真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「痴漢と制服」(昭和60/製作:獅子プロダクション/配給:新東宝映画/脚本・監督:片岡修二/撮影:志村敏雄/照明:石部肇/音楽:芥川たかし/編集:金子編集室/助監督:橋口卓明/監督助手:上野勝仁/撮影助手:佐久間栄一/照明助手:鎌田敏明/車輌:尾山宏伸/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:早乙女宏美・風原美紀・秋本ちえみ・狼狂二・石井一春・松尾幸則・笠原夢路・下元史朗)。
 学校帰り、喫茶店ショーウィンドウのパフェに見惚れる城北女子高制服姿のメグ(早乙女)に、ナンパ師(笠原)が声をかける。声をかけるのもそこそこに、ナンパ師はメグを物陰に連れ込み襲ひかゝる、インスタントにバイオレントにもほどがある。ナンパ師の肩をチョンチョンと突き、下元史朗登場。下元史朗は覚束ない背負ひ投げと正拳突きでナンパ師を圧倒、メグに軽く説教がてら復活して来たナンパ師の首筋に手刀を叩き込み仕留める。サラッと捌けた下元史朗は、定期入れを落として行く。それをメグが拾ひときめいたところで、堂々と布施明の「これが青春だ」実曲が正式主題歌感覚でスタート。定期入れを胸に抱くセーラ服のメグ全身を画面左に置き、右半分にドガーンと入るタイトル・イン。
 顧問・佐伯(下元)の指導の下、黒帯の黒崎(風原)と白帯三馬鹿(狼狂二・石井一春・松尾幸則)が稽古に励む共学校の柔道部道場。白帯三馬鹿の内、見るも鮮やかなキンキンの金髪ウルフカットが狼狂二であるのはまづ間違ひないとして、今でいふと銀冶ばりの小男は、多分石井一春。と、そこに、メグが佐伯に定期入れを返すのと本人公表六百五十円の御礼の品を渡しに現れる。実は佐伯に想ひを寄せる黒崎は、佐伯の周囲にチョロチョロ湧いたメグの存在が激しく面白くない。これは寮なのか?黒崎はシャワーを覗く三馬鹿を捕まへ、憂さ晴らしの酒盛りから軽めの4Pに流れる。「陵辱!白衣を剥ぐ」(1990/主演:橋本杏子)でも見覚えのある、やうな気がする殺風景過ぎる自室での佐伯一人の食事、異性愛に目覚めたメグが清算しようとする、百合の花を咲かせる同級生・倫子(秋本)との一幕を挿んで、柔道部の部活を他校の純然たる部外者のメグがのほほんと見学してゐたりもする中、終に黒崎は佐伯宅に突入。肌まで晒し告白するにも関らず、意気地がないのか清廉なのか、佐伯には拒まれる。失恋紛れにメグへの嫌悪を凶暴に拗らせた黒崎は、子分格の三馬鹿を巻き込み凶悪な一計を案じる。
 今後も月一の恒例となるのか否や、と注目してゐたが九月は組まれない、地元駅前ロマンのクラシック・ピンク三本立て、今回の御題は「新東宝名作痴漢特集」。稲尾実(=深町章)の「痴漢最終電車」(昭和53/脚本:池田正一)、滝田洋二郎の「痴漢電車 極秘本番」(昭和59/脚本:高木功)と上映順も公開順に並べられた、片岡修二昭和60年全八作中第七作。因みに、伝説の「地獄のローパー」シリーズ第一作「逆さ吊し縛り縄」次作に当たる。話を戻すと、俯瞰の画と迫真の演出を通して酷い目に遭はされたメグは、大胆にもといふか無謀にもとでもいふべきか、兎も角相手の土俵ならぬ畳の上に乗り柔道でのリベンジを期す。教則本と倫子を頼りにテレテレ特訓を始めたメグに、佐伯は力を貸す。カテゴリー上当然の潤沢な女の裸さへさて措けば、物語は綺麗過ぎるほどに青春ドラマのフォーマットを踏襲する。最終的に、素人が黒帯を見事投げてしまふのと、そもそもそれは反則ではないのか、といふ巨大な二つの疑問点は残るとはいへ、まあさういふ些末は気にしない。メグが柔道を始めるや、A面に続きB面の―布施明の―「貴様と俺」が臆面もなく鳴り始めるフリーダムな楽曲使用は、尻穴のナノな昨今の感覚からは衝撃的であると同時に、なればこそ展開をこの上なく的確に補強。転校し柔道部に入部したメグの、「今、柔道が最高にエッチ」なる講道館激怒必至のふざけた決め台詞が、底の抜けた始終をされども磐石の強度で締め括る。佐伯が親身に指南する寝技の数々を、メグはといへば一々セックスの体位に変換するシークエンスは、裸映画としては決定的なまでに秀逸。柔道ピンクといふユニークな素材に、正攻法で挑み成功を果たした快作。と、ここで終つても別に構はないのだが。“痴漢と制服”の“制服”にはいふまでもなく何の問題もない反面、女を暴力的にモノにしようとする、破廉恥漢ならば計四名出て来るものの、実は狭義の“痴漢”ないしは痴漢行為は本作中に一切存在しない。最も簡略にツッコむと、新田栄の「痴漢と覗き」か。


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 「痴漢最終電車」(昭和53/製作・配給:新東宝興業/監督:稲尾実/脚本:池田正一/企画・製作:伊能竜/撮影:志賀葉一/照明:出雲静二/音楽:芥川たかし/編集:酒井正次/記録:豊島睦子/助監督:西田洋介/監督助手:佐々木正人/撮影助手:榊原純二/照明助手:本木和夫/効果:サウンド・プロ/録音:東音スタジオ/現像:ハイラボセンター/出演:川口朱里・浦野あすか・沢木みみ・千葉久美子・滝沢秋弘・長友達也・佐々一平・仁科ひろし・小津貫一郎・陶清・久保新二・野上正義)。さあて、結構大変だぞ。出演者中、浦野あすかと千葉久美子に、仁科ひろしから陶清までもまだしも、まさかの野上正義が本篇クレジットのみ。代りに、ポスターには安田清美と三浦圭子の名前が、代りとは何なのか。沢木みみも、ポスターには沢木ミミ。企画・製作の伊能竜は、向井寛の変名。
 東京に辿り着いたのが深夜十二時を跨ぎ、中央線最終電車に滑り込んだ旨を告げるヒロインのモノローグを受けてのタイトル・イン。予備校に通ふ目的で上京したカズミ(川口)は、そこそこ実際の乗客もゐる車内、五人の痴漢軍団の手荒過ぎる洗礼を受ける。因みにカズミは、十八にして未だ男を知らなかつた。兎も角カズミは厄介になる、姉・アサコ(浦野)宅に到着、アサコの夫(久保)は、カズミの若々しい肢体にポップな下心を露にする。姉妹風呂を噛ませて、一体その時点で午前何時なのか、その日はアサコ夫婦にとつて“おつとめの日”。久保チンは頓珍漢なアクティビティを発揮、わざとカズミに覗かせるやう寝室の扉を開けた上で事に及ぶと、嬌声にも誘はれまんまと釣られたカズミは、姉夫妻のシックスナインに触発され自慰に耽る。男根と女陰をそれぞれ胡瓜と種類までは特定出来ぬが白つぽい貝とで表現する69描写は、実写版横山まさみちか。後日、予備校に行きもせずプラップラするカズミは、結果的には同様に東西予備校の予備校生であつた、パンタロンが眩しい前田シンイチ(長友)と出会ふ。モラトリアム感を爆裂させ二人で新宿で映画を観、軽く飲み食ひした後に、鴨が葱を背負つた格好でカズミは前田のアパートに。ラジカセからは庄野真代の「飛んでイスタンブール」実曲が堂々とほぼフルコーラスで流れる中、カズミは処女喪失。事後には吉田拓郎の「旅の宿」の、今度はカラオケが平然と劇伴面して披露される。因みに「飛んでイスタンブール」は同年の四月発売で、今作は八月封切りのお盆映画、ある意味仕事が速いにもほどがある。
 配役残り登場順に沢木みみは、持ち歩くスナップ写真をカズミには妹と偽る、前田二股相手。厳密にはカズミが二人目なので、本命彼女といふべきか。ところで浦野あすかといひ、眉毛が明らかに薄いのは当時の流行なのか?予備校に出て来ないゆゑ再び訪ねてみたアパートにて、前田と沢木みみの情事を目撃、傷心のカズミは自暴自棄に痛飲する。滝沢秋弘は、酔ひ潰れたカズミを夜の街で保護する、心優しき女装子・ジュン。ビリング推定で小津貫一郎と陶清は、双方国分寺在住といふので同じ電車に乗つた、カズミとジュンの前に現れる二人組の痴漢氏か、ともに人相は殆ど抜かれない。そのまゝカズミが転がり込んだジュン宅、野上正義は、新しくオカマバーを出店する御機嫌取りにジュンを抱かうとする―カズミは寝てゐるものと思つてゐる―通称“マスター”。その場に飛び込んで来る千葉久美子が、矢張り夜の女のマスター情婦。こちらもビリング推定で佐々一平は、最終盤でカズミの相手役を務める南城千秋似の三浪生か。となると、仁科ひろしが判らない。これといつた登場人物は、もう見当たらないのだが。
 先月の名作特選(緊縛特集)に引き続き、地元駅前ロマンが柄にもなく繰り出したクラシック・ピンク三本立て。今回は「新東宝名作痴漢特集」と銘打ち、「痴漢電車 極秘本番」(昭和59/監督:滝田洋二郎/脚本:高木功)・「痴漢と制服」(昭和60/脚本・監督:片岡修二)の二本と上映順も公開年順に並べられた、稲尾実(現:深町章)昭和53年全十八作中第十三作。尤も、場内は何時も通りに、あるいは何時も以上にハッテンハッテンしてゐたりはする。気を取り直して、お話としては、初心な娘が都会の波に文字通り揉まれ、効率的に女に成長する。如何にもなお気楽さが量産型娯楽映画の経験値で安定感に昇華する物語は、化粧越しに窺ふに、今の人でいへば吉井和哉のセンの滝沢秋弘の切ない熱演が胸を打つ、ジュンの刹那的な凶行をカズミがすんでのところで制する修羅場で頂点に達し、締めの三浪生パートでは若干モタつく。即ち勘所の位置がずれた詰めの甘い印象は、如何せん否めなくはない。代つて久保チンとガミさんの溢れる若さのほか目についたのは、麗しき時代の大らかさ。ラストの三浪生篇の冒頭ではモップスの「たどりついたらいつも雨ふり」のカラオケ、オーラスでは桜田淳子の「気まぐれヴィーナス」(昭和52)実曲を更に繰り出してみせるフリーダムな楽曲使用は現在の感覚では画期的にあり得ないが、営業運行中の実車輌内で相当な濡れ場を展開してみせる、撮影のブルータルさも凄まじい。男であるのを知り二人組痴漢氏が退散すると、ジュンは黒沢年男(現:黒沢年雄)の「時には娼婦のやうに」を口ずさみながらまるで勝ち誇りでもするかのやうに、そこら辺の一般客にガンガン絡む。そんな真似が許される昭和の懐の深さあるいはへべれけさは、世知辛さが臨界点に達しつつある昨今からしてみると寧ろ感動的だ。フリーダムさについて補足すると、久保チンがアサコの話にも耳を傾けず熱中するテレビアニメが、画面は「ダイターン3」なのに流れる主題歌は何故か「マジンガーZ」。この辺りの無頓着さも、グルッと一周して最早堪らない。

