真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「理髪店の奥さん 息子愛撫」(2001『三十路女の濡れ床屋』の2010年旧作改題版/製作:ワイワン企画/提供:Xces Film/脚本・監督:木村純/企画:稲山悌二⦅エクセスフィルム⦆/プロデューサー:戸川八郎/撮影:鷹野聖一郎/照明:青木雄一/編集:フィルムクラフト/助監督:城定秀夫/撮影助手:相模一平・織田猛/ヘアメイク:松本好子/スチール:八木スタジオ/録音:シネキャビン/現像:東映化学/タイトル:道川タイトル/効果:東京スクリーンサービス/出演:黒沢良美・葉月螢・橘瑠璃・千葉誠樹・竹本泰志・伊藤一平・江利川信也・岡田光弘・小泉剛・躰中洋蔵・竹原禎宏)。出演者中、地味に錚々たる名前が並ぶ伊藤一平以降は本篇クレジットのみ。城定秀夫も加へて、濡れ床屋の客要員である。
 葉月螢と千葉誠樹による、夫の段取りを一々妻が遮る小癪なリズムを採用した夫婦生活で開巻。ど頭に濡れ場を持つて来る構成は順当なものにせよ、絡みに余計な意匠を持ち込むのは、無益な悪弊ではあるまいかと難じたい。勃たせるものは、何も考へず大人しく勃たせるべきではないか。ところで、女房を葉月螢が務める無駄に意欲的なばかりで生煮える夫婦の営みといふと、翌年杉浦昭嘉の「不倫妻たちの週末」(旦那は川瀬陽太)も何となく想起させる。
 一本木伸二(千葉)と妻の純子(葉月)が夫婦で営む、理髪店「一本木理容店」。商店街の一角に店を構へながら、客入りは大絶賛芳しくなかつた。ある日、純子は所用で外出、例によつて客はをらず伸二一人の店を、刈谷千尋(黒沢)がぽつねんと訪ねる。当時は現在と異なり、顔剃り目的で女性客が床屋に来店するのは極めて稀でもあつたのか、不信がる伸二に千尋が発した重ねて頓珍漢な第一声が、「少し休ませて貰つてもいゝですか?」。千葉誠樹のよく通る口跡で、「はあ!?」と思はず声を荒げた伸二のエモーションを観客も共有する間もなく、千尋は順番待ちの長椅子で勝手にスヤスヤ眠り始める。とりあへず途方に暮れた伸二が、実際には千尋があくまで単純に眠つてゐる―そこで眠る挙動自体が、尋常でないのはさて措き―のが、鏡の中では淫蕩に微笑みかける裸の幻想を見るのは、清々しく新味に欠いた手法ではあれ、なればこその手堅いシークエンス。千尋との情事は夢オチで処理しつつ、何時の間にか寝落ちてゐた伸二が目覚めると、あらうことか千尋が客(城定秀夫以外の、助監督軍団の何れか)の頭を刈つてゐる。戻つて来た純子も当然の如く、見知らぬ―しかも客の頭に触る―女の存在に首を傾げる中、俄に客が次々と殺到し始める。藪から棒に店に置いて呉れるやう望む千尋は、伸二と純子二人だけでは到底捌ききれない大勢の散髪客を前に、正しくその場の勢ひで一本木理容店に転がり込む格好になる。
 ファースト・カットから沈痛な面持の橘瑠璃―今作がピンク映画デビュー作―は、公園でコンビニおにぎりをパクつく千尋がフレンドリーに声をかける、如何にも訳アリ風情の風俗嬢・浜崎ひかる。ちやうどその時ひかるは、産めない子供を堕ろして来たばかりであつた。竹本泰志は、金と力はなささうな色男でひかるの彼氏・斉藤賢也。斉藤に関するディテールの詰めず埋まらず具合は、先走るとある意味象徴的。
 閑古鳥の鳴く店に、風来坊が救世主然と現れる。タンポポもとい端的によくある話に、てんこ盛りの女の裸はカテゴリー上必須の要諦ゆゑ兎も角として、ストレンジャーに御伽風味を塗さうとした色気も覗かせる、結局以降のキャリアが窺へない木村純第二作。因みにデビュー作「喪服未亡人 いやらしいわき毛」(1999/主演:広瀬和菜)も、「三十路喪服妻 わき毛の匂ひ」なる新題で2005年に旧作改題されてある、何はともあれ観たい。話を戻すと、何処まで最大限に好意的にも愛想のいいオバハンとでもしかいひやうのない、超絶パッとしない主演女優の容姿に逃げ場なく左右されてか、軸が覚束なく漫然とした一作ではある。物語には前提と発端と結果があるだけで、展開の主要を成す過程は清々しく心許ない。福の神の正体も、気にも留めないかのやうに通り過ぎられる。そこは余裕なり余韻といふよりは、矢張り単に画竜点睛を欠いた風にしか映らない。加へて、本来ポジション的には三番手の筈である橘瑠璃扮するひかりのパートが、痒いところには手が届かずじまいのまゝ、その癖無闇に尺だけは空費する。敵が橘瑠璃である以上、流石に浪費とまではいひかねるものの。黒髪メガネの葉月螢も、猛烈に見所のひとつではあるのだが、とかく映画本体が非力である以上、観る側で主体的に焦点を絞るほかなからう。登場時と同じく、不意に千尋が姿を消した店は依然賑つてゐた。忙しく立ち回る伸二が、鏡の中に数日前の千尋と同様、淫蕩に微笑みかける裸の純子の幻想を見る正直正体不明のラスト・ショットが、締め括るのか締め括り損ねたのかよく判らない幕引きは、捉へ処のない今作に逆の意味で相応しいといつていへなくもない。


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 「盗撮 レイプの瞬間」(1990『制服盗聴魔 激射・なぶる!』の2010年旧作改題版/製作:獅子プロダクション/提供:Xces Film/監督:佐藤寿保/脚本:五代響子/撮影:稲吉雅志/照明:小川満・牧哲也/編集:酒井正次/助監督:梶野考/製作担当:瀬々敬久/監督助手:榎本祥太/撮影助手:片山浩/照明助手:星野尾光/スチール:佐藤初太郎/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:森村あすか・滝沢薔・中村京子・上原奈々美・加賀恵子・今泉浩一・松村とおる)。インダストリアルな劇伴を鳴らす音楽担当を、ネイキッドシティー(もしくはネイキッド・シティ?)とする資料も存在するが、少なくとも、その旨本篇クレジットには載らない。
 この街には全てがある云々と、中途半端に思はせぶりなばかりで覚束ないモノローグを振り回しながら、制服姿の女子高生・皆川裕子(森村)が東京の雑踏にビデオカメラを向ける。それが裕子の、趣味ないし日常であつた。こゝで加賀恵子は、公衆トイレでの排尿を盗撮される女。場面変り、メディア露出で世間にも広く知られるカウンセラー・矢島美佳理(滝沢)が開設する「WOMAN'Sカウンセリング」。病的な潔癖症の人妻・村上ユミ(中村)が、早速部屋の空気に神経を尖らせつつ美佳理の相談援助を受ける。目の下の隈、扱けた頬。単なる当時そこら辺の若い娘にしか映らず、とてもではないが専門的素養を持つたプロフェッショナルには見えない滝沢薔に対し、中村京子の神経質な病人―に見え―ぶりが尋常ではない。一方、室内には隠しマイクが仕掛けられ、兼住居の別室では美佳理の弟で内向的な浪人生・海里(今泉)が、暗がりの中二人の遣り取りに耳を傾けてゐた。「WOMAN'Sカウンセリング」を辞すユミを、海里は尾行し、更にその後ろを、偶々居合はせた裕子がビデオを回し回しついて行く。海里が、捕獲したユミを御丁寧にもゴミ捨て場に連れ込んだ上で、こつ酷く陵辱する模様を裕子は撮影する。だから病的な潔癖症だといふ女に、わざわざ生ゴミをぶちまけ事に及ぶこの件が、作中最も壮絶。尤も、本来女の裸を楽しませるのを主眼とするピンク映画にしては、勃たせる勃たせないといふよりは、最早全く異なる領域に突入したエクストリームであつたりもする。犯されてゐることになのか、それとも生ゴミを浴びせかけられたことに対してなのか、兎も角両手で顔を覆ひ過呼吸の状態を予想させ狂乱する中村京子の姿に、性的興奮を覚えるのはとりあへず当サイト的には甚だ難い。帰宅する海里が「WOMAN'Sカウンセリング」に消えたのを確認した裕子は、話を聞いて欲しい風を装ひ、日を改め美佳理を訪ねる。当然それを察知した海里は、半ば待ち構へる裕子に接触。強姦男を相手に裕子は怯むでなく、犯行の証拠となるビデオテープを盾に、海里と一種の共犯関係を結ぶ。
 配役残り松村透、爆発村とおる、爆発村とをると時と場合により名義があちこち変るのが正直面倒臭い松村とおるは、美佳理に金で買はれ、好きなやうに蹂躙されるホスト・和彦。秘かに目撃した海里が未だ囚はれる、美佳理がレイプされた過去の呼び水ともなるとはいへ、以降本筋に絡まないどころか登場しすらしない和彦と美佳理との濡れ場は、正味な話どうしても必要なものにも別に思へない。女ならば兎も角、男の裸を余計に見せる必要はなからう。中村京子とは無造作に対照的に、特に悩みを抱へた様子にも清々しく見えない上原奈々美は、美佳理にオナニー狂ひを一応相談しはする女子大生・真理子。海里とともに真理子の後を追つた裕子は、海里に真理子をまるで犯させたかの如き凶行を、ビデオに収める。
 忌はしい事件に歪められた姉弟の織り成す複雑な渦の中を、街撮り好きの女子高生がキュートに駆け抜けて行く。大体はさういふ趣向の、屈折した青春映画ともいへるのだが。深くか浅くか、乾いた世界を切り取る裕子のビデオカメラ。レイプされた際に美佳理が履いてゐた、現在は実は海里が所有する血塗られた赤いハイヒール。そしてレイプ犯に切り裂かれた女の足首から、闇雲に流れ落ちる鮮血。あれこれモチーフはバラ撒かれるものの、全体的な一本の物語としての統合力は些かどころでなく弱い。そのためそれらしき雰囲気を漂はせはする程度で、最終的には踏み込みが足らず漫然とした印象に止(とど)まる。小憎らしいまでに自身の表情の作り方を熟知した、当代のAVアイドル・森村あすかには二十年後の現代の目からも、時代の移り変りを越え得る決定力が確かに輝く。反面、明るさなりポップさとは凡そ無縁の展開が、終盤に至るや無闇な流血量で静脈色に染められる様を眺めるにつけ、苦しいも何も、そもそも佐藤寿保にも初めから、アイドル映画なんぞを撮らうといふ気はさらさらあるまい。バイオレンスだスラッシュだと、よしんば形式的にでも佐藤寿保らしさが窺へれば満足出来る向きにならば兎も角、さうでなければ、直截に捉へ処に欠いた一作ではある。

 新東宝ならば兎も角エクセスにしては珍しく、実は今作、1997年に同じ改題で、既に一度旧作改題されてゐたりもする。旧新題ママによる二度目の新版公開―徒にやゝこしいな―といふのも、あまり聞かない話のやうな気がする。


