真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「わるいをんな」(2015/製作:新東宝映画株式会社・レオーネ/配給:新東宝映画/監督・脚本:城定夫/企画:衣川仲人《新東宝映画株式会社》/製作:獅子奮迅《レオーネ》/プロデューサー:獅子奮迅《Production Lenny》/ラインプロデューサー:羽根誠《Production Lenny》/撮影・照明:創優和/録音:鬼脚音二郎/助監督:伊藤一平/編集:城定夫/ヘアメイク:化粧師AYUMO/スチール:高橋卓也/監督助手:奥本裕也/撮影助手:坂村多緒/メイキング:相羽誠聡/制作プロダクション:Production Lenny/出演:めぐり・稲森誠・淺野潤一郎・佐藤良洋・金光仁三・辻和朗・岡本五月)。撮影部セカンドの酒村でなく坂村多緒は、本篇クレジットママ。
 “実話に基づく物語”らしい、200X年初冬の片田舎。地主の何とか島寛太(稲森)が朝食の支度、をしてゐるといふのに、嫁の麻衣(めぐり)は床の中で通販カタログをめくり起きて来ない。起こしに来た寛太を、麻衣は不順の生理が重いと偽る。仕方なさげに寛太は野良仕事に、再び麻衣が通販カタログに喰ひつくとどぎつい大書のタイトル・イン。通販で買つた洋服を届けに来た、二度ベルを鳴らしはしない郵便配達・隆志(佐藤)を麻衣は何時ものやうに家に上げる。一方、全体全部で何人ゐるのか、この人らも穴兄弟の木島(金光)と佐竹(辻)が麻衣の話に花を咲かせるところに、知らぬは亭主ばかりなりな寛太が通りがかり、二人は肝を冷やす。正にボイーンとした迫力が火を噴くめぐりの対佐藤良洋戦と、反面拒む夫婦生活挿んで、麻衣との浮気を知り激怒した木島の妻・芳子(岡本)が、出刃を逆手に木島を追ひ駆け回す派手な刃傷沙汰を止めに入つた寛太は、遂に女房の不貞を知る。体格差を活かしたマウントが得意技、尋常でない戦闘力で木島を病院送りにした寛太が恐々帰宅してみると、火に油を注ぐかの如く麻衣は佐竹と情事の真最中であつた。寛太は佐竹と、隆志も半殺しにする、兎に角このオッサンが諸々オッソロシク強い。その日以来、寛太が農作業中、麻衣は畑の傍らに停めた軽トラに事実上の軟禁。小水を偽り逃亡を図つてからといふもの、納屋の中に本格的に監禁されるやうになる。
 配役残り淺野潤一郎は、隣町で銃撃事件を起こし逃走中のヤクザ・三好哲也。
 前年八月公開の「桃木屋旅館騒動記」(2014/主演:西野翔)に続き地元駅前ロマンに着弾した、正月公開の城定秀夫新東宝第三作。尤も今作は、映画館で封切つたのではなくDVDリリースとBS放送が先行してゐる。二千万の借金を肩代りして貰ひ農家の嫁に入つたキャバ嬢が、結婚後も男に散財にと放埓な生活に耽り、発覚したとて一欠片も省みるなり改悛するでもなく、手放しの欲望のまゝ好くなくも悪くも突き進む。頭のネジが二三本カッ飛んだ確かに悪い女の物語で、ある意味ブレることのない麻衣の姿は清々しくはある。さうはいへ、要は押入れ屋根裏と来て、次は納屋かよといふツッコミが容易な―しかも屋根裏に酷似した―展開は、終始テローンと平板な画同様深みにもキレにも何もかんも欠き、あの城定秀夫が二作続けて、城定秀夫だからといつて殊更にワースカギャースカ騒ぐほど面白い訳でも全くない。恐ろしいのが、城定夫名義は伊達ではないらしく、何と今作は本当に一日で撮つてゐるらしい。恐らく、前作も同様かと思はれる。かといつて、一昔どころか三昔ばかり前のパンク・バンドのアルバム録音時間でもあるまいし、だからどうだといふ論調に、当方としては如何せん与し難い。私は別に、小屋に木戸銭を落として曲芸を観に来てゐる訳ではない。何処から突けばいいものやら途方に暮れつつ、一日撮り―且つクッソ低予算―であるといふのならば、それこそ城定秀夫の言葉を借りれば“人智を超えた数”下手な鉄砲を撃ち尽くして、結果スタージョン・ローを忠実に実証する、極々僅かな紛れ当たりをものにしたりしなかつたりしなかつたりしなk―以下果てしなく繰り返し―して呉れるやうでないと話が始まらない。幾らDVDリリースとBS放送を先行させた初めからの二番煎じとはいへ、新東宝が満を持して新年のスクリーンに載せた正月映画がこの様では何ともかんとも寂しい限り。あるいはといふか寧ろといふべきか、斯様にタイトなプロダクションの中で、量産型娯楽映画界が誇る若き至宝、乃至は最後かどうかは兎も角最強の切り札・城定秀夫が摩耗してしまふ弊を、そろそろだかとうにだかは一旦さて措き、心配する時期に入つてゐるのではなからうか。尤も小生には、焼け石にかける水にもならん身銭を切るくらゐしか出来ないのだけれど。

 もう一点、ポスターではめぐり(ex.藤浦めぐ)に関して、“映画初主演”の括弧特記。仮に撮影時期的には事実であるにせよ、あくまで劇場公開は今年の正月である以上、四十日強先んじた「新人巨乳 はさんで三発!」(2014/監督:加藤義一/脚本:城定秀夫)を想起するに、釈然としない違和感を覚えなくもない。

 元ネタ?を再見しての付記< これ要は、牽強付会気味に片付けると城定秀夫は師匠の「欲情夫人 恥づかしい性癖」(2000/脚本・監督:北沢幸雄/主演:上原めぐみ)をやらうとしてゐた訳ね。タイトなプロダクションに屈したか、主演女優のポテンシャル以外は欲情夫人に遠く及ばず。


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 「和風不倫人妻 恥さらしな下半身」(1995/製作:プロダクション鷹/提供:Xces Film/脚本・監督:珠瑠美/撮影:伊東英男/照明:石部肇/音楽:創映選曲/美術:衣恭介/編集:井上和夫/効果:協立音響/助監督:森満康巳/現像:東映化学/録音:ニューメグロスタジオ/出演:神代弓子《イヴ》・本城未織・栞野ありな・杉本まこと・太田始・樹かず)。別に大した意味もなからうけど、創映選曲てのは初めて見た。
