベルでの、プリミティブなツッコミ処、中華そば篇とラーメン篇といふのと変らん。
 一見多さうに見えて、核を担ふ部分では然程ですらない頭数で挑む、両親の敵捜しは脇目を振るほどの余裕もそもそもない一本調子とはいへ、丁寧な作劇で、何となく乗り切る。刀を抜いた与力を渡世人が五寸釘一本で倒す、卓袱台を引つ繰り返すのに畳からヒッ剥すかの如く派手なチャームポイントは、姉妹が一夜にして出家どころか、得度まで済ませてゐたりするインスタントな豪快さを除いて見当たらない。乳房感のあるオッパイを誇る森原由紀と浜田まきの裸は、完遂率の低さは呑み込むと質的にも量的にも十全に愉しませる。尤も、新八と大黒屋に入つて以降、展開上お冴の絡みを設けやうがなかつた。即ちビリング頭は固より、よしんば二番手に譲つてでさへ、物語の最たる盛り上がりに然るべき濡れ場を持つて来れなかつた点は、Vシネにせよ裸映画的には確実に厳しい。二の足を踏むのを新八に無理から引き摺られる形で、お冴が大黒屋を訪ねてみると使用人でなく、いきなりお多恵が出て来る関根和美らしい無造作さは兎も角ズッコケ要素も概ねないものの、中根徹が押し殺したレイジで中満誠治に牙を剥く、思はずハッとさせられる名場面にも乏しい。一作目よりもよくいふとまあまあ纏まつた、あるいは直截には、粒の小ささも否めない第二作ではある。


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 「大江戸淫乱絵巻 復讐篇」(1995/製作:ピンクパイナップル/監督:関根和美/脚本:如月吹雪/プロデューサー:御前順一・松島富士雄・佐藤靖/撮影:川井英幸/照明:金子雅勇/美術:小林和美/録音:杉崎喬/編集:酒井正次/記録:津島由起江/結髪:広川日出明/助監督:小波津靖/制作担当:坂井茂樹/監督助手:安原正恭・西海謙一郎/撮影助手:滝彰志・細野正道/照明助手:水野良昭・里舘統康・玄弘明/美術助手:松永一太・稲村彰彦/編集助手:利光英樹・伊藤伸行/美粧:葭葉透子・高山初香/スチール:石郷岡徹/制作主任:豊岡英郎/制作進行:太田圭祐/EED:村仲康太郎/音楽:エレファンカンパニー/協力:アール・ユー・ピー、奥松かつら、東京衣裳、しみず工房、KSSスタジオ、ニューメグロスタジオ、日本照明、フィルムクラフト、東映化学/制作協力:エクセレントフィルム/出演:新堂有望・萩野崇・諏訪太郎・中根徹・羽田共持・下山栄・皆川衆・中満誠治・岡野博徳・倉田昇一・梅田弘次・樹かず・キクマプロダクション・楠見尚己)。VHSのジャケットとも諏訪太郎になつてゐるのは仕出かしたかと思ひかけつつ、どうやら、太郎から改名して諏訪太朗になつたものらしい。
 会津若松の鶴ヶ城城内、夜回りする筆頭与力・沖村か沖邑か興村ケンパチ(楠見)に、沖村が捜す当の渡世人・釘刺し源蔵(諏訪)が自ら接触する。ここで早速関根和美らしい速攻が炸裂してのけるのが、後述する藩主始め度々口に上る苗字は確実にオキムラであるにも関らず、源蔵の呼びかけが何度聞いても奥村、ある意味流石ではある。といふか、仕事しろスクリプタ。抜刀する沖村に、源蔵が懐手のまゝ応戦する適当な立回りを経て、必殺の釘刺しを額のど真ん中にプチュッと気の抜ける音効で叩き込まれた、沖村は絶命する。とかいふ塩梅で、会津藩邸。藩主(中満誠治/a.k.a.杉本まこと/a.k.a.なかみつせいじ)が、沖村の娘・お舟(新堂)と弟の賢吉(萩野)に仇討御赦免状を出す。武芸の覚えもなく、仇討自体の不毛性に現代語で異論を唱へる賢吉に藩主は激おこ、半ば放逐されるやうな形で、姉弟は仇討の旅に出る。旨が決定したところで“仇討とは日本人独特の精神構造が生み出した奇異な風習であり”、云々と適当な解説起動、一頻り語り終へて暗転タイトル・イン。案外呑気な道中を他愛なくなぞるのは本当に束の間、話はザクッと五年後に飛ぶ。お舟は夜鷹に身を落とし、賢吉のクソ野郎は賭場に入り浸つてゐた。
 特定し得る限りの配役残り、中根徹は屋台にて隣り合はせる形でお舟がミーツする、腕の立ちさうな賞金稼ぎ・モリシマ博之信。姉弟が逗留し、博之信も敷居を跨ぐ旅籠の主人が皆川衆。お舟と博之信の、恋路の噛ませになる格好の侍は下山栄。問題が、声だけでも容易に気づく筈なのに、樹かずが何処に出てゐるのか全く判らなかつたのが残念無念。
 バラ売りex.DMMの中に関根和美のVシネが三本入つてゐるのを発見した、「大江戸淫乱絵巻」三部作第一作。純然たる単なる偶々にさうゐないが、天の恵みかと驚喜した。それは兎も角、jmdbを鵜呑みにするに、関根和美にとつてVシネ初陣。
 アバンはもしかすると江戸城内にしても、沖村はあくまで会津藩の人間で、主要な舞台はサムプレイスみ迸る宿場町。何が“大江戸淫乱絵巻”ならといふプリミティブなツッコミ処からそもそもなのだが、賢吉が常駐する賭場に、源蔵が札替係―劇中用語ママ、ジャケのインストでは札差―として普通に納まつてゐたりする無防備なビートが貫禄の関根和美。頑なに背後のお化けに気づかない志村でさへない、右向くだけで目の前の上座に堂々と座つとるがな。時代劇に何の頓着もない、素人の節穴を欺く程度には衣裳や美術なりロケーションは少なくとも最低限の体裁は整へてゐる反面、スタッフの中に殺陣師の名前が見当たらないのが地味でない致命傷。源蔵の得物を釘に設定するのは別に構はないが、日本刀を抜いた博之信と、五寸釘を握り込んだ源蔵が対峙する、間抜けの度を越してファンタの領域に突入した画には悶絶した。寧ろ、釘の先から謎光線でも出ない限り、それどうやつたら刀が負けるんだ。常日頃のピンクよりは潤沢な布陣が関根和美は余程嬉しかつたのか、大して広くもないフレームに、不自然な頭数を詰め込んだカットがちらほら散見されるのも微笑ましい。尤も、細身の体から見事なお椀型のオッパイが隆起した、新堂有望のエバーグリーンな裸は手堅い撮影部の力も借り、十二分に堪能させる。お舟と博之信が遂に結ばれる、濡れ場は即物的な煽情性と、豊かな情感とを併せ持つ手放しのハイライト。一方、シャンゼリオンや仮面ライダー王蛇で知られる、萩野崇の根強いクラスタが今作を目聡く追ひ駆けてゐる形跡も窺へるのは微笑ましいものの、劇中賢吉は自堕落に燻るばかりで、見せ場らしい見せ場が別にですらなく設けられるではない。幾ら関根和美とはいへ、出し抜けにお舟と賢吉に禁忌を犯させる訳にも行くまいが、萩野崇相手に絡み要員の遊女でも一枚擁してゐたならば、後年の評価も一欠片は変つてゐた、のかも。ところで個人を抹殺する、封建的な因襲に対するプロテスト。なる一応統一的な主題も、首の皮一枚繋がらなくもない。お舟の遺志に従ひ、博之信は源吉の首を会津藩主に届ける。姉弟の死を「真見事な犬死でした」と痛烈な皮肉を込めたのに続き、「某にも御赦免状を」と静かに詰め寄る博之信に対し、藩主が僅かに気色を変へ「誰を討つ」と受ける件は、突発的にシークエンスが痺れる。


