真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「家庭教師の濃厚口技 教へ上手に…」(2000『美人家庭教師 ふしだらな成熟』の2009年旧作改題版/製作:フィルム ハウス/提供:Xces Film/監督:坂本太/脚本:有田琉人/企画:稲山悌二《エクセス・フィルム》/プロデューサー:伍代俊介/撮影:創優和/照明:藤塚正行/編集:フィルムクラフト/助監督:城定秀夫/監督助手:竹洞哲也/撮影助手:宮永昭典/照明助手:長田はるか・平岡えり/ヘアーメイク:河村知也/スチール:本田あきら/録音:シネキャビン/タイトル:道川タイトル/現像:東映化学/出演:沢木まゆみ・河村栞・佐々木基子・岡田智宏・竹本泰史・岡下以蔵《新人》・久須美欽一)。出演者中、岡下以蔵の“(新人)”は本篇クレジットのみ。
  亜成大学付属家庭教師センター、学生で登録教師の市橋佳音(沢木)が、助教授でセンター所長の二宮武彦(久須美)に体を任せてゐる。佳音は自身の成績は伴はないものの家庭教師で戦果を挙げることにより、二宮の口沿ひで講師として大学に残らうと目論んでゐた。いよいよすんでといふところで、佳音は二宮を制する。二宮は、学生へのセクハラで教授から降格されてゐる身でもあつた。佳音の教へ子・滝本彩夏(河村)は優秀な生徒であつたが、彩夏が自らに向ける視線に教師に対する尊敬の念とは些か別種の熱つぽさの含まれてゐる百合スメルに、ストレートの佳音は全く気づかなかつた。一方、華道徳永流宗家家元未亡人・徳永真理子(佐々木)は義理の息子・ミチヲ(岡田)の大学進学に頭を悩ませる。ミチヲの勉強は全く捗らず、真理子は錯乱した義息に半分仕方なく肉体を提供する日々が続いてゐた。浪人を続ける孫に業を煮やした、電話越しにのみ登場の義父から今年もミチヲが受験に失敗した場合、宗家家元を他に求める旨厳命された真理子は、二宮を頼る。かういつちや何だが2000年当時とはいへ、その五年前には既にデビューしてゐる岡田智宏が浪人生だなどといふと、ミチヲは全体何浪なのよといふ話でしかない、爺さんが匙を投げるのも肯けよう。
 鬱屈した自閉演技に終始させられる岡田智宏を尻目に、判り易い色男ぶりを全開させる竹本泰史は、真理子の彼氏で渡米中の助教授・矢島由紀夫。真理子を訪ねセンターを訪れた彩夏は、教室で睦み合ふ真理子と一時帰国した矢島との姿に衝撃を受ける。茫然自失とした彩夏を、二宮は毒牙にかける。
 時代遅れの縁無しであるのは、九年前旧作の新版公開である点を踏まへればさて措くべきにせよ、沢木まゆみが基本一貫してメガネを着用してゐるジャスティスに関しては、手放しで拍手喝采を贈られる。尤も、家庭教師を冠に戴きながら、最終的には佳音と彩夏の関係に焦点の当てられぬ作劇は如何なものか。二宮が彩夏を、ミチヲが佳音を犯す迫力ある手篭めの絡みには低劣な品性を大いに煽り立てられつつ、二宮が失脚する因果応報は兎も角、まるで忘れ去られる彩夏とミチヲの受験の顛末と、殊に我儘な変態でしかないミチヲは別にどうでもいいが、踏み躙られた可憐な彩夏の復権が一切図られない辺りには、娯楽映画として大いなる据わりの悪さを残す。全篇を超絶に彩る、沢木まゆみの美しさにウットリしてそれで済ませてしまつても別に構ひはしないのかも知れないが、一旦一歩下がつて冷静になつてみると、本筋は何処かに放置して来た、横道ばかりの一作といふ印象も禁じ得ない。

 そんなちぐはぐな今作の中、最も高い完成度を誇るのは佳音が出来の悪い生徒・洞口(岡下)を補習する件。佳音が朗読する英文の中身なんぞ完全に何処吹く風、洞口が怠惰に妄想する佳音の裸身が、当然実際に沢木まゆみを全裸に剥いて表現されるポップさが素晴らしい。彩夏パートの中途半端なシリアスさなどは最早要らないので、そのノリで通して欲しかつた思ひも強い。


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 「人妻暴行 身悶える乳房」(2001/製作:大敬オフィス/提供:オーピー映画/監督・脚本:清水大敬/撮影・照明:小山田勝治/編集:酒井正次/音楽:花椿桜子/助監督:塩原正典/撮影助手:岩崎智之・及川厚/演出助手:笹木賢光・佐々木勉/出演:立花ひろみ・林田ちなみ・三沢亜也・神戸顕一・山科薫・瀬恒秀幸・清水大敬・中村高志・からみ一平・土門丈・畑野なすび・生方哲・加藤M男・狐目太郎、他)。あれこれ拾ひ損ねる。出演者中、加藤M男以降は本篇クレジットのみ。
 ひとまづ風光としては明媚な海岸をたどたどしく歩く、オッパイも大きいが頭も大きい女。観音崎行きのバスが劇中見切れる為、舞台は三浦半島か。説明は不足気味ともいへ何とはなしの雰囲気で、女・裕子(立花)の夫・成秋(神戸)は死亡したらしいことが窺へる。薬剤師であつた成秋勤務先医院の院長・根本(山科)が、精神の平定を乱した裕子に接近する。ギャンブルに溺れヤクザの鮫島(多分瀬恒秀幸)に多額の謝金を抱へた根本は、成秋が開発した性的興奮剤のマニュアル―劇中用語ママ―を狙つてゐた。臍を曲げた看護婦の妻・アヤコ(三沢亜也=しのざきさとみ)が横目に見守る中、根本は精神安定剤と称して性的興奮剤を飲ませてみた裕子を手篭めにする。一方、裕子の婚前ホステス時代の仕事仲間・明美(林田)が、裕子に乞はれ彼氏の順二(中村高志?)を伴ひ、東京を離れ寂れた港町を訪れる。バスを降りた二人に、コート姿にハンチング帽といふ、コントのやうな扮装の清水大敬が一応鋭い視線を注ぐ。後に対明美で展開される、プリミティブな清水の尾行スタイルは殆どギャグだ。
 死んだ男が開発した、性的興奮剤を軸とするクライム・サスペンス、とでもいへば聞こえもいいものの、鈴木エリカ、あるいは麻倉エミリをも凌駕する爆発的な立花ひろみの棒読み演技―勿論それは最早、 “演技”と呼べるやうな代物ではないのだが―と、終始頓珍漢を連発する清水大敬の自家中毒演出―勿論それも濡れ場以外に於いては、最早“演出”と呼べるやうな代物でもないのだが―とに、木端微塵に観客の腰も砕くネガティブな問題作。いはゆる“珍作”の類だと思つて初めから生温かい気持ちで接してゐれば、開巻早々に轟音を炸裂させる、エド・ウッドとその妻キャシーに今作を捧ぐだとか何だとか堂々とクレジットでヌカし倒す清水大敬病のことなど、忘れはしないがこの期にはどうでもよくなつてしまへる。その癖、へべれけながら一件にケリのついたオーラスに際しては、清水刑事が自ら裕子に対して、生きてさへゐれば必ずいいこともあるだの何だのと生ゴミ以下の醜悪なメッセージをのうのうと垂れ流し、殺意すら覚えるほどに観客を不快にさせることを決して忘れない辺りは、真逆の意味に於いて流石清水大敬。一流の五流だ、とでもしかこの期にはいひやうもない。ここから先は極私的な偏向に過ぎなくもあるのだが、俺は人生が美しいだの、世界は素晴らしいだのとホザきやがる輩を絶対に信用しない。何が美しいのだ、何処が素晴らしいのだ。何たる度し難い自堕落、何たる救ひ難い蒙昧。さういふ倒錯した価値観も、節穴な認識も共に全力で嫌悪する。“戦へ”といふならばまだしも、“生きろ”だなどと他人に向かつていつてのけてしまへる厚顔に対して、俺は断固として肯んじない。
 尻の穴のミクロな屈折は一旦措いておくと、さういふ最終的には一言でいへば鼻持ちならない一作ながら、最大出力でポジティブにどんなクソ映画からもチャーミングの種を何かしら探し拾はんとするならば、ツッコミ処は満載も斜め上に通り越した過積載。全篇を貫くカット変り際の妙にボリュームの大きな波音や不協和音は、底の浅さも裏返り今や高床式のコケ嚇しぶりがいつそ微笑ましい。招かれた先にも関らず明美と順二が裕子宅にてオッ始める中、裕子は仏前でのオナニー流しで成秋が遺した性的興奮剤のマニュアルを偶然発見。果てた裕子が仰向けに天井を見やると、何物かを見付ける。そのまま、即ち俯瞰のカメラ位置で裕子がフレームから外れ上方に手を伸ばし、体を戻すと何処ぞに―それは、天井を見上げるだけで容易に見える場所である―置かれてあつたフロッピーを手にしてゐる。そのシークエンス自体の拍子の抜け具合も兎も角、何故そこで一手間かけて、フロッピーが何処にどういふ塩梅で隠されてあつたのかを撮らないか。清水大敬の明後日が遺憾なく発揮されるのが鮫島とその手下に関してで、瓶牛乳を手放さないことがダンディズムとでも履き違へてゐるのかなな鮫島の造形は苦笑もの。そんな鮫島の手下も手下で、犯罪集団といふよりは殆ど単なる変態集団。根本医院襲撃時のハチャメチャな暴れぷりは、一歩間違へて潤沢な予算があればスラッシャーでも仕出かしかねない闇雲な勢ひだ。加へて、最もエクストリームなのは鮫島手下がアヤコを手篭めにする件。「お前に、ありつたけの精液をブッかけてやる!」、とか今しがたいつたその直ぐそばから二、三度腰を振ると中に出すなよ!舌の根が乾かぬ内にもほどがある。いい加減もここまで来ると衝撃的、現場で誰も何も思はなかつたのか?このカットの馬鹿馬鹿しさが今作の白眉といへよう、頂点が窪んでるのかよ。振り返つてみると、ピンクに於いては主要な売りの筈の、未亡人属性をほぼ素通りしてみせる点も凄いといへば凄い。