 プールから舐めるミサト、庭木を弄る襟子(神代)に、夫の司良樹(杉本)が声をかける。休日にも関らず急な仕事とやらで自分で身支度した司を襟子は訝しみつつ、出がけに司は、義兄の佐田がまたこんな本を出したと襟子に封筒包みを渡して行く。司が捌け、襟子が新著を繙いてみると、中身は相変らず春画。珠瑠美といふ人には、ほかにモチーフの持ち合はせがないのかといふ実も蓋もない疑問は強ひて呑み込み、襟子がハッと息を飲むと宗教音楽風の劇伴が起動してタイトル・イン。襟子は襟子にとつても義兄の佐田健作(樹)に、犯された過去があつた。一方司はといふと案の定不倫の逢瀬、ところがお相手は予想外にも佐田の元嫁・マリ(本城未織/a.k.a.林田ちなみ/ex.新島えりか)。マリと司の関係が離婚事由でありながらなほかつ、目下も司が社長の会社と、写真家の佐田が仕事上の付き合ひも依然継続中だなどと、冷静に考へてみるとなかなか複雑怪奇な間柄ではある。襟子の佐田との回想第一戦、司とマリのミーツ挿んで佐田との回想第二戦、司とマリの現在時制とつらつら絡みを連ねた上で、テニス帰りの襟子に、佐田に遣はされた助手の辻野(太田)が接触する。
 配役残り栞野ありなは、襟子との密会と料亭に連れ出した佐田に、差し向けられる辻野の遊び相手、今でいふところのセフレ・ユキ。大概唐突な三番手の放り込みやうの割に、然程木に竹を接いだ風情も感じさせないのは、要は珠瑠美の映画が全篇素頓狂と無造作とに埋め尽くされてゐるからなのか。もう一人、サクッと現れて絶望的な診断を下す医師役は不明。
 小林悟1992年第二作「団地妻 喪服のけぞる」(脚本:鈴木和夫/主演:須磨れい子)の、1999年旧作改題版「喪服妻 恥ぢさらしな襦袢」DMM戦を契機に、タイトルの検索途中で見かけた恥さらし類作。類作といふか大御大のは新題で時期も今作の方が早い以上、こちらが元祖である。因みに“恥さらし”といふ用語を採用したピンクは案外存在しないらしく、jmdbには記載されてをらず、当方別館にも中村和愛第二作「美人女将のナマ足 奥までしたたる」(1997/主演:須藤あゆみ)の、2005年旧作改題版「美人女将の性欲 恥さらしのパンティー」くらゐしか見当たらない。
 映画本体は如何にといふとマリが自身と佐田・司の三角関係を語る説明台詞が、例によつてグジャグジャ無駄に勿体つけるばかりで端的に判り辛く、まるで用を成してゐないであるだとか、辻野が佐田から託つた手紙が、二三カットを跨ぐ内に司宛から襟子宛に変つてゐたりする辺りはチャーミングなへべれけさ。尤も、闇雲なイメージの挿入に映写事故スレスレの長尺フェード。選曲がフリーダム過ぎて劇伴どころか劇BANといつた趣の珠瑠美映画に特徴的な飛び道具は奇跡的に影を潜め、結果普通に面白くも何ともない、但し三本柱は堅いゆゑ、裸映画としては辛うじて安定した一作。低いのか高いのか高い訳がない筆ぶりではあれ、男優部三冠を華麗に達成するイヴちやんの濡れ場だけはひたすらてんこ盛り―逆に本城未織も栞野ありなも一度づつ―につき、神代弓子クラスタはとりあへず必見。とはいふものの小生も、暗い小屋で観てゐたら寝落ちない自信は必ずしもないけれど。兎も角あれよあれよと司も佐田も失墜、太田始といふ見るからにエネルギッシュで、もしかすると実際にモノのデカさうな間男を得た襟子が、何時の間にか一人高笑ふ適当で無体な結末はケッサクだ。


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 「女弁護士 揉ませて勝訴」(2015/製作:フリーク・アウト/提供:オーピー映画/監督・脚本:国沢☆実/撮影・照明・編集:Project LEM/録音:小林徹哉/助監督:後白河/スチール:本田あきら/整音:シネキャビン/効果:梅沢身知子/技術協力:東映ラボ・テック/照明応援:大久保礼司・広瀬寛巳/協力:小川隆史・江尻大・菊島稔章/出演:桃宮もも・美咲結衣・ほのか夢・前沢健太・秋間仙誉・村田頼俊・周摩要・生方哲・GON・東京JOE・中村勝則・紅森伐人・内藤忠司・白木努 、他二名・平川直大)。出演者中、周摩要から他二名までは本篇クレジットのみ。国沢☆実の星が、今回青く着色。
 強姦され、非常階段で泣いてゐる女子高生。足元には、大ぶりなサバイバル・ナイフ。現在時制、ぼんやりと信号を待つ女弁護士の疼夕子(桃宮)が、青になつたのにも気付かず後ろから歩を進める男に肩を小突かれる、なほも覚束ない夕子を抜いてタイトル・イン。無罪請負人の異名を誇る夕子が、高圧的な年下の女課長・田村沙織(美咲)を残業を命ぜられたオフィスにて強姦した容疑の、ダメダメ派遣社員の矢代修(平川)に接見。グジャグジャ惰弱に罪と自らの非を認める矢代に対し、キレた夕子は煙草を一服するや激昂する。強引な遣り口でレイプ事件被告人の無罪を勝ち取り続ける夕子に、疼法律事務所唯一の若い衆・須永正之(前沢)も困惑を隠せない中、夕子から和解を勧告された、沙織は夕子の火に油を注いでゐるやうにしか見えない態度に当然臍を曲げ、遂に公判突入。世間知らずぽい造形がハマリ役の検察官(村田)を相手に、夕子が容易な勝利を確信だか過信する一方、事件当日、外回りから帰社した際に現場を目撃してゐた倉持章(秋間)が、次回公判にて証言する証人として登場。さして慌てるでもなく、夕子は文字通りの姦計を巡らせる。
 配役残りほのか夢は、実は自身も高校時代赤マスクの謎の男に凌辱された過去を持つ、夕子のJKver.。清々しく似ても似つかぬ鋭角のキャスティングは気にしない気にしない、後々逆に映える。周摩要は、内藤忠司と東京JOEといふこちらは地味に似た二人を左右に従へた裁判長、紅森伐人が書記官、残りも―接見室込みで―刑務官に傍聴人の法廷要員。オーラスに際して漸く、傍聴席に見切れる国沢実が殆どウォーリー感覚。
 ここに来て元気が出て来た様子を窺はせる、国沢実の2015年第一作にしてデジタル初陣。拭ひきれない全般的な安普請をものともせず、攻守が目まぐるしく変る法廷戦は案外普通に見応へがある。最終的には舌の長さが足らず口跡の心許ない主演女優に、堂々とした中央突破を命ずる国沢実の果敢な演出は、近年にない充実と迫力とを感じさせる。近作の常連組・美咲結衣は全く変り映えはしないながら安定し、前沢健太は四戦目にして遮二無二な突進で初日を出した印象。基本脆弱な負け組に徹するかにみせて、要所要所で我等がナオヒーローこと平川直大が発露させる鋭い獣性は、カットの端々をギリギリ締め上げる。フィルム撮影・映写下で観てゐた場合逆に平板に映つたのかも知れないが、不可視のレベルで暗い画に頭を抱へさせられることも概ねなく、何より、法廷での豪快ファックといふ怒涛の見せ場を十二分に見せきつた上で、衝撃の真相込みの真のクライマックスに改めて突入する構成は、公開順にデジタル・オーピー第四弾にして、初めて十分延びた尺を有効に活かした満腹感が強い。そして、そこで一見儚げなほのか夢が力強く撃ち抜く、“戦つて”のメッセージ。前作のプリミティブな革命映画「特務課の女豹 からみつく陰謀」(撮影助手:高田宝重/主演:伊藤りな)で久方振りに再起動したのか、国沢実が力強く、面白い。何がどうスッ転んだのか外様も外様の榊英雄が新規参戦しいよいよ混沌とする戦況を、この期に及んで国沢実が制する明日を夢想してみるに、妙なワクワクが止まらない。