 アサコ主導で三浪生と個室に模した連結部分に陣取り、二人は本格的な一戦を交へる。そこまではブルータルの範疇として、扉越しに全裸で乳繰り合ふ二人―ここは流石にセット撮影か―の背後を、車窓から見えるものと同じ外景が流れて行く、闇雲な合成ショットは藪から棒なファンタスティック。実は二人と扉の方向がそれでは九十度この場合左にずれてゐる点に関しては、だからそんなところに立ち止まるものではない、野暮め。


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 「奴隷女子大生 腰が柔らかくなるまで」(1991『女子大生 奴隷志願』の2012年旧作改題版/製作:シネマアーク/提供:Xces Film/監督・脚本:小林悟/撮影:柳田友貴/照明:小野寺透/編集:酒井正次/助監督:青柳一夫・毛利安孝/メイク:権藤奈保子、他一名/製作進行:植田中/音楽:竹村次郎/スチール:佐藤初太郎/録音:銀座サウンド/現像:東映化工/キャスト:工藤ひとみ・吉永真弓・愛川まや・坂入正三・吉岡市郎・宝明晴彦・板垣有美・工藤正人・一の瀬まみ)。出演者中、吉岡市郎がポスターには吉岡一郎、撮影・照明部セカンドをクレジットの有無から拾ひ損ねる。
 男の口唇性行を、工藤ひとみが「やめて、もういゝは」と遮りチャッチャとタイトル・イン。京浜女子大学の女子大生・花輪いつ子(工藤)と、同じ大学生同士なのに何故かヒモ的ポジションにある、これで東海経済大学一の秀才らしい久米(坂入)の一戦と連動して、キャスト・スタッフの順にクレジット。明けて通学するいつ子の同級生・前島陽子(一の瀬)に、電話ボックスから飛び出して来た矢張り同級生の早川宏美(吉永)が接触、コンパニオンのアルバイトに行くだとか自堕落な理由で、現代史と英文の講義の代返を頼み込む。ベンチに座る、いつ子と陽子、それにもう一人の同級生・小柳まり(愛川)も顔見せしておいて、レクチャーもそこそこ床の間に突入する、いつ子と今度は『源氏物語』一辺倒の京浜女子大万年助手・名取千太郎(吉岡)の連れ込みにての情事。大体が、『源氏物語』の解釈を聞くのにホテルに入る必要が・・・・作品世界の追体験と思へばなくもないのか、ねえよ。サクサク舞台は移り、先般三人でのガールズ・トークの時点で名前も上つたスナック「シスコ」。当然、物件的には摩天楼となる。ここで板垣有美が、「シスコ」のママさん。カウンター席にはその他客要員が三人並ぶ―カウンター内にバーテンがもう一人―が、画が暗く、御大降臨は未確認。陽子とまりが飲むボックス席に遅れていつ子も現れると、三人の周囲を舐めながら一周する、薮蛇にアクティブなカメラ・ワークを柳田友貴大先生が御披露なさる。その要が特にはないやうにしか映らないが、さういふ些末は気にするな。更に続いて来店した名取が、三人の輪の中に招かれ一旦首を突つ込んでは直ぐに退席しつつ、単に同世代の男の子が頼りないといふだけのことに、“奴隷志願”だなどと闇雲な用語を持ち出すいつ子に対し、陽子は家庭訪問先の包茎高校生・中沢誠(宝明)を剥き剥き喰つてしまつた逸話を想起する。話が全然噛み合はないやうに思へなくもないが、だから些末は気にするな、一の瀬まみの絡みだ。ところで、誠のドリルを表現するために、張形を竹輪並みに分厚い皮で包んだ、パッと見正体不明―皮の厚さゆゑ亀頭の段差が存在しない―のモデルが登場する。一方、名取はコッソリ渡されてゐたメモにまんまと釣られ、何処ぞ207号室のまり宅をノコノコ訪問。いつ子同様、レポートと引き換へに女子大生を頂戴する。配役残り工藤正人は、誠の兄で東海経済大学四回生の仁。
 小林悟1991年全十七作中第四作は、如何にも御大らしい、最早清々しいまでの破壊力に打ちのめされる一作。力強い男からの一方的なリードを求める、一般的にはいはゆる征服願望とでもいへばよいのか、それをわざわざ“奴隷志願”と称した浜野佐知の耳に入れば激怒必至のメイン・モチーフは、散発的に触れるか撫でる如く振り回されるばかりで、深化させられるでは本当に一切全く一欠片たりとてない。文字通り矢継ぎ早に濡れ場だけはひたすらに連ね続けられる中、劇映画の起動に固唾を呑んで備へる卑しい心性を嘲笑ふかのやうに、最終的に煌くのはこの際輝かしいほどの物語の不存在。但し珠瑠美のやうに、余計な機軸が女の裸の鑑賞を妨げる訳では別にない。仕方がなくもないが以降を簡略にトレースしてみると、“奴隷志願”のいつ子が情けない久米に幻滅する件を短く挿んで、追試の陽子の代りに中沢家を訪れた宏美が、出し抜けに仁に犯された挙句にその場に誠も加はる兄弟巴戦。見知らぬ宏美を見咎めた仁が、「判つた、お前泥棒だらう」と襲ひかゝるのがケッサク。泥棒相手なら強姦が許されるのか、何時何処の国の刑法か。いつ子と陽子の“奴隷志願”談義を申し訳程度に噛ませ、何故か誠が陽子の追試を方便に207号室のまりを急襲。事前に話も通つてゐないのに部屋に上げた誠から出鱈目に迫られると、案外素直にまりは事に及ぶ。一方、海浜地帯の殺風景なロケーションを一人で歩くいつ子に、馬鹿デカい赤いコルベットを転がす仁が声をかける。ホイホイいつ子が車に乗ると、仁の下半身は裸で赤い花を一輪挿してゐるのみであつた。いつ子もいつ子でそれに乗りスカートを脱いだところで、実は仁と交友のある久米が路上に登場。コートを肌蹴ると、全裸で股間に矢張り赤い花をこの人は二輪挿したのみであつた、ギミックの意味が全然判らない。我々は碌に理解しもせず勝手にルーチンの権化扱ひしてゐるだけで、御大の作家性ないし感性に辿り着き得た者は未だ一人もゐないのではなからうか。久米も同乗し軽く走らせた上、停めた車中二人でいつ子を輪姦。相変らず粗い筋すら窺へぬ展開に幻惑されかけてゐると、後部ガラスに両手を突き逃げ惑ふ、一応憐れないつ子の姿を車外から押さへたショットに唐突極まりなく、もしくは容赦なく叩きつけられる“完”。

 完結してねえよ!

 いゝか覚えておけ、六十分経てば終る、それがピンク映画だ。さういふ、天からの雄々しい声(推奨CV:井上真樹夫)が聞こえて来さうな正しく紛ふことなき唯一無二の御大仕事。工藤ひとみと一の瀬まみを擁したのに加へ、馴染みは薄いどころか全然ないが吉永真弓と愛川まやも女優の粒としては見事に揃ひ、黙つておとなしく裸映画を眺めてゐる分には、抜群のテンポでザクッと観させる。
 もしかすると、全篇を貫いて響き渡るベートーベンの「第九」には、何某かのメッセージが込められてゐるものやも知れないが、もしも仮に万が一さうだとしても、そんなの高尚過ぎてもうどうでもいゝ、もとい知らないよ。

 純然たる私事と与太の付記< 前回御大戦に続き今更新で、ピンク映画の感想実質千本を通過した。ところで、現状小川欽也が御大で構はないから、小林悟は大御大で如何か


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 「バツイチ熟女 盛りの色下着」(1994『離婚妻の生下着』の2012年旧作改題版/製作:シネマアーク/提供:Xces Film/監督:北沢幸雄/脚本:笠原克三/企画:業沖球太/製作:奥田幸一/撮影:千葉幸雄/照明:隅田浩行/音楽:TAOKA/編集:北沢幸雄/助監督:増野琢磨・瀧島弘義/撮影助手:片山浩/照明助手:藤森玄一郎/ネガ編集:酒井正次/効果:東京スクリーンサービス/出演:滝優子・小川真実・葉月螢・定井憲、他三名・野上正義・平工秀哉)。出演者中、他三名は本篇クレジットのみ。
 スナック店主の山田敬(平工)と、新妻・沙織(葉月)の夫婦生活。情事の際には紫の下着でゐることを望む山田の意向には反し、沙織は赤い下着を身に着けてゐた。ベッドから離れた位置のコーヒーメーカー、宮付きのヘッドボード上にはハンドバッグ。カットが変る毎に結合部を巧みに遮るやう配置された、小道具の構成美が何気に麗しい。プーマのランニング・シューズでジョギングに汗を流す山田は、実家の北海道に戻つたものと思つてゐた、前妻・谷村美智子(滝)を発見、声をかけ結婚前よく使つてゐた喫茶店に。二人は山田が沙織と浮気した結果判れたものであつたが、歳の大きく離れた沙織との結婚を調子よく後悔する山田に対し、美智子も美智子で案外満更ではない風情を漂はせる。喫茶店と、近所のラブホテル。美智子に昔話がてら投げた二つの質問の矢継ぎ早に山田は、「今日の下着の色は?」。はにかむ美智子のショットを挿んで二人が連れ込みに入る一連の流れは、一般映画としては大雑把に過ぎたとしても、ピンク映画的には圧倒的に流麗。山田と美智子の元夫婦生活を経て、山田が店主のスナック「ピエロン」。カウンターには、常連の近所の店のママ・木村英子(小川)。ここで出演者他三名を整理すると、多分前述した喫茶店のウエイトレスと、「ピエロン」その他客要員×2。落ち着いた雰囲気の「ピエロン」に、タレントスクールに通ふ沙織と、レッスンを通してコンビを組む藤本尚樹(定井)が騒々しく来店する。店の空気を壊すだけ壊すと、具合の悪くなつた沙織は尚樹に送らせ身勝手に帰宅。挙句に、尚樹に求められるや最終的にはシレッと抱かれる。開店前の「ピエロン」に美智子が現れる短い件を噛ませて、英子は山田に相談を持ちかける。レース―下着―好きの方のパパさんが、最近勃たなくなつたとのこと。因みにSM好きの方のパパさんは、一昨年脳梗塞で死去。この辺りの、軽妙な遣り取りも地味に魅せる。「ピエロン」が苦しい時期には客を紹介して貰つた恩も持ち出された山田は、渋々文字通り一肌脱ぐことに。
 野上正義が、例のレース好きの方のパパさん・堂島耕造。山田は英子の発案で、堂島の見守る前で英子を抱く羽目になる。それはそれとしてところが、英子とホテルに入る姿を、山田はこの年にオープンした「まんだらけ」の渋谷店から出て来た尚樹に目撃される。
 北沢幸雄1994年第二作、jmdbに従へばデビュー十八年目ピンク映画通算第百十六作に当たる。それも勿論凄いがこちらはデビュー翌年の葉月螢も、来年で何と二十年選手だ。表情にはそれほどの変化は窺へないものの、流石に二の腕の細さは眩しい。それはさて措き、随所のスマートさが光る序盤。男女三番手を纏めて片付け、なほかつ終盤に繋がる充実した中盤、ここまでは全く磐石。己のことは棚に上げた一悶着の末に、沙織は尚樹とブロードウェイに逃避行。いよいよ山田と美智子の物語を、如何に畳んでみせるのかといふ期待が、いやが上にも高まる終盤、ではあつたのだが。派手に卓袱台を引つ繰り返してみせることもないとはいへ、美智子ダイアローグの一点突破で要は独り山田が全てを失ふ無体な着地点に落とし込む結末には、正直仕上げの甘い印象も禁じ得ない。但し、事後チャッチャと赤い下着に着替へた美智子から餞別代りに寄こされたものを、山田が呆然と手に提げる紫のパンティのアップに“完”が被せられる珍しいラスト・ショットは、唐突感をよりよく表現したものと思へば、それなり以上に秀逸ともいへるのかも知れず、元題の単刀直入さは堪らない。