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 「美尻エクスタシー 白昼の穴快楽」(2010/製作:旦々舎/提供:オーピー映画/脚本・監督:山﨑邦紀/撮影:大江泰介/撮影助手:石田遼/照明:ガッツ/照明助手:セイジ/助監督:永井卓爾・金澤理奈絵/応援:田中康文/編集:有馬潜/音楽:中空龍/録音:シネキャビン/タイトル:道川昭/現像:東映ラボ・テック/ロケ協力:スローコメディファクトリー《東京・下北沢》/出演:国見奈々・里見瑤子・淡島小鞠・荒木太郎・牧村耕次・池島ゆたか)。
 正直何がどうなつてゐるのかよく判らない、玉子の黄身が立体的に積み重なつた状態の一番下に、目玉が一つキョロリと覗くイメージで開巻。
 タイトル・イン明け、国境なき医師団所属でありつつそこかしこで道往く人々の診察を行ふ、出張ドクターとかいふ造形から半ば理解不能な、玉子ドクター(里見)が幟を立てたママチャリで疾走する。ドレッドに編み込むは所々赤いはと、里見瑤子の奇抜かつ手の込んだ髪型は、あるいは本来舞台に合はせたものなのであらうか。料理学校「玉子料理研究会」を開設する目玉嬢(淡島)が、誰もゐない教室フラスコに溜めた生卵を、尻に宛がひ喜悦する。こちらは安ホテルの一室、一羽の雛を前に、右目に眼帯をした玉丸(池島)が黄昏る。玉丸は秋田で営んでゐた養鶏場を、ロシア発の鳥インフルエンザで失つてゐた。玉丸に残されたものは雛一匹―玩具だけど―と、右目のものもらひだけであつた。漸く登場する主人公で、玉子料理研究会に通ふ尻子玉姫(国見)は、研究会顧問の金袋(荒木)と―当然浜野佐知の―自宅にて援助交際の情事。そしてその模様を、別室に寝たきりの祖父・竿男(牧村)が、ゴーグル型のモニターを通して注視する。後に自称で語られるところによると、往年は世界中の女をヒイヒイ泣かせたプレイボーイであつたとの竿男による、悪し様に罵る金袋のチンポコ評が、「痩せた犬つころみたいに、細く、短い」。ところで二つ前の場面にも戻ると、幾分の加齢も感じさせ確かに全体的に痩せた―チンコは逆に知らん―荒木太郎とは対照的に、淡島小鞠は、首から下はさうでもないがパンッパンに丸い。それはさて措き、山﨑邦紀が映画冒頭で採用することの多い、各登場人物のイントロダクションだけで既に、眩暈を覚えるまでに魅力的だ。
 「私は世界の、半分だけを見よう」と左目に眼帯を施した尻子玉姫を、玉子ドクターが易者感覚で呼び止める。右目を僅かに覗き見るや、これで意外と名医なのか眼帯が伊達であるのを即座に看破した玉子ドクターは、尻子玉姫が肛門内で体内の気が体外に放出されてしまふのを堰き止める、いはゆる“尻子玉”の持ち主ではないかと里見瑤子十八番の衰へぬメソッドで瞳を輝かせる。とここで、一箇所野暮に立ち止まると。正しく薮から棒な話に対し、尻子玉姫が尻子玉とは“サイダーの玉”みたいなものかと納得する件は、そこは矢張り、より正確な用語法としては“ラムネの玉”ではあるまいか。三ツ矢サイダーやキリンレモンに、別に玉など入つてゐない。一旦その場を離れた尻子玉姫の背中に、玉子ドクターが投げた望まれる形では回収されなかつた印象的な台詞が、「君は、必ず戻つて来る」。続けて玉丸に声をかけた玉子ドクターは、失意の底の玉丸が、文字通り尻子玉を抜かれてゐるとの診断を下す。ホテルに戻り、代用尻子玉にとフィギュア用の眼球を菊門から捻じ込まれた玉丸は、ジャジャーンと大仰な劇伴と共に「こ、これは・・・!」、底の抜けた外連が堪らない。すつかり回復した玉丸を伴ひ、玉子ドクターは尻子玉姫と再邂逅。固茹で卵を、“女だけの尻子玉”と称して尻子玉姫の観音様に仕込んだ玉子ドクターから、薄い肉を介して二つの尻子玉が交感する交合を、尻子玉姫の同意も経て求められた玉丸こと池島ゆたかは、「俺は、何時でもオッケー!」。兎にも角にも、演者との超絶のジャスト・フィットもあり、高威力の名乃至迷台詞が矢継ぎ早に繰り出され続ける。一方、目玉嬢は尻子玉姫からヒントを―ここは正味な話、大雑把な飛躍も甚だしいが―得て、目玉焼きに宇宙の法則を見出す。
 玉子に目玉に金玉に、挙句に尻子玉。概ね人体に焦点を絞つた山﨑邦紀の丸い物体への偏愛もしくは趣味性が、しなやか且つ華やかに咲き誇つたか狂ひ咲いた快作。結論から先に、面白いのか詰まらないのかといへば疲弊に基く眠気も軽やかに吹き飛ばされるほどに、滅法面白い。山﨑邦紀が有体にいふとノリッノリで撮つてゐたと思しき軽やかな充実は、端々にこれでもかこれでもかと、吹き荒れるかのやうに窺へる。擬似とはいへ、尻子玉を再充填された玉丸は俄に暴走、家にまで追つた尻子玉姫を襲撃する。ただならぬ気配にまゝならぬ手でゴーグルを装着し、初めは尻子玉姫が新たな男を連れ込んだものかと呑気に勘違ひしてゐた竿男は、玉丸も評して「こないだは蚊トンボ、今度は蒸し豚!」。荒木太郎が蚊トンボで、池島ゆたかは蒸し豚か。その通りであると納得してしまへばそこで実も蓋もないが、同業者をバッタバッタと斬り捨てる山﨑邦紀の自由奔放さには感服するほかない。佇まひは少々覚束ないものの文句なく見目麗しい主演女優を中心に、シレッと現役監督・脚本家を三人並べた上で牧村耕次と里見瑤子がガッチリ要を固める布陣は強力にして完璧。兎にも角にも、山﨑邦紀作に際しての、池島ゆたかの水を得た魚かの如き活き活きとした大暴れぷりは毎作毎作尋常ではない。かといつて、今作が山﨑邦紀必殺のマスターピースと激賞するに値するのかと問ふならば、必ずしもさうは問屋が卸さない。自身の映画祭出席に伴ふ渡夏を機に、劇中尻子玉伝承の起源を求められるのが、何故かカメルーン。そのこと自体は虚構の方便の範疇に止まるにせよ、語り口としてのスチールの無造作な挿入具合は、それだけで済ますのかといふ横着な安普請も兎も角、唐突なばかりでまるで芸になつてゐない。改めて配役を整理すると、導師役の玉子ドクターに、若干緩いが同士ポジションの目玉嬢。家族兼傍観者、玉丸に襲はれた尻子玉姫の危機に瀕しては、「違ふな、孫娘のピンチだ!」と強制起動、車椅子に乗り日本刀を構へ突入して来る活躍も披露する竿男。憎まれ役と道化を華麗に兼務する、玉丸と金袋。ここまでに、全く瑕疵は見当たらない。それでゐて、最終的には数々鏤められた何れも魅力的な各モチーフの統合力はどうにも心許なく、物語的な完成度の点からは弱さも否めないのは、本来主人公たるべき、尻子玉姫の扱ひに問題がありはしないか。尻子玉姫が悪くもない美しい左目をアイパッチで塞ぎ、“世界の半分を見ることを拒んだ”エモーションが、玉子ドクターとの出会ひのギミックに供されるのみで、綺麗に忘れ去られ通り過ぎられてしまふのが何はともあれ激しく惜しい。「私は世界の、半分だけを見よう」と、尻子玉姫が何気なく衝撃的な独白を零す、国見奈々の整つた顔立ちが静謐さをも感じさせるショットには、大傑作への激越な予感に思はず息を飲んだものなのだが。かといつてかといつて、そのまゝ大魚を釣り逃がしたまゝ映画をむざむざ終らせはしない辺りも、山﨑邦紀らしい心憎さ。銘々がそれなりに各々の道を歩み行く結末、劇本篇ファースト・カットに連動し再びチャリンコを飛ばす目玉ドクターが、「奇天烈な皆の未来に、光りあれ!」と、画期的に鮮やかなラスト・シャウトを謳ひ上げる。「奇天烈な皆の未来に、光りあれ!」、山﨑邦紀一流の変態奇想博覧会に、斯くも相応しい集大成的な名文句があつたらうか。僅か数秒のワン・カットで、映画に永遠を叩き込む。この強靭も、映画監督山﨑邦紀の主力兵器のひとつに数へ得るのではないかと、常々見るものである。全般的には勢ひが先走つた印象―玉丸を仕留めたとはいへ、竿男のロシア嫌ひは薮蛇に過ぎる―と同時に、残す余韻も強く、更に深い。物語が完成してはゐない以上、上手下手では決して首を縦には振り辛いのだが、滋養豊かな捨て難い一作である。

 ツイッターによると、南会津出身の山﨑邦紀は、目下“放射能で性欲亢進するオッサン教が登場するピンク映画”を構想中とのこと。ゲートボールならぬ、ニュークリアー・ゲーターズとでもいふ寸法であらうか。穏当な娯楽映画を最も尊ぶ立場からは、ピンクに生臭い時代性を殊更に求めて喜ぶものでも特にはないものの、山﨑邦紀のアクチュアルな渾身が義憤と共にフクシマを撃ち抜く様を予想すると、流石に猛烈な期待に身震ひさせられずにはをれない。
 それにつけても、2003年の夢幻大作「変態未亡人 喪服を乱して」(主演:川瀬有希子・なかみつせいじ)に於けるホトパワーに連なり―連なるのか?―今回は尻子玉と、いはば里見瑤子版の人智も越えた、「後ろから前から」といつた感も漂ふ。