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 「喪服妻 恥ぢさらしな襦袢」(1992『団地妻 喪服のけぞる』の1999年旧作改題版/制作:シネマ アーク/提供:Xces Film/監督:小林悟/脚本:鈴木和夫/撮影:柳田友貴/照明:小野寺透/編集:フィルム・クラフト/助監督:青柳一夫/スチール:タナカスタジオ/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:須磨れい子・桜井あつみ・坂入正三・白戸正一・石神一・冴木直)。
 痴漢電車でもないのに別に不要な電車音と、団地夜景。但し、後々登場人物が暮らす団地よりも全然マンモスな別物件。弔問客が帰つた後、未だこの時点では遠くて特定不能な夫の遺影に正対した喪服妻の水原令子(須磨)は、貴方はもう私に何もして下さらないの?と語りかけるや自慰開戦。開巻即、電光石火でオッ始まる濡れ場が麗しい。ところが、手洗ひに入つてゐた亡夫の部下・井坂か伊坂か井阪か以下ry(白戸)が、未だ帰つてはゐなかつた。襖の隙間から覗く井坂の存在も令子は勿論知らず、嬌声にエコーが被さり、大きく仰け反つたストップ・モーションにタイトル・イン。クレジット起動と同時に飛び込んで来る遺影の主が、遂に正式に捕捉した高田宝重!“遂に”とは何事かといふと、一時期エクセス未亡人もので最初から死んでゐる旦那の遺影に、何故か高田宝重が準レギュラー感覚で頻出してゐた記憶がありつつ、別館を始めてからはどうしてだかお目にかゝれなかつたのだ。その場に飛び込んだ井坂は藪から棒な告白がてらザクザク手籠め、令子の抵抗もあれよあれよと解けて行く自堕落さは最早仕方ないにしても、令子の左手薬指に指輪が見当たらないのは、重要なディテールの欠損として頂けない。一方、事の最中に保険屋(坂入)が水原家に到着。サカショーは令子と井坂の情事を写真に撮り、高田宝重の保険金を手中に収める姦計を巡らせる。飛躍の大きなサカショーの悪巧みは兎も角、井坂同様襖の隙間から覗くサカショーの画が、ズルッと右にスライドする切れ味抜群の柳田スライダーが披露される。高田宝重の遺影に、秘技・柳田スライダー。それでお腹一杯になつてしまひかねないのは、絶対に俺がどうかしてる。
 配役残りトメの冴木直は、旦那と死別後早速令子に次の男が出来たと思しき風情に、聞き耳を立てやつかむお隣の中村夫人、石神一が寝てゐたところを叩きはしないが吹かれ起こされる亭主。以後継続する令子と井坂の関係を追ふサカショーに、中村夫人が接触。刑事を偽つたサカショーは、中村夫人を秘密協力隊員―後には秘密捜索隊―と抱き込み勿論肉体的にも抱く。それにしても秘密協力隊だ捜索隊てのは何なんだ、子供映画ぢやないんだからよ。気を取り直して桜井あつみは、中村夫人が目撃した井坂の不倫相手・谷口百合。百合も令子・中村と同じ団地に住み、なほかつ百合の夫の勤務先が、高田宝重・井坂と同じ会社だなどといふ無造作な世間の狭さが堪らない、社宅かよ。
 ピンク十三本と更に薔薇族五本、恐ろしい勢ひで撮りまくつてゐた1992年小林悟の第二作。エクセスライクと草を生やすほどでもない主演女優はそこそこ以上の色気もあるものの、出番はといふと濡れ場ばかりで、始終はサカショーと冴木直が勝手に牽引する。令子絡みで井坂に恐喝した二百万を、サカショーは何故か百合にしかも水原家に持つて来させる。サカショーが絡み三冠を達成する三番手の捻じ込みぶりも大概強引なのだが、些末は気にしない、あるいはリミット・ブレイクな量産態勢の中で気にしてゐられなかつたのか、兎にも角にもテンポだけは妙に好調にザクザク見させる高速裸映画。とでもしか評しやうのない大御大仕事、サカショーのトレンチ姿はちよつとだけカッコいいかも。結局、高田宝重の命の値段の三千万を最終的には中村夫人がカッ浚ふ一捻りは気が利いてゐなくもなかつたのかも知れないが、気付いたサカショーが吠え面かくでもなく令子との締めの濡れ場で振り逃げる結末は、矢張り劇映画的には底が抜けてゐる。ラスト・ショットは後輩位のフィニッシュ、手前から片乳肌蹴た須磨れい子と、背後から突くサカショー。更に後方の高田宝重の遺影がサカショーの右腕で隠れてゐるのは画竜点睛を欠いた感もすれ、そこは矢張り隠したと解するのが相当なのであらうか。この辺りが微妙に難しく、案外絡みの構図には拘る新田栄ならば意図的に隠したものと推定して構はないところなのだが、何せ大御大・小林悟と大先生・柳田友貴だからなあ(´・ω・`)


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 「熟女ラーメン おつゆは熱々」(2014/制作:《有》大敬オフィス/提供:オーピー映画/脚本・監督:清水大敬/撮影:井上明夫/照明:小川満/音楽:清水大敬/録音:シネキャビン/編集:酒井正次/助監督:関谷和樹/撮影助手:宮原かおり/照明助手:福地賢治/演出助手:西谷雄一・原口大輝・田原賢治/制作:大海昇造/出演:加山なつこ・竹本泰志・柳東史・なかみつせいじ・若林立夫・野村貴浩・清水大敬・青山真希・倖田李梨《特別出演》・岩切武彦・生方哲・中村勝則・高木高一郎・周磨ッ波、その他大勢・香西咲)。出演者中清水大敬と岩切武彦、周磨ッ波とその他大勢は本篇クレジットのみ。