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 「多淫な人妻 ねつとり蜜月の夜」(2011/制作:セメントマッチ・光の帝国/提供:オーピー映画/脚本・監督:後藤大輔/プロデューサー:池島ゆたか/シネマトグラフィ:飯岡聖英/サウンド:大場一魅・ハッピーターン『コスモス』/エディット:酒井正次/ミキシング:シネキャビン/タイミング:安斎公一/チーフAD:北川帯寛/助監督:畠中威明/撮影助手:宇野寛之・玉田詠空/現場応援:永井卓爾・広瀬寛巳/編集助手:鷹野朋子/スチール:津田一郎/現像:東映ラボテック/協力:清水正二・五代暁子・中川大資・千葉県夷隅市 ホテル バナナリゾートいすみ/出演:桃井早苗・野村貴浩・千川彩菜・岡田智宏・琥珀うた・久保田泰也)。
 化粧箱から張形を取り出し、タイトル・イン。
 淫靡に見え隠れする淫具の光、本格的な暗闇の中、女が張形で自慰に耽る。カーテン越し僅かに洩れる光の筋で、辛うじて女が主演女優であるまいかと酌めるとはいへ、流石に如何せん画面が暗過ぎる。比較的映写環境は良好な部類ではないかと思はれる、前田有楽の結構大きなスクリーンで観ても、殆ど何も見えない。情けないプロジェク太上映の小屋で観た折には、藤原健一の暗黒女囚映画「女囚701号 さそり外伝」(2011/主演:明日花キララ)に劣るとも勝らず見えないのではなからうか。話を戻して深夜、そこそこの洋風邸宅に、黒の目出し帽を被つた男が侵入する。ピッキングで鍵を巧みに開け、チェーンはニッパーで切断。家内には、既に物色された形跡があつた。男が二階の寝室に忍び込むと、尻を廊下側に向ける形で拘束された、全裸の肉感的な女が。混乱してゐるのか、手をこまねく男の存在も知らず、女は放屁と共に菊穴に埋め込まれたローターを排卵する。男は終に発情、女を抱き、待ち構へてゐたのか、女も喜悦する。一方洋館に、もう一人の目出し帽男(以下目出し帽男B、先に登場したのは目出し帽男A)が帰還。外出の目的は、切れてしまつたバイブの電池。後(のち)の一幕、電池の買占めを難じてみせる中途半端なアクチュアリティーに関しては、ここでは不問に付す。震災の影響を情事の火蓋を切るロマンティックな呼び水程度にしか捉へてゐない、工藤雅典よりはまだマシだ。目出し帽男Bが、放置する形で女を待たせてゐた二階寝室に戻り、双方同じ目出し帽をドンキで買つた二人の男は対峙、女は混乱する。目出し帽男Bが先に帽子を取り、前頭部のハートマークともみあげを一抓み残し残りは刈り上げた、凄い髪型の伸輔(岡田)は岡田智宏手持ちのメソッドでベソをかき始め、伸輔に貫かれてゐるものと思つてゐた、女・時雨ではなく照美(千川)は必死に弁明する。ところで千川彩菜(ex.谷川彩)的にはピンク映画出演は、厳密にはピンクではない「新・監禁逃亡」(2008/監督:後藤大輔/脚本:高木裕治・後藤大輔/主演:亜紗美)を挿んで、「後妻と息子 淫ら尻なぐさめて」(2007/監督:渡邊元嗣/脚本:山崎浩治/主演:真田ゆかり)以来。正直事前には一抹の不安も覚えたものだが、まあまあキープしてゐる方か。再度話を戻して、目出し帽男Aも帽子を脱ぐと、中からは普通に髪を精悍に刈り上げた、野村貴浩が現れる。八時間前:崖縁に停車した、吉行由実の「不倫密会 ふしだら狂ひ尻」(2011/主演:柳田やよい)でも見覚えのある―岡田智宏の愛車か―フォルクスワーゲン・ゴルフの車内。コソ泥カップルの伸輔と照美は、稼業に行き詰り車で海にダイブしての心中を決意するも、土壇場で伸輔が二の足を踏み、ひとまづその夜“最高の夜”を過ごすことに。再び現在時制、件のバイブは、現地調達したものだつた。「ここの奥さん、相当な好き者なんぢやないの?」と軽口を叩く伸輔に、野村貴浩は「妻のことを悪くいふな!」と言葉を荒げる。野村貴浩の正体は、当家の主人・森山泰三であつた。目出し帽男ABが鉢合はせる段では若干ゴチャつくものの、ここで伸輔・照美と観客を驚かす意外な真相第一弾は、素晴らしく鮮やか。一体全体何でまた、泰三は自分の家に忍び込むやうな複雑な真似を仕出かしたのか。
 再び八時間前:刑事志望の警察官である泰三は無人の森山家に帰宅、一人で任用試験面接のシミュレーションを始める。その過程で、泰三の妻は若い男との浮気に走つた旨が明らかとなる。十二時間前:泰三の妻・佳織(桃井)が、物憂げな風情で張形で自慰に耽る。一ヶ月前:佳織は、泰三が万引き現場を押さへた女と関係を持つてゐると告発する電話を、女の妹を名乗る女から受ける。消沈する佳織に対し、電話の主・春香(琥珀)は、通ふ夜学の多分同級生・哲也(久保田)とホテルにゐた。金髪チョビ髭が、久保田泰也に案外似合ふ。度々親身に補導する泰三に、実は好意を寄せる春香が佳織に嫉妬してゐるのではないかと哲也はカマをかけつつ、ともあれ一戦。事後哲也は眠る春香の携帯を勝手に触り、登録されてゐる番号から今度は泰三に、佳織の不倫を密告する電話をクロス。いふまでもなく、双方嘘である。
 古典落語の演目『芝浜』を大胆に翻案した人情ピンクの秀作、「となりの人妻 熟れた匂ひ」(主演:なかみつせいじ・冨田じゅん)でオーピー移籍による電撃復帰を果たした後藤大輔の、五ヵ月後といふ順調なペースでの2011年第二作。開巻は所々散らかりながらも、鮮烈な先制で序盤の主導権を握ると、森山夫妻の錯綜した物語を淡々と紐解く。男女三番手に濡れ場の合間に騒動の火蓋を切らせる人員配置は、凄まじく秀逸。中盤出し抜けに火を噴かせた、「コスモス」で点火した馬鹿騒ぎに乗じて泰三に衝撃の真意を告白させた上で、改めて森山夫妻のエピソードを静かに積み重ねて行く。緩急自在の巧みな構成を通して、最終的に名手・後藤大輔は、全体この縺れた夫婦に如何様な結末を用意するのか。粛々とした進行の中でも、静かな期待は次第に興奮に近い昂りにまで高まる。展開自体にドキドキするこの胸の高鳴りが堪らん、作劇の妙で見させる、魅せる傑作。と、大喜びしたまゝ筆を擱きたいところではあつたのだが。詰まるところが佳織の一方的なエクスキューズに頼りきりで辿り着く、甚だ捻りを欠いた落とし処には、落胆とまでは行かないが確かに拍子は抜かれた、着地が垂直落下に過ぎる。三組のカップル中唯一満足な形で退場するのは伸輔と照美のみで、重ねて贅沢をいふと万全を期した勧善懲悪としては、人騒がせな春香と哲也に軽いお仕置きのひとつくらゐは欲しいところでもある。一言で片付けるならば期待外れの一作、ともいへるものの、期待そのものの名残は決して悪いものではない。不思議と快い感触は残れど、再見した際には、コロッと寝落ちるやも知れない。


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 「イヴの寝室 和服妻は床上手」(2002/製作:ENKプロモーション/提供:Xces Film/監督:剣崎譲/脚本:木田梅太/企画:稲山悌二 エクセスフィルム/製作:駒田愼司/撮影:池田俊巳、他一名・木根森基/照明:北井哲男、他二名/助監督:西村恒光/ネガ編集:酒井正次/メイク:シェル/録音:立石幸雄《東洋スタジオ》/協力:スーパー25・ラボエンドレス・シグナルオート、他多数/出演:イヴ・鈴木敦子・麗華 大阪日本橋〈CLUB EAST〉所属・登米裕一・真木銀次・中井正樹・碇清彦)。藪から棒に大量な、情報量に為す術もない小生を嘲笑ふかのやうに、クレジットは名残も残さずに流れ過ぎて行つた。
 床一面を埋め尽くす夥しい数の携帯電話端末に囲まれ、和服の前を肌蹴たイヴちやんが官能的に横たはる。闇雲なショットにて開巻。着信した携帯のバイブの振動を、秘裂そして乳首に当てたイヴちやんが喜悦する痴態に続けてタイトル・イン。
 市野令子(イヴ)と弟子の田川智子(鈴木)が、五人の生徒要員に着物の着方を教へる着付け教室風景。通り過ぎても別に構はないが、一人正面を向き現に帯を締められる女の、妙なガタイの良さは一体何なのか、シルエットが箱ロボみたいだぞ。閑話休題、これから逢瀬だといふので慌ただしく帰りしな、智子は直ぐに使へる状態の、智子の希望で持たせる形の携帯電話を令子に渡す。帰宅後、令子は早速取説を紐解き悪戦苦闘、自宅の固定電話にかけてみて当然かかつたことに、イヴちやんが歓声を上げるシークエンスが微笑ましい。喜び勇んだ令子は、智子が設定しておいて呉れた短縮ダイヤルで今度は智子の携帯に電話をかけてみたところ、折悪しくその時智子は、出会ひ系で知り合つた杉山豊(中井)とラブホテルでSMプレイの真最中であつた。何処からアドレスが洩れたのかあるいは洩らしたのか、令子が携帯を触つてゐると、出会ひ系「ときめき出会ひメール」からのメールを被弾する。令子は、和服に興味があるといふ十九歳浪人生のメッセージに興味を持つ。煙草はロンピーの、歯科医院を開業する令子の夫・幸雄(真木)の顔見せ、大胆不敵にも二十八―今作封切り当時、神代弓子御歳三十八―と大サバを読んだ令子が、件の浪人生・西田怜とバッテリーが切れるまで長話に花を咲かせる件を経て、幸雄と令子が結婚式より帰宅する。一息ついてゐると、幸雄のクリニックで働いてゐた、旧姓吉沢か吉澤新婦の岡部か岡辺由実(麗華)から電話が入る。無駄筆を滑らせるとイヴちやんよりも余程達者な、夜の蝶にしては全く滞りない麗華の台詞回しは、これはことによるとアテレコであるのやも知れない。すると傍らの夫・研一(碇)が憚りもなく由実の体に手を伸ばし、令子と幸雄を苦笑させる新婚初夜と、市野夫妻も触発された格好の夫婦生活二連打。常識的には少々強引な導入ともいへつつ、三番手の濡れ場の火蓋に鈴木敦子に引き続き携帯電話を絡めてみせた構成は、それはそれとしてそれなり以上に秀逸。終に西田(登米)と実際に会つた令子は、一週間後二度目のデートでは早くも一人住まひの西田宅に。令子からチャッチャと服を脱ぎ始め事に及ぶと、二人は忽ち関係を深めて行く。
 剣崎譲通算十五作目にしてピンク映画最終第八作は、御馴染みENKイヴちやん映画。劇中令子が自ら認めるやうに、夫との生活に何ら不足はない、世間的にも間違ひなく恵まれた部類に入らう人妻が、偶さかな若い男との出会ひと情事に溺れる。元々が都合のいい自堕落な出発点であるのみならず、以降も効果的な展開の手数には清々しく欠く。かてて加へて、間に“根”の入る偉大なる大女優イヴちやんを、本来ならばサポートすべき男優部の布陣も、一連を通して顕著な特徴と片付ければ実も蓋も無いが、如何せん箸にも棒にもかからず薄い。兎にも角にも、令子の介錯を中終盤主に一手に引き受ける西田役の登米裕一の覚束なさは致命的。となると後は、下手に生真面目に劇映画として取り合はうとすると、漫然と眠気を誘はれるばかり。ここは腹を固めて、おとなしくイヴちやんの裸のみに全てのエモーションを集中するのが吉、とでもしかいひやうのない一作。周りでチョロチョロしてゐる小僧のことは、黒子くらゐに思つてしまへ。