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 「激イキ奥様 仕組まれた快楽」(2019/制作:関根プロダクション/提供:オーピー映画/脚本・監督:関根和美/撮影:下元哲/照明:代田橋男/録音:小林徹哉/編集:有馬潜/助監督:加藤義一/監督助手:小関裕次郎/撮影助手:和田琢也/スチール:本田あきら/整音:Bias Technologist/選曲:友愛学園音楽部/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:優梨まいな・浅美結花・里見瑤子・津田篤・竹本泰志・安藤ヒロキオ・折笠慎也・なかみつせいじ)。和田琢也がピンク映画に参加するのは恐らく、関根和美の2007年第一作「やりたいOL 純ナマで激しく」(水上晃太と共同脚本/主演:瀬名ゆうり)ぶりとなるのではなからうか。
 団地外景に関根プロクレジット、新婚夫婦の出雲新一(津田)と沙紀(優梨)が、当選した公団に入る。優梨まいなの、服の上からでも堂々と存在を誇示する爆乳の破壊力が凄え。オッパイは、ジャスティス。世界の真理を、改めて再確認した。思ひのほか小綺麗な内装に感激した沙紀が、新一の頬にチュッとしてタイトル・イン。恵まれた天候も、かうなるとある意味諸刃の剣。燦々と室内に降り注ぐ外光が、無力か無造作に終始白々とトビ倒す。
 引越後の部屋を沙紀が連日一人で片付けてゐるのか、新居初夜なのか関根和美が自分で書いておいて、ある意味順調に二人の遣り取りが混濁する夫婦生活。結構ノーガードに漏れる沙紀の嬌声に、隣家の竹内直哉(竹本)・美香(里見)夫婦は生温かく対抗。美香が聞こえよがしにワーキャー啼くのに我に返つた沙紀は、営みを中断して新一を生殺す。家計の足しにとアルバイトを探す沙紀に、美香は相手が隠さうともしない気まずさをものともせずザックザク接触。美香の実家自家製を謳ひ、美白効果があるといふ梅酒を販売するサポートに沙紀を勧誘する。
 配役残り、登場順に最初は写真出演の折笠慎也は、遺伝子を研究する直哉の恩師・横内博士。なかみつせいじはセールス初日の沙紀が豪快なビギナーズラックを飾る、独居アル中老人の小野久司。そんな男が、ポンと二十万―ホントは二十一万―を支払つてしまふ、金銭感覚の底が抜けた浮世離れ具合も如何なものか。加藤義一九年ぶり三本目の正月痴漢電車「痴漢電車 食ひ込み夢《ドリーム》マッチ」(2019/しなりお:筆鬼一=鎌田一利/主演:桜木優希音)に続く、ピンク二戦目となる浅美結花は、売上に窮した沙紀が切札に手をつけようとする、高校時代からの友人・三輪悠里。残念ながら、浅美結花が―黒縁セルフレームの―メガネをかけてはゐないのが、地味な致命傷。といふか、派手なのがゴロゴロしてゐて、致命傷片手で足らない件、何度死ねば気が済むのか。安藤ヒロキオは、悠里の二年越し職場恋愛相手・山内孝弘。ここからが問題、だからここまでも問題だらけなんだけど。動いて台詞も吐く折笠慎也の二役目は、知らん間に沙紀が臨月に至つてゐた二十年後、直哉と交す会話から大学生の息子と思しきはじめ。遠目に見切れる謎のイケメン爺さん(不明?)挿んで、折笠慎也の三役目が、はじめを見送つた直哉が擦れ違ふ電気工事の人。因みにこの二十年後ラストに、入院してゐる模様の美香に対し、出雲夫婦は1mmも出て来ない、名前すら上らない。
 次作「おせんち酒場 君も濡れる街角」(主演:梨々花)公開前日に急死した、関根和美2019年第一作、享年六十五。愛妻の亜希いずみ(a.k.a.高橋靖子)に電話で泣きつかれた浜野佐知が、既に意識を失つてゐた関根和美といふよりも、寧ろ亜希いずみを見舞ひに行つた逸話も後に伺つた。時代が関根和美に追ひ着くまで筆の毛が全部抜けやうとも繰り返すが、当サイトが頑なに推すピンク映画最高傑作は、極私的な原体験じみた思ひ入れに多分に惑はされてゐるのは正直認めた上でも、関根和美の2000年第二作「淫行タクシー ひわいな女たち」(脚本:金泥駒=小松公典/音楽:どばと/主演:佐々木基子・町田政則)である。関根和美の撮つた映画がもれなく最高だ完璧だなどと、箍のトッ外れた妄言を申すつもりは、勿論毛頭ない、“勿論”とは何事か。それでも悲願のハンドレッド戦を目指して、一番追ひ駆けてゐた、今も一番追ひ駆けてゐる監督ではある。あちこち悪くされてゐたのはウッスラ伝へ聞こえてもゐたものの、現状最もその位置に近いかに思はせた御大枠に、終に辿り着くことなく逝つてしまふといふのも、何となく関根和美らしく思へなくもない。
 それはそれ、これはこれ。ついでに俺は、心の棚の上。NSP“ニュー・関根和美's・ピンク”ことそんな関根和美の新作が、脊髄で折り返すと腸も兎も角、脳がヤラれてゐたんぢやねえかとさへ呆れ果てるに足る、良くなくも悪くも凄まじい出来。詰まらない面白くない通り越して、端的に酷い。後藤大輔のチンケな実写とアニメのフュージョンの方がまだ―若干―マシな酷さ、そんなに酷いのかといふのと、俺はそんなに敵を増やすのが楽しいのか。
 何はともあれ折慎が増殖してゐる描写を窺ふに、実際実は結んでゐるらしきにしても、交通事故死した横内の遺志を継いだ直哉が確かに完成させたのは完成させたみたいな研究の内容は、不完全無欠に説明が不足してゐて何が何だか皆目理解不能。どんでん返しが卓袱台ごと映画を爆砕するSFミステリーで、十三分にも十四分にも大概であるにも関らず。それ以前に、催淫作用と中毒性のある梅酒を売り捌くだとか、厚生労働省よりも先に国税庁が黙つちやゐない隣人スリラーが、幾ら里見瑤子の決定力を以てしても如何せん呑み込み難い。要は端から、展開が体をなしてゐない。挙句最終的にヒロインの去就も、逆の意味で見事に等閑視。流石関根和美だ、何が“流石”なのか。裸映画的にも濡れ場は潤沢で一見総尺に対する女の裸の占拠率は極めて高げにも見せ、その癖完遂に至るのは実質三番手の一回戦のみといふ不可解か不用意な匙加減は、否応ない違和感を残す。しかも当の浅美結花がここだけの話―何処だけだ―ダブつき気味、ウエストを失しかけてゐる。乳が太ければ胴も太くて構ふまいとする風潮には、当サイトは断固として与さない。撮影部も演出部の暗黒面に引き摺られたのか、前述したまるでコントロールしきれてゐない外光に加へ、美香主導で沙紀と百合の花を咲かせる件に於いては、里見瑤子の顔に無調法な余光が浮き続ける。最早一切の加点評価を、拒んでゐるとでもしか思へない壮絶な一作。優梨まいなのオッパイを普通に拝ませるだけで、観客を眼福に微睡ませてゐられた筈なのに。この時点で既にな、錯乱と紙一重の大乱調を見るにつけ、重ねてビリング頭にエクセスライクが濃厚な、LSP“ラスト・関根和美's・ピンク”が俄かに風雲急を告げて来る感も否めない。