 美味しさうな醤油ラーメンを作る行程と、常時五人で詰めかける常連客(生方哲・中村勝則・周磨ッ波ら五名)。ヤクザ上がりの加山武(竹本)と、妻のなつこ(華麗にハーセルフ)が切り盛りするラーメン店(ロケ先は田無の中国飯荘山城)。汁まで飲み干すやう強要する武に完食する常連客、なつこが礼を述べタイトル・イン。明けての夫婦生活、完成された繋ぎが麗しい。事後、武の元兄弟分・沢木の名を口に出すなつこを、武は遮る。元々武は沢木(柳)に誘はれ加藤組の盃を貰つたものだつたが、関西の大組織との負け戦を前に、沢木は組を捨てる。武も沢木の勧めに渋々従ひ、家族が居ることもありラーメン屋に足を洗つたものの、元舎弟の山川(若林)が、親分が殺されたと飛び込んで来る。激昂した武は手放してはゐなかつたチャカを取り出し、娘・咲の寝顔(子役?)を見納める。見納めた十二年後、が劇中現在時制。シレッと序盤を丸々回想に費やす、大胆な構成には結構吃驚した。
 配役残り何と清水大敬アテレコのなかみつせいじは、咲が所属する芸能事務所社長、兼なつこ公認の恋人でもある石田。ティラリラリンとポップな美人のSEとともに登場する香西咲が、女優を目指すハーセルフ。目下草鞋を脱ぐ山川と倖田李梨、その他十人前後が見切れる沢木の事務所に、現れる青山真希(ex.逢崎みゆ)は沢木の正妻か情婦なのか微妙な明美。なかみつせいじに声をアテた結果誰が声をアテてゐるのか不明な清水大敬は、咲がオーディションを受ける「奈落の愛獣」監督、野村貴浩が清水組助監督で自身の監督作の主演に咲を見初める山口。全体何者なのか、俳優部正規部隊以外で一人クレジットの号数が大きい岩切武彦は、仮出所した武を山川と迎へに行く馬鹿に不遜な運転手。
 「熟妻交尾 下心のある老人」(2006/監督:新田栄/脚本:岡輝男)以来八年ぶりのピンク映画復帰といふだけで既に十分なのに、「美巨乳・はさみこむ」(1994/監督:川井健二=関根和美/脚本:乃武良=佐々木乃武良)とピンク次作以来何と二十年ぶりの大蔵帰還といふ加山なつこを主演に擁した、デジエク二本を経ての清水大敬大蔵里帰り作。外堀的には流石に加山なつこのトピックがデカ過ぎて、デジエクの火蓋を切つた清水大敬の新日本映像出稼ぎも霞まうといふもの。
 映画本丸に関しては、なかみつせいじの声をある意味選りにも選つて清水大敬がアテる爆裂する違和感が、面白いといへば確かに面白いけれどもあくまでそれは枝葉に属する事柄。幹の部分で興味深いのが、清水大敬がかつてのカサベテしてた頃の比類ない破壊力には流石に及ばずとも、それなりに気を吐く、もとい仕出かしてゐたデジエクを経て、監督デビュー十六年にして漸く辿り着いた、2012年第一作「巨乳理髪店 乱れ揉みくちや」(主演:中居ちはる)以降の一応王道娯楽映画路線に再び回帰してみせてゐる点。武と沢木の男同士の激突、咲と石田のロマンス、そして仁義を通した結果家族を犠牲にした格好の、武と妻娘の愛憎。諸々定番の要素を詰め込んだドラマは、かといつて類型的かつ詰めの甘い展開に終始。竹本泰志と柳東史といふ現代ピンク最強の組み合はせに支へられ、俳優部主導で単独走行可能な武と沢木の義兄弟パートを除けば、特段ワーキャー騒ぐほどのこともない。殊に、幸せの黄色いハンカチばりの浅草仲見世の提灯なる必殺ギミックまで持ち出しておきながら、逡巡するところから咲が首を縦に振るに至る過程を丸々オミットしてのける豪快作劇には、随分おとなしくなつたとはいへ、それでも今なほ清水大敬だと一昨日に感心した。最終的に映画を救ふ今作の切り札は、全編を通し端々で放り込まれる本当に美味しさうな醤油ラーメン。武と沢木がラーメンの汁と同時にわだかまりも飲み干し、大団円に雪崩れ込むラストはさう振り返ると大雑把にも思へ、実際の感触は案外盤石。豚骨ではあれ現に小屋の帰りに食べて来たのだが、ラーメンを食べたい気分にさせただけでも十二分に成功といへるのではなからうか。食欲誘ふラーメンの香り漂ふ賑々しい正調下町人情譚で、群雄割拠する中清水大敬が地味に存在感を示す。


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 「痴漢温泉 変態露天風呂」(1993『痴漢と覗き -盗撮女湯-』の1999年旧作改題版/製作:新映企画株式会社/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:夏季忍/企画:伊能竜/撮影:千葉幸男/照明:渡波洋行/編集:酒井正次/助監督:広瀬寛巳/監督助手:長谷健一/撮影助手:佐久間栄一/照明助手:新井克夫/メーク:岡本佳代子/スチール:田中スタジオ/効果:時田グループ/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:児島理乃・芹沢里緒・月岡雪乃・野沢明宏・石神一・久須美欽一)。企画の伊能竜は向井寛の、脚本の夏季忍は久須美欽一の変名。
 七沢温泉の現存する温泉旅館、その名も七沢荘の表を抜いて、露天風呂女湯「子宝の湯」。茂みに潜んで覗く久須りんの目を挿み、観音様を洗ふ主演女優にタイトル・イン。一旦気付かれかけつつ、お見合ツアーの添乗員・良介(久須美)は出歯亀を堪能、柔らかげに膨らんだツアー参加者・片桐礼子(児島)のオッパイが素晴らしい。一方、同じく西田(野沢)と芹沢里緒がカップル形成、捌ける二人の後を標的を変更した良介が追ふ。狐と狸の化かし合ひ、医者と令嬢と偽る西田と芹沢里緒の青姦も良介はスネーク、クンニする西田が芹沢里緒の股座に顔を埋める隙に、オッパイに手を出す大胆な荒業を敢行する。風呂上がりの礼子は、月岡雪乃と秘かにお目当ての林(石神)と、誰なのか完全に判らない若い男―七沢荘動員かも―が歓談する様子に、蚊帳の外感を拗らせる。
 新田栄1993年第一作は新版公開に際しての二次系でもなければ余所が勝手に看板を拝借した傍流でもない、純正「痴漢と覗き」シリーズの全十三作中第十一作。時期的な障壁にも阻まれ、何のかんのいひながら純正は観るなり見てゐるのが今作で五本目でしかなく、現状残る八本もDMMピンク映画chに見当たらない。映画の中身はシリーズ中珍しく、久須りんが覗きだけでなく痴漢もクリアするのはいいとして、物語らしい物語が起動することもないまゝに、ひたすら絡みを連ねる逆説的なストイシズムに終始。互ひにツアー敗戦模様の礼子と林が、礼子から混浴に誘ふ超大胆アタックで結ばれる一方、こちらも双方西田に騙された二番手と三番手が意気投合。当然良介が覗く、礼子と林が致す子宝の湯に遅れて現れた芹沢里緒と月岡雪乃が、二人に負けてゐられないとばかり出し抜けに百合を開花させるのはシークエンスとしては無茶苦茶ながら、三本柱の濡れ場を一堂に揃へたラスト・ショットはそれでも圧倒的に正しい。誠腰の据わつた裸映画ぶりが、万事を些末と捻じ伏せる。