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 「OL適齢期 おしやぶり同棲中」(2011/製作:加藤映像工房/提供:オーピー映画/監督:加藤義一/脚本:百地優子/脚本協力:近藤力/撮影監督:創優和/編集:有馬潜/音楽:レインボーサウンド/助監督:川島創平/撮影助手:酒村多緒・高橋舞/監督助手:田口敬太/音響効果:山田案山子/協力:上野オークラ劇場・江尻大・小山悟/挿入歌『青葉丘高校校歌』作詞:田口敬太 作曲:與語一平/出演:あずみ恋・酒井あずさ・しじみ・津田篤・サーモン鮭山・倖田李梨・広瀬寛巳・岡田智宏)。脚本協力の近藤力は、小松公典の変名。
 らしからぬ微妙にアンニュイな雰囲気の、OLの相沢美沙子(あずみ)と高校時代憧れの恩師・嶋雅之(岡田)のラブホテルでの逢瀬。雅之に跨つた美沙子が、可愛らしく自分からチュッと接吻するのに合はせてタイトル・イン。
 目下教職は辞し、どうやら順調な状態ではないらしい雅之と美沙子の一戦経て、若干時制の遡る美沙子の現況。何処まで本気なのかプロではないが小説を書く木下健(津田)と、美沙子は同棲してゐた。万事に自堕落な木下に、倦怠期も通り越した嫌気を美沙子が覚えつつあつたある日、美沙子に母校青葉丘高校の同窓会通知が届く。ダメ社員の小松公典と加藤義一がダメダメにバレーボールに戯れる上野オークラ旧館屋上、先輩OL・藤井亜美(しじみ)の顔見せ挿んで、ゲームに明け暮れる木下に愛想を尽かした美沙子は、行き先も告げずに郷里に帰る。地元の居酒屋、フレームに入る同窓生要員は美沙子のほかに三人。誇らしげに結婚報告をぶち上げる、目鼻立ちのクッキリとしたナオミ役が、何と脚本を担当した百地優子御当人であるとのこと。短い出演時間とはいへ、全くそつのないお芝居は天晴。ケツメイシのやうな男二人は、定石で考へると演出部動員か、こちらも手堅い内トラぶりを披露する。食傷気味にその場を中座した美沙子は、遅れて現れた雅之と廊下で八年ぶりの再会を果たす。そのまま二人で会場を離脱、開巻に連なるといふ寸法である。
 サーモン鮭山は、図らずも亜美が実況してしまふ格好となる、不倫相手・野村義也。今更何だがこの人の、白ブリーフと裸ネクタイの似合ひぷりは尋常ではない。プログラム・ピクチャーの枠も飛び越え、日本映画界随一ではなからうか。画面映えのする大柄な体格といひ、何より絶妙に愚鈍に見せる表情が絶品。ラブホを経て、美沙子はマンション高層階の嶋家に招かれる、家内は荒れてゐた。雅之は手を上げた女生徒に怪我を負はせ、校長(広瀬)と二人で母親(倖田)の下に謝罪に向かふ。帰路校長に辞意を伝へた雅之は、帰宅後美し過ぎる妻・陽子(酒井)の問ひかけにも応じず、ノー・モーションで衝動的にベランダから身を投げる。奇跡的に一命を取り留めはしたものの、雅之の心は壊れ、そんな夫との生活に疲れた陽子は、家を出て行つたものだつた。
 ハンドルネーム“もち”としての活動も知られる女流ピンクス・百地優子の処女脚本にて挑んだ、加藤義一2011年第三作。折角前作「極楽銭湯 巨乳湯もみ」(脚本:近藤力/主演:Hitomi)で持ち直したのも正しく何処吹く風、相も変らず加藤義一はマトモな職業脚本家と組む気はないのか。と、事前には匙も投げかけたが、実際に観てみると、充実したキャスト陣にも支へられ木端微塵と頭を抱へるほどには酷くはない。尤も、徒な雅之の心の闇。小説も嗜む普通のホワイトカラーを、ダメンズと称する辺りから土台弱いのだが、さて措き木下の創作を、意外と応援してゐたりもする美沙子の健気な姿。そして何より最も大概なのが空前の唐突感を爆裂させる、何時の間にか双方納得済みで宿してゐた新しい命。出し抜けに次ぐ出し抜けが、木に竹を臆面もなく接ぎ続けるちぐはぐさは顕著。探偵小説ならば重要参考人や真犯人が、次から次へとコロッコロ新登場するやうなものだ。劇の進行は、トッピングを乗せることとは訳が違ふ。その為、加藤義一の地に足をつけた語り口に一見騙されかねないが、終始始終の心許なさは看過し難い。元鞘を二本並べる物語の落とし処は形式的には順当なものであるともいへ、その実は肝心のヒロインが然るべき着地点に帰還する段取りは、清々しく安定しない。ここは小松公典の要らぬ横槍を見るのが正解であるのかも知れないが、雅之と、陽子の影に身を引く美沙子との別れ際。“前に逃げろ”だ“鍵は開ける為に”だのと、血肉の通はぬ臭い思ひつきを思ひ出したやうに振り回してみせるのも鼻につく。エンドレスの全盛期を驀進する酒井あずさを筆頭に、三本柱の粒は決定的に揃つてゐながら中途半端甚だしい生煮える物語が、女の裸を素直に眺める愉楽をも妨げる。
 そもそも、素人もとい新人脚本家の発掘・育成は目下のピンク映画を巡る閉塞感に危機感を抱いた加藤義一の発案に、小松公典が乗つた形とも伝へられるが、現状認識とそれを打破しようとする意識までは兎も角、そこから先の方向性を根本的に間違へてはゐまいか。土壇場の正念場であるが故に歴戦のプロフェッショナルが持てる技術と培つた経験との全てを注ぎ込み、なほかつ決死の情熱でその向かう側を目指す。一撃必殺を期した大正面戦をこそ展開してみせるべきではないのか、この期に及んで下手な博打を打つてどうする。屈折した消極性が透けて見える、とまでいふのは些かならず言葉が過ぎるにしても、意欲の空回りが、最初から釦を掛け違へた印象は強い。更に個人的な選好としては、結婚適齢期のOLの心情をセンシティブに描くやうなお話は吉行由実―か対抗で森山茂雄―に任せ、薮蛇な雅之のダークサイドに際しては、こんなホン国沢実にでも渡しちまへとさへ思へた。加藤義一には、新田栄温泉映画の系譜を継ぐ能天気で案外実直な南風系の娯楽映画を望みたく、一般的にもこの国丸ごとが万事に手詰まる中、さういふ束の間の御陽気な慰撫は、実は決して時代性を等閑視したものである訳ではない、とも目するところである。


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 「痴女の本能 凄まじい性反応!」(1993『巨尻折檻』の2012年旧作改題版/製作:旦々舎/提供:Xces Film/監督:浜野佐知/脚本:山崎邦紀/撮影:河中金美・田中譲二・難波俊三/照明:秋山和夫・宮田倫史/音楽:藪中博章/助監督:女池充/制作:鈴木静夫/ヘアメイク:小川純子/スチール:岡崎一隆/出演:小野なつみ・早乙女宏美・RAY・杉本まこと・樹かず・栗原良)。
 画よりも先に鞭による打撃音から入り、赤のビザール衣装を身に纏つた小野なつみが折檻される、イメージ風のサドマゾにて開巻。前後に赤い花を挿した尻を、鞭打つストップモーションに合はせてタイトル・イン。
 明けて浜野佐知自宅での、短歌会の同人風景。同人誌『木蓮神話』の発送作業に精を出す高畠登美子(小川)と柳美沙緒(早乙女)を、主宰の塚原透(杉本)が労ふ。改めてひとまづ入念な登美子と夫・信男(栗原)の夫婦生活と、翌日、少なくとも観客には明確に上司に好意を寄せる風情も漂はせる、課長である信男の部下・五島悦子(RAY)の顔見せを挿み、家事の最中の登美子に、『木蓮神話』を読み登美子の短歌に興味を抱いた、短歌専門出版社「短歌年報社」の編集者・横田修司(樹)から電話が入る。登美子は傍らの『木蓮神話』をキッチンの抽斗に適当に仕舞ひ込むと、喜び勇んで外出、女流歌人の短歌選を企画する横田に新作を依頼される。その夜、先に帰宅した信男は栓抜きを使はうとして登美子は見せて呉れない『木蓮神話』を発見、前述の横田とは別の意味もしくは方向で度肝を抜かれる。塚原は破格あるいは型破りと評する登美子の短歌とは、「歯も目も摩羅も老いぼれなさい捕らはれの檻から飛び立つ予感」、「夫婦は同居すべしセックスすべしと誰がなにゆゑに定めた掟」と、内容的にも形式的にも滅茶苦茶なものであつたからである。激怒した信男は、遅れて戻つた登美子を裸にヒン剥くとパンティで両手を縛り激しく責めたて、案の定といふか何といふべきか、後にその模様も「ひとひらの摩羅を突き立て夫の縛るパンティの喰ひ込み」と詠まれてしまふ。後日、日曜日に登美子は再び『木蓮神話』の発送作業に塚原宅に向かふ。すると塚原の目配せを受け退席した美沙緒は、何と信男一人の高畠家を急襲。ここは早乙女宏美の名前に引き摺られた一幕に思へなくもないが、兎も角女房の両手をパンティで縛るだなどとプリミティブな信男に、ライトSMを美沙緒が堂々と熟練の風格で指南する。
 劇中開陳される登美子の短歌は他に、何れも信男とではなく、塚本との情事を詠つたもので「障子の向かうは土砂降りなれど水鳥がついばむやうな尺八」、「憧れの摩羅とほととが重なつて噛み合つて踏み出す一歩の列車」、以上は南風。ここから先は北風で「師弟は愛すべしセックスすべしと何時何処の馬鹿がいひだしたこと」、「師の摩羅は深々とオッ立ちて我のほとを貫きたり」。“自由”を謳ふ以上は案外実際にそんなものであるのかも知れないが、自由律にもほどがある、名実共にフリーダムだ。
 浜野佐知1993年第三作は六年後の、個人的に激越に再見を切望しもする、アヴァンギャルドな俳句結社の暗躍を描いた「和服夫人の身悶え ソフトSM編」(1999/脚本・監督:山邦紀/主演:やまきよ=山本清彦)の多分大分大雑把な原型と思しき一作。性を主題とした前衛―過ぎる―短歌、如何にも山崎邦紀が好んで繰り出しさうな奇抜なメイン・モチーフに、浜野佐知超一流のラディカルな女性主義が加味され、これは旦々舎の映画が本来ならば爆走してゐた筈にも関らず、なかなかさうは上手く事が運ばないのがエクセスライク。不美人といふことはない程度で、如何せん表情の覚束ない主演女優の決定力ないしは質量不足に、ただでさへ一筋縄では行かぬ劇中世界の醸成が妨げられた印象は拭ひ難い。代つて終盤別の意味で弾けるのは、笑かせたいのかとすら首を傾げさせられる御都合的な展開のしかも矢継ぎ早な連打。美沙緒から薫陶を受けた信男の逆襲を受け、一旦短歌を断念した登美子は横田に断りを入れると同時に、塚原には退会届を提出。ところが、如何にもピンク映画的ななだらかさで塚原に適当に言ひ包められ抱かれるや、文字通り即座の次のカットは離婚届。「どうしてこんなことになつたんだ」、と難渋に途方に暮れる栗原良(a.k.a.リョウ・ジョージ川崎、そして相原涼二)の姿を、観るのは一体何度目か。再び塚原の下に向かつた登美子は、挙句に弟子に手を出すのは茶飯事らしい塚原と美沙緒の情事を目撃し師匠にも幻滅。事実上八方塞りベンチでションボリする登美子の前に、超絶のグッド・タイミングで横田が通りかかるのは殆どギャグにしか思へない。最終的に、土壇場の土壇場まで残した三番手の濡れ場―当然信男戦―をここで捻じ込み、最終的には若くてハンサムで加へて短歌創作にも理解を示す、新しい男をゲットした登美子がラブラブで一戦交へてそのまま一欠片の捻りもなくハッピー・エンドといふのは、殆ど人を小馬鹿にしたかの如くグルッと一周してケッサクである。全般的に小ぶりともいへ、正体不明の名義のRAYが目鼻立ちはクッキリとしてゐるだけに、小野なつみとRAYの配役を交替させてみると、もう少しは物語の首が据わつたやうに感じられなくもない、それも随分な素人考へでしかないが。