 前作「どすけべ家族 貝くらべ」(2001)から依然として、瀬恒秀幸・中村高志・土門丈・畑野なすびの四名が厳密には特定に至らない上で、リフォーム業者として見覚えのある多分土門丈??は、清水刑事の部下。残りの出演者は、清水部下がもう一人と、常時サングラスか目出し帽で顔を隠してゐるゆゑ全く判別不能な鮫島配下の皆さん。鮫島組勢は場面によつて微妙に増減するので、正確な人数は正直判らない。全く、何から何までといふ話である。


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 「続・令嬢美姉妹 凄まじい淫慾」(2004『令嬢姉妹飼育2 性奴隷』の2008年旧作改題版/製作:株式会社マックス・エー、新東宝映画株式会社/配給:新東宝映画/監督:廣田幹夫/脚本:高木裕治/企画:石井渉・福俵満/プロデューサー:黒須功/助監督:白石和彌/撮影:下元哲/照明:高田宝重/録音:福島音響/編集:大永昌弘・佐藤崇/演出助手:井上亮太/撮影助手:海津真也/照明助手:南部智則/ヘア・メイク:清水美穂/ネガ編集:三陽編集室/スチール:池田岳史/タイトル:道川昭/現像:東映ラボ・テック/制作協力:黒須映像工業/出演:阿当真子・松坂樹里・河井紀子・羽村英・紺野智史・中村美都・もてぎ弘二・山村龍)。
 開巻にて前作をトレース、といふ次第で劇中では既に死んでゐる者まで含め、出演者は一応全員スクリーンに載る。今は詩織(阿当)と梶原(羽村)二人きりの楠木家の屋敷に、松浦友恵(松坂)と小沢英樹(漸く登場した紺野智史)のカップルが訪れる。山中で車が故障してしまつたため、レッカーを呼ぶのに電話を貸しては貰へまいかといふのだ。携帯は持つてゐないのか、といふ疑問が容易に生ずるが、圏外といふことなのか?ひとまづ梶原に勧められた二人は、楠木家に一泊厄介になる。元々は姉・麻美(河井)のものであつた部屋に通された友恵と英樹が、当然の如くオッ始めてしまふ情事を壁の穴から覗きながら、詩織は梶原に抱かれる。翌朝、ミルクをかけたシリアルだけといふ貧相な朝食に、友恵は不信感を抱く。といふ描写は、些か不自然でもなからうか。きのふの晩飯はどうしたのだ、といふ話である。そこに二人の前に初めて、詩織が姿を現す。どうしても阿当真子―現:合沢萌―が“深窓の令嬢”といふ柄ではない点など、この際最早通り過ぎてしまへ。詩織に鼻の下を伸ばす英樹に臍を曲げ、友恵は慌ただしく楠木家を後にする。ところが二人は林道のほとりに、梶原に殺害後埋められた、楠木家執事の田所(中村)か、梶原を追ふ安藤(もてぎ)、あるいは安藤の弟分・稲葉(山村)の手首を発見する。だから梶原も、面倒臭がらずにもう少し見つけ難い場所に埋めればいいのに。驚愕する二人の前にホラー映画に於ける殺人鬼ばりの神出鬼没さで梶原も登場すると、英樹はチャッチャと瞬殺。友恵を楠木家に連れ戻し、監禁陵辱する。何といふか、実にインスタントな世界だ、ある意味清々しい。
 前作同様、阿当真子と今度は松坂樹里といふ本来ならば攻撃力の高い筈のツー・トップを擁しておきながら、案の定仕方なく漫然とした一作。詩織が友恵に姉といふ存在を投影し、麻美の部屋で展開される友恵と梶原の濡れ場を、独り壁穴から覗き見て自慰に耽る。といふ状態―それは即ち、梶原が楠木家に現れる以前の、詩織の日常の変型となる―に安定感を見出すといふ展開は偶さか力を持ちかけたものの、サラリと筆も滑らせてのけるが最終的には友恵に唆され二人山を降りようとした梶原を、詩織が刺殺。詩織は半ばサイコ・サスペンス調に友恵を姉認定すると、延々と乳繰り合ふのがラストだなどといふ幕引きは、確かに阿当真子と松坂樹里による絡みには心の琴線を強く掻き鳴らされつつ、冷静になつてみると矢張り全く訳が判らない。詩織にとつてそれほどまでに姉といふ存在が重要であつたならば、そもそも前作に於いて麻美を殺めた梶原を受け容れるところから成り立つまい。それ以前に、田所と半ば公然と男女の仲にあつた麻美と、当時未だ処女で姉の色事を盗み見るばかりの詩織とは、割と微妙な関係にもなかつたか。詩織の相手は最早誰でも構はぬ姉とのレズビアン幻想など寝耳に水、藪から棒にもほどがあらう。キチンとフィルムで撮り、画面の方は全般的にカッチリ押さへられてはゐるにせよ、全く馴染みの薄いキャスト陣に加へ、お話の方はスッカスカでまるで頓着ない辺りにも、そこはかとないVシネ臭が漂ふ。松坂樹里の本当に見事なオッパイに、エモーションの全てを賭ける果敢な決死を挑むほかには、切り抜け得る途の俄かには見当たらぬ一作といふか、直截にいふならばぼんやりぼんやりした凡作である。