 但し一点、藪から棒に旧題に紛れ込む盗撮要素は、一欠片たりとて見当たらず。劇中誰一人カメラを手にするカットすらないし、この時代、未だ携帯電話に撮影機能は実装されてゐない。


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 「超アブノーマルSEX 変態まみれ」(1993/製作:Heaven/配給:新東宝映画/監督:安藤尋/脚本:加藤正人/企画:田中岩夫/製作:廣木隆一/撮影:佐藤和人/照明:金子高志・今泉尚/編集:菊池純一/音楽:John Zorn/助監督:梶野考/キャスティング:石岡正人/演出助手:吉武秀敏・進藤良彦/撮影助手:柳田裕男・寺田緑郎/編集助手:片貝智恵/スチール:石原宏一/衣装:相崎晶玉/現像:東映化学/協力[五十音順]:池訓和・小田口浩史・貝原正行・高橋由香利・高原秀和・坪井美雪・富岡忠文・花山信大・福岡芳穂・福田正夫・横井健司 ナガオカ世田谷スタジオ 03~3336~5193/出演:石原ゆり・八萩純・森山美麗・千田浩・水上岳志・佐野和宏[特別出演]・伊藤裕作・征木愛造・仲野茂)。
 画面一面を覆ふ赤いカーテンにクレジット開巻、カメラが緩やかにパンした先は口は赤い布でふさがれ、全身はユルユルに緊縛された―自縛と思はれる―石原ゆり。見開く石原ゆりの目元と、セルフのビデオカメラを抜くと粗い石原ゆりのビデオ画面が砂嵐に変りタイトル・イン。第1大久保架道橋ガード下、カメラマンの坂口(仲野)が、佐野和宏から「私の志集」と称した小冊子を数万円叩いて買ふ。坂口が中身は白紙の志集から何かを破り取り、残りは便所に捨てるカットにモザイクがかゝるのを一体これは何だと訝しんでゐると、後々判明するのがその時坂口が佐野和宏から買つた肝心のブツが実はヤク。私の志集とは奮つてゐるといふのと、さういふ配慮のモザイク処理もあるんだなと感心した、別に推奨はしないけど。坂口が出入りする編集部に顔を出すと、カメアシとしても使ふ若手編集員のテツヤ(千田)が、続々送られて来る投稿ビデオに目を通してゐた。テツヤが使ひものにならないと判断した、縛られた石原ゆりが延々モジモジしてゐるだけのビデオに目を留めた坂口は、ビデオを貰つて帰る。その前段のテツヤと坂口の会話、ビデオは撮らないのかと話を向けられた坂口が、「馬鹿野郎ビデオなんて間抜けなカメラ回してられつかよ、金のためだけに写真撮つてんぢやねえよ」と吐いてのける遣り取りには時代が感じられる。モデルの彼女(八萩)との心ここにあらずな一戦経て、一発キメた坂口は、改めて石原ゆりのビデオに目を通す。カーテンの隙間に覗く都電荒川線の路面電車に注目した坂口は、実際に電車に乗り、赤いカーテンの部屋を探してみる。
 配役残り森山美麗は、坂口が足蹴にしながら撮影するデルモ・エミ。水上岳志は、エミと寝たテツヤに落とし前をつけに現場に現れ、高校時代はボクシング経験者の坂口に返り討たれるエミの男・マサヒコ。一旦交錯した後再びロストした石原ゆりの姿を求め、都電荒川線の駅で張る坂口に「今のが最終ですよ」と親切に教へてあげたのに、邪険にされる中年男は伊藤裕作。問題が梶野考の変名である征木愛造が、見れば判る顔なのに何処に見切れてゐるのか全く判らない。
 第二戦「制服美少女 先生あたしを抱いて」(2004/監督・脚本:高原秀和/主演:蒼井そら)に十一年遡る仲野茂のピンク映画初陣は、安藤尋デビュー作、安藤尋いふても正直誰か知らんけどな(´・ω・`) それは兎も角大問題なのが安藤尋のウィキペディアの記述。“1989年頃より助監督として活動し、成人向け映画をへて1997年に「pierce LOVE&HATE」を監督したが、2002年まで劇場公開は果たせなかつた。1999年のオリジナル作品『dead BEAT』が劇場公開映画デビュー作となる”。いやだから、ピンクは劇場公開映画ぢやねえのかよと、事務的にツッコんでおく。
 自撮りビデオの女に心を奪はれた男が、撮影場所を特定するところから女を捜す。物凄く何処かで聞いたやうな気がする話であることに関しては気付かないフリでもするとして、十一年後と殆ど変らない、歌よりは上手い程度の俳優・仲野茂は、ダブついたスーツにTシャツを合はせるクソみたいなファッションと、場当たり的かつ表層的な造形にも足を引かれ、一篇を支へきる主人公にしてはカッコばかりつけてゐる割に清々しく物足りない。それなりに粒の揃つた女優部も、腰も満足に振れぬ相手役と温存した石原ゆりを結構引つ張つた末結局満足に使ふなり見せ損なひ、ノルマをこなすのが関の山で共倒れる。立てたフラグを確実に回収する展開はそれなりに手堅く、部屋と電車とで切なく擦れ違ふクライマックスは手放しにドラマティック、かと思ひきや。何故か六分余した尺をしかも大概ユッタリユッタリ喰つておきながら、挙句綺麗に絶命させもしない中途半端なラストが止めを刺す。一言で片付ければ生煮えた一作が側面から繰り出す思はぬ威力の飛び道具が、驚くなかれ音楽を担当するのがジョン・ゾーン。90年代にはニューヨークと東京を行き来した上、古い日本映画好きでピンクのプリントの無造作なジャンクを難じてみせるほどであつたといふから、何かの弾みで上手いこと接点が発生したのであらう。


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 「SEXライフ 熱い夜に抱かれて」(1993/製作:関根プロダクション/提供:オーピー映画/監督:川井健二/脚本:ミスター・チャン、佐々木優/撮影:伊東英男/照明:秋山和夫/音楽:リハビリテーションズ/編集:フィルム・クラフト/監督補:一ノ瀬教一/撮影助手:佐久間栄一/照明助手:春川博/助監督:佐々木優・井戸田秀行/効果:東京スクリーンサービス/出演:林由美香・伊藤清美・桜井あつみ・野澤明弘・牧村耕次・高田磨友子・三条まゆみ《友情出演》)。“配給:大蔵映画”ではなくオーピー映画提供としたのは、白黒のOP開巻に従つた。