 さて、相変らず最早自暴自棄なのか、“凄まじい性反応!”だなどと闇雲な新題は昨今何時ものこととしても、今回は実は元題からちぐはぐ。小野なつみの臀部は、わざわざ“巨尻”といふほど殊更に大きい訳では全くない。寧ろオッパイも並行して成熟し、終始首から上は心許ないものの、実に均整の取れた素晴らしいプロポーションを誇つてゐることを、一言書き添へておく。


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 「をんな浮世絵師」(2012/製作:オールインエンタテインメント・新東宝映画/配給:新東宝映画/監督・脚本:藤原健一/プロデューサー:西健二郎・衣川仲人/撮影・照明:田宮健彦/録音・音響効果:高島良太/衣装:野村明子/メイク:ユーケファ/スチール:山本千里/制作:田中尚仁/編集:石井塁/編集協力:遠藤晶《カラーズイマジネーション》/音楽:與語一平/助監督:躰中洋蔵・松林淳/撮影助手:河戸浩一郎/録音助手:日高成幸/絵画協力:アンドリュー塚越《亀有栄眞堂書店》/制作協力:ANGEL/出演:織田真子・山口真理・ホリケン。・なかみつせいじ)。共同製作のオールインエンタテインメントとは、GPミュージアムソフトの新社名。
 新時代の幕開けを文字通り目前に控へた、一八六七年(慶応三年)。百姓・やすけ(なかみつ)の家にて、やすけの女房・きよこ(山口)を浮世絵師の新之助(ホリケン。)が抱き、固唾を呑む弥助の傍らでは、をんな浮世絵師のちよ(織田)が、その模様を見ながら熱心に絵筆を走らせる。終に耐えかねたやすけは抜いた刀をちよに向けるが、新之助は「斬りたければ斬れ!」と一喝、一応緊迫した修羅場からタイトル・イン。百姓の家に刀があるのはアリなのかナシなのかは、小生ズブズブの門外漢につきよく判らない、鎌その他農具で別に構はないやうな気もするのだけれど。
 “性風俗を描いた浮世絵の一種”云々と春画に関する、最終的には不要に思へなくもない注釈挿んで、三日前。絶妙に不穏な雰囲気も漂はせる、やすけときよこ二人きりの夕餉。その理由はほどなく夫婦生活を通して明らかとなる、やすけは、不能であつたのだ。翌日、昨晩のションボリした風情を引き摺つたまゝ、やすけは山に薪拾ひに出る。一方、人々のまぐはひを描き諸国を漫遊するちよと新之助が山道に登場。エキゾチックな容姿は和装にも特段齟齬を感じさせないとはいへ、織田真子の覚束ない足下が違ふ意味で琴線に触れて触れて仕方がない。結果的にはこのチャーミングは、正しく可愛らしいものに過ぎなかつた。懐より取り出した北斎春画の冊子を、溜息混じりに眺めてもみたりするやすけにちよと新之助は接触。新之助が言葉巧みにでもなく言ひ包め、二人はやすけの家に逗留する流れに。その夜のとりあへず賑やかな夕食、巨根を勝手に見抜いたちよに焚きつけられたやすけは、仕方なく一物が役に立たない旨を告白。するとちよは原因の目星も方策の見当もない癖に、二日でやすけを治すと無責任に宣言する。
 当初新之助が北斎の弟子で、ちよはモデルであつた。ところが耄碌した北斎先生(クレジットが見当たらないゆゑ、北斎役は不明)に代りちよも見様見真似で絵を描き始め、今に至る。慶応三年といふと、北斎没後十八年に当たるのだが、まあ細かい些末は気にするな。因みに新之助いはく、“歌麿みたいに気取つたのは嫌ひだ”とのこと。再度結果的には北斎だらうと歌麿だらうと、それどころの話に辿り着かない。  
 新東宝の対黄金週間決戦兵器が、関門海峡の西は福博、地元駅前ロマンではなくして何故かパレス―後注する―にはお盆映画として漸くやつて来た、藤原健一2012年第一作。ロケセット、結髪、衣装・小道具。制作部の健闘のみならず、俳優部も主演女優の心許ない所作に目を瞑れば概ね堅調、時代劇としての基本的な体裁は、専門的な考証にまるで頓着のない怠惰な観客の目には、ひとまづ十全に整つてゐる。そこまでは、いゝものの。七十分といふ比較的長尺に、男女各二名づつの面子で挑む絞つた布陣も、別にその限りに於いては必ずしも間違つてゐるといふ訳ではない。そこまでも、いゝとして。兎にも角にも特筆すべきは、より直截にいふとただでさへ乏しいその他ツッコミ処をも霞ませるのは、逆噴射で火を噴く非感動的な物語の薄さ。山口真理のやうな極上の女房を持つにも関らず、何故にやすけは勃たなくなつてしまつたのか。物語の鍵を握る―筈の―秘密の他愛なさは、逆の意味で画期的。現に新之助がその場の流れで持ち出した、当座の手段で幾らでも容易に回避出来る。展開上の新しい機軸にも本当に全く欠き、事実上の夫婦交換が狂乱の中繰り広げれるクライマックス。やすけに跨るちよの画面左手から、立位後背位のきよこと新之助が二人四脚でフレーム・インするこゝぞといふ見せ場に際しても、ホリケン。が思ひのほか単調な腰の振りでわざわざ興を殺いでみせる始末。序盤やすけの勃起不全が明らかとなつた時点でチーンとなるお鈴の音を始め、シークエンスや登場人物の心理のベクトルに過剰な説明を加へるチャチい音効は、この期には児戯の名にすら値せず一々癪に障るばかり。主にきよこの心情表現に都合五度も繰り出される、浮世絵にマンガのフキダシを加へる演出も、小馬鹿にされてゐるかのやうで全然面白くない。新東宝やピンク映画の置かれた現況といふか要は苦境も何時しか忘れ、シンプルに開いた口の塞がらぬルーズな問題作。小屋に落としたものなので木戸銭は構はないから、時間を返せといふ感情を久々に覚えた。
 大体が、斯くも希薄な脚本にGOサインを出したプロデューサーは、一体泥酔でもしてゐやがつたのか。とかいふ以前に、藤原時代劇ならばどうして、仕出かし気味の第一作を予想外に安定した第二作で持ち直した、「艶剣客」シリーズでないのかといふ疑問が根本的に強い。ここはいつそ、当初動いてゐた「艶剣客3」が、何某かのアクシデントに見舞はれ吹き飛んだことによる急ごしらへの代替企画。さうとでも言ひ訳して貰へた方が、まだしも首を縦に振れるか否かは兎も角、少なくとも頭では納得行かうといふものだ。

 駅前ロマンとパレスに関する後注< 結局、一旦モギリを通過してしまへば買つたのがどちらの券でも両方自由に観られるのだが、一階ロマンと三階パレス、駅前は二つの劇場を有してゐる。一階ロマンは昔からピンク枠で、現状は基本ピンク一本とVシネ二本といふ構成による、週替りの三本立て。他方、目下平素は和洋問はず純然たるAV二本立ての番組を二週替りで送るパレスは、元々は洋ピン枠であつた。残念ながら私が駅前に通ひ始めた時間差で、洋ピンといふジャンルは丸ごと消滅してしまつたのだが。話を戻すと、「をんな浮世絵師」も、和物のAVを連れに二週上映される。パレスの方がスクリーン位置が低いので、二列目以降に座ると前の客の頭が邪魔で若干観辛い。


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 「援交強要 堕ちた人妻」(2011/製作:関根プロダクション/提供:オーピー映画/監督:関根和美/脚本:関根和美・金沢勇大/撮影:下元哲/照明:代田橋男/助監督:金沢勇大/編集:有馬潜/監督助手:市村優/撮影助手:斎藤和弘/照明助手:榎本靖/選曲:山田案山子/効果:東京スクリーンサービス/出演:水沢真樹・黒崎れいな・佐々木麻由子・泉正太郎・竹本泰志・なかみつせいじ・小林節彦・牧村耕次)。
 細君は預金通帳を眺め眺めの夫婦の寝室、社長秘書の山下修司(泉)の妻でパート勤めのあおい(水沢)の夢はマイホーム。さりとて、道程はなかなか以上に険しい現況を投げつつひとまづ夫婦生活。事後あおいがぼんやりと手に取る、作りかけのボール紙細工の一軒家模型を押さへてタイトル・イン。明けて市村君(間違ひなく市村優か)も見切れる、あおいパート先の弁当屋風景。然し最安値の二百五十円は安過ぎはしまいか、デフレいい加減にしろ。店長兼不倫相手の前田英太(竹本)が、皆勤賞と称した現金を無理矢理に握らせ関係を要求するも、あおいの腰は重い。その夜、非通知による着信、前田からのしつこいメール、旦那からの帰りが遅くなる旨のメール三連打を受けたあおいは、半ば仕方なく前田との逢瀬。先に致して後から飯を食つたのか、ダイニング方面と思はれる飲食店「然」の表で、あおいは徒に刺々しい佐々木麻由子と交錯、オッカナイ剣幕で怒られる。家でマッタリする休日、山下家の隣に越して来た大貫雅美(佐々木)が、非常識なまでに大量の品々を持参して挨拶に訪れる。修司が家に上げた雅美を見たあおいは驚く、先般前田と二人の、即ち浮気の現場を見られた女であつたからだ。その日はおとなしく捌けた雅美は、翌日あおいを再急襲。自身の不倫―因みに雅美の亭主は、盆暮れにしか帰らない単身赴任中、それにしては、何故転居の要があるのか―も勝手に告白した上で秘密の共有を出汁に、援助交際といふ名の要は主婦売春をあおいに“強要”といふほどではなく強めに勧誘するが、あおいは拒絶する。パート自体も辞めがてら、女子高生アルバイトのマミ(一切登場せず)にも二万で手をつけてゐた前田に三行半を叩きつけて来たあおいを、余程執心してゐたらしく、宅配業者を装つた前田が襲撃する。程よくあおいが剥かれる頃合を見計らふかのやうに、開いてゐたとの玄関から入つて来た雅美が助けに入る。一旦落ち着いた正しくどさくさ紛れに、雅美はあおいに援交を再勧誘。ここで、ひとつ目のさりげない超絶が火を噴く。嬢が実際に客の下に向かひ事に及ぶ段取りのイントロダクションとして、エリカ(黒崎)と佃信人(小林)の一戦を開陳。関根組初参戦―大蔵含めオーピー的には過去に荒木組四作、竹洞組、と田中(康文)組が各一作づつ―の小林節彦も兎も角、黒崎れいなの裸で直截にはデリヘルのシステム紹介をまかなふ、画期的にスマートな実質三番手の放り込み方には心の底から感心した。依然固辞するものの次第に動揺を隠せないあおいは、サラ金に入ると思しき修司の姿を目撃したことにも背中を押され、終に雅美の勧めに応じ一線を越える。
 何があつたのか、浅くなく黒い―殆ど人相が窺へない―なかみつせいじは、あおいの初陣相手・岸田。光物ジャラつかせ系の、ギラついた好色漢を役柄に即して好演する。対照的に上品な初老の紳士に扮する牧村耕次は、あおいの結果的には最後の客・辰巳。長く糖尿を患ひ、既に男性機能は失してゐる。
 関根和美の、改めて後述するが意外に充実してゐる2011年第三作は、巧みに濡れ場で物語る話法が抜群に優れた裸映画の秀作。鮮やかな黒崎れいな戦線投入のタイミングで展開の主導権を握ると、岸田戦を挿み華麗なる再登場を遂げた佃の注文といふ、重ねて秀逸な方便を採用したエリカも交へての巴戦で中盤を加速・補強。ピンク映画出演四作主演三作目にして、今や堂々とした貫禄すら漂はせる水沢真樹の艶姿を一頻りタップリと愉しませた後、一息つき気味の辰巳戦を入れ一旦落ち着かせておいて、山下家寝室からよもやの急転直下を叩き込む。即座の、事実上のクライマックスがさりげなくないふたつ目の超絶。水沢真樹の磐石に忘れかけてもゐたが、実は今の今まで温存してゐた佐々木麻由子の絡みを正しく満を持して解禁、一気に物語を引つ繰り返してみせる大技には唸らされた。これが今生御大―いふまでもなく、元祖御大は小林悟―小川欽也であつたならば、まんまと姦計が功を奏した悪漢のガッハッハでそのまま映画を畳んでしまひ、何ともいひやうのない釈然としなさも天真爛漫に残さうところが、その辺りが―好調時の―関根和美は訳が違ふ。佃を相手にした共同作業後、あおいとエリカが仲良くなつた件を伏線として復活させる、大概な力技ともいへクロスカウンターを放つ二段目のどんでん返しが手際よい手短さで大雑把といふ印象も潜り抜け、案外手放しで物語を颯爽と振り逃げる。久々に綺麗に真価を発揮した熟練がもたらす安定感は絶品、結構なものを観させて頂いたと、素直に頭(かうべ)を垂れたくなる一作。何時記帳したんだ?知るか。改めて振り返ると、こちらも力技とはいへ最終的には豊潤な人情伊豆映画の第一作「トリプル不倫 濡れざかり」(主演:水沢真樹)、ツッコミ処過積載のシリーズ最珍作の第二作「性犯罪捜査Ⅲ 秘芯を濡らす牙」(脚本は何れも関根和美/主演:倖田李梨)に続き今作と、2011年の関根和美は、時に明後日に羽目を外しながらも、それもそれなりに堪能させて呉れた格好となる。ここに来ての大ベテランの快調は、大いに心強い。