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 「豊満OL 寝取られ人事」(2018/制作:関根プロダクション/提供:オーピー映画/脚本・監督:関根和美/撮影:下元哲/照明:代田橋男/録音:小林徹哉/編集:有馬潜/助監督:加藤義一/監督助手:江尻大/撮影助手:小関裕次郎/スチール:本田あきら/選曲:友愛学園音楽部/整音:Bias Technologist/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:優梨まいな・真木今日子・美村伊吹・折笠慎也・安藤ヒロキオ・なかみつせいじ)。撮影助手がKSUといふのは何かの間違ひかとも思つたが、実際さうクレジットされてゐた。
 形だけ勉強机に向かひつつ気もそぞろな折笠慎也の背中で、張り詰めた風情で電話を待つ主演女優。ピザ屋にかけたつもりのベタな間違ひ電話一本挿み、スーパーでない派遣社員・平野千春(優梨)に、何と実に三十箇所目の派遣先が決まる。同じ―派遣―会社とは限らないが、二十九回辞めた人間に、次の口を宛がふ方も宛がふ方ではある。折笠慎也は千春が居候する、高校のテニス部の先輩で、目下は国立医大を目指し四浪中の霧島弘樹。いざ初出社、オフィス街に降り立つた千春が、「ようし頑張るぞ!」とジャンプした背中にタイトル・イン。てな塩梅で千春の新しい職場は、零細通販会社「ビーワン通販株式会社」の、支社経理課。経理だけで一部屋使ふ、支社まであるのに零細なのか。兎も角経理課の面々は、千春入れて三人。セクハラ課長の中村克弘(なかみつ)と、もう一人高橋直哉(安藤)。今年からピンクに参戦した安藤ヒロキオが、盆の薔薇族入れて何時の間にか五戦目。脱ぐと体が緩んでゐるのは頂けない反面、佇まひ自体は案外落ち着いて手堅く見えるのは場数の結実かそれとも、これで満更でもない関根和美演出力の証左か。それはさて措き、非現実的にフリーダムな中村が早速千春に抱きつき、オッパイを揉むやボイーンボイーンとジューズハープが唸り、尻を撫でるやホイッホイッとコントみたいなSEが鳴る。ダサさとベタさに一目散に突つ込んだ上で、見事その先に突き抜けグルッと一周する音効が馬鹿馬鹿しい、もとい清々しい。
 配役残り、白髪メッシュがオッカナい美村伊吹は、新人研修と称して千春をいびり倒す、秘書課のお局・坪倉江里。だ、か、ら。支社があるのみならず、しかも秘書課まで擁するのに零細なのか。それもさて措き、今年度から無期休業に入つた美村伊吹(ex.緒川凛)にとつて、今作が六戦目にして一旦ラスト・ピンク。真木今日子は、月例監査で中村以下支社経理課を―それぞれの意味で―震へあがらせる、本社経理の池田美緒。交際する高橋の前では、元ヤンの美緒が見事に猫を被る様に目を丸くした千春が、豹変をジャガーチェンジと言ひ換へるのは関根和美にしては随分と瑞々しいレトリックをと感心しかけたものの、どうやらジャガーチェンジといふのは、山下洋輔発祥のズージャー隠語らしい。それと真木今日子はカジュアル時の、ニットに包まれたオッパイの破壊力がエクストリーム。大事な点ゆゑもう一度書く、真木今日子の、ニットに麗しく包まれたオッパイがエクストリーム
 大晦日スレスレに封切られ、元日公開の加藤義一新春痴漢電車と正月番組を分けた格好の、関根和美2018年第四作。我等が前田有楽こと六月末で閉館する有楽映画劇場に、山内大輔や工藤雅典の電撃大蔵上陸作をも追ひ越し飛び込んで来た。
 千春が無限に職歴を積み重ね続ける所以が、優しくされると抱かれたくなる、とかいふ性癖。二十九ある退職理由に、百合も含まれるか否かは不明。といふか、気儘に筆を滑らせる弾みで気づいたが、これ関根和美は何気に大魚を釣り逃がしてはゐまいか。何れ菖蒲か杜若、真木今日子と美村伊吹なら、相手がどちらでも凄い大輪が咲いたのに。話を戻して、千春の如何にもピンク的に底の抜けたアキレス腱を一応の軸に据ゑ、男女三人づつのデフォルトな俳優部から、三組のカップルが最終的に誕生する展開はその限りに於いて全く以て磐石。面白味ないし、女の裸以外の見所は特にも何も見当たらないけれど。活力源とか称した中村のセクハラに関して、千春から相談を持ちかけられた高橋が我慢するしかないの一点張りに止(とど)まる。あるいは止まらざるを得ないのは、大御大の時代から半歩たりとて進歩してゐない世界観。馬鹿者、関根和美の辞書に十年一日なり、プログレスなんて単語がある訳ないだらう。とかく素面の劇映画的には、これで寝落ちないのが不思議な一作ではあれ、ポップに表情を操り、若々しく弾け輝く優梨まいな映画としては完璧に成立してゐる、多分。江里の竹刀が脳天に入つた千春が、反撃しながらも頭を抱へうづくまるカットには思はず声が出た。怒涛のジェット・ストリーム・アタックを敢行する、巨乳部を三枚揃へた布陣も無論申し分ない。あと物足らなさが否めないのは、優梨まいなと安藤ヒロキオ以外はおんもに出もしない、引きこもつた省力撮影。映画的なショットのひとつも撃ち抜いてあれば、印象は全然変つて来たやうに思へるのだが。挙句、思ひきりモアレが出てゐるカットも散見されるのは大いに、もしくは普通に考へもの。


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 「新妻 昼下りの男狂ひ」(1998/製作・関根プロダクション/配給:大蔵映画/監督:関根和美/脚本:関根和美・片山圭太・山本清彦/撮影:小山田勝治/照明:秋山和夫/編集:㈲フィルムクラフト/助監督:片山圭太/撮影助手:新井毅/監督助手:浜口高寿/スチール:佐藤初太郎/録音:シネキャビン/効果:東京スクリーンサービス/音楽:リハビリテーションズ/現像:東映化学/出演:冴月汐・悠木あずみ・風間今日子・やまきよ・樹かず・吉田祐健)。リハビリの位置が凄くもやもやするクレジットは、本篇ママ。
 麗しの七色王冠開巻から、新庄か新城か新条か兎も角シンジョー忠(やまきよ)と、職場結婚した新妻・つぐみ(冴月)の寝室にフェード・イン。積極的なつぐみに、忠が完全に押し切られる夫婦生活をひとまづ背完遂。早打ちし軽く凹む忠をつぐみが優しく励ます、かに見せて、朝の戸建ショットにタイトル・イン。精一杯力の限り勇往邁進好意的に曲解してどうでもいい朝食風景に長く尺を割いた上で、忠は同僚の沢田らが、目下専業主婦であるつぐみの様子を見たがつてゐる火種を投げる。忠を送り出し、エプロンをパージしたつぐみは思はせぶりに「沢田さんか・・・・」。となるとさういふ流れかと思ひきや案の定、劇中時制を何時しか溶解させる関根和美の得意技、ロンゲスト回想に突入する。
 配役残り樹かずが、真面目だけが取り柄の忠に対し、社内中の女子社員からモッテモテの沢田慎一。昼休み残り十五分、無人のオフィスにて―既に忠から求婚されてはゐる―つぐみが、つぐみの方から沢田を喰ふ。スリリングだか、無造作なのだか最早よく判らない一幕の大完遂を待つて、後輩二人に昼飯を奢つた忠が帰つて来る。後輩二人のうち、悠木あずみが牧子、遠目に見切れるのみのもう一人は演出部?吉田祐健は、女子大生時代のつぐみを凌辱する、行きずりのサディスト・吉永。最終的には粗悪なヒャッハー造形に足を引かれつつ、つぐみと再会するカット、黙したまゝでも滾らせる異質な迫力でその人と観客に知らしめる、背中の芝居が超絶。始終掌で転がす胡桃でオッパイを弄る、クリシェに一捻りを加へたメソッドも光る。風間今日子は、忠の援交相手・梨沙。失敗するにせよ、三番手に重要な送りバントを、決めさせようとした節は窺へる、失敗するにせよ。
 バラ売りex.DMMに新着した関根和美1998年第一作が、jmdb準拠でやまきよ(a.k.a.山本清彦)唯一の―共同―脚本作!ついでに薔薇族一本含む三作後の「未来性紀2050 吸ひ尽す女」(片山圭太と共同脚本/主演:浅倉麗)と、翌年の「制服淫ら天使 吸ひ尽す」(脚本:岡輝男/主演:麻丘珠里)、「ターミネーチャン」二部作まであと僅か。
 やまきよ唯一の脚本作に色めきたつたはいいものの、スッカスカの脚本を、無駄に美人な―ウエストもクッソ細い―主演女優のアンニュイが辛うじて補完する序盤は暫し我慢。補完出来てゐるのかといふ根本的な疑問も兎も角、結果的にその我慢は始終続いた末、見事に爆散する。結局どうして忠と結婚したのかが終に語られはしないつぐみが、改めて沢田を喰ふは沢田婚約者の座に登り詰めた牧子には、沢田の子を堕ろして捨てられたとか、出鱈目な嘘過去を吹き込む闇雲な大暴れ。梨沙との逢瀬を経て忠が帰宅すると、つぐみがまさかの自宅で吉永に犯されてゐる真最中。全体どうするんだこの展開、ここまでトッ散らかつた風呂敷、どうにもかうにも畳みやうがないぞ。一見完ッ全に詰んだ映画を、無理からといふほどパワフルにではなく、何となくか何が何だかな謎な勢ひで、丸め込んでみせるのが我等が関根和美の妙手。妙手といつて巧みな訳でも優れてゐる訳でも無論なく、奇妙奇天烈、ストレンジな手法といふ意味に於いてである。激怒する浜野佐知の幻影が脳裏に浮かぶのはさて措き、犯されながらも歓喜するつぐみの姿に、「優しいだけぢや駄目だつたんだ」と明後日か一昨日に大発奮した忠が、吉永に続きつぐみを犯す締めの濡れ場を通して、倦怠しかけた夫婦関係が修復される。黒を白どころか北と言ひ包めるやうな、しかも九尾のハイパワーな狐につまゝれたラストがグルッと一周して、あるいは呆れ果てるのも通り越して衝撃的。詰まるところ関根和美の関根和美たる所以、の一言で片付けてしまへばそれまでともいへ、脚本家多くして、山に登つたが如き一作。山に登つたといふか、谷に沈んだとでもいふか。