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 「艶会コンパニオン いけない濃厚接待」(2008/製作:Blue Forest Film/提供:オーピー映画/監督:竹洞哲也/脚本:小松公典/撮影監督:創優和/助監督:山口大輔/編集:有馬潜/録音:シネキャビン/監督助手:江尻大/撮影助手:丸山秀人/照明助手:宮永昭典/スチール:佐藤初太郎/音楽:與語一平/現像:東映ラボテック/協力:松木文・加藤映像工房/挿入歌:『ピンクの空に月』 作詞・作曲・唄:キョロザワールド/出演:アゲハ・上原優・倖田李梨・ Aya・久保田泰也・吉岡睦雄・世志男・太田始・岡田智宏・サーモン鮭山・当方ボーカル)。出演者中、岡田智宏と当方ボーカル(=小松公典)は本篇クレジットのみ。
 寂れた港町の宿にて、宴会部長の棚橋翔(吉岡)が全日本マッスル商事からコンパニオンの武藤慶子(倖田)と、三ヶ月弱前の前作から幸にも再びウェイトを戻したAya(役名不明)を呼び、坊主頭+黒縁メガネ+ボーダーのタンクトップで揃へた三兄弟(画面右から当方ボーカル、岡田智宏、そして江尻大>本人様より御教示を受け訂正)を接待してゐる。三馬鹿兄弟は、吐き気を催すほどらしい慶子の女陰のグロテスクさに悶絶する。といふネタは以降にも繰り返すか蒸し返される―禿げた毛ガニのやうらしい―が、兎にも角にもナニが如何に異形なのか映し出す訳には行かないだけに、些か以上に通り辛い。同じくコンパニオンのひばり(アゲハ)は、思ひ出を胸に一人歩いてゐた夜の海岸で、御丁寧にも服を脱ぐとその下に水着を着て入水自殺しようとしてゐた、諏訪間豊子ことトロ子(上原)と出会ふ。着衣の方が死亡率も高まるであらうトロ子を前に、ひばりが「何が、したいんだ?」といゝ感じで突き放しつつ不可解を露にする台詞は笑かせる。
 依然松浦祐也は不在のまゝ―三馬鹿兄弟長兄のアテレコには参加―に久保田泰也は、ひばりの幼馴染で旅館の後取り兼板前・垂木鳥雄。世志男は、元プロレスラーで現在は全日本マッスル商事の雇はれ店長・淵正樹。淵現役時代の元マネージャーである慶子とは、以来の腐れ縁にもあつた。久し振りに観た割に髪を伸ばすと妙に若返つても見える太田始は、トロ子が一旦は自死を志した原因でもある無職DV元夫・林一也。サーモン鮭山は、ひばりを姐さんと慕ひパニオン稼業に足を踏み入れたトロ子の、初陣の相手客。調子に乗り過ぎて、ひばりにシメられる。客要員もう一人は、恐らくスタッフの何れかか。「忘れることで始まる」といふ男に対し、女は「忘れないことでしか、生きて行けない」と返す。実はセフレ感覚で男女の仲にもあるひばりと鳥雄は、事後そんなクサい遣り取りを交す。ひばりの両親は早くに亡く、ひばりは漁師の兄・小島聡美(岡田智宏の二役)と二人で暮らして来た。ところが漁に出て遭難し、既に死亡したものとされてゐる兄の帰つて来るのを、ひばりは待ち続けてゐた。ガンが発覚したものの、現役復帰の断念を強ひられる手術を拒む淵に慶子が胸を痛める一方、トロ子は差し入れられた弁当の旨さに惚れ、俄かに鳥雄に想ひを寄せる。
 慶子が、以前は熱海でアワビといふ源氏名のホテトル嬢として働き本名は小百合である、といふ過去を明らかにする件からも、「ホテトル嬢 癒しの手ほどき」(2006/主演:青山えりな)の明白な続篇ではなくとも最低限姉妹作とはいへよう今作は、一言で片づけると欲張りすぎた一作。逐一イイ台詞を書かうとしすぎ、女優三本柱に関してもそれぞれドラマを盛り込みすぎる。といふと、過去にまるで同じやうな感想を書いた思ひが脳裏を過るのは、決して気の所為ではない。全く同様の感触を懐いたのだから仕方がない、などといつそ開き直つてしまふが、何はともあれ、兎にも角にも映画に軸が通らない。挙句、ラスト・ショットの天候にも恵まれぬ主演―の筈の―女優のパートが一番弱いとあつては、要は、構成を失敗してゐると難じざるを得ない。トロ子と鳥雄の恋物語は濡れ場の要まで含めよしとしても、徒にプロレスに拘泥してもみせる慶子と淵の件のオーバー・ウェイトが、主だつた敗因ではなからうか。代りにといつては何だが、素直にひばりに尺を割くべきだ。尤も、何やかにやの匙加減に加へ、アゲハ自体に関しても、絶妙につゝけんどんな他人との距離感は光るものの、自身の問題に対処する突進力には欠けもする。それならばさういふ覚束ない主演女優を側面から誰が支へるのかといふと、久保田泰也はアゲハに劣るとも勝らず心許なく、最終的にはトロ子とくつゝいてしまふ。世志男のエモーションは、一貫してプロレスラーとしての復帰への執念か、慶子にかゝりきり。「ホテトル嬢 癒しの手ほどき」に於ける、サーモン鮭山に相当するポジションの不在が響く。一応劇中最後の濡れ場はひばりと棚橋のものではあるのだが、それまで二人の間に積み重ねられた何某かが限りなく皆無なだけに、所詮木に接いだ竹では映画が全く締まらない。王道の人情映画を志向した節は確かに窺へるにせよ、これではピンクとして成功してゐるとはいへまい。それと、人間を描くのに一杯一杯であるといふのも判らぬではないが、折角地方ロケを張つてゐるのだからもう少しのんびり風景を追つて、風情を伝へようとしてみせてもよくはなからうか。少なくともその点に於いては、師匠の伊豆映画の方が長じてゐるやうに映る。
 そんな今作最大の飛び道具としては、岡田智宏を挟んでゐる時点でそんな訳がないのに、不思議なまでに本当の兄弟に見える三馬鹿の超強力なビジュアル。上野俊哉のバカ兄弟シリーズの向かうを張る、三馬鹿兄弟シリーズを観てみたくもなつてみたり。待てよ、色男一人に三の線二人といふと、素直に馴染む岡田智宏のサミュエルから流して、小松公典をマイケル、強引に江尻大をリッキーに当てはめればピンク版ホイ三兄弟が完成するぞ!

 最後に、蛇足がてら折角なので纏めておくと。プロレス者である小松公典の趣味をダイレクトに反映してか、最も判り易いところから小島聡美を始めとし、諏訪間豊子は現在諏訪魔の諏訪間幸平。武藤慶子がいふまでもなく社長の武藤敬司。淵正樹は生え抜きの渕正信に、ここは少し変則的だが林一也はカズ・ハヤシ、までが全日本プロレス所属のプロレスラーから。棚橋翔は新日本の棚橋弘至、垂木鳥雄はフリーランスで全日参戦の、TARUこと多留嘉一から、名前を取つてゐるにさうゐない。


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 「べつぴん教師 吐息の愛撫」(2004/製作:ナベシネマ/提供:オーピー映画/監督:渡邊元嗣/脚本:山崎浩治/撮影:飯岡聖英/照明:小川満/編集:酒井正次/助監督:小川隆史/撮影助手:田宮健彦/照明助手:八木徹/現場応援:広瀬寛巳/下着協賛:ウィズ・コレクション/出演:桜井あみ・橘こなつ・瀬戸恵子・白土勝功・西岡秀記・なかみつせいじ)。落としたのではなく、監督助手クレジットはなし。
 英会話講師の小池唯(桜井)は、ルームメイトの森村葉月(橘)を訪ねて来たエリートサラリーマン?な工藤大輔(西岡)を、葉月の不在をいいことに誘惑するやコロッと寝取る。寝取つてはおきながら、唯は一度寝た男には途端に関心を失ふ、始末に終へぬ女であつた。唯は自分は凶暴なヤクザの情婦だ何だのと、工夫に欠ける強弁を持ち出し工藤を追ひ出す。四の五のしつつ葉月には案の定発覚し、当然二人は諍ひになる。葉月は貪欲に玉の輿を探し求めては何時も騙されてばかりで、一方唯は―アメリカ―西海岸かぶれの、男女の仲をゲームに模した華麗なラブ・アフェアーを信条としてゐた。男絡みのお痛の後には、唯は決まつて写真が趣味のアロマテラピスト・持田尚人(白土)の下を訪れる。尚人は高校時代、唯に無理矢理言ひ寄られて以来ゲイ―劇中用語では“ホモ”―になつてしまひ、その所為か、唯は尚人の前では心を許してリラックス出来るのであつた。
 そもそも、何でまたそこまで正反対な二人が同居してゐるのか判らないといへばいへなくもない、全く対照的な恋愛観を持つ二人の女を、殆ど一方向からのみ描いた一作。あちらこちらに不足が目につきもするがまづ形式的に目立つのは、とりあへずの顛末は描かれるものの、最終的には渡邊元嗣の目が橘こなつ(現:向夏)の方には殆ど向いてゐない点。対照が対照として十全に活きて来ない分、最後まで再転向も容易に予想される改心なんぞしてみせないのは天晴だが、唯の唯なりの言ひ分といふものが深まらず、軽やかにともいへ終始上滑る感は否めない。そして最も大きな疑問を残すのが、終盤の構成。尚人の告白が意外性まで含めハイライトたり得る強度を有してゐただけに、最後は唯が尚人の下へと戻つて来ることの前フリといふ段取りも酌めぬではないが、後述するなかみつせいじとの濡れ場など挿まずに、そのまま一息に映画を畳んでよかつたのではなからうか。ゲイ・ボーイと来ればで何時もの横須賀正一ではなく、尚人役に白土勝功を配した正攻法は綺麗に形になつてゐるゆゑ、実際観てゐた際には、「ここでこのまゝ一気に行かないのかよ!?」と、意外を通り越して驚かされすらした。
 尤も、とか何とかいひつつも今作、少なくとも桜井あみのポップでキュートなポートレート映画としては、全き完成をみてもゐる。杓子定規な劇映画としては不用意ともいへ丹念に織り込まれた唯のイメージ・ショットは、何れも力強く映えてゐる。さうしたならば渡邊元嗣が頑強に志向するアイドル映画といふ側面からは、全く磐石であるとも一方からはいへようか。その上でも、本篇オーラスの文字通りのラスト・ショットよりも、エンド・クレジットを彩る写真の方が可愛くないか?といふ無粋な疑問はなほ残れど。
 なかみつせいじは、唯が講師を務める英会話教室「HEBA」の生徒・宮嶋。ビジネス英語を求めて HEBAの門を叩いたにしては、教はるのは夜の英会話ばかり。宮嶋が例によつて事後の唯の翻意に翻弄される件には、場内のそこかしこからも笑ひが起つてゐた。唯の非道な手の平返しも兎も角、それを受けるなかみつせいじのガチョーン演技が素晴らしい。そして明後日方面での今作のポイント・ゲッター瀬戸恵子は、尚人の上得意・坪井美希。マッサージを受けながら夫(一切登場せず)とのセックスレスの悩みをお為ごかしに打ち明けつつ、美希が炸裂させる、瀬戸恵子一流の底の抜け具合に超絶にフィットした、まるでアテ書きされたかのやうな―実際したのかも知れないが―名ならぬ迷台詞、「女はね、一年ハメハメしないと処女に戻るの」、それなんてエロゲ?男でも最長で五年日照りが続くと、チェリー回帰するらしいが。因みに美希の台詞には続きがあり、二年しないと女でなくなつてしまふとのこと、げに忙しい生き物である。