 唯一つ物寂しさも残すのは、どうやら、天川真澄が関根組常連を卒業してしまつたらしい気配。排泄の不発に関しては、松原一郎作ではないので問はない。


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 「鞭で泣かす」(昭和55/製作:日本シネマ/配給:新東宝映画/監督:梅沢薫/脚本:梅沢薫/企画:伊能竜/製作:江戸川実/撮影:鈴木史郎/照明:守田芳彦/音楽:石黒和美/編集:酒井正次/記録:佐野麻美/助監督:中山潔/監督助手:山田大樹/撮影助手:遠藤政志/照明助手:森久保繁?/効果:秋山効果団/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:朝霧友香・笹木ルミ・江島絵美《新人》・江上真吾・楠正道・陶清・柴田リエ・下元史朗)。出演者中、陶清と柴田リエは本篇クレジットのみ。笹木ルミが、ポスターには佐々木ルミ、絶妙に惜しい。企画の伊能竜は、向井寛の変名。併映の「人妻拷問」(昭和55/監督:高橋伴明/脚本:西岡琢也/主演:丘なおみ・下元史朗)同様、ビデオ用のものなのか、タイトル共々フォントの荒いクレジットが激しく見辛い、協力に至つては全く判読出来ない。
 薄暗い海岸、黒づくめの朝霧友香が一人当てもなく彷徨ふ。ハーフを思はせる朝霧友香の容姿、全篇を貫き響くメランコリックな劇伴。何はともあれ、サマになる風情ではある。波打ち際座面が抜け壊れた椅子を見つけた朝霧友香は、骨組みの縁に腰を下ろす。最も豊潤であつた時代の歌謡曲のやうな気障なシークエンスに、それだけで胸が躍る。「ビシャー」と大仰な鞭の打撃音とともに、首輪で繋がれた友美(ユミ/朝霧友香)の大写し。向かつて左背後では、心なしか白塗りに見えなくもない、夫の高田明(下元)が鞭を携へる。怯える友美をよそに、高田がとりあへず足下の床に激しく鞭を振るふのに合はせタイトル・イン。初つ端から、画の威力がことごとく尋常でない。
 海岸と回想を往き来する序盤を手短に片付けると、加被虐両面と思しき箍の外れた変態夫との生活に疲れ果てた友美は、高田と判れた後(のち)、自死を目的にこの海を訪れる。とはいへ死にきれぬ頃合を見計らふかのやうに、混血風の精悍な青年・ヤスオ(江上)が友美の前に現れる。ヤスオは問ひかけにも応じず、友美の首から抜き取つたスカーフで海水で洗つた顔を拭ふと、返しもせず自らの首に伊達に巻く。繰り返すが、時代からも許された、気障な歌謡曲のやうなシークエンスが堪らない。付き纏ふ友美をヤスオは贅沢にも遠ざけつつ、今度はヤスオの回想と海岸を往き来する。時間軸を遡つて行くヤスオの来し方を簡略に整理すると、自動車整備工のヤスオは、夜の女らしきマリ(笹木)と付き合つてゐた。ところが本気のヤスオに対し、マリは車のセールスマン(楠)を度々家に上げ、どうやら間男以上の関係を持つ。その事実を突き止めたヤスオはマリがセールスマンと致す現場に乗り込むと、咄嗟に出刃をヒッ掴み男を刺して来たものだつた。互ひに心と男は脛にも傷持つ者同士、つかず離れずしてゐる内に友美とヤスオは夕暮れ時の草叢で体を重ねる。廃屋に陣取つた二人は、友美がよろず屋で買つて来た食物を分け合ふ。さうすると友美は、高田に便りを出す酔狂をその場で思ひつく。
 配役残り、友美が高田の後ろ髪を引く手紙を悪戯に認めた、直後に正しく飛び込んで来る江島絵美は、高田の今カノ。ファースト・カットは、後背位の体勢でガラス・テーブルに押しつけられ潰れたオッパイを、テーブル下から抜く定番ショット。“定番”とはいつたもののそれは今だからいへることで、昭和55年当時既に、このメソッドが確立してゐたといふ事実はひとつの発見であつた。果たして映画史上、最初にオッパイ潰れショットといふ至高を発明した天才は何時何処の誰なのか。流石にテレビに先んじられるとは考へ難いにせよ、エロ本その他異業種がまづ先に生み出した手法であるのかも知れないけれど。問題が、仕事中マリ宅の様子を窺ひに脱け出すヤスオを、見咎める工員は陶清としても、柴田リエに該当しさうな女の頭数が如何せん見当たらない。
 普段はピンク映画一本とレジェンドを主にVシネ二本の計三本立て、といふ番組を漫然と送り続ける福博最後の牙城駅前ロマンが、出し抜けに“名作特選(緊縛特集)”と銘打ち前述した「人妻拷問」・「残虐女刑史」(昭和51/監督:山本晋也/脚本:山田勉)の二本とこれぞ正しく三本立てで投げ込んで来た、梅沢薫昭和55年全十二作中第九作。正味な話ありふれたエピソードに長々と費やす、失速感も否めないヤスオの回想までで思ひのほか尺を喰つてしまひ、高田もノコノコ二人が戯れる海にやつて来て以降は、些か性急も通り越し直截には粗雑。友美とヤスオがまるで高田を無視するかの如く乳繰り合ふ、不自然極まりない導入から結構へべれけな無体なオチの一発勝負には、それが意図するところであれば仕方もないにせよ、ポカーンと置いてかれる拍子抜けは禁じ得ない。仕出かすだけ仕出かし高田を絶望の底に突き落としておいて、「本当にこれでよかつたのか」といふ高田の問ひに対する友美の答へが「風に訊いて」、「さう潮風に訊いて」とは、リアルタイムの感覚としては兎も角、幾ら何でも狙ひ過ぎではあるまいか。総じて雰囲気は味はひ深い反面、冷静に吟味すると作劇自体は他愛ない一作、と乱暴に断じかけたところで、ハタと気がついた。量産型娯楽映画に際し論理と技術とに第一義的に重きを置く立場からは、今作の白眉は案外古びないスタイリッシュではなく、実は三番手を戦線に投入する超絶のタイミングにこそあるのではなからうか。完全に退場したかに思へた高田を呼び戻す段取りの一環としてと同時に、江島絵美自身のインパクトをも叩き込む。濡れ場要員を如何に全体の体裁を損なはずに登場させ得るか、ピンク映画永遠のテーマに対する、捉へ処のない自然さがなほ一層際立つ一つの模範解答。一見何気ない裸混じり繋ぎの一幕にも見せて、よくよく反芻してみるとなんてスマートなのかと改めて強い感銘を受けた。件のガラス・テーブルに、幻想的に映り込ませた友美と高田が対峙するだなどといふのは、さうはいへど鮮度も洗練度も失した演出としか映らなかつたが。

 友美回想パート、一旦壊れた友美が娼婦に変貌する件を始め、そこかしこで闇雲に鳴り始めるハードコアの音源は、どうも昭和55年当時のものには聞こえない。ビデオ化に当たつて、後から付け足されたものではないかと邪推する。

 DMM備忘録< 高田の眼前、友美がM性に何時の間にかすつかり目覚めた今でいふNTRエンド   >一旦三人を抜いたロングから、再び椅子に寄るラスト・ショットは矢張りダサいと思ふ