 最後に、jmdbに引き摺られたにさうゐないが、今作が関根和美と、何故か小山田勝治の共同監督作とする資料が散見される、けれど。ポスターは知らんが少なくともクレジット上は、普通に関根和美の単独監督作、誰も確かめるなり修正しようとは思はなかつたのか。尤も、その辺りのアバウトなりぞんざいな扱ひが、如何にも量産型娯楽映画的とでもいへば、いつていへなくもない。


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 「愛人生活 きみとなら…」(2018/制作:関根プロダクション/提供:オーピー映画/脚本・監督:関根和美/撮影:下元哲/照明:代田橋男/助監督:加藤義一/録音:小林徹哉/編集:有馬潜/監督助手:江尻大/撮影助手:榎本靖/スチール:本田あきら/選曲:友愛学園音楽部/協力:SHIN・鎌田一利・松島政一・中村勝則/整音:ポストモダーン/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:きみと歩実・優梨まいな・明里ともか・なかみつせいじ・竹本泰志・柳東史・山本宗介)。
 仰角のマンション外景にタイトル開巻、愛人業の川崎奈緒(きみと)がサラダをこしらへてゐると、パパさんになつて二年の会社社長・森山大輔(なかみつ)が奈緒に持たせたマンションを訪ねて来る。改めて見たなかみつせいじ(今更ex.杉本まこと)は、前髪の減り具合がいよいよ壮年も通過しつつある感を漂はせる。マンションの賃貸契約更新を口火に、かんだ何だベタベタか適当な導入で挨拶代りの初戦に軟着陸。フェードをかます一手間が、一本調子につき却つて雑に映る体位移動さへさて措けば、外様作が続いたあとでは関根和美すらもに、何故かグルッと一周した新鮮さを覚える。まづは女の裸を見せる、ど初つ端・オブ・ど初つ端な本義を等閑視してゐないだけなのに。
 竹本泰志パートを後回しに、女が愛人業なら、男はホストといふ清々しさ。自称する“これでもNo.1”といふのが実際No.1に見えるホストの堂島孝弘(山本)が、乗客のセレブ妻・本宮優子(明里)を自宅に迎へ入れる。明里ともかは、関根和美前作「福マン婦人 ねつとり寝取られ」(主演:江波りゅう)二番手から一歩後退。とはいへこのレベルの上玉が三番手に座つてゐて呉れると、裸映画は頗る安定する。一種のSOHOを終へたのち、連れ戻しに上京して来た、親同士が子供の頃に決めた許嫁の吉永美穂(優梨)に呼び出された堂島は、奈緒もよく使ふ居酒屋に。やさぐれた遣り取りの末、堂島が美穂からジョッキの酒をブッかけられるそこそこ修羅場を、奈緒に目撃される。
 配役残り竹本泰志は、不渡りを出し両義的に廃業した奈緒のex.パパさん・柳瀬俊之。再起を賭けたビットコインでババを掴み、奈緒に泣きついた挙句、逆ギレして犯しもする情けない濡れ場要員。柳東史は、美穂の初心さに触発され、奈緒が想起する過去。高卒で就職した町工場にて出会ひ、同棲に至つた土屋茂。定職についてゐるのに、ある朝奈緒の持ち金を盗んで姿を消す闇雲な濡れ場要員。一見贅沢な起用法が藪蛇にも思へ、竹本泰志と柳東史をも擁して主演女優の絡みを積み重ねる実は執拗さが天晴。スチールの一部を担当してゐるらしいSHINを除いた協力勢と、演出部で再三が本当に都合三度ロケ使用される居酒屋要員。三人組客の関根和美×鎌田一利×加藤義一、参加してゐたのか、菊ギロTで店員役のEJD。単騎で見切れる中村勝則までは判つたものの、未だ松島政一が特定不能。あと全然関係ないのが本当に全ッ然関係ないけど、井土紀州と鎌田一利て似てなくね?
 今や業界を代表する看板に成長したきみと歩実(ex.きみの歩美)を、「俺が育てた」面するのも十二分に許される―現にしてゐるか知らんけど―気がする、関根和美2018年第三作。互ひに異性を喰ひ物にする女と男に、一途な田舎娘を噛ませた他愛ない物語。ビリング頭とトメによる、正しくクライマックスたる締めの奈緒V.S.堂島戦を、一撃で粉砕してのける無造作極まりない何気に衝撃のラストはある意味関根和美一流とはいへ、僅かな隙もない充実した俳優部に支へられ、直截にいふと何故か、あるいは不思議と充実して観てゐられる。二番手の優梨まいなは、竹洞哲也2017年第四作「ヤリ頃女子大生 強がりな乳房」(二作とも脚本:当方ボーカル/主演:若月まりあ)・第五作「まぶしい情愛 抜かないで…」二部作以来。かういふ可愛くてオッパイが大きい女の子は、横好きな映画で下手に持ち腐らせるくらゐなら、いつそ関根和美でサクサク脱いで貰つた方が余程いいといふのは、大雑把な暴論に過ぎるであらうか。プリップリの乳尻をこれでもかこれでもかと堪能させるきみと歩実、三番手をガッチリ固める明里ともか。三花繚乱の女優部もさることながら、部屋着から勝負服まで種々の装ひも彩豊かに、現代ピンク最強の男前を叩き込み続ける山本宗介も、寧ろ山本宗介が見所。この期に薔薇族を食はず嫌ふ、当サイトは純然たるヘテロセクシュアル乃至のんけではあれ、女優部よりも山宗を愛でてゐるのが正解なのではないかと、本気で思つた。ヒロインが土壇場で卓袱台を引つ繰り返される大概な結末も、堂島が然るべき落ち着き処に落ち着いたのであればと、徳俵一杯一杯で救済する。救済出来てねえよ、タコといふ至極全うな異論に対しては、当然反駁しない。そもそも親同士が勝手に決めた許嫁だとか、前時代的な設定も大概ではある。