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 「四十路後家 情交おもらし痴態」(1993『未亡人ONANIE バイブ篇』の2006年旧作改題版/製作:新映企画株式会社/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:高島章/企画:伊能竜/撮影:千葉幸男/照明:高原賢一/編集:酒井正次/助監督:広瀬寛巳/監督助手:浜村信二/撮影助手:新川四郎/照明助手:大平隆/音楽:レインボー・サウンド/録音:銀座サウンド/効果:時田グループ/現像:東映化学/スチール:田中スタジオ/出演:しのざき・さとみ、麻倉美樹、朝比奈セーラ《SMの女王》、芳田正浩、石神一)。出演者中しのざき・さとみが、ポスターでは普通にしのざきさとみ、朝比奈セーラの“SMの女王”括弧特記は本篇クレジットのみ。企画の伊能竜は、向井寛の変名。
 「あたしみたいなイイ女残して死んぢやふなんて・・・・」とか、開口一番主演女優が自ら今作が後家ものである旨を宣言した上での自慰にて開巻。最短距離の更に内側を抉らんばかりの、煌く判り易さが実に清々しい。君恵(しのざき)の夫・浩一(石神)は交通事故で急死、四十九日も未だ迎へてはゐなかつた。こゝで、新題に関して立ち止まると。現に四十代にはとても見えないしのざき・さとみが、公開当時三十歳。“後家”は兎も角“四十路”なる用語なり発想は、一体何処の明後日だか一昨日から降つて来たのか。よもや四十路を謳つた方が、マーケティング上有効だとでもいふ訳ではあるまいな。閑話、休題。いよいよ君恵が一人で佳境に達しつつあつたところに妹の尚子(麻倉)が、近々の結婚も見据ゑた恋人の友之(芳田)と訪ねて来る。君恵が大絶賛使用中のバイブは慌ててソファーのクッション下に隠し、何食はぬ顔で二人を出迎へたものの、友之は秘かに、ホカホカに濡れそぼる淫具の存在に気づいてゐた。その夜の、尚子と友之の目前婚前交渉も噛ませた上で、翌日友之は再度今度は一人で義姉(予)宅を訪れる。バイブの件を指摘し事に及んだ友之は、君恵が放して呉れない方便もあり何と豪快にもそのまゝ一泊。その中で、事故死の更に一年前より、君恵が不能の浩一とはセックスレスの状態にあつた事実が明らかとなる。さうかうしてゐると、悪びれるでなく友之生前の浮気相手を公言する千秋(朝比奈)が君恵を訪問。千秋によると浩一はマゾヒストで、君恵とのレスの原因も、その性癖に起因するとのこと。と、ころで。別の意味で綺麗な三日月顔に鷲鼻を載せた朝比奈セーラは、昨今アノニマスの宣材写真―違ふだろ―で人の目に触れる機会も多からう、ガイ・フォークス・マスクを髣髴とさせる。但しボディ・ラインは、同時に正方向に綺麗。千秋が、SMの女王であるのは映画を観てゐると正しく一目瞭然なので、出演者クレジットに際してわざわざ“(SMの女王)”と特記するとなると、実際に何処かの店の女王様なのであらうか。兎も角、それはそれとして、そんなことを四十九日前の未亡人に一々伝へに来るのも如何なる了見か、といふ次第でしかないといへば、逃げ場なく実も蓋もない。呼ばれもしないのに薮蛇に光臨した千秋女王様ではあれ、千秋には千秋なりの、君恵に対する真心があつての行動だつた。仕方のない亭主への思慕など何時までも引き摺らずに、貴女は新しい幸せをお探しなさいといふのである。玄関口で濡れ場がてらエピソードを告白するだけすると、「旦那のことなんか忘れて、好きにすればつてことよ」、「ぢやね!」と劇中唯一のハクい名台詞を残し、千秋はさつさと退場する。結果論としていへば、三番手濡れ場要員が最も充実したドラマを担当する、といふ変則的な離れ業をやつてのけてゐる。
 感動的にテーマもストーリーも存在しない、寧ろそれらを拒否した、特異なコンセプトの芸術映画とでも一歩間違へると勘違ひしかねない、然れども純然たるルーチン作。結局以降が如何に転がるのかといふと、結婚後の新居を用意してゐない妹夫婦が、部屋も余る君恵の家に転がり込む格好に。尚子と友之の新婚夫婦生活にアテられながら、扇情的な紫でシースルーのネグリジェを着た君恵の、オーラス・バイブONANIEで堂々と映画を走り抜けてみせる。物語らしい物語が遂に殆ど全く起動しないまゝに、ひたすらな女の裸しか見当たらない一作ではあるが、意外と全篇を通したテンポは悪くはないゆゑ、何処で寝落ちたとてさして困りもしまいが何となく一息に観させ、劇伴の尺を超絶に合はせたフィニッシュの据わり心地の良さは、案外完璧。後には何にも残さない、開き直つたかのやうに爆裂するお話の薄ささへさて措けば、地味な手堅さも感じさせる。加へて、二番手三番手は些かどころではなく弱い反面、張りを残すしのざき・さとみの肢体には、それだけで銀幕を支へ得る決定力が漲る。それだけでといふが、正しくそれしか今作にはないのだけれど。ある意味よくいへば潔いといへなくもない、裸映画・オブ・裸映画。ただ繰り返して、ガイ・フォークス顔の女王様が、突発的に劇映画を輝かせた功績には、改めて触れておきたい。


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 「悩殺!!セールスレディ 肉体勧誘」(1995/製作・配給:新東宝映画/監督:渡邊元嗣/脚本:五代暁子/企画:中田新太郎/撮影:稲吉雅志/照明:伊和手健/編集:酒井正次/助監督:榎本敏郎/監督助手:菅沼隆/撮影助手:村川聡/照明助手:小田求/スチール:津田一郎/録音:シネ・キャビン/現像:東映化学/出演:林由美香・杉原みさお・風間晶・小林節彦・荒木太郎・樹かず・山ノ手ぐり子・伊藤清美)。
 開巻は、風間晶と小林節彦による香ばしい濡れ場。仔細は語られないが、実家に向かつた鬼ならぬ妻が居ぬ間に、佐々木隆(小林)は浮気相手の美穂(風間)を大胆にも自宅に連れ込み情事の真最中。ところが、予定に反し―しかも隆とは二年御無沙汰の―弥生(伊藤)が帰宅したことから当然ポップな修羅場に。結局、隆は妻を捨て家も出、仕方なく弥生は女手ひとつでいはゆる便利屋を開業する。屋根を直す弥生をロングで捉へた画から、カメラがパンしてタイトル・イン。そんな中、就職先の見付からない弥生の姪・泉(林)は、田舎に戻りたくないがゆゑ弥生の下で働くやう希望するが、泉は、業務拡張を画策する弥生にとつて、必ずしも求める人材ではなかつた。兎も角、弥生の希望に沿つた泉の紹介で、イケイケの友人・室住真理子(杉原)も仲間に引き入れ、弥生は有限会社「ストロベリータイム」を立ち上げる。最初の仕事は、三人で作つたヌルいチラシの配布。雑踏の中に水着で立つ真理子のチラシが次々と捌けて行くのに対し、色気が足りない―といふ呑み難い設定条件の―泉は誰にも受け取つて貰へずに不貞腐れるカットの、林由美香が超絶にキュートだ。因みにその際の泉の格好は、タワーレコードのロゴと同じカラーリングによるTOKYO No.1 SOUL SETのTシャツ。新版よ、時代を越えよ。因みに因みに弥生はといふと、アメリカの新聞配達感覚で、チラシを家々に文字通り無造作に撒く。「親切丁寧、安心価格でお客様のあらゆるニーズにお応へする」をモットーに、ストロベリータイムには徐々に仕事が入り始める。ある日、三丁目のロイヤルマンションに住む田中(樹)から受けた、“一日妻になつて欲しい”といふ怪しげな注文に、弥生は訝しむ泉ではなく真理子を向かはせる。何のことはない、弥生が狙つた便利屋の新機軸とは派遣風俗との折衷を図つた、大絶賛売春サービスに過ぎなかつた。それにつけても、野暮は承知で立ち止まらざるを得ないのが、ピンク映画界随一の色男・樹かずが度々大枚を叩いて、何が楽しくて杉原みさおを買はねばならぬこの度し難い不条理。
 山ノ手ぐり子(=五代暁子)は、真理子とは対照的に安い仕事ばかり回つて来る泉に、大量の空缶を潰させるクライアント役の女。荒木太郎は、昭和の香りも漂ふ束子の訪問販売に苦労する泉を自室に招き入れ、結果懇ろになる岸田。泉が華やかな変貌を遂げる成長あるいは堕落物語の、王子様ポジションを担当する。山本リンダのポスターが貼られた、そこそこにスタイリッシュな岸田の部屋はスタッフ・キャスト中、果たして実際には誰の住居なのか。
 結局美穂にも捨てられ三年ぶりにおめおめと出戻つた隆が、抜群の家事遂行能力を活かしストロベリータイムの一員に加はる磐石の落とし処まで含め、確かに女の裸はてんこ盛りではあるとはいへ、一見ホーム・ドラマのやうな穏やかな肌触りの一作である。但しピンク映画としては、よくよく観てみると派手な変化球も放つて来る。ビリング・ラストにして主人公の伊藤清美が、隆が帰つて来たもののヨリを戻した夫婦生活を展開するでなく、本篇中終に絡みを回避してみせる点には激しく意表を突かれた。ここで、わざわざ“本篇中”といふ限定を加へたのは伊藤清美が一方で、過去二度の旧版は判らないので留保した上で、少なくとも今版ポスターにあつては杉原みさおと百合の花を咲かせる薮蛇なスチールを披露し、大団円に麗しく連動する賑々しいエンド・クレジットに際しても、普通に裸を見せるにも関らずといふ意味に於いてである。一度は隆が弥生の肌に触れどあくまでマッサージに止まるまゝ、弥生・泉・真理子に隆まで交へ一同が勢揃ひした上での、ストロベリータイムの今後益々の発展を期するフィナーレからエンド・ロールに移行した瞬間、全く予想外の伊藤清美温存に思はず客席から半分身も乗り出し驚いた。
 とかいふ感想を、小倉名画座で観た上でひとまづ書いたものである。二週後、八幡は前田有楽劇場にて早速の再戦を果たしてみると、ある意味隆の悲運を助走する繋ぎの一幕ながら、万札を浴び浴び弥生が自慰に燃えるショットが設けられてあつたのを忘れてゐた。男女問はず誰とも絡みはしない点に間違ひはないが、又しても仕出かすところであつた・・・・

 書き直さんか。

 さて措き―措くな―今回は旧題ママによる二度目の新版公開で、2001年一度目の旧作改題時の新題が「女便利屋 かよひ妻」、投げやりな感じが堪らない。劇中に“勧誘”といふ要素なんぞ清々しく見当たらない、元嗣もとい元題もそもそも元題ではあるが。


