真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「隠密濡物帳 熟れごろ嫁さがし」(2023/制作:加藤映像工房/提供:オーピー映画/監督:加藤義一/脚本:筆鬼一/撮影監督:創優和/助監督:小関裕次郎/録音・整音:大塚学/選曲:友愛学園音楽部/編集:蛭田智子/スチール:本田あきら/監督助手:河野宗彦/撮影応援:夏之夢庭・髙木翔/演出部応援:広瀬寛巳/協力:植田浩行・郡司博史/出演:加藤あやの・なかみつせいじ・杉本まこと・天馬ゆい・安藤ヒロキオ・大浦真奈美)。何故か東ラボのクレジットが抜けてゐるのは、本篇ママ。
 タイトル開巻、何処ぞの深い山の中。外界と隔絶したまゝ数百年続く、忍者の霧ならぬ塵隠一族の里。忍び装束のカクゾウ(なかみつ)が、多分ポップな内容の淫夢に畳の上を七転八倒見悶える。別の間ではカクゾウの父親で、一族の頭領(杉本)がくノ一・ヒメコ(大浦)と睦事。忍者一族を束ねる御頭様の屋敷にしては、部屋の調度が思ひきりそこら辺の民家にしか見えない、ヤル気の欠片も感じられないプアな美術と、まるでドンキで買つて来たかのやうな、頭領のチンケな白髭に関してはこの際通り過ぎてしまへ。ヒメコが頭領に身を任せる条件は、次期頭領を目されるカクゾウとの祝言。ところが意外と開明的な部分も持ち合はせてゐるのか、一族に新しい血を入れる変革も摸索する頭領が、遂に決断。カクゾウに軍資金を与へ、嫁を連れて来るまで帰ること罷り成らん旨厳命した上で、里の外に出る許可を与へる。Ninja Goes Tokyo、喜び勇んでカクゾウが発つ一方、指を咥へて見てゐられないヒメコは、密使のイチカ(天馬)を放つ。
 花の都にひとまづ辿り着いた、はいゝものの。立ちんぼの要領でイチカのハニートラップに篭絡されたカクゾウは、忽ち所持金を巻き上げられ一文無しに、大丈夫なのか塵隠。腹を空かせたカクゾウは香ばしい匂ひに誘はれ、終に一軒の店の表で行き倒れる。配役残り、先にカクゾウを発見する安藤ヒロキオが、固有名詞も口頭に上らない夫が借金を残し女と出奔して以降、女手ひとつでカレー店を切り盛りするサユリ(加藤)の息子・ミツオ、幾星霜系の浪人生。正直前作の印象は既に覚えてゐない、加藤あやのは2017伊豆映画「湯けむりおつぱい注意報」(監督:小川欽也/脚本:水谷一二三=小川欽也/主演:篠田ゆう/二番手)以来、六年ぶりとなる二戦目。主演女優がトリを飾る形で俳優部が出揃つた、ビリングの彼方にエキストラ。カクゾウが撒くチラシを受け取る、KSUとひろぽん以下、カレー客要員で若干名が投入される。店内を一望する画の中で、男女が確かに向かひ合はせで座つてゐながら、銘々別個のタイミングで食事してゐる風の、地味なちぐはぐの真相や果たして如何に。観客ないし視聴者を、そんなにそはそはさせたい?
 昭和62年に本名でデビューした中満誠治が、1990年に改名した杉本まことと、2000年に再び改名したなかみつせいじが同一フレームに―生身で―納まる共演を果たすのは、流石に初めての気がする加藤義一2023年第一作。これも簡便に合成可能な、デジタルの果実を享受してのマジック、ないしミラクル。加藤義一的には当年ピンクは今作きりではあれ、歳末に薔薇族がもう一本ある。以前のなかみつせいじと杉本まことの共演作でいふと、なかみつせいじが支配人を務めるテアトル石和(山梨県笛吹市/2018年閉館)に、杉本まこと出演の劇中映画「北の梅守」のポスターが貼つてある加藤義一2017年第三作「悶絶上映 銀幕の巨乳」(脚本:筆鬼一・加藤義一/主演:神咲詩織)くらゐしか、ザッと見渡してみたところ見当たらない。共演してこそゐないけれど矢張り加藤義一で、記憶に新しくはない反面想ひ起こすのは容易いのが、代表作「野良犬地獄」の映画スター・杉本まことになかみつせいじが扮した、通算と同義の2002年第三作「スチュワーデス 腰振り逆噴射」(脚本:岡輝男/主演:沢木まゆみ)と、妹作たる2004年第一作「尻ふりスッチー 突き抜け淫乱気流」(脚本:岡輝男/主演:山口玲子)。その他、なかみつせいじがポスターではすぎもとまことにされてゐる工藤雅典の「痴漢電車 女が牝になる時」(2009/主演:鈴木杏里)や、デジエク第二弾と名義を違へるAV版「愛する貴方の目の前で… 女教師と教へ子」(2014/制作・販売・著作:アタッカーズ/脚本・監督:清水大敬/主演:香西咲)、とかいふバリエーションもなくはない。
 無闇にハイスペックな田舎者が、配偶者捜しで大都会にやつて来る。主人公が長の子息である点まで踏まへ、加藤義一とはタメの当サイトが世代的に脊髄で折り返すと「星の王子 ニューヨークへ行く」と、「ミラクル・ワールド ブッシュマン」を足して二で割つて、乳尻をてんこ盛りにした類の一篇。尤も、サユリの店にカクゾウが転がり込むまでは、全く以て順調であつた、とはいへ。塵隠一族跡継ぎの嫁騒動なんて、気がつくと何処吹く風。閑古鳥の鳴くカレー屋を盛り立てるべくサユリ母子とカクゾウが奮闘する、いはゆる細腕繁盛記的な下町家族劇に前半が完全にシフトする大胆といふか、大らかな構成に軽く驚、くのは実は全然早い。商売が軌道に乗り始めるや否や、ちやうど前後半の境目辺りでカクゾウがサクッとサユリに求婚。サユリもサユリでケロッと首を縦に振る、結部と見紛ふ起承転結の転部には本格的に度肝を抜かれた。この映画、こゝで終る訳でも終れる筈があるまいし、全体後ろ半分どうするのよ、と引つ繰り返りかけたのが、ベクトルはさて措き惹起された感興の最大値。
 心配しなくていゝ、信頼もしなくていゝ。サユリを塵隠の里に連れ帰るどころか、忍びの道すら捨てた要は町人の人生をカクゾウが選ぶ。事態の正しく急展開を受け、話の流れがカクゾウの嫁捜しからカクゾウ自身の強制帰郷へと華麗か豪快に移行。イチカがミツオも篭絡する、くびれが素晴らしい三番手の第二戦は天馬ゆい―と安藤ヒロキオ―クラスタ以外恐らく喜ばない、分水嶺を明白に跨ぐ冗長さで遮二無二尺を稼ぎつつ、背景に大星雲の広がる壮大か盛大な、兎に角クライマックスに足るカクゾウとヒメコの、忍術といふか淫術の大激突を経て。元々デキてゐたカクゾウとサユリに、頭領は案外簡単に倅を諦め、ヒメコとの間に後継者を新たに設けるフレキシブルな方針転換。単に、色香に負けたともいふ。そんなこんなの正しくどさくさに紛れ、イチカとミツオも何時の間にかくつゝいてゐたり。三者三様のカットバックが火花を散らす、締めの濡れ場・ストリーム・アタックで桃色に煮染めた大団円に捻じ込む、力尽くのラストは鉄板といへば鉄板。そもそもカクゾウとサユリの間に、ラブアフェアといふほどの付かず離れずも特に発生してをらず。カレーを旨くするのに忍術の使用を諫める以外、実はヒロインが進行上ほとんど全く何もしてゐないへべれけな作劇と、少しは録音部でどうにかしてやれなかつたのかとさへ思へかねない、力強く心許ない二番手の発声。と、更に。一欠片たりとて面白くも何ともない、派手な肩の力の抜け具合さへさて措くならば、鉄板といへば鉄板。何かもう、針の穴にモンケン通すみたいな無理難題に突入して来た。
 たゞし、素面の劇映画はいつそ捨ててしまひ、女の裸に、潔く全てを賭けるにせよ。いざ絡みの火蓋を切つた途端文字通り白々とした、なほかつ馬鹿の一つ覚えな一本調子でメリハリを欠く、徒にハイキーな画は些かならず考へもの。

 最後に、蛇に足を生やす与太を吹くと。密命を下す主君も別にゐなささうな現代の塵隠一族に、“濡物帳”と下の句は兎も角、“隠密”もへつたくれもないやうな野暮か根本的な疑問。


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 「すけべ繁忙期 モーレツたらし込み」(2021/制作:加藤映像工房/提供:オーピー映画/監督:加藤義一/脚本:筆鬼一/撮影監督:創優和/助監督:江尻大/録音:小林徹哉/選曲:友愛学園音楽部/整音:Bias Technologist/編集:蛭田智子/監督助手:谷口恒平・神森仁斗/撮影助手:岡村浩代・赤羽一真/スチール:本田あきら/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:折笠慎也・久留木玲・森沢かな・なかみつせいじ・岡江凛・安藤ヒロキオ)。
 透明人間、もとい無職のトクダ繁(折笠)が優雅にも昼過ぎまで寝てゐると、女友達の朋美(森沢)から電話がかゝつて来る。魅惑的なチャイナドレスで平然と往来を歩く、アメイジングに底を抜いた二番手の造形が清々しい。狂言回しを主人公が兼ねる、折笠慎也が折に触れカメラ目線を自由奔放にキメ倒すのは兎も角、ほかには後述する高山も身近の日用品をプチ超能力ぽく自由自在に操る演出に、木に竹を接ぐ以外の意味は多分特にない。あと全篇を通して徒に濫用される、ルネサンス細山智明的な―人力―スライド移動も。閑話、休題。会ふ旨電話がかゝつて来ただけであるにも関らず、創造的に話を成立させた繁が「エッチの予約、完了!」、と指を鳴らしてタイトル・イン。要は、二作前の加藤義一2020年第二作「オトナのしをり とぢて、ひらいて」で神咲詩織を閉口させた、ヤリチン野郎(当該作では増永)の決まり文句ないしキャラクターを、主役用にブラッシュアップした格好。
 部屋に入るなり脊髄で折り返してオッ始める、あるいはオッパイを揉み始める繁に、朋美は飲み屋でナンパされ付き合ひだした会社社長の恋人が、不能であるといふ悩みを打ち明ける。や否や、今将に朋美宅に向かつてゐる当の役立たず・西野キンゾー(なかみつ)からの携帯が着弾。朋美が朋美なら西野も西野、ワイングラス傾け傾いて往来を歩く、職質不可避の奇行が微笑ましいが、そこはそれなかみつせいじならでは。さういふ素頓狂を、それはそれとしてそれなりに形に成さしめる役者といふのも、何気にさうさうゐまい。無論西野は秒で到着、当然膠着する修羅場を、繁は開き直つた所謂NTRプレイで西野を回春させる、豪快な奇策で目出度く切り抜ける。そもそもの間男事実も忘れ喜んだ西野は、繁が遊んでゐるのを知ると自身のセールス会社「オーピー商事」に招き入れる。もつと無尽蔵にあるのかと思ひきや、オーピー商事は2006年第三作「妻失格 濡れたW不倫」(脚本:山崎浩治/主演:夏井亜美)と、2009年第一作の正月痴漢電車「痴漢電車 しのび指は夢気分」(脚本:山崎浩治/主演:夏井亜美)、何れもナベが二回しか使つてゐなかつた。
 配役残り、久留木玲と安藤ヒロキオは、営業事務のハナハタ香と営業部長の高山。営業部が、折慎入れて劇中終ぞ三人きりの安い通り越して寂しい普請。は一旦さて措き、繁と香が幼稚園から小学二年まで同じであつた幼馴染で、香はすつかり忘れてゐたが、繁は香に、無人島を買つてあげる子供の約束を交してゐた。自分だけの島に花を咲かせ、好きな人と暮らすのが香の幼い夢だつた。ほん、で。トータル・リコールに於ける二十一世紀の精神異常者(プリシラ・アレン)の如く、全盛期の緒川凛をスッポリ格納出来さうな岡江凛が、男日照りに悶々としてゐたところ、営業電話を寄越した繁のイケボ―イケメンボイスの略―に喰ひつく、自身の名を冠した会社を構へる女社長・福子。岡江凛といふのは緒川凛が改名した美村伊吹から更に改めた名義で、戦歴でいふと関根和美2018年第四作「豊満OL 寝取られ人事」(主演:優梨まいな/三番手)以来となる、何だかんだ通算七本目。こんなに達者であつたつけ?と耳を疑ふ発声も凄いが、肉々しい存在感、より直截には質量がなほ凄え。
 相変らず調子がいゝのか悪いのか覚束ないものの、さうはいへ2022年一本も撮らせて貰へてゐないのは流石にあんまりな気も否み難い、加藤義一2021年第二作。大蔵の匙加減でなく加藤義一サイドに、何某か撮れない理由があつたのなら仕方ないけどさ。
 新顔の女優部を除くと結構そのまんまな俳優部の面子にも引き摺られ、関根和美(2019年没)の遺志を加藤義一が酌むテイストを勝手に期待して観に行つてみたところ、よもや関根和美に劣るとも勝らない出来栄えにならうとは思ひもよらなんだ。繁が―のちに高山も―枕ならぬ棹営業を勇猛果敢に蛮行、いや断行するにせよ、所詮顧客要員は福子のみ。案外身持ちの固い朋美が、しかも男優部の中で最も偉い彼氏持ちとあつては、カップリングの幅を広げようにも身動きが取れず。土台七十分を戦ふには如何せん厳しい頭数で、ヒロインが腐れ上司相手に、不承不承な場数を稼がねばならない構図は途轍もなく苦しい。誰も触れない二人だけの花咲く島、なる主モチーフに関してもさしたる深化が図られるでない中、起承転結的にいふと転部を一応担ふ朋美と西野の離れたり復縁したりも、任せるほどの勢ひにすら欠いた何となくな焼け棒杭。物語的には霞より薄い、素面の裸映画としては世辞にも褒められた代物ではない、と匙をワインドアップで振りかぶり、かけたところが。「お嫁さんになる予約、完了!」。無駄は言葉が過ぎるにしても、一見無闇に積み重ねた口上を主演女優が見事に引き継いでの、完璧超絶一撃必殺、締めの濡れ場への空前絶後にスマートな雪崩込みには畏れ入つた。完全に高を括つてゐて、正直度肝を抜かれた。加藤義一が一発の重さで仕留める、大逆転K.O.作。それでゐて、エンド・クレジットも消化してのオーラス。寧ろそこで空費するくらゐなら締めの濡れ場をもつと膨らませるに如くはない、下手に尺を食ふエピソードが逆の意味で綺麗に蛇に足を生やしてのける辺りは、憎めない加藤義一のチャームポイント。


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 「誘惑妻物語 濡れた人差し指」(2021/制作:加藤映像工房/提供:オーピー映画/監督:加藤義一/脚本:深澤浩子/撮影監督:創優和/録音:小林徹哉/編集:有馬潜/助監督:江尻大/選曲:友愛学園音楽部/整音:Bias Technologist/スチール:本田あきら/監督助手:菊嶌稔章・河野宗彦/演出部応援:小関裕次郎/撮影助手:赤羽一真/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:神咲詩織・初美りん・並木塔子・柳東史・津田篤・なかみつせいじ)。
 住宅地を覗く双眼鏡視点、一点結論を先走ると今回、青天には概ね恵まれない。話を戻して、急激に倍率の上がる覗いた先は、何かの鉢植に神咲詩織が水をやるベランダ。夫に食事の支度を乞はれといふか命じられ、かみしおがフレーム左袖に捌けたベランダ外壁にタイトル・イン。見切れる見切れないの境界線を超絶の絶妙さで突く、瞬間的に抜かれる視点の主体に、節穴自慢の当サイトは辿り着けなかつた、誇るな。文字通り目敏い諸賢にあたられては、別にさうでもなく普通に見えたのかしらん。
 恵子(神咲)は大学時代の恩師である、吉本(なかみつ)と学生結婚、社会に出ぬまゝ家庭に入る。保守的なのかドラスティックに淡白なのか、それとも単なる吝嗇に過ぎないのか。兎も角とかく取りつく島のない吉本と、恵子が擦れ違ふ以前に噛み合はない日々を送る一方、ラブホテルにて、パンティは穿いての大股開きが画面一杯にドカーンと飛び込んで来る。女子大生の美幸(初美)は不倫相手・大西(津田)との逢瀬の事後、所詮は煮詰まるしかない関係に踏ん切りをつけ、大西的には寝耳に水の別れを一方的に投げる。後日の往来、なほも美幸に大西が纏はりつく修羅場に、恵子が通りがかる。助けを求めて来た美幸が、どさくさ紛れで騙つた姉妹に恵子も同調、大西は一旦大人しく退散する。ベランダでの、恵子の細やかな楽しみを知つてゐたのか、美幸がその日のお礼にと贈つたレモンバームからカットひとつ跨いだ大胆な繋ぎで、盗まれたり猫に食べられたりしないか軽く心配な、店の表に出した水草を浮かべた鉢の中でメダカを飼ふ、深山直樹(柳)の喫茶店―屋号不詳―で恵子はアルバイトを始める、吉本には無断で。
 配役残り並木塔子は、主に精神を病んだ深山の妻・ゆかり。心を壊した由来が明示はされないが、子供のゐない子供部屋風の美術を窺ふに、流産ないし死別系かも。都義一(a.k.a.京都義一)以下、井尻鯛とバルカンに、鯨屋当兵衛。何処からでも手慣れた演出部動員を望める地味に分厚い面子にしては、あくまでシャレオツ~なカフェの雰囲気を重視したのか、容易に想定の範疇に収まる茶店客要員が一切投入されず。
 後述する2019年第四作と、EJDの出番を除けばほぼ不完全無欠の2020年第一作。派手に爆散した二作と大概な無頓着が火を噴く、総じては漫然とした前作。何気にでなく三連敗中の加藤義一が、幾分以上持ち直した2021年第一作。師匠・関根和美の遺志を継いだと思しき、スッカスカ、もといスッチャラカ艶笑譚ぽい次作も、KMZに漸くやつて来るのは年が明けてからだらうけれど今から楽しみ。
 今時専業主婦といふだけで、経済的には結構恵まれたヒロインが抱へる、薄らぼんやりとした寂寞を端緒とする物語。足が地に、着いてゐるのかゐないのか。最終的に、何を求め何処(いづこ)へと向かふのか。腰の据わつた正攻法に珍しく徹する演出には反し、恵子の立ち振舞ひは案外覚束ない。それゆゑ、手放しでワーキャー褒めそやすには心許なさも否めないにせよ、決して飽きさせない程度に見所は盛り沢山。
 締めの絡みの薄さ、といふ割と致命的な脆弱性をも捻じ伏せるに足る一撃必殺を放つ、そこかしこでバラ撒いてもゐた伏線の弾幕がクライマックスに収斂する、“実は実の”な嘘から実(まこと)を出してみせる、最も顕示的な終盤の大技は見事に決まる。さりげなく悪役じみた造形を宛がはれた吉本も、綺麗な復権を果たす。少々出し抜けではあれ、エンパワメントな名台詞も与へられる。若干前後して、吉本夫妻と、深山が交錯するロングは、カットを割つてしまふのが寧ろ勿体ないくらゐカッコいゝ。ただ、さういふ、素面といふ意味に於ける裸の映画的に秀でた、部分のみならず。最初に気づいたのが、大西が新しく用意した部屋にて、半ば以上仕方なく美幸が身を任せる二番手二回戦。美幸は既に心を離したどうでもいゝセックロスを、中途の端折り具合まで含め徹底してぞんざいに処理。情交個々の熱量に応じて、濡れ場艶出の力加減を変化させる、もしくは操作する裸映画的にこの上なくしたゝか且つしなやかな戦法により強い感興を覚えた。とりわけ、初つ端の指舐めから気合の入れやうが明らかに異なる、見るからな全力を込めたのが秀逸な前後のカッティングで意図的に主を暈した、イマジンといふのも狂ほしく素晴らしい。よしんば現実的には些か障壁の高いカップリングであるならば、妄想で何故いかぬ。うつし世はゆめ よるの夢こそまこと。加藤義一が猛然と撃ち抜いた、美しく、同時にいやらしい真実こそが真のハイライト。重ねて兎にも、角にも。御召物の柄すら悩ましく歪める、ボッガーンと隆起した神咲詩織の着衣オッパイが逐一エロい通り越してエモい、途轍もなくエモい。今作を機会に加藤義一が復調して呉れると、大いに頼もしい一作。通して振り返るに当り外れの斑(むら)が大きい印象も否めないが、斑があるだけ、当りもある分まだマシ。
 一面の緑鮮やかな草叢に主演女優が大の字に寝転んだ、俯瞰のデカい画を撮りたい。趣向は確かに酌める、垂直上昇させるドローンを使つたラスト・ショットが、今時何故か古のキネコみ漂ふ破れ画質なのは、最後ブツッと切れるやうに暗転する唐突な雑さも込みで微笑ましい御愛嬌、微笑ましいか?

 “百点満点の零点映画”2019年第四作「愛憎のうねり 淫乱妻とよばれて」(脚本:筆鬼一/主演:佐倉絆)以来の柳東史と、なかみつせいじは“安手のピンク映画”をわざわざ自己紹介する工藤雅典大蔵第二作「爛れた関係 猫股のオンナ」(2019/共同脚本:橘満八/主演:並木塔子)以来。何れも二年ぶりに戦線復帰した二人ながら、四つ下の筈であるにも関らず、何時の間にか柳東史がなかみつせいじを追ひ越し―草臥れ―て映る近影には軽く衝撃を受けた。のと、柳東史ついででワンモア。料理教室に通へない―通はせて貰へない―のなら、ウチの店で働けばいゝぢやない。殊更意訳せずとも、案外そのまんまな深山の冤罪アントワネット構文が、アバンの扱ひ如何ではもしかするとその後華麗に回収されるものかと早とちりしたが、先述した、嘘から実を出す力技の結果それも叶はなかつた。
 備忘録< 双眼鏡を覗いてゐたのは、恵子が十才の時に出奔した父親が、当時余所に作つた実際実妹の美幸


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 「オトナのしをり とぢて、ひらいて」(2020/制作:加藤映像工房/提供:オーピー映画/監督:加藤義一/脚本:筆鬼一/撮影監督:創優和/録音:小林徹哉/編集:有馬潜/演出部応援:小関裕次郎/撮影助手:赤羽一真/撮影部応援:酒村多緒/スチール:本田あきら/協力:広瀬寛巳・鎌田一利/選曲:友愛学園音楽部/整音:Bias Technologist/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:神咲詩織・雪乃凛央・大原りま・細川佳央・折笠慎也・竹本泰志)。加藤映像工房のクレジットが地味に難敵なのが、友愛学園音楽部の担当が音楽と選曲とで映画毎にブレる。
 神咲詩織の朗読で“リョウと今、ひとつになる”。イメージ風の絡みは語り部の胸キュン女子高生―劇中用語ママ―が栗原良、あるいはジョージ川崎、もしくは相原涼二に抱かれてゐる訳では残念ながらといふか無論なく、矢張り劇中用語ママで“ビブリオワーク”なる要は文学フリマに本名で参戦する叶章子(神咲)の、執筆中新作のハイライト。一見冴えない同級生の田尻が、覆面アイドル・マサキリョウの正体。とかある意味清々しい類型的な内容に煮詰まつた章子が、愕然とPCに項垂れる背中にタイトル・イン。に、しても。結構な高頻度で首を傾げさせられるのが、その部屋一体何畳あるのよ?といふ一介の事務員に過ぎない章子居室の広さ。自宅のあばら家もあばら家、破屋界的にも結構ハードコアなあばら家で撮影する、といふかしてゐた―現状を追認するものでは断じてない―荒木太郎もそれはそれであんまりだけれど、ピンクの中の日本、経済政策間違つてなさすぎだろ。別の意味での、夢物語の趣さへ漂ふ。
 毎日定時でザクッと離脱する、章子の理想的な職場は零細不動産会社「藤山不動産」。理想的な職場とかつい何となくな流れでキーを滑らせてしまつたが、土台労働が賃金の発生する時間の無駄でしかない以上、如何なる環境であれイデアの名になど値するものか、解放されるに如くはない。非人道的極まりない残虐卑劣な第二十七条一項の削除こそが、改憲のいの一番である。激越に叫ぶ真理はさて措き、国語教師の職を辞し亡父の遺した会社を継いだ、社長・藤山正彦(竹本)の理解にも恵まれ締切前には有給もほいほい貰へたりする中、頻りに口説いて来る、ウェーイな営業・増永(折笠)のウザさに章子は頭を悩ませてゐた。
 配役残り、雪乃凛央は藤山が多分運転資金を無心する、元妻で同じく教職に就いてゐた高子、復元した旧姓不明。元夫に貸すほど高子が金を持つてゐるのが、単なる塾講師なのか、経営してゐるのかは例によつて遣り取りが不鮮明。その辺りを埋めて呉れないから、締まらない。細川佳央は合鍵も渡されてゐる割に章子と男女の仲には全くない、大学時代からの文クラ親友・水島来夢。今時珍しい威勢のいゝ詰めぷりの大原りまは、当初章子には知人と称される、増永の要は彼女・佐藤マリア。二言目には「うむ」をアクセント的な口癖に、一人称が“あたい”のズベ公口跡を大仰に操る傾(かぶ)いた造形が、狙つたものにせよ決して外してはゐないし、もしも仮に万が一、初陣女優の壮絶な台詞回しに頭を抱へた、苦肉の起死回生であつたなら加藤義一超絶大勝利。その他、藤山と高子が常用するレストランに、鎌田一利(a.k.a.筆鬼一)が見切れてゐるのは楽勝につき兎も角、声だけ聞かせる、増永が応対するヤサ探しの来客がひろぽんであるのか否かには辿り着けず。
 鎌田一利とのコンビも漸く安定して来たのか、相ッ変ら木端微塵なのかよく判らない加藤義一2020年第二作。神咲詩織がAV引退後も、ピンクには継戦してゐる模様。
 水島の助言に従ひ一度だけの前提で増永との食事に付き合つた章子は、結局その夜のうちにサクサク喰はれた挙句、翌日には自室に連れ込む始末。設定上は章子が抱へてゐる筈の恋愛に関するトラウマなんて何処吹く風、腐女子がヤリチン野郎にチョロ負かされる無体な写実主義であつたとしても、神咲詩織の裸さへ潤沢に確保してあれば、水島が流す血の涙といふ我々の琴線を激しく弾き千切らずにはをれない、切札的エモーション込みでお話が成立し得なくもなかつた気もしつつ。結局物語を、三本柱で案外三等分。増永の手垢に関しては概ね等閑視して済ませた上での、上手いこと実る水島と章子オタク同士の一応純愛に、そもそも何でこの二人が別れたのかが映画を観てゐてまるでピンと来ない、高子と藤山がライオンファイアする焼けぼつくひ。と、あれだけ執拗に章子を口説いてゐた姿に正直齟齬か便宜みは否めない増永の、エキセントリックな本命に唯々と振り回される悲喜劇。ミスキャストすれッすれに若い二番手と、主に竹本泰志の口から散発的に放り投げられるばかりで、芽吹くなり根を張るどころか、木に竹も接がない人間交差点か黄昏流星群か、まあ似たやうな人生訓的モチーフに鼻白む点に目を瞑れば、寧ろ馬鹿正直にドラマを三分割した結果、一撃の威力も三分の一に。破綻はしてゐない程度の、漫然とした三者三様といつた印象が強い。とりあへず、締めの濡れ場を腰を据ゑて完遂に至らせない、十万億土の彼方へカタルシスを放逐する悪弊は如何なものか。もひとつ呆れ果てて匙を投げたのが、藤山不動産のパラノーマルかロステクな通信環境。画面逆さにした扇の要に座る藤山の、即ち電話機の端子口が正面を向く画角に逃げ場のない、机上の固定電話が物理的にすらオフラインの大概な無頓着に、加藤義一は銀幕の大きさで観客が気づかないとでも思つてゐるのか、二十年間何をしてゐたんだ。といふか百歩譲つて俳優部はまだしも、撮影部も撮影部で立ち止まらなかつたのかな。
 筆の根も乾かぬ反面、感心したのはカミナリ信用金庫―漢字だろ―から融資を切られた藤山が、例によつて高子から金を借りての帰途、高子の方から膳を据ゑる件。藤山が突かれた不意に合はせカットを跨いだロングで、一拍おいて二人の脇を電車が通過する。当然、即座にもう一回カットを跨いだ先は藤山の寝室。全く以て紋切り型的な繋ぎを、あくまで紋切り型は紋切り型のまゝ、それでも綺麗に撃ち抜いてみせる馬鹿にならない地力は、満更二十年も伊達ではなかつたらしい。


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 「パラレル・セックス 痴女が潜む街」(2020/制作:加藤映像工房/提供:オーピー映画/監督:加藤義一/脚本:筆鬼一/撮影監督:創優和/録音:小林徹哉/編集:有馬潜/音楽:友愛学園音楽部/助監督:小関裕次郎/スチール:本田あきら/整音:Bias Technologist/仕上げ:東映ラボ・テック/監督助手:可児正光/撮影助手:赤羽一真・酒村多緒/応援:高木翔/お手伝ひ:鎌田一利/出演:二宮ひかり・並木塔子・長谷川千紗・安藤ヒロキオ・可児正光・赤羽一真《声》・小滝正大/ナレーション:竹本泰志)。出演者中、声のみの赤羽一真は本篇クレジットのみ。竹本泰志の正確な位置は赤羽一真と小滝正大の間に入るのと、脚本の筆鬼一は、鎌田一利の筆名。
 イラストの夕景に、最終的には意義はおろか意味から不明確―後述する―な、竹本泰志のナレーションが起動する。「これから御覧頂くのは、私が勤めるドラッグストアの店長の身に起きた、不思議な出来事です」。暗転して、何故かせゝこましく右隅に入れるタイトル・イン。結論を先走ると、全篇隈なく貫く不完全無欠の火蓋をある意味順調に、アバンで既に切つてゐた次第。
 作りものぽい笑顔で、康子(並木)がカレーの支度。居間では康子の夫で「ヤッホードラッグ」水木店?の店長・中岡雅夫(小滝)が、動画サイトで人気のロンリーイザキ行方不明事件を伝へる―声が赤羽一真―テレビ番組を見る。康子は元気に「いつたらつきまーす」、ところが中岡はといふとこの男何がそんなに不満なのか、のつけから1mmたりとて外堀が埋まらないまゝ、チョチョッと突いただけで御馳走様とスプーンを置く。こつちも、早々に匙を投げさうなんだけど。挙句、「もし突然僕がゐなくなつたらどうする?」だなどと途轍もない面倒臭さを拗らせる夫を、康子が一笑に付すカットを中途半端に切つた上で雪崩れ込む中岡家夫婦生活。初戦にして、映画が逆の意味で見事に詰む。全体小滝正大は、何時の間にそんな肥えたのか。強ひていへば童顔の範疇に納まりさうなルックスと元来の短躯とは親和性の比較的低い、だぶだぶに弛んだ醜悪極まりない腹周りに加へ、あるいは艶技指導の画期的敗北なのか、改めて見るに小滝正大が絡みすら下手糞すぎて、もうそもそも画としてもシークエンス的にも、おちおち女の裸も大人しく楽しんでゐられない。
 昼休みの往来にて、中岡が初恋相手のキリエ(二宮ひかりのゼロ役目)と交錯する、こゝは僅かに、後々夢幻が普通に回収される一幕を経て、康子は同窓会で帰省した週末。豪快にか臆面もなく夢でオトす―のが流石ではある―キリエとの騎乗位がてら、表(おんも)に出た中岡は再びキリエと邂逅。光の中に歩き去るキリエに誘ひ込まれた、ガード下で中岡も消失する。畳の上で意識を取り戻した中岡に、いきなり下着姿で迫つて来たキリエならぬキリコ(二宮)は、「貴方は私の処女を捧げる初夜権を与へられてゐるの」とか、抜いた話の底でジオセントリズムの天空を飾る史上空前の膳を据ゑる。
 配役残り、可児正光はキリコの下を逃げだした中岡が道を訊かうとする、エグゼイドな色合のニットキャップに、奇行に突入した挙動の著しく不自然な男。最終盤明かされるその正体が、蒸発したロンリーイザキ。長谷川千紗は、ロンリーイザキと中岡を争ふ、当初アグレッシブな痴女以外の何者にも見えない女。自室に連れ込んだ中岡を長谷川千紗が捕食しようとしたところ、「コラー!俺の女に何をするー」とクローゼットからの大登場を果たす、やぶれかぶれな勢ひと絶妙な間は確かに可笑しい安藤ヒロキオは、大阪万博の年に初夜権行使者に選ばれ、そのまゝ自らの意思で黄色い水を飲んだ男。そし、て。意表を突いて飛び込んで来る、枝葉の限りではあれ、見所は見所を担ふ飛び道具がかつてヒップホップ・シーンを人知れず駆け抜けた、孤高のラッパーその名もEJD。E J D、あのつべ探せばまだあんのかな。閑話休題、此彼の別に関しても後述する、彼岸では精々二三日の間、此岸では一ヶ月近く経過。“この人を探してゐます”と中岡雅夫を捜索する尋ね人の隣に貼られた、連続女性殺人犯―殺害犯でなく殺人犯と、赤羽一真は臨時ニュースを読む―手配写真が井尻鯛(a.k.a.江尻大)。如何なる瞬間に撮影されたスチールなのか、適度に憔悴した面相が何気に超絶。
 越した新居もとい珍居に通信回線が固定電話分さへ繋がらず、穏やかといへば穏やかな生活に暫し微睡む中、遠征に出張る気力も一時凍結し、外王でDVDを借りて来て済ませた加藤義一2020年第一作。上野では三月末に一旦封切つたものの、コロニャン禍の直撃を受け六月初頭に仕切り直しの再公開してゐる。先に触れた火の玉ストレートかノーガード戦法の夢オチを窺ふに、加藤義一の師匠筋は関根和美に求めるのが最適解であるやうな思ひも、この期に及んで過らなくもない。
 キリエとはあくまで別人のキリコが暮らす、中岡視点だと跨いだ先の彼岸が、二十一までに処女を喪失しない女は泡になつて消滅―昭和の特撮か―させられる、個々人のセクシャリティなり自己決定は結構ガン無視した、パラダイスなのかブルータルなのかよく判らない異世界。中岡―やロンリーイザキ―が元ゐた此岸を一方的にパラレルな認識で捉へ、劇中唯一開陳される基本法則的な説明原理が、誰でも手翳しで感知可能な類の“波動”とやら。長谷川千紗の素性も、社会的ないし強制的に水揚げさせられる女子をケアする、ヴァージン管理局職員。と、いふか。さういふ有無をいはさないシステムを採用してゐる以上、そこそこで納まらない一定数ヒトのメスが相当な若さで要は死ぬ、大概物騒な世界観に思へて仕方ないのは気の所為かしら。
 草臥れた中年男の前に、不意に現れた初恋の人―と同じ姿形の若い娘―が是が非でもバージンを貰つて呉れるやう乞ふ、空前絶後の麗しきファンタジー。の、筈なのに。説明無用、その道の絶対永年最強大家たるナベならば安普請にも映画初出演にして初主演、口を開くと正直覚束ないビリング頭のエクセスライクにも屈せず、精一杯ドリーミンなエモーションを撃ち抜いてみせたにさうゐない。新田栄でも、怠惰にせよ通俗にせよ主要客層の琴線を緩やかに撫でる、適度な湯加減の量産型裸映画に仕上げてのけた、かも知れない。尤も、今作の加藤義一はといふと、彼岸のキリコがのつけからグイッグイ半裸の無造作―初体験だろ、そこは恥らへよ―以前に、初期設定で中岡が抱へる寂寞の具体的な内実を一切描かない、一滴も血肉を通はせない箆棒な無頓着。そのため中岡が黄昏ミドルといふよりも、小滝正大の魅力に乏しいメソッドにも火に油を注がれ単なる自堕落な駄々オジ程度にしか見えず、越境といふ大飛翔に挑むどころか、日常描写の端から始終の首は一向据わらない。小滝正大の惰弱さ―と二宮ひかりの心許なさ―が右往左往ぶりを加速する、相当な尺を並行世界のエクスキューズに費やす割に、中岡が此岸から連れて来られた一種の選別が、純然たる波動マターなのか、それとも幾許かはキリコの任意も介在してゐるのか。話が進むにつれ、基本的な肝要に関し動揺を来す脇の甘さも看過し難い。長谷川千紗が遮る、中岡を見たロンリーイザキが呟きかけた「あんたもしかしてシン・・・・」と、安藤ヒロキオとの事後、キリコと中岡のファイルに目を通す長谷川千紗が洩らす「矢張り」。聞くから思はせぶりな台詞を投げるだけ投げておいて、その後全く顧みない豪放磊落な作劇には、この映画凄えな!とグルッと一周して吃驚した。万能薬的な錠剤で事済ます彼岸の食事に厭いた中岡―つかお前は食ふな―が、此岸から持ち込んだ手荷物なのか、ロンリーイザキのバックパックに入つてゐたパック飯とレトルトのカレーに舌鼓を打つ件。最初ブツを自ら発見したにも関らず、完食後の中岡がキリコに対し、「よく手に入つたね」と感嘆するプリミティブなちぐはぐさにも引つ繰り返つた、君等の脳は全員鳥か。つい、でに。中岡に浮世離れた若さを誇るヒロキオ(仮称)が、五十年といふ此岸時間を認識出来てゐる道理も地味に不明。異界描写が何が点いては消えしてゐるのかが実は結局謎な、無駄な点滅と適宜鳴らす波動音効の、二手で一点―にも満たぬ―突破といふのは兎も角、最重要な意匠である赤と黄二色の水がそれぞれ入れられた容器が、テイクアウト感覚のペラッペラな透明プラ容器といふのはどうにかならないものか。パッと見それなりに映る硝子のコップくらゐ、セリアでも売つとるぢやろ。際限がなくなるゆゑ、この辺りで等々。とかく、もしくはとまれ。地に足の着かない物語に、地に足着けて取り組む腹積もりの全く以て怪しい、ツッコミ処ばかり姦しい木端微塵も超え、最早死屍累々に近い始末。
 二宮ひかり二連戦と、止めに並木塔子。何処からでも締めを狙へる濡れ場を三撃連ねておいて、選りにも選つて後ろ二つを、呆然通り越して愕然とさせられる中途でブッた切る壮絶な体たらく。先に挙げた電撃のEJD除けば、正方向に見てゐられるのは長谷川千紗と安藤ヒロキオが、各々キリコと中岡のメンター的に機能するなかなかの構図と、中岡が想起する、キリエから恋文を手渡された美しく切ない思ひで。「ハイ」的に微笑んだ二宮ひかりが、両手でラブレターを差し出す画に傍から―多分KSUに―シャボン玉を吹かせる、懼れを知らないポップ感が火を噴くスーパー・ミラクル・エクストリーム・ショット。かれこれしてゐるうちに、来年で監督デビュー二十年。加藤義一は未だ、瑞々しい一撃必殺の切札を失つてはゐない。と最後は南風的にまとめかけて、余計な憤懣を思ひだした。三連撃一打目、キリコが自ら服を脱がうとするのを制止した中岡は、「服を脱がすのは男の役目だよ」。犬は当然見向きもせず、蛆も湧かないアナクロなマチズモは無論論外、また中岡がキリコを裸にする小滝正大の手際がぞんざいで、本来、猛然とアガッて行かねばならない流れで導入からグッダグダに失速する。兎にも角にも、監督と脚本家を抑へ致命傷の座に座る男主役が、一言で片付けると無様の限りで凡そ満足な体を成さない一作。かういふ時、誰しもが脊髄で折り返し脳裏に浮かべよう、なかみつせいじでは齢がオーバーランとする判断なのかな。

 気がつくと開巻の辞以来すつかり御無沙汰で、完ッ全に忘れてゐたタケレーションがラストでまさかの再起動。「お話はこれで終りです」、実際終るのだから、それはまあいゝ。ところが続けて「え、何で向かうの世界のことを知つてゐるのかつて?」、「それは私も同じやうに」・・・・言葉尻は、波動音が濁す。整理すると“これから御覧頂くのは―中略―不思議な出来事です”と、“お話はこれで終りです”しか語つてゐない主体が、何を知るも知らないも、何をいつてゐるのだか当サイトにはサッパリ理解出来ないのだが。当の鎌田一利と加藤義一を始め、大蔵の担当者も撮影前にゴーを出す出さないで、当然脚本には目を通してゐる筈。大の大人が何人も加はつてゐながら、どうすると斯様な雲も掴み損ねる頓珍漢が完パケで世に出てしまふのか甚だ理解に苦しむ。それとも、それもまたひとつの、映画の持つ魔性の形とでもいふのであらうか。


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 「愛憎のうねり 淫乱妻とよばれて」(2019/制作:加藤映像工房/提供:オーピー映画/監督:加藤義一/脚本:筆鬼一/撮影監督:創優和/助監督:小関裕次郎/録音:小林徹哉/選曲:友愛学園音楽部/整音:Bias Technologist/編集:有馬潜/監督助手:鈴木琉斗/撮影助手:宮原かおり/スチール:本田あきら/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:佐倉絆・涼南佳奈・里見瑤子・津田篤・柳東史・和田光沙・柳之内たくま)。見易くはあれ、市川崑ぽいクレジットが小癪でなくもない。
 白昼の広い通りに佐倉絆が一人で立ち尽くす、後述する前作ラストの画に「あの人はとうとう来なかつた」。オーラスの笑顔を引つ繰り返すモノローグから暗転しての三年後、佐倉絆が如何にも映えさうな食事を支度する台所。山宗をも捨ててなほ、再会した日夏優(柳之内たくまのゼロ役目)とは結局結ばれなかつた旧姓小川春美(佐倉)は、旅先で知り合つた江口輝久(津田)と結婚。輝久が大手保険会社で出世コースにも乗り、結構どころでなく恵まれた生活を送つてゐた。中途で済ます夫婦生活を経て、優が出て来る悪夢に春美が目を覚ます一方、一戸建ての江口家を、藁人形をポップに携へた里見瑤子の背中が見やる。翌朝、春美がゴミを出さうとするとどうかした勢ひで文字通り突つ込んで来る、左手が不自由な日夏亜子(里見)は越して来たてで分別のルールを知らなかつたものの、注意されると思ひのほか大人しく従ふ。明確に差のついた境遇に羨望を隠しもしない、同じ養護施設で春美と姉妹のやうに育つた浅井奏(涼南)の顔見せ噛ませ、春美は東京タワーを望む優との思ひ出を残すロケーションにて、髪の色と全体的にやさぐれた風情は異なれど、当然造作は優と全く同じ謎の男・日夏烈(柳之内)と交錯する。
 配役残り柳東史は、明らかに厄介な近隣トラブルに巻き込まれてゐると思しき春美に、レス・ザン・距離感で接する残念な町内会長・西岡。言葉を選べばエキセントリックが里見瑤子で飽和状態に達してゐる以上、この人の造形は別に普通でも構はなかつたやうな過積載は否めない。不意討ち感が抜群な、烈キックの呼び水といふ地味に痛快な要素さへさて措けば。それと東史×之内たくまのツイン柳共演作的には、山内大輔2006年第三作「レンタルお姉さん 欲望家政婦」(主演:姫川りな)以来実に十三年ぶり六本目、流石に今作で打ち止めか。
 ピンク限定でも八作前、薔薇族含めると九作前ともなる、2017年第二作「愛憎の嵐 引き裂かれた白下着」続篇の加藤義一2019年第四作。この度うねりが、嵐をどの程度振り返るものかとの疑問を懐いてゐたのが、限りなく一切顧みないノーガード戦法には正直吃驚した。率直なところ当サイトも覚えてをらず、サブスクで復習した結末を主に掻い摘むと、大概壮大なフェイクで春美から優を強奪した、日夏郁子(和田)が自身の左腕を本当に破壊しようとした乱雑なものの弾みで、優は郁子に刺される形で絶命。郁子にも、有能な上司に対しピリオドの向かう側に跨いだホモソーシャルをかねてから滲ませてゐた、橘秀樹の凶刃が振り下される。なので全部捨てて優と駆け落ちる心積もりの、春美はエターナル待ち惚けを喰らはされたといふ次第。
 春美の前に烈が現れる、同じ顔をした男サスペンスが気がつくと里見瑤子が根こそぎ通り越して地殻ごと持つて行く、隣人スリラーに変つてしまふのはそれでもまだ御愛嬌。一旦話を変へて裸映画的には、特に涼南佳奈を誰が介錯するのかが全然読めなかつた、二三番手は力任せの一発勝負で振り逃げつつ、ビリング頭の裸は輝久が呑気に眠る傍ら、自撮りを烈に送信させられる案外目新しいシークエンスまで含め、質的にも量的にもふんだんに愉しませる。問題が、矢継ぎ早に二三番手を片付けた余勢でそのまゝ突入する、空前に壮絶な木端微塵。そこはせめて姉だろ!な二親等のバーゲンセールから、紙より軽いドミノがバッタバッタ倒れて行く終盤はある意味圧巻。階段落ちと屋上墜ちの本来あんまりな二連撃が意外と一息に見させるのは、発狂した里見瑤子が何故か口裂けゾンビに変身する、アメイジングな飛び道具の力も借りての妙手なのか。妙手?珍妙な手法を妙手とはいはんぞ。主演女優の引退も既に発表されて久しいといふのに、よもやまさかの第三作に含みでも残したつもりなのか、それでゐて二親等ズの存否を濁す辺りとかこの際逆の意味で完璧。二度目のコンタクトで大絶賛和姦をしかも中に出して執り行つた春美と烈が、事後テレパシーで会話した挙句、“だ”と“ら”と“く”を一文字づつ打つた末に、清水大敬よりも馬鹿デカいフォントで“堕落”と極大スーパーを撃ち抜いてみせる明後日か一昨日な荒業も、当然忘れてはならない。“百点満点で零点”といふよりも寧ろ、“百点満点の零点”映画。加藤義一が近作比較的安定傾向にあつただけについうつかり油断してゐたところが、久々に浴びた鮮やかな破壊力、断じて褒めてはをらん。それでも漫然としかしてゐない映画と比べれば、ベクトルの正負はさて措き徒に絶対値だけは大きな分、まだしも取りつく島があるやうにも思へかねないのは、純然たる錯覚にさうゐない。ついでに撮影部が総じてはキメッキメのショットをそこかしこで放つ反面、最初の春美・ミーツ・烈と烈の奏急襲に、最後に春美が慄く郁子の幻影。往来を完俯瞰で捉へられるカメラ位置が余程気に入つたのか、同じ画角を都合三発繰り返しては、流石に画の底も抜ける。腐してばかりでも何なので正方向の見所も拾つておくと、熊さんが転んでゐたりお人形が大股開いてゐたり、あるいはソファーがボッロボロであつたり。異常性を何気に表する亜子宅の美術と、前世紀のデビューから二十余年、未だ草臥れた風情も見せず元気な里見瑤子。

 ひとつ形式的な疑問が残るのが郁子と烈は兎も角、亜子まで日夏の不可解。優が婿に入つてゐた場合今度は不可解が烈に移るが、今回の復讐戦に際して、亜子と烈は籍でも入れてゐたのであらうか。優と郁子が元々二人とも日夏?同郷かよ。あともう一点、春美を口汚く罵倒するビラが大量に貼付される、怪文書路地の件。どさくさに紛れて“ヨゴレマンk”がシレッと映り込ませてあるのは・・・・まあ、もしくはもういいや。


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 「濡れ絵筆 家庭教師と息子の嫁」(2019/制作:加藤映像工房/提供:オーピー映画/監督:加藤義一/脚本:深澤浩子/撮影監督:創優和/録音:小林徹哉/編集:有馬潜/助監督:小関裕次郎/撮影助手:赤羽一真/監督助手:高木翔/協力:鎌田一利/スチール:本田あきら/選曲:友愛学園音楽部/整音:Bias Technologist/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:古川いおり・神咲詩織・成沢きさき・竹本泰志・折笠慎也・深澤幸太・森羅万象)。
 ヒール舐めのチャイナドレスで飛び込んで来るのは、2019伊豆映画「5人の女 愛と金とセックスと…」(監督:小川欽也/脚本:水谷一二三=小川欽也/主演:平川直大)から二本続けての三番手。安住慎二(竹本)が“毎日一緒にはゐられない”仲の石田里奈(成沢)に、その代りと称した指輪を贈る。さういふ立ち位置を全く意に介さない里奈と、安住がいざオッ始めようとすると安住のスマホに着信が。安住からは切られ続けつつ、執拗に電話をかけて寄こす女の、左手薬指にも指輪が。半ば強迫的に四発目をリダイヤルする、古川いおりの軽く引いた背中にタイトル・イン。アバンで特筆すべきなのが成沢きさきの、事に及ぶと紅潮する表情が素晴らしい。ピンクを観てゐて何時まで経つても不思議なのが、本篇で動いてゐる方が全然可愛い残念なポスター写真。
 役所でぼんやり掲示板を見て回る前川修(森羅)に、息子から連絡が入る。息子夫婦の高志(折笠)と陽子(神咲)が来宅しての、前川の定年退職を慰労するすき焼き、美味しさう。遺影もスルーする前川の妻は早くに没し、多分高志は一人息子。池島ゆたか2018年第一作「だまされてペロペロ わかれて貰ひます」(脚本:五代暁子)以来の神咲詩織が、かれこれ五年目の六本目。加藤義一的には、2017年第三作「悶絶上映 銀幕の巨乳」(筆鬼一=鎌田一利と共同脚本)ぶり。実家での高志と陽子の夫婦生活を十全に撃ち抜いた上で、前川は何か働き口か習ひ事でも探してみるかと再び役所へ。職員改め期間の過ぎた掲示は絶対処分するマン(深澤幸太)が無下に捨てようとする、絵画家庭教師生徒募集の直筆ポスターを救出した前川は、ポスターだけ返すつもりで記載された番号にかけてみたところ、サックサク話を進めて来る相手の勢ひに負け受講する破目に。そんなこんなな家庭教師初日、前川家を訪ねたのは、大蔵美術大学美術学部絵画学科卒の藤村愛美(古川)。素人相手に、美術理論を割と容赦なくガチる最初の授業を経て、散歩する前川は愛美が安住に追ひ縋る、何処から見ても芳しくはない現場を目撃する。俳優部の戦歴最後、別に内トラで事済みさうな嫁の七光りは、加藤義一二作前の2019正月痴漢電車「痴漢電車 食ひ込み夢《ドリーム》マッチ」(しなりお:筆鬼一/主演:桜木優希音)エキストラの前となると、竹洞哲也2017年第五作「まぶしい情愛 抜かないで…」(脚本:当方ボーカル=小松公典・深澤浩子/主演:優梨まいな)まで遡る。
 初老の男が黒髪ロングの、オッパイに勝るとも劣らず御々尻が悩ましいウルトラ美人に惚れられる。加藤義一2019年第三作は、なかみつせいじの初期造形が不用意にクソすぎて、ファンタジーが初めから成立するに難かつた前作「人妻の吐息 淫らに愛して」(脚本:伊藤つばさ=加藤義一・星野スミレ=鎌田一利)の敗者復活映画。今回は見た目はガッハッハな森羅万象に案外ジェントルなキャラクターを当て、幸薄い情愛に拗れる女が次第に懐の広い男に惹かれて行く過程が、それなりに無理なく粛々と進行して行く。今回は今回で、幾ら竹本泰志の色男を以てしても、徹頭徹尾自堕落でしかない安住の姿に、何でこんなゴミのやうな男に愛美が斯くも依存するのかサッパリ判らない難問さへさて措けば。中盤暫し女の裸が途切れる大きな代償を払つての、丁寧に敷設した伏線が苛烈に交錯し全ての外堀が埋まる一幕は、必ずしも森羅万象に頼らずともビリング頭二人だけで成立させてのけた点まで踏まへ、裸映画から裸を引いたとてなほ大いなるドラマ上の見所。中盤が薄い分終盤怒涛のラッシュを仕掛ける濡れ場の、地味に高い完遂率も灯る程度に光る。そして決して粒が大きくはないものの、幹と枝のみであつたプラタナスに、実のなるエモーション。殊更ワーキャー騒ぎたてるほどではないにせよ、キャリア的にも加藤義一がこのくらゐ安定してゐて呉れるとひとまづ安心な一作。一般映画を横目で追ふ不誠実の以前に、絡みの淡白さを突いて行けば、別に竹洞哲也なら倒せないこともないやうに思へる。

 とこ、ろで。どうにも腑に落ちないのが、愛美がその日は前川を川原に連れ出してのスケッチ。傾いて潰れ気味なのは兎も角、前川がフォークを忘れた―皿もない―ケーキを、愛美はフロム・箱・トゥ・口でフィルムだけ剝いてガブリ。当然鼻の頭や口の周りにはホイップがつき、あら嫌だうふふふ的なシークエンス。個人的にはあり得ないとしか思へないのだが、何か?WAMの一環辺りで、世の中にはケーキを手掴みで食ふ女といふカテゴリーでもあるのであらうか。


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 「人妻の吐息 淫らに愛して」(2019/制作:加藤映像工房/提供:オーピー映画/監督:加藤義一/脚本:伊藤つばさ・星野スミレ/撮影監督:創優和/録音:小林徹哉/編集:有馬潜/助監督:小関裕次郎/監督助手:菊嶌稔章/スチール:本田あきら/協力:鎌田一利/選曲:友愛学園音楽部/整音:Bias Technologist/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:古川いおり・酒井あずさ・涼南佳奈・安藤ヒロキオ・櫻井拓也・竹本泰志《友情出演》・田中康文・広瀬寛巳・なかみつせいじ)。脚本の伊藤つばさと星野スミレは、それぞれ加藤義一と鎌田一利の変名。出演者中、竹本泰志のカメオ特記は本篇クレジットのみ。
 必ずしも朝ぽくはない風景を三枚連ね、頭側の壁には子供が描いた家族の絵も飾られたベッドで、小林しのぶ(古川)が目覚める。お弁当を作る手元はしのぶではなく、父親と二人暮らしの葉子(涼南)。しのぶの朝シャンで古川いおりの裸を一旦丹念に見せた上で、葉子の父親・大竹信次(なかみつ)がネクタイを結ぶ。しのぶがチャリンコで出撃して、黄バックのタイトル・イン。傾(かぶ)くでなくチャラけてみせるでなく、至つて粛々とオーソドキシーに挑んだ節ならば窺へる。結論を先走れば、別に成功したとは誰もいつてゐない。
 小出しされる情報を整理すると一切登場しない夫の不貞を理由―のひとつ?―に別居中で、今のところ未だ配偶者の手許にゐる息子・栄作(奇矯な眼鏡をかけたスナップの主不明)の親権を得るためにも、しのぶは就活センターに登録して職探し中。しのぶがセンターの職員A(竹本)の話を神妙に聞いてゐると、隣のブースから禿のB(田中)に大竹がキレる怒号が飛んで来る。人事を担当してゐた大竹は部下の首切りに厭き会社を辞めておきながら、その旨を葉子には打ち明けられずにゐるどころか、中高年再就職のビターな現実を直視すら出来ずにゐた。度々センターで顔を合はせるしのぶと大竹は、何となくもマキシマムに通り越し、何が何だかてんで判らないけれど兎も角遮二無二距離を近づける。
 配役残り、難航する就活と首を縦には振つてゐない葉子の恋愛に燻る大竹が、吸殻の山を築き情報誌を眺めてゐるのを優しく窘める酒井あずさは、十年前に死去した亡妻・弥生。工藤雅典大蔵上陸作「師匠の女将さん いぢりいぢられ」(2018/橘満八と共同脚本/主演:並木塔子)の前に、正式な三本柱となると山﨑邦紀2017年第一作「性器の大実験 発電しびれ腰」(主演:東凛)まで気づくと案外空いてゐる酒井あずさが、この人は樹カズ(ex.樹かず/a.k.a.小林一三)と同じく齢の喰ひ方を忘れてしまつたらしく、まだまだ全ッ然イケる、最前線で戦へる。絡み初戦を完遂したのち、大竹が寝落ちたソファーで我に返るのは綺麗な夢オチ。櫻井拓也は、フリーターゆゑ大竹が交際を認めてゐない、葉子の彼氏・岡倉勇、手前は無職の癖に。安藤ヒロキオは、しのぶの味方を装ふ義弟・良。状況の如何に関らず、万が一この人が亡くなるとピンクも同時に消滅するやうな気がする広瀬寛巳は、性の根を入れ換へた大竹が、漸く面接に漕ぎつけた会社の担当者、社長かも。
 城定秀夫の大蔵上陸作「悦楽交差点 オンナの裏に出会ふとき」(2015)から実に四年ぶりピンク二本目の、古川いおりを主演に据ゑた加藤義一2019年第二作。自身の2014年第二作「盗撮ファミリー 母娘ナマ中継」(主演:佳苗るか)以来の超電撃復帰を田中康文が遂げた何気に大きなトピックもなくはないものの、左背後から禿頭を掠める程度で、正直その人と識別可能な形で抜かれてはゐない。
 要はこれ百人この映画を観た人間のうち百五十人が同じ風に思ふにさうゐないが、少なくともミーツして二日目までは徹頭徹尾純然たる横柄でクソなプレ団塊ジュニアでしかない大竹に、しのぶといふか、より直截には古川いおりの方からコロッコロ惹かれて行くのが全く以て不完全無欠に理解不能。二人が互ひの―根本的に異なる―境遇に―便宜的極まりない―親近感を覚える契機―のつもり―の、“ブランク”とかいふ接着剤も、逆の意味で見事に木に竹すら接ぎ損なふ。一欠片の魅力も言ひ訳にも満たぬ方便さへあるまいと、兎にも角にもオッサンが黒髪ロングの麗しい、オッパイよりも尻がなほエロいしかも絶対美人に何故かモテる、何が何でもモテる。モテるべき理由の在不在などこの際関係ない、モテるためにモテる。主客層の琴線を激弾きする惰弱にして苛烈なファンタジーとしては酌めなくもないにせよ、その場合正攻法嗜好の落ち着いたドラマ作りが諸刃の剣以前の甚だ疑問手。師匠の新田栄ならば、潔く初めから底を抜いてみせたのではなからうか。ついでで些末な難癖をつけるやうだが、夜空の下で大竹がしのぶに「綺麗な星ですね」と声をかけるシークエンスは、そこは「月が綺麗な夜ですね」くらゐの漱石ライクな紋切型で切り出すのが、量産型娯楽映画らしい懐であるやうにも思へる。大絶賛堅調の酒井あずさ以外に唯一の見所は、極短の一回戦で欲求不満のフェイントをかけた上で、しのぶがサムシングに目を留めたカット跨いで突入する、質量ともに十全な古川いおりとなかみつせいじのエモーショナルな二回戦。を経ての、立ち尽くすしのぶからカメラが引くと、思ひ出のベンチに大竹が穏やかに座つてゐる見事なロング。たとへワン・ショットでも、一発でも撃ち抜いただけマシとでもいふことにして、今時のハイウエストに、激しく持ち上げられた涼南佳奈の腹肉に関しては見なかつたフリをする。

 ピンクに限らず著名なロケ物件なのか、チョイチョイ見かける喫茶店「マリエール」を、しのぶと大竹の買物デートで使用。


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 「痴漢電車 食ひ込み夢《ドリーム》マッチ」(2019/制作:加藤映像工房/提供:オーピー映画/監督:加藤義一/しなりお:筆鬼一/撮影監督:創優和/録音:小林徹哉/編集:有馬潜/助監督:菊嶌稔章/撮影助手:小関裕次郎・佐々木隆誠/撮影応援:宮永昭典/スチール:本田あきら/協力:江尻大/整音:Bias Technologist/選曲:友愛学園音楽部/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:桜木優希音・浅美結花・小滝正大・山本宗介・しじみ・櫻井拓也・泉正太郎・美泉咲/エキストラ:広瀬寛巳・山内大輔・柿原利幸・深澤浩子・深澤幸太・生方哲、他)。トップの広瀬寛巳だけはポスターにも載るエキストラの正確な位置は、泉正太郎と美泉咲の間。
 時差出勤でもしてゐるのか、然程でさへ混んでゐない通勤電車。OLの田倉ココロ(桜木)が、殆ど人間性を喪失した広瀬寛巳の電車痴漢を被弾する。声をあげられなずギュッと唇を結ぶ桜木優希音の表情が、的確に作られた効果的なクリシェ。見かねた渡瀬望(櫻井)が割つて入ると、ひろぽんは「許してー」とポップな悲鳴を残し逃走。追はうとした渡瀬の手首を、ココロは掴んで引き留める。暗転して、山なりに入るタイトル・イン。以降エキストラは、山内大輔が一番目立つ位置に座つてゐたやうに映る乗客要員。
 ココロと渡瀬は高校の同級生で、卒業以来の再会を思はぬ形で果たす。慌てて出勤するココロに対し、いいとこの大学は出たものの、社会に出損ねた渡瀬はその日も―多分バイトの―面接に落ちる。土曜日に約した再々会、“トッキュウ”こと銀二(小滝)に矢張り痴漢されるココロの姿に、喪つてゐた昂りを取り戻した渡瀬はランチをドタキャン。追ひ駆けたトッキュウに弟子入り、“ドンコウ”を拝命する。
 配役残り、ピンクに何だかんだ継戦してゐる八年目の泉正太郎は、ココロと同棲する秋庭広次、中華レストラン勤務。浅美結花が、一方渡瀬の彼女・清純友美、着物販売員。脊髄で折り返す威力の爆乳に勝るとも劣らず、濡れ場に突入したとて決して外さない、きちんと玉も入つたメガネがジャスティス。正しく原点にして至高たる、黒縁セルフレームのスクエアである点がなほ一層アルティメットジャスティス。ただココロと秋庭から結花と渡瀬に絡みを繋げる件は、渡瀬がトッキュウの手マンを想起する節は酌めるにせよ、そこは何はともあれドカーンとオッパイを、オッパイのドカーンとしたエモーションを飛び込ませるべきではなかつたらうか。荒木太郎2013年第二作「嫁の寝床 恥知らずな疼き」から、案外息も長くピンク六作目の美泉咲は相ッ変らず相手はココロのドンコウ初陣に介入する、謎の女・朝霧玲香。その正体はかつて「不死鳥の玲香」の異名も誇つたものの、痴漢の横行に乗客のガードが固くなり廃業したスリ師。変型ハムラビ論法で“痴漢には痴女を”を唱へ、トッキュウ一派を殲滅する仲間にココロを勧誘する。後述する第一次XX作戦、例によつてココロに痴漢するトッキュウの背後に、画面左手から玲香がグルーッと回り込む無造作なカットはもう少しどうにかならなかつたものか。自監督作だけでも、加藤義一は痴漢電車五本目だぞ。山本宗介は、ドンコウに続く新メンバー・宅間吾郎、ドンコウ二号を拝命。こちらはアイドルグループ「ローズナイト」の一員としてイケタクの愛称で知られたものの、ハニートラップに引つかゝつて馘、女への逆襲を誓ふ。正直、雑にチャラい造形―とダサ安い衣装―に足を引かれ、今回山宗無駄遣ひ。そしてしじみが、ドンコウ無印・二号のダブル昇格試験の標的に指定された、赤いマフラーを戯画的といふのが文字通り戯画的に―風もない車内なのに―なびかせた女・銀子。ついでに巨漢を活かした菊嶌稔章が、終盤渡瀬を取押へる乗客の一人に大登場。
 加藤義一にとつてはデビュー二年目の「痴漢電車 快感!桃尻タッチ」(2003/脚本:岡輝男/主演:佐倉麻美)、「痴漢電車 夢指で尻めぐり」(2010/脚本:近藤力=小松公典/主演:かすみ果穂)に続く九年ぶり三本目の、大蔵新春恒例正月痴漢電車。とこ、ろで。正月痴漢電車は確かに正月痴漢電車でも、小倉名画座が「痴漢電車 淫コースは夢いつぱい!」(2016/監督・脚本:小山悟/脚本:鬼多麿/主演:きみと歩実)のポスターを、表には貼り出してゐやがつたりする悪辣な羊頭狗肉、羊頭狗肉?公式サイトを信じ決死で木戸銭を落としたが、しまつた番組間違へたかと、落胆して踵を返してゐたらどうして呉れるのか。敷居を跨ぐ前から、ギャンブルが発生するのがピンクの小屋。場内では、苛烈なハッテンとの攻防戦が待つてゐる訳だが。一種の戦地に赴く、趣のスリリング。
 話を映画に戻すと、女を一人イカせる毎に百円チャージされる、“Eroka”―何故Erocaでないのかも不思議―なる画期的な謎システムの説明は豪快にスッ飛ばしてのけつつ、トッキュウ率ゐる痴漢軍団と、ココロを同士に迎へた玲香の激突。玲香が対Eroka隊に際し繰り出す、“XX(ダブルエックス)作戦”と秘儀“ハイパーオナッシュ”なる如何にも且つ魅力的なギミック。殊に一旦玲香が退場したのち、ココロが単独でのXX作戦敢行を決意する件は激アツ展開。そこに、平板な趣向をも櫻井拓也が持ちキャラで加速する、渡瀬の自分探しが加味されるとなると、栄えある正月痴漢電車に相応しい堂々とした娯楽映画、の目もなくはなかつた筈なのに。被痴漢部を設けず、延々性懲りもなくココロが痴漢に遭ひ続ける不自然通り越して流石にあんまりな安普請に、加へてレス・ザン・ゼロに貧しい美術。要所要所といふか、概ね全篇通して甘いどころか詰める意思さへ感じさせない漫然とした作劇は、結局は飛び道具頼みのルーティンかと、匙を投げかけさせておいて。一撃必殺渾身のロマンティックから、各々が穏やかにも力強く、それぞれの新しき日々に歩み入るラストは、たとへ大概な力技ではあれそれでも素晴らしい。決して全てとはいはないが、終りよければそれでよしの一作。オッパイの大きな黒縁メガネの彼女が、前科者の役立たずを待つてゐて呉れる映画ならではの美しいファンタジーが、さゝくれた魂を優しく慰撫する。


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 「白衣の妹 無防備なお尻」(2018/制作:加藤映像工房/提供:オーピー映画/監督:加藤義一/しなりお:筆鬼一/撮影監督:創優和/編集:有馬潜/録音:小林徹哉/音楽:友愛学園音楽部/助監督:小関裕次郎/監督助手:植田浩行/撮影助手:高橋草太/照明助手:赤羽一真/題字・食事:広瀬寛己/スチール:本田あきら/整音:日活スタジオセンター/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:桜木優希音・櫻井拓也・しじみ・松下美織・山本宗介・小林徹哉・小滝正大・広瀬寛巳・鯨屋当兵衛・なかみつせいじ《写真》)。出演者中、なかみつせいじは本篇クレジットのみ。キャスト・スタッフをそれぞれ一緒くた、しかも瞬間的な不親切仕様のクレジットは、サヴァンでもないと読めねえよ。
 川辺をチャリンコが、左から右に走るロング。内科と整形外科を診察する藤村医院、看護師生活をスタートする島崎絵里(桜木)が、イケメン院長の藤村光夫(山本)に御挨拶。今度は右から左に逆走して、多呂プロ感覚の、といふかそのものの子供じみたレタリングによるタイトル・イン。昔から謎だつたヘタクソ経絡図の主が、広瀬寛巳である事実がこの期に判明する。この期にもほどがあるのは兎も角、ところで今作の封切りは、昭和天皇に扮した新作ごと荒木太郎が封殺された事件の四ヶ月後。為にする勘繰りを憚りもなく吹くが、加藤義一なりの、出来る限りのエールであつたのであらうか。
 目下一人住まひの実家に帰宅した絵里が、新生活を報告する亡父の遺影でなかみつせいじが駆け抜け、患者が多くくたびれた藤村の肩を、絵里が揉んであげる一幕。「もつと下を」と乞はれた末にあれよあれよと尺八まで吹かされた挙句、人外に大量な顔射を浴びメガネを汚される。イマジンに絵里が囚はれる、加藤義一が関根和美の向かうを張る微笑ましいプチ見せ場を経て、大体藤村医院と自宅を往復する絵里が帰宅したところ、高校中退後家出、なかみつせいじが死去した際にも帰らなかつた姉の良絵(しじみ)が、不倫男に捨てられたと不意に戻つて来てゐた。
 配役残り松下美織は、藤村と二人分の弁当をチャリンコで買ひに出た絵里と、乗用車で交錯する中学時代の同級生・小笠原亜弓。お嬢様造形、といふか設定である亜弓の綽名はそのまんまお嬢で、夢見がちな絵里がファンタ。終盤桜木優希音の決定力で「悪い!?夢見ることが」なる出し抜けに熱の籠つた台詞も放つものの、妄想癖を夢想に捻じ込むならば別だが、劇中絵里が夢見がちである旨示す描写は特にない。それはさて措き、清々しく御都合、もといタイミングでその場に通りがかる櫻井拓也は、この人も中学の級友・正岡栄太郎。綽名はガリだが当然ガリガリのガリではなく、ガリ勉のガリ。イコール小関裕次郎の鯨屋当兵衛は、ギックリ腰の患者・小村。腰部に注射を打たれる小村の傍ら、絵里が「私も先生に注射されたい(*´Д`*)」と心中秘かに身悶えるのは、アッタマ悪いけどその分琴線にフルコンする名カット。量産型娯楽映画といふ奴は、そのくらゐでちやうどよいと当サイトは常々考へる。ダサさなり馬鹿さ加減の内側に、臆することなく飛び込んで来る瑞々しく弾けるポップ・センス。いよいよ以て、加藤義一がかつての輝きを取り戻しに来てゐるのは否み難いのでは。そして、ロマポの座敷童・コミタマこと小見山玉樹と並ぶピンク映画の妖精・広瀬寛巳が、右足を骨折した往診患者・横田、下の名前は彰司?絵を嗜み、モデルに応じる形で桜木優希音が色んなポーズの裸を大量に披露するサービス乃至ボーナスタイムに貢献。小滝正大は、この男もこの男で絵里が帰宅すると家に上がり込んでゐた、良絵の不倫相手で結局離婚した森潤一。何れにしても見切れる程度の役にせよ、名あり配役となるとピンク限定では何と“ジャスティス”四郎の「痴漢暴行バス しごく」(1998/脚本・出演・監督:荒木太郎/主演:河名麻衣)まで遡る―その後2002年に薔薇族の「天使が僕に恋をした」(脚本:後藤大輔/主演:今泉浩一)を挿む―小林徹哉は、栄太郎の旅館を営む父親・龍次。
 国沢組で精力的な大暴れを展開する桜木優希音が、初めて外征した加藤義一2018年第二作。至極当たり前の話でしかないのかも知れないが、監督が変れば印象もガラリと変るもので、ドヤァ!と威圧的な国沢実映画からは一転、フォクシーなおメガネもエクストリームに、晩熟で不器用なある意味恋愛映画の王道ヒロインに大変身。傍若無人な姉―と森―に業を煮やし、一晩転がり込んだ正岡旅館(大絶賛仮称)にて途方もない深酒を浴びてなほ、一升瓶を縫ひ包みのやうに抱へて離さない桜木優希音が、キュートでキュートであまりにキュートで死ぬかと思つた。良絵が最初に形作るひとつも恋が実らない姉と、恋ひとつしたことない妹の魅力的な物語は、公称Gカップのオッパイと―親の―財力とで藤村を籠絡する亜弓に地団太を踏む絵里に、栄太郎は気が気でない四角関係へと華麗にハッテンもとい発展。非現実的に底の抜けたシークエンスでさへ、妖精性を如何なく発揮したひろぽんが撃ち抜く確かなファンタジーで猛も通り越した爆加速。桜木優希音がメガネをかけてゐた方が数段可愛い、一旦平板か怠惰に嵌つたかに見せかけた最大の難点をも力技で挽回してみせる、かつ櫻井拓也でなければ形にし得まい、画期的にダサい告白からカット跨いで絡みに突入する繋ぎが兎にも角にも超絶完璧。麗しく大完遂したのちも尺を惜しまず、美しい劇伴の鳴る中チュッチュチュッチュ接吻を交し続ける二人。これよこれ、これが締めの濡れ場といふ奴だろ。濡れ場にエモーションの頂点を持つて来る、ピンクで映画なピンク映画の最も然るべき姿を、今回加藤義一は見事にものにしてのけた。2019年は九年ぶり三度目の新春痴漢電車も任された、加藤義一の復調傾向依然堅調。“しなりお”だとか肩書を穿つた脚本家がウザいか何か知らんが、冗談ぢやないぜ、全体何時まで名前で映画を観てゐたら気が済むんだ。


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 「さかり荘 メイドちやんご用心」(2018/制作:加藤映像工房/提供:オーピー映画/監督:加藤義一/しなりお:筆鬼一/撮影監督:創優和/編集:有馬潜/録音:小林徹哉/音楽:OK企画・友愛学園音楽部/助監督:小関裕次郎/監督助手:植田浩行/撮影助手:武藤成美・江尻大/スチール:本田あきら/録音所:シネキャビン/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:佐倉絆・初美りん・里見瑤子・櫻井拓也・可児正光・森羅万象・太三・柳東史/エキストラ:生方哲・中村勝則・松島政一、ほか計六名)。エキストラの正確な位置は、可児正光と森羅万象の間。
 アイドルグループ「ビザールキャッツ」の一員・此花美留(佐倉)の握手会風景。ここでエキストラが、概ね手元しか抜かれないアイドリアン要員。正直EJDまで含めた、演出部で別に事足りる気はする。粘着に手を放して貰へなくなつた美留は、大勢の手に全身を弄られるイマジンに突入。最終的には失禁にまで至るエクストリームな妄想癖が、美留の悩みの種だつた。そんな最中、髪の毛一本見せない事務所社長が借金を残しトンズラ。センターの座をちらつかされ保証人に座つてゐたゆゑ忽ち詰んだ美留は、ネットで見かけた安らぎと幸福感に満ちた生活を謳ふ、ドロップアウター支援施設「風李江館」のサポートスタッフ募集に応募。しようとクリックしかけたタイミングで、料金未納の電気を停められ部屋がブラックアウト。懐中電灯で浮かび上がらせた佐倉絆のションボリ顔を、左右から挟む形でのタイトル・イン。装ひを見るに冬なのに、冬でも日傘を手放さない美留がやつて来たのは、栃木と福島の境目ら辺の田舎駅。ほてほて風李江館に辿り着いた美留を、「やあ!こんにちは」と底抜けに明るい太三が、但し全裸で出迎へる。当然仰天した美留は、脊髄で折り返す妄想癖を発動させつつ、サッポロ黒ラベルを常飲する着流しの可児正光と激突して失神。介抱するかに見せかけて、魔女ルックの里見瑤子に奇態な呪文を唱へられるトリプルクロスな洗礼に、風李江館の主・勇崎大和(柳)が介入、美留の足は漸く地に着く。強い風に靡いた状態をキープする、勇崎のマフラーは全体如何なるメソッドで固定してゐるのか。
 配役残り、勇崎が改めて美留に紹介する風李江館の面々。太三が苦しくて服を着てゐられないレベルの裸族・ヒロミで、可児正光は労働を厭ひ昭和をこよなく愛する流銀太に、里見瑤子は魔女気取りのリナ。勇崎が遺産込みの貯金と賛同者の支援で運営する、風李江館の住人は更に二人。櫻井拓也が、鳥に憧れる通称トリオこと音更昭。勇崎とは、枝の上から飛ばした紙コップ糸電話でコミュニケートする。初美りんは、ガチ引きこもりの真鍋あんり、ポテチが常食。そして軽く問題の森羅万象が、美留を追ひ片田舎まで現れる借金取り。その場に流が駆けつけ対峙するや、シネスコ風に画面の上下を圧縮する外連まで繰り出しておきながら、立ち回るでなく―しかも遠出ロケで―何しに出て来たのかスッカラカンに判らない。
 渡邊元嗣をも歯噛みさせるにさうゐないレベルでタイトル・インが画期的に洒落てゐる、加藤義一2018年第一作。気がつくと、加藤義一の二十周年(2022年)もぼちぼち見えて来た。三つ下の城定秀夫がその次の年で、二つ下の竹洞哲也が更にその次の年。話を戻して怪人揃ひのファランジュだかアジールに、メイドコス以外の洋服を処分した、元アイドルが新たに加はる。何故それを最後に残しておく、一番金になりさうなのに。とまれ場当たり的に推移する漫然とした変人譚を、闇雲に乱打される藪蛇にソリッドなショットと、ダバダバなOK劇伴が彩る。大しても何も面白くない物語本体を、バッキバキに現在の画と昭和な音との水と油スレッスレの力技な折衷で首の皮一枚補完する。これで眠たくならないのが不思議な一作、かと思ひきや。トリオを扇の要に、美留とあんりがドア越しに交す会話でギリッギリ徳俵を堪へると、よもやに飛び込んで来る切札がまさかの糸電話!鮮やかな火蓋でハイライトを大点火、羽毛舞ふ初美りんと櫻井拓也の絡みは、ビリングをも破壊する勢ひの決定力あるエモーションを撃ち抜く。さうなると逆に、主演女優の締めの濡れ場が蛇足に堕しかねない危機を、救ふのはギアをトップのその先に捻じ込んだ、創優和のカメラ。的確なライティングでキメッキメに陰影をキメた上で、なほかつ佐倉絆の肌の質感を美しく捉へた画は、ハイキーなあんり×トリオとの対照も効いた一撃必殺の二発目。妄想癖の克服をシレッと差し込むのも心憎く、全く以て類型的なものともいへ、銘々が各々羽ばたく大団円も心地よい、案外よく出来た娯楽裸映画の、ワーキャー激賞するほどではない良作。竹洞哲也が山内大輔と無双する一方、OPP+にはお呼びのかゝらない加藤義一ではありつつ、前作の更に一歩前に踏み出した復調傾向は心強い。荒木太郎を事実上放逐し、ナベが何故か本数を激しく減らす本隊が脆弱化する中、加藤義一の存在に、俄かにスポットが当たつて来たのではなからうか。


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 「肉体販売 濡れて飲む」(2017/制作:加藤映像工房/提供:オーピー映画/監督:加藤義一/しなりお:筆鬼一/撮影監督:創優和/編集:有馬潜/録音:小林徹哉/音楽:友愛学園音楽部・OK企画/助監督:江尻大/監督助手:村田剛志/撮影助手:高橋草太・小山樹里/スチール:本田あきら/録音所:シネキャビン/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:きみと歩実・清本玲奈・和田光沙・橘秀樹・山本宗介・森羅万象・吉田俊大・広瀬寛巳・周磨要・あぶかわかれん・佐賀裕子・久須美欽一)。出演者中、広瀬寛巳から佐賀裕子までは本篇クレジットのみ。
 “元気一発!健康第一!リフレット!”がキャッチの栄養ドリンク「リフレット」の販売員・リフレディ―要はほぼほぼヤクルト―の月野ユイ(きみと)が、川辺をチャリンコで流し流し軽く自己紹介してタイトル・イン。得意先のマンションを回つてユイが帰社すると、オフィスには支店長の出口裕二(山本)唯一人。関根和美ばりにユイが出口とのオフィス・ラブのイマジンを轟然と膨らませる呼び水となる、「イケメンでせう」云々とカメラの方を向いて語りかける往年のといふか昔年のウノコー調は、グルッと一周しかねないくらゐに苔生したメソッドを、しかも全篇通し抜くでなく序盤で易々と放棄する。特徴的な割に徹底しないギミックといふのも、いい加減のいい加減さが量産型娯楽映画ぽくなくもない。ところで、あるいはついでに。ユイが夜学でフランス語を学んでゐるとかいふ設定には、枝葉も満足に飾らない程度の意味しかない。それとも何かな、この男が無粋なだけで、“外国語を勉強中の女”といふのは何気にひとつの成立したカテゴリーなのか?閑話休題、ところがお気楽なまゝ話は進まず。ユイが出口とゐられる何処そこ支店は、閉鎖の危機に瀕する営業不振に喘いでゐた。ユイの悪戦苦闘も実らない一方、出口はリフレットを18本飲みながら唱へると願ひ事が叶ふだなどといふ、豪快か他愛ない都市伝説をSNSで拡散する奇策を思ひつく。ツッコミ処は多々あれ、とりあへず過ぎたる有効成分が体に悪影響を及ぼしはしまいか。そもそも、一本100mlとしても1.8ℓだぞ。
 配役残りあぶかわかれんと佐賀裕子は、オフィスに見切れる二人とも同じやうなガタイのリフレディ要員、眼鏡かけてない方が多分あぶかわかれん。思ひだした、出口がオフィスで電話を受ける顧客の高橋は、竹本泰志にさうゐない。前作「悶絶上映 銀幕の巨乳」(主演:神咲詩織)のポスター出演を等閑視すると、加藤組出演は2009年第一作「祇園エロ慕情 うぶ肌がくねる夜」(脚本:岡輝男/主演:椎名りく)以来となる久須美欽一は、ユイの上得意で独身資産家の灘良作。左目が殆ど開いてゐない以外は、快調なコンディションを窺はせる。そして山宗よりもビリングの高い橘秀樹が、身の回りの世話―以上の意味合ひも込み―で邸に出入り、灘に可愛がられる便利屋の進藤龍彦。周磨要は、ユイに乞はれての灘の紹介が空振りする、澁澤商事社長の澁澤季弘。森羅万象も、平井に続きユイが灘の紹介で訪ねる、平井建設社長・平井淳。軽く夏井亜美(ex.桜井あみ)似の清本玲奈はユイが助言を仰ぐ、顧客であつた社長の玉の輿に乗つた先輩リフレディ・桃井紀子、旧姓清本。中盤まで温存されつつ、集中砲火的に潤沢な濡れ場を披露する。この人は決してデカさに頼るだけでない、お尻の綺麗さが素晴らしい。吉田俊大が、紀子に乗られた玉の輿・桃井哲夫。大胆にして秀逸な荒業で裸を飛び込ませた吉行由実2017年第二作「人妻ドラゴン 何度も昇天拳」(アクション監督・共同脚本:小田歩/主演:二階堂ゆり)をも易々と超え得る、圧倒的かつファンタなエモーションを爆裂させる和田光沙はネタバレ回避不可につきさて措いて、無体なオチ担当の広瀬寛巳は、哲夫の女癖の悪さに匙を投げた紀子が、他の女から相手にされないやう醜く老けるのを願つてリフレットを18本飲んだ結果、確かにその通り成就した姿。醜く老けたver.がひろぽんて、ピンクの妖精を捕まへてあんまりだろ(笑   >笑ふとるがな
 今時年四本と竹洞哲也に次いで重用される、加藤義一2017年最終作。竹洞哲也同様、生え抜きゆゑ当然の扱ひといへるのかも知れないが、それをいふなら国沢実や、大絶賛今をときめかない荒木太郎も同等なんだけどな。とりたてて腹を立てるほどの綻びもない反面、新味なり面白さも特にどころでなく見当たらない。この期に及ぶと案外珍しい、一山幾ららしい一山幾ら作かと高を括つて、ゐたところ。内輪的な小ネタかに思はせた、久須りん―と山宗に捻り出させた嘘から出た実―に実は周到に撒かせてゐた伏線が着弾するや。一気呵成に濡れ場に突入してゐればといふ心も残さないではないものの、史上空前の超奇襲を繰り出したワダミサ投入は、同時に多義的な一大妙手。単にスマートなだけでもなかなかないが、斯くも鮮やかなサプライズを弾けさせる三番手を、些かの誇張でなく観た試が俄かには出て来ない。ダッサダサにダサいプリミティブ極まりないシークエンスを、俳優部の決定力におとなしく委ねた無作為な演出が功を奏するクライマックスも締めの強度と輝きとに満ち、下手に映画を気取らず終始明るい画面の中で、きみと歩実の健康的な肌の美しさは映える。原因は未だに不明な、岡輝男が一線を退いて以降長く脚本家に苦労した加藤義一にも、漸くどころかやつとのことで光明が差して来たのか、ワーキャー騒ぐほどでも別にないにせよ、カト・ストライクス・バックを軽やかに告げる良作。何時の間にか気がつくと加藤義一も十五年選手を通過、ここいらで開けて呉れないと、困る以前に話にならないからな。
 和田光沙の配役は、進藤と結ばれたい久須りんもとい灘が、リフレット18本で女体化した良作改め良子


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 「悶絶上映 銀幕の巨乳」(2017/制作:加藤映像工房/提供:オーピー映画/監督:加藤義一/脚本:筆鬼一・加藤義一/撮影監督:創優和/録音:小林徹哉/編集:有馬潜/音楽:友愛学園音楽部/助監督:小関裕次郎/演出部応援:広瀬寛己/現場応援:鎌田一利/スチール:本田あきら/録音所:シネキャビン/仕上げ:東映ラボ・テック/協力:テアトル石和・甲斐銃介/出演:神咲詩織・ほたる・桃宮もも・櫻井拓也・ケイチャン・なかみつせいじ)。
 テアトル石和(山梨県笛吹市)の看板と無人の劇場内抜いて、「ブー」と上映開始を告げるブザーが鳴りタイトル・イン。若手女優・中西アヤメこと佐良ひとみ(神咲)と、PかDか判らんけど兎も角ギョーカイ人の島村泰(ケイチャン)との、いはゆる枕な濡れ場。射精時到底文字にはし難い奇声を発するのは、ケイチャン(ex.けーすけ)の地味に唯一無二メソッド。ケイチャンは加藤組初参戦かと思ひきや、前年お盆の薔薇族があつた。事後自身がシャワーを浴びてゐる隙の、島村の心ない態度にひとみは心を閉ざす。ひとみが小学生時代一年未満を過ごした石和の、最寄駅ではないがロケーションに富んだ春日居町駅(JR東日本中央本線)に、ホケーッと降り立つてクレジット起動。撮影部のセカンド以降がクレジットされないのは、連れて行つてゐないのか?
 ロビーにサインも飾られる杉本まこと、久須美欽也らと中西アヤメが出演した映画「北の梅守」(主演は名義を拾ひ損ねた和田光沙)上映中のテアトル石和に、ひとみは立ち寄る。一日の最終回上映後ひとみを見送つた、映画監督を目指し上京するも、挫折し郷里に戻つたテアトル石和従業員・福山一夫(櫻井)は、今のは中西アヤメではないかと首を傾げる。
 配役残りex.杉本まことのなかみつせいじは、糖尿病のフラグも抱へるテアトル石和支配人・犬塚道夫。支配人といふのは周囲の呼称に従つたものの、親爺から小屋を継いだ、この人正確には館主だね。国沢☆実2015年第一作「女弁護士 揉ませて勝訴」以来の爆弾復帰を遂げた桃宮ももは、大量のぬひぐるみで武装し自宅で福山を待ち受けるカノジョ・生田かおる、エキセントリックに福山を束縛する。ほたるはテアトル石和に日参する、犬塚とは長馴染でもある常連客・三条環。バツイチで、チョンガーの犬塚との仲を福山にやきもきさせる。齢をとるのは構はないが、見事でない三段腹は正直見るに堪へない。その他ひとみが働き始めたテアトル石和に現れる、テンガロンの客は甲斐銃介なのか、現地要員なのかは不明。
 一旦矢尽き刀折れた女優が、映画監督の夢破れた従業員と、風情豊かな小屋にて出会ふ。石を投げれば当たるレベルの類型的な趣向ともいへ、ピンク映画的には加藤義一が何かとな話題が早くもタイム・ゴーズ・バイしつつある荒木太郎の、映画館シリーズを事実上継いだ格好ともなる2017年第三作。ロケ先に加へる手間を潔く放棄したのかショート・レンジのリスペクトか、開巻から再三の看板に加へ電話口でも再四実名登場する舞台のテアトル石和は、残念ながら二月末で閉館してゐる。
 環と犬塚の他愛なくシネフィル臭い映画クイズよりも、福山がマウンティングぽくひとみに貸す映画感想ノートの方が断ッ然大問題にイタい、相互補完しながら並走する二つの恋路に、新味なり煌めきの欠片も見当たらなければ、踏み込みも全く浅い。さうはいへ荒木太郎の如く不要な意匠で始終を散らかすでなく、どストレートな物語をどストレートなまゝ撃ち抜いた愚直な映画館映画は、思ひのほか万更ではない。ところが今度はさうなると、特に今作の場合三番手が派手にハッチャけるピンク映画で、斯様に初心い恋愛模様を綴ることへの根本的な疑問も胸を過りかけつつ、演者の体に映写を当てての、スクリーン手前での濡れ場といふ裸映画ならではの一撃必殺スペクタクルが、質量のデカいエモーションを以てして些末な無粋を洗ひ流す。ダッサ過ぎるラストが、グルッと一周した清々しさに到達し得る一作。クレジットを頭で済ませ、ラスト・カットを四の五のいはさず振り逃げる戦略も、極めて有効なものに思へる。

 テアトル石和の銀幕に劇中映し出されるのは、和田光沙経由で加藤義一前作の「愛憎の嵐 引き裂かれた白下着」(主演:佐倉絆)と、feat.中西アヤメで前々作の「大阪お天気娘 半熟美尻コテ返し!」(脚本:後藤大輔/主演:神咲詩織)に、広瀬寛己の漁師が見切れるのは二人とは何の関係もないが、前々々作の「巨乳だらけ 渚の乳喧嘩」(2016/脚本:後藤大輔/主演:めぐり)か。和田光沙が軽快にチャリンコを転がす画が何の映画なのか辿り着けないのと、久須美欽一が登場するのは二人で架空映画「老人」のポスターもカッコよく飾る、今上御大・小川欽也の「昇天の代償 あなたのゐない夜」(2016/脚本:水谷一二三=小川欽也/主演:広瀬奈々美)。


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 「愛憎の嵐 引き裂かれた白下着」(2017/制作:加藤映像工房/提供:オーピー映画/監督:加藤義一/しなりお:筆鬼一/撮影監督:創優和/録音:小林徹哉/編集:有馬潜/音楽:友愛学園音楽部/助監督:小関裕次郎/監督助手:菊嶌稔章/撮影助手:佐藤雅人・三輪亮達/スチール:本田あきら/画面制作:植田浩行/録音所:シネキャビン/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:佐倉絆・和田光沙・早川瀬里奈・山本宗介・小滝正大・森羅万象・橘秀樹・バルカン・神崎由紀夫・柳之内たくま/ナレーター:工藤翔子)。実際のビリングは、神崎由紀夫の次に工藤翔子が来て柳之内たくまが大トメ。
 背景に夜の東京タワーと、「愛とは優しく甘美なものばかりではない」云々と工藤翔子の―中身が―適当なナレーションを背負つて、可憐に涙を零す佐倉絆と、立ち去る男の背中を抜いてチャッチャとタイトル・イン。数年後、イベント企画会社「オリオン企画」に勤務する小川晴美(佐倉)が、同僚の永田英二(山本)と、波は打たないが海らしい水際を歩く。藪から棒に水の中に入つた永田は、巻舌でがなるプロポーズ、春美も呆れるなり引くでなく快諾する。山宗にダサい真似させんなやと軽く頭も抱へかけたのは、後述するがそれどころではなかつた。ピンク映画的に極めて順当にして十全な春美と永田の婚前交渉と、肘上まで覆ふ腕カバーをパージした、和田光沙左腕の大きな傷痕を慈しむ柳之内たくまのカット挿んで、結婚を報告された二人の直属の上司である陣内部長(小滝)は、春美に他社とのコンペを競ふ、大手スーパー「生越」の複合施設開館記念イベントを任せる。生越の担当者・八尋(森羅)に挨拶を済ませた春美と永田は、生越の社屋を辞したアメイジングなタイミングで、コンペを争ふライバル会社「パルイベント」の四谷蒼汰(橘)と、永田も顔を見知つてゐるほどの、パルイベントが対生越に関西支社から呼び寄せた凄腕プランナー・日夏優(柳之内)と鉢合はせる。誰あらう優こそが、アバンで突然春美の前から姿を消した元カレであつた。
 配役残り和田光沙は左腕が不自由な以前だか以上だか以下に、エキセントリックな優の妻・郁子。神崎由紀夫は、その他もう一名見切れるオリオン要員。早川瀬里奈は春美の幸せを妬んで永田に食指を伸ばす、フォクシーなオリオン社員・如月沙也。数年前、既に春美と交際してゐた優に岡惚れした郁子は、強引に一度限りのデートに漕ぎつける。問題なのが菊嶌稔章の変名のバルカンが、交錯した優にいきなり斬りつける圧倒的に御都合な飛び道具。その際郁子が優を庇つて左腕の機能を失する大怪我を負ひ、責任を感じた優は郁子と結婚した。とかいふのが、因縁のための因縁といふほかない、究極のお為ごかし感を爆裂させる春美と優の別れの真相。ところで森羅万象が、春美・永田との顔合はせだけに顔を見せる贅沢起用。
 デビュー以来のオカテルとのコンビを解消以降、諸々の脚本家の間を漂泊する加藤義一が、2015年第二作「巨乳狩人 幻妖の微笑」(主演:めぐり)から七作ぶりに筆鬼一=鎌田一利と組んだ2017年第二作。釣られた方が負けといふのは判つてゐるが、“しなりお”だなどと穿つた表記が洒落臭い。話を戻して今のところ2017年残り二本は、筆鬼一で固定してゐる。
 何はともあれ最大のトピックは、セットの案件なのかひとつひとつの既に結構な偶然が、更なる超偶然で衝突したものかは当然与り知らぬが早川瀬里奈と柳之内たくまの、それぞれともにナベシネマ2010年第二作「牝猫フェロモン 淫猥な唇」(脚本:山崎浩治)、2009年第四作「異常交尾 よろめく色情臭」(脚本:山崎浩治/主演:鮎川なお)以来の電撃復帰。当時から二の線なのか別にさうでもないのか微妙であつた柳之内たくまが、その間の加齢も伴ひ微妙ぶりを加速させる一方、なほ攻撃的に進化した風にすら映る早川瀬里奈は、胸の谷間から剥き身のチュッパチャップスを抜くアクションも披露しての大活躍。直球勝負の色仕掛けで男を支配することに全てを賭ける、煽情的にして苛烈な女性像を鮮やかに撃ち抜く。寧ろポジション的には三番手ゆゑの濡れ場が一度きりなのが惜しいくらゐで、アクシデンタルな最初で最後のピンク帰還といはず、旦々舎に参戦しての更なる華麗な女性上位の咆哮を見てみたいとさへ思へる。重ねて裸映画の裸に焦点を絞ると、佐倉絆に関してはビリングに違はず質量とも申し分なく、出演本数の割には案外久方振りな、和田光沙の本格的な絡みも見所。
 お話的には大仰さと陳腐さとを器用に正比例させた台詞が飛び交ふ合間に、無造作なシークエンスが積もつて山となる。この期な2017年にこれを撮る意義が個人的な素人考へでは甚だ不可解なコッテコテの昼メロは、俳優部に箍をトッ外させる捨て身の演出もある意味功を奏し、グルッと一周した一種の清々しさに突入してゐなくもない。下手な含みの持たせやうがキレの喪失に直結する、山内大輔風味のラストは考へものだが。とはいへどれだけ好意的な大甘の評価を試みるにせよ、一点だけどうしても筆を荒げざるを得ない。郁子が陣内宛の宅配便の形でオリオンに送りつけた、撮影時は夜の筈なのに何故か昼間の春美と優のキス写真を見て逆上した永田は、無断欠勤する春美の自宅に押しかけ犯す。その件、「俺の肉棒でアヌスもメロメロだぜ」、現代ピンク男優部希望の星たる山宗に、ゴミみたいな台詞吐かせてんぢやねえ!


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 「大阪お天気娘 半熟美尻コテ返し!」(2017/制作:加藤映像工房/提供:オーピー映画/監督:加藤義一/脚本:後藤大輔/撮影監督:創優和/編集:有馬潜/録音:小林徹哉/音楽:大場一魅/助監督:江尻大/監督助手:岡元太/撮影助手:山田弘樹/照明助手:小松麻美/スチール:本田あきら/録音所:シネキャビン/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:神咲詩織・里見瑤子・早瀬ありす・那波隆史・小滝正大・柳東史・大潮八朗汰・牧村耕次)。
 制作の加藤映像工房クレジットが上方に逃げるや、切りイカのもんじや焼きレシピ動画が飛び込んで来る。明けてスカイツリーを遠目に覗く隅田川、主演女優が如何にも上京したて風情で、「東京か、何や間抜けな街やなあ」と紋切型の憎まれ口を一吹き。舌の根乾かぬ内に、「間抜けは私か・・・・」と独り言ちた天満南(神咲)が、欄干に上半身を埋めてタイトル・イン。レシピ動画が後々の関西風広島風各お好み含め、過去に覚えがあるのかこれが普通によく出来てゐる。最後マヨネーズで一面真白にするのは、個人的には激越に辟易する悪手ではあるのだけれど。
 休業中のもんじや焼き屋「万きゅう」、床に臥せる店主の万鉄五郎(牧村)を、息子嫁のマチ子(里見)が口述筆記、息子については遺影も完スルーされる。さういふ関係に至る顛末は清々しくスッ飛ばした上で、二人は至極日常的な流れで義理近親相姦に及び、住み込み店員の、坂井八郎(小滝)が覗く。粉物の修行時代、大阪と広島に落胤があるとかいふ鉄五郎が、その子なり孫に「万きゅう」を継がせるといひだしたのに、自分に継がせるとした口約束を反故にされた八郎が血相を変へ思はず鉄五郎の居室に乱入。クロスカウンター顔射が双方向に誤爆するのは、実にピンク映画的なシークエンス。隅田川ほとりで、亡くしたか失くしたマチ子の娘に関する伏線を蒔きつつ、ほとぼりを冷ますマチ子と八郎の前に、大阪で鉄五郎が生ませた子の孫を名乗る天満南(神咲)が現れる。
 配役残り柳東史は、南に大阪を捨てさせる一因を担ふ不倫相手・武部彰。ホテルの一室より半歩たりとて外に出ない、作中唯一の純然たる絡み要員。那波隆史は、鉄五郎が南のお好み焼きを実食してゐる超絶のタイミングで「万きゅう」に到着する、広島からやつて来た自称鉄五郎の息子・呉昌造。変名臭を爆裂させる大潮八朗汰は、呉の往きと帰りにさして印象的にでもなく交錯する労務者風の男。呉に話を戻すと、広島弁自体がへべれけな以前に、普通に喋らせるデフォルトで正体不明の訛のある那波隆史に、方言を使はせるのは自殺行為だといい加減気づいたらどうなのか。早瀬ありすは、南が呉の宿に捌けた隙に、ぶぶ漬けで「万きゅう」を急襲するフロム京都の清水桃子。主がリタイアした「万きゅう」の敷居を、続々と各地のストレンジャーが上手い具合に跨ぐ方便に関しては、マチ子によるSNS拡散の一点突破で片付けられる。ところで神咲詩織は、ともに二年前で脚本は当方ボーカル(=小松公典)の小山悟単独第一作「ドM卒業 さよなら、ご主人様」(主演:佐山愛)・第二作「果てなき欲望 監禁シェアハウス」(主演)に続くピンク第三戦、加藤組次々作へとキャリア継続中。早瀬ありすは「桃木屋旅館騒動記」(2014/監督・脚本・編集:城定夫=城定秀夫/主演:西野翔)を覚えてゐなかつたが、今作を観ても思ひださなかつた。
 2007年第四作「浪花ノーパン娘 -我慢でけへん-」(脚本:岡輝男/主演:岡本優希)の如く関西ロケに出張るものかと思ひきや、舞台をもんじや焼き屋に設定し東京に留まる加藤義一2017年第一作。深澤浩子は三本で諦めたのか、前作に引き続き後藤大輔脚本となる割に、次作以降は性懲りもなく筆鬼一名義の鎌田一利と組んでゐたりもする。竹洞哲也も竹洞哲也なら、加藤義一も加藤義一でこの辺りどうにも厳しい。
 映画の中身に話を戻すと、一応後藤大輔らしい周到な力技が決まりはするものの、賑々しく大団円が完成するほどのカタルシスには遠い。鉄の裁断で鮮やかに退場処理したものかと思はせた三番手が、八郎の救済込みで美味しいところをカッ浚つて行くまさかの復活劇が作劇上唯一の見所。にしても、所詮は枝葉に過ぎぬことは論を俟つまい。プラスへの色気が芳しくない方向に転んでか、竹洞哲也なり加藤義一に中途半端に、あるいは中途半端な物語に拘泥する代償として、濡れ場さへもが疎かとなり万事休する傾向が否めない。田中康文は移籍組として一旦等閑視するにせよ、森山茂雄も完全に沈黙し、小山悟は機会を与へられず、江尻大に至つてはデビューすらしてゐない。本来ならば生え抜きの次代エース候補である筈にも関らず、仲良く燻る加藤義一と竹洞哲也を、外様の城定秀夫と山内大輔が遥か後方にブッ千切つて行く図式は如何ともし難い。いや別に、荒木太郎か国沢実がこの期に天下を獲つて呉れて全然構はないんだぜ。


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