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 「痴漢 極楽指めぐり」(1997/製作:関根プロダクション/配給:大蔵映画/監督:関根和美/脚本:関根和美・小松公典/撮影:小山田勝治/照明:秋山和夫/録音:シネキャビン/音楽:リハビリテーションズ/編集:㈲フィルム・クラフト/助監督:小松公典/効果:東京スクリーンサービス/現像:東映化学㈱/スチール:佐藤初太郎/監督助手:高橋涼子/撮影助手:新井毅・村雨右京/照明助手:草彅篤/出演:水乃麻亜子・樹かず・冴月汐・悠木あずみ・下川おさむ・山内よしのり・近藤力)。東化のあとにスチールと各部セカンドが来る、変則的なクレジットは本篇ママ。
 ブルーバックのタイトル開巻、何を見せたいのかぼんやりした夜景から、下パンするとくたびれた風情の樹かず。日々接待に振り回される和也(樹)が、如何にも関根和美らしいザックリした時制異動で妻・茜(冴月)との夫婦生活を想起する。その絡み初戦に、特段の脈略は一切ない清々しさ。ある意味、量産型裸映画といふ奴はこのくらゐ貪欲でないと務まらない、のかも。カーセックスの気配を感じ取つた和也は、フェンスを越え車に近づく。車中でうねる、いはゆるゴムマリ感を弾けさせるオッパイに惹き寄せられ、一線を跨いだ和也は何と車のドアを開け水乃麻亜子の体に手を伸ばす。そもそも、それ室内灯点かね?といふ根本的な疑問は果敢に等閑視、完遂を果たし初めて和也の存在に気づいた二人は和也の弟で国立医大二浪中の孝夫(下川)と、高校の同級生で女子大生の彼女・洋子(水野)であつた。所変つて孝夫宅、ニットキャップを脱ぎ、衝撃的にあんまりな前髪も露に―頭だけ見れば兄貴と弟どころか、息子と父親である―和也を説教する孝夫は、シャワーで改めて裸を見せた洋子が帰るや態度を一変。凄いスリルを覚えたと、和也に痴漢の弟子入りを懇願する。
 配役残り、小松公典の変名である近藤力は、薄ら笑ひで和也の社会的生命を抹殺する刑事。若い頃が、太田始系の色男。悠木あずみは課長と不倫したからとか、無体通り越して意味不明な理由で男を捨てるOL・由美で、山内よしのりが捨てられる剛。ex.山内よしのりの山内健嗣が声優メインにシフト、今も活躍してゐるとは寡聞にして知らなんだ、ついでに同い齢。
 少し油断してゐた隙に、バラ売りex.DMMに新展開。インターフィルム提供の国映系は、そのうち月額にも流れて来るかも知れないにせよ、まあ当分来ない大蔵旧作がちらほら新着。上等だと喰ひついた、関根和美1997年ピンク第四作。最後の野望として掲げるハンドレッド・関根和美に、一縷の希望が繋がれたのか。関根和美以外には国沢実や和久時代の今上御大のほか、梯子を外してゐながら―当サイト観―荒木太郎も新たに入つてゐたりする。次に見たる、復権のフラグだとでもいふのいならいいのだけれど。
 物語的には全十三作を撮り上げたライフワーク―超嘘―の割に、新田栄は滅多に両立させない痴漢と覗きを、和也は大胆だかプリミティブだか兎も角見事に両立。あるいは、無防備か極まりないへべれけに不自然なシークエンスをも、ものともしない関根和美ならではの蛮勇あつてこそ、ともいへようか。ヤリチン弟に乞はれ、接待疲れ兄貴がスリリングな棚牡丹を喰らつたまではよかつたものの、土壇場で露見しおまけに糸を引いてゐた筈の二親等は消滅。憐れ容赦なくお縄を頂戴した和也が消沈して帰宅すると、あらうことか茜は孝夫に寝取られてゐた。どうするんだこの局面、もう逃げ場がないぞ。退路を自ら断つておいて、その先に臆面もなく無造作に進んでみせる辺りが、関根和美の関根和美たる所以ともいへ、流石にここから如何に畳むつもりなのかと、別の意味で固唾を呑んでゐると。魔展開に魔展開を合はせる、豪ッ快なクロスカウンターが爆裂。ピカレスク方向に和也が一皮剝ける終盤は、三番手が締めの濡れ場を担ふ平常ならば精々構成の不出来なり仕損じが、寧ろ三番手でなくてはならなくなるアメイジングな離れ業を成立させてのける。最終的に、百歩譲つて小説ならばまだしも、覗きながら痴漢するといふのが如何せん画的に箍か羽目を外さない限り成立し得ない。といふ無理さへ強ひてさて措く―措けねえよとする異論に対しては、反論しない―ならば、グルッと一周した強引さが痛快に抜ける一作。「俺の痴漢人生はまだ始まつたばかりだ」と、まさかの男坂エンドにはこの際喝采するのみ。必ずしも、槍を投げてゐる訳ではない。

 孝夫宅のクローゼットに潜んだ和也が、グジャグジャしたお惚気会話に「死ね」と吐き捨てるドライなカットと、中に出させた剛とは別に、和也を胸に浴びた由美が事後我に帰つてあげる、「やだあこれ誰の」なる何気な名台詞は手放しに笑かせる。


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 「福マン婦人 ねつとり寝取られ」(2018/制作:関根プロダクション/提供:オーピー映画/監督・脚本:関根和美/撮影:下元哲/照明:代田橋男/録音:小林徹哉/編集:有馬潜/助監督:加藤義一/監督助手:小関裕次郎/撮影助手:榎本靖/スチール:本田あきら/音楽:友愛学園音楽部/整音:Pink-Noise/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:江波りゅう・明里ともか・原美織・那波隆史・竹本泰志・山本宗介・なかみつせいじ)。
 朝の外景を一拍挿んで、夫婦の寝室。結婚七年、朝つぱらからの求めを夫の南圭介(なかみつ)に断られると、明日香(江波)は舌打ちしてオナニー開戦。布団の中で乳を弄り、パンティ越しの秘裂に指を這はせる案外あんまり見ない画が、結構エロい。女の裸をエロく撮るアルチザン・下元哲ここにありを、アバンから叩き込む。そんな風ゆゑ、てつきり休日かと思ひきや、圭介はけふもけふとて残業確定のど平日。溌剌とでなく出勤する圭介を、明日香がぼんやり見送つてタイトル・イン。ど平日の朝に、夫婦生活を求めたところでそれは大抵か到底断られるだらうといふ無造作なツッコミ処が、関根和美は関根和美でここにあり。
 今や池島ゆたか作よりも、どちらかといふとNSP“ニュー・関根和美's・ピンク”で御馴染の、パブ「ステージ・ドアー」。ネルシャツがダサい八巻直哉(那波)がカウンターに入り、客は紆余曲折の末に、漸く宅配弁当で一山当てた東野謙司(竹本)。そこに圭介とはステドで客同士として出会ひ、八巻とも旧知の明日香が来店。要は単なる欲求不満を、虫が目覚めただ何だと他愛なくすらない方便で正当化する明日香は、八巻も呆れる早さで東野にお持ち帰りされる、あるいはお持ち帰らせる。
 配役残り、関根和美2015年第四作「特務課の罠 いたぶり牝囚人」(主演:きみと歩実/二番手)、国沢実2016年第三作「性鬼人間第一号 ~発情回路~」(脚本:高橋祐太/主演:桜木優希音/三番手)に続くピンク第三作となる印象が、正直全然残つてゐない原美織は、スルこと済ませるやケロッと離脱しようとした明日香と玄関で鉢合はせる、訪ねるのでなく東野宅に帰つて来る間柄のキャバ嬢・水城愛。印象も残つてゐない癖に、多分今回が一番普通に可愛く撮られてゐる気がする。三十五歳といふ公称よりも、随分若く見える明里ともかは、こちらは結婚二年の八巻妻・幸枝。2018年前半戦実は殆ど出てゐない、現代ピンク最強の男前・山本宗介は、明日香が日課のジョギング中にミーツする、自称レジデント(後期臨床研修医)の北村裕也。幸枝に話を戻すと、明日香と幸枝の女二人で、買物か何か外出。まさかのランチが、そこら辺な公園のベンチにて、コンビニ的なパンとチルドカップコーヒー。無い袖を憚りもしない清々しさは、如何にもピンク映画といふのを超えて、なほ一層如何にも関根和美、もしくは如何せん関根和美。
 江波りゅう×ステージ・ドアー×なかみつせいじの組み合はせとなると、ママとブン屋が結ばれる2017年第一作「寸止めスナック めす酒場」の続篇とまではいはずとも、後日譚的なテイストの物語になるものかと勝手に予想してゐたら、ものの見事に全ッ然関係ない関根和美2018年第二作。徹頭徹尾、再度江波りゅう×ステド×なかみつせいじの組み合はせといふだけ。寧ろ通り過ぎた来し方を一々覚えてんぢやねえとでもいはんばかりの、悪びれない無頓着さが実に量産型娯楽映画的。工夫しろよなり考へろだとか難じてみせるのは、いはずもがなといふ奴だ。
 二番手三番手どころか、要はビリング頭から全員濡れ場要員といつて差し支へない、単純に明日香が愛と幸枝も巻き込む形でヤッてヤッてヤリ倒すに終始する展開は、先に触れた「寸止めスナック」後日譚的はおろか、そもそも満足な物語の体を成してゐない。中盤キーワード気味に起動する“福マン”が、肝心要の配偶者に掠りもしない天衣無縫な脇の甘さは、瞳を入れ忘れた竜がミミズになるが如き関根和美マジック。咥へてもとい加へて、文字通りの終始数撃ち続けておきながら、完遂に至る絡みは対北村の一回戦のみといふ、挙句ぞんざいな裸映画でもある。中途の濡れ場ばかりだと居心地が悪くて悪くて仕方がないのは、齢の所為で偏狭の度合いを増してゐるだけなのか?その割に標準的ロマポ並みの尺を微睡ませもせずに見せきるのは、演出部の功績といふよりは、穴のない俳優部の手柄のやうな気がする。一頃の煮ようが焼かうが食へない臭みが、那波隆史も漸く抜けて来た。