 女教師属性といふことで一応はかけさせたメガネに、渡邊元嗣がまるで執着しないどころか軽視気味ですらある点には脊髄反射で大いに残念と嘆きかけたが、よくよく冷静に検討してみると、桜井あみ(現:夏井亜美)にはあまりメガネが似合はないので、別に構はないのかとも思へた。それにせよ、直ぐに外させるくらゐなら初めからかけさせなくてもいいではないかとも、メガネ愛好者としてはあへて問ひたい。
 ところで、尚人の仕事部屋に貼られてある下手糞なヌード画の人体ツボ経絡図を、確か荒木太郎の映画でも観たやうな気がしたのだが、何の映画だつたか俄かには思ひ出せない。


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 「老人とラブドール 私が初潮になつた時…」(2009/製作:《有》幻想配給社/提供:Xces Film/監督:友松直之/脚本:大河原ちさと/企画:亀井戸粋人/撮影:小山田勝治/助監督:安達守・菅原正登/撮影助手:河戸浩一郎・佐藤遊/撮影応援:飯岡聖英/メイク:江田友里子/スチール:つちやくみこ/特殊造形:織田尚/アニマトロニクス:高山カツヒコ/制作担当:池田勝る/録音:シネキャビン/編集:酒井正次/CG:志岐善啓/出演:吉沢明歩・鈴木杏里・里見瑤子・山口真里・如香・藤田浩・金子弘幸・妹尾公資・亜坊・野上正義)。スタッフ中、CGの志岐善啓はTNCよりリリースされたDVD版のクレジットに於いては見られるもので、ピンクの方にはない。
 何者かに追はれる気配に怯えつつ、女(里見)が夜道を急ぐ。路地裏に追ひ込まれた女は、剥き出しの機械部品で構成された謎のロボット犬に犯される。凄えぞ、ピンクでサイバーパンクか!ロボット犬視点の、女をロック・オンするモニター画面が最低限十全にCGで作成されてゐることは、凡そ最低限十全ではなからう予算規模のことも鑑みれば、十二分に驚異的だ。仕事も退職し年金生活を送る上野(野上)は、バッテリーが切れ機能は既に停止して久しい、メイドロイドT-207のマリア(吉沢)と暮らす。上野が未だ少年の頃(子役は友松直之の実息・正義氏で、如香のアレテコ)、メーカーで共働く両親は新製品の社内モニターと息子の身の回りの世話も兼ね、マリアを上野家へ連れて来た。その後不幸にも、両親が同時に事故死(遺影スナップは友松直之と、誰?)してからも、親戚に引き取られることもなく上野少年はマリアとの生活を選ぶ。青年に達した上野(周到に首から上の正面は抜かれないが、声からも間違ひなく如香)は、マリアにT-207用のSEX機能付き擬似性器L-101089を換装することも考へたが、マリアはモニタリング用の試作機の為、オプションは装着出来なかつた。仕方なくトライはしてみたものの、人間の女との結婚に失敗した上野は以来生涯の大半を、マリアと“二人で”暮らし続ける。一方、いはゆるバター犬用途の犬型ロボットAIBO、ならぬA.I.B.U―正直下らない―の所持禁止に伴ふ回収廃棄に荒れる女刑事の赤城友梨(鈴木)は、頻発する事件を受け設置された捜査本部を指揮、“レイプマシン”と名付けられたロボット犬を追ふ。
 山口真里は、結婚斡旋所の紹介を受け、上野青年が一旦は結婚を試みた婚約者。風間今日子が寿引退してしまつた今、山口真里の頑丈な色香は重要かと思はれ、良くも悪くも作品を選ばぬ、躍進を望みたいところである。上野に対しては露骨に資産を目当てに、マリアは所詮はメイドロイドと軽んじる山口真里に青年期の上野は臍を曲げ、マリアへのある意味道ならぬ恋情を拗らせる。妹尾公資と亜坊は友梨の部下の、漫才コンビのやうに対照的な大男と小男。藤田浩は、テレビ番組に出演しては堂々と二役の里見瑤子と山口真里に悪し様に弄られる、生身の女ではなく、女アンドロイドのみを偏愛する性癖のオタク評論家。近いのかあるいはまだ遠い未来、実際にさういふ状況が現実のものとなつた場合、果たしてその偏向した性愛は“何次元”と称されるのであらうか。藤田浩が逆ギレ気味に炸裂させる、男も女も、最終的には身勝手な幻想を相手に押しつけてゐるだけではないか。さういふいはば“恋愛ゲーム脳”と、たとへプログラムされたものに過ぎないとしても、主人を一途に愛し続ける“機械の純情”と、果たして本当に尊いのはどちらなのかといふ破れかぶれなのか、実は真実を射止めてゐるのかな視座は、以降を力強く貫く。宇野木兄弟の弟の方の金子弘幸はレイプマシン、とされてはゐるが、劇中レイプマシンは終始ゴテゴテした鉄男風味のロボット犬の姿に過ぎないゆゑ、その点は正直よく判らない。イメージ・シーンに登場する、友梨を抱く不人気により姿を消したホストロイド―こちらも顔の正面は回避される―は、金子弘幸であるやも知れぬ。(井上)如香は、冒頭ロボット犬によるレイプ事件を伝へる、TVリポーターとしても見切れる。その画面に於いてのレイプマシンの表記は“レイプ魔神”、平田か。他に藤田浩に違法改造したT-207の後継セクサロイドT-3356・イヴちやん(吉沢明歩の二役)をプッシュする、秋葉原のジャンク屋店長が登場。劇中里見瑤子に続く二人目の犠牲者が、上手いこと画面を暗くし誤魔化し抜いてゐて、誰なのか判別出来なかつた。間違ひなく、鈴木杏里ではないのだが。
 青年期の上野は、市販モデルのT-207とL-101089を新たに購入し、それにマリアのメモリーをコピーする。といふ、マリア自身の提案を頑なに拒否する。マリアにとつてはソフトウェアこそ重要なものの、ハードウェアは単なる容れ物に過ぎなかつた。対して、上野にとつては長年連れ添つたマリアのハード自体も、個別的具体性の関心の対照にあつた。不器用な恋心と同時に、西洋流の心身二元論と最終的には親和しない、日本人の身体感が強く現れてもゐる。そして現在の上野は、持てる物全てを放棄してでも、T-207用のバッテリーを入手しようとしてゐた。ジャンク屋をブリッジに上野と交錯する友梨は、死後、意識をデータ化して擬体に移したミスターX(声の主不明)から事件の真相を知り、レイプマシンの哀しさを受け止める。
 新東宝での作品は製作本数の激減も含め過去としても、今作に続く次作は再びオーピーからと、目下としては唯一垣根を越えた活躍を続ける友松直之の2009年第一作は、決して為にする風味に止(とど)まらぬ、サイバーパンク・ピンクの大、恐らくは最高傑作。そもそも、サイバーパンク・ピンクといふ意匠自体が、画期的に珍しいものでもある。何があつたかしらんと戯れに思ひ出さうとしてみても、俄かに思ひつく近作といへば、山邦紀の「変態熟女 発情ぬめり」(2003/主演:鏡麗子)か、関根和美のターミネーチャン・シリーズ―を、今作と同列に論じるのかよ!―くらゐか。浜野佐知の「巨乳DOLL わいせつ飼育」(2006/主演:綾乃梓)に関しては、セックス・アンドロイドが出て来るとはいへ、世界観的な踏み込みは特には薄からう。今作が過去の類似作を完全に凌駕するのは、ひとまづ表面的な、あるいは形式的なサイバーパンク描写に於いて。ロボット犬の造形に、モニター画面と暴走する改造T-3356のCGに加へ、ミスターXとジャンク屋に展示されるセクサロイドのアニマトロニクス。ローを超えたノー・バジェットともいふべきピンク映画の安普請の中で、どれだけの無理の斜め上を行く無茶を通したのか。尺そのものの限界に屈することもなく、外堀を埋めるべく詰め込まれ続ける考証的な情報量の多さも尋常ではない。浜野佐知は決して首を縦には振らぬかも知れないが、レイプマシンがアシモフのロボット三原則第一条を回避する方便などは、実に秀逸だ。同時に今作が狭いカテゴリーに囚はれぬ真の傑作たる所以は、あへていへばサイバーパンクは照れ隠しに、愚直なエモーションを、なほのこと全力で撃ち抜くことにこそ主眼を置いた点。サイバーパンク・ピンクであると同時に、プリミティブなラブ・ストーリーの傑作なのである。一歩間違へれば猿のやうに薄つぺらくもある凡庸なメッセージを、人造人間の起動を左右するパスワードに仮託するといふアイデアが爆発的に素晴らしい。外堀を埋め外堀を埋め外堀を埋め、半カットも疎かにすることなく築き倒した世界観の頂点で、終に振り抜かれる、在り来りな一言。ゴミのやうなメッセージでも、どうしても伝へたいこともある。阿呆のやうなメッセージでも、万難を排して伝へなければならない時もある。覚悟を完了した友松直之が今作描かうとしたのは、真心が生み出す一欠片の奇跡。偶さか上野と友梨がシンクロした瞬間に、降り立つ青の妖精こそが全てだ。一見どつちつかずに見えなくもないラスト・シーンは、いはば余走に過ぎまい。藤田浩の提出する、約五十年前に上野青年が既に達してゐた認識に依拠するならば、人間同士で通はなくなつてしまつたとすれば、その時人の真心は果たして何処に向かふのか、向かへばいいのか。さう捉へた時、儚くも美しい奇跡は、ディスコミュニケーションの前に無力に立ち尽くす、切ない諦観でもある。