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 「完全接待 無防備なパンティーで」(1998『ノーパンしやぶしやぶ 下半身接待』の2010年旧作改題版/製作:サカエ企画/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:岡輝男/企画:稲山悌二[エクセスフィルム]/撮影:千葉幸男/照明:高原賢一/編集:酒井正次/助監督:加藤義一/スチール:佐藤初太郎/音楽:レインボー・サウンド/監督助手:北村隆/撮影助手:池宮直弘/照明助手:原康二/効果:中村半次郎/録音:シネ・キャビン/現像:東映化学[株]/出演:風間ゆみ・林由美香・川島ゆき・内藤忠司・竹本泰史・一生・丘尚輝・北村敦)。出演者中、新田栄の変名である北村敦は本篇クレジットのみ。
 会員制高級しやぶしやぶ「よし川」、全篇を通してフリーダムな交際費の潤沢さを誇る有吉(丘)が、市長の加納(内藤)を伴ひ現れる。有吉の素性は最後まで語られないが、兎も角接待の席。部屋の造り自体は普通の座敷で加納と有吉がいゝ肉を楽しんでゐるところに、有吉とは割り切つた男女の仲にもある山之手(山の手か山ノ手かも)女子大学文学部在学中のさおり(風間)と、リストラされた亭主も抱へる人妻の裕子(川島)が、際どい赤い照明とともに扇情的なネグリジェ姿で登場。部屋の灯りが切り替る鮮やかな判り易さが、実に心地良い。それを底の浅さと排する態度は、プログラム・ピクチャーに対する理解と潤ひとを欠いた偏狭ではないのかと難じたい。軽くビールを酌した後、有吉が二人の胸元に万札を捻じ込むや水割りタイム・スタート。不自然かつ合理的に、宅の上に吊られた形のスペースで裕子が体を伸ばし酒を作り始めるや、有吉はロー・アングルに設置された扇風機を点火。風に煽られた寝間着の下から完全に露となつた下着をつけてゐない裕子の観音様に、加納は驚喜する。いはゆる、ノーパンしやぶしやぶといふ寸法である。それにつけても、公職もとい好色市長を快演する内藤忠司の、演技力の安定感は何気に半端ではない。有吉発さおり経由で話を通し、加納は気に入つた裕子をお持ち帰り。ホテルにて本戦を交へた裕子は加納と愛人契約を結び、夫の市役所への就職も取りつける。ベッタベタではあると同時に、手堅くしたゝかでもある。
 一方、所属するゼミの教授・野尻(一生)から遅延し倒したレポートの提出を迫られ頭を抱へるさおりは、こちらも困り顔の高校時代の先輩・梨花(林)と再会する。職場不倫が発覚し退職に追いひ込まれた梨花は求職中で、どうにか第二地銀・金一銀行の中途採用面接にまで漕ぎつけたはいいものの、思はぬトラブルに見舞はれる。当日急な生理が来た梨花は、仕方なく汚れたパンティは捨て面接に挑む。ところが物の弾みで裸の蛤を人事部長・原田(竹本)の目に晒したショックで、結局以降が木端微塵になつてしまつたのだ。結果を悲観し落胆する梨花を、さおりは強引に「よし川」に誘ふ。妙な黒幕ぶりを発揮したさおりは、有吉を動かせ原田を捕獲。「よし川」に舞台を移した、梨花の対原田再戦を企画する中、娘の裏口入学を依頼する父親(北村)に誘(いざな)はれた、野尻も「よし川」に現れる。“些少”などといふ昨今耳にする機会も少ない上品な言葉に、まさか新田栄の映画で触れるとは思はなかつた、しかも御当人の口から。
 幾分敷居も高いとはいへ、詰まるところは風俗店に集ふ有力者に、それぞれ求めるところのある女達が上手いこと取り入る。要は同じ展開を臆面もなく三回繰り返すだけの、都合は良く工夫には欠いた物語ではある。オーラスに設けられる、ヒロイン達を一旦襲ふ逆境も、直後の正しく手の平を元に返しぶりに、却つて予定調和感を加速させる。尤も、新田栄の好調時、あるいは稀にヤル気を出した際にか発揮される、高速の手際よさが終始火を噴く。元々一時間の小品ながら、まるで三十分の短篇かのやうにすら錯覚するほどに、一時たりとて始終が滞るでも微睡ませられるでもなく、思ひのほかサクッと観させる。単にその時の体調か気分なり、極私的な事情に基く全く偶さかな感触でしかないやうにも思へるが。特に難もない反面決定力にも乏しい、三番手の川島ゆきは序盤の早々に退場させ、主演はエクセス初出演の女優に限るとかいふ、エクセス・ルールにより往々にして仕方ないといへなくもない、オッパイは強力ながらお芝居の方は覚束なくもある風間ゆみのサポートを、以降はピンク最強の五番打者・林由美香に委ねる堅実な戦略は、確実に光る。内藤忠司と竹本泰史に比して、名前から見慣れない一生の弱さは、主役の相手役たる点も踏まへるとなほ一層響かざるを得ないところでもありつつ、殊更に突出したものは何もないまゝにさりげない安定感が心地良い、娯楽映画の習作ともいふべき一篇。何もギャースカギャースカ傑作名作と騒ぐばかりが、映画体験の能でもあるまい。慎ましやかな実直さを声高に主張する訳でも無論ない、一見のんびりとした穏やかな一作を、のんびりと穏やかに吟味する。さういふ余裕を持つた楽しみ方も、寧ろ楽しみ方こそが、プログラム・ピクチャーあるいは量産型娯楽映画としての、ピンク映画の一つの肝といへるのではなからうか。

 一箇所突発的に激しく笑かされたのが、学業を怠るゆゑ素養が足らず、レポート作成に四苦八苦するさおりが、思はず搾り出す名ならぬ迷独白「うは、脳が溶けさう・・・・」。ここだけはあまりにも見事に、台詞が風間ゆみに綺麗に親和する。もしくは脚本執筆に苦悶する、岡輝男の心の声でもあるのか。岡輝男脚本による新田栄映画には、しばしば観客が脳を溶かされさうにもなるのだが。
 残る出演者、金一銀行破綻と不正の発覚した野尻失墜を伝へる、強ひて誰かに譬へるならば今野元志似のアナウンサー役が不明、加藤義一ではない。それとも、この人が北村敦で新田栄はノンクレなんかいな。


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 「強制人妻 肉欲の熟れた罠」(2010/制作:《有》大敬オフィス/提供:オーピー映画/制作・出演・音楽・脚本・監督:清水大敬/撮影:井上明夫/照明:小川満/音楽:サウンド・チィーバー/美術:花椿桜子/編集:酒井正次/録音:シネ・キャビン/助監督:関谷和樹/撮影助手:河戸浩一郎/照明助手:八木徹/スチール:山岡達也/演出助手:布施直輔/衣装:MiKi衣装レンタル/制作:野上裕/協力:山梨県・塩山水上荘、劇団ザ・スラップスティック、明治大学演劇学専攻OB会/出演:艶堂しほり・優希美羽・倖田李梨・なかみつせいじ・山科薫・柳東史)。
 白いワンボックスが、何となく見覚えもある山道を走る。山口裕子(艶堂)が遺影すら抜かれない亡父から相続した、高速道路建設に伴なふ立ち退きも決まつた―といふ設定で、ダイレクトに実名登場する―温泉旅館・水上荘を、東京で飲食店を経営する夫の一郎(柳)と、秘書の岬(優希)が慌ただしく訪れる。一応寝てゐたところとはいへ、寝間着のまゝの裕子が、殆ど床から身を起こしもせずに二人を迎へる横着な画に、以降全篇を壮絶に吹き荒れる無造作の嵐が自堕落に起動する。ポーカーで八百万の借金を作つた一郎は、裕子に小切手を、受取人は未記入で切るやう求める。ギャンブル狂の夫に常々愛想を尽かしてゐた裕子は、終に岬の眼前、一郎に離縁を切り出す。激情した一郎が、愛飲するシャンパンの入つたグラスを不自然に屏風の陰で叩き割つたタイミングで、「どうしました、凄い血ぢやないですか」となかみつせいじが唐突極まりなく登場。人の家で“どうしました”もかうしましたもねえよ、

 お前が誰だ。

 凡そ商業映画とは思へない、無防備なプリミティブさにクラクラ来る。ジャンプ・カットといふほどではないものの、微妙に間を飛ばした繋ぎも、居心地が悪くて悪くて仕方のない映画全体の不安定さに拍車をかける。兎も角なかみつせいじは、一郎を追つて来た賭博場の顧問弁護士・渡辺を名乗る。兎にも角にも渡辺は、頑として裕子との離婚には首を縦に振らない構への一郎を連れ、一旦帰京。渡辺が自傷した一郎の左手包帯に目を留めるショットには、後々に繋がる何程かの意味が込められてゐるのか、あるいは、最終的には何事もなかつたかのやうに、平然と忘れ通り過ぎ去つて済ますのか。
 一山越えた水上荘を、新たなる激震が襲ふ。一人残された格好の岬が裕子の前に連れて来たのは、攻撃的と防御的のパーソナリティーの顕著な差異はあるといへ、一郎と瓜二つの男・次郎(当然柳東史の二役)。何と交通事故を起こした兄の身代りで一年前に服役した、一郎の双子の弟兼、岬の恋人なのだといふ。一年で出て来たのは別に構はないとしても、あれか?裕子が一郎と結婚したのは、一昨日辺りの出来事なのか?どうしたら夫の罪を被り収監された双子の弟の存在を、妻が知らずにゐられるのか。荒唐無稽に近い非常識さに立ち止まるでなく、渡辺立会ひの下、一郎を偽装した次郎の手で離婚届に判を押す計画が発案される。さうかうしてゐる内に、一郎と渡辺が水上荘に戻つて来る。裕子達の兄弟交換の段取りは、①一郎を風呂に入れる。②風呂に入る隙に、一郎の衣類を次郎に渡す。③入浴後に睡眠薬入りのシャンパンを飲ませ、一郎を眠らせる。④一郎面(づら)した次郎と裕子が渡辺を立ち会はせた上で、書類を作成する、とかいふ塩梅。ところが、姦計に気付いたのか③フェイズの途中で、一郎が逆襲に転じる。一郎は眠剤入りの発泡ワインを飲むやう強ひ、出し抜けに取り出した拳銃を裕子に突きつける。だ、か、ら、脱衣場には裕子が持つて来た浴衣しかない筈なのに、一体その馬鹿デカい口径の銃は何処から湧いて出て来たんだよ!プロフェショナルの仕事どころか、普通の大人の考へたことにさへ思へない粗忽さに、抱へた頭の骨も粉と砕けさうだ。激しくもつれ合ふ内に、裕子は一郎を撃ち殺してしまふ。如何に展開の底が抜けてゐたとて、映写機が止まらない限り映画は進行する。
 倖田李梨と山科薫は、そんな修羅場の叩き売り状態の、しかも旅館としては休業状態にある水上荘を、二度目のハネムーンの最中に車が故障したと助けを求め訪ねる金山夫妻、弘美と昇造。一応緊迫した状況の合間合間に、激情をフルスイングする夫婦生活がコッテリと差し挿まれるへべれけな構成は、ある意味ジャンル上往々にして見られるものと諦めて諦められぬでもない。清水大敬は、包帯を留める金具とテープの相違から、偽一郎を見破つた渡辺が、渡辺も正体不明の流れに乗り命を落とした騒々しい水上荘に、部下二名(何れも不明)を連れ漸く司法介入する、後に蛇足気味に語られるところによると独身の大海刑事。気味にといふか、純然たる蛇足でしかないのだが。共に白衣を着用し、精神科医・鮫島とその医院の看護婦・上原として大海の前には現れた―そしてこれが、二人の正体でもある―なかみつせいじと優希美羽は、夫と渡辺の死体が裏の井戸の中にあると騒ぎたてる裕子の精神錯乱を主張し、一郎もその尻馬に乗る。
 矢継ぎ早に発現する訪問者の別名義が色つぽい女主人を翻弄し、挙句に男達は訳の判らない勢ひで死に急ぐ忙しい水上荘を舞台に繰り広げられる、不条理の領域にすら突入せんばかりのエロティック・サスペンス。この期には悪い冗談とでもしか思へない2010年清水大敬第二作は、本来ならば上げ底かと見紛ふほどに底も浅からうところが、明後日感が爆裂するシークエンスの数々と、破廉恥な振り幅の大きさとにヒロインのみならず観客もフラフラになるまで眩惑されよう、一周回つてアヴァンギャルドとさへ錯覚しかねない一大頓珍漢作。度重ねられる受取人未記入の小切手や、一郎左手の包帯。一度水上荘を離れる大海が、鳥の鳴き声に―観客の耳に入る音声上は―遮られつつも金山夫婦に何事か耳打ちするカット等々。らしくもなく、妙に端々のディテールを丁寧に拾つてみせる辺りが、寧ろちぐはぐに思へて来るくらゐだ。前作に引き続き、往年の清水大敬映画に最も顕著であつた悪弊、終始主人公以外の登場人物の多くが、狂騒的かつ闇雲に喚き散らし倒す、映画的惨劇だけは最低限ない。とはいへ、休みなく、本当に休みなく繰り出され続ける支離滅裂に埋め尽くされた今作の印象は、とりあへず、破壊力あるいは絶対値だけならば無闇にデカい。かつてm@stervision大哥から、“ピンク映画界のエド・ウッド”と称された関良平が幸か不幸か沈黙を守り続ける中、灰汁の抜けた清水大敬が、何となく後釜を埋めた趣をもこの際漂ふ。
 オーラスに至つて、清水大敬は正しく木に竹を接ぐかのやうに、物語を裕子と大海のラブ・ロマンスにチャッカリ落とし込んでみせる。その、元来鼻持ちならない小癪さに関しては、意外とポップなエンド・クレジット映像にも免じてついついウッカリお茶目とでも評してみる酔狂に、この期には戯れてしまへ戯れてしまへ。

 ところで、三羽烏にとつて裕子は三人目の標的で、“前二人”静岡の呉服問屋と山梨の高利貸し(劇中には一切姿を見せない)は同様の手口で鮫島の精神病院に収監後、最終的には自殺として処理してゐた。そこで、大海が三人の罪状に挙げたのが詐欺と殺人と死体遺棄なのだが、入院患者の自殺として処理した殺人に関しての、死体遺棄罪がどういふ形態を採るものなのかがどうしても解せない。そこは成り行き上、然るべき引渡し先に亡骸は移らないか?