 NSP二作前の「W不倫 寝取られ妻と小悪魔娘」と、更にその前の「寸止めスナック」。今回がピンク四戦目となる江波りゅうの、初陣は2014年まで遡るデジエク第三弾「連れ込み妻 夫よりも…激しく、淫靡に。」。「連れ込み妻」を撮つた工藤雅典が、クリスマス前に大蔵電撃上陸を果たすニュースには度肝を抜かれた。工藤雅典といへば、結局終ぞエースにはなり損ねたやうな気もしつつ、にっかつ入社後本篇デビューはエクセスで果たした、生え抜きも生え抜き、公式サイトでも売り物企画のインタビュアーを任せられるほどの、嫡子と目したとて語弊のない存在である。ここから先は恣に筆を滑らせるが、そんな工藤雅典に、工藤雅典にさへ新作を撮らせられずに手放したのだとしたら、エクセスはいよいよ力尽きたのかと荒木事件以上の深い衝撃を受けた。


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 「煩悩チン貸住宅 淫らな我が家」(2018/制作:関根プロダクション/提供:オーピー映画/脚本・監督:関根和美/撮影監督:創優和/録音:シネキャビン/編集:有馬潜/助監督:加藤義一/監督助手:江尻大/撮影助手:佐藤文男・宮永昭典/スチール:本田あきら/協力:SHIN・鎌田一利/選曲:友愛学園音楽部/効果:東京スクリーンサービス/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:きみと歩実・水嶋アリス・美村伊吹・泉正太郎・竹本泰志・なかみつせいじ)。
 タイトル開巻、二階建て戸建の北村家。ハワイでの挙式から帰国した、端から婚活感覚で未練も残さず寿退社した亜美(きみと)と出世頭を見込まれた夫で、三十年ローンを組んだ人事課係長心得・北村翔太(泉)が乳と、もとい遅々と進まぬ新居の片付け。その夜、夫婦の寝室。絡み初戦を飾る夫婦生活のひとつもオッパイ、もといオッ始めるでなく―息するのやめればいいのにな、俺―如何にも関根和美らしい、タマキューの長尺フェードよりも更に度を越して、途方もなく長いロンゲスト・リフレクションに突入。人事課長の阿久津貞夫(竹本)に、翔太は問題の多い新入社員・佐伯優奈(水嶋)の教育係を任される。平成も終らうといふこの御時世をものともせず、昭和感香る古典的な呑みニケーションも経て優奈が徐々にモノになりかけた回想明けのある日。優奈が病欠する一方、翔太は指導の成果が見られないと、渋々の風を装ふ阿久津から降格と減給とを言ひ渡される、派手な刃傷沙汰でも仕出かしたのか。清々しいクッダラなさが魅力的な公開題には反し、女の裸も見せず漫然とした遣り取りに終始する序盤は、盃を交しつつ翔太が優奈に他愛ない処世訓を垂れ倒す店内同様、ダラダラした居酒屋映画の様相を呈する。
 配役残り俳優部よりも先に江尻大と鎌田一利が、その他人事課要員。EJDは、何時になつたら大蔵でデビューさせて貰へるのか、小山悟は何処に行つた。なかみつせいじと美村伊吹は、減給分を補ふべく、阿久津の助言に従ひ翔太が二階を間貸しする、板前の富樫哲也とその妻・恵子。富樫夫婦が聞こえよがしに爆裂させる嬌声にアテられた亜美と翔太も開戦するのが、凡そ三十分を費やしての初TKB。その直後、後背位から背面座位に移行するライズで、美村伊吹の爆乳がフレーム・インするカットの圧倒的ジャスティス感。尤も残念ながらex.緒川凛の美村伊吹は今作のピンクのみならず、裸仕事から完全撤退してゐる。更に非俳優部、翔太が今度は阿久津と入る居酒屋の、手前席に見切れるのは何時の間にかすつかり白髪で驚いた加藤義一、同い齢なのに。銀髪に気をとられ気づかなかつたが、見切れてゐるとした場合、SHINは加藤義一の対面に座つてゐたのか?
 外様の跋扈と梯子を外された荒木太郎はおろかナベの姿すら見当たらない中、池島ゆたかとローテーションのベテラン枠を死守する関根和美の2018年第一作、伊豆映画は縁起物に近い別枠。一年先行する国沢実に、荒木太郎含め同期の清水大敬吉行由実が中堅で、加藤義一(2002)と竹洞哲也(2004)を生え抜きのホープと看做す認識が、そもそもどころでなくどうかしてた。とりあへず、一般映画が一段落したら、旦々舎には轟然と戦線復帰して欲しい。
 際限のない閑話休題、といふか。漫然と筆の滑りゆくまゝにを、今回のNSP“ニュー・関根和美's・ピンク”に軽く寄せてみた、つもり。前述したウダついた序盤から、三番手―となかみつせいじ―が一暴れするや、華麗なヒット・アンド・アウェイで潔く捌ける中盤を経ての終盤が、ある意味関根和美の真骨頂。直截に、悪い意味でといへばよい。加害者被害者双方の言動が欠片たりとて通らない、挙句水嶋アリスがビリングさへ粉砕する急旋回復讐譚が圧巻。理解不能な屁以下の方便と、無理筋しか見当たらない逐一、破綻のみによつて構成された展開にクラクラ来る。幾度とやらかした豪快な粗相から流石に学習したのか、満更でもない、上手い具合に余韻を残す夢オチと現実の境界線を除けば。よくよく振り返るに主人公である筈にも関らず、亜美と翔太の物語が満足に起動すらしてゐない。以前に、ユーナ・ストライクス・バック篇では当事者の一翼を担ふ翔太はまだしも、亜美に至つては一貫して振り回されるか傍観するばかり、登場人物中一番動いてゐない。女優部で水嶋アリスが三回の濡れ場を、何れも唯一人完遂してみせるのも裸映画的には地味に特筆すべき点。転がり込んだ北村家の浴室にて、派手なワンマンショーを仕出かしてのけるのは、どうスッ転んでも底がブエノスアイレスまで抜けてゐるが。等々、素面で考へると凡そ救ひやうのない木端作か微塵作の割に、未だ色気は感じさせず、素の若さで飛び込むしかない水嶋アリス。片やきみと歩実は色気のその先の色香をいい具合に醸成させ、美村伊吹は完全に爛熟する。三花繚乱に咲き誇る女優部と、引き立て役に徹し、かつ穴も感じさせない男優部。手堅い布陣を擁し、デジタル時代のデフォルトにして、標準的ロマポばりの七十分をもよしんば何となくに過ぎないにせよ、微睡ませるでなく見せきるのは曲芸の領域。その不可思議はそれでも矢張り、関根和美だからこそ初めて為し得る、案外ワン・アンド・オンリーな匙加減であるのやも知れない。少なくとも亜美が絶妙な間で翔太にオッカナく詰め寄るカットは、普通に見させる。