 ただでさへデフォルトで制限された上映時間の中、友松直之がサイバーパンク世界を構築すべく妥協知らずの激闘を続ける一方、上野から友梨に橋を渡すほかは特には本筋に全く絡まない、藤田浩と改造T-3356の濡れ場にその癖妙に尺が割かれる辺りは、奇異に思へなくもない。とはいへ既製品とは異なり大陰唇を左右非対称にしてみたり、違法のAF機能―オート・フォーカスでは、無論ない―を追加してみたりと、ファンキーな一幕としてそれ単体として観ると実に楽しい。友松直之もノリノリでこの件を撮つてゐたであらう節も窺へる。本職の役者には見えないジャンク屋店長も、華や雰囲気はまるでないものの、正しく立て板に水といはんばかりに喋繰り倒す話術は、とりあへず芸になつてゐる。
 ところで、別にマリアが初経を迎へてみたりなんかする描写なんぞ一欠片も見当たらないのだが、エクセスは、一体何をどうトチ狂つて“初潮”などといふ文言を持ち出したのか。如何にも、ピンクの界隈ではよくある話ともいへつつ。

 前田有楽で初見後、故天神シネマとTNCよりリリースされたDVD版で対戦した地元駅前ロマン(共にプロジェク太)を経て、再び有楽にて四度目の観戦を果たした上での、情けない付記< この期に漸く、金子弘幸の配役を確認。顔出しでの芝居は、この人がジャンク屋店長だ。全く以て、節穴にもほどがある(;´Д`)


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 「人妻がうづく夜に ~身悶え淫水~」(2008/製作:多呂プロ/提供:オーピー映画/出演・監督:荒木太郎/脚本:荒木太郎・三上紗恵子/撮影・照明:飯岡聖英/編集:酒井正次/助監督:三上紗恵子・金沢勇大/撮影照明助手:堂前徹之・桑原正祀/ポスター:本田あきら/音楽:ドンキー宮川/協力:首里劇場/録音:シネキャビン/現像:東映ラボテック/タイミング:安斎公一/出演:浅井舞香・里見瑶子・淡島小鞠・牧村耕次)。ポスターにのみ、協力DJとして大村水都生と森智恵。
 首里劇場(沖縄県那覇市)住み込み支配人?の仙吉(荒木)は、芝居の出来さうな舞台もある場内に呼んだ風俗嬢のレナ(淡島小鞠=三上紗恵子)からナニの小ささと、素人童貞であるのをからかはれる。随分ナメたパン女でもある、誰を相手に商売してるつもりなのか。それならばと仙吉が今度は、行きつけのバー「美人館」のママ・金利子(里見)にアプローチしてみるものの、けんもほろゝに相手にされない。美人館にもう一人ゐる、猫顔のオッサンが何者なのか誰なのかは手も足も出せず不明。そんなある日、仙吉を兄貴分の林鉄哉(牧村)が訪ねる。個人輸入のリタリンを捌いてゐた―いふまでもなく、大絶賛薬事法違反である―鉄哉に捜査の網が及び、ひとまづ高飛びしてほとぼりを冷ます皮算用。ひいてはリタリンの在庫と、足を怪我して動くには足手纏ひになる妻・香(浅井)とを、仙吉に預つておいて欲しいといふのだ。面倒をみて貰ふお礼にと香は家事全般をこなし、仙吉は偶さか訪れた、まるで新婚生活のやうな日々に胸をときめかす。香の存在が周囲で噂になる一方、ハワイにて鉄哉が逮捕されたとの一報が入る。
 前作に続いての全国小屋ロケ行脚御当地映画シリーズ推定第九弾は、豪気に海をも渡つての沖縄ロケによる一篇。容易に予想される金銭的な困難を乗り越え、かうして一本のピンクを完成させた荒木太郎の頑強な意思ならば買へる、あくまでその不屈か決死だけならば。それでは映画自体の出来栄えは如何にといふと、残念ながら、“駄作”などといふがさつな単語を用ゐるのは平素好むところではないのだが、それでも使はざるを得ない、木端微塵に砕ける破壊力にすら欠く画期的な大駄作。兎にも角にも、グルッと回つて逆に鮮やかなくらゐに、物語に全く軸が通らない。冴えないチョンガー男の下に、肉感的な人妻が転がり込む。束の間潤ふ日々に色気を出すチョンガー男に対し、人妻は一人高飛びした夫に操を立てる。そこまでは、別に問題ない。そこから以降がてんでへべれけ、何事か思惑があるのかない―だ・か・ら、結局金利子は仙吉に何にサインさせようとしてゐたのだ―のか、それまでまるで冷遇してゐた水商売の女が、俄かにチョンガー男に接近する。するとワンポイント・リリーフ―この単語も、他に野球に関した件が一切ない以上、木に接いだ竹この上ない、下かも―だなどと称してゐた筈なのに、余所の女に浚はれると藪から棒な嫉妬心にも駆られるのか、人妻はチョンガー男と終に一線を越える。かと思ふとチョンガー男の兄貴分で人妻の旦那が不意に舞ひ戻り、再び妻を連れて立ち去る。呆然とするチョンガー男が後を追ひ通りに飛び出すも、既に車の姿すら見えない。堂々と全部書いてのけたが、見事に全くこれだけの物語である。といふか、殆どまともな物語としての体すら成してゐまい。何がしたかつたのか全然判らない、呆然とさせられるのは観客の方だ。沖縄の殺人的な日射しに脳をヤラれ、荒木太郎は日射病で朦朧としながら撮つてゐたのではなからうか、とでも思はないととてもやつてゐられない、腹も立たないネガティブな一作。そもそも舞台の首里劇場に関しても、いはば仙吉がそこで暮らしてゐるといふだけで、一欠片たりとて仙吉と香のドラマが小屋を通して展開されるでなく、わざわざ渡海しての小屋ロケ行脚にも、別にどうしてもの意味はないねと清々しい笑顔で実も蓋も無くしてしまへる。沖縄の、小屋で撮影した。といふ形式的な要素以外、寧ろ感動的なまでに何もない。挙句に濡れ場の回数さへ、満足にこなせない始末、完璧な失敗作だ。撮るなとまでは流石にいはないが、オーピー映画は有用な横槍を発揮して、荒木太郎にはまともな脚本をまづ用意させて欲しい。こんなザマなら、ツッコむ楽しさがなくもない分、小川欽也の伊豆映画の方がまだしも百倍マシにさうゐない。

 と、ころで。劇中首里劇場で上映中の三本立ては、そんなオガキンの伊豆には行かねど「誘惑美容師 ヴィーナスの縮れ毛」(2001)、森山茂雄の「美人保健婦 覗かれた医務室」(2003)に、国沢実の「変態エロ性癖 恥汁責め」(2004)。何といふか、言葉を探すのに苦心を覚える番組ではある。

 以下は山﨑邦紀監督に伺つた裏話< 実は今作、沖縄で撮られたのはその場所が首里劇場―とその周辺、近隣商店街―である旨が明確なカットのみで、残りの仙吉住居の撮影は普通に本土。即ち、俳優部中、そこにしか登場しない牧村耕次は海を渡つてゐない。上手く騙されたのならば認めるが、何をかいはんや感が、弥増すのもいふまでもない。