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 「三十路同窓会 生々しい不倫妻」(1998『三十路同窓会 ハメ頃の人妻たち』の2007年旧作改題版/製作:フィルム・ハウス/提供:Xces Film/監督:大門通/脚本:有馬仟世/企画:稲山悌二/プロデューサー:伍代俊介/撮影:佐藤文男/照明:藤塚正行/編集:金子尚樹/助監督:加藤義一/製作担当:真弓学/監督助手:小杉匠/撮影助手:佐藤琢也/照明助手:高橋理之/ヘアメイク:小島美樹/出演:園田菜津実・岡田亜沙美・篠原さゆり・杉本まこと・山内健嗣・久須美欽一)。出演者中、山内健嗣がポスターには何故か山内よしのりに、誰なんだよしのり。
 何処ぞの温泉旅館、表に掲げられた、城東大学同窓会の札が仲居の手により外される。宿に残つた有美(園田)と深雪(岡田)が、二人仲良く風呂に浸かる開巻。画面手前の園田菜津実から岡田亜沙美へと、オープニング・クレジットの位置が右から左に親切に移動する、実に判り易く有難い。グラマラスな肢体に容貌も華やかな園田菜津実と、トランジスタ・グラマーの上にチョコンと爬虫類系の清楚な顔立ちを載せた岡田亜沙美、何れ菖蒲か杜若、対照的なツー・トップの磐石ぶりは比類ない。因みに岡田亜沙美のピンク映画前作は、大門通にとつては二作前の「緊縛十字架責め」(1996/主演)。この人が責められるのか、鬼のやうに観たい。後生だから新版公開してお呉れよ、エクセス。
 話を戻して、深雪は二人にとつて大学の共通の憧れの先輩・伸雄(杉本)と結婚し、有美は結婚は早くも二度目ながら、電話越しの気配以外一切登場しない旦那は後一年は単身赴任先から戻つて来ない中、浪人生の義息・賢(山内)と来年大学受験を控へた義娘・聖子(篠原)との関係は色んな意味で良好で、互ひの幸福と、変らぬ美しさとを言祝ぐ。とはいふものの、深雪は重大な問題を抱へてゐた。大学時代、有子と深雪は愛人バンク「夕暮れ族」に登録しアルバイト感覚で遊んでゐた。当時のパパさん・川村(久須美)と御丁寧にも電車の車内で再会した―当然、痴漢電車も一枚噛ませるといふ寸法である―深雪は、以来脅迫による肉体関係のみならず、勤務する証券会社が倒産した川村から、金品も要求されてゐるといふのだ。口髭も豊かに蓄へ壮年の活力と精力に満ち溢れた、久須美欽一のワイルドな悪漢ぶりが堪らない。自由になる金も底を尽きつつあつた深雪は、有子に助けを求める。ここは正直甚だ不自然にも、伸雄の不貞も許容することを条件に、有子は川村の攻略を約束する。
 エクセスのそれなりに看板シリーズ、「三十路同窓会」。他でもない大門通が三作後にも、「三十路同窓会 激しすぎる性欲」(1999/主演:佐藤都・村上ゆう・吉行由実)を撮つてゐたりする。これは純然たる余談ではあるが、寧ろ感想を他には中村和愛の「三十路同窓会 ハメをはずせ!」(2001/主演:逢崎みゆ・星野瑠海・佐々木基子)しか書いてゐないことが、我ながら意外であつたくらゐだ。横道寄りの薄いアウトラインはさて措き、改めて今作の裸映画としての評価は、“ほぼ”だなどといふ限定も不要かと思へるほどに、完璧に鉄板。貫禄をも漂はせる堂々とした肉感性が素晴らしい主演女優と、その他の要素を補つて余りある二番手による、ネーム・バリュー面以外には超絶に強力な二枚看板。更に二人の後ろに、クライマックスまで溜めに溜めて控へるは、役柄にもジャスト・フィットして映える冷たさすら感じさせる硬質の美貌と、独特の突進力を誇る篠原さゆり。平板なビジュアル上の水準も顔ぶれの豊かさとしても、綺麗処三本柱には僅かな隙もなく、サポートする俳優部にも面子は揃つてゐる。一方、裸映画から裸を差し引いた、裸の劇映画としての作劇に関しては。悪辣な川村に一泡吹かされた有子は、いはゆる“川村狩り”を、色仕掛けも込み込みで賢に乞ふ。義母と義息の関係が、以前から継続したものであつたことが明らかになつた際には、直前の賢が有子の入浴を覗き見する件との間に齟齬も覚え些か面喰つたが、よくよく振り返つてみると、実は冒頭の温泉シーンに於いて既に、さりげなく伏線を敷設済みであつたりもするので、ひとまづ通り過ぎる。ともあれ川村撃退に成功した有子が、伸雄に食指を伸ばすことも、深雪はどうしてその底の浅い姦計に気付かないのか、といつた一点にさへ目を瞑れば、至極自然な流れともいへる。良くも悪くも問題は、有子が伸雄としけ込んだ温泉宿に、驚天動地の第三者が現れる、濡れ場から修羅場への一線を跨いだクライマックス。一体大門通は、斯様に壮絶な状況から一体如何に映画を畳むのかと正しく固唾を呑んでゐたところ、当該濡れ場には参加しないヒロインの泣きショットで振り逃げる幕引きには、大いに驚かされた。さういふピンク映画を観た覚えも俄には思ひ出せない見慣れなさに加へ、悲痛なラストと、それまでの基本陽性のトーンとの間に、激しい違和感も覚えたからである。そこで三人が呑気に乱交に励んでしまつては、幾ら娯楽映画とはいへ底も抜けてしまふといふ匙加減ならば酌めぬではないが、正直後味は、決してよくはない一作ではある。オーラス直前に、かつて有子が目撃してゐた、深雪と伸雄の最初の情事を差し挿んだことの意義も解せない。

 その他出演者、有子の要請を受け賢が招聘した、それぞれ鉄パイプと金属バットで武装した二人組の対川村実行部隊は不明。声のひとつもかけずにいきなり背後から川村を襲撃する、ピンク映画にしては珍しくも見える清々しくドライな暴力描写に際しては、かつてはスーツアクターも務めてゐた久須美欽一の達者な受けが、地味に光る。


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 「未亡人の寺 夜泣き部屋にて…」(2002『昇天寺 後家しやぶり』の2010年旧作改題版/製作:フィルム・ハウス/提供:Xces Film/監督:坂本太/脚本:有馬仟世/企画:稲山悌二/プロデューサー:伍代俊介/撮影:創優和/照明:三浦方義/編集:フィルムクラフト/助監督:竹洞哲也/監督助手:伊藤一平/撮影助手:宮永昭典/照明助手:腰山航/ヘアメイク:パルティール/タイトル:道川昭/出演:星李沙・美里流季・林由美香・吉田祐健・竹本泰志・町田政則)。
 「貴方、御免なさい」、「でも私、もう我慢出来ない・・・」と、後家設定と思しき、いふほど悪くはない主演女優の自慰にて開巻。確かに、間違つても美人ではない。首から上は落花生のやうな造作ではあるが微妙に色気がないこともなく、首から下もそこそこには綺麗な体をしてゐる。
 滝本雅子(星)は、後にどさくさに紛れるやうに語られるところによると腹上死したとの、一年前に死別した夫の墓のある昇天寺を参る。昇天寺の住職・徳永遥蕣(町田)は、まるでコントのやうに雅子の目を盗みつつ、仏に憚ることもなく後家の色香に町田政則十八番の顔芸で目尻を下げる。ここでどうにも立ち止まらざるを得ないのが、遥蕣のアフレコの主が、どう聞いても間違ひなく町田政則ではない点。強ひて例へると森羅万象とたんぽぽおさむとが、7:3の比率の声―判んねえよ―のアテレコ氏の正体には、どうしても辿り着けなかつたことも残念無念。
 雅子は遺影も何も一切登場しない亡夫から、スナック「LOVABLE」を継ぐ。とはいへ客足は清々しく芳しくなく、加へて夫が遺した借金が、雅子を苦しめてゐた。閑古鳥も鳴かない「LOVABLE」を亡夫の親友で、実は雅子にとつては―当然、結婚前の筈の―元カレでもあり、更には店の権利書を担保に金を貸す信用金庫の挙句に当該融資担当といふ、ややこしく属性を積み重ねた山村和也(竹本)が訪ねる。ここは正直、元カレは省いてもよかつたのではなからうかと思へぬでもない。辛抱堪らんことが既に観客には説明済みの雅子主導で事に及ぶも、諸方面に戸惑ひも隠せない山村は、土壇場で勃たなかつた。一方日を改め昇天寺、雅子と同じく未亡人で、町内婦人会会長である入江美沙(美里)が、以前より関係の継続する風情で遥蕣に抱かれる。事後遥蕣は、恍惚とする美沙に婦人会会長のコネクションを利しての、何事かを依頼する。結果論としては、美里流季はビリング的には二番手ではあるが、劇中遥蕣に最も近い位置を考慮したとて、実際の活躍度でいふと完全に三番手でもある。
 そんなこんなで、それまでの焦点の定まらない流れを断ち切るかのやうに、飛び込んで来ては映画のグレードを夫婦で偶さか上げる吉田祐健は、「甲州屋酒店」店主・古山孝明。ブランド狂ひの妻・沙織(林)の豪快さんな散財に、日々悩まされてゐる。お強請りする時は寸止めまでの生殺しで、買物の支払ひが終らないとキュートに凶悪な沙織はサセて呉れない為、酒代のツケを回収する金策に古山は奔走する。当然「LOVABLE」も溜めてはゐるものの、払へといはれても無い袖は振れぬ雅子を、古山は自暴自棄で半ば手篭めにするかのやうに抱く。そして“注文の品”がどうかうと、最終的には消化不足の含みを持たせた上で、遥蕣が本格起動する。
 改めていふと、女優勢の布陣はエクセス―に限らぬが―が時に仕出かすほどには、決して木端微塵ではない。星李沙はある意味適度な不美人といつていへなくもなく、美里流季も些かアクが強めではあるが、こちらもボディ・ラインは十二分に鑑賞に堪へ、新田栄作かと見紛ふ惨劇臭は、特にも何も漂はせない。史上最強のピンク五番打者ぶりを輝かしく炸裂させる林由美香に関しては、凡そ論を俟つまい。同じ役を例へば―時期的にも問題はない―横浜ゆきが演じた場合には刺々しくもならうところが、あくまで可愛らしさ微笑ましさの枠内に観る者のエモーションを固定する、林由美香超絶の小悪魔ぶりは永遠である。対する、吉田祐健の受けも全く素晴らしい。古山夫婦パートの突発的な充実と抜群の安定感とを他方に置き、殊に昇天寺周りに於いて顕著な、闇雲なショットの美しさも全篇を通して光る。と、いつたところで再度整理すると。女優三本柱の粒は、意外に揃ふ。他人の声に違和感は拭ひきれないが、好色坊主にこの上なくジャスト・フィットする町田政則に、色々とアンニュイな二枚目と奔放な妻に翻弄される小市民をそれぞれ好演する竹本泰志と吉田祐健、俳優部には僅かな隙もない。撮影部の無闇な健闘により、加へて映画的な見所にも溢れる。さうなると、結構な結果に漕ぎつけてゐても不思議はなかつたものなのに、終盤の暴力的にいい加減なストーリー展開が、まるで観客を嘲笑ふかのやうに一切を御破算にしてみせる。のうのうと筆を滑らせてみるが、詰まるところは妙な財力を誇る生臭坊主に、順に実質二番手と金に窮したヒロインが股を開くだけの、無体な物語には開いた口が塞がらぬのも通り越し、殆ど別の意味で打ちのめされてしまふ。吹つ切れた雅子が、結婚指輪をわざわざ墓石目線で返した後、締めの濡れ場は山村との再戦。上に乗りアンアン普通に悶え狂ふ雅子の姿に、ゴーンと鐘の音が被せられると共に“終”とエンド・マークが振り抜かれる終幕は、逆の意味で感動的。この際、色んな意味で無常観でも感じ取ればよいのか、あるいは報はれぬ雅子亡夫を思ひ、止め処なく流れよ、我が涙。