 文字盤が甚だ見辛いデザインのおむすび型の目覚まし時計、なかなか止めあぐねる女の手の傍らから、伸びて来た男の手が止める。両親とは早くに死に別れた武井か武居か竹井か竹居兄妹の二人暮らし、夜の仕事で妹を起こしこれから寝る兄・悟郎(野澤)を、短大生の妹・梨沙(林)は寝惚けてゐるのか何処まで本気なのかパンティの尻を見せ誘惑する。当然悟郎は完無視、不貞起きした梨沙の仏頂面を押さへてタイトル・イン、ノジーを関根組で観るのは初めてだ。
 悟郎に悟られぬやうコンドームを手荷物に忍ばせ出撃した梨沙は、ロング・ショットの停留所にてバスを待つ。事そこに至る仔細はスッ飛ばした上で、ヌード撮影に応じた梨沙がハンサムなカメラマン・若宮トオル(牧村)と寝る絡み初戦―裸だけならばオープニング・クレジット中に朝シャワーあり―は、例によつて例によつて例によッッッッてノー・モーションで突入する果てしなく長い回想パート。二十年前も今と全く変らない、関根和美のお家芸に震撼する、まるで進歩してゐないともいへる。回想明けも回想明けで、停車したバスに梨沙は結局乗らない、一般の乗降客が乗り降りするカット―画はバス越し―が無造作に間延びすること間延びすること。
 配役残り先に飛び込んで来る三番手の桜井あつみは、若宮が梨沙に続き―先かも―手をつけるモデル、オッパイ要員。伊藤清美は、仮称摩天楼でバーテンとして働く悟郎の同僚ホステス・冴子。二つ上のコブつきながら、悟郎とは結婚を見据ゑた関係。ウィキペディアにも記載されてゐない別名である、イコール亜希いずみの高田磨友子は、亭主の不貞を知り摩天楼に怒鳴り上げに来る若宮の細君・みよ子、みよ子がどうやつて梨沙の兄が摩天楼に勤めてゐることを突き止めたのかは清々しく不明。当時既に引退状態であつた三条まゆみは、基本ボックス席の背中しか見せない、摩天楼ママ?単なるゲストどころかビック・スターにも関らず、満足にその人と知れる形で抜かれるのは瞬間的な1ショットのみ、贅沢にもほどがある。その他客要員に関根和美と佐々木優、みよ子乱入パートにもう三名見切れる。
 新東宝で一旦デビュー後二作目以降は―映画を離れた期間もあるにせよ―長く大蔵を主戦場に戦ひ続ける関根和美が、1993年から1995年にかけて使用してゐた別名義・川井健二の第一作。林由美香大蔵初参戦、以後関根組十二作連続主演といふ―殊に後者が常識外れの―特筆すべき点もありつつ、個人的には前田有楽がデジタル移行したのに伴ふ、フロンティア・リバイブが大きなトピック。何はともあれ、これで関根和美のハンドレッド戦が戦へる、まだ先は結構長いけどな。
 物語的には概ね濡れ場をマッタリ連ねるに終始しつつ、若宮との不倫も、何時も自分のことは後回しに面倒をみ続けて来て呉れた、兄の過保護が重たくなつた贅沢な反発であつた。梨沙が悟郎に押し殺した感情を爆発させ、何故かその場に現れた冴子込みで和解に至るクライマックスの舞台に、見晴らしの開けた公園を選んだ一手間が功を奏し、大した中身もなかつた気がする割に、観戦後の心持ちは思ひのほか爽やかに締め括る。それともうひとつ琴線に触れたのが、みよ子に突きつけられた若宮撮影によるヌード・スナップを、悟郎が今度は当人の梨沙に突きつけ激しく叱責する件。その際、「何なんだお前は!」と激昂した悟郎が梨沙を平手打ち、するものかと思ひきやグーで殴つたのには驚いた。何なんだお前はではない、お前が何なんだ。悟郎こと野澤明弘が観てゐて居心地が悪いくらゐいい人造形を強ひられる中での、突発的に火を噴くノジーぽさには拍手喝采した。


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 「BODY TROUBLE ボディ・トラブル」(2014/製作・配給:株式会社旦々舎/監督:浜野佐知/構成・脚本:山﨑邦紀/企画:鈴木佐知子/撮影:小山田勝治・猪本太久磨/照明:守利賢一・蟻正恭子/録音:沼田和夫・小林理子/助監督:北川帯寛・菊嶌稔章/応援:田中康文/編集:金子尚樹/音楽:中空龍/MA:シンクワイヤ/整音:若林大記/音響効果:吉方淳二/グレーディング:東映ラボ・テック/協力:新日本映像株式会社/参考文献:植島啓司『男が女になる病気 -医学の人類学的構造についての三〇の断片』/クラゲ提供:アクアショップ マリンキープ/出演:愛田奈々・加藤ツバキ・齋木亨子・里見瑤子・みおり舞・なかみつせいじ・津田篤・ダーリン石川・竹本泰志・荒木太郎、他四名・宝井誠明・菜葉菜)。クレジット終盤に力尽きる、照明の守利賢一はガッツの本名。
 プカプカ漂ふクラゲと、水槽越しに覗き込む菜葉菜と宝井誠明を抜いてタイトル・イン。私称第二ミサト屋根裏のオタク部屋、そこに棲む引きこもり男の佐藤裕美がある朝か昼に目覚めると、裕美は絶世とまでいふと大袈裟だけれど結構な美人(愛田奈々)になつてゐた。この本篇開巻、裕美が寝返りを打つと津田篤をスッ飛ばしていきなり愛田奈々が現れるのは、初見の観客には甚だ判り辛いと思ふ。一方クラゲ部屋では、アイデンティティ・カウンセラーの海月(室井)が、男であることを否定し自らの意志で女に輪廻転生した、ダライ・ラマも吃驚の菜葉菜と対峙する。新規配役他四名は、津田篤時代の裕美に飲み会で疎外感を爆裂させる、リア獣四人組。それと齋木亨子といふのは、a.k.a.佐々木基子。
 古巣電撃帰還作兼、デジタル・エクセス第四弾「僕のオッパイが発情した理由」(2014)と並行して撮影。濡れ場をサッ引く代りに素のドラマ部分を上積み、最終的に尺が二十分強伸びた、浜野佐知の「百合ダス」(2011)に続く一般映画第五作、R-15指定。あれれれれ?何処かで聞いた話だなといふのは、決して気の所為でも迷ひでもない。今回浜野佐知が編み出した戦略を、オーピーがOP PICTURES+に際して完全にパクッてゐる。落とし前をつけるべく旦々舎がテアトル新宿に乗り込むカウンターアタックを、激越に希望するものである。
 映画の中身はまづ裸目線では、幾分薄めたとはいへ何せ元々が浜野佐知につき、元来個別には疑問の多いレイティングともいへ、これでR-15なのかと膨らんだカリ首を傾げたくなるほど―今直ぐデスればいいのにな、俺―十二分にどギツい。何より衝撃的なのが、「僕のオッパイ~」では不脱の里見瑤子が相談に訪れた裕美と百合の花を咲かせてみせるのには度肝を抜かれた。しかも、棹がなくなつてゐるのを忘れた裕美が、腰で虚空を突く描写は勿体ないくらゐに面白い。大体、ピンクで脱いでゐない女優が一般映画版では脱いでゐるなんて現象自体があり得ない。一介の観客としては流石浜野佐知だ、やることが違ふと草を生やしつつ感心してゐれば済む話なのかも知れないが、製作費の半分を出したエクセスにとつては、なかなか複雑な心境でもあつたのではなからうか。