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 「人妻の秘密 覗き覗かれ」(2004/製作:小川企画プロダクション/提供:オーピー映画/監督:竹洞哲也/脚本:小松公典・竹洞哲也/プロデューサー:小川欽也/原題:『PEEP SHOW』/撮影:創優和/照明:野田友行/助監督:山口大輔/編集:フィルムクラフト/録音:シネキャビン/監督助手:佐藤竜憲・芦澤潤/撮影助手:原伸也/照明助手:金谷健児・吉田雄三/音楽:藤田満/スチール:佐藤初太郎/ヘアメイク:高野雄一/現像:東映ラボテック/協力:三和出版・es dream company・Bar spike・加藤映像工房・青柳透・今村昌平・岩田有司・内山太郎・丘尚輝・神谷一青・獅子丸・武大輔・中尾美奈子・中村太一・西田和人・林大造・兵頭未来洋・松田正信・横井有紀/出演:吉沢明歩・華沢レモン・風間今日子・沢賀名・坂入正三・なかみつせいじ・柳東史・岡田智宏・サーモン鮭山・牧村耕次・竹本泰志)。劇中登場するマンガ原稿と、エンド・クレジットを飾るイラストの主が不明。
 新人レディースコミックマンガ家・高橋千影(吉沢)が、持ち込んだマンガを編集者の下川誠(牧村)に酷評される。幾ら何でも斯くも紙に埋もれてゐるのかといふ編集部が、協力の三和出版で撮影。雑然を通り越し、最早騒然とでもいつた趣だ。地震が起これば一発で壊滅するし、火事にでもなつた日には、それは壮絶によく燃えるにさうゐない。下川は千影に女としての魅力と、体験の不足とを指摘する。確かに千影は金髪パンクの彼氏・諏訪昌吾(岡田)とのセックスでは未だ“アクメの花園”を知らなかつたが、そこに現れる売れつ子作家・大林仁美役の沢賀名―さわが・めい―の方が吉沢明歩よりもセックス・アピールに長けてゐるなどといふ下川の琴線のチューニングに関しては、人それぞれとはいへど、正直首を傾げざるを得ない。一応デビューはしたものの未だマンガだけでは食へない千影は、清掃員のバイトをしてゐた。仕事を終へ帰らうかとしてゐた千影は、ガテン系の社長(柳)に無理矢理留守番を押しつけられる。仕方なく千影が時間潰しにネーム帳を取り出したところに、先輩清掃員の鴨田龍平(竹本)が戻つて来る。今度は鴨田に留守番を押しつけてしまへと慌ただしく立ち去らうとした千影は、一旦は見せろといふのを拒んだネーム帳を落として来る。ネーム帳に目を通し、的を得てゐるのか適当なのか矢張り経験不足を指摘した鴨田は、千影を誘(いざな)ふ。常時持参する小トランクに各種道具を詰め込んだ鴨田は、覗きと盗撮の常習犯だつた。鴨田は千影に様々なターゲットの、色々な情事を見せる。
 華沢レモンは、千影の親友で結婚三年目の人妻・森谷由季。回想パートのみ登場の風間今日子は、鴨田先輩の未亡人・木村敏江。鴨田がクマさんの縫ひぐるみに仕込みセッティングしたカメラの前で敏江が戯れる、素性は全く語られない相手とのテレフォン・セックス。椅子に座り自慰に溺れる敏江を足下から狙ふ構図が、とんでもなくダイナミックかつ扇情的。どうしても濡れ場が綺麗に、可愛らしくなりがちな吉沢明歩に対して、格と馬力の違ひを風間今日子が見せつける。サーモン鮭山は、公園にて露出プレイに興じる由季の不倫相手・桐山宗太。柳東史が、由季と桐山の野外プレイを、冷やかしに現れるホームレスで再登場。坂入正三は、冒頭編集部に出入りする支那人風味の出前持ち。なかみつせいじは、千影行きつけのバーにしては騒がし過ぎる店のバーテン。カウンターにお替りを貰ひに来る丘尚輝は楽勝で確認出来る一方、ここで松浦祐也も、フロアで尻を出して踊つてゐる男―何だそりや―でクレジットは無いまゝに見切れてゐるらしいが、その件の画面全体が暗いのと、プロジェク太上映による画質の切なさとに阻まれ確認出来ず。
 ヒロインが熟練マニアの指南を受け、女とエロマンガ家の両方向に開花する。竹洞哲也のデビュー作は、さういふ如何にもピンク映画らしい物語を一見あまりにも気負ひを感じさせずに、うつかりすると右から左に流れ過ぎて行きかねない淀みなさで観させる。ところが、とはいへ流石といふべきか。中盤から終盤にかけてのさりげなくも映画の勘所の押さへ具合には、竹洞哲也も小松公典も、以降の快進撃を大いに予感させる力強い輝きを放つ。“二面性”といふキー・ワードは文言だけでさほど活きて来る訳ではないが、ひたむきな千影の姿を前に、鴨田の視線が次第に変化する様子は青春映画の鉄板演出として強い力を持つ。可愛いのは確かに間違ひなく可愛い反面、如何せんお芝居が軽い吉沢明歩を個々の一幕一幕のみならず、展開全体でリードする竹本泰志が頼もしい。鴨田の視点の変化が地味ながら確かなエモーションを喚起するのと同時に、全く意外であつた、ラストの爽やかな一オチに果たす帰結の磐石さも素晴らしい。締めの濡れ場もそこに主演女優の濡れ場があることと、それが主演女優の濡れ場であること両面に超絶の蓋然性を誇る。なほかつ、単なる肉の交はりを描くに止(とど)まらず、肉の交はりを描きつつそれを全く損なふでなく挿み込まれる変則的な状況を説明する描写が、絡み合ふ千影が流す目線も鴨田の正しく凝視も、クライマックスに相応しい映画的緊張度を湛へる。己の節穴を悪びれもせず率直にいへば、五年ぶりに再見したラスト・スパートの麗しい竹洞哲也の初陣は、初陣にして既にここまでの完成度に達してゐたのかと、驚かされすらした一作であつた。

 とこ、ろで。松浦祐也のブログの中に、今作に触れて“カメラマン紀野氏”なる記述が見られる。と、なると。清水正二が志賀葉一と同一人物であるのと同様、創優和といふのは、紀野正人の変名なのであらう。


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 「三十路痴女たち 浮気妻・セレブ妻・恥ぢらひ妻」(1999『三十路同窓会 激しすぎる性欲』の2008年旧作改題版/製作:フィルムハウス/提供:Xces Film/監督:大門通/脚本:有馬仟世/企画:稲山悌二/プロデューサー:伍代俊介/撮影:天野健一/照明:藤塚正行/編集:金子尚樹《フィルムクラフト》/助監督:高田宝重/制作担当:真弓学/監督助手:高田亮/撮影助手:鷹沢幸一/撮影助手:蛯原勇/照明助手:中島展貴/ヘアーメイク:阿久津裕子/スチール:松本誠/録音:シネキャビン/現像:東映化学/出演:佐藤都・吉行由実・村上ゆう・柳東史・吉田祐健・飯島大介)。
 久方ぶりの同窓会で勢揃ひした、友美(佐藤)・館野美紀(吉行)・西村春江(村上)の仲良しトリオ。三人だけで茶を飲む席、藪から棒に美紀が、友美に頼み事を切り出す。勤めてゐた証券会社をリストラされ半年近く無職の夫・伸夫(柳)を、雇つては貰へまいかといふのだ。友美は、輸入衣料雑貨を扱ふ「フルフルロード」の経営者であつた。どうでもいいけど、そのヘナチョコな社名はもう少し何とかならなかつたものか。一旦茶を濁しつつ、伸夫が待つてゐるといふので先に席を立つた美紀を、友美と春江は一転憎々しげに見やる。学生時代、伸夫は三人にとつて共通の憧れの的であつた。自分達を抜け駆けし伸夫を掠め取つた美紀を、友美と春江は実はこの期に快く思つてはゐなかつたのだ。吉行由実が退場し、佐藤都にはそこまでの演技力は伴はないものの、村上ゆうが正しく手の平を返すかの如く表情を変へる瞬間が、実にリアル。ただここで惜しむらくは、村上ゆうのアフレコが別人である点。ならばアテてゐるのが誰なのかといふと、掴めさうで微妙に判らなかつた。村上ゆうは声の張りや台詞回しにも魅力のある女優さんだけに、非常に惜しい。春江の夫は、フルフルロードが融資を受ける信用金庫の支店長(飯島)であつた。友美は春江に追加融資の根回しを頼む一方、伸夫を手に入れると同時に、美紀に復讐する姦計を巡らせる。俗物のビートを爆裂させる吉田祐健は、最終的には友美の肉体を狙つて金を貸す、街金の長谷川。
 とか何とか雇つて貰へるといふのでフルフルロードを訪ねた伸夫を、友美が身体検査と称し逆手篭めにしては、接待係として春江の下へも遣はせる。西村が友美の肉体に飽きて来ると、今度は強引に言ひ包めて美紀を西村に差し出す。詰まるところは、たつたそれだけの物語でしかないといへばないのだが、一本の劇映画に絡みを盛り込むに際しての、セクハラに枕営業といふ方便の磐石さこそをここは讃へるべきであらう。最終的には勧善懲悪を綺麗に完成せしめてみせるところも、娯楽映画として素晴らしく据りが良い。スマートなだけに却つてサラッと観流しかねないが、クライマックスへの主演女優の濡れ場の持つて行き方は、惚れ惚れさせられるほどに完璧。三本柱に不美人といふ穴が開いてゐないラックに加へ、柳東史・吉田祐健そして飯島大介と、俳優部の頑丈さも光る。何といふこともないまゝに、なほのこと上手く纏め上げられた匠の一品である。兎にも角にも、薄い服地を悩ましくボガンと盛り上げる、吉行由実のオッパイの膨らみだけで少々の映画でも何はともあれ合格。それをいつてしまつては、実も蓋もないやうな気がしなくもないが。