 ところでもしかして、遥蕣役に町田政則を配したキャスティングは、昇天寺から逆算した山上たつひこの『快僧のざらし』を念頭に置いてのものなのであらうか。因みに参考資料として画像検索結果が、町田政則のざらし


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 「倉沢まりや 本番羞恥心」(1995/製作:ルーズフィット/提供:Xces Film/監督:光石冨士朗/脚本:島田元/プロデューサー:真田文雄/撮影:福沢正典⦅J.S.C.⦆/照明:赤津淳一/編集:鵜飼邦彦/音楽:ミーグル2号/助監督:山岡隆資/監督助手:黒川幸則/撮影助手:小宮由紀夫/スチール:西本敦夫/制作進行:久万真路/美術:石毛朗/録音:ニューメグロスタジオ/効果:協立音響/編集スタジオ:ふぃるむらんど/現像:東映化工/出演:倉沢まりあ・三瀬雅弘・岸加奈子・伊藤猛・小林節彦・葉月螢・富山達夫・天野憲之・竹藤恵一郎・根本直巳)。出演者中、富山達夫以降は本篇クレジットのみ。
 他愛ない短歌を捻くりながら、主演女優が並木道をほてほて歩く。
 派遣家庭教師のユリエ(倉沢)は、男子高校生の生徒・カズオ(三瀬)に口では嫌よ嫌よと拒んでみせつつ、授業の度に抱かれては普通にアンアン悦んでゐた。清楚な顔立ちの倉沢まりあが、大きさとともに絶妙な柔らかさを感じさせるオッパイをモッチャモッチャ揉み込まれるショットには、ひとまづ決定力のある煽情性が漲る。ユリエは庭園内の茶室にて開かれる短歌会「さゞなみ会」の会員で、実際に口を開いての発話は漢字二文字の一単語しか発しない、造形が殆どギャグ風味の歌人兼講師・ムナカタ(天野)に秘かに想ひを寄せてゐたりもした。その他三人の、さゞなみ会に集ふスノビッシュな女は何れも不明。一方カズオは、兄貴と慕ふコミヤ(伊藤)が店員のクラブに入り浸つてゐた。こゝで葉月螢はコミヤ目当てで、将を射らずんば馬担当のカズオにまづ身を任せる、これまで咥へ込んだ五十本の男根を全て記憶してゐるとかいふ、ジェームス三木のやうな女。コミヤが、関西修行時代の昔の女・アケミ(岸)とゐるゆゑから断念するやう促すカズオに対し、「短小!」の捨て台詞を一吐き一幕・アンド・アウェイで潔く退場する。クラブ店内にも、カズオに口説かれ幾分遣り取りする台詞も与えへられる女等々、相当名が客要員に投入される。カズオが開巻にてユリエに繰り出す、卑猥な単語を言はせれば女は二倍感じるだの、目隠しすると三倍感じるだなどといつた、頓珍漢なメソッドが何のことはない、コミヤがアケミから仕込まれた二番煎じでしかない点は実に青春の底浅さが微笑ましく、それを濡れ場を通して描く作劇こそが、ほかでもないピンクで映画なピンク映画の然るべき姿といへよう。コミヤの口から、偶々見かけたユリエ―コミヤは、ユリエがカズオの家庭教師であるとは知らない―に現在恋をしてゐると聞き感興を覚えたアケミは、素性を探るべくさゞなみ会潜入を思ひたつ。そんなこんなで別の店での、ユリエ&アケミ×コミヤ&カズオの、Wデートが企画される。ポップに胸を弾ませるコミヤに対し、不意に鉢合はせる羽目となつた、ユリエとカズオは困惑する。
 小林節彦は、半袖の省エネスーツが別の意味でのいやらしさも醸し出すカズオの父親。そもそも、小林節彦が仕込んだ可能性もなくはないが情事の模様が録音されたカセットテープを発見したとの方便で、息子の部屋でユリエを手篭めにする。配役中、富山達夫と竹藤恵一郎に根本直巳が何れも特定出来ないが、候補的には、正しく薮蛇な青姦密集スポットに於ける、ライターの灯火の意味を訊かれてもゐないのにユリエに気持ち悪く講釈するキモオタと、クライマックスに登場する植物観察が決まり文句の覗き師二人、それか一行がWデートに洒落込む店―四人で飲み食ひして三千円、安いなあ―のマスター辺り。この中では、倉沢まりあの美肉にも与る植物観察氏が、竹藤恵一郎・根本直巳より名前の大きな富山達夫かも。
 1990年のデビュー作、翌年の第二作から少し間も空けての、光石冨士朗第三作。スタッフ・キャスト共々硬質さを覗かせる顔ぶれ―久万真路の名前を、久し振りに見た―にも違(たが)はず、とりあへずの緊張感を終始維持しはする。尤も、実質的なお話の中身としては、ユリエが可愛い顔をして結構振り切れたセックス好き、といふ以外には、清々しく薄くもある。妙に作り込まれもしたカズオの部屋、さゞなみ会が催される茶室、コミヤの店、そして木に竹を接いだ感の甚だしい青姦銀座。ロケーションの造作は各々悪くはない反面、作品世界の醸成を成すであらう連関は、特には発生しない。感情の表出に器用でない造形も禍してか、ヒロインの胸裡も、確かな形では終に見えて来ない。一人イケイケのアケミに、ムナカタがコロッと篭絡されるのを、遠目にユリエが目撃する寂しげなシークエンスなどは、悪くはないどころか力強く叙情的なのだけれど。決してルーチンルーチンした訳でもないものの、抑制を効かせ過ぎたのか却つて平板で、標準的な娯楽映画を求める観点からは、痒いところに手が届かないのも通り越し、全く力を欠き残る印象も乏しい一作ではある。

 エンディングも相変らず他愛ない短歌を捻くりながら、倉沢まりあが並木道をほてほて歩く。


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 「浮気妻 ハメられた美乳」(2006/製作:小川企画プロダクション/提供:オーピー映画/監督:小川欽也/脚本:水谷一二三/撮影:調書紀芳/照明:ガッツ/助監督:加藤義一/編集:《有》フィルムクラフト/監督助手:横江宏樹・浦川公仁/撮影助手:深瀬☆トシキ・谷田部大貴/録音:シネキャビン/音楽:OK企画/効果:東京スクリーンサービス/現像:東映ラボ・テック/スチール:津田一郎/出演:持田茜・山口真里・風間今日子・竹本泰志・ヒョウドウミキヒロ・石動三六・姿良三・なかみつせいじ)。出演者中、本篇クレジットのみの姿良三は、脚本の水谷一二三共々、小川欽也の変名。ヒョウドウミキヒロが、ポスターには平仮名表記。
 明らかに不自然にも見切れる上半身は裸の大学教授・水上祐二(なかみつ)が、学会の付き合ひとやらで―また然し、随分と大雑把な方便だな―遅くなる旨の電話を、学部長の娘でもある妻・玲子(持田)に入れる。玲子も玲子でその日は同窓会であつたが、案の定、水上は一人ではなかつた。愛人の小林麻衣(風間)が、傍らから手を伸ばし勝手に電話を切る。多分専攻は法学の、水上が教授の座を狙ひ玲子と結婚して五年、夫婦仲は既にどころか元々冷えてはゐたが、だからといつておいそれと別れる訳にも勿論行かず、妻が不倫でもして呉れれば―離婚事由が成立する―といふ水上の何気ない呟きに、麻衣は風間今日子十八番のメソッドで瞳をさりげなくも力強く輝かせる。この時点で、以降の流れが読めもするのは結果論からいふと、決してそれだけの話には限らなかつた。
 翌日、公式には六本木に居る筈が、雨の田舎道に車を走らせてゐた玲子は、右方から飛び出して来た男(石動)を撥ねてしまふ。流血し苦悶する男から求められた玲子は、一旦その場を離れ医師(姿)を連れて来るが、二人が戻つた時、石動三六の姿は既にといふか何故かといふか、事故現場にはなかつた。木陰から、玲子と姿センセイを見やる怪しい影のカットも噛ませつつ、更にその翌日、石動三六の代理人を名乗る崎山晃一(竹本)が、玲子に接触する。三百万の金を要求すると同時に、旦那に知られたくなければ云々、警察に通報するぞかんぬんとお定まりの遣り取りを経て、ラブホテルにまで連れ込んだ玲子を崎山が手篭めにする模様を、更に更に何者かがカメラに収める。
 配役残りひょうどうみきひろは、玲子が同窓会で再会した初恋相手で、事件当日の火遊び相手・古川信吾。資金繰りに汲々とはしながらも古川はベンチャー経営者で、崎山の件に関して玲子から相談を受けると、顧問弁護士に相談してみると胸を張り、合鍵を渡す。山口真里は、そんな次第で困り果てた玲子が古川宅を訪ねてみたところ、絶賛事の真最中にもあつた一応婚約者・河合美沙。一連の件に際する小道具の合鍵の扱ひ方は、世間一般的には至つて標準的な水準といへばそれまででもあるが、敵が小川欽也である点に目を曇らせると、まるで超絶の入念さとでも錯覚しかねない奇跡、プライスレス。与太はさて措き、傷心の玲子即ち主人公が退室した後(のち)に、ヒロインのその後をトレースしもせずに古川と美沙との濡れ場を延々継続してみせるのは、実に小川欽也らしい無造作さではある。死人に鞭打つかの如く、玲子が一旦帰宅すれば、今度は水上が既に、妻が交通事故を起こしたことを知つてしまつてゐた。当初の話とは違(たが)へ、崎山が玲子のリアクションも待たず、水上ともコンタクトを取つてゐたのだ。
 現名義はしじみとして、低予算映画界で今をときめく持田茜のピンク、兼劇場映画デビュー作―しかも主演を果たす―である。尤も、実際に今作に触れた感触は、中盤大きく退場するものの、開巻と幕引き、そして玲子と美沙のバッティング以外の劇中起こる事件の全てを支配する、風間今日子の映画といふ印象しか残らない。何せ玲子は主人公であるにも関らず、要は裏で糸引く麻衣の正しく意のまゝに、嵐に見舞はれた小舟の如く一貫して翻弄されるばかりの力ない被害者に過ぎないのだ。ただでさへさういふ展開上の負け戦に加へ、慣れぬことも想像に難くはあるまい初体験の現場にて、更には向かうに回すは風間今日子・山口真里の新旧二大肉食系―顔の大きさが―大女優とあつては、しじみ開眼以前の持田茜には如何せんどころではなく分が悪い。記念すべき、持田茜(a.k.a.しじみ)本篇処女作と殊更に構へるならば綺麗な肩透かしも喰らふところだが、逆からいふと、自ら脚本も書いておいて、主演女優を斯くも事もなげに等閑視して済ませた小川欽也のメガホン捌きの天真爛漫さこそが、この場合には歴史的にもうすらぼんやり光るといへるのではなからうか。
 これは全くの横道ではあるが、クライアント―但し下請―の古川に崎山がペコペコする姿には、ひょうどうみきひろ(兵頭未来洋)が竹本泰志主催の「東京パワーゲート」劇団員であるといふ関係性を踏まへると、平素の様子が逆転してゐるかのやうで、そこはかとなく微笑ましい。