 劇映画的にもユニーク、そもそも鬼のやうにエロいと同時に、自身の生涯とリンクした華麗か苛烈な女性主義をピンク映画に於いて叫び続け今なほスティル・ファイティングな浜野佐知だけに、キモオタから美女に文字通り生まれ変つた裕美が小冒険を潜り抜け決然と決別するに至る過程は、実は「僕のオッパイ~」で既に十全に描かれてゐる。そのためピンクで物足りなさを感じさせた物語を一般映画で補完する―それもそれで本末転倒臭が爆裂する話に過ぎないが―どころか、裕美が三人目の助言者として海月を訪ね、菜葉菜が大杉漣に続きなかみつせいじも撃破する見せ場で上手く「僕のオッパイ~」世界と新たに参戦したクラゲ部屋との融合も図られてゐるとはいへ、「僕のオッパイ~」があれば事足りる感は正直否めない。とりわけ、「僕のオッパイ~」では一人きりで取り残された裕美を菜葉菜が救済、一旦より爽やかに更に力強く風呂敷を畳むかに見せかけて、佐々木基子のアシスト噛ませ出し抜けに捻じ込まれるまさかよもやの消失エンドは、紛ふことなきここぞといふ時に繰り出される山﨑邦紀の秘密兵器にして必殺技。要は間違ひなく浜野佐知の映画である「僕のオッパイ~」に対し、双子の姉妹作であるにも関らず今作は山﨑邦紀色の印象が強く、折角の一般最新作にしては、あの竹を手刀で叩き割る浜野佐知が窺はせるらしからず奥歯に物の挟まつた風情も、大いに肯ける。


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 「お天気キャスター 晴れのち濡れて」(2015/製作:オフィス吉行/提供:オーピー映画/監督・脚本:吉行由実/撮影:田宮健彦/録音:小林徹哉/編集:中野貴雄/整音:西山秀明/選曲:あるでんて/音響効果:矢島悟/美術:菊島稔章/助監督:江尻大/監督助手:小関裕次郎/撮影助手:川口諒太郎/スチール:本田あきら/ポストプロダクション:東映ラボ・テック、スノビッシュプロダクツ/出演:椿かなり・倖田李梨・さとう杏子・北川帯寛・国沢実・さらだたまこ・生方淳一・白石雅彦・藤本友徳・鎌田一利・吉行由実)。それにしても演出部が大勢。
 タイトル開巻、OPTV局の朝ワイド「オーピーにゅ~」。人気お天気キャスターの綾瀬花子(椿)は、本番を直前に控へ俄かに緊張。トイレに駆け込み一オナかましてスッキリすると、何事もなかつたかのやうに無事収録を務める。二年前、初陣で派手に玉砕した花子は極度のあがり症に陥り湯川(吉行)のカウンセリングを受診、自慰で精神を落ち着かせる催眠療法を施されてゐた。いやいやツッコむなんて野暮だぜ、ここでは椿かなりのオッパイがジャスティス。キャバ嬢の過去が発覚し失墜した先輩女子アナ・倉田凛子(倖田)の稚拙な嘘密告も功を奏せず、順風満帆な日々を送る花子ではあつたが、ある日例によつての本番直前onanieの音声を盗録したファイルが動画投稿サイト「YumTube」にアップ、騒ぎとなりひとまづの番組降板を強ひられる。
 配役残り藤本友徳は、ロン毛の多分ディレクター・横田。男優部メインの北川帯寛は毎朝大好きな花子の行つてらつしやいに送り出され通勤する、サラリーマンの鶴川郁夫。闇雲な突破力を暴発させる国沢実とさらだたまこは、郁夫が住むアパートの大家夫婦・野沢明と直美。親気取りで無闇に世話を焼いたかと思へば、夫婦生活を誇示してみたりもする厄介極まりない飛び道具。生方淳一は、普通の―ヴィジュアルの―プロデューサー・植木。国沢実とさらだたまこの無駄暴れを最終的には霞ませる、さとう杏子が花子の親友・塩野絵里、車椅子生活。鎌田一利は凛子に籠絡されるOPTV局長、白石雅彦も凛子と肉体関係を持ちつつ凛子の対花子決戦兵器、主にネット工作を担当するフリーライター・高木。その他どの人脈で動員したのか、「オーピーにゅ~」番組スタッフと生中継に映りたがるお調子者、醜聞の渦中の花子を追ひ回す野次馬に、出てゐたとしても江尻大が埋もれるほど―声は聞こえる―結構な人数見切れる、AD役は女の子だよね。
 「姉妹どんぶり 抜かずに中で」(1997/脚本:五代暁子/主演:貴奈子)をセルフリメイクした、「妹の匂ひ よろめきの爆乳」(2014/主演:奥田咲)を追ひ越し着弾した吉行由実2015年第一作は、単に自身が画期的に仕出かしたに止(とど)まらず、デジタル・オーピーが第三弾にして弱点を完全に露呈した問題作。何はともあれ、花子と郁夫がミーツする、即ち二人のロマンスが起動する重要な一幕の底の抜けぷりが凄まじい。秒殺で突きとめられた自宅に居られなくなつた花子は、一旦絵里の下に身を寄せる。とはいへ何時までもさうしてゐる訳にも行かず恐々絵里宅も後にしてみたものの、速攻で野次馬に見つかり追ひ駆けられた花子が、たまたまその場を通りがかつた―綾瀬花子の大ファンである―郁夫に抱きつきキスをして、路チューカップルを偽装し追手を撒くシークエンスは一体全体何だこりや。登校途中に出会ひ頭でぶつかつた―食パン咥へた―美少女と、転校生の形で再会するクリシェの二十一世紀進化形誕生の瞬間を、この時我々は目撃したのであらうか。挙句に花子がそのまゝ郁夫の部屋に転がり込む葱を背負つた鴨が餡子の代りに入つた牡丹餅が、棚からグロスで雪崩を起こして来さうな御都合主義にはクラクラ来る。ところが恐ろしいのが、この映画そんなこんなは全然序の口。何だかんだの末に、花子の復帰が決定。となると喜ばしい反面、郁夫にとつてはアクシデンタルな蜜月の終焉も意味する。郁夫の複雑な表情も噛ませさういふ定石通りの流れを窺はせておいて、驚くなかれ花子はといふと今後も鶴川家に留まることを希望し、二人はラブラブの熱い一発。確かに、椿かなりのハッピーな絡みの要ならば酌めぬでもないにせよ、それでは劇中事態の推移に付随しての葛藤が生じず、一体吉行由実は如何なるドラマを描かうとしたのか、現に成立などしてゐないのだが。ところがところが、それでもまだ今作は止まらない。