 ところで新題に関して、ランダムな順序には目を瞑ると浮気妻といふのは春江で、恥ぢらひ妻は美紀を指すか。会社社長といふので友美がセレブである点に間違ひはないにせよ、とりあへず、友美も既婚者であるといふ描写は一欠片たりとて見当たらない件。


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 「欲情バスガイド 揺れる生尻」(2005『新人バスガイド くはへ上手な唇』の2008年旧作改題版/製作:加藤映像工房/提供:オーピー映画/監督:加藤義一/脚本:岡輝男/撮影:創優和/照明:野田友行/助監督:竹洞♀哲也/監督助手:山川たまこ/照明助手:吉田雄三/音楽:レインボーサウンド/効果:梅沢身知子/衣装協力:キャンディ・ミルキィ/タイトル:阿佐ヶ谷兄弟舎/出演:KAEDE・山口玲子・水原香菜恵・石川雄也・松浦祐也・丘尚輝・なかみつせいじ・松田正信・風間今日子・サーモン鮭山)。出演者中、松田正信と風間今日子は ポスターのみ、これは珍しいパターンだ。サーモン鮭山は、ポスター・本篇クレジットとも両方記載されず。撮影助手を拾ひ損ねる。
 ロイヤルクラウン観光新人バスガイドの深沢恭子(KAEDE)は、勤務中に事故死した姉・姫子(当然KAEDEの二役)の遺志を継ぎ、同じ会社でのバスガイドの道を志す。ところが恭子には、バスガイドとして致命的な弱点があつた、車酔ひしてしまふのだ、物凄く駄目ぢやん。けふも、スカートの中を盗撮してもゐた乗客(サーモン)に粗相してしまつた恭子は、右目の下に泣き黒子のある女性的な観光部長・高清水透(丘)のお目玉を喰らふ。そこから、セクハラも気前よく通り越した陵辱仕置きを受けてしまふのは、恭子の清々しい妄想オチ。一応画面をソフト・フォーカスにして明確な差異を設けておいて呉れる辺りが、加藤義一と関根和美との違ひだ。といふか、極々一般的なメソッドでしかないのだが。松田正信と風間今日子は冒頭登場する、置き去りにされるカップル乗客。
 運転手の原田英雄(なかみつ)からは温かく見守れながら、翌日の修学旅行高校生のガイドを控へ予習に励む恭子を、先輩ガイドの中戸彩(山口)が訪ねる。彩は恭子に車酔ひに効くと称して錠剤を手渡すが、実はそれは下剤であつた。恭子を押し退け、ピチピチの男子高校生をあはよくば頂いてしまはうといふ、彩の卑劣な策略であつたのだ。体調を崩した恭子に代り修学旅行生のバスに乗つた彩は、イケメンの浅香健(松浦)をロック・オンする。松浦祐也が悪ノリすることもなく澄ましてゐると、意外な程に男前だ、白土勝功と見紛つた。結局、浅香とのお痛が他の生徒にも露見してしまつた彩が車内で輪姦されるシークエンスに際しては、走行中のバス―今回加藤義一は、実車を借り切つて今作に挑む―の後部ガラスに山口玲子が自慢の爆乳を押しつける画を、後続する車から押さへるといふ大胆かつ大掛かりなショットも見せる。
 最終的には何の目的で日本に来てゐたのかよく判らない、某国王位継承者のオレンジ王子(石川)が、左目の下に泣き黒子のある女性的なお目付け役の目を盗み窮屈な滞在中のホテルから脱け出す。自分と同じ名前の店に迷ひ込んだオレンジ王子が、金を持つてゐることを察知した店のママ・根本春子(水原)は、女王様に扮すると王子を喰ひ、有り金を巻き上げる。女王様ver.の春子がオレンジ王子を虐げる一幕では、同年山内大輔の「女子寮の好色親爺」でも爆裂した、激弾きジューズ・ハープが使用される。春子の店を放り出され一文無しで夜の東京を彷徨ふ王子は、ロイヤルクラウンとボディーに書かれたバスを迎へと勘違ひし、恭子がガイドを練習中のバスに乗り込む。
 と、ここまで起・承・転まで連ねておいたところで、ここからそこかしこに敷設済みの伏線も踏まへイイお話としてグイッと畳んでみせる、実に構成の綺麗な娯楽映画。彩×浅香の承部が全体から独立してゐる、といふか孤立した感もなきにしもあらずといへる為、結部の展開が出し抜けな力技に思へなくもないものの、山口玲子のオッパイは、それは拝みたいに決まつてゐるぢやないか!といふことに、ひとまづはしてしまへ。バジェットにも屈し全く形にはなつてゐないが、バス爆走といふガジェットが盛り込まれてゐる辺りにも、王道娯楽映画への志向は明確に看て取れる。何がどう転んだのか生き別れてゐた兄弟が再会するといふ件は、正直完全無欠に消化不足でもあるが。濡れ場の煽情性も地味に何れも高く、殊更に胸を打ち震へさせられるといふことも別にないが、頭に“高”のつく水準作である。

 ラスト・カット、依然車酔ひ体質を克服出来てゐない恭子が、相変らずスカートの中を盗撮されつつ粗相してしまふ壮年客は、世を忍ぶ仮の姿の“御大”キャンディ・ミルキィ、幼女時代の姫子・恭子姉妹の子役は不明。浅香篇に於いても、もう四、五名の男子高校生役が登場する。それにつけても、キャンディ・ミルキィが協力した衣装といふのが、何を指すものなのかも全く判らない。バスガイド衣装にしても、御大が御自身でお召しあそばす前提のものだと、凡そサイズが合ふまい。