 改めて調べてみたると、山口真里はエキストラ的な出演に止まる「美肌教師 巨乳バイブ責め」(2005/監督:加藤義一)は兎も角、風間今日子と山口真里を二枚並べるといふ超攻撃的なキャスティングをこれまで実現したのは、一年に一作づつ「ノーパン秘書 中出し接待」(2005/主演:島田香奈)、そして「いたづら家政婦 いぢめて縛つて」(2007/主演:@YOU)と、本作含め実は小川欽也その人唯一人である。


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 「牝猫フェロモン 淫猥な唇」(2010/製作:ナベシネマ/提供:オーピー映画/監督:渡邊元嗣/脚本:山崎浩治/撮影:飯岡聖英/照明:小川満/編集:酒井正次/助監督:永井卓爾/監督助手:田辺悠樹/撮影助手:宇野寛之/照明助手:八木徹/編集助手:鷹野朋子/スチール:津田一郎/タイミング:安斎公一/選曲:梅沢身知子/録音:シネ・キャビン/現像:東映ラボ・テック/協賛:ウィズコレクション/出演:早川瀬里奈・クリス小澤・津田篤・横須賀正一・鮎川なお)。
 午前七時半、毎朝決まつてこの時間に目覚める槙原淳子(早川)は、出勤する隣の部屋に住むサラリーマン・戸山夏夫(津田)に小窓の隙間から熱い視線を注ぐ。出がけに夏夫が出して行つたゴミ袋を、淳子はいそいそと回収、自室に戻るや早速内容物をチェックする。クールの吸殻を満喫しつつゴミの中から下着を発見した、淳子は驚喜し大切に保管する。そんな中、夏夫が合コンで知り合つたOL・長山麻美(クリス小澤)を部屋に連れて来る。すは一大事と淳子が押入れに駆け込み、コップを壁に当て固唾を呑むのはさて措き、クリス小澤の持ちキャラに合致する西洋的な肉食性を発揮した麻美は、夏夫に跨りガンガン腰を振る。津田篤も津田篤で、上でガンガン腰を振られる姿が様になるといふ、ディフェンシブな意味合ひで騎乗位がよく似合ふ。何気ない一幕ながら、配役にフィットした何気に秀逸な濡れ場ともいへるのではないか。淳子は明後日な積極性と微妙な高スペックを披露、麻美の勤務先に、一般職OLとして潜入する。加藤義一の「痴漢電車 びんかん指先案内人」(2007)以来、久々の新作出演ともなる―その割に、まあこの人も変らないが―横須賀正一は、麻美の上司、兼不倫相手の矢部。麻美が矢部に妻との離婚を強く望む様子に夏夫に対する不誠実を感じ取つた淳子は、今度は妊娠中の夏夫の妻を装ひ麻美に接触。正直甚だ雑なシークエンスを経て、麻美を夏夫から遠ざけることに成功する。そんなそんな中、遠い遠い伏線も噛ませながら、夏夫は―あるいは夏夫も―出席した高校の同窓会にて、現在はキャバクラ嬢の小沢由衣(鮎川)と再会する。どうでもよかないが、鮎川なおといふ人は止め画(ゑ)と実際に動くところとで、どうして斯くも派手に印象が異なるのであらうか。よもや、大掛かりな修正を施してゐたりはするまいな。前年の「異常交尾 よろめく色情臭」(共演:真田ゆかり・柳之内たくま)の時よりも顔の歪みが加速してゐるといふか、直截に筆を滑らせると目つきが恐い。兎も角、当時由衣が好きであつた夏夫が想ひを認(したた)めようと苦悶し結局捨てたラブレターを、相変らず淳子は非合法的に入手。夏夫の純情に心打たれた淳子は、アイロンをかけ捨てられた手紙を修復、良くも悪くも勝手に由衣宛に改めて送信する。すると目出度く恋心が届いたのか、由衣が夏夫の部屋に現れる。なほ鮎川なおも鮎川なおで、津田篤の上で攻撃的に気をやる。
 隣室住人の全生活に抑制を欠いた関心と情熱とを向ける、簡単にいはうと難しくいはうとストーカー女の、世間一般的には予め幸せになることを拒んだかのやうな純愛物語。手紙が展開の鍵を握る重要なアイテムとして登場するのと、印象的な劇伴が偶さか同じく使用されることもあり、お話の中身は全く別物ではあるが、渡邊元嗣2006年の傑作ラブ・ストーリー「妻失格 濡れたW不倫」(主演:夏井亜美・真田幹也・西岡秀記・朝倉まりあ)を比較的容易に想起し得るか。勝手に持ち出しておいて何だが、「妻失格 濡れたW不倫」の強靭な完成度と比較せずとも、物足りない点は消して少なくはない。回想パートの女子高生制服は至極自然としても、対麻美戦に於けるOL制服と御座成りな偽妊婦に加へ、対由衣戦に際しては地味系掃除婦に果ては少年装と、全般的に早川瀬里奈のコスプレに傾注し過ぎるきらひと、登場順に表情の乏しい三番手と表情の険しい二番手に殊に顕著な全体的な布陣の貧弱さとから、主人公の立ち位置が歪(いびつ)であれば歪であるだけ、この手の映画は美しくもならうところが、如何せん本筋が、何時まで経つてもどうにも心許ない。淳子が麻美に続き由衣も連破、邪魔者は全て捌けたといふ次第で、登場人物が早川瀬里奈と津田篤二人きりになり漸く物語が求心力を有し始めたはいいものの、今度は万事を台詞に頼りきる工夫を欠いた作劇に、再び頭を抱へかける。ところがところが、溜めに溜めたといふよりは、正しく意表を突いて叩き込まれる同窓会スナップの鮮烈には、冷静には力技に思へなくもない落とし処をも有無もいはさず定着させるだけの、雌雄を決し得る力強さが漲る。詰まるところは、確かに穴も多いがフィニッシュの強度は素晴らしい、完成されたとまではいへなくとも、終わり良ければ全て良しな一作とでもいへようか。今作がピンク最終作となるらしい早川瀬里奈自身にも重ね合はせるかのやうな、叙情的なラストが麗しく一篇を畳む。


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 「女痴漢捜査官 お尻で勝負!」(1998/製作・配給:新東宝映画/監督:渡邊元嗣/脚本:波路遙/企画:福俵満/撮影:清水正二/照明:伊和手健/編集:酒井正次/助監督:高田宝重/特殊造型:中野貴雄/監督助手:広瀬寛巳・井上靖彦/撮影助手:飯岡聖英/照明助手:小田求/スチール:佐藤初太郎/録音:シネキャビン/現像:東映化学/出演:工藤翔子・林由美香・しのざきさとみ・泉由紀子・西藤尚・久須美欽一・芥雅之・螢雪次朗)。
 工藤翔子が美容パック状態のまゝ歯を磨きながらチャリンコで、しかも空いてゐるとはいへ車道を激走するなどといふ、どれだけ積み重ねれば気が済むのか判らない危なかつしい離れ業にて開巻。ドレス・アップを終へ工藤翔子の出撃態勢が整つたところで、些か間延びもせざるを得ない五発の銃声とともにタイトル・イン。
 撮影は大絶賛実車輌の満員電車に揺られる桑原満智子(工藤)は、痴漢されかかるや待つてましたといはんばかりに身構へる。とその時、離れた場所に座る西藤尚が開くコンパクトに反射した赤い光を受けた満智子は、不思議なことに忽ち欲情する。痴漢を取り押さへる本来の職務も忘れ悶え狂ひ、男の腕時計が緑ベースのスヌーピーのものである点までは辛うじて確認した満智子は、女性客の悲鳴に我に帰る。ここで車内に、髭のない高田宝重が見切れる。満智子が駆けつけると、尺八を吹かれたらしき男性客(不明)が、余程気持ちよかつたのか下半身も露に悶絶してゐた。満智子はどさくさに紛れるやうに降車する西藤尚が、口元を拭ふのを目撃する。場面改め、満智子は“ お姐”と呼ぶ多摩さわき(しのざき)に、激しく叱責される。満智子は異常性犯罪捜査課の別働隊、「クイーンズ・スクワッド」の女痴漢捜査官であつた。メンバーは他にリーダーで捜査課長のさわきと、本部―別に支部がある訳ではない―に常駐する電脳担当の科学捜査官で、何故かチャイナドレス姿の九重久美子(泉)の三人のみ。満智子に人員不足を泣きつかれたさわきは、警察学校からの同期である睦新吾(螢)に接触、旧交を温めがてらとりあへず一戦交へる。携帯電話で連絡を取り合つた睦が、ロング・ショットで直後にスタスタさわきに歩み寄るギャグ演出は、その癖一切通り過ぎられる。事後さわきから増員を求められた睦は、「一人心当たりが、ないこともないこともないこともない」、とかいふ次第でクイーンズ・スクワッドに、片山弥生(林)が新任捜査官として現れる。とはいへ、前部署は本庁のお茶酌みに過ぎなかつた弥生は、早速足を躓かせたPCの電源コードを引つこ抜き、久美子が三日がかりで仕上げたデータベースをブッ飛ばす清々しいドジッ娘ぶりを披露する。そんな林由美香が、永遠にキュートだぜ。気を取り直し、満智子が弥生を伴ひ、手懸りは降車駅のみで西藤尚を探す操作初日。再び何者かから発せられた赤光を浴び発情した弥生は、画期的な偶然を発揮しその場に通りかかつた睦を公衆トイレに捕獲、初陣早々、謹慎の憂き目に遭ふ。
 仕方なく満智子が独力で探し当てた西藤尚は、日本脳波研究所―因みに研究所は、同年「ザ・痴漢教師2 脱がされた制服」舞台の貞徳学園と同じ物件―を、独裁体制を敷く所長・池田(久須美)のセクハラに耐へかね辞した元職員の安芸純子。さわきが怪しいと踏んだ池田には、冒頭の事件当日、入院してゐた不在証明があつた。芥“ アクター”とかいふ惚けた名義の正体不明さから、誰かの変名かとも思はせた芥雅之は、純子が憧れてゐた脳波研究所の有能で正義感に熱い研究員・室谷英治。実際に観た上でも見知らぬ顔ではあつたが、ひとまづピンク映画にしては不思議なほどの、王道ハンサムではある。ところで、純子の退職に抗議し池田に暴行を働き怪我を負はせた直後、室谷は姿を消してゐた。
 「女痴漢捜査官4 とろける下半身」(2001/一応主演:美波輝海)まで一年に一作づつ都合四作が製作された、「女痴漢捜査官」シリーズの第一作。2002年に「痴漢調書《ファィル》 お尻と指先」との新題で旧作改題を一度経ての、今回は旧題ママによる二度目の新版公開に当たる。第三作「女痴漢捜査官3 恥情のテクニック」(2000/主演:蒼生侑香里)が滅法面白いらしいので、激しく観たい。今作に話を戻すと、女を狂はす赤色光の謎を解明すべく、クイーンズ・スクワッドの面々が華麗に怪事件に挑む。リミット・ブレイクな低予算が初期設定の、カテゴリー的な特性によるものか渡邊元嗣の作家的な資質に帰するのがより相当なのかは兎も角全般的な安つぽさ―発信機の轟かせる爆音に関しては、流石に如何なものかと首を傾げぬでもない―と、泉由紀子の裸比率の低さにさへ目を瞑れば、最低限の格闘チェイスまで繰り出す活劇ピンクの完成度は案外完璧。展開の中には新味も特にはないともいへ、反面余計なものも全くなく、豪華五人体制の女優陣―泉由紀子は、若干どころではなくあぶれ気味ではあるが―の裸を全員分見せようとした前のめりも功を奏してか、全篇を通じてのテンポは抜群。一旦幕が開けるや、一息でクイクイ観させる。後述するバラエティ豊かなエンディングまで含め、完成された娯楽映画の強度が心地良く満ちる。側面から桃色捕物帳を愉快に支援する、中野貴雄の手による小道具の数々も馬鹿馬鹿しいのが同時に素晴らしい。通常の大きさの輪が普通に二つに、長めの鎖に繋がつた小さな輪が更にもう一つ、即ち両手と一物とを同時に拘束する特殊手錠も最高だが、メイン・ガジェットたる光線銃のキャノピー状の構造の中に見られる、その脳味噌みたいな物体は一体何なのだ?