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 「W不倫 寝取られ妻と小悪魔娘」(2017/制作:関根プロダクション/提供:オーピー映画/脚本・監督:関根和美/撮影:下元哲/照明:代田橋男/助監督:加藤義一/編集:有馬潜/監督助手:小関裕次郎/撮影助手:榎本靖/録音:シネキャビン/スチール:本田あきら/仕上げ:東映ラボテック/効果:東京スクリーンサービス/出演:江波りゅう・きみと歩実・あやね遥菜・竹本泰志・津田篤・なかみつせいじ)。
 サド全集とか適当に並ぶ書架を舐めた先の、PC画面にタイトル・イン。何処そこ大学心理学教授の吉永修一(なかみつ)が、当時の学部長を媒酌人に見合結婚して十年の妻・笑子(江波)を、戯れにでもなく鞭打ち責めてみる。いやしくも心理学徒が、所詮文学者のサドを出汁にいはゆるマゾ気質を女にア・プリオリなものと看做す態度には猛烈に疑問も覚えつつ、どエロい江波りゅうの乳出し下着に免じ、然様な些末はこの際さて措く。最初はノリが悪かつたものが、攻守交替するや笑子が俄然ノリッノリになり、最終的には何時もと変らぬ早打ちの吉永が妻を待たず果てた事後。先にシャワーを浴びようとベッドから離れ際笑子が残した溜息に、吉永は地味に衝撃を受ける。その話を聞いた準教授の村木健吾(竹本)が、出し抜けな突破力で尽力を申し出た翌日か後日、吉永が大学の自室に入らうとすると、見知らぬ女が。部屋を間違へたかと踵を返しかけた吉永を、村木が手配した専任秘書・夏目ひとみ(あやね)が引き止める。一方その頃吉永家には、如何にも関根和美らしいアバウトさで面識の有無は語られないまゝに、最初から妙に距離の近い村木が笑子を訪ねる。
 配役残り津田篤は、後述する祥子の同棲相手で、研究員の高嶋信人。それ以外には内トラ一人見切れない純然たるデフォルト、あるいはミニマム布陣。吉永の教授室は兎も角、キャンパス内に模した―つもりの―ベンチが、どう見てもそこら辺の公園にしか見えない画は如何なものか。せめて、すぐ背中が往来でないロケーションを摸索すればいいのに、オープンキャンパスにもほどがある。
 豪快な荒業を繰り出す前作を剛とすると、今回は柔の関根和美ともいふべきNSP“ニュー・関根和美's・ピンク”2017年第二作。剛といふか柔といふか、二作一緒くたに業とでもいふか。映画前半は、吉永のスキャンダル失墜を目論む、村木の夫婦個別撃破。後半も成立する“W不倫”(吉永夫婦)は兎も角、“寝取られ妻”(笑子)も“小悪魔娘”(ひとみ)も全て額面通り揃つてゐる。ところが村木と、実は元カノであつたひとみの本濡れ場を務め上げたところで、三番手はザクッと退場。色恋に関する経験値不足を自認する小心さに基づき、ひとみの解雇を吉永が台詞一言で告げるや、村木に提出するレポートの期限を諸々に忙殺されスッ飛ばし、吉永に泣きつくハーバード大への留学も決まつた才媛・君田祥子役のきみと歩実大登場。足元を見る形で吉永が祥子に疑似恋愛を持ちかける後半は、主演―の筈の―女優も殆ど何処吹く風、完ッ全にきみと歩実が支配する。気がつくと高嶋が準教授に昇格してゐたりする割に、触れられさへしない村木の去就。木に竹を接ぐか手の平を返したハッピーエンドも、藪蛇に濁して絶妙に後味を悪くする。三本柱に恵まれ裸映画的には全く以て安定するにせよ、ブレるどころかある意味綺麗にスライドする軸転移なり、不用意な枝葉は典型的なNSPならぬUSP“ユージュアル・関根和美's・ピンク”。そんな中でも突発的な見所は、ひとみが一度は確かに吉永を籠絡する件。手渡された書類の何処に判を捺したらいいのか吉永が見つけられないでゐると、ひとみが横から体を密着させオッパイをグーイグイ押しつける、のは全然試運転。自らタイトスカートをたくし上げた上で、背面座位の格好で吉永に跨つたひとみが臆面もなくグリングリンしながらええとええとしてのける、今上御大・小川欽也も流石に呆れるかシャッポを脱ぐにさうゐない超弩級の駄メソッドには腹を抱へた。あと、クレジット画面は普通ゆゑ、仕上げではなく恐らく元々の撮影素材の問題か。全般的にといふか正しく全篇、フィルム時代のキネコを彷彿とさせる画質の粗さが目についた、別に懐かしくはない。