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 「食堂のお姉さん 淫乱にじみ汁」(2004/製作:多呂プロ/提供:オーピー映画/監督:荒木太郎/脚本:三上紗恵子/原題:『英雄ポロネーズ』/撮影:飯岡聖英/編集:酒井正次/録音:シネキャビン・小林徹哉/助監督:田中康文/演出助手:三上紗恵子/撮影助手:田宮健彦・宇野寛之/制作協力:金杉剛/協力:UP LINK/出演:麻田真夕・風間今日子・本田まゆこ《新人》・鈴木ぬりえ・吉岡睦雄・綺羅一馬・松田信行・内山太郎・滝川鯉之助、他)。出演者中本田まゆこの(新人)と、内山太郎以降―もう二名拾ひ損ねる―は本篇クレジットのみ。
 定食屋を営むK子(麻田)が、糠漬けをつけながら頬張るショットにて開巻。ひとまづ彼氏の祥一(松田)との濡れ場に際しても、平素あまり食さないもので種類は判らぬが、K子は果物にむしやぶりついてはみせる。荒木太郎がそこにK子の、生なり性の逞しさを込めたかつたのであらう意図が酌めぬではないものの、画としてはいまひとつ汚くなつてしまつてゐるところは大いに惜しい。生も性も、それは綺麗事ではないといつてしまへばなからうが、あくまでここは極々私的な偏好にも止(とど)まるが、美しくないものなど、今既にあるありのままの現実で十分だ、小生はさう思ふ。小生はさう思つて、小屋で映画を観てゐる。薄汚れた小屋にて、美しい映画を願つて。
 綺羅一馬と本田まゆこは、店の表を羽掃いてゐたK子が追ひ駆け取押へた引つたくりの野木と、引つたくられた間抜けな被害者・チカ。そこの経緯は大胆に省略されつつ付き合ひ始めた二人は、仲良くK子の店に姿を現す。野木とチカの繋ぎ役ぶりは、今作中数少ない磐石。最近、内心そんな気がしながらプロジェク太上映の覚束ない画質に足を引かれ確証を持てなかつたが、今回この期に、綺羅一馬が現在の天川真澄であることを確認した。
 祥一からの誘ひは邪険に断つたK子は、郷里の山梨へ祖母の彼岸参りに帰る。例によつて8ミリによる回想シーンのK子少女といふか幼女時代は、淡島小鞠の名前はクレジットには見当たらなかつたが三上紗恵子。フィルム画質であつたならば何とかなつたのかも知れないが、祖母役は不明。同じショパンの「英雄ポロネーズ」を携帯の着信音に使つてゐたきつかけで、K子は女高生時代の先輩・R雄(吉岡)と不意に再会する。偶然、同じ着信音を使つてゐた男女が再会する、あるいは出会ふ。今時、何といふこともないシークエンスに過ぎないといつてしまへばそれまででもあるが、とかく徒に、もしくは淫らに偏向した我流に固執してばかりの荒木太郎なだけに、変に殊更に洗練されてあるやうにも映る。K子は当時R雄の弾くピアノの音色に心奪はれたものであつたが、R雄はK子に、ピアノは止めてしまつたと告げる。帰京後、野木とチカにハプニング・バーに連れられたK子は、そこでシンセを叩いてゐたのがR雄であることに驚愕する。
 風間今日子と鈴木ぬりえは、ハプニング・バーの重量級濡れ場要員。何処にあるんだこんな素敵なお店、UP LINKだから渋谷か。内山太郎以下四名は、K子の定食屋と、ハプニング・バーの客を兼任か。荒木太郎も、自ら定食屋に見切れると何時もカツ丼を注文する。K子からかけた電話を奪ひ取る祥一の二股女の声は、多分三上紗恵子。
 少女時代に美しいピアノで心ときめかせて呉れた憧れのあの人は、今は場末の如何はしい店で、破廉恥客相手にノイズ・ミュージックを演奏してゐた、とかいふ一篇。風間今日子とセクロスしながらシンセを叩くR雄に対し、「私には、もう弾いて呉れないの!?」と棒立ちのK子が叫ぶ工夫の欠片もないその場面自体も相当にお粗末も通り越して酷いのだが、その点はあへて一旦さて措くにしても、その件は、起承転結でいへばあくまで転部に止まる筈だ。書いてしまふがそこから先が、K子がR雄に叫ぶ件のダサさに火に油を注いで頂けない。といふか、殆ど形すら成してゐない。失意に沈むK子の店に、R雄がカツ丼を食べに来る。カツ丼も全く食べ終らぬ内に、二人でピアノを弾いてゐたところから展開される恐らく一度きりの情交の回想。回想明け再び現在、かつて山梨を旅立つR雄にK子が贈つた陰毛のお守りを、出し抜けに浴衣姿のK子が見守る中、R雄が川に流す短いカットがラスト・シーン。だなどといふ次第は、幾ら何でもあまりにもぞんざいで、物語がまるで成立してゐない。山村を舞台とした山梨篇の情緒は、ロケーションを活かしたロング・ショットも強力に悪くはないのだが、そこに、といふかそれだけに観客が騙されるか否かなどといふ幸運に頼るほかもないやうな作劇は、世辞にも褒められたものではなからう。締めのK子とR雄の回想の絡みも、奏でられるピアノを呼び水としたロマンティックな思ひ出にしては、情熱的といへば聞こえもいいが、少々互ひの体を熱烈に貪り過ぎてもゐまいか。最終的には主たるドラマが一切展開される訳でもない以上、K子が“食堂のお姉さん”であることに清々しく特に意味もなく、詰まるところは一言で片付けるならば、未完成感の色濃い、ちぐはぐな一作といへよう、二言ではないか。

 K子が洒落たマッチ箱に入れた陰毛をお守りとして手渡してのR雄の旅立ちを、兵士の出征に明確に重ね合はせる演出は、ベルの合図で噛みつかれる無駄な面倒臭さを回避しようと思へば、危ふきには近寄らない方が賢明であるやも知れぬ。


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 「三匹の奴隷」(2009/製作・配給:新東宝映画/監督:佐藤吏/脚本:金村英明/企画:福俵満/撮影:小山田勝治/照明:ガッツ/音楽:大場一魅/編集:酒井正次/録音:シネキャビン/助監督:江尻大/スチール:津田一郎/監督助手:小森俊兵・小林文香/撮影助手:藤田朋生/照明助手:岡田佳樹/編集助手:鷹野朋子/ヘアメイク:ユー・ケファ/緊縛師:風見蘭喜/応援:田中康文・冨田大策/現像:東映ラボ・テック/協力:熊谷大地・佐々木基子・宮地良平・レジェンドピクチャーズ・三和出版《マニア倶楽部》・フルフォレスト・小川隆史/出演:友田真希・真咲南朋・亜紗美・なかみつせいじ・黒木みらい・柳東史・那波隆史)。
 一人娘(子役登場せず)の社会的性格に難があるだとかで、島村奈津子(友田)は弟か妹をとも考へたが、夫(なかみつ)にはその気はなかつた。島村はひとまづ、娘のために可愛いパンダさんの縫ひぐるみを買つて帰る。翌日島村が、大切な客だと梶原(那波)を家に招く。“先生” とすら呼びすつかり心酔してゐる風の島村に対し、奈津子は粗野で得体の知れない梶原を警戒する。黙つてゐればまだ形にならなくもないのだが、那波隆史の、西岡秀記に劣るとも勝らないヘタクソな関西弁はお粗末どころの騒ぎではない。脚本上の設定がさういふことになつてゐたのかも知れないが、斯くも起爆装置の明白な地雷を、回避しない神経は到底理解出来ぬ。寝静まつた奈津子を、梶原が襲ふ。梶原は、妻のM性を感知した島村が、調教して貰ふ目的で連れて来た縄師であつたのだ。寝巻きの上から縄を掛け、乳を放り出す程度のほんの触り程度の責めで奈津子はコロッと開花し、梶原の仕事は終る。人の気配を感じた梶原が廊下に出ると、そこにはパンダさんが落ちてゐた。M女として開眼したものの、島村の責めには満足出来なかつた奈津子は、やがて忍んで梶原の下に通ふやうになる。奈津子を持て余した梶原は、奈津子の願ひに乗り鈍行列車での当てもない旅に出る。辿り着いた心寂しい海岸で全裸緊縛された奈津子は、この世の果てを感じる。
 奈津子篇と同様、冒頭にクレジットで明示される詠美篇。社内では攻撃的な女王様然として振舞ふ詠美(真咲)は、実は梶原の調教を苛烈に恋焦がれるM女であつた。観るのも三作目―しかも何れも三番手―につき確実な自信は持てないが、どうも真咲南朋のアフレコは、別人がアテてゐるやうに聞こえる。本性も見抜けずに自らに入れ揚げる部長(柳)を、詠美は嘲笑する。自分以外の奴隷の存在の気配に気が気ではない詠美は、無断で誂へてゐた合鍵で梶原の留守宅に忍び込んでみる。案の定、ほどなく始まつた梶原と愛奴とのプレイに詠美は押入れの中で固唾を呑むが、女は、簡単に譬へるとゴン太くんと同じ体型をした肉塊(黒木)であつた。腹立ちよりも滑稽さが先に立つた詠美の、百年の恋も醒める。おぞましいものを見せるな、といふのは私的な嗜好に左右される領域での議論でもあるので一旦は強ひてさて措くが、さて措けないのは、食事の支度をしてゐたところに押しかけて来た詠美を、梶原が渋々ながらに調教する件。食ひかけの素麺の鉢の中に、小用を足させるなどといふのは全く頂けない。食ひ物を粗末にするなアホンダラといふことに加へ、失禁寸前にまで催した状態での尿が、斯様な小さな容器の中に入りきるものか。全方位的に言語道断、許し難い。新田栄や岡輝男やサカエ企画に鍛へられ、少々では心を乱されぬつもりではあつたものだが、これにはピンク映画を観てゐて久し振りに本気で腹が立つた。
 そして亜紀篇、自宅に呼んだSM嬢・亜紀(亜紗美)の力任せに打ちつけるばかりの責めを、梶原は見透かす。実はオーナーからの依頼を受けてゐた梶原は、亜紀を調教する。梶原の見抜いた通りに、亜紀にはM女の資質があつた。
 正直、笑へない肉襦袢の大オチのほかにはさして見るべきところもない、より直截にいふならば不要に思へなくもない詠美篇を通過して漸く、亜紀篇に於いて映画が何某かの結実を果たす。特に明確なテーマが語られるでなければ、別にドラマティックな展開が設けられてゐる訳でもないのだが、専ら亜紗美の手柄で、断片的に思へた劇中世界が連結される強度が味はへる。その連関には清々しく、詠美篇は一欠片も関係ありはしないのだが。依然表情の乏しい友田真希の演技力は心許ないまゝに、その割に奈津子篇には尺の凡そ半分が費やされる、詠美篇はなければないで別に構はない。さういふ二篇を通過した上で、要は溜めに溜めた状態から振り抜かれる亜紀篇にはフィニッシュ・ホールドたる決定力が溢れ、その限りに於いては、よく出来たプロレスの試合にも似た構成の見事さを称へることも出来よう。とはいへ那波隆史のヘッポコ関西弁と素麺の上への排尿を減点材料として差し引くと、昨今新東宝の新作製作本数が激減して―減つてゐる点だけならば、エクセスも同様だが―ゐる中では、矢張り物足りなさを残しもする。直接的なSM描写に関しても、オムニバス構成に踏み込みが妨げられるのにも足を引かれ、特筆すべき点は見当たらない。

 この期に及ぶにもほどがある付記< 真咲南朋のアフレコの主は、XYZ様の御指摘通り佐々木基子。


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