 漸く泉由紀子も脱ぐものの、色気といふよりはコメディ要素の方が強いスヌーピーも回収するラストを通過し、再びクイーンズ・スクワッド戦闘服姿の満智子と弥生が何でまたここに来てこの曲なのか、奥村チヨの「恋の奴隷」を堂々と披露、一篇を賑々しく締め括る。


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 「美熟女姉妹スワッピング 貞淑な姉と淫乱な妹」(2010/製作:株式会社高澤/脚本・監督・編集:山内大輔/企画:豊田晋平/プロデューサー:伍代俊介/撮影監督:田宮健彦/録音:高城英司/助監督:小山悟/監督助手:安達守/美術:ミルクマン/音響・効果:AKASAKA音効/メイク:はなちゃんず/制作協力:《有》コウワクリエイティブ/出演:友田真希・月島悠里・佐々木共輔・岡本純治)。
 視聴者の集中力に対する不信、とでもいふ以外には、一体どのやうな効果なり意図があるのだか軽やかに理解に苦しむものの、第1話「罠に嵌められた貞淑な姉」、第2話「淫乱な妹が企む背徳の宴」と、傍目には正直無駄に章立てされる。よくよく調べてみると、坂本太が四番打者として大絶賛量産体制に入りもする、同社のR-18枠Vシネに共通して採用される構成でもあるやうだ。
 専業主婦の山田由里子(友田)は夫の利春(佐々木)とは長く疎遠の状態にあり、ローンが数十年残る戸建の新居に、囚はれてゐるかのやうな焦燥を抱へてゐた。入念に指先をアルコール消毒するディテールも噛ませての、宅配業者を装つた男に玄関先で陵辱される、といふコンセプトで、由里子が日中度々耽る自慰。但し男は利春しか知らない由里子にとつて、妄想の中で犯される男も、矢張り佐々木共輔であつた。ところで、今作の佐々木共輔は、何故だか尋常ではない目張りを入れてゐる。そんな山田家に、第2話冒頭に漸く語られるが夫・譲二(岡本)が派遣先工場の上司を殴り路頭に迷つてしまつたとのことで、由里子の妹・真由子(月島)が、夫婦で転がり込んで来る。結構歳の離れた姉妹は、会ふのは五年ぶりでもあつた。案外アッサリ首を縦に振る利春に対し、元々真由子とは不仲の由里子は、傍若無人に飲み食ひすれば自分の気も知らず憚らぬ夜の営みに励みもする、妹夫婦に苛立ちの火に油を注がれる。そんな由里子は望まぬ新生活、定例のイマジンに、登場する宅配業者が図らずも岡本純治にスイッチした義姉の痴態に他でもない譲二が遭遇、二人はそのままの勢ひで事に及ぶ。しかもその現場は、したり顔の真由子に目撃されてゐた。
 鬼畜系、あるいは残虐V シネで名前を売り、その後高水準のピンク映画を連発した山内大輔の、2010年新作徹頭徹尾エロティックVシネである。2007年第三作「性執事 私を、イカして!」(主演:中島佑里・岡田智宏)以来、エクセス側の都合もあつてか山内大輔はピンクから離れてゐる。問題作らしい三年ぶりの新作「色恋沙汰貞子の冒険 私の愛した性具たちよ…」―然し、タイトルから猛烈にオッカナイ―にその内相見える予習がてらにと、現在の山内大輔を知るべく、純然たるVシネではありながらプロジェク太上映の地元駅前ロマンにて、普通に小屋の客席から観戦したものである。数度繰り返される朝の出勤風景に際して、終に夫を見送ることを由里子が止めることに、山田夫婦の間に静かにではあれど確実に拡がる溝の存在を観客に指し示すと同時に、利春もそのことに直面するカットには、確かに山内大輔らしい丹念な細やかさが窺へる。とはいへ、他に光る点はといへばさりげなく平衡を失した様を匂はせもする、由里子が指先を消毒するアルコールの積み重ね方と、ヒロインの想像力に乏しい御数が、無意識の内に夫から義弟に交代してゐた瞬間の強度くらゐか。逆の意味で壮絶な、平板極まりない撮影に概観が支配されることも已むを得まい残る始終は、最終的には限りなくAVに近いVシネといふよりも寧ろ、横好きのドラマ要素が淫らに強いAVとすらいつた印象がより強い。妙に尺が割かれもする、実は利春はリストラされてゐたといふ事実に関しても、そのことを結局家人に対しては劇中伏せたままで物語の中には回収されないとあつては、そもそも何の為に斯様な要素を持ち込んだのかにも、まるで釈然とはしない。端的に片付けるならば、山内大輔が手を抜いてゐたことを望むばかりの、貧しい一作ではある。


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 「レズビアン独身寮 密室あり」(2008/製作:サカエ企画/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:岡輝男/企画:亀井戸粋人/撮影:千葉幸男/照明:高原賢一/編集:酒井正次/助監督:城定秀夫/音楽:レインボーサウンド/監督助手:北村隆/撮影助手:池宮直弘/選曲効果:山田案山子/製作進行:阿佐ヶ谷兄弟舎/出演:華沢レモン・平沢里菜子・合沢萌・津田篤・丘尚輝・しのざきさとみ)。
 大和女子大學撫子寮、歴代寮長から次代寮長に引き継がれるとの“儀式”が云々と講釈を垂れつつ、四年生で寮長の三田村静香(平沢)と寮母の青山佳子(しのざき)によるビアンな濡れ場。なかなかに、凄い組み合はせではある。開巻早々唸る、先制パンチ感は申し分ない。大ベテランしのざきさとみを相手に、半歩も引けを取らない鋭角の存在感は流石ではあるが、一体どうしたのか今作の平沢里菜子は首から上は変らない反面、下が元々のスレンダー以上に明らかに痩せ過ぎてゐる。一方、文学部一年生の滝川美咲(華沢)は、高校時代の先輩かつ同棲相手・中森健二(津田)の部屋で昼間から情事の真最中。そもそも、健二との同居が目的で進学先も選んだ美咲ではあつたが、枕の下から自分のものではないイヤリングを発見すると、女遊びの止まない彼氏に見切りとケジメをつけ、衝動的に部屋を飛び出す。さうはいふものの、先立つものもなく手近に撫子寮の門を叩いた美咲を、佳子は分厚いドッジファイルの寮規則と私物検査、兼派手な下着及びジョイトイの没収とで洗礼、閉口させる。アルバイトで金を作り次第こんなところからは出て行くと臍を曲げる美咲を、静香と三年生の小林沙織(合沢)が、ポップにお姉様然と迎へる。規則の厳しい寮の割には、乳の谷間も露な沙織の服装は、隙のないサービス・ショット。そんなこんなで美咲は撫子寮での新生活を、それなりに順調にスタートさせる。とはいへ、気に入つたらしき美咲に静香が距離を近めて行く様子に、情人を小娘に奪はれた格好の沙織は内心激しく面白くない。そんなある日、忘れたレポートを取りに戻つた美咲は、あらうことか、佳子が高杉文彦(丘)を撫子寮―いふまでもなく、大絶賛男子禁制である―に連れ込んでゐる現場に出くはす。佳子が高杉をネットの掲示板で釣つた方便が、“女子寮に住む”といふものであるといふのは爽やかに笑かせる。確かに、寮生といつてゐないのであれば、嘘ではない。脊髄反射で騒ぎたてようとする美咲を、静香が制する。代りにといつては何だが、寮母と寮長しか入れない屋根裏部屋へと、静香は美咲を誘(いざな)ふ。そこは膨大な没収物で溢れた、ある意味夢の小部屋であつた。その頃、普段は収納されてゐる隠し階段の下では、未だそこに入れて貰つたことはないと思しき沙織が、歯噛みしながら天井を見上げてゐた。
 住居を失つた主人公が転がり込んだ先は、愛憎渦巻く百合の園であつた。ひとまづは、さういふ趣向の物語ではあるのだが。よくよく考へてみるまでもなく、新田栄にたとへば耽美といつた要素なんぞ端から望むべくもなく、基本手堅く時折アグレッシブさを見せることもある千葉幸男のショットも、決して美しさを撃ち抜く種類のものでもない。詰まるところは、男女の絡みを単純に女同士のそれに置き換へただけの何時もの新田栄映画が、しかも津田篤の雑な再登板を機に後半がグズグズになつてすらしまふ、端的に斬つて捨てれば随分と漫然とした一作である。美咲を陥れるべく、沙織は撫子寮に健二を招聘する。美咲の部屋に男が居る状況が、まんまと佳子に発覚する羽目となるまではいいとして、そこからの健二の一戦は、通例の映画文法では御褒美よとでもいふ次第で相手は沙織となるのが、より自然ではあるまいか。挙句に、序盤に登場した小道具のイヤリングを、佳子の遺失物に回収までしてみせるのは、些か力技に過ぎよう。止めに、明後日にばかり転がるのが得意な展開が一昨日感を完成させるのが、わざわざ冒頭に於いて勿体つけて匂はされる、“儀式”とやらの正体が何故か終には明示されぬ点。オーラスに際してエンディング風に通り過ぎられる、静香が美咲の観音様に花を挿す件―しかもキネコ―を指すのか?と必ずしもある程度容易に酌めぬではないともいへ、主要な筈のモチーフの焦点をわざわざ暈すことの意味は、最大限によくいへば敷居の低い娯楽映画のアルチザン・新田栄にしては、全く以て解せぬことこの上だか下だかない。布陣としては役者が揃つてゐるだけに、却つて派手なツッコミ処にさへ欠く始末である。


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