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 「寸止めスナック めす酒場」(2017/制作:関根プロダクション/提供:オーピー映画/脚本・監督:関根和美/撮影監督:創優和/助監督:加藤義一/編集:有馬潜/監督助手:小関裕次郎/撮影助手:加藤育/録音:シネキャビン/スチール:本田あきら/選曲:山田案山子/仕上げ:東映ラボ・テック/効果:東京スクリーンサービス/協力:広瀬寛巳・SHIN・周磨要・生方哲・東京JOE/出演:江波りゅう・玉城マイ・あやね遥菜・泉正太郎・津田篤・山本宗介・鎌田一利・なかみつせいじ)。
 団地外景で開巻、日曜の朝。藪蛇に新聞紙に囲まれ寝こけるフリールポライターの池山正樹(なかみつ)が、二人暮らしの娘・はるか(玉城)に叩き起こされる。正樹の妻にしてはるかの母は、既に故人、遺影も登場しない。はるかに男が出来たらしき話題でああだかうだホームドラマした上で、再びアングル変へた団地外景にタイトル・イン。画面のルックが何時もと違へて見えたのは、撮影今回創優和だつたんだ。スチールが小櫃亘弘でなく、本あきなのもその影響なのかな。
 正樹が出入りする、荒波出版。入社六年、『週刊旅の宿』から『盛り場スクープ』に自ら志願の上転属された近藤潤(泉)が発案した、「噂の美人ママ特集」なるぼんやりした企画に正樹は参加することに。近藤が当たりをつけた店はことごとく大外れ、泥酔した近藤を抱へ頭も抱へた正樹は、その場の直感で池島ゆたか映画で御馴染の、パブ「ステージ・ドアー」の敷居を跨いでみる。正樹はママ・沢田萌(江波)の濃厚な色香が一撃で琴線に触れ、近藤もホステスの篠崎佑夏(あやね)に喰ひつく。取材がてら何だかんだとステージ・ドアーに通ひ始めた正樹に、萌は閉店しようと戸締りしてゐると、パーカのフードをヒッ被つた山本宗介に待ち伏せされてゐるとの相談を持ちかける。ところで津田篤が、件の娘に出来た男こと、大蔵商事に就職し営業部に配属された、はるかの教育係・横山渉。研修対象の新入社員に手をつけサクサク寿退社させる外道、ラストで明らかとなる岡山転勤は、もしかすると懲罰の島流しか。
 配役残り、とはいへ山本宗介だけでなく鎌田一利にもネタバレせずには触れられないゆゑ正規俳優部は通り過ぎるとして、協力部は、ステージ・ドアー客要員、の筈。尤も暗めの画に厳しさが否めない我等が前田有楽の映写では、カウンター手前から抜いた奥のボックス席は闇に沈み殆ど見えず、カウンター席でも横顔を明確に見切れたのは、SHIN・周磨要・東京JOE(a.k.a.大池潤)のみ。
 前作では場外ファールで自分の車を破壊した、NSP“ニュー・関根和美's・ピンク”2017年第一作。なかみつせいじがステージ・ドアーでママの相談に乗るとなると、関根組ステド前作「和服女将の乱れ髪」(2013/主演:波多野結衣)が脊髄で折り返して脳裏に浮かぶ既視感は否応ない。正樹とはるかの父娘の物語に、女の裸の物理的総量も犠牲に尺を費やす点は今作の特徴ともいへ、はるかと横山の即席かつ直線的極まりない色恋沙汰に、捻りなり膨らみがある訳でも別にない。山宗の正体絡みで終盤火を噴く、木に軌道エレベーターを接ぐ出し抜けな魔展開は関根和美ある意味一流の底の抜けた破壊力を爆発させつつ、結局寄付する形で右から左へと華麗にスルーしてしまつては、何のための大風呂敷を通り越した超巨大風呂敷かといふ話である。寧ろ魔展開を裏返してゼロにする凄まじいクロスカウンターにこそ、関根和美が関根和美たる所以を見出すべきなのかも知れない。なかみつせいじは所々でピンの渋い画を抜いて貰へる反面、素材自体は結構な逸材にも思へるのだが、加藤義一2015年第三作「絶頂家族 愛人だらけ」(脚本:後藤大輔/主演:めぐり)、関根組前作に続きピンク三戦目の玉城マイは、役かお話に恵まれず今回も残念ながら初日は出ず。山宗はクッソ男前、無駄に男前。そんな中一際目を引いたのは、工藤雅典のデジエク第三弾「連れ込み妻 夫よりも…激しく、淫靡に。」(2014)以来の電撃大蔵上陸で、ピンク第二戦となる江波りゅう。この人こんなムンッムンに色気あつたかなと目を見張つたのは、単に積み重ねた歳月によるところなのか、あるいは終にエクセスの屋台骨になり損ねた工藤雅典と、それはそれで歴戦の関根和美とのそれなりに歴然とした地力の差なのか。
 山宗の正体< 高校時代労務者(鎌田)に強姦された萌は、財閥を所有する旧華族のタカノ家を事実上放逐。山宗は余命三ヶ月のタカノ家当主に雇はれ、唯一の遺産相続人たる萌を捜す探偵・山﨑照義   >三百億w


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 「女医ワイセツ逆療法」(1997/製作:関根プロダクション/配給:大蔵映画/監督:関根和美/脚本:小松公典/撮影:創優和/照明:秋山和夫/編集:《有》フィルムクラフト/助監督:加藤義一/監督助手:小松公典/撮影助手:立川亭/スチール:佐藤初太郎/録音:シネキャビン/現像:東映化学/出演:青木こずえ・下川おさむ・沢口レナ・月野ひとみ・安藤広郎・杉本まこと)。
 黒下着の青木こずえが、絵に描いたやうなドヤ顔で男の方に振り返る。青木こずえの持ち味が爆裂する、ファースト・カットが何気に完璧。共生病院理事長の苗字不詳和也(杉本)と精神科の女医・鳴海唯(青木)の、タイトルを入れるタイミングを少々遅きに失しさせてでも、絡みをコッテリタップリ見せんとする鋼の意思が感じられる一戦。事後の駐車場、まんまと籠絡され唯に心奪はれた和也に対し、周知の恋人・美奈と別れろと主導権を握つた唯は、送りの車を拒否し一人歩いて捌ける。その模様を少し離れた場所から覗いてゐた下川おさむが、上手い具合に闇に消えてタイトル・イン。タイトル明けは、踏切を待つ唯。歩きだした唯を、予備校生・吉川隼人(下川)が殆ど密着しかねない勢ひのベタづけで尾行してゐたりするのが、らしからぬ洗練を窺はせたアバンから一転、量産型娯楽映画の判り易さと表裏一体だか諸刃の剣の、関根和美の無造作さ。
 配役残り月野ひとみは、唯の治療の甲斐あつて、目出度く退院する運びとなる鬱病の入院患者・長内法子。東映化学(現:東映ラボ・テック)もとい共生病院の玄関口まで法子を迎へに来る安藤広郎が、彼氏の英樹。英樹の車に乗つた法子を、吉川は原チャリで追跡。カーセックスを窓から覗き込むかのやうに、といふか完全に覗き込む以外の何物でもなく堂々とさへ注視する吉川に、二人が営みを完遂して漸く仰天する煌びやかなまでの不自然さは、三番手とはいへども見せ場を妨げぬピンク映画固有の至誠と解するべきだ、見せ方がもつとほかに幾らでもあるやうな気もするけれど。きつかけは語られないが唯を正真正銘の本域でストーキングする吉川は、受験ノイローゼを装ひ共生病院精神科に通院する。廊下兼の待合室に居並ぶ面々が、画面奥から関根和美の愛妻・亜希いずみ、吉川と背中しか見せない関根和美に、変にニヤニヤしてゐるのが逆にリアルな小松公典。亜希いずみは、束の間唯と触れ合へてイヤッホーな吉川に、病院玄関でぶつかられる形で再登場。帰宅した吉川が、「元気出して」的に唯に握られた両手で勿論自慰をオッ始めると、全裸M字の唯の幻覚が大登場しそのまゝ濡れ場に至る流麗な導入には、関根和美の天才を確信せずにはをれない。そして尺の折り返し少し前、ストーカーの影に地味に消耗する唯の前に満を持して登場する沢口レナが、和也との結婚も噂される婦人科女医・児玉奈美。
 黒髪の正統美人・沢口レナの、jmdb通り恐らく全五作でなからうかと思はれる、ピンク戦歴を踏破すべくバラ売りDMMに手を出した関根和美1997年第二作。沿革を改めて整理すると、公開時期的にも初陣はまづ間違ひなく北沢幸雄1996年第二作「高校教師 私は、我慢できない」。半年強空けて関根和美1996年ピンク映画第五作「快楽セールスレディ ~カラダも買つて~」(脚本:関根和美・小松公典/主演:河名麻衣)三番手、続く第六作「隣の奥さん バイブでトロトロ」(脚本:関根和美・加藤義一・小松公典)、更に続く1997年第一作「痴漢電車 くひこむ生下着」(脚本:関根和美・加藤義一・小松公典)と来て、関根組四作連続登板含め締めが今作。尤も、今作の沢口レナはビリングにおとなしく甘んじる。どころか、より直截にはヒロインの噛ませ犬。
 それをいつては始まらないのかも知れないが、電話口の声に何故気づかないのかは強力に疑問でもある吉川による大概本格的なストーカー被害と、和也を美奈から強奪するしないの三角関係。唯を巡る二つの物語を、如何に収束させるのかそもそもし得るのかとあんまり期待はしないで見てゐたところ、まさかの唯・テイクス・オールなラストには驚いた。正しく主演女優といふに相応しい青木こずえの貫禄すら漂ふ、支配力の名にさへ値しよう決定力も借り、観終つてスカッとする類の映画ではないにせよ、悪女ものとしては少々力技ともいへスマートに出来上がつてゐる。とぼとぼ共生病院を後にする下川おさむの消沈した背中から、カメラが結構箆棒に引くラスト・ショットは、琴線に触れはしないが骨身に染みる。


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