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 「人妻拷問」(昭和55/企画・製作:高橋プロダクション/配給:新東宝映画/監督:高橋伴明/脚本:西岡琢也/副題:『赤い靴のレクイエム』/撮影:長田勇市/照明:磯貝一/編集:中島照雄/効果:秋山実/音楽:浪漫企画/助監督:鈴木虎鉄・梨田三沙緒・木谷幸/撮影助手:斉藤幸一/照明助手:石川整/効果:秋山実/録音:銀座サウンド/現像:ハイラボセンター/出演:丘なおみ・下元史朗・青野梨麻・大杉漣・上野淳・加藤弘・山口銀次・葉月葉・青木奈美)。これはビデオ用のものを拡大した所以か、フォントの荒いクレジット―タイトルも―が凶悪に見辛い。
 深夜の児童公園、忍び寄る男の気配に、怯える女の赤いハイヒールの足下。カット変るやサクッと、一同は物置のやうなロケーションにバイパススリップ。革ジャン姿の暴漢三人組が、雪子(青木)に襲ひかかる。リーダー格(大杉漣/残り二名は特定不能の加藤弘と山口銀次)はパイパン属性らしく、両腕両足を伸ばした形で押さへつけさせた雪子の陰毛をアイアンクロー方式に鷲掴むと、そのまゝ体ごと持ち上げ毟り取るだなどといふ荒業を敢行する。三人は雪子を代る代る陵辱、立ち去り際に大杉漣は、更に雪子の女陰に懐中電灯を捻じ込みそのまま放置する、無体極まりない鬼畜ぶりも披露。ボロボロに横たはる雪子の股間で懐中電灯がパカパカ点滅する、絶望的なショットに被せてタイトル・イン。
 明けて団地の一室に、下元史朗がナイーブに狙ひを定める。B‐4号棟の青野梨麻宅を刑事を装ひ訪れると、旦那のダチの女房が殺されたばかりの青野梨麻は、特に疑ひもせず下元史朗を家に上げる。下元史朗は入手した経路も経緯も一切華麗にでもなくスッ飛ばした、結構口径のデカい回転式拳銃を青野梨麻に突きつけ、リベンジの風情も匂はせながら粘着テープを用ゐ強制脱毛した上で強姦。事後観音様に麻雀牌を詰め込むと、撃鉄も上げずに射殺する。よもやと思ひ注視してゐると、まんまとやりやがつた。放心状態の雪子がお人形さんの陰部にマジックで陰毛を描き添へる、火に油を注いで絶望的な回想―然しとんでもないシークエンスを繰り出したものだ―挿んで、仮称青野家と同じ団地内の丘なおみ宅に、下元史朗は同様に突入する。半ば観念したが如く下元史朗に身を任せた丘なおみも、粘着テープを持ち出すまでもなく人為的パイパンであつた。とりあへず一回戦、昼食を摂りがてらの二回戦を経て、雪子に関する再回想。三人組に輪姦され錯乱気味の雪子は、兄である下元史朗をその場の勢ひで求めるも、当然下元史朗としては食へる据膳ではない。枕元で見守りつつも何時しか寝落ちた下元史朗が目覚めると、雪子は床の中で手首を切り自死を遂げてゐた。要は愛する者を喪つた自らと同じ哀しみを味ははせるべく、下元史朗は三人組の妻を殺害して回つてゐたのだ。それにしては、青野梨麻の殺し方は大概のバイオレンスでもあるのだが。聞き込みに来た本物の刑事(上野)を、下元史朗を庇ふのか丘なおみは適当にあしらひ、何時しか普通に恋人同士のやうな三回戦後、丘なおみは告白する。実は丘なおみも雪子と同じく、元々は三人組に犯されたスナックのママであつた。
 平素の三本立ては、目下オーピーの2008年作を基本順次一本づつ消化と、Vシネ―但しこゝに、エクセスと新東宝作がビデオあるいはDVD題で潜り込む不意打ちもある―二本。そこに新東宝の新作と新版が時々絡んで来る番組編成の地元駅前ロマンが、藪から棒に“名作特選(緊縛特集)”と称して組んだ純然たる、しかもクラシカル・ピンク三本立て。「残虐女刑史」(昭和51/監督:山本晋也/脚本:山田勉=山本晋也)・「鞭で泣かす」(昭和55/脚本・監督:梅沢薫)の二本とともに飛び込んで来た、高橋伴明昭和55年全十五作中第八作。下元史朗はほぼ同じ境遇の丘なおみに雪子を重ね合はせ、丘なおみも下元史朗の心情に理解を寄せる。ひとつの、あるいは少なくとも同種の悲劇を挟んで向かひ合ふ男と女が偶さか燃え上がらせる、刹那的な情と愛。三十余年の隔たりをも軽々と跨ぎ得る下元史朗の繊細な凶暴に対し、如何にも昭和の香りを濃厚に漂はせる丘なおみの薹の立ちぶりには、現在の即物的な目からは幾許以上の苦しさも否定し難いものの、暗く熱いドラマはひとまづ充実する。量産型裸映画にお気楽な娯楽性を求める立場からは、如何せん重たすぎるといふ誹りさへさて措けば。クライマックスの性急な修羅場に際しては、ニューシネマな匂ひも感じさせる無造作とすらいへよう人の命の軽さが、個人的にはその時代への愛着も込みで非常に親和に易い。但しさうなると、嘘にしても気休めにせよ有難うは兎も角、オーラスに至つては惰弱であると、蛇足感も禁じ得ないところではある。不勉強が服着て歩く当サイトにつき、一般映画・Vシネ含め高橋伴明のピンク映画を観るのは初めてであつたものだが、その限りに於いての印象としては、諸々の機軸のユニークさには感興を覚えなくもないけれど、現代ピンクが決して越えられない壁といふ訳では必ずしもあるまいと、些か胸を撫で下ろした次第。

 三人組から暴行を受けた半年後、何故か大杉漣と結婚した丘なおみが振り返る、無毛もとい不毛な結婚生活。帰宅後無愛想な丘なおみをいはば手篭めにする大杉漣が、傍らのLPレコードに目を留めると中央の穴に箸を通し縦方向に回転させ秘裂に宛がふ、レコード責めを開巻のアイアンクロー剃毛に続き大敢行。レコード盤で女体を嬲るなんて、そんな濡れ場観たことない。尽きぬアイデアの数々には大いに感心した、この件の大杉漣のヤバイ目つきも絶品。

 備忘録的付記< ラストは逆光の廊下奥に刑事に引つ立てられ歩を進める、類型的な画に丘なおみが「私が死んだら、誰か涙を流して呉れる人がゐるんでせうか」   >知らんがな(´・ω・`)


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 「義母の寝物語 ‐近親相姦‐」 (2000『義母の淫臭 だらしない下半身』の2007年旧作改題版/製作:フィルムハウス/提供:Xces Film/監督:大門通/脚本:有馬仟世/企画:稲山悌二/プロデューサー:伍代俊介/撮影:天野健一/照明:小野弘文・藤塚正行/編集:金子尚樹《フィ ルム・クラフト》/助監督:高田亮・山口雅也/照明助手:池田義郎/制作担当:真弓学/ヘアメイク:パルティール/タイトル:道川昭/出演:美麗・桜居加奈・佐々木基子・柳東史・吉田祐健・久須美欽一)。撮影助手に力尽きる。
 一応幸福な京極家の風景、居間のソファーにはお腹の大きな月花鳥(美麗)と早苗(桜居)が並んで座り、手前の絨毯の上では、前妻とは五年前に死別し、この度月花鳥を後妻に迎へた区役所清掃課長の辰三(久須美)と、辰三の息子で早苗の夫の、(株)日東商事の多分今のところは平社員の治(柳)が将棋を指す。それぞれの子供の父親に関する、思惑は交錯する。早苗は子供の父親が夫であることに、治も妻が宿した子供の父親が自分であることに、共に疑問を抱いてゐた。劇中終に明示はされないものの、月花鳥は子種に関する確信を抱き、辰三に至つては何れにせよ京極家の子供であることには違ひがないと、大して意に介してすらゐない風であつた。
 タイトル挿んで、時制は若干以前に遡る。日東商事営業部長の東山良雄(吉田)と、この時点ではホステス兼、東山に囲はれる愛人であつた月花鳥との重厚な一戦。美麗の正しく大陸級のダイナマイト・ボディーを前に、半歩たりとて退くことなく真つ向から激突してみせる、吉田祐健の馬力も見所。事後、東山は支社長就任が決まつた大阪栄転に月花鳥を連れて行く訳には行かない故、新パトロンを都合する要に迫られる。そんなこんなでカット明けると休日昼下がりの京極家、治と早苗の仕切りで辰三と月花鳥のお見合ひがいきなり飛び込んで来る、新田栄ばりのスピード感が堪らない。息子夫婦が席を外すや脊髄反射で辰三を気に入つた月花鳥と、受けて立つた辰三との婚前交渉、その夜の治夫婦の夜の営みを噛ませて、事ここに至る経緯の開陳を月花鳥が宣言する。残りは全員外回りに出払つた日東商事、東山が治を部長室に呼び出す。月花鳥の要は禅譲を持ちかけられた治は逡巡するも、次期課長の座をちらつかせられると揺らぐ。男女の絡みに限らぬ素のお芝居に際しても、唸る吉田祐健の不遜な貫禄が絶品。成程、勝アカデミー出身(五期卒業)は伊達ではない。面通しさせられた月花鳥が、例によつて瞬間沸騰で見初めた治をペロリと行つてしまふ中、自室を退席した東山を、月花鳥を追つて社にまで乗り込んだ細君・和子(佐々木)が急襲する。東山から、月花鳥との関係を整理する旨を聞くや和子は「貴方、抱いて!」と俄にその場で点火、オフィスでの夫婦生活が、部長室での月花鳥V.S.治戦と連動して繰り広げられる。東山は治に、愛人を栄転先に連れて行く醜聞の回避を説いておいて、社内で女房と致すのと、一体どちらが大きなスキャンダルなのか。一方、体調不良につき仕事を早引けした辰三は、その癖に以前から入浴を覗いてみたりもしてゐた息子嫁にムラムラ来ると、その場の勢ひで手篭めにしてしまふ。また随分なシークエンスでしかないが、それを巧みに固定させ得る久須美欽一の安定感は地味に捨て難い。月花鳥を譲り受けたまではいいとして、月二十万の要求に頭を抱へつつ帰宅した治は、早苗に泣きつかれると当然激昂。平身低頭の久須美欽一をブチ切れた柳東史が、フルスイングで怒鳴り上げる様は可笑しくて可笑しくて仕方がない。ところが、不意に治は妙案に辿り着く。月花鳥を、親爺に押しつけてしまへば万事が上手く片付くのではないか。と、そこまでが、月花鳥曰くの“のつぴきならない事情”。よりのつぴきならないのは、美麗のたどたどしい日本語の方だ。
 性器、もとい世紀を跨いで短い実働期間の内に、大雑把な印象をそれはそれとして刻み込んだ支那人大女優・美麗のピンク映画デビュー作。誰だ、体が大柄なだけだろ、だとかいつてゐるのは、小日本め。初陣ながら、片言どころでは片付かぬ台詞回しで底を抜きつつ、ダイナミックな肢体でシークエンスをそれなりには制圧する。キャリアを貫く美麗の戦法は、既に完成を見てゐる。逆からといふか詰まるところ直截には、進歩がないともいへるのだが。だから誰だ、そんな寝言を垂れてゐやがるのは、小日本め。限りなく筆禍に近い与太は兎も角、女の裸を銀幕に載せることのみを目的とした、潔くスッカスカの物語の中でも、一際際立つのは、大味な美麗の傍らで純和風の容姿が一層映える、桜居加奈(a.k.a.夢乃)の健康的かつ透明感溢れる美しさ。量的にも主演女優に決して引けを取らぬ潤沢な濡れ場を、タップリと楽しませる。開巻で投げた、生まれて来る子供の父親に関するサスペンスを、自堕落なハッピー・エンドに際しては堂々と等閑視して済ましてみせる辺りは逆の意味で流石ではあるが、大門通的にさりげなく光るのはクライマックス、の後始末。辰三は新型焼却炉視察の新潟出張、早苗は母親の急病につき、同じ方角であることしか語られない実家に戻る。京極家に残された月花鳥と治が義母主導で事に及ぶ最中、双方思ひのほか早く帰京出来た辰三と早苗が、二人は二人で義父のリードで事に及ぶ、事実上の夫婦交換、の事後。寝惚けたまま辰三の寝室から用足しに立つた治と、同じく治の寝室から用足しに立つた辰三とが、用を足すと銘々本来の居室に戻つて行く元鞘は、正方向に大門通らしいスマートさである。