幾度か匂はされた不審な人物の影を、忘れかけた頃に恵子を超える真の大ボスが飛び込んで来る木にガンダリウム合金を接ぎ損なふ魔展開は、普通の映画監督にはさうさう何度も撮れない鮮やかな支離滅裂。波乱万丈の女子アナ奮闘記、ふんはかしたラブコメ、綺麗な化粧の下に隠した女のドス黒い捻じ曲がつた悪意。描きたいものを手当たり次第にブチ込んだ結果、見事なまでの木端微塵、闇鍋かといふ話である。更にここで露呈するのが、デジタル・オーピーの限界。ヒロインの度肝を抜く、誰かと誰かが寝る、衝撃的―である筈―なショット。デジタル・オーピー観戦三作目にして毎回同じ不平を垂れるのも工夫がないと自嘲しながらも、同じ有様で三連敗ゆゑ仕方がない。誰かと誰かが寝る花子を激しく動揺させるショットが、相変らず暗くて何が何だか殆ど判らない。殊に男が誰が誰やら判然としないでは、この場合全く意味を成すまい。シネロマンや光音座の状況に関しては存じ上げないと留保した上で、業界の旗艦館たる上野オークラが故天珍シネマと同程度と伝へ聞くに、天珍よりも―本当に―格段に良好な上映を見せる我等が前田有楽で見えないものが、全体何処で満足に見えるといふのか。地元駅前ロマンや熊本の桃天等、プロジェク太への移行自体が早い小屋も、まづ厳しいと考へてさうゐない、実際駅前には無理だと断言出来る。もう一度いふ、現状、デジタル・オーピーは少し暗い画は途端に不可視の領域に突入する。フィルムで普通に映写してゐれば見えたものが、DVDに落としたがために見えなくなるのとは訳が違ふ、恐らくどんなに頑張つても見えないのだ。となると商業映画が、木戸銭を落とした客に見えないものを撮ることに果たして何の意味があるのか。加へて粗いサスペンスが物語を粉砕する返す刀で、三番手の濡れ場をほぼオミットしてしまふとあつては裸映画としてもチェックメイト、何をかいはんやといふ以外に言葉が見当たらない。寧ろ唯一狙ひ通りに機能してゐるのは、純然たる枝葉といふいはば安全圏で爆散する本筋の被弾を免れ得た、大家夫婦の素頓狂な造形くらゐとさへいへるのか。ツッコミ処といふ意味でのとつかゝりには事欠かない、グルッと一周した貧しさが豊かな一作。逆に考へると、久々に喰らつたレベルの破壊力。如何とも形容し難い観後の感興は、何年かに一度級の台風にさんざ酷い目に遭つた末に、振り返つてみると正体不明な清々しさを覚えるやうな心持ちに似てゐるのかも知れない。


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 「野外乱交 殺したいほど愛してる」(2014/製作:Blue Forest Film/提供:オーピー映画/監督:竹洞哲也/脚本:小松公典/撮影監督:創優和/編集:有馬潜/音楽:與語一平/助監督:小山悟/監督助手:小関裕次郎/撮影助手:酒村多緒・佐藤雅人/出演:友田彩也香・和田光沙・酒井あずさ・服部竜三郎・松浦祐也・岡田智宏・倖田李梨)。
 タイトル開巻、スーパー裏の昼休み。アルバイトのレジ係・松村信治(松浦)と鮮魚担当の松林節郎(岡田)に、正社員の松木優介(服部)がウダウダ与太話を燻らせる。先に観た第二戦「誘惑遊女の貝遊び」(2015/主演:かすみ果穂)では理解に苦しむ扱ひに何しに出て来たのか釈然としなかつた服部竜三郎が、改めてキチンと見てみると若い頃の大泉洋―今の大泉洋が動いてるとこ見たことないけどな(´・ω・`)―といつた雰囲気で、岡田智宏と松浦祐也を向かうに回しウダウダするにも綺麗にウダウダしてみせるのは正方向のサプライズ。ところが、折角新規参戦した逸材にしては、竹洞哲也の2015年第二・三作始め、以降ピンクに出てゐる気配が見当たらないのは勿体ない。三馬鹿の話の流れが合コンに固まつたところで、オナニーする主演女優、画面手前の股間から顔に送るピントが麗しい。何だかんだで、女性陣は東京から出戻つて来た優介の幼馴染・宇都宮亜樹(友田)を起点に合コン決定。亜樹が優介を焚きつけ何事か物騒な姦計を巡らせる中、残り二人は亜樹と同じ合唱サークル「ボヘミアン」に所属する上野将子(和田)と濱野日出子(酒井)を加へた六人が、合コンにしてはいきなりピクニックも通り越しキャンプ感覚の森の中に集ふ。
 配役残り倖田李梨は、優介の母親なのか姉なのかよく判らない紅葉、年の釣り合ひからすると母親は苦しいが。脱ぎもしないのに一見無理無理捻じ込んだ蛇の足かとも思はせて、地味に重要な送りバントを決める。
 クレジット後のオーラスを“変はりゆく流れの中でも 変はらないものがある 変へられないものがある 最後のFilm作品”(スペースで改行/原文は珍かな)と締め括る、竹洞哲也2014年第四作。フィルム文化の終焉といふ“変はりゆく流れ”は自明にしても、“変はらないもの”と“変へられないもの”が、何を指すのかは今作を通して必ずしもハッキリしない。女優部と男優部とで三対三の合コン、シンプル・イズ・ベストな展開は天候にも恵まれた緑豊かなロケーションの中、適宜不穏な空気を漂はせつつも非常に上手いこと転がつて行く。殊に、酒井あずさが痛い年増扱ひされることに関しては断じて首も棹も縦には振り難いが、因みに2012年第三作「お色気女将 みだら開き」(主演:かすみ果穂)以来二度目のカンバックとなる、松浦祐也が生粋の獅子党であるゆゑライオンズ帽とレオTで決めた松村の、渾身の西武トークに全く興味も聞く気もない亜樹と将子がポップにドン引きするシークエンスは爆発的に可笑しく、やがて泣けて泣けて仕方がない、泣いてないけど。ところが、いよいよ重い腰を上げた本筋は、歩幅すら狭い右往左往の末に拡げた風呂敷をグダグダ畳み損ねる、かと思ひきや。さりげなく飛び込ませた倖田李梨を足場に全てが締めの濡れ場に収束する、枝葉ばかりに思はせた始終が見事な結実を果たす瞬間の煌めきが鮮やかに素晴らしい。例によつて小ネタに費やす尺に女の裸が削られた風情も否めないではないものの、一見変化球に見せかけて、最終的な構成は案外直球勝負のピンク映画。不相応な凝り過ぎた意匠がまんまと仕出かした第二作を除けば、竹洞哲也の2014年は結構な当たり年であつたのではなからうか。
 備忘録< 匂ひだ味だ人が死ぬところが見たいださんざ引つ張つたとどのつまり、亜樹は松林とデキてた


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