「バツイチ熟女 盛りの色下着」(1994『離婚妻の生下着』の2012年旧作改題版/製作:シネマアーク/提供:Xces Film/監督:北沢幸雄/脚本:笠原克三/企画:業沖球太/製作:奥田幸一/撮影:千葉幸雄/照明:隅田浩行/音楽:TAOKA/編集:北沢幸雄/助監督:増野琢磨・瀧島弘義/撮影助手:片山浩/照明助手:藤森玄一郎/ネガ編集:酒井正次/効果:東京スクリーンサービス/出演:滝優子・小川真実・葉月螢・定井憲、他三名・野上正義・平工秀哉)。出演者中、他三名は本篇クレジットのみ。
スナック店主の山田敬(平工)と、新妻・沙織(葉月)の夫婦生活。情事の際には紫の下着でゐることを望む山田の意向には反し、沙織は赤い下着を身に着けてゐた。ベッドから離れた位置のコーヒーメーカー、宮付きのヘッドボード上にはハンドバッグ。カットが変る毎に結合部を巧みに遮るやう配置された、小道具の構成美が何気に麗しい。プーマのランニング・シューズでジョギングに汗を流す山田は、実家の北海道に戻つたものと思つてゐた、前妻・谷村美智子(滝)を発見、声をかけ結婚前よく使つてゐた喫茶店に。二人は山田が沙織と浮気した結果判れたものであつたが、歳の大きく離れた沙織との結婚を調子よく後悔する山田に対し、美智子も美智子で案外満更ではない風情を漂はせる。喫茶店と、近所のラブホテル。美智子に昔話がてら投げた二つの質問の矢継ぎ早に山田は、「今日の下着の色は?」。はにかむ美智子のショットを挿んで二人が連れ込みに入る一連の流れは、一般映画としては大雑把に過ぎたとしても、ピンク映画的には圧倒的に流麗。山田と美智子の元夫婦生活を経て、山田が店主のスナック「ピエロン」。カウンターには、常連の近所の店のママ・木村英子(小川)。ここで出演者他三名を整理すると、多分前述した喫茶店のウエイトレスと、「ピエロン」その他客要員×2。落ち着いた雰囲気の「ピエロン」に、タレントスクールに通ふ沙織と、レッスンを通してコンビを組む藤本尚樹(定井)が騒々しく来店する。店の空気を壊すだけ壊すと、具合の悪くなつた沙織は尚樹に送らせ身勝手に帰宅。挙句に、尚樹に求められるや最終的にはシレッと抱かれる。開店前の「ピエロン」に美智子が現れる短い件を噛ませて、英子は山田に相談を持ちかける。レース―下着―好きの方のパパさんが、最近勃たなくなつたとのこと。因みにSM好きの方のパパさんは、一昨年脳梗塞で死去。この辺りの、軽妙な遣り取りも地味に魅せる。「ピエロン」が苦しい時期には客を紹介して貰つた恩も持ち出された山田は、渋々文字通り一肌脱ぐことに。
野上正義が、例のレース好きの方のパパさん・堂島耕造。山田は英子の発案で、堂島の見守る前で英子を抱く羽目になる。それはそれとしてところが、英子とホテルに入る姿を、山田はこの年にオープンした「まんだらけ」の渋谷店から出て来た尚樹に目撃される。
北沢幸雄1994年第二作、jmdbに従へばデビュー十八年目ピンク映画通算第百十六作に当たる。それも勿論凄いがこちらはデビュー翌年の葉月螢も、来年で何と二十年選手だ。表情にはそれほどの変化は窺へないものの、流石に二の腕の細さは眩しい。それはさて措き、随所のスマートさが光る序盤。男女三番手を纏めて片付け、なほかつ終盤に繋がる充実した中盤、ここまでは全く磐石。己のことは棚に上げた一悶着の末に、沙織は尚樹とブロードウェイに逃避行。いよいよ山田と美智子の物語を、如何に畳んでみせるのかといふ期待が、いやが上にも高まる終盤、ではあつたのだが。派手に卓袱台を引つ繰り返してみせることもないとはいへ、美智子ダイアローグの一点突破で要は独り山田が全てを失ふ無体な着地点に落とし込む結末には、正直仕上げの甘い印象も禁じ得ない。但し、事後チャッチャと赤い下着に着替へた美智子から餞別代りに寄こされたものを、山田が呆然と手に提げる紫のパンティのアップに“完”が被せられる珍しいラスト・ショットは、唐突感をよりよく表現したものと思へば、それなり以上に秀逸ともいへるのかも知れず、元題の単刀直入さは堪らない。
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