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 「レイプの現場 女が男を…」(1990『ダブルレイプ 変態調教』の2012年旧作改題版/企画:プロダクション鷹/提供:Xces Film/脚本・監督:珠瑠美/撮影:伊東英男/照明:沖茂/音楽:映像新音楽/美術:衣恭介/編集:竹村峻司/助監督:近藤英総/出演:林由美香・緑喬子・一の瀬まみ・碧あや・渡辺美香・牧村耕治・木下雅之・大島徹・工藤正人・ゲンゴロウ)。出演者中、渡辺美香は本篇クレジットのみ、近藤英総の号数が何故か妙に大きい。それと改めて後述するが、今作に工藤正人は登場しない
 看護婦姿の林由美香が薄暗い院内を歩くファースト・カット。ひとまづ胸元の名札を抜かうといふ―当たり前の―心がけは珠瑠美とは思へないほどに殊勝ではあるのだけれど、画が暗くて正直よく見えないのは逆の意味で流石でもある。高校卒業後東栄医科大学付属看護学院に進学、大学病院にて研修勤務中の吉岡由紀子(林)が、万年インターンの桑田順次(牧村)と杉野正夫(ゲンゴロウ/誰なんだ)に地下室に連れ込まれ輪姦レイプ―劇中用語ママ―される。重語感が清々しい、ある意味実勢を伝へてゐるともいへるのか。由紀子は処女であつたらしく、太股を派手に流れる破瓜の鮮血を押さへてタイトル・イン。明けて由紀子が当時同居する兄・真一(大島)と、妻・綾子(緑)との夫婦生活。帰宅した由紀子は居た堪れなくなり、聞こえよがしにシャワーを浴びる。ここがカットと同時に時間が幾らか飛んでゐるのだが、朝の吉岡家の食卓、真一は妹が受けた陵辱のことも知らず、大学進学も永久含め就職もせずに看護婦の道を選んだ由紀子が、看護学院を辞めてしまつたことに小言を垂れる。四年後の現在、ノンフィクションポルノ作家―後程由紀子自称ママ―として活躍する由紀子は、研究で手柄を上げた記事を目にした桑田に、事件以来初めて電話で接触する。開巻は事実上叫んでばかり―吉岡家パートでは黙したまま―ゆゑ半信半疑であつたものだが、由紀子の声は別人によるアテレコ。ピンク映画の至宝、林由美香のエンジェル・ボイスを放棄してみせるとは、血迷つたか、珠瑠美。大概、この人の映画は血迷つてゐるか。そんな―どんなだ―珠瑠美映画大定番の由紀子が結城陽子(碧)と出し抜けに咲かせる百合に、レズビアンものを書くに当たつての要は実地取材といふ方便を設ける辺りは、珠瑠美にしては画期的。由紀子が陽子との体験を基にした原稿―ペン・ネームは柚木由紀子、柚木の字は推定―を編集者の諸口勝(木下)に渡し、ついでに一戦交へる前段、由紀子は夜の街で、綾子の不倫現場(お相手は不明、真一は海外出張中)を目撃する。次なるテーマにレイプを選んだ由紀子は、四年前の脛の傷を出汁に桑田を召喚、眼前で綾子を犯させる。
 ステルシーに飛び込んで来る野沢明弘は由紀子に喰はれる、十九歳の新聞集金人、童貞。ここで、昨今作りが投げやりなエクセス母体の新日本映像公式には“新聞少年…工藤正人”とあるが、ポスター・本篇クレジット共に堂々と記載される工藤正人は、本作には全く登場しない。逆に、野沢明弘の名前は何処にも無い。一体全体何がどう転べば、斯くもアメイジングなことが起こり得るのか。ところで、哀川翔ばりにカッチョイイ野沢明弘が、“少年”といふ柄でないことなど重ねていふまでもあるまい。一の瀬まみは、諸口が在籍し由紀子が世話になる、エロ担当にデッち上げられた第二編集部に対し、表の顔のお堅い第一編集部のお茶汲みアルバイト女子大生・橋野真理子、由紀子の琴線に激しく触れる。前後して渡辺美香は、由紀子が第一編集部の真理子を見慣れないことを強調する目的で事前に見切れる、第二編集部要員。由紀子は律儀に二輪目の百合を咲かせた上で、綾子のレイプ現場を活写した新作で得た稿料二十万を手切れ金に陽子は整理。俄に執心する真理子に、諸口から個人情報を聞き出し物理接触を試みる。ところが目の前に居るのが柚木由紀子其の人とも知らず、第二編集部の低劣さに嫌悪を露にする真理子は、可愛さ余つて憎さ百倍、由紀子の逆鱗に触れる。
 自身の強姦被害は一昨日か明後日の風に吹き流し、藪から棒に度外れた淫乱女に変貌したヒロインが、周囲の女―と過去に自らを犯した男―を巻き込み大暴れを繰り広げる。女流ノンフィクションポルノ作家なる底の抜け倒した機軸に着地する、カットの狭間に一切端折られる四年間の超飛翔は如何にも珠瑠美的ではある一方、逆の意味で各作安定した珠瑠美クオリティには反し、全体的には木端微塵と頭を抱へるほど壊れてゐる訳ではない。口を開くと終始由紀子が振り回す大仰な台詞回しと長尺のフェード、濡れ場の最中不可思議に火を噴く、唐突に画調をガラッと変へる正体不明のフィルターの他は、案外比較的おとなしい。闇雲なイメージの挿入が本来他愛もない始終を徒に撹乱することがなければ、おどろおどろしい不協和音が鳴り響くこともない。何より無体な物語とはいへその限りに於いては纏まつてゐないこともなく、映画を奈落の底に突き落とす魔展開は影を潜める。正方向に特筆すべきは、劇映画的に望むべくもないことはこの期にいはずもがなとしても、輝く裸映画的な充実。正統派細身美人の緑喬子と、超絶アイドルとして既に完成された一の瀬まみ。そして表の隠し球―裏は野沢明弘―碧あやは、見覚えのある顔だと思つたら何と水鳥川彩、巨人並みの重量打線だ。寧ろ、何処からでもビリング・トップを狙へる超強力な布陣の中、この時点ではルックスは大きく未完成、加へて天使の美声まで封じられた林由美香が最も分が悪いとすらいへようか。一貫するよくいへばドライなビートは、虚無的なラストまで一直線。ビシャッとENDマークが叩き込まれると、後には何も残らない。

 因みに、絡み要員として参加した「貝如花<BEI JU HWA> 獲物」(1989/監督:カサイ雅弘/脚本:周知安/主演:貝如花《BEI JU HWA》)に続き、林由美香にとつて本作はピンク映画―アテレコなので“一応”―本格初参戦作となる。


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 「不倫密会 ふしだら狂ひ尻」(2011/製作:オフィス吉行/提供:オーピー映画/脚本・監督:吉行由実/撮影:下元哲/編集:鵜飼邦彦/助監督:江尻大/撮影助手:斎藤和弘・榎本靖/監督助手:松林淳/選曲:山田案山子/協力:田中康文/出演:柳田やよい・里見瑤子・吉行由実・津田篤・竹本泰志・岡田智宏)。
 人待ち顔の大西千秋(柳田)、手洗ひから戻つた大学時代からの親友・相川那美(アイカワの漢字は推定/里見瑤子)は肩を落とす、今月も生理が来てしまつたからだ。二組の夫婦のイントロダクション、那美は千秋とも共通のサークルの先輩・春樹(岡田)と那美が二十五の時に結婚。三十までに二人は子供を産んでゐる予定といふよりも希望の筈が、現在三十三にして未だ子宝には恵まれずにゐた。一方千秋は、秘書を務めた会社社長の大西(竹本)といはゆる不倫略奪婚して二年、短い過去パートに一旦顔見せする吉行由実は、大西の前妻・澄子。竹本泰志は蔓のバカ太い親爺メガネの一点突破で、役柄上の老け作りを果敢に乗り切る。濃厚な大西夫妻と、対照的に相川夫妻は擦れ違ひ気味、二つの夫婦生活が重ねられる。濡れ場を通して登場人物の立ち位置を説明する話法は、ピンク映画的に麗しく十全。那美が固執する子作りに、実は疲れ果てるのも通り越し忌みすらする春樹は、十年前を想起する。当時千秋が借りてゐたアパートで、二人は一度だけ関係を持つてゐた。ここで疑問手、現状短めに刈り込むのとの比較で、件が回想中であることを示す春樹の少し長めの髪形は、娯楽映画の段取りとしてはカット頭にもつと明確に見せておくべきなのではなからうか、画が些か暗い。狭く雑草もボーボーの公園にて、千秋は大西とベンチに並んで読書。どうでもよかないが、その貧しいロケーションももう少しどうにかならなかつたものか。俄に催した大西は、軽く千秋の体に触れた上で帰宅し本格的な一戦。後述する開眼した柳田やよいの絡みを観客目線でもタップリと愉しませつつ、事後年甲斐もない無理が祟つた大西は階段で卒倒する。三ヶ月後、相川夫妻が朝の会話を通して現況を投げる。大西は一命は取り留めたものの麻痺の後遺症を残し、会社も倒産。他方、春樹の同級生の村上には女の子が生まれてゐた。強引に迫られた春樹が途中で匙を投げる、那美との不毛な夜の営みを噛ませて、春樹と千秋、それに江尻大ともう一人は定石からいふと松林淳なのか?兎も角四人で―那美は、当日体調を崩しキャンセル―村上家にお祝ひに行く。正面からは抜かれない、村上夫婦役も不明。千秋と春樹二人きりの帰りしな、春樹の運転する車で向かつてみたかつての千秋のアパートは現存してゐた。十年前、既に春樹と交際してゐた那美を慮り、身を引いたことに関する後悔をこの期に口にする千秋に対し、那美との結婚の失敗を春樹も嘆く。千秋のシャワー自慰を挿んで、千秋と春樹は、車中再び体を重ねてゐた。津田篤は、再登場しては後半の効果的な火種となる澄子の、若い情夫・近藤。
 互ひの苦境にも背中を押されてか、焼けぼつくひに火を点けたヒロインと憧れの先輩、兼親友の旦那の周囲で渦巻く愛憎。薫桜子をビリングに擁してゐた僅かな時期の、王道娯楽映画路線からは一転、昨今の官能メロかエロドラマ嗜好に対しては、個人的には物寂しさを覚えなくもない反面、前作「新婚の寝室 身悶え飼育」に引き続き主演に柳田やよいを据ゑた吉行由実2011年第二作は、概ね充実して観させる、オーラスさへさて措けば。吉行由実がこの期に撮り方を覚えるも覚えぬもなからうから、本篇二戦目の柳田やよいが35mmカメラによる撮られ方を覚えたのか、千秋の放つ肉感と官能性とが兎にも角にも堪らん。妙な癖のついた表情の作り方に関しては好悪も分かれようが、ひとまづ裸映画としては安定する。重ねて終盤畳み込まれる、吉行由実が持ち前の魔女性を豪快にフルスイングする、澄子が仕掛ける凶悪極まりない不貞実況と、溜めに溜めた意外な真実を里見瑤子が満を持して撃ち抜く那美の告白、あるいは告発。経験の浅い主演女優を二大ベテランのどす黒い悪意が翻弄する、松岡邦彦ばりの暗黒展開は圧巻。全篇を貫き、各々の心情の揺れ動きにスタイリッシュに連動する、スパニッシュな劇伴も光る。これは今回の吉行由実は近作とは訳が違ふぞと、暗がりの中俄に襟を正せられかけた。ところが、大西は兎も角那美も自動的に捌けるに至つて、如何にも―女の側から―都合のいい話だと呆れかけた直後、別の意味で衝撃の謎ラストには、頭を抱へるのも通り越し途方に暮れさせられた。如何に受け取るべきものやら本当に手も足も出せず理解出来なかつたので、是にせよ非にせよ最終的な評価も下しやうがない。尤も、小生の如き度を越した間抜けにも、苦もなく理解させるやうでないと量産型娯楽映画といふものは困る。牽強付会気味にさういふ形で初期ハードルを設定することが許されるならば、明らかに苦しい一作であるとは、唯一確実にいへようか。
 再見に際しての備忘録< 那美がスーサイド、妊娠した千秋は春樹と晴れて新生活。かと思ひきや、何時の間にか妊娠してゐる那美も現れ、なほかつまるで妊娠が事実ではないかのやうな謎台詞。勝手に幸せを噛み締める那美の傍ら、千秋の複雑な表情がラスト